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  • 特許-長繊維補強発泡成形体の製造方法 図1
  • 特許-長繊維補強発泡成形体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】長繊維補強発泡成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/68 20060101AFI20241107BHJP
   B29C 70/52 20060101ALI20241107BHJP
   B29K 105/04 20060101ALN20241107BHJP
   B29K 105/06 20060101ALN20241107BHJP
【FI】
B29C70/68
B29C70/52
B29K105:04
B29K105:06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020130297
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026706
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 琢真
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-052868(JP,A)
【文献】特開昭54-139971(JP,A)
【文献】特開平05-116157(JP,A)
【文献】特開2000-190341(JP,A)
【文献】特開平07-205182(JP,A)
【文献】特開2012-096482(JP,A)
【文献】特開平09-039101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/68
B29C 70/52
B29K 105/04
B29K 105/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の長繊維補強材が一方向に引き揃えられて形成された繊維束を一方向に連続的に進行させつつ、前記進行する繊維束に発泡性樹脂組成物を供給する工程と、前記供給した発泡性樹脂組成物を前記繊維束に含浸させて樹脂含浸繊維束を得る工程と、前記樹脂含浸繊維束に対して、少なくとも上下を挟むように多孔質シートを配置する工程と、前記樹脂含浸繊維束を前記多孔質シートと共に成形用通路内を通過させ、前記発泡性樹脂組成物を発泡及び硬化させる工程とを備える、長繊維補強発泡成形体の製造方法であって、
前記多孔質シートとして、JIS P 8117(2009)に規定されるガーレー試験機法による透気度が、1.4~25.0秒である多孔質シートを使用する、長繊維補強発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記発泡性樹脂組成物が、少なくともポリオール化合物とポリイソシアネート化合物と発泡剤を含む、請求項1に記載の長繊維補強発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質シートの厚みが20~86μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の長繊維補強発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質シートは、中性紙又はクラフト紙である、請求項1~3のいずれか一項に記載の長繊維補強発泡成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維補強発泡成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一方向に引き揃えられた多数の長繊維を含有する長繊維補強発泡成形体は、軽量でありながら機械的強度に優れており、木材に代わる構造材として建材等に広く使用されている。
長繊維補強発泡成形体は、主に、一方向に引揃えられた多数の長繊維の束(ガラスロービングの束等)に、発泡性樹脂組成物(発泡硬化性ポリウレタン樹脂組成物等)を含浸させ、これを成形用通路内(金型内)に通し、発泡性樹脂組成物を発泡させるとともに硬化させることにより製造される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3670721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
長繊維補強発泡成形体は、発泡により生じる製品表面の穴によって、外観を損なわれる場合がある。そのため、穴の発生を可能な限り抑制することが求められている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、表面の穴の発生を抑制可能な長繊維補強発泡成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]複数の長繊維補強材が一方向に引き揃えられて形成された繊維束を一方向に連続的に進行させつつ、前記進行する繊維束に発泡性樹脂組成物を供給する工程と、前記供給した発泡性樹脂組成物を前記繊維束に含浸させて樹脂含浸繊維束を得る工程と、前記樹脂含浸繊維束の表面に多孔質シートを配置する工程と、前記樹脂含浸繊維束を前記多孔質シートと共に成形用通路内を通過させ、前記発泡性樹脂組成物を発泡及び硬化させる工程とを備える、長繊維補強発泡成形体の製造方法。
[2]前記発泡性樹脂組成物が、少なくともポリオール化合物とポリイソシアネート化合物と発泡剤を含む、[1]に記載の長繊維補強発泡成形体の製造方法。
[3]前記多孔質シートは、JIS P 8117(2009)に規定されるガーレー試験機法による透気度が、1.4~25.0秒である、[1]または[2]に記載の長繊維補強発泡成形体の製造方法。
[4]前記多孔質シートの厚みが20~86μmであることを特徴とする[1]~[3]のいずれか一項に記載の長繊維補強発泡成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の長繊維補強発泡成形体の製造方法によれば、製品表面の穴の発生を抑制し、外観の優れた長繊維補強発泡成形体の製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の長繊維補強発泡成形体の製造方法を実施するための製造システムの一例である。
図2】成形用通路内における樹脂含浸繊維束の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の製造方法に使用する繊維束は、複数の長繊維補強材が一方向に引き揃えられて形成されものである。繊維束を構成するための長繊維補強材は、特に限定されないが、例えばロービングやヤーンのようにストランドをバインダーで軽く付着させて紐状としたものが好適に用いられる。中でも、発泡性樹脂組成物の含浸が容易であり、成形が容易であり、かつ成形体の機械的物性に優れているため、ロービングが好ましく用いられる。
【0009】
上記ストランドを構成するフィラメントは、モノフィラメントであってもよく、フィブリル(髭状に繊維が突き出たもの)化繊維であってもよい。
長繊維補強材の材質についても特に限定されず、ガラス繊維、炭素繊維等の無機長繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等の有機長繊維が挙げられる。特に、ガラス長繊維が好適である。
これらの長繊維を構成するモノフィラメントの太さは、一般に直径で10~20μmのものが好適に使用される。
【0010】
本発明の製造方法に使用する発泡性樹脂組成物には硬化前は液状である熱硬化性樹脂を用いる。
熱硬化性樹脂としては、反応前に液状である熱硬化性樹脂が用いられ、熱硬化性樹脂と硬化剤と発泡剤とを含む発泡性樹脂組成物を硬化・発泡させることにより発泡樹脂が構成される。上記熱硬化性樹脂としては、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0011】
本発明の製造方法に使用する発泡性樹脂組成物は、硬化性樹脂がウレタン系樹脂である発泡硬化性ポリウレタン樹脂組成物であることが好ましい。
発泡性樹脂組成物が発泡硬化性ポリウレタン樹脂組成物である場合、発泡性樹脂組成物は、少なくともポリオール化合物とポリイソシアネート化合物と発泡剤を含む。また、さらに整泡剤および触媒を含むことが好ましい。
ポリオールとしては、官能基数が3~4のポリオールが好適に使用できる。ポリイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)又は変成MDI等のポリイソシアネートとを使用できる。発泡剤としては、水やフロンガスなどを使用できる。
【0012】
本発明の製造方法に使用する多孔質シートとしては、紙、プラスチックフィルター、多孔質金属シートが挙げられる。
中でも製品を加工処理する際、製品から取り除きやすいという点で紙が好ましい。
紙としては、中性紙、クラフト紙等を使用できる。中でも透気度が高く、空気を通しやすいという点で、中性紙が好ましい。
【0013】
多孔質シートのJIS P 8117(2009)に規定されるガーレー試験機法による透気度は、1.4~25.0秒であることが好ましい。
多孔質シートの透気度が好ましい上限値以下であると、透気性が高いことにより、表面の穴の発生を抑制する効果が高い。
多孔質シートの透気度が好ましい下限値以上であることにより、シートとしての強度を保ちやすい。
【0014】
多孔質シートの厚みは、20~86μmであることが好ましい。
多孔質シートの厚みが好ましい上限値以下であることにより、透気性が高くなりやすく、表面の穴の発生を抑制する効果が高い。
多孔質シートの厚みが好ましい下限値以上であることにより、シートとしての強度を保ちやすい。
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る製造方法について説明する。図1は、本実施形態の製造方法を実施するための製造システムの一例である。
図1の製造システムは、ポリオール液タンク11、硬化剤液タンク12、供給装置15、含浸機16、一対の多孔質シート供給ロール18、成形用通路19とを備えている。
【0016】
また、ポリオール液タンク11に貯留されたポリオール液1を供給装置15に供給するためのポリオール液ポンプ21、硬化剤液タンク12に貯留された硬化剤液2を供給装置15に供給するための硬化剤液ポンプ22を備えている。
また、複数の長繊維補強材が一方向に引き揃えられて形成された繊維束6が、図示を省略する搬送手段により、一方向(図示右方向)に連続的に進行するようになっている。
【0017】
含浸機16は、例えば含浸板16aと複数の揉み板16bで構成されたものを使用できる。含浸板16aに代えて、無端ベルトを使用してもよい。含浸板16a又は無端ベルトの温度を所定の温度に調整する温度調節機を備えることも好ましい。
【0018】
成形用通路19は、例えば、図2に示すように、4つの金属ベルト19aの表面で4面を囲むことにより形成された通路を使用できる。
金属ベルト19aは、成形用通路19内を通過する樹脂含浸繊維束7を熱硬化させると共に、発泡させるために加熱されている。
【0019】
図1の製造システムによる長繊維補強発泡成形体の製造は、例えば以下のようにして行うことができる。
まず、ポリオール液1をポリオール液ポンプ21により、硬化剤液2を硬化剤液ポンプ22により、各々供給装置15に供給する。これら、ポリオール液1と硬化剤液2を供給装置15内で混合して発泡性樹脂組成物5とし、供給装置15から、進行中の繊維束6に対して、供給する(繊維束に発泡性樹脂組成物を供給する工程)。例えば、散布装置を用いて、発泡性樹脂組成物5を繊維束6に対して散布してもよい。
【0020】
次いで発泡性樹脂組成物5が供給された繊維束6を、含浸機16により処理する。図1に示した含浸機16では、含浸板16a上で揉み板16bにより揉まれることにより、発泡性樹脂組成物5が繊維束6に含浸され、樹脂含浸繊維束7となる(樹脂含浸繊維束を得る工程)。
次いで、一対の多孔質シート供給ロール18から、樹脂含浸繊維束7に対して、その上下を挟むように多孔質シート8を供給し、樹脂含浸繊維束7の表面に配置する(多孔質シートを配置する工程)。
【0021】
その後、樹脂含浸繊維束7を、その上下に供給された多孔質シート8と共に成形用通路19内を通過させる。樹脂含浸繊維束7は、成形用通路19内を通過する間に、含浸した発泡性樹脂組成物5が発泡及び硬化することによって、長繊維補強発泡成形体となる(発泡及び硬化させる工程)。得られた長繊維補強発泡成形体は、適宜の長さに切断して使用することができる。
【0022】
本発明の長繊維補強発泡成形体の製造方法によれば、製品表面の穴の発生を抑制することができる。その理由は、以下のように考えられる。
すなわち、従来樹脂含浸繊維束7に含浸した発泡性樹脂組成物5が成形用通路19内で発泡膨張する際、発泡性樹脂組成物5が成形用通路19の壁(金属ベルト19a)に密着した部分で生じた気泡は逃げ道がないため、長繊維補強発泡成形体9の表面に穴として残っていた。
【0023】
これに対して、本発明の長繊維補強発泡成形体の製造方法によれば、樹脂含浸繊維束7の表面に配置された多孔質シート8は、樹脂含浸繊維束7の表面に張り付いた状態で、樹脂含浸繊維束7と共に成形用通路19内に入る。そのため、図2に示すように、樹脂含浸繊維束7と成形用通路19の壁(金属ベルト19a)との間に多孔質シート8が介在することとなり、発泡性樹脂組成物5が成形用通路19の壁(金属ベルト19a)に直接密着することを防ぐことができる。また、多孔質シート8と成形用通路19の壁(金属ベルト19a)との間にも隙間が生じる。
【0024】
その結果、樹脂含浸繊維束7の発泡性樹脂組成物5が成形用通路19内で発泡膨張する際、発泡性樹脂組成物5が多孔質シート8に接する部分で生じた気泡は多孔質シート8を通過し、さらに、多孔質シート8と成形用通路19の壁(金属ベルト19a)との間の隙間を通過し、外部に抜けることができる。したがって、生じた気泡が、長繊維補強発泡成形体9の表面に穴として残ることを抑制でき、穴あきを減少させることができると考えられる。
【実施例
【0025】
[測定方法]
各例で得られた長繊維補強発泡成形体9の穴あき面積は、生産ライン上の外観検査機で測定した。測定方法は製品に赤外線を照射し、影ができた部分の面積をカメラで読み取り、画像処理を行い、穴あき面積を算出した。
実施例で用いた多孔質シート8の透気度は、JIS P 8117(2009)に規定されるガーレー試験機法により測定した。
実施例で用いた多孔質シート8の厚みは、JIS P 8118(2014)に規定される紙及び板紙‐厚さ,密度及び比容積の試験方法に基づき測定された販売メーカーの試験成績書の値を参考にした。
【0026】
[比較例1]
繊維束6として、ガラス長繊維を用いた。
図1の製造システムを用い、ポリオール液1としてプロピレンオキサイド付加ポリエーテルポリオールの100質量部と、硬化剤液2としてジフェニルメタンジイソシアネートの150質量部とを供給装置15に供給し、発泡性樹脂組成物5とした。
この発泡性樹脂組成物5を繊維束6の100質量部に対して100質量部供給してから含浸機16で処理し、樹脂含浸繊維束7を得た。
この樹脂含浸繊維束7を、多孔質シート8を用いることなく、そのまま、成形用通路19に導入し、通過させた。得られた長繊維補強発泡成形体9の穴あき面積を表1に示す。
【0027】
[実施例1]
比較例1と同様にして、樹脂含浸繊維束7を得た。この樹脂含浸繊維束7の表面に、上下から多孔質シート8としてクラフト紙(透気度25秒、厚み86μm、幅280cm)を供給して配置してから成形用通路19に導入した他は、比較例1と同様にして、成形用通路19を通過させた。得られた長繊維補強発泡成形体9の穴あき面積と、比較例1に対する穴あき面積の減少率(穴あき減少率)を表1に示す。
【0028】
[実施例2]
比較例1と同様にして、樹脂含浸繊維束7を得た。この樹脂含浸繊維束7の表面に、上下から多孔質シート8として中性紙(透気度2秒、厚み70μm、幅280cm)を供給して配置してから成形用通路19に導入した他は、比較例1と同様にして、成形用通路19を通過させた。得られた長繊維補強発泡成形体9の穴あき面積と、比較例1に対する穴あき面積の減少率(穴あき減少率)を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示すように、多孔質シート8を樹脂含浸繊維束7の表面に配置することにより、穴あき面積が減少した。特に、透気度の値が小さい多孔質シート8を用いた実施例2で、その効果が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の長繊維補強発泡成形体の製造方法により得られる長繊維補強発泡成形体は、外観に優れるため、建築物、車両船舶、鉄道施設、水処理施設等の用途に広く使用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 ポリオール液
2 硬化剤液
5 発泡性樹脂組成物
6 繊維束
7 樹脂含浸繊維束
8 多孔質シート
9 長繊維補強発泡成形体
11 ポリオール液タンク
12 硬化剤液タンク
15 供給装置
16 含浸機
18 多孔質シート供給ロール
19 成形用通路
図1
図2