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特許7583439磁気熱交換材料、熱交換デバイスおよびそれを用いた磁気熱交換装置
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  • 特許-磁気熱交換材料、熱交換デバイスおよびそれを用いた磁気熱交換装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】磁気熱交換材料、熱交換デバイスおよびそれを用いた磁気熱交換装置
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241107BHJP
   F25B 21/00 20060101ALI20241107BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241107BHJP
【FI】
C22C38/00 303Z
F25B21/00 A
B22F1/00 W
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021002927
(22)【出願日】2021-01-12
(65)【公開番号】P2022108091
(43)【公開日】2022-07-25
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】工藤 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】渡部 巧也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 駿太
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-096547(JP,A)
【文献】特開2006-124783(JP,A)
【文献】特開2005-226124(JP,A)
【文献】特開2015-149464(JP,A)
【文献】特開2005-036302(JP,A)
【文献】特開2007-031831(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0272933(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109524189(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
F25B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定において、NaZn 13 型結晶構造をもつLa(Fe 1-x Si 13 相の(422)面の回折線強度に対する、Fe相の(110)面の回折線強度の比が、7%以下であり、NaZn 13 型結晶構造をもつLa(Fe 1-x Si 13 相の(422)面の回折線強度に対する、CeFeSi型結晶構造をもつLaFeSi相の(101)面の回折線強度の比が、7%以下であり、残部がNaZn13型結晶構造を有するLa(Fe 1-x Si 13 相および不可避不純物レベルの相である磁気熱交換材料であって、
下記一般式(1)式で表されることを特徴とする磁気熱交換材料。
La1-a(Fe1-b-cSi ・・・(1)
ここで、上記(1)式中の
R:SmおよびYから選ばれる少なくとも1種、
T:V、Cr、Mn、NiおよびCuから選ばれる少なくとも1種、
また、添字a、b、c、eおよびfは、
0.1≦a≦0.30、
0.09≦b≦0.14、
0.01≦c≦0.04、
12.5≦e≦13.5、
1.3≦f≦2.3
の条件を満たす。
【請求項2】
Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定において、NaZn 13 型結晶構造をもつLa(Fe 1-x Si 13 相の(422)面の回折線強度に対する、Fe相の(110)面の回折線強度の比が、7%以下であり、NaZn 13 型結晶構造をもつLa(Fe 1-x Si 13 相の(422)面の回折線強度に対する、CeFeSi型結晶構造をもつLaFeSi相の(101)面の回折線強度の比が、7%以下であり、残部がNaZn13型結晶構造を有するLa(Fe 1-x Si 13 相および不可避不純物レベルの相である磁気熱交換材料であって、
下記一般式(2)式で表されることを特徴とする磁気熱交換材料。
La1-a(Fe1-b-c-d SiCo ・・・(2)
ここで、上記(2)式中の
R:SmおよびYから選ばれる少なくとも1種、
T:V、Cr、Mn、NiおよびCuから選ばれる少なくとも1種、
また、添字a、b、c、d、eおよびfは、
0.05≦a≦0.30、
0.09≦b≦0.14、
0<c≦0.05、
0.01≦d≦0.03、
12.5≦e≦13.5、
1.3≦f≦2.3
の条件を満たす。
【請求項3】
前記磁気熱交換材料は、アスペクト比が2以下の球状粒子であることを特徴とする、請求項1または2に記載の磁気熱交換材料。
【請求項4】
前記磁気熱交換材料の体積平均粒径が、0.05mm以上1mm以下であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の磁気熱交換材料。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の磁気熱交換材料が装着されていることを特徴とする熱交換デバイス。
【請求項6】
請求項に記載の熱交換デバイスを備えてなることを特徴とする磁気熱交換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きな磁気熱量効果を有し、実用に適した室温域で用いる磁気熱交換材料、それが装着されている熱交換デバイス、およびそれを用いた磁気熱交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活に密接に関係する室温域の冷凍技術、たとえば冷蔵庫、冷凍庫、室内冷暖房などの大半は、気体の圧縮膨張サイクルを使用している。しかし、気体の圧縮膨張サイクルに基づく冷凍技術は、特定フロンガスの環境排出に伴う環境破壊が大きな問題となり、代替フロンガスも環境への影響が懸念されている。このような背景から、環境リスクの低い自然冷媒(CO、アンモニアなど)やイソブタンなどを用いた取り組みも行われている。つまり、作業ガスの廃棄に伴う環境破壊の問題がない、安全でクリーンで且つ効率の高い冷凍技術の実用化が求められている。
【0003】
このような環境配慮型で且つ効率の高い冷凍技術の一つとして、磁気冷凍への期待が高まり、室温域を対象とした磁気冷凍技術の研究開発が進んでいる。磁気冷凍技術は、Feの磁気熱量効果を基本原理としている。磁気熱量効果とは、断熱状態で磁性物質に対して外部印加磁場を変化させると、その磁性物質の温度が変化する現象である。磁気熱量効果を有するGd(SO・8HO、GdGa12に代表される常磁性塩および常磁性化合物を用いた冷凍システムが開発された。しかしながら、これらは20K以下の極低温領域に適用されるものが中心であり、超伝導磁石による10T程度の磁場が必要であった。
【0004】
その後、高温領域での磁気冷凍の実現にむけて強磁性物質における常磁性状態と強磁性状態間の磁気転移を利用した研究が盛んに行われてきた。その結果としてPr、Nd、Dy、Er、Tm、Gdなどのランタン系列の希土類元素単体、Gd-Y、Gd-Dyのような二種類以上の希土類合金系材料、RAlおよびRNi(R:希土類元素)、GdPdなどの希土類金属間化合物などの磁性材料が見出された。
【0005】
常温域を対象とした磁気冷凍のシステムは、1982年に磁気冷凍用材料に磁気熱量効果に加えて蓄熱効果も同時に担わせるAMR(“Active Magnetic Regenerative Refrigeration”)方式が米国のBarclayによって提案された(特許文献1)。このAMR方式は、従来室温域における磁気冷凍にとって阻害要因と位置づけられていた格子エントロピーをむしろ積極的に利用しようとするものである。
【0006】
AMR方式による磁気冷凍は以下のようなステップで行われている。
(1)磁気冷凍作業物質に磁場を印加する。
(2)(1)により発生した温熱を冷媒により一端から他端へ輸送する。
(3)磁気冷凍作業物質の磁場を取り除く。
(4)(3)により発生した冷熱を(2)で熱を輸送した方とは逆の一端に輸送する。
(1)~(4)の熱サイクルを繰り返すことにより、熱交換デバイス(磁気冷凍作業室内部)では磁気冷凍用材料で生まれた熱が熱輸送媒体を介して一方向に輸送されることになり、熱流方向に温度勾配が生成し、両端では大きな温度差が生じることにより冷凍作業が行われる。
【0007】
その後、室温域における磁気冷凍用材料としてGd(ガドリニウム)を用い、上記AMR方式を用いた磁気冷凍機に超伝導磁石により5Tまでの高磁場を印加することで、磁気冷凍サイクルの連続運転実施が報告された。
【0008】
一方、Gd以外にも室温域の磁気冷凍用材料は開発されている。たとえば、(Hf,Ta)Fe、(Ti,Sc)Fe、(Nb,Mo)Fe、La(Fe,Si)13系などの磁性材料では大きな磁気エントロピー変化量を呈するとともに、安価なFeを主構成元素としており、さらには磁気相転移の昇温降温時のヒステリシスが小さいことが特徴となり、開発が進められてきた。
【0009】
このような磁気冷凍用材料を用いた磁気冷凍装置では、磁気冷凍用材料の磁気熱量効果を応用して低温を生成する。たとえば、強磁性物質では、強磁性相転移温度(キュリー温度;Tc)の近傍において外部磁界を印加することによって、電子磁気スピンを常磁性状態から強磁性状態へ磁気相転移させたときのエントロピー変化を利用して低温化を実現している。
【0010】
このような磁性材料の中でも、特にFeの一部をSiで置換することで形成する、NaZn13型結晶構造を有するLa(Fe1-xSi13は特に大きな磁気エントロピー変化量を示すことがわかっている。この結晶構造を有する物質ではZnに相当するサイトに主としてFeが、Naに相当するサイトに主としてLa等の希土類元素が入る。
【0011】
磁性材料をAMR方式等の磁気冷凍に適用するためには、熱交換のために実用的な球状粒子等の小片形状に加工する必要がある。たとえば、特許文献2では、球状化したLa(Fe1-xSi13合金のキュリー温度向上のために水素化処理を行う技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第4332135号
【文献】特開2003-96547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような問題がある。特許文献2に開示の技術では、水素化の際、格子間に入った水素により格子が膨張して、場合によってはクラックが入る場合がある。従って、このような状態のLa(Fe1-xSi13系磁性材料粒子を磁気冷凍装置の熱交換デバイス内に充填し、冷媒との間で熱交換を生ぜしめて冷凍を実現しようとした場合、前記磁性材料粒子は熱交換の際に冷媒の流れや磁界の印加および除去に伴い、冷媒の流れや磁界印加の周波数と合わせて振動する可能性がある。
【0014】
このような状態が比較的長く続くと、上述した振動に伴って磁性材料同士が互いに衝突・摩擦を引き起し、磁性材料の破壊に伴う微細粉が発生する。微細粉の発生は冷媒の圧力損失を高めるなど、熱交換の効率低下による冷凍能力低下の要因となる。
【0015】
本発明は上記問題を鑑みて、高い磁気冷凍効果を含む磁気熱交換特性と耐久性、つまり、耐割れ性や耐食性を併せ持つ磁気熱交換材料を提供することを目的としている。また、その磁気熱交換材料が装着された熱交換デバイスおよびそれを用いた磁気熱交換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、磁気熱交換材料に用いられる磁性材料について、高い磁気冷凍効果を含む磁気熱交換特性と耐久性を兼ね備えるものとすることを鋭意研究した結果、少なくとも、希土類元素、鉄、ケイ素および水素を含む材料が高い磁気熱交換特性と耐久性を実現させることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0017】
すなわち、上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかる磁気熱交換材料は、主相がNaZn13型結晶構造を有する磁気熱交換材料であって、下記一般式(1)式で表されることを特徴とする。
La1-a(Fe1-b-cSi ・・・(1)
ここで、上記(1)式中の
R:SmおよびYから選ばれる少なくとも1種、
T:V、Cr、Mn、NiおよびCuから選ばれる少なくとも1種、
また、添字a、b、c、eおよびfは、
0<a≦0.30、
0.09≦b≦0.14、
0<c≦0.04、
12.5≦e≦13.5、
1.3≦f≦2.3
の条件を満たす。
【0018】
また、上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかる磁気熱交換材料は、主相がNaZn13型結晶構造を有する磁気熱交換材料であって、下記一般式(2)式で表されることを特徴とする。
La1-a(Fe1-b-c-d SiCo ・・・(2)
ここで、上記(2)式中の
R:SmおよびYから選ばれる少なくとも1種、
T:V、Cr、Mn、NiおよびCuから選ばれる少なくとも1種、
また、添字a、b、c、d、eおよびfは、
0<a≦0.30、
0.09≦b≦0.14、
0<c≦0.05、
0<d≦0.03、
12.5≦e≦13.5、
1.3≦f≦2.3
の条件を満たす。
【0019】
なお、本発明にかかる磁気熱交換材料は、
(a)Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定において、NaZn13型結晶構造をもつLa(Fe1-xSi13の相(422)面の回折線強度に対する、Fe相の(110)面の回折線強度の比が、7%以下であること、
(b)Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定において、NaZn13型結晶構造をもつLa(Fe1-xSi13の相(422)面の回折線強度に対する、CeFeSi型結晶構造をもつLaFeSi相の(101)面の回折線強度の比が、7%以下であること、
(c)前記磁気熱交換材料は、アスペクト比が2以下の球状粒子であること、
(d)前記磁気熱交換材料の平均粒径が、0.05mm以上1mm以下であること、
などが、より好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0020】
また、上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかる熱交換デバイスは、上記いずれかの磁気熱交換材料が装着されていることを特徴とする。
【0021】
また、上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかる磁気熱交換装置は、上記熱交換デバイスを備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、高い磁気熱交換特性を呈するとともに高い機械的強度および実用的な耐食性をもつ磁気熱交換材料を提供することができる。また、本発明の磁気熱交換材料を用いることにより、実用に適した、熱交換効率の高い熱交換デバイス、およびこれを用いた高効率の磁気熱交換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明にかかる磁気熱交換材料を用いた磁気熱交換装置の一実施形態を示す断面図である。
図2】上記実施形態に磁気熱交換装置の動作の概略を示す断面図である。
図3】本発明にかかる磁気熱交換材料を用いた磁気熱交換装置の他の実施形態を示す概念図である。
図4】上記他の実施形態にかかる磁気熱交換部の詳細図である。
図5】本発明にかかる磁気熱交換材料のX線回折測定結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のその他の特徴および利点について、実施の形態に基づいて説明する。
【0025】
本発明の磁気熱交換材料は、主相がNaZn13型結晶構造を有する磁気熱交換材料であって、下記一般式(1)式で表されるものである。
La1-a(Fe1-b-cSi ・・・(1)
ここで、上記(1)式中の
R:SmおよびYから選ばれる少なくとも1種、
T:V、Cr、Mn、NiおよびCuから選ばれる少なくとも1種、
また、添字a、b、c、eおよびfは、
0<a≦0.30、
0.09≦b≦0.14、
0<c≦0.04、
12.5≦e≦13.5、
1.3≦f≦2.3
の条件を満たす。
【0026】
また、本発明の磁気熱交換材料は、主相がNaZn13型結晶構造を有する磁気熱交換材料であって、下記一般式(2)式で表されるものである。
La1-a(Fe1-b-c-d SiCo ・・・(2)
ここで、上記(2)式中の
R:SmおよびYから選ばれる少なくとも1種、
T:V、Cr、Mn、NiおよびCuから選ばれる少なくとも1種、
また、添字a、b、c、d、eおよびfは、
0<a≦0.30、
0.09≦b≦0.14、
0<c≦0.05、
0<d≦0.03、
12.5≦e≦13.5、
1.3≦f≦2.3
の条件を満たす。
【0027】
以下、本発明の一般式(1)および(2)で表される磁気熱交換材料の成分組成を限定する理由について説明する。
【0028】
R:RはLaを置換する希土類の元素であって、SmおよびYから選ばれる少なくとも1種である。また、RのLaとの合計に対する原子比率aは、0超え0.30以下の範囲である。本発明に用いる磁気熱交換材料は、NaZn13型構造を主相としており、Naサイトの元素として、希土類元素を含有する。希土類元素はLaを基本とするが、その一部をSmおよびYから選ばれる少なくとも1種で置換することにより、耐久性が向上する。それゆえ、実際に熱交換装置、たとえば、冷凍機に搭載して実動させた時の信頼性向上に有効である。その量は、Laの少なくとも一部をこれらの元素で置き換え、上限は0.30である。置換比率aが0.30を超えるとNaZn13型結晶構造以外の相、たとえば、α-Fe相、R-Fe相などが生成しやすくなり、結果として磁気熱量効果が小さくなってしまう。好ましくは、0.25以下である。希土類元素としてのPrやNdは積極的に活用しないが、不可避不純物レベルで含有していてもよい。
【0029】
Si:Siは、Feを置換して、NaZn13型構造を安定的に形成するのに必須元素であるとともに、大きな磁気熱量効果を得られる。Feを置換するSiの原子比率bは、0.09以上0.14以下の範囲である。置換比率bが、0.09未満ではNaZn13型構造を形成しにくくなり、大きな磁気熱量効果が得られにくくなる。一方、0.14を超えるとNaZn13型構造は維持するものの磁気熱量効果が小さくなり、実用的でなくなる。好ましくは、0.10以上0.13以下の範囲である。なお、Siの一部を原子比で1/2までAlで置き換えることができる。
【0030】
T:Tは、Feを置換して磁気転移温度の制御に有効な遷移金属元素であり、V、Cr、Mn、NiおよびCuから選ばれる少なくとも1種である。また、元素によっては耐食性向上効果も得られる。Feを置換するTの原子比率cは、Coを用いない(1)式の場合、0超え0.04以下の範囲であり、Coを用いる(2)式の場合、0超え0.05以下である。置換比率cが、上限超えでは磁気転位温度が低くなりすぎるおそれがある。好ましくは、0.03以下である。
【0031】
Co:Coは(2)式で用い、Feを置換して、磁気転移温度の制御、特に高温に設定するのに有効な遷移金属元素である。Feを置換するCoの原子比率dは、0超え0.03以下の範囲である。上限を超えると二次相転移の寄与が大きくなり、磁気熱量効果が低下し始めることと、磁気転移温度が高くなりすぎるおそれがある。好ましくは、0.005以上0.025以下の範囲である。また、Coの存在は水素の導入が比較的容易となり、この点からも有効な元素である。
【0032】
希土類元素と遷移金属元素の原子比e:希土類元素と遷移金属元素の原子比eは12.5以上13.5以下である。この範囲でNaZn13構造が安定的に得られる。下限未満ではThMn12構造、ThZn17構造などが生成しやすくなり、磁気熱量効果に寄与しない相が増え、十分な熱交換効率が得られなくなる。一方、上限を超えると、熱処理前に生成しているFe相が消失しにくく、NaZn13相単相化が困難になるため、磁気熱量効果が低下する。好ましくは12.6以上13.4以下の範囲である。
【0033】
H:H(水素)は磁気転移温度が室温近辺になるように制御するとともに、磁気熱量効果を増大するのに有効な元素である。希土類の総和に対するHの原子比率fは、1.3以上2.3以下の範囲で適正な磁気転移温度になる。好ましくは、1.5以上2.2以下の範囲である。
【0034】
本実施形態の磁気熱交換材料は、磁気熱量効果に伴う温度ヒステリシスが少ないので、磁気熱交換装置として熱交換サイクルを構成する材料となる場合にも、運転を安定的に行うことができる。また、主たる構成部材がFeであり、従来の磁気熱交換材料と比べて大幅に製造コストが低く、広く活用することができる。
【0035】
また、磁気熱交換材料の形状は、たとえば球状粒子であることが好ましい。ここで、「球状」とは、真球状のみならず、楕円状等の略球状、これらの表面に凹凸があるものなども含む。このような形状にすることによって、粒子の破壊に伴う微細粉の発生を防止するとともに、熱交換媒体の圧力損失の増大を抑え、熱交換効率を維持することができる。具体的には、磁気熱交換材料の80質量%以上がアスペクト比(長径と短径の比)2以下であることが好ましい。これは、ほぼ球形状の粒子にアスペクト比2以上の異形粒子を混在させて実験を行ったところ、異形粒子の混在量が20%以上の場合には熱交換媒体の流れに長期間さらすことにより微細粉が発生し、熱交換媒体の圧力損失が増大するからである。
【0036】
上記磁気熱交換材料を以下に示すような磁気熱交換装置に対して用い、高い熱交換能力を実現するためには、その熱交換デバイスの内部に充填された磁気熱交換材料と熱交換媒体との熱交換が十分に行われることが重要である。そのためには、磁気熱交換材料の比表面積を大きくすることが好ましい。磁気熱交換材料の比表面積を大きくするためには磁気熱交換材料を粒子状にし、粒径を小さく設定することが効果的である。一方、粒径が小さすぎると熱交換媒体の圧力損失が増大する。また、熱交換媒体の粘性(表面張力)、磁気熱交換装置に設けられたポンプの能力・圧力損失、熱交換デバイスのサイズなどの条件も、磁気熱交換材料の粒径の選択に影響を及ぼす。これらの点を考慮して、体積平均粒径(長径)が0.05mm以上1mm以下の範囲であることが好ましく、0.08mm以上0.8mm以下の範囲であることがより好ましい。
【0037】
本実施形態の磁気熱交換材料は一般的に知られている方法を用いて得ることが可能である。具体的にはアーク溶解法、鋳造法などによる合金作製および、合金に対する熱処理を行うことで得ることが出来る。更に、ロール急冷法やアトマイズ法などの速い冷却速度を持つ合金作製法を用いることで熱処理時間が大幅に短縮でき、さらに材料の薄帯化や球状化も可能となる。
【0038】
たとえば、次のような方法によって磁気熱交換材料を製造することができる。
まず、原料となる各構成元素の比率を所定の範囲で調合し、溶解によって均一化させる。原料の種類および配合比は、目的とする磁気熱交換材料の組成比(各元素の含有量)を考慮して決定する。
【0039】
次に、これらの素材を不活性雰囲気下で、高周波誘導炉で溶解した後、鋳込んで母合金とする。この時点では、多量のFe相と少量のLaFeSi相、La(Fe1-xSi13相が含まれており、1000~1300℃で100~500時間の不活性雰囲気下で熱処理して、La(Fe1-xSi13(NaZn13型結晶構造)のほぼ単相化が出来る。
【0040】
一方、溶融後の冷却速度を制御することで、上記単相化の時間を短くすることができる。具体的には、ロール急冷法やアトマイズ法で冷却することで、組織の微細化を行うことができ、その後の熱処理による単相化させる時間を大幅に短くすることができる。たとえば、1100~1300℃で5~24時間程度でほぼ単相化が可能となる。
【0041】
また、熱処理前には構成相としてFe相が最も多く、LaFeSi相も存在していたが、熱処理による原子拡散で、ほぼLa(Fe1-xSi13相が得られ、若干、Fe相とLaFeSi相が残存する。その量は、Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定において、NaZn13型結晶構造をもつLa(Fe1-xSi13相の(422)面の回折線強度に対する、Fe相の(110)面の回折線強度の比が、7%以下であること、CeFeSi型結晶構造をもつLaFeSi相の(101)面の回折線強度の比が、7%以下であることが好ましい。いずれも上限超えでは磁気熱量効果が低下する。残部が主相であるNaZn13型結晶構造のLa(Fe1-xSi13相であり、磁気熱量効果に影響を与えない不可避不純物レベルの他の相を含む。
【0042】
熱交換デバイス中に磁気熱交換材料を設置し、液体熱交換媒体による熱交換を行う際に、体積平均粒径が50μm以下であれば、圧力損失が大きくなり、熱交換効率が低下する。一方、体積平均粒径が1mmを超えると圧力損失は小さくなるが、磁気熱交換材料の表面積が減少するため、熱交換する場が減少し、熱交換効率が低下する傾向になる。また、圧力損失の観点から、磁気熱交換材料は、アスペクト比(長径と短径の比)が2以下の球状粒子となる形状が好ましい。その製造方法としては、ガスアトマイズ法、回転ディスク法、回転電極法など、特にプロセスは限定しない。
【0043】
特に、ガスアトマイズ法で作製すると球状粉を作製することが出来るため、組織の微細化による単相化の短時間化とともに、上記したとおり、実際に使用する場合、効率的な熱交換を行うのに適した構造が得られる。
【0044】
一方、ロール急冷法でも同様の微細組織が得られ、単相化は比較的容易に得られる。実際に熱交換デバイスとして用いる場合は、この形態の試料から球状試料を得るにはコストがかかりすぎるため、この場合はブロック状に焼結後、溝加工などを行い、熱交換の場とすることが好ましい。
【0045】
磁気熱交換材料への水素の導入は、NaZn13型結晶構造にほぼ単相化したLa(Fe1-xSi13試料を250~400℃の温度範囲、0.01~1MPaの水素雰囲気下で1~10時間処理することで、水素化が出来る。
【0046】
本発明の磁気熱交換材料を用いる例として、液体熱交換媒体を用いるAMR方式の磁気熱交換装置をあげる。これは磁気熱交換材料が充填された熱交換デバイスと、磁気熱交換材料への磁場の印加および除去を行う磁場発生手段と、低温側熱交換部と、高温側熱交換部を備えている。さらに、熱交換デバイス、低温側熱交換部および高温側熱交換部を接続して形成され、液体熱交換媒体を循環させる熱交換回路を備えている。そして、熱交換デバイスに充填された磁気熱交換材料の少なくとも一部が、本発明の磁気熱交換材料である。なお、熱交換デバイスへの本発明の磁気熱交換材料の装填は一種の磁気転移温度を持ったものでもいいが、複数種の磁気転移温度を持つ複数種の磁気熱交換材料を装填すると熱交換効率の良い熱交換デバイスになる。
【0047】
図1は、本発明の一実施形態にかかる磁気熱交換装置の模式的断面図である。この磁気熱交換装置は、液体熱交換媒体として、たとえば、水を用いる。熱交換デバイス10の低温端側LTには低温側熱交換部21が、高温端側HTには高温側熱交換部31が設けられている。そして、低温側熱交換部21と高温側熱交換部31との間には、熱交換媒体の流れる方向の切り替え手段40が設けられている。さらに熱交換媒体輸送手段である熱交換媒体ポンプ50が切り替え手段40に接続されている。そして、熱交換デバイス10、低温側熱交換部21、切り替え手段40、高温側熱交換部31は、配管によって接続され、液体熱交換媒体を循環させる熱交換回路を形成している。
【0048】
熱交換デバイス10には、磁気熱量効果を有する本発明の磁気熱交換材料12が充填されている。熱交換デバイス10の外側には、水平移動可能な永久磁石14が磁場発生手段として配置されている。
【0049】
次に、図2を用いて磁気熱交換装置の動作の概略を説明する。熱交換デバイス10に対向する位置(図2に示す位置)に永久磁石14が配置されると、熱交換デバイス10内の磁気熱交換材料12に対して磁場が印加される。このため、磁気熱量効果を有する磁気熱交換材料12が発熱する。この時、熱交換媒体ポンプ50と切り替え手段40の動作により、液体熱交換媒体を熱交換デバイス10から高温側熱交換部31に向かう方向に循環させる。磁気熱交換材料12の発熱により温度の上昇した液体熱交換媒体により、温熱が高温側熱交換部31に輸送される。高温側熱交換部31は高温側熱交換器32と高温側貯水槽34を有し、放熱器36に熱を輸送する。
【0050】
その後、永久磁石14を熱交換デバイス10に対向する位置から移動し、磁気熱交換材料12に対する磁場を除去する。磁場を除去することで、磁気熱交換材料12は吸熱する。この時、熱交換媒体ポンプ50と切り替え手段40を動作により、液体熱交換媒体を熱交換デバイス10から低温側熱交換部21に向かう方向に循環させる。磁気熱交換材料12の吸熱により冷却された液体熱交換媒体により、冷熱が低温側熱交換部21に輸送される。低温側交換部21は、低温側熱交換器22と低温側貯水槽24を有し、低温消費器26に冷熱を輸送する。
【0051】
永久磁石14の移動を繰り返し、熱交換デバイス10内の磁気熱交換材料12に対する磁場の印加・除去を繰り返すことにより、熱交換デバイス10内の磁気熱交換材料12に温度勾配が生じる。そして、磁場の印加・除去に同期した液体熱交換媒体の移動により、低温側熱交換部21の冷却を継続する。
【0052】
磁気熱交換装置は、磁気熱交換動作温度での磁気熱量効果の大きな磁気熱交換材料を用いることで、高い熱交換効率を実現することができる。
【0053】
他の磁気熱交換装置の例として図3に概略図を示し、また図4には磁気熱交換部の詳細を示す。この図で、100は磁気熱交換材料、200は熱交換デバイス、300は熱交換媒体導入配管、400は熱交換媒体排出配管、500aおよび500bは永久磁石、600aおよび600bは回転盤、250は低温消費器、260は放熱器を表す。熱交換媒体は、たとえば、水を使用することができる。
【0054】
図4に示すように、熱交換デバイス200は、矩形断面の筒型の形状を備えており、内部の磁気熱交換材料100は、たとえば、体積平均粒径0.3mmの球状であり、熱交換デバイス200内に58%の容積充填率で充填されている。熱交換デバイス200の一方端には、熱交換媒体の導入配管300が、他端には排出配管400が接続されている。なお、この図では同一形状の二つの熱交換デバイス200が設けられ、互いに平行に配置されている。
【0055】
二つの熱交換デバイス200を間に挟むように、一対の回転盤600a、600bが設けられ、回転盤600a、600bは共通軸700で支持されている。この軸700は二つの熱交換デバイス200の中央に位置している。回転盤600a、600bの周縁近傍の内側には、それぞれ永久磁石500a、500bが設置されている。永久磁石500a、500bは、互いに対向するとともに、ヨーク(図示せず)を介して互いに結合されている。これによって、互いに対を成す永久磁石500a、500bの間隙部分に、強い磁場空間が形成される。この例では、二つの熱交換デバイス200にそれぞれ対応するように、二対の永久磁石500a、500bが設けられ、軸700を中央に挟んで配置されている。
【0056】
回転盤600a、600bを90度回転させる毎に、永久磁石500a、500bが熱交換デバイス200に対して接近および離反を繰り返す。各一対の永久磁石500a、500bが各熱交換デバイス200の側壁に最も接近した状態では、永久磁石500a、500bの間に形成された磁場空間の中に熱交換デバイス200が入り、その中に収容されている磁気熱交換材料100に磁場が印加される。
【0057】
磁気熱交換材料100に対して磁場が印加された状態から、除去された状態に切り替わる際、電子磁気スピン系のエントロピーが増加し、格子系と電子磁気スピン系の間でエントロピーの移動が起こる。それによって、磁気熱交換材料100の温度が低下し、それが熱交換媒体に伝達され、熱交換媒体の温度が低下する。このようにして温度が低下した熱交換媒体は、熱交換デバイス200から排出配管400を通って排出され、外部の低温消費器(250:図4)に熱交換媒体として供給される。
【0058】
なお、上記実施の形態において、熱交換デバイス10内の磁気熱交換材料12、あるいは磁気熱交換作業室(熱交換デバイス)200の中の磁気熱交換材料100については、同一組成の1種の磁気熱交換材料が均一に充填されるものでも、異なる2種以上の組成を有する磁気熱交換材料が充填されるものであっても構わない。
【0059】
たとえば、磁気熱交換材料として、複数種の磁性材料が熱交換デバイス内に混合して充填されていても構わない。また、磁気熱交換材料として、複数の磁性材料が熱交換デバイス内に層状に充填されていても構わない。
【0060】
上記磁気熱交換材料を用いた磁気熱交換装置は、たとえば、冷凍システムを小型化することができるため、家庭用冷凍冷蔵庫、空調機、産業用冷凍冷蔵庫、大型冷凍冷蔵倉庫、液化ガス貯蔵・運搬用冷凍庫などの冷凍システム、または、暖房システムに適用することができる。
【実施例
【0061】
表1-1および1-2に示す組成比の合金を調製後、真空誘導溶解炉にて溶製した。その後、得られた合金を再溶解し、ガスアトマイズ法で球状粉を作製した。いずれの合金ともアスペクト比が2以下で、体積平均粒径が100~150μmの範囲の球状粒子に作製出来ていた。作製した球状粉は1150℃で12時間熱処理して、NaZn13型結晶構造のLa(Fe1-xSi13相比率を増やすとともにFe相、LaFeSi相を減少させた。この後、300℃、5時間、0.5MPaの水素雰囲気下で水素を吸蔵させ、室温まで冷却した。なお、発明例は試料No.1~22、比較例は試料No.23~32である。
【0062】
水素化処理したサンプルを取り出し、X線回折測定、水素量の分析を行った。Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定において、NaZn13型結晶構造をもつLa(Fe1-xSi13相の(422)面の回折線強度に対するFe相の(110)面の回折線強度比、およびCeFeSi型結晶構造をもつLaFeSi相の(101)面の回折線強度比を表1に示す。また、水素吸蔵量も組成式で表している。なお、図5に一例として、試料No.3のX線回折パターンを示す。図中で、●はLa(Fe1-xSi13相の(422)面、▲はLaFeSi相の(101)面、×はFe相の(110)面である。
【0063】
また、水素化処理して得られた、おおむね直径100μmの球状粉50個について、水素吸蔵による球状粉内のクラック数について調べた。50個中、クラック発生が2個以下のサンプルを「無」、3個以上のサンプルを「有」として表している。これらのサンプルについて、熱交換デバイスを想定した所定の治具に装てんした後、振動を一定時間与えて、その後、割れ具合を調べたところ、クラックが入っていた数と同等の球状粉の割れが確認できた。
【0064】
なお、水素化した試料について、磁化曲線の温度特性からキュリー温度(Tc)を測定するとともに、各温度で磁化の磁場依存性を測定し、外部印加磁場を0~2Tの間で変化させた時の磁化の値から、電子磁気スピン系のエントロピー変化量ΔSを下記数式1で求めた。
【0065】
【数1】
【0066】
結果を試料No.23を1として相対値で表1-1および1-2に示す。この表から明らかなとおり、いずれも電子磁気スピン系のエントロピー変化量ΔSは、発明例ではNo.23とほぼ同等、あるいはそれ以上の値が得られており、磁気熱交換の実用性能面では優位性が確認できる。
【0067】
【表1-1】
【0068】
【表1-2】
【0069】
以上、具体例を挙げながら発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 熱交換デバイス
12 磁気熱交換材料
14 永久磁石
21 低温側熱交換部
22 低温側熱交換器
24 低温側貯水槽
26 低温消費器
31 高温側熱交換部
32 高温側熱交換器
34 高温側貯水槽
36 放熱器
40 切り替え手段
50 熱交換媒体ポンプ
100 磁気熱交換材料
200 熱交換デバイス
250 低温消費器
260 放熱器
300 熱交換媒体導入配管
400 熱交換媒体排出配管
500a、500b 永久磁石
600a、600b 回転盤
700 回転軸
HT 高温場
LT 低温場
図1
図2
図3
図4
図5