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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20241107BHJP
   B60T 8/171 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60T8/171 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020203815
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091172
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 翔斗
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-180013(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103601(WO,A1)
【文献】特開2002-089314(JP,A)
【文献】特開2008-215139(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0010065(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60T 7/12-8/1769
8/32-8/96
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に連結される走行用モータを制御する車両用制御装置であって、
極低速域で車両の走行速度を一定に保持する定速走行モードを実行する際に、前記走行用モータを制御するモータ制御部と、
回転角センサによって検出される前記走行用モータの回転角に基づいて、車両の走行速度であるセンサ実車速を算出する車速算出部と、
前記センサ実車速およびブレーキ操作量に基づいて、前記定速走行モードの制御に用いられる車両の走行速度である制御用実車速を設定する車速設定部と、
を有し、
前記車速設定部は、
前記定速走行モードの実行中に、前記ブレーキ操作量が閾値を上回り、かつ前記センサ実車速が閾値を下回る場合には、前記制御用実車速としてゼロを設定し、
前記定速走行モードの実行中に、前記ブレーキ操作量が閾値を下回る場合、または前記センサ実車速が閾値を上回る場合には、前記制御用実車速として前記センサ実車速を設定する、
車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記モータ制御部は、前記定速走行モードの実行中に、前記制御用実車速が前進方向から後退方向に変化した場合に、前記走行用モータの目標トルクを直近の値よりも前進方向かつ力行方向に大きく設定する、
車両用制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用制御装置において、
前記車輪と前記走行用モータとは、歯車機構を介して互いに連結される、
車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に連結される走行用モータを制御する車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車両等の車両には、車輪に連結される走行用モータが搭載されている(特許文献1参照)。また、走行用モータにはレゾルバ等の回転角センサが設けられており、走行用モータを備えた車両においては回転角センサの出力信号を用いて走行速度を算出することが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6036639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、走行用モータの回転角センサは高分解能であることから、回転角センサの出力信号を用いて走行速度を算出した場合には、車両停止時に走行速度が一瞬だけ後退方向に算出されてしまう虞がある。すなわち、車輪と走行用モータとの間には遊びが設けられることから、車両停止時に走行用モータのロータが遊び分だけ反転すること、つまりロータの回転速度がゼロに達した直後に、遊び分だけロータが後退方向に反転する虞がある。この場合には、車両が後退していない場合であっても、コントローラ等によって車両が後退していると認識される虞があるため、コントローラ等による車両後退の誤判定を回避することが求められている。
【0005】
本発明の目的は、車両後退の誤判定を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用制御装置は、車輪に連結される走行用モータを制御する車両用制御装置である。前記車両用制御装置は、極低速域で車両の走行速度を一定に保持する定速走行モードを実行する際に、前記走行用モータを制御するモータ制御部を有する。前記車両用制御装置は、回転角センサによって検出される前記走行用モータの回転角に基づいて、車両の走行速度であるセンサ実車速を算出する車速算出部を有する。前記車両用制御装置は、前記センサ実車速およびブレーキ操作量に基づいて、前記定速走行モードの制御に用いられる車両の走行速度である制御用実車速を設定する車速設定部を有する。前記車速設定部は、前記定速走行モードの実行中に、前記ブレーキ操作量が閾値を上回り、かつ前記センサ実車速が閾値を下回る場合には、前記制御用実車速としてゼロを設定し、前記定速走行モードの実行中に、前記ブレーキ操作量が閾値を下回る場合、または前記センサ実車速が閾値を上回る場合には、前記制御用実車速として前記センサ実車速を設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、定速走行モードの実行中に、ブレーキ操作量が閾値を上回り、かつ第1車速が閾値を下回る場合には、第2車速としてゼロを設定する。これにより、車両後退の誤判定を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態である車両用制御装置を備えた車両の構成例を示す図である。
図2】コントローラによる車速補正制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図3】車速補正制御の実行状況の一例を示すタイミングチャートである。
図4】コントローラによる極低速モードの実行手順の一例を示すフローチャートである。
図5】コントローラによる極低速モードの実行手順の一例を示すフローチャートである。
図6】(A)~(C)は、極低速モードの車両制動時における走行用モータの回転状況を示すイメージ図である。
図7】極低速モードの実行状況の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
[車両構成]
図1は本発明の一実施の形態である車両用制御装置10を備えた車両11の構成例を示す図である。図1に示すように、車両11には、車輪12に連結される走行用モータ13が設けられている。走行用モータ13のロータ14には、モータ出力軸15、デファレンシャル機構(歯車機構)16および車輪駆動軸17からなる動力伝達経路18を介して車輪12が連結されている。また、走行用モータ13のステータ19には電力変換機器であるインバータ20が接続されており、インバータ20にはリチウムイオンバッテリ等のバッテリ21が接続されている。さらに、走行用モータ13には、ロータ14の回転角を検出するレゾルバ等の回転角センサ22が設けられている。
【0011】
また、車両11には、車輪12を制動するブレーキ装置30が設けられている。ブレーキ装置30は、ブレーキペダル31に連結されるマスターシリンダ32と、車輪12のディスクロータ33を制動するキャリパ34と、各キャリパ34に供給されるブレーキ液圧を制御するアクチュエータ35と、を有している。運転者によってブレーキペダル31が踏み込まれると、マスターシリンダ32からアクチュエータ35を経てキャリパ34にブレーキ液圧が伝達され、キャリパ34によって車輪12のディスクロータ33が制動される。なお、図示する車両11は、走行用モータ13によって前輪を駆動する前輪駆動車両であっても良く、走行用モータ13によって後輪を駆動する後輪駆動車両であっても良く、走行用モータ13によって前後輪を駆動する全輪駆動車両であっても良い。
【0012】
車両11に搭載される車両用制御装置10は、マイコン等からなるコントローラ40を有している。コントローラ40には、アクセルペダル41の踏み込み量を検出するアクセルセンサ42と、ブレーキペダル31の踏み込み量(以下、ブレーキ操作量Bsと記載する。)を検出するブレーキセンサ43とが、接続されている。また、コントローラ40には、前述した走行用モータ13の回転角を検出する回転角センサ22と、後述する低速走行モードを実行する際に操作されるモードスイッチ44とが、接続されている。
【0013】
また、コントローラ40には、車両11の走行速度であるセンサ実車速(第1車速)V1を算出する車速算出部45と、センサ実車速V1に基づき制御用実車速(第2車速)V2を設定する車速設定部46とが、設けられている。コントローラ40の車速算出部45は、回転角センサ22によって検出される走行用モータ13の回転角に基づいて、走行中の走行速度であるセンサ実車速V1を算出する。また、コントローラ40の車速設定部46は、後述する車速補正制御に従い、ブレーキセンサ43によって検出されるブレーキ操作量Bsと、車速算出部45によって算出されるセンサ実車速V1とに基づいて、後述する極低速モードに用いられる走行中の走行速度として制御用実車速V2を設定する。さらに、コントローラ40には、インバータ20を介して走行用モータ13を制御するモータ制御部47と、アクチュエータ35を介してブレーキ装置30を制御するブレーキ制御部48と、が設けられている。
【0014】
[極低速モード]
車両用制御装置10は、車両11の走行モードとして、低速クルーズコントロール等と呼ばれる極低速モード(定速走行モード)を有している。この極低速モードは、極低速域(例えば、10km/h以下)で車両11の走行速度を一定に保持する走行モードである。コントローラ40のモータ制御部47は、運転者のスイッチ操作によって極低速モードが選択されると、車両11の走行速度を一定に保持するように走行用モータ13を制御する。この極低速モードを実行することにより、運転者は、アクセル操作やブレーキ操作を行うことなく、ハンドル操作に集中して岩場等の悪路を運転することができる。前述したように、極低速モードにおいては、車両11の走行速度として制御用実車速V2が用いられる。
【0015】
・(車速補正制御の実行手順)
以下、極低速モードに併せて実行される車速補正制御の実行手順について説明した後に、極低速モードの実行手順について説明する。図2はコントローラ40による車速補正制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【0016】
図2に示すように、ステップS10では、ブレーキ操作量Bsが所定の閾値Xaを上回るか否が判定される。ステップS10において、ブレーキ操作量Bsが閾値Xaを上回ると判定された場合には、ステップS11に進み、センサ実車速V1の絶対値が所定の閾値Xb(例えば、1km/h)を下回るか否かが判定される。ステップS11において、センサ実車速V1の絶対値が閾値Xbを下回ると判定された場合には、ステップS12に進み、車速補正フラグが「1」に設定される。つまり、ブレーキペダル31が踏み込まれており、かつ車両11が停止する直前である場合には、ステップS12に進み、車速補正フラグが「1」に設定される。
【0017】
続くステップS13では、ブレーキ操作量Bsが所定の閾値Xcを下回るか否が判定される。なお、前述したステップS10,S11において、ブレーキ操作量Bsが閾値Xa以下であると判定された場合や、センサ実車速V1の絶対値が閾値Xb以上であると判定された場合には、ステップS12を迂回してステップS13に進み、ブレーキ操作量Bsが閾値Xcを下回るか否が判定される。ステップS13において、ブレーキ操作量Bsが閾値Xcを下回ると判定された場合には、ステップS14に進み、車速補正フラグが「0」に設定される。一方、ステップS13において、ブレーキ操作量Bsが閾値Xc以上であると判定された場合には、ステップS15に進み、センサ実車速V1が所定の閾値Xdを上回るか否かが判定される。ステップS15において、センサ実車速V1が閾値Xdを上回ると判定された場合には、ステップS14に進み、車速補正フラグが「0」に設定される。このように、ブレーキペダル31の踏み込みが解除されている場合や、車両11が停止せずに走行している場合には、ステップS14に進み、車速補正フラグが「0」に設定される。
【0018】
続くステップS16では、車速補正フラグが「1」であるか否かが判定される。なお、前述したステップS13,S15において、ブレーキ操作量Bsが閾値Xc以上であり、かつセンサ実車速V1が閾値Xd以下であると判定された場合には、ステップS14を迂回してステップS16に進み、車速補正フラグが「1」であるか否かが判定される。ステップS16において、車速補正フラグが「1」であると判定された場合、つまりブレーキペダル31が踏み込まれており、かつ車両11が停止する直前である場合には、ステップS17に進み、制御用実車速V2としてゼロ(0km/h)が設定される。一方、ステップS16において、車速補正フラグが「0」であると判定された場合、つまりブレーキペダル31の踏み込みが解除されている場合や、車両11が停止せずに走行している場合には、ステップS18に進み、制御用実車速V2としてセンサ実車速V1がそのまま設定される。
【0019】
図3は車速補正制御の実行状況の一例を示すタイミングチャートである。なお、図3には、センサ実車速V1が破線で示されており、制御用実車速V2が実線で示されている。図3に時刻t1で示すように、運転者によってブレーキペダル31が踏み込まれると、ブレーキ操作量Bsが閾値Xaを上回る(符号a1)。この時刻t1においては、センサ実車速V1が閾値Xbを上回ることから(符号b1)、車速補正フラグが「0」に設定されており(符号c1)、制御用実車速V2としてセンサ実車速V1が設定される(符号b2)。
【0020】
続いて、時刻t2で示すように、センサ実車速V1が低下して閾値Xbを下回ると(符号b3)、車速補正フラグが「1」に設定される(符号c2)。このように、車速補正フラグが「1」に設定されると、制御用実車速V2としてゼロ(0km/h)が設定される(符号b4)。そして、時刻t3で示すように、運転者によるブレーキペダル31の踏み込みが解除され、ブレーキ操作量Bsが閾値Xcを下回ると(符号a2)、車速補正フラグが「0」に設定され(符号c1)、制御用実車速V2としてセンサ実車速V1が設定される(符号b5)。
【0021】
・(極低速モードの実行手順)
次いで、極低速域で走行速度を一定に保持する極低速モードの実行手順について説明する。図4および図5はコントローラ40による極低速モードの実行手順の一例を示すフローチャートである。なお、図4および図5のフローチャートにおいては、符号Aの箇所で互いに接続されている。
【0022】
図4に示すように、ステップS20では、運転者によるモードスイッチ44のON操作が為されているか否かが判定される。ステップS20において、モードスイッチ44がON操作されていると判定された場合には、ステップS21に進み、運転者によるアクセル操作の有無が判定され、ステップS22に進み、運転者によるブレーキ操作の有無が判定される。ステップS21,S22において、アクセル操作およびブレーキ操作の双方が行われていないと判定された場合には、図5に示すように、ステップS23に進む。
【0023】
ステップS23においては、制御用実車速V2が所定の上限値Vaを上回るか否かが判定される。なお、制御用実車速V2と比較される上限値Vaは、極低速モードでの目標速度に所定値を加算した値である。ステップS23において、制御用実車速V2が上限値Vaを上回ると判定された場合には、ステップS24に進み、走行用モータ13の目標力行トルクが下げられ、この目標力行トルクに基づき走行用モータ13が制御される。一方、ステップS23において、制御用実車速V2が上限値Va以下であると判定された場合には、ステップS25に進み、制御用実車速V2が所定の下限値Vbを下回るか否かが判定される。なお、制御用実車速V2と比較される下限値Vbは、極低速モードでの目標速度から所定値を減算した値である。ステップS25において、制御用実車速V2が下限値Vbを下回ると判定された場合には、ステップS26に進み、走行用モータ13の目標力行トルクが上げられ、この目標力行トルクに基づき走行用モータ13が制御される。このように、走行用モータ13の目標力行トルクを増減させることにより、極低速モードにおいては、アクセル操作やブレーキ操作が行われなくても、上下限値Va,Vb間の目標速度を保持するように走行用モータ13が制御される。
【0024】
また、極低速モードにおいてアクセル操作やブレーキ操作が行われた場合には、アクセル操作やブレーキ操作に基づいて走行用モータ13が制御される。図4に示すように、ステップS21において、アクセル操作が行われていると判定された場合には、ステップS27に進み、アクセル操作量および制御用実車速V2に基づき目標力行トルクが設定され、この目標力行トルクに基づき走行用モータ13が制御される。このように、車両11を緩やかに前進させる極低速モードの実行中に、アクセルペダル41が踏み込まれた場合には、目標力行トルクを引き上げて車両11を加速させる。
【0025】
また、ステップS22において、ブレーキ操作が行われていると判定された場合には、ステップS28に進み、ブレーキ操作量および制御用実車速V2に基づき目標回生トルクが設定される。続くステップS29では、後退フラグが「1」であるか否かが判定される。ここで、後退フラグとは車両後退を示すフラグであり、車両後退時には後退フラグが「1」に設定され、車両前進時には後退フラグが「0」に設定される。ステップS29において、後退フラグが「0」であると判定された場合、つまり車両11が前進している場合には、ステップS30に進み、ステップS28で設定された目標回生トルクが維持され、この目標回生トルクに基づき走行用モータ13が制御される。一方、ステップS29において、後退フラグが「1」であると判定された場合、つまり車両11が後退している場合には、ステップS31に進み、目標回生トルクに代えて目標力行トルクが設定され、この目標力行トルクに基づき走行用モータ13が制御される。
【0026】
このように、車両11を緩やかに前進させる極低速モードにおいて、ブレーキペダル31が踏み込まれた場合には、目標トルクを力行側から回生側に切り替えて車両11を減速させる。また、ステップS29において後退フラグが「1」であると判定された場合、つまり極低速モードにおいて車両後退が検出された場合には、登坂路等における車両11のずり下がりが想定されるため、走行用モータ13の目標トルクが前進方向かつ力行方向に引き上げられる。すなわち、極低速モードの実行中に、制御用実車速V2が前進方向から後退方向に変化した場合には、走行用モータ13の目標トルクが直近の値よりも前進方向かつ力行方向に大きく設定される。これにより、走行用モータ13から車輪12に前進方向の推力を与えることができ、車両11のずり下がりを解消することができる。
【0027】
なお、ステップS25,S26で示すように、極低速モードにおいて制御用実車速V2が下限値Vbを下回る場合には、走行用モータ13の目標力行トルクが増やされている。この場合には、所定の目標速度から制御用実車速V2が離れて低下する程に、走行用モータ13の目標力行トルクが大きく設定されることになる。つまり、ブレーキペダル31が踏まれていない場合であっても、極低速モードの実行中に登坂路等で制御用実車速V2がゼロに向けて低下し、制御用実車速V2が前進方向から後退方向に変化した場合には、走行用モータ13から車輪12に前進方向の推力を与えることで車両後退を解消するため、走行用モータ13の目標トルクが直近の値よりも前進方向かつ力行方向に大きく設定される。
【0028】
[車両制動時のモータ回転状況]
前述したように、極低速モードにおいては、車両11の走行速度として、センサ実車速V1ではなく制御用実車速V2が用いられている。これにより、極低速モードの実行中にブレーキペダル31が踏み込まれて車輪12の回転が停止した場合であっても、走行用モータ13の過度なトルク変動を防止することができ、運転者に違和感を与えることなく走行用モータ13を制御することができる。ここで、図6(A)~(C)は、極低速モードの車両制動時における走行用モータ13の回転状況を示すイメージ図である。なお、図6(A)~(C)には、矢印を用いて各回転要素の回転方向が示されている。
【0029】
図6(A)に示すように、走行用モータ13と車輪12とは、デファレンシャル機構16等の歯車機構を含む動力伝達経路18を介して互いに連結されている。また、前述した極低速モードにおいては、走行用モータ13を正転方向に回転させることにより、デファレンシャル機構16の一部を構成する駆動ギア50から従動ギア51に回転力が伝達され、従動ギア51に連結される車輪12は前進方向に回転する。続いて、図6(B)に示すように、ブレーキペダル31の踏み込みによって車輪12の回転が停止すると、車輪12に連結される従動ギア51の回転も停止する。このとき、走行用モータ13の目標トルクはゼロに制御されるものの、走行用モータ13のロータ14は慣性力で正転方向への回転を継続する。
【0030】
つまり、ブレーキ装置30によって車輪12の回転が停止した後には、図6(B)に示すように、動力伝達経路18の遊びであるバックラッシを一方側に詰めるように、駆動ギア50およびこれに連結されるロータ14が所定の回転角で正転方向に回転する。その後、回転する駆動ギア50が停止中の従動ギア51によって跳ね返されるため、図6(C)に示すように、動力伝達経路18のバックラッシを他方側に詰めるように、駆動ギア50およびこれに連結されるロータ14が所定の回転角で逆転方向に回転することになる。このように、ブレーキ装置30によって車輪12の回転が停止する際には、走行用モータ13のロータ14が所定の回転角で一瞬だけ逆転方向に回転することから、ロータ14の回転角に基づき算出されるセンサ実車速V1は一瞬だけ後退方向に算出されることになる。
【0031】
このように、ブレーキ装置30によって車輪12の回転が停止する際には、センサ実車速V1が一瞬だけ後退方向に算出される。また、極低速モードにおいては、車両11のずり下がりを防止する観点から、車両後退が検出されると走行用モータ13の目標力行トルクが引き上げられる。すなわち、極低速モードにおいてセンサ実車速V1を用いた場合には、車両後退の誤判定に伴って走行用モータ13の目標力行トルクが瞬間的に引き上げられるため、走行用モータ13に過度なトルク変動を発生させてしまう虞がある。そこで、本実施形態の車両用制御装置10は、極低速モードにおいて制御用実車速V2を用いることにより、極低速モードにおける車両後退の誤判定を回避している。
【0032】
[極低速モード(タイミングチャート)]
以下、タイミングチャートに沿って極低速モードの実行状況について説明する。図7は極低速モードの実行状況の一例を示すタイミングチャートである。図7には、極低速モードの実行中に、ブレーキペダル31の踏み込みによって車両11が停止し、ブレーキペダル31の踏み込み解除によって車両11が再発進する状況が示されている。
【0033】
図7に時刻t1で示すように、極低速モードが実行される場合には、走行用モータ13の目標トルクが力行側に設定され(符号a1)、車両11は走行速度を一定に保持しながら緩やかに前進する(符号b1)。その後、時刻t2で示すように、運転者によってブレーキペダル31が踏み込まれると、ブレーキ操作量Bsが閾値Xaを上回るとともに(符号c1)、走行用モータ13の目標トルクが回生側に設定される(符号a2)。この時刻t2においては、センサ実車速V1が閾値Xbを上回ることから(符号b2)、車速補正フラグが「0」に設定されており(符号d1)、制御用実車速V2としてセンサ実車速V1が設定される(符号b3)。
【0034】
続いて、時刻t3で示すように、センサ実車速V1が低下して閾値Xbを下回ると(符号b4)、車速補正フラグが「1」に設定される(符号d2)。このように、車速補正フラグが「1」に設定されると、制御用実車速V2としてゼロ(0km/h)が設定される(符号b5)。このように、制御用実車速V2がゼロになることから、走行用モータ13の目標トルクもゼロに設定される(符号a3)。その後、時刻t4で示すように、運転者によるブレーキペダル31の踏み込みが解除されると、ブレーキ操作量Bsが閾値Xcを下回るとともに(符号c2)、走行用モータ13の目標トルクが力行側に設定される(符号a4)。また、ブレーキ操作量Bsが閾値Xcを下回ることから、車速補正フラグが「0」に設定され(符号d3)、制御用実車速V2としてセンサ実車速V1が設定される(符号b6)。
【0035】
これまで説明したように、ブレーキ操作によって車両11が停止した場合であっても、極低速モードで用いられる制御用実車速V2は、矢印αで示すように、車両停止直前からゼロ(0km/h)に保持されている。これにより、極低速モードにおける車両後退の誤判定を回避することができるため、車両停止時に走行用モータ13の目標トルクが引き上げられることはなく、運転者に違和感を与えないように走行用モータ13を適切に制御することができる。
【0036】
すなわち、極低速モードにおいてセンサ実車速V1を用いた場合には、時刻Taで示すように、センサ実車速V1がゼロを超えて後退方向に変化するため(符号x1)、後退フラグが「1」に設定されるとともに(符号x2)、走行用モータ13の目標トルクが力行側に設定される(符号x3)。そして、走行用モータ13の目標トルクが力行側に設定される状況は、時刻Tbで示すように、センサ実車速V1がゼロに収束するまで継続されることになる。つまり、極低速モードにおいてセンサ実車速V1ではなく制御用実車速V2を用いることにより、図7に破線で示した車両後退の誤判定や走行用モータ13のトルク変動を回避することができる。
【0037】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、車両用制御装置10が搭載される車両11として、動力源として走行用モータ13のみを備えた電気自動車を例示しているが、これに限られることはなく、動力源として走行用モータ13およびエンジンを備えたハイブリッド車両であっても良い。また、前述の説明では、走行用モータ13と車輪12とを連結する動力伝達経路18に対し、歯車機構であるデファレンシャル機構16を設けているが、これに限られることはなく、動力伝達経路18に対して他の歯車機構を設けても良い。また、走行用モータ13と車輪12とを連結する動力伝達経路18から歯車機構を省いても良い。このように、動力伝達経路18から歯車機構を省いた場合であっても、複数の機械要素からなる動力伝達経路18にはバックラッシが存在することから、本発明を有効に適用することができる。
【0038】
図3に示した例では、閾値Xa,Xcを互いに異なる値に設定しているが、これに限られることはなく、閾値Xa,Xcを互いに同じ値に設定しても良い。なお、ブレーキ操作量Bsと比較される閾値Xaは、ブレーキペダル31の踏み込みを検出可能な値であれば良く、ブレーキ操作量Bsと比較される閾値Xcは、ブレーキペダル31の踏み込み解除を検出可能な値であれば良い。また、図3に示した例では、閾値Xb,Xdを互いに異なる値に設定しているが、これに限られることはなく、閾値Xb,Xdを互いに同じ値に設定しても良い。なお、センサ実車速V1と比較される閾値Xbは、停車直前のタイミングであることを検出可能な値であれば良く、センサ実車速V1と比較される閾値Xdは、停車直前のタイミングではないことを検出可能な値であれば良い。
【符号の説明】
【0039】
10 車両用制御装置
11 車両
12 車輪
13 走行用モータ
16 デファレンシャル機構(歯車機構)
45 車速算出部
46 車速設定部
47 モータ制御部
V1 センサ実車速(第1車速)
V2 制御用実車速(第2車速)
Bs ブレーキ操作量
Xa 閾値
Xb 閾値
Xc 閾値
Xd 閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7