(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】補強材及び補強構造
(51)【国際特許分類】
E04C 5/07 20060101AFI20241107BHJP
E04C 5/06 20060101ALI20241107BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
E04C5/07
E04C5/06
E04G23/02 D
(21)【出願番号】P 2020180191
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000164438
【氏名又は名称】九州電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594162722
【氏名又は名称】株式会社ニシコー
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 博嗣
(72)【発明者】
【氏名】山田 智規
(72)【発明者】
【氏名】出蔵 貴司
(72)【発明者】
【氏名】加納 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】長崎 道明
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-054647(JP,A)
【文献】登録実用新案第3130451(JP,U)
【文献】特開2005-199700(JP,A)
【文献】特開2007-039886(JP,A)
【文献】特開平11-287017(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0053423(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/00- 5/20
E04G 23/02
E01D 22/00
E02D 27/08
E21D 11/00-19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔を隔てて複数の第1帯体と第2帯体とを交差して格子状に形成した補強材
を用いた構造物の補強構造であって、
前記補強材が、
前記第1帯体及び第2帯体を熱処理により硬化して形成した硬質ネット部と、
前記格子状の横断方向又は縦断方向の何れか一方向に向けて連続して形成した可撓変形部とを有し、
前記硬質ネット部の間に前記可撓変形部が形成され
ると共に、当該可撓変形部において、第1帯体と当該第1帯体に交差する第2帯体とで囲まれた格子の空隙空間が形成されており、
前記補強材の可撓変形部を前記構造物の入隅部又は出隅部の屈曲形状に沿わせて付設すると共に、前記可撓変形部の両サイドに隣接して形成される硬質ネット部が前記入隅部又は出隅部を形成する2つの面にそれぞれ付設されて前記構造物の壁面を補強し、
前記可撓変形部における前記空隙空間がモルタル系固化剤で充填されて前記補強材が埋設するようにモルタル系の被覆層が形成されることを特徴とする補強
構造。
【請求項2】
請求項1に記載の補強
構造において、
前記可撓変形部が第1帯体又は第2帯体の長手方向に沿って格子目の寸法を超えない長さで形成される補強
構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の補強
構造において、
前記第1帯体及び前記第2帯体が連続繊維と被覆樹脂とを交互に積層した構造体からなる補強
構造。
【請求項4】
請求項3に記載の補強
構造において、
前記被覆樹脂が熱硬化性樹脂であり、前記硬質ネット部を形成する第1帯体及び第2帯体の被覆樹脂が熱処理されて硬化している補強
構造。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の補強
構造において、
前記
構造物がコンクリート躯
体であり、
前記第1帯体の引張強度が前記第2帯体の引張強度よりも小さく形成されており、前記第1帯体が前記コンクリート躯体の長手方向に沿って配設されると共に、前記コンクリート躯体の四隅におけるそれぞれの出隅部に前記可撓変形部を当接させて前記コンクリート躯体の側面を被覆する補強
構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリートの壁面を補強する補強材に関し、特に入隅部又は出隅部を有する構造物に適した補強材等に関する。
【背景技術】
【0002】
インフラの老朽化や耐震基準の高度化に伴い、トンネルや高架橋等の既設のコンクリート構造物を補強する技術が多数開発されている。また、近年多くの地震が発生していることから、例えばコンクリート躯体や鉄筋コンクリート等の耐震補強なども行われている。これに関連して、特許文献1ないし3に示す技術が開示されている。
【0003】
特許文献1に示す技術は、コンクリート構造となる部分に埋設される補強部材であって、引き揃えられた複数本の繊維よりなる繊維束が互いに交差して格子状をなし、それら繊維束の各繊維は樹脂材料にて結束されており、かつ、前記繊維束の交差部は、一方向に延在する繊維群と他方向に延在する繊維群とが三層以上に積層された断面形状であるものである。
【0004】
特許文献2に示す技術は、繊維材料でメッシュ状に形成された表面補強材をコンクリート構造物(二次覆工コンクリート)の表面(二次覆工コンクリートの表面)に取付けた後に、この表面補強材及びコンクリート構造物の表面を覆うモルタルあるいはコンクリートによる被覆層(モルタル層)を形成し、あるいは、繊維材料でメッシュ状に形成され樹脂材料で固められた表面補強材をコンクリート構造物の表面に取付けた後に、この表面補強材及びコンクリート構造物の表面を覆うモルタルあるいはコンクリートによる被覆層を形成したものである。
【0005】
特許文献3に係る技術は、アスファルト道路、コンクリート道路、及びその他の製品を補強する構造部材であって、この構造部材は開放構造を画成するよう相互に直角に配置された縦ストランドと横ストランドとから成るグリッドワークを具え、ストランドをその交差点で相互にロックすると共に、グリッドワークを半可撓性状態に維持するよう熱硬化性B段階樹脂をグリッドワークに含浸させ、補強すべき製品に加えた後、樹脂を加熱して完全にキュアされた複合体に変換し、これによりグリッドワークを剛強化して製品を補強するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭62-153449号公報
【文献】特開2004-300757号公報
【文献】特許第3715654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に示すような従来の格子状補強材は、例えば格子状補強材を使用してトンネルの覆工コンクリートの補強工事を行う場合、角部やハンチ部等の入隅部又は出隅部に格子状補強材を設置するには現場に合わせて予め曲げ加工を施した格子状補強材が必要となる。しかしながら、現場によりトンネル覆工コンクリートの曲げ位置や曲げ角度が一様でないため、予め曲げ加工を施した格子状補強材を個別に製造することは非常に手間が掛かるだけでなく、加工コストが嵩んで製作費用の増大を招くという課題を有する。また、可撓性がない硬い格子状補強材の場合、入隅部又は出隅部で無理やり補強材を曲折するためにコンクリート面に対して浮きが生じ、所定の引張力を発揮できない可能性があるという課題を有する。
【0008】
一方、特許文献3に示す技術は、半可撓性状態で現場作業ができるため現場の状況に合わせて臨機応変に構造部材を適用することができるが、現場で加熱等の作業を行う必要があり現場作業に手間が掛かると共に、安全性が損なわれる可能性があるという課題を有する。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、入隅部又は出隅部を有する構造物を多くの手間を必要とせずに補強することが可能な補強材及び補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る補強材は、所定の間隔を隔てて複数の第1帯体と第2帯体とを交差して格子状に形成した格子状補強材において、前記第1帯体及び第2帯体を熱処理により硬化して形成した硬質ネット部と、前記格子状の横断方向又は縦断方向の何れか一方向に向けて連続して形成した可撓変形部とを有し、前記硬質ネット部の間に前記可撓変形部が形成されているものである。
【0011】
このように、本発明に係る補強材においては、第1帯体及び第2帯体を熱処理により硬化して形成した硬質ネット部と、格子状の横断方向又は縦断方向の何れか一方向に向けて連続して形成した可撓変形部とを有し、前記硬質ネット部の間に前記可撓変形部が形成されているため、可撓変形部で硬質ネット部を折り曲げることが可能となり、入隅部又は出隅部を有する構造物であっても壁に沿って密着した状態で補強を行うことができるという効果を奏する。
【0012】
本発明に係る補強材は必要に応じて、前記可撓変形部が第1帯体又は第2帯体の長手方向に沿って格子目の寸法を超えない長さで形成されるものである。
【0013】
このように、本発明に係る格子状補強材においては、可撓変形部が第1帯体又は第2帯体の長手方向に沿って格子目の寸法を超えない長さで形成されるため、第1帯体と第2帯体との交点強度については、第1帯体及び第2帯体の硬化により必要な強度を確保すると共に、可撓変形部における折り曲げ方向の自由度を確保することができるという効果を奏する。
【0014】
本発明に係る補強材は必要に応じて、第1帯体及び第2帯体が連続繊維と被覆樹脂とを交互に積層した構造体からなるものである。
【0015】
このように、本発明に係る補強材においては、第1帯体及び第2帯体が連続繊維と被覆樹脂とを交互に積層した構造体からなるため、被覆樹脂が各連続繊維に介在し複数の連続繊維を一体化して剛性を高めることができるという効果を奏する。
【0016】
本発明に係る補強材は必要に応じて、被覆樹脂が熱硬化性樹脂であり、硬質ネット部を形成する第1帯体及び第2帯体の被覆樹脂が熱処理されて硬化しているものである。
【0017】
このように、本発明に係る補強材においては、被覆樹脂が熱硬化性樹脂であり、硬質ネット部を形成する第1帯体及び第2帯体の被覆樹脂が熱処理されて硬化しているため、第1帯体と第2帯体とを被覆樹脂で一体化して剛性を高めることができるという効果を奏する。
【0018】
本発明に係る補強材は必要に応じて、前記補強材がコンクリート躯体の補強を行うものであり、前記第1帯体の引張強度が前記第2帯体の引張強度よりも小さく形成されており、前記第1帯体が前記コンクリート躯体の長手方向に沿って配設されると共に、前記コンクリート躯体の四隅におけるそれぞれの出隅部に前記可撓変形部を当接させて前記コンクリート躯体の側面を被覆するものである。
【0019】
このように、本発明に係る補強材においては、コンクリート躯体の補強を行うものであり、前記第1帯体の引張強度が前記第2帯体の引張強度よりも小さく形成されており、前記第1帯体が前記コンクリート躯体の長手方向に沿って配設されると共に、前記コンクリート躯体の四隅におけるそれぞれの出隅部に前記可撓変形部を当接させて前記コンクリート躯体の側面を被覆するため、耐震構造で特に重要となる横方向の揺れに対して第2帯体の十分な引張強度でコンクリート躯体の帯筋を強固に補強することができるという効果を奏する。
【0020】
本発明に係る補強構造は、複数の第1帯体と複数の第2帯筋とを所定の間隔を隔てて交差して格子状に形成した補強材を使用した入隅部又は出隅部を有する構造物の補強構造であって、前記請求項1ないし5のいずれかに記載の補強材の可撓変形部を前記構造物の入隅部又は出隅部の屈曲形状に沿わせて付設すると共に、前記可撓変形部の両サイドに隣接して形成される硬質ネット部が前記入隅部又は出隅部を形成する2つの面にそれぞれ付設されて前記構造物の壁面を補強するものである。
【0021】
このように、本発明に係る補強構造においては、複数の第1帯体と複数の第2帯体とを所定の間隔を隔てて交差して格子状に形成した補強材を使用した入隅部又は出隅部を有する構造物の補強構造であって、前記請求項1ないし5のいずれかに記載の補強材の可撓変形部を前記構造物の入隅部又は出隅部の屈曲形状に沿わせて付設すると共に、前記可撓変形部の両サイドに隣接して形成される硬質ネット部が前記入隅部又は出隅部を形成する2つの面にそれぞれ付設されて前記構造物の壁面を補強するため、補強材に予め屈曲加工を施さずに、入隅部または出隅部の屈曲に追従させて補強材を設置することができるという効果を奏する。
【0022】
本発明に係る補強構造は必要に応じて、前記構造物の壁面にモルタル系の被覆層を形成し、前記被覆層に前記補強材を埋設しているものである。
【0023】
このように、本発明に係る補強構造においては、前記構造物の壁面にモルタル系の被覆層を形成し、前記被覆層に前記補強材を埋設しているため、可撓変形部の強度を補って構造物を補強することができるという効果を奏する。
【0024】
本発明に係る補強構造は必要に応じて、前記構造物がコンクリート躯体であり、前記第1帯体の引張強度が前記第2帯体の引張強度よりも小さく形成され、前記第1帯体が前記コンクリート躯体の長手方向に沿って配設されると共に、前記コンクリート躯体の四隅におけるそれぞれの出隅部に前記可撓変形部を当接させて前記コンクリート躯体の側面が前記補強材で被覆されているものである。
【0025】
このように、本発明に係る補強構造においては、構造物がコンクリート躯体であり、前記第1帯体の引張強度が前記第2帯体の引張強度よりも小さく形成され、前記第1帯体が前記コンクリート躯体の長手方向に沿って配設されると共に、前記コンクリート躯体の四隅におけるそれぞれの出隅部に前記可撓変形部を当接させて前記コンクリート躯体の側面が前記補強材で被覆されているため、耐震構造で特に重要となる横方向の揺れに対して第2帯体の十分な引張強度でコンクリート躯体の帯筋を強固に補強することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1の実施形態に係る補強材の全体斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に係る補強材の第1帯体及び第2帯体の構造を示す拡大図である。
【
図3】第1の実施形態に係る補強材を配設した場合の状態を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る補強材で入隅部又は出隅部を有する構造物を補強した場合の補強構造の断面図である。
【
図5】第1の実施形態に係る補強材を用いた補強構造の施工方法を示すフローチャートである。
【
図6】一般的な鉄筋コンクリートの柱の構造を示す図である。
【
図7】第2の実施形態に係る補強材で鉄筋コンクリートの柱を補強した場合の補強構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る補強材及び補強構造について、
図1ないし
図5を用いて説明する。本実施形態に係る補強材は、所定の間隔を隔てて複数の第1帯体と第2帯体とを交差して格子状に形成した補強材であり、入隅部又は出隅部を有する構造物に対して当該入隅部や出隅部の形状に合わせて展着できるように可撓変形部を備える構造となるものである。以下、構造物の一例としてトンネルに補強材を付設する場合について説明するが、対象となる構造物はトンネルに限らず橋梁、一般構造物の柱、梁などに適用することが可能である。
【0028】
図1は、本実施形態に係る補強材の全体斜視図、
図2は、本実施形態に係る補強材の第1帯体及び第2帯体の交点部分の拡大図である。本実施形態に係る補強材1は、複数に束ねた繊維に被覆樹脂12を含侵させた第1連続繊維11を複数層に積層して形成される第1帯体10と、同様に複数に束ねた繊維に被覆樹脂22を含侵させた第2連続繊維21を複数層に積層して形成される第2帯体10とを備え、それぞれ並列配置された複数の第1帯体10と第2帯体20とが直交して格子状に形成されたコンクリート構造物の補修用又は補強用のFRP製格子筋である。
【0029】
第1連続繊維11と第2連続繊維21とは、それぞれの交点において交差積層(クロスラミネート)することで高い交点強度を保って一体的に連結されている。被覆樹脂12(22)は、第1連続繊維11(第2連続繊維22)を束ねるためのバインダーであり、樹脂化することで連続繊維を一体化する。
【0030】
なお、ここでは被覆樹脂12(22)として、ビニルエステル樹脂を用いるが、これに限らず例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂等のその他の熱硬化性樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂であってもよい。
【0031】
また、第1連続繊維11及び第2連続繊維21は、軸剛性の高い高性能連続繊維であり、例えばカーボン繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、PBO繊維等を使用してもよい。
【0032】
さらに、例えば、第1連続繊維11及び第2連続繊維21がカーボン繊維である場合は被覆樹脂12としてビニルエステル樹脂を組み合わせるといったように、連続繊維に応じて適正な被覆樹脂12を適宜選択することが望ましい。
【0033】
図1に示すように、本実施形態に係る補強材1は、被覆樹脂12を樹脂化して硬く形成された硬質ネット部30と、硬質ネット部30間に形成され、格子状の第1帯体10又は第2帯体20の一部であって、各帯体の長手方向に直交する方向に連続して形成される可撓変形部40とを有する。
図1においては、可撓変形部40が各第1帯体10の一部に形成されており、それらが第1帯体10の長手方向に対して直交する方向に連続して形成されている。
【0034】
硬質ネット部30は被覆樹脂12を熱硬化させた硬質樹脂製のネット材であり、その製造方法は従来の製法と同じである。例えば、被覆樹脂12(22)を含侵させた複数層の第1連続繊維11(第2連続繊維21)を積層して複数の第1帯体10と第2帯体20とを有する格子状体を形成した後に、この格子状体の上下面を所定の温度で加熱しながら加圧成形することで製作する。硬質ネット部30における被覆樹脂12(22)は、第1連続繊維11(第2連続繊維21)を固めて一体化させるマトリックス樹脂として機能する。
【0035】
硬質ネット部30を形成する第1帯体10及び第2帯体20は、被覆樹脂12(22)の熱硬化により剛性が高くなっている。また、第1帯体10及び第2帯体20を構成する第1連続繊維11及び第2連続繊維21の積層数等を可変することで硬質ネット部30の剛性を調整することが可能である。
【0036】
硬質ネット部30を形成する第1帯体10と第2帯体20との交点において、第1連続連続繊維11及び第2連続繊維21が被覆樹脂12及び22を介して交差積層(クロスラミネート)を形成しており、これにより高い交点強度を確保しつつ構造上の一体性を損なうことなく連結している。
【0037】
可撓変形部40は、硬質ネット部30に比べて低温での加熱、短時間での加熱、又は加熱を行わないことで完全に樹脂化して固まることがなく、硬質ネット部30より可撓性が格段に高い状態に形成されている。そのため、湾曲、曲折、捻り等の変形を第1帯体10の第1連続繊維11が伸長できる範囲内で自由に行うことが可能となっている。
【0038】
この可撓変形部40は、第1帯体10又は第2帯体20の一部に当該第1帯体10又は第2帯体20の長手方向に沿って形成されており、その全長が第1帯体10及び第2帯体20で形成される格子目の寸法Pより小さく形成されている。こうすることで、例えば
図3(
図3(A)は対象物に対して可撓変形部40の中心で真っすぐに曲折して配設された場合、
図3(B)は対象物の構造に応じて寸法Pの範囲で斜めに曲折して配設された場合を示す)に示すように、格子目の寸法Pの範囲内で、可撓変形部40における帯体に対する折り曲げ線の角度に自由度を持たせることが可能となり、角度や曲率が一様でないことが原因で生じるような施工誤差を吸収することが可能となる。
【0039】
仮に可撓変形部40の全長が格子目の寸法Pを超えた長さになると、第1帯体10と第2帯体20との交点強度を確保できず、また一方で可撓変形部40の全長が極端に短い点状又は線状に形成されると、可撓変形部40における折り曲げ方向の自由度が制限されてしまう。
【0040】
また、可撓変形部40は、1つの補強材1において全ての第1帯体10又は第2帯体20に形成される。つまり、全ての第1帯体10又は第2帯体20に連続的に形成されることで補強材1全体を所定方向に曲折したり湾曲させたりすることができる。
【0041】
なお、可撓変形部40を形成する場合は、硬質ネット部30に比べて可撓変形部40の範囲に加熱温度が直接的に影響しない状態、すなわち与える熱量を少なくした状態で形成されることが望ましく、例えば加熱手段と遮温手段や冷却手段とを組み合わせることで実現することができる。また、可撓変形部40において使用する被覆樹脂12及び14の量を減らすことで硬質化させないようにしてもよい。
【0042】
次に、上記補強材1を用いたコンクリート構造体の補強構造について説明する。
図4は、本実施形態に係る補強材で入隅部又は出隅部を有する構造物を補強した場合の補強構造の断面図である。
図4(A)が入隅部の補強構造を示し、
図4(B)が出隅部の補強構造を示している。
【0043】
図4(A),(B)において、補強対象となる2つの隣接するコンクリート壁面(第1壁面41、第2壁面42)の間の入隅部及び出隅部にはハンチ43が形成されている。補強材1は上述したように、可撓変形部40を介して隣り合う樹脂化した高剛性の硬質ネット部30を所定の方向に折り曲げ可能な構造になっている。そのため、可撓変形部40をハンチ43を挟んで第1壁面41から第2壁面42に跨って配置させることで、第1壁面41及び第2壁面42を高剛性の硬質ネット部30で補強することができると共に、可撓変形部40を変形させて第1壁面41、ハンチ43及び第2壁面42の表面に補強材1を密接させて入隅部及び出隅部の形状に合わせた適正な補強を行うことができる。
【0044】
コンクリート構造体の表面に付設された補強材1は、アンカーピンなどにより固定されて表面に被覆層44が形成される。この被覆層44は、ポリマーセメントモルタル等を吹き付け又は塗布することで所定の層厚に形成される。
【0045】
なお、被覆層44は、ポリマーセメントモルタルに限らず公知のモルタル系固化材を用いるようにしてもよい。補強材1を構成する可撓変形部40は硬質ネット部30と組織的に連続性を有しているため、可撓変形部40の曲げ剛性が小さくても強度的な弱点にならず、補強材としての十分な機能を有している。
【0046】
次に、
図4に示した補強構造を構築する施工方法について説明する。
図5は、本実施形態に係る補強材を用いた補強構造の施工方法を示すフローチャートである。まず、補強箇所となる第1壁面41、第2壁面42及びハンチ43上の油脂、汚れ、脆弱層などの除去を高圧洗浄機等を用いて行う(S1)。洗浄された第1壁面41、第2壁面42及びハンチ43上に補強材1を配置する(S2)。このとき、第1壁面41及び第2壁面42にはそれぞれ硬質ネット部30が対応するように配置され、第1壁面41と第2壁面42との間にハンチ43が形成されている場合は、可撓変形部40がこのハンチ43に当接されるように配置される。第1壁面41、第2壁面42及びハンチ43上におけるアンカーを打ち込む位置に複数のアンカー孔を穿設する(S3)。穿設したアンカー孔に対応する位置の第1帯体10及び/又は第2帯体20にアンカーピンの圧部材を当接させた状態で、アンカーピンをアンカー孔内に挿入する(S4)。アンカーピンの芯棒頭部を打撃して先端部を拡張し、壁面にアンカーピンを固定する(S5)。同様の作業を、補強材1上の全てのアンカーピンに対して行い、補強材1を壁面に固定する(S6)。固定した補強材1の隣に次の補強材1を配置し、S4~S6の作業を繰り返して補強対象となる第1壁面41、第2壁面42及びハンチ43を補強材1で覆ってゆく(S7)。そして、補強材1の上からポリマーセメントモルタルを吹き付けて被覆層44を形成する(S8)。以上の工程の繰り返しにより、補強対象となるコンクリート構造体に補強構造を構築する。
【0047】
このように、本実施形態に係る補強材1においては、第1帯体10及び第2帯体20を熱処理により硬化して形成した硬質ネット部30と、格子状の横断方向又は縦断方向の何れか一方向に向けて連続して形成した可撓変形部40とを有し、硬質ネット部30の間に可撓変形部40が形成されているため、可撓変形部40で硬質ネット部30を自在に折り曲げることが可能となり、入隅部又は出隅部を有する構造物であっても壁に沿って密着した状態で補強を行うことができる。
【0048】
また、可撓変形部40が第1帯体10又は第2帯体20の長手方向に沿って格子目の寸法Pを超えない長さで形成されることで、第1帯体10と第2帯体20との交点強度については、第1帯体10及び第2帯体20の硬化により必要な強度を確保すると共に、可撓変形部40における折り曲げ方向の自由度を確保することができる。
【0049】
さらに、第1帯体10及び第2帯体20が第1連続繊維11(第2連続繊維21)と被覆樹脂12(22)とを交互に積層した構造体からなることで、被覆樹脂が各連続繊維に介在し複数の連続繊維を一体化して剛性を高めることができる。
【0050】
さらにまた、被覆樹脂12(22)が熱硬化性樹脂であり、硬質ネット部30に位置する第1帯体10及び第2帯体20の被覆樹脂12(22)が熱処理されて硬化しているため、第1帯体10と第2帯体20とを被覆樹脂12(22)で一体化して剛性を高めることができる。
【0051】
また、本実施形態に係る補強構造においては、複数の第1帯体10と複数の第2帯体20とを所定の間隔を隔てて交差して格子状に形成した補強材を使用した入隅部又は出隅部を有する構造物の補強構造であって、補強材1の可撓変形部40を構造物の入隅部又は出隅部の屈曲形状に沿わせて付設すると共に、可撓変形部40の両サイドに隣接して形成される硬質ネット部30が入隅部又は出隅部を形成する2つの面にそれぞれ付設されて構造物の壁面を補強するため、補強材に予め屈曲加工を施さずに、入隅部または出隅部の屈曲に追従させて補強材を設置することができる。
【0052】
さらに、構造物の壁面にモルタル系の被覆層を形成し、被覆層44に補強材1を埋設しているため、可撓変形部40の強度を補って構造物を補強することができる。
【0053】
なお、本実施形態においては、適用可能なコンクリート構造物がトンネルである場合について説明したが、その他に、例えば断面形が馬蹄形や矩形等を呈する発電施設の導水路や放水路等の水路トンネルの補強や補修に適用することが可能である。さらに橋梁、一般構造物の柱や梁等の各種コンクリート構造物への適用が可能である。
【0054】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る補強材及び補強構造について、
図6及び
図7を用いて説明する。本実施形態においては、一般構造物の柱として広く普及している鉄筋コンクリートに補強材1を適用する場合について説明する。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0055】
まず、補強材1の使用対象となる鉄筋コンクリートの柱について説明する。
図6は、一般的な鉄筋コンクリートの構造を示す図である。
図6に示すように、鉄筋コンクリートの柱60は、高さ方向に数本の第1鉄筋61が配置され、これらの鉄筋を束ねるように所定間隔で水平方向の第2鉄筋62が巻回され、それらをコンクリート63で埋設して形成されている。旧設計における構造物(例えば、高速道路の下部工)は地震が発生した場合に垂直方向の力に対しては強く水平方向の力に対して弱い。すなわち、水平方向の第2鉄筋62の配置間隔が、例えば地震などに対する柱60の耐震性能に大きく影響することとなる。
【0056】
このような鉄筋コンクリートの柱60に対しては、補強材1の適用が非常に有効的である。
図7は、鉄筋コンクリートの柱60を補強材1で補強した場合の補強構造を示す図である。
図7において、柱60の四隅の各出隅部に補強材1の可撓変形部40が当接するように配設されて可撓変形部40で曲折されることで、柱60の外壁に密着して補強効果を高めることが可能となる。また、上述したように、旧設計における高速道路の下部工等の構造物は、地震が発生した場合に垂直方向の力に対しては強く水平方向の力に対して弱いことから、柱60の水平方向に沿って配置される第2帯体20に比べて柱60の垂直方向に沿って配置される第1帯体10の軸剛性を下げてもよい。具体的には、例えば柱60の水平方向に沿って配置される第2帯体20をカーボン繊維とし、柱60の垂直方向に沿って配置される第1帯体10をガラス繊維としてもよい。こうすることで、柱60の垂直方向の補強に対して過剰性能になることなく適正性能にしつつ、補強材1の製造に掛かるコストを下げることができる。最表面にはモルタル系の被覆層44を形成し補強材1を埋設することで、可撓変形部40の強度を補って柱60を補強する。
【0057】
このように、本実施形態に係る補強材においては、鉄筋コンクリートの柱に対して補強を行う場合に、第1帯体10の引張強度が第2帯体20の引張強度よりも小さく形成されており、第1帯体10が鉄筋コンクリートの長手方向に沿って配設されると共に、鉄筋コンクリートの四隅におけるそれぞれの出隅部に可撓変形部40を当接させて鉄筋コンクリートの側面を被覆するため、耐震構造で特に重要となる横方向の揺れに対して第2帯体20の十分な引張強度で鉄筋コンクリートの帯筋を強固に補強することができる。
【0058】
また、鉄筋コンクリートの柱の垂直方向に対しての補強はそれほど大きな引張強度を必要としないため、必要最小限の材料を用いてコストを節約した補強材1を実現することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 補強材
10 第1帯体
11 第1連続繊維
12 固化樹脂
20 第2帯体
21 第2連続繊維
22 固化樹脂
30 硬質ネット部
40 可撓変形部
41 第1壁面
42 第2壁面
43 ハンチ
44 被覆層
60 柱
61 第1鉄筋
62 第2鉄筋
63 コンクリート