(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】細胞培養用足場材料及び細胞培養用容器
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20241107BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241107BHJP
C07K 7/64 20060101ALN20241107BHJP
C12N 5/00 20060101ALN20241107BHJP
C07K 17/08 20060101ALN20241107BHJP
【FI】
C12M3/00 A ZNA
C12M1/00 A
C07K7/64
C12N5/00
C07K17/08
(21)【出願番号】P 2020528484
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2020019414
(87)【国際公開番号】W WO2020230884
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019092083
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019119079
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 大悟
(72)【発明者】
【氏名】湯川 麻由美
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼倉 健太
(72)【発明者】
【氏名】石井 亮馬
(72)【発明者】
【氏名】井口 博貴
(72)【発明者】
【氏名】新井 悠平
(72)【発明者】
【氏名】羽根田 聡
(72)【発明者】
【氏名】乾 延彦
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0322145(US,A1)
【文献】特開2015-070832(JP,A)
【文献】特開2006-314285(JP,A)
【文献】特開2016-202172(JP,A)
【文献】Bioconjugate Chemistry,2009年,Vol. 20,p. 333-339
【文献】Biomacromolecules,2012年,Vol. 13,p. 2958-2963
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/00
C07K 5/00-14/00
C12N 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタール樹脂部とペプチド部とがリンカー部を介して結合しているペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂を含み、
前記ポリビニルアセタール樹脂部は、ポリビニルブチラール樹脂部であり、前記ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂は、ペプチド含有ポリビニルブチラール樹脂であり、
前記ペプチド部が、環状ペプチド骨格を有し、
前記環状ペプチド骨格が、細胞接着性のアミノ酸配列を有
し、
海島構造を有する、細胞培養用足場材料。
【請求項2】
前記細胞接着性のアミノ酸配列が、RGD配列、YIGSR配列、PDSGR配列、HAV配列、ADT配列、QAV配列、LDV配列、IDS配列、REDV配列、IDAPS配列、KQAGDV配列、又はTDE配列を少なくとも有する、請求項1に記載の細胞培養用足場材料。
【請求項3】
前記細胞接着性のアミノ酸配列が、RGD配列、YIGSR配列、又はPDSGR配列を少なくとも有する、請求項1又は2に記載の細胞培養用足場材料。
【請求項4】
前記細胞接着性のアミノ酸配列が、下記式(1)で表されるRGD配列を少なくとも有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養用足場材料。
Arg-Gly-Asp-X ・・・式(1)
前記式(1)中、Xは、Gly、Ala、Val、Ser、Thr、Phe、Met、Pro、又はAsnを表す。
【請求項5】
前記ペプチド部が、15個以下のアミノ酸により構成され、
前記環状ペプチド骨格が、10個以下のアミノ酸により構成される、請求項1~4のいずれか1項に記載の細胞培養用足場材料。
【請求項6】
前記環状ペプチド骨格が、4個以上10個以下のアミノ酸により構成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞培養用足場材料。
【請求項7】
容器本体と、
請求項1~
6のいずれか1項に記載の細胞培養用足場材料とを備え、
前記容器本体の表面上に、前記細胞培養用足場材料が配置されている、細胞培養用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を培養するために用いられる細胞培養用足場材料に関する。また、本発明は、上記細胞培養用足場材料を用いた細胞培養用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
学術分野、創薬分野及び再生医療分野等の研究開発において、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ及びサル等の動物細胞が用いられている。動物細胞を培養するために用いられる足場材料として、ラミニン及びビトロネクチン等の接着タンパク質、並びにマウス肉腫由来のマトリゲル等の天然高分子材料が用いられている。天然高分子材料を足場材料として用いることで、ラミニンやビトロネクチン等が有する細胞接着性のアミノ酸配列(Arg-Gly-Asp等)を有するドメインと、細胞表面のインテグリンとが結合し、細胞が足場材料に良好に接着し、かつ細胞が良好に増殖する。
【0003】
また、下記の特許文献1には、繰り返し構造とRGD配列等の細胞接着配列とを含むタンパク質が開示されている。このタンパク質は、上記繰り返し構造として、特定のAlaリッチ部位と特定のAla非リッチ部位とが連結した構造を有する。また、特許文献1には、このタンパク質を含む材料を細胞足場材料として用いることができることが記載されている。
【0004】
また、下記の特許文献2~5に示すように合成樹脂を用いた足場材料も知られている。
【0005】
下記の特許文献2には、ポリビニルアセタール化合物からなる成形物又は該ポリビニルアセタール化合物と水溶性多糖類とからなる成形物からなり、該ポリビニルアセタール化合物のアセタール化度が20~60モル%である細胞培養用担体が開示されている。
【0006】
また、下記の特許文献3には、第1の繊維ポリマー足場材を含み、該第1の繊維ポリマー足場材の繊維が整列されている、組成物(足場材料)が開示されている。この繊維ポリマーの材料として、脂肪族ポリエステル等が用いられている。
【0007】
また、下記の特許文献4には、多能性幹細胞の未分化性を維持するための細胞培養方法であって、ポリロタキサンブロック共重合体で被覆された表面を有する培養器上で該多能性幹細胞を培養する工程を含む方法が開示されている。
【0008】
さらに、下記の特許文献5には、表面を有する基板と、上記基板の上記表面に設けられた親水性共重合体層と、上記親水性共重合体層の表面にそれぞれに結合される複数のペプチド鎖とを具備する細胞培養用製品が開示されている。上記親水性共重合体層は、複数のポリビニルアルコール単位、複数のポリビニルアルコール誘導体単位及び複数のカルボン酸基含有単位によって共重合された層である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-064542号公報
【文献】特開2006-314285号公報
【文献】WO2007/090102A1
【文献】特開2017-023008号公報
【文献】特開2015-070832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
足場材料として天然高分子材料を用いることで、播種後の細胞が良好に増殖し、また、仮足が良好に伸展する。しかしながら、天然高分子材料は、高価であったり、天然由来物質であるためロット間のばらつきが大きかったり、動物由来の成分による安全上の懸念があったりする。また、足場材料として、特許文献1に記載のようなRGD配列等の細胞接着配列を有するポリペプチドを用いた場合にも、細胞接着配列以外のアミノ酸配列によって、細胞の接着性や細胞の増殖性にばらつきが生じることがある。
【0011】
一方、特許文献2~5に記載のような合成樹脂を用いた足場材料は、天然高分子材料を用いた足場材料と比べて、安価であり、ロット間のばらつきが小さく、かつ安全性に優れる。しかしながら、特許文献2~4に記載のような従来の合成樹脂を用いた足場材料では、細胞の接着性が低いという問題がある。また、特許文献5に記載のペプチド鎖を有する合成樹脂を用いた足場材料では、細胞の接着性をある程度高めることができるものの十分ではないことがある。
【0012】
本発明の目的は、細胞の接着性に優れる細胞培養用足場材料を提供することである。また、本発明は、上記細胞培養用足場材料を用いた細胞培養用容器を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の広い局面によれば、ポリビニルアルコール誘導体部と、ペプチド部とを有するペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体を含み、前記ペプチド部が、環状ペプチド骨格を有する、細胞培養用足場材料が提供される。
【0014】
本発明に係る細胞培養用足場材料のある特定の局面では、前記ペプチド部が、細胞接着性のアミノ酸配列を有する。
【0015】
本発明に係る細胞培養用足場材料の他の特定の局面では、前記細胞接着性のアミノ酸配列が、RGD配列、YIGSR配列、又はPDSGR配列を少なくとも有する。
【0016】
本発明に係る細胞培養用足場材料のさらに他の特定の局面では、前記細胞接着性のアミノ酸配列が、下記式(1)で表されるRGD配列を少なくとも有する。
【0017】
Arg-Gly-Asp-X ・・・式(1)
【0018】
前記式(1)中、Xは、Gly、Ala、Val、Ser、Thr、Phe、Met、Pro、又はAsnを表す。
【0019】
本発明に係る細胞培養用足場材料のさらに他の特定の局面では、前記環状ペプチド骨格が、4個以上10個以下のアミノ酸により構成される。
【0020】
本発明に係る細胞培養用足場材料のさらに他の特定の局面では、前記ポリビニルアルコール誘導体部と前記ペプチド部とが、リンカー部を介して結合している。
【0021】
本発明に係る細胞培養用足場材料のさらに他の特定の局面では、前記細胞培養用足場材料は、海島構造を有する。
【0022】
本発明に係る細胞培養用足場材料のさらに他の特定の局面では、前記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体が、ポリビニルアセタール樹脂部と、前記ペプチド部とを有するペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂である。
【0023】
本発明の広い局面によれば、容器本体と、上述した細胞培養用足場材料とを備え、前記容器本体の表面上に、前記細胞培養用足場材料が配置されている、細胞培養用容器が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、細胞の接着性に優れる、細胞培養用足場材料及び細胞培養用容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る細胞培養用容器を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)及び(b)は、海島構造の有無の様子を表す画像である。
【
図3】
図3(a)、(b)及び(c)は、SFと細胞の平面形状との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0027】
本発明に係る細胞培養用足場材料は、ポリビニルアルコール誘導体部と、ペプチド部とを有するペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体を含む。本発明に係る細胞培養用足場材料では、上記ペプチド部が、環状ペプチド骨格を有する。
【0028】
本発明に係る細胞培養用足場材料は、上記の構成が備えられているので、細胞の接着性に優れる。また、本発明に係る細胞培養用足場材料は、仮足の伸展性に優れ、かつ細胞の増殖性に優れる。
【0029】
ポリビニルアルコール誘導体部と、ペプチド部とを有するペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体を含む細胞培養用足場材料では、細胞の接着性をある程度高めることができる。しかしながら、上記ペプチド部が環状ペプチド骨格を有さない場合、難接着性の細胞を用いると、細胞の接着性を高めることが困難なことがある。これに対して、本発明に係る細胞培養用足場材料では、上記ペプチド部が環状ペプチド骨格を有するので、難接着性の細胞であっても、細胞の接着性を高めることができる。
【0030】
例えば、ペプチド部が環状ペプチド骨格を有さない細胞培養用足場材料では、長期継代して老化した間葉系幹細胞や、接着性の低い一部のiPS細胞株などを用いた際に、該細胞が足場材に接着しにくいことがある。これに対して、本発明に係る細胞培養用足場材料では、上記ペプチド部が環状ペプチド骨格を有するので、このような難接着性の細胞であっても、細胞の接着性を高めることができる。
【0031】
本発明に係る細胞培養用足場材料により、細胞の接着性が高められる機構としては、以下の(1)及び(2)による機構が推定されるが、これに限定されない。
(1)環状ペプチド骨格が有する立体構造により、ペプチド部の特定のアミノ酸配列(例えば、細胞接着性のアミノ酸配列)が効果的に露出する。このため、特定のアミノ酸配列が細胞に認識されやすくなり、また、ペプチド部が細胞と安定的に結合可能となる。
(2)細胞が産生する分解酵素によってペプチド部が分解されにくく、ペプチド部の安定性が高い。
【0032】
本発明に係る細胞培養用足場材料では、マトリゲル等の天然高分子材料を用いた場合と同様に、播種後の細胞に糸状仮足様の仮足の伸展が観察される。この仮足の伸展は、従来の合成樹脂材料を用いた足場材料では、ほとんど観察されない。
【0033】
本発明に係る細胞培養用足場材料は、細胞の播種密度が小さい場合であっても、細胞が細胞培養用足場材料に良好に接着し、かつ細胞が良好に増殖する。
【0034】
また、本発明に係る細胞培養用足場材料は、従来の天然高分子を用いた細胞足場材料と比べて、安価であり、ロット間のばらつきが小さく、安全性に優れる。本発明に係る細胞足場材料を用いることで、細胞の品質管理の負荷を低減することができる。
【0035】
(細胞培養用足場材料)
本発明に係る細胞培養用足場材料は、ポリビニルアルコール誘導体部と、ペプチド部とを有するペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体を含む。上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0036】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体は、ポリビニルアルコール誘導体部と、ペプチド部とを有する。上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体では、上記ポリビニルアルコール誘導体部と上記ペプチド部とが、リンカー部を介して結合していることが好ましい。したがって、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体は、ポリビニルアルコール誘導体部と、ペプチド部と、リンカー部とを有することが好ましい。
【0037】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体は、後述するように、例えば、ポリビニルアルコール誘導体と、リンカーと、ペプチドとを反応させて得ることができる。なお、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体は、例えば、ポリビニルアルコールと、リンカーと、ペプチドとを反応させて得てもよい。
【0038】
<ポリビニルアルコール誘導体部>
上記ポリビニルアルコール誘導体部は、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、上記ポリビニルアルコール誘導体に由来する構造部分である。上記ポリビニルアルコール誘導体は、ポリビニルアルコールによって誘導される化合物である。上記ポリビニルアルコール誘導体は、ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましく、上記ポリビニルアルコール誘導体部は、ポリビニルアセタール樹脂部であることが好ましい。すなわち、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体は、ポリビニルアセタール樹脂部と、上記ペプチド部とを有するペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。上記ポリビニルアルコール誘導体及び上記ポリビニルアセタール樹脂は、それぞれ1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0039】
上記ポリビニルアルコール誘導体部及び上記ポリビニルアセタール樹脂部は、側鎖にアセタール基と、水酸基と、アセチル基とを有することが好ましい。ただし、上記ポリビニルアルコール誘導体部及び上記ポリビニルアセタール樹脂部は、例えば、アセチル基を有しなくてもよい。例えば、ポリビニルアルコール誘導体部及びポリビニルアセタール樹脂のアセチル基の全てが、上記リンカーと結合することによって、上記ポリビニルアルコール誘導体部及び上記ポリビニルアセタール樹脂部がアセチル基を有していなくてもよい。
【0040】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することによって合成することができる。
【0041】
ポリビニルアルコールのアセタール化に用いられる上記アルデヒドは、特に限定されない。上記アルデヒドとしては、例えば、炭素数が1~10のアルデヒドが挙げられる。上記アルデヒドは、鎖状脂肪族基、環状脂肪族基又は芳香族基を有していてもよく、有していなくてもよい。上記アルデヒドは、鎖状アルデヒドであってもよく、環状アルデヒドであってもよい。
【0042】
上記アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、アクロレイン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ペリルアルデヒド、ホルミルピリジン、ホルミルイミダゾール、ホルミルピロール、ホルミルピペリジン、ホルミルトリアゾール、ホルミルテトラゾール、ホルミルインドール、ホルミルイソインドール、ホルミルプリン、ホルミルベンゾイミダゾール、ホルミルベンゾトリアゾール、ホルミルキノリン、ホルミルイソキノリン、ホルミルキノキサリン、ホルミルシンノリン、ホルミルプテリジン、ホルミルフラン、ホルミルオキソラン、ホルミルオキサン、ホルミルチオフェン、ホルミルチオラン、ホルミルチアン、ホルミルアデニン、ホルミルグアニン、ホルミルシトシン、ホルミルチミン、及びホルミルウラシル等が挙げられる。上記アルデヒドは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0043】
上記アルデヒドは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、又はペンタナールであることが好ましく、ブチルアルデヒドであることがより好ましい。したがって、上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂であることがより好ましく、上記ポリビニルアセタール樹脂部は、ポリビニルブチラール樹脂部であることがより好ましく、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体は、ペプチド含有ポリビニルブチラール樹脂であることがより好ましい。
【0044】
なお、上記アルデヒドの配合量は、目的とするアセタール基量にあわせて適宜設定することができる。アセタール化反応の効率を高め、かつ未反応のアルデヒドを容易に除去する観点からは、ポリビニルアルコール100モル%に対して、上記アルデヒドの添加量は、好ましくは60モル%以上、より好ましくは65モル%以上、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。
【0045】
上記ポリビニルアルコール誘導体部、上記ポリビニルアセタール樹脂部及び上記ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは500以上、特に好ましくは1500以上、好ましくは6000以下、より好ましくは3000以下、更に好ましくは2500以下である。上記平均重合度が上記下限以上であると、液体培地による膨潤を効果的に抑えることができるため、細胞培養用足場材料の強度を良好に維持することができる。そのため、細胞増殖性を高めることができる。また、上記平均重合度が上記上限以下であると、取扱性を高めることでき、細胞培養用足場材料の成形性を高めることができる。なお、上記ポリビニルアルコール誘導体部、上記ポリビニルアセタール樹脂部及び上記ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は、通常、原料となるポリビニルアルコールの平均重合度と同じであり、ポリビニルアルコールの平均重合度によって求めることができる。
【0046】
上記ポリビニルアルコール誘導体部、上記ポリビニルアセタール樹脂部及び上記ポリビニルアセタール樹脂の数平均分子量(Mn)は、好ましくは10000以上、好ましくは600000以下である。上記ポリビニルアルコール誘導体部、上記ポリビニルアセタール樹脂部及び上記ポリビニルアセタール樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは2000以上、好ましくは1200000以下である。また、上記ポリビニルアルコール誘導体部、上記ポリビニルアセタール樹脂部及び上記ポリビニルアセタール樹脂において、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)は、好ましくは2.0以上、好ましくは40以下である。上記Mn、上記Mw、上記Mw/Mnが上記下限以上及び上記上限以下であると、細胞培養用足場材料の強度を高めることができる。
【0047】
なお、上記ポリビニルアルコール誘導体部、上記ポリビニルアセタール樹脂部及び上記ポリビニルアセタール樹脂の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、例えば、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析により、ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0048】
上記ポリビニルアルコール誘導体部、上記ポリビニルアセタール樹脂部及び上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度(ポリビニルブチラール樹脂の場合にはブチラール化度)は、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下である。上記アセタール化度が上記下限以上であると、細胞の定着性をより高めることができ、細胞が効率よく増殖する。上記アセタール化度が上記上限以下であると、溶剤への溶解性を良好にすることができる。
【0049】
上記ポリビニルアルコール誘導体部、上記ポリビニルアセタール樹脂部及び上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率(水酸基量)は、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上、好ましくは45モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは25モル%以下である。
【0050】
上記ポリビニルアルコール誘導体部、上記ポリビニルアセタール樹脂部及び上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度(アセチル基量)は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは2モル%以上、好ましくは5モル%以下、より好ましくは4モル%以下である。上記アセチル化度が上記下限以上及び上記上限以下であると、ポリビニルアセタール樹脂とリンカーとの反応効率を高めることができる。
【0051】
上記ポリビニルアルコール誘導体部、上記ポリビニルアセタール樹脂部及び上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度、アセチル化度及び水酸基量は、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)により測定することができる。
【0052】
<ペプチド部>
上記ペプチド部は、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、上記ペプチドに由来する構造部分である。上記ペプチド部は、アミノ酸配列を有する。上記ペプチド部を構成するペプチドは、オリゴペプチドであってもよく、ポリペプチドであってもよい。上記ペプチドは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
上記ペプチド部は、環状ペプチド骨格を有する。上記環状ペプチド骨格とは、複数個のアミノ酸より構成された環状骨格である。上記ペプチド部は、環状ペプチド骨格のみを有していてもよく、環状ペプチド骨格と環状ペプチド骨格以外の骨格(鎖状ペプチド骨格等)とを有していてもよい。
【0054】
上記ペプチド部は、4個以上のアミノ酸により構成されることが好ましく、5個以上のアミノ酸により構成されることがより好ましく、15個以下のアミノ酸により構成されることが好ましく、10個以下のアミノ酸により構成されることがより好ましい。上記ペプチド部を構成するアミノ酸の個数が上記下限以上及び上記上限以下であると、細胞による特定のアミノ酸配列の認識性を高めることができ、細胞の接着性及び増殖性をより一層高めることができる。また、上記ペプチド部を構成するアミノ酸の個数が上記下限以上及び上記上限以下であると、仮足の伸展性をより一層良好にすることができる。
【0055】
上記環状ペプチド骨格は、4個以上のアミノ酸により構成されることが好ましく、5個以上のアミノ酸により構成されることがより好ましく、10個以下のアミノ酸により構成されることが好ましく、7個以下のアミノ酸により構成されることがより好ましい。上記環状ペプチド骨格を構成するアミノ酸の個数が上記下限以上であると、細胞による特定のアミノ酸配列の認識性を高めることができ、細胞の接着性及び増殖性をより一層高めることができる。また、上記環状ペプチド骨格を構成するアミノ酸の個数が上記下限以上及び上記上限以下であると、仮足の伸展性をより一層良好にすることができる。コストを低く抑える観点からは、上記環状ペプチド骨格を構成するアミノ酸の個数は5個であることが好ましい。
【0056】
上記ペプチド部は、細胞接着性のアミノ酸配列を有することが好ましい。なお、細胞接着性のアミノ酸配列とは、ファージディスプレイ法、セファローズビーズ法、又はプレートコート法によって細胞接着活性が確認されているアミノ酸配列をいう。上記ファージディスプレイ法としては、例えば、「The Journal of Cell Biology, Volume 130, Number 5, September 1995 1189-1196」に記載の方法を用いることができる。上記セファローズビーズ法としては、例えば「蛋白質 核酸 酵素 Vol.45 No.15 (2000) 2477」に記載の方法を用いることができる。上記プレートコート法としては、例えば「蛋白質 核酸 酵素 Vol.45 No.15 (2000) 2477」に記載の方法を用いることができる。
【0057】
上記細胞接着性のアミノ酸配列としては、例えば、RGD配列(Arg-Gly-Asp)、YIGSR配列(Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg)、PDSGR配列(Pro-Asp-Ser-Gly-Arg)、HAV配列(His-Ala-Val)、ADT配列(Ala-Asp-Thr)、QAV配列(Gln-Ala-Val)、LDV配列(Leu-Asp-Val)、IDS配列(Ile-Asp-Ser)、REDV配列(Arg-Glu-Asp-Val)、IDAPS配列(Ile-Asp-Ala-Pro-Ser)、KQAGDV配列(Lys-Gln-Ala-Gly-Asp-Val)、及びTDE配列(Thr-Asp-Glu)等が挙げられる。また、上記細胞接着性のアミノ酸配列としては、「病態生理、第9巻 第7号、527~535頁、1990年」、及び「大阪府立母子医療センター雑誌、第8巻 第1号、58~66頁、1992年」に記載されている配列等も挙げられる。上記ペプチド部は、上記細胞接着性のアミノ酸配列を1種のみ有していてもよく、2種以上を有してもよい。
【0058】
上記細胞接着性のアミノ酸配列は、上述した細胞接着性のアミノ酸配列の内の少なくともいずれかを有することが好ましく、RGD配列、YIGSR配列、又はPDSGR配列を少なくとも有することがより好ましく、下記式(1)で表されるRGD配列を少なくとも有することが更に好ましい。この場合には、細胞の接着性及び増殖性をより一層高めることができ、仮足の伸展性をより一層良好にすることができる。
【0059】
Arg-Gly-Asp-X ・・・式(1)
【0060】
上記式(1)中、Xは、Gly、Ala、Val、Ser、Thr、Phe、Met、Pro、又はAsnを表す。
【0061】
上記ペプチド部が上記細胞接着性のアミノ酸配列を有する場合に、上記環状ペプチド骨格が、上記細胞接着性のアミノ酸配列を有してもよく、有していなくてもよい。細胞による上記細胞接着性のアミノ酸配列の認識性を高め、細胞の接着性及び増殖性をより一層高める観点からは、上記環状ペプチド骨格が、上記細胞接着性のアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0062】
上記ペプチド部が上記細胞接着性のアミノ酸配列を有する場合に、該細胞接着性のアミノ酸配列のN末端におけるアミノ酸又はC末端におけるアミノ酸と、リンカーとが結合していてもよく、該細胞接着性のアミノ酸配列とは異なる部分のアミノ酸配列を構成するアミノ酸と、リンカーとが結合していてもよい。
【0063】
上記ペプチド部が上記細胞接着性のアミノ酸配列を有する場合、上記細胞接着性のアミノ酸配列とは異なる部分のアミノ酸配列を構成するアミノ酸と、リンカー部とが結合していることがより好ましい。この場合には、細胞の接着性及び増殖性をより一層高めることでき、仮足の伸展性をより一層良好にすることができる。
【0064】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体100重量%中、上記ペプチド部の含有率は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは1重量%以上、特に好ましくは5重量%以上である。上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体100重量%中、上記ペプチド部の含有率は、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下、更に好ましくは20重量%以下、特に好ましくは15重量%以下である。上記ペプチド部の含有率が上記下限以上であると、細胞の接着性及び増殖性を更により一層高めることでき、仮足の伸展性を更により一層良好にすることができる。
【0065】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、上記ペプチド部の含有率は、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、より一層好ましくは1モル%以上、更に好ましくは5モル%以上、特に好ましくは10モル%以上である。上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、上記ペプチド部の含有率は、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは35モル%以下、特に好ましくは25モル%以下である。上記ペプチド部の含有率が上記下限以上であると、細胞の接着性及び増殖性を更により一層高めることでき、仮足の伸展性を更により一層良好にすることができる。上記ペプチド部の含有率が上記上限以下であると、製造コストを抑えることができる。なお、上記ペプチド部の含有率(モル%)は、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体を構成する各構造単位の物質量の総和に対する上記ペプチド部の物質量である。
【0066】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、上記アセタール基と上記水酸基と上記アセチル基との合計の含有率に対する、上記ペプチド部の含有率のモル比(上記ペプチド部の含有率/上記アセタール基と上記水酸基と上記アセチル基との合計の含有率)は、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.001以上である。上記モル比(上記ペプチド部の含有率/上記アセタール基と上記水酸基と上記アセチル基との合計の含有率)が上記下限以上であると、細胞の接着性及び増殖性を更により一層高めることでき、仮足の伸展性を更により一層良好にすることができる。上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、上記アセタール基と上記水酸基と上記アセチル基との合計の含有率に対する、上記ペプチド部の含有率のモル比(上記ペプチド部の含有率/上記アセタール基と上記水酸基と上記アセチル基との合計の含有率)の上限は特に限定されない。製造コスト等の観点からは、上記モル比(上記ペプチド部の含有率/上記アセタール基と上記水酸基と上記アセチル基との合計の含有率)は、好ましくは0.2以下である。
【0067】
上記ペプチド部の含有率は、FT-IR又はLC-MSにより測定することができる。
【0068】
<リンカー部>
上記リンカー部は、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、上記リンカーに由来する構造部分である。上記リンカー部は、上記ポリビニルアルコール誘導体部と上記ペプチド部との間に位置する。上記ポリビニルアルコール誘導体部と上記ペプチド部とが、上記リンカー部を介して結合している。上記リンカー部は、リンカー(架橋剤)によって形成される。上記リンカーは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0069】
上記リンカーは、上記ペプチドのカルボキシル基又はアミノ基と縮合可能な官能基を有する化合物であることが好ましい。上記ペプチドのカルボキシル基又はアミノ基と縮合可能な官能基としては、カルボキシル基、チオール基及びアミノ基等が挙げられる。ペプチドと良好に反応させる観点からは、上記リンカーは、カルボキシル基を有する化合物であることが好ましい。
【0070】
上記カルボキシル基を有するリンカーとしては、(メタ)アクリル酸及びカルボキシル基含有アクリルアミド等が挙げられる。上記カルボキシル基を有するリンカーとして重合性不飽和基を有するカルボン酸(カルボン酸モノマー)を用いることにより、リンカーの導入時にグラフト重合により該カルボン酸モノマーを重合させることができるため、ペプチドと反応させることができるカルボキシル基の個数を増やすことができる。
【0071】
ポリビニルアルコール誘導体とペプチドとを良好に結合させる観点からは、上記リンカーは、(メタ)アクリル酸であることが好ましく、アクリル酸であることがより好ましい。
【0072】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体は、例えば、以下のようにして合成することができる。
【0073】
(1)ポリビニルアルコール誘導体(例えばポリビニルアセタール樹脂)と、リンカーとを反応させて、ポリビニルアセタール樹脂とリンカーとが結合した反応物を得る。(2)得られた反応物と、ペプチドとを反応させて、ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体(ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂)を得る。
【0074】
上記(1)において、上記ポリビニルアセタール樹脂と上記リンカーとが結合した反応物を得る方法としては、ポリビニルアルコールと重合性不飽和基を有するカルボン酸との共重合体をアセタール化する方法、及びポリビニルアセタール樹脂とリンカー(例えばカルボン酸モノマー)とを紫外線照射下でグラフト共重合する方法等が挙げられる。上記反応物を得る方法は、上記グラフト共重合する方法であることが好ましい。この場合には、グラフト重合により該カルボン酸モノマーを重合させることができるため、ペプチドと反応させることができるカルボキシル基の個数を増やすことができる。
【0075】
上記(2)において、得られた反応物におけるリンカー由来のカルボキシル基と、ペプチドのアミノ基とを脱水縮合させて、ポリビニルアセタール樹脂部と、ペプチド部と、リンカー部とを有するペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体(ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂)を得ることができる。
【0076】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体は、リンカー由来のカルボキシル基が残存していてもよく、残存していなくてもよい。上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体の上記カルボキシル基の含有率は、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.5モル%以上、好ましくは2モル%以下、より好ましくは1.5モル%以下である。上記カルボキシル基の含有率が上記下限以上及び上記上限以下であると、細胞の接着性及び増殖性を更により一層高めることでき、仮足の伸展性を更により一層良好にすることができる。なお、上記カルボキシル基の含有率(モル%)は、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体を構成する各構造単位の物質量の総和に対する上記カルボキシル基の物質量である。
【0077】
細胞の接着性及び増殖性をより一層高める観点から、上記細胞培養用足場材料は、相分離構造を有することが好ましい。上記相分離構造は、第1の相と第2の相とを少なくとも有する。
【0078】
上記相分離構造としては、例えば、海島構造、シリンダー構造、ジャイロイド構造、及びラメラ構造等のミクロ相分離構造が挙げられる。海島構造では、例えば、第1の相を海部とし、第2の相を島部とすることができる。シリンダー構造、ジャイロイド構造、又はラメラ構造では、例えば、表面積が最も大きい相を第1の相とし、表面積が2番目に大きい相を第2の相とすることができる。上記細胞培養用足場材料が連続相と不連続相とを有することで、細胞との親和性を高め、細胞の接着性及び増殖性をより一層高めることができる。
【0079】
上記相分離構造は、海島構造であることが好ましい。上記細胞培養用足場材料は、海島構造を有することが好ましい。この場合には、細胞の接着性及び増殖性をより一層高めることができる。
【0080】
上記細胞培養用足場材料が海島構造を有する場合に、細胞培養用足場材料の表面全体に対する、島部(第2の相)の表面積分率は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.2以上であり、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.8以下である。上記表面積分率が上記下限以上及び上記上限以下であると、細胞の接着性をより一層高めることができる。
【0081】
上記細胞培養用足場材料が海島構造を有する場合に、島部がペプチド部を含むことが好ましい。すなわち、上記細胞培養用足場材料は、海部と島部とを有し、島部がペプチド部を含むことが好ましい。この場合、細胞の接着ドメインが島部に集積することで、細胞の接着性を更に一層高めることができる。
【0082】
相分離構造の有無は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)等により確認することができる。また、上記表面積分率は、顕微鏡観察画像から例えばImageJなどの画像解析ソフトを用いて求めることができる。
【0083】
上記相分離構造は、例えば、ペプチド部の含有率を高くし、ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体の分子間又は分子内に相分離構造を形成することによって形成させることができる。
【0084】
本発明の効果を効果的に発揮させる観点及び生産性を高める観点からは、上記細胞培養用足場材料100重量%中、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体の含有量は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは97.5重量%以上、特に好ましくは99重量%以上、最も好ましくは100重量%(全量)である。したがって、上記細胞培養用足場材料は、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体であることが最も好ましい。上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体の含有量が上記下限以上であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮させることができる。
【0085】
上記細胞培養用足場材料は、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体以外のポリマーを含んでいてもよい。該ポリマーとしては、ポリビニルアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース、及びポリペプチド等が挙げられる。上記ポリマーは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0086】
本発明の効果を効果的に発揮させる観点からは、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体以外のポリマーの含有量は少ないほどよい。上記細胞培養用足場材料100重量%中、該ポリマーの含有量は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、更に好ましくは2.5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下、最も好ましくは0重量%(未含有)である。したがって、細胞培養用足場材料は、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体以外のポリマーを含まないことが最も好ましい。
【0087】
本発明に係る細胞培養用足場材料は、動物由来の原料を実質的に含まないことが好ましい。動物由来の原料を実質的に含まないことにより、ロット間のばらつきが少なく、コスト、安全性に優れる細胞培養用足場材料を提供することができる。なお、「動物由来の原料を実質的に含まない」とは、細胞培養用足場材料中における動物由来の原料が、3重量%以下であることを意味する。本発明に係る細胞培養用足場材料は、細胞培養用足場材料中における動物由来の原料が、1重量%以下であることが好ましく、0重量%であることがより好ましい。すなわち、上記細胞培養用足場材料は、細胞培養用足場材料中に動物由来の原料を含まないことがより好ましい。
【0088】
なお、細胞培養用足場材料は、後述の容器本体の表面上で作製してもよい。例えば、ポリビニルアルコール誘導体部とリンカーとを有する合成樹脂を、容器本体の表面上にコーティングして樹脂膜を形成し、該樹脂膜の表面において該合成樹脂とペプチドとを反応させて、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体を得てもよい。
【0089】
(細胞培養用足場材料の他の詳細)
本発明に係る細胞培養用足場材料は、細胞を培養するために用いられる。本発明に係る細胞培養用足場材料は、細胞を培養する際の該細胞の足場として用いられる。
【0090】
上記細胞としては、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ及びサル等の動物細胞が挙げられる。また、上記細胞としては、体細胞等が挙げられ、例えば、幹細胞、前駆細胞及び成熟細胞等が挙げられる。上記体細胞は、癌細胞であってもよい。
【0091】
上記成熟細胞としては、神経細胞、心筋細胞、網膜細胞及び肝細胞等が挙げられる。
【0092】
上記幹細胞としては、間葉系幹細胞(MSC)、iPS細胞、ES細胞、Muse細胞、胚性がん細胞、胚性生殖幹細胞、及びmGS細胞等が挙げられる。
【0093】
上記細胞培養用足場材料の形状は特に限定されない。上記細胞培養用足場材料は、膜状であってもよく、粒子状であってもよく、繊維状であってもよく、多孔体状であってもよい。膜状には、フィルム状、シート状が含まれる。
【0094】
上記細胞培養用足場材料は、細胞の二次元培養(平面培養)、三次元培養又は浮遊培養に用いられることが好ましく、二次元培養(平面培養)に用いられることがより好ましい。
【0095】
また、上記細胞培養用足場材料は、該細胞培養用足場材料と、多糖類とを含む細胞培養用担体(媒体)として用いることもできる。上記多糖類は、特に限定されず、従来公知の多糖類を用いることができる。上記多糖類は、水溶性多糖類であることが好ましい。
【0096】
また、上記細胞培養用足場材料は、繊維本体と、該繊維本体の表面上に配置された細胞培養用足場材料とを備える細胞培養用繊維として用いることもできる。この場合、細胞培養用足場材料は、繊維本体の表面に塗布されていることが好ましく、塗布物であることが好ましい。この細胞培養用繊維では、繊維本体中に細胞培養用足場材料が存在していてもよい。例えば、繊維本体を液状の細胞培養用足場材料に含浸したり、練り込んだりすることにより細胞培養用足場材料を繊維本体中に存在させることができる。幹細胞は、一般に、平面構造には接着しにくく、線維状構造などの立体構造には接着しやすい性質を有するため、細胞培養用繊維は、幹細胞の三次元培養に好適に用いられる。幹細胞のなかでも、脂肪幹細胞の三次元培養により好適に用いられる。
【0097】
上記細胞培養用足場材料における合成樹脂は、架橋されていてもよい。架橋された合成樹脂を含む細胞培養用足場材料は、水膨潤性が効果的に抑制され、強度を高めることができる。架橋剤を用いることにより、合成樹脂を架橋させることができる。
【0098】
(細胞培養用容器)
本発明に係る細胞培養用容器は、容器本体と、上述した細胞培養用足場材料とを備え、上記容器本体の表面上に、該細胞培養用足場材料が配置されている。上記細胞培養用容器は、細胞の培養領域の少なくとも一部に上記細胞培養用足場材料を備える。
【0099】
図1は、本発明の一実施形態に係る細胞培養用容器を模式的に示す断面図である。
【0100】
細胞培養用容器1は、容器本体2と、細胞培養用足場材料3とを備える。容器本体2の表面2a上に細胞培養用足場材料3が配置されている。容器本体2の底面上に細胞培養用足場材料3が配置されている。細胞培養用容器1に液体培地を添加し、また、細胞塊等の細胞を細胞培養用足場材料3の表面に播種することで、細胞を平面培養することができる。
【0101】
なお、容器本体は、第1の容器本体と、該第1の容器本体の底面上にカバーガラス等の第2の容器本体とを備えていてもよい。第1の容器本体と第2の容器本体とは分離可能であってもよい。この場合、第2の容器本体の表面上に、該細胞培養用足場材料が配置されていてもよい。
【0102】
上記容器本体として、従来公知の容器本体(容器)を用いることができる。上記容器本体の形状および大きさは特に限定されない。
【0103】
上記容器本体としては、1個又は複数個のウェル(穴)を備える細胞培養用プレート、及び細胞培養用フラスコ等が挙げられる。上記プレートのウェル数は特に限定されない。該ウェル数としては、特に限定されないが、例えば、2、4、6、12、24、48、96、384等が挙げられる。上記ウェルの形状としては、特に限定されないが、真円、楕円、三角形、正方形、長方形、五角形等が挙げられる。上記ウェル底面の形状としては、特に限定されないが、平底、丸底、凹凸等が挙げられる。
【0104】
上記容器本体の材質は特に限定されないが、樹脂、金属及び無機材料が挙げられる。上記樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイソプレン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン等が挙げられる。上記金属としては、ステンレス、銅、鉄、ニッケル、アルミ、チタン、金、銀、白金等が挙げられる。上記無機材料としては、酸化ケイ素(ガラス)、酸化アルミ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、窒化ケイ素等が挙げられる。
【0105】
以下に実施例及び比較例を掲げて本発明を更に詳しく説明する。本発明はこれら実施例のみに限定されない。なお、以下の実施例1,5は参考例である。
【0106】
なお、得られた合成樹脂における構造単位の含有率は、合成樹脂をDMSO-d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解した後、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)により測定した。また、ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体におけるペプチドの含有率は、FT-IR又はLC-MSにより測定した。得られた合成樹脂のアセタール化度(ブチラール化度)、水酸基量、アセチル化度、カルボキシル基の含有率、及びペプチド部の含有率を表1~3に示した。
【0107】
(実施例1)
ポリビニルアセタール樹脂(PVB1)の作製:
攪拌装置を備えた反応機に、イオン交換水2700mL、平均重合度1700、鹸化度99モル%のポリビニルアルコールを300重量部投入し、攪拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。得られた溶液に、触媒として、塩酸濃度が0.2重量%となるように35重量%塩酸を添加した。次いで、温度を15℃に調整し、攪拌しながらn-ブチルアルデヒド22重量部を添加した。次いで、n-ブチルアルデヒド148重量部を添加し、白色粒子状のポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルブチラール樹脂)を析出させた。析出してから15分後に、塩酸濃度が1.8重量%になるように35重量%塩酸を添加した後、50℃に加熱し、50℃で2時間保持した。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラール樹脂を水洗し、乾燥させて、ポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルブチラール樹脂(PVB1)、平均重合度1700、アセタール化度(ブチラール化度)70モル%、水酸基量27モル%、アセチル化度3モル%)を得た。
【0108】
リンカーの導入:
得られたポリビニルアセタール樹脂99重量部と、アクリル酸(リンカー)1重量部とをTHF300重量部に溶解し、光ラジカル重合開始剤の存在下で、紫外線照射下で20分間反応させ、ポリビニルアセタール樹脂とアクリル酸とをグラフト共重合させることにより、リンカーを導入した。リンカーを導入したポリビニルアセタール樹脂1重量部をブタノール19重量部に溶解させた。得られた溶液150μLを、エアダスターで除塵したφ22mmのカバーガラス(松浪社製「22丸No.1」)の表面上に吐出し、スピンコーターを用いて2000rpm、20秒回転させた後、60℃で60分間加熱して、表面が平滑な樹脂膜を得た。
【0109】
ペプチド部の形成:
Arg-Gly-Asp-Phe-Lysのアミノ酸配列を有する環状のペプチド(アミノ酸残基数5個、ArgとLysとが結合することにより環状骨格を形成、PheはD体、表ではc-RGDfKと記載)を用意した。このペプチド1重量部と、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(縮合剤)1重量部とを、カルシウム及びマグネシウムの双方を含まないリン酸緩衝生理食塩水に該ペプチドの終濃度が1mMとなるよう添加し、ペプチド含有液を作製した。このペプチド含有液1重量部を、スピンコートした樹脂膜(リンカーを形成したポリビニルアセタール樹脂)に添加し、反応させて、リンカーのカルボキシル基と、ペプチドのLysのアミノ基とを脱水縮合した。このようにして、ポリビニルアセタール樹脂部と、リンカー部と、ペプチド部とを有するペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂を作製した。
【0110】
得られたペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度(ブチラール化度)69.3モル%、水酸基量26.7モル%、アセチル化度3.0モル%、カルボキシル基の含有率0.9モル%、ペプチド部の含有率0.1モル%であった。
【0111】
細胞培養用容器の作製:
得られたペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂とカバーガラスとの積層体を、φ22mmのポリスチレンディッシュに配置することにより細胞培養用容器を得た。
【0112】
(実施例2)
ポリビニルアセタール樹脂(PVB2)の作製:
攪拌装置を備えた反応機に、イオン交換水2700mL、平均重合度1700、鹸化度99モル%のポリビニルアルコールを300重量部投入し、攪拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。得られた溶液に、触媒として、塩酸濃度が0.2重量%となるように35重量%塩酸を添加した。次いで、温度を15℃に調整し、攪拌しながらn-ブチルアルデヒド22重量部を添加した。次いで、n-ブチルアルデヒド143重量部を添加し、白色粒子状のポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルブチラール樹脂)を析出させた。析出してから15分後に、塩酸濃度が1.8重量%になるように35重量%塩酸を添加した後、50℃に加熱し、50℃で2時間保持した。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラール樹脂を水洗し、乾燥させて、ポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルブチラール樹脂(PVB2)、平均重合度1700、アセタール化度(ブチラール化度)69モル%、水酸基量28モル%、アセチル化度3モル%)を得た。
【0113】
リンカーの導入:
得られたポリビニルアセタール樹脂70重量部と、アクリル酸(リンカー)30重量部とをTHF300重量部に溶解し、光ラジカル重合開始剤の存在下で、紫外線照射下で20分間反応させ、ポリビニルアセタール樹脂とアクリル酸とをグラフト共重合させることにより、リンカーを導入した。リンカーを導入したポリビニルアセタール樹脂1重量部をブタノール19重量部に溶解させた。得られた溶液150μLを、エアダスターで除塵したφ22mmのカバーガラス(松浪社製「22丸No.1」)の表面上に吐出し、スピンコーターを用いて2000rpm、20秒回転させた後、60℃で60分間加熱して、表面が平滑な樹脂膜を得た。
【0114】
ペプチド部の形成:
得られた樹脂膜(リンカーを導入したポリビニルアセタール樹脂)を用いたこと、ペプチドの添加量を30重量部にしたこと以外は、実施例1と同様にして、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂を作製した。
【0115】
細胞培養用容器の作製:
実施例1と同様にして、細胞培養用容器を得た。
【0116】
(実施例3)
ポリビニルアセタール樹脂(PVB3)の作製:
攪拌装置を備えた反応機に、イオン交換水2700mL、平均重合度1700、鹸化度99モル%のポリビニルアルコールを300重量部投入し、攪拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。得られた溶液に、触媒として、塩酸濃度が0.2重量%となるように35重量%塩酸を添加した。次いで、温度を15℃に調整し、攪拌しながらn-ブチルアルデヒド22重量部を添加した。次いで、n-ブチルアルデヒド133重量部を添加し、白色粒子状のポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルブチラール樹脂)を析出させた。析出してから15分後に、塩酸濃度が1.8重量%になるように35重量%塩酸を添加した後、50℃に加熱し、50℃で2時間保持した。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラール樹脂を水洗し、乾燥させて、ポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルブチラール樹脂(PVB3)、平均重合度1700、アセタール化度(ブチラール化度)63モル%、水酸基量34モル%、アセチル化度3モル%)を得た。
【0117】
リンカーの導入:
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いたこと以外は実施例2と同様にしてリンカーを導入した。また、実施例2と同様にして表面が平滑な樹脂膜を得た。
【0118】
ペプチド部の形成:
得られた樹脂膜(リンカーを導入したポリビニルアセタール樹脂)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂を作製した。
【0119】
細胞培養用容器の作製:
実施例1と同様にして、細胞培養用容器を得た。
【0120】
(実施例4)
ポリビニルアセタール樹脂(PVB4)の作製:
攪拌装置を備えた反応機に、イオン交換水2700mL、平均重合度1700、鹸化度99モル%のポリビニルアルコールを300重量部投入し、攪拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。得られた溶液に、触媒として、塩酸濃度が0.2重量%となるように35重量%塩酸を添加した。次いで、温度を15℃に調整し、攪拌しながらn-ブチルアルデヒド22重量部を添加した。次いで、n-ブチルアルデヒド133重量部を添加し、白色粒子状のポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルブチラール樹脂)を析出させた。析出してから15分後に、塩酸濃度が1.8重量%になるように35重量%塩酸を添加した後、50℃に加熱し、50℃で2時間保持した。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラール樹脂を水洗し、乾燥させて、ポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルブチラール樹脂(PVB4)、平均重合度1700、アセタール化度(ブチラール化度)50モル%、水酸基量47モル%、アセチル化度3モル%)を得た。
【0121】
リンカーの導入:
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いたこと以外は実施例2と同様にしてリンカーを導入した。また、実施例2と同様にして表面が平滑な樹脂膜を得た。
【0122】
ペプチド部の形成:
得られた樹脂膜(リンカーを導入したポリビニルアセタール樹脂)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂を作製した。
【0123】
細胞培養用容器の作製:
実施例1と同様にして、細胞培養用容器を得た。
【0124】
(比較例1)
Arg-Gly-Asp-Serのアミノ酸配列を有する直鎖状のペプチド(アミノ酸残基数4個、表ではRGDSと記載)を用いたこと、リンカーのカルボキシル基と、ペプチドのArgのアミノ基とを脱水縮合したこと以外は、実施例1と同様にして、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂及び細胞培養用容器を作製した。
【0125】
(比較例2)
Gly-Arg-Gly-Asp-Serのアミノ酸配列を有する直鎖状のペプチド(アミノ酸残基数5個、表ではGRGDSと記載)を用いたこと、リンカーのカルボキシル基と、ペプチドのGlyのアミノ基とを脱水縮合したこと以外は、実施例2と同様にして、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂及び細胞培養用容器を作製した。
【0126】
(比較例3)
Gly-Arg-Gly-Asp-Serのアミノ酸配列を有する直鎖状のペプチド(アミノ酸残基数5個、表ではGRGDSと記載)を用いたこと、リンカーのカルボキシル基と、ペプチドのGlyのアミノ基とを脱水縮合したこと以外は、実施例3と同様にして、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂及び細胞培養用容器を作製した。
【0127】
(比較例4)
Gly-Arg-Gly-Asp-Serのアミノ酸配列を有する直鎖状のペプチド(アミノ酸残基数5個、表ではGRGDSと記載)を用いたこと、リンカーのカルボキシル基と、ペプチドのGlyのアミノ基とを脱水縮合したこと以外は、実施例4と同様にして、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂及び細胞培養用容器を作製した。
【0128】
(比較例5)
ペプチド部を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして、細胞培養用容器を作製した。
【0129】
(実施例5)
平均重合度1700、鹸化度90モル%のポリビニルアルコール99重量部と、アクリル酸(リンカー)1重量部とをエタノール300重量部に溶解し、光ラジカル重合開始剤の存在下で、紫外線照射下で20分間反応させ、ポリビニルアルコールとアクリル酸とをグラフト共重合させることにより、リンカーを導入した。これら以外は、実施例1と同様にして、ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体及び細胞培養用容器を作製した。
【0130】
(比較例6)
平均重合度1700、鹸化度90モル%のポリビニルアルコール99重量部と、アクリル酸(リンカー)1重量部とをエタノール300重量部に溶解し、光ラジカル重合開始剤の存在下で、紫外線照射下で20分間反応させ、ポリビニルアルコールとアクリル酸とをグラフト共重合させることにより、リンカーを導入した。Gly-Arg-Gly-Asp-Serのアミノ酸配列を有する直鎖状のペプチド(アミノ酸残基数5個、表ではGRGDSと記載)を用いたこと、リンカーのカルボキシル基と、ペプチドのGlyのアミノ基とを脱水縮合したこと以外は、実施例1と同様にして、ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体及び細胞培養用容器を作製した。
【0131】
(参考例A)
天然物由来の足場材の作製:
リン酸バッファー(PBS)中に5μg/mlに調整したVitronectin(コーニング社製)溶液をφ35mmディッシュに1ml添加した。そこにφ22mmのカバーガラス(松浪社製「22丸No.1」)を浸漬させ、37℃で1時間養生することでVitronectinが表面に平滑に吸着した天然物由来の足場材(表中ではVTNと記載)を得た。
【0132】
細胞培養用容器の作製:
実施例1と同様にして、細胞培養用容器を得た。なお、Vitronectinは乾燥すると変性し、接着性能が大きく低下してしまうため、細胞培養用容器の作製後すぐにPBS溶液で浸漬した。
【0133】
(評価)
(1)海島構造の有無
得られたペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂の樹脂膜をPBS溶液に30分間浸漬した。浸漬後の樹脂膜を原子間力顕微鏡(AFM、Bruker社製「Dimension XR」)により観察した。QNMモードでピークセットポイントを2nNに設定する測定条件とし、1μm×1μmの範囲を観察した。得られた高さマッピング画像と弾性率マッピング画像とを比較して海島構造の有無を判断した。なお、表では、海島構造が観察される場合に「A」と記載し、海島構造が観察されない場合に「B」と記載した。
【0134】
図2(a)は、海島構造が観察されると判定される画像の例であり、
図2(b)は、海島構造が観察されないと判定される画像の例である。
【0135】
(3)細胞培養評価
(3-1)iPS細胞(201B7)の播種及び培養
実施例1~4、比較例1~5及び参考例Aで得られた細胞培養用容器を用いて以下を行った。
【0136】
以下の液体培地及びROCK(Rho結合キナーゼ)特異的阻害剤を用意した。
【0137】
TeSR E8培地(STEM CELL社製)
ROCK-Inhibitor(Y27632)
【0138】
得られた細胞培養用容器にリン酸緩衝生理食塩水1mLを加えて37℃のインキュベーター内で1時間静置後、細胞培養用容器からリン酸緩衝生理食塩水を除去した。
【0139】
φ35mmディッシュにコンフルエント状態になったh-iPS細胞201B7に0.5mMエチレンジアミン四酢酸/リン酸緩衝溶液1mLを加え、室温で2分間静置した。エチレンジアミン四酢酸/リン酸緩衝溶液を除去した後、液体培地1mLでピペッティングすることにより50μm~200μmの大きさに砕かれた細胞塊を得た。得られた細胞塊(細胞数1.0×105cells)を上記の細胞培養用容器にクランプ播種した。
【0140】
1mLの液体培地と、終濃度が10μMとなるようにROCK特異的阻害剤とを細胞培養用容器に添加して、37℃及びCO2濃度5%のインキュベーター内で培養を行った。24時間毎に液体培地を1mL除去し、新たな液体培地を1mL加えることで培地交換を行った。
【0141】
(3-2)iPS細胞(253G1)の播種及び培養
実施例5、比較例6及び参考例Aで得られた細胞培養用容器を用いたこと、h-iPS細胞253G1を用いたこと以外は、「(3-1)iPS細胞(201B7)の播種及び培養」と同様にして、細胞の播種及び培養を行った。
【0142】
(3-3)仮足の伸展性
細胞播種から24時間経過後の細胞を位相差顕微鏡(オリンパス社製「IX73」、10×20倍)を用いて観察した。観察において、細胞培養用容器内の最も平均的な接着形態を示す視野の画像を取得した。得られた画像から、シェイプファクター(SF)を求めることにより、仮足の伸展性を評価した。なお、シェイプファクター(SF)とは、細胞を培養した後の細胞の平面視における領域の形状評価係数であり、下記式により求められる。
【0143】
式:SF=4×π×(細胞の平面積)/(細胞の外周縁の長さ)2
【0144】
図3(a)、(b)及び(c)は、SFと細胞の平面形状との関係を示す図である。
図3(a)に示すように、上記SFが1であれば細胞の平面形状は円形となる。SFが小さくなるほど、円形から遠ざかり、細胞の仮足が良好に伸展していることを意味する。
図3(b)は、SF≒0.3の場合の細胞の平面形状を示す写真であり、
図3(c)は、SF≒1である場合の細胞の平面形状を示す写真である。
【0145】
<仮足の伸展性の判定基準>
○:SFが0.1以上0.6以下
×:SFが0.6を超え1以下
【0146】
(3-4)細胞の増殖性
細胞播種から5日経過後の定着細胞塊を、TryPLE Express剥離液 1.0mLを用いて剥離し、細胞数をセルカウンター(Chemometec社製「NucleoCounter NC-3000」)を用いて求めた。次に、下記式を用いて参考例Aに対する細胞増殖率を求めた。なお、参考例Aに対する細胞増殖率は、同一の細胞種(iPS細胞(201B7)又はiPS細胞(253G1))を用いた実験同士で比較している。
【0147】
参考例Aに対する細胞増殖率(%)=(実施例・比較例における細胞数)/(参考例Aにおける細胞数)×100
【0148】
<細胞の接着性の判定基準>
A:参考例Aに対する細胞増殖率が50%以上
B:参考例Aに対する細胞増殖率が10%以上50%未満
C:参考例Aに対する細胞増殖率が10%未満
【0149】
詳細及び結果を下記の表1~3に示す。
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
実施例で得られた細胞培養用足場材料は、比較例で得られた細胞培養用足場材料よりも、細胞の接着性に優れており、表1~3に示すように、仮足の伸展性及び細胞の増殖性に優れていた。
【符号の説明】
【0154】
1…細胞培養用容器
2…容器本体
2a…表面
3…細胞培養用足場材料
【配列表】