IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ センゼン バイオロックス バイオテクノロジー カンパニー リミテッドの特許一覧

特許7583458化学物質送達システム、装置及びその方法
<>
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図1
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図2
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図3
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図4
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図5A
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図5B
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図6
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図7
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図8
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図9
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図10
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図11
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図12
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図13
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図14
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図15
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図16
  • 特許-化学物質送達システム、装置及びその方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】化学物質送達システム、装置及びその方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20241107BHJP
   C12N 5/073 20100101ALI20241107BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N5/073
【請求項の数】 55
(21)【出願番号】P 2022531402
(86)(22)【出願日】2020-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-01
(86)【国際出願番号】 CN2020132553
(87)【国際公開番号】W WO2021109948
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-07-06
(31)【優先権主張番号】201911211155.9
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201922117442.5
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201911211091.2
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522208911
【氏名又は名称】センゼン バイオロックス バイオテクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ホ ナン
(72)【発明者】
【氏名】シュ,イウェイ
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0130756(US,A1)
【文献】特表2008-532539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/00
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的材料を含む溶液を保持するために使用され、第1の表面領域を有する露出面を含む溝が設けられるベゼルと、
第1の端部、第1の端部に対向する第2の端部及び下端部を有し、それぞれ第2の表面領域を有する底面を含む複数の化学物質の収容に用いられる複数の区画を含み、前記第2の表面領域が前記溝の前記露出面の前記第1の表面領域よりも大きいチップとを備え、
前記ベゼル及び前記チップは、互いに対して移動し、前記複数の区画のそれぞれが前記溝の上に順次位置することにより、前記複数の区画のそれぞれに対応する化学物質が前記溝内の溶液に順次搬送されることを特徴とする、化学物質送達システム。
【請求項2】
前記第1の端部及び前記第2の端部は、対応するゲルによってセットされることを特徴とする、請求項1に記載の化学物質送達システム。
【請求項3】
前記複数の化学物質はゲル形態であり、それぞれの前記区画に固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の化学物質送達システム。
【請求項4】
前記チップの下端部には、透過性基板が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の化学物質送達システム。
【請求項5】
前記透過性基板は、フィルム、メッシュ膜、透過膜またはそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項4に記載の化学物質送達システム。
【請求項6】
前記フィルムは、水溶性フィルムから選択されることを特徴とする、請求項5に記載の化学物質送達システム。
【請求項7】
前記チップは、板状のフレームと、前記チップの縦軸に沿って順次配列される少なくとも2つの区画とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の化学物質送達システム。
【請求項8】
前記板状のフレームは、互いに平行になっている少なくとも2つの支持板と、前記少なくとも2つの支持板の間に延長し、それぞれが前記複数の区画のうちの2つを構成する少なくとも1つの仕切り板を含むことを特徴とする、請求項7に記載の化学物質送達システム。
【請求項9】
前記少なくとも2つの支持板は、前記少なくとも1つの仕切り板に可動に接続され、前記複数の区画は、サイズが自由に調整可能であることを特徴とする、請求項8に記載の化学物質送達システム。
【請求項10】
前記少なくとも2つの支持板の各々は、それぞれが前記少なくとも1つの仕切り板の端部が移動可能に配置される滑り溝を含む対向する側縁を有することを特徴とする、請求項9に記載の化学物質送達システム。
【請求項11】
前記溝は、溝底及び溝壁を含み、前記溝底と前記溝壁との間の夾角が90°以下であることを特徴とする、請求項1に記載の化学物質送達システム。
【請求項12】
前記システムは、前記ベゼルを支持するために用いられ、前記チップの下端部を前記ベゼルに接触するように前記チップを支持するための2本の相互に平行なレールを備えるベースをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の化学物質送達システム。
【請求項13】
前記レールは、前記チップに選択的に接続されていることを特徴とする、請求項12に記載の化学物質送達システム。
【請求項14】
前記レールは、前記チップに磁気吸着によって選択的に接続されていることを特徴とする、請求項13に記載の化学物質送達システム。
【請求項15】
前記ベースは、光透過領域が設置されており、前記ベゼルが前記ベースによって支持される場合、前記ベゼルの前記溝に対応することを特徴とする、請求項12に記載の化学物質送達システム。
【請求項16】
前記光透過領域は、中空構造であることを特徴とする、請求項15に記載の化学物質送達システム。
【請求項17】
前記光透過領域は、光透過加熱材料を含むことを特徴とする、請求項15に記載の化学物質送達システム。
【請求項18】
前記化学物質送達システムは、前記ベゼルと前記チップとの間の相対的な移動を与えるための駆動ユニットが設けられる台座をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の化学物質送達システム。
【請求項19】
前記ベゼルは、前記台座に対して固定されており、前記駆動ユニットは、前記チップに接続され、前記チップを前記ベゼルに対して移動させることを特徴とする、請求項18に記載の化学物質送達システム。
【請求項20】
前記駆動ユニットは、前記ベゼルの縦軸または横軸の少なくとも一方に沿って移動するように前記チップを駆動することを特徴とする、請求項19に記載の化学物質送達システム。
【請求項21】
前記チップは、前記台座に固定されており、前記駆動ユニットは、前記ベゼルに接続され、前記ベゼルを前記チップに対して移動するように駆動することを特徴とする、請求項18に記載の化学物質送達システム。
【請求項22】
前記駆動ユニットは、前記ベゼルを前記チップの縦軸または横軸の少なくとも一方に沿って移動するように駆動することを特徴とする、請求項21に記載の化学物質送達システム。
【請求項23】
前記台座は、光透過領域が設置されており、前記ベゼルが前記台座上にある場合、前記光透過領域が前記ベゼルの前記溝に対応することを特徴とする、請求項18に記載の化学物質送達システム。
【請求項24】
前記ベゼルの前記溝を開口が上向きになるように保持させるように前記溶液及び前記標的材料を含む前記ベゼルを固定し、前記溶液が前記ベゼルの上面で延長し、
前記チップを、上面が前記複数の区画の少なくとも1つに接触する前記ベゼルに配置し、
前記チップまたは前記ベゼルを、前記チップの複数の区画のうちの1つ及び前記ベゼルの前記溝に対応するように駆動し、前記区画内のそれぞれの化学物質が前記溝の前記溶液に移動されることを含むことを特徴とする、請求項1に記載の化学物質送達システムを使用する、方法。
【請求項25】
前記チップまたは前記ベゼルを移動させることは、前記チップを、前記ベゼルに対して第1の位置から第2の位置に移動させ、前記第1の位置において、前記ベゼルの前記溝と前記複数の区画にピッチがあり、かつ、前記第2の位置において、前記チップの前記複数の区画の1つが前記ベゼルの前記溝に揃うことを含むことを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ベゼルの前記溝に前記溶液及び前記標的材料を添加することをさらに含むことを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記チップには、異なる化学物質の連続送達を可能にするために複数の区画を有することを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
各前記化学物質と前記溝内の前記溶液との接触時間を制御するために、少なくとも前記複数の区画のサイズの1つまたは前記チップの移動速度を調整することをさらに含むことを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
板状のフレーム構造と、
互いに平行に配置された少なくとも2つの支持板と、
隣接する2つの前記支持板の間に延長し、複数種類の化学物質を収容する複数の独立した区画を構成する少なくとも1つの仕切り板と、を含み、
ゲル形態の前記複数種類の化学物質が対応する区画に固定されていることをさらに含むことを特徴とする、化学物質送達装置。
【請求項30】
前記ゲルの下面は、前記各区画の下端部と面一に揃うことを特徴とする、請求項29に記載の化学物質送達装置。
【請求項31】
前記各区画は、前記ゲルが延在する固定溝を有する内面を備えることを特徴とする、請求項29に記載の化学物質送達装置。
【請求項32】
前記装置は、第1の端部、第1の端部に対向する第2の端部及び下端部を備え、前記装置の下端部は、透過性基板が設置されていることを特徴とする、請求項29に記載の化学物質送達装置。
【請求項33】
前記透過性基板は、フィルム、メッシュ膜、透過膜またはそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項32に記載の化学物質送達装置。
【請求項34】
前記フィルムは、水溶性フィルムから選択されることを特徴とする、請求項3に記載の化学物質送達装置。
【請求項35】
前記少なくとも2つの支持板は、前記少なくとも1つの仕切り板に可動に接続され、前記区画は、サイズが自由に調整可能であることを特徴とする、請求項29に記載の化学物質送達装置。
【請求項36】
前記少なくとも2つの支持板の各々は、それぞれが前記少なくとも1つの仕切り板の端部が移動可能に配置される滑り溝を含む対向する側縁を有することを特徴とする、請求項35に記載の化学物質送達装置。
【請求項37】
前記複数種類の化学物質は、ゲルであり、前記区画がそれぞれのゲルによってセットされることを特徴とする、請求項29に記載の化学物質送達装置。
【請求項38】
送達されるべき複数種類の化学物質を複数種類のヒドロゲルの形態として調製し、及び、
調製された前記複数種類のヒドロゲルを生体材料に接触させ、前記複数種類のヒドロゲル内の化学物質を生体材料に順次拡散させて、前記複数種類の化学物質の送達を完了させることを含み、
ベゼルに前記生体材料を予め充填し、次いで、調製された前記複数種類のヒドロゲルの移動操作を行い、生体材料と調製された前記複数種類のヒドロゲルの接触を完了させることをさらに含むことを特徴とする、ヒドロゲルを用いた生体材料への化学物質送達方法。
【請求項39】
生体材料を溶液で満たされている溝が設置されるベゼルに予め充填することを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
調製によって得られたヒドロゲルを固定するための支持板と区画を含む板状のフレーム構造を与え、前記ヒドロゲルが前記区画内に固定されることをさらに含むことを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記区画の被覆面積は、前記ベゼルにおける前記溝の開口面積以上であることを特徴とする、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記ヒドロゲルの底面は、前記区画の開口と面一に揃うか、または前記区画の開口から延出することを特徴とする、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記支持板は、前記ヒドロゲルが鉛直方向で前記溝内の溶液に直接接触するように、前記ベゼル表面に垂直な方向に移動することを特徴とする、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
前記支持板は、前記ヒドロゲルが水平方向で前記溝内の溶液に徐々に接触するように、前記ベゼル表面の方向に水平に移動することを特徴とする、請求項40に記載の方法。
【請求項45】
前記支持板は、前記ベゼル表面に対して相対的に移動し、前記区画の前端部及び後端部は、開放構造であることを特徴とする、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
送達されるべき化学物質をヒドロゲルの形態として調製するステップにおいて、前記ヒドロゲルを前記区画に同時に固定することをさらに含むことを特徴とする、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記区画は、前記板状のフレーム構造に対応しており、前記ベゼルの前記溝に順番にまたがって移動されることを特徴とする、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記区画のサイズは、同一であって、さらに、各前記区画における前記ヒドロゲルと前記溝内の溶液との接触時間を制御するように、前記ベゼルに対する前記支持板の移動速度を調整することを含むことを特徴とする、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
ヒドロゲルを接触させるステップは、前記支持板を前記ベゼルに沿って均一な速度で移動させることをさらに含み、前記方法は、各区画におけるヒドロゲルと前記溝内の溶液との接触時間を制御するように、各前記区画のサイズを調整することをさらに含むことを特徴とする、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
調製されたヒドロゲルを固定して、生体材料を前記調製されたヒドロゲルに移し、前記生体材料と前記調製されたヒドロゲルとの接触を完了させることを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項51】
前記ヒドロゲルは、板状構造を有し、前記生体材料を配置するためのレセプタクルを備えることを特徴とする、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記ヒドロゲルは、独立した溝状構造を有し、1つのフレームに固定して埋め込まれていることを特徴とする、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記ヒドロゲルは、物理的ヒドロゲルまたは化学的ヒドロゲルのいずれか1つであることを特徴とする、請求項38~52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
送達されるべき化学物質をヒドロゲルの構造形態として調製するステップにおいて、以下のステップ、すなわち、
透過性凍結保護剤を基本培地に添加して、2倍濃度の透過性凍結保護剤溶液を得、
非透過性凍結保護剤を基本培地に添加して、2倍濃度の非透過性凍結保護剤溶液を得、
アガロースを80~90℃の2倍濃度の非透過性凍結保護剤溶液に溶解して、0.1~6%の濃度範囲のアガロース溶液を得、
2倍濃度の透過性凍結保護剤溶液を前記アガロース溶液に1:1の比率で添加して、そして、混合溶液を形成して固化させることを含むガラス化保存液のアガロースゲルを調製することを含むことを特徴とする、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記化学物質は、凍結保護剤であり、前記生体材料を前記ヒドロゲルに接触させるステップにおいて、前記ヒドロゲルを1つまたは複数の卵または胚に接触させ、前記ヒドロゲル中の前記凍結保護剤を、前記1つまたは複数の卵または胚に拡散させることによって前記1つまたは複数の卵または胚に送達することを含むことを特徴とする、請求項38~53のいずれか1項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質送達技術の分野に属し、具体的に、生体材料または溶液に化学物質を送達するための化学物質送達システム、装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学物質を生体材料または基礎液に正確に送達することにより、化学物質を生体材料または基礎液と特定的に作用・反応させることは、多くの用途や研究分野において重要である。例えば、卵・胚の凍結処理工程では、卵・胚を取り出し、基礎培養液(Basic solution, BS)、平衡溶液(Equilibrium solution, ES)及びガラス化保存液(vitrification solution, VS)にこの順で接触処理後、次いで液体窒素で凍結させる必要がある。
【0003】
卵・胚と異なる化学物質との接触処理工程において、化学物質の濃度に応じて、卵・胚と異なる化学物質との接触時間を正確に制御し、卵・胚の凍結処理効果を最終的に保証する必要がある。例えば、卵・胚とガラス化保存液との接触時間の制御については、ガラス化保存液の毒性が高いため、ガラスピペットを用いた従来の方法では、卵・胚の平衡液からの移し及びガラス化保存液への移しに60秒という厳しい時間制限が必要であった。異なる化学物質に対する卵・胚の接触処理を扱う従来の手動の方法では、通常、溶液から卵・胚をピペットで吸引し、異なる溶液が入った次の容器に移す。平衡溶液からガラス化保存液へのピペットによる卵・胚の移動は、限られた時間内に正確に操作するため、作業者は顕微鏡下で絶対的な集中力を維持する必要がある。また、作業者は、低温保存容器における卵・胚の周囲の残留溶液を最小限に抑える必要がある。続いて、低温保存容器は適時に液体窒素に入れ、後続の凍結処理を行う必要がある。
【0004】
しかし、卵・胚は0.1~0.2mm程度の大きさしかないため、肉眼ではほとんど見えず、作業者は光学顕微鏡を使って溶液から卵・胚を吸引し、次の異なる溶液が入った容器に移し替える必要がある。このとき、卵・胚の吸入・吸引の工程において1つ前の溶液が次の溶液に一緒に搬送され、次の溶液の濃度や組成に影響を与えることが不可避である。このように、顕微鏡で卵・胚の位置をリアルタイムに観察する場合、作業者は卵・胚の吸入・吸引のタイミングを正確に制御するだけでなく、ガラスピペットに溶液を吸引しすぎないように正確に制御する必要があるため、従来の方法を利用する場合、作業者への要求は非常に高く、操作効果の安定性は非常に低くなる。
【0005】
このため、オーストラリアのGenea Limitedは、作業者が卵・胚凍結処理工程中に異なる化学物質の自動送達動作を完了させることに代わる卵・胚自動ガラス化凍結操作プラットフォーム(Gavi)を開示し、手作業の困難さや不安定さを軽減した。卵・胚自動ガラス化凍結操作プラットフォーム(Gavi)の場合、まず、作業者は卵・胚を適切なベゼルに載せ、次に、事前のプリプログラミングや位置決めに従って、卵・胚自動ガラス化凍結操作プラットフォーム(Gavi)のロボットアームが決められた時間内に卵・胚がある基礎液に異なる化学物質を順次滴下・吸引し、それによって、該工程の自動操作を達成する。ただし、該自動操作工程において、水よりもガラス化保存液の密度が高いため、卵・胚は通常、ガラス化保存液に浸されると浮遊状態になり、液体の流れに合わせて移動する傾向があり、この時、卵・胚の自身重力だけでベゼルの底に沈むため、ロボットアームがピペットを介して化学物質の送達と吸引を行うときに、誤って卵・胚を洗い流したり吸引したりするリスクがある。このため、該方法では、溶液の吸引量を減らすことで、卵・胚の誤吸引のリスクを減らし、ベゼル内に溶液が多く残るようにし、ベゼル中の過剰な溶液は熱質量の増加につながり、その後の凍結速度に影響を与え、ガラス化凍結プロセスに悪影響を与え、ひいては、卵・胚の凍結処理の失敗を招くことになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、卵・胚自動ガラス化凍結操作プラットフォーム(Gavi)は、ロボットアーム構造を採用しているため、プラットフォーム全体の構造が非常に大きく、設置や使用に大規模な実験室が必要となり、実験室の建設や維持・管理コストが高くなり、その普及や卵・胚の凍結コスト低減には不向きな面がある。化学物質の送達及び制御が改善されるより小さな機器が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、溶液の収容に用いられる溝が設けられているベゼルとチップとを備える化学物質送達システムが提供される。上記の溝は、第1の表面領域を有する開放面を有する。上記の溶液は標的材料を含む。上記のチップは、第1の端部、第1の端部に対向する第2の端部及び下端部を含む。チップは、第2の表面領域を有する底面を含む1種類または複数種類の化学物質の収容に用いられる1つまたは複数の区画を含む。上記の第2の表面領域は、上記の第1の表面領域よりも大きい。チップは、ベゼルとの間における相対的な移動が可能である。上記の1つまたは複数の区画のうちの1つが上記の溝に位置する場合に、上記の1つまたは複数の区画における対応する化学物質が上記の溝内の溶液に搬送される。上記の区画内の送達されるべき化学物質は、上記の溝内の溶液に完全に被覆して接触し、両者の間に自由な拡散を生じることができる。該システムは、化学物質送達工程の容易さ、安定性、信頼性を向上させるものである。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、ベゼルの溝を開口が上向きになるように保持させるように溶液及び標的材料を含むベゼルを固定し、ここで、上記の溶液がベゼルの上面で延長し、チップを、上面が1つまたは複数の区画の少なくとも1つに接触するベゼルに配置することを含む化学物質送達システムを利用する方法を提供する。上記の方法は、チップまたはベゼルを、チップの1つまたは複数の区画のうちの1つがベゼルの溝に対応するように移動し、ここで、区画内のそれぞれの化学物質が溝の溶液に移動されることをさらに含む。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、板状のフレーム構造、互いに平行に配置されている少なくとも2つの支持板、及び隣接する2つの支持板の間に延長し、少なくとも1種類の化学物質を収容する複数の独立した区画をセットする少なくとも1つの仕切り板を含む化学物質送達装置またはチップを提供する。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、上記の送達されるべき化学物質をヒドロゲルの形態として調製する。非流動性または固体のヒドロゲルと胚の間の溶液の拡散は、胚への化学物質の送達を可能にする。したがって、これは、液体吸引中の過剰な液体の流れや、ベゼルから胚を意図せずに取り出すことによる胚喪失のリスクを低減し、化学物質送達時の胚の保護を向上させ、工程全体の信頼性と安定性を向上させることができる。同時に、溶液の直接送達中に胚が溶液とともに自由に浮遊することを回避し、化学物質送達中の胚の迅速かつ正確な制御を保証し、操作の利便性と効率を向上させる。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、溶液をヒドロゲルの形態として調製し、胚は正常な状態のままである。胚を溝に予め充填し、ヒドロゲルを移動するか、または化学物質を胚に送達するために固定したヒドロゲルに移すかどうかにかかわらず、胚は化学物質送達工程全体を通して正常な状態にあり、その後の低温保存工程を直接実行する。したがって、低温保存前の胚の不必要な処理を最小限に抑えることができ、胚への不必要な処理によるダメージや影響を回避することができ、胚の保護を向上させることができる。また、従来の解凍プロトコルでは、付加の胚回復工程を必要とせず、胚の解凍や復元を直接に行い、解凍や復元の工程中の胚の処理を最小限に抑え、胚の保護を向上させ、胚低温保存工程全体の品質と成果を高める。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、支持板は、ヒドロゲルの支持及び固定に用いられる。上記の支持板は、ヒドロゲルの固定及び移動を正確に行うように、直接の制御及び使用が可能である。このようにして、ヒドロゲルをより正確に操作して、胚への化学物質の正確な送達を確保するだけでなく、ヒドロゲルへの直接の接触を減らして、ヒドロゲルの汚染や損傷を避け、ヒドロゲルの保護を向上させることができる。
【0013】
本明細書に記載の添付の図面は、本発明のさらなる理解を提供し、本出願の一部を構成するために使用され、本発明の例示的な実施例及びそれらの説明は、本発明の説明に用いられ、本発明の不当な制限を構成するものではない。図面は、以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施例による化学物質送達システムの構造模式図である。
図2図2は、本発明の一実施例によるベゼルの外形構造模式図である。
図3図3は、本発明の一実施例によるチップの外形構造模式図である。
図4図4は、図1による化学物質送達システムを用いた胚ガラス化凍結処理工程における化学物質送達の模式フローチャートである。
図5A図5Aは、本発明の一実施例で具体化されるベゼルの縦軸に沿ったチップの移動中にチップ内の仕切り板が溝内の溶液に接触している場合の一部模式図である。
図5B図5Bは、図5(A)で具体化されるベゼルの縦軸に沿ったチップの移動中にチップのゲルが溝内の溶液に接触している場合の一部模式図である。
図6図6は、図2に示されるベゼルの断面模式図である。
図7図7は、図1に示される化学物質送達システムの断面模式図である。
図8図8は、本発明の一実施例によるチップ構造模式図である。
図9図9は、本発明の一実施例で示されるベゼルの縦軸に沿ったチップの移動中にチップの支持板が溝内の溶液に接触している移動中の模式図である。
図10図10は、本発明の一実施例に示される基礎液で平衡溶液及びガラス化保存液を卵・胚に順次に送達するフローチャートである。
図11図11は、本発明の一実施例に示される化学物質送達システムの構造模式図である。
図12図12は、図2に示される化学物質送達システムのベース構造模式図である。
図13図13は、本発明の一実施例に示される化学物質送達システムの構造模式図である。
図14図14は、本発明の一実施例に示される化学物質送達システムのレールスライダー構造模式図である。
図15図15は、本発明の一実施例に示されるヒドロゲルの構造模式図である。
図16図16は、本発明の一実施例に示される胚ガラス化工程で順次実行される化学物質送達フローチャートである。
図17図17は、本発明の一実施例に示されるヒドロゲルの調製フローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本明細書に開示される本発明の様々な非限定的な実施形態は、本明細書に開示される装置、システム、方法及び工程の構造、機能及び使用原理の一般的理解を提供するために具体的に説明されている。これらの非限定的な実施形態の1つまたは複数の例が、本明細書の添付図面と共に示されている。本発明の作成において具体的に説明され、明細書の添付図面に図示されたシステム及び方法は、非限定的な実施形態であることは、当業者には理解され得るであろう。1つの非限定的な実施形態に関連して説明または記述された特徴は、他の非限定的な実施形態の特徴と組み合わされてもよい。これらの修正及び変更は、本発明の創作に開示される範囲に含まれる。
【0016】
本明細書全体を通して「異なる実施例」、「いくつかの実施例」、「1つの実施例」、「いくつかの例示的な実施例」、「1つの例示的な実施例」または「実施例」という用語は、任意の実施例に関連する特定の特徴、構造または特性が、少なくとも1つの実施例に含まれることを意味している。したがって、「異なる実施例において」、「いくつかの実施例において」、「1つの実施例において」、「いくつかの例示的な実施例において」、「1つの例示的な実施例において」または「1つの実施例において」という表現のすべては、必ずしも同一の実施例を意味するものではない。さらに、これらの特定の特徴、構造または特性は、1つまたは複数の実施例と任意の方法で組み合わせることができる。
【0017】
以下の例示的な実施例では、本明細書の添付図面と併せて胚ガラス化中に異なる化学物質の化学的送達を例とした本発明の応用を説明する。また、上記の実施例は、胚ガラス化以外の用途にも使用することができる。
【0018】
従来の卵・胚の凍結保存方法における化学物質送達の困難な操作及び不十分な安定性の課題を解決するために、本願発明の実施例は化学物質送達システムを含む。該システムは、上記の卵・胚凍結保存工程における課題を解決するだけでなく、他の生体材料や基礎液の化学物質送達にも応用することが可能である。また、本願発明の実施例は、化学物質を生体材料に送達するための方法を含む。さらに、本願発明の実施例は、化学物質を生体材料に送達するためのヒドロゲルを調製する方法を含む。本願発明の実施例は、凍結保護剤含有ヒドロゲルを用いて生体材料を保存することを含む低温保存プロセスをさらに含む。
【0019】
一実施例において、該化学物質送達システムは、ベゼル及びチップを含む。該ベゼルは、溶液を配置するための1つの溝を含む。チップは、送達されるべき化学物質が保管される区画を含む。上記の区画の面積は、溝の開口面積よりも大きい。一実施例において、溝の溝底と溝壁との間の夾角が90°以下である。ベゼルは、チップに沿った相対的な移動が可能である。区画中の送達されるべき化学物質は、溝内の溶液を完全に被覆し、溶液と互いに拡散することができる。一実施例において、化学物質は、1種類の溶液であって、チップの区画に固定または埋め込まれている場合、該送達されるべき化学物質はゲルの形態であり得る。
【0020】
一実施例において、区画は、1つの容器を構成するように、下端部が透過性フィルムであってよい。上記の透過性フィルムは、送達されるべき化学物質の支持を与える。透過性フィルムは、有孔フィルム、メッシュ膜、透過膜またはその組み合わせから選択される。透過性フィルムは、水溶性フィルムから選択されてよい。
【0021】
一実施例において、チップは、板状のフレーム構造が用いられ、送達されるべき化学物質をそれぞれ固定するための順次配列される区画が複数設置されている。チップの両端部に設置されている区画は、開放端部(すなわち、開放した前端部と後端部)を有する。
【0022】
一実施例において、チップは、少なくとも2つの支持板と少なくとも1つの仕切り板とを備えている。ここで、2つの支持板は、互いに平行になり、仕切り板は、隣接する2つの支持板の間にあり、複数の互いに独立した区画を構成する。支持板と仕切り板の間に可動な接続を行え、構成された区画は、サイズが自由に調整可能である。隣接する2つの支持板の対向面は、スライド溝をそれぞれ設けることが可能である。仕切り板の端部は、スライド溝に位置し、自由な摺動が可能である。
【0023】
一実施例において、上記のシステムは、ベゼルの支持に用いられ、2本の相互に平行なレールが配置されるベースを含む。上記のレールは、上記のチップの下端部が上記のベゼルの上端部に接触するように、上記のチップを支持及び挟持するために使用される。レールとチップ間の接続は、取り外し可能である。レールとチップは、磁石で接続することができる。これらのレールは、磁性材料で作られていてもよく、該チップは1つの磁石で構成されていてもよい。
【0024】
一実施例において、上記のベースは、溝がある位置に対応する光透過領域を有する。上記の光透過領域は中空構造を有し得る。上記の光透過領域は、光透過性加熱板構造を有し得る。
【0025】
一実施例において、台座は、光を透過することができ、溝がある位置に対応する1つの中空領域をセット可能である。
【0026】
一実施例において、上記のシステムは、駆動ユニットを備える台座を含む。ベゼルは、台座に対して相対的に固定されている。駆動ユニットはチップに接続され、チップをベゼルに対して水平に移動するように駆動する。さらにまたは代替的に、チップは台座に対して相対的に固定されている。駆動ユニットはベゼルに接続され、ベゼルをチップに対して水平に移動するように駆動する。
【0027】
一実施例において、以下のステップ:S1:溶液を収容するベゼルを固定し:上記の溝を開口が上向きになるように保持させるようにベゼルを水平に固定し、溝の溝底と溝壁との間の夾角が90°以下になり;S2:送達されるべき化学物質を含むチップを配置し;送達されるべき化学物質を含むチップを上記のベゼルに配置し、化学物質をベゼルの上面に接触させ;チップと溝の間に、チップによる溝の被覆を避けるために離間距離があり;S3:溶液の液面が上記の溝よりも高くなるように、溶液を上記のベゼルの溝に搬送し;及びS4:チップを上記のベゼルに沿って移動させることを含む化学物質送達システムを使用する方法を開示した。これにより、送達されるべき化学物質とベゼル内の溶液との間の直接接触を可能にし、化学物質と溶液との間の拡散が可能になる。
【0028】
一実施例において、チップには、異なる化学物質の順次送達を可能にするために、複数の区画を有する。区画のサイズ及びチップの移動速度を調整することによって、送達されるべき化学物質と溝内の溶液との接触時間を制御することが可能になる。
【0029】
本発明は、胚凍結保存中の該化学物質送達システムが用いられた応用を提供するものである。卵・胚及び基礎液は、ベゼルの溝に予め充填される。送達されるべき化学物質は、チップの区画に順次に固定され、被覆面積(すなわち、区画の面積)がベゼルの開口面積よりも大きい。ベゼルに沿ったチップの移動により、化学物質が溝内の溶液に順次接触し、ゲル内の化学物質溶液と溝内の溶液との間の拡散が可能になる。このようにして、化学物質の、溝溶液への送達、または溝溶液からの除去を達成することができる。送達されるべき化学物質は、溝を完全に覆う場合、交換が拡散によって行われ、これにより、過剰な液体の流れや、液体吸引中にベゼルから胚を意図せずに取り出すことによる胚喪失のリスクを低減した。化学物質送達システムを用いた実施例を胚凍結保存工程に使用する例は、化学物質送達中の胚の保護を改善し、工程全体の信頼性や安定性を増加させるのに有益である可能性がある。
【0030】
一実施例において、送達されるべき化学物質溶液は、チップとの接触及び固定を容易にし、操作の利便性を向上させるため、ゲル形態であってよい。両者が接触すると、ゲルによって化学物質が溝内の溶液に出入りする場合の効率的な拡散を与え、化学物質の送達と除去が効率的に行われる。
【0031】
一実施形態において、溝のサイズを調整することにより、溝に残っている最終溶液の容積を精密に制御することができる。これにより、胚のさらなる凍結保存のためのより良い品質と結果が保証される。
【0032】
一実施形態において、送達されるべき化学物質(すなわち、化学物質を含むゲル)は、下面が区画の下端部と面一に揃う。
【0033】
一実施例において、送達されるべき化学物質(すなわち、化学物質を含むゲル)は、下面が区画の下端部から延出する。
【0034】
一実施例において、区画の内面は、ゲルを補助的に支持するための固定溝を含む。
【0035】
一実施例において、区画の底部は、容器構造を構成し、送達されるべき化学物質の支持を与える透過性基板を含む。透過性基板は、フィルム(例えば透過膜)、メッシュグリッド、塗膜などを含み得る。これらの透過性フィルムは、水溶性フィルムから選択可能である。
【0036】
一実施例において、支持板と仕切り板を使用して可動接続を実現し、かつ、区画のサイズを自由に調整することができる。
【0037】
一実施例において、隣接する2つの支持板の対向側は、それぞれ滑り溝を有し、仕切り板の端部は、滑り溝に位置し、滑り溝内で自由に摺動可能である。
【0038】
一実施例において、チップの区画の両端部は開放構造を有する。チップの前端部と後端部が開放になっている場合がある。
【0039】
一実施例において、化学物質の送達方法は、以下のステップ、すなわち、ステップST1:送達されるべき化学物質をヒドロゲルの形態として調製し;ステップST2:ステップST1で調製されたヒドロゲルを生体材料に接触させ、ヒドロゲルの溶液を生体材料に拡散させて化学物質の送達を完了させることを含み得る。
【0040】
一実施例において、上記のステップST1には、ヒドロゲルの固定に用いられる区画が設けられる支持板を有する板状の構造でヒドロゲルを固定する。
【0041】
一実施例において、上記のステップST1には、ヒドロゲルを支持板に接続する場合、ヒドロゲルの下端部面は、区画の開口と面一に揃うか、または上記の区画の開口から延出する。
【0042】
一実施例において、上記のステップST1には、支持板には、複数の区画が設けられ、同時に複数のヒドロゲルが固定される。
【0043】
一実施例において、上記のステップST1には、送達されるべき溶液を、物理的ヒドロゲルまたは化学的ヒドロゲルのいずれか1つとして調製される。
【0044】
一実施例において、上記のステップST2には、生体材料を溝が設けられるベゼルに予め充填し、溝に溶液を充填する。
【0045】
一実施例において、区画の開口面積は、ベゼルにおける溝の溝口面積よりも大きい。
【0046】
一実施例において、上記のステップST2には、生体材料が予め固定された後、ステップST1で調製されたヒドロゲルが生体材料に接触するまで移動される。
【0047】
一実施例において、上記のステップST2には、支持板を、上記のヒドロゲルが鉛直方向で上記の溝内の基礎液に直接接触するように、上記のベゼル表面に垂直な方向に移動させる。
【0048】
一実施例において、上記のステップST2には、支持板を、ヒドロゲルが水平方向で溝内の基礎液に徐々に接触するように、ベゼルの表面に水平に移動させる。
【0049】
一実施例において、支持板をベゼル表面に対して相対的に移動し、上記の区画の両端部が開放端部(すなわち、開放した前端部と開放した後端部)を有する。
【0050】
一実施例において、複数の区画は、支持板に散在し、また、ステップST2に、ベゼルの溝に順番にまたがる。
【0051】
一実施例において、区画のサイズは同一であって、また、ステップST2に、ベゼルに対する支持板の速度を調整することにより、各区画におけるヒドロゲルと溝内の基礎液との接触時間を制御する。
【0052】
一実施例において、区画のサイズは同一ではなく、また、ステップST2に、各区画のサイズを調整することにより、支持板をベゼルに沿って均一な速度で水平に移動させ、各区画におけるヒドロゲルと溝内の基礎液との接触時間を制御することができる。
【0053】
一実施例において、上記のステップST2には、ステップST1で調製されたヒドロゲルを固定して、生体材料をステップST1で調製されたヒドロゲルに移し、生体材料とステップST1で調製されたヒドロゲルとの接触を完了させる。
【0054】
一実施例において、上記のステップST1には、送達されるべき化学物質を板状構造のヒドロゲル形態として調製し、生体材料を配置するためのレセプタクルを設置する。
【0055】
一実施例において、上記のステップST1には、送達されるべき化学物質を独立した溝形構造のヒドロゲル形態として調製し、必要に応じてヒドロゲルを固定して埋め込む。
【0056】
一実施例において、ステップST1には、ガラス化溶液ヒドロゲルを調製する方法は、透過性凍結保護剤を基本培地に添加して、2倍濃度の透過性凍結保護剤溶液を取得するステップT1と、非透過性凍結保護剤を基本培地に添加して、2倍濃度の非透過性凍結保護剤溶液を取得するステップT2と、アガロースを80~90℃の2倍濃度の非透過性凍結保護剤溶液に溶解して、0.1~6%のアガロース溶液を取得するステップT3と、2倍濃度の透過性凍結保護剤溶液を80~90℃のアガロース溶液に1:1の比率で添加して、撹拌、冷却、固化した後、ガラス化保存液のアガロースゲルを取得するステップT4と、を含む。
【0057】
このような化学物質送達方法は、液体吸引中の過剰な液体の流れや、ベゼルから胚を意図せずに取り出すことによる胚喪失のリスクを完全に回避し、工程全体の信頼性と安定性を向上させ、その後の凍結保存工程を適切に実施することができるようになる。
【0058】
このような化学物質送達システムは、シンプルでコスト効率が高いだけでなく、わずかなスペースしか必要としない。複数群の生体材料を同時に処理することで、及びより効率的な処理をより低いコストで実現することができる。
【0059】
図1~7を参照すると、一実施形態において、化学物質送達システムは、ベゼル1と化学物質送達装置、例えばチップ2を含む。ベゼル1は、処理されるべき標的生体材料5及び/または溶液6を配置するために用いられる。標的生体材料は、例えば胚5であり得る。チップ2は、順次に送達されることができる1つまたは複数の送達されるべき化学物質を含む。ベゼル1とチップ2内の一方または両方は、互いに対して移動するように配置され得る。以下に、相対的な動きに関する記載がある場合、その移動はベゼル1とチップ2のいずれか一方に関するものであるが、上記の移動はベゼル1とチップ2のいずれか一方又は両方であり得ることは、当業者には理解されるところであろう。
【0060】
図2に示すように、ベゼル1はハンドル11、シート12、溝13または凹壁から構成されている。ここで、溝13は、シート12の前端または遠位端の近くに位置し、処理されるべき胚5と関連溶液6を収容するために使用され、ハンドル11は、シート12の後端または近位端に位置する。溝13のサイズは、処理されるべき胚5の数やサイズ、及び収容される溶液6の容量に応じて調整することができる。この実施例において、溝13のサイズは、その後の凍結処理時の溶液6の残留量に応じて直接設計されるため、最終的に溝13内の溶液6の残留量を精密に制御することができる。図1~2には1つの溝13のみが示されているが、いくつかの実施例において、1つのベゼル1は処理されるべき胚5の数に応じて、複数の溝13を含み得る。このように、複数の胚5または他の生体材料は同一のベゼル1で同時に処理することで、効率化を図ることができる。
【0061】
一実施例において、ベゼル1は、従来の機器やシステムと連携して胚の凍結処理をしやすくするために、ストリップ構造を採用し、それにより、ベゼル1の適合性を高めている。他の実施例において、使用条件や要求に応じて、ベゼル1は、平板型構造など、溝を有する他の構造として設計することができる。ベゼル1のハンドル11は、ラベルを設置して処理されるべき胚の関連情報をマークするのに十分な幅を持つ構造とする。シート12は、厚みが均一で、材料が透明で、生体適合性が良好で、熱伝達が良好なプラスチック材料でできており、胚の保存適性とその後の凍結中の熱伝達速度を保証するものである。
【0062】
図3を参照すると、一実施例において、チップ2は、第1の端部201と、第1の端部201に対向する第2の端部202、及び下端部203を有し、板状のフレーム構造が用いられ、送達されるべき化学物質を収容するための順次配列される独立した区画22が複数設置されている。この実施例において、チップ2は2つの支持板20と2つの仕切り板21より構成されるフレーム構造が用いられる。支持板20及び仕切り板21の数は、例えば、必要な区画22の数に応じて変化させることができる。例えば、支持板20及び仕切り板21の数を調整することによって、9つの正方形の独立した区画22からなるグリッド分布を形成し、9種類の異なる化学物質または溶液の同時送達を可能にする。区画22のサイズ及び形状は変化し得る。一実施例において、区画22は同じサイズの矩形区画である。別の実施例において、区画の形状とサイズは溝13内の溶液6と対応する区画22内の各ヒドロゲル23との間の所望の接触時間に従って調整することができる。例えば、区画22はベゼル1の表面に沿って移動するために、異なるサイズ(例えば、移動軸に平行なサイズ)を有し得る。
【0063】
一実施例において、支持板20は互いに平行に保たれ、仕切り板21も平行に保たれ、かつ、2つの平行な仕切り板21は2つの支持板20の間に位置し、2つの支持板20に対して垂直になる。2つの仕切り板21は2つの支持板20の間の領域を3つの互いに独立した区画22に分割し、それぞれ異なる化学物質または材料の配置に用いられる。
【0064】
一実施例において、送達されるべき化学物質の量、種類、濃度要求に応じて、区画22の数を柔軟に調整することで、隣接する化学物質間の濃度勾配を精密に制御し、化学物質送達の精度を確保することができる。
【0065】
胚ガラス化の例示的な適用において、いくつかの実施例において、溶液6は、基礎培養液であり、最初に胚5と共に溝13に直接入れられてよい。チップ2の3つの区画22には、それぞれ基礎培養液、平衡溶液及びガラス化保存液を備えている。各溶液には、凍結保護剤が含まれ得る。ここで、基礎培養液では、凍結保護剤の濃度が最も低く、ガラス化保存液では、凍結保護剤の濃度が最も高い。また、基礎培養液、平衡溶液及びガラス化保存液は、いずれもゲル23の形態(例えばヒドロゲル)でそれぞれの区画22に配置される。最初に基礎培養液を溝13に直接添加した後、チップ2で開設された3つの区画22は、それぞれ濃度の異なる凍結保護剤を配置するために使用される。胚5へ送達されるゲル23の順序、関連する成分及びそれぞれの濃度を正確に制御することによって、溶液送達の正確さを保証することができる。
【0066】
一実施例において、ゲル23の底面は、フレーム構造の底部(例えば、支持板20と仕切り板21の底部)と面一に揃う。このように、チップ2がベゼル1に沿って水平に移動し、区画22内の異なる化学物質を溝13内の溶液6に順次送出する際、フレーム構造とゲル23の均一な表面は、チップ2のスムーズな移動とゲル23の保護を確保し、同時に、フレーム構造はゲル23への移動を有効に支持すると共に、異なる区画22内の各ゲル23が溝13内の溶液6に有効に接触し、さらに化学物質を有効に送出するようにすることができる。同様に、他の実施例において、チップ2が水平移動なしに単一のゲル23で化学物質を送達するためにのみ使用される場合、ゲル23の下面は、ゲル23と溝13内の溶液との有効な接触を確保するために、区画22の底面を超えて延びることができる。
【0067】
一実施例において、チップ2の仕切り板21と支持板20の間は、可動に接続されるように設計することができ、その結果、区画22のサイズは、送達される化学物質の異なる量の要件を満たすように自由に調整できる。換言すれば、支持板20と仕切り板21は移動可能に接続することができる。例えば、2つの支持板20の対向面に滑り溝が設けられる。仕切り板21の端部を滑り溝に挿入することにより、仕切り板21の位置を滑り溝内で自由に調整し、区画22のサイズの調整を実現することができる。
【0068】
図4に示される実施例を参照すると、化学物質送達システム(例えば、図1~3に示されるシステム)が用いられる異なる溶液送達方法、例えば、胚ガラス化凍結処理が提供される。ステップの順序は異なる場合がある。まず、ステップS1において、処理されるべき胚5と基礎培養液が収容されているベゼル1を固定し;ベゼル1は、溝13の開口を上向きにしたまま、水平に配置し固定される。
【0069】
ステップS2において、チップ2を設置する。まず、基礎培養液、平衡溶液、ガラス化保存液のそれぞれをゲル23の形態として調製する。調製方法を以下に例示する。ゲル23は、チップ2の3つの対応する区画22にそれぞれ順次固定して埋め込まれる。ここで、ゲル23は、アルギン酸ナトリウムヒドロゲル、ゼラチンヒドロゲルまたはアガロースゲルのような従来の物理的ヒドロゲルの調製方法、または、例えばPEGDAヒドロゲルまたはGelMAヒドロゲルのような従来の化学的ヒドロゲルの調製方法のいずれかによって調製することが可能である。次に、ゲル23を含むチップ2を、ゲル23がベゼル1の上面に接触した状態を維持するように、ベゼル1に載置する。最初に、チップ2は、溝13と接触しないように設定することができ、チップ2と溝13間のピッチによってチップ2が溝13を覆うことを回避することができる。
【0070】
ステップS3において、胚5はベゼル1の溝13に移され、同時に、溝13は基礎培養液6で満たされ、液体表面張力を利用して、基礎培養液6の上部に半球状の構造を形成して、溝13の外側から延出させる。
【0071】
ステップS4において、チップ2を、区画22が溝13へ移動するようにベゼル1の方向に移動させる(逆も同様)。チップ2内の異なる化学物質を載置した3つのゲル23がこのような移動によって、溝13内を順次スライドしていく。チップ2内のゲル23が溝13よりも高い溶液6に接触すると、ゲル23内の溶液6が溝13内の溶液6と融合する。また、濃度差の作用下で、溶液交換が開始されるので、ゲル23内の化学物質(例えば、凍結保護剤)が徐々に溝13に拡散して、最終的に胚5の内部に入る。溝13への溶液6の化学物質送達は、チップ2内の各区画22がすべて溝13を横切って移動すると完了する。
【0072】
一実施例において、ゲル23の被覆面積は、溝13の開口サイズと等しいか、またはそれよりも大きいため、溝13が常にゲル23によって覆われる。ヒドロゲル23が溝13を完全に覆うと、ヒドロゲル23内の溶液と溝13内の溶液の間での拡散による溶液交換が行われる。このような設定は、最高の溶液交換効率を得るために、ヒドロゲル23と溝13内の溶液6間の最大接触面積を達成し、また、ゲル23内の溶液と溝13の溶液6の混合中に溝13内の胚5を損失するリスクを低減することができる。例えば、過剰な液体の流れによる胚の喪失のリスクが減少し、胚5の保護を向上させる。また、チップ2は、必要に応じて、随時移動または停止するように制御することができるので、ゲル溶液と溝13間の有効な濃度差を維持し、搬送速度と効率を向上させる。
【0073】
図3を参照すると、この実施例において、チップ2の両端部に位置する区画22を、開口構造として設計し、区画22間に位置する仕切り板の幅を小さくしている。換言すれば、チップ2は、開口した前端部と開口した後端部(例えば、仕切り板21なしでチップ2に隣接する前端部または後端部)を有し得る。例えば、第1のゲル23Aはチップ2の前端部に隣接し、かつ、第2のゲル23Bはチップ2の後端部に隣接してよい。このように、チップ2がベゼル1の縦軸に沿って遠位または垂直に移動すると、溝13は第1の仕切り板21に接触する前に、最初に第1のゲル23に接触する。仕切り板21は、幅が比較的狭いため、仕切り板21と溝13内の溶液6との間の接触時間及び面積が小さくなる。仕切り板21と溝13内の溶液6との接触時間を短くすることで、胚5が不用意に溝13から除去されるリスクを低減することができる。
【0074】
図5(A)に示すように、一実施形態において、仕切り板21はゲル23に接触する前に溝13内の溶液6に接触し、仕切り板21は、シート12と接触を形成した場合、シート12との間を完全に平坦にすることは不可能であるが、実際には、チップ2とシート12との間にスリットが存在することになる。このとき、ゲル23が溝13内の溶液6に接触すると、仕切り板21とシート12間のスリットは、溝13内の溶液6に毛細管現象を起こし、結果として溝13内の溶液6をスリットに充填することになる。このように、ゲル23と溝13内の溶液6との拡散交換の際に、溝13内の溶液が仕切り板21とシート12との間のスリットに流れ込むことにより、胚5を溝13から搬出するリスクもある。このような構造は、マイクロピペットを使用する場合に比べ、胚5を失うリスクが軽減される。
【0075】
別の実施例において、図5(B)に示すように、ゲル23は、仕切り板21に接触する前に、溝13内の溶液6に接触する。ゲル23の表面には薄い溶液の膜があるため、ゲル23がフィルムに接触すると、ゲル23の表面溶液がシート12の表面と密着し、ゲル23とシート12間の隙間がなくなる。このように、ゲル23がシート12に密着したままの状態では、ゲル23が再び溝13内の溶液に接触しても、溝13内の溶液6が毛細管現象を受けて流れることはなくなる。これにより、安定した拡散と化学物質交換が可能になるとともに、溝13内の胚5の保護も向上する。
【0076】
一実施例において、図6を参照すると、溝13において、溝底131と溝壁132との間の夾角は約90°である。溝底131と溝壁132は、溝13の第1の表面領域151を有する露出面15の1つを有するように構成される。このように、胚5が溝13内の溶液6の流れに伴って溝13から離れるリスクを低減し、溝13における胚5の位置の制御を改善することができる。別の実施例において、溝壁132と溝底131との間の夾角を90°未満の鋭角に設計し、胚5が溝13から離脱するリスクをさらに低減させることができる。
【0077】
さらにまたは任意に、いくつかの実施例において、ベゼル1とチップ2間の移動は、ベゼル1の縦軸に沿う移動だけでなく、他の形態の相対的なものも使用することができる。例えば、ベゼル1に沿った相対的な水平移動(一側からもう一側へ)と鉛直移動(遠位から近位へ)からなる複合的な移動が両者の間に用いられる。一実施形態において、チップ2は、区画22が溝13と水平に整列し、ゲル23が溝13の上に配置されるまで横方向に移動するように設定されてもよい。このような一側からもう一側への移動によって、チップ2の仕切り板21を溶液6に接触させることなく、区画22が溝13内の溶液6に接触してから離れることができ、胚5を溝13から意図せずに離脱するリスクをさらに低減することができる。ベゼル1は、迅速かつ便利に凍結保存機器へ搬送することができ、ベゼルの搬送の便利性を向上させる。
【0078】
一実施例において、チップ2は、化学物質の送達を準備するために使用できる。例えば、ゲル23は、チップ2の区画22で直接調製される。ゲル23は、形成される場合に、直接チップ2に一体に結合され、作業効率を高めることができる。まず、ゲル23を調製する一実施例において、チップ2を、作業台7の表面に水平に配置し、作業台7が一時的なチップ2の底面として機能し、それによって、区画22の一時的底面として機能する。関連化学物質溶液または材料は、区画22に順次に送達される。次に、異なる化学物質は、ゲル23を形成すると共に、チップ2に統合または固定することができる。図7を参照すると、一実施例において、ゲル23とチップ2との接続の強固さを向上させるために、チップ2の内面に固定溝25が設けられている。例えば、1つまたは複数の支持板20または仕切り板21の内面に、固定溝25が含まれ得る。図示されていないが、チップ2は、ゲル23をチップ2にしっかりと固定するための補助構造を含み得る。例えば、区画22の底部内面において、そこから延出している一組の支持プラットフォームは、区画22内のゲル23の直接支持を与えるために使用される。ゲル23がその場で形成されると、ゲル23は固定溝25内に延在し、それによってモザイク固定を形成し、チップ2への接続を改善する。区画22に直接ゲル23を調製することで、区画22でのゲル23の手動固定が回避され、固定工程中のゲル表面への損傷が回避され、ゲル23の保護及び化学物質送達システムの品質と性能が向上する。
【0079】
ここで、少なくとも1つの支持板20が固定溝25を含む実施例において、固定溝25は、仕切り板21を取り付けるためのレールとしても機能することができる。仕切り板21の端部を固定溝25に挿入することにより、仕切り板21と支持板20の間の取り外し可能な接続を形成することができる。仕切り板21の位置を固定溝25に沿って柔軟に調整することができるため、区画22のサイズを変更し、チップ2の柔軟性をさらに高めることができる。同様に、他の実施例において、仕切り板21と支持板20の間に他の形態の可動な接続も使用され得る。例えば、複数のスロットを支持板20に取り付けることで、複数の仕切り板21を挿入できるようにする。仕切り板21を異なる溝に挿入することにより、区画22のサイズを調整することができる。
いくつかの実施例において、チップ2はラベル26を含み得る。ラベル26は例えば、各区画22内の化学物質の説明を含み得る。ラベル26は、機器の便利性と容易さを高めるように作業者を助けることができる。
【0080】
なお、いくつかの実施例において、異なる溶液(例えば基礎培養液、平衡溶液及びガラス化保存液)を、他の形態でチップ2に固定し、溝13内の溶液6とのその後の拡散・交換を完了させることもできる。例えば、薄膜(例えば透過膜)、メッシュ膜または薄層膜のような適当な厚さと孔径の透過性ベースを選択して、チップ2の下面に区画22の底面として配置する。送達されるべき溶液は、透過性ベースによって支持されることで、区画22に直接添加されることができる。透過性ベースの厚さと孔径は、例えば送達されるべき溶液や化学物質、時間的制約に応じて変化し得る。このようにして、フィルム、メッシュ膜または薄層膜によって溝13に被覆を形成することにより、胚5の流出を回避する場合に、2つの溶液のさらなる拡散及び交換を達成することができる。チップ2が透過性ベースを含む実施例において、送達されるべき化学物質は、粉末または固体の形態であり得る。
【0081】
図8~9を参照すると、この実施例において、チップ2は、1つの仕切り板21と、平衡溶液ヒドロゲル23Aとガラス化溶液ヒドロゲル23Bとを保持するための2つの区画22とを含む。一実施例において、基礎培養液と胚5は、溝13に予め充填される。上記のように、ゲル23の底面は、板状のフレームの底部と面一に揃うまたは区画22の底面から延出している。結果として、ヒドロゲル23A、23Bがベゼル1の溝に沿ってまたがる際に、各ヒドロゲル23A、23Bが溝13内の溶液6に効果的に接触し、溶液の効果的な送達を行うことを確実にすることができる。ベゼル1とチップ2の間の相対的な移動については、前述したとおりである。
【0082】
上記のように、仕切り板21とベゼル1との間のスリットは、溝13内の溶液6に毛細管力を作用させることがある。図9を参照すると、ヒドロゲル23の表面に溶液膜があるため、ヒドロゲル23がベゼル1に接触すると、ヒドロゲル23の表面の溶液が、ベゼル1の表面に密着し、ヒドロゲル23と容器1間のスリットを除去するのに役立ち得る。これにより、胚5が毛細管力の作用で溝13から溶液と共に仕切り板とベゼルの間のスリットに入り込むリスクを低減することができる。したがって、胚5は、ヒドロゲル23と溝13内の溶液6との交換工程中に、溝13に安全に留まって、効果的に保護される。
【0083】
図10の実施形態を参照すると、胚のガラス化工程中に異なる溶液を処理する化学物質送達システム(例えば図8~9に公開されたシステム)を用いた方法が提供される。これらのステップの順序は可変であり得る。まず、平衡溶液とガラス化溶液のために、別々のヒドロゲル23A、23B(S11)をそれぞれ調製する。以下に、調製方法の一例を示す。次に、ステップS12において、胚5は、基礎液とともにベゼル1の溝13に予め充填される。そして、S13において、ヒドロゲル23A、23Bは、平衡溶液及びガラス化溶液とともにベゼル1(例えば、チップ2を介して)に配置される。ヒドロゲル23A、23Bは、基礎液と胚5を含む溝13に接触するまでに順次移動される。フレーム構造がヒドロゲル23A、23Bを支持及び固定する実施例において、ステップS13におけるフレーム構造がヒドロゲル23A、23Bを操作することができることは、ヒドロゲル23A、23Bを容易かつ正確に移動及び操作できるだけでなく、ヒドロゲル23A、23Bとの直接接触を低減し、それにより、ヒドロゲル23A、23Bへの汚染及び損傷を避けると共に、ヒドロゲル23A、23Bを効果的に保護することができる。各ヒドロゲル23A、23Bが溝13内の溶液に接触すると、上記の溶液は、最初に基礎培養液であるが、ヒドロゲル23A、23B内の溶液と溝13内の溶液の間で拡散が起こる。このようにして、胚5は、連続的な化学物質送達工程全体で溝13に保持され、その後の凍結保存工程においても、追加搬送の必要がない。このような技術は、作業者が胚移植を繰り返すという不都合を回避することができる。
【0084】
いくつかの実施例において、各ヒドロゲル23A、23Bと溝13内の溶液との接触時間を調整することが可能である。例えば、ヒドロゲル23A、23Bの移動速度を調整することによって、各ヒドロゲル23A、23Bと溝13内の溶液との接触時間を制御することができる。ステップS13において、ベゼル1の表面に沿ったヒドロゲル23A、23Bの移動速度を調整することによって、平衡溶液ヒドロゲル及びガラス化溶液ヒドロゲルと溝内の溶液との接触時間をそれぞれ精密に制御することが可能である。1つの実施例において、フレーム構造は、ベゼル1の表面に沿って均一な速度で移動し、一方、ヒドロゲル23A、23Bのサイズを変更させることができるため、平衡溶液ヒドロゲル23A及びガラス化溶液ヒドロゲル23Bをそれぞれ溝13内の溶液に接触させる時間を精密に制御することが可能である。
【0085】
図11~12を参照すると、胚に対してガラス化凍結処理を行う工程に用いられる化学物質送達システムは、ベゼル1とチップ2とを含み、また、ベース3も設けられる。ベース3は、中央領域がベゼル1の支持及び固定に用いられる溝を含む。ベース3は、鋼製であってもよい。2つのガイドレール31は、チップ2のフレーム構造に対する支持、吸着、固定を行うために使用される。ガイドレール31の高さを変えることで、チップ2とベゼル1の上面との位置関係を調整し、ゲル23と溝13内の溶液6との効果的な接触が確実になる。
【0086】
同様に、他の実施例において、2つのガイドレール31のそれぞれに1つのガイド段差を設けることができる。このように、チップ2を2つのガイド段差の間に配置する場合、ガイド段差によってチップ2の移動に対するガイド効果が形成されるので、ベース3上でのチップ2の移動方向の精度を向上させることができる。
【0087】
図11図12を参照すると、レール31とチップ2の間に磁気吸着による着脱可能な接続が形成される。例えば、レール31は強磁性金属製ものである。チップ2のフレーム構造(例えば、支持板20)の対応する位置に磁石24(図3に示す)が設けられ、これにより、レール31とチップ2との間に磁気吸着固定接続が形成される。他の実施例において、レール31とチップ2との間の接続は、電磁体構造の形態であってよく、ベース3とチップ2の間の迅速な接続及び切断を電気的制御によって実現し、操作性を向上させることが可能である。
【0088】
この実施例において、ベース3を配置することにより、ベゼル1の支持を行うだけでなく、粘着または係止接続によってベゼル1を固定することも可能である。ベース3は、操作全体におけるベゼル1の位置の安定性を確保する。また、チップ2とベゼル1の間の効果的な接触を維持するように、チップ2を支持して、チップ2とベゼル1の相対移動中の偶発的な離脱を発生し、通常の操作に影響を与えることを回避する。同時に、ベース3は、溝13の外側に流れた溶液を回収するため、溶液のオーバーフローによる周囲環境の汚染を回避することができる
【0089】
図12を参照すると、この実施例において、ベース3の中央位置には1つの光透過領域32も設けられる。溝13の少なくとも一部は、光透過材料から選択され、光透過領域が形成される。溝13の光透過領域がベース3の光透過領域32に位置する場合に、顕微鏡を用いて化学物質送達工程をリアルタイムで観察し、化学物質の送達スケジュールを正確に制御することができる。
【0090】
さらに、光透過領域は、実際の運用ニーズに応じて、従来の光透過材料を選択して光透過要件のみを満たすか、加熱ガラス材料などの加熱機能を持つ光透過材料を選択して、同時に光透過と温度制御の両方の目的を満たすことができる。
【0091】
また、図11~12に示すように、本実施例のベース3には、1つのベゼル1と1つのチップ2しか配置されいないが、実際の運用では、処理されるべき胚5の数及びチップ2の区画22のサイズ(すなわち、ゲルの被覆幅)に応じて、同時に複数のベゼル1をベース3に並べて配置することができるため、チップ2の1回の移動中に複数のベゼル1上での化学物質送達動作を同時に完了して、作業効率を向上させる。
【0092】
図13を参照すると、この実施例において、胚のガラス化凍結処理工程のための化学物質送達システムは、ベゼル1、チップ2、ベース3の他に、ベース3を直接に支持・固定するための台座4を備えている。台座4には、ステッピングモータ41、ねじ棒42、押し棒43が取り付けられる。ここで、ベース3は、台座4に位置し、ねじ棒42と平行になり、押し棒43は、ねじ棒42に外嵌されると共に、チップ2に固定して接続される。押し棒43は、ステッピングモータ41の駆動でねじ棒42に沿って往復運動が可能である。換言すれば、ステッピングモータ41によって押し棒43をねじ棒42に沿って水平に往復運動させるように駆動することにより、チップ2をベゼル1に対して水平方向に往復運動させることができるので、チップ2上の異なる区画22内のゲル23を溝13内の溶液6に順次接触するように制御し、送達工程の自動制御を実現することが可能である。さらに、ステッピングモータ41の動作を制御することにより、チップ2内の異なるゲル23と溝13内の溶液6との接触時間も正確に制御でき、それにより、胚5における異なる溶液の送達の精度をさらに向上させることが可能である。
【0093】
図13を参照すると、本実施例の台座4には、1つの光軸44も設けられている。光軸44は、ねじ棒42と平行で、押し棒43の自由端に接続され、押し棒43の往復運動の補助ガイドとなり、押し棒43によるチップ2の移動の安定性を高め、ゲル23と溝13内の溶液6との接触工程の安定性を向上させることが可能である。
【0094】
図13を参照すると、好ましくは、台座4の中央位置にも1つの中空領域45が設けられ、すなわち、チップ3における光透過領域が対応する領域が中空構造になっていることである。該中空領域45は、ベース3の光透過領域32に対応する。このように、光が台座4を通過してチップ2の光透過領域にスムーズに投射させ、顕微鏡での胚5の観察を確実にすることができる。同様に、中空領域45は、異なる環境での実際の使用状況に応じて、光透過ガラスなどの光透過材料を用いるか、加熱ガラスなどの加熱機能を持つ光透過材料を選択することによって、光透過と温度制御の両方の目的を満たすことができる。
【0095】
また、他の実施例において、ベゼル1とチップ2の間の相対的な移動を与える構造を変化させることができる。一例として、図14を参照すると、レールスライダー構造46は、ベゼル1に対するチップ2の移動を駆動する駆動ユニットを形成してもよい。レールスライダー構造46は、レール461と、レール461に沿って摺動可能なスライダー支持体462とを含む。例えば、スライダー支持体462は、ベゼル1またはチップ2に接続可能である。レールスライダー構造46は、レール461に沿ったスライダー支持体462の前後移動により、ベゼル1とチップ2との間の相対的な移動を可能にする。スライダー支持体462は、図14に示すように、大きさや形状が変化する。
【0096】
異なる実施例において、生体材料は、生体材料への化学物質の順次送達を達成するために、異なるヒドロゲルに順次装填され得る。図15を参照すると、一実施例において、ヒドロゲル23Cは、胚5または他の生体材料を載置するための複数のレセプタクル231を有する。胚5は、初期溶液とともにレセプタクル231に装填することができる。胚5をレセプタクル231に装填した後、ヒドロゲル23C内の溶液は、まず胚5の周囲の溶液に拡散し、次に胚5自体に拡散する。この間、胚5は、固定したヒドロゲル23Cを移動せず、レセプタクル231で必要な時間留まることになる。所定の期間後、胚5は、異なる溶液を含む別のヒドロゲル23C内のレセプタクル231に搬送され得る。したがって、一連のヒドロゲルは、異なる化学物質を胚5に順次送達することができる。胚が溶液に入るときに焦点面を流れ出るという従来の方法の課題は解決される。作業者は、光学顕微鏡によって、胚5をより迅速かつ正確に操作することができるので、胚5と異なる溶液との間の接触はより速く、より正確になる。
【0097】
ヒドロゲル23Cは形状が異なる場合がある。例えば、該形状は、円筒形の開口を持つ板状(例えば、図15に示す)であり得る。別の実施例において、ヒドロゲルは、胚5を受け入れるための1つまたは複数の溝を含み得る。ヒドロゲル23Cは、異なる要件に応じて、複数の取り付け穴を有するプレートに取り付けられることにより、異なるヒドロゲル23Cの間に胚5を移動及び操作することに対応することが可能である。
【0098】
図16を参照すると、実施例による化学物質送達システムを用いて例えば胚ガラス化凍結工程中の異なる溶液を処理する方法が提供されている。ステップS21において、平衡溶液とガラス化溶液を用いて、それぞれ1つまたは複数のヒドロゲル23Cを調製することができる。以下に、1つの調製方法の例を示している。一実施例において、胚5を基礎培養液に予め充填し、平衡溶液とガラス化溶液をヒドロゲル23Cを介して胚5に順次送達する。次いで、ステップS22において、胚を基礎液から抽出し、平衡溶液ヒドロゲル、続いてガラス化保存液ヒドロゲルに順次入れる。ヒドロゲル23C内の溶液は、胚5に拡散し、胚5と平衡溶液及びガラス化保存液との予期反応を達成する。
【0099】
上述したように、ここでは、化学物質を生体材料に送達するためのヒドロゲルを調製する方法が示されている。図17を参照すると、例えば胚ガラス化工程に用いられる実施例のヒドロゲルの調製方法が提供される。凍結保護剤の配合には、透過性凍結保護剤、非透過性凍結保護剤と基本培地の3つの主要成分がある。ガラス化保存液を物理的ヒドロゲルのアガロースゲルに調製する場合、ステップが以下のとおりであり、すなわち、透過性凍結保護剤を基本培地に添加して、2倍濃度の凍結保護剤溶液を調製し、上記の溶液は10~50 vol%の透過性凍結保護剤濃度を持つ(ステップT1)。次いで、非透過性凍結保護剤を基本培地に添加して、2倍濃度の非透過性凍結保護剤溶液を調製し、上記の溶液は0.2~2 Mの非透過性凍結保護剤濃度を持つ(ステップT2)。ステップT3において、アガロースを80~90℃の2倍濃度の非透過性凍結保護剤溶液に溶解して、0.1~6%濃度のアガロース溶液を調製する。次に、2倍濃度の透過性凍結保護剤溶液を80~90℃のアガロース溶液に1:1の比率で加える(ステップT4)。撹拌、混合、冷却、固化した後、ガラス化保存液含有アガロースゲルの固化溶液を得る。
【0100】
同様に、他の実施例において、平衡溶液とガラス化保存液は、異なる作業条件の特定の要件に応じて、アルギン酸ナトリウムヒドロゲルやゼラチンヒドロゲルのような他の形態の物理的ヒドロゲルとして調製することもできる。また、GelMAヒドロゲルのような化学的ヒドロゲルとして調製することも可能である。
【0101】
本実施例では、ガラス化保存液を1部のヒドロゲルとして調製して、胚へのガラス化保存液の送達動作を一度に完了させる。しかしながら、他の実施例において、特定の状況、例えば、ガラス化保存液の濃度に応じて、ガラス化保存液を、複数部の濃度の異なるガラス化保存液を有するヒドロゲルにすることができ、複数部の濃度の異なるヒドロゲルを胚にそれぞれ送達し、ガラス化保存液の送達動作全体を完了することができる。上記の実施例はガラス化溶液に関するものであるが、これらの実施例に限定されるものではなく、他の化学物質や溶液を用いてもよい。例えば、平衡溶液に用いられるヒドロゲルを調製するために、透過性凍結保護剤の濃度はガラス化溶液よりも低くなり、非透過性凍結保護剤を含むかまたは含まなくてもよい。一般的に、平衡溶液はガラス化溶液よりも透過性凍結保護剤の濃度が低い(例えば、濃度の半分)。
【0102】
上記のように、本明細書に記載の実施例は、凍結保護剤含有ヒドロゲルを用いて生体材料を保存することを含む凍結保存プロセスをさらに含む。凍結保存工程は、生体材料をヒドロゲルに接触させ、生体材料を凍結保護剤と反応させることを含んでもよい
【0103】
また、上記の実施例では、いずれも胚のガラス化凍結処理工程における化学物質送達動を例として、本発明の技術的解決策を説明したが、当業者であれば、本発明の着想に従って、本技術の実施を他の生体材料または基礎液への化学物質の正確な送達動作に適用することは完全に可能である。例えば、最初に水溶性の膜で分離された粉末状の化学物質を溶液に先に送達し、チップがフィルムをスライドすると、フィルムが溝内の溶液で溶けて破れ、定量的な化学物質を溶液に直接放出し、化学物質の正確な送達が完成する。
【0104】
本願発明に開示される様々な実施例において、単一の構成要素は複数の構成要素に置き換えられ、複数の構成要素は単一の構成要素に置き換えられることができるため、所定の機能を実施するようにする。当該置換は、当該置換が動作しない場合を除き、それぞれの実施例の意図する範囲内である。
【0105】
添付の図面には、フローチャートが含まれている場合がある。これらの添付図面は、特定の論理ステップを含む場合があるが、その論理ステップは、一般的な機能の例示的な実施形態を提供するに過ぎないことが理解されたい。また、特に断りのない限り、これらの論理ステップは必ずしも示された順序で実行される必要はない。また、該論理ステップは、ハードウェアコンポーネント、コンピュータによって実行されるソフトウェアコード、ハードウェアに組み込まれたファームウェアデバイス、またはそれらの任意の組み合わせによって実装され得る。
【0106】
上記の実施例及び実施例の説明は、例示及び説明のためのものであり、説明が網羅的であることまたは説明の範囲を限定することを意味するものではない。上記の教示に基づき、多数の修正を行うことができる。いくつかの修正について議論したが、その他は、当業者であれば理解できることである。これらの実施例は、意図された特定の効果に適した発明思想の様々な実施形態を最もよく説明するために選択され、図示されたものである。もちろん、その範囲は、本願で開示した例に限定されるものではない。本発明の保護範囲は、まさに添付の特許請求の範囲に示されるとおりである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17