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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】離型フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241107BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241107BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241107BHJP
   B29C 33/68 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/00 L
B32B27/36
B29C33/68
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020571733
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2020035308
(87)【国際公開番号】W WO2021060151
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2019174380
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】川原 良介
(72)【発明者】
【氏名】小屋原 宏明
(72)【発明者】
【氏名】六車 有貴
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-068371(JP,A)
【文献】国際公開第2011/111826(WO,A1)
【文献】特開2014-213493(JP,A)
【文献】特開2015-058691(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181948(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
B32B 1/00-43/00
B29C 33/00-33/76
B29C 55/00-55/30
C08L 67/02
B29K 67:00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの離型層とクッション層とを有する離型フィルムであって、
前記離型層は、芳香族ポリエステル樹脂を含有し、
前記クッション層は、前記離型層を構成する樹脂の含有量が20重量%以上であり、
全反射測定法による赤外吸収スペクトルに基づいて下記式(1)で求められる配向関数fが0.35以上であることを特徴とする離型フィルム。
【数1】
式(1)中、A1は、C=O伸縮運動による吸収が最も大きな入射方向(第1方向)におけるC=O伸縮運動による吸収強度を表し、A2は、第1方向に垂直な方向(第2方向)におけるC=O伸縮運動による吸収強度を表す。
【請求項2】
前記離型層は、透過法による赤外吸収スペクトルに基づいて下記式(2)で求められる配向関数gが、前記離型層表面の配向関数fより小さいことを特徴とする請求項1記載の離型フィルム。
【数2】
式(2)中、A3は、C=O伸縮運動による吸収が最も大きな入射方向(第3方向)におけるC=O伸縮運動による倍音吸収強度を表し、A4は、第1方向に垂直な方向(第4方向)におけるC=O伸縮運動による倍音吸収強度を表す。
【請求項3】
少なくとも1つの離型層を有する離型フィルムであって、前記離型層は、芳香族ポリエステル樹脂を含有し、全反射測定法による赤外吸収スペクトルに基づいて下記式(1)で求められる配向関数fが0.35以上であり、
前記離型層は、表面の算術平均粗さRaが2μm以上であることを特徴とする離型フィルム。
【数3】
式(1)中、A1は、C=O伸縮運動による吸収が最も大きな入射方向(第1方向)におけるC=O伸縮運動による吸収強度を表し、A2は、第1方向に垂直な方向(第2方向)におけるC=O伸縮運動による吸収強度を表す。
【請求項4】
芳香族ポリエステル樹脂は、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の離型フィルム。
【請求項5】
離型層を構成する樹脂に占めるポリブチレンテレフタレート樹脂の割合が75重量%以上であることを特徴とする請求項4記載の離型フィルム。
【請求項6】
ッション層の両側に離型層が配置された構造を有することを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の離型フィルム。
【請求項7】
RtoR方式によるフレキシブル回路基板の製造に用いられることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の離型フィルム。
【請求項8】
前記離型層の表面処理前の表面の算術平均粗さRaが0.30μm以下である、請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の離型フィルム。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の離型フィルムを製造する方法であって、
前記離型フィルムを表面処理する工程を含み、
前記離型層の表面処理前の表面の算術平均粗さRaが0.30μm以下である
離型フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板、フレキシブル回路基板、多層プリント配線板等の製造工程において離型フィルムが使用されている。
フレキシブル回路基板の製造工程においては、銅回路を形成したフレキシブル回路基板本体に、熱硬化型接着剤又は熱硬化型接着シートを介してカバーレイフィルムが熱プレス接着される。このとき、カバーレイフィルムと熱プレス板との間に離型フィルムを配置することで、カバーレイフィルムと熱プレス板とが接着するのを防止することができ、また、接着剤が染み出して電極部のめっき処理の障害となる等の不具合を防止することができる(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
近年では、フレキシブル回路基板のL/S(ライン/スペース)の細線化にも対応して離型性、凹凸への追従性(埋め込み性)等の性能を確保できるよう、離型層とクッション層とを含む多層からなる離型フィルムも使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-283862号公報
【文献】特開2009-132806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、フレキシブル回路基板の薄膜化に伴い、離型フィルムには離型性の更なる向上が求められている。また、近年、フレキシブル回路基板の製造は、ロールトゥーロール(RtoR)方式等による自動化も進んでいる。RtoR方式では、ロールから繰り出したフレキシブル回路基板本体や離型フィルム等をそれぞれ熱プレス板の間に搬送し、熱プレス接着した後、再びロールに巻き取ることが行われる。このようなRtoR方式においては、熱プレス接着後にフレキシブル回路基板から離型フィルムを剥離する際に、剥離角度が低角度となる傾向にある。そのため、従来の離型フィルムを用いた場合は、剥離の際により大きな力をかけなければならないことがあり、不良の発生等につながるおそれがある。従って、離型フィルムには離型性の更なる向上が求められる。
【0006】
本発明は、従来よりも優れた離型性を有し、RtoR方式によるフレキシブル回路基板の製造にも好適に用いることができる離型フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも1つの離型層を有する離型フィルムであって、前記離型層は、芳香族ポリエステル樹脂を含有し、全反射測定法による赤外吸収スペクトルに基づいて下記式(1)で求められる配向関数fが0.35以上である離型フィルムである。
【0008】
【数1】
【0009】
式(1)中、A1は、C=O伸縮運動による吸収が最も大きな入射方向(第1方向)におけるC=O伸縮運動による吸収強度を表し、A2は、第1方向に垂直な方向(第2方向)におけるC=O伸縮運動による吸収強度を表す。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
フレキシブル回路基板の製造における熱プレス工程は、接着剤の軟化、硬化の目的で160~180℃の温度で行われることがある。本発明者らは、この接着剤の軟化や硬化に対応する温度域において、積層するカバーレイフィルムの接着剤が離型フィルムに浸透しやすくなることにより、離型性が低下する原因となることを見出した。そして更に鋭意検討の結果、離型フィルムの離型層の極表面の分子を十分に配向させることにより、接着剤のフィルムへの浸透を抑制し、離型性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明の離型フィルムは、少なくとも1つの離型層を有する。
上記離型層は、全反射測定法による赤外吸収スペクトルに基づいて上記式(1)で求められる配向関数fが0.35以上である。上記離型層表面の配向関数fは、全反射測定法(ATR法)による赤外分光分析(IR)を行い、得られた赤外吸収スペクトルの測定値から算出することができる。
【0012】
赤外分光分析(IR)は、有機物の代表的な分析法のひとつとして、古くから広く用いられている分析方法である。全反射測定法(Attenuated Total Reflection、ATR法)では、プリズム(赤外域で透明な高屈折率媒質)と試料との界面で全反射する光を利用して、試料の表面状態を分析することができる。プリズムと試料を接触させた後、プリズム内部を透過させた赤外光を、試料との界面にて全反射させる。この全反射の際に、試料側へわずかに赤外光が潜り込むため、全反射光を検出することで、試料表面(深さ数μm程度)の赤外吸収スペクトル(FT-IRスペクトル)を取得することが出来る。とりわけ、ゲルマニウムからなるプリズムを用いたATR法では、試料の極表面(1μm以下)の状態を分析することができる。
【0013】
本発明における全反射測定法による赤外分光分析では、偏光測定を行う。具体的には、s偏光(入射面に垂直な偏光)を照射してスペクトルを得る。まず、測定対象となる離型フィルムの離型層について、全反射測定法(ATR法)による赤外吸収スペクトル(FT-IRスペクトル)を種々の偏光方向について取得する。即ち、フィルムの向きを変える等して、赤外光の入射角度(方位角)を変化させることで、フィルム表面に平行な面内における赤外光の偏光方向を変化させて測定を行う。得られた各方向でのFT-IRスペクトルから、C=O伸縮運動による吸収が最も大きな方向を第1方向として、第1方向におけるC=O伸縮運動による吸収強度A1を求める。次いで、該第1方向に垂直な方向を第2方向として、第2方向における吸収強度A2を求める。得られたA1、A2を上記式(1)に代入することで、配向関数fを算出することができる。
ここで、C=O伸縮運動による吸収とは、波数1700~1720cm-1の区間における吸収ピークを指す。本発明においては、C=O伸縮運動による吸収強度として、ベンゼン環の伸縮振動による吸収で規格化した値を用いる。ベンゼン環の伸縮振動による吸収とは、波数1400~1420cm-1の区間における吸収ピークを指す。即ち、C=O伸縮運動による吸収強度とは、波数1400~1420cm-1の区間における極大値に対する、波数1700~1720cm-1の区間における極大値の比を指す。なお、上記の波数区間内に極大値が存在しない場合は、区間内の最大値を当該区間における極大値として扱う。また、波数1700~1720cm-1の区間における吸収ピークは、ピークトップの吸収強度を算出する際に、波数1600~1800cm-1の区間をベースラインとする(波数1600cm-1における吸収強度と、波数1800cm-1における吸収強度を結ぶ直線をベースラインとする)。同様に、波数1400~1420cm-1の区間における吸収ピークは、ピークトップの吸収強度を算出する際に、波数1360~1425cm-1の区間をベースラインとする(波数1360cm-1における吸収強度と、波数1425cm-1における吸収強度を結ぶ直線をベースラインとする)。
赤外吸収スペクトル測定装置としては、例えば、FT/IR6600(JASCO社製)等を用いることができる。
【0014】
上記配向関数は、分子の配向状態を示し、無配向のときは「0」に、完全配向のときに「1」となる。上記離型層表面の配向関数fは、全反射測定法による赤外吸収スペクトルに基づいて算出するため、離型フィルムの離型層表面の分子の配向状態を表す。
なお、ここにいう分子の配向とは、上記式(1)及び上記の偏光測定(上記吸収強度A1、A2の求め方)からも理解されるとおり、フィルム表面に平行な面内において、分子が全体として任意の一方向を向いていることを意味する。また、上記配向関数自体は必ずしも結晶領域と非晶領域とを区別するものではなく、非晶領域の分子の配向性の影響も包含される。
上記離型層表面の配向関数fが0.35以上であることにより、本発明の離型フィルムは高い離型性を発揮することができる。これは、離型フィルムの離型層の極表面の分子が十分に配向することにより、分子の自由体積が小さくなることから、熱プレス工程時に高温となったときにでも接着剤が離型フィルムに浸透しにくくなるためと考えられる。上記離型層表面の配向関数fは0.40以上であることが好ましく、0.43以上であることがより好ましく、0.45以上であることが更に好ましい。
【0015】
上記離型層表面の配向関数fを0.35以上とする方法は特に限定されないが、上記離型層の表面処理前の算術平均粗さRaを小さくすることや、離型フィルムの成型(製膜)条件、表面処理の方法や条件を調整すること等が考えられる。より具体的には、高温下で摩擦処理を行ったり、製膜時の伸張応力を大きくしたりすること等が挙げられる。
【0016】
上記離型層の表面処理前の算術平均粗さRaを小さくすることにより、上記離型層表面の配向関数fを高めることができる。この理由は定かではないが、次のように推定できる。例えば摩擦処理による表面処理を行う場合、算術平均粗さRaが比較的大きい場合は、離型層表面の凹凸によって物性変化や均一な処理が阻害され、摩擦処理のよる表面変化の度合いが低下してしまう。これに対して、算術平均粗さRaが十分に小さい場合には、離型層表面の凹凸による物性変化や均一な処理の阻害が小さく、摩擦処理によって表面が十分に変化できると考えられる。上記離型層の表面処理前の表面の算術平均粗さRaは、例えば、0.30μm以下とすることができる。
なお、上記離型層の表面処理前の算術平均粗さRaは、表面処理時において小さければよく、表面処理後であれば、後述するように離型層の表面にエンボス加工を施した結果、算術平均粗さRaが大きくなっても、配向関数自体には大きく影響しない。
上記離型層の表面処理前の表面の算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2013に準拠した算術平均粗さRaであり、例えば、Mitutoyo社製のサーフテストSJ-301を用いて測定することができる。
【0017】
上記離型層の表面処理前の表面の算術平均粗さRaは、製膜時の条件に影響され得る。
例えば、上記離型層を構成する樹脂を溶融押出して、溶融樹脂を冷却する際に、例えば次のような方法を採用することができる。即ち、より平滑な表面を有する冷却ロールを用いて、そのロール表面形状をフィルムに転写させる方法や、冷却の際に、溶融樹脂にかかる伸長応力が大きくなるように調整する方法等が挙げられる。その他にも、ライン速度や温度を変更することで微調整することができる。また、加熱プレス(プレスアニール)等の処理を加えることができる。
【0018】
上記表面処理としては、例えば、摩擦処理、熱処理、一軸延伸又は二軸延伸処理等が挙げられる。これらの表面処理は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なかでも、上記離型層の極表面のみを効率的に処理できることから、摩擦処理が好適である。
【0019】
上記摩擦処理の方法は特に限定されないが、摩擦処理装置(例えば、山縣機械社製の研磨処理装置、型式YCM-150M)を用い、摩擦処理材の表面の素材として織物を用いて摩擦処理を行うことができる。
上記熱処理の方法は特に限定されないが、一定の温度に加熱したロールの間にフィルムを通す方法、ヒーターによりフィルムを加熱する方法等を用いることができる。
上記一軸又は二軸延伸処理の方法は特に限定されないが、製膜後のフィルムを一定の温度下にて、延伸する方法等を用いることができる。
【0020】
上記表面処理として摩擦処理を行う場合、その仕事エネルギー量En(kJ)は下記式(3)で算出できる。
【0021】
【数2】
【0022】
式(3)中、Arは摩擦処理装置が摩擦処理する面積(m)を表し、Jは摩擦処理するための単位時間あたりの仕事量(KJ/分)を表し、Wは摩擦処理されるフィルムの巾(m)を表し、LSはフィルムが摩擦処理装置を通過する速度であるライン速度(m/分)を表す。
【0023】
上記表面処理として摩擦処理を行う場合の仕事エネルギー量En(kJ)は、例えば300~900kJとすることができる。
【0024】
上記表面処理として摩擦処理を行う場合には、加熱した状態で摩擦処理を行うことができる。高温下で摩擦処理を行うことにより、上記離型層表面の配向関数fを0.35以上とすることがより容易となる。上記摩擦処理における加熱温度は、例えば30~70℃とすることができる。
【0025】
上記離型フィルムの成型(製膜)条件としては、例えば、冷却の際に溶融樹脂にかかる伸長応力が大きくなるように調整する方法等が挙げられる。このようにすることで、上記離型層表面の配向関数fを0.35以上としやすくなる。配向関数fの値を大きくするためには、伸長応力を大きくすることが好ましく、例えばエアナイフ方式が挙げられる。
【0026】
上記離型層は、表面の算術平均粗さRaが2μm以上であることが好ましい。上記離型層の表面の算術平均粗さRaが2μm以上であることにより、カバーレイフィルムと熱プレス板との間に離型フィルムを配置したときに界面に気泡を巻き込むのを防止して、耐シワ性を向上させることができる。上記離型層の表面の算術平均粗さRaは3μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることが更に好ましい。上記離型層の表面の算術平均粗さRaの上限は特に限定されないが、5μm以下であることが好ましい。
上記離型層の表面の算術平均粗さRaは、製膜時の条件やエンボス加工の条件(賦形用金型の形状や処理速度等)によって調整することができる。
なお、上述のように、表面処理が摩擦処理である場合、上記離型層表面の配向関数fを0.35以上とするためには、表面処理時において離型層の表面の算術平均粗さRaが小さいことが好ましい。しかしながら、表面処理後であれば、離型層の表面にエンボス加工等を施して算術平均粗さRaが大きくなっても、配向関数自体には大きく影響しない。
【0027】
上記離型層は、透過法による赤外吸収スペクトルに基づいて下記式(2)で求められる配向関数gが、上記離型層表面の配向関数fより小さいことが好ましい。上記離型層全体の配向関数が必要以上に高いと、離型フィルム全体としての柔軟性が低下し、凹凸への追従性が低下して、熱プレス接着時にボイドが発生したり、接着剤の染み出し幅が増大したりすることがある。上記離型層の極表面以外の配向を調整することで、上記離型層が極表面では高い配向関数の値を有しつつ、上記離型層全体としては適度な配向を有するようにすることができる。このような構成とすることで、上記離型フィルムは、離型性にも凹凸への追従性にも更に優れたものとなる。
【0028】
上記離型層全体の配向関数gは、透過法による赤外分光分析(IR)を行い、得られた赤外吸収スペクトルの測定値から算出することができる。透過法では、試料の表面だけではなく、試料全体(赤外線が透過する部分)の状態を分析することができる。上記透過法による赤外吸収スペクトルに基づく離型層全体の配向関数gは、0.35以下であることが好ましい。
【0029】
【数3】
【0030】
本発明における透過法による赤外分光分析では、偏光測定を行う。具体的には、s偏光(入射面に垂直な偏光)を照射してスペクトルを得る。まず、測定対象となる離型フィルムの離型層について、透過法による赤外吸収スペクトル(FT-IRスペクトル)を種々の偏光方向について取得する。即ち、フィルムの向きを変える等して、フィルム表面に平行な面内における赤外光の偏光方向を変化させて測定を行う。なお透過法においては、試料の対象測定面に対して赤外光を垂直入射させる。得られた各方向でのFT-IRスペクトルから、C=O伸縮運動による倍音吸収が最も大きな方向を第3方向として、第3方向におけるC=O伸縮運動による倍音吸収強度A3を求める。次いで、該第1方向に垂直な方向を第4方向として、第4方向におけるC=O伸縮運動による倍音吸収強度A4を求める。得られたA3、A4を上記式(2)に代入することで、配向関数gを算出することができる。ここで、C=O伸縮運動による倍音吸収とは、波数3420~3440cm-1の区間における吸収ピークを指す。本発明においては、C=O伸縮運動による倍音吸収強度として、ベンゼン環の伸縮振動による吸収で規格化した値を用いる。ベンゼン環の伸縮振動による吸収とは、波数1400~1420cm-1の区間における吸収ピークを指す。即ち、C=O伸縮運動による倍音吸収強度とは、波数1400~1420cm-1の区間における極大値に対する、波数3420~3440cm-1の区間における極大値の比を指す。なお、上記の波数区間内に極大値が存在しない場合は、区間内の最大値を当該区間における極大値として扱う。また、波数3420~3440cm-1の区間における吸収ピークは、ピークトップの吸収強度を算出する際に、波数3370~3470cm-1の区間をベースラインとする(波数3370cm-1における吸収強度と、波数3470cm-1における吸収強度を結ぶ直線をベースラインとする)。同様に、波数1400~1420cm-1の区間における吸収ピークは、ピークトップの吸収強度を算出する際に、波数1360~1425cm-1の区間をベースラインとする(波数1360cm-1における吸収強度と、波数1425cm-1における吸収強度を結ぶ直線をベースラインとする)。
赤外吸収スペクトル測定装置としては、例えば、FT/IR6600(JASCO社製)等を用いることができる。
【0031】
上記離型層全体の配向関数gを調整する方法は特に限定されないが、上記離型層表面の配向関数fを調整する方法と同様、上記離型層の表面処理前の算術平均粗さRaを小さくすることや、離型フィルムの成型(製膜)条件、表面処理の方法や条件を調整すること等が考えられる。上述のように調整することで、離型層表面の配向関数fを高めつつ、離型層全体の配向関数gを比較的小さい値にとどめることができる。一方、フィルムの製造過程においてフィルムを延伸させた場合、離型層の表面か内部かを問わずに、フィルムを構成する分子は延伸の影響を受けて配向する。したがって、延伸工程を経て製造されたフィルムは、離型層表面の配向を高く離型層全体の配向が小さい構成とはなり難い。
【0032】
上記離型層は、芳香族ポリエステル樹脂を含有する。これにより、離型フィルムの離型性が向上する。
上記芳香族ポリエステル樹脂は特に限定されないが、結晶性芳香族ポリエステル樹脂が好ましい。具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリヘキサメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、テレフタル酸ブタンジオールポリテトラメチレングリコール共重合体等が挙げられる。これらの芳香族ポリエステル樹脂は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なかでも、耐熱性、離型性、凹凸への追従性等のバランスの観点から、ポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂と、ポリブチレンテレフタレートと脂肪族ポリエーテルとのブロック共重合体との混合樹脂も好ましい。上記脂肪族ポリエーテルは特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、ポリジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0033】
上記芳香族ポリエステル樹脂は、フィルム製膜性の観点から、メルトボリュームフローレートが30cm/10min以下であることが好ましく、20cm/10min以下であることがより好ましい。なお、メルトボリュームフローレートは、ISO1133に従って、測定温度250℃、荷重2.16kgで測定することができる。
【0034】
上記芳香族ポリエステル樹脂のうち、市販されているものとして、例えば、「ペルプレン(登録商標)」(東洋紡社製)、「ハイトレル(登録商標)」(東レ・デュポン社製)、「ジュラネックス(登録商標)」(ポリプラスチックス社製)、「ノバデュラン(登録商標)」(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)等が挙げられる。
【0035】
上記離型層は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とエラストマーを含む混合樹脂を含有するものであってもよい。上記エラストマーは特に限定されず、例えば、ポリブチレンテレフタレートと脂肪族ポリエーテルとのブロック共重合体等が挙げられる。上記脂肪族ポリエーテルは特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、ポリジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0036】
上記離型層を構成する樹脂に占める上記ポリブチレンテレフタレート樹脂の割合は特に限定されないが、75重量%以上であることが好ましい。上記ポリブチレンテレフタレート樹脂の割合が75重量%以上であれば、離型フィルムの離型性が向上する。上記離型層を構成する樹脂に占める上記ポリブチレンテレフタレート樹脂の割合のより好ましい下限は80重量%である。
【0037】
上記離型層は、ゴム成分を含有してもよい。上記離型層がゴム成分を含有することにより、離型フィルムの凹凸への追従性が向上する。
上記ゴム成分は特に限定されず、例えば、天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体(EPM、EPDM)、ポリクロロプレン、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。また、上記ゴム成分として、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0038】
上記離型層は、安定剤を含有してもよい。
上記安定剤は特に限定されず、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、熱安定剤等が挙げられる。
上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は特に限定されず、例えば、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニロキシ〕-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が挙げられる。
上記熱安定剤は特に限定されず、例えば、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリラウリルホスファイト、2-t-ブチル-α-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-p-クメニルビス(p-ノニルフェニル)ホスファイト、ジミリスチル3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスチリルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル3,3’-チオジプロピオネート等が挙げられる。
【0039】
上記離型層は、更に、繊維、無機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、無機物、高級脂肪酸塩等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0040】
上記離型層の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は10μm、好ましい上限は40μmである。上記離型層の厚みが10μm以上であれば、離型フィルムの耐熱性が向上する。上記離型層の厚みが40μm以下であれば、離型フィルムの凹凸への追従性が向上する。上記離型層の厚みのより好ましい下限は15μm、より好ましい上限は30μmである。
【0041】
本発明の離型フィルムは、上記離型層のみから構成される単層構造であってもよく、上記離型層以外の層を有する多層構造であってもよい。
【0042】
本発明の離型フィルムは、更にクッション層を有することが好ましい。上記クッション層を有することにより、離型フィルムの凹凸への追従性が向上する。
上記クッション層を有する場合、本発明の離型フィルムは、少なくとも1つの離型層とクッション層とを有してればよく、2層構造であってもよいし、3層以上の構造であってもよい。なかでも、クッション層の両側に離型層を有する構造を有することが好ましい。この場合、両側の離型層が上述したような軟化温度を有していてもよいし、片側の離型層のみが上述したような軟化温度を有していてもよい。また、両側の離型層は同じ樹脂組成であってもよいし、異なる樹脂組成であってもよい。また、両側の離型層は同じ厚みであってもよいし、異なる厚みであってもよい。
また、本発明の離型フィルムは、離型層とクッション層とが直接接して一体化している構造であってもよいし、離型層とクッション層とが接着層を介して一体化している構造であってもよい。
【0043】
上記クッション層を構成する樹脂は特に限定されないが、上記クッション層が上記離型層を構成する樹脂を含有することが好ましい。
上記クッション層が上記離型層を構成する樹脂を含有することにより、上記離型層と上記クッション層との密着性が向上する。上記クッション層は、上記離型層の主成分樹脂を含有することがより好ましく、上記離型層の主成分樹脂及びポリオレフィン樹脂を含有することが更に好ましい。ここで、上記離型層の主成分樹脂とは、上記離型層に含まれる樹脂の中で含有量が最も多い樹脂のことを意味する。
【0044】
上記クッション層における上記離型層を構成する樹脂の含有量は特に限定されないが、好ましい下限が10重量%、好ましい上限が50重量%である。上記離型層を構成する樹脂の含有量が10重量%以上であれば、上記離型層と上記クッション層との密着性が向上する。上記離型層を構成する樹脂の含有量が50重量%以下であれば、上記クッション層の柔軟性が充分となり、離型フィルムの凹凸への追従性が向上する。上記離型層を構成する樹脂の含有量のより好ましい下限は20重量%、更に好ましい下限は25重量%である。上記離型層を構成する樹脂の含有量のより好ましい上限は40重量%、更に好ましい上限は35重量%である。
【0045】
上記ポリオレフィン樹脂は特に限定されず、例えば、ポリエチレン樹脂(例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。また、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体等のエチレン-アクリル系モノマー共重合体等も挙げられる。これらのポリオレフィン樹脂は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なかでも、凹凸への追従性と耐熱性を両立させやすいことから、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0046】
上記クッション層における上記ポリオレフィン樹脂の含有量は特に限定されないが、好ましい下限が50重量%、好ましい上限が90重量%である。上記ポリオレフィン樹脂の含有量が50重量%以上であれば、上記クッション層の柔軟性が充分となり、離型フィルムの凹凸への追従性が向上する。上記ポリオレフィン樹脂の含有量が90重量%以下であれば、上記離型層と上記クッション層との密着性が向上する。上記ポリオレフィン樹脂の含有量のより好ましい下限は60重量%、更に好ましい下限は65重量%である。上記ポリオレフィン樹脂の含有量のより好ましい上限は80重量%、更に好ましい上限は75重量%である。
【0047】
上記クッション層は、更に、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエステル等の樹脂を含有してもよい。
上記クッション層は、更に、繊維、無機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、無機物、高級脂肪酸塩等の添加剤を含有してもよい。
【0048】
上記クッション層は、単独の層からなる単層構造であってもよいし、複数の層の積層体からなる多層構造であってもよい。クッション層が多層構造である場合は、複数の層が接着層を介して積層一体化していてもよい。
【0049】
上記クッション層の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は15μm、好ましい上限は200μmである。上記クッション層の厚みが15μm以上であれば、離型フィルムの凹凸への追従性が向上する。上記クッション層の厚みが200μm以下であれば、熱プレス接着時におけるフィルム端部で生じる上記クッション層からの樹脂の染み出しを抑制できる。上記クッション層の厚みのより好ましい下限は30μm、より好ましい上限は150μmである。
【0050】
本発明の離型フィルムを製造する方法は特に限定されず、まず、例えば、水冷式又は空冷式共押出インフレーション法、共押出Tダイ法で製膜する方法、溶剤キャスティング法、熱プレス成形法等によりフィルムを調製した後、上記表面処理を行う方法が挙げられる。
上記クッション層の両側に上記離型層を有する構造を有する場合には、一方の離型層となるフィルムを作製した後、このフィルムにクッション層を押出ラミネート法にて積層し、次いで他方の離型層をドライラミネーションする方法が挙げられる。また、一方の離型層となるフィルム、クッション層となるフィルム及び他方の離型層となるフィルムをドライラミネーションする方法が挙げられる。
なかでも、各層の厚み制御に優れる点から、共押出Tダイ法で製膜する方法が好適である。
【0051】
このようにして得られたフィルムに、上記表面処理を施すことにより、上記離型層表面の配向関数fを0.35以上とすることができる。
上記表面処理後には、上記離型層の表面にエンボス加工を施すことが好ましい。上記表面処理後であれば、エンボス加工により上記離型層の表面の算術平均粗さRaを高くしても、配向関数自体を大きく変化させることなく離型性を維持しつつ、耐シワ性を向上させることができる。
【0052】
本発明の離型フィルムの用途は特に限定されないが、プリント配線基板、フレキシブル回路基板、多層プリント配線板等の製造工程において好適に用いることができる。
具体的には例えば、フレキシブル回路基板の製造工程において、銅回路を形成したフレキシブル回路基板本体に、熱硬化型接着剤又は熱硬化型接着シートを介してカバーレイフィルムを熱プレス接着する際に本発明の離型フィルムを用いることができる。
本発明の離型フィルムは離型性に極めて優れることから、高い離型性が求められるRtoR方式によるフレキシブル回路基板の製造にも好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、従来よりも優れた離型性を有し、RtoR方式によるフレキシブル回路基板の製造にも好適に用いることができる離型フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
(1)フィルムの調製
離型層(離型層a及び離型層b)を構成する樹脂として、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)を用いた。クッション層を構成する樹脂として、ポリプロピレン樹脂(PP)75重量部と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)(離型層の主成分樹脂)25重量部とを用いた。
離型層を構成する樹脂、及び、クッション層を構成する樹脂を押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30-28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイ幅400mmにて三層共押出し、押出された溶融樹脂を冷却ロール(温度90℃、表面の算術平均粗さRa0.1μm)により冷却した。これにより、クッション層(厚み50μm)の両側に離型層a(厚み20μm)及び離型層b(厚み30μm)をそれぞれ有する3層構造のフィルムを得た。なお、冷却時には、溶融樹脂と冷却ロールとの接触時間を1.0秒、冷却ロールによって溶融樹脂を冷却する際の伸長応力を450kPaとした。
【0056】
なお、上記伸長応力は、下記式(4)で表される。
【0057】
【数4】
【0058】
また、ひずみ速度及び溶融樹脂の伸長粘度は、それぞれ下記式(5)、(6)で表される。
【0059】
【数5】
【0060】
【数6】
【0061】
式(5)中、Vはロール速度(m/s)、V0は金型出口の溶融樹脂の流速(m/s)、Lは金型出口から溶融樹脂のロール接触点までの距離(m)である。
【0062】
得られたフィルムについて、JIS B 0601:2013に準拠し、Mitutoyo社製のサーフテストSJ-301を用いて(摩擦処理前の)離型層aの表面の算術平均粗さRaを測定したところ、0.24μmであった。
【0063】
(2)フィルムの表面処理
得られたフィルムをロールで送りつつ、離型層aの表面を、摩擦処理装置(山縣機械社製の研磨処理装置、型式YCM-150M)を用い、摩擦処理材の表面の素材として織物を用いて摩擦処理し、離型フィルムを得た。
摩擦処理の際には、送り側ロールと、巻き取り側ロールとの間に表面処理部ロールを設け、表面処理部ロールをフィルムに押し当てることでフィルムに荷重をかけた。巻き取り側のロール回転速度と、送り側のロールの回転速度との比を調整し、フィルムの繰り出し方向へ張力400N/mを生じさせた。摩擦処理の際に加えた仕事エネルギー量Enは350kJであった。
【0064】
(3)離型層表面の配向関数fの算出
得られた離型フィルムの離型層aについて、ゲルマニウムからなるプリズムを用いたATR法により、赤外分光分析(IR)を行った。フィルム表面に平行な面内において、フィルムの成型時の流れ方向を0°として、偏光方向が10°刻みで0°~170°の各方向となるように赤外光(s偏光)を入射させて、各方向における赤外吸収スペクトル(FT-IRスペクトル)を得た。C=O伸縮運動による吸収(波長1700~1720cm-1)が最も大きな方向を第1方向として、第1方向におけるC=O伸縮運動による吸収強度A1を求めた。次いで、該第1方向に垂直な方向を第2方向として、第2方向におけるC=O伸縮運動による吸収強度A2を求めた。得られたA1、A2を上記式(1)に代入して、配向関数fを算出した。
【0065】
(4)離型層全体の配向関数gの算出
得られた離型フィルムの離型層aについて、透過法により、赤外分光分析(IR)を行った。フィルム表面に平行な面内において、フィルムの成型時の流れ方向を0°として、偏光方向が10°刻みで0°~170°の各方向となるように赤外光(s偏光)を入射させて、各方向における赤外吸収スペクトル(FT-IRスペクトル)を得た。C=O伸縮運動による倍音吸収(波長3420~3440cm-1)が最も大きな方向を第3方向として、第3方向におけるC=O伸縮運動による倍音吸収強度A3を求めた。次いで、該第3方向に垂直な方向を第4方向として、第4方向におけるC=O伸縮運動による倍音吸収強度A4を求めた。得られたA3、A4を上記式(2)に代入して、配向関数gを算出した。
【0066】
(実施例2~6、比較例1~4)
実施例2~4、比較例1~3については、溶融樹脂の冷却方式、冷却時の伸長応力以外は実施例1と同様にして、離型フィルムを得た。なお比較例1~4については、冷却ロール表面の算術平均粗さRaやライン速度、温度を調節することで離型層aの表面の算術平均粗さRaを調節した。実施例5、6及び比較例4については、後処理として摩擦処理に替えて、延伸処理を施した。より具体的には、まず実施例1と同様に製膜することで、クッション層(厚み150μm)の両側に離型層a(厚み60μm)及び離型層b(厚み90μm)をそれぞれ有する3層構造のフィルムを得た。その後、80度に加熱した縦延伸ロールで流れ方向へ3倍の一軸延伸を施した。このようにして、クッション層(厚み50μm)の両側に離型層a(厚み20μm)及び離型層b(厚み30μm)をそれぞれ有する3層構造のフィルム得た。また、実施例2、4及び6については、次いで、該表面処理を施した面に、エンボス加工を施して離型フィルムを得た。具体的には、摩擦処理後のフィルムをロールで送りつつ、エンボスロール(表面の算術平均粗さRa8μm、温度160℃、線圧50kg/cm)で押圧して離型層a側の表面にエンボス加工を施した。得られた離型フィルムの離型層a側の表面について、JIS B 0601:2013に準拠し、Mitutoyo社製のサーフテストSJ-301を用いて(摩擦処理前の)離型層aの表面の算術平均粗さRaを測定した。
【0067】
(評価)
実施例及び比較例で得た離型フィルムについて、以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0068】
(1)離型性の評価
200mm角に切り抜いたカバーレイフィルム(CISV-2535、ニッカン工業社製)のエポキシ接着剤面と、得られた離型フィルムの離型層a側の面とを重ねた。次いで、スライド式真空ヒータープレス(MKP-3000v-MH-ST、ミカドテクノス社製)を用いて、圧力30kgf、180℃、5分間でプレスを行った後、23℃、50%RHの条件で1日養生した。その後、養生後のサンプルから巾30mm、長さ150mmの評価サンプルを切り出し、この評価サンプルについて、テンシロン(STA-1150、エーアンドデー社製)を用いて、剥離速度500mm/分、剥離角度180°で剥離力(gf/cm)を測定した。
【0069】
(2)耐シワ性の評価
CCL(20cm×20cm、ポリイミド厚25μm、銅箔35μm)、カバーレイ(20cm×20cm、ポリイミド厚15μm、エポキシ系樹脂接着剤層25μm)、及び、離型フィルムを下からこの順番に積み上げた。スライド式真空ヒータープレス(MKP-3000V-WH-ST、ミカドテクノス社製)を用いて予め180℃で加熱したプレス金型間に置いて位置合わせをした後、プレスを開始した(設置から実際に圧力がかかるまでに約10秒)。真空条件下、50kg/cmで2分間プレスすることにより、CCLとカバーレイとからなるフレキシブル回路基板(FPC)評価サンプルを作製した。
その後、FPC評価サンプル及び離型フィルムを取り出し、離型フィルムを剥がした後、カバーレイ表面上に転写されたシワの個数を測定した。シワの個数が0個であった場合を「◎」と、1~10個であった場合を「○」と、11~20個であった場合を「△」と、21個以上であった場合を「×」と評価した。
なお、シワの個数が20個以下の場合には、フレキシブル回路基板を製造する際の離型フィルムとして充分な防シワ性を有するといえる。より好ましくは、シワの個数が10個以下である。
【0070】
(3)埋込性の評価
CCL(20cm×20cm、ポリイミド厚25μm、銅箔35μm)、穴の開いたカバーレイ(20cm×20cm、ポリイミド厚15μm、エポキシ系樹脂接着剤層25μm)、及び、離型フィルムを下からこの順番に積み上げた。スライド式真空ヒータープレス(MKP-3000V-WH-ST、ミカドテクノス社製)を用いて予め180℃で加熱したプレス金型間に置いて位置合わせをした後、プレスを開始した(設置から実際に圧力がかかるまでに約10秒)。真空条件下、50kg/cmで2分間プレスすることにより、CCLとカバーレイとからなるフレキシブル回路基板(FPC)評価サンプルを作製した。
その後、FPC評価サンプル及び離型フィルムを取り出し、離型フィルムを剥がした後、接着剤の染み出した距離(μm)を測定した。染み出し距離が40μm以下を「◎」と、40μmを超えて50μm以下であった場合を「〇」と、50μmを超えた場合を「×」と評価した。
なお、染み出しが50μm以下の場合には、フレキシブル回路基板を製造する際の離型フィルムとして充分な埋込性を有するといえる。
【0071】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、従来よりも優れた離型性を有し、RtoR方式によるフレキシブル回路基板の製造にも好適に用いることができる離型フィルムを提供することができる。