(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】疎水変性セルロース繊維を含有する乳化組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 1/02 20060101AFI20241107BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20241107BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20241107BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20241107BHJP
C08L 1/08 20060101ALI20241107BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20241107BHJP
C09D 101/00 20060101ALI20241107BHJP
C09D 101/26 20060101ALI20241107BHJP
C09D 191/00 20060101ALI20241107BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20241107BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20241107BHJP
C08B 15/05 20060101ALN20241107BHJP
C08B 15/04 20060101ALN20241107BHJP
【FI】
C08L1/02
C08K3/20
C08K5/00
C08L91/00
C08L1/08
C09K23/52
C09D101/00
C09D101/26
C09D191/00
C09D5/16
C09K3/00 112Z
C08B15/05
C08B15/04
(21)【出願番号】P 2020130111
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019143212
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019225605
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】竹内 黎明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 嘉則
(72)【発明者】
【氏名】増田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大崎 浩二
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/164135(WO,A1)
【文献】特開2017-014116(JP,A)
【文献】特開2018-044095(JP,A)
【文献】特開2012-126786(JP,A)
【文献】JOHNSON Richard K. et al.,Preparation and characterization of hydrophobic derivatives of TEMPO-oxidized nanocelluloses,Cellulose,英国,Springer,2011年11月,18巻6号,1599-1609,ISSN:1572-882X, DOI:10.1007/s10570-011-9579-y
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09D 5/00-5/14
C09D 101/00-101/32
C09D 191/00-191/08
C09K 3/00
C09K 23/52
C08J 3/05
C08B 15/05
C08B 15/04
A61K 8/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)~(C)を含有する乳化組成物。
(A)下記成分(a)及び成分(b)からなる群より選択される一種以上の疎水変性セルロース繊維
(a)セルロース繊維にシリコーン系化合物が結合してなる疎水変性セルロース繊維
(b)アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に、カチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物がイオン結合を介して結合してなる疎水変性セルロース繊維
(B)水
(C)
25℃の水100gあたりの溶解度が1g以下であって、25℃1気圧で液体の有機化合物
【請求項2】
成分(C)が油剤を含
み、該油剤が、エステル油、炭化水素油、シリコーン油、エーテル油、油脂及びフッ素系不活性液体からなる群より選択される一種以上である、請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
成分(a)が、アニオン変性セルロース繊維にシリコーン系化合物が結合してなる疎水変性セルロース繊維である、請求項1又は2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
成分(a)が、カルボキシ基含有セルロース繊維のカルボキシ基に、アミノ変性シリコーンがイオン結合又はアミド結合を介して結合してなる疎水変性セルロース繊維である、請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項5】
成分(b)が、カルボキシ基含有セルロース繊維のカルボキシ基に、アミノ基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物がイオン結合を介して結合してなる疎水変性セルロース繊維である、請求項1~4のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項6】
成分(A)と成分(C)との質量比(A/C)が0.0001以上20以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項7】
さらに成分(D)ポリエーテル変性シリコーン化合物を含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項8】
成分(A-1)アニオン変性セルロース繊維、
成分(A-2)アミノ変性シリコーン、及びカチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物からなる群より選択される一種以上の化合物、
成分(B)水、並びに
成分(C)
25℃の水100gあたりの溶解度が1g以下であって、25℃1気圧で液体の有機化合物
を含有する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項9】
成分(A-1)アニオン変性セルロース繊維、
成分(A-2)アミノ変性シリコーン、及びカチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物からなる群より選択される一種以上の化合物、
成分(B)水、並びに
成分(C)
25℃の水100gあたりの溶解度が1g以下であって、25℃1気圧で液体の有機化合物
を混合する工程を含む、請求項
8に記載の乳化組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の乳化組成物を乾燥させる工程を含む、疎水変性セルロース繊維を含有する膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の乳化組成物を含有する、生物付着抑制剤。
【請求項12】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の乳化組成物を含有する、防汚剤。
【請求項13】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の乳化組成物を含有する、防雪剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は疎水変性セルロース繊維を含有する乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、化粧料や食品等の包装容器等の分野において、容器やトレイ等に接触し得る物体(例えば化粧料や食品そのものといった、容器内に充填されたり膜で包装されたりする対象の物)や汚れ等の流動物の付着を防止する表面膜が開発されてきた。最近では、疎水変性セルロース繊維及び油を有する膜が知られている。
例えば、特許文献1には、セルロース繊維のアニオン性基及び水酸基から選ばれる1種以上に修飾基が結合されてなる疎水変性セルロース繊維とSP値が10以下の油とを有する膜が開示されている。
一方、乳化組成物としては、特許文献2には、アニオン変性セルロース微細繊維に、有機性値が300以下のモノアミンを塩として結合させることで、保形性、分散安定性、耐塩性に優れるとともに、乳化安定性に優れた粘性水系組成物を製造できることが記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2018/164135
【文献】特開2012-126786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の、疎水変性セルロース繊維及び油を有する膜は、溶剤中に疎水変性セルロース繊維が分散し、油が溶解した状態から溶剤を蒸発させることによって作製される。かかる膜は、一定の滑液性を示すが、さらなる耐久性が求められている。
【0005】
また、特許文献2は、乳化安定性に優れた粘性水系組成物を得ることを課題としており、膜を形成するものではない。
【0006】
従って、本発明の目的は、耐水性又は耐久性に優れた滑液性を有する膜を製造するための、水系の乳化組成物及び膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記〔1〕~〔8〕に関する。
〔1〕 以下の成分(A)~(C)を含有する乳化組成物。
(A)下記成分(a)及び成分(b)からなる群より選択される一種以上の疎水変性セルロース繊維
(a)セルロース繊維にシリコーン系化合物が結合してなる疎水変性セルロース繊維
(b)アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に、カチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物がイオン結合を介して結合してなる疎水変性セルロース繊維
(B)水
(C)25℃1気圧で液体の有機化合物
〔2〕 さらに成分(D)ポリエーテル変性シリコーン化合物を含む、前記〔1〕に記載の乳化組成物。
〔3〕 成分(A-1)アニオン変性セルロース繊維、
成分(A-2)アミノ変性シリコーン、及びカチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物からなる群より選択される一種以上の化合物、
成分(B)水、並びに
成分(C)25℃1気圧で液体の有機化合物
を混合する工程を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の乳化組成物の製造方法。
〔4〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載の乳化組成物を乾燥させる工程を含む、疎水変性セルロース繊維を含有する膜の製造方法。
〔5〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載の乳化組成物を乾燥して得られる乾燥膜。
〔6〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載の乳化組成物を塗布後、乾燥して得られる塗工膜。
〔7〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載の乳化組成物を含有する、生物付着抑制剤、防汚剤又は防雪剤。
〔8〕 (A)下記成分(a)及び成分(b)からなる群より選択される一種以上の疎水変性セルロース繊維、
(a)セルロース繊維にシリコーン系化合物が結合してなる疎水変性セルロース繊維
(b)アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に、カチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物がイオン結合を介して結合してなる疎水変性セルロース繊維、及び
(C)25℃1気圧で液体の有機化合物
を含有し、粒子状構造を有する膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって提供される水系の乳化組成物を用いることによって、耐水性に優れる膜や、あるいは、耐久性に優れた滑液性を有する膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1において製造された乳化組成物の、Cryo-SEMによる顕微鏡写真(25000倍)である。
【
図2】
図2は、実施例1において製造された乳化組成物の乳化滴の粒径分布を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1において製造された乳化組成物の乾燥膜の、SEMによる顕微鏡写真(8000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らが上記課題解決のために鋭意検討した結果、セルロース繊維にシリコーン系化合物又は特定の炭化水素系化合物を結合させた疎水変性セルロース繊維と、水及び25℃1気圧で液体の有機化合物を含有する乳化組成物をを基板上に塗布し乾燥させることによって、意外にも、耐水性に優れたり、あるいは耐久性に優れた、滑液性を示す膜を作製できることを見出し、本発明を完成させた。
かかる効果が発現するメカニズムは定かではないが、乳化組成物中で、前記疎水変性セルロース繊維が、25℃1気圧で液体の有機化合物中でネットワークを形成し、乾燥に伴って前記ネットワークが架橋して膜化するためだと推測される。
【0011】
1.乳化組成物
本発明の乳化組成物は、以下の成分(A)~(C)を含有する。
<成分(A)>
成分(A)は、下記(a)及び(b)からなる群より選択される一種以上の疎水変性セルロース繊維である。
(a)セルロース繊維にシリコーン系化合物が結合してなる疎水変性セルロース繊維
(b)アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に、カチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物がイオン結合してなる、疎水変性セルロース繊維
【0012】
本明細書における疎水変性セルロース繊維とは、セルロース繊維にシリコーン系化合物が結合したもの、又はアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に、カチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物がイオン結合を介して結合したものである。
【0013】
〔セルロースI型結晶構造及び結晶化度〕
疎水変性セルロース繊維は、その原料として天然セルロースを使用していることに起因して、セルロースI型結晶構造を有することが好ましい。疎水変性セルロース繊維の結晶化度は、成膜時の強度発現の観点から、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上であり、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下であり、より好ましくは85%以下であり、更に好ましくは80%以下であり、更に好ましくは75%以下である。セルロースI型結晶化度は、後述の実施例に記載の方法によって測定される。
【0014】
〔疎水変性セルロース繊維の平均繊維径〕
疎水変性セルロース繊維の平均繊維径としては、取扱い性の観点から、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは1.0nm以上、更に好ましくは2.0nm以上であり、成膜した時の強度の観点から、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。疎水変性セルロース繊維の平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法によって測定される。
【0015】
〔修飾基〕
成分(a)の疎水変性セルロース繊維、即ち、セルロース繊維にシリコーン系化合物が結合してなる疎水変性セルロース繊維の一つの好ましい態様は、下記一般式(T-Ce)で示される構造を有する。
【0016】
【0017】
(式中、Xは-CH2OH、-CH2O-R1、-C(=O)OH、-C(=O)O-R1、-C(=O)-O-H3N+-R1及び-C(=O)-NH-R1からなる群より選択される一種以上の基であり、R1は修飾基であり、Rはそれぞれ独立して水素原子又は修飾基であり、R1及びRは同一でも異なっていてもよく、複数のR1及びRのうちの少なくとも一つは修飾基である。mは20以上3,000以下の整数である。)
【0018】
セルロース繊維にシリコーン系化合物が結合してなる疎水変性セルロース繊維における修飾基はシリコーン系化合物に由来する基であり、修飾基(即ち、前記式(T-Ce)におけるR1及びR)の構造は、使用するシリコーン系化合物の構造に依存する。セルロース繊維に対する修飾基の結合様式は、共有結合あるいはイオン結合であることが好ましい。製造の簡便性の観点から、イオン結合が好ましく、形成される膜の安定性の観点から共有結合が好ましい。シリコーン系化合物、及びカチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物のような、修飾基を導入するための化合物を、本明細書では「修飾用化合物」と記載することがある。
【0019】
セルロース繊維における修飾基の結合箇所としては、セルロース繊維が有するヒドロキシ基、アルデヒド基、あるいはセルロース繊維を化学変性することによって導入される官能基が挙げられる。前記化学変性によって導入される官能基は、好ましくはアニオン性基であり、より好ましくはカルボキシ基である。セルロース繊維としては、調製が容易である観点及び反応条件が穏やかである観点から、アニオン変性セルロース繊維が好ましく、カルボキシ基含有セルロース繊維がより好ましい。
【0020】
前記結合箇所がセルロース繊維のヒドロキシ基の場合には、結合様式は共有結合であり、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合等が挙げられる。
【0021】
前記結合箇所がアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基の場合には、結合様式はイオン結合あるいは共有結合である。結合様式がイオン結合の場合には、カチオン性基を有する修飾用化合物が、静電相互作用を介して結合した状態であり、結合様式が共有結合の場合には、エステル結合、アミド結合などを介して結合した状態を指し、特にカルボキシ基含有セルロース繊維のカルボキシ基に対しては、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合等を介して結合した状態である。
【0022】
例えば、修飾用化合物がアミノ変性シリコーン(「H2N-〔アルキルシリコーン骨格〕」とする。)であり、セルロース繊維がカルボキシ基含有セルロース繊維(「〔セルロース骨格〕-C*(=O)-OH」とする。)である場合において、結合様式がイオン結合であれば、疎水変性セルロース繊維は「〔セルロース骨格〕-C*(=O)-O-H3N+-〔アルキルシリコーン骨格〕」のような構造となり、修飾基は「-〔アルキルシリコーン骨格〕」となる。一方、結合様式がアミド結合であれば、疎水変性セルロース繊維は「〔セルロース骨格〕-C*(=O)-NH-〔アルキルシリコーン骨格〕」のような構造となり、修飾基は「-〔アルキルシリコーン骨格〕」となる。このように、修飾基の構造は、使用する修飾用化合物の構造に依存する。なお、「C*」はセルロース構成単位の6位の炭素原子を意味する。
【0023】
また、成分(b)の疎水変性セルロース繊維、即ち、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に、カチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物がイオン結合を介して結合してなる疎水変性セルロース繊維の修飾基は、カチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物由来のものである。この場合、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に対する修飾基の結合様式はイオン結合であり、成分(b)の疎水変性セルロース繊維は、セルロース繊維表面のアニオン性基に、修飾基が持つカチオン性基が静電相互作用を介して吸着している状態である。
以下、シリコーン系化合物に由来する基とカチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物に由来する基を含めて「修飾基」と称する。
【0024】
疎水変性セルロース繊維における修飾基の結合量(mmol/g)及び導入率(モル%)とは、疎水変性セルロース繊維に導入された修飾基の量及び割合のことである。具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。修飾基の結合量及び導入率は、修飾用化合物の添加量、種類、反応温度、反応時間、溶媒などによって調整することができる。
【0025】
疎水変性セルロース繊維における修飾基の結合量は、耐水性及び滑液性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.2mmol/g以上、更に好ましくは0.5mmol/g以上、である。また、反応性の観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下である。
【0026】
また、疎水変性セルロース繊維における修飾基の導入率は、耐水性及び滑液性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上であり、反応性の観点から、好ましくは99モル%以下、より好ましくは97モル%以下、更に好ましくは95モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である。
【0027】
〔疎水変性セルロース繊維の製造方法〕
成分(A)の疎水変性セルロース繊維は、例えば、(1)原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入してアニオン変性セルロース繊維を得る工程、及び(2)該アニオン変性セルロース繊維に、シリコーン系化合物及び/又はカチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物を結合させて、疎水変性セルロース繊維を得る工程、を含む方法が挙げられる。
【0028】
前記(2)の工程の一態様としては、
成分(A-1)アニオン変性セルロース繊維、
成分(A-2)アミノ変性シリコーン、及びカチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物からなる群より選択される一種以上の化合物
成分(B)水、並びに
成分(C)25℃1気圧で液体の有機化合物
を混合する工程が挙げられる。かかる態様は、後述の本発明の乳化組成物の製造方法における工程、即ち、成分(A-1)、成分(A-2)、成分(B)及び成分(C)を混合する工程と同一である。かかる態様によれば、疎水変性セルロース繊維と本発明の乳化組成物とを同一の工程で製造できるため、より好ましい製造方法ということができる。
【0029】
(1)アニオン変性セルロース繊維を得る工程
本発明で用いられるアニオン変性セルロース繊維は、原料のセルロース繊維に酸化処理又はアニオン性基の付加処理を施して、少なくとも1つ以上のアニオン性基を導入してアニオン変性させることによって得ることができる。
【0030】
アニオン変性の対象となるセルロース繊維、即ち、疎水変性セルロース繊維やアニオン変性セルロース繊維の原料のセルロース繊維としては、環境面から好ましくは天然セルロース繊維であり、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
原料のセルロース繊維の平均繊維径は特に限定されないが、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは1μm以上であり、一方、好ましくは300μm以下である。
【0032】
また、原料のセルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、入手性及びコストの観点から、好ましくは100μm以上であり、好ましくは5,000μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。分散性の観点から、原料のセルロース繊維を、アルカリ加水分解処理や酸加水分解処理等で短繊維化処理した平均繊維長が1μm以上であり、1,000μm以下であるセルロース繊維を用いることが好ましい。
【0033】
導入されるアニオン性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基又はリン酸基が挙げられる。
【0034】
(i)セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する場合
セルロース繊維にカルボキシ基を導入する方法としては、例えばセルロースのヒドロキシ基を酸化してカルボキシ基に変換する方法や、セルロースのヒドロキシ基にカルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法が挙げられる。
【0035】
前記セルロースのヒドロキシ基を酸化処理する方法としては特に制限されないが、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を反応させて酸化処理する方法が適用できる。より詳細には、公知の方法、例えば特開2011-140632号公報に記載の方法を参照することができる。
【0036】
TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化処理を行うことによって、セルロース構成単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CH2OH)が選択的にカルボキシ基に変換される。特にこの方法は、原料のセルロース繊維表面の酸化対象となるC6位のヒドロキシ基の選択性に優れており、且つ反応条件も穏やかである点で有利である。従って、本発明におけるアニオン変性セルロース繊維の好ましい態様として、セルロース構成単位のC6位がカルボキシ基であるセルロース繊維が挙げられる。本明細書において、かかるセルロース繊維を「酸化セルロース繊維」という場合がある。酸化セルロース繊維は、それ以外のアニオン変性セルロース繊維と比べて調製が容易であることから好ましい。従って、本発明における疎水変性セルロース繊維の好ましい態様の一つは、カルボキシ基含有セルロース繊維にアミノ変性シリコーンが結合してなる疎水変性セルロース繊維である。
【0037】
酸化セルロース繊維に更に追酸化処理又は還元処理を行うことで、残存するアルデヒド基を除去した酸化セルロース繊維を調製することができる。
【0038】
(ii)セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基又はリン酸基を導入する場合
セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
セルロース繊維にアニオン性基としてリン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロース繊維に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維の分散液にリン酸又はリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらの方法を採用した場合、一般的に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理及び加熱処理等を行う。
【0039】
(iii)アニオン変性セルロース繊維(成分(A-1))
このようにして得られるアニオン変性セルロース繊維中に含まれるアニオン性基は、例えばカルボキシ基、スルホン酸基及びリン酸基等が挙げられる。前記アニオン性基は、セルロース繊維への修飾基の導入効率の観点から、カルボキシ基であることが好ましい。アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)としては、例えば、製造時のアルカリ存在下で生じるナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン及びアルミニウムイオン等の金属イオンや、これらの金属イオンを酸で置換して生じるプロトン等が挙げられる。
【0040】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基含有量は、修飾基導入の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上であり、より好ましくは0.4mmol/g以上であり、更に好ましくは0.6mmol/g以上であり、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下であり、より好ましくは2mmol/g以下であり、更に好ましくは1.8mmol/g以下である。なお、「アニオン性基含有量」とは、セルロース繊維を構成するセルロース中のアニオン性基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0041】
アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径としては、取扱い性の観点から、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは1.0nm以上、更に好ましくは2.0nm以上であり、成膜した時の強度の観点から、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法によって測定される。
【0042】
(2)疎水変性セルロース繊維を得る工程
成分(A)の疎水変性セルロース繊維は、前記したアニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーン、及びカチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物からなる群より選択される一種以上の化合物を結合させることにより製造することができる。かかる製造方法としては、公知の方法、例えば特開2015-143336号公報に記載の方法を用いることができる。
【0043】
(i)シリコーン系化合物
本発明において修飾用化合物として用いられるシリコーン系化合物は、市販品を用いるか、公知の方法に従って調製することができる。シリコーン化合物は1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0044】
本発明において修飾用化合物として用いられるシリコーン系化合物としては、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、ハイドロジェン変性シリコーンなどが挙げられ、反応基の位置はシリコーン化合物の側鎖でも末端でもよい。これらの中では、修飾の容易さの観点から、好ましくはアミノ変性シリコーンである。
【0045】
(ii)アミノ変性シリコーン
アミノ変性シリコーンとは、アミノ基を有するシリコーン系化合物である。アミノ変性シリコーンとしては、25℃での動粘度が10mm2/s以上20,000mm2/s以下のものが好ましい。さらに、アミノ当量が400g/mol以上16,000g/mol以下のアミノ変性シリコーンが好ましいものとして挙げられる。
【0046】
25℃での動粘度はオストワルト型粘度計で求めることができ、滑液性の観点から、より好ましくは20mm2/s以上、更に好ましくは50mm2/s以上であり、ハンドリング性の観点からより好ましくは10,000mm2/s以下、更に好ましくは5,000mm2/s以下である。
【0047】
また、アミノ当量は、滑液性の観点から、好ましくは400g/mol以上、より好ましくは600g/mol以上、更に好ましくは800g/mol以上であり、アニオン変性セルロース繊維への結合のさせやすさの観点から、好ましくは16,000g/mol以下、より好ましくは14,000g/mol以下、更に好ましくは12,000g/mol以下である。なお、アミノ当量は、窒素原子1個当りの分子量であり、アミノ当量(g/mol)=質量平均分子量/1分子あたりの窒素原子数で求められる。ここで質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーでポリスチレンを標準物質として求めた値であり、窒素原子数は元素分析法により求めることができる。
【0048】
アミノ変性シリコーンの具体例として、一般式(a1)で表される化合物が挙げられる。
【0049】
【0050】
〔式中、R1aは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基又は水素原子から選ばれる基を示し、滑液性の観点から、好ましくはメチル基又はヒドロキシ基である。R2aは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基又は水素原子から選ばれる基であり、同様の観点から、好ましくはメチル基又はヒドロキシ基である。Bは少なくとも一つのアミノ基を有する側鎖を示し、R3aは炭素数1~3のアルキル基又は水素原子を示す。x及びyはそれぞれ平均重合度を示し、該化合物の25℃の動粘度及びアミノ当量が上記範囲になるように選ばれる。尚、R1a、R2a、R3aはそれぞれ同一でも異なっていても良く、また複数個のR2aは同一でも異なっていても良い。〕
【0051】
一般式(a1)の化合物において、滑液性の観点から、xは好ましくは10以上~10,000以下の数、より好ましくは20以上5,000以下の数、更に好ましくは30以上3,000以下の数である。yは好ましくは1以上1,000以下の数、より好ましくは1以上500以下の数、更に好ましくは1以上200以下の数である。一般式(a1)の化合物の質量平均分子量は、好ましくは2,000以上1,000,000以下、より好ましくは5,000以上100,000以下、更に好ましくは8,000以上50,000以下である。
【0052】
一般式(a1)において、アミノ基を有する側鎖Bとしては、下記のものを挙げることができる。
-C3H6-NH2
-C3H6-NH-C2H4-NH2
-C3H6-NH-[C2H4-NH]e-C2H4-NH2
-C3H6-NH(CH3)
-C3H6-NH-C2H4-NH(CH3)
-C3H6-NH-[C2H4-NH]f-C2H4-NH(CH3)
-C3H6-N(CH3)2
-C3H6-N(CH3)-C2H4-N(CH3)2
-C3H6-N(CH3)-[C2H4-N(CH3)]g-C2H4-N(CH3)2
-C3H6-NH-cyclo-C5H11
(ここで、e、f、gは、それぞれ1~30の数である。)
【0053】
本発明で用いるアミノ変性シリコーンは、例えば、一般式(a2)で表されるオルガノアルコキシシランを過剰の水で加水分解して得られた加水分解物と、ジメチルシクロポリシロキサンとを水酸化ナトリウムのような塩基性触媒を用いて、80~110℃に加熱して平衡反応させ、反応混合物が所望の粘度に達した時点で酸を用いて塩基性触媒を中和することにより製造することができる(特開昭53-98499号参照)。
H2N(CH2)2NH(CH2)3Si(CH3)(OCH3)2 (a2)
【0054】
また、アミノ変性シリコーンとしては、高い耐水性を有する膜を得る観点から、好ましくは側鎖Bの1個の中にアミノ基が1個有するモノアミノ変性シリコーン及び側鎖Bの1個の中にアミノ基が2個有するジアミノ変性シリコーンからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはアミノ基を有する側鎖Bが-C3H6-NH2で表される化合物〔以下、(a1-1)成分という〕及びアミノ基を有する側鎖Bが-C3H6-NH-C2H4-NH2で表される化合物〔以下、(a1-2)成分という〕からなる群から選ばれる1種以上である。
【0055】
本発明におけるアミノ変性シリコーンとしては、性能の点から、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のTSF4703(動粘度:1000、アミノ当量:1600)、TSF4708(動粘度:1000、アミノ当量:2800)、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製のSS-3551(動粘度:1000、アミノ当量:1700)、SF8457C(動粘度:1200、アミノ当量:1800)、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700)、SF8452C(動粘度:600、アミノ当量:6400)、BY16-209(動粘度:500、アミノ当量:1800)、BY16-892(動粘度:1500、アミノ当量:2000)、BY16-898(動粘度:2000、アミノ当量:2900)、FZ-3760(動粘度:220、アミノ当量:1600)、BY16-213(動粘度:55、アミノ当量:2700)、信越化学工業(株)製のKF-8002(動粘度:1100、アミノ当量:1700)、KF-8004(動粘度:800、アミノ当量:1500)、KF-8005(動粘度:1200、アミノ当量:11000)、KF-867(動粘度:1300、アミノ当量:1700)、KF-864(動粘度:1700、アミノ当量:3800)、KF-859(動粘度:60、アミノ当量:6000)、が好ましい。( )内において、動粘度は25℃での測定値(単位:mm2/s)を示し、アミノ当量の単位はg/molである。
【0056】
(a1-1)成分としては、BY16-213(動粘度:55、アミノ当量:2700)、BY16-853U(動粘度:14、アミノ当量:450)がより好ましい。
【0057】
(a1-2)成分としては、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700)、BY16-209(動粘度:500、アミノ当量:1800)、FZ-3760(動粘度:220、アミノ当量:1600)、SF8452C(動粘度:600、アミノ当量:6400)、KF-8002(動粘度:1100、アミノ当量:1700)、SS-3551(動粘度:1000、アミノ当量:1700)がより好ましい。
【0058】
なお、シリコーン系化合物は置換基を有するものであってもよい。置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基等のアルコキシ基の炭素数が1~6のアルコキシ-カルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセチル基、プロピオニル基等の炭素数1~6のアシル基;アラルキル基;アラルキルオキシ基;炭素数1~6のアルキルアミノ基;アルキル基の炭素数が1~6のジアルキルアミノ基が挙げられる。
【0059】
(iii)カチオン性基を有する合計炭素数16以上の炭化水素系化合物
本発明における、カチオン性基を有する合計炭素数16以上の炭化水素系化合物とは、一つのカチオン性基に対して一つ以上の炭化水素基が結合したものである。カチオン性基を有する炭化水素系化合物の合計炭素数は、高い耐水性を有する膜を得る観点から、16以上であり、さらに好ましくは18以上であり、ハンドリング性の観点から、好ましくは40以下であり、より好ましくは30以下であり、更に好ましくは26以下である。
【0060】
カチオン性基を有する炭化水素系化合物は、カチオン性基が1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム、ホスホニウム等の場合には、炭化水素基は窒素原子あるいはリン原子に共有結合を介して直接結合した化合物である。カチオン性基がアミジン、グアニジン等の場合は、その官能基の窒素原子あるいは炭素原子の少なくとも片方に共有結合を介して結合した化合物である。カチオン性基がイミダゾリウム、ピリジニウム、イミダゾリン等の場合は、環構造のいずれかの位置に少なくとも一つ以上の炭化水素基が共有結合を介して結合した化合物である。
カチオン性基を有する炭化水素系化合物は、オキシアルキレン基を含まないものがより好ましい。
【0061】
(炭化水素基)
前記炭化水素系化合物における炭化水素基としては、例えば、鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、及び芳香族炭化水素基が挙げられる。炭化水素基の炭素数は、入手性の観点から、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは3以上であり、同様の観点から、好ましくは40以下であり、より好ましくは30以下であり、更に好ましくは24以下である。なお、炭化水素基の炭素数とは、別に規定の無い限り、一つの炭化水素基における炭素数のことを意味する。
【0062】
鎖式飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基等が挙げられる。
【0063】
鎖式不飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、イソプレニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、オクタデセニル基が挙げられる。
【0064】
環式飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロオクタデシル基等が挙げられる。
【0065】
芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれる。アリール基及びアラルキル基としては、芳香族環そのものが置換されたものでも非置換のものであってもよい。
【0066】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、及びこれらの基が後述する置換基で置換された基が挙げられる。
【0067】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基、フェニルオクチル基、及びこれらの基の芳香族基が置換基でさらに置換された基などが挙げられる。
【0068】
上記炭化水素系化合物は、一部の水素原子が更に置換されていてもよい。置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、ケトン基、チオール基等が挙げられる。
【0069】
上記カチオン性基を有する炭化水素系化合物は、好ましくは1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム等の、アミノ基を有する炭化水素系化合物(本明細書において、「炭化水素系アミン」と称する。)である。かかる炭化水素系アミンの具体例としては、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、テトラブチルアンモニウム塩、テトラヘキシルアンモニウム塩、ジメチルジオクチルアンモニウム塩、ジメチルジデシルアンモニウム塩、トリメチルヘキサデシルアンモニウム塩等が好ましい。
【0070】
(3)微細化処理工程
疎水変性セルロース繊維の製造方法のいずれかの段階においてセルロースを微細化することにより、マイクロメータースケールのセルロースをナノメータースケールに微細化することができる。平均繊維径をナノメートルサイズにまで小さくすることによって、成膜時の強度が向上するため、微細化処理工程をさらに実施することが好ましい。
【0071】
微細化処理で使用する装置としては公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における反応物繊維の固形分含有量は50質量%以下が好ましい。
【0072】
<成分(B)>
本発明における成分(B)は水である。成分(B)は、疎水変性セルロース繊維の製造の際の溶媒として、及び本発明の乳化組成物の構成成分の一つとしての役割を有する。
【0073】
<成分(C)>
本発明における成分(C)は25℃1気圧で液体の有機化合物である。成分(C)は疎水変性セルロース繊維の製造の際の溶媒であってもよい。
25℃1気圧で液体の有機化合物の水への溶解度は、25℃の水100gあたり、10g以下が好ましく、1g以下が更に好ましい。
成分(C)の分子量は、耐水性及び滑液性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは10,000以下であり、同上の観点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上である。
【0074】
本発明における成分(C)は、具体的には、油剤、有機溶剤、重合性モノマー、プレポリマー等が挙げられる。本発明における成分(C)は、好ましくは油剤であり、油剤としては、耐水性及び滑液性を向上させた膜を得る観点から、例えば、アルコール、エステル油、炭化水素油、シリコーン油、エーテル油、油脂、フッ素系不活性液体及び脂肪酸からなる群より選択される一種以上が挙げられ、エステル油、シリコーン油、エーテル油、油脂、及びフッ素系不活性液体からなる群より選択される一種以上が好ましく、シリコーン油、エステル油、及びエーテル油からなる群より選択される一種以上がより好ましく、シリコーン油及び/又はエステル油が更に好ましい。
【0075】
エステル油としては、モノエステル油、ジエステル油、トリエステル油が挙げられ、具体例としては、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、パルミチン酸イソプロピル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリン、トリイソステアリン酸グリセリン等の炭素数2~18の脂肪族又は芳香族のモノカルボン酸又はジカルボン酸エステルが挙げられる。
【0076】
シリコーン油としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
油脂としては、例えば、大豆油、ヤシ油、アマニ油、綿実油、ナタネ油、ヒマシ油などの植物油や動物油等が挙げられる。
【0077】
成分(C)の化合物は、耐水性及び滑液性を向上させた膜を得る観点から、好ましくはSP値が10以下、より好ましくは9.5以下、更に好ましくは9.0以下、より更に好ましくは8.5以下であり、同上の観点から、好ましくは6.0以上、より好ましくは6.5以上である。
【0078】
本明細書におけるSP値とは、Fedors法で計算される溶解度パラメーター(単位:(cal/cm3)1/2)を示し、例えば、参考文献「SP値基礎・応用と計算方法」(情報機構社、2005年)、Polymer handbook Third edition (A Wiley-Interscience publication, 1989)等に記載されている。
【0079】
本発明で使用されるSP値が10以下の油剤としては、例えば、オレイン酸(SP値:9.2)、D-リモネン(SP値:9.4)、PEG400(SP値:9.4)、コハク酸ジメチル(SP値:9.9)、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール(SP値:8.9)、ラウリン酸ヘキシル(SP値:8.6)、ラウリン酸イソプロピル(SP値8.5)、ミリスチン酸イソプロピル(SP値8.5)、パルミチン酸イソプロピル(SP値8.5)、オレイン酸イソプロピル(SP値:8.6)、ヘキサデカン(SP値:8.0)、オリーブ油(SP値:9.3)、ホホバ油(SP値:8.6)、スクアラン(SP値:7.9)、流動パラフィン(SP値:7.9)、フッ素系不活性液体(例えば、フロリナートFC-40(3M社製、SP値:6.1)、フロリナートFC-43(3M社製、SP値:6.1)、フロリナートFC-72(3M社製、SP値:6.1)、フロリナートFC-770(3M社製、SP値:6.1))、シリコーンオイル(例えば、KF96-1cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF-96-10cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF-96-50cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF-96-100cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF-96-1000cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF-96H-1万cs(信越化学社製、SP値:7.3)等)等が挙げられる。
【0080】
<成分(D)>
本発明の乳化組成物は、成分(D)のポリエーテル変性シリコーン化合物を含んでいてもよい。かかる成分(D)を乳化組成物に配合することによって、耐水性及び滑液性を向上させた膜を得ることができ、さらに得られる膜の耐久性を向上させることができる。成分(D)の一例としては、メチルシリコーン鎖を主鎖とし、ポリオキシエチレン基からなる側鎖をもつ化合物が挙げられ、具体的には、下記一般式で示される化合物が挙げられる。
【0081】
【0082】
(式中、R1はメチレン基、エチレン基又はトリメチレン基であり、R2は炭素数1~4のアルキル基であり、mは0~50の整数、nは1~10の整数、pは1~50の整数、及びqは0~50の整数をそれぞれ示す。-R1(C2H4O)p(C3H6O)qR2で示される基において、(C2H4O)p及び(C3H6O)qはランダムでもブロックでもよい。)
【0083】
ポリエーテル変性シリコーン化合物のHLB値は、乳化組成物の乾燥によって得られる膜の耐久性の観点から、特定の範囲内のものが好ましく、具体的には、好ましくは1以上、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であって、好ましくは18以下、より好ましくは16以下である。
【0084】
HLB値が異なる2種以上のポリエーテル変性シリコーンを使用する場合は、それらの加重平均で求めたHLB値が上記範囲になればよい。なお、HLB値とは、親水性と親油性のバランスを表す指標であり、本発明においては、以下のグリフィン(Griffin)の式により求められるものを指す。
HLB値=20×親水基部の分子量の総和/分子量
【0085】
ポリエーテル変性シリコーン化合物の25℃における動粘度は、乳化組成物の乾燥によって得られる膜の耐久性の観点から、特定の範囲内のものが好ましく、具体的には、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは5mm2/s以上であり、好ましくは1000mm2/s以下、より好ましくは500mm2/s以下、更に好ましくは200mm2/s以下である。
【0086】
成分(D)として好ましく使用できるポリエーテル変性シリコーン化合物は市販されており、市販品としては、信越化学工業株式会社製の、「KF-615A」、「KF-640」、「KF-642」、「KF-643」、「KF-644」、「KF-351A」、「KF-354L」、「KF-355A」、「KF-6011」、「KF-6012」、「KF-6015」、「KF-6016」、「KF-6017」、「KF-6020」、「KF-6043」等が挙げられ(いずれも商品名)、乳化組成物の乾燥によって得られる膜の耐久性の観点から、「KF-640」、「KF-642」、「KF-643」、「KF-351A」、「KF-354L」、「KF-355A」等が好適に用いることができる。前記一般式に該当しない構造の市販品(例えば、信越化学工業株式会社製の「KF-6028」及び「KF-6038」等(いずれも商品名))も、成分(D)として使用することができる。
【0087】
<高分子化合物>
本発明の乳化組成物は、更に高分子化合物を含んでいてもよい。
かかる高分子化合物は、高い耐水性を有する膜を得る観点から、下記の高分子化合物(X)及び高分子化合物(Y)からなる群より選択される1種以上が好ましく、高分子化合物(X)がより好ましい。
高分子化合物(X):主鎖にエステル基、アミド基、ウレタン基、アミノ基、エーテル基又はカーボネート基を有する高分子化合物(但し、成分(A-1)及び成分(D)のいずれかに該当する高分子化合物は、高分子化合物(X)として扱わない。)
高分子化合物(Y):側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子
【0088】
前記高分子化合物の質量平均分子量としては、高い耐水性を有する膜を得る観点から、好ましくは1,000以上であり、同様の観点から、好ましくは50万以下である。
【0089】
〔高分子化合物(X)〕
主鎖にエステル基を有する高分子化合物(X)としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、及びアルケニルコハク酸等のジカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のジオールとの縮合物等、あるいは、グルコール酸、乳酸などの一分子内にヒドロキシ基とカルボキシル基の両方を有する化合物の縮合物が挙げられる。
【0090】
主鎖にアミド基を有する高分子化合物(X)としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、及びアルケニルコハク酸等のジカルボン酸と、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族ジアミン等のジアミンとの縮合物等が挙げられる。
【0091】
主鎖にウレタン基を有する高分子化合物(X)としては、トリレジンジイソシアネート、ジフェニルイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のジオールとの重合物等が挙げられる。
【0092】
主鎖にアミノ基を有する高分子化合物(X)としては、エチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミン、ジメチルエチレンイミン、ペンチレンイミン、へキシレンイミン等のアルキルイミンの重合物等が挙げられる。
【0093】
主鎖にエーテル基を有する高分子化合物(X)としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシドの重合物、ホルムアルデヒドの重合物等が挙げられる。
【0094】
主鎖にカーボネート基を有する高分子化合物(X)としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のポリオールとホスゲンとの縮合物等が挙げられる。
【0095】
〔高分子化合物(Y)〕
高分子化合物(Y)、即ち、側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等のポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリN-メチル(メタ)アクリルアミド、ポリN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリN-フェニル(メタ)アクリルアミド等のポリ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0096】
<その他の成分>
本発明の乳化組成物は、前記成分以外に、可塑剤、結晶核剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レべリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。また同様に、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の組成物を添加することも可能である。
【0097】
<乳化組成物の性質>
本発明の乳化組成物は、前記の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を必須成分として含む、乳化状態の組成物である。本発明における乳化は、水と、25℃1気圧で液体の有機化合物を混合した状態で機械力をかけ、一方の液中に他方の液滴が微細に分散した状態とすることである。o/w型エマルション、w/o型エマルションのどちらでもよいが好ましくはo/w型エマルションである。
【0098】
乳化組成物中又は混合時の成分(A)の含有量としては、乳化力の観点から、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、一方、ハンドリング性の観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0099】
乳化組成物中又は混合時の成分(B)の含有量としては、乳化状態を維持する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、有効分量の観点から、好ましくは98質量%以下である。
【0100】
乳化組成物中又は混合時の成分(C)の含有量としては、乳化状態を維持する観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、一方、溶液粘度やハンドリング性の観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0101】
乳化組成物中又は混合時の成分(A)と成分(C)との質量比(A/C)は、耐水性及び滑液性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.001以上、更に好ましくは0.004以上、更に好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.04以上であり、成膜性の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、更に好ましくは2以下である。これらの観点から、好ましくは0.0001以上20以下、より好ましくは0.001以上10以下、更に好ましくは0.004以上5以下、更に好ましくは0.01以上3以下、更に好ましくは0.04以上2以下である。
【0102】
成分(D)を用いる場合、乳化組成物中又は混合時の成分(D)の含有量としては、膜の耐久性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、一方、組成物粘度の上昇を抑える観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0103】
本発明の乳化組成物が前記高分子化合物を含む場合、乳化組成物中の該高分子化合物の含有量としては、膜の耐久性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、一方、組成物粘度の上昇を抑える観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0104】
乳化組成物の粘度は特に限定されないが、ハンドリングの観点から、25℃における粘度が好ましくは0.5mPa・s以上、より好ましくは0.8mPa・s以上、更に好ましくは1mPa・s以上であり、同様の観点から、好ましくは30Pa・s以下、より好ましくは20Pa・s以下、更に好ましくは10Pa・s以下である。ここで粘度は、B型粘度計により各サンプルの粘度域に合わせた適切なローターを用いて、25℃、回転数60rpmの条件で1分攪拌後の値を測定したものである。
【0105】
乳化組成物における乳化滴の平均粒子径は、後述するSEM観察による測定において、耐水性及び滑液性とその耐久性を向上させる観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上であり、同様の観点から、好ましくは2000nm以下、より好ましくは1000nm以下、更に好ましくは700nm以下、更に好ましくは500nm以下であり、好ましくは10nm以上2000nm以下、より好ましくは50nm以上1000nm以下、更に好ましくは100nm以上500nm以下である。
【0106】
2.乳化組成物の製造方法
本発明の乳化組成物の製造方法は、前述の成分(A)、成分(B)、成分(C)等を混合する工程を有するものである。ここで、疎水変性セルロース繊維の水分散液に25℃1気圧で液体の有機化合物を混合してもよく、あるいは、疎水変性セルロース繊維の該有機化合物分散液と水とを混合してもよい。
【0107】
あるいは、本発明の乳化組成物の製造方法として、成分(A-1)、成分(A-2)、成分(B)、並びに成分(C)を混合する工程を含む製造方法が挙げられ、かかる方法の場合、疎水変性セルロース繊維を得る工程と乳化組成物を得る工程が一つの工程で達成できるため、より好ましい。かかる方法の混合順序に制限はない。例えば、成分(A-1)と成分(A-2)と成分(B)とを混合した後、成分(C)と混合してもよく、成分(A-1)と成分(A-2)と成分(C)とを混合した後、成分(B)と混合してもよい。
好ましくは、成分(A-1)と成分(A-2)とを、成分(B)及び成分(C)の存在下で混合する工程を含む製造方法が好ましい。
従って、本発明の乳化組成物の好ましい一態様は、成分(A-1)、成分(A-2)、成分(B)、及び成分(C)を含有するものである。その場合、成分(A)の含有量は、成分(A-1)と成分(A-2)との合計含有量である。
【0108】
成分(D)を配合する場合、成分(D)はこれらの原料と共に混合してもよく、これらの原料を用いて得られた乳化組成物に成分(D)を追加してもよい。
【0109】
各成分を混合することで乳化が生じ、乳化組成物が得られる。かかる混合処理には、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー、ホモミキサー、真空乳化装置、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。混合処理は、2種類以上の操作を組み合わせて実施してもよい。
【0110】
各成分の混合時の温度や時間としては、特に限定されるものではなく、例えば、好ましくは5~50℃の温度範囲とし、好ましくは1分間~3時間の範囲とする。
【0111】
混合時の各成分の含有量の好ましい範囲は、前述の本発明の乳化組成物における各成分の含有量の好ましい範囲と同じである。
【0112】
成分(A)に代えて成分(A-1)及び成分(A-2)を用いる場合、前記成分(A)の好ましい含有量の上限値及び下限値を両成分の合計量の上限値及び下限値とすることが好ましい。ここで、成分(A-1)と成分(A-2)との配合比としては、成分(A-1)のアニオン性基に対して、滑液性及びその耐久性の観点から、成分(A-2)が好ましくは0.1当量以上、より好ましくは0.3当量以上、更に好ましくは0.5当量以上であり、一方、乳化組成物の安定性の観点から、好ましくは3当量以下、より好ましくは2当量以下、更に好ましくは1.5当量以下である。
【0113】
あるいは、〔成分(A-1)のアニオン性基のモル数〕に対する、〔成分(A-2)の[アミノ変性シリコーンのアミノ基のモル数]と[カチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物のモル数]との合計モル数〕との比([成分(A-2)の合計モル数]/[成分(A-1)のアニオン性基のモル数])が、耐水性及び滑液性とその耐久性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上であり、成膜性の観点から、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1.5以下である。アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基のモル数は、アニオン変性セルロース繊維の使用量(g)にアニオン性基含有量(mmol/g)を乗じればよく、アミノ変性シリコーンのアミノ基のモル数は、アミノ変性シリコーンの使用量(g)をアミノ当量(g/mol)で除すればよい。
【0114】
また、成分(A-2)と成分(C)との質量比(A-2/C)は、耐水性及び滑液性とその耐久性を向上させた膜を得る観点から、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.001以上、更に好ましくは0.004以上、更に好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.04以上であり、成膜性の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、更に好ましくは2以下である。これらの観点から、好ましくは0.0001以上20以下、より好ましくは0.001以上10以下、更に好ましくは0.004以上5以下、更に好ましくは0.01以上3以下、更に好ましくは0.04以上2以下である。
【0115】
3.疎水変性セルロース繊維を含有する膜の製造方法
本発明の、疎水変性セルロース繊維を含有する膜の製造方法は、前記本発明の乳化組成物又は前記本発明の乳化組成物の製造方法によって得られた乳化組成物を乾燥させる工程を含む。
【0116】
具体的には、前記乳化組成物を、基質、例えば、ガラス、樹脂、金属、セラミックス、コンクリート、木材、石材、繊維等を素材とする固体表面あるいは皮膚、髪などに塗布する。塗布の方法としては、例えば、アプリケーター、バーコーダー、スピンコーター等を使用して塗布する方法や、刷毛塗り、手塗り、スプレー、ディップコート等が挙げられるが、それに限定されるものではない。
【0117】
基質上の乳化組成物の塗膜の厚みとしては、膜の耐久性の観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上であり、塗布性の観点から、好ましくは2000μm以下、より好ましくは1500μm以下である。
【0118】
次いで、乳化組成物の塗膜を乾燥させて塗工膜を得ることができる。乾燥条件としては、減圧下でも常圧下でもよく、温度範囲としては15℃以上75℃以下が好ましい。また、乾燥のための時間としては、1時間以上24時間以下が好ましい。
【0119】
4.乳化組成物の乾燥膜
前記の製造方法によって得られる本発明の乳化組成物の乾燥膜は、文献(超撥水・超撥油・滑液性表面の技術/発行者:元木浩/発行所:サイエンス&テクノロジー株式会社/2016年1月28日発行)に示される滑液表面性を示すことが好ましい。
【0120】
滑液表面性は、例えば、後述の実施例の「滑落角測定試験」に記載の方法により測定することができる。滑落角の値が小さいほど、その膜の滑液性が高いことを示す。
【0121】
本発明の膜は、前述のポリエーテル変性シリコーン化合物を含むことにより、膜の耐久性がさらに向上する。
【0122】
本発明の膜の厚みは特に制限はなく、膜の耐久性の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上であり、経済性の観点から、好ましくは2000μm以下、より好ましくは1200μm以下、更に好ましくは500μm以下、更に好ましくは200μm以下である。なお、膜の厚みは、アプリケーター等の塗布用具による塗膜厚の設定や、媒体の割合を調整することにより、所望の値とすることができる。なお、膜の厚みは後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0123】
本発明の膜は、平滑性が高いほど、滑液性が高くなるため好ましい。具体的には、製造直後の膜の算術平均粗さとして、費用対効果の観点から、好ましくは0.3μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上であり、更に好ましくは0.8μm以上であり、一方、付着抑制性の観点から、好ましくは40μm以下であり、より好ましくは35μm以下であり、更に好ましくは30μm以下である。なお、膜の算術平均粗さは、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0124】
本発明の膜は、耐久性が高い方が好ましい。膜の耐久性の評価は、例えば、水に一定期間接触した後の膜の算術平均粗さの増加の程度又は滑液性の有無によって評価することができる。具体的には、後述の実施例における「滑液性の耐久性試験」に規定された試験方法に従って、5分間滴下後の膜の算術平均粗さが滴下前の粗さの2倍以下であり、かつ5分間滴下後の膜が滑液性を保持していれば、その膜は耐久性が高いと評価することができる。
【0125】
本発明の膜中の疎水変性セルロース繊維の量は、膜の耐久性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、膜の滑液性の観点から、好ましくは65質量%以下、より好ましくは36質量%以下、更に好ましくは16質量%以下である。膜中の疎水変性セルロース繊維の量は、乳化組成物における揮発性成分(例えば水や一部の油剤)の量を考慮して求めることができる。
本発明の膜における成分(C)や成分(D)の好ましい量の範囲についても、乳化組成物におけるそれらの好ましい量の範囲に対応する。
【0126】
本発明の膜には本発明の効果を損なわない任意成分が含まれていてもよい。膜におけるこれらの任意成分の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0127】
本発明の膜を固体表面に適用することにより、固体表面を滑液表面に改質することができる。本発明の膜は滑液性に優れるだけではなく、膜自体の耐久性に優れるためにその効果を長期間維持できることから、各種用途、例えば、日用品、化粧品、家電製品などの包装材として、ブリスターパックやトレイ、お弁当の蓋等の包装容器用の内装材、食品容器、工業部品の輸送や保護に用いる工業用トレイや輸送用パイプ等、さらには屋根、建造物の壁面、船底や電線等の被覆材として好適に用いることができる。これにより、粉塵等の付着を抑制する防汚膜、雪や氷等の付着を抑制する防雪膜、水生生物の付着を抑制する、生物付着抑制膜等として、好適に用いることができる。
【0128】
本発明の乳化組成物は、生物付着抑制剤、防汚剤、防雪剤として有用であり、本発明の乳化組成物を、上記等の固体表面に塗布することで、生物付着抑制方法、防汚方法、防雪方法として用いることができる。
【0129】
本発明の膜は、前記本発明の乳化組成物を乾燥して得ることができ、例えば、
(A)下記成分(a)及び成分(b)からなる群より選択される一種以上の疎水変性セルロース繊維、
(a)セルロース繊維にシリコーン系化合物が結合してなる疎水変性セルロース繊維
(b)アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に、カチオン性基を有する合計炭素数16以上40以下の炭化水素系化合物がイオン結合を介して結合してなる疎水変性セルロース繊維、及び
(C)25℃1気圧で液体の有機化合物、
を含有し、粒子状構造を有する膜である。
【0130】
乳化組成物の水が乾燥により除去されることにより、乳化粒子を形成していたセルロース繊維が、ネットワーク化された粒子状構造を形成すると考えられる。また、(C)成分の少なくとも一部が粒子状構造中に含有されることで耐久性が向上したものと推定される。
【0131】
粒子の最大長は、SEM観察により、耐水性及び滑液性とその耐久性を向上させる観点から、好ましくは10~2000nm、より好ましくは50~1000nmである。最大長とは、粒子を最も小さな直方体に収容すると仮定した場合の、縦、横、高さの内で、最大の長さを意味する。尚、膜の各構成成分の好ましい数値範囲及び態様は、前述の乳化組成物中の好ましい数値範囲及び態様と同じである。
【実施例】
【0132】
以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。
【0133】
〔アニオン変性セルロース繊維及び疎水変性セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比〕
測定対象のセルロース繊維に水を加えて、その含有量が0.0001質量%の分散液を調製する。該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital instrument社製、Nanoscope II Tappingmode AFM;プローブはナノセンサーズ社製、Point Probe(NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さ(繊維のあるところとないところの高さの差)を測定する。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出する。AFMによる画像で分析される高さを繊維径とみなすことができる。
【0134】
〔原料のセルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長〕
測定対象のセルロース繊維に脱イオン水を加えて、その含有量が0.01質量%の分散液を調製する。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定する。セルロース繊維を100本以上測定し、それらの平均ISO繊維径を平均繊維径をとして、平均ISO繊維長を平均繊維長として算出する。
【0135】
〔アニオン変性セルロース繊維及び疎水変性セルロース繊維のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維を100mLビーカーにとり、脱イオン水又はメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、ここに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製する。測定対象のセルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT-701」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を、待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定する。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出する。
アニオン性基含有量(mmol/g)=[水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)]/[測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)]
【0136】
〔酸化セルロース繊維のアルデヒド基含有量〕
測定対象の酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量を、上記アニオン性基含有量の測定方法によって測定する。
一方、これとは別に、ビーカーに、測定対象の酸化セルロース繊維の水分散液100g(固形分含有量1.0質量%)、酢酸緩衝液(pH4.8)100g、2-メチル-2-ブテン0.33g、亜塩素酸ナトリウム0.45gを加え25℃で16時間撹拌して、酸化セルロース繊維に残存するアルデヒド基の酸化処理を行う。反応終了後、脱イオン水にて洗浄を行い、アルデヒド基を酸化処理したセルロース繊維を得る。反応液を凍結乾燥処理し、得られた乾燥品のカルボキシ基含有量を上記アニオン性基含有量の測定方法で測定し、「酸化処理した酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量」を算出する。続いて、式1にて測定対象の酸化セルロース繊維のアルデヒド基含有量を算出する。
【0137】
アルデヒド基含有量(mmol/g)=(酸化処理した酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量)-(測定対象の酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量)・・・式1
【0138】
〔分散液中の固形分含有量〕
ハロゲン水分計(島津製作所社製;商品名「MOC-120H」)を用いて測定する。サンプル1gに対して150℃恒温で30秒ごとの測定を行い、質量減少がサンプルの初期量の0.1%以下となった値を固形分含有量とする。
【0139】
〔疎水変性セルロース繊維における結晶構造の確認〕
疎水変性セルロース繊維の結晶構造は、X線回折計(リガク社製、MiniFlexII)を用いて以下の条件で測定することにより確認する。
測定条件は、X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:30kv、管電流:15mA、測定範囲:回折角2θ=5~45°、X線のスキャンスピード:10°/minとする。測定用サンプルは面積320mm2×厚さ1mmのペレットに圧縮して作製する。また、セルロースI型結晶構造の結晶化度は得られたX線回折強度を、以下の式Aに基づいて算出する。
【0140】
<式A>
セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6-I18.5)/I22.6]×100
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
【0141】
一方、上記式Aで得られる結晶化度が35%以下の場合には、算出精度の向上の観点から、「木質科学実験マニュアル」(日本木材学会編;2000年4月発行)のP199-200の記載に則り、以下の式Bに基づいて算出することが好ましい。
したがって、上記式Aで得られる結晶化度が35%以下の場合には、以下の式Bに基づいて算出した値を結晶化度として用いることができる。
【0142】
<式B>
セルロースI型結晶化度(%)=[Ac/(Ac+Aa)]×100
〔式中、Acは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)、(011面)(回折角2θ=15.1°)および(0-11面)(回折角2θ=16.2°)のピーク面積の総和、Aaは,アモルファス部(回折角2θ=18.5°)のピーク面積を示し、各ピーク面積は得られたX線回折チャートをガウス関数でフィッティングすることで求める〕
【0143】
〔疎水変性セルロース繊維におけるセルロース繊維(換算量)〕
疎水変性セルロース繊維におけるセルロース繊維(換算量)は、以下の方法によって測定する。
(1)添加される「修飾用化合物」が1種類の場合
セルロース繊維量(換算量)を下記式Cによって算出する。
<式C>
セルロース繊維量(換算量)(g)=疎水変性セルロース繊維の質量(g)/〔1+修飾用化合物の分子量(g/mol)×修飾基の結合量(mmol/g)×0.001〕
(2)添加される「修飾用化合物」が2種類以上の場合
各化合物のモル比率(即ち、添加される化合物の合計モル量を1とした時のモル比率)を考慮して、セルロース繊維量(換算量)を算出する。
【0144】
〔乳化組成物の粘度の測定〕
B型粘度計(東機産業TVB-10)No.1ローターを用いて、25℃、回転速度60RPM、1分後の粘度を測定する。
【0145】
〔Cryo-SEMによる乳化組成物の観察〕
Cryo-SEMによる乳化組成物の観察は、FEI社製電界放射型走査電子顕微鏡Scios DualBeamを用いて行う。凍結した乳化組成物から水分を徐々に昇華させながら観察を行う。加速電圧2kV、倍率25000倍にて観察を行う。
【0146】
〔レーザー回折法による乳化滴の粒径測定〕
レーザー回折法による乳化滴の粒径測定は、堀場製作所製LA-960を用いて行う。
測定条件:測定用セルに水を加え、吸光度が適正範囲になる濃度で体積粒度分布及び体積中位粒径(D50)を測定する。なお、相対屈折率1.20、温度25℃、循環ポンプON、循環速度5、撹拌速度5とする。
【0147】
〔アニオン変性セルロース繊維の調製〕
調製例1
針葉樹の漂白クラフトパルプ(ウエストフレザー社製、商品名:ヒントン)を原料の天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウム、臭化ナトリウム及び水酸化ナトリウムとしては市販品を用いた。
【0148】
まず、メカニカルスターラー、撹拌翼を備えた2LのPP製ビーカーに、前記漂白クラフトパルプ繊維10g、脱イオン水990gをはかり取り、25℃、100rpmで30分撹拌した後、該パルプ繊維10gに対し、TEMPO 0.13g、臭化ナトリウム1.3g、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液35.5gをこの順で添加した。自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名:AUT-701)でpHスタット滴定を用い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持した。撹拌速度100rpmにて反応25℃で120分行った後、水酸化ナトリウム水溶液の滴下を停止し、アニオン変性セルロース繊維の懸濁液を得た。
【0149】
得られたアニオン変性セルロース繊維の懸濁液に0.01Mの塩酸を加えてpH=2とした後に、コンパクト電気伝導率計(堀場製作所製、LAQUAtwin EC-33B)によるろ液の電導度測定において200μs/cm以下になるまで、脱イオン水を用いて十分に洗浄、次いで脱水処理を行って、アニオン変性セルロース繊維を得た。また、このアニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基含有量は1.50mmol/g、アルデヒド基含有量は0.23mmol/gであった。
【0150】
調製例2(微細化アニオン変性セルロース繊維の製造)
調製例1で最終的に得られたアニオン変性セルロース繊維に脱イオン水を添加して懸濁液(固形分含有量2.0質量%)100gを調製した。これに0.5M水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH=8に調整後、脱イオン水を加えて合計200gとした。この懸濁液に、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、商品名:ナノヴェイタL-ES)を用いて150MPaで微細化処理を3回行い、微細化アニオン変性セルロース繊維分散液(固形分含有量1.0質量%)を得た。この微細化アニオン変性セルロース繊維が有するカルボキシ基のカウンターイオンはナトリウムイオンであった。この微細化アニオン変性セルロース繊維を「TCNF(Na型)」と略記する。
【0151】
調製例3(アルデヒド基を還元処理した微細化アニオン変性セルロース繊維の製造)
調製例2で得られた微細化アニオン変性セルロース繊維分散液(固形分含有量1.0質量%)182gをはかり取り、脱イオン水を加えて合計400gとした。そこに0.1M水酸化ナトリウム水溶液1.2mL、水素化ホウ素ナトリウム120mgを加え、25℃で4時間撹拌した。次に、1M塩酸9mLを加えてプロトン化を行った。反応終了後ろ過し、得られたケークを脱イオン水で6回洗浄して塩および塩酸を除去し、アルデヒド基が還元処理された、微細化アニオン変性セルロース繊維分散液(固形分含有量0.9質量%)を得た。得られたセルロース繊維のカルボキシ基含有量は1.50mmol/g、アルデヒド基含有量は0.02mmol/gであった。この微細化アニオン変性セルロース繊維が有するカルボキシ基は遊離酸型(COOH)となっており、「TCNF(H型)」と略記する。この微細化アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、平均繊維長は600nmであった。
【0152】
〔疎水変性セルロース繊維及び乳化組成物の作製〕
実施例1
ビーカーに、調製例3で得られた微細化アニオン変性セルロース繊維分散液66.7g(固形分含有量0.9質量%)、シリコーンオイル1 12.0g、アミノ変性シリコーン1 1.53g(アニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基に対して1当量に相当)を混合し、そこに脱イオン水を加えて合計100gとした。この溶液をメカニカルスターラーで5分間撹拌した後、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、商品名:ナノヴェイタL-ES)にて150MPaで10パス処理させることで、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。得られた組成物は白濁液であって、光学顕微鏡、及びCryo-SEMによる観察によって水中に油滴が分散している様子が観察されたため、乳化組成物であると判断した。
図1として、実施例1において製造された乳化組成物の、Cryo-SEMによる顕微鏡写真(25000倍)を示す。さらに、レーザー回折法による測定から、該乳化組成物の平均粒子径が300nmであることが分かった。
図2として、レーザー回折法によって得られた該乳化組成物の乳化滴の粒径分布を示すグラフを示す。
【0153】
実施例2
シリコーンオイルの量を1.2gとしたこと以外は実施例1と同様にして、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して結合した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0154】
実施例3
シリコーンオイル1の代わりにシリコーンオイル2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0155】
実施例4
シリコーンオイルの代わりにミリスチン酸イソプロピルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0156】
実施例5
アミノ変性シリコーン1の代わりにアミノ変性シリコーン2を同じ当量に相当する量、用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0157】
実施例6
アミノ変性シリコーンの量を0.77g(アニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基に対して0.5当量に相当)としたこと以外は実施例1と同様にして、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して結合した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0158】
実施例7
ビーカーに調製例3で得られた微細化アニオン変性セルロース繊維分散液22.2g(固形分含有量0.9質量%)、前記シリコーンオイル1 40.0g、前記アミノ変性シリコーン1 0.51g(アニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基に対して1当量に相当)を混合し、そこに脱イオン水を加えて合計100gとした。以下実施例1と同様に処理して、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0159】
実施例8
ビーカーに実施例1で得られた乳化組成物100gをはかり取り、そこにポリエーテル変性シリコーン1 0.2gを添加し、25℃で30分撹拌し、乳化組成物を得た。
【0160】
実施例9
ビーカーに調製例3で得られた微細化アニオン変性セルロース繊維分散液66.7g(固形分含有量0.9質量%)、アミノ変性シリコーン1 1.53gを混合し、そこに脱イオン水を加えて合計88gとした。この溶液をメカニカルスターラーで5分間撹拌した後、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、商品名:ナノヴェイタL-ES)にて150MPaで5パス処理させることで、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維の水分散液を得た。得られた水分散液にシリコーンオイル1 12.0gを加え、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、商品名:ナノヴェイタL-ES)にて150MPaで5パス処理させることで乳化組成物を得た。
【0161】
実施例10
シリコーンオイルの量を0.6gとしたこと以外は実施例1と同様にして、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して結合した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0162】
実施例11
ビーカーに調製例3で得られた微細化アニオン変性セルロース繊維分散液8.9g(固形分含有量0.9質量%)、前記シリコーンオイル1 40.0g、前記アミノ変性シリコーン1 0.20g(アニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基に対して1当量に相当)を混合し、そこに脱イオン水を加えて合計100gとした。以下実施例1と同様に処理して、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0163】
実施例12
アミノ変性シリコーン1の代わりにオレイルアミン(和光純薬製)を同じ当量に相当する量、用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アニオン変性セルロース繊維に、オレイルアミンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。さらに、ポリエーテル変性シリコーン1 0.2gを添加し、25℃で30分撹拌し、乳化組成物を得た。
【0164】
実施例13
実施例1で得られた乳化組成物20gに対し、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(富士フィルム和光純薬株式会社製)200mgを加え、室温(25℃)で24時間撹拌した。次にこの溶液を透析膜(スペクトラ社製、スペクトラ・ポア、MWCO:10kDa)に入れ、室温(25℃)下、脱イオン水に対して48時間透析することで精製し、アミノ変性シリコーンがアミド結合を介して結合した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0165】
比較例1
ビーカーに調製例2で得られた微細化アニオン変性セルロース繊維分散液60.0g(固形分含有量1.0質量%)、前記シリコーンオイル1 12.0gを混合し、そこに脱イオン水を加えて合計100gとした。この溶液をメカニカルスターラーで5分間撹拌した後、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、商品名:ナノヴェイタL-ES)にて150MPaで10パス処理させることで、アニオン変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0166】
比較例2
ビーカーに調製例3で得られた微細化アニオン変性セルロース繊維分散液66.6g(固形分含有量0.9質量%)、前記シリコーンオイル1 12.0gを混合し、そこに脱イオン水を加えて合計100gとした。この溶液をメカニカルスターラーで5分間撹拌した後、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、商品名:ナノヴェイタL-ES)にて150MPaで10パス処理させることで、アニオン変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0167】
比較例3
アミノ変性シリコーン1の代わりにポリエーテルアミン1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アニオン変性セルロース繊維に、ポリエーテルアミンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0168】
比較例4
アミノ変性シリコーン1の代わりにオクチルアミン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アニオン変性セルロース繊維に、オクチルアミンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0169】
比較例5
アミノ変性シリコーン1の代わりにトリエチルアミン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アニオン変性セルロース繊維に、トリエチルアミンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0170】
比較例6
調製例3で得られた微細化アニオン変性セルロース繊維分散液をイソプロピルアルコールで繰り返し洗浄し、溶媒置換を行った。固形分含有量が0.5質量%となるまでイソプロピルアルコールで希釈し、この分散液100gをビーカーにはかり取った。次に、この分散液にアミノ変性シリコーン1 0.51g(微細化アニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基に対して0.4当量に相当)を混合し、この溶液をメカニカルスターラーで5分間撹拌した後、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、商品名:ナノヴェイタL-ES)にて150MPaで5パス処理させることで、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維のイソプロピルアルコール分散液を得た。
さらにこの分散液にスクアラン10.0gを加え、25℃で30分撹拌し、塗工液とした。この塗工液は、前述の実施例及び比較例の様な乳化組成物ではなく、スクアランはイソプロピルアルコール中に溶解し、疎水変性セルロース繊維はイソプロピルアルコール中に分散した状態であった。
【0171】
実施例等で使用した代表的な成分の詳細を以下にまとめた。
[修飾用化合物]
アミノ変性シリコーン1:ダウ・東レ株式会社製「SS-3551」、動粘度:1,000、アミノ当量:1,700
アミノ変性シリコーン2:ダウ・東レ株式会社製「SF-8452C」、動粘度:600、アミノ当量:6,400
オレイルアミン:富士フィルム和光純薬株式会社製、アミノ当量:267.5、合計炭素数:18
ポリエーテルアミン1:ハンツマン社製「M-2070」、アミノ当量:2,000
[成分(C)]
シリコーンオイル1:信越化学工業株式会社製「KF-96-10cs」、SP値:7.3
ミリスチン酸イソプロピル:富士フィルム和光純薬株式会社製、SP値:8.5
シリコーンオイル2:信越化学工業株式会社製「KF-96H-1万cs」、SP値:7.3
シリコーンオイル3:信越化学工業株式会社製「KF-96-100cs」、SP値:7.3
シリコーンオイル4:信越化学工業株式会社製「KF-96-3000cs」、SP値:7.3
スクアラン:富士フィルム和光純薬株式会社製、SP値:7.9
[成分(D)]
ポリエーテル変性シリコーン1:信越化学工業株式会社製「KF-640」、HLB:14
【0172】
〔乳化組成物の安定性の測定〕
実施例1~13、比較例1~6で作製した乳化組成物をそれぞれ30mLガラスバイアルにはかり取り、25℃で1週間放置した。実施例9を除くすべてのサンプルにおいて、クリーミングや合一は観測されず、高い乳化安定性を示した。一方で実施例9のサンプルは、作製の2日後からクリーミングが観測された。このことから、実施例9の乳化組成物よりも、実施例1~8、10~13の乳化組成物の方が乳化系の経時安定性に優れていることが分かった。
【0173】
ここで、実施例1と実施例9を比較すると、25℃1気圧で液体の有機化合物と水の両方の存在下でセルロース繊維とシリコーン系化合物を混合すること、即ちこれらの両方の成分の存在下で疎水変性セルロース繊維を製造することの方が、より安定な乳化組成物を得られることが示された。
【0174】
〔乾燥膜の作製〕
実施例1~13、比較例1~2、4、5及び6で作製した乳化組成物、及び比較例3で作製した塗工液を、それぞれ別々のガラス基板(MATSUNAMI社製:Micro Slide Glass S2112)上に2mL塗布し、スライドガラス全域に塗り広げた。次いで、1気圧、25℃、湿度約40%RHで24時間乾燥させて膜を作製した。下記の測定方法によって実施例1の膜の厚みを測定したところ90μmであった。
また、実施例1で得られた乳化組成物を用いて製造された乾燥膜の断面を、下記に記載の方法により、SEMを用いて観察した。その結果、該乾燥膜が粒子状構造からなることが分かった。
図3として、該乾燥膜の断面のSEMによる顕微鏡写真(8000倍)を示す。
【0175】
〔膜の厚みの測定〕
乾燥後の膜の厚みは、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK-9710)を用いて以下の測定条件で測定した。測定条件は、対物レンズ:10倍、光量:3%、明るさ:1548、Zピッチ:0.5μmとした。膜の一部を金属製のスパーテルで削り取り、ガラス基板を露出させたサンプルを測定し、内蔵の画像処理ソフトを用いてガラス基板の高さと膜のある部分の高さを計測し、それらの差をとることで膜の厚みを求めた。
【0176】
〔膜の断面構造の観察〕
乾燥膜を液体窒素で凍結させ、ナイフで切断して断面を露出させた。試料を室温(25℃)に戻したのち、オスミウム蒸着処理を施し、FEI社製電界放射型走査電子顕微鏡Scios DualBeamを用いてその断面を観察した。加速電圧5kV、倍率8000倍にて観察を行った。
【0177】
〔膜の算術平均粗さの測定〕
上記のようにして作製された実施例1、8及び比較例6の乾燥膜の表面の算術平均粗さを測定した。膜の算術平均粗さは、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK-9710)を用いて以下の測定条件で測定した。測定条件は、対物レンズ:10倍、光量:3%、明るさ:1548、Zピッチ:0.5μmとする。算術平均粗さは、内蔵の画像処理ソフトを用いて5点測定し、その平均値を用いた。
【0178】
〔乾燥膜の耐水性の測定〕
上記のようにして作製された実施例1~13、比較例1~6の乾燥膜を準備した。乾燥膜の表面に浮き出た油をふき取った後、水で満たした300mLビーカーにガラス板ごと浸漬し、5分後と30分後の乾燥膜の膨潤度を以下の式Eによって算出した。なお、乾燥膜が崩壊し水中に分散した場合には、膨潤度の代わりに「崩壊」と記した。結果を下記表に示す。
【0179】
<式E>
膨潤度[%]=〔{〔浸漬後の質量〕-〔塗布前のガラス板の質量〕}÷{〔浸漬前の質量〕-〔塗布前のガラス板の質量〕}-1〕×100
浸漬後の質量:ガラス基板と該基板上に形成された乾燥膜を所定時間浸漬した後のガラス基板の質量
浸漬前の質量:ガラス基板と該基板上に形成された乾燥膜を水に浸漬する前のガラス基板の質量
【0180】
〔滑落角測定試験〕
上記のようにして作製された実施例1~13、比較例1~6の乾燥膜を水平の状態に設置し、各膜に対して、全自動接触角計(協和界面科学社製、FAMAS)を用い、23℃にて、8μLの水滴(23℃)を滴下し、1秒静置した。次いで、1°/sの速さで膜表面を85°まで傾け、液滴が滑り始める角度を測定した。測定結果を下記の表に示した。ただし、85°まで傾けても液滴が滑り落ちなかった場合には、水滴滑落角は、「85以上」と記した。水滴滑落角の値が小さいほど、その膜の滑液性が高いことを示す。
【0181】
【0182】
【0183】
【0184】
前記表から以下のことが分かった。
本発明に記載の乳化組成物を乾燥させることによって得られた膜は滑液性を示すことがわかった。実施例1の組成と実施例6の組成とを考慮すると、修飾基であるシリコーン基の導入の程度が高い実施例1の方が滑液性に優れることが分かった。実施例1の組成、実施例2の組成及び実施例7の組成を考慮すると、疎水変性セルロース繊維に対して25℃1気圧で液体の有機化合物が多いほど、即ち、A/Cの比率が小さいほど、滑液性が低下する傾向が見られた。
【0185】
〔滑液性の耐久性試験〕
実施例1、8、及び比較例6にて製造された膜の耐久性を調べるため、前述の〔乾燥膜の作製〕において作製された、これらの膜が成膜された基板を水平に保持し、基板に対して40cmの高さから、流量50mL/秒で水を連続滴下した。滴下前、5分間滴下後、20分間滴下後の3点において、膜の算術平均粗さ及び滑液性を測定した。膜の算術平均粗さについては前述の方法で測定した。滑液性については、基板を水平方向に対して15°の角度に保持し、10μLの水滴を乗せ、水滴が滑り落ちた場合は滑液性あり、滑り落ちなかった場合は滑液性なしと判定した。
【0186】
【0187】
前記表3から以下のことが分かった。
実施例1及び8の乳化組成物の乾燥によって得られた膜は、比較例6の塗工液の乾燥によって得られた膜と比べて、水を連続滴下した後の膜の荒れが抑制され、滑液性を持続しているため、膜の耐久性に優れることが分かった。さらに、実施例8の、ポリエーテル変性シリコーン化合物をさらに含む乳化組成物の乾燥によって得られた膜は、より耐久性に優れることがわかった。
【0188】
実施例14
シリコーンオイル1の量を6gとしたこと以外は実施例1と同様にして、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーン1がイオン結合を介して結合した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0189】
実施例15
ビーカーに実施例14で得られた乳化組成物100gをはかり取り、そこにポリエーテル変性シリコーン1 0.2gを添加し、25℃で30分撹拌して、乳化組成物を得た。
【0190】
実施例16
シリコーンオイル1の代わりにシリコーンオイル2を用いたこと以外は実施例14と同様にして、アニオン変性セルロース繊維に、アミノ変性シリコーン1がイオン結合を介して連結した疎水変性セルロース繊維を含む乳化組成物を得た。
【0191】
試験例1<野外水生生物付着試験>
実施例14~16で作製した乳化組成物をSUS304基板(L50mm×W50mm×T3mm)上に1.5mL塗布し、1気圧、25℃、湿度約40%RHで24時間乾燥させて膜を作製した。なお、L50mm×W50mm×T3mmの未処理のSUS304基板を比較例7とした。
上述の各基板を鎖で繋ぎ、干潮時に水面から2mの深さになるように和歌山県下津港付近の海水中に設置し、3ヶ月間海水中での浸漬試験を行った。
浸漬1ヶ月後と3ヶ月後に、基板への甲殻動物類と藻類の付着度合いを目視によって評価した。評価基準は次の通りである。数値が小さいほど、水生生物の付着抑制効果が高いことを示す。
【0192】
1:水生生物の付着が基板表面の2面積%以下である状態。
2:基板表面の2面積%超10面積%以下に水生生物が付着している状態。
3:基板表面の10面積%超20面積%以下に水生生物が付着している状態。
4:基板表面の20面積%超30面積%以下に水生生物が付着している状態。
5:基板表面の30面積%超50面積%以下に水生生物が付着している状態。
6:基板表面の50面積%超80面積%以下に水生生物が付着している状態。
7:基板表面の80面積%超に水生生物が付着している状態。
【0193】
試験例2<付着水生生物除去試験>
上記試験例1において、浸漬1ヶ月後と3ヶ月後に基板上に付着した水生生物の除去性を以下の基準で評価した。なおここで低圧とは、洗瓶から吹き付けるほどの弱い圧力を示す。数値が小さいほど、水生生物が容易に除去できることを示す。
【0194】
1:低圧の水洗で容易に除去可能。
2:水洗+こする作業が必要。
3:工具の使用が必要(1回削る作業で除去)。
4:工具で複数回削る作業が必要、あるいは除去不可。
上記の結果を表4に示す。
【0195】
【0196】
表4から、本発明の乳化組成物を用いて形成された膜は、水生生物の付着そのものを抑制できる効果を有し、かつ、付着した水生生物の除去性も良好であることが分かった。特に実施例15の乳化組成物を用いて形成した膜は、水生生物の付着抑制効果、除去性に優れ、かかる効果を3ヶ月という長期に渡り持続できることが分かった。
【0197】
実施例17
シリコーンオイル1の代わりにシリコーンオイル3を用い、アミノ変性シリコーン1を、1.91g(アニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基に対して1.25当量に相当)用いたことを除いて、実施例1と同様にして乳化組成物を得た。
【0198】
実施例18
実施例17で得られた乳化組成物100gをビーカーにはかり取り、そこにポリエーテル変性シリコーン1 0.2gを添加し、25℃で30分撹拌し、乳化組成物を得た。
【0199】
実施例19
シリコーンオイルの量を4.0gとしたこと以外は実施例18と同様にして、乳化組成物を得た
【0200】
実施例20
シリコーンオイル3の代わりにシリコーンオイル1を用いたこと以外は実施例18と同様にして、乳化組成物を得た。
【0201】
実施例21
シリコーンオイル3の代わりにシリコーンオイル4を用いたこと以外は、実施例18と同様にして、乳化組成物を得た。
【0202】
〔乾燥膜の作製〕
実施例17~21で作製した乳化組成物をそれぞれ別々のガラス基板(10cm×10cm×厚み5mm)上に2.4mL塗布し、ガラス基板全域に塗り広げた。次いで、1気圧、25℃、湿度約40%RHで24時間乾燥させて膜を作製した。下記の測定方法によって実施例17の膜の厚みを測定したところ20μmであった。
【0203】
比較例8~9
比較例8は、ガラス基板そのものを用いた。
比較例9は、市販防雪塗料「関西ペイント製ラク雪塗料」を実施例1で用いたものと同じガラス基板に刷毛で塗り広げ、1気圧、25℃、湿度約40%RHで24時間乾燥させた。塗料厚みは20μmであった。
【0204】
試験例<砕氷滑り性評価試験>
実施例17~21、比較例8~9の各基板を45°の傾斜台に両面テープ(Scotch超強力両面テープ スーパー多用途 幅12mm、3M社製)で固定した。次いで気温2℃の部屋の中で、電動氷かき器(DTY19、株式会社ドウシシャ製)にて各基板表面に砕氷を降らせ、滑氷性を以下の基準で評価した。数値が高いほど、高い滑氷性を示す。なお、砕氷の比重は0.49g/cm3であった。
【0205】
5:氷の9割以上が滑り落ちた。
4:氷の8割以上、9割未満が滑り落ちた。
3:氷の5割以上、8割未満が滑り落ちた。
2:氷の2割以上、5割未満が滑り落ちた。
1:氷の2割未満が滑り落ちた。
【0206】
試験例<滑雪性評価試験>
株式会社MTS雪氷研究所の低温試験室(1℃)において、滑雪性評価を行った。
実施例17~21、比較例8~9の各基板の裏に1cm×2cm×t2mmのステンレス片を両面テープ(Scotch超強力両面テープ スーパー多用途 幅12mm、3M社製)で貼り付け、磁石が備え付けられた固定台に基板が90°になるように設置した。次いで、基板正面から風速5m/sで30分間人工雪を吹き付け、滑雪性を以下の基準で評価した。数値が高いほど、高い滑雪性を示す。なお、人工雪の比重は0.29g/cm3であった。
【0207】
5:10分以内に滑雪。
4:15分以内に滑雪。
3:20分以内に滑雪。
2:30分以内に滑雪。
1:30分の試験時間内に滑雪しなかった。
【0208】
【0209】
表5から、本発明の乳化組成物を乾燥して得られる膜は、ガラス基板単体(比較例8)や市販の防雪塗料(比較例9)よりも、水滴が留まりにくく、氷及び雪が滑り落ちやすいことが分かった。従って、本発明の乳化組成物を乾燥して得られる膜は、防汚膜や防雪膜として優れた性能を発揮することが分かった。意外にも、1~2℃といった低温条件下でも雪や氷が滑り落ちたので、本発明の防雪膜が高い有用性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0210】
本発明の乳化組成物は、滑液性のある膜を形成することができるため、様々な表面、例えば、船舶、橋梁に対するコーティングや、化粧料などの分野に利用することができる。