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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】車両の運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20241107BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20241107BHJP
   B60W 30/12 20200101ALI20241107BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W60/00
B60W30/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020168080
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022060073
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】羽鹿 亮
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-090119(JP,A)
【文献】特開2017-117192(JP,A)
【文献】特開平07-160994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車の走行路前方の障害物を認識する障害物認識手段と、
自車から前記障害物までの距離と自車速に基づいて自車が前記障害物に衝突するまでの衝突余裕時間を算出する衝突余裕時間算出手段と、
前記衝突余裕時間が設定閾値以下であるとき、前記障害物との衝突を回避するための目標横位置を前記自車が回避方向の自車走行車線の区画線を逸脱しない位置に算出する目標横位置算出手段と、
前記衝突余裕時間が前記設定閾値以下となった時点の自車位置を制御開始位置とし、前記自車速に応じて許容される最大横ジャークを用いて、前記制御開始位置から前記制御開始位置と前記目標横位置との中間位置までの第1の目標経路、及び、前記中間位置から前記目標横位置までの第2の目標経路を算出する目標経路算出手段と、
前記第1の目標経路及び前記第2の目標経路に基づいて前記障害物を横方向に回避するのに必要な衝突回避時間を算出し、前記衝突回避時間が前記衝突余裕時間に基づいて設定される閾値以下であるとき操舵による前記障害物との衝突回避が可能であると判定する回避判定手段と、
前記回避判定手段で前記障害物との衝突回避が可能であると判定したとき、前記最大横ジャーク以下の値に設定される複数の横ジャークを用いて前記第1の目標経路及び前記第2の目標経路を算出し、前記衝突回避時間が前記閾値以下となる前記横ジャークの最小値を最適横ジャークとして算出する最適横ジャーク算出手段と、
前記最適横ジャークを用いて前記障害物との衝突を回避するための操舵制御を行う操舵制御手段と、を備えたことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項2】
前記最適横ジャーク算出手段は、前記最大横ジャークに基づいて算出した前記衝突回避時間が前記閾値以下である場合に、前記最大横ジャークを前記最適横ジャークの探索範囲の上限値の初期値に設定するとともに、予め設定された値を前記最適横ジャークの探索範囲の下限値の初期値に設定し、前記上限値と前記下限値との中間値の横ジャークに基づいて算出した前記衝突回避時間が前記閾値以下である場合に前記上限値を前記中間値により更新し、前記中間値に基づいて算出した前記衝突回避時間が前記閾値よりも大きい場合に前記下限値を前記中間値により更新することを特徴とする請求項1に記載の車両の運転支援装置。
【請求項3】
前記衝突余裕時間算出手段は、前記自車と前記障害物との相対速度を「0」とする緊急ブレーキ制御の実行時に前記衝突余裕時間を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の運転支援装置。
【請求項4】
前記目標横位置算出手段は、前記自車走行車線の前記区画線を逸脱しない位置に前記目標横位置を算出できないとき、或いは、前記目標横位置及び前記最大ジャークに基づいて算出した前記第1の目標経路及び前記第2の目標経路に基づく前記衝突回避時間が前記閾値よりも大きいときのうちの少なくとも何れか一方のとき、前記区画線を前記自車が逸脱する位置に仮想目標横位置を算出し、
前記目標経路算出手段は、前記制御開始位置と前記仮想目標横位置とに基づいて前記第1の目標経路及び前記第2の目標経路を算出し、
前記最適横ジャーク算出手段は、前記緊急ブレーキ制御によって前記自車が停止するタイミングにおいて前記自車を前記区画線から逸脱しない範囲で移動させる前記横ジャークのうち、前記衝突回避時間が前記閾値以下となる前記横ジャークの最小値を前記最適横ジャークとして算出することを特徴とする請求項3に記載の車両の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の前方に存在する障害物に対して操舵介入による衝突回避制御を行うことが可能な車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、運転者の負担を軽減し、快適且つ安全に運転できるようにする運転支援のための技術が種々提案され、実用化されている。
【0003】
この種の運転支援は、追従者間距離制御(ACC:Adaptive Cruise Control)機能と車線維持制御(Lane Keeping)機能とを備えることにより、先行車との車間を維持しつつ走行車線に沿って車両を自動走行させることができる。さらに、ロケータ機能を備えることにより、自車両を目的地まで自動走行させることもできる。
【0004】
このような運転支援装置において、車線維持制御では、車両に搭載されているステレオカメラ等の前方認識装置を用いて、自車両の走行している車線の左右を区画する区画線を認識し、自車両が左右の区画線の中央を走行するように操舵制御を行う。
【0005】
さらに、この種の運転支援装置では、車線維持制御等の実行時に、自車両の走行路前方に存在する障害物に対して制動制御(緊急ブレーキ等)によって衝突を回避できない場合に、操舵介入を行って障害物との緊急衝突回避を行うための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、通常の旋回時について予め設定された車速と横加速度との関係に基づき、車両の周辺(特に、前方)に、通常の操舵により衝突を容易に回避できない領域として支援領域を設定し、支援領域内に障害物が存在する場合には、最大横加速度を超える横加速度を発生させる操舵により障害物との衝突回避を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2013/140513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術では、操舵による緊急衝突回避時にどのような横加速度を発生させるべきか等については、何ら開示されていない。従って、上述の特許文献1に開示された技術では、操舵による緊急衝突回避時に過剰な横加速度を発生させてしまい、乗員に違和感を与える虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、過剰な横加速度を発生させることなく、障害物に対して操舵による緊急回避を実現することができる車両の運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様による車両の運転支援装置は、自車の走行路前方の障害物を認識する障害物認識手段と、自車から前記障害物までの距離と自車速に基づいて自車が前記障害物に衝突するまでの衝突余裕時間を算出する衝突余裕時間算出手段と、前記衝突余裕時間が設定閾値以下であるとき、前記障害物との衝突を回避するための目標横位置を前記自車が回避方向の自車走行車線の区画線を逸脱しない位置に算出する目標横位置算出手段と、前記衝突余裕時間が前記設定閾値以下となった時点の自車位置を制御開始位置とし、前記自車速に応じて許容される最大横ジャークを用いて、前記制御開始位置から前記制御開始位置と前記目標横位置との中間位置までの第1の目標経路、及び、前記中間位置から前記目標横位置までの第2の目標経路を算出する目標経路算出手段と、前記第1の目標経路及び前記第2の目標経路に基づいて前記障害物を横方向に回避するのに必要な衝突回避時間を算出し、前記衝突回避時間が前記衝突余裕時間に基づいて設定される閾値以下であるとき操舵による前記障害物との衝突回避が可能であると判定する回避判定手段と、前記回避判定手段で前記障害物との衝突回避が可能であると判定したとき、前記最大横ジャーク以下の値に設定される複数の横ジャークを用いて前記第1の目標経路及び前記第2の目標経路を算出し、前記衝突回避時間が前記閾値以下となる前記横ジャークの最小値を最適横ジャークとして算出する最適横ジャーク算出手段と、前記最適横ジャークを用いて前記障害物との衝突を回避するための操舵制御を行う操舵制御手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両の運転支援装置によれば、過剰な横加速度を発生させることなく、障害物に対して操舵による緊急回避を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係り、運転支援装置の概略構成図
図2】同上、障害物に対する衝突回避操舵制御ルーチンを示すフローチャート
図3】同上、2分探索法を用いた最適横ジャーク算出サブルーチンを示すフローチャート
図4】同上、衝突回避操舵制御に用いられるパラメータを示す説明図
図5】同上、衝突回避操舵制御に用いられるパラメータを示す説明図
図6】同上、最大横ジャークを用いて衝突回避操舵制御を行った場合の横加速度と時間との関係の一例を示す説明図
図7】同上、最大横ジャークを用いて衝突回避操舵制御を行った場合の横速度と時間との関係の一例を示す説明図
図8】同上、最大横ジャークを用いて衝突回避操舵制御を行った場合の横位置と時間との関係の一例を示す説明図
図9】同上、最大横ジャークを用いて衝突回避操舵制御を行った場合の横加速度と時間との関係の他の例を示す説明図
図10】同上、最大横ジャークを用いて衝突回避操舵制御を行った場合の横速度と時間との関係の他の例を示す説明図
図11】同上、最大横ジャークを用いて衝突回避操舵制御を行った場合の横位置と時間との関係の他の例を示す説明図
図12】同上、最大横ジャークを用いて衝突回避操舵制御を行った場合の自車両の軌跡の一例を示す説明図
図13】同上、最適横ジャークの一例を示す説明図
図14】本発明の第2の実施形態に係り、障害物に対する衝突回避操舵制御ルーチンを示すフローチャート(その1)
図15】同上、障害物に対する衝突回避操舵制御ルーチンを示すフローチャート(その2)
図16】同上、2分探索法を用いた最適横ジャーク選出サブルーチンを示すフローチャート
図17】同上、衝突回避操舵制御に用いられるパラメータを示す説明図
図18】同上、最大横ジャークを用いて衝突回避操舵制御を行った場合の自車両の軌跡の一例を示す説明図
図19】本発明の第3の実施形態に係り、障害物に対する衝突回避操舵制御ルーチンを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1図13に基づいて本発明の第1の実施形態を説明する。図1の符号1は自動運転を行うための運転支援装置であり、自車両M(図4,5参照)に搭載されている。この運転支援装置1は、ロケータユニット11と走行環境取得部としてのカメラユニット21と自動運転制御ユニット26とを備えている。
【0013】
ロケータユニット11は、地図ロケータ演算部12と記憶部としての高精度道路地図データベース16とを有している。
【0014】
この地図ロケータ演算部12の入力側に、自車位置取得部としてのGNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)受信機13、運転状態取得部としての自律走行センサ14、及びルート情報入力装置15が接続されている。GNSS受信機13は複数の測位衛星から発信される測位信号を受信する。又、自律走行センサ14は、トンネル内走行等GNSS衛生からの受信感度が低く測位信号を有効に受信することのできない環境において、自律走行を可能にするもので、車速センサ、ヨーレートセンサ、及び前後加速度センサ等で構成されている。すなわち、地図ロケータ演算部12は、車速センサで検出した車速、ヨーレートセンサで検出したヨーレート(ヨー角速度)、及び前後加速度センサで検出した前後加速度等に基づき移動距離と方位からローカライゼーションを行う。
【0015】
ルート情報入力装置15は、搭乗者(主に運転者)が操作する端末装置である。すなわち、このルート情報入力装置15は、目的地や経由地(高速道路のサービスエリア等)の設定等、地図ロケータ演算部12において走行ルートを設定する際に必要とする一連の情報を集約して入力することができる。
【0016】
このルート情報入力装置15は、具体的には、カーナビゲーションシステムの入力部(例えば、モニタのタッチパネル)、スマートフォン等の携帯端末、パーソナルコンピュータ等であり、地図ロケータ演算部12に対して、有線、或いは無線で接続されている。
【0017】
搭乗者がルート情報入力装置15を操作して、目的地や経由地の情報(施設名、住所、電話番号等)の入力を行うと、この入力情報が地図ロケータ演算部12で読込まれる。
【0018】
地図ロケータ演算部12は、目的地や経由地が入力された場合、その位置座標(緯度、経度)を設定する。地図ロケータ演算部12は、自車位置を推定する自車位置推定部としての自車位置推定演算部12a、自車位置から目的地(及び経由地)までの走行ルートを設定する走行ルート設定演算部12bを備えている。
【0019】
又、高精度道路地図データベース16はHDD等の大容量記憶媒体であり、高精度な周知の道路地図情報(ローカルダイナミックマップ)が記憶されている。この高精度道路地図情報は、基盤とする最下層の静的情報階層上に、自動走行をサポートするために必要な付加的地図情報が重畳された階層構造をなしている。付加的地図情報としては、道路の種別(一般道路、高速道路等)、道路形状、左右区画線、高速道路やバイパス道路等の出口、ジャンクションやサービスエリアに繋がる分岐車線の入口長さ(開始位置と終了位置)等の静的な位置情報、及び、渋滞情報や事故或いは工事による通行規制等の動的な位置情報が含まれている。
【0020】
自車位置推定演算部12aは、GNSS受信機13で受信した測位信号に基づき自車両Mの現在の位置座標(緯度、経度)を取得し、この位置座標を地図情報上にマップマッチングして、道路地図上の自車位置(現在位置)を推定する。又、自車走行車線を特定し、地図情報に記憶されている当該走行車線の道路形状を取得し、逐次記憶させる。更に、自車位置推定演算部12aは、トンネル内走行等のようにGNSS受信機13の感度低下により測位衛星からの有効な測位信号を受信することができない環境では、自律航法に切換え、自律走行センサ14によりローカライゼーションを行う。
【0021】
走行ルート設定演算部12bは、自車位置推定演算部12aで推定した自車位置の位置情報(緯度、経度)と、入力された目的地(及び経由地)の位置情報(緯度、経度)とに基づき、高精度道路地図データベース16に格納されているローカルダイナミックマップを参照する。そして、走行ルート設定演算部12bは、ローカルダイナミックマップ上で、自車位置と目的地(経由地が設定されている場合は、経由地を経由した目的地)とを結ぶ走行ルートを、予め設定されているルート条件(推奨ルート、最速ルート等)に従って構築する。
【0022】
一方、カメラユニット21は、自車両Mの車室内前部の上部中央に固定されており、車幅方向中央を挟んで左右対称な位置に配設されているメインカメラ21a及びサブカメラ21bからなる車載カメラ(ステレオカメラ)と、画像処理ユニット(IPU)21c、及び前方走行環境認識部21dとを有している。このカメラユニット21は、メインカメラ21aで基準画像データを撮像し、サブカメラ21bで比較画像データを撮像する。
【0023】
そして、この両画像データをIPU21cにて所定に画像処理する。前方走行環境認識部21dは、IPU21cで画像処理された基準画像データと比較画像データとを読込み、その視差に基づいて両画像中の同一対象物を認識すると共に、その距離データ(自車両Mから対象物までの距離)を、三角測量の原理を利用して算出して、前方走行環境情報を認識する。
【0024】
この前方走行環境情報には、自車両Mが走行する車線(自車走行車線)の道路形状(左右を区画する区画線、区画線間中央の道路曲率[1/m]、及び左右区画線間の幅(車線幅))、高速道路やバイパス道路等の出口、ジャンクションに繋がる分岐車線側の区画線間の車線幅、交差点、横断歩道、信号機、道路標識、先行車や対向車等の移動立体物、及び路側障害物O(電柱、電信柱、駐車車両等)が含まれている。このように、IPU21cは、障害物認識手段としての機能を実現する。
【0025】
又、自動運転制御ユニット26は、入力側にカメラユニット21の前方走行環境認識部21dが接続されていると共に、地図ロケータ演算部12と車内通信回線(例えばCAN:Controller Area Network)を通じて双方向通信自在に接続されている。更に、この自動運転制御ユニット26の出力側に、自車両Mを走行ルートに沿って走行させる操舵制御部31、強制ブレーキにより自車両Mを減速させるブレーキ制御部32、自車両Mの車速を制御する加減速制御部33、及びモニタ、スピーカ等の報知装置34が接続されている。
【0026】
自動運転制御ユニット26は、走行ルート設定演算部12bで設定した走行ルートに、自動運転制御が許可された自動運転区間が設定されている場合、当該自動運転区間に自動運転を行うための目標進行路を設定する。そして、自動運転区間においては、操舵制御部31、ブレーキ制御部32、加減速制御部33を所定に制御して、GNSS受信機13で受信した自車位置を示す測位信号に基づき、自車両Mを目標進行路に沿って自動走行させる。
【0027】
その際、自動運転制御ユニット26は、前方走行環境認識部21dで認識した前方走行環境に基づき、周知の追従車間距離制御(ACC制御)、及び車線維持(ALK)制御により、先行車が検出された場合は先行車に追従し、先行車が検出されない場合は制限速度内のセット車速で自車両Mを走行させる。
【0028】
また、自動運転制御ユニット26は、ACC制御の一環として、自車両Mの走行路前方に検出された先行車が停止した際には、先行車に追従して自車両Mを停車させるための制動制御を行う。
【0029】
さらに、自動運転制御ユニット26は、ACC制御に対する割り込み制御として、自車両Mの走行路前方に自車両Mと衝突する可能性の高い障害物Oが検出された際には、当該障害物の手前に自車両Mを停車させるための緊急ブレーキ(AEB(Autonomous Emergency Braking):衝突被害軽減ブレーキ)制御を行う。
【0030】
ここで、本実施形態における障害物Oとは、自車両Mと衝突の可能性がある立体物であり、具体的には、自車両Mの走行路前方において、少なくとも一部が自車両Mとラップ(Rap)している立体物をいう。この障害物Oには、路肩付近に停車している車両(図4参照)等は勿論のこと、自車両Mの前方で急減速或いは急停車した先行車等も含まれる。
【0031】
この緊急ブレーキ制御は、基本的にはステレオカメラで認識した障害物Oに基づいて行われるものであり、例えば、一次ブレーキ制御と二次ブレーキ制御との2段階によって行われる。
【0032】
一次ブレーキ制御は、ドライバに対して障害物との衝突回避操作を促すための警報ブレーキ制御であり、比較的小さい減速度a0を用いて自車両Mを減速させる緩ブレーキ制御である。
【0033】
二次ブレーキ制御は、一次ブレーキ制御に対してドライバが適切な衝突回避操作を行わなかった場合に行われる本ブレーキ制御であり、一次ブレーキ制御よりも大きな減速度apを用いて障害物との相対速度が「0」となるまで自車両Mを減速させる強ブレーキ制御である。
【0034】
これらのブレーキ制御は、自車両Mと障害物との相対速度Vrelと相対距離Dcamとの関係が閾値以下となったとき実行される。
【0035】
本実施形態において、具体的には、自動運転制御ユニット26は、自車両Mと障害物との相対速度Vrelとラップ率Rapとの関係から距離閾値であるブレーキ制御開始距離D1th,D2thを算出する。これらの距離閾値D1th、D2thを算出するため、自動運転制御ユニット26には、一次ブレーキ制御開始距離設定用のマップと二次ブレーキ制御開始距離設定用のマップが、実験やシミュレーション等に基づいて予め設定され格納されている。これらのマップは、基本的には、相対速度Vrelが低くなるほど距離閾値を小さな値に設定して減速開始タイミングを遅らせ、且つ、ラップ率Rが低くなるほど距離閾値を小さな値に設定して減速開始タイミングを遅らせるように設定されている。すなわち、各マップは、相対速度Vrelが低く、且つ、ラップ率Rが低くなるほど、ドライバ自らの運転操作によって障害物との衝突回避を行う余地を残す設定となっている。
【0036】
そして、相対距離Dcamが一次ブレーキ制御開始距離D1th以下となったとき、自動運転制御ユニット26は、ブレーキ制御部32及び加減速制御部33を通じて一次ブレーキ制御を行う。
【0037】
さらに、一次ブレーキ制御中にドライバによる適切な回避操作等が行われず、相対距離Dcamが二次ブレーキ制御開始距離D2th以下となったとき、自動運転制御ユニット26は、ブレーキ制御部32及び加減速制御部33を通じて障害物Oとの相対速度が「0」となるまで二次ブレーキ制御を行う。
【0038】
なお、後述する衝突余裕時間TTC(Time To Collision)は、ブレーキ制御において実質的に相対距離Dcamと同義のパラメータである。従って、相対速度Vrelと相対距離Dcamとの関係を示すパラメータとして衝突余裕時間TTCを用いることも可能である。
【0039】
また、二次ブレーキ制御の実行中において、自動運転制御ユニット26は、自車両Mが障害物Oに衝突するまでの時間である衝突余裕時間TTC(Time To Collision)を算出する。この衝突余裕時間TTCとしては、例えば、自車両Mと前方障害物Oとの相対距離Dcamを、自車両Mと前方障害物Oとの相対速度Vrelにより除算した値((相対距離Dcam)/(相対速度Vrel))が算出される。
【0040】
そして、衝突余裕時間TTCが閾値Tthよりも大きい場合、自動運転制御ユニット26は、ブレーキ制御部32及び加減速制御部33を通じて制動制御を行い、自車両Mを障害物Oの後方に停車させる。
【0041】
一方、衝突余裕時間TTCが予め設定された閾値Tth以下であるとき、自動運転制御ユニット26は、制動制御によって障害物Oとの衝突を回避することが困難であると判断し、操舵による障害物Oに対する緊急衝突回避を行うべく、操舵制御部31を通じて緊急操舵(AES(Autonomous Emergency Steering):自動操舵回避)制御を行う。ここで、閾値Tthは、自車両Mと障害物Oとの衝突を緊急ブレーキ制御によって回避するための時間的余裕があるか否かを、衝突余裕時間TTCとの関係において判定するための閾値である。
【0042】
この操舵制御に際し、自動運転制御ユニット26は、自車両Mが障害物Oとの衝突を回避するための目標横位置を算出する。また、自動運転制御ユニット26は、衝突余裕時間TTCが設定閾値Tth以下となった時点の自車位置を制御開始位置とし、自車速に応じて許容される最大横ジャークを用い、緊急操舵制御のための目標経路として、制御開始位置から当該制御開始位置と目標横位置との中間位置までの第1の目標経路、及び中間位置から目標横位置までの第2の目標経路を算出する。また、自動運転制御ユニット26は、最大横ジャークを用いて算出した第1の目標経路及び第2の目標経路に基づいて自車両Mが障害物を横方向に回避するのに必要な衝突回避時間t_Rap0を算出し、衝突回避時間t_Rap0が衝突余裕時間TTCに基づいて設定される閾値Tth_Rap0(例えば、Tth_Rap0=TTC-マージンα)以下であるとき、操舵により障害物との衝突回避が可能であると判定する。そして、障害物との衝突回避が可能であると判定したとき、自動運転制御ユニット26は、操舵制御時に自車速に応じて許容される最大横ジャーク(最大横加加速度)を基準値として、2分探索法を用いて横加速度に対する最適横ジャーク(最大横ジャーク以下の最適な横ジャーク)を設定する。すなわち、自動運転制御ユニット26は、最大横ジャークを基準値とする横ジャークJ_nの更新を設定回数(例えば、n=10)繰り返し行い、横ジャークJ_nが更新される毎に、横ジャークJ_nに基づいて自車両Mを目標横位置まで移動させる操舵制御が行われた場合に障害物Oとの衝突が回避可能となるまでの衝突回避時間t_Rap0を算出する。そして、自動運転制御ユニット26は、衝突余裕時間TTCに基づいて設定される閾値Tth_rap0以下となる衝突回避時間t_Rap0のうち、最大の衝突回避時間t_Rap0を実現するための横ジャークJ_n(最小横ジャーク)を最適横ジャークJとして設定する。最適横ジャークJを設定すると、自動運転制御ユニット26は、操舵制御部31を通じた操舵制御を行い、自車両Mを目標横位置まで移動させることにより、障害物Oとの衝突を回避させる。
【0043】
このように、本実施形態において、自動運転制御ユニット26は、衝突余裕時間算出手段、目標横位置算出手段、目標経路算出手段、回避判定手段、最適横ジャーク設定手段、及び、操舵制御手段としての各機能を実現する。
【0044】
次に、自動運転制御ユニット26において実行される障害物に対する衝突回避操舵制御について、図2に示す操舵回避制御ルーチンのフローチャートに従って説明する。なお、衝突回避操舵制御が行われた直後において、自動運転制御ユニット26は、自車両Mの姿勢を自車走行路の進行方向に戻すための操舵制御(図6図11中のt3以降の操舵制御)を行うが、当該制御については、具体的な説明を省略する。
【0045】
このルーチンは、設定時間毎に繰り返し実行されるものである。ルーチンがスタートすると、自動運転制御ユニット26は、先ず、ステップS101において、現在、自車両Mの走行路前方の障害物Oに対する二次ブレーキ制御が実行中であるか否かを調べる。
【0046】
そして、ステップS101において、二次ブレーキ制御の実行中でないと判定した場合、自動運転制御ユニット26は、そのままルーチンを抜ける。
【0047】
一方、ステップS101において、二次ブレーキ制御の実行中であると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS102に進み、障害物Oに対する衝突余裕時間TTCを算出し、算出した衝突余裕時間TTCが設定閾値Tth以下であるか否かを調べる。
【0048】
そして、衝突余裕時間TTCが設定閾値Tthよりも大きいと判定した場合、自動運転制御ユニット26は、障害物Oとの衝突回避を強制ブレーキ等の制動制御に委ねるべく、そのままルーチンを抜ける。
【0049】
一方、衝突余裕時間TTCが設定閾値Tth以下であると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS103に進み、自車両Mが障害物Oとの衝突を回避するための目標横位置x_avoidを算出する。
【0050】
この目標横位置x_avoidは、例えば、図4,5に示すように、自車両幅をwidth_own、ミラー幅をwidth_mirror、自車両Mの中心から障害物Oの側端までの横位置距離をx_obj、制御マージンをx_marginとすると、以下の(1)式により表される。なお、横位置距離x_objは、障害物Oが自車両Mより右に存在するときは、自車両Mより左を負、右を正とし、障害物Oが自車両Mより左に存在するときは符号が逆転する。
【0051】
x_avoid=((width_own/2)-x_obj)+width_mirror+x_margin …(1)
なお、図4,5において、z_diffは自車両Mから障害物Oまでの距離、Rapは自車両Mと障害物Oとのラップ量を示す。
【0052】
ステップS103からステップS104に進むと、自動運転制御ユニット26は、自車両Mを目標横位置x_avoidまで移動させた場合の自車両M’(図4参照)が、回避スペース内に存在し得るか否かを調べる。ここで、自車両M’が回避スペース内に存在し得る場合とは、例えば、自車両M’が走行車線内に存在する場合、すなわち、自車両M’が区画線をはみ出していない場合をいう。
【0053】
そして、ステップS104において、移動後の自車両M’が回避スペース内に存在し得ないと判定した場合、自動運転制御ユニット26は、そのままルーチンを抜ける。
【0054】
一方、ステップS104において、移動後の自車両M’が回避スペース内に存在し得ると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS105に進み、操舵による障害物Oとの衝突回避制御に必要なパラメータをセットする。
【0055】
このパラメータとして、自動運転制御ユニット26は、例えば、切り増し時の最大横ジャーク:Ja_max、切り戻し時の最大横ジャーク:Jd_max、制御標準横加速度:astd_max、初期横速度:vinit、初期横位置:0、終了時横加速度:0、車両応答遅れ時間:tdelay、及び、終了時の横位置(c3:図8,11参照):(x_avoid/2)等をセットする。ここで、切り増し時の最大横ジャークJa_max及び切り戻し時の最大横ジャークJd_maxは、操舵制御時に許容し得る最大横ジャークであり、自車速に応じて可変に設定されるものである。なお、以下の説明において、説明を簡略化するため、切り増し時の横ジャークJa及び切り戻し時の横ジャークJd等を適宜総称して横ジャークJ(最大横ジャークをJ_max)と称する。
【0056】
ステップS105からステップS106に進むと、自動運転制御ユニット26は、最大横ジャークJ_max等を用いて自車両Mを目標横位置x_avoidまで移動させた場合の走行軌跡(目標経路:第1の目標経路及び第2の目標経路)を算出する。すなわち、自動運転制御ユニット26は、例えば、予め設定された横加速度の計算式に、最大横ジャークJ_max等の各種パラメータを代入し、当該計算式を順次積分することにより、操舵制御時における横加速度aの推移(図6,9参照)を算出し、横速度vの推移(図7,10参照)を算出し、さらに、自車両Mの走行軌跡(図12参照)を示す横位置cの推移(図8,11参照)を算出する。なお、例えば、図6に示すように、この計算において、横加速度aは、制御標準横加速度astdによって上限処理される。
【0057】
ステップS106からステップS107に進むと、自動運転制御ユニット26は、算出した走行軌跡に沿って自車両Mを走行させた際に、自車両Mと障害物Oとのラップ量Rapが「0」となるまでの時間である衝突回避時間t_RAP0(図12参照)を算出する。
【0058】
ステップS107からステップS108に進むと、自動運転制御ユニット26は、衝突回避時間t_Rap0が衝突余裕時間TTCに基づいて設定される閾値Tth_Rap0以下であるか否か、すなわち、衝突回避時間t_Rap0が衝突余裕時間TTCから所定のマージンαを減算した値以下であるか否かを調べる。
【0059】
そして、ステップS108において、衝突回避時間t_Rap0が閾値Tth_Rap0よりも大きいと判定した場合、自動運転制御ユニット26は、現在の横ジャーク(最大横ジャークJ_max)に基づいて操舵制御しても障害物Oとの衝突を回避することが困難であると判断して、そのままルーチンを抜ける。
【0060】
一方、ステップS108において、衝突回避時間t_Rap0が閾値Tth_Rap0以下であると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、現在の横ジャーク(最大横ジャークJ_max)に基づく操舵制御により障害物Oとの衝突を回避することが可能であると判断して、ステップS109に進む。
【0061】
ステップS108からステップS109に進むと、自動運転制御ユニット26は、2分探索法を用いた最適横ジャークJの算出を行う。この最適横ジャークJの算出は、例えば、図3に示す最適横ジャーク算出サブルーチンのフローチャートに従って実行される。
【0062】
サブルーチンがスタートすると、自動運転制御ユニット26は、ステップS201において、2分探索法に用いる横ジャークの上限値J_uppと下限値J_lowの初期値を設定する。ここで、自動運転制御ユニット26は、例えば、最適横ジャークJの探索範囲を示す横ジャークの上限値J_uppの初期値として最大横ジャークJ_maxを設定し、横ジャークの下限値J_lowの初期値として予め設定された値を設定する。ここで、横ジャークの下限値J_lowの初期値として設定される値は、一律に「0」とすることも可能であるが、例えば、衝突余裕時間TTCが設定閾値Tth以下となった時点の自車速毎に予め設定された値(定数)を用いることが望ましい。
【0063】
ステップS201からステップS202に進むと、自動運転制御ユニット26は、2分探索法による演算回数nの初期値として「1」をセットした後、ステップS203に進む。
【0064】
ステップS203において、自動運転制御ユニット26は、演算回数nが設定回数(例えば、10)未満であるか否かを調べる。
【0065】
そして、自動運転制御ユニット26は、ステップS203において、演算回数nが「10」以上であると判定した場合にはステップS211に進み、演算回数nが「10」未満であると判定した場合にはステップS204に進む。
【0066】
ステップS203からステップS204に進むと、自動運転制御ユニット26は、今回の走行軌跡算出のための横ジャークJ_nとして、横ジャークの上限値J_uppと横ジャークの下限値J_lowとの中間値を設定する。
【0067】
そして、自動運転制御ユニット26は、ステップS205において横ジャークJ_nによる走行軌跡を算出し、続くステップS206において衝突回避時間t_Rap0を算出した後、ステップS207に進む。なお、ステップS205及びステップS206の処理は、上述のステップS106及びステップS107の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0068】
ステップS207において、自動運転制御ユニット26は、衝突回避時間t_Rap0が閾値Tth_Rap0以下であるか否かを調べる。
【0069】
そして、ステップS207において、衝突回避時間t_Rap0が閾値Tth_Rap0よりも大きいと判定した場合、自動運転制御ユニット26は、現在の横ジャークJ_nに基づいて操舵制御しても障害物Oとの衝突を回避することが困難であると判断して、ステップS208に進む。
【0070】
一方、ステップS207において、衝突回避時間t_Rap0が閾値Tth_Rap0以下であると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、現在の横ジャークJ_nに基づく操舵制御により障害物Oとの衝突を回避することが可能であると判断して、ステップS209に進む。
【0071】
ステップS207からステップS208に進むと、自動運転制御ユニット26は、最適横ジャークJの探索範囲を絞り込むべく、横ジャークの下限値J_lowを現在の横ジャークJ_nに更新(J_low←J_n)した後、ステップS210に進む。
【0072】
一方、ステップS207からステップS209に進むと、自動運転制御ユニット26は、最適横ジャークJの探索範囲を絞り込むべく、横ジャークの上限値J_uppを現在の横ジャークJ_nに更新(J_upp←J_n)した後、ステップS210に進む。
【0073】
ステップS208或いはステップS209からステップS210に進むと、自動運転制御ユニット26は、演算回数nをインクリメント(n←n+1)した後、ステップS203に戻る。
【0074】
ステップS203において、演算回数nが「10」以上であると判定してステップS211に進むと、自動運転制御ユニット26は、Tth_Rap0≧t_Rap0となった直近、すなわち、TTC-α≧t_Rap0となった直近の横ジャークJ_nを最適横ジャークJとして設定した後、サブルーチンを抜ける。なお、図13には、9回目の演算に用いた横ジャークJ_9が最適横ジャークJとして設定された例を示している。
【0075】
図2のメインルーチンにおいて、ステップS109からステップS110に進むと、自動運転制御ユニット26は、最適横ジャークJを用いて障害物Oを回避するための操舵制御を行った後、ルーチンを抜ける。
【0076】
このような実施形態によれば、自動運転制御ユニット26が、操舵制御時に自車速に応じて許容される最大横ジャーク(最大横加加速度)を基準値として、2分探索法を用いて横ジャークJ_nの更新を設定回数(例えば、n=10)繰り返し行い、横ジャークJ_nが更新される毎に、横ジャークJ_nに基づいて自車両Mを目標横位置まで移動させる操舵制御が行われた場合に障害物Oとの衝突が回避可能となるまでの衝突回避時間t_Rap0を算出し、衝突余裕時間TTCに基づいて設定される閾値Tth_Rap0以下となる衝突回避時間t_rap0のうち、最大の衝突回避時間t_Rap0を実現するための横ジャークJ_n(最小横ジャーク)を最適横ジャークJとして設定することにより、過剰な横加速度を発生させることなく障害物Oに対して操舵による緊急回避を実現することができる。
【0077】
次に、本発明の第2の実施形態について、図14図18を参照して説明する。ここで、上述の第1の実施形態は、自車両Mを区画線内(回避スペース内)に存在させうる目標横位置x_avoidを算出できない場合、及び、目標横位置x_avoidと最大横ジャークに基づいて算出した衝突回避時間t_Rap0が閾値Tth_Rap0よりも大きい場合には緊急操舵制御を作動させない。これに対し、本実施形態は、上述の場合に、自車両Mを区画線外に存在させることを許容する仮想的な目標横位置(仮想目標横位置)x_avoid’を設定し、緊急ブレーキ制御によって自車両Mが停止するタイミングにおいて自車両Mを区画線から逸脱しない範囲で移動させる横ジャークJ_nのうち、衝突回避時間t_Rap0が閾値Tth_Rap0以下となる横ジャークJ_nが存在する場合には、緊急操舵制御を実行する領域を拡張するものである。なお、上述の第1の実施形態と同様の構成等については、適宜説明を省略する。
【0078】
自動運転制御ユニット26において実行される本実施形態の障害物に対する衝突回避操舵制御について、図14,15に示す操舵回避制御ルーチンのフローチャートに従って説明する。
【0079】
このルーチンは、設定時間毎に繰り返し実行されるものである。ルーチンがスタートすると、自動運転制御ユニット26は、上述の第1の実施形態で示したステップS101~ステップS110と同様の処理を行う。但し、ステップS104において移動後の自車両M’が回避スペース内に存在し得ないと判定した場合、或いは、ステップS108において衝突回避時間t_Rap0が閾値Tth_Rap0よりも大きいと判定した場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS111に進む(図15参照)。
【0080】
ステップS104或いはステップS108からステップS111に進むと、自動運転制御ユニット26は、以下のステップS118までの処理により、拡張した領域における衝突回避操舵制御を行う。なお、この拡張領域における衝突回避操舵制御は、安全性確保のため、障害物Oが停止している場合に限り行うことが望ましい。
【0081】
すなわち、ステップS111において、自動運転制御ユニット26は、仮想目標横位置x_avoid’を算出する。この仮想目標横位置x_avoid’は、目標横位置x_avoidよりも大きな値に設定されるものであり、自車両Mを区画線外に存在させることを許容する仮想的な目標横位置である。なお、この仮想目標横位置x_avoid’は、例えば、予め設定されたマップ等を参照して、ラップ量Rap、及び、自車速等に基づいて設定される。
【0082】
ステップS111からステップS112に進むと、自動運転制御ユニット26は、操舵による障害物Oとの衝突回避制御に必要なパラメータをセットする。なお、これらのパラメータのうち、例えば、終了時の横位置については、(x_avoid’/2)が設定される(図17参照)。
【0083】
ステップS112からステップS113に進むと、自動運転制御ユニット26は、ステップS115までの処理において、上述のステップS106及びステップS108と同様の処理を行う。
【0084】
そして、ステップS115からステップS116に進むと、自動運転制御ユニット26は、2分探索法を用いた最適横ジャークJの算出を行う。この最適横ジャークJの算出は、例えば、図16に示す最適横ジャーク算出サブルーチンのフローチャートに従って実行される。
【0085】
サブルーチンがスタートすると、自動運転制御ユニット26は、上述の第1の実施形態で示したステップS201~ステップS206と同様の処理を行う。
【0086】
そして、ステップS206からステップS207に進むと、自動運転制御ユニット26は、衝突回避時間t_Rap0が閾値Tth_Rap0以下であるか否かを調べる。
【0087】
そして、ステップS207において、衝突回避時間t_Rap0が閾値Tth_Rap0よりも大きいと判定した場合、自動運転制御ユニット26は、現在の横ジャークJ_nに基づいて操舵制御しても障害物Oとの衝突を回避することが困難であると判断して、ステップS220に進む。
【0088】
一方、ステップS207において、衝突回避時間t_Rap0が閾値Tth_Rap0以下であると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、現在の横ジャークJ_nに基づく操舵制御により障害物Oとの衝突を回避することが可能であると判断して、ステップS215に進む。
【0089】
ステップS207からステップS215に進むと、自動運転制御ユニット26は、Tth_Rap0≧t_Rap0となった直近、すなわち、TTC-α≧t_Rap0となった直近の横ジャークJ_nを選択する。
【0090】
続くステップS216において、自動運転制御ユニット26は、緊急ブレーキ制御によって自車両Mが停止するまでの時間(停止時間)t_stopを算出する。
【0091】
続くステップS217において、自動運転制御ユニット26は、緊急ブレーキ制御によって自車両Mが停止する停止時間t_stop経過時点における横位置(停止横位置)を算出する(図18参照)。すなわち、自動運転制御ユニット26は、選択した横ジャークJnに対応する目標経路(ステップS205で算出した走行軌跡)に沿って自車両Mを走行させた際の、停止時間t_stop経過時点での目標経路上における自車両Mの位置を算出する。
【0092】
そして、ステップS218に進むと、ステップS217で算出した停止位置における自車両Mが自車走行路の区画線内に存在するか否かを調べる。
【0093】
そして、ステップS218において、自車両Mが区画線内に存在すると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS219に進む。
【0094】
一方、ステップS214において、自車両Mが区画線内に存在しないと判定した場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS220に進む。
【0095】
ステップS218からステップS219に進むと、自動運転制御ユニット26は、最適横ジャークJの探索範囲を絞り込むべく、横ジャークの上限値J_uppを現在の横ジャークJ_nに更新(J_upp←J_n)した後、ステップS221に進む。
【0096】
そして、ステップS221において、自動運転制御ユニット26は、拡張した衝突回避操舵制御により制御可能な横ジャークがあると判定した後、ステップS222に進む。
【0097】
また、ステップS201或いはステップS218からステップS220に進むと、自動運転制御ユニット26は、最適横ジャークJの探索範囲を絞り込むべく、横ジャークの下限値J_lowを現在の横ジャークJ_nに更新(J_low←J_n)した後、ステップS222に進む。
【0098】
ステップS220或いはステップS221からステップS222に進むと、自動運転制御ユニット26は、演算回数nをインクリメント(n←n+1)した後、ステップS203に戻る。
【0099】
ステップS203において、演算回数nが「10」以上であると判定してステップS223に進むと、自動運転制御ユニット26は、上述のステップS221において制御可能な横ジャークありと判定されたか否かを調べる。
【0100】
そして、ステップS221において制御可能な横ジャークありとの判定がされていないと場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS223から、そのままサブルーチンを抜ける。
【0101】
一方、ステップS221において制御可能な横ジャークがあると判定されている場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS223からステップS224に進み、制御可能な横ジャークの中で最小の横ジャークJ_nを最適横ジャークJとして設定した後、サブルーチンを抜ける。
【0102】
図15のメインルーチンにおいて、ステップS116からステップS117に進むと、自動運転制御ユニット26は、ステップS116において、最適ジャークJが設定されたか否かを調べる。
【0103】
そして、ステップS117において、最適ジャークJが設定されていないと判定した場合、自動運転制御ユニット26は、そのままルーチンを抜ける。
【0104】
一方、ステップS118において、最適ジャークJが設定されたと判定した場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS118に進み、最適横ジャークJを用いて障害物Oを回避するための操舵制御を行った後、ルーチンを抜ける。
【0105】
このような実施形態によれば、上述の第1の実施形態で示した作用効果に加え、緊急操舵制御により障害物Oとの衝突回避可能な余地を拡張できるという作用効果を奏する。
【0106】
次に、本発明の第3の実施形態について、図19を参照して説明する。ここで、上述の第2の実施形態は、目標横位置に基づく障害物との操舵回避が困難である場合に仮想目標横位置に基づく障害物との操舵回避を行うものである。これに対し、本実施形態は、予め目標横位置に基づく障害物との操舵回避の可否、及び、仮想目標横位置に基づく障害物との操舵回避の可否を行う点が主として異なる。なお、上述の第1,第2の実施形態と同様の構成等については、適宜説明を省略する。
【0107】
自動運転制御ユニット26において実行される本実施形態の障害物に対する衝突回避操舵制御について、図19に示す操舵回避制御ルーチンのフローチャートに従って説明する。
【0108】
このルーチンは、設定時間毎に繰り返し実行されるものである。ルーチンがスタートすると、自動運転制御ユニット26は、先ず、ステップS301において、現在、自車両Mの走行路前方の障害物Oに対する二次ブレーキ制御が実行中であるか否かを調べる。
【0109】
そして、ステップS301において、二次ブレーキ制御の実行中でないと判定した場合、自動運転制御ユニット26は、そのままルーチンを抜ける。
【0110】
一方、ステップS301において、二次ブレーキ制御の実行中であると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS302に進み、障害物Oに対する衝突余裕時間TTCを算出し、算出した衝突余裕時間TTCが設定閾値Tth以下であるか否かを調べる。
【0111】
そして、衝突余裕時間TTCが設定閾値Tthよりも大きいと判定した場合、自動運転制御ユニット26は、障害物Oとの衝突回避を強制ブレーキ等の制動制御に委ねるべく、そのままルーチンを抜ける。
【0112】
一方、衝突余裕時間TTCが設定閾値Tth以下であると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS303に進み、目標横位置x_avoidを用いて障害物Oとの衝突回避が可能であるか否かを調べる。
【0113】
ここで、本実施形態において、自動運転制御ユニット26には、目標横位置x_avoidに基づいて障害物Oとの衝突回避が可能であるか否かの判定を行うためのマップ等が、予め実験やシミュレーション等に基づいて設定されている。このマップ等を用いることにより、自動運転制御ユニット26は、障害物Oとのラップ率Rap、及び、相対速度Vrel等に基づいて目標横位置x_avoidに基づく障害物Oとの衝突回避の可否判定を行うことが可能である。
【0114】
そして、ステップS303において、目標横位置x_avoidに基づく障害物Oとの衝突回避が可能であると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS305に進み、目標横位置x_avoidに基づく衝突回避操舵制御を行った後、ルーチンを抜ける。
【0115】
すなわち、ステップS303からステップS305に進むと、自動運転制御ユニット26は、上述の第1の実施形態で示した図2のステップS103~ステップS110の処理を行った後、ルーチンを抜ける。
【0116】
一方、ステップS303において、目標横位置x_avoidに基づく障害物Oとの衝突回避が困難であると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS304に進み、仮想目標横位置x_avoid’を用いて障害物Oとの衝突回避が可能であるか否かを調べる。
【0117】
ここで、本実施形態において、自動運転制御ユニット26には、仮想目標横位置x_avoid’に基づいて障害物Oとの衝突回避が可能であるか否かの判定を行うためのマップ等が、予め実験やシミュレーション等に基づいて設定されている。このマップ等を用いることにより、自動運転制御ユニット26は、障害物Oとのラップ率Rap、及び、相対速度Vrel等に基づいて仮想目標横位置x_avoid’に基づく障害物Oとの衝突回避の可否判定を行うことが可能である。
【0118】
そして、ステップS304において、仮想目標横位置x_avoid’に基づく障害物Oとの衝突回避が困難であると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、そのままルーチンを抜ける。
【0119】
一方、ステップS304において、仮想目標横位置x_avoid’に基づく障害物Oとの衝突回避が可能であると判定した場合、自動運転制御ユニット26は、ステップS306に進み、仮想目標横位置x_avoid’に基づく衝突回避操舵制御を行った後、ルーチンを抜ける。
【0120】
すなわち、ステップS304からステップS306に進むと、自動運転制御ユニット26は、上述の第2の実施形態で示した図15のステップS111~ステップS118の処理を行った後、ルーチンを抜ける。
【0121】
このような実施形態によれば、上述の第2の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0122】
ここで、上述の各実施形態において、地図ロケータ演算部12、後述する前方走行環境認識部21d、自動運転制御ユニット26、操舵制御部31、ブレーキ制御部32、及び、加減速制御部33は、CPU,RAM,ROM、不揮発性記憶部等を備える周知のマイクロコンピュータ、及びその周辺機器で構成されており、ROMにはCPUで実行するプログラムやデータテーブル等の固定データ等が予め記憶されている。なお、プロセッサの全部若しくは一部の機能は、論理回路あるいはアナログ回路で構成してもよく、また各種プログラムの処理を、FPGAなどの電子回路により実現するようにしてもよい。
【0123】
以上の実施の形態に記載した発明は、それらの形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記各形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得るものである。
【0124】
例えば、各形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、述べられている課題が解決でき、述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得るものである。
【符号の説明】
【0125】
1 … 運転支援装置
11 … ロケータユニット
12 … 地図ロケータ演算部
12a … 自車位置推定演算部
12b … 走行ルート設定演算部
13 … GNSS受信機
14 … 自律走行センサ
15 … ルート情報入力装置
16 … 高精度道路地図データベース
21 … カメラユニット
21a … メインカメラ
21b … サブカメラ
21d … 前方走行環境認識部
26 … 自動運転制御ユニット
31 … 操舵制御部
32 … ブレーキ制御部
33 … 加減速制御部
34 … 報知装置
M … 自車両
O … 障害物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19