(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】水溶性包装用フィルム、及び包装体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20241107BHJP
B65D 65/46 20060101ALI20241107BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20241107BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
B65D65/46
C08K5/42
C08L29/04 A
(21)【出願番号】P 2019547720
(86)(22)【出願日】2019-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2019030751
(87)【国際公開番号】W WO2020031969
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-05-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2018148416
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】家田 泰享
(72)【発明者】
【氏名】上田 郁子
【合議体】
【審判長】植前 充司
【審判官】加藤 友也
【審判官】天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-31015JP,A)
【文献】国際公開第2015/118978(WO,A1)
【文献】特開2017-119434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/18
B65D65/46
C08K5/42
C08L29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール、可塑剤、及び水面拡散剤を含有する水溶性包装用フィルムであって、
前記ポリビニルアルコールがスルホン酸基変性ポリビニルアルコールを含有し、
前記ポリビニルアルコール100質量部に対して、前記可塑剤の含有量が3質量部以上10質量部未満、かつ前記水面拡散剤の含有量が0.1質量部以上15質量部以下であり、
前記ポリビニルアルコールが、未変性ポリビニルアルコールをさらに含
み、
フィルム表面に、フィルムのTD方向において隣接する凸部と凹部の高低差であり、その5点平均値である高低差Hが10μm以上200μm以下である凹凸形状を有する水溶性包装用フィルム。
【請求項2】
前記スルホン酸基変性ポリビニルアルコールの含有量が、ポリビニルアルコール全量に対して、30質量%以上90質量%以下であり、前記未変性ポリビニルアルコールの含有量が、10質量%以上70質量%以下である請求項1に記載の水溶性包装用フィルム。
【請求項3】
前記水面拡散剤がジアルキルスルホコハク酸塩である請求項1又は2に記載の水溶性包装用フィルム。
【請求項4】
農薬包装用である請求項1~
3のいずれか1項に記載の水溶性包装用フィルム。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の水溶性包装用フィルムと、前記水溶性包装用フィルムに内包された薬剤とを備える包装体。
【請求項6】
前記薬剤が、農薬である請求項
5に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコールフィルムからなる水溶性包装用フィルム、及び水溶性包装用フィルムから形成される包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
農薬、洗剤などの各種薬剤を水溶性フィルムに単位量ずつ密封して包装する包装体が広く知られている。この包装体は、使用時にその包装形態のまま水中に投入すると、水溶性フィルムが溶けて、内容物を水に溶解又は分散させることができる。例えば、水田用のジャンボ剤などの農薬をこの包装体に使用した場合、水田へ投入後にそれを包む水溶性フィルムが溶解し、内包されていたジャンボ剤などの農薬が水面を浮遊するなどして水田全体に拡散することで農薬活性成分が水田内を行き渡ることになる。
【0003】
特許文献1には、ジャンボ剤などの農薬包装用に適した水溶性フィルムとして、ポリビニルアルコール(PVA)、水面拡散剤、及び可塑剤を含み、可塑剤の含有量がPVA100質量部に対して、10~40質量部であるPVAフィルムが開示されている。このPVAフィルムは、水面拡散剤を含み、かつ所定量の可塑剤を含有することで、水田へ投入した際の薬剤の拡散性が優れたものになることが示されている。
また、特許文献2には、スルホン酸基含有単位を0.1~20モル%含有するスルホン酸基変性ポリビニルアルコールを製膜してなる農薬包装用フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2015/118978号
【文献】特開平7-118407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ジャンボ剤などの水田用の農薬は、高温多湿地域で多く使用されており、水溶性フィルムを使って薬剤を密封して包装する加工も高温多湿下で行われることがある。しかし、高温多湿下で、特許文献1に記載のPVAフィルムを用いて包装体を形成する加工を行うと、経時でPVAフィルムが吸湿して軟化するため、フィルムが加工機に付着するなどの不具合を起こすおそれがある。
また、特許文献2に開示される農薬包装用フィルムは、水田へ投入した際の薬剤の拡散性が優れたものにならない。
【0006】
そこで、本発明は、水溶性包装用フィルムにより形成される包装体を水田などの水中へ投入した際、内包される薬剤の拡散性を優れたものにしつつ、高温多湿下で加工しても不具合が生じにくい水溶性包装用フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、水溶性包装用フィルムにおいて、PVAとして変性PVAを使用し、かつ所定量の水面拡散剤及び可塑剤を含有させることで上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供する。
[1]ポリビニルアルコール、可塑剤、及び水面拡散剤を含有する水溶性包装用フィルムであって、
前記ポリビニルアルコールが変性ポリビニルアルコールを含有し、
前記ポリビニルアルコール100質量部に対して、前記可塑剤の含有量が3質量部以上10質量部未満、かつ前記水面拡散剤の含有量が0.1質量部以上15質量部以下である水溶性包装用フィルム。
[2]前記変性ポリビニルアルコールが、ピロリドン環基変性ポリビニルアルコール及びスルホン酸基変性ポリビニルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種である上記[1]に記載の水溶性包装用フィルム。
[3]前記変性ポリビニルアルコールが、スルホン酸基変性ポリビニルアルコールである上記[2]に記載の水溶性包装用フィルム。
[4]前記ポリビニルアルコールが、未変性ポリビニルアルコールをさらに含む上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の水溶性包装用フィルム。
[5]前記変性ポリビニルアルコールの含有量が、ポリビニルアルコール全量に対して、30質量%以上90質量%以下であり、前記未変性ポリビニルアルコールの含有量が、10質量%以上70質量%以下である上記[4]に記載の水溶性包装用フィルム。
[6]前記水面拡散剤がジアルキルスルホコハク酸塩である上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の水溶性包装用フィルム。
[7]前記フィルム表面に高低差が10μm以上200μm以下である凹凸形状を有する上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の水溶性包装用フィルム。
[8]農薬包装用である上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の水溶性包装用フィルム。
[9]上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の水溶性包装用フィルムと、前記水溶性包装用フィルムに内包された薬剤とを備える包装体。
[10]前記薬剤が、農薬である上記[9]に記載の包装体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水溶性包装用フィルムにより形成される包装体を水田などの水中へ投入した際、内包される薬剤の拡散性を優れたものにしつつ、高温多湿下で加工しても不具合が生じにくい水溶性包装用フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水溶性包装用フィルムの模式的な側面図である。
【
図2】本発明の別の実施形態に係る水溶性包装用フィルムの模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態についてより詳細に説明する。
[水溶性包装用フィルム]
本発明の水溶性包装用フィルムは、ポリビニルアルコール、可塑剤、及び水面拡散剤を含有する。以下、各成分についてより詳細に説明する。
【0011】
(ポリビニルアルコール)
本発明の水溶性包装用フィルムは、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」ともいう)を含有する。PVAは、従来公知の方法に従って、ビニルエステルを含むモノマーを重合してポリマーを得た後、ポリマーをケン化、すなわち加水分解することにより得られる。ケン化には、一般に、アルカリ又は酸が用いられるが、アルカリを用いることが好ましい。PVAとしては、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0012】
ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル及び安息香酸ビニル等が挙げられる。また、ビニルエステルの重合方法は特に限定されないが、例えば、溶液重合法、塊状重合法及び懸濁重合法等が挙げられる。
【0013】
本発明におけるPVAは、少なくとも変性ポリビニルアルコール(変性PVA)を含む。本発明では、PVAとして変性PVAを使用し、かつ、後述するように、可塑剤、及び水面拡散剤を所定量含有させることで、水溶性包装用フィルムにより形成した包装体を水中へ投入した際、内包される薬剤の拡散性が優れたものになる。さらには、高温多湿下でのフィルムの軟化が抑えられることでべたつきが低減され、フィルム加工時において不具合が生じにくくなる。したがって、加工機を使用して水溶性包装用フィルムから包装体を形成する際の製袋性が良好となる。
【0014】
PVA全量に対する変性PVAの含有量は、好ましくは30質量%以上100質量%以下である。変性PVAの含有量を30質量%以上とすることで、上記した薬剤の拡散性を改善しやすくなる。また、変性PVAの含有量は、好ましくは90質量%以下である。変性PVAの含有量は、より好ましくは60質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは65質量%以上80質量%以下である。変性PVAの含有量をこれら下限値以上とすることで、薬剤の拡散性をさらに改善しやすくなる。また、これら上限値以上とすることで、後述する未変性PVAなどを所定量以上含有させることが可能になる。
【0015】
PVAは、変性PVAに加えて、未変性ポリビニルアルコール(未変性PVA)を含有することが好ましい。未変性PVAは、ポリビニルエステルをケン化したものである。PVAが未変性PVAをさらに含むことで、高温多湿下におけるフィルムの軟化が抑えられ、加工時などにおける不具合が生じにくくなる。
未変性PVAの含有量は、PVA全量基準で、好ましくは70質量%以下である。70質量%以下とすることで、上記した変性PVAの含有量を多くすることが可能になる。また、未変性PVAの含有量は、好ましくは10質量%以上である。未変性PVAの含有量を10質量%以上とすることで、高温多湿下におけるフィルムの軟化が抑えられ、加工性などを良好にしやすくなる。
未変性PVAの含有量は、より好ましくは10質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上35質量%以下である。未変性PVAの含有量をこれら範囲内とすることで、上記した薬剤の拡散性を優れたものに維持しつつ、高温多湿下におけるフィルムの軟化が有効に抑えられ、加工性などを改善しやすくなる。
【0016】
<変性PVA>
以下、変性PVAについてより詳細に説明する。変性PVAは、ポリビニルエステル由来の構成単位以外の構成単位を有する。変性PVAとしては、より具体的には、ビニルエステルと他の不飽和モノマーとの重合体をケン化したものが挙げられる。他の不飽和モノマーとしては、ビニルエステル以外のモノマーであって、ビニル基などの炭素-炭素二重結合を有するモノマーが挙げられる。
具体的には、オレフィン類、(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸以外の不飽和酸類、その塩及びエステル、(メタ)アクリルアミド類、N-ビニルアミド類、ビニルエーテル類、ニトリル類、ハロゲン化ビニル類、アリル化合物、ビニルシリル化合物、酢酸イソプロペニル、スルホン酸基含有化合物、アミノ基含有化合物等が挙げられる。
【0017】
オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン及びイソブテン等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキル基の炭素数が1~10、好ましくは1~2の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。具体的な(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸以外の不飽和酸類、その塩及びエステルとしては、マレイン酸及びその塩、マレイン酸エステル、イタコン酸及びその塩、イタコン酸エステル、メチレンマロン酸及びその塩、メチレンマロン酸エステルなどが挙げられる。
(メタ)アクリルアミド類としては、アクリルアミド、n-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。N-ビニルアミド類としては、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。ビニルエーテル類としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル及びn-ブチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0018】
ニトリル類としては、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。ハロゲン化ビニル類としては、塩化ビニル及び塩化ビニリデン等が挙げられる。アリル化合物としては、酢酸アリル及び塩化アリル等が挙げられる。ビニルシリル化合物としては、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
スルホン酸基含有化合物としては、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸などの(メタ)アクリルアミドアルカンスルホン酸及びその塩、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などが挙げられる。
アミノ基含有化合物としては、アリルアミン、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等が挙げられる。
【0019】
また、変性PVAとしては、PVAに、グラフト重合等により、カルボキシル基、スルホン酸基、ピロリドン環基を付加したものであってもよい。
【0020】
変性PVAとしては、スルホン酸基、ピロリドン環基、及び、カルボキシル基から選択される少なくとも1種の官能基によって変性されたPVA,又は、(メタ)アクリル酸エステルによって変性されたPVAが好ましい。なお、上記官能基は、これら官能基に加えて、これら官能基のナトリウム、カリウム等の塩も含む。
したがって、変性PVAにおいて、ビニルエステル以外のモノマーとして、(メタ)アクリル酸やそれ以外の不飽和酸類及びその塩、(メタ)アクリル酸エステル、N-ビニルピロリドン、スルホン酸基含有化合物を使用することが好ましい。また、上記官能基がグラフト重合等によって付加されたものも好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用して変性してもよい。
【0021】
上記した中では、スルホン酸基、ピロリドン環基、及び、カルボキシル基から選択される少なくとも1種の官能基によって変性されたPVAがより好ましい。これら官能基によって変性された変性PVAは、耐薬品性に優れる。そのため、水溶性包装用フィルムは、上記官能基によって変性された変性PVAを使用することで、薬剤などに長期間接触した後でも、優れた溶解性を有する。
また、変性PVAとしては、耐薬品性の観点から、スルホン酸基及びピロリドン環基から選択される少なくとも1種の官能基によって変性されたPVAがさらに好ましく、本発明の効果を発揮しやすい点から、スルホン酸基によって変性されたPVAが特に好ましい。
【0022】
上記のように、好適な変性PVAの具体例としては、スルホン酸基変性PVA、ピロリドン環基変性PVA、カルボキシル基変性PVA、及びアクリル酸エステルとビニルエステルの共重合体のケン化物が挙げられる。これらの中では、スルホン酸基変性PVA及びピロリドン環基変性PVAから選択される少なくとも1種がより好ましく、スルホン酸基変性PVAがさらに好ましい。
変性PVAがスルホン酸基変性PVAである場合、低温での水溶解性を高くすることができる。また、変性PVAがピロリドン環基変性PVAである場合、フィルムの耐変色性を高くすることができる。
【0023】
スルホン酸基変性PVAは、変性によってスルホン酸基が導入されたものであればよく、スルホン酸基が連結基を介して高分子主鎖と結合されたものであることが好ましい。上記連結基としては、アミド基、アルキレン基、エステル基、エーテル基等が挙げられる。なかでも、アミド基とアルキレン基の組み合わせが好ましい。連結基をこのようにアミド基とアルキレン基の組み合わせとするためには、不飽和モノマーとして、上記した(メタ)アクリルアミドアルカンスルホン酸又はその塩を使用すればよい。
また、上記スルホン酸基は、スルホン酸塩からなるものであることが好ましく、特にスルホン酸ナトリウム基であることが好ましい。上記変性PVAが、スルホン酸ナトリウム変性PVAである場合、スルホン酸ナトリウム変性PVAとしては、下記式(1)で表される構成単位を有することが好ましい。
【0024】
【化1】
(式(1)において、R
1は炭素数1~4のアルキレン基を表す。)
【0025】
ピロリドン環基変性PVAは、変性によってピロリドン環が導入されたものであれば特に限定されないが、下記式(2)で表される構成単位を有することが好ましい。このような構成単位を有するピロリドン環基変性PVAを得るためには、例えば、他の不飽和モノマーとしてN-ビニルピロリドンを使用すればよい。
【化2】
【0026】
また、カルボキシル基変性PVAとしては、変性によってカルボキシル基が導入されたものであれば特に限定されないが、下記式(3-1)、(3-2)又は(3-3)で表される構成単位を有することが好ましい。
【0027】
【化3】
(上記式(3-1)、(3-2)及び(3-3)中、X
1、X
2、X
3、X
4及びX
5は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子又はメチル基を表す。すなわち、本明細書におけるカルボキシル基には、カルボキシル基の塩及びメチルエステルも含まれる。金属原子として、例えば、ナトリウム原子等が挙げられる。上記式(3-2)中、R
3は炭素数1~10のアルキレン基を表す。)
【0028】
変性PVAは、その変性量が、例えば0.1モル%以上20モル%以下である。したがって、上記したスルホン酸基、ピロリドン環基、及び、カルボキシル基から選択される少なくとも1種の官能基によって変性された変性PVAは、変性PVAの構成単位の全モル数に対する、これら官能基のモル数が0.1モル%以上20モル%以下となる。また、アクリル酸エステルとビニルエステルの共重合体のケン化物においては、変性PVAの構成単位の全モル数に対する、アクリル酸エステル由来の構成単位が0.1モル%以上20モル%以下となる。
【0029】
スルホン酸基変性PVAのスルホン酸基変性量は、耐薬品性及び水溶性を向上させる観点から、好ましくは0.1モル%以上6モル%以下、より好ましくは1モル%以上5モル%以下である。また、同様の観点から、ピロリドン環基変性PVAのピロリドン環基変性量は、好ましくは0.1モル%以上20モル%以下、より好ましくは0.5モル%以上10モル%以下、さらに好ましくは1モル%以上8モル%以下、さらにより好ましくは1.5モル%以上6モル%以下、特に好ましくは2モル%以上5モル%以下である。
【0030】
なお、本発明では、上記のように、PVAとして、スルホン酸基変性PVAを含有することが特に好ましいが、スルホン酸基変性PVAの含有量は、PVA全量に対して、好ましくは30質量%以上100質量%以下、より好ましくは60質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは65質量%以上80質量%以下である。水溶性包装用フィルムは、このように、スルホン酸基変性PVAを、所定量以上含有することで、耐薬品性、水溶性、及び薬剤の拡散性がより優れたものとなる。また、上記上限値以下とすることで、高温多湿下におけるフィルムのべたつきも抑えられ、加工性を改善しやすくなる。
【0031】
PVAのケン化度は、好ましくは80モル%以上99.9モル%以下である。ケン化度をこのような範囲とすると、水溶性包装用フィルムに必要とされる水溶性を確保しやすくなる。
また、PVAのケン化度の好適な範囲は、変性の有無、変性基の種類によっても異なる。例えば未変性PVAは、上記したように80モル%以上99.9モル%以下が好ましいが、水溶性をより向上させる観点からは、80モル%以上95モル%以下がより好ましく、85モル%以上92モル%以下がさらに好ましい。
一方で、例えば、ピロリドン環基変性PVA、スルホン酸基変性PVAなどの変性PVAのケン化度は、上記したように80モル%以上99.9モル%以下が好ましいが、耐薬品性及び水溶性をバランスよく向上させる観点からは、85モル%以上99モル%以下がより好ましく、90モル%以上98モル%以下がさらに好ましい。
上記ケン化度は、JIS K6726に準拠して測定される。ケン化度は、ケン化によるビニルアルコール単位に変換される単位のうち、実際にビニルアルコール単位にケン化されている単位の割合を示す。
なお、ケン化度の調整方法は特に限定されない。ケン化度は、ケン化条件、すなわち加水分解条件により適宜調整可能である。
【0032】
PVAの重合度は特に限定されないが、好ましくは400以上、より好ましくは700以上、さらに好ましくは900以上である。また、好ましくは2000以下、より好ましくは1800以下、更に好ましくは1500以下である。上記重合度を上記下限値以上及び上限値以下とすると、水溶性包装用フィルムを製膜する際にPVA水溶液の粘度を適度なものとすることができ、さらにPVAの水溶性を良好にしやすくなる。また、水溶性包装用フィルムの強度も良好なものにしやすくなる。なお、上記重合度は、JISK6726に準拠して測定される。
【0033】
PVAは、4質量%水溶液として、20℃で測定した粘度が、好ましくは3mPa・s以上、より好ましくは8mPa・s以上である。また、該粘度は、好ましくは30mPa・s以下、より好ましくは20mPa・s以下である。なお、このような粘度はJISK6726に準じて測定することができる。
【0034】
また、水溶性包装用フィルムは、主にPVAにより構成されるものである。PVAの含有量は、具体的には、水溶性包装用フィルム全量基準で、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。また、PVAの含有量は、好ましくは98質量%以下、より好ましく96質量%以下、さらに好ましくは93質量%以下である。PVAの含有量を上記下限以上とすると、水溶性包装用フィルムが良好な水溶性を有しやすくなる。また、上記上限値以下とすると、水面拡散剤、可塑剤などの添加剤を、水溶性包装用フィルムに適度に配合させることが可能になる。
【0035】
(可塑剤)
本発明の水溶性包装用フィルムは、さらに可塑剤を含有する。水溶性包装用フィルムは、可塑剤を含有することで、適度な柔軟性を有し、かつ水溶性が向上する。そして、水面拡散剤と併用されることで、上記した薬剤の拡散性が優れたものになる。また、ガラス転移点が下がり、低温での耐久性が向上する。
可塑剤としては、特に制限はなく、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、グルコース等の多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル類、ビスフェノールA、ビスフェノールS等のフェノール誘導体、N-メチルピロリドン等のアミド化合物、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコールにエチレンオキサイドを付加した化合物や水等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を用いてもよい。
上記可塑剤のなかでは、水溶性及び薬剤の拡散性を向上させる観点から、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールが好ましい。また、可塑剤としては、高温多湿下におけるベタつきを抑えて加工性を良好にする観点からジグリセリン、トリメチロールプロパンが特に好ましい。ジグリセリン、トリメチロールプロパンは、単独で使用してもよいし、これらを併用してもよい。
【0036】
可塑剤の分子量は、好ましくは90以上、より好ましくは120以上、さらに好ましくは130以上である。90以上とすることで、水溶性及び薬剤の拡散性を向上させやすくなる。また、120以上とすることで、高温多湿下におけるベタつきを抑えて加工性を良好にしやすくなる。また、可塑剤の分子量は、好ましくは1200以下、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは500以下である。
【0037】
(水面拡散剤)
本発明の水溶性包装用フィルムは、さらに水面拡散剤を含有する。本発明で使用する水面拡散剤の種類は特に制限されないが、本発明の効果を発揮しやすくするために、ジアルキルスルホコハク酸塩が好ましい。ジアルキルスルホコハク酸塩は、スルホコハク酸塩における2つのカルボキシル基がそれぞれアルキルエステルに変換された構造を有する化合物であり、当該構造を有する限り、どのような製造方法によって得られたものであってもよい。
ジアルキルスルホコハク酸塩が有する2つのアルキルエステル部分における各アルキル基は互いに同じものであっても異なっていてもよいが、製造が容易であることなどを考慮すると互いに同じものであることが好ましい。
また、ジアルキルスルホコハク酸塩における上記アルキル基は、いずれか一方または両方が直鎖状のアルキル基であってもよいし、いずれか一方または両方が分岐鎖状のアルキル基であってもよい。当該アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基などの炭素数1~12のものが挙げられる。
水溶性包装用フィルムに内包される薬剤の拡散性がより向上することなどから、ジアルキルスルホコハク酸塩におけるアルキル基の一方又は両方が、炭素数6~12のアルキル基であることが好ましく、炭素数7~10のアルキル基であることがより好ましく、アルキル基の両方の炭素数が、上記範囲内となることがさらに好ましい。
上記のジアルキルスルホコハク酸塩における塩としては無機塩を挙げることができ、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。ジアルキルスルホコハク酸塩としては、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムが特に好ましい。また、ジ(n-オクチル)スルホコハク酸ナトリウム(スルホコハク酸ジオクチルナトリウム)も特に好ましい。なお、水面拡散剤は下記界面活性剤とは異なるものであり、本発明の一実施態様においては界面活性剤はジアルキルスルホコハク酸塩以外である。
【0038】
(可塑剤及び水面拡散剤の含有量)
本発明の水溶性包装用フィルムにおいて、可塑剤の含有量は、PVA100質量部に対して3質量部以上10質量部未満であり、水面拡散剤の含有量は、PVA100質量部に対して0.1質量部以上15質量部以下である。本発明では、上記のようにPVAが変性PVAを含み、かつ可塑剤、及び水面拡散剤をこれら所定量含有させることで、水溶性包装用フィルムから形成した包装体を水中に投入した際、内包される薬剤の拡散性が優れたものになる。さらに、高温多湿下での軟化及びべたつきが抑えられ、加工時の不具合が生じにくくなる。したがって、水溶性包装用フィルムから包装体を形成したときの製袋性が良好となる。
【0039】
一方で、水面拡散剤の含有量が上記範囲外となると内包される薬剤の拡散性が優れたものとならず、また、15質量部を超えると、水面拡散剤の含有量が必要以上に多くなり水溶性包装用フィルムの機械強度が低下することがある。
内包される薬剤の拡散性をより優れたものとする観点から、水面拡散剤の含有量は、0.9質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。水面拡散剤の上記含有量は、薬剤の拡散性を優れたものとしつつ、機械強度を向上させる観点から、9質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましく、4.5質量部以下がさらに好ましい。本発明では、上記した変性PVAを使用することで、水面拡散剤の含有量を比較的少なくしても、薬剤の拡散性を優れたものにしやすい。
【0040】
また、水溶性包装用フィルムにおける可塑剤の含有量が3質量部未満であると、水溶性包装用フィルムが水中で速やかに分解せずに、内包される薬剤の拡散性を十分に向上できないおそれがある。一方、可塑剤の含有量が10質量部以上となると、例えば高温多湿下において水溶性包装用フィルムが軟化して、フィルムを加工する際にフィルムが加工機に付着するなどして、製袋性などの加工性が悪化することがある。なお、本発明では、可塑剤の含有量を10質量部未満と少なくても、上記した所定の変性PVAを使用することで、優れた薬剤の拡散性、及び水溶解性を確保できる。
上記可塑剤の含有量は、好ましくは4質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上であり、好ましくは9.8質量部以下、さらに好ましくは7.5質量部以下である。
【0041】
(その他の添加剤)
本発明の水溶性包装用フィルムは、さらに必要に応じて、充填剤、界面活性剤、着色剤、香料、消泡剤、剥離剤、紫外線吸収剤等、PVAフィルムに通常使用される添加剤を適宜含有してもよい。
充填剤としては、無機物粒子が挙げられる。無機物粒子は、特に限定されないが、例えば、シリカ、クレー、カオリン、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、サチンホワイト、タルク、酸化アルミニウム、ジルコニアなどが挙げられる。これらの中では、ブロッキング防止の観点から、シリカが好ましい。充填剤の含有量は、ポリビニルアルコール100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部、さらに好ましくは0.2~2質量部である。
界面活性剤としては、例えば、ノニオン界面活性剤が好ましい。ノニオン界面活性剤としては、例えば、エーテル系ノニオン界面活性剤、エステル系ノニオン界面活性剤、エーテル・エステル系ノニオン界面活性剤等が挙げられる。上記エーテル系ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等が挙げられる。上記ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。
上記エステル系ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン‐モノラウレート、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。上記ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンジオレエート等が挙げられる。
なかでも、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンモノラウレートが好ましい。
界面活性剤の含有量は、ポリビニルアルコール100質量部に対して0.01~3.0質量部が好ましく、より好ましくは0.05~2.0質量部、さらに好ましくは0.1~1.5質量部である。
【0042】
(凹凸形状)
本発明の水溶性包装用フィルムは、凹凸形状を有することが好ましい。凹凸形状は、フィルム表面に高低差をもたらす。凹凸形状は、フィルム幅方向、長手方向のいずれかに沿って形成されていてもよいが、フィルム全体に凹凸形状が形成されることが好ましい。また、凹凸の形状は、特に限定されないが、例えば、幅方向(すなわち、TD方向)に沿う断面において、波型の凹凸となることが好ましい。波型の凹凸は、
図1に示すように、曲線的に形成されると好ましいが、
図2に示すように、断面矩形の波型の凹凸であってもよいし、他の形状であってもよい。凹凸形状は、後述するエンボス加工などにより形成されるとよい。
凹凸形状の模様は、特に限定されないが、例えば、絹目、梨地、砂目、ヘアライン模様、麻柄、皮調の柄等が挙げられる。
【0043】
凹凸形状を有する水溶性包装用フィルムは、フィルムの表面において高低差Hを有する。高低差Hは、
図1,2に示すように、一方の表面において隣接する凸部10の最大高さと凹部11の最小高さの差である。
本発明の水溶性包装用フィルムは、高低差Hが10μm以上200μm以下の凹凸形状を有することが好ましい。凹凸形状の高低差Hを10μm以上とすると、水中に薬剤入り包装体を投入したときの溶解速度を速くでき、さらには、包装体溶解後の薬剤の拡散性を改善しやすくなる。また、200μm以下とすることで、エンボス加工によりフィルムに皺などが入りにくくなり、フィルムの品質が良好となる。これら観点から、凹凸形状の高低差は、40μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0044】
水溶性包装用フィルムは、フィルム表面において、ピッチPで凹凸が形成されればよい。ピッチPは、隣接する凸部10、10の最大高さ点(すなわち、頂点)間の距離である。なお、凹凸形状が、
図2に示すように、断面矩形となり、最大高さとなる部分が一定の長さで続く場合には、その中心位置を最大高さ点(頂点)とする。
凹凸形状のピッチPは、特に限定されないが、例えば0.2mm以上1.5mm以下、好ましくは0.3mm以上1.0mm以下、さらに好ましくは0.4mm以上0.8mm以下である。
高低差Hは、フィルム全体にわたって等しくてもよいし、複数の高低差を有する凹凸が組み合わさったものでもよい。ピッチPについても同様である。なお、凹凸形状の高低差H、及びピッチPは、フィルムの一方の表面において上記範囲内となればよい。
【0045】
フィルムの凹凸形状は、高低差Hが上記した範囲内となり、凹凸が大きいものについては、深エンボスなどとも呼ばれることがある。ただし、凹凸形状は、深エンボスに限定されず、上記した高低差よりも小さな高低差を有する凹凸であってもよい。そのような場合、例えば、フィルム表面の表面粗さ(Ra)が0.3μm以上1μm以下であり、かつ最大高さ(Rz)が3μm以上9μm以下である凹凸を有するとよい。
【0046】
(厚さ)
本発明の水溶性包装用フィルムの厚さTは、例えば8μm以上50μm以下であるが、10μm以上35μm以下であることが好ましく、13μm以上30μm以下であることがより好ましい。フィルムの厚さTが10μm以上であると、フィルム強度が高くなり、例えばエンボス加工後のフィルムに皺、破れなどが入りにくくなり、フィルムの品質が良好になる。また、フィルムの厚さが35μm以下となると、水中に包装体を投入したときの溶解速度が速くなる。
なお、凹凸形状の高低差H、ピッチP、及び厚さTは、後述する実施例で示すように、実体顕微鏡を用いて測定するとよい。
【0047】
本発明の水溶性包装用フィルムは、各種薬剤を包装するために使用され、例えば、農薬、工業薬品、染料、洗剤、肥料、化粧品、生理用品、医薬品等の各種の薬剤を包装するために使用される。これらの中では農薬が好ましい。本発明の水溶性包装用フィルムから形成された包装体は、水中に投入されると、包装体溶解後に内包される薬剤が素早くかつ広い範囲にわたって拡散する。したがって、本発明の水溶性包装用フィルムは、水田の農薬用に使用されることがより好ましい。
農薬としては、水田用除草剤(いわゆる、ジャンボ剤)、水和剤、顆粒状水和剤、水溶剤等の水分散性または水溶解性の製剤であることが好ましい。また、農薬は、散布後に水面に浮遊する浮遊タイプが好ましく、浮遊タイプの水田用除草剤(ジャンボ剤)がより好ましい。
薬剤は、その物性に特に制限はなく、酸性であっても、中性であっても、アルカリ性であってもよい。薬剤の形態としては、粉末状、塊状、ゲル状、液体状などが挙げられるが、薬剤の拡散性に優れる観点から粉末状または塊状であることが好ましい。包装形態に特に制限はないが、薬剤を単位量ずつ密封して包装することが好ましい。
【0048】
[包装体]
本発明は、さらに包装体を提供する。本発明の包装体において、上記薬剤包装フィルムは薬剤を包装するための包材として使用される。本発明の包装体は、具体的には、上記した薬剤包装フィルムと、薬剤包装フィルムに内包された薬剤とを備える。薬剤は、上記で列挙されたものから適宜選択され、好ましくは農薬である。包装体において、薬剤包装フィルムによって構成される包材は、薬剤を内部に封入できるような形態であればよく、例えば、袋とすればよい。
【0049】
包材を袋とする方法は、特に限定されず、例えば、1枚のフィルムを畳んで周囲を接着して袋としてもよいし、2枚のフィルムを重ね合わせ、かつ周囲を接着して袋としてもよいし、他の方法で袋としてもよい。フィルムの接着方法は、特に限定されず、ヒートシール、接着剤などにより接着するとよいが、ヒートシールが好ましい。ヒートシールの温度は、特に限定されないが、例えば70℃以上160℃以下、好ましくは80℃以上150℃以下である。
一般的に、ヒートシール、特に高温多湿下(例えば、30℃以上、かつ湿度50%超)でヒートシールすると、加工機などにフィルムが付着してヒートシールできなくなる不具合が生じることがあるが、本発明の水溶性包装用フィルムは、高温多湿下でもべたつきが少なく、加工時の不具合が生じにくく、製袋性が良好になる。また、袋を構成する薬剤包装フィルムは、適宜賦形等されていてもよい。
【0050】
[水溶性包装用フィルムの製造方法]
水溶性包装用フィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば、PVA、可塑剤、水面拡散剤、その他の必要に応じて添加される添加剤を、水で希釈して得たPVA水溶液を、支持部材に流延し、乾燥して製膜する方法等が挙げられる。また、PVA水溶液は、適宜フィルターを通した後、流延してもよい。
支持部材にPVA水溶液を流延する方法は、キャスト法、ロールコーティング法、リップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法などが挙げられる。
【0051】
PVA水溶液は、水以外の成分が、水溶液全量基準で好ましくは35質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下の濃度で水によって希釈される。また、水以外の成分は、好ましくは8質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上の濃度で水によって希釈されるとよい。
濃度を上記範囲内とすると、PVA水溶液の粘度が適度なものとなり、PVA水溶液の流延が容易になる。また、濃度を下限値以上とすることで乾燥時間が短くなり、良好な品質の水溶性包装用フィルムを得やすくなる。
【0052】
上記支持部材は、PVA水溶液の流延時に、PVA水溶液を表面上に維持し、かつ得られるフィルムを支持できるものであればよい。上記支持部材の材料としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル及びアクリル樹脂等が挙げられるが、これら以外の材料よりなる支持部材を用いてもよい。また、支持部材は、シートないしフィルム状であってもよいが、その他の形状を有してもよい。
上記PVA水溶液を流延した後の乾燥は、いかなる方法で行ってもよいが、例えば、自然乾燥する方法、PVAのガラス転移温度以下の温度で加熱乾燥する方法等が挙げられる。
【0053】
製膜したPVAフィルムは、支持部材から剥離されて水溶性包装用フィルムとして使用されるとよい。また、製膜したPVAフィルムに対しては、エンボス加工を行うことが好ましい。エンボス加工は、製膜したPVAフィルムを支持部材から剥離してから行うとよい。
【0054】
(エンボス加工)
エンボス加工は、エンボスロールとバックアップロールの間を、PVAフィルムを通過させることで行う。エンボスロールは、ロール表面に凹凸形状を有する。ロール表面の凹凸形状は、水溶性包装用フィルムが有する凹凸形状に応じて適宜選択すればよい。したがって、ロール表面の凹凸形状は、フィルム全体に凹凸形状が形成されることが好ましい。また、幅方向に沿う断面において、フィルム表面と同様に、波型の凹凸となることが好ましい。波型の凹凸は、曲線的に形成されたものでもよいが、断面矩形の波型の凹凸であることが好ましい。エンボスロールにおいて断面矩形の波型の凹凸(
図2参照)であっても、フィルムでは、波型矩形の波型の凹凸が形成されず、フィルムでは
図1に示すように曲線的に形成された波型となることが多い。
ロール表面の凹凸形状の模様は、特に限定されないが、例えば、絹目、梨地、砂目、ヘアライン模様、麻柄、皮調の柄等が挙げられる。
【0055】
エンボスロールの凹凸形状の高低差は、100μm以上350μm以下であることが好ましく、150μm以上300μm以下であることがより好ましい。高低差をこれら下限値以上とすることで、水溶性包装用フィルムにおける凹凸形状の高低差Hを上記した下限値以上としやすくなる。一方で、高低差を上限値以下となると、得られるフィルムの凹凸形状の高低差Hを上記上限値以下としやすくなる。
また、エンボスロールの表面において、凹凸形状は、フィルムに形成される凹凸形状のピッチPと同等又は近似するピッチを有していればよい。したがって、エンボスロールの表面における凹凸形状のピッチは、特に限定されないが、例えば0.2mm以上1.5mm以下、好ましくは0.3mm以上1.0mm以下、さらに好ましくは0.4mm以上0.8mmである。
なお、上記したフィルムの高低差H、ピッチPと同様に、ロール表面における凹凸形状の高低差は、隣接する凸部の最大高さと凹部の最小高さの差であり、ピッチは隣接する凸部の最大高さ点間の距離であり、これらは実体顕微鏡により、フィルム表面と同様に観察して測定できる。
【0056】
ただし、エンボスロールの表面の凹凸形状は、上記に限定されず、上記した高低差よりも小さな高低差を有する凹凸であってもよく、いわゆるマットエンボスロールであってもよい。マットエンボスロールにより凹凸を形成することで、フィルム表面の表面粗さ(Ra)、最大高さ(Rz)を上記した所定の範囲内に調整しやすくなる。
【0057】
エンボス加工において使用するバックアップロールは、一般的なエンボス加工に使用するロールであればよく、例えば、ウールンペーパーロール、ロール表面がゴムであるゴムロールを使用するとよい。バックアップロールのロール表面の硬度は、特に限定されないが、例えば硬度Aで60~95°、好ましくは70~95°である。なお、硬度Aは、JISK6253-3に規定されるデュロメータ硬さである。
【0058】
エンボス加工時、エンボスロールは、例えば50~150℃、好ましくは80~120℃で加熱すればよい。一方で、バックアップロールは、加熱されてもよいが、加熱されずに、常温(23℃)前後にされていてもよい。具体的には、バックアップロールの温度は、例えば5~50℃程度とすればよい。また、エンボスロールは、押圧力(線圧)が、例えば、40~250kg/cm、好ましくは50~200kg/cmとなるようにバックアップロールに押圧させるとよい。
【0059】
さらに、PVAフィルムは、例えば、1~50m/分の速度で、好ましくは5~20m/分の速度でエンボスとバックアップロールの間を通過させるとよい。
【0060】
エンボス加工は、インライン、オフラインのいずれで行なってもよい。インラインの場合、PVA溶液からPVAフィルムを製膜した後、巻き取ることなく、その製造ライン上で、エンボス加工を行うことになる。
一方、オフラインの場合、PVA溶液からPVAフィルムを製膜して、一旦巻き取ってロール状とした後、再度繰り出してエンボス加工を行う。オフラインにおいて、ロール状に巻き取られたPVAフィルムは、上記した支持部材が重ねられたまま巻き取られてもよいが、そのような場合でも、繰り出し後にエンボス加工を行う前に、PVAフィルムを支持部材から剥離するとよい。
フィルムは、インライン、オフラインいずれの場合でも、エンボス加工を行った後、例えば、ロール状に巻き取られ、ロール状のまま倉庫等に保管される。
【0061】
本製造方法では、PVAフィルムに対して延伸を行ってもよい。延伸は、エンボス加工を行う前に行ってもよいし、エンボス加工後に行ってもよい。エンボス加工前に行う場合には、流延後の乾燥中に行ってもよいし、乾燥後に行ってもよい。延伸は、例えば、ロールを用いた延伸、テンターを用いた延伸、巻取装置を用いた延伸、乾燥収縮を利用した延伸、又は、これらを組み合わせた延伸等の方法が挙げられる。延伸は、例えば延伸倍率1.05~3倍程度で行うとよい。また、PVAフィルムには、アニール処理など、フィルムに対して行う公知の処理を適宜行ってもよい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0063】
水溶性包装用フィルムの評価方法は以下のとおりである。
[フィルムの厚さT、凹凸形状の高低差H、ピッチP]
水溶性包装用フィルムの表面を実体顕微鏡(SELMIC社製「SE-1300」)にて観察して、フィルムの厚みT、凹凸形状の高低差H、ピッチPを計測した。凹凸形状の高低差Hは、フィルムの幅方向(TD方向)において隣接する凸部と凹部の高低差であり、ピッチPは幅方向における頂点間の距離である。
なお、計測条件は、得られた水溶性包装用フィルムを、23℃、50%RHの環境下、24時間放置した後、フィルムのTD方向に沿ってフェザー剃刀でカットして、フィルムのMD方向に垂直な断面において5点測定して、その観察した領域における平均値を厚みT、高低差H、ピッチPとした。
【0064】
[表面粗さ(Ra)、最大高さ(Rz)]
得られた水溶性包装用フィルムを、23℃、50%RHの環境下、4時間放置した後、フィルムのTD方向に向かって、測定速度0.060mm/秒、測定長さ4mm、測定レンジ±64μmとし、JISB0601-2001に基づき表面粗さ(Ra)、最大高さ(Rz)を3回測定した。その平均値をそれぞれ表面粗さ(Ra)、最大高さ(Rz)とした。
【0065】
[拡散試験]
水溶性包装用フィルムの拡散性は、以下の方法により評価した。
得られた水溶性包装用フィルムを2つに折り、3つの端部をヒートシールすることで、一端が開放された5cm×4cmの袋を作製した。得られた袋にポリエチレンペレット(東ソー株式会社製「ペトロセン205」、ペレット形状:円柱、直径3mm、長さ5mm)を15g入れて、開放端をヒートシールすることにより、内部にペレットを有する包装体を得た。
得られた包装体を23℃×50%RHの環境下にて24時間放置することで、充分にフィルムを吸水させた。その後、37cm×30cm×深さ45mmのバットに、水温23℃に調整した純水1.5Lを入れて、その中にペレット入り包装体を浮かべて包装体が崩壊する時間、及びペレットがバット全体に拡散する様子を目視確認し、以下の基準により評価した。
<破れ時間>
1:30秒未満に包装体が水中で破れた。
2:30秒以上60秒未満で包装体が水中で破れた。
3:60秒以上100秒未満で包装体が水中で破れた。
4:100秒以上で包装体が水中で破れた。
<拡散性>
1:包装体が破れてから60秒以内にペレットがほぼバット全体に広がった。
2:包装体が破れてから60秒後において、ペレットは全体に広がらずバットの半分程度の面積まで広がった。
4:包装体が破れた後、ペレットが殆ど広がらなかった。
【0066】
[耐薬品溶解性試験]
水溶性包装用フィルムの溶解性は、以下の耐薬品試験後の水溶性により評価した。得られた水溶性包装用フィルムを2つに折り、3つの端部をヒートシールすることで、一端が開放された5cm×4cmの袋を作製した。得られた袋に住友化学株式会社製「メガゼータジャンボ」を10g入れて、開放端をヒートシールすることにより、内部にピラクロニル・プロピリスルフロン粒剤を有する包装体を得た。
得られた包装体を23℃、50%RHの環境下にて24時間放置することで、充分にフィルムを吸水させた後、封管容器(株式会社三商製、商品名「PTFE内筒密閉容器SR-50用金属バルブ付」)に入れ、包装体から水や可塑剤が飛散しないように、封管容器を密閉した。その後、温度54℃のオーブンに4ヶ月間放置した後、包装体を解放して内包物を取り除き、耐薬品性評価用フィルムを得た。
得られた耐薬品性評価用フィルムを30mm×30mmのサイズにカットして秤量後、治具に固定した。そして、500mlビーカーに水500mlを入れてスターラーにより400mlの印に渦巻の下が到達するように撹拌しながら、水温を23℃に保ちつつ、治具に固定した耐薬品性評価用フィルムを水中に浸漬し、以下の基準により評価した。なお、フィルムが貫通し破れた時間を破れ時間とし、フィルムの残査が視認できなくなった時間を溶解時間として測定した。
<破れ時間>
A:15秒未満
B:15秒以上21秒未満
C:21秒以上
<溶解時間>
A:45秒未満
B:45秒以上90秒未満
C:90秒以上
【0067】
[製袋性]
得られた水溶性包装用フィルムの220mm幅の巻回体を、30℃、60%RHの環境下にて縦ピロー型自動充填包装機(三光機械株式会社製「MC501」)で、縦シール温度140℃、横シール温度135℃で製袋した時の作業性を以下の基準により評価した。
A:製袋ができた
B:シールバーにフィルムが付着して製袋できなかった
[耐薬品性溶解度及び耐薬変色性]
得られた薬剤包装用フィルムを2つに折り、3つの端部をヒートシールすることで、一端が開放された5cm×4cmの袋を作製した。この袋にトリクロロイソシアヌル酸の粉末25gを加えて、開放端をヒートシールすることにより、内部にトリクロロイソシアヌル酸の粉末を有する包装体を得た。
得られた包装体を40℃、90%RHの環境下にて24時間放置し、充分にフィルムを吸水させた後、封管容器(株式会社三商製、商品名「PTFE内筒密閉容器SR-50用金属バルブ付」)に入れ、袋から水や可塑剤が飛散しないように封管容器を密封した。このサンプルを温度70℃のオーブンに1週間放置した後、包装体を開放して内包物を取り除き、耐薬品性評価用フィルムを作製し、耐薬品性溶解度、及び耐薬視認性を評価した。
(耐薬品性溶解度)
得られた耐薬品性評価用フィルムを30mm×30mmのサイズにカットして秤量後、治具に固定した。そして、500mlビーカーに水500mlを入れてスターラーにより400mlの印に渦巻の下が到達するように攪拌しながら、水温を23℃に保ちつつ、治具に固定した評価用フィルムを水中に浸漬した。そのまま60分放置し、得られた水溶液をあらかじめ重量を測定した目開き300μmのメッシュでろ過し、未溶解のゲル成分を分離した。メッシュを80℃で3時間乾燥させ、重量変化から溶解度(%)を算出した。
(耐薬変色性)
得られた評価用フィルムのYIを測色色差計(日本電色工業株式会社製 Model「ZE2000」)を用いて測定して、測定されたYI値を初期YI値とした。また、得られた評価用フィルムを80℃の環境下に3日間放置し、更に、23℃、50%RHの環境下にて24時間放置した後、YIを測定して、経時YI値とした。黄変度(ΔYI)を以下の式により測定し、耐薬変色性を評価した。
黄変度(ΔYI)=経時YI値-初期YI値
【0068】
各実施例、比較例で使用した成分は以下のとおりである。
PVA(1):スルホン酸基変性PVA、重合度1200、ケン化度95.4モル%、スルホン酸基変性量4モル%、4質量%水溶液粘度(20℃)12.1mPa・s
PVA(2):未変性PVA、重合度1300、ケン化度88.0モル%、4質量%水溶液粘度(20℃)14mPa・s
PVA(3):ピロリドン環基変性PVA、重合度1000、ケン化度95.3モル%、ピロリドン環変性基6モル%、4質量%水溶液粘度(20℃)10mPa・s
TMP:トリメチロールプロパン、試薬、和光純薬株式会社製、分子量134
D-GL:ジグリセリン、試薬、和光純薬株式会社製、分子量166
グルコース:グルコース、試薬、富士フィルム和光純薬株式会社製、分子量180
A-80:日油株式会社製「ラピゾールA-80」、ジ(2-エチルヘキシル)-スルホコハク酸ナトリウム(有効成分量:80質量%、水面拡散剤)
スルホコハク酸ジオクチルナトリウム:富士フィルム和光純薬株式会社製、試薬(有効成分量:96質量%、水面拡散剤)
無機物粒子:シリカ、富士シリシア化学株式会社製「サイリシア358」
界面活性剤:ポリオキシエチレンモノラウレート、日油株式会社製「ノニオン L4」
【0069】
(実施例1~3、7~8、比較例1~3)
[PVAフィルムの作製]
表1に示す配合で各成分を水に溶解、分散させて濃度15質量%のPVA水溶液を調整した。得られたPVA水溶液を、支持部材であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ50μm)上にリップコーター法により塗布した。その後、70℃で10分間、次いで、110℃で10分間乾燥して、支持部材上にPVAフィルム(厚さ40μm)を製膜した。支持部材とPVAフィルムからなる積層体は、内径3インチの紙芯に巻き取った。
【0070】
[エンボス加工]
巻き取った積層体を繰り出し、支持部材を剥離した後、PVAフィルムに対して、バクアップロール(由利ロール株式会社製のウールンペーパーロール、表面硬度:JISK6253に基づくA型硬度計で75°)とエンボスロールを用いてエンボス加工を実施し、厚さ15μmの水溶性包装用フィルムを得た。エンボスロールは、ロール表面が40メッシュの絹目模様であり、幅方向に沿って矩形断面の波型を有していた。エンボスロールの高低差及びピッチは表2に示すとおりであった。エンボス加工は、PVAフィルムを100℃に加熱されたエンボスロールと常温(23℃)のバックアップロールとの間を押圧力100kg/cmで押圧させつつ、10m/分の速度で通過させることで行った。得られた水溶性包装用フィルムの評価結果を表2、3に示す。
【0071】
(実施例4)
エンボス加工において、厚さ28μmの水溶性包装用フィルムを得るように、エンボスロールとバックアップロール間の押圧力が80kg/cmとなるようにした以外は、実施例3と同様に実施した。
【0072】
(実施例5)
エンボス加工を実施しなかった点を除いて実施例2と同様に実施した。
【0073】
(実施例6)
[マットエンボスロールの作製]
ロール表面の材質が鉄からなるロール上に、ミール彫刻法でメッシュ#380により、深さ60μmになるように斜線形状の圧刻を施し、第1の凹凸を形成した。その後、約5μmのクロムメッキ層を形成した。次いで、クロムメッキ層の表面にサンドブラスト法で#60メッシュにより第2の凹凸を形成し、マットエンボスロールを得た。
[PVAフィルムの作製]
配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にPVAフィルムを作製した。
【0074】
[マットエンボス加工]
巻き取った積層体を繰り出し、支持部材を剥離した後、PVAフィルムに対して、マットエンボスロールとバックアップロール(由利ロール株式会社製のゴムロール(表面に合成ゴムが被覆、硬度A90°))を用いてマットエンボス加工を実施し、厚さ40μmの水溶性包装用フィルムを得た。マットエンボス加工は、PVAフィルムを、100℃に加熱されたマットエンボスロールと常温のバックアップロールとの間を押圧力100kg/cmで押圧させつつ、10m/分の速度で通過させることで行った。
【0075】
(実施例9、10)
エンボス加工を実施せず、かつPVA水溶液を得るための配合を表1に記載の配合に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0076】
【表1】
*配合欄におけるA-80、及びスルホコハク酸ジオクチルナトリウムそれぞれは、ラピゾールA-80、試薬としての質量部を示す。
【0077】
【0078】
【0079】
以上の結果から明らかなように、各実施例の水溶性包装用フィルムは、変性PVAが使用され、かつ可塑剤及び水面拡散剤を所定量含有することで、包装体にして水中に投入したときに、内包される薬剤の拡散性が良好であった。さらには、高温多湿下において包装体を形成しても、不具合が生じずに、製袋性に優れていた。
それに対して、各比較例の水溶性包装用フィルムは、水面拡散剤や変性PVAを含有せず、または、可塑剤を規定量より多く含有することで、薬剤の拡散性が低下したり、高温多湿下でべたつきが生じて製袋性が低下したりして、薬剤の拡散性及び製袋性の両方が優れたものとはならなかった。