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  • 特許-動吸振器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】動吸振器
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20241107BHJP
   F16F 15/12 20060101ALI20241107BHJP
   F16F 15/124 20060101ALI20241107BHJP
   F16F 7/108 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/12 L
F16F15/124 Z
F16F7/108
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021003471
(22)【出願日】2021-01-13
(65)【公開番号】P2022108462
(43)【公開日】2022-07-26
【審査請求日】2023-11-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】織奥 豊
(72)【発明者】
【氏名】村田 耀亮
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-164854(JP,A)
【文献】特開2016-164437(JP,A)
【文献】実開平04-109237(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 15/12
F16F 15/124
F16F 7/108
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量体と、前記質量体の外周面と間隔を空けて設けられる環状部材と、前記質量体の外周面と前記環状部材の内周面とを連結する環状の弾性体と、を備え、筒状部材の筒内に嵌合されて用いられる動吸振器であって、
前記弾性体は、
周方向に間隔を空けて設けられ、前記質量体と前記環状部材とを連結するための複数の連結部本体と、
隣り合う前記連結部本体の間の隙間を塞ぐように形成され、かつ、インサート成形用の金型の構成上形成される複数の薄膜部と、
前記質量体の外周面に一体的に固定される内周側筒状部と、
前記環状部材の内周面に一体的に固定される外周側筒状部と、
を一体に備えると共に、
前記薄膜部は、前記質量体から前記環状部材に向かうにつれて、前記質量体及び前記環状部材の一端側から他端側に向かって傾斜するように設けられ、
前記内周側筒状部は、前記薄膜部を介して、前記一端側と前記他端側で厚みが異なっており、かつ、前記外周側筒状部も、前記薄膜部を介して、前記一端側と前記他端側で厚みが異なっていることを特徴とする動吸振器。
【請求項2】
前記内周側筒状部は前記一端側よりも前記他端側の方の厚みが薄く、前記外周側筒状部は前記他端側よりも前記一端側の方の厚みが薄いことを特徴とする請求項1に記載の動吸振器。
【請求項3】
前記環状部材の外周面には、その外周面上にのみ前記筒状部材の内周面に嵌合固定される弾性体からなる嵌合部が一体的に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の動吸振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状部材の内部に配されて、筒状部材の振動を抑制する動吸振器に関する。
【背景技術】
【0002】
プロペラシャフトなどの振動が伝わる筒状部材においては、振動を抑制するために、筒内に動吸振器(ダイナミックダンパー)が設けられる技術が知られている。図3を参照して、従来例に係る動吸振器について説明する。図3は従来例に係る動吸振器の概略構成図であり、同図(a)は動吸振器の正面図であり、同図(b)は動吸振器の断面図(同図(a)中のBB断面図)である。
【0003】
動吸振器500は、円柱状の質量体510と、質量体510の外周面と間隔を空けて設けられる円筒状の環状部材520と、質量体510の外周面と環状部材520の内周面とを連結する環状の弾性体530とを備えている。また、環状部材520の外周面には、筒状部材の内周面に嵌合固定される弾性体からなる円筒状の嵌合部540が一体的に設けられている。
【0004】
そして、弾性体530は、周方向に間隔を空けて設けられ、質量体510と環状部材520とを連結する複数の連結部本体531と、隣り合う連結部本体531の間の隙間を塞ぐように形成される複数の薄膜部532とを備えている。また、弾性体530は、質量体510の外周面に一体的に固定される内周側筒状部533と、環状部材520の内周面に一体的に固定される外周側筒状部534とを備えている。
【0005】
以上のように構成される動吸振器500においては、筒状部材が共振する周波数の振動が伝わると、質量体510が振動することによって、筒状部材の共振を抑制する機能が発揮される。このような動吸振器500においては、筒状部材における径方向(曲げ方向)の共振を抑制できるように、質量体510等は設計されている。
【0006】
ここで、上記の薄膜部532は、質量体510及び環状部材520に対して弾性体530を一体成形する際に、金型の構成上、形成されるものである。この薄膜部532は、特に筒状部材の内径が短いなどの使用環境によっては、長期使用により亀裂が生じてしまうことがある。薄膜部532に亀裂が生じると、その後、連結部本体531にまで亀裂が達してしまい、品質に悪影響が生じてしまう。
【0007】
そこで、図3(b)に示すように、薄膜部532は、軸線方向及び径方向に傾斜するように設ける対策が施されることがある。これにより、質量体510が振動した際には、薄膜部532にはせん断応力が生じるため、傾斜させずに圧縮応力と引っ張り応力のみが作用する場合に比べて、亀裂を生じ難くすることができる。
【0008】
しかしながら、共振する固有振動数が低い場合には、入力振幅が大きくなるため、より一層、耐久性を高めるための対策が必要となる。特に、薄膜部532と内周側筒状部533及び外周側筒状部534との各接続部分のうち鋭角となる部分(図3(b)中、Xで示す部分)に応力が集中するため、これらの部分に亀裂が生じ易い。近年、車両の軽量化などに伴って、車両に備えられるプロペラシャフトにおける共振する固有振動数が低下する傾向にあり、上記のような問題が顕在化しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-70462号公報
【文献】特開2019-27465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、耐久性の向上を図ることのできる動吸振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0012】
すなわち、本発明の動吸振器は、
質量体と、前記質量体の外周面と間隔を空けて設けられる環状部材と、前記質量体の外周面と前記環状部材の内周面とを連結する環状の弾性体と、を備え、筒状部材の筒内に嵌合されて用いられる動吸振器であって、
前記弾性体は、
周方向に間隔を空けて設けられ、前記質量体と前記環状部材とを連結するための複数の連結部本体と、
隣り合う前記連結部本体の間の隙間を塞ぐように形成され、かつ、インサート成形用の金型の構成上形成される複数の薄膜部と、
前記質量体の外周面に一体的に固定される内周側筒状部と、
前記環状部材の内周面に一体的に固定される外周側筒状部と、
を一体に備えると共に、
前記薄膜部は、前記質量体から前記環状部材に向かうにつれて、前記質量体及び前記環状部材の一端側から他端側に向かって傾斜するように設けられ、
前記内周側筒状部は、前記薄膜部を介して、前記一端側と前記他端側で厚みが異なっており、かつ、前記外周側筒状部も、前記薄膜部を介して、前記一端側と前記他端側で厚みが異なっていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、内周側筒状部と外周側筒状部を上記のような構成としたことにより、質量体が振動した際に、薄膜部と内周側筒状部との間、及び薄膜部と外周側筒状部との間での応力集中を緩和させることができる。これにより、薄膜部に亀裂が生じてしまうことを抑制することができる。
【0014】
前記内周側筒状部は前記一端側よりも前記他端側の方の厚みが薄く、前記外周側筒状部は前記他端側よりも前記一端側の方の厚みが薄いとよい。
【0015】
前記環状部材の外周面には、その外周面上にのみ前記筒状部材の内周面に嵌合固定される弾性体からなる嵌合部が一体的に設けられているとよい。
【0016】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は本発明の実施例に係る動吸振器の概略構成図である。
図2図2は本発明の実施例に係る動吸振器の断面図である。
図3図3は従来例に係る動吸振器の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に
詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。以下に示す実施例においては、車両のプロペラシャフト(筒状部材)に取り付けられる動吸振器(ダイナミックダンパー)を例にして説明する。ただし、本発明に係る動吸振器においては、他の用途にも適用可能である。
【0020】
(実施例)
図1及び図2を参照して、本発明の実施例に係る動吸振器について説明する。図1は本発明の実施例に係る動吸振器の概略構成図であり、動吸振器の正面図である。図2は本発明の実施例に係る動吸振器の断面図であり、同図(a)は図1中のAA断面図であり、図2(b)は同図(a)中の下方の一部を拡大した図である。
【0021】
<動吸振器の全体構成>
本実施例に係る動吸振器100は、筒状部材としてのプロペラシャフト200の筒内に嵌合により取り付けられる。図2(a)においては、プロペラシャフト200の一部を簡略的に点線にて示している。
【0022】
動吸振器100は、質量体110と、質量体110の外周面と間隔を空けて設けられる環状部材120と、質量体110の外周面と環状部材120の内周面とを連結する環状の弾性体130とを備えている。本実施例に係る質量体110は、金属や樹脂などの材料により構成される円柱状の部材である。ただし、質量体の形状については、円柱状に限らず、角柱状など各種の形状を採用し得る。本実施例に係る環状部材120は、金属や樹脂などの材料により構成される円筒状の部材である。ただし、環状部材120の形状についても、円筒状に限らず、各種の形状を採用し得る。この環状部材120の外周面には、プロペラシャフト200の内周面に嵌合固定される弾性体(ゴムなどのエラストマー材料からなる弾性体)からなる嵌合部140が一体的に設けられている。
【0023】
以上のように構成される動吸振器100は、質量体110と環状部材120をインサート部品として、インサート成形によって、弾性体130と嵌合部140を成形することにより得ることができる。また、動吸振器100においては、プロペラシャフト200が共振する周波数の振動が伝わると、質量体110が振動することによって、プロペラシャフト200の共振を抑制する機能が発揮される。このような動吸振器100においては、プロペラシャフト200における径方向(曲げ方向)に対してプロペラシャフト200の共振を抑制できるように、質量体110等は設計されている。
【0024】
<弾性体>
本実施例に係る弾性体130について、より詳細に説明する。弾性体130は、ゴムなどのエラストマー材料により構成されている。そして、弾性体130は、周方向に間隔を空けて設けられ、質量体110と環状部材120とを連結する複数の連結部本体131と、隣り合う連結部本体131の間の隙間を塞ぐように形成される複数の薄膜部132とを備えている。薄膜部132は、インサート成形用の金型の構成上、形成されるものである。また、弾性体130は、質量体110の外周面に一体的に固定される内周側筒状部133a,133bと、環状部材120の内周面に一体的に固定される外周側筒状部134a,134bとを備えている。なお、弾性体は、複数の連結部本体131と、複数の薄膜部132と、内周側筒状部133a,133bと、外周側筒状部134a,134bとを一体に備えている。
【0025】
薄膜部132は、質量体110から環状部材120に向かうにつれて、質量体110及び環状部材120の一端側から他端側に向かって傾斜するように設けられている。つまり、薄膜部132は、軸線方向及び径方向の双方に対して、傾斜するように設けられている
【0026】
そして、内周側筒状部133a,133bは、薄膜部132を介して、上記の一端側と他端側で厚みが異なっており、かつ、外周側筒状部134a,134bも、薄膜部132を介して、上記の一端側と他端側で厚みが異なっている。より具体的には、薄膜部132を介して一端側(図2においては右側)の内周側筒状部133aの厚みよりも、薄膜部132を介して他端側(図2においては左側)の内周側筒状部133bの厚みの方が薄くなるように構成されている。また、薄膜部132を介して他端側の外周側筒状部134aの厚みよりも、薄膜部132を介して一端側の外周側筒状部134bの厚みの方が薄くなるように構成されている。なお、内周側筒状部133aと内周側筒状部133bの厚みの差H、及び外周側筒状部134aと外周側筒状部134bの厚みの差Hは、0.5mm以上1.0mm以下の範囲内で設定すると好適である。
【0027】
<本実施例に係る動吸振器の優れた点>
本実施例に係る動吸振器100によれば、弾性体130における内周側筒状部133a,133bは、薄膜部132を介して、質量体110及び環状部材120の一端側と他端側で厚みが異なっている。また、外周側筒状部134a,134bも、薄膜部132を介して、上記の一端側と他端側で厚みが異なっている。このような構成を採用したことにより、質量体110が振動した際に、薄膜部132と一端側の内周側筒状部133aとの間で応力が作用する位置と、薄膜部132と他端側の内周側筒状部133bとの間で応力が作用する位置を径方向にずらすことができる。これにより、質量体110が振動した際に、薄膜部132と内周側筒状部133a,133bとの間に作用する応力集中を緩和することができる。特に、応力が集中しやすい薄膜部132と内周側筒状部133bとの間に作用する応力集中を緩和できることで、薄膜部132に亀裂が生じてしまうことを抑制することができる。薄膜部132と外周側筒状部134a,134bとの関係についても同様である。
【0028】
ここで、内径が40mm以上80mm以下程度のプロペラシャフト200に用いられる動吸振器において、本実施例に係る動吸振器100と比較例に係る動吸振器との応力集中を比較した検証結果について説明する。なお、本実施例に係る動吸振器100においては、内周側筒状部133aと内周側筒状部133bの厚みの差H、及び外周側筒状部134aと外周側筒状部134bの厚みの差Hを0.5mmに設定した。これに対して、比較例に係る動吸振器においては、内周側筒状部の厚みが一定で、かつ外周側筒状部の厚みも一定である点のみが、本実施例に係る動吸振器100と異なっている。
【0029】
これらの動吸振器に対し、質量体110に同一変位の振動を生じさせた場合、比較例に係る動吸振器の弾性体に作用する最大応力に対して、本実施例に係る動吸振器100の弾性体130に作用する最大応力を30%程度低減できることが分かった。
【0030】
以上のように、本実施例に係る動吸振器100によれば、薄膜部132に亀裂が生じてしまうことを抑制することができ、動吸振器100の耐久性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0031】
100 動吸振器
110 質量体
120 環状部材
130 弾性体
131 連結部本体
132 薄膜部
133a,133b 内周側筒状部
134a,134b 外周側筒状部
140 嵌合部
200 プロペラシャフト
図1
図2
図3