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特許7583414マグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料及びそれを用いたマグネシウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】マグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料及びそれを用いたマグネシウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20241107BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241107BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20241107BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20241107BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M10/054
H01M10/0568
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023128492
(22)【出願日】2023-08-07
(62)【分割の表示】P 2021508792の分割
【原出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2023153976
(43)【公開日】2023-10-18
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019062879
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】辻田 卓司
(72)【発明者】
【氏名】西谷 雄
(72)【発明者】
【氏名】名倉 健祐
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 徹
(72)【発明者】
【氏名】寺部 一弥
(72)【発明者】
【氏名】蘇 進
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/176904(WO,A1)
【文献】特開2018-98172(JP,A)
【文献】特表2018-502416(JP,A)
【文献】特開2018-163800(JP,A)
【文献】特開2013-30484(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0090758(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム二次電池の電極活物質を覆うための被覆材料であって、
前記被覆材料は、Mgx(POz2(3≦x≦3.5、3≦z≦4.25)で示される組成を有し、非晶質の部分を含む、固体電解質を含む、
マグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料。
【請求項2】
前記電極活物質が、正極活物質である、
請求項1に記載のマグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料。
【請求項3】
前記電極活物質が、負極活物質である、
請求項1に記載のマグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料。
【請求項4】
電極活物質粒子と、
前記電極活物質粒子を被覆している表面層と、
を備え、
前記表面層は、請求項1に記載のマグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料を含む、
マグネシウム二次電池の電極材料。
【請求項5】
前記電極活物質粒子が、正極活物質粒子である、
請求項4に記載のマグネシウム二次電池の電極材料。
【請求項6】
前記電極活物質粒子が、負極活物質粒子である、
請求項4に記載のマグネシウム二次電池の電極材料。
【請求項7】
請求項4に記載の電極材料を含む、マグネシウム二次電池の電極層。
【請求項8】
電極活物質粒子を含む電極活物質層と、
前記電極活物質層の一方の主面上に設けられ、請求項1に記載のマグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料を含む表面層と、
を備えた、マグネシウム二次電池の電極層。
【請求項9】
前記電極活物質粒子が、正極活物質粒子である、
請求項8に記載のマグネシウム二次電池の電極層。
【請求項10】
前記電極活物質粒子が、負極活物質粒子である、
請求項8に記載のマグネシウム二次電池の電極層。
【請求項11】
請求項7または8に記載の電極層と、
前記電極層を支持し、かつ前記電極層に電気的に接している集電体と、
を備えた、マグネシウム二次電池の電極。
【請求項12】
請求項11に記載の電極と、
非水溶媒と前記非水溶媒に溶解したマグネシウム塩とを含有している電解液と、
を備えた、
マグネシウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質及びそれを用いたマグネシウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マグネシウム二次電池の実用化が期待されている。マグネシウム二次電池は、従来のリチウムイオン電池に比べて、高い理論容量密度を有する。
【0003】
特許文献1は、マグネシウム、ケイ酸、及びジルコニウムを含む酸化物からなる固体電解質を開示している。
【0004】
非特許文献1は、マグネシウム、リン酸、及びジルコニウムを含む酸化物からなる固体電解質を開示しており、リン酸マグネシウムにジルコニウムを添加することによってマグネシウムイオンの伝導度が向上することを報告している。
【0005】
また、一般に、結晶質の部分のみからなるリン酸マグネシウムでは、マグネシウムイオンの伝導性が得られないことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-107106号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】S. Ikeda et. al., Solid State Ionics 23 (1987) 125-129.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、マグネシウムイオンを伝導できる新規な固体電解質及びそれを用いた二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、
MgxZry(POz2(0<x≦3.5、0≦y<1.5、3≦z≦4.25)で示された組成を有し、非晶質の部分を含む、
固体電解質を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、マグネシウムイオンを伝導する新規な固体電解質及びそれを用いた二次電池が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る二次電池の構成例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本開示の一実施形態に係る固体電解質を製造するための反応装置の構成の一例を示す図である。
図3A図3Aは、本開示の一実施形態に係る固体電解質の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3B図3Bは、本開示の一実施形態に係る固体電解質の製造方法の別の例を示すフローチャートである。
図3C図3Cは、本開示の一実施形態に係る固体電解質の製造方法の別の例を示すフローチャートである。
図3D図3Dは、本開示の一実施形態に係る固体電解質の製造方法の別の例を示すフローチャートである。
図4図4は、第1の実施形態に係る二次電池の構成例を示す模式的な断面図である。
図5図5は、第1の実施形態に係る二次電池の変形例1の構成を示す模式的な断面図である。
図6図6は、第1の実施形態に係る二次電池の変形例2の構成を示す模式的な断面図である。
図7図7は、第1の実施形態に係る二次電池の変形例3の構成を示す模式的な断面図である。
図8図8は、第1の実施形態に係る二次電池の変形例4の構成を示す模式的な断面図である。
図9図9は、第1の実施形態に係る二次電池の変形例5の構成を示す模式的な断面図である。
図10図10は、第2の実施形態に係る二次電池の構成例を示す模式的な断面図である。
図11図11は、第2の実施形態に係る二次電池の変形例1の構成を示す模式的な断面図である。
図12図12は、第2の実施形態に係る二次電池の変形例2の構成を示す模式的な断面図である。
図13図13は、実施例1及び2の固体電解質のXRD回折パターンを示す図である。
図14図14は、実施例3及び4の固体電解質のXRD回折パターンを示す図である。
図15図15は、実施例1から4の固体電解質に関する温度とイオン伝導率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本開示に係る一態様の概要)
本開示の第1態様に係る固体電解質は、
MgxZry(POz2(0<x≦3.5、0≦y<1.5、3≦z≦4.25)で示された組成を有し、非晶質の部分を含む。
【0013】
第1態様によれば、優れたマグネシウムイオンの伝導率を示す固体電解質を実現できる。
【0014】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係る固体電解質では、前記組成は、Mgx(POz2(3≦x≦3.5、3≦z≦4.25)で示されてもよい。このような構成によれば、優れたマグネシウムイオンの伝導率を示す固体電解質を実現できる。
【0015】
本開示の第3態様において、例えば、第1態様に係る固体電解質では、前記組成は、MgxZry(POz2(0<x<3.5、0<y<1.5、3≦z≦4.25)で示されてもよい。このような構成によれば、リン酸マグネシウムの構造安定性を向上できる。
【0016】
本開示の第4態様に係るマグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料は、
マグネシウム二次電池の電極活物質を覆うための被覆材料であって、
前記被覆材料は、第1から第3態様のいずれか1つの固体電解質を含む。
【0017】
本開示の第5態様において、例えば、第4態様に係るマグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料では、前記電極活物質が、正極活物質であってもよい。
【0018】
本開示の第6態様において、例えば、第4態様に係るマグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料では、前記電極活物質が、負極活物質であってもよい。
【0019】
第4から第6態様によれば、電極と電解液との接触面において電子が授受されることによる電解液の分解を防ぐことができる。
【0020】
本開示の第7態様に係るマグネシウム二次電池の電極材料は、
電極活物質粒子と、
前記電極活物質粒子を被覆している表面層と、
を備え、
前記表面層は、第4態様のマグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料を含む。
【0021】
本開示の第8態様において、例えば、第7態様に係るマグネシウム二次電池の電極材料では、前記電極活物質粒子が、正極活物質粒子であってもよい。
【0022】
本開示の第9態様において、例えば、第7態様に係るマグネシウム二次電池の電極材料では、前記電極活物質粒子が、負極活物質粒子であってもよい。
【0023】
本開示の第10態様に係るマグネシウム二次電池の電極層は、
第7から第9態様のいずれか1つの電極材料を含む。
【0024】
第7から第10態様によれば、電極活物質粒子の間の間隙に、電極活物質粒子の表面が露出しない、あるいは、露出しにくい。したがって、例えば、電解液がこれらの間隙を充填している場合であっても、電解液の酸化分解又は還元分解をより効果的に抑止できる。
【0025】
本開示の第11態様に係るマグネシウム二次電池の電極層は、
電極活物質粒子を含む電極活物質層と、
前記電極活物質層の一方の主面上に設けられ、第4態様のマグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料を含む表面層と、
を備えている。
【0026】
本開示の第12態様において、例えば、第11態様に係るマグネシウム二次電池の電極層では、前記電極活物質粒子が、正極活物質粒子であってもよい。
【0027】
本開示の第13態様において、例えば、第11態様に係るマグネシウム二次電池の電極層では、前記電極活物質粒子が、負極活物質粒子であってもよい。
【0028】
第11から第13態様によれば、電極と電解液との接触面において電子が授受されることによる電解液の分解を防ぐことができる。
【0029】
本開示の第14態様に係るマグネシウム二次電池の電極は、
第10から第13態様のいずれか1つの電極層と、
前記電極層を支持し、かつ前記電極層に電気的に接している集電体と、
を備えている。
【0030】
第14態様によれば、電極の製造方法が容易である。
【0031】
本開示の第15態様に係るマグネシウム二次電池は、
第14態様の電極と、
非水溶媒と前記非水溶媒に溶解したマグネシウム塩とを含有している電解液と、
を備えている。
【0032】
第15態様によれば、二次電池の電気的特性を維持しながら、電解液の分解を抑止できる。その結果、二次電池が安定化され、長寿命化されうる。
【0033】
以下、実施形態について図面を用いてさらに詳細に説明する。
【0034】
以下の説明は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下に示される数値、組成、形状、膜厚、電気特性、二次電池の構造、電極材料などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。加えて、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素は、任意の構成要素である。
【0035】
(実施形態)
[1.固体電解質]
以下では、主に、二次電池に用いられる固体電解質について説明されるが、本開示の固体電解質の用途はこれに限定されない。固体電解質は、例えば、イオン濃度センサーなどの電気化学デバイスに用いられてもよい。
【0036】
[1-1.固体電解質の構成]
二価のマグネシウムイオンは、一価のリチウムイオンに比べて、固体電解質中のアニオンとの静電相互作用が大きく、したがって、固体電解質中で拡散しにくい。そのため、マグネシウムイオンを伝導する固体電解質において、イオン伝導率の向上が望まれる。
【0037】
これに対して、本発明者らは、以下の新規の固体電解質を見出した。
【0038】
本実施形態に係る固体電解質は、MgxZry(POz2(ただし、0<x≦3.5、0≦y<1.5、3≦z≦4.25)で示された組成を有し、非晶質の部分を含む。
【0039】
本開示における「固体電解質」は、上記一般式を厳密に満たすものに限定されず、当該一般式で示された構成元素以外に極微量の不純物を含有するものをも包含する。
【0040】
本開示における「非晶質」は、結晶構造を完全にもたない物質に限定されず、短距離秩序の範囲で結晶質の領域を有する物質をも包含する。非晶質の物質は、例えば、X線回折(XRD)において、結晶由来のシャープなピークを示さず、かつ、非晶質由来のブロードなピークを示す物質を意味する。
【0041】
「固体電解質が非晶質の部分を含む」とは、固体電解質の少なくとも一部が非晶質であることを意味する。マグネシウムイオンの伝導特性の観点から、固体電解質の全部が非晶質であってもよい。固体電解質が粒子状であるとき、固体電解質でできた粒子の全部が非晶質であってもよい。固体電解質が薄膜状であるとき、固体電解質でできた薄膜の全部が非晶質であってもよい。
【0042】
本実施形態に係る固体電解質は、結晶質の部分を含んでいなくてもよい。本実施形態に係る固体電解質は、実質的に非晶質の部分からなっていてもよく、非晶質の部分のみを含んでいてもよい。これにより、固体電解質を構成する原子及び/又はイオンの間の間隔が広がる。これにより、マグネシウムイオンが移動できる空間が広がり、マグネシウムイオンが周りのイオンから受ける静電引力がより低減されうる。その結果、固体電解質は、優れたマグネシウムイオンの伝導特性を示しうる。
【0043】
例えば、固体電解質が薄膜であるとき、薄膜の任意の複数の位置においてX線回折測定を行う。いずれの位置においてもシャープなピークが観察されないとき、固体電解質は、その全部が非晶質である、実質的に非晶質の部分からなる、又は、非晶質の部分のみを含むと判断されうる。
【0044】
本実施形態に係る固体電解質は、優れたマグネシウムイオンの伝導率を示しうる。これは、以下の理由によるものと推察される。
【0045】
本実施形態に係る固体電解質は、短距離秩序の領域において、配位多面体と、これらの配位多面体の間に挿入されたマグネシウムイオンとによって構成される。配位多面体は、基本的にはリン原子の周りに酸素イオンが6配位した八面体であり、組成式としては、リン酸イオン(PO43-で示される。ただし、一部、複数のリン酸イオンが縮合した、組成式Px1+3xで示されたイオン、又は、Px1+3xから酸素が離脱し、リン及び残った酸素が二重結合を形成する形で存在してもよい。本実施形態に係る固体電解質は、配位多面体を構成する原子の欠損、及び/又はマグネシウム原子の欠損を有するため、高い伝導性を示しうる。
【0046】
上記の一般式において、マグネシウムの組成比を表すxは、0<x≦3を満たす。これにより、固体電解質は、マグネシウム原子の欠損を有しうる。この欠損により、マグネシウムイオンが移動しやすくなる。そのため、固体電解質内におけるマグネシウムイオンの伝導率を向上させることができる。また、固体電解質中に、酸化マグネシウム層を一部含んでいてもよく、この場合、0<x≦3.5を満たす。この酸化マグネシウム層の存在により、マグネシウムイオンが通る空間を広げることができる。なお、1molのMg3(PO42に対して、酸化マグネシウムが1/2molの組成比で含まれた場合、x=3.5であると想定される。1molのMg3(PO42に対して、酸化マグネシウムが1/2molを超えて含まれると、マグネシウムイオンの伝導度が低下する可能性がある。そのため、酸化マグネシウムの適切な含有量は、1/2mol以下である。
【0047】
さらにジルコニウムを、上記の一般式において、0≦y<1.5を満たす範囲で添加してもよい。これにより、固体電解質の構造が安定化され、温度変化に対する安定性が高くなる。また、マグネシウムイオンのキャリア密度が十分に確保されるため、固体電解質は優れたマグネシウムイオンの伝導特性を有しうる。ジルコニウムを添加した場合、マグネシウムイオンの一部がジルコニウムイオンに置換される。ただし、そのような形態だけでなく、酸化ジルコニウム(ZrO2)が一部に含まれた形態であってもよい。
【0048】
上記の一般式において、酸素の組成比を表すzは、3≦z≦4を満たす。これにより、固体電解質は、酸素原子の欠損を有しうる。この欠損により、酸素イオンがマグネシウムイオンに与える静電引力が弱まる。そのため、固体電解質内におけるマグネシウムイオンの伝導率を向上させることができる。
【0049】
zは、さらに、4<z≦4.25を満たしてもよい。酸素はリン原子の周りに6配位した八面体を必ずしも構成する必要は無く、例えば、酸素の一部は酸化マグネシウムを形成していてもよい。これにより、十分な量の酸素欠陥が確保され、かつ、固体電解質の非晶質化が容易に制御されうる。そのため、固体電解質は優れたマグネシウムイオンの伝導特性を有することができ、固体電解質内におけるマグネシウムイオンの伝導率を向上させることができる。なお、1molのMg3(PO42に、酸化マグネシウムが1/2molの組成比で含まれた場合、z=4.25であると想定される。1molのMg3(PO42に、酸化マグネシウムが1/2molを超えて含まれると、マグネシウムイオンの伝導度が低下する可能性がある。そのため、酸化マグネシウムの適切な含有量は、1/2mol以下である。
【0050】
以上より、本実施形態に係る固体電解質は、Mgx(POz2(3≦x≦3.5、3≦z≦4.25)で示された組成を有していてもよい。このような組成によれば、マグネシウムイオンの伝導率をより十分に向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態に係る固体電解質は、MgxZry(POz2(0<x<3.5、0<y<1.5、3≦z≦4.25)で示された組成を有していてもよい。このような組成によれば、リン酸マグネシウムの構造安定性を向上できる。
【0052】
固体電解質は、非晶質の部分を含む。これにより、固体電解質を構成する原子及び/又はイオンの間の間隔が広がる。これにより、マグネシウムイオンが移動できる空間が広がり、マグネシウムイオンが周りのイオンから受ける静電引力が低減されうる。その結果、固体電解質は、優れたマグネシウムイオンの伝導特性を示しうる。
【0053】
固体電解質は、非晶質の部分を含むため、薄膜として形成できる。固体電解質の膜厚は、例えば、100nm以上、かつ、20μm以下であってもよく、さらに、2μm以下であってもよい。これにより、固体電解質におけるピンホールの発生を抑制しつつ、マグネシウムイオンの伝導に対する抵抗値を低減できる。
【0054】
[1-2.固体電解質の製造方法]
本実施形態の固体電解質は、例えば、物理堆積法又は化学堆積法によって形成されうる。物理堆積法の例としては、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、及びパルスレーザ堆積(PLD)法が挙げられる。化学堆積法の例としては、原子層堆積法(ALD)、化学気相蒸着(CVD)法、液相成膜法、ゾル-ゲル法、金属有機化合物分解(MOD)法、スプレー熱分解(SPD)法、ドクターブレイド法、スピンコート法、及び、印刷技術が挙げられる。CVD法の例としては、プラズマCVD法、熱CVD法、及びレーザCVD法が挙げられる。液相成膜法は、例えば湿式メッキであり、湿式メッキの例としては、電解メッキ、浸漬メッキ、及び無電解メッキが挙げられる。印刷技術の例としては、インクジェット法及びスクリーンプリンティングが挙げられる。しかし、固体電解質の形成方法は、これらの方法に制限されるものではない。
【0055】
[1-3.二次電池]
本実施形態に係る二次電池の一例について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態の二次電池10の構成例を模式的に示す断面図である。
【0056】
二次電池10は、基板11と、正極集電体12と、正極13と、固体電解質14と、負極15と、負極集電体16とを備える。固体電解質14は、正極13と負極15の間に配置されればよく、それらの間に中間層が設けられてもよい。マグネシウムイオンは、固体電解質14を通って正極13及び負極15の間を移動しうる。
【0057】
基板11は、絶縁性基板であってもよく、導電性基板であってもよい。基板11は、その上に無機物の層又は有機物の層が形成される際に、変化しないものであればよい。基板11の例としては、ガラス基板、プラスチック基板、高分子フィルム、シリコン基板、金属板、金属箔シート、及びこれらを積層したものが挙げられる。基板11は、市販のものであってもよく、又は、公知の方法により製造されてもよい。
【0058】
正極集電体12は、二次電池10の動作電圧の範囲内において正極13に含有されるイオン伝導体と化学変化を起こさないような、電子伝導体によって構成される。マグネシウムの標準酸化還元電位に対する正極集電体12の動作電圧は、例えば、+2.5Vから+4.5Vの範囲内にあってもよい。正極集電体12の材料は、例えば、金属又は合金である。より具体的には、正極集電体12の材料は、銅、クロム、ニッケル、チタン、白金、金、アルミニウム、タングステン、鉄、及び、モリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素を含む金属又は合金であってもよい。正極集電体12の材料は、導電性、イオン伝導体に対する耐性、及び酸化還元電位の観点から、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、白金又は金であってもよい。
【0059】
正極集電体12は透明な導電膜で形成されていてもよい。透明な導電膜の例として、インジウム・スズ酸化物(ITO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化インジウム(In23)、酸化スズ(SnO2)、及び、Al含有ZnOが挙げられる。
【0060】
正極集電体12は、上記の金属及び/又は透明な導電性膜が積層された積層膜であってもよい。
【0061】
正極13は、マグネシウムイオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質を含有する。正極活物質の例としては、金属酸化物、ポリアニオン塩化合物、硫化物、カルコゲナイド化合物、及び、水素化物が挙げられる。金属酸化物の例としては、遷移金属酸化物及びマグネシウム複合酸化物が挙げられる。遷移金属酸化物の例としては、V25、MnO2、MoO3が挙げられる。マグネシウム複合酸化物の例としては、MgCoO2、MgNiO2が挙げられる。ポリアニオン塩化合物の例としては、MgCoSiO4、MgMnSiO4、MgFeSiO4、MgNiSiO4、MgCo24、及び、MgMn24が挙げられる。硫化物の例としては、Mo68が挙げられる。カルコゲナイド化合物の例としては、Mo9Se11が挙げられる。
【0062】
正極活物質は、例えば結晶質である。正極13は、2種類以上の正極活物質を含有していてもよい。
【0063】
正極13は、必要に応じて、導電材及び/又は結着材を含んでいてもよい。
【0064】
導電材は、電子伝導性材料であればよく、特に限定されない。導電材の例として、炭素材料、金属、及び導電性高分子が挙げられる。炭素材料の例としては、黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、及び、炭素繊維が挙げられる。黒鉛の例としては、天然黒鉛及び人造黒鉛が挙げられる。天然黒鉛の例としては、塊状黒鉛及び鱗片状黒鉛が挙げられる。金属の例としては、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、及び金が挙げられる。これらの材料は単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。導電材の材料は、電子伝導性及び塗工性の観点より、例えば、カーボンブラック又はアセチレンブラックであってもよい。
【0065】
結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たせばよく、特に限定されない。結着材の例としては、含フッ素樹脂、熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、及び、天然ブチルゴム(NBR)が挙げられる。含フッ素樹脂の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びフッ素ゴムが挙げられる。熱可塑性樹脂の例としては、ポリプロピレン、及びポリエチレンが挙げられる。これらの材料は単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。結着材は、例えば、セルロース系又はスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体であってもよい。
【0066】
正極活物質、導電材、及び、結着材を分散させる溶剤の例としては、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、及びテトラヒドロフランが挙げられる。例えば、分散剤に増粘剤を加えてもよい。増粘剤の例としては、カルボキシメチルセルロース、及び、メチルセルロースが挙げられる。
【0067】
正極13は、例えば、次のように形成される。まず、正極活物質と導電材と結着材とが混合される。次に、この混合物に適切な溶剤が加えられ、これによってペースト状の正極材が得られる。次に、この正極材が正極集電体の表面に塗布され、乾燥される。これによって、正極13が得られる。なお、正極材は、電極密度を高めるために、圧縮されてもよい。
【0068】
正極13は、薄膜状であってもよい。正極13の膜厚は、例えば、500nm以上、20μm以下であってもよい。
【0069】
固体電解質14は、上述の固体電解質であるため、説明が省略される。
【0070】
負極15は、マグネシウムイオンを吸蔵及び放出し得る負極活物質を含有する。負極活物質の例としては、金属、合金、硫化物、炭素、有機化合物、無機化合物、金属錯体、及び有機高分子化合物が挙げられる。金属の例としては、マグネシウム、錫、ビスマス、及びアンチモンが挙げられる。合金は、例えば、アルミニウム、シリコン、ガリウム、亜鉛、錫、マンガン、ビスマス、及びアンチモンから選択される少なくとも1つと、マグネシウムとの合金である。
【0071】
負極15は、2種類以上の負極活物質を含有していてもよい。
【0072】
負極15は、必要に応じて、導電材及び/又は結着材を含んでいてもよい。負極15における導電材、結着材、溶剤及び増粘剤は、正極13について説明したものを適宜利用できる。
【0073】
負極15は、薄膜状であってもよい。負極15の膜厚は、例えば、500nm以上、20μm以下であってもよい。
【0074】
負極集電体16は、二次電池10の動作電圧の範囲内において負極15に含有されるイオン伝導体と化学変化を起こさないような、電子伝導体で構成される。マグネシウムの標準還元電位に対する負極集電体16の動作電圧は、例えば、0Vから+1.5Vの範囲内にあってもよい。負極集電体16の材料は、正極集電体12について説明したものを適宜利用できる。
【0075】
正極集電体12、正極13、固体電解質14、負極15、負極集電体16は、それぞれ、先述の化学堆積法又は物理堆積法によって形成できる。
【0076】
二次電池10の上面視における形状は、例えば、矩形、円形、楕円形、又は六角形であってもよい。二次電池10の構造は、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、又は扁平型であってもよい。
【0077】
以下、種々の実施形態に係る固体電解質、固体電解質の製造方法について例示する。本開示で示される材料、組成、膜厚、形状、特性、製造方法の工程、及びこれら工程の順序は、あくまでも一例である。製造方法の複数の工程は、同時に実行されてもよく、異なる期間に実行されてもよい。
【0078】
[2.製造装置]
図2は、一実施形態に係る固体電解質膜をALD法によって成膜するための製造装置21の構成の一例を示す。製造装置21は、リアクタ22、コントローラ35、第1プリカーサー供給部23、第2プリカーサー供給部24、第3プリカーサー供給部25、酸素供給部33、及びパージガス供給部34を備えている。
【0079】
リアクタ22は、例えば、プロセスチャンバーである。
【0080】
第1プリカーサー供給部23は、第1プリカーサーをリアクタ22内に供給する。第1プリカーサーは、マグネシウムを含有する。第1プリカーサー供給部23は、例えば、第1プリカーサーを収容するボトルである。
【0081】
第2プリカーサー供給部24は、第2プリカーサーをリアクタ22内に供給する。第2プリカーサーはリン酸を構成するリンを含有する。第2プリカーサー供給部24は、例えば、第2プリカーサーを収容するボトルである。
【0082】
第3プリカーサー供給部25は、第3プリカーサーをリアクタ22内に供給する。第3プリカーサーはジルコニウムを含有する。第3プリカーサー供給部25は、例えば、第3プリカーサーを収容するボトルである。
【0083】
製造装置21は、第1プリカーサー供給部23からリアクタ22まで延びる第1配管P1と、第2プリカーサー供給部24からリアクタ22まで延びる第2配管P2と、第3プリカーサー供給部25からリアクタ22まで延びる第3配管P3と、を備える。
【0084】
酸素供給部33は、酸素ガス、H2Oガス、及びオゾンガスのいずれか、又はこれらを組み合わせたガスをリアクタ22内に供給する。パージガス供給部34は、パージガスをリアクタ22内に供給し、これによって、リアクタ22内に残留するガスをパージし、且つ、リアクタ22内の真空度を調整する。
【0085】
図2に示された製造装置21は、補助ガス供給部27から32、マスフローコントローラー26aから26e、バルブV1からV8、マニュアルバルブMV1からMV3、及び、ニードルバルブNVをさらに備える。
【0086】
コントローラ35は、例えば、バルブV1からV8とマスフローコントローラー26aから26eを制御する。コントローラ35は、例えば、メモリとプロセッサを備える。コントローラ35は、例えば、半導体装置、半導体集積回路(IC)、LSI(large scale integration)、又は、それらが組み合わされた電子回路を含む。LSI又はICは、1つのチップに集積されていてもよいし、複数のチップが組み合わされていてもよい。例えば、各機能ブロックは、1つのチップに集積されていてもよい。LSI又はICは、集積の度合いに応じて、例えば、システムLSI、VLSI(very large scale integration)、又は、ULSI(ultra large scale integration)と呼ばれうる。
【0087】
製造装置21としては、目的とする固体電解質膜の種類に応じて、市販品を応用することができる。市販品の製造装置としては、例えば、Savannah Systems、Fiji Systems、及びPhoenix Systems(いずれもUltratech/Cambridge NanoTech社製)、ALD-series(株式会社昭和真空社製)、TFS 200、TFS 500、TFS 120P400A、及びP800等(いずれもBeneq社製)、OpAL、及びFlexAL(いずれもOxford Instruments社製)、InPassion ALD 4、InPassion ALD 6、及びInPassion ALD 8(いずれもSoLay Tec社製)、AT-400 ALD System(ANRIC TECHNOLOGIES社製)、並びにLabNano、及びLabNano-PE(いずれもEnsure NanoTech社製)等が挙げられる。製造装置21に市販品を応用する場合、例えば、以下に説明される種々のフローを実行させるためのプログラムをコントローラ35内のメモリに記憶しておき、コントローラ35内のプロセッサにこのプログラムを実行させることによって、本実施形態に係る製造装置21とできる。
【0088】
[3.製造方法]
以下では、本実施形態に係る固体電解質膜の製造方法の一例として、製造装置21で製造する方法が説明される。なお、本開示における固体電解質膜及びその製造方法は、特定の製造装置に限定されない。本開示における製造方法の各工程は、製造装置内に記憶された所定のプログラムに基づいて実施されてもよいし、製造装置をマニュアル操作することによって実施されてもよい。
【0089】
[3-1.全体のフロー]
図3Aは、実施形態に係る固体電解質膜の製造方法の一例を示すフローチャートである。図3Aに示された製造方法は、マグネシウムを含有する第1プリカーサーをリアクタ22内に供給する工程S1、酸素ガス、H2Oガス、及びオゾンガスのいずれか、又はこれらを組み合わせたガスをリアクタ22内に供給する工程S2、リンを含有する第2プリカーサーをリアクタ22内に供給する工程S3、さらに、酸素ガス、H2Oガス、及びオゾンガスのいずれか、又はこれらを組み合わせたガスをリアクタ22内に供給する工程S4を含む。この製造方法は、例えば、パージガスをリアクタ22内に供給する工程をさらに含む。なお、工程S2及び工程S4の酸素供給では、それぞれのガスをプラズマ化してもよい。
【0090】
各工程の順番、タイミング、実行される回数は、特に限定されない。例えば、図3Aに示されたフローが繰り返し実行されてもよい。例えば、複数の工程が同時に実行されてもよい。例えば、工程プS1は、工程S2又はS4の前に、少なくとも1回実行される。例えば、工程S1と工程S3は、異なる期間に実行される。
【0091】
図3Aに示された順序の場合、工程S2において、第1プリカーサーが工程S2で酸化される。これにより、酸化マグネシウムが得られる。工程S3において、酸化マグネシウム上にリン含有のプリカーサーが結合する。工程S4において、リンプリカーサーが酸化される。これにより、固体電解質膜が得られる。
【0092】
なお、工程S2を省略し、工程S1及びと工程S3で供給されたプリカーサーを工程S4で同時に酸化してもよい。
【0093】
[3-2.準備]
固体電解質膜の製造を開始する前に、リアクタ22内に基板が配置される。
【0094】
基板の材料としては、例えば、金属、金属酸化物、樹脂、ガラス、及びセラミックスが挙げられる。金属は、例えば、Auであってもよい。金属酸化物は、例えば、金属複合酸化物であってもよい。樹脂の例として、ポリエステル、ポリカーボネート、フッ素樹脂、及び、アクリル樹脂が挙げられる。ガラスの例として、ソーダ石灰ガラス、及び、石英ガラスが挙げられる。セラミックスの例として、酸化アルミニウム、シリコン、ガリウムナイトライド、サファイア、及び、シリコンカーバイドが挙げられる。例えば、Si基板の上に、膜厚400nmの熱酸化膜(SiO2)が形成されていてもよい。
【0095】
リアクタ22内の温度は、特に限定されず、100℃以上500℃以下でもよく、120℃以上300℃以下でもよい。リアクタ22内の温度を500℃以下に設定することにより、成膜が良好に進行する。第1プリカーサー及び又は第2プリカーサーが炭素を含む場合、リアクタ22内の温度を100℃以上に設定することにより、プリカーサーを適切に酸化させることができる。
【0096】
[3-3.第1プリカーサーの供給]
工程S1では、マグネシウムを含む第1プリカーサーをリアクタ22内に供給する。例えば、図2において、バルブV1を開いて、第1プリカーサー供給部23からリアクタ22に、第1プリカーサーを供給する。
【0097】
第1プリカーサー供給部23の温度は、特に限定されず、第1プリカーサーの蒸気圧が低い場合には、50℃以上190℃以下でもよい。
【0098】
工程S1において、マニュアルバルブMV1を開放し、補助ガス供給部27からリアクタ22に向かって補助ガスを供給してもよい。補助ガスは、第1プリカーサー供給部23より第1配管P1中に放出された第1プリカーサーを、リアクタ22に押し流す。補助ガスの流量は、特に限定されず、20ml/min以上60ml/min以下でもよく、30ml/min以上55ml/min以下でもよい。
【0099】
工程S1において、第1プリカーサーの種類に応じて、バルブV2を開いて補助ガス供給部28からリアクタ22に向かって補助ガスを供給してもよい。補助ガスは、第1プリカーサーを、リアクタ22に押し流す。この補助ガスの流量は、マスフローコントローラー26aで制御されうる。この補助ガスの流量は、特に限定されず、1ml/min以上30ml/min以下でもよく、5ml/min以上20ml/min以下でもよい。
【0100】
補助ガス供給部27,28から供給される補助ガスの温度は、特に限定されず、50℃以上300℃以下でもよく、100℃以上280℃以下でもよい。
【0101】
工程S1において、ニードルバルブNVの開度を調整して、第1プリカーサーの流量を制御してもよい。ニードルバルブNVの開度は、例えば、10から60%である。
【0102】
補助ガス供給部27,28から供給される補助ガスは、工程S1の説明で例示されたものと同様のものであってもよい。
【0103】
第1プリカーサーとしては、特に限定されず、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Cp2Mg)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)マグネシウム(MeCp2Mg)、ビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウム(EtCp2Mg)が挙げられる。これらは、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0104】
バルブV1を閉じることで、工程S1は終了される。工程S1の継続時間は、例えば、バルブV1を開いてから閉じるまでの時間に相当する。工程S1は、特に限定されず、約0.01秒以上10秒以下でもよく、約0.05秒以上8秒以下でもよく、約0.1秒以上5秒以下でもよい。
【0105】
[3-4.酸素の供給]
工程S2では、酸素ガス、H2Oガス、及びオゾンガスのいずれか、又はこれらを組み合わせたガスをリアクタ22内に供給する。例えば、図2において、バルブV7を開いて、酸素供給部33から酸素ガス、H2Oガス、及びオゾンガスのいずれか、又はこれらを組み合わせたガスをリアクタ22内に供給する。
【0106】
酸素ガス、H2Oガスは、例えば、プラズマ処理によって生成された酸素ラジカルを含有していてもよい。プラズマALDにより、反応性を高め、かつ、系の温度をより低温化することができる。
【0107】
オゾンガスは、例えば、OT-020オゾン発生装置(Ozone Technology社製)に酸素ガスを供給することによって生成されてもよい。
【0108】
酸素ガス、H2Oガス、及びオゾンガスのいずれか、又はこれらを組み合わせたガスの流量は、マスフローコントローラー26dで制御され、例えば、20から60ml/minでもよく、30から50ml/minでもよい。酸素ガス、H2Oガス、及びオゾンガスのいずれか、又はこれらを組み合わせたガスの濃度は、特に限定されず、例えば、100%でもよい。酸素ガス、H2Oガス、及びオゾンガスのいずれか、又はこれらを組み合わせたガスの温度は、特に限定されず、例えば、50℃以上300℃以下でもよく、100℃以上280℃以下でもよい。
【0109】
バルブV7を閉じることで、工程S2は終了される。工程S2の継続時間は、バルブV7を開いてから閉じるまでの時間に相当する。工程S2の継続時間は、特に限定されず、約0.1から15秒でもよく、約0.2から10秒でもよく、約0.2から8秒でもよい。
【0110】
[3-5.第2プリカーサーの供給]
工程S3では、網目形成体を含有する第2プリカーサーをリアクタ22内に供給する。例えば、図2において、バルブV3を開いて、第2プリカーサー供給部24からリアクタ22内に第2プリカーサーを供給する。
【0111】
第2プリカーサー供給部24の温度は、特に限定されず、第2プリカーサーの蒸気圧が高い場合には、1℃以上60℃以下でもよく、5℃以上50℃以下でもよい。
【0112】
工程S3において、マニュアルバルブMV2を開放し、補助ガス供給部29からリアクタ22に向かって補助ガスを供給してもよい。補助ガスは、第2プリカーサー供給部24から第2配管P2中に放出された第2プリカーサーを、リアクタ22に押し流す。この補助ガスの流量は、特に限定されず、20ml/min以上60ml/min以下であってもよく、25ml/min以上50ml/min以下であってもよい。工程S3において、ニードルバルブNVの開度を調整して、第2プリカーサーの流量を制御してもよい。ニードルバルブNVの開度は、例えば、10から60%である。
【0113】
工程S3において、第2プリカーサーの種類に応じて、バルブV4を開いて、補助ガス供給部30からリアクタ22に向かって補助ガスを供給してもよい。補助ガスは、第2プリカーサーをリアクタ22内に押し流す。この補助ガスの流量は、マスフローコントローラー26bで制御されうる。補助ガス供給部29,30から供給される補助ガスの温度は、特に限定されず、100℃以上300℃以下であってもよく、120℃以上280℃以下であってもよい。
【0114】
補助ガスは、例えば不活性ガスである。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス及び窒素ガスが挙げられる。補助ガスは、1種類のガスであってもよく、2種以上のガスが混合されたものであってもよい。
【0115】
網目形成体は、互いに直接的又は間接的に結合することによってネットワーク構造を形成することができる、あるいは、既にネットワーク構造を形成している、原子又は原子団(すなわち基)を意味する。このネットワーク構造は、酸化物の骨格となっている。網目形成体は、例えば、第2プリカーサーを構成する分子の一部であってもよく、この分子の他部はネットワーク構造が形成される際に切り離されてもよい。網目形成体は、リンを含有する。
【0116】
第2プリカーサーとしては、特に限定されず、例えばリン含有化合物が挙げられる。リン含有化合物の例として、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン(TDMAP)、トリメチルホスフィン(TMP)、トリエチルホスフィン(TEP)、及びtert-ブチルホスフィン(TBP)が挙げられる。これらは、1種が単独に用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0117】
バルブV3を閉じることで、工程S3は終了される。工程S3の継続時間は、特に限定されず、約0.01秒以上10秒以下でもよく、約0.05秒以上8秒以下でもよく、約0.1秒以上5秒以下でもよい。
【0118】
[3-6.酸素の供給]
工程S4では、酸素ガス、H2Oガス、及びオゾンガスのいずれか、又はこれらを組み合わせたガスをリアクタ22内に供給する。工程S2と同様のガス種、方法であるため、説明が省略される。
【0119】
[3-7.パージガスの供給]
パージガスを供給する工程S11からS14では、パージガスをリアクタ22内に供給し、これにより、リアクタ22内に残留している気体をパージする。例えば、図2において、バルブV8を開いて、パージガス供給部34からパージガスをリアクタ22内に供給する。
【0120】
パージガスの流量は、マスフローコントローラー26eで制御され、例えば、20ml/min以上60ml/min以下でもよく、30ml/min以上50ml/min以下でもよい。パージガスの温度は、特に限定されず、100℃以上300℃以下でもよく、120℃以上280℃以下でもよい。
【0121】
パージ工程S11からS14は、例えば、工程S1からS4のそれぞれが完了する度に行われてもよく、工程S1からS4のうち特定の工程が完了する度に行われてもよい。あるいは、パージ工程S11からS14は、工程S1からS4の少なくとも1つと同時に行われてもよい。例えば、リアクタ22内のガスを十分に排気するために、固体電解質膜を形成し始めてから形成し終わるまでの間、パージ工程を、バックグランドプロセスとして継続的に行ってもよい。
【0122】
パージ工程S11からS14のそれぞれの継続時間は、特に限定されず、約0.1秒から60秒でもよく、約5秒から30秒でもよい。
【0123】
パージガスは、例えば、不活性ガスである。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス及び/又は窒素ガスが挙げられる。パージガスは、1種類のガスであってもよく、2種以上のガスが混合されたものであってもよい。
【0124】
[3-8.リアクタの真空度、及び配管の温度]
本実施形態に係る固体電解質膜の製造方法において、リアクタ22内の真空度が制御されてもよい。例えば、図2において、排気用のマニュアルバルブMV4の開度を調整することで、リアクタ22内の真空度を制御できる。
【0125】
真空度は、固体電解質膜の種類に応じて設定されうる。例えば、0.1Torr以上8.0Torr以下でもよく、0.5Torr以上5.0Torr以下でもよい。真空度を0.1Torr以上に設定することにより、例えば、第1プリカーサーが継続的にリアクタ22内に供給され、第1プリカーサーを十分に酸化される。そのため、例えば、第1プリカーサーが炭素を含む場合には、十分な酸化によって、固体電解質膜中のカーボンの量が低減されうる。真空度8.0Torr以下に設定することにより、例えば、第2プリカーサーの供給量を適切に制御することができる。リアクタの真空度は、例えば、ピラニーゲージ(TPR280 DN16 ISO-KF:PFEIFFER VACUUM社製)で測定できる。
【0126】
本実施形態に係る固体電解質膜の製造方法において、各配管の温度は、例えば次のように設定されてもよい。
【0127】
例えば、図2において、第1配管P1の温度及び第2配管P2の温度は、第1プリカーサーの沸点又は昇華温度よりも高く、かつ、第2プリカーサーの沸点又は昇華温度より高く設定される。例えば、例えば、第1プリカーサーがビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウムである場合、その沸点は65℃程度である。第2プリカーサーがトリス(ジメチルアミノ)ホスフィンである場合、その沸点は、48から50℃程度である。
【0128】
例えば、第1配管P1の温度及び第2配管P2の温度は、第1プリカーサー供給部23の温度よりも高く、かつ、第2プリカーサー供給部24の温度よりも高い。これにより、第1プリカーサーが第1配管P1中で固化することを抑止でき、かつ、第2プリカーサーが第2配管P2中で固化することを抑止できる。
【0129】
第1配管P1の温度及び第2配管P2の温度は、第1プリカーサー供給部23の温度よりも55℃以上高く、かつ、第2プリカーサー供給部24の温度よりも55℃以上高くてもよい。第1配管P1の温度及び第2配管P2の温度は、第1プリカーサー供給部23の温度よりも60℃以上高く、かつ、第2プリカーサー供給部24の温度よりも60℃以上高くてもよい。
【0130】
例えば、第1プリカーサー供給部23の温度が60℃であり、第2プリカーサー供給部24の温度が40℃の場合、第1配管P1及び第2配管P2の温度が、180℃程度に設定されてもよい。
【0131】
[3-9.リン酸マグネシウム膜の製造方法]
図3Bは、実施形態に係る固体電解質膜の製造方法の一例を示すフローチャートである。図3Bに示された製造方法は、第1プリカーサーをリアクタ22内に供給する工程S1、酸素ガス,H2Oガス、及びオゾンガス、又は、それを組み合わせたガスをリアクタ22内に供給する工程S2、第2プリカーサーをリアクタ22内に供給する工程S3、酸素ガス,H2Oガス、及びオゾンガス、又は、それを組み合わせたガスをリアクタ22内に供給する工程S4、パージガスをリアクタ22内に供給する工程S11からS14、及び繰り返し回数が所定の設定値に達したか否かを判定する工程S5を含む。これにより、工程S1からS5及びS11からS14を含むサイクルが、複数回繰り返される。図3Bのうち、図3Aを参照しながら説明された事項については、説明が省略される場合がある。
【0132】
図3Bに示された製造方法では、工程S1からS4が完了した後に、パージ工程S11からS14が、それぞれ実行される。
【0133】
図3Bに示された例では、工程S5において繰り返し回数が設定数に達したか否かが判定される。そして、繰り返し回数が所定の設定値に達していない場合(工程S5でNO)には、工程S1に戻り、繰り返し回数が所定の設定値に達した場合(工程S5でYES)には、固体電解質膜の形成が終了する。
【0134】
サイクルの繰り返し回数は、特に限定されず、例えば、目的とする固体電解質膜の膜厚、並びに、第1プリカーサーの種類、及び第2プリカーサーの種類に応じて、適宜設定される。サイクルの繰り返し回数は、例えば、2から8000程度であってもよく、5から3000程度であってもよい。例えば、固体電解質膜の膜厚を500nm程度にする場合、サイクルの繰り返し回数は、1000から3000に設定されてもよい。あるいは、固体電解質膜の膜厚を50nm以下にする場合、サイクルの繰り返し回数は、300以下に設定されてもよい。
【0135】
本実施形態に係る固体電解質膜の膜厚は、特に限定されない。固体電解質膜の厚さとしては、例えば、5μm以下であってもよく、2μm以下であってもよく、550nm以下であってもよく、300nm以下であってもよい。固体電解質膜の厚さとしては、例えば、200nm以下でもよく、150nm以下でもよく、110nm以下でもよく、100nm以下でもよく、50nm以下であってもよい。固体電解質膜の膜厚の下限値は、特に限定されず、0.1nmであってもよく、1nmであってもよい。
【0136】
図3Bに示された例において、1サイクルにおいて工程S1からS4が1回ずつ実行される。ただし、1つのサイクルにおける各工程の回数は、これに限定されない。また、パージ工程を実行する回数及びタイミングは、図3Bに示された例に限定されない。
【0137】
固体電解質膜の形成を継続するか終了させるかは、繰り返し回数とは異なる条件に基づいて判定されてもよい。例えば、固体電解質膜の形成は、経過時間が所定の値に達することによって終了されてもよく、固体電解質膜の膜厚が所定の値に達することによって終了されてもよい。
【0138】
固体電解質膜における各元素の組成比は、例えば、第1プリカーサーの流量、第1プリカーサーのパルスの継続時間、第2プリカーサーの流量、第2プリカーサーのパルスの継続時間、及び、パージガスのパルスの継続時間によって、制御されうる固体電解質膜における各元素の組成比は、例えば、最も蒸気圧の低いプリカーサーの量を設定し、これを基準として、他の元素の流量とパルスの継続時間を設定することによって、制御されてもよい。
【0139】
さらに、図3Cに示すように、工程S5で繰り返し回数が設定値に達した後に、工程S1から工程S12を行ってもよい。
【0140】
[3-10.ジルコニウムを添加したリン酸マグネシウム膜の製造方法]
図3Dは、実施形態に係る固体電解質膜の製造方法の一例を示すフローチャートである。図3Dに示された製造方法では、ジルコニウムを添加したリン酸マグネシウム膜である場合の製造方法の一例について説明する。なお、図3Aから図3Cを参照しながら説明された事項については、説明が省略される場合がある。
【0141】
工程SS3の第3プリカーサーの供給以外の工程は、図3Aから図3Cで説明したのと同様であるため、工程SS3の第3プリカーサーの供給工程について説明する。
【0142】
工程SS3では、ジルコニウムを含む第3プリカーサーをリアクタ22内に供給する。例えば、図2において、バルブV5を開いて、第3プリカーサー供給部25からリアクタ22に、第3プリカーサーを供給する。
【0143】
第3プリカーサー供給部25の温度は、特に限定されず、第3プリカーサーの蒸気圧が低い場合には、50℃以上190℃以下でもよい。
【0144】
工程SS3において、マニュアルバルブMV3を開放し、補助ガス供給部31からリアクタ22に向かって補助ガスを供給してもよい。補助ガスは、第3プリカーサー供給部25より第3配管P3中に放出された第3プリカーサーを、リアクタ22に押し流す。補助ガスの流量は、特に限定されず、20ml/min以上60ml/min以下でもよく、30ml/min以上55ml/min以下でもよい。
【0145】
工程SS3において、第3プリカーサーの種類に応じて、バルブV6を開いて補助ガス供給部32からリアクタ22に向かって補助ガスを供給してもよい。補助ガスは、第3プリカーサーを、リアクタ22に押し流す。この補助ガスの流量は、マスフローコントローラー26cで制御されうる。この補助ガスの流量は、特に限定されず、1ml/min以上30ml/min以下でもよく、5ml/min以上20ml/min以下でもよい。
【0146】
補助ガス供給部31,32から供給される補助ガスの温度は、特に限定されず、50℃以上300℃以下でもよく、100℃以上280℃以下でもよい。
【0147】
工程SS3において、ニードルバルブNVの開度を調整して、第3プリカーサーの流量を制御してもよい。ニードルバルブNVの開度は、例えば、10から60%である。
【0148】
補助ガス供給部31,32から供給される補助ガスは、工程S1の説明で例示されたものと同様のものであってもよい。
【0149】
第3プリカーサーとしては、特に限定されず、例えば、テトラブトキシジルコニウム、テトラキスエチルメチルアミノジルコニウム、テトラエトキシジルコニウムが挙げられる。これらは、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0150】
バルブV5を閉じることで、工程SS3は終了される。工程SS3の継続時間は、例えば、バルブV5を開いてから閉じるまでの時間に相当する。工程SS3は、特に限定されず、約0.01秒以上10秒以下でもよく、約0.05秒以上8秒以下でもよく、約0.1秒以上5秒以下でもよい。
【0151】
図3Dは、実施形態に係る固体電解質膜の製造方法の一例を示すフローチャートである。図3Dに示された製造方法は、第1プリカーサーをリアクタ22内に供給する工程SS1、酸素ガス,H2Oガス、及びオゾンガス、又は、それを組み合わせたガスをリアクタ22内に供給する工程SS2、第3プリカーサーをリアクタ22内に供給する工程SS3、酸素ガス,H2Oガス、及びオゾンガス、又は、それを組み合わせたガスをリアクタ22内に供給する工程SS4、第2プリカーサーをリアクタ22内に供給する工程SS5、酸素ガス,H2Oガス、及びオゾンガス、又は、それを組み合わせたガスをリアクタ22内に供給する工程SS6、パージガスをリアクタ22内に供給する工程SS11からSS16、及び繰り返し回数が所定の設定値に達したか否かを判定する工程SS7を含む。これにより、工程SS1からSS7及びSS11からS16を含むサイクルが、複数回繰り返される。図3Dのうち、図3Aから図3Cを参照しながら説明された事項については、説明が省略される場合がある。
【0152】
図3Dに示された製造方法では、工程SS1からSS6が完了した後に、パージ工程SS11からSS16が、それぞれ実行される。
【0153】
図3Dに示された例では、工程SS7において繰り返し回数が設定数に達したか否かが判定される。そして、繰り返し回数が所定の設定値に達していない場合(工程SS7でNO)には、工程SS1に戻り、繰り返し回数が所定の設定値に達した場合(工程SS7でYES)には、固体電解質膜の形成が終了する。
【0154】
サイクルの繰り返し回数は、特に限定されず、例えば、目的とする固体電解質膜の膜厚、及び、第1から第3プリカーサーの種類に応じて、適宜設定される。サイクルの繰り返し回数は、例えば、2から8000程度であってもよく、5から3000程度であってもよい。例えば、固体電解質膜の膜厚を500nm程度にする場合、サイクルの繰り返し回数は、1000から3000に設定されてもよい。あるいは、固体電解質膜の膜厚を50nm以下にする場合、サイクルの繰り返し回数は、300以下に設定されてもよい。
【0155】
本実施形態に係る固体電解質膜の膜厚は、特に限定されない。固体電解質膜の厚さとしては、例えば、5μm以下であってもよく、2μm以下であってもよく、550nm以下であってもよく、300nm以下であってもよい。固体電解質膜の厚さとしては、例えば、200nm以下でもよく、150nm以下でもよく、110nm以下でもよく、100nm以下でもよく、50nm以下であってもよい。固体電解質膜の膜厚の下限値は、特に限定されず、0.1nmであってもよく、1nmであってもよい。
【0156】
図3Dに示された例において、1サイクルにおいて工程SS1からSS6が1回ずつ実行される。ただし、1つのサイクルにおける各工程の回数は、これに限定されない。また、パージ工程を実行する回数及びタイミングは、図3Dに示された例に限定されない。
【0157】
固体電解質膜の形成を継続するか終了させるかは、繰り返し回数とは異なる条件に基づいて判定されてもよい。例えば、固体電解質膜の形成は、経過時間が所定の値に達することによって終了されてもよく、固体電解質膜の膜厚が所定の値に達することによって終了されてもよい。
【0158】
固体電解質膜における各元素の組成比は、例えば、第1プリカーサーの流量、第1プリカーサーのパルスの継続時間、第2プリカーサーの流量、第2プリカーサーのパルスの継続時間、第3プリカーサーの流量、第3プリカーサーのパルスの継続時間及び、パージガスのパルスの継続時間によって、制御されうる固体電解質膜における各元素の組成比は、例えば、最も蒸気圧の低いプリカーサーの量を設定し、これを基準として、他の元素の流量とパルスの継続時間を設定することによって、制御されてもよい。
【0159】
さらに、図3Cと同様に、工程SS7で繰り返し回数が設定値に達した後に、工程SS1から工程SS12、又は、工程SS1から工程SS14を行ってもよい。
【0160】
配管及びプリカーサー供給部の温度設定については、例えば、第1プリカーサー供給部23の温度が60℃、第2プリカーサー供給部24の温度が40℃、及び第3プリカーサー供給部25の温度が50℃の場合、第1配管P1、第2配管P2、及び第3配管P3の温度が、180℃程度に設定されてもよい。
【0161】
[4.固体電解質膜]
本実施形態に係る固体電解質膜の構造の例について説明する。なお、本実施形態に係る固体電解質膜は、例えば、上述の製造方法によって製造されたものであってもよい。
【0162】
本実施形態に係る固体電解質膜は、リンを含有する網目形成体とマグネシウムとを含有する。
【0163】
本実施形態に係る固体電解質膜は、非晶質構造を有しており、X線回折装置(XRD)を用いた分析で、結晶成長を示す特定のピークが見られないことを特徴とする。これによりマグネシウムイオンが通る空間が広がり、マグネシウムイオンの伝導度が向上する。
【0164】
さらに、本実施形態に係る固体電解質膜は、リンを含有する網目形成体とマグネシウムに加え、ジルコニウムを含んでもよい。これにより、材料の安定性が向上し、熱による分解又は電圧印加による分解を抑制できる。
【0165】
[4-1.二次電池]
本実施形態に係る固体電解質膜は、二次電池の固体電解質として利用されうる。例えば、本実施形態に係る二次電池は、正極、負極、及び上述の酸窒化物を含有する固体電解質を含む。正極は、正極集電体と、正極活物質とを含む。負極は、負極集電体と、負極活物質とを含む。
【0166】
二次電池は、例えば、全固体二次電池であってもよい。この場合、固体電解質膜が、正極と負極とに挟まれていてもよい。正極及び負極間に電圧を印加することにより、固体電解質膜内にイオン伝導が生じる。正極及び負極の集電体材料は、導電性を有する材料であればよい。導電性を有する材料としては、例えば金属が挙げられる。金属としては、例えばAu、Pt、Al、Ag、Cu、Mg、Ni、Ti、Feが挙げられる。導電性を有する材料としては、上記金属の少なくとも1種を含む合金を用いることもできる。合金としては、例えばAu-Mg合金、Ca-Mg合金、Mg-Ni合金、Ca-Ni合金、Mg-Zn合金、Al-Mg合金が挙げられる。
【0167】
二次電池において、固体電解質は、固体電解質膜のみであってもよいし、固体電解質膜と他の膜とが積層された積層体であってもよい。他の膜の例としては、硫化物及びハロゲン化物等が挙げられる。固体電解質は、膜でなくてもよく、例えば、粉体であってもよい。したがって、本実施形態において「固体電解質膜」として説明されているものは、適宜「酸化物」の説明として読み替えることができる。
【0168】
本実施形態において、マグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料は、電極活物質を被覆するための材料である。マグネシウム二次電池の電極活物質用被覆材料は、上記の一般式で表された、リン酸マグネシウム、又は、ジルコニウムを添加したリン酸マグネシウムを含む固体電解質を有する。これにより、電極と電解液との接触面において電子が授受されることによる電解液の分解を防ぐことができる。
【0169】
正極は凹凸面を有してもよく、固体電解質はその凹凸面を覆う被膜であってもよい。負極は凹凸面を有してもよく、固体電解質はその凹凸面を覆う被膜であってもよい。これにより、電極と固体電解質との接触面積を大きくすることができ、電極と固体電解質との反応を活性化できる。固体電解質の被膜は、例えば上述のALDによって成膜されることによって、凹凸面に追従したコンフォーマルな形状となる。これにより、プロセスのばらつきが少ない固体電解質を形成できる。正極及び負極の少なくとも一方は、例えばポーラス形状を有してもよく、固体電解質は、このポーラスによる凹凸面に追従した形状を有してもよい。
【0170】
例えば、正極活物質は活物質粒子からなってもよく、固体電解質はそれらの活物質粒子のそれぞれの表面を覆う被膜であってもよい。負極活物質は活物質粒子からなってもよく、固体電解質はそれらの活物質粒子のそれぞれの表面を覆う被膜であってもよい。これにより、活物質と固体電解質との接触面積を大きくすることができ、活物質と固体電解質との反応を活性化できる。例えば、上述のALDによれば、各工程において、原料ガスが活物質粒子間まで侵入でき、これによって、粒子のそれぞれの表面を覆う固体電解質膜が成膜されうる。
【0171】
あるいは、固体電解質は、正極集電体又は負極集電体上に成膜されていてもよい。
【0172】
本実施形態に係る二次電池は、全固体二次電池に限定されない。二次電池は、例えば、固体電解質に加えて、液体電解質を有してもよい。
【0173】
マグネシウムの標準電極電位は、-2.36Vである。この値は、リチウムの標準電極電位-3.05Vよりも貴である。そのため、マグネシウムイオン二次電池の電解液には、従来のリチウムイオン二次電池の電解液に比べて、より高い耐酸化性が要求される。例えば、マグネシウム基準における4.00Vの充電電位は、リチウム基準における4.69Vの充電電位に相当する。この充電電位は、従来のリチウムイオン二次電池であれば電解液が酸化分解されるほどの高い電位である。したがって、マグネシウム基準における正極の充電電位が4Vを超える場合には、従来のリチウムイオン二次電池で想定されうる範囲を超えるような、より高い耐酸化性が要求される。しかしながら、マグネシウムイオン二次電池において、そのような要求を満たす電解液は少ない。特に、充電時に正極の電位が4Vを越えるような場合に、そのような要求を満たす電解液は報告されていない。
【0174】
本発明者らは、正極と電解液との間、及び/又は、負極と電解液との間における電子の授受によって、電解液が分解することに着目し、以下に説明される二次電池を想到した。
【0175】
(図面及び用語の定義)
本開示は、特定の実施形態に関して図面を参照して説明するが、本開示はこれに限定されず、請求項によってのみ限定される。図面は、概略的かつ非限定的なものに過ぎない。図面において、いくつかの構成要素のサイズ及び形状は、説明目的のために誇張されることや、縮尺どおり描写されていないことがある。寸法及び相対寸法は、本開示の実際の具体化に必ずしも対応しない。
【0176】
本開示において、用語「第1の」及び「第2の」は、時間的又は空間的な順番を記述するためではなく、類似の構成要素を区別するために使用されている。したがって、「第1の」及び「第2の」は、適宜交換可能である。
【0177】
本開示において、用語「上(top)」「下(bottom)」等は、説明目的で使用しており、必ずしも相対的な位置を記述していない。これらの用語は、適切な状況下で交換可能であり、種々の実施形態は、ここで説明又は図示した以外の他の向きで動作可能である。
【0178】
本開示において、用語「Yの上に配置されたX(X disposed on Y)」は、XがYと接した位置にあることを意味しており、XとYとの相対的な位置関係を特定の向きに限定するものではない。
【0179】
本開示において説明される構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0180】
(第1の実施形態)
[4-2.電解液を用いたマグネシウム二次電池の構成]
図4は、第1の実施形態に係る二次電池1000の構成を示す模式的な断面図である。
【0181】
二次電池1000は、正極100と、負極200と、電解液300と、固体電解質層400とを備えている。負極200と正極100とは、間隙を介して互いに電気的に分離して対向している。固体電解質層400は、正極100を覆っている。電解液300は、正極100と負極200との間の空間に充填されている。二次電池1000は、マグネシウムイオンが正極100と負極200との間を移動することによって、充放電する。
【0182】
二次電池1000は、例えば、固体電解質層400と負極200とを隔てるセパレータ(図示せず)をさらに備えてもよい。この場合、電解液300は、セパレータの内部に含浸されていてもよい。
【0183】
二次電池1000の形状は、図4に示された例に限定されず、例えば、シート型、コイン型、ボタン型、積層型、円筒型、偏平型、又は角型であってもよい。
【0184】
[4-3.正極]
正極100は、正極集電体110と正極活物質層120とを含む。正極活物質層120は、正極集電体110の上に配置され、正極活物質粒子130を含む。言い換えると、正極活物質粒子130が、正極集電体110の上に配置されている。正極活物質層120の上面は、正極活物質粒子130によって画定される凹凸面である。
【0185】
正極集電体110は、例えば、金属シート又は金属フィルムである。正極集電体110は、多孔質であってもよく、無孔であってもよい。金属材料の例として、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、チタン、及びチタン合金が挙げられる。正極集電体110の表面にカーボンなどの炭素材料が塗布されてもよい。あるいは、正極集電体110は、透明導電膜であってもよい。透明導電膜の例としては、インジウム・スズ酸化物(ITO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化インジウム(In23)、酸化スズ(SnO2)、及び、Alを含有する亜鉛酸化物が挙げられる。
【0186】
正極活物質粒子130は、例えば、マグネシウムと遷移金属とを含有する金属酸化物、マグネシウムと遷移金属とを含有する金属硫化物、マグネシウムと遷移金属を含有するポリアニオン塩化合物、マグネシウムと遷移金属を含有するフッ素化ポリアニオン塩化合物であり、遷移金属は、例えば、Mn、Co、Cr、V、Ni及びFeから選択される。これらの材料は、マグネシウムイオンを吸蔵及び放出しうる。
【0187】
正極活物質粒子130の材料の例としては、MgM24(ただし、Mは、Mn、Co、Cr、Ni及びFeから選択される少なくとも1種である)、MgMO2(ただし、Mは、Mn、Co、Cr、Ni及びAlから選択される少なくとも1種である)、MgMSiO4(ただし、Mは、Mn、Co、Ni及びFeから選択される少なくとも1種)、及びMgxyAOzw(ただし、Mは、遷移金属、Sn、Sb又はInであり、Aは、P、Si又はSであり、0<x≦2、0.5≦y≦1.5、zは3又は4、0.5≦w≦1.5)が挙げられる。
【0188】
なお、正極活物質粒子130は、上記の材料に限定されず、例えば、マグネシウムを含有していなくてもよい。例えば、正極活物質粒子130は、フッ化黒鉛、金属酸化物、又は金属ハロゲン化物であってもよい。金属酸化物及び金属ハロゲン化物は、例えば、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び亜鉛から選択される少なくとも1種を含有してもよい。例えば、正極活物質粒子130は、Mo68のような硫化物であってもよく、Mo9Se11のようなカルコゲナイド化合物であってもよい。
【0189】
正極活物質粒子130は、例えば、マグネシウム金属に対する電極電位が+4Vよりも大きくなるような材料であってもよい。この場合、二次電池1000は、電解液300の酸化分解を抑止しながら、4V超の容量を実現できる。このような材料の例として、MgNiSiO4、及びMgCoSiO4が挙げられる。
【0190】
正極活物質層120は、上記の材料に加えて、必要に応じて、導電材及び/又は結着材が添加されていてもよい。導電材及び/又は結着材は、上記[1-3.二次電池]で説明されたものを適宜使用できる。
【0191】
正極100は、例えば、次のように形成される。まず、正極活物質粒子130と導電材と結着材とが混合される。次に、この混合物に適切な溶剤が加えられ、これによってペースト状の正極合材が得られる。次に、この正極合材が正極集電体110の表面に塗布され、乾燥される。これによって、正極100が得られる。なお、乾燥された正極合材は、電極密度を高めるために、正極集電体110とともに圧延されてもよい。
【0192】
正極100は、薄膜状であってもよい。正極100の膜厚は、例えば、500nm以上、20μm以下であってもよい。
【0193】
[4-4.負極]
負極200は、負極集電体210と負極活物質層220とを含む。負極活物質層220は、負極集電体210の上に配置され、負極活物質粒子230を含む。言い換えると、負極活物質粒子230が、負極集電体210の上に配置されている。負極活物質層220の下面は、負極活物質粒子230によって画定される凹凸面である。
【0194】
負極集電体210は、例えば、金属シート又は金属フィルムである。負極集電体210は、多孔質であってもよく、無孔であってもよい。金属材料の例として、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、チタン、及びチタン合金が挙げられる。負極集電体210の表面にカーボンなどの炭素材料が塗布されてもよい。
【0195】
負極活物質粒子230の例としては、金属、炭素、金属酸化物、炭素層間化合物、及び硫化物が挙げられる。負極活物質粒子230は、例えば、マグネシウム金属、又は、マグネシウムを含有する合金を含有する。あるいは、負極活物質粒子230は、マグネシウムイオンを吸蔵及び放出しうる材料であってもよい。
【0196】
負極活物質粒子230の材料の例としては、マグネシウム、スズ、ビスマス、アンチモン、及びマグネシウム合金が挙げられる。マグネシウム合金は、例えば、マグネシウムと、スズ、ビスマス、チタン、マンガン、鉛、アンチモン、アルミニウム、シリコン、ガリウム、及び亜鉛から選択される少なくとも1種とを含有する。
【0197】
なお、負極活物質層220は、上記の材料に加えて、必要に応じて、導電材及び/又は結着材が添加されていてもよい。負極活物質層220における導電材、結着材、溶剤及び増粘剤は、正極活物質層120について説明した材料を適宜利用することができる。
【0198】
負極200は、上述の正極100の形成方法と同様の方法によって形成されうる。
【0199】
負極200は、薄膜状であってもよい。負極200の膜厚は、例えば、500nm以上、20μm以下であってもよい。
【0200】
[4-5.固体電解質層]
固体電解質層400は、正極活物質層120を覆っている。固体電解質層400は、マグネシウム二次電池の正極活物質用被覆材料を含む。これにより、正極活物質層120と電解液300とが固体電解質層400によって隔離され、正極活物質層120と電解液300との直接的な接触を回避できる。そのため、正極と電解液との接触面において電子が授受されることによる電解液の分解を防ぐことができる。
【0201】
より詳細には、固体電解質層400は、正極活物質粒子130を含む正極活物質層120の一方の主面上に設けられ、正極活物質粒子130を一括して覆う1つの層である。つまり、固体電解質層400は、正極活物質層120を覆う1つの層である。固体電解質層400は、正極活物質粒子130によって画定される凹凸面に沿って形成されている。マグネシウム二次電池の正極活物質用被覆材料が正極活物質粒子130を含む正極活物質層120を覆うことによって、固体電解質層400を形成している。本明細書では、「固体電解質層400」を「表面層400」と呼ぶことがある。固体電解質層400は正極活物質層の一方の主面上に設けられた表面層の一例である。
【0202】
正極は、固体電解質層400をさらに含んでいてもよい。その場合、正極は、正極集電体110と正極層とを含む。正極層は、正極活物質粒子130を含む正極活物質層120と、固体電解質層400とを有する。
【0203】
固体電解質層400の製造方法は、例えば、上記[1-2.固体電解質の製造方法]で説明された方法と同様であってもよい。
【0204】
固体電解質層400は、粉状であってもよく、塊状であってもよい。固体電解質は、非晶質の部分を含んでいてもよい。固体電解質層400の膜厚は、例えば、1nm以上、かつ、50nm以下であってもよい。固体電解質層400が非晶質の部分を含んでいる場合、固体電解質層400を正極活物質層120の凹凸面に沿って形成しやすい。
【0205】
[4-6.電解液]
電解液300は、正極100と負極200との間の空間に充填されている。電解液300は、さらに、正極活物質粒子130の間の間隙を充填していてもよく、負極活物質粒子230の間の間隙を充填していてもよい。
【0206】
電解液300は、非水溶媒と非水溶媒に溶解したマグネシウム塩とを含有している液体であり、電場に応じてマグネシウムイオンを移動させうる。
【0207】
非水溶媒の材料の例としては、環状エーテル、鎖状エーテル、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、ピロ炭酸エステル、リン酸エステル、ホウ酸エステル、硫酸エステル、亜硫酸エステル、環状スルホン、鎖状スルホン、ニトリル、及びスルトンが挙げられる。
【0208】
環状エーテルの例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、及びクラウンエーテル、及びこれらの誘導体が挙げられる。鎖状エーテルの例としては、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチル、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0209】
環状炭酸エステルの例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4,4,4-トリフルオロエチレンカーボネート、フルオロメチルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、4-フルオロプロピレンカーボネート、5-フルオロプロピレンカーボネート、及びこれらの誘導体が挙げられる。鎖状炭酸エステルの例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0210】
環状カルボン酸エステルの例としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-アセトラクトン、及びこれらの誘導体が挙げられる。鎖状カルボン酸エステルの例としては、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0211】
ピロ炭酸エステルの例としては、ジエチルピロカーボネート、ジメチルピロカーボネート、ジ-tert-ブチルジカーボネート、及びこれらの誘導体が挙げられる。リン酸エステルの例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、ヘキサメチルホスフォルアミド、及びこれらの誘導体が挙げられる。ホウ酸エステルの例としては、トリメチルボレート、トリエチルボレート、及びこれらの誘導体が挙げられる。硫酸エステルの例としては、トリメチルサルフェート、トリエチルサルフェート、及びこれらの誘導体が挙げられる。亜硫酸エステルの例としては、エチレンサルファイト及びその誘導体が挙げられる。
【0212】
環状スルホンの例としては、スルホラン及びその誘導体が挙げられる。鎖状スルホンの例としては、アルキルスルホン及びその誘導体が挙げられる。ニトリルの例としては、アセトニトリル、バレロニトリル、プロピオニトリル、トリメチルアセトニトリル、シクロペンタンカルボニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル及びその誘導体が挙げられる。スルトンの例としては、1,3-プロパンスルトン及びその誘導体が挙げられる。
【0213】
溶媒として、上記の物質のうち1種類だけが用いられてもよいし、2種類以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0214】
マグネシウム塩の例としては、MgBr2、MgI2、MgCl2、Mg(AsF62、Mg(ClO42、Mg(PF62、Mg(BF42、Mg(CF3SO32、Mg[N(CF3SO222、Mg(SbF62、Mg(SiF62、Mg[C(CF3SO232、Mg[N(FSO222、Mg[N(C25SO222、MgB10Cl10、MgB12Cl12、Mg[B(C6542、Mg[B(C6542、Mg[N(SO2CF2CF322、Mg[BF3252、及びMg[PF3(CF2CF332が挙げられる。マグネシウム塩として、上記の物質のうち1種類だけが用いられてもよいし、2種類以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0215】
電解液300は、例えば、外装(図示せず)内で互いに対向する正極100と負極200との間の空間に充填され、正極100、固体電解質層400、及び負極200に含浸する。
【0216】
[4-7.効果]
固体電解質層を有さない従来の二次電池の場合、上述のように、正極と電解液との接触面において電子が授受されて、電解液が分解する虞がある。一方、二次電池1000は、正極100を覆う固体電解質層400を有する。そのため、正極100と電解液300との間のマグネシウムイオンの移動を許容しながら、正極100と電解液300との間の電子の移動を抑止できる。そのため、二次電池1000の電気的特性を維持しながら、電解液300の分解を抑止できる。その結果、二次電池1000が安定化され、長寿命化されうる。
【0217】
なお、固体電解質層400は、正極100と電解液300との接触を完全に防いでいなくてもよく、例えば、固体電解質層400がない構成に比べて、正極100と電解液300との接触面積を低減していればよい。
【0218】
特に、二次電池1000の充電時に正極100の充電電位が4Vを超えるような場合、電解液300の分解を抑止する作用は、より有意に働く。例えば、充電電位が4Vを超える領域では使用できないと考えられていた電解液の材料を、二次電池1000には使用できる。例えば、従来のリチウムイオン二次電池で使用されていた非水溶媒を、高容量のアルカリ土類金属イオン二次電池の非水溶媒として採用できる。したがって、二次電池1000の材料選択の自由度が増す。
【0219】
二次電池1000において、電解液300と固体電解質層400とが電解質として機能しうる。例えば、負極200と固体電解質層400との間の距離と、固体電解質層400の膜厚とを調整することで、電解液300を電解質の主成分として機能させることができる。これにより、例えば、電解質が全て固体である二次電池(すなわち全固体二次電池)に比べて、優れた電気的特性を有する電解質を有する二次電池が実現されうる。
【0220】
二次電池1000において、固体電解質層400は、例えば後述の表面層400cに比べて、製造方法が容易である。さらに、例えば、正極活物質層120が導電材を含む場合には、固体電解質層400は、正極活物質粒子130に加えて、導電材も覆うことができる。そのため、固体電解質層400は、導電材と電解液300との間の反応も抑制できる。
【0221】
さらに、マグネシウムイオン二次電池において電解液が正極に接触すると、それらの接触面においてマグネシウム化合物(例えばマグネシウム酸化物)が析出する虞がある。この析出物は不動態膜であり、正極と電解液との間のマグネシウムイオンの移動を阻害する。したがって、マグネシウムイオン二次電池は、析出した不動態膜によって、充放電動作ができなくなる虞がある。
【0222】
なお、この不動態膜による問題は、リチウムイオン二次電池では生じない。リチウムイオン二次電池においても、リチウム化合物が析出することが知られている。しかし、この析出物はイオン伝導性を有するため、リチウムイオンの移動を阻害しない。
【0223】
したがって、二次電池1000がマグネシウムイオン二次電池である場合、固体電解質層400は、正極100を覆うことによって正極100上の不動態膜の発生を抑制し、これにより、二次電池1000の安定した充放電動作を保障しうる。
【0224】
[5.種々の変形例]
[5-1.変形例1]
図5は、第1の実施形態に係る二次電池の変形例1として、二次電池1000aの構成を示す模式的な断面図である。
【0225】
二次電池1000aは、正極100と、負極200と、電解液300と、固体電解質層400と、固体電解質層500とを備える。固体電解質層500は、負極200を覆っている。二次電池1000aのうち、固体電解質層500を除く各構成は、二次電池1000の対応する構成と同様であるため、その説明が省略される。
【0226】
固体電解質層500は、負極活物質層220を覆っている。固体電解質層500は、マグネシウム二次電池の負極活物質用被覆材料を含む。これにより、負極活物質層220と電解液300とが固体電解質層500によって隔離され、負極活物質層220と電解液300との直接的な接触を回避できる。そのため、負極と電解液との接触面において電子が授受されることによる電解液の分解を防ぐことができる。
【0227】
固体電解質層500は、負極活物質粒子230を含む負極活物質層220の一方の主面上に設けられ、負極活物質粒子230を一括して覆う1つの層である。つまり、固体電解質層500は、負極活物質層220を覆う1つの層である。固体電解質層500は、負極活物質粒子230によって画定される凹凸面に沿って形成されている。マグネシウム二次電池の負極活物質用被覆材料が負極活物質粒子230を含む負極活物質層220を覆うことによって、固体電解質層500を形成している。本明細書では、「固体電解質層500」を「表面層500」と呼ぶことがある。固体電解質層500は負極活物質層の一方の主面上に設けられた表面層の一例である。
【0228】
負極200は、負極集電体210と負極活物質層220とを含む。負極活物質層220は、負極集電体210の上に配置され、負極活物質粒子230を含む。言い換えると、負極活物質粒子230が、負極集電体210の上に配置されている。負極活物質層220の上面は、負極活物質粒子230によって画定される凹凸面である。負極は、固体電解質層500をさらに含んでいてもよい。その場合、負極は、負極集電体210と負極層とを含む。負極層は、負極活物質粒子230を含む負極活物質層220と、固体電解質層500とを有する。
【0229】
固体電解質層500の製造方法は、例えば、上記[1-2.固体電解質の製造方法]で説明された方法と同様であってもよい。
【0230】
固体電解質層500は、粉状であってもよく、塊状であってもよい。固体電解質は、非晶質の部分を含んでいてもよい。固体電解質層500の膜厚は、例えば、1nm以上、かつ、20μm以下であってもよく、さらに、5nm以上、かつ、50nm以下であってもよい。固体電解質層500が非晶質の部分を含んでいる場合、固体電解質層500を負極活物質層220の凹凸面に沿って形成しやすくなる。
【0231】
二次電池1000aは、上記[4-7.効果]で説明された種々の効果に加えて、固体電解質層500に起因する効果を奏する。固体電解質層500に起因する効果は、上記[4-7.効果]の説明において、「正極集電体110」、「固体電解質層400」及び「正極100」をそれぞれ「負極集電体210」、「固体電解質層500」及び「負極200」に適宜置き換えることにより、理解されうる。端的に言えば、固体電解質層500は、負極200と電解液300との接触を抑止することにより、電解液300の還元分解を抑止できる。また、固体電解質層500は、負極200上の不動態膜の発生を抑制できる。
【0232】
[5-2.変形例2]
図6は、第1の実施形態に係る二次電池の変形例2として、二次電池1000bの構成を示す模式的な断面図である。
【0233】
二次電池1000bは、正極100と、負極200と、電解液300と、固体電解質層500とを備える。すなわち、二次電池1000bは、二次電池1000aから固体電解質層400を取り除いた構成を有する。二次電池1000bの各構成は、二次電池1000の対応する構成と同様であるため、その説明が省略される。
【0234】
二次電池1000bは、上記[5-1.変形例1]で説明された固体電解質層500に起因する効果と同様の効果を奏する。
【0235】
[5-3.変形例3]
図7は、第1の実施形態に係る二次電池の変形例3として、二次電池1000cの構成を示す模式的な断面図である。
【0236】
二次電池1000cは、正極100と、負極200aと、電解液300と、固体電解質層400とを備える。負極200aは、負極集電体210と負極活物質層220aとを含む。二次電池1000cのうち、負極活物質層220aを除く各構成は、二次電池1000の対応する構成と同様であるため、その説明が省略される。
【0237】
負極活物質層220aは、負極集電体210の上に配置された平板状の層である。負極活物質層220aの材料は、例えば、上記[4-4.負極]で列挙された種々の材料の中から選択されうる。負極活物質層220aは、例えば、物理堆積法又は化学堆積法によって形成されうる。
【0238】
二次電池1000cは、上記[4-7.効果]で説明された種々の効果と同様の効果を奏する。
【0239】
[5-4.変形例4]
図8は、第1の実施形態に係る二次電池の変形例4として、二次電池1000dの構成を示す模式的な断面図である。
【0240】
二次電池1000dは、正極100と、負極200aと、電解液300と、固体電解質層400と、固体電解質層500aとを備える。二次電池1000dのうち、固体電解質層500aを除く各構成は、二次電池1000cの対応する構成と同様であるため、その説明が省略される。
【0241】
固体電解質層500aは、負極活物質層220aの上に配置された平板状の層である。固体電解質層500aの材料及び形成方法は、上記[4-5.固体電解質層]で説明されたとおりである。
【0242】
二次電池1000dは、上記[5-1.変形例1]で説明された種々の効果と同様の効果を奏する。
【0243】
[5-5.変形例5]
図9は、第1の実施形態に係る二次電池の変形例5として、二次電池1000eの構成を示す模式的な断面図である。
【0244】
二次電池1000eは、正極100と、負極200aと、電解液300と、固体電解質層500aとを備える。すなわち、二次電池1000eは、二次電池1000dから固体電解質層400を取り除いた構成を有する。二次電池1000eの各構成は、二次電池1000dの対応する構成と同様であるため、その説明が省略される。
【0245】
二次電池1000eは、上記[5-2.変形例2]で説明された固体電解質層500に起因する効果と同様の効果を奏する。
【0246】
(第2の実施形態)
[6-1.二次電池の構成]
図10は、第2の実施形態に係る二次電池2000の構成を示す模式的な断面図である。
【0247】
二次電池2000は、正極100c及び固体電解質被膜400cを除き、第1の実施形態で説明された二次電池1000と同様の構成を有する。
【0248】
第2の実施形態において、二次電池2000は、正極材料を備えている。正極材料は、正極活物質粒子130と、正極活物質粒子130を被覆している固体電解質被膜400cとを有する。固体電解質被膜400cは、マグネシウム二次電池の正極活物質用被覆材料を含む。固体電解質被膜400cが正極活物質粒子130を被覆していることによって、正極活物質粒子の間の間隙に、正極活物質粒子の表面が露出しない、あるいは、露出しにくい。したがって、例えば、電解液がこれらの間隙を充填している場合であっても、電解液の酸化分解をより効果的に抑止できる。本明細書では、「固体電解質被膜400c」を「表面層400c」と呼ぶことがある。
【0249】
正極100cは、正極集電体110と正極活物質層120cとを備えている。正極活物質層120cは、正極集電体110の上に配置され、正極活物質粒子130を含む。正極活物質粒子130のそれぞれの表面は、固体電解質被膜400cによって覆われている。このような構成によれば、正極活物質粒子120cと電解液300との間の電子の移動を抑止できる。その結果、電解液300の酸化分解を抑止できる。また、固体電解質被膜400cは、正極活物質粒子130の表面を被覆することによって、正極100c上での不動態膜の発生を抑制できる。固体電解質被膜400cは正極活物質粒子を被覆している表面層の一例である。
【0250】
[6-2.正極及び固体電解質被膜]
二次電池2000は、固体電解質の形状と、固体電解質及び正極の形成方法とを除き、第1の実施形態で説明されたものと同様であるため、その説明が省略される。具体的には、固体電解質被膜400cの材料は、例えば、第1の実施形態の[4-5.固体電解質層]で列挙された種々の材料の中から選択されうる。
【0251】
固体電解質被膜400cは、粉状であってもよく、薄膜状であってもよい。固体電解質被膜400cが薄膜状であれば、正極活物質粒子130の形状に沿って形成されやすくなり、被覆性が向上する。固体電解質被膜400cの膜厚は、例えば、1nm以上、かつ、200nm以下であってもよい。
【0252】
正極100c及び固体電解質被膜400cは、例えば、次のように形成される。
【0253】
まず、正極活物質粒子130の表面に固体電解質を被覆することにより、固体電解質被膜400cを形成する。その後、被覆された正極活物質粒子130と導電材と結着材と混合する。次に、この混合物に適切な溶剤が加えられ、これによりペースト状の正極合材が得られる。次に、この正極合材が正極集電体110の表面に塗布され、乾燥される。これにより、正極100cが得られる。
【0254】
固体電解質被膜400cは、例えば、正極活物質粒子130を動かしながら、上記の物理堆積法又は化学堆積法によって固体電解質材料を堆積させることによって形成されてもよい。あるいは、固体電解質被膜400cは、例えば、ゾル-ゲル法又は上記の液相成膜法によって形成されてもよい。
【0255】
[6-3.効果]
二次電池2000は、第1の実施形態で説明された種々の効果と同様の効果を奏する。具体的には、第1の実施形態の[4-7.効果]の説明において、「固体電解質層400」を「固体電解質被膜400c」に適宜置き換えることにより、理解されうる。
【0256】
二次電池2000では、正極活物質粒子130のそれぞれが固体電解質被膜400cで覆われている。そのため、正極活物質粒子130の間の間隙に、正極活物質粒子130の表面が露出しない、あるいは、露出しにくい。したがって、例えば電解液300がこれらの間隙を充填している場合であっても、電解液300の酸化分解をより効果的に抑止できる。また、固体電解質被膜400cは、正極100c上の不動態膜の発生を効果的に抑制できる。
【0257】
[6-4.種々の変形例]
[6-4-1.変形例1]
図11は、第2の実施形態に係る二次電池の変形例1として、二次電池2000aの構成を示す模式的な断面図である。
【0258】
二次電池2000aは、負極200c及び固体電解質被膜500cを除き、二次電池2000と同様の構成を有する。
【0259】
変形例1において、二次電池2000aは、負極材料を備えている。負極材料は、負極活物質粒子230と、負極活物質粒子230を被覆している固体電解質被膜500cとを有する。固体電解質被膜500cは、マグネシウム二次電池の負極活物質用被覆材料を含む。固体電解質被膜500cが負極活物質粒子230を被覆していることによって、負極活物質粒子の間の間隙に、負極活物質粒子の表面が露出しない、あるいは、露出しにくい。したがって、例えば、電解液がこれらの間隙を充填している場合であっても、電解液の還元分解をより効果的に抑止できる。本明細書では、「固体電解質被膜500c」を「表面層500c」と呼ぶことがある。
【0260】
負極200cは、負極集電体210と負極活物質層220cとを備えている。負極活物質層220cは、負極集電体210の上に配置され、負極活物質粒子230を含む。負極活物質粒子230のそれぞれの表面は、固体電解質被膜500cによって覆われている。このような構成によれば、負極活物質粒子230と電解液300との間の電子の移動を抑止できる。その結果、電解液300の還元分解を抑止できる。また、固体電解質被膜500cは、負極活物質粒子230の表面を被覆することによって、負極200c上での不動態膜の発生を抑制できる。固体電解質被膜500cは負極活物質粒子を被覆している表面層の一例である。
【0261】
固体電解質被膜500cの材料は、例えば、第1の実施形態の[4-5.固体電解質層]で述べた材料の中から選択されうる。固体電解質被膜500cは、粉状であってもよく、薄膜状であってもよい。固体電解質被膜500cが薄膜状であれば、負極活物質粒子230の形状に沿って形成されやすくなり、被覆性が向上する。固体電解質被膜500cの膜厚は、例えば、1nm以上、かつ、200nm以下であってもよい。
【0262】
負極200c及び固体電解質被膜500cの形成方法は、例えば、上記[6-2.正極及び固体電解質被膜]で説明された方法と同様であってもよい。
【0263】
二次電池2000aは、上記[6-3.効果]で説明された種々の効果に加えて、固体電解質被膜500cに起因する効果を奏する。固体電解質被膜500cに起因する効果は、上記[4-7.効果]の説明において、「固体電解質層400」及び「正極100」をそれぞれ「固体電解質被膜500c」及び「負極200c」に適宜置き換えることにより、理解されうる。
【0264】
二次電池2000aでは、負極活物質粒子230のそれぞれが固体電解質被膜500cで覆われている。そのため、電解液300が負極活物質粒子230の間の間隙を充填している場合であっても、電解液300の還元分解をより効果的に抑止できる。また、固体電解質被膜500cは、負極200c上の不動態膜の発生を効果的に抑制できる。
【0265】
[6-4-2.変形例2]
図12は、第2の実施形態に係る二次電池の変形例2として、二次電池2000bの構成を示す模式的な断面図である。
【0266】
二次電池2000bは、二次電池2000aから固体電解質被膜400cを取り除いた構成を有する。二次電池2000bの各構成は、二次電池2000aの対応する構成と同様であるため、その説明が省略される。
【0267】
二次電池2000bは、上記[6-4-1.変形例1]で説明された固体電解質被膜500cに起因する効果と同様の効果を奏する。
【0268】
[6-4-3.その他の変形例]
上記で説明された二次電池2000、2000a、及び2000bは、第1の実施形態で説明された二次電池1000、1000a、1000b、1000c、1000d、及び1000eのいずれか1つと組み合わされてもよい。
【0269】
例えば、二次電池2000の負極200が、第1の実施形態の[5-3.変形例3]で説明された負極200aに置き換えられてもよく、さらに、第1の実施形態の[5-4.変形例4]で説明された固体電解質層500aが追加されてもよい。
【0270】
[7.実験結果]
本実施形態に係る固体電解質膜の種々の実施例について説明する。
[7-1.実施例1]
実施例1のリン酸マグネシウム膜は、図2に示された製造装置21を用いて製造された。ここでは、図3Bに示されたフローと同様の製造方法が実施された。
【0271】
第1プリカーサー供給部23、及び、第2プリカーサー供給部24は、それぞれ、プリカーサボトル(Japan Advanced Chemicals Ltd.製)であった。リアクタ22、リアクタ22内のサンプルホルダ、第1プリカーサー供給部23、第2プリカーサー供給部24、及び、種々の配管の材質は、ステンレス鋼(SUS316)を使用した。リアクタ22、第1プリカーサー供給部23、第2プリカーサー供給部24、及び、種々の配管にリボンヒーターが巻きつけられ、リボンヒーターを加熱することによって各部位が加熱された。各部位の温度は熱電対で測定され、温度コントローラで温度制御が行われた。マスフローコントローラー26aから26e及びバルブV1からV8は、シーケンサー(MELSEC-Q;三菱電機株式会社製)及び制御プログラム(日本スプリード株式会社製)を用いて制御された。ニードルバルブNVは、ベローズ・シール・バルブ(SS-4VMG;Swagelok社製)であった。リアクタ22内の真空度は、ピラニーゲージ(TPR280 DN16 ISO-KF;PFEIFFER VACUUM社製)によって測定された。製膜中のリアクタ22内の真空度は、マニュアルバルブMV4の開度を調節することにより、10-1Paから103Paに制御された。
【0272】
基板は、Au電極が形成されたガラス基板であった。Au電極は、5μmピッチのくし型であった。Au電極を有するガラス基板が、リアクタ22内に配置された。第1プリカーサーはビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウムであり、第2プリカーサーはトリス(ジメチルアミノ)ホスフィン(TDMAP)であった。パージガスは、アルゴンガスであった。酸素供給部33は、酸素ガスを供給可能であった。リアクタ22内の温度は、250℃に設定された。第1プリカーサー供給部23の温度は40℃に設定された。第2プリカーサー供給部24の温度は40℃に設定された。第1配管P1の温度は170℃に設定された。第1配管P1及び第2配管P2以外のすべての配管の温度は、200℃に設定された。酸素ガス、及びパージガスの流量は、50ml/minに設定された。マニュアルバルブMV1及びMV2は常時開放されており、補助ガス供給部27,29からの補助ガスの流量は、50ml/minに設定された。ニードルバルブNVの開度は、50%であった。
【0273】
図3Bに示された工程S1の前に、以下の準備工程が実行された。
【0274】
バルブV8が開かれ、約1800秒間パージガス供給部34からリアクタ22内へパージガスが供給され、バルブV8が閉じられた。ついで、バルブV7が開かれ、6秒間、酸素供給部33からリアクタ22内へ酸素ガスが供給され、バルブV7が閉じられた。その後、パージ工程が8秒間、行われた。準備工程の後、図3Bに示された繰り返しサイクルが、1000回行われた。XPS装置(Quamtera SXM;アルバック・ファイ株式会社製)を用いて、組成分析を行った結果、実施例1の組成式は、Mg3.1(PO3.12であった。
【0275】
[7-2.実施例2]
製膜中のリアクタ22内の温度を125℃にした点を除き、実施例1と同様の条件で、実施例2に係るリン酸マグネシウム膜が製造された。XPS装置を用いた組成分析の結果、実施例2の組成式は、Mg3.1(PO3.02であった。
【0276】
[7-3.実施例3]
実施例3のジルコニウムを添加したリン酸マグネシウム膜は、図2に示された製造装置21を用いて製造された。ここでは、図3Dに示されたフローと同様の製造方法が実施された。
【0277】
第1プリカーサー供給部23、及び、第2プリカーサー供給部24は、第3プリカーサー供給部25それぞれ、プリカーサボトル(Japan Advanced Chemicals Ltd.製)であった。リアクタ22、リアクタ22内のサンプルホルダ、第1プリカーサー供給部23、第2プリカーサー供給部24、第3プリカーサー供給部25、及び、種々の配管の材質は、ステンレス鋼(SUS316)を使用した。リアクタ22、第1プリカーサー供給部23、第2プリカーサー供給部24、第3プリカーサー供給部25、及び、種々の配管にリボンヒーターが巻きつけられ、リボンヒーターを加熱することによって各部位が加熱された。各部位の温度は熱電対で測定され、温度コントローラで温度制御が行われた。マスフローコントローラー26aから26e及びバルブV1からV8は、シーケンサー(MELSEC-Q;三菱電機株式会社製)及び制御プログラム(日本スプリード株式会社製)を用いて制御された。ニードルバルブNVは、ベローズ・シール・バルブ(SS-4VMG;Swagelok社製)であった。リアクタ22内の真空度は、ピラニーゲージ(TPR280 DN16 ISO-KF;PFEIFFER VACUUM社製)によって測定された。製膜中のリアクタ22内の真空度は、マニュアルバルブMV4の開度を調節することにより、10-1Paから103Paに制御された。
【0278】
基板は、Au電極が形成されたガラス基板であった。Au電極は、5μmピッチのくし型であった。Au電極を有するガラス基板が、リアクタ22内に配置された。第1プリカーサーはビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウムであり、第2プリカーサーはトリス(ジメチルアミノ)ホスフィン(TDMAP)、第3プリカーサーはテトラキスエチルメチルアミノジルコニウムであった。パージガスは、アルゴンガスであった。酸素供給部33は、酸素ガスを供給可能であった。リアクタ22内の温度は、250℃に設定された。第1プリカーサー供給部23の温度は40℃に設定された。第2プリカーサー供給部24の温度は40℃、第3プリカーサー供給部25の温度は45℃に設定された。第1配管P1、第2配管P2、第3配管P3の温度は170℃に設定された。配管P1からP3以外のすべての配管の温度は、200℃に設定された。酸素ガス、及びパージガスの流量は、50ml/minに設定された。マニュアルバルブMV1からMV3は常時開放されており、補助ガス供給部27,29,31からの補助ガスの流量は、50ml/minに設定された。ニードルバルブNVの開度は、50%であった。
【0279】
図3Dに示された工程SS1の前に、以下の準備工程が実行された。
【0280】
バルブV8が開かれ、約1800秒間パージガス供給部34からリアクタ22内へパージガスが供給され、バルブV8が閉じられた。ついで、バルブV7が開かれ、6秒間、酸素供給部33からリアクタ22内へ酸素ガスが供給され、バルブV7が閉じられた。その後、パージ工程が8秒間、行われた。準備工程の後、図3Dに示された繰り返しサイクルが、1000回行われた。XPS装置(Quamtera SXM;アルバック・ファイ株式会社製)を用いて、組成分析を行った結果、実施例3の組成式は、Mg2.5Zr0.9(PO3.62であった。
【0281】
[7-4.実施例4]
製膜中のリアクタ22内の温度を125℃にした点を除き、実施例3と同様の条件で、実施例4に係るジルコニウムを添加したリン酸マグネシウム膜が製造された。XPS装置を用いた組成分析の結果、実施例4の組成式は、Mg2.4Zr1.0(PO3.52であった。
【0282】
[7-5.リン酸マグネシウム膜及びジルコニウムを添加したリン酸マグネシウム膜の構造解析]
実施例1から4の固体電解質の結晶性を、X線回折(X-Ray Diffraction:XRD)により評価した。実施例1,2はガラス基板上、実施例3,4は熱酸化膜つきシリコン基板上に形成された固体電解質をサンプルとして用いた。XRD装置(SmartLab:株式会社リガク社製)を用いて、広角X線回折法のθ-2θ法によって、サンプルの構造を解析した。図13及び図14に示すように、実施例1から4の固体電解質は非晶質体であった。なお、図13のθ=20から30°付近に見られるブロードなピークは、石英基板に、図14のθ=45から55°付近のピークはシリコン基板に由来するものである。
【0283】
[7-6.イオン伝導率の測定]
実施例1から4に係るリン酸マグネシウム及びジルコニウムを添加したリン酸マグネシウム膜のイオン伝導率を、電気化学測定装置(Modulab; Solartrom Analytical社製)を用いて測定した。
【0284】
図15は、実施例1から4に係るリン酸マグネシウム膜及びジルコニウムを添加したリン酸マグネシウム膜のイオン伝導率の温度依存性を示す。黒丸が実施例1、白丸が実施例2、黒四角が実施例3、白四角が実施例4の測定結果を表す。図15に示されたように、成膜温度の低い実施例2及び実施例4の伝導度が高かった。この理由は次のように推察される。図13,14に示すように、実施例1から4に係るリン酸マグネシウム膜及びジルコニウムを添加したリン酸マグネシウム膜は、すべて非晶質構造であった。成膜温度が低い場合、より疎な膜が形成されており、このため、マグネシウムイオンが通る空間が確保され、マグネシウムイオンの伝導度が高くなったと考えられる。
【0285】
また、実施例2に係るリン酸マグネシウム膜及び実施例4に係るジルコニウムを添加したリン酸マグネシウム膜を比較した場合、低温領域では同程度のマグネシウムイオンの伝導度であったのに対し、高温領域では、実施例4に係るジルコニウムを添加したリン酸マグネシウム膜のマグネシウムイオンの伝導度が高かった。これは、500℃程度でリン酸マグネシウムの分解が始まるのに対し、リン酸マグネシウムにジルコニウムを添加することによって、固体電解質膜の熱安定性が向上し、この分解を抑制できたことに起因する。すなわち、リン酸マグネシウムにジルコニウムを添加することによって、リン酸マグネシウムの構造安定性が向上していることに起因している。
【産業上の利用可能性】
【0286】
本開示に係る固体電解質は、例えば、全固体二次電池を製造するのに有用である。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15