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特許7583418金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに炭素含有部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに炭素含有部材
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/18 20060101AFI20241107BHJP
   C01B 32/935 20170101ALI20241107BHJP
   C01B 32/942 20170101ALI20241107BHJP
   C07C 1/32 20060101ALI20241107BHJP
   C07C 11/24 20060101ALI20241107BHJP
   C25B 1/135 20210101ALI20241107BHJP
   C25B 1/14 20060101ALI20241107BHJP
   C25B 11/046 20210101ALI20241107BHJP
   C25D 11/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C25B1/18
C01B32/935
C01B32/942
C07C1/32
C07C11/24
C25B1/135
C25B1/14
C25B11/046
C25D11/00 301
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024048291
(22)【出願日】2024-03-25
(65)【公開番号】P2024152638
(43)【公開日】2024-10-25
【審査請求日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2023064934
(32)【優先日】2023-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 琢也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐太
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 崇
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 智弘
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第2952591(US,A)
【文献】中国特許出願公開第116288415(CN,A)
【文献】国際公開第2023/058619(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/058620(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/14,1/18
C25D11/00
C25C3/02-3/04
C01B32/935-32/942
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンと、炭酸イオンとを含む、第1溶融塩を調製すること、および、
前記第1溶融塩に電圧を印加して、第1電極に炭素を含む析出物を析出させて、第2電極を得ること、を含む、電極作製工程と、
前記第2電極を用いて、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第2金属イオンを含む第2溶融塩に、電圧を印加し、前記第2金属のカーバイドを含むカーバイド組成物を得ること、を含む、電解工程と、を備える、金属カーバイドの製造方法。
【請求項2】
前記第1電極は、遷移金属および遷移金属を含む合金よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項3】
前記第1電極は、鉄を含む合金を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項4】
前記第1電極が、SUS304を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項5】
前記第2溶融塩は、炭酸イオンを実質的に含まない、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項6】
前記電解工程では、前記第2溶融塩として、前記電極作製工程で使用された前記第1溶融塩をそのまま用いる、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項7】
前記第2溶融塩は、陰イオンとして、ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項8】
前記第1金属イオンと前記第2金属イオンとが同じである、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項9】
前記カーバイド組成物は、さらに、炭素、前記第2金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項10】
前記第2溶融塩は、前記第2金属イオンとして、ナトリウムイオン、リチウムイオンおよびカリウムイオンよりなる群から選択される少なくとも1種と、カルシウムイオンとを含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項11】
アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンと、二酸化炭素由来の炭酸イオンとを含む、第1溶融塩を調製すること、および、
前記第1溶融塩に電圧を印加して、第1電極に、炭素を含む析出物を析出させて、第2電極を得ること、を含む、電極作製工程と、
前記第2電極を用いて、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第2金属イオンを含む第2溶融塩に、電圧を印加し、前記第2金属のカーバイドを含むカーバイド組成物を得ること、を含む、電解工程と、
前記第2金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素を含むガスを得ること、を含む、ガス発生工程と、を備える、炭化水素の製造方法。
【請求項12】
前記炭化水素は、アセチレンである、請求項11に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項13】
前記ガスは、前記炭化水素としてアセチレンを含み、さらに、エチレン、エタン、メタン、メチルアセチレン、プロピレン、ブテンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項11または12に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項14】
基体と、
前記基体の少なくとも一部を覆う、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の第2金属のカーバイドを含む金属カーバイド層と、
前記金属カーバイド層の少なくとも一部を覆い、かつ、炭素を含み、前記第2金属カーバイドを実質的に含まないカーボン層と、を備える、炭素含有部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに炭素含有部材に関する。
【背景技術】
【0002】
アセチレンは、様々な有機化合物の原料として、工業的に重要な物質である。アセチレンは、通常、金属カーバイド(主に、カルシウムカーバイド)と水との反応により得られる。
【0003】
カルシウムカーバイドは、一般に、生石灰(酸化カルシウム)とコークスとの混合物を、電気炉内で高温に加熱することにより得られる(例えば、特許文献1)。特許文献2は、カルシウムカーバイドの製造に関し、コークスを予めブリケットにしてから生石灰と混合することを提案している。特許文献3は、塩化リチウムを溶融電解して得られる金属リチウムと、カーボンブラック等の炭素粉末とを反応させて、リチウムカーバイドを製造する方法を提案している。非特許文献1は、水酸化リチウムを溶融塩電解して得られた金属リチウムと、二酸化炭素等の炭素源とを反応させて、リチウムカーバイドを製造する方法を提案している。非特許文献2は、金属リチウムと炭素とを反応させて、リチウムカーバイドを製造する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-178412号公報
【文献】特開2018-35328号公報
【文献】特開平2-256626号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】McEnaney JM, Rohr BA, Nielander AC, Singh AR, King LA, Norskov JK, Jaramillo TF, “A cyclic electrochemical strategy to produce acetylene from CO2, CH4, or alternative carbon sources.”, Sustain Energy Fuels 4:2, 752-2759 (2020)
【文献】Uwe Ruschewitz, “Binary and ternary carbides of alkali and alkaline-earth metals”, Coordination Chemistry Reviews 244, 115-136 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属カーバイドを製造するには、通常、原料を2000℃以上に加熱する必要がある。そのため、エネルギー効率が低いうえ、大量の二酸化炭素が生成するという問題がある。また、特許文献1~3では、金属カーバイドの炭素源として炭素そのものを使用している。非特許文献1には、炭素源として二酸化炭素を用いた場合、リチウムカーバイドの収率は計算上20%を超えないが、炭素源として炭素を用いることでリチウムカーバイドの収率を上げることができると記載されている。しかしながら、これを裏付ける実験データは示されていない。非特許文献2には、炭素源としてアモルファスカーボンあるいはグラファイトを用いることが記載されているが、結晶性のリチウムカーバイドを生成するには、800℃から900℃の金属リチウムの蒸気を接触させるか、あるいは、概ね3500℃以上アーク溶融炉内で金属リチウムと接触させる必要がある。
【0007】
本開示は、(例えば、800℃以下の)比較的低温下で、速やかに反応が進行し、効率よく金属カーバイドを得ることのできる製造方法を提供することを目的とする。本開示はさらに、得られた金属カーバイドから、炭化水素を製造する方法を提供する。加えて、本開示は、金属カーバイドを担持した炭素含有部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、下記の態様を含む。
[1]アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンと、炭酸イオンとを含む、第1溶融塩を調製すること、および、
前記第1溶融塩に電圧を印加して、第1電極に炭素を含む析出物を析出させて、第2電極を得ること、を含む、電極作製工程と、
前記第2電極を用いて、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第2金属イオンを含む第2溶融塩に、電圧を印加し、前記第2金属のカーバイドを含むカーバイド組成物を得ること、を含む、電解工程と、を備える、金属カーバイドの製造方法。
【0009】
[2]前記第1電極は、遷移金属および遷移金属を含む合金よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0010】
[3]前記第1電極は、鉄を含む合金を含む、上記[1]または[2]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0011】
[4]前記第1電極が、SUS304を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0012】
[5]前記第2溶融塩は、炭酸イオンを実質的に含まない、上記[1]~[4]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0013】
[6]前記電解工程では、前記第2溶融塩として、前記電極作製工程で使用された前記第1溶融塩をそのまま用いる、上記[1]~[5]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0014】
[7]前記第2溶融塩は、陰イオンとして、ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0015】
[8]前記第1金属イオンと前記第2金属イオンとが同じである、上記[1]~[7]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0016】
[9]前記カーバイド組成物は、さらに、炭素、前記第2金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0017】
[10]前記第2溶融塩は、前記第2金属イオンとして、ナトリウムイオン、リチウムイオンおよびカリウムイオンよりなる群から選択される少なくとも1種と、カルシウムイオンとを含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0018】
[11]アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンと、二酸化炭素由来の炭酸イオンとを含む、第1溶融塩を調製すること、および、
前記第1溶融塩に電圧を印加して、第1電極に、炭素を含む析出物を析出させて、第2電極を得ること、を含む、電極作製工程と、
前記第2電極を用いて、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第2金属イオンを含む第2溶融塩に、電圧を印加し、前記第2金属のカーバイドを含むカーバイド組成物を得ること、を含む、電解工程と、
前記第2金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素を含むガスを得ること、を含む、ガス発生工程と、を備える、炭化水素の製造方法。
【0019】
[12]前記炭化水素は、アセチレンである、上記[11]に記載の炭化水素の製造方法。
【0020】
[13]前記ガスは、前記炭化水素としてアセチレンを含み、さらに、エチレン、エタン、メタン、メチルアセチレン、プロピレン、ブテンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[11]または[12]に記載の炭化水素の製造方法。
【0021】
[14]基体と、
前記基体に担持された、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の第2金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物と、を含む、炭素含有部材。
【0022】
[15]基体と、
前記基体の少なくとも一部を覆う、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の第2金属のカーバイドを含む金属カーバイド層と、
前記金属カーバイド層の少なくとも一部を覆い、かつ、炭素を含み、前記第2金属カーバイドを実質的に含まないカーボン層と、を備える、炭素含有部材。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、比較的低温下で速やかに反応が進行し、効率よく金属カーバイドを得ることのできる製造方法、得られた金属カーバイドから炭化水素を製造する方法、ならびに、金属カーバイドを担持した炭素含有部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示に係る金属カーバイドの製造方法を示すフローチャートである。
図2】本開示に係る炭化水素の製造方法を示すフローチャートである。
図3A】実施例6-1の電解工程前の作用極の外観を示す写真である。
図3B】実施例6-1の電解工程後の作用極の外観を示す写真である。
図3C】実施例6-1の電解工程後の作用極に析出した析出物の断面写真である。
図4A】実施例6-2の電解工程後の作用極の外観を示す写真である。
図4B】実施例6-2の電解工程後の作用極に析出した析出物の断面を、顕微ラマン分光分析装置を用いて観察した光学顕微鏡写真である。
図4C】実施例6-2で得られた析出物のラマン分光分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
第1実施形態
本実施形態の金属カーバイドの製造方法では、まず、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンと、二酸化炭素由来の炭酸イオンを含む溶融塩に電圧を印加して、SUS304を材料とする第1電極に炭素を含む第1析出物を析出させて、第2電極を得る(電極作製工程)。次いで、この第2電極に析出した炭素を炭素源として、電極作製工程で使用された第1溶融塩をそのまま用いた電解により、金属カーバイドを得る(電解工程)。
【0026】
これにより、800℃以下の比較的低温下で、効率よく金属カーバイドを得ることができる。さらに、地球温暖化の原因と言われるCOを、炭素源として有効活用することができる。加えて、電極作製工程で使用された第1溶融塩をそのまま、次工程の電解に用いるため、すなわち、電極作製工程と電解工程とが同じ電解浴で行われるため、生産性も高い。
【0027】
本実施形態は、上記の方法により得られる金属カーバイドを加水分解して、炭化水素を得ることを包含する。この方法によれば、効率良く高純度の炭化水素を得ることができる。
【0028】
本実施形態は、金属カーバイドを担持した炭素含有部材を包含する。この炭素含有部材は、炭化水素の製造に利用できる。
【0029】
[金属カーバイドの製造方法]
本開示に係る金属カーバイドの製造方法は、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンと、炭酸イオンとを含む、第1溶融塩を調製すること、および、第1溶融塩に電圧を印加して、第1電極に炭素を含む析出物を析出させて、第2電極を得ること、を含む、電極作製工程と、第2電極を用いて、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第2金属イオンを含む第2溶融塩に、電圧を印加し、第2金属のカーバイドを含むカーバイド組成物を得ること、を含む、電解工程と、を備える。図1は、本開示に係る金属カーバイドの製造方法を示すフローチャートである。
【0030】
(I)電極作製工程
電極作製工程では、第1電極に炭素含む析出物を析出させて、第2電極を作製する。第2電極上の炭素は、電解工程において、金属カーバイド生成のための炭素源として使用される。炭素を含む析出物は、電位の低い電極(陰極)の表面に析出する。以下、第1電極を「陰極」、他方の電極を「陽極」と称する場合がある。
【0031】
電極作製工程は、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンと、炭酸イオンとを含む、第1溶融塩を調製すること、および、第1溶融塩に電圧を印加して、第1電極に炭素を含む第1析出物を析出させて、第2電極を得ること、を含む。
【0032】
(i)第1溶融塩の調製(S11)
第1金属イオンおよび二酸化炭素由来の炭酸イオンを含む第1溶融塩を調製する。第1金属イオンは、第1金属の塩が電離することにより生成する。炭酸イオンは、電解浴に二酸化炭素を含有するガスを添加することにより生成する。第1溶融塩において、第1金属塩および二酸化炭素のすべてが電離していることは要さない。本実施形態では、便宜上、電解浴に含まれる第1金属の塩を、それが完全に電離している場合も含め、第1金属塩と称し、第1金属塩および二酸化炭素により調製される溶融塩を、これらが完全に電離していない場合も含め、第1溶融塩と称する。
【0033】
(第1金属イオン)
第1金属イオンは、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種である。アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンは、電解質として優れた機能を有する。
【0034】
アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)およびフランシウム(Fr)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。アルカリ金属は、Li、Na、K、RbおよびCsよりなる群から選択される少なくとも1つであってよい。アルカリ金属は、特に、Li、Na、KおよびCsよりなる群から選択される少なくとも1つであってよい。
【0035】
アルカリ土類金属としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)およびラジウム(Ra)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。アルカリ土類金属は、Mg、Ca、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1つであってよい。
【0036】
(他の金属イオン)
第1溶融塩には、第1金属イオン以外の他の金属イオン(第3金属イオン)が含まれてよい。第3金属イオンは、その塩が800℃以下の温度で電離することが好ましい。
【0037】
第3金属としては、例えば、希土類元素、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、金(Au)、銀(Ag)および銅(Cu)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。希土類元素としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド元素およびアクチノイド元素が挙げられる。
【0038】
(二酸化炭素由来の炭酸イオン)
炭酸イオンは、電解浴に二酸化炭素を含有するガスを添加することにより生成する。
二酸化炭素を含有するガス(以下、COガスと称する場合がある。)は、気体の状態で液体の状態の第1金属塩と接触させられる。COガスを電解浴の気相部に吹き込んで、第1金属塩の液面と接触させてもよいし、COガスを第1金属塩中に吹き込んでもよい。COガスは、COと不活性ガス(典型的には、アルゴン)との混合ガスであってよい。電圧印加前に、十分な量のCOガスを第1金属塩に添加してもよいし、電圧を印加しながら、COガスを第1金属塩に添加してもよい。
【0039】
COガスの吹き込み量は、第1金属イオンの量に応じて適宜設定すればよい。COガスの吹き込み量は、例えば、ガスの第1金属塩中への吸収効率を考慮すると、第1金属塩の当量以上である。
【0040】
第1金属塩へのCOの溶解が促進される点で、吹き込まれるCOガスの気泡径は小さい方が望ましい。COガスの気泡径は、10mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。COガスの気泡径は、100nm以上であってよく、1μm以上であってよい。COガスの気泡径は、例えば、石英ガラスや高純度アルミナ製の多孔質材料を通じてバブリングしたり、撹拌機によって撹拌したり、振動を加えたり、超音波を照射したりすることにより、微細化が可能である。
【0041】
COガスは、予め第1金属塩の温度近くまで予熱しておくことが好ましい。予熱により、第1金属塩の温度が低下して凝固してしまうことが抑制され易くなる。
【0042】
(他の陰イオン)
第1溶融塩は、炭酸イオン以外の陰イオンを含み得る。他の陰イオンとしては、例えば、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、カルボン酸イオンおよび酸化物イオン(O2-)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。他の陰イオンとして、第1金属のハロゲン化物由来のハロゲン化物イオンを含んでいてよい。第1金属のハロゲン化物は、溶融塩として一般的に使用され、電解質として優れている。
【0043】
(ii)電圧の印加(S12)
続いて、第1溶融塩に電圧を印加する。これにより、陰極上においてCO 2-が還元されて、炭素を含む析出物が得られる(式1)。当該析出物に含まれる炭素は、多結晶体であり得、高結晶化度を有する多結晶体(例えば、カーボンナノチューブ様の多結晶体)であり得る。陰極上には、第1金属のカーバイドも析出し得る。陽極上ではO2-が酸化されて酸素が発生する(式2)。
(式1) 2CO 2-+8e → 2C+6O2-
(式2) 2O2- → O+4e
【0044】
第1金属がCaである場合、陰極には、カルシウムカーバイド(CaC)が析出し得る(式3)。陰極上には、さらに、金属カルシウムが生成し得る(式4)。この副反応で生じた金属リチウムの一部もしくは全部は、さらに反応して、カルシウムカーバイドになり得る(式5)。あるいは、金属カルシウムは、第1溶融塩中に物理溶解している二酸化炭素と反応して、カルシウムカーバイドになり得る(式6)。炭素の微粉が生成し、溶融塩が黒濁する場合もある(式7)。上記(式6)および(式7)で生成したCaOは、直ちに溶融塩に溶解し、カルシウムイオンと酸化物イオンを生成する(式8)。
(式3) Ca2++2CO 2-+10e → CaC+6O2-
(式4) Ca2++2e → Ca
(式5) Ca+2C → CaC
(式6) 2CO+5Ca → CaC+4CaO
(式7) 2Ca+CO → C+2CaO
(式8) CaO → Ca2++O2-
【0045】
第1金属がNa、KまたはLiの場合も、同様の反応により、炭素とともに、ナトリウムカーバイド(Na)、カリウムカーバイド(K)またはリチウムカーバイド(LiC)が析出する。その他の第1金属の場合も同様である。
【0046】
陽極上では、O2-が酸化されて酸素が発生する。陽極上で発生した酸素は気相中へと排出される。この酸素ガスを回収し、他の用途に利用することができる。
【0047】
電圧の印加は、第1溶融塩の溶融状態が維持できる温度で行われる。電解浴の温度は、例えば、350℃以上であってよく、400℃以上であってよい。電解浴の温度は、例えば、800℃以下であってよく、700℃以下であってよい。本開示によれば、このような比較的低い温度で反応が進行するため、エネルギー効率が高い。
【0048】
印加電圧は、第1電極(陰極)電位が、炭素が析出する電位(Ec)以下(卑)になるように、設定される。電流値は、COの単位時間当たりの供給量にあわせて適宜設定すればよい。電流値は、例えば、第1溶融塩中のCO 2-濃度が減少しないように、陰極で単位時間当たりに消費されるCO 2-より、第1溶融塩中のCOとO との反応により生成するCO 2-が多くなるように、設定される。
【0049】
本実施形態では、SUS304から形成された陰極を用いる。これにより、ファラデー効率が非常に向上する。また、SUS304は比較的入手しやすく、安価であり、さらに耐熱性に優れる点でも望ましい。SUS304は、オーステナイト系のステンレス鋼であり、その成分はJIS G 4303等に記載されている。
【0050】
陰極の材質はSUS304に限定されない。陰極の材料としては、例えばAg、Cu、Ni、Pb、Hg、Tl、Bi、In、Sn、Cd、Au、Zn、Ga、Ge、Fe、Pt、Pd、Ru、Ti、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Zrおよびこれらの合金等の金属が挙げられる。合金として、具体的には、SUS430等のフェライト系ステンレスが挙げられる。
【0051】
なかでも、ファラデー効率の観点から、陰極は、遷移金属および遷移金属を含む合金よりなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。遷移金属のなかでも、Ni、Fe、Mo、Tiであってよい。陰極は、特に、鉄の合金(典型的には、ステンレス鋼)を含んでよく、鉄の合金から形成されてよい。陰極は、SUS304を含んでいてよく、SUS304から形成されていてよい。
【0052】
陽極の材質は特に限定されない。陽極の材料としては、例えば、Pt、導電性金属酸化物、グラッシーカーボン、天然黒鉛、等方性黒鉛、熱分解グラファイト、プラスチックフォームドカーボン、ボロンドープダイヤモンドが挙げられる。導電性金属酸化物製の電極としては、例えば、ITO電極と呼ばれるインジウムとスズの混合酸化物をガラス上に製膜した透明導電性電極、DSA電極(デノラ・ペルメレック電極株式会社商標)と呼ばれるルテニウム、イリジウム等の白金族の金属の酸化物をチタン等の基材上に成膜した電極、La1-xSrFeO3-δ(0≦x≦0.5(特には、0.1≦x≦0.5)、0≦δ≦0.5)等の組成を有する導電性金属酸化物電極等が挙げられる。なかでも、酸化反応による消耗が起こり難い点で、導電性金属酸化物系の陽極が好ましい。
【0053】
電極作製工程により、炭素を含む析出物を担持した第2電極が得られる。
【0054】
(II)電解工程(S2)
電解工程では、電極作製工程で得られた第2電極を用いて、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第2金属イオンを含む第2溶融塩の電解を行う。これにより、第2電極に担持された炭素を炭素源として、第2金属のカーバイドを含むカーバイド組成物が得られる。
【0055】
(第2金属イオン)
第2金属イオンは、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種である。第2金属イオンは、目的とする金属カーバイドの金属源である。アルカリ金属およびアルカリ土類金属のカーバイドは、アセチリドとも称されるように、加水分解によってアセチレンを生成し易く、工業的価値が高い。加えて、上記の通り、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンは、電解質として優れた機能を有する。
【0056】
工業的価値の点で、第2金属イオンは、アルカリ土類金属イオンを含んでいてよく、Caイオンを含んでいてよい。第2金属イオンは、アルカリ土類金属イオンとともに、アルカリ金属イオンを含んでいてよい。アルカリ金属イオンは、アルカリ土類金属塩を電離し易くして、アルカリ土類金属イオンの生成を促進するとともに、溶融塩の融点を下げ、より低い温度での電解を可能とするなど、電解質として優れた機能を有するためである。第1金属イオンは、アルカリ金属イオンとしてLi、Na、K、RbおよびCsのイオンよりなる群から選択される少なくとも1種と、アルカリ土類金属イオンとしてBe、Mg、Ca、Sr、Baのイオンよりなる群から選択される少なくとも1種とを含んでいてよい。特に、Li、NaおよびKのイオンの少なくとも1種と、Caイオンとを含んでいてよい。
【0057】
第2溶融塩に含まれる第2金属イオンの量は特に限定されない。第2金属イオンは、目的の金属カーバイドの金属源であるため、十分な量が含まれていることが望ましい。第2金属イオンのモル数は、電解浴中の陽イオンの総モル数に対して、1モル%以上であってよく、2モル%以上であってよく、3モル%以上であってよい。第2金属イオンのモル数は、電解浴中の陽イオンの総モル数に対して、20モル%以下であってよく、15モル%以下であってよく、10モル%以下であってよい。一態様において、第2金属イオンのモル数は、電解浴中の陽イオンの総モル数に対して、1モル%以上20モル%以下である。
【0058】
本実施形態のように、電極作製工程で使用された第1溶融塩をそのまま第2溶融塩として使用する場合、電解工程の前に、電解浴に第2金属イオンをさらに添加してもよい。
【0059】
(陰イオン)
第2金属イオンのカウンターイオン(陰イオン)としては、例えば、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、カルボン酸イオンおよび酸化物イオン(O2-)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0060】
第2溶融塩は、陰イオンとして、ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンの少なくとも一方を含んでいてよい。なかでも、第2溶融塩は、ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンの双方を含んでいてよい。第2金属の酸化物は入手し易い一方で、その溶融温度が高くなる傾向にある。第2金属のハロゲン化物は、溶融塩として一般的に使用される。ただし、ハロゲン化物イオンによって、陽極において酸化力の高い(腐食の原因になり得る)ハロゲンガスが生成し得る。ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンの双方を含む場合、ハロゲンガスの発生を抑制しつつ、溶融塩の溶融温度を低下することができる。
【0061】
ハロゲンとしては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)およびアスタチン(At)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。ハロゲンとしては、F、Cl、BrおよびIよりなる群から選択される少なくとも1つであってよく、特に、Fおよび/またはClであってよい。
【0062】
第2溶融塩は、炭酸イオン(CO 2-)を実質的に含まないことが望ましい。第2溶融塩が炭酸イオンを含む場合、第2金属の放電により生じた電子と反応して(式7)、炭素が生成し易くなる。そのため、第2金属カーバイドの収率が低下する。第2溶融塩が炭酸イオンを実質的に含まないことにより、このような副反応が抑制されて、第2金属カーバイドの収率が高くなる。
(式7) 2CO 2-+8e → 2C+6O2-
【0063】
「炭酸イオンを実質的に含まない」は、電解反応に関与しない程度の炭酸イオンの存在を許容する。第2溶融塩は、例えば、1.0モル%以下程度の炭酸イオンを含んでいてよい。第2溶融塩における炭酸イオン濃度は、0.5モル%以下であってよく、0.3モル%以下であってよく、0モル%であってよい。
【0064】
アルカリ土類金属イオンを含む第2金属塩として、具体的には、CaO、CaCl、CaF、CaBr、CaI、CaH、Caが挙げられる。アルカリ金属イオンを含む第2金属塩として、具体的には、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、CsIが挙げられる。
【0065】
第2金属イオンは第1金属イオンと同じであってよく、異なっていてよい。第1金属イオンと第2金属イオンとは、同じであってよい。本実施形態では、電解工程において、電極作製工程で使用された第1溶融塩をそのまま第2溶融塩として用いるため、第2金属イオンは、第1金属イオンと同種の金属イオンを含み得る。
【0066】
他方の電極(陽極)の材質は特に限定されない。陽極の材料としては、電極作製工程で用いられるのと同様のものが挙げられる。本実施形態では、電極作製工程で用いられた陽極を、そのまま電解工程で用いてもよい。
【0067】
第2溶融塩に電圧を印加すると、陰極(第2電極)を構成する炭素上において第2金属イオンが還元されて第2金属が生成し、それがただちに陰極(第2電極)を構成する炭素と反応することにより、第2金属カーバイドを含む組成物(金属カーバイド組成物)が得られる。第2溶融塩中で電離していなかった第2金属塩が存在する場合、印加によって、第2金属塩の電離も促進され得る。
【0068】
第2金属がCaの場合、カルシウムカーバイド(CaC)が生成する(式8)。陰極上には、副反応により、さらに金属カルシウムが生成し得る(式9)。この副反応で生じた金属カルシウムの一部もしくは全部は、さらに反応して、カルシウムカーバイドになり得る。
(式8) Ca2++2C +2e → CaC
(式9) Ca2++2e → Ca
【0069】
電圧の印加は、溶融塩の溶融状態が維持できる温度で行われる。電解浴の温度は、例えば、350℃以上であってよく、400℃以上であってよい。電解浴の温度は、例えば、800℃以下であってよく、700℃以下であってよい。本開示によれば、このような比較的低い温度で反応が進行するため、エネルギー効率が高い。
【0070】
印加電圧は、陰極電位が、陰極上で第2金属が析出する電位(Emc)よりも低い(卑である)電位になるように、設定される。これにより、第2金属カーバイドの選択性がより向上し得る。陰極の電位が過度に高い(貴である)と、目的の第2金属カーバイドの生成量は減少し易い。陰極の電位が過度に低い(卑である)と、第2金属カーバイドは生成するものの、溶融塩中に含まれる金属のうち、当該溶融塩中の酸化還元電位が最も貴な金属が主として析出する。溶融塩中に当該溶融塩中の酸化還元電位が近い複数の金属が存在する場合は、複数金属の合金が析出することもある。電位Emcは、使用する溶融塩中で、使用する金属電極、例えばSUS304電極を用いて、サイクリック・ボルタンメトリー測定を行って決定できる。
【0071】
定電流電解を行う場合の設定電流値は、電解中の陰極電位が上記記載の電位範囲となるように、適宜設定すればよい。
【0072】
金属カーバイド組成物は、通常、陰極(厳密には、陰極として用いられていた第1(第2)電極由来の基体)に担持された状態で得られる。第2金属カーバイドの溶解性に優れる溶融塩を用いる場合、第2金属カーバイドは、その一部または全部が溶融塩に溶解した状態で得られる。溶融塩に予め第2金属カーバイドを溶解させておくと、電解によって得られる第2金属カーバイドは、陰極上に析出され易くなって、第1電極由来の基体に担持された状態で得られ易くなる。
【0073】
金属カーバイド組成物は、第2金属のカーバイドを含む。第2金属カーバイドは、金属カーバイド組成物の主成分である。主成分とは、金属カーバイド組成物の全質量の50質量%以上を占める成分である。第2金属カーバイドの含有割合は、金属カーバイド組成物の質量の80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよい。第2金属カーバイドの含有割合は、金属カーバイド組成物の質量の99.9質量%以下であってよく、99質量%以下であってよい。一態様において、第2金属カーバイドの含有割合は、金属カーバイド組成物の質量の80質量%以上99.9質量%以下である。
【0074】
金属カーバイド組成物は、副生成物として、炭素、第2金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物よりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。金属カーバイド組成物は、さらに、第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。
【0075】
金属カーバイド組成物は、その他、固化した電解質(他の金属塩)、装置を構成する材料のハロゲン化物、酸化物、金属、およびこれらの水和物よりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。
【0076】
金属カーバイド組成物に含まれる炭素は、例えば、黒鉛、アモルファスカーボン、ガラス状カーボン、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、グラフェン等のナノカーボン材料よりなる群から選択される少なくとも1つである。上記の方法の電解を引き続き行うことにより、金属カーバイド組成物に含まれる炭素から、さらに第2金属カーバイドを得ることができる。この場合、収率はさらに高まる。
【0077】
第2金属カーバイド、第2金属の単体、第2金属を含む化合物およびその他の副生成物の存在確認およびそれらの定量は、例えば、組成物のラマン分光分析およびX線回折(XRD)分析により行うことができる。
【0078】
[炭素含有部材]
本開示は、基体と、当該基体に担持された、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の第2金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物と、を含む、炭素含有部材を包含する。本開示に係る炭素含有部材は、炭化水素の製造に利用することができる。
【0079】
炭素含有部材は、例えば、上記の金属カーバイドの製造方法により得られる。すなわち、炭素含有部材は、上記の第2溶融塩の電解に用いられた第2電極に相当し得る。この場合、基体は、上記の第2電極に由来している
【0080】
金属カーバイド組成物は、基体の表面の少なくとも一部に担持されていればよい。基体の表面は、典型的には、第2電極の第2金属イオンと接触していた部分に対応する。担持されているとは、基体の表面の少なくとも一部が金属カーバイド組成物によって被覆されている状態を含む。
【0081】
炭素含有部材の中心(または重心)を通る断面に対して、エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析を行うと、当該断面に第2金属および炭素が検出される。基体(第2電極)は通常、第2金属を含有しないため、第2金属および炭素の検出は、第2金属カーバイドの存在を示しているとみて差し支えない。
【0082】
[炭化水素の製造方法]
本開示は、第2金属カーバイドから、炭化水素を製造する方法を包含する。すなわち、本開示に係る炭化水素の製造方法は、上記の電極作製工程および電解工程と、第2金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素を含むガスを得ることと、を含む。図2は、本開示に係る炭化水素の製造方法を示すフローチャートである。
【0083】
(1)電極作製工程(S11,S12)
上記の金属カーバイドの製造方法における電極作製工程(S11およびS12)と同様にして、第2電極を作製する。
【0084】
(2)電解工程(S2)
上記の金属カーバイドの製造方法における電解工程と同様にして、第2溶融塩に電圧を印加する。これにより、第2金属カーバイドを含む組成物が得られる。
【0085】
(3)金属カーバイドの加水分解(S3)
次に、第2金属カーバイドに水を接触させて、加水分解する。これにより、目的とする炭化水素を含むガスが得られる。本開示によれば、炭化水素の生成に関するファラデー効率eが向上する。炭化水素は、通常、水への溶解度が低い。そのため、生成した炭化水素は速やかに気相中へと排出され、回収される。
【0086】
金属のカーバイド組成物から第2金属カーバイドを単離して加水分解してもよい。単離は、例えば、金属のカーバイド組成物を粉砕し、比重差を利用する方法により実施される。あるいは、金属のカーバイド組成物をそのまま加水分解してもよい。例えば、金属カーバイド組成物が析出した電極(本開示に係る「炭素含有部材」であり得る。)をそのまま水に接触させる。
【0087】
得られる炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン(C)、メチルアセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが挙げられる。単離した第1金属カーバイドを使用する場合や、組成物に含まれる副生成物量(特に、金属の単体)が少ない場合、主成分としては、アセチレンが得られる。主成分とは、回収されるガスの全質量の50質量%以上を占める成分である。アセチレンは、工業的に重要な炭化水素である。
【0088】
得られるガスには、炭化水素の他、副生成物として、水蒸気、水素、窒素、酸素が含まれ得る。副生成物量は、回収されるガスの10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。副生成物量は、回収されるガスの0.0001質量%以上であってよく、0.001質量%以上であってよい。一態様において、副生成物量は、回収されるガスの0.0001質量%以上1質量%以下である。
【0089】
得られるガスは、炭化水素としてアセチレンを含み、さらに、エチレン、エタン、メタン、メチルアセチレン、プロピレン、ブテンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種を含み得る。
【0090】
炭化水素および副生成物の存在確認およびそれらの定量は、例えば、回収されるガスのガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS分析)、ガスセルを備えたフーリエ変換式赤外吸収分光分析(FT-IR分析)、紫外―可視吸収分光分析(UV-Vis分析)により行うことができる。
【0091】
組成物に接触させる水の量は、組成物の質量に応じて適宜設定される。上記の水の量は、例えば、組成物中に含まれる金属カーバイドおよび金属の加水分解に必要な量以上である。加えて、組成物全体が浸漬でき、加水分解時の発熱による蒸発を考慮した量の水を使用することが望ましい。
【0092】
第2金属カーバイドの加水分解により、炭化水素とともに、第2金属の水酸化物も生成する。例えば、カルシウムカーバイドを加水分解すると、アセチレンとともに水酸化カルシウムが生成する(式10)。
(式10) CaC+2HO → C+Ca(OH)
【0093】
第2実施形態
本実施形態は、第1実施形態とは、電極作製工程と電解工程とで、用いた電解浴を変えた点で相違する。この相違点を以下に説明する。本実施形態において、金属カーバイドの製造方法のその他の構成は第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。本実施形態において、炭化水素の製造方法、および炭素含有部材の構成は第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
【0094】
本実施形態では、電極作製工程で使用された第1溶融塩とは別に調製された第2溶融塩を、電解工程に用いる。電極作製工程で用いられた第1溶融塩には、炭素源であった炭酸イオンが残存している可能性がある。本実施形態では、炭酸イオンを実質的に含まない第2溶融塩を準備することができるため、副反応が抑制されて、第2金属カーバイドの収率およびファラデー効率がより向上し得る。
【0095】
第3実施形態
本実施形態は、第1実施形態とは、第1電極の材質が相違する。この相違点を以下に説明する。本実施形態において、金属カーバイドの製造方法のその他の構成は第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。本実施形態において、炭化水素の製造方法、および炭素含有部材の構成は第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
【0096】
本実施形態では、Fe板を第1電極として用いる。この場合、基体と、当該基体の少なくとも一部を覆う、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の第2金属のカーバイドを含む金属カーバイド層と、金属カーバイド層の少なくとも一部を覆い、かつ、炭素を含み、第2金属カーバイドを実質的に含まないカーボン層と、を備える炭素含有部材が形成され得る。このような炭素含有部材は、湿気を含む大気中で保管してもカーバイドの分解を抑制することができる。第2金属カーバイドの有無は、例えば、ラマン分光分析により確認することができる。
【0097】
「第2金属カーバイドを実質的に含まない」は、炭化水素の発生に寄与しない程度の第2金属カーバイドの存在を許容する。カーボン層は、例えば、10,000ppm以下程度の第2金属カーバイドを含んでいてよい。カーボン層における第2金属カーバイド濃度は、1000ppm以下であってよく、500ppm以下であってよく、0ppmであってよい。
【0098】
以上、本開示の実施形態について詳述したが、本開示はこれらに限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。
【0099】
上記の実施形態では、炭酸イオン源として二酸化炭素を用いたが、これに限定されない。炭酸イオン源は、任意の金属の炭酸塩であってよい。第1金属の炭酸塩を用いると、電離によって、第1金属イオンと炭酸イオンとが生じる。第1金属の炭酸塩は、例えば、第1金属の水酸化物と二酸化炭素とを反応させることによって合成できる。
【0100】
上記の実施形態では、第1電極(陰極)としてSUS304またはFeからなる電極を用いたが、これに限定されない。第1電極は、その他の金属材料を含んでいてよく、カーボン材料から形成されていてよい。第1電極は、また、グラッシーカーボン、天然黒鉛、等方性黒鉛、熱分解グラファイト、プラスチックフォームドカーボンおよび導電性ダイヤモンド等のカーボン材料を含んでいてよく、カーボン材料から形成されていてよい。
【0101】
第1実施形態では、得られる炭素含有部材は、基体と、当該基体に担持された第2金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物とを備えているがこれに限定されない。第1実施形態で示す方法により得られる炭素含有部材は、基体と、金属カーバイド層と、カーボン層とを備えていてよい。
【0102】
第3実施形態では、得られる炭素含有部材は、基体と、金属カーバイド層と、カーボン層とを備えているがこれに限定されない。第3実施形態で示す方法により得られる炭素含有部材は、基体と、当該基体に担持された第2金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物とを備えていてよい。
【実施例
【0103】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0104】
[実施例1-1]
(1)電極作製工程
共晶組成のLiCl、KCl、CaCl(LiCl/KCl/CaCl=52.3モル%/11.6モル%/36.1モル%)に対し、3.0モル%のCaOを混合し(すなわち、LiCl/KCl/CaCl/CaO=50.8モル%/11.3モル%/35.0モル%/2.9モル%)、200℃、100Pa以下で24時間以上真空乾燥した。この混合塩を石英製容器にそれぞれ収めて電気炉にセットし、450℃に加熱した。このようにして、LiCl-KCl-CaCl-CaOの溶融塩を得た。
【0105】
次いで、上記容器の蓋に、作用極(1.0cm×1.0cm、SUS304)、対極(白金コイル)および参照極(Ag/Ag)を取り付けて、この蓋で容器を密閉した。容器内の450℃の溶融塩に、COを流量100mL/分で30分間以上吹き込んだ。続いて、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、参照極に対する作用極の電位を0.9Vに維持しながら、30分間電圧を印加した。作用極上に析出物が析出していることを確認した。実験操作は、すべて高純度アルゴン雰囲気を保持したグローブボックス内で行った。
【0106】
(2)電解工程
続いて、同じ電解浴および電極を用いて、電解を行った。具体的には、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、参照極に対する作用極の電位を0.3Vに維持しながら、30分間電圧を印加した。作用極上に析出物が析出していることを確認した。実験操作は、すべて高純度アルゴン雰囲気を保持したグローブボックス内で行った。作用極の電位は、参照極(Ag/Ag)と陰極間の電位を測定し、Li-Ca合金析出電位を基準として較正した値である。
【0107】
(3)炭化水素の製造
析出物を密閉した試験管に収めた。この試験管に、常温下(23℃)で、純水を少量ずつ加え、析出物の加水分解を行った。加えた水の全量は2.5mlであった。試験管内で発泡が生じているのを確認した後、発泡が見られなくなるまで試験管を静置した。続いて、ガスタイトシリンジを用いて、試験管内のガス100μl(マイクロリットル)を採取した。
【0108】
ガスクロマトグラフ(GC)装置を用いて、得られたガスに対してGC-MS分析を行って、主成分として、Cが生成されていることを確認した。さらに、メタン、エタン、水素が副生していることを確認した。その他、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンを含有していた。各成分の生成量も、併せて確認した。回収したガスに占めるCの質量割合は50質量%より十分多かった。
【0109】
ガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率は、約2.2%と算出された。Cガスが生成していることから、析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。炭化水素ガス生成に関するファラデー効率が高いほど、金属カーバイド生成に関するファラデー効率も高いといえる。
【0110】
[実施例1-2]
参照極に対する作用極の電位を、電極作製工程では0.6Vに維持し、電解工程においては0.1Vに維持したこと以外は、実施例1-1と同様にして電解および加水分解を行った。
【0111】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。
ガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率は、約9.1%と算出された。Cガスが生成していることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0112】
【表1】
【0113】
[実施例2-1]
参照極に対する作用極の電位を、電極作製工程では0.3Vに維持し、電解工程においては0.1Vに維持した。また、電解工程において、電極は変更せずに、別途調製された電解浴を用いた。これら以外は、実施例1-1と同様にして、電解および加水分解を行った。電解工程で用いられた電解浴は、実施例1-1と同様にして調製した。
【0114】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。
ガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率は、約21.5%と算出された。Cガスが生成していることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0115】
[実施例2-2]
参照極に対する作用極の電位を、電極作製工程では0.1Vに維持し、電解工程においては0.1Vに維持したこと以外は、実施例2-1と同様にして電解および加水分解を行った。
【0116】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。
ガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率は、約34.6%と算出された。Cガスが生成していることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0117】
【表2】
【0118】
[実施例3-1]
参照極に対する作用極の電位を、電極作製工程および電解工程において0.3Vに維持した。また、電解工程をCO雰囲気下で行った。これら以外は、実施例1-1と同様にして、電解および加水分解を行った。
【0119】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。
ガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率は、約8.4%と算出された。Cガスが生成していることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0120】
[実施例3-2]
参照極に対する作用極の電位を、電極作製工程および電解工程において0.1Vに維持したこと以外は、実施例3-1と同様にして電解および加水分解を行った。
【0121】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。
ガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率は、約10.3%と算出された。Cガスが生成していることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0122】
【表3】
【0123】
[実施例4-1]
参照極に対する作用極の電位を、電極作製工程では0.3Vに維持し、電解工程においては0.1Vに維持した。また、電極作製工程の後、電極を一旦電解浴から取り出し、30分後、再び同じ浴に入れて電解工程を行ったこと以外は、実施例3-1と同様にして、電解および加水分解を行った。
【0124】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。
ガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率は、約4.5%と算出された。Cガスが生成していることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0125】
[実施例4-2]
参照極に対する作用極の電位を、電極作製工程および電解工程において0.1Vに維持したこと以外は、実施例4-1と同様にして電解および加水分解を行った。
【0126】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。
ガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率は、約2.8%と算出された。Cガスが生成していることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0127】
【表4】
【0128】
[実施例5-1~5-49]
溶融塩の組成、陰極の材質および電解条件を、表5および表6に示すように変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして電極作製工程および加水分解を行った。
【0129】
実施例5-23から5-49において、作用極の電位は、参照極(Ag/Ag)と陰極間の電位を測定し、Na-K-Ca合金析出電位を基準として較正した値である。実施例5-31から5-49では、溶融塩に予めCaCを溶融塩に対して7.0モル%添加した。
【0130】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。加水分解は、電極作製工程で作製された作用極(第2電極に対応)上に析出した析出物に対して行った。表中のファラデー効率は、当該電極作製工程で析出した析出物によるCガス生成に関する数値である。このファラデー効率が大きいほど、電極作製工程で析出したCaC量が多いことを示す。電極作製工程におけるCガス生成に関するファラデー効率が大きいと、電極作製工程および電解工程を通したCガス生成に関するファラデー効率も大きくなると言える。Cガスが生成していることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0131】
【表5】
【0132】
【表6】
【0133】
[実施例6-1]
積算電気量を2000Cとしたこと以外は、実施例5-45と同様にして、電解および加水分解を行った。
【0134】
XRD分析から、電極作製工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCの多結晶体を含み、副生成物としてCaCを含むことが確認された。
【0135】
図3Aは、実施例6-1の電解工程前の作用極の外観を示す写真である。図3Bは、実施例6-1の電解工程後の作用極の外観を示す写真である。作用極の表面に、黒色の析出物が確認でき、倍以上の大きさに肥大していることがわかる。図3Cは、実施例6-1の電解工程後の作用極に析出した析出物の断面写真である。図3Cから、当該析出物は層構造を有していることが確認された。さらに、ラマン分光分析の結果、断面に水をかけると内部層からのみガスの発生が確認されたこと、および、析出物に火を近づけると発火が認められたことから、内部層はカルシウムカーバイドを主成分とする金属カーバイド層であり、外側の層は、炭素を含むが、実質的にカルシウムカーバイドを含まないカーボン層であることが確認された。
【0136】
[実施例6-2]
積算電気量を500Cとしたこと以外は、実施例6-1と同様にして、電解および加水分解を行った。
図4Aは、実施例6-2の電解工程後の作用極の外観を示す写真である。図4Bは、同じく実施例6-2の電解工程後の作用極に析出した析出物の断面を、顕微ラマン分光分析装置を用いて観察した光学顕微鏡写真である。図4Bには、電解工程後の作用極の模式断面図も併せて示している。光学顕微鏡写真は、当該模式断面図の四角で囲まれた部分に相当する。図4Bにおいて、地点Aは析出物外側の黒色部分を、地点Bは析出物内側の灰色部分を、地点Cは作用極のFe基板を、それぞれ示す。図4Bから、当該析出物は層構造を有していることが確認された。
【0137】
図4Cは、点A~Cにおいて、ラマン分光分析を行った結果を示すグラフである。この結果から、析出物内側(地点B)は、カルシウムカーバイドを主成分とする金属カーバイド層であり、析出物外側(地点A)は、炭素を含むが、カルシウムカーバイドを実質的に含まないカーボン層であることが確認された。
【0138】
[実施例7-1]
(1)電極作製工程
NaCl、KCl、CaCl(NaCl/KCl/CaCl=33.4モル%/11.6モル%/55.0モル%)に対し、3.0モル%のCaOを混合し(すなわち、NaCl/KCl/CaCl/CaO=32.4モル%/11.3モル%/53.4モル%/2.9モル%)、200℃、100Pa以下で24時間以上真空乾燥した。この混合塩をNi製容器にそれぞれ収めて電気炉にセットし、550℃に加熱した。このようにして、NaCl-KCl-CaCl-CaOの溶融塩を得た。
【0139】
次いで、上記容器の蓋に、作用極(1.0cm×1.0cm、Fe)、対極(白金)および参照極(Ag/Ag)を取り付けて、この蓋で容器を密閉した。容器内の550℃の溶融塩に、COを流量100mL/分で60分間以上吹き込んだ。容器内の気相部分はCO雰囲気を維持したまま、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、参照極に対する作用極の電位を0.3Vに維持しながら、30分間電圧を印加した。作用極の電位は、参照極(Ag/Ag)と陰極間の電位を測定し、Na-K-Ca合金析出電位を基準として較正した値である。
【0140】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。実験操作は、すべて高純度アルゴン雰囲気を保持したグローブボックス内で行った。
【0141】
(2)電解工程
続いて、別途準備した上記と同じ組成を有する電解浴および上記電極作製工程で得られた電極を用いて、電解を行った。具体的には、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、参照極に対する作用極の電位を0.3Vに維持しながら、30分間電圧を印加した。作用極上に析出物が析出していることを確認した。実験操作は、容器内の気相部分を含め、すべて高純度アルゴン雰囲気を保持したグローブボックス内で行った。
【0142】
(3)炭化水素の製造
析出物を密閉した試験管に収めた。この試験管に、常温下(23℃)で、純水を少量ずつ加え、析出物の加水分解を行った。加えた水の全量は2.5mlであった。試験管内で発泡が生じているのを確認した後、発泡が見られなくなるまで試験管を静置した。続いて、ガスタイトシリンジを用いて、試験管内のガス100μl(マイクロリットル)を採取した。発生したガスの体積は、水上置換法により測定した。
【0143】
ガスクロマトグラフ(GC)装置を用いて、得られたガスに対してGC-MS分析を行って、主成分として、Cが生成されていることを確認した。Cガスが生成していることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。さらに、メタン、エタン、水素が副生していることを確認した。その他、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンを含有していた。各成分の生成量も、併せて確認した。回収したガスに占めるCの質量割合は50質量%より十分多かった。
【0144】
ガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率は、約42.8%と算出された。Cガスが生成していることから、析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0145】
[実施例7-2~7-6]
電解条件を表7に示すように変更したこと以外は、実施例7-1と同様にして、電解および加水分解を行った。
【0146】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。
ガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率を表7に示す。Cガスが生成していることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0147】
[実施例8-1~8-6]
電解条件を表7に示すように変更し、電解工程の際に溶融塩にCaCを溶融塩に対して1.0モル%添加したこと以外は、実施例7-1と同様にして電解および加水分解を行った。
【0148】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。Cガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率を表7に示す。Cガスが生成していることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0149】
[実施例9-1~9-6]
電解条件を表7に示すように変更し、電解工程の際に溶融塩にCaCを溶融塩に対して7.0モル%添加したこと以外は、実施例7-1と同様にして電解および加水分解を行った。
【0150】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。Cガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率を表7に示す。Cガスが生成していることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0151】
[実施例10-1~10-3]
電極作製工程後、電極を浴から一旦取り出し、30分後、再度同じ浴に入れて電解工程を実施したこと以外は実施例7-1、実施例7-3、実施例7-5と同様にして、それぞれ電解および加水分解を行った。電解条件は表7に示した通りに実施され、電解工程はCO雰囲気で行った。
【0152】
作用極上に析出物が析出していることを確認した。Cガス生成に関し、電極作製工程および電解工程を通したファラデー効率を表7に示す。Cガスの生成量は測定していないが、ファラデー効率がいずれも0.1%以上であることから、電解工程により作用極上に析出した析出物は、主成分としてCaCを含むことが理解できる。
【0153】
【表7】
【0154】
生成に関するファラデー効率eは、以下のようにして算出した。
まず、GC-MS分析から得られるピークの合計面積と検量線とから、回収したガスに含まれるCの体積割合を算出した。次いで、回収容器内の気相が占める体積と、算出されたガスに占めるCの体積割合とから、Cの生成体積を算出した。最後に、発生したCは標準状態(0℃、101kPa)にあったとして、下記の式により、ファラデー効率e(%)を算出した。
【数1】
【0155】
表1および4から理解されるように、いずれの電解法によっても、目的の第2金属カーバイドが高いファラデー効率で得られている。特に、実施例2、3および4のシリーズでは、ファラデー効率がより高い。これは、電極作製工程における電位が卑であったため、炭素が十分に析出したことを示している。なかでも、実施例2のシリーズのファラデー効率が非常に高い。これは、電解工程をAr雰囲気で行い、かつ、電極作製工程と電解工程とで電解浴を変更したことにより、第2溶融塩中の炭酸イオン濃度が低かったことによると考えられる。
【0156】
表5および表6から理解されるように、特に、SUS304を作用極として用いた場合、得られた析出物から高いファラデー効率で炭化水素を得ることができた。これは、電極作製工程で析出したCaC量が多いことを示している。CaC量が多いことは、また、炭素の析出量も多いと理解できる。
【0157】
表7から理解されるように、NaCl-KCl―CaCl溶融塩を用いることにより、得られた析出物からより高いファラデー効率で炭化水素を得ることができた。第2溶融塩が炭酸イオン(CO 2-)を実質的に含まず、電解工程がAr雰囲気で行われることが、ファラデー効率の点で望ましい。添加物として溶融塩にCaCを加えることが、ファラデー効率の点で望ましい。これは、作用極の上に生成したCaCが、溶融塩中に溶解することが抑制されたためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本開示の製造方法は、比較的低温下で速やかに反応が進行し、効率よく金属カーバイドを得ることができるため、種々の分野において有用である。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C