(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】銅亜鉛合金及びこれを用いた機械装置
(51)【国際特許分類】
C22C 9/04 20060101AFI20241107BHJP
F16C 33/12 20060101ALI20241107BHJP
F16C 17/00 20060101ALI20241107BHJP
F02B 39/00 20060101ALI20241107BHJP
C22C 18/02 20060101ALN20241107BHJP
【FI】
C22C9/04
F16C33/12 A
F16C17/00 Z
F02B39/00 H
F02B39/00 U
C22C18/02
(21)【出願番号】P 2020159535
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】391005802
【氏名又は名称】三芳合金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山根 正明
(72)【発明者】
【氏名】清水 有星
(72)【発明者】
【氏名】采浦 寛
(72)【発明者】
【氏名】西井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】江口 逸夫
(72)【発明者】
【氏名】新井 真人
(72)【発明者】
【氏名】新井 勇多
(72)【発明者】
【氏名】石島 睦己
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀晴
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 義仁
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】萩野 源次郎
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107824630(CN,A)
【文献】米国特許第04139378(US,A)
【文献】特開昭59-050141(JP,A)
【文献】特開平07-048665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/04
C22C 18/02
F16C 33/12
F16C 17/00
F02B 39/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
44質量%以上
47質量%以下のZnと、0.5質量%以上3.1質量%以下のCoと、を含み、残部がCuと不可避的不純物とからな
り、母相がβ単相で構成されていることを特徴とする
軸受用銅亜鉛合金。
【請求項2】
請求項
1に記載の
軸受用銅亜鉛合金であって、
Coの含有率が1.9質量%以上3.1質量%以下
であることを特徴とする
軸受用銅亜鉛合金。
【請求項3】
請求項1から
2のいずれか1つに記載の
軸受用銅亜鉛合金からなる
軸受と、
前記軸受に摺動するロータ軸と、を備え、
前記軸受はラジアル軸受またはスラスト軸受である、機械装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、銅亜鉛合金及びこれを用いた機械装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関用の過給機の軸受等における摺動部材には、銅亜鉛合金が使用されている。このような銅亜鉛合金には、Cu、Zn、Al、Mn、Siを主成分とする銅亜鉛合金が用いられている。このAl、Mn、Si等を含む銅亜鉛合金は、Al、Mn、Siを合金成分として添加することにより硬さを高めると共に、Mn-Si化合物等を形成して、銅亜鉛合金の耐摩耗性を高めている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、銅亜鉛合金にAlやSiが含まれていると、AlやSiはCuやZnよりも酸化され易いので、摺動時等に銅亜鉛合金の表面にアルミナやシリカからなる酸化物を形成する。アルミナやシリカは、硬質な酸化物であるので、摺動時等にせん断抵抗により剥離し易くなる。この結果、銅亜鉛合金の凝着が発生し、銅亜鉛合金の焼付きが生じる可能性がある。
【0005】
そこで本開示の目的は、耐焼付き性を向上させることが可能な銅亜鉛合金及びこれを用いた機械装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る軸受用銅亜鉛合金は、44質量%以上47質量%以下のZnと、0.5質量%以上3.1質量%以下のCoと、を含み、残部がCuと不可避的不純物とからなり、母相がβ単相で構成されていることを特徴とする。
【0011】
本開示に係る軸受用銅亜鉛合金において、Coの含有率が1.9質量%以上3.1質量%以下としてもよい。
【0012】
本開示に係る機械装置は、上記に記載の軸受用銅亜鉛合金からなる軸受と、前記軸受に摺動するロータ軸と、を備え、前記軸受はラジアル軸受またはスラスト軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記構成の銅亜鉛合金及びこれを用いた機械装置によれば、耐焼付き性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の実施形態において、過給機の構成を示す図である。
【
図2】本開示の実施形態において、耐焼付き性試験方法を説明するための模式図である。
【
図3】本開示の実施形態において、耐焼付き性の試験結果を示すグラフである。
【
図4】本開示の実施形態において、耐摩耗性の試験結果を示すグラフである。
【
図5】本開示の実施形態において、硬さの試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本開示の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。本開示の実施形態に係る銅亜鉛合金は、30質量%以上51質量%以下のZn(亜鉛)と、0.5質量%以上3.1質量%以下のCo(コバルト)と、を含み、残部がCu(銅)と不可避的不純物とから構成されている。次に、この銅亜鉛合金を構成する各合金成分の組成範囲を限定した理由について説明する。
【0017】
Znは、銅亜鉛合金の機械的特性等を向上させる機能を有している。Znの含有率は、30質量%以上51質量%以下とすることができる。Znの含有率が30質量%より小さい場合には、銅亜鉛合金の機械的特性等が低下する可能性がある。Znの含有率が51質量%より大きい場合には、銅亜鉛合金が脆化して機械的特性等が低下する可能性がある。Znの含有率を30質量%以上51質量%以下とすることにより、銅亜鉛合金の母相を、α単相、(α+β)相、β単相または(β+γ)相とすることができる。
【0018】
Znの含有率は、30質量%以上31質量%以下としてもよい。Znの含有率を30質量%以上31質量%以下とすることにより、銅亜鉛合金の母相を、α単相とすることができる。
【0019】
Znの含有率は、40質量%以上51質量%以下としてもよい。Znの含有率を40質量%以上51質量%以下とすることにより、銅亜鉛合金の母相を、(α+β)相、β単相または(β+γ)相とすることができる。銅亜鉛合金の母相が(α+β)相、β単相または(β+γ)相から構成されているので、母相がα単相から構成される場合よりも、耐摩耗性を向上させることができる。また、ZnはCuよりも低コストであるので、Znの含有率を多くすることにより、銅亜鉛合金の製造コストを低減することができる。
【0020】
Znの含有率は、44質量%以上47質量%以下としてもよい。Znの含有率を44質量%以上47質量%以下とすることにより、銅亜鉛合金の母相を、β単相とすることができる。Znの含有率をこの組成範囲とすることにより、後述するようにCoを添加したときに銅亜鉛合金の耐焼付き性をより向上させることができる。
【0021】
Znの含有率は、50質量%以上51質量%以下としてもよい。Znの含有率を50質量%以上51質量%以下とすることにより、銅亜鉛合金の母相を、(β+γ)相とすることができる。Znの含有率をこの組成範囲とすることにより、母相にγ相が含まれるので、銅亜鉛合金の耐摩耗性を向上させることができる。
【0022】
Coは、銅亜鉛合金の耐焼付き性を向上させる機能を有している。Coが銅亜鉛合金の耐焼付き性を向上させる理由の一つは、摺動時等に、銅亜鉛合金の表面に軟質なコバルト酸化物(CoO、Co3O4等)を形成することに起因している。軟質なコバルト酸化物が銅亜鉛合金の表面に粉体状や薄膜状等の形態で介在することにより、コバルト酸化物が、例えば固体潤滑剤のように作用すると考えられる。これにより摺動時等にせん断抵抗による凝着を抑制して、銅亜鉛合金の耐焼付き性を向上させることができる。
【0023】
より詳細には、Coは、CuやZnよりも酸化し易い傾向がある。このため、銅亜鉛合金の表面には、摺動時等にコバルトが優先的に酸化されて、コバルト酸化物が形成される。例えば、2元系の銅亜鉛合金の場合には、CuよりもZnが酸化され易いため、銅亜鉛合金の表面に亜鉛酸化物(ZnO等)が形成される。亜鉛酸化物は、後述するアルミナ(Al2O3)やシリカ(SiO2)よりも軟質な酸化物であるので、Al(アルミニウム)やSi(珪素)が含まれている銅亜鉛合金よりも耐焼付き性が改善するが、コバルト酸化物よりも耐焼付き性が低下する。
【0024】
また、銅亜鉛合金にAl、Siが含まれている場合には、AlやSiはCuやZnより酸化し易いので、銅亜鉛合金の表面に選択酸化によりアルミナやシリカが形成される。アルミナやシリカは、コバルト酸化物よりも硬質な酸化物であるため、摺動時等にせん断抵抗により剥離し易くなる。この結果、せん断抵抗が増加して凝着し、銅亜鉛合金に焼付きが発生する。これに対してコバルト酸化物は、アルミナやシリカよりも軟質な酸化物であるので、摺動時にせん断抵抗により剥離し難くなる。これにより、せん断抵抗の増加による凝着が抑制されて、銅亜鉛合金の耐焼付き性が向上する。
【0025】
Coは、固溶強化元素であり、銅亜鉛合金の母相に固溶して機械的特性を向上させる機能を有している。また、Coは、融点が高いことから、銅亜鉛合金の高温強度を向上させることができる。例えば、Si等の金属間化合物やアルミナ等の酸化物からなる硬質粒子を分散させて強化した粒子分散型の銅亜鉛合金では、摺動時等に硬質粒子の脱落により摺動面に損傷が生じる可能性がある。これに対してCoは、固溶強化により機械的特性を高めているので、摺動時等の摺動面の損傷を抑制できる。
【0026】
Coは、耐食性に優れているので、銅亜鉛合金の耐食性を向上させることができる。銅亜鉛合金は、使用環境によっては高温のエンジン油に曝される場合がある。このような場合には、銅亜鉛合金は、エンジン油中の硫黄分と化学反応し、黒色に腐食する可能性がある。このような黒色の腐食層は、容易に剥離するため、剥離摩耗や剥離した摩耗片が摺動部材等に影響し、異常摩耗を発生する場合がある。銅亜鉛合金にはCoが含有されているので、硫黄分による腐食を抑制することができる。これにより、銅亜鉛合金の耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0027】
Coの含有率は、0.5質量%以上3.1質量%以下とするとよい。Coの含有率が0.5質量%より小さい場合には、摺動時に形成されるコバルト酸化物が少なくなり、銅亜鉛合金の耐焼付き性が低下する可能性がある。Coの含有率が3.1質量%より大きい場合には、銅亜鉛合金が脆化して機械的特性が低下する可能性がある。Coの含有率は、1.9質量%以上3.1質量%以下としてもよい。Coの含有率がこの組成範囲であれば、銅亜鉛合金の耐焼付き性を向上させると共に、比摩耗量が小さくなり、耐摩耗性を向上させることができる。Coの含有率は、0.5質量%以上1.1質量%以下としてもよい。Coは高価であるので、Coの含有率を少なくすることにより、銅亜鉛合金の耐焼付き性を向上させると共に、銅亜鉛合金の製造コストを低減することができる。Coの含有率は、0.5質量%以上2.0質量%以下としてもよい。Coの含有率がこの範囲の場合には、Co添加による硬さの上昇を抑制可能なので、銅亜鉛合金の耐焼付き性を向上させると共に、銅亜鉛合金の脆化を更に抑制して機械的特性をより向上させることができる。Coの含有率は、1.0質量%としてもよい。Coの含有率が1.0質量%である場合には、銅亜鉛合金の耐焼付き性を向上させると共に、銅亜鉛合金の製造コストを低減し、銅亜鉛合金の脆化を更に抑制して機械的特性をより向上させることができる。
【0028】
Coは、銅亜鉛合金の母相がα単相、(α+β)相、β単相または(β+γ)相のいずれの金属組織で構成されている場合でも、耐焼付き性を向上させることができる。銅亜鉛合金の母相は、(α+β)相、β単相または(β+γ)相で構成されているとよい。Coは、銅亜鉛合金の母相が(α+β)相、β単相または(β+γ)相で構成されている場合には、母相がα単相で構成されている場合よりも、耐焼付き性を向上させることができる。更に、Coは、銅亜鉛合金の母相がβ単相で構成されている場合には、母相が(α+β)相または(β+γ)相より構成されている場合よりも、耐焼付き性を向上させることができる。このように銅亜鉛合金の母相にβ相が含まれている場合には、Coの添加による耐焼付き性の効果がより大きくなる傾向がある。
【0029】
銅亜鉛合金の残部は、Cuと不可避的不純物とから構成されている。不可避的不純物とは、意図的に添加しなくても混入する可能性がある不純物である。
【0030】
次に、本開示の実施形態に係る銅亜鉛合金の製造方法について説明する。銅亜鉛合金の製造方法は、一般的な銅合金の鋳造、押出し等により行うことが可能である。例えば、Cu原料と、Zn原料と、Co原料とを所定比率で混合して低周波誘導炉等の溶解炉で溶解する。そして銅亜鉛合金の溶湯を鋳型に注湯して鋳造する。銅亜鉛合金の鋳造は、例えば、連続鋳造法等で行うことが可能である。銅亜鉛合金は、鋳造後に押出し加工等されてもよい。銅亜鉛合金は、特に熱処理を必要としていないが、必要に応じて熱処理をしてもよい。
【0031】
本開示の実施形態に係る銅亜鉛合金は、回転機械などの摺動部を有する機械装置において、被摺動部材と摺動する摺動部材として用いられると耐焼付き性を発揮することができる。銅亜鉛合金は、高速回転等の高速状態(例えば、100m/s以上)で摺動する摺動部材に用いられるとよい。摺動部材が低速状態(例えば、10m/s以下)で摺動する場合には、摺動部材の焼付きは、主に、摺動時の温度上昇による摺動部材の軟化に起因すると考えられる。このことから、摺動部材が低速状態で摺動する場合の耐焼付き性は、主に、摺動部材を形成する銅亜鉛合金の硬さに依存する傾向がある。これに対して摺動部材が高速状態で摺動する場合には、摺動部材の耐焼付き性は、摺動時の温度上昇により摺動部材の表面に形成される酸化物に依存していると考えられる。このため、摺動部材が高速状態で摺動する場合には、少なくとも摺動の初期段階では摺動部材の軟化は焼付きにほとんど影響を及ぼさず、耐焼付き性と銅亜鉛合金の硬さとは相関性が低い傾向がある。
【0032】
このような高速状態で摺動する摺動部を有する機械装置は、例えば、自動車等の車両用、船舶用等の過給機がある。被摺動部材並びに摺動部材は、過給機に組み込まれ、被摺動部材はロータ軸であり、摺動部材は、ラジアル軸受及びスラスト軸受の少なくとも一方とすることができる。
図1は、過給機10の構成を示す図である。過給機10は、タービンインペラ12と、コンプレッサインペラ14とを備えている。タービンインペラ12と、コンプレッサインペラ14とは、ロータ軸16で連結されている。ロータ軸16は、例えば、SCM435等のクロムモリブデン鋼等で形成することができる。過給機10は、ロータ軸16に対して摺動するラジアル軸受18及びスラスト軸受20を有している。ラジアル軸受18は、タービンインペラ12側とコンプレッサインペラ14側とに設けられている。ラジアル軸受18は、例えば、フローティングメタル等で構成することができる。ロータ軸16におけるコンプレッサインペラ14側には、スラストカラー22が設けられている。スラスト軸受20は、スラストカラー22におけるロータ軸方向の前側と後側とに設けられている。ラジアル軸受18及びスラスト軸受20は、約150℃から350℃の高温環境に曝される場合がある。
【0033】
本開示の実施形態に係る銅亜鉛合金は、ラジアル軸受18及びスラスト軸受20の少なくとも一方に用いることができる。すなわち銅亜鉛合金は、ラジアル軸受18に用いられてもよいし、スラスト軸受20に用いられてもよいし、ラジアル軸受18及びスラスト軸受20の両方に用いられてもよい。なお、ロータ軸16は、被摺動部材に対応しており、ラジアル軸受18及びスラスト軸受20は、摺動部材に対応している。
【0034】
過給機10のラジアル軸受18及びスラスト軸受20のような高速摺動する摺動部材は、摺動部材の摺動面に形成される酸化物を比較的軟質なコバルト酸化物とすることにより、耐焼付き性を向上させることができる。より詳細には、2元系の銅亜鉛合金の場合には、摺動面にZnの酸化物が形成されるため、耐焼付き性が低下する。銅亜鉛合金にAlが含有されている場合には、Alが優先的に酸化されて、摺動面にアルミナが形成される。アルミナは、硬質な酸化物であることから、摺動時に摺動面に形成したアルミナがせん断抵抗により剥離し易くなり、焼付きが発生し易くなる。また、ロータ軸16のような被摺動部材がSCM435等のクロムモリブデン鋼で形成されている場合には、Crが0.90質量%から1.20質量%程度含まれているので、摺動面に形成されるアルミナと凝着摩耗が発生し易くなる。
【0035】
銅亜鉛合金に、Mn及びSiを含有させることにより、硬質粒子であるマンガン珪化物を母相中に分散させている場合には、Siが優先的に酸化されて、摺動面にシリカが形成される。シリカは、硬質な酸化物であることから、摺動時に摺動面に形成したシリカが剥離し易くなり、焼付きが発生し易くなる。これに対して、ラジアル軸受18及びスラスト軸受20の少なくとも一方に本開示の実施形態に係る銅亜鉛合金を用いることにより、摺動面にアルミナ等より軟質なコバルト酸化物が形成されるので、耐焼付き性を向上させることができる。
【0036】
以上、上記構成の銅亜鉛合金によれば、30質量%以上51質量%以下のZnと、0.5質量%以上3.1質量%以下のCoと、を含み、残部がCuと不可避的不純物とから構成されており、銅亜鉛合金の表面に比較的軟質なコバルト酸化物が形成されるので、耐焼付き性を向上させることができる。
【0037】
上記構成の銅亜鉛合金によれば、30質量%以上31質量%以下のZnと、0.5質量%以上3.1質量%以下のCoと、を含み、残部がCuと不可避的不純物とからなり、銅亜鉛合金の母相がα単相から構成されるので、耐焼付き性を向上させることができる。
【0038】
上記構成の銅亜鉛合金によれば、40質量%以上51質量%以下のZnと、0.5質量%以上3.1質量%以下のCoと、を含み、残部がCuと不可避的不純物とからなり、銅亜鉛合金の母相が(α+β)相、β単相または(β+γ)相から構成されるので、耐焼付き性と共に、耐摩耗性を向上させることができる。
【0039】
上記構成の銅亜鉛合金によれば、44質量%以上47質量%以下のZnと、0.5質量%以上3.1質量%以下のCoと、を含み、残部がCuと不可避的不純物とからなり、銅亜鉛合金の母相がβ単相で構成されるので、耐焼付き性を更に向上させることができる。
【0040】
上記構成の銅亜鉛合金によれば、50質量%以上51質量%以下のZnと、0.5質量%以上3.1質量%以下のCoと、を含み、残部がCuと不可避的不純物とからなり、銅亜鉛合金の母相が(β+γ)相で構成されるので、耐焼付き性と共に、耐摩耗性を向上させることができる。
【0041】
上記構成の銅亜鉛合金によれば、30質量%以上51質量%以下のZnと、1.9質量%以上3.1質量%以下のCoと、を含み、残部がCuと不可避的不純物とからなるので、耐焼付き性と共に、耐摩耗性を向上させることができる。
【0042】
上記構成の機械装置によれば、上記構成の銅亜鉛合金からなる摺動部材を被摺動部材と摺動するように備えているので、摺動部材の耐焼付き性が向上し、摺動部材と被摺動部材との焼付きを抑制することができる。
【実施例】
【0043】
銅亜鉛合金について、耐焼付き性、耐摩耗性、硬さ及び金属組織を評価した。表1に、銅亜鉛合金の合金組成を示す。表2に、銅亜鉛合金の耐焼付き性、耐摩耗性、硬さ及び金属組織の評価結果を示す。
【0044】
【0045】
【0046】
まず、銅亜鉛合金について説明する。実施例1から7の銅亜鉛合金は、30質量%以上51質量%以下のZnと、0.5質量%以上3.1質量%以下のCoと、を含み、残部がCuと不可避的不純物とから構成した。実施例1から4の銅亜鉛合金は、Znの含有率を約45質量%と一定にして、Coの含有率を0.5質量%以上3.1質量%以下の範囲で変化させた。実施例5から7の銅亜鉛合金は、Coの含有率を約1質量%と一定にして、Znの含有率を30質量以上51質量%以下の範囲で変化させた。
【0047】
比較例1の銅亜鉛合金は、30質量%のZnと、3.5質量%のAlと、2質量%のNiと、1質量%のTiと、を含み、残部がCuと不可避的不純物とから構成した。比較例2の銅亜鉛合金は、46.8質量%のZnと、1.95質量%のMnと、0.62質量%のSiとを含み、残部がCuと不可避的不純物とから構成した。比較例3の銅亜鉛合金は、29.8質量%のZnを含み、残部がCuと不可避的不純物とから構成した。比較例4の銅亜鉛合金は、44.3質量%のZnを含み、残部がCuと不可避的不純物とから構成した。比較例5の銅亜鉛合金は、45.6質量%のZnと、0.24質量%のCoとを含み、残部がCuと不可避的不純物とから構成した。なお、表1に示す実施例1から7、比較例1から5の銅亜鉛合金については、鋳造により製造した。
【0048】
各銅亜鉛合金について、光学顕微鏡により金属組織観察を行った。表2には、各銅亜鉛合金の母相の金属組織観察結果を示している。比較例2、4及び5の銅亜鉛合金は、β単相で構成されていた。比較例3の銅亜鉛合金は、α単相で構成されていた。実施例1から4の銅亜鉛合金は、β単相で構成されていた。実施例5の銅亜鉛合金は、α単相で構成されていた。実施例6の銅亜鉛合金は、(α+β)相で構成されていた。実施例7の銅亜鉛合金は、(β+γ)相で構成されていた。
【0049】
各銅亜鉛合金について、耐焼付き性を評価した。まず、耐焼付き性の評価方法について説明する。試験装置には、高速軸受摩擦試験装置を用いた。
図2は、耐焼付き性試験方法を説明するための模式図である。
図2に示すように、供試軸受に対してスラストカラーを対向させて、スラスト荷重を負荷した。供試軸受は、中空円板形状の試験片とした。供試軸受は、ホルダの円周方向の4箇所に配置した。軸受荷重は、供試軸受の背面から油圧シリンダにて負荷し、荷重を段階的に増加させた。
【0050】
試験中の急激な温度上昇及びトルク上昇を焼付きと判断して、焼付き時の軸受面圧を求めて焼付面圧とした。軸受面圧は、3分間毎に0.03MPaで昇圧した。潤滑油には、エンジンオイル(SAE10W-30)を用いた。スラストカラー材には、クロムモリブデン鋼(SCM435)を用いた。軸の回転数は、約25000rpm(外径周速は約130m/s)とした。なお、各銅亜鉛合金の焼付面圧は、4個の供試軸受の平均で求めた。
【0051】
次に、耐焼付き性の試験結果について説明する。
図3は、耐焼付き性の試験結果を示すグラフである。
図3のグラフでは、横軸に各銅亜鉛合金を取り、縦軸に焼付面圧を取り、各銅亜鉛合金の焼付面圧を棒グラフで示している。焼付面圧が大きいほど、耐焼付き性に優れていることを示している。なお、表2には、各銅亜鉛合金の焼付面圧の数値を示している。
【0052】
比較例1から5の銅亜鉛合金の焼付面圧は、比較例1が0.5MPa、比較例2が1.0MPa、比較例3が1.5MPa、比較例4が1.6MPa、比較例5が0.9MPaであった。これに対して実施例1から7の銅亜鉛合金の焼付面圧は、実施例1が2.8MPa、実施例2が3.1MPa、実施例3が2.6MPa、実施例4が2.9MPa、実施例5が2.3MPa、実施例6が2.4MPa、実施例7が2.5MPaであった。
【0053】
この結果から、実施例1から7の銅亜鉛合金は、比較例1から5の銅亜鉛合金よりも耐焼付き性に優れていることが明らかとなった。比較例1、2の銅亜鉛合金のようにAlやSiが含まれている場合には、焼付面圧が小さくなり、耐焼付き性が低下した。また、比較例3、4の銅亜鉛合金のように2元系銅亜鉛合金の場合でも、実施例1から7の銅亜鉛合金よりも焼付面圧が小さくなり、耐焼付き性が低下した。
【0054】
実施例1から4、比較例5の銅亜鉛合金を比較すると、比較例5の銅亜鉛合金は、実施例1から4の銅亜鉛合金よりも焼付面圧が大きく低下した。また、比較例5の銅亜鉛合金は、比較例4の銅亜鉛合金よりも焼付面圧が低下した。このことからCoの含有率は、0.5質量%以上3.1質量%以下がよいことがわかった。
【0055】
実施例2、5から7の銅亜鉛合金を比較すると、実施例2,6,7の銅亜鉛合金は、実施例5の銅亜鉛合金よりも焼付面圧が大きくなった。Coは、銅亜鉛合金の母相が(α+β)相、β単相または(β+γ)相で構成されている場合には、母相がα単相で構成されている場合よりも、耐焼付き性を向上できることがわかった。このことからZnの含有率は、40質量以上51質量%以下がよいことが明らかとなった。
【0056】
実施例2、6,7の銅亜鉛合金を比較すると、実施例2の銅亜鉛合金は、実施例6,7の銅亜鉛合金よりも焼付面圧が大きくなった。Coは、銅亜鉛合金の母相がβ単相で構成されている場合には、母相が(α+β)相または(β+γ)相で構成されている場合よりも、耐焼付き性を向上できることがわかった。このことからZnの含有率は、44質量以上47質量%以下がよいことが明らかとなった。
【0057】
比較例3、4の銅亜鉛合金を比較すると、比較例4の銅亜鉛合金は、比較例3の銅亜鉛合金よりも、焼付面圧が僅かに大きくなった。これに対して実施例2、5の銅亜鉛合金を比較すると、実施例2の銅亜鉛合金は、実施例5の銅亜鉛合金よりも焼付面圧が大きく上昇した。より詳細には、実施例5の銅亜鉛合金の焼付面圧は、比較例3の銅亜鉛合金の焼付面圧の約1.5倍であった。一方、実施例2の銅亜鉛合金の焼付面圧は、比較例4の銅亜鉛合金の焼付面圧の約1.9倍であった。このことから銅亜鉛合金の母相にβ相が含まれている場合には、Coの添加による耐焼付き性の効果がより大きくなると考えられる。
【0058】
各銅亜鉛合金について、耐摩耗性を評価した。耐摩耗性は、葉山式摩耗試験機を用いたピン・オン・リング式試験によって比摩耗量を室温で測定した。試験片の寸法は、5mm×5mm×25mmとした。相手材には、硬さHRC50に調整したSCM435材を用いた。ピン・オン・リング式試験は、潤滑油なしで、面圧を392N/cm2、周速を1.0m/sec、走行距離を2kmとした。
【0059】
次に、耐摩耗性の試験結果について説明する。
図4は、耐摩耗性の試験結果を示すグラフである。
図4のグラフでは、横軸に各銅亜鉛合金を取り、縦軸に比摩耗量を取り、各銅亜鉛合金の比摩耗量を棒グラフで示している。なお、表2には、各銅亜鉛合金の比摩耗量の数値を示している。
【0060】
実施例1から7の銅亜鉛合金の比摩耗量は、実施例1が6.00×10-8(mm2/N)、実施例2が6.80×10-8(mm2/N)、実施例3が6.10×10-8(mm2/N)、実施例4が4.63×10-8(mm2/N)、実施例5が8.91×10-8(mm2/N)、実施例6が5.02×10-8(mm2/N)、実施例7が3.07×10-8(mm2/N)であった。
【0061】
実施例1から7の銅亜鉛合金を比較すると、実施例5の銅亜鉛合金は、他の実施例の銅亜鉛合金よりも比摩耗量が大きくなった。銅亜鉛合金の母相が(α+β)相、β単相または(β+γ)相から構成されている場合には、母相がα単相から構成される場合よりも、耐摩耗性を向上できることがわかった。このことから、耐焼付き性と共に、耐摩耗性を向上させるためには、Znの含有率は、40質量以上51質量%以下がよいことが明らかとなった。
【0062】
実施例2、5から7の銅亜鉛合金を比較すると、実施例7の銅亜鉛合金は、他の実施例の銅亜鉛合金よりも比摩耗量が小さくなった。銅亜鉛合金の母相が(β+γ)相から構成されている場合には、母相がα単相、(α+β)相またはβ単相から構成される場合よりも、耐摩耗性を向上できることがわかった。この理由は、銅亜鉛合金の母相にγ相が含まれていることにより、耐摩耗性が向上したと考えられる。このことから、耐焼付き性と共に、耐摩耗性を向上させるためには、Znの含有率は、50質量以上51質量%以下がよいことが明らかとなった。
【0063】
実施例1から4の銅亜鉛合金を比較すると、実施例3,4の銅亜鉛合金は、実施例1,2の銅亜鉛合金よりも比摩耗量が小さくなる傾向が得られた。このことから、耐焼付き性と共に、耐摩耗性を向上させるためには、Coの含有率を1.9質量%以上3.1質量%以下とすることがよいことがわかった。
【0064】
各銅亜鉛合金について、硬さを評価した。各銅亜鉛合金の硬さは、室温でブリネル硬さHBW(10/500)を測定した。圧子には、直径10mmの超硬合金の圧子を用いた。試験荷重は、500kgfとした。次に、硬さの試験結果について説明する。
図5は、硬さの試験結果を示すグラフである。
図5のグラフでは、横軸に各銅亜鉛合金を取り、縦軸にブリネル硬さHBW(10/500)を取り、各銅亜鉛合金のブリネル硬さを棒グラフで示している。なお、表2には、各銅亜鉛合金のブリネル硬さの数値を示している。
【0065】
比較例4の銅亜鉛合金のブリネル硬さは100であった。これに対して実施例1から4の銅亜鉛合金のブリネル硬さは、実施例1が90、実施例2が100、実施例3が102、実施例4が122であった。実施例4の銅亜鉛合金では、比較例4、実施例1から3の銅亜鉛合金よりブリネル硬さが高くなったことから、Coの含有率が3.1質量%より大きい場合には、銅亜鉛合金が脆化して機械的特性が低下する可能性があることがわかった。また、実施例1から3の銅亜鉛合金のブリネル硬さは、比較例4の銅亜鉛合金のブリネル硬さと略同等であることから、Coの含有率が0.5質量%以上2.0質量%以下の場合には、Co添加による硬さの上昇を抑制可能なので、銅亜鉛合金の脆化を更に抑制して機械的特性をより向上させることができることがわかった。
【符号の説明】
【0066】
10 過給機
12 タービンインペラ
14 コンプレッサインペラ
16 ロータ軸
18 ラジアル軸受
20 スラスト軸受
22 スラストカラー