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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】換気システム
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/70 20060101AFI20241107BHJP
   F24F 7/007 20060101ALI20241107BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
E04B1/70 A
F24F7/007 B
F24F7/06 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020198343
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086382
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 貴士
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-316988(JP,A)
【文献】特開2006-077540(JP,A)
【文献】特開2015-087039(JP,A)
【文献】特開2019-203659(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0040412(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/70
E04B 1/76
F24F 7/00 - 7/007
F24F 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数階に亘る竪シャフトを有する建物に設けられ、
屋外空気を屋内へ導入しながら屋内空気を屋外へ排出する換気手段と、
前記換気手段を制御して前記竪シャフトにおけるドラフト現象を抑制するドラフト現象抑制制御を実行可能な制御手段と、を備えた換気システムであって、
前記換気手段が、前記建物の各階に設置されて、屋外空気の屋内への導入風量である給気風量及び屋内空気の屋外への排出流量である排気風量を調整可能に構成されており、
前記制御手段が、前記ドラフト現象抑制制御を実行するにあたり、前記建物の上層階側に設置された前記換気手段である上層階側換気手段に対しては排気風量を給気風量よりも小さく設定する上層階側パス換気設定処理を実行すると共に、前記建物の下層階側に設置された前記換気手段である下層階側換気手段に対しては給気風量を排気風量よりも小さく設定する下層階側パス換気設定処理を実行し、
屋内空気中の二酸化炭素濃度が所定の許容二酸化炭素濃度超となる二酸化炭素高濃度状態であるか否かを判定する二酸化炭素濃度判定手段を備え、
前記制御手段が、前記ドラフト現象抑制制御を実行するにあたり、前記二酸化炭素濃度判定手段で前記二酸化炭素高濃度状態であると判定された場合には、前記上層階側換気手段の前記排気風量を前記給気風量以下の範囲内で増加させると共に、前記下層階側換気手段の前記給気風量を前記排気風量以下の範囲内で増加させるパス換気抑制処理を実行する換気システム。
【請求項2】
複数階に亘る竪シャフトを有する建物に設けられ、
屋外空気を屋内へ導入しながら屋内空気を屋外へ排出する換気手段と、
前記換気手段を制御して前記竪シャフトにおけるドラフト現象を抑制するドラフト現象抑制制御を実行可能な制御手段と、を備えた換気システムであって、
前記換気手段が、前記建物の各階に設置されて、屋外空気の屋内への導入風量である給気風量及び屋内空気の屋外への排出流量である排気風量を調整可能に構成されており、
前記制御手段が、前記ドラフト現象抑制制御を実行するにあたり、前記建物の上層階側に設置された前記換気手段である上層階側換気手段に対しては排気風量を給気風量よりも小さく設定する上層階側パス換気設定処理を実行すると共に、前記建物の下層階側に設置された前記換気手段である下層階側換気手段に対しては給気風量を排気風量よりも小さく設定する下層階側パス換気設定処理を実行し、
前記制御手段が、前記ドラフト現象抑制制御を実行するにあたり、前記建物の上層階と下層階との間の非実行階側に設置された前記換気手段である非実行階側換気手段に対しては前記上層階側パス換気設定処理及び前記下層側パス換気設定処理を実行せずに、当該非実行階側換気手段の換気風量を前記ドラフト現象抑制制御の非実行時における通常換気風量に維持する換気システム。
【請求項3】
前記上層階側パス換気設定処理が、前記上層階側換気手段の給気風量を前記ドラフト現象抑制制御の非実行時における通常換気風量に維持しながら、前記上層階側換気手段の排気風量を当該上層階側換気手段の設置階に対して必要換気風量を基準に定められた最小換気風量に低下させる処理である請求項1又は2に記載の換気システム。
【請求項4】
前記制御手段が、前記竪シャフトにおけるドラフト現象の発生の有無を自動判定して、当該ドラフト現象発生の可能性がある場合にのみ前記ドラフト現象抑制制御を実行する請求項1~3の何れか1項に記載の換気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数階に亘る竪シャフトを有する建物に設けられる換気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数階に亘る吹抜空間やエレベータシャフトなどの竪シャフトを有する建物では、当該竪シャフトにおいて屋内外の温度差や上下階の圧力差により上昇流が生じる所謂ドラフト現象が発生する場合がある。特に屋外空気(外気)の気温に対して屋内空気の気温が高くなる冬場ではドラフト現象の発生が顕著になる。このようなドラフト現象が発生すると、エレベータやエントランスの扉の開閉障害を引き起こしたり不快な風切り音が発生したりすることに加えて、気圧が低下する下層階側への屋外空気の侵入による空調負荷の増大や、下層階側の臭気の上層階側への拡散などが問題となる。
従来、建物内の竪シャフトでのドラフト現象の発生を抑制するための換気システムとして、屋外空気を竪シャフトの頂部へ導入するものが知られている(例えば特許文献1を参照)。この特許文献1記載の換気システムでは、冬季において竪シャフトの頂部に比較的低温の屋外空気を導入し、その導入した低温の屋外空気が竪シャフトを降下することで、ドラフト現象に起因する竪シャフトの下層階側の圧力低下を抑制して、当該下層階側での外気侵入等を防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-077540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の換気システムでは、竪シャフトの頂部に導入された屋外空気の温度が当該竪シャフトの屋内空気と比べて十分に低い状態でなければ、その導入した屋外空気の下降が不十分となるために、ドラフト現象の抑制効果が期待できない。また、竪シャフトの頂部への屋外空気の導入量を増加させれば、竪シャフト全体の内圧が上昇して下層階側での外気侵入を防止することができるが、その場合には多くの屋外空気の導入による空調負荷の増大等が問題となる。
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、複数階に亘る吹抜空間やエレベータシャフトなどの竪シャフトを有する建物に設けられた換気システムにおいて、建物全体での屋外空気の導入量の増加を抑制しながら竪シャフトでのドラフト現象の発生を確実に抑制する技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、複数階に亘る竪シャフトを有する建物に設けられ、
屋外空気を屋内へ導入しながら屋内空気を屋外へ排出する換気手段と、
前記換気手段を制御して前記竪シャフトにおけるドラフト現象を抑制するドラフト現象抑制制御を実行可能な制御手段と、を備えた換気システムであって、
前記換気手段が、前記建物の各階に設置されて、屋外空気の屋内への導入風量である給気風量及び屋内空気の屋外への排出流量である排気風量を調整可能に構成されており、
前記制御手段が、前記ドラフト現象抑制制御を実行するにあたり、前記建物の上層階側に設置された前記換気手段である上層階側換気手段に対しては排気風量を給気風量よりも小さく設定する上層階側パス換気設定処理を実行すると共に、前記建物の下層階側に設置された前記換気手段である下層階側換気手段に対しては給気風量を排気風量よりも小さく設定する下層階側パス換気設定処理を実行し、
屋内空気中の二酸化炭素濃度が所定の許容二酸化炭素濃度超となる二酸化炭素高濃度状態であるか否かを判定する二酸化炭素濃度判定手段を備え、
前記制御手段が、前記ドラフト現象抑制制御を実行するにあたり、前記二酸化炭素濃度判定手段で前記二酸化炭素高濃度状態であると判定された場合には、前記上層階側換気手段の前記排気風量を前記給気風量以下の範囲内で増加させると共に、前記下層階側換気手段の前記給気風量を前記排気風量以下の範囲内で増加させるパス換気抑制処理を実行する点にある。
【0006】
本構成によれば、建物の各階に上記換気手段が設けられているので、当該各階において、屋外空気の屋内への導入風量を給気風量として調整可能、且つ、屋内空気の屋外への排出流量を排気風量として調整可能となる。そして、上記制御手段により上記ドラフト現象抑制制御を実行することにより、上層階側では上層階側換気手段に対して排気風量を給気風量よりも小さく設定する上記上層階側パス換気設定処理が実行されるので給気風量に対して排気風量が不足する状態となり、一方、下層階側では下層階側換気手段に対して給気風量を排気風量よりも小さく設定する上記下層階側パス換気設定処理が実行されるので排気風量に対して給気風量が不足する状態となる。即ち、給気風量に対して排気風量が不足する状態である上層階側では、導入された屋外空気のうち同階で屋外へ排出されない余剰の空気が竪シャフトに流入する状態となり、一方、排気風量に対して給気風量が不足する状態である下層階側では、排出される屋内空気のうち同階で屋外から導入されない不足分の空気が竪シャフトから流入する状態となる。よって、建物全体での屋外空気の導入量の増加を抑制しながら、竪シャフトに下降流を発生させて上層階側から下層階側へ空気をパスする形態で換気(本願においてこのような換気を「パス換気」と呼ぶ場合がある。)が行われることになって、竪シャフトに上昇流が生じるドラフト現象の発生を確実に抑制することができる。
従って、本発明により、複数階に亘る吹抜空間やエレベータシャフトなどの竪シャフトを有する建物において、建物全体での屋外空気の導入量の増加を抑制しながら竪シャフトでのドラフト現象の発生を確実に抑制する技術を提供することができる。
更に、本構成によれば、制御手段が上記ドラフト現象抑制制御を実行するにあたり、二酸化炭素濃度判定手段により二酸化炭素高濃度状態であると判定された場合には、上記パス換気抑制処理が実行されて、上層階側の各階において一旦給気風量よりも小さく設定された排気風量が給気風量以下の範囲内で増加されると共に、下層階側の各階において一旦排気風量よりも小さく設定された給気風量が排気風量以下の範囲内で増加される。このことで、竪シャフトに下降流を発生させて上層階側から下層階側へ空気をパスするパス換気が抑制されて、下層階に対する直接的な屋外空気の導入風量が増加するので、上記パス換気に起因して特に下層階側の各階で発生しやすい二酸化炭素濃度の過剰な上昇を抑制することができる。
本発明の第2特徴構成は、複数階に亘る竪シャフトを有する建物に設けられ、
屋外空気を屋内へ導入しながら屋内空気を屋外へ排出する換気手段と、
前記換気手段を制御して前記竪シャフトにおけるドラフト現象を抑制するドラフト現象抑制制御を実行可能な制御手段と、を備えた換気システムであって、
前記換気手段が、前記建物の各階に設置されて、屋外空気の屋内への導入風量である給気風量及び屋内空気の屋外への排出流量である排気風量を調整可能に構成されており、
前記制御手段が、前記ドラフト現象抑制制御を実行するにあたり、前記建物の上層階側に設置された前記換気手段である上層階側換気手段に対しては排気風量を給気風量よりも小さく設定する上層階側パス換気設定処理を実行すると共に、前記建物の下層階側に設置された前記換気手段である下層階側換気手段に対しては給気風量を排気風量よりも小さく設定する下層階側パス換気設定処理を実行し、
前記制御手段が、前記ドラフト現象抑制制御を実行するにあたり、前記建物の上層階と下層階との間の非実行階側に設置された前記換気手段である非実行階側換気手段に対しては前記上層階側パス換気設定処理及び前記下層側パス換気設定処理を実行せずに、当該非実行階側換気手段の換気風量を前記ドラフト現象抑制制御の非実行時における通常換気風量に維持する点にある。
【0007】
本発明は、前記換気手段が、給気風量を調整可能な給気ファンと、排気風量を調整可能な排気ファンとで構成されてもよい
【0008】
本構成によれば、建物の各階に換気手段を構成する給気ファンを設けることで、屋外空気を所定の給気風量で確実に屋内に導入することができる。更に、建物の各階に換気手段を構成する排気ファンを設けることで、屋内空気を所定の排気風量で確実に屋外へ排出することができる。よって、制御手段が上記ドラフト現象抑制制御を実行するにあたり上記上層階側パス換気設定処理及び上記下層階側パス換気設定処理を実行することにより、竪シャフトに下降流を発生させて上層階側から下層階側へ空気をパスするパス換気を確実に行うことができる。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記上層階側パス換気設定処理が、前記上層階側換気手段の給気風量を前記ドラフト現象抑制制御の非実行時における通常換気風量に維持しながら、前記上層階側換気手段の排気風量を当該上層階側換気手段の設置階に対して必要換気風量を基準に定められた最小換気風量に低下させる処理である点にある。
【0010】
本構成によれば、上層階側の各階において、ドラフト現象抑制制御において当該上層階側換気手段に対して上記上層階側パス換気設定処理を実行して排気風量を給気風量よりも小さく設定するにあたり、屋外空気の屋内への給気風量を上記通常換気風量に維持しながら、屋内空気の屋外への排気風量を当該通常換気風量よりも低下させながら例えばトイレの必要換気量などを基準に定められた最小換気風量に維持して、上記上層階側パス換気設定処理の実行による換気不足を抑制することができる。
【0011】
本発明の第4特徴構成は、前記制御手段が、前記竪シャフトにおけるドラフト現象の発生の有無を自動判定して、当該ドラフト現象発生の可能性がある場合にのみ前記ドラフト現象抑制制御を実行する点にある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】建物に設置した換気システムの概略構成図
図2】換気システムの制御手段によって実行される制御フロー図
図3】上層階での空気の流れ状態を説明する図
図4】下層階での空気の流れ状態を説明する図
図5】非実行階での空気の流れ状態を説明する図
図6】実施例における各階の給気風量及び換気風量の設定例並びに下降流風量の状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る換気システムの実施形態について図面に基づいて説明する。
図1に示す換気システムは、複数階に亘る吹抜空間やエレベータシャフトなどの竪シャフト10を有する建物1において、各階に設置された換気手段3,4と、当該換気手段3,4の運転を制御する制御装置50等を備えて構成されている。
【0015】
換気手段3,4は、各階において、空気の流れ方向上流側の外壁部に設置された少なくとも1つの給気ファン3と、空気の流れ方向下流側の外壁部に設置された少なくとも1つの排気ファン4とで構成されている。尚、各階の給気ファン3及び排気ファン4の設置台数は、適宜設定することができる。
給気ファン3は、屋外の空気である屋外空気を建物1内(屋内)へ導入すると共に、制御装置50の運転制御により屋外空気の建物1内への導入風量を給気風量Fiとして調整可能に構成されている。
排気ファン4は、建物1内の空気である屋内空気を屋外へ排出すると共に、制御装置50の運転制御により屋内空気の屋外への排出流量を排気風量Foとして調整可能に構成されている。
そして、制御装置50は、詳細については後述するが、各階の換気手段3,4を制御して、竪シャフト10において屋内外の温度差や上下階の圧力差により上昇流が生じるドラフト現象を抑制するドラフト現象抑制制御を実行可能な制御手段51として機能する。
【0016】
排気ファン4には、屋外へ排出される前の屋内空気中の二酸化炭素濃度を測定する二酸化炭素濃度センサ5が設けられており、制御装置50は、各階に設置された二酸化炭素濃度センサ5の測定結果に基づいて各階における屋内空気中の二酸化炭素濃度を把握することができる。
そして、制御手段51は、詳細については後述するが、各階において、屋内空気中の二酸化炭素濃度が、基準等で定められた所定の許容二酸化炭素濃度超となる二酸化炭素高濃度状態であるか否かを判定する二酸化炭素濃度判定手段52として機能する。
【0017】
制御手段51は、建物1全体での屋外空気の導入量の増加を抑制しながら竪シャフト10でのドラフト現象の発生を確実に抑制するための図2に示すような制御フローを実行するように構成されている。
以下、制御手段51により実行される制御フローの詳細について説明を加える。
尚、本実施形態において、建物1の各階は、後述する上層階側パス換気設定処理の実行対象となる上層階側換気手段3u,4uが設置された上層階2uと、後述する下層側パス換気設定処理の実行対象となる下層階側換気手段3d,4dが設置され上記上層階2uよりも下層側に位置する下層階2dと、これら上層階側パス換気設定処理及び下層側パス換気設定処理が行われない非実行階側換気手段3n,4nが設置された非実行階2nとからなる。また、上層階2u、下層階2d、非実行階2nは、それぞれ1階層のみに限らず、複数の階層を含むこともできる。また、図1では、最下層階を下層階2dとし、最上層階を上層階2uとしているが、それに限らず、下層階2dに対して上層階2uが上方に位置するものであればよい。
【0018】
図2に示すように、制御手段51により実行される制御フローでは、ドラフト現象抑制制御を実行するか否かが切り替えられる(ステップ#1)。このドラフト現象抑制制御を実行するか否かの切り替え(ステップ#1)は、利用者による切替操作に基づいて手動で行うことができるが、例えば、竪シャフト10におけるドラフト現象(上昇流)の発生の有無を自動判定して、ドラフト現象発生の可能性がある場合にのみドラフト現象抑制制御を実行するように構成することもできる。また、ドラフト現象の発生の有無の自動判定は、例えば、屋内外の圧力差等を監視して、屋内の気圧が屋外よりも低下して屋外空気が屋内へ侵入する可能性がある場合にドラフト現象発生の可能性があると判定する形態で実行することができる。
尚、本実施形態では、ドラフト現象抑制制御を実行するか否かを切り替えるように構成しているが、ドラフト現象抑制制御を常時実行するものとして構成しても構わない。
そして、ドラフト現象抑制制御の非実行時(ステップ#1のno)に実行される通常換気制御では、各階において、給気ファン3による給気風量Fiと排気ファン4による排気風量Foとが同じ通常換気風量Faに設定される(ステップ#10)。尚、通常換気風量Faは、通常時の換気風量として階毎に設定されている。
【0019】
一方、ドラフト現象抑制制御の実行時(ステップ#1のyes)では、各階を順次制御対象階に設定しながら、当該制御対象階が、上層階2uである(ステップ#3)か、下層階2dである(ステップ#6)か、非実行階2nである(ステップ#9)かが判定される(ステップ#2)。
【0020】
図2に示すように、制御対象階が上層階2uである場合(ステップ#3)には、制御対象階である上層階2uに設置された上層階側換気手段3u,4uに対して所定の上層階側パス換気設定処理(ステップ#4)が実行される。
即ち、上層階側パス換気設定処理(ステップ#4)では、制御対象階である上層階2uにおいて、上層階側排気ファン4uによる排気風量Fo(u)が、上層階側給気ファン3uによる給気風量Fi(u)よりも小さく設定される。すると、図3にも示すように、上層階側パス換気設定処理(ステップ#4)が実行される上層階2uでは、給気風量Fi(u)に対して排気風量Fo(u)が不足する状態となることで、屋外から上層階2u内へ導入された空気のうち同階で屋外へ排出されない余剰の空気が下降流DFとして竪シャフト10に流入する状態となる。
【0021】
更に、この上層階側パス換気設定処理(ステップ#4)では、上層階側給気ファン3uによる給気風量Fi(u)が通常換気風量Fa(u)に維持されながら、上層階側排気ファン4uによる排気風量Fo(u)が、当該上層階側排気ファン4uの設置階において例えばトイレの必要換気量などを基準に定められた最小換気風量Fmin(u)に低下される。このことで、上層階2uの各階において上記上層階側パス換気設定処理(ステップ#4)の実行による換気不足が抑制される。
【0022】
図2に示すように、制御対象階が下層階2dである場合(ステップ#6)には、制御対象階である下層階2dに設置された下層階側換気手段3d,4dに対して所定の下層階側パス換気設定処理(ステップ#7)が実行される。
即ち、下層階側パス換気設定処理(ステップ#7)では、制御対象階である下層階2dにおいて、下層階側給気ファン3dによる給気風量Fi(d)が、下層階側排気ファン4dによる排気風量Fo(d)よりも小さく設定される。すると、図4にも示すように、下層階側パス換気設定処理(ステップ#7)が実行される下層階2dでは、排気風量Fo(d)に対して給気風量Fi(d)が不足する状態となることで、下層階2d内から屋外へ排出される空気のうち同階で屋外から導入されない不足分の空気が下降流DFとして竪シャフト10から流入する状態となる。
【0023】
更に、この下層階側パス換気設定処理(ステップ#7)では、下層階側排気ファン4dによる排気風量Fo(d)が通常換気風量Fa(d)に維持されながら、下層階側給気ファン3dによる給気風量Fi(d)が、竪シャフト10から流入する下降流DFの風量を通常換気風量Fa(d)から差し引いた風量に低下される。このことで、竪シャフト10を通じて下層階2dに流入した下降流DFのすべてが過不足なく下層階側排気ファン4dから屋外へ排出される。
【0024】
図2に示すように、制御対象階が非実行階2nである場合(ステップ#9)には、上述の通常換気制御と同様に、制御対象階である非実行階2nにおける非実行階側給気ファン3nによる給気風量Fi(n)と非実行階側排気ファン4nによる排気風量Fo(n)とが同じ通常換気風量Faに設定される(ステップ#10)。すると、図5にも示すように、非実行階2nでは、給気風量Fi(n)と排気風量Fo(d)とが過不足なく同じ風量に設定されるので、その非実行階2nから竪シャフト10に対する空気の流入又は流出は発生しない。よって、竪シャフト10において、上層階2uから下層階2dへ向かう下降流DFが維持された状態となる。
【0025】
以上のようなドラフト現象抑制制御を実行することにより、上層階2u側では余剰の空気が下降流DFとして竪シャフト10に流入すると共に、下層階2d側では、不足分の空気が下降流DFとして竪シャフト10から流入することで、竪シャフト10全体に亘って下降流DFが発生する。よって、建物1全体での屋外空気の導入量の増加を抑制しながら、竪シャフト10に下降流DFを発生させて上層階2u側から下層階2d側へ空気をパスする形態でのパス換気が行われることになって、竪シャフト10に上昇流が生じるドラフト現象の発生が確実に抑制される。
【0026】
更に、上述のようなドラフト現象抑制制御を実行してパス換気が行われると、特に下層階2dに対する直接的な屋外空気の導入風量が減少することで、当該下層階2dでの屋内空気中の二酸化炭素濃度が過剰に上昇する場合がある。そこで、図2に示すように、上層階側パス換気設定処理(ステップ#4)及び下層階側パス換気設定処理(ステップ#7)の実行後には、二酸化炭素濃度判定手段52により特に下層階2dの各階において二酸化炭素高濃度状態であるか否かが判定される(ステップ#12)。そして、二酸化炭素高濃度状態ではない場合(ステップ#12のno)には後述のパス換気抑制処理等を実行することなく終了するが、二酸化炭素高濃度状態である場合(ステップ#12のyes)には、上層階側排気ファン4uによる排気風量Fo(u)を給気風量Fi(u)以下の範囲内で所定風量α分増加させることができるか否か、及び、下層階側給気ファン3dによる給気風量Fi(d)を排気風量Fo(d)以下の範囲内で所定風量α分増加させることができるか否かが判定される(ステップ#13)。
【0027】
そして、上層階側排気ファン4uによる排気風量Fo(u)及び下層階側給気ファン3dによる給気風量Fi(d)を給気風量Fi(u)及び排気風量Fo(d)以下の範囲内で所定風量α分増加可能と判定した場合(ステップ#13のyes)には、上層階側排気ファン4uによる排気風量Fo(u)及び下層階側給気ファン3dによる給気風量Fi(d)を所定風量α分増加させるパス換気抑制処理が実行される(ステップ#14)。そして、排気風量Fo(u)及び給気風量Fi(d)の所定風量α分の増加は、上記ステップ#12において二酸化炭素高濃度状態ではないと判定される(ステップ#12のno)まで、又は、上記ステップ#13において排気風量Fo(u)及び給気風量Fi(d)を所定風量α分増加させると給気風量Fi(u)及び排気風量Fo(d)を超えると判定される(ステップ#13のno)まで繰り返し実行される。すると、上述したようなパス換気が抑制されて、下層階2dに対する直接的な屋外空気の導入風量が二酸化炭素濃度の状態に応じて増加するので、上記パス換気に起因して下層階2d側の各階で発生しやすい二酸化炭素濃度の過剰な上昇が抑制される。
【0028】
一方、上層階側排気ファン4uによる排気風量Fo(u)及び下層階側給気ファン3dによる給気風量Fi(d)を所定風量α分増加させると給気風量Fi(u)及び排気風量Fo(d)を超えると判定した場合(ステップ#13のno)には、上記上層階側パス換気設定処理(ステップ#4)及び下層階側パス換気設定処理(ステップ#7)の実行が取り消されて、上述の通常換気制御と同様に、各階において給気ファン3による給気風量Fiと排気ファン4による排気風量Foとが同じ通常換気風量Faに設定されて(ステップ#10)、特に下層階2d側の各階での二酸化炭素濃度の過剰な上昇が抑制される。
【0029】
尚、各階において上層階であるか下層階であるか非実行階であるかはあらかじめ設定しておくことができるが、竪シャフト10全体において十分にドラフト現象を抑制するために、より上層の階を上層階に設定し、より下層の階を下層階に設定し、その上昇階と下層階の途中階を非実行階に設置することが望ましい。
また、竪シャフト10に生じる下降流DFの最大風速については、竪シャフト10内での快適性を確保するために、所定の上限値以下に制限することが望ましい。例えば、上層階、下層階、及び非実行階の設定階数を変更したり、上層階における排気風量Fo(u)の低下幅や下層階における給気風量Fi(d)の低下幅を変更する形態で、竪シャフト10に生じる下降流DFの最大風速を調整することができる。
【0030】
(実施例)
図6に、地下2階地上14階の建物1に上述の換気システムを導入して、ドラフト現象抑制制御を実行した場合の実施例を示す。
この実施例では、上層階2uである14階及び13階では、上層階側パス換気設定処理が実行されて、給気風量Fi(u)が20,000m/hに設定され、排気風量Fo(u)がその給気風量Fi(u)よりも小さい5,000m/hに設定されている。また、上層階2uである地下1階でも、上層階側パス換気設定処理が実行されて、給気風量Fi(u)が40,000m/hに設定され、排気風量Fo(u)がその給気風量Fi(u)よりも小さい20,000m/hに設定されている。また、下層階2dである地下2階では、下層階側パス換気設定処理が実行されて、給気風量Fi(d)が50,000m/hに設定され、排気風量Fo(d)がその給気風量Fi(d)よりも大きい100,000m/hに設定されている。その他の非実行階2nである1階~12階では、給気風量Fi(n)及び排気風量Fo(n)が共に同じ20,000m/hに設定されている。
このような形態で、上層階2uである14階、13階、地下1階に対しては排気風量Fo(u)を給気風量Fi(u)よりも小さく設定すると共に、下層階2dである地下2階に対しては給気風量Fi(d)を排気風量Fo(d)よりも小さく設定することで、図6に示すように、竪シャフト10において、14階から13階に亘って15,000m/hの下降流を発生させ、13階から地下1階に亘って30,000m/hの下降流を発生させ、地下1階から地下2階に亘って50,000m/hの下降流を発生させることができる。
【0031】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0032】
(1)上記実施形態では、換気手段3,4として給気風量Fiを調整可能な給気ファン3と排気風量Foを調整可能な排気ファン4の両方を設けたが、何れか一方のファンを省略することもできる。例えば、上層階2uでは、上層階側排気ファン4uを省略して排気ダンパを設け、上層階側パス換気設定処理において当該排気ダンパの開度調整により排気風量を給気風量よりも小さく設定することができる。また、下層階2dでは、下層階側給気ファン3dを省略して給気ダンパを設け、下層階側パス換気設定処理において当該給気ダンパの開度調整により給気風量を排気風量よりも小さく設定することができる。
【0033】
(2)上記実施形態では、二酸化炭素濃度判定手段52により二酸化炭素高濃度状態であると判定された場合に、上層階側排気ファン4uによる排気風量Fo(u)及び下層階側給気ファン3dによる給気風量Fi(d)を所定風量α分づつ段階的に増加させる形態でパス換気抑制処理を実行したが、このパス換気抑制処理における排気風量Fo(u)及び給気風量Fi(d)の増加方法などについては適宜変更することができ、また、このパス換気抑制処理については適宜省略しても構わない。
【0034】
(3)上記実施形態の換気システムにおいて、屋外空気の侵入を一層抑制する目的で、各階の給気ファン3の給気風量Fiを増加させて、建物1内へ屋外空気を加圧給気することで、建物1内を外気圧よりも高い陽圧状態に維持しても構わない。
【符号の説明】
【0035】
1 建物
2d 下層階
2u 上層階
3 給気ファン(換気手段)
3d 下層階側給気ファン(給気ファン)
3u 上層階側給気ファン(給気ファン)
4 排気ファン(換気手段)
4d 下層階側排気ファン(排気ファン)
4u 上層階側排気ファン(排気ファン)
10 竪シャフト
51 制御手段
52 二酸化炭素濃度判定手段
Fi 給気風量
Fo 排気風量
Fa 通常換気風量
Fmin 最小換気風量
DF 下降流
図1
図2
図3
図4
図5
図6