(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】バクテリアセルロース膜カプセルの製造方法、バクテリアセルロース膜カプセル、及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C12P 19/04 20060101AFI20241107BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20241107BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241107BHJP
A61K 33/44 20060101ALI20241107BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241107BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20241107BHJP
A61P 3/12 20060101ALI20241107BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241107BHJP
C08B 15/08 20060101ALN20241107BHJP
【FI】
C12P19/04 C
A61K9/48
A61K47/38
A61K33/44
A61K45/00
A61P13/02
A61P3/12
A61P43/00 105
C08B15/08
(21)【出願番号】P 2020137078
(22)【出願日】2020-08-14
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019191289
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年10月4日https://www.mdpi.com/1422-0067/20/19/4919;https://doi.org/10.3390/ijms20194919に掲載
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】星 徹
(72)【発明者】
【氏名】青柳 隆夫
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-121314(JP,A)
【文献】Materials Horizons,Vol. 5, No. 3,2018年02月27日,p. 408-415,https://doi.org/10.1039/C7MH01139C
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/00
A61K 9/48
A61K 47/38
A61K 33/44
A61K 45/00
C08B 15/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径1μm以上の粒子を含む粒状ゲルを作製する工程Aと、
前記粒状ゲルを含む、セルロース産生菌の培養液滴を作製する工程Bと、
前記培養液滴を疎水性媒体中で培養し、前記培養液滴と前記疎水性媒体との界面でバクテリアセルロース膜を形成させて、前記粒状ゲルを内包する球状バクテリアセルロース膜を得る工程Cと、
前記球状バクテリアセルロース膜に内包される前記粒状ゲルを溶解する工程Dと、
を含む、バクテリアセルロース膜カプセルの製造方法。
【請求項2】
前記球状バクテリアセルロース膜から、前記疎水性媒体を除去する工程Eをさらに含む、請求項1に記載のバクテリアセルロース膜カプセルの製造方法。
【請求項3】
前記球状バクテリアセルロース膜から、前記セルロース産生菌を除去する工程Fをさらに含む、請求項1又は2に記載のバクテリアセルロース膜カプセルの製造方法。
【請求項4】
中空球状バクテリアセルロース膜と、
粒径1μm以上の粒子と、を含
む、バクテリアセルロース膜カプセルであって、
前記バクテリアセルロース膜カプセルは、前記中空球状バクテリアセルロース膜により外部空間から区画される内部空間を1区画のみ有し、
前記粒子は、前
記内部空間に存在する、
バクテリアセルロース膜カプセル。
【請求項5】
前記粒径1μm以上の粒子が吸着剤、及び酵素固定化担体からなる群より選択される、請求項4に記載のバクテリアセルロース膜カプセル。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のバクテリアセルロース膜カプセルを含む、医薬組成物。
【請求項7】
前記粒径1μm以上の粒子が活性炭である請求項5に記載のバクテリアセルロース膜カプセルを含む、尿毒症を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項8】
前記粒径1μm以上の粒子がカリウム吸着剤である請求項5に記載のバクテリアセルロース膜カプセルを含む、高カリウム血症を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項9】
前記粒径1μm以上の粒子が酵素固定化担体である請求項5に記載のバクテリアセルロース膜カプセルを含む、前記酵素の欠乏症を治療又は予防するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリアセルロース膜カプセルの製造方法、バクテリアセルロース膜カプセル、及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物がセルロースを生産するという事実は、100年以上前にA.J.Brownによって報告されている。微生物により生産されるセルロースは、一般にバクテリアセルロース又はバイオセルロースと呼ばれている。
【0003】
微生物により生産されるセルロース(以下、「バクテリアセルロース」という)は、植物由来のセルロースには見られない優れた性質を持つことで知られている。例えば、植物由来のセルロースは、一般的に、リグニン及びヘミセルロース等の不純物を含む。これに対して、バクテリアセルロースは、不純物が少なく、ほぼ純粋なセルロースのみで構成される。また、バクテリアセルロースは、植物セルロースの繊維幅に比べて100分の1から1000分の1と言われるほど細い繊維幅を有すること、水素結合の強さや面配向性に起因した高いヤング率を有すること、液晶を形成することなど、物質としての高付加価値的特性が存在する。
【0004】
このようなバクテリアセルロースの特性を活用し、工業及び医療分野等における様々な利用研究が進められている。このような利用研究の実用化のためには、種々の形状のバクテリアセルロースを得ることが必要である。バクテリアセルロースの形状は、通常、セルロース産生菌の培養時に使用する容器形状に規定される。そのため、従来、中空球状のバクテリアセルロースの製造は困難であった。しかしながら、本発明者らは、疎水性媒体中でセルロース産生菌を含む培養液滴を形成して培養することで、中空球状のバクテリアセルロース膜の製造に成功している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のバクテリアセルロース膜は、セルロース繊維の3次元網目構造からなるゲル膜で構成されている。3次元網目構造の孔サイズよりにも小さい粒子は、Fickの拡散モデルに従い、前記3次元網目構造を透過して中空球状バクテリアセルロース膜内の空間に移動可能であるが、粒径1μm以上の粒子は、前記3次元網目構造を透過することができない。そのため、粒径1μm以上の粒子を内包した球状バクテリアセルロース膜は製造することができなかった。
一方、特許文献1に記載の方法において、セルロース産生菌の培養液に粒子を分散させておくことも考えられる。しかしながら、界面活性剤などの分散安定剤を用いることなく、粒子を安定に分散させておくことは難しく、分散安定剤を用いた場合、セルロース産生菌の生育が阻害される。そのため、培養液に粒子を分散させる方法では、中空球状バクテリアセルロース膜内に、粒径1μm以上の粒子を内包させることはできない。
【0007】
そこで、本発明は、粒径1μm以上の粒子を内包させることができる、バクテリアセルロース膜カプセルの製造方法、当該方法により製造されるバクテリアセルロース膜カプセル、及び前記バクテリアセルロース膜カプセルを含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]粒径1μm以上の粒子を含む粒状ゲルを作製する工程Aと、前記粒状ゲルを含む、セルロース産生菌の培養液滴を作製する工程Bと、前記培養液滴を疎水性媒体中で培養し、前記培養液滴と前記疎水性媒体との界面でバクテリアセルロース膜を形成させて、前記粒状ゲルを内包する球状バクテリアセルロース膜を得る工程Cと、前記球状バクテリアセルロース膜に内包される前記粒状ゲルを溶解する工程Dと、を含む、バクテリアセルロース膜カプセルの製造方法。
[2]前記球状バクテリアセルロース膜から、前記疎水性媒体を除去する工程Eをさらに含む、[1]に記載のバクテリアセルロース膜カプセルの製造方法。
[3]前記球状バクテリアセルロース膜から、前記セルロース産生菌を除去する工程Fをさらに含む、[1]又は[2]に記載のバクテリアセルロース膜カプセルの製造方法。
[4]球状バクテリアセルロース膜と、粒径1μm以上の粒子と、を含み、前記粒子は、前記球状バクテリアセルロース膜により区画される内部空間に存在する、バクテリアセルロース膜カプセル。
[5]前記粒径1μm以上の粒子が吸着剤、及び酵素固定化担体からなる群より選択される、[4]に記載のバクテリアセルロース膜カプセル。
[6][4]又は[5]に記載のバクテリアセルロース膜カプセルを含む、医薬組成物。
[7]前記粒径1μm以上の粒子が活性炭である[5]に記載のバクテリアセルロース膜カプセルを含む、尿毒症を治療又は予防するための医薬組成物。
[8]前記粒径1μm以上の粒子がカリウム吸着剤である[5]に記載のバクテリアセルロース膜カプセルを含む、高カリウム血症を治療又は予防するための医薬組成物。
[9]前記粒径1μm以上の粒子が酵素固定化担体である[5]に記載のバクテリアセルロース膜カプセルを含む、前記酵素の欠乏症を治療又は予防するための医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粒径1μm以上の粒子を内包させることができる、球状バクテリアセルロース膜カプセルの製造方法、当該方法により製造される粒子内包型球状バクテリアセルロース膜カプセル、及び前記バクテリアセルロース膜カプセルを含む医薬組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るバクテリアセルロース膜カプセルの製造方法を説明する図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るバクテリアセルロース膜カプセルの製造方法を説明する図である。
【
図3】実施例1で調製されたガラスビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセルを示す。(A)は真上からの写真であり、(B)は側面からの写真である。
【
図4】(A)は、超臨界乾燥法により乾燥したバクテリアセルロース膜の外観図を示す。(B)は、バクテリアセルロース膜エアロゲルのFE-SEM画像を示す。
【
図5】実施例2で調製されたコスメティックグリッター内包バクテリアセルロース膜カプセルを示す。
【
図6】実施例3で調製された蛍光粒子内包アルギン酸ゲル粒子を示す。(A)は光学顕微鏡写真であり、(B)は蛍光顕微鏡写真である。
【
図7】実施例3で調製された蛍光粒子内包バクテリアセルロース膜カプセルを示す。
【
図8】蛍光粒子のバクテリアセルロース膜透過性を検討した結果を示す。
【
図9】実施例4及び5で調製された活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルを示す。(A)は、直径0.3~0.8mmの活性炭を内包する活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルの写真である。(B)は、直径6.0μmの活性炭を内包する活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルの写真である。
【
図10】実施例5の活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルを用いたインドール吸着試験の結果を示す。
【
図11】活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルによる尿毒症原因物質の吸着機構を模式的に示した図である。
【
図12】実施例6で調製されたカリウム吸着剤内包バクテリアセルロース膜カプセルを示す。
【
図13】実施例7で調製されたペルオキシダーゼ固定化キトサンビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセルを示す。
【
図14】酵素固定化ビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセルによる酵素-基質反応の進行機構を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[バクテリアセルロース膜カプセルの製造方法]
一実施形態において、本発明は、バクテリアセルロース膜カプセルの製造方法を提供する。本実施形態のバクテリアセルロース膜カプセルの製造方法は、粒径1μm以上の粒子を含む粒状ゲルを作製する工程Aと、前記粒状ゲルを含む、セルロース産生菌の培養液滴を作製する工程Bと、前記培養液滴を疎水性媒体中で培養し、前記培養液滴と前記疎水性媒体との界面でバクテリアセルロース膜を形成させて、前記粒状ゲルを内包する球状バクテリアセルロース膜を得る工程Cと、前記球状バクテリアセルロース膜に内包される前記粒状ゲルを溶解する工程Dと、を含む。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、バクテリアセルロース膜カプセルの製造方法の1実施形態を説明する図である。本実施形態の製造方法では、まず、バクテリアセルロース膜カプセルへの内包対象とする粒径1μm以上の粒子22(以下、「対象粒子」ともいう)を含む粒子状ゲル20を作製する(工程A)。
次に、粒子状ゲル20を、セルロース産生菌を含む培養液30に浸漬する。粒子状ゲル20の表面全体に培養液30を付着させた状態で、疎水性媒体50中に投入することにより、1個の粒子状ゲル20を含む培養液滴D1を作製する(工程B)。
次に、これを培養することにより、培養液滴D1と疎水性媒体50との界面でバクテリアセルロース膜を形成させる。バクテリアセルロース膜が粒子状ゲル20全体を被覆するまで培養を続け、粒子状ゲル20を内包する球状バクテリアセルロース膜31を得る(工程C)。
次に、球状バクテリアセルロース膜31に内包される粒子状ゲル20を溶解し、対象粒子22を内包するバクテリアセルロース膜カプセルC1を得る(工程D)。
【0013】
本実施形態の製造方法では、粒子状ゲル20の大きさとほぼ同じ大きさのバクテリアセルロース膜カプセルC1が得られる。粒子状ゲル20の大きさを比較的大きくすることができるため、粒径の大きい粒子を内包させる場合に適している。
以下、各工程について詳述する。
【0014】
(工程A)
工程Aでは、粒径1μm以上の粒子を含む粒状ゲルを作製する。
【0015】
≪対象粒子≫
対象粒子22は、粒径1μm以上の粒子であれば、特に限定されない。対象粒子22の粒径の上限は、特に限定されないが、粒子状ゲル20の形成しやすさの観点から、例えば、3mm以下とすることができる。対象粒子22の粒径は、2.5mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましく、1.5mm以下がさらに好ましく、1mm以下が特に好ましい。
【0016】
対象粒子22の材質は、特に限定されず、バクテリアセルロース膜カプセルの用途に応じて、適宜選択することができる。対象粒子22は、無機物であってもよく、有機物であってもよい。また、対象粒子22は、細菌細胞、菌類細胞、動物細胞、及び植物細胞等の細胞であってもよい。対象粒子22としては、例えば、各種生理活性物質、各種医薬品、酵素固定化担体(酵素固定化キトサンビーズ等)、活性炭及びカリウム吸着剤などの吸着剤、色素、顔料、染料、蛍光物質、各種ビーズ、コスメティックグリッター、各種美容成分、各種食品添加物、各種食品粉末、各種機能性物質、生理活性物質産生細胞、汚染物質分解細菌等が挙げられるが、これらに限定されない。対象粒子22は、セルロース産生菌のセルロース産生能を阻害しないものが好ましい。
【0017】
≪粒状ゲル≫
対象粒子22を含む粒子状ゲル20の作製方法は、特に限定されない。粒子状ゲル20は、例えば、ゲル形成物質を含む溶液に、対象粒子22を懸濁して、対象粒子22の懸濁液を作製し、前記懸濁液を、ゲル化誘導液10に滴下することにより、作製することができる。「ゲル形成物質」とは、当該物質を含有する溶液が、特定条件でゲル化する物質を意味する。「ゲル化誘導液」とは、ゲル形成物質を含有する溶液のゲル化を誘導する液体を意味する。
【0018】
ゲル形成物質は、特に限定されず、ゲルを形成することが知られている任意の物質を用いることができる。ゲル形成物質は、セルロース産生菌のセルロース産生能を阻害しないものが好ましい。ゲル形成物質は、有機高分子化合物が好ましく、例えば、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、ジェランガム、カラギーナン、アガロース、タマリンドガム、ローストビーンガム、キトサン、ヒアルロン酸等の多糖類;ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸等のポリアミノ酸;ゼラチン;コラーゲン;ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の合成ポリマー;温度、pH、溶質濃度などの刺激によりゾル-ゲル転移可能な剛性ポリマー(刺激応答性ゾル-ゲル転移ポリマー)等が挙げられるが、これらに限定されない。前記刺激応答性ゾル-ゲル転移ポリマーのうち、温度応答性ゾル-ゲル転移ポリマーとしては、例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド誘導体)、ポリアスパラギン酸誘導体、及びポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体等が挙げられる。pH応答性及び溶質濃度応答性ゾル-ゲル転移ポリマーとしては、例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド誘導体)等が挙げられる。
【0019】
ゲル化誘導液は、ゲル形成物質の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、ゲル形成物質がアルギン酸ナトリウムである場合、ゲル化溶液としては、塩化カルシウム水溶液を用いることができる。塩化カルシウム水溶液の濃度は、アルギン酸ナトリウム水溶液のゲル化を誘導できる限り特に限定されないが、例えば、1~20wt%とすることができ、5~15wt%が好ましく、8~12wt%がより好ましい。
また、ゲル形成物質がアガロース等の多糖類、ゼラチン、又はコラーゲン等である場合、ゲル化誘導液としては、例えば、冷水を用いることができる。冷水の温度は、ゲル形成物質のゲル化が誘導される温度であればよく、ゲル形成物質の種類に応じて適宜選択することができる。冷水の温度としては、例えば、0~50℃以下、0~40℃、0~30℃、又は0~20℃等が挙げられる。また、多糖が、金属塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩など)の存在下でゲル化する場合、ゲル化誘導液としては、当該金属塩を含有する水溶液を用いることができる。
また、ゲル形成物質が、ポリアミノ酸又は合成ポリマーである場合、ゲル化誘導液としては、例えば、縮合剤又は架橋剤を含有する溶液等が挙げられる。
また、ゲル形成物質が、刺激応答性ゾル-ゲル転移ポリマーである場合、ゲル化誘導液としては、例えば、当該ゲル形成物質のゾル-ゲル転移を誘導する刺激(温度、pH、溶質濃度等)を有する溶液が挙げられる。
ゲル化誘導液は、セルロース産生菌の生存に悪影響を与えないものが好ましい。
【0020】
ゲル形成物質と対象粒子22とを含む懸濁液(以下、「対象粒子懸濁液」ともいう)は、例えば、ゲル形成物質の水溶液(ゲル形成物質水溶液)を作製し、当該水溶液に対象粒子22を懸濁することにより調製することができる。ゲル形成物質水溶液中のゲル形成物質の濃度は、ゲル化誘導液にゲル形成物質水溶液を滴下したときに、粒子状ゲルが形成できる濃度であれば特に限定されない。一般的に、ゲル形成物質の濃度が高くなるほど、ゲル形成物質水溶液の粘度が上がる。そのため、対象粒子22を均一に分散することができ、且つピペット等で吸引可能な程度の流動性が保持される濃度が好ましい。また、一般的に、ゲル形成物質の濃度が低くなるほど、粒子状ゲル20の安定性が低下し、後述の工程B等で膨潤する可能性がある。そのため、工程B等で粒子状ゲル20の過度の膨潤が起こらない程度の濃度が好ましい。
例えば、ゲル形成物質がアルギン酸ナトリウムである場合、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度としては、0.1~10wt%が挙げられる。アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度は、0.3~5wt%が好ましく、0.5~3wt%がより好ましく、0.8~2wt%がさらに好ましく、1wt%が特に好ましい。例えば、ゲル形成物質がアガロース(寒天)である場合、アガロース水溶液の濃度としては、0.1~10wt%が挙げられる。アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度は、0.3~5wt%が好ましく、0.5~4wt%がより好ましく、0.8~3wt%がさらに好ましく、2wt%が特に好ましい。
【0021】
ゲル化形成物質水溶液に懸濁する対象粒子22の量は、特に限定されず、任意の量とすることができる。対象粒子懸濁液中の対象粒子22の含有量を制御することにより、バクテリアセルロース膜カプセルが内包する対象粒子22の量を制御することができる。対象粒子懸濁液中の対象粒子22の含有量は、対象粒子懸濁液のゲル化を妨げない程度の含有量であることが好ましい。対象粒子懸濁液中の対象粒子22の含有量は、例えば、0.1~50wt%とすることができ、0.5~30wt%が好ましく、1~10wt%がより好ましい。
【0022】
粒子状ゲル20のサイズは、ゲル化誘導液に滴下する対象粒子懸濁液の液滴サイズにより制御することができる。液滴サイズは、粒子状ゲルが形成可能な大きさであれば、特に限定されない。本実施形態の製造方法の場合、バクテリアセルロース膜カプセルのサイズは、粒子状ゲル20のサイズとほぼ同じとなる。そのため、目的のバクテリアセルロース膜カプセルのサイズに応じて、粒子状ゲル20のサイズを調整することができる。また、本実施形態の製造方法の場合、後述の工程Bで、粒子状ゲル20を1個ずつ取り扱う必要があることから、1個ずつ取り扱い可能なサイズであることが好ましい。
粒子状ゲル20の直径dとしては、例えば、1~5mmが挙げられ、1.5~4mmが好ましく、2~3mmがより好ましく、2.2~2.8mmがさらに好ましく、約2.5mmが特に好ましい。粒子状ゲル20を作製する液滴量としては、例えば、10~100μLが挙げられ、20~80μLが好ましく、30~70μLがより好ましく、40~60μLがさらに好ましく、50μLが特に好ましい。
【0023】
工程Aにより、ゲル21と、ゲル21の内部に存在する対象粒子22と、から構成される粒子状ゲル20を得ることができる。
【0024】
(工程B)
工程Bでは、粒状ゲルを含む、セルロース産生菌の培養液滴を作製する。
【0025】
≪セルロース産生菌≫
セルロース産生菌は、特に限定されず、セルロースを産生する任意の細菌を用いることができる。セルロース産生菌としては、例えば、Acetobacter属、Agrobacterium属、Rhizobium属、Sarcina属、Pseudomonas属、Achromobacter属、Alcaligenes属、Aerobacter属、Azotobacter属、及びGluconacetobacter属等が挙げられる。中でも、入手および取り扱いのしやすさから、Acetobacter属及びGluconacetobacter属等の酢酸菌が好ましく、Acetobacter xylinum、Acetobacter pasteurianus、及びGluconacetobacter xylinus等がより好ましい。
【0026】
≪液体培地≫
セルロース産生菌の培養に用いる液体培地は、好気性細菌の培養に用いられる液体培地を特に制限なく用いることができる。液体培地には、セルロース産生菌の生育に必要な適切な栄養素が含まれていることが必要である。また、液体培地は、セルロース産生菌が生育可能な浸透圧及び/又は水素イオン濃度を有していることが必要である。液体培地は、適当量の炭素源、及び窒素源を含むことが好ましい。
炭素源としては、例えば、グルコース(ぶどう糖)、スクロース(ショ糖)、マルトース、フラクトース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、エリスリトール、転化糖、セロビオース、パルプスラッジ加水分解物、各種モラセス(廃糖蜜)、及びグリセリン等が挙げられる。中でも、炭素源は、グルコースが好ましい。炭素源は1種を単独で用いてもよく、2種以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。例えば、グルコースと、他の糖類、例えば果糖、砂糖、マンノース等との混合物であってもよい。炭素源は、澱粉水解物、シトラスモラセス、ビートモラセス、ビート搾汁、サトウキビ搾汁、果汁等を用いてもよい。
窒素源としては、例えば、各種アミノ酸、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティプリカー、アンモニウム塩、及び硝酸塩等が挙げられる。窒素源は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
液体培地は、炭素源及び窒素源に加えて、Na,K、Ca、Fe、Zn、Mn,Cu、Mg等の金属イオン源、各種ビタミン類、pH調整剤、及び消泡剤等の細菌培地に通常用いられる成分を含有することができる。
【0028】
金属イオンを含む化合物としては、例えば、FeSO4、CaCl2、Na2MoO4、ZnSO4、MnSO4、CuSO4、及びMgSO4等、並びにこれらの水和塩等が挙げられる。
【0029】
ビタミン類としては、例えば、イノシトール、ニコチン酸、ピリドキシ塩酸塩、チアミン塩酸塩、パントテン酸カルシウム、リボフラビン、p-アミノ安息香酸、葉酸、及びビオチン等が挙げられる。
【0030】
また、液体培地にエタノールを添加してもよい。エタノールの添加によりバクテリアセルロース産生量が向上することが知られている。エタノールの添加量としては、例えば、1.0g/L~6.0g/Lが挙げられる。
【0031】
液体培地のpHは、セルロース産生菌が生育でき、バクテリアセルロースを産生できる限り特に限定されないが、一般的にはpH3~7の範囲が挙げられる。好ましくはpH4~6であり、例えば、5付近のpHに設定することができる。液体培地のpH調整は、任意のpH調整剤を用いて行うことができる。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び炭酸ナトリウム等のアルカリ塩;並びに酢酸、及びクエン酸等の有機酸;塩酸、硫酸、及び硝酸等の無機酸が挙げられる。
【0032】
液体培地の具体例としては、Hestrine-Schrammの培地(HS培地)(Hestrin, S.et al., Biochem. J., 1954, 58, 345-352.)が挙げられる。
【0033】
液体培地は、セルロース産生菌のバクテリアセルロース産生速度を上げるために、グルコース含有量が高いものを用いてもよい。例えば、通常の細菌培養培地に、グルコースを追加添加したものを用いてもよい。液体培地のグルコース濃度は、例えば、3~15w/v%とすることができ、5~12w/v%が好ましく、7~10w/v%がより好ましく、約9w/v%がさらに好ましい。
【0034】
≪セルロース産生菌の培養液≫
セルロース産生菌の培養方法は、特に限定されず、好気性細菌の培養に通常用いられる培養条件を用いることができる。培養温度は、通常、10~50℃の範囲とすることができ、10~40℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~35℃がさらに好ましい。
【0035】
培養方法としては、任意の微生物培養方法を使用することができ、静置培養、振盪培養、又は通気攪拌培養等を使用することができる。培養操作法としては、回分発酵法、流加回分発酵法、反復回分発酵法及び連続発酵法等を用いることができる。攪拌手段としては、例えば、インペラー(攪拌羽根)、エアーリフト発酵槽、発酵ブロスのポンプ駆動循環などを単独または組合せて使用することができる。
【0036】
培養装置としては、細菌の培養に一般的に用いられるものを特に制限なく使用することができる。例えば、槽内を一定の温度に保温しうる撹拌機付ジャーファーメンターを用いることができる。
【0037】
培養液滴の作製に使用する培養液は、例えば、セルロース産生菌を液体培地に接種して1~10日程度、好ましくは2~5日程度、より好ましくは3~4日程度培養したものを用いることができる。
【0038】
≪培養液滴≫
粒子状ゲル20を含む、セルロース産生菌の培養液滴は、例えば、粒子状ゲル20をセルロース産生菌の培養液30に浸漬した後、粒子状ゲル20を培養液30から取り出し、疎水性媒体50に滴下することにより作製することができる。
粒子状ゲル20を培養液30に浸漬することにより、粒子状ゲル20の表面全体に培養液30の層が形成される。この培養液30の層が表面に形成された粒子状ゲル20を1個ずつ取り出し、疎水性媒体50に滴下することにより、1個の粒子状ゲル20を含む培養液滴D1を作製することができる。培養液滴D1は、粒子状ゲル20と、粒子状ゲル20の表面に形成された培養液30の層と、から構成される。
【0039】
≪疎水性媒体≫
疎水性媒体50は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。疎水性媒体50は、その比重が、培養液の比重とほぼ同等であるか、培養液の比重よりも小さいことが好ましい。疎水性媒体50の比重は、例えば、培養液の比重の0.8~1.1倍とすることができ、培養液の比重の0.9~1.05倍が好ましく、0.95~1.0倍がより好ましい。疎水性媒体50の比重を前記範囲内とすることにより、培養液滴D1が疎水性媒体中に浮遊又は沈降し、疎水性媒体50と培養液滴D1との界面で球状バクテリアセルロース膜31を形成させることができる。また、疎水性媒体50は、培養液滴D1中のセルロース産生菌に酸素が供給されるように、酸素透過性を有することが好ましい。
そのような疎水性媒体50としては、例えば、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸等の脂肪酸、脂肪族炭化水素類、環状炭化水素類、芳香族炭化水素類、複素環式化合物類、及びシリコーンオイル等が挙げられる。
【0040】
飽和脂肪酸としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、トクタデカン酸等の、炭素数4~30の直鎖又は分岐の飽和脂肪酸が挙げられる。不飽和脂肪酸としては、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、イコサン酸等の、炭素数4~30の直鎖又は分岐の不飽和脂肪酸が挙げられる。脂肪族炭化水素としては、ヘキサン、ヘプタン、デカン等の、炭素数4~30の脂肪族炭化水素が挙げられる。環状炭化水素としては、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の、炭素数6~30の環状炭化水素が挙げられる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等が挙げられる。複素環式化合物としては、イミダゾール、ピリジンなどが挙げられる。シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、環状シリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、アルキル・ポリエーテル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
疎水性媒体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、酸素透過性の観点から、シリコーンオイルを用いることが好ましく、シリコーンオイルを単独で用いることがより好ましい。
【0041】
疎水性媒体50は、粒子状ゲル20を収容可能なサイズの適切な容器に入れられている。
図1の例では、疎水性媒体50は、96ウェルマイクロプレート40の丸底(U字底)のウェル41に入れられている。疎水性媒体50を入れる容器は、特に限定されないが、粒子状ゲル20よりも若干大きい曲率半径を有する丸底の容器が好ましい。そのような容器を用いることにより、培養液滴D1の形状が安定に維持され、良好な形状の球状バクテリアセルロース膜31を形成することができる。容器底部の曲率半径は、例えば、粒子状ゲル20の半径の1.1~3倍とすることができ、1.1~2倍程度が好ましい。
容器の材質は、特に限定されないが、酸素透過性を有するものが好ましい。容器が酸素透過性を有することにより、容器と粒子状ゲル20の界面でも良好にバクテリアセルロース膜を形成させることができる。そのような材質としては、例えば、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。あるいは、容器の内面が、疎水性コーティングされていてもよい。容器内面が疎水性コーティングされていることにより、容器と粒子状ゲル20との間に疎水性媒体50が入り込みやすくなり、疎水性媒体50により酸素が供給され得る。
【0042】
培養液滴D1は、容器の1区画(
図1のウェル41)につき、1個が収容されていることが好ましい。1区画に1個の培養液滴D1が収容されていることにより、培養液滴D1どうしの接触を防止して、良好な形状の球状バクテリアセルロース膜31を形成させることができる。
【0043】
(工程C)
工程Cでは、前記培養液滴を疎水性媒体中で培養し、前記培養液滴と前記疎水性媒体との界面でバクテリアセルロース膜を形成させて、前記粒状ゲルを内包する球状バクテリアセルロース膜を得る。
【0044】
疎水性媒体50中での培養液滴D1の培養条件は、特に限定されず、好気性細菌の培養に通常用いられる条件を用いることができる。
培養温度は、上記工程Bで挙げたものと同様とすることができる。
培養は、静置培養で行ってもよく、ゆっくりと撹拌しながら行ってもよい。また、培養期間中に、培養液滴D1を回転させて、容器の内面に接触する培養液滴D1の部分を変えてもよい。培養液滴D1が容器に接触する部分では、疎水性媒体50に接触する部分と比較して、バクテリアセルロース膜の形成が遅れる傾向にある。そのため、培養期間中に、適宜、容器との接触部位を変えることにより、より均等な膜厚を有する球状バクテリアセルロース膜31を形成することができる。培養液滴D1の回転操作は、培養期間中、1回又は複数回行うことができる。培養液滴D1の回転操作を行う時期は、特に限定されないが、例えば、培養開始から2~4日後、好ましくは3日後とすることができる。
【0045】
工程Cでの培養は、粒子状ゲル20の表面全体を覆う球状バクテリアセルロース膜31が形成され、球状バクテリアセルロース膜31が適度な厚さとなるまで行う。培養は、例えば、HS培地を用いた場合には、6日以上行うことが好ましく、7日以上行うことがより好ましく、10日以上行ことがさらに好ましく、14日以上行うことが特に好ましい。培養期間の上限は、特に限定されないが、例えば、25日以下、20日以下、又は15日以下等とすることができる。
あるいは、グルコース含有量が高い培地(例えば、9w/v%グルコースを含むHS培地)を用いた場合には、バクテリアセルロース膜の形成速度が速くなるため、培養期間をより短くすることができる。この場合、培養期間は、例えば、5日以上行うことが好ましく、6日以上行うことがより好ましく、7日以上行うことがさらに好ましい。培養期間の上限は、特に限定されないが、例えば、20日以下、15日以下、又は10日以下等とすることができる。
【0046】
工程Cにより、粒子状ゲル20を内包する球状バクテリアセルロース膜31を得ることができる。球状バクテリアセルロース膜31は、粒子状ゲル20の表面全体を覆うバクテリアセルロース膜の層として形成される。
【0047】
(工程D)
工程Dでは、球状バクテリアセルロース膜に内包される前記粒状ゲルを溶解する。
【0048】
粒子状ゲル20の溶解方法は、粒子状ゲル20の形成に用いたゲル形成物質の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、金属塩の存在下でゲル化するゲル形成物質である場合、リン酸緩衝液(PBS)等の適当な緩衝液に浸漬することにより、粒子状ゲル20を溶解することができる。例えば、ゲル形成物質がアルギン酸ナトリウムである場合、粒子状ゲル20の溶解にはPBS等の緩衝液を用いることができる。粒子状ゲル20を内包する球状バクテリアセルロース膜31を、PBSに浸漬し、粒子状ゲル20が全て溶解するまで静置してもよい。
あるいは、ゲル形成物質が、アガロース等の低温でゲル化する物質である場合、温度を上げることにより粒子状ゲル20を溶解することができる。例えば、粒子状ゲル20を内包する球状バクテリアセルロース膜31を、純水もしくはPBS等の緩衝液に浸漬し、ゲル再溶解温度以上に温度を上昇させて、粒子状ゲル20が全て溶解するまで静置してもよい。あるいは、あらかじめゲル再溶解温度以上に昇温した緩衝液を用いてもよい。温度は、例えば、70℃以上とすることができ、80以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、95℃以上がさらに好ましい。
【0049】
工程Dで、粒子状ゲル20を溶解することにより、対象粒子22を内包するバクテリアセルロース膜カプセルC1を得ることができる。工程Dで得られたバクテリアセルロース膜カプセルC1は、バクテリアセルロース膜カプセルC1を保持可能な適切な液体61に浸漬して保存することができる。液体61は、球状バクテリアセルロース膜31の三次元網目構造を通過するため、バクテリアセルロース膜カプセルC1の内部も液体61で満たされた状態となる。液体61は、対象粒子22及び球状バクテリアセルロース膜31に悪影響を与えないものが好ましい。液体61としては、例えば、PBS等の緩衝液;水:エタノール等のアルコール等が挙げられるが、これらに限定されない。
バクテリアセルロース膜カプセルC1は、液体61で保存する前に、大量の液体61で洗浄した後、液体61中で保存してもよい。
【0050】
(他の工程)
本実施形態の製造方法は、上記工程A~Dに加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、球状バクテリアセルロース膜から、前記疎水性媒体を除去する工程(工程E)、及びセルロース産生菌を除去する工程(工程F)等が挙げられる。
【0051】
≪工程E≫
本実施形態の製造方法は、上記工程A~Dに加えて、球状バクテリアセルロース膜から、前記疎水性媒体を除去する工程Eを含むことが好ましい。疎水性媒体50の除去は、疎水性媒体50と相溶性を有する溶媒60に、バクテリアセルロース膜カプセルC1を浸漬することにより行うことができる。溶媒60への浸漬により、バクテリアセルロース膜カプセルC1に残留する疎水性媒体50が前記溶媒中に移行する。これにより、バクテリアセルロース膜カプセルC1から疎水性媒体50を除去することができる。溶媒60は、疎水性媒体50と相溶性を有するものであれば、特に限定されない。溶媒60としては、例えば、有機溶媒が挙げられ、疎水性媒体50の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、疎水性媒体50がシリコーンオイルである場合、溶媒60の具体例としては、例えば、エタノール、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ヘキサン等が挙げられるが、これらに限定されない。溶媒60は、対象粒子22に悪影響を与えないものがより好ましい。バクテリアセルロース膜カプセルC1を、医療用、食用、又は化粧用等に用いる場合であって、疎水性媒体50がエタノールと相溶性を有する場合には、安全性の高さから、エタノールを用いることが好ましい。
【0052】
工程Dで、PBS等の緩衝液を用いて粒子状ゲル20を溶解した場合には、疎水性媒体50がバクテリアセルロース膜カプセルC1から緩衝液中に遊離する。そのため、疎水性媒体50の多くを工程Dで除去することができる。この場合、工程Eは省略可能である。
【0053】
工程Eを行う場合、前記工程Dの後に行うことが好ましい。工程Eを工程Dの後に行うことにより、工程Eで用いる溶媒60により、粒子状ゲル20が硬化することを防止することができる。
【0054】
≪工程F≫
本実施形態の製造方法は、上記工程A~Dに加えて、セルロース産生菌を除去する工程Fを含むことが好ましい。セルロース産生菌の除去は、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ;塩酸、硫酸等の酸;次亜塩素酸ソーダ、過酸化水素等の漂白剤;リゾチーム等の菌体溶解酵素;ラウリル硫酸ソーダ、デオキシコール酸等の界面活性剤;等に、バクテリアセルロース膜カプセルC1を浸漬する方法が挙げられる。あるいは、加熱によりセルロース産生菌を殺菌し、細菌残渣を純水等で洗浄してもよい。また、これらの処理を組み合わせてもよい。
中でも、アルカリ可溶性残渣を効率よく除去できることから、工程Fでは、水酸化ナトリウム等のアルカリを用いることが好ましい。工程Fを行う場合、工程Dの前に行ってもよく、工程Dの後に行ってもよいが、工程Dの後に行うことが好ましい。
【0055】
本実施形態の製造方法は、前記工程のほか、バクテリアセルロース膜カプセルC1を水に浸漬して洗浄する工程を含んでいてもよい。また、超臨界二酸化炭素等の超臨界流体を用いてバクテリアセルロース膜カプセルC1を乾燥し、エアロゲル化してもよい。例えば、バクテリアセルロース膜カプセルC1をエタノールの非水媒体に浸漬した後、例えば60℃、20MPaの状態で、超臨界二酸化炭素を、例えば2.0mL/minの流速で流通しながら非水媒体を除去することでエアロゲル化することができる。
【0056】
本実施形態の製造方法によれば、バクテリアセルロース膜の三次元網目構造を通過できない大きなサイズの粒子を内包した、バクテリアセルロース膜カプセルを得ることができる。カプセル内に内包された粒子は、バクテリアセルロース膜を通過することができないため、カプセル外部に漏出することはない。
また、本実施形態の製造方法により得られるバクテリアセルロース膜カプセルは、粒子状ゲルのサイズを調整することによりサイズを制御できるため、例えば直径1~5mmの範囲の任意のサイズのバクテリアセルロース膜カプセルを得ることができる。さらに、バクテリアセルロース膜カプセルには、1μm以上の任意の粒子を内包させることができるため、粒子の選択により、医療品、食品、化粧品、工業材料等の各種用途に用いることができる。
【0057】
<第2実施形態>
図2は、バクテリアセルロース膜カプセルの製造方法の1実施形態を説明する図である。本実施形態の製造方法では、工程Bにおいて、複数個の粒子状ゲル20を含む培養液滴D2を作製する。また、工程Aで作製される粒子状ゲル20のサイズは、通常、前記第1実施形態で作製した粒子状ゲル20よりも小さくなる。
その他の工程については、前記第1実施形態と同様に行うことができる。
【0058】
本実施形態の製造方法では、培養液滴D2に複数個の粒子状ゲル20を含ませるため、培養液滴D2に含ませる粒子状ゲル20の数により、バクテリアセルロース膜カプセルC2に内包させる対象粒子22の量を制御することができる。そのため、粒径の小さな対象粒子22を所望の量でバクテリアセルロース膜カプセルC2に内包させる場合に適している。
【0059】
(工程A)
工程Aで作製する粒子状ゲル20のサイズは、工程Bにおいて複数の粒子状ゲル20を含む培養液滴を形成できれば、特に限定されない。粒子状ゲル20の直径dとしては、例えば、0.1~3mmが挙げられ、0.3~2mmが好ましく、0.5~1.5mmがより好ましく、0.7~1.2mmがさらに好ましく、約1.0mmが特に好ましい。粒子状ゲル20を作製する液滴量としては、例えば、0.05~30μLが挙げられ、0.1~20μLが好ましく、0.5~10μLがより好ましく、1~5μLがさらに好ましく、1.5μLが特に好ましい。
【0060】
対象粒子22は、粒径1μm以上であれば、特に限定されない。粒子状ゲル20粒径は、粒子状ゲル20のサイズに合わせて、適宜選択することができる。対象粒子22は、通常、前記第1実施形態で用いるものより小さいものを用いる。対象粒子22の粒径は、粒子状ゲル20ルの形成しやすさの観点から、例えば、300μm以下とすることができる。対象粒子22の粒径は、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましく、10μm以下が特に好ましい。
【0061】
対象粒子懸濁液中のゲル形成物質の濃度は、少量を採取可能な流動性を確保する観点から、通常、第1実施形態よりも低くなる。例えば、ゲル形成物質がアルギン酸ナトリウムである場合、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度としては、0.05~5wt%が挙げられる。アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度は、0.1~3wt%が好ましく、0.3~1wt%がより好ましく、0.4~0.8wt%がさらに好ましく、0.5wt%が特に好ましい。
【0062】
(工程B)
工程Bでは、複数個の粒子状ゲル20を含む培養液滴D2を作製する。培養液滴D2に内包させる粒子状ゲル20の数は、特に限定されないが、例えば、2~100個、2~80個、2~50個、2~30個、2~20個、又は2~10個等とすることができる。
【0063】
複数個の粒子状ゲル20を含む培養液滴D2は、例えば、粒子状ゲル20をセルロース産生菌の培養液30に浸漬した後、複数個の粒子状ゲル20含む培養液30を一定量採取し、疎水性媒体50に滴下することにより作製することができる。疎水性媒体50に滴下する培養液30の量は、疎水性媒体50中で、培養液滴D2が形成できる限り、特に限定されない。疎水性媒体50に滴下する培養液30の量としては、例えば、0.5~300μL、1~200μL、3~100μL、5~50μL、7~30μL、又は8~20μL等が挙げられる。前記培養液30の容量は、複数個の粒子状ゲル20を含む容量である。具体例としては、例えば、10μLが挙げられる。本実施形態の製造方法においては、バクテリアセルロース膜カプセルC2のサイズを、疎水性媒体50に滴下する培養液30の量により制御することができる。例えば、10μLの培養液30を用いた場合、直径約2.8~3mmのバクテリアセルロース膜カプセルC2を形成することができる。
【0064】
疎水性媒体50は、第1実施形態と同様に、前記のような培養液30の滴下量を収容可能なサイズの適切な容器に入れられている。例えば、1区画の容量が、滴下する培養液30の容量の5倍以上、好ましくは10倍以上の容器を用いることができる。容器の具体例としては、第1実施形態と同様に、96ウェルマイクロプレート40の丸底(U字底)のウェル41が挙げられる。
【0065】
培養液滴D2は、容器の1区画(
図2のウェル41)につき、1個が収容されていることが好ましい。1区画に1個の培養液滴D2が収容されていることにより、培養液滴D1どうしの接触を防止して、良好な形状の球状バクテリアセルロース膜31を形成させることができる。
【0066】
(工程C、工程D)
工程C及び工程Dは、第1実施形態と同様に行うことができる。
【0067】
(他の工程)
本実施形態の製造方法は、第1実施形態と同様に、工程A~Dに加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、第1実施形態で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0068】
本実施形態の製造方法により得られるバクテリアセルロース膜カプセルは、疎水性媒体に滴下する培養液の量を調整することによりサイズを制御できるため、例えば直径1~5mmの範囲の任意のサイズのバクテリアセルロース膜カプセルを得ることができる。さらに、バクテリアセルロース膜カプセルには、1μm以上の任意の粒子を内包させることができるため、粒子の選択により、医療品、食品、化粧品、工業材料等の各種用途に用いることができる。
【0069】
[バクテリアセルロース膜カプセル]
一実施形態において、バクテリアセルロース膜カプセルを提供する。本実施形態のバクテリアセルロース膜カプセルは、球状バクテリアセルロース膜と、粒径1μm以上の粒子と、を含む。前記粒子は、前記球状バクテリアセルロース膜により区画される内部空間に存在する。
【0070】
本実施形態のバクテリアセルロース膜カプセルは、前記バクテリアセルロース膜カプセルの製造方法により、製造することができる。バクテリアセルロース膜カプセルとしては、前記製造方法の第1実施形態で得られるバクテリアセルロース膜カプセルC1、及び第2の実施形態で得られ得るバクテリアセルロース膜カプセルC2が挙げられる。
【0071】
球状バクテリアセルロース膜は、外観が略球形であればよく、完全球形である必要はない。球状バクテリアセルロース膜により、バクテリアセルロース膜の内側の内部空間と、バクテリアセルロース膜の外側の外部空間とが区画されている。球状バクテリアセルロース膜は、バクテリアセルロース膜により形成される三次元網目構造を有している。球状バクテリアセルロース膜は、孔径1μm以上の孔を有しないことが好ましく、前記三次元網目構造により形成される孔以外の孔を有しないことがより好ましい。
【0072】
粒径1μm以上の粒子は、球状バクテリアセルロース膜により区画される球状バクテリアセルロース膜の内部空間に存在する。前記粒子は、前記内部空間に、遊離で存在していてもよく、バクテリアセルロース膜の内面に付着していてもよい。
【0073】
バクテリアセルロース膜カプセルは、上記の成分に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、液体成分が挙げられる。バクテリアセルロース膜カプセルは、通常、液体中で保存される。この場合、バクテリアセルロース膜の三次元網目構造及びバクテリアセルロース膜の内部空間は、当該液体により満たされる。前記液体としては、例えば、水、PBS等の緩衝液、及びエタノール等のアルコール等が挙げられる。
【0074】
また、バクテリアセルロース膜カプセルは、凍結乾燥、または超臨界二酸化炭素等の超臨界流体を用いて乾燥し、エアロゲル化したものであってもよい。
【0075】
本実施形態のバクテリアセルロース膜カプセルは、粒径1μm以上の任意の粒子を内包させることができるため、粒子の選択により、医療品、食品、化粧品、工業材料等の各種用途に用いることができる。
【0076】
[医薬組成物]
一実施形態において、本発明は、前記実施形態のバクテリアセルロース膜カプセルを含む、医薬組成物を提供する。
【0077】
前記実施形態のバクテリアセルロース膜カプセルは、粒径1μm以上の任意の粒子を内包することができる。粒径1μm以上の粒子が薬理活性を有する薬剤である場合、前記薬剤を内包するバクテリアセルロース膜カプセルを含む組成物は、医薬組成物として用いることができる。
【0078】
バクテリアセルロース膜カプセルに内包させる薬剤は、粒径1μm以上の粒子であれば、特に限定されない。また、薬剤自体は粒径1μm未満であっても、例えば、粒径1μm以上の担体粒子に薬剤を固定して、バクテリアセルロース膜カプセルに内包させてもよい。前記担体粒子の材質としては、例えば、多孔質シリカ、ハイドロキシアパタイト、金属、樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。薬剤としては、例えば、ビタミン類及びその誘導体類、消炎剤、抗炎症剤、血行促進剤、刺激剤、ホルモン類、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤、植物・動物・微生物エキス、鎮痒剤、消炎鎮痛剤、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、抗生物質、麻酔剤、抗菌性物質、抗てんかん剤、冠血管拡張剤、生薬、止痒剤、角質軟化剥離剤等が挙げられるが、これらに限定されない。薬剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
粒径1μm以上の粒子としては、例えば、疾患原因物質を吸着する吸着剤が挙げられる。疾患原因物質が、1μm未満のサイズの分子であれば、疾患原因物質はバクテリアセルロース膜を透過して、吸着剤に吸着される。一方、粒径1μm以上の吸着剤は、バクテリアセルロース膜カプセル外に放出されることはない。そのため、吸着剤に吸着された疾患原因物質をバクテリアセルロース膜カプセル内に封じ込めることができる。
【0080】
例えば、活性炭は、尿毒症原因物質(例えば、インドール)を吸着する薬剤として用いられている。そのため、活性炭を内包するバクテリアセルロース膜カプセルは、尿毒症を治療又は予防するための医薬組成物として用いることができる。バクテリアセルロース膜カプセルに内包させる活性炭の粒径は、1μm以上であればよい。通常、粒径が小さい活性炭粒子を多く内包させる方が尿毒症原因物質の吸着量が多くなる。そのため、活性炭粒子の粒径としては、例えば、1~1000μmが好ましく、1~800μmがより好ましく、1~500μmがさらに好ましく、1~300μmが特に好ましい。活性炭粒子の粒径は、より好ましくは、1~100μm、1~50μm、1~30μm、1~20μm、又は1~10μmが挙げられる。
【0081】
内包させる活性炭粒子の量は、特に限定されないが、例えば、0.01~1.0mgが挙げられ、0.03~0.6mgが好ましく、0.05~0.5mgがより好ましい。
【0082】
また、例えば、カリウム吸着剤(ポリスチレンスルホン酸カルシウム等)は、腸管内でカリウムを吸着する薬剤として用いられている。そのため、カリウム吸着剤を内包するバクテリアセルロース膜カプセルは、高カリウム血症を治療又は予防するための医薬組成物として用いることができる。バクテリアセルロース膜カプセルに内包させるカリウム吸着剤の粒径は、1μm以上であればよく、前記活性炭と同様の粒径が挙げられる。内包させるカリウム吸着剤の量は、特に限定されないが、前記活性炭と同様の量が挙げられる。
【0083】
また、粒径1μm以上の粒子は、酵素固定化担体であってもよい。例えば、酵素固定化担体を内包するバクテリアセルロース膜カプセルを、当該酵素の欠乏症を治療又は予防するための医薬組成物として用いることができる。バクテリアセルロース膜カプセルに内包させる酵素固定化担体の粒径は、1μm以上であればよく、前記活性炭と同様の粒径が挙げられる。内包させる酵素固定化担体の量は、特に限定されず酵素の種類に応じて適宜選択可能であるが、前記活性炭と同様の量が挙げられる。固定化する酵素としては、例えば、疾患原因物質の分解酵素、欠乏物質の合成酵素等が挙げられる。酵素を固定化する担体としては、公知のものを特に制限なく用いることができ、例えば、キトサンビーズ、アルギン酸ビーズ、シリカビーズ等が挙げられる。
【0084】
また、免疫細胞は、バクテリアセルロース膜内部に浸透することができないため、従来は抗原となり得るタンパク質をバクテリアセルロース膜カプセルに内包させることにより、免疫細胞から保護することができる。そのため、バクテリアセルロース膜カプセルにタンパク質等を内包させることにより、当該タンパク質等を生体内に留めておくことが期待される。例えば,抗原となりうる異種生物由来の酵素を固定化した担体を、バクテリアセルロース膜カプセルに内包させることにより、免疫細胞による酵素の失活を抑制し、長期間機能を発現することが期待される。また、先天的に特定の酵素が欠乏している患者に、ヒト由来の当該酵素もしくは異種生物由来の類似酵素を固定化した酵素固定化担体を内包するバクテリアセルロース膜カプセルを生体内に留置することで、それらの酵素が生体内で長期間機能することが期待できる。例えば、無カタラーゼ症の場合、スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどの過酸化水素(活性酸素)を分解できる酵素を固定化した担体をバクテリアセルロース膜カプセルに内包させて体内に留置することで、カタラーゼと同様の作用を発現させることが可能である。
【0085】
また、酵素固定化担体に固定される酵素は、プロドラッグを代謝する酵素であってもよい。プロドラッグは生体による代謝作用を受けて活性代謝物へと変化し、薬効を示す医薬品である。プロドラッグを代謝する酵素を固定化した担体をバクテリアセルロース膜カプセルに内包させて目的部位に移植することで、当該部位でプロドラッグが代謝されて活性代謝物が生成されるため、局所的に当該活性代謝物の薬効が発揮される。例えば、シトクロムP450酵素を発現するカプセル化細胞を腫瘍部位に移植し、プロドラッグによる抗腫瘍活性が確認されている(P Karle et al., Adv. Exp. Med. Biol. 451: 97-106. (1998).)が,シトクロムp450を固定化した担体を内包するバクテリアセルロース膜カプセルを用いるとより、より安価なシステム構築が可能である。
【0086】
また、酵素固定化担体に固定される酵素は、多段階反応プロセスを触媒する複数の酵素であってもよい。例えば、アビジンとビオチンは高い親和性と特異性を示し、結合定数が非常に大きい非共有結合性の結合を形成する。このように共存させると反応してしまうタンパク質を別々の担体に固定し、同一又は別々のバクテリアセルロース膜カプセルに内包することで、共存させることが可能となる。これにより、多段階反応プロセスを生体内および生体外で発現させることができる。
【0087】
バクテリアセルロース膜カプセルの大きさは、特に限定されないが、例えば、0.1~3mmが挙げられ、0.3~2mmが好ましく、0.5~1.5mmがより好ましく、0.7~1.2mmがさらに好ましく、約1.0mmが特に好ましい。
【0088】
本実施形態の医薬組成物は、バクテリアセルロース膜カプセルに加えて、任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分としては、例えば、薬学的に許容される担体が挙げられる。「薬学的に許容される担体」とは、有効成分の生理活性を阻害せず、且つ、その投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体を意味する。「実質的な毒性を示さない」とは、その成分が通常使用される投与量において、投与対象に対して毒性を示さないことを意味する。本実施形態の医薬組成物においては、薬学的に許容される担体は、バクテリアセルロース膜カプセルに内包される薬剤の薬理活性を阻害せず、且つその投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体である。薬学的に許容される担体は、典型的には非活性成分とみなされる、公知のあらゆる薬学的に許容され得る成分を包含する。薬学的に許容される担体は、特に限定されないが、例えば、溶媒、希釈剤、ビヒクル、賦形剤、流動促進剤、結合剤、造粒剤、分散化剤、懸濁化剤、湿潤剤、滑沢剤、崩壊剤、可溶化剤、安定剤、乳化剤、充填剤、保存剤(例えば、酸化防止剤)、キレート剤、矯味矯臭剤、甘味剤、増粘剤、緩衝剤、着色剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
本実施形態の医薬組成物は、バクテリアセルロース膜カプセル及び薬学的に許容される担体以外の、他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、特に限定されず、医薬分野において常用されるものを特に制限なく使用することができる。
【0090】
本実施形態の医薬組成物の剤型は、特に制限されず、医薬品製剤として一般的に用いられる剤型とすることができる。本実施形態の医薬組成物は、経口製剤であってもよく、非経口製剤であってもよい。経口製剤としては、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、細粒剤、液剤、ドロップ剤、乳剤等が例示される。非経口製剤としては、例えば、坐剤、軟膏、スプレー剤、外用剤、点耳剤、点眼剤、点鼻剤、吸入剤等が例示される。これらの剤型の医薬組成物は、定法(例えば、日本薬局方記載の方法)に従って、製剤化することができる。
【0091】
本実施形態の医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口又は非経口経路で投与することができる。なお、非経口経路は、経口以外の全ての投与経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、腟内及び腹腔内等への投与を包含する。また、投与は、局所投与であっても全身投与であってもよい。本実施形態の医薬組成物の投与経路としては、経口経路が好ましい。
【0092】
本実施形態の医薬組成物は、バクテリアセルロース膜カプセルに内包させる薬剤の治療的有効量を投与することができる。「治療的有効量」とは、対象疾患の治療又は予防のために有効な薬剤の量を意味する。治療有効量は、薬剤の種類、患者の症状、体重、年齢、及び性別等、並びに医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。例えば、本実施形態の医薬組成物は、薬剤の1回の投与量として、投与対象の体重1kgあたり、0.01~1000mgとすることができる。前記投与量は、0.15~800mg/kgであってもよく、0.5~500mg/kgであってもよく、1~400mg/kgであってもよく、1~300mg/kgであってもよい。
【0093】
本実施形態の医薬組成物の投与間隔は、患者の症状、体重、年齢、及び性別等、並びに医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。投与間隔は、例えば、数時間毎、1日1回、2~3日に1回、1週間に1回等とすることができる。
【実施例】
【0094】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0095】
[材料及び方法]
<材料等>
Hestrine-Schrammの培地(HS培地)(Hestrin, S.et al., Biochem. J., 1954, 58, 345-352.)を、セルロース産生菌の培養に用いた。標準的なHS培地は、3.0gのD-グルコース(関東化学株式会社)、0.5gのマンニトール(関東化学株式会社)、0.5gのペプトン(HIPOLYPEPTONETM、日本製薬株式会社)、0.5gのBactoTM酵母エキス(BD Biosciences)、及び0.1gの硫酸マグネシウム七水和物(MgSO4・7H2O;関東化学株式会社)を、100mLのMiliQ水に溶解することで調製することができる。Baume比重計を用いて30°CにおけるHS培地の密度を測定したところ、1.02g/cm3であった。
【0096】
シリコーンオイル(KF-56A:0.995g/cm3、15mm/s2、エタノール可溶性オイル)は、信越化学工業株式会社から購入した。蛍光粒子(SpectroTM FITC粒子、5.0-5.9μm、0.1w/v%PBS、pH7.4)は、Spherotech Inc.から購入した。他の試薬は、関東化学株式会社から購入した。
【0097】
96ウェルプレートは、ポリプロピレン製のU字底タイプ(290-8353-03R;Caplugs Evergreen)を用いた。
【0098】
<粒子を内包するバクテリアセルロース膜カプセルの調製>
(方法A)
図1に示す方法に従い、粒子を内包するバクテリアセルロース膜カプセルを調製した。
【0099】
≪ゲル粒子の調製≫
粒子を含有する1wt%アルギン酸ナトリウム水溶液(以下、「Na-Alg水溶液」という)50μLを、10wt%塩化カルシウム水溶液に滴下して、アルギン酸ゲル粒子(以下、「Ca-Algゲル」という)を調製した。粒子含有1wt%Na-Alg水溶液の滴下には、エッペンドルフピペットチップ(容量100μL)を先端から1cmカットしたものを用いた。得られたCa-Algゲルを、Milli-Q水に浸して洗浄した。この方法で得られるゲル粒子のサイズは、直径約2.5mmであった。
【0100】
≪粒子内包バクテリアセルロース膜の調製≫
HS培地をオートクレーブ滅菌した。滅菌HS培地に、G.xylinus(IFO13772)を接種し、30℃で3日間培養した。次いで、上記で調製したCa-Algゲルを、G.xylinusの培養液(細胞懸濁液)に浸漬し、30℃で、1日間培養した。次いで、96ウェルプレートの各ウェルを320μLのシリコーンオイルで満たし、細胞懸濁液が表面全体に付着した状態のCa-Algゲルを、各ウェル内のシリコーンオイルに浸漬した。1個のウェルに対して、1個のCa-Algゲルを投入した。
次いで、96ウェルプレートを30℃で14日間静置培養した。培養開始から14日後、細胞懸濁液とシリコーンオイルとの界面に形成されたバクテリアセルロース膜を採取し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に浸漬した。これにより、Ca-Algゲルを溶解した。次いで、バクテリアセルロース膜をエタノールで洗浄し、シリコーンオイルを除去した。次いで、バクテリアセルロース膜を大量の蒸留水に1日間浸した。次いで、バクテリアセルロース膜を、室温で、1%(w/v)のNaOH水溶液に1日間浸漬して洗浄し、細菌細胞及びアルカリ可溶成分を除去した。次いで、バクテリアセルロース膜を大量の蒸留水で数回洗浄し、蒸留水中で、室温で保存した。
【0101】
(方法B)
図2に示す方法に従い、粒子を内包するバクテリアセルロース膜カプセルを調製した。
【0102】
≪ゲル粒子の調製≫
粒子を含有する0.5wt%Na-Alg水溶液1.5μLを、10wt%塩化カルシウム水溶液に滴下したこと以外は、方法Aと同様に、ゲル粒子を調製した。この方法で得られるゲル粒子のサイズは、直径約1.0mmであった。
【0103】
≪粒子内包バクテリアセルロース膜の調製≫
1個以上のCa-Algゲルを含む細胞懸濁液を10μLずつ、各ウェル内のシリコーンオイルに滴下したこと以外は、方法Aと同様に、バクテリアセルロース膜を調製した。
【0104】
<超臨界CO2を用いたバクテリアセルロース膜エアロゲルの調製>
中空球状バクテリアセルロース膜を水に浸漬して膨潤させた。次いで、バクテリアセルロース膜を、大量のメタノールに浸漬して洗浄し、膨潤溶媒を水からメタノールに完全置換した。次いで、中空球状バクテリアセルロース膜を、その微細構造を崩壊させることなく、超臨界CO2(scCO2)技術により乾燥した(Buchtova, N. et al., Cellulose, 2016, 23, 2585-2595.)。乾燥は、40℃、20MPa、CO2流量2.0mL/分、5時間の条件下で実施した。乾燥装置は、CO2送液ポンプ(SCF-Get;JASCO)、50mL圧力容器、ガス圧力調整器(SCF-Bpg;JASCO)、及び恒温水浴(BK33;ヤマト科学株式会社)で構成されたものを用いた。
【0105】
<中空球状バクテリアセルロース膜の特性評価>
中空球状バクテリアセルロース膜エアロゲルの微細構造を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(S-4500;株式会社日立ハイテクノロジーズ)を使用して、加速電圧10kVで観察した。FE-SEM観察の前処理として、中空球状バクテリアセルロース膜エアロゲル表面に対するPt-Pdの堆積を、イオンスパッタリング(E-1010;株式会社日立ハイテクノロジーズ)で行った。
【0106】
[実施例1]
<ガラスビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセルの調製>
粒子としてガラスビーズ(直径0.3~0.5mm)を用いて、方法Aにより、ガラスビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセルを調製した。
図3に、ガラスビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセルの光学顕微鏡写真を示す。
図3に示されるように、バクテリアセルロース膜の内部空間に、ガラスビーズが存在することが確認された。ガラスビーズの多くは、バクテリアセルロース膜の内部空間内で移動することができたが、一部のガラスビーズは、バクテリアセルロース膜の内面に付着していた。Ca-Algゲル調製時、比重の大きいガラスビーズは、Na-Alg水溶液の液滴中で沈降し、その一部がCa-Algゲル表面に露出することがある。このようなガラスビーズの露出部分とバクテリアセルロース繊維との相互作用(水素結合や絡み合い効果など)により、ガラスビーズがバクテリアセルロース膜の内面に固定されたと考えられる。
バクテリアセルロース膜カプセルに内包されたガラスビーズの数は、Ca-Algゲル内のビーズの数と同じだった。この結果は、Ca-Algゲルに内包させる粒子数を調製することにより、バクテリアセルロース膜カプセルに内包される粒子数を調製できることを示す。
【0107】
(Na-Alg水溶液濃度の検討)
方法AにおいてNa-Alg水溶液の濃度(0.1~2.0wt%)を変化させて、ガラスビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセルを調製した。高濃度のNa-Alg水溶液を用いて調製したCa-Algゲルは、水及び培養液に浸漬しても膨潤することなく、安定性が高かった。Na-Alg水溶液の濃度が高くなるほど粘度が高くなり、マイクロピペット等による吸引がしにくくなる傾向があった。一方、低濃度のNa-Alg水溶液を用いて調製したCa-Algゲルは、水及び培養液に浸漬したときに膨潤する傾向があった。Na-Alg水溶液の濃度が低くなるほど粘度が低くなり、マイクロピペット等による吸引は容易になった。バクテリアセルロース膜カプセルのサイズは、Ca-Algゲルの粒子サイズによって制御されるため、Ca-Algゲルの粒子サイズは変化しないことが望ましい。Ca-Algゲルの安定性及び吸引のしやすさの観点から、方法Aの場合、Na-Alg水溶液の濃度は、1.0wt%が好ましいと考えられた。
【0108】
(バクテリアセルロース膜の観察)
方法Aに従って、ガラスビーズを内包するCa-Algゲルを調製し、細胞培養液に浸漬した後、シリコーンオイル中で14日間培養した。培養後に得られたバクテリアセルロース膜を、PBSで洗浄した。次いで、バクテリアセルロース膜を、エタノールを用いて洗浄し、シリコーンオイルを除去した。これを、超臨界乾燥法により乾燥した。乾燥したバクテリアセルロース膜の外観観察の結果、球状バクテリアセルロース膜の表面全体にゲル状膜が形成されていることが確認された(
図4(A))。
次に、バクテリアセルロース膜のエアロゲルを調製し、FE-SEMを用いて観察した。その結果、直径約30nmのセルロースナノファイバーのネットワーク構造が確認された(
図4(B))。
これらの結果は、Ca-Algゲル上に付着する細胞懸濁液とシリコーンオイル若しくは96ウェルプレートとの間の界面で、バクテリアセルロース膜が形成されたことを示す。
【0109】
(洗浄方法の検討)
方法Aに従い、シリコーンオイル中でバクテリアセルロース膜を形成させた。シリコーンオイルでの14日間の培養後に、バクテリアセルロース膜を取り出し、エタノールで洗浄し、シリコーンオイルを除去した。次いで、PBSを用いて、バクテリアセルロース膜内のCa-Algゲルを溶解した。その結果、予期せぬことに、Ca-Algゲルの膨潤により、バクテリアセルロース膜に部分的に穴が開く場合があった。これは、次のような理由が考えられる。Ca-Algゲルを内包した状態でバクテリアセルロース膜をエタノールに浸漬すると、エタノールがバクテリアセルロース膜内に浸透してCa-Algゲルと接触する。これにより、Ca-Algゲルが部分的に収縮して硬化する。その後、バクテリアセルロース膜をPBSに浸漬すると、Ca-Algゲルの硬化部分はPBSに溶解することができず、PBSを吸収して膨潤する。その結果、バクテリアセルロース膜に穴が開くと考えられる。
【0110】
一方、シリコーンオイルでの培養によるバクテリアセルロース膜の形成後、バクテリアセルロース膜をPBSに浸漬した場合、急速な膨潤なしにCa-Algゲルを溶解して除去することができた。その結果、バクテリアセルロース膜に穴が形成されることはなかった。また、バクテリアセルロース膜の表面に付着したシリコーンオイルが、PBSにより浮き上がり、シリコーンオイルをバクテリアセルロース膜から分離することができた。
【0111】
以上の結果から、シリコーンオイルでの培養後、エタノールによる洗浄の前に、バクテリアセルロース膜内のCa-Algゲルを除去することが好ましいことが示された。また、シリコーンオイル除去のためのエタノール洗浄は、省略可能であることが示唆された。
【0112】
[実施例2]
<コスメティックグリッター内包バクテリアセルロース膜カプセルの調製>
方法Aにおいてシリコーンオイルでの培養期間を変化させて、コスメティックグリッター(直径0.3~0.5mm)を内包するバクテリアセルロース膜カプセルを調製した。シリコーンオイルでの培養期間が6日以下の場合、PBSによるCa-Algゲルの溶解中にバクテリアセルロース膜に穴が開く場合があった。シリコーンオイルでの培養期間が7日以上の場合、バクテリアセルロース膜に穴が開くことはなく、コスメ用グリッターを内包するバクテリアセルロース膜カプセルを調製できた。前記バクテリアセルロース膜は、膜厚が不均一であった。
【0113】
次に、HS培地に替えて、3倍量のD-グルコースを含有するHS培地(9w/v% D-グルコース)を用いて、方法Aにおいて培養期間を変化させて、コスメティックグリッターを内包するバクテリアセルロース膜カプセルを調製した。なお、シリコーンオイルでの培養開始から3日目に、各ウェル内の細胞懸濁液が付着したCa-Algゲルの上下を逆にした。シリコーンオイルでの培養は、合計7日間行った。この方法により、コスメ用グリッターを内包するバクテリアセルロース膜カプセルを調製できた。また、バクテリアセルロース膜の膜厚は、ほぼ均一であった。(
図5)。
【0114】
[実施例3]
<蛍光粒子内包バクテリアセルロース膜カプセルの調製>
0.1w/v%蛍光粒子(直径5.0~5.9μm)溶液を含む、0.5wt%Na-Alg水溶液2mLを調製した。この0.5wt%Na-Alg水溶液を用いて、方法Bにより、蛍光粒子内包バクテリアセルロース膜カプセルを調製した。
図6(A)は、この方法で調製したCa-Algの光学顕微鏡写真である。
図6(B)は、この方法で調製したCa-Algゲルの蛍光顕微鏡写真である。
図6(B)に示されるように、蛍光粒子はCa-Algゲル内に存在していた。
方法Bでは、通常、方法Aよりもサイズの小さいCa-Algゲルを調製する。そのため、微量のNa-Alg水溶液をマイクロピペット等で正確に採取する必要がある。このことから、Na-Alg水溶液の濃度は、方法Aの場合よりも低濃度である方が適していた。一方、Na-Alg水溶液の濃度が低すぎると10wt%CaCl
2水溶液に滴下してもゲル粒子が形成されなかった。Na-Alg水溶液の採取しやすさ及びゲル粒子形成性の観点から、方法Bの場合、Na-Alg水溶液の濃度は、0.5wt%が好ましいと考えられた。
【0115】
図7は、本方法により得られた蛍光粒子内包バクテリアセルロース膜カプセルを示す。バクテリアセルロース膜カプセルの直径は、2.9mm(r=0.145cm)であり、10μLの液滴サイズ(液滴の体積=10μL=1.0×10
-3cm
3=4/3πr
3:r=0.134cm)とほぼ一致した。
図7中のスケールバーは300μmを示す。
図7に示すように、蛍光粒子を内包していないCa-Algゲルを用いた場合、バクテリアセルロース膜内に蛍光は検出されなかった。一方、蛍光粒子を内包するCa-Algゲルを用いた場合、バクテリアセルロース膜カプセル内に蛍光粒子が観察された。
【0116】
(蛍光粒子のバクテリアセルロース膜透過性の検討)
蛍光粒子内包バクテリアセルロース膜カプセルを、Milli-Q水に少なくとも2週間浸漬し、蛍光粒子がバクテリアセルロース膜カプセル外に漏出するかを確認した。また、蛍光粒子を内包しないバクテリアセルロース膜カプセルを、0.01w/v%蛍光粒子溶液に24時間浸漬し、バクテリアセルロース膜カプセル内に蛍光粒子が移行するかを確認した。
その結果を
図8に示す。蛍光顕微鏡による観察では、蛍光粒子を内包するバクテリアセルロース膜カプセルをMilli-Q水に浸漬しても、バクテリアセルロース膜カプセルからの蛍光粒子の漏出は認められなかった(
図8(B))。蛍光粒子は、バクテリアセルロース膜の内表面付近に存在していた。
一方、蛍光粒子を内包していないバクテリアセルロース膜カプセルを蛍光粒子溶液に浸漬しても、バクテリアセルロース膜内部への蛍光粒子の移行は確認されなかった(
図8(A))。蛍光粒子は、バクテリアセルロース膜の外表面に付着していた。
これらの結果により、セルロースナノファイバーネットワーク構造の細孔サイズより大きい粒子は、バクテリアセルロース膜を通過できないことが確認された。
【0117】
[実施例4]
<活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルの調製(1)>
粒子として活性炭(直径0.3~0.8mm)を用いて、方法Aにより、活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルを調製した。
図9(A)に、活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルの光学顕微鏡写真を示す。
図9(A)に示されるように、バクテリアセルロース膜の内部空間に、活性炭が存在することが確認された。
【0118】
[実施例5]
<活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルの調製(2)>
0.1w/v%活性炭粒子(直径6.0μm)溶液を含む、0.5wt%Na-Alg水溶液2mLを調製した。この0.5wt%Na-Alg水溶液を用いて、方法Aにより、活性炭粒子内包バクテリアセルロース膜カプセルを調製した。
図9(B)に、活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルの光学顕微鏡写真を示す。
図9(B)に示されるように、バクテリアセルロース膜の内部空間に、活性炭が存在することが確認された。
【0119】
(インドール吸着試験)
活性炭(直径6.0μm)内包バクテリアセルロース膜カプセル3個又は何も内包していないバクテリアセルロース膜カプセル3個を、3mLのインドール水溶液(7.6μg/mL)に投入し、経時的に、紫外可視分光計(V-530:JASCO)を用いて37℃でスペクトル測定し、279nmの吸光度より作成した検量線より、水溶液のインドール濃度を測定した。
【0120】
その結果を
図10に示す。何も内包していないバクテリアセルロース膜カプセル(ブランク)は、時間が経過しても、インドール濃度は変化しなかった。一方、活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルでは、時間経過とともに、インドール濃度が低下した。活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルでは、24時間経過後のインドール濃度は、4.73μg/mLとなった。この結果から、活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセル1個当たりのインドール吸着量は、2.8μgと算出された。
【0121】
図11は、活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルによる尿毒症原因物質の吸着機構を模式的に示した図である。バクテリアセルロース膜はナノファイバーからなる網目構造を呈している。網目の空孔よりも小さい粒子はバクテリアセルロース膜を透過できるが、網目の空孔よりも大きい粒子はゲル膜を透過できない。尿毒症原因物質の1つであるインドール)は、バクテリアセルロース膜を透過することができる。バクテリアセルロース膜を透過したインドールは、バクテリアセルロース膜カプセルに内包される活性炭に吸着される。活性炭は、バクテリアセルロース膜を透過することができないため、活性炭に吸着されたインドールは、バクテリアセルロース膜カプセル外に放出されることはない。そのため、活性炭内包バクテリアセルロース膜カプセルは、尿毒症治療薬として適用可能である。
【0122】
[実施例6]
<カリウム吸着剤内包バクテリアセルロース膜カプセルの調製>
1.0w/v%カリウム吸着剤(イオン交換樹脂:粒径5μm以上のポリスチレンスルホン酸カリウム)溶液を含む、2wt%寒天水溶液2mLを調製した。この2wt%寒天水溶液を用いて、方法Aにより、カリウム吸着剤内包バクテリアセルロース膜カプセルを調製した。
図12に、カリウム吸着剤内包バクテリアセルロース膜カプセルの写真を示す。
図12に示されるように、バクテリアセルロース膜の内部空間に、カリウム吸着剤が存在することが確認された。
【0123】
[実施例7]
<酵素固定化ビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセルの調製>
西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ固定化キトサンビーズを既報(桜井謙資,北田和之,高橋利禎,「キ卜サンビーズの作製と酵素固定化」福井大学工学部研究報告, 1989,37(2), 173-182.)に従い調製した。このキトサンビーズは、グルテルアルデヒドで架橋されているため、PBSに溶解せず、バクテリアセルロース膜カプセル内に保持される。
次に、100mgの前記キトサンビーズを含む、1.0wt%Na-Alg水溶液2mLを調製した。この1.0wt%Na-Alg水溶液を用いて、方法Aにより、ペルオキシダーゼ固定化アルギン酸ビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセルを調製した。
図13に、ペルオキシダーゼ固定化キトサンビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセルの写真を示す。
図13に示されるように、バクテリアセルロース膜の内部空間に、ペルオキシダーゼ固定化キトサンビーズが存在することが確認された。
【0124】
(酵素活性試験)
ペルオキシダーゼ固定化キトサンビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセル1個に、1.0mLのテトラメチルベンジジン/酢酸緩衝液(1.0mg/mL)及び10μLの過酸化水素水(30w/v%)を添加した。ペルオキシダーゼによる酵素反応が進行すると、テトラメチルベンジジンが酸化され、655nmに吸収極大を有する青緑色を呈する二量体が形成される。そこで、目視により、酵素反応の進行を確認した。
【0125】
その結果を
図13に示す。酵素反応の進行により、ペルオキシダーゼ固定化キトサンビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセルが青緑色を呈することが確認された。
【0126】
図13は、酵素固定化ビーズ内包バクテリアセルロース膜カプセルによる酵素-基質反応進行を模式的に示した図である。酵素固定化ビーズは、バクテリアセルロース膜を透過することができないため、バクテリアセルロース膜カプセル内に保持される。酵素基質が、バクテリアセルロース膜を透過可能な低分子物質である場合、酵素基質はバクテリアセルロース膜を透過して、バクテリアセルロース膜カプセルに内包される酵素固定化ビーズと接触する。これにより、バクテリアセルロース膜カプセル内で、酵素-基質反応が進行する。バクテリアセルロース膜カプセル内部で生成された酵素-基質反応の反応生成物は、バクテリアセルロース膜カプセルの内部と外部との濃度勾配により、バクテリアセルロース膜カプセルの外部へと拡散していく。
【0127】
生体内では、免疫細胞はバクテリアセルロース膜を透過することができないため、酵素固定化ビーズは免疫細胞から保護される。また、互いに結合親和性の高い複数の分子を別々のビーズに固定化し、バクテリアセルロース膜カプセルに内包させることで、これらの分子を活性な状態で共存させることができ、多段階プロセスや迅速な成分分離が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明によれば、粒径1μm以上の粒子を内包させることができる、バクテリアセルロース膜カプセルの製造方法、当該方法により製造されるバクテリアセルロース膜カプセル、及び前記バクテリアセルロース膜カプセルを含む医薬組成物が提供される。
【符号の説明】
【0129】
10…ゲル化誘導液、20…粒子状ゲル、21…ゲル、22…対象粒子、30…培養液、31…球状バクテリアセルロース膜、40…96ウェルマイクロプレート、41…ウェル、50…疎水性媒体、60…溶媒、61…液体、C1,C2…バクテリアセルロース膜カプセル、D1,D2…培養液滴。