IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -燃料燃焼システム 図1
  • -燃料燃焼システム 図2
  • -燃料燃焼システム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】燃料燃焼システム
(51)【国際特許分類】
   F23C 5/08 20060101AFI20241107BHJP
   F23C 1/08 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
F23C5/08
F23C1/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020204228
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091407
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 貞行
(72)【発明者】
【氏名】矢原 俊
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-272704(JP,A)
【文献】特開2012-229891(JP,A)
【文献】特開2005-274126(JP,A)
【文献】特開2020-085282(JP,A)
【文献】特開平06-159613(JP,A)
【文献】特開2018-096680(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110873326(CN,A)
【文献】特開2019-086191(JP,A)
【文献】特開2001-153309(JP,A)
【文献】特許第6296216(JP,B1)
【文献】特開2018-076985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23C 5/08
F23C 99/00
F23C 1/00-1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主燃料を燃焼させる燃焼炉と、
前記燃焼炉内の少なくとも一部を覆うように設けられた耐火材と、
前記主燃料を前記燃焼炉内に噴射して燃焼させるバーナと、
前記バーナとは別体で設けられ、燃料ガスを前記燃焼炉内に噴射する燃料ガス噴射ノズルと、を備え、
前記燃焼炉は、その下部に形成され、平面視で多角形を形成する少なくとも4つの第1乃至第4炉壁を有すると共に前記耐火材で覆われた下部燃焼室を備え、
前記第1炉壁と前記第3炉壁とが対向配置され、前記第2炉壁と前記第4炉壁とが対向配置され、
前記バーナは、前記第1炉壁および前記第3炉壁に設けられた複数のバーナを含み、
前記燃料ガス噴射ノズルは、前記バーナに対応して、前記第2炉壁および前記第4炉壁に設けられた複数の燃料ガス噴射ノズルを含
前記燃料ガス噴射ノズルは前記バーナの前方の再循環渦に向けて前記燃料ガスを噴射する、燃料燃焼システム。
【請求項2】
前記バーナは、前記燃焼炉の上流側に配置されたバーナおよび前記燃焼炉の下流側に配置されたバーナを含み、
前記燃料ガス噴射ノズルは、前記燃焼炉の上流側に配置された前記バーナに対応して設けられる、請求項に記載の燃料燃焼システム。
【請求項3】
前記燃料ガス噴射ノズルの噴射流速を制御する流速制御装置をさらに備える、請求項1又は2に記載の燃料燃焼システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油残渣等の主燃料を燃焼する燃焼炉を備えた燃料燃焼システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の高効率活用が求められる中、石油資源の開発技術の進歩により、採掘原油残渣はますます重質化している。そこで、原油から軽質油を抽出した後に出る石油残渣を発電用や熱エネルギー回収用の燃料として効果的に活用する技術が提案されている。
【0003】
また、上記化石燃料の高効率活用だけでなく、環境保護の促進を実現するために燃焼による二酸化炭素の低減を図ることが重要になりつつある。そこで、二酸化炭素フリー燃料として近年注目されているのはアンモニアガスである。アンモニアガスは比較的扱い易い燃料であり、例えば特許文献1の燃焼炉においてバーナによりアンモニアガスを噴射する構成のボイラが開示されている。上記文献のボイラにおいては、アンモニアガスと共に炭素燃料も燃焼炉内に噴射して燃焼させることで、サーマルNOx(窒素酸化物)の発生を抑制することができるとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-200144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のボイラのように燃料としてアンモニアガスを用いる場合、サーマルNOxの発生をより抑制することが重要であると共に、アンモニアガスの燃焼速度が比較的遅いことに起因して当該アンモニアガスが燃焼されずに排出されてしまうことを抑制することが燃焼効率の向上等の観点で重要である。しかしながら、上記文献のボイラの構成では、サーマルNOxの更なる抑制およびアンモニアガスの燃焼不足の抑制を図ることが困難である。
【0006】
そこで、本発明は、燃料ガスの燃焼不足の抑制およびサーマルNOxの抑制を実現することが可能な燃料燃焼システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の燃料燃焼システムは、主燃料を燃焼させる燃焼炉と、前記燃焼炉内の少なくとも一部を覆うように設けられた耐火材と、前記主燃料を前記燃焼炉内に噴射して燃焼させるバーナと、前記バーナとは別体で設けられ、燃料ガスを前記燃焼炉内に噴射する燃料ガス噴射ノズルと、を備えるものである。
【0008】
燃料ガスは主燃料と同様にバーナから噴射されることで燃焼炉内へ導入されるのが一般的である。この点について、燃料ガスの噴射量が少量である場合には、バーナ前方に形成された高温還元領域における脱硝反応によって、サーマルNOxやフューエルNOx低減の効果が期待される。しかしながら、燃料ガスの噴射量を増加させていくと、バーナ前方の高温還元領域で燃焼し切らない燃料ガスの割合が増加する。そのため、バーナ前方の温度を局所的に低下させる恐れがある。その結果、還元反応が抑制されたり、燃焼効率の低下に繋がる恐れがある。この傾向はアンモニアガスのように燃焼速度の遅い燃料ガスほど顕著である。これに対して、本発明のように燃料ガス噴射ノズルをバーナとは別体で設けること(以下、本構成と記)で、燃料ガスをバーナから噴射される空気(主燃料を運ぶ空気)に希釈されない状態で燃焼炉内の高温かつ酸素リーンな領域(高温還元領域)に供給することができる。これにより、サーマルNOxの生成が抑制される。また、本構成により、燃焼炉内における燃料ガスの滞留時間(燃焼までの時間)を長くし、当該燃料ガスの大半が酸素リーンな雰囲気を通過するようにすることができる。これにより、燃料ガスが燃焼し切らないことを抑制することができるので、還元領域の温度が低下することを抑制でき、それ故脱硝反応を維持することができる。さらに、本構成により、燃料ガス噴射ノズルから噴射された燃料ガスがバーナ前方に過度に集中し過ぎないようにすることができる。これにより、燃料ガスが燃焼し切らないことをより抑制することができるので、還元領域の温度が低下することをより抑制でき、それ故脱硝反応を維持することができる。以上の次第で、本発明に従えば、燃料ガスの燃焼不足の抑制およびサーマルNOxの抑制を実現することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃料ガスの燃焼不足の抑制およびサーマルNOxの抑制を実現することが可能な燃料燃焼システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るボイラの概略構成を示す図である。
図2】燃焼炉内の下部に形成された下部燃焼室におけるバーナおよび燃料ガス噴射ノズルの配置の一例を示す斜視図である。
図3】下部燃焼室におけるバーナおよび燃料ガス噴射ノズルの配置の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る燃料燃焼システムについて図面を参照して説明する。以下に説明する燃料燃焼システムは、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除および変更が可能である。
【0012】
図1は本実施形態に係る燃料燃焼システムの一例であるボイラ10の構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態のボイラ10は、燃料を燃焼する燃焼炉2と、その燃焼熱を利用して蒸気を生成するボイラ本体40および過熱器42とを備える。ボイラ10は、火力ボイラであって、ピッチ・コークスなどの石油残渣、アスファルトなどの重質油、重油、および微粉炭のうち少なくとも一つを主燃料とする。
【0013】
燃焼炉2の内部には竪型の燃焼室20が形成されている。この燃焼炉2においては、燃焼室20の下部に高温還元ゾーン21が形成され、燃焼室20の上部に低温酸化ゾーン22が形成され、高温還元ゾーン21と低温酸化ゾーン22との間に絞り部23が形成されている。但し、燃焼炉2は、燃焼室20の上部に高温還元ゾーン21が形成され、燃焼室20の下部に低温酸化ゾーン22が形成された態様であってもよい。
【0014】
燃焼炉2の内壁のうち高温還元ゾーン21を形成する下部燃焼室70は耐火材25で覆われている。耐火材25は下部燃焼室70の全部を覆ってもよいし、一部を覆ってもよい。耐火材25は約2000℃の高温に耐え得る。下部燃焼室70の炉壁には、高温還元ゾーン21へ燃料および一段目燃焼用の空気を吹き出す複数のバーナ5が設けられている。各バーナ5から下部燃焼室70内へ燃料および空気が吹き出す。燃料には、上述の主燃料とアンモニアガスを含む補助燃料とが含まれる。吹き出した燃料は空気と混合して燃焼し、火炎が生じる。
【0015】
複数のバーナ5は、対向する一対の炉壁の各々に設けられている。各炉壁には上下方向に少なくとも1段のバーナ段が設けられており、各バーナ段は水平方向に並ぶ複数のバーナ5で形成されている。このように対向配置された複数のバーナ5は、各バーナ5のバーナ軸線が交差しないように対向千鳥配置されている。
【0016】
高温還元ゾーン21の出口(即ち、高温還元ゾーン21の上部)は、絞り部23を介して低温酸化ゾーン22の入口(即ち、低温酸化ゾーン22の下部)と接続されている。絞り部23の最も小さい水平断面積は、高温還元ゾーン21の水平断面積の20~50%程度である。
【0017】
燃焼炉2の上部の炉壁には、複数の空気ノズル26が設けられている。各空気ノズル26から低温酸化ゾーン22へ二次燃焼用の空気が吹き出す。本実施形態では、上下方向に複数段の空気ノズル段が設けられており、各空気ノズル段は水平方向に並ぶ複数の空気ノズル26で形成されている。
【0018】
低温酸化ゾーン22のうち絞り部23と複数の空気ノズル26との上下間は冷却部24となっている。冷却部24の炉壁は、ボイラ本体40の図略の水管が張り巡らされた水冷壁となっている。
【0019】
低温酸化ゾーン22の出口(即ち、低温酸化ゾーン22の上部)は、燃焼炉2の上部に設けられた煙道28の入口と接続されている。煙道28の上流部分には、過熱器42の過熱器管43が設けられている。また、煙道28の壁には、ボイラ本体40の水管41が張り巡らされている。煙道28の出口には排ガス処理系統30が接続されている。排ガス処理系統30は、燃焼排ガスの余熱を利用してバーナ5へ送る空気を予熱する節炭器31や、燃焼排ガスを脱硝する脱硝装置32などが設けられている。
【0020】
このような構成を有するボイラ10において、高温還元ゾーン21に供給される燃料と一段目燃焼用の空気との空気比は、1未満(例えば0.7程度)に維持される。その上、耐火材25で覆われた高温還元ゾーン21は、炉の他の部分と比較して炉内温度が下がり難い。これにより、高温還元ゾーン21は平均約1500℃の高温の還元雰囲気となっており、高温還元ゾーン21では燃料のガス化が促進される。
【0021】
高温還元ゾーン21では、燃料がガス化して燃焼ガスが生じる。この燃焼ガスは、絞り部23を通じて低温酸化ゾーン22に流入する。空気ノズル26から低温酸化ゾーン22へ供給される二段目燃焼用の空気によって、低温酸化ゾーン22の空気比は1以上(例えば、1.1程度)に維持される。これにより、低温酸化ゾーン22は酸化雰囲気となっており、低温酸化ゾーン22では燃焼ガスの燃焼が促進される。
【0022】
低温酸化ゾーン22では、燃焼ガス中の未燃分の燃焼が完結する(即ち、完全燃焼する)。低温酸化ゾーン22からの燃焼排ガスは、煙道28を通じて排ガス処理系統30へ流出する。煙道28に設けられた水管41で燃焼排ガスの熱が回収され、ボイラ本体40で蒸気が生成される。また、煙道28に設けられた過熱器管43で燃焼排ガスの熱が回収され、過熱器42で過熱蒸気が生成される。生成された過熱蒸気は、例えば発電設備の蒸気タービン(図略)で利用される。
【0023】
続いて、本実施形態のボイラ10におけるバーナ5および燃料ガス噴射ノズル50の配置について説明する。最初に、本実施形態のボイラ10において最適な炉内脱硝を実現する構成が基礎付く本発明の技術的観点について説明する。
【0024】
従来、燃料ガスの投入方法は主燃料と同様にバーナから噴射することが一般的であった。この点につき、燃料ガスの噴射量が少量である場合には、バーナ前方に形成された高温還元領域における脱硝反応によって、サーマルNOx低減の効果が期待される。しかしながら、燃料ガスの噴射量を増加させていくと、バーナ前方の高温還元領域で燃焼し切らない燃料ガスの割合が増加する。そのため、バーナ前方の温度を局所的に低下させる可能性があり、燃焼効率の低下に繋がる恐れがある。この傾向はアンモニアガスのように燃焼速度の遅い燃料ガスほど顕著となる。
【0025】
そこで、最適な炉内脱硝を実現するために、本実施形態のボイラ10において以下の方法を採用する。
【0026】
(1)燃料ガスを高温還元領域に噴射
本実施形態では、燃焼炉2内の高温かつ酸素リーンな領域(高温還元領域)に空気で希釈されていない燃料ガスを導入する。これは、燃料ガスを高温かつ酸素リッチな雰囲気に噴射すると、サーマルNOxの生成が促進される恐れがあり、燃料ガスを空気に混合させることは好ましくないとの観点に基づくものである。
【0027】
(2)高温還元領域における燃料ガスの滞留時間を確保
また、本実施形態では、燃焼炉2内における燃料ガスの滞留時間を長くし、当該燃料ガスの流線の大半が酸素リーンな雰囲気を通過するようにする。これは、アンモニアガスのように燃焼速度の遅い燃料ガスを混焼させる場合に、燃料ガスが燃焼炉2内をショートパスする等により滞留時間が不足すると、燃焼し切れなかった燃料ガスがそのまま排ガスとして排出されるため、これを防ぐ観点に基づくものである。
【0028】
(3)バーナ前方の温度の低下を抑制
さらに、本実施形態では、バーナ前方に燃料ガスを過度に集中させないように噴射する。燃焼炉2内で最も高温還元が著しい位置はバーナ前方領域であり、その領域に燃料ガスを投入することにより強い脱硝反応が生じることが期待できる。一方で、バーナ5から大量の燃料ガスを噴射してバーナ前方に燃料ガスを集中させ過ぎると、一部の燃料ガスが燃え切らない。そのため、還元領域の温度が低下してガス化反応や脱硝反応が抑制される恐れがあるので、これを防止する観点に基づくものである。
【0029】
以上の(1)~(3)を実現すべく、本実施形態のボイラ10においては次のように構成した。以下、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図2は燃焼炉2内の下部に形成された下部燃焼室70の斜視図である。なお、図2は燃焼炉2のうち下部燃焼室70のみを示しているので、当該下部燃焼室70の上方は開放されている。図2に示すように、下部燃焼室70は、平面視で例えば正方形又は矩形を形成する4つの炉壁70a,70b,70c,70dを有する。炉壁(第1炉壁)70aと炉壁(第3炉壁)70cとが互いに対向するように配置され、炉壁(第2炉壁)70bと炉壁(第4炉壁)70dとが互いに対向するように配置されている。上述の通り、4つの炉壁70a,70b,70c,70dは耐火材25(図1)で覆われている。
【0031】
本実施形態のボイラ10では、燃料ガス噴射ノズル50はバーナ5とは別体で設けられる。燃料ガス噴射ノズル50は燃料ガスを下部燃焼室70内に噴射する。例えば下部燃焼室70に2つ設けられたバーナ5および2つ設けられた燃料ガス噴射ノズル50の各配置について説明する。図2において、一のバーナ5Aのバーナ口は炉壁70aに設けられ、他のバーナ5Bのバーナ口は炉壁70cに設けられる。バーナ5Bのバーナ口は、バーナ5Aのバーナ口に対して、炉壁70a,70cの延在方向d1に所定距離ずれて配置されている。なお以下、上記の延在方向d1に直交する方向を噴射方向d2とする。
【0032】
また、一の燃料ガス噴射ノズル50Aのノズル口は炉壁70aに設けられ、他の燃料ガス噴射ノズル50Bのノズル口は炉壁70cに設けられる。燃料ガス噴射ノズル50Aのノズル口は、バーナ5Aに対して延在方向d1に所定距離ずれて配置されている。燃料ガス噴射ノズル50Aのノズル口は、バーナ5Bのバーナ口に対して噴射方向d2に対向配置されている。一方、燃料ガス噴射ノズル50Bのノズル口は、バーナ5Bに対して延在方向d1に所定距離ずれて配置されている。燃料ガス噴射ノズル50Bのノズル口は、バーナ5Aのバーナ口に対して噴射方向d2に対向配置されている。すなわち、平面視において、バーナ5A、バーナ5B、燃料ガス噴射ノズル50A、および燃料ガス噴射ノズル50Bは千鳥状に互い違いに対向配置されている。
【0033】
燃料ガス噴射ノズル50A,50Bには、燃料ガスの噴射流速を制御する流速制御装置60が設けられる。この流速制御装置60は例えばCPU、ROM、RAMおよびハードディスク等を有しており、ROMに記憶された所定のプログラムを実行することにより燃料ガス噴射ノズル50A,50Bの開口面積を制御するものである。流速制御装置60により燃料ガスの噴射流速が制御されることで、バーナ前方に燃料ガスを集中させ過ぎることが抑制される。それにより、燃料ガスの燃焼不足が抑制される。
【0034】
以上の構成において、各燃料ガス噴射ノズル50から各バーナ5に向けて燃料ガスをそれぞれ噴射させる。これにより、各燃料ガス噴射ノズル50から噴射された燃料ガスは、下部燃焼室70内の酸素濃度の低い領域を通過した後、バーナ前方に到達する。この場合、従来のボイラでは、バーナから遠い地点や炉壁近傍は温度が低いため、このような燃料ガスの噴射方法を実現することは困難であるが、本実施形態の下部燃焼室70は耐火材25で覆われていることで実現可能となる。
【0035】
各々のバーナ前方には旋回のかかった3次空気による再循環渦Rが形成される。再循環渦Rは、排ガスと燃料ガスと燃焼過程の中間生成物とが共存する領域であって、酸素濃度が低く高温の還元領域(下部燃焼室70内で特に高温の還元領域)である。この再循環渦Rの領域に燃料ガスが到達すると、再循環渦Rに燃料ガスが取り込まれることにより高温還元雰囲気で燃焼が進行する。このような構成によりサーマルNOxの生成が抑制される。また、バーナ5から燃料ガスを噴射する従来態様と比較して、燃料ガスが噴射されてから再循環渦Rに到達するまでの燃焼時間を長く確保することができる。そのため、燃焼速度の遅いアンモニアガスのような燃料ガスを下部燃焼室70内に投入しても、バーナ前方の温度が低下され難く、それ故多量の燃料ガスを投入しても高温還元領域による脱硝効果が維持され易くなる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態のボイラ10によれば、以下の効果が奏される。燃料ガスは主燃料と同様にバーナから噴射されることで燃焼炉2内へ導入されることが一般的である。この点について、燃料ガスの噴射量が少量である場合には、バーナ前方に形成された高温還元領域における脱硝反応によって、サーマルNOx低減の効果が期待される。しかしながら、燃料ガスの噴射量を増加させていくと、バーナ前方の高温還元領域で燃焼し切らない燃料ガスの割合が増加する。そのため、バーナ前方の温度を局所的に低下させる可能性がある。その結果、還元反応が抑制されたり、燃焼効率の低下に繋がる恐れがある。この傾向はアンモニアガスのように燃焼速度の遅い燃料ガスほど顕著である。これに対して、本実施形態のように燃料ガス噴射ノズル50をバーナ5とは別体で設けることで、燃料ガスを、バーナ5から噴射される空気(主燃料を運ぶ空気)に希釈されない状態で燃焼炉2内の高温かつ酸素リーンな領域(高温還元領域)に供給することができる。これにより、サーマルNOxの生成が抑制される。また、上記の通り燃料ガス噴射ノズル50をバーナ5とは別体で設けることで、燃焼炉2内における燃料ガスの滞留時間を長くした。このように燃焼炉2内の燃料ガスの滞留時間を長くすることにより、燃料ガスが燃焼し易くなる。そのため、還元領域の温度が低下することを抑制でき、それ故脱硝反応を維持することができる。さらに、燃料ガス噴射ノズル50から噴射された燃料ガスがバーナ前方に過度に集中し過ぎないようにすることができる。これにより、燃料ガスが燃焼し切らないことをより抑制することができるので、還元領域の温度が低下することをより抑制でき、それ故脱硝反応を維持することができる。以上により、燃料ガスの燃焼不足を抑制しつつサーマルNOxの抑制を実現することができる。
【0037】
また、下部燃焼室70が耐火材25で覆われることにより、当該下部燃焼室70内に高温の還元領域を形成し易くなる。これにより、下部燃焼室70内の燃料はガス化が促進され、石油残渣のような難燃性の主燃料を用いる場合であっても、燃焼効率の向上および低サーマルNOx化の両立を実現することができる。また、主燃料に燃料ガスのアンモニアガスを混焼させても、燃焼効率が低下し難くなっている。従来のボイラの場合、主燃料に燃料ガスを混焼させると、当該燃料ガスの燃焼速度の速さゆえに主燃料燃焼のための酸素を奪ってしまい、主燃料の燃焼効率が低下することが一般的であった。これに対して、ボイラ10では、耐火材25により下部燃焼室70内の温度が低下し難く、それにより下部燃焼室70内のガス化が維持されて、燃焼効率が低下し難くなる。
【0038】
また、本実施形態では、燃料ガス噴射ノズル50が燃焼炉2内で最も高温で還元性の高い領域であるバーナ前方に燃料ガスを噴射することで脱硝反応を維持させることができる。
【0039】
また、本実施形態では、燃料ガス噴射ノズル50が、バーナ5が設けられた炉壁70a,70cに対向する炉壁70c,70aに設けられ、当該バーナ5に対して対向配置されていることによって、燃焼炉2内で最も高温で還元性の高い領域であるバーナ前方に燃料ガスを高い精度で噴射することができる。これにより、脱硝反応の維持性が向上される。
【0040】
さらに、本実施形態では、燃料ガス噴射ノズル50の噴射流速が流速制御装置60により制御されることで、燃料ガスがバーナ前方に到達し易くなる。
【0041】
(変形例)
上述の実施形態の他にも、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で次のような種々の変形が可能である。
【0042】
上記実施形態では、燃料ガス噴射ノズル50Aをバーナ5Aが設けられた炉壁70aに配置し、燃料ガス噴射ノズル50Bをバーナ5Bが設けられた炉壁70cに配置したが、燃料ガス噴射ノズル50A,50Bの配置はこれに限定されるものではない。図3に示すように、燃料ガス噴射ノズル50Bをバーナ5Aが設けられた炉壁70aに直交する炉壁70bに配置し、燃料ガス噴射ノズル50Aをバーナ5Bが設けられた炉壁70cに直交する炉壁70dに配置してもよい。この場合においても、燃料ガス噴射ノズル50Bの噴射方向は主にバーナ5Aの前方の再循環渦Rに向くよう設定され、燃料ガス噴射ノズル50Aの噴射方向は主にバーナ5Bの前方の再循環渦Rに向くよう設定される。すなわち、各燃料ガス噴射ノズルの噴射方向がバーナ前方の領域(つまり再循環渦Rが存在する領域)に向くように設定されれば、当該燃料ガス噴射ノズルの配置については特に限定されるものではない。
【0043】
また、上記実施形態では、燃焼灰を燃焼炉2の上部から排出すると共にバーナ5A,5Bを燃焼炉2の下部(下部燃焼室70)に配置するように構成したが、これに限定されるものではなく、燃焼灰を燃焼炉2の下部から排出すると共にバーナ5A,5Bを燃焼炉2の上部に配置するように構成してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、下部燃焼室70の形状を平面視で正方形又は矩形状に形成するようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば平面視で六角形状等の他の形状(多角形状)に形成することも可能である。
【0045】
さらに、上記実施形態において燃料ガス噴射ノズル50を燃焼炉2の上流側に配置されたバーナ5にのみ対応して設けてもよい。このような構成により、燃焼炉2内における燃料ガスの滞留時間を長く確保することができる。これにより、燃料ガスが燃焼し切らないことを抑制することができるので、還元領域の温度が低下することを抑制でき、それ故脱硝反応を維持することができる。
【0046】
(リクレーム)
本発明の燃料燃焼システムは、主燃料を燃焼させる燃焼炉と、前記燃焼炉内の少なくとも一部を覆うように設けられた耐火材と、前記主燃料を前記燃焼炉内に噴射して燃焼させるバーナと、前記バーナとは別体で設けられ、燃料ガスを前記燃焼炉内に噴射する燃料ガス噴射ノズルと、を備えるものである。
【0047】
燃料ガスは主燃料と同様にバーナから噴射されることで燃焼炉内へ導入されることが一般的である。この点につき、燃料ガスの噴射量が少量である場合には、バーナ前方に形成された高温還元領域における脱硝反応によって、サーマルNOxやフューエルNOx低減の効果が期待される。しかしながら、燃料ガスの噴射量を増加させていくと、バーナ前方の高温還元領域で燃焼し切らない燃料ガスの割合が増加する。そのため、バーナ前方の温度を局所的に低下させる可能性がある。その結果、還元反応が抑制されたり、燃焼効率の低下に繋がる恐れがある。この傾向はアンモニアガスのように燃焼速度の遅い燃料ガスほど顕著である。これに対して、本発明のように燃料ガス噴射ノズルをバーナとは別体で設けること(以下、本構成と記)で、燃料ガスを、バーナから噴射される空気(主燃料を運ぶ空気)に希釈されない状態で燃焼炉内の高温かつ酸素リーンな領域(高温還元領域)に供給することができる。これにより、サーマルNOxの生成が抑制される。また、本構成により、燃焼炉内における燃料ガスの滞留時間を長くし、当該燃料ガスの大半が酸素リーンな雰囲気を通過するようにした。これにより、燃料ガスが燃焼し切らないことを抑制することができるので、還元領域の温度が低下することを抑制でき、それ故脱硝反応を維持することができる。さらに、本構成により、燃料ガス噴射ノズルから噴射された燃料ガスがバーナ前方に過度に集中し過ぎないようにすることができる。これにより、燃料ガスが燃焼し切らないことをより抑制することができるので、還元領域の温度が低下することをより抑制でき、それ故脱硝反応を維持することができる。以上の次第で、本発明に従えば、燃料ガスの燃焼不足の抑制およびサーマルNOxの抑制を実現することができる。
【0048】
上記発明において、前記燃料ガス噴射ノズルは前記バーナの前方に向けて前記燃料ガスを噴射してもよい。
【0049】
上記構成に従えば、燃焼炉内で最も高温で還元性の高い領域であるバーナ前方に燃料ガスが噴射されることで、脱硝反応を維持させることができる。
【0050】
上記発明において、前記燃焼炉は、その下部に形成され、平面視で多角形を形成する少なくとも4つの第1乃至第4炉壁を有すると共に前記耐火材で覆われた下部燃焼室を備え、前記第1炉壁と前記第3炉壁とが対向配置され、前記第2炉壁と前記第4炉壁とが対向配置され、前記バーナは、前記第1炉壁および前記第3炉壁に設けられた複数のバーナを含み、前記燃料ガス噴射ノズルは、前記バーナに対応して、前記第1炉壁および前記第3炉壁に設けられ、又は、前記第2炉壁および前記第4炉壁に設けられた複数の燃料ガス噴射ノズルを含んでもよい。
【0051】
上記構成に従えば、燃焼炉内で最も高温で還元性の高い領域であるバーナ前方に燃料ガスを高い精度で噴射することができる。これにより、脱硝反応を維持させることができる。
【0052】
上記発明において、一の前記燃料ガス噴射ノズルは、前記第1炉壁に設けられた前記バーナに対向配置されるように前記第3炉壁に設けられ、他の前記燃料ガス噴射ノズルは、前記第3炉壁に設けられた前記バーナに対向配置されるように前記第1炉壁に設けられてもよい。
【0053】
上記構成に従えば、燃焼炉内で最も高温で還元性の高い領域であるバーナ前方に燃料ガスを直接的に噴射することができる。これにより、脱硝反応を維持させることができる。
【0054】
上記発明において、前記バーナは、前記燃焼炉の上流側に配置されたバーナおよび前記燃焼炉の下流側に配置されたバーナを含み、前記燃料ガス噴射ノズルは、前記燃焼炉の上流側に配置された前記バーナに対応して設けられてもよい。
【0055】
上記構成に従えば、燃焼炉内における燃料ガスの滞留時間を長くすることができる。これにより、燃料ガスが燃焼し切らないことを抑制することができるので、還元領域の温度が低下することを抑制でき、それ故脱硝反応を維持することができる。
【0056】
上記発明において、燃料燃焼システムは、前記燃料ガス噴射ノズルの噴射流速を制御する流速制御装置をさらに備えてもよい。
【0057】
上記構成に従えば、燃料ガス噴射ノズルの噴射流速が流速制御装置により制御されることで、燃料ガスがバーナ前方に到達し易くなる。
【符号の説明】
【0058】
2 燃焼炉
5,5A,5B バーナ
10 ボイラ(燃料燃焼システムの一例)
20 燃焼室
25 耐火材
28 煙道
50,50A,50B 燃料ガス噴射ノズル
60 流速制御装置
70 下部燃焼室
70a 炉壁(第1炉壁)
70b 炉壁(第2炉壁)
70c 炉壁(第3炉壁)
70d 炉壁(第4炉壁)
d1 延在方向
d2 噴射方向
R 再循環渦
図1
図2
図3