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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】MEMS圧電アクチュエータ製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/082 20230101AFI20241107BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20241107BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20241107BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20241107BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
H10N30/082
H10N30/20
B81C1/00
G02B26/10 104Z
G02B26/08 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020067307
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021163937
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荻原 宏之
(72)【発明者】
【氏名】狭間 章弘
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-207938(JP,A)
【文献】国際公開第2010/098026(WO,A1)
【文献】特開2003-159799(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182228(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/090618(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/082
H10N 30/20
B81C 1/00
G02B 26/10
G02B 26/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェハの表面に下側から順番に下部電極層及び圧電膜層を積層する第1工程と、
前記圧電膜層に混入した異物の各領域を前記圧電膜層の表面における検出領域として検出し、記憶する第2工程と、
前記圧電膜層の表面に上部電極層を積層する第3工程と、
前記第2工程で記憶した前記検出領域に基づいて作成された露光パターンに基づき、前記検出領域に対応した大きさで前記異物を内側に含む除去領域にて前記圧電膜層に前記異物を埋没させたまま、フォトエッチングにより前記上部電極層を除去し、前記除去領域における前記圧電膜層の表面に前記異物の隆起部分を露出させる第4工程と、
を備えることを特徴とするMEMS圧電アクチュエータ製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のMEMS圧電アクチュエータ製造方法において、
前記第4工程のフォトエッチングは、レジスト層の剥離前のドライエッチングにおいて前記除去領域の周囲の前記上部電極層の周壁を前記圧電膜層の方に向かって内径を減少するテーパ状に形成するアンダエッチングを含むことを特徴とするMEMS圧電アクチュエータ製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のMEMS圧電アクチュエータ製造方法において、
前記第4工程のフォトエッチングでは、前記除去領域の周輪郭を円形又はすべての内角が鈍角である多角形に形成することを特徴とするMEMS圧電アクチュエータ製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のMEMS圧電アクチュエータ製造方法において、
各異物に対し、前記圧電膜層の表面において、該異物の検出領域の外接円の直径をΦUo、該外接円を内側に含む前記除去領域の内接円の直径をΦUi、及び該外接円の中心と該内接円の中心の距離をDaとするとき、
前記内接円の中心は、前記外接円の内側に位置し、
かつΦUi-ΦUo>Daであることを特徴とするMEMS圧電アクチュエータ製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のMEMS圧電アクチュエータ製造方法において、
3~10μmのΦUoに対し、ΦUiはΦUoのほぼ2.2倍であることを特徴とするMEMS圧電アクチュエータ製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のMEMS圧電アクチュエータ製造方法において、
前記MEMS圧電アクチュエータは、MEMS光偏向器に装備されることを特徴とするMEMS圧電アクチュエータ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)圧電アクチュエータ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS圧電アクチュエータ製造方法では、圧電膜層に異物が混入することがある。混入異物は、MEMS圧電アクチュエータの使用時に圧電膜層の(電気)絶縁破壊の原因になり易く、対策が求められる。
【0003】
特許文献1,2は、混入異物に因る絶縁破壊に対処したMEMS圧電アクチュエータ製造方法を開示する。
【0004】
特許文献1のMEMS圧電アクチュエータ製造方法では、異物の上端部が圧電膜層から隆起していると、上部電極層の表面の対応箇所も隆起することに着目し、隆起を内側に含む領域に対して上部電極層の表面側からレーザ光を照射する。これにより、該領域の上部電極層が除去されるので、除去領域内の異物には、MEMS圧電アクチュエータの使用時に上部電極からの電圧が印加されず、異物に起因する絶縁破壊が抑制される。
【0005】
特許文献2のMEMS圧電アクチュエータ製造方法では、上部電極層を形成した後で上部電極層の表面側に導電性振動板層を追加形成する前の工程で、上部電極層-下部電極層間に所定電圧を印加する。これにより、異物の直上の上部電極層の領域が除去されるので、製造後のMEMS圧電アクチュエータは、異物に起因する絶縁破壊が回避される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2015/182228号
【文献】特許第3843004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のMEMS圧電アクチュエータ製造方法では、レーザ光で上部電極層を除去するとき、レーザ光は直接照射されないが、直接照射領域の近辺のかなりの領域がレーザ光の影響を受けて変質してしまう。このような変質は、アクチュエータ力を弱めてしまう。上部電極層において、除去領域の周壁の上端に沿ってバリが生じてしまい、該バリが電界集中を引き起こすという副作用的問題を引き起こす。
【0008】
特許文献2のMEMS圧電アクチュエータ製造方法では、上部電極層の形成後、予め上部電極層と下部電極層との間に所定電圧を印加して、異物の直上の上部電極層を予め破壊してから、上部電極層の表面に導電性振動板層等の別の被膜を積層する。しかしながら、事前の破壊時に上部電極層の破壊物が上部電極層の非破壊領域の表面に飛び散り、別の被膜を追加形成する前に飛散した破壊物を除去する工程が必要になってしまう。
【0009】
本発明の目的は、副作用的問題を伴わずに混入異物に対する対策を施すことができるMEMS圧電アクチュエータ製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のMEMS圧電アクチュエータ製造方法は、
ウェハの表面に下側から順番に下部電極層及び圧電膜層を積層する第1工程と、
前記圧電膜層に混入した異物の各領域を前記圧電膜層の表面における検出領域として検出し、記憶する第2工程と、
前記圧電膜層の表面に上部電極層を積層する第3工程と、
前記第2工程で検出した前記検出領域に基づいて作成された露光パターンに基づき、フォトエッチングにより前記検出領域に対応した大きさで内側に含む除去領域を前記上部電極層から除去し、該除去領域に前記圧電膜層の表面を露出させる第4工程と、
を備える。
【0011】
本発明のMEMS圧電アクチュエータ製造方法によれば、フォトエッチングにより異物の検出領域を内側に含む除去領域が上部電極層から除去される。この結果、製造中、除去領域の直下含む範囲外の圧電膜層がレーザ光の影響で変質したり、除去領域を破壊する際に破壊物が飛散したりする弊害を回避しつつ、上部電極層から除去領域を除去することができる。
【0012】
好ましくは、本発明のMEMS圧電アクチュエータ製造方法において、
前記第4工程のフォトエッチングは、レジスト層の剥離前のドライエッチングにおいて前記除去領域の周壁を前記圧電膜層の方に向かって内径を減少するテーパ状に形成するアンダエッチングを含む。
【0013】
この構成によれば、除去領域の周壁をテーパ状にすることにより、除去領域の周壁における電界集中を排除して、異物を介する絶縁破壊を一層抑制することができる。
【0014】
好ましくは、本発明のMEMS圧電アクチュエータ製造方法において、
前記第4工程のフォトエッチングでは、前記除去領域の周輪郭を円形又はすべての内角が鈍角である多角形に形成する。
【0015】
この構成によれば、除去領域の周輪郭の頂点に大きな電界集中が起こることを防止することができる。
【0016】
好ましくは、本発明のMEMS圧電アクチュエータ製造方法において、
各異物に対し、前記圧電膜層の表面において、該異物の検出領域の外接円の直径をΦUo、該外接円を内側に含む前記除去領域の内接円の直径をΦUi、及び該外接円の中心と該内接円の中心の距離をDaとするとき、
前記内接円の中心は、前記外接円の内側に位置し、
かつΦUi-ΦUo>Daである。
【0017】
この構成によれば、異物の中心が明確でないときも、適切な除去領域を設定することができる。
【0018】
好ましくは、本発明のMEMS圧電アクチュエータ製造方法において、
3~10μmのΦUoに対し、ΦUiはΦUoのほぼ2.2倍である。
【0019】
この構成よれば、不必要に大きくならない除去領域を適切に設定することができる。
【0020】
好ましくは、本発明のMEMS圧電アクチュエータ製造方法において、
前記MEMS圧電アクチュエータは、MEMS光偏向器に装備される。
【0021】
MEMS光偏向器のMEMS圧電アクチュエータは、インクジェットプリンタやその他の装置に装備されるMEMS圧電アクチュエータに比して圧電膜層における単位厚さ当たりの電界差が大きく、異物に因る絶縁破壊が起こり易い。この構成によれば、MEMS光偏向器のMEMS圧電アクチュエータの製造方法として特に好適となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態のMEMS圧電アクチュエータを装備する光偏向器を正面から見た模式図である。
図2A】光偏向器のMEMS圧電アクチュエータを製造する方法を工程順に示す図である。
図2B図2Aの工程の後に続く工程順に示している。
図3】凹所を包囲する上部電極層の壁部に形成されたテーパ部の傾斜角度についての説明図である。
図4】凹所の形状例を示す図である。
図5】除去領域の寸法関係についての説明図である。
図6】実施形態と比較例とについて試験時間と故障率とを調べたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施態様について説明する。本発明は、以下の実施態様に限定されないことは言うまでもない。本発明は、明細書に開示した技術的思想の範囲内で種々の態様で実施される。なお、実施態様間で共通する構成要素は、同一の符号をつけている。
【0024】
(光偏向器)
図1は、本発明の実施形態のMEMS圧電アクチュエータを装備する光偏向器10を正面から見た模式図である。MEMSの光偏向器10は、主要構成要素として、ミラー部11、トーションバー12a,12b、内側圧電アクチュエータ13a,13b、可動枠部14、外側圧電アクチュエータ15及び固定枠部16を備える。
【0025】
構成の説明の便宜上、3軸座標系を定義する。原点Oは、ミラー部11の中心に設定する。Z軸は、光偏向器10の厚さ方向に平行な軸とする。ミラー部11は、非共振回動軸Lxと共振回動軸Lyとの2軸の回りに往復回動する。X軸及びY軸は、原点Oにおいて立てたミラー部11の平面のミラー面の法線がZ軸に平行になった時、非共振回動軸Lx及び共振回動軸Lyに一致する方向に定義する。
【0026】
トーションバー12(上下のトーションバー12a,12bの総称)は、Y軸に沿って延在し、ミラー部11と可動枠部14との間に介在する。
【0027】
内側圧電アクチュエータ13(左右の内側圧電アクチュエータ13a,13bの総称)は、Y軸方向に縦長の楕円の周輪郭で円形のミラー部11を包囲する。トーションバー12は、中間部において内側圧電アクチュエータ13に結合している。
【0028】
可動枠部14は、内側圧電アクチュエータ13の形状と、同一の形状を有し、内側圧電アクチュエータ13を包囲している。内側圧電アクチュエータ13a,13bの中間点は、X軸上に位置し、可動枠部14の内周に結合している。
【0029】
外側圧電アクチュエータ15(左右の外側圧電アクチュエータ15a,15bの総称)は、ミアンダ配列で直列結合した複数のカンチレバー20から構成される。外側圧電アクチュエータ15の両端は、X軸上に位置し、可動枠部14の外周及び矩形の固定枠部16の内周に結合している。
【0030】
複数の電極パッド17(左右の電極パッド17a,17bの総称)は、固定枠部16の左右の辺部に形成されている。各電極パッド17は、光偏向器10がパッケージに封入される際、パッケージ側の対応端子にボンディングワイヤにより接続される。各電極パッド17は、光偏向器10の内部配線(図示せず)より内側圧電アクチュエータ13及び外側圧電アクチュエータ15の電極(図示せず)に接続されている。
【0031】
(製造方法)
図2A及び図2Bは、光偏向器10のMEMS圧電アクチュエータを製造する方法を工程(STEP)順に示している。光偏向器10において、MEMS圧電アクチュエータとは、内側圧電アクチュエータ13及び外側圧電アクチュエータ15である。
【0032】
STEP1は、本発明の第1工程に対応する。ウェハ30の表面側には、下側から順番に下部電極層31及び圧電膜層32が積層される。圧電膜層32は、例えば、PZT(チタン・ジルコン酸鉛)膜から成る。
【0033】
圧電膜層32の成膜方法として、例えば、マグネトロンスパッタリング法、ゾルゲル法、MOCVD法、又はイオンプレーティング法を採用することができる。
【0034】
圧電膜層32には、異物36が混入することがある。異物36は、圧電膜層32の表面より上側の隆起部分37と、圧電膜層32の表面より下側の埋没部分38とを有する。
【0035】
STEP2は、本発明の第2工程に対応する。ウェハ30は、オリエンテーションフラット39を有する。1つのウェハ30から多数の光偏向器10のチップが製造される。STEP1-STEP7は、個々の光偏向器10のチップに対してではなく、ウェハ30全体で一斉に行われるプロセスである。
【0036】
STEP2の図は、圧電膜層32の表面に対する直交方向(=ウェハ30の厚さ方向)で圧電膜層32の上方から圧電膜層32及び異物36を見た図である。PZT膜の圧電膜層32は、透明であるのに対し、異物36は、色(例:黒色)をもつ。したがって、圧電膜層32の表面より上側からRGBカメラで撮影して、撮影画像を色解析すれば、圧電膜層32の表面に対して平行な方向の異物36の領域(以下、「検出領域」という。)を検出することができる。
【0037】
また、異物36は、通常、圧電膜層32の表面に対して平行方向で最大径を隆起部分37より埋没部分38にもつ。これを踏まえて、STEP2の図では、埋没部分38が図示されている。
【0038】
この検出領域の位置は、RGBカメラに付属した記憶装置内に記憶され、後述するSTEP5における露光パターンのデータとして利用される。
【0039】
なお、STEP2において、RGBカメラではない、例えば触圧センサ等で異物36を検出するときは、圧電膜層32から露出している部分としての隆起部分37のみの検出となる。この場合は、隆起部分37の最大径部(通常、隆起部分37の根元の領域)が検出領域になる。そして、隆起部分37の最大径部が検出領域となった場合も、該検出領域のデータが不図示の記憶装置に記憶され、露光パターンのデータとして利用される。
【0040】
STEP3は、本発明の第3工程に対応する。上部電極層40が、圧電膜層32の表面側に形成される。さらに、上部電極層40の表面側にレジスト層41が形成される。このレジスト層41は、ポジ型を想定している。
【0041】
各寸法を例示すると、次のとおりである。
下部電極層31の厚さ:200nm
圧電膜層32の厚さ:5μm
上部電極層40の厚さ:100nm
【0042】
STEP4-6は、本発明の第4工程に対応する。
【0043】
STEP4では、STEP2で記憶された検出領域の位置に基づいてレジスト層41の露光が行われる。このレジスト層41は、ポジ型であるため、異物36の直上位置を内側に含む領域に紫外光Lvに照射される。紫外光Lvは、レジスト層41を感光でき、上部電極層40には影響しない程度の強度を有するレーザ光であり、検出領域の位置に選択的に照射される。
【0044】
STEP5では、フォトエッチングに含まれるドライエッチングにより、除去領域53が圧電膜層32の表面側でかつ上部電極層40及びレジスト層41の内側に形成される。図示の除去領域53は、上部電極層40の除去領域だけでなく、レジスト層41の除去領域も含む。上部電極層40の除去領域とレジスト層41の除去領域とは、ウェハ30の厚さ方向に平行にレジスト層41の上側から圧電膜層32の表面に投影した領域の位置で一致する。
【0045】
異物36は、除去領域53のほぼ中心に位置するように、レーザ光の露光パターンが設定されている。除去領域53を包囲するレジスト層41の縁部の下面側の上部電極層40は、アンダエッチング54によりテーパ部58(STEP6)が形成される。
【0046】
STEP4,5のフォトエッチングについてさらに具体的に説明する。レジスト層41は、メルク株式会社のAZ6130を用い、厚さは2μmとした。紫外光Lv(レーザ光)照射によるパターン露光後、現像を行ってレジスト層41のうち除去領域53に相当する箇所を洗い流す。現像後のポストベークは、110℃で1分行い、レジスト層41の端部を丸くする。
【0047】
その後のドライエッチングは、圧力を1Paにし、エッチングガスAr+Clを用い、RF(高周波)放電で行った。STEP5に図示の構造は、このドライエッチングを経たものである。
【0048】
STEP6は、レジスト層41の剥離工程である。該剥離工程により、レジスト層41は、上部電極層40の表面から除去される。テーパ部58は、STEP6のアンダエッチング54により形成されたものであり、圧電膜層32の表面側に向かって除去領域53の中心の方へ傾斜している。除去領域53及びアンダエッチング54の具体的な構造については、図3で述べる。
【0049】
STEP6の後、MEMSの周知の製造プロセスを経て光偏向器10が完成する。
【0050】
(除去領域の詳細説明)
図3は、除去領域53を包囲する上部電極層40の壁部に形成されたテーパ部58の傾斜角度αについての説明図である。
【0051】
図2BのSTEP5で説明したように、上部電極層40において除去領域53を包囲する包囲壁は、アンダエッチング54によりテーパ部58となる。図3において、下端61及び上端62は、それぞれテーパ部58の上下の端であり、高さは上部電極層40の下面及び上面に一致する。65は、下端61の立てた圧電膜層32の表面の法線である。傾斜線66は、下端61と上端62とを結ぶ直線である。
【0052】
図3において、各符号の定義は、次のとおりである。
Hs:圧電膜層32の表面に対して平行な平面の方向
α:法線65に対する下端61から上端62への向きへの傾斜線66の傾斜角度
Wa:隆起部分37の根本(隆起部分37が圧電膜層32の表面から隆起開始している箇所)と下端61との間のHs方向の距離
Wb:異物36と下端61との間の最短距離。図示の例では、該平行な方向において、異物36が下端61の方に最も張り出した箇所は、埋没部分38に存在するので、最短距離は、埋没部分38の箇所と下端61とのHs方向の距離となる。
Wc:下端61-上端62間のHs方向の距離
【0053】
アンダエッチング54は、除去領域53の周方向位置でばらつきがある。したがって、傾斜角度αは、テーパ部58の全周にわたって一律ではなく、異なっている。テーパ部58の全周にわたる平均の傾斜角度αをαavrとする。αavrは、次のように設定することが望ましい。
0°<αavr≦75°・・・(式1)
【0054】
図2A及び図2Bで説明したMEMS圧電アクチュエータ製造方法では、除去領域53をレーザ光の照射ではなく、フォトエッチングにより形成するので、上部電極層40の表面、特に除去領域53の上端62に沿ってバリが連続的に並ぶような副作用的問題を排除することができる。この結果、上部電極層40の表面において、Hs方向に隆起部分37から2・Wa+Wc又は埋没部分38から2・Wb+Wcまでの範囲には一切のバリは存在しない。このことは、除去領域53の生成のために、バリが生じて、このバリが、電界集中を引き起こして異物36とは別個の絶縁破壊となる副作用的問題を伴わずに除去領域53を除去できることを意味する。
【0055】
なお、図3では、WaとWbとの長さの差が大きく表現されているが、実際は微差であり、Wa,Wbのどちらでも採用することができる。埋没部分38の領域を検出できるRGBカメラで異物36の検出領域を検出するときは、Waが採用され、隆起部分37のみしか検出できない触圧センサで異物36の検出領域を検出するときは、Wbが採用される。
【0056】
図4は、除去領域53の形状例として除去領域53a,53bの形状(周輪郭)を示している。除去領域53(除去領域53a,53bの総称)の形状は、図2BのSTEP4のレーザ光の照射パターン(周輪郭)により決定される。
【0057】
図4において、「隆起部分37 or 埋没部分38」と記載している理由は、前述したように、上部電極層40の大きさを決定する異物36の最大径部を検出する場合に、埋没部分38を含めて、検出するときと(”38”:例えばRGBカメラの使用時)、埋没部分38は除外して隆起部分37のみで検出するときと(”37”:例えば触圧センサの使用時)があるからである。
【0058】
ウェハ30の厚さ方向に圧電膜層32の上方から見たときの異物36の形状は、円形ではないが、図示の便宜上、円形で図示している。除去領域53aの形状は円形とされる。除去領域53bの形状は、すべての内角が鈍角である多角形とされる。これにより、除去領域53の全周の一部の箇所に、圧電膜層32の絶縁破壊の原因になり易い電界集中が生じることを回避することできる。
【0059】
図4の(b)において、Coは、隆起部分37を上方から見たときの隆起部分37の形状を非円形としたときの隆起部分37の外接円であり、Ciは、除去領域53bの内接円である。なお、除去領域53a,53b共に周囲部はテーパ部58となっているが、図4の除去領域53の周輪郭は、テーパ部58の下端61の位置に相当する。
【0060】
図5は、除去領域53bの寸法関係についての説明図である。寸法関係を説明するために、図4の(b)を拡大して図5を示している。図5において、各符号の定義は、次のとおりである。
【0061】
Oi:内接円Ciの中心
Oo:外接円Coの中心
ΦUi:内接円Ciの直径
ΦUo:外接円Coの直径
Da:Oi-Oo間の距離
【0062】
中心Oiは、外接円Coの内側に設定される。また、次の関係が設定される。
ΦUi-ΦUo>Da・・・(式2)
【0063】
(確認試験)
図6は、実施形態と比較例とについて試験時間と故障率とを調べたグラフである。実施形態及び比較例共に、光偏向器10のMEMS圧電アクチュエータとして外側圧電アクチュエータ15として用いられることを想定したMEMS圧電アクチュエータを試験対象とした。ただし、比較例の光偏向器10の外側圧電アクチュエータ15には、除去領域53を形成しなかったのに対し、実施形態の光偏向器10の外側圧電アクチュエータ15には、除去領域53を形成した。なお、光偏向器10では、内側圧電アクチュエータ13より外側圧電アクチュエータ15の方が作動中の厚さ方向の単位長さ当たりの電圧が大きくなるので、その分、内側圧電アクチュエータ13より絶縁破壊が起こり易くなる。
【0064】
図6の結果から、除去領域53を形成することにより、故障率(絶縁破壊までの時間)が大幅に伸びることが分かった。
【0065】
(変形例)
図2BのSTEP5では、レジスト層41をポジ型としたが、本発明のMEMS圧電アクチュエータ製造方法では、ネガ型のレジストを使用することもできる。
【0066】
実施形態では、本発明のMEMS圧電アクチュエータとして光偏向器10の内側圧電アクチュエータ13及び外側圧電アクチュエータ15を示した。しかしながら、本発明の適用されるMEMS圧電アクチュエータ製造方法は、光偏向器以外に備えられるMEMS圧電アクチュエータ製造方法及びMEMS圧電アクチュエータであってもよい。また、光偏向器は、光偏向器10のような二軸走査型でなく、一軸走査型であってもよい。
【0067】
実施形態では、STEP4,5におけるアンダエッチング54を達成するエッチングをドライエッチングで説明した。本発明では、ドライエッチングに代えてウェットエッチング又はイオンミリングによりテーパ部58を形成することも可能である。
【0068】
実施形態の光偏向器10は、車両の前照灯等に装備することを想定している。前照灯の光偏向器10では、MEMS圧電アクチュエータとしての外側圧電アクチュエータ15は、例えば、-40~125℃の範囲で動作を保証する必要がある。すなわち、インクジェットプリンタのMEMS圧電アクチュエータが通常60℃の使用環境であるのに対し、前照灯のMEMS圧電アクチュエータでは、125℃の厳しい高温環境下にさらされる。このため、前照灯のMEMS圧電アクチュエータでは、異物36が圧電膜層32に混入したときの絶縁破壊の問題が顕在化する。したがって、本発明のMEMS圧電アクチュエータは、特に、車両用前照灯に装備されて走査光の生成に使用する光偏向器のMEMS圧電アクチュエータへの適用に有利性を発揮する。
【符号の説明】
【0069】
10・・・光偏向器、15・・・外側圧電アクチュエータ(MEMS圧電アクチュエータ)、30・・・ウェハ、31・・・下部電極層、32・・・圧電膜層、33・・・上部電極層、36・・・異物、40・・・上部電極層、41・・・レジスト層、53・・・除去領域、54・・・アンダエッチング、58・・・テーパ部。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6