(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20241107BHJP
E02F 3/32 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
E02F9/20 C
E02F9/20 A
E02F3/32 A
(21)【出願番号】P 2021016061
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌保
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-051533(JP,A)
【文献】特開2006-152740(JP,A)
【文献】中国実用新案第211368850(CN,U)
【文献】特開2015-190587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
E02F 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームと、
前記車体フレームに支持されるブームと、前記ブームに連結されるアームと、前記アームに連結されるアタッチメントと、を含む作業機と、
前記ブームを前記車体フレームに回転可能に連結するブームフートピンと、
前記車体フレームに支持され、前記アームを前記ブームに対して相対移動させる駆動力を発生する電動機と、
前記電動機の発生する駆動力を機械的に前記アームに伝達する動力伝達装置と、を備え、
前記動力伝達装置は、前記ブームフートピンと同心で前記車体フレームに対して相対回転運動する第1伝達部と、前記第1伝達部の前記相対回転運動によって前記アームに動力を伝達する第2伝達部とを有
し、
前記第2伝達部は、前記ブームに接続された中間部材と、前記中間部材に連結され前記中間部材に駆動力を伝達する棒状の第1リンク部材と、前記中間部材と前記アームとを連結する棒状の第2リンク部材とを有する、作業機械。
【請求項2】
前記電動機の回転を減速し駆動力を増大して出力する遊星歯車減速機をさらに備える、請求項
1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記電動機と前記遊星歯車減速機とが一体構造である、請求項
2に記載の作業機械。
【請求項4】
前記第1伝達部は、前記ブームフートピンを中心として回転可能な歯車部材を有し、
前記作業機械は、前記歯車部材に噛み合う第1出力ギヤと、前記歯車部材に噛み合う第2出力ギヤとをさらに備え、
前記電動機は、前記第1出力ギヤに駆動力を伝達する第1電動機と、前記第2出力ギヤに駆動力を伝達する第2電動機とを有する、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項5】
前記第1電動機と前記第2電動機とは、同一仕様である、請求項
4に記載の作業機械。
【請求項6】
前記作業機械は、前記作業機を動作させるために操作される操作装置をさらに備え、
前記操作装置の操作に応じて、前記第1電動機と前記第2電動機との回転方向および発生する駆動力を調整可能である、請求項
5に記載の作業機械。
【請求項7】
前記車体フレームに支持され、前記ブームを前記車体フレームに対して相対移動させる駆動力を発生するブーム用電動機をさらに備える、請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項8】
前記作業機械は、前記ブームフートピンを中心として回転可能なブーム用歯車部材と、前記ブーム用歯車部材に噛み合う第1ブーム用出力ギヤと、前記ブーム用歯車部材に噛み合う第2ブーム用出力ギヤとをさらに備え、
前記ブーム用電動機は、前記第1ブーム用出力ギヤに駆動力を伝達する第1ブーム用電動機と、前記第2ブーム用出力ギヤに駆動力を伝達する第2ブーム用電動機とを有する、請求項
7に記載の作業機械。
【請求項9】
前記ブーム用歯車部材は、前記ブームの側面に固定されている、請求項
8に記載の作業機械。
【請求項10】
前記アタッチメントは、前記ブームに対して相対移動可能
であり、
前記アタッチメントを前記ブームに対して相対移動させる駆動力を発生する
アタッチメント用電動機と、
前記
アタッチメント用電動機の発生する駆動力を機械的に前記アタッチメントに伝達する
アタッチメント用動力伝達装置と、を
さらに備え、
前記
アタッチメント用動力伝達装置は、前記アタッチメントに連結されたラックと、前記ラックと噛み合うピニオンとを有する、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項11】
前記
アタッチメント用動力伝達装置は、フレキシブルシャフトを有する、請求項
10に記載の作業機械。
【請求項12】
前記
アタッチメント用動力伝達装置は、前記
アタッチメント用電動機の回転を減速し駆動力を増大して出力する
アタッチメント用遊星歯車減速機を有する、請求項
10または請求項
11に記載の作業機械。
【請求項13】
前記ラックと前記ピニオンとは、前記アームに支持されている、請求項
10から請求項
12のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項14】
前記作業機械は、前記アームに入力される荷重を緩衝する緩衝機構をさらに備え、
前記
アタッチメント用電動機は、前記緩衝機構を介して前記アームに搭載される、請求項
13に記載の作業機械。
【請求項15】
前記アタッチメントは、前記ブームに対して相対移動可能
であり、
前記車体フレームに搭載され、前記アタッチメントを前記ブームに対して相対移動させる駆動力を発生する
アタッチメント用電動機と、
前記
アタッチメント用電動機の発生する駆動力を前記アタッチメントに伝達する
アタッチメント用動力伝達装置と、を
さらに備え、
前記
アタッチメント用動力伝達装置は、前記
アタッチメント用電動機により駆動され圧油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプの吐出する前記圧油により駆動されるダブルロッドシリンダと、前記油圧ポンプと前記ダブルロッドシリンダとを繋ぐ閉油圧回路と、を有する、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項16】
前記ダブルロッドシリンダは、筒状のシリンダ部と、前記シリンダ部内を往復移動可能なピストン部と、基端が前記ピストン部に連結され先端が前記アタッチメントに連結される第1ロッド部と、基端が前記ピストン部に連結され先端が前記シリンダ部の外部に突き出る第2ロッド部と、を有する、請求項
15に記載の作業機械。
【請求項17】
前記ピストン部は、前記シリンダ部内を第一室と第二室とに仕切り、
前記閉油圧回路は、前記油圧ポンプと前記第一室とを繋ぐ第1油路と、前記油圧ポンプと前記第二室とを繋ぐ第2油路とを有する、請求項
16に記載の作業機械。
【請求項18】
前記ダブルロッドシリンダは、前記アームに支持されている、請求項
15から請求項
17のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項19】
前記ダブルロッドシリンダは、前記アームに対して回転可能である、請求項
18に記載の作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2015-190587号公報(特許文献1)には、フロント作業装置を備える油圧ショベルが開示されている。フロント作業装置は、ブーム、アームおよびバケットを備えている。ブームは、ブームシリンダによって駆動される。アームは、アームシリンダによって駆動される。電動機により油圧ポンプが駆動され、油圧ポンプから吐出される作動油がアームシリンダに供給されて、アームシリンダが伸縮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、地球環境に対する関心が高まっており、作業機械についてもさらなる環境への配慮が求められている。
【0005】
本開示では、従来よりも環境に配慮した作業機械が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の局面に従った作業機械は、車体フレームと、作業機と、ブームフートピンと、電動機と、動力伝達装置とを備えている。作業機は、車体フレームに支持されるブームと、ブームに連結されるアームと、アームに連結されるアタッチメントと、を含んでいる。ブームフートピンは、ブームを車体フレームに回転可能に連結する。電動機は、車体フレームに支持されている。電動機は、アームをブームに対して相対移動させる駆動力を発生する。動力伝達装置は、電動機の発生する駆動力を機械的にアームに伝達する。動力伝達装置は、ブームフートピンと同心で車体フレームに対して相対回転運動する第1伝達部と、第1伝達部の相対回転運動によってアームに動力を伝達する第2伝達部とを有している。
【0007】
本開示の一の局面に従った作業機械は、車体フレームと、作業機と、電動機と、動力伝達装置とを備えている。作業機は、車体フレームに支持されるブームと、ブームに対して相対移動可能なアタッチメントとを含んでいる。電動機は、アタッチメントをブームに対して相対移動させる駆動力を発生する。動力伝達装置は、電動機の発生する駆動力を機械的にアタッチメントに伝達する。動力伝達装置は、アタッチメントに連結されたラックと、ラックと噛み合うピニオンとを有している。
【0008】
本開示の一の局面に従った作業機械は、車体フレームと、作業機と、電動機と、動力伝達装置とを備えている。作業機は、車体フレームに支持されるブームと、ブームに対して相対移動可能なアタッチメントとを含んでいる。電動機は、車体フレームに搭載されている。電動機は、アタッチメントをブームに対して相対移動させる駆動力を発生する。動力伝達装置は、電動機の発生する駆動力をアタッチメントに伝達する。動力伝達装置は、電動機により駆動され圧油を吐出する油圧ポンプと、油圧ポンプの吐出する圧油により駆動されるダブルロッドシリンダと、油圧ポンプとダブルロッドシリンダとを繋ぐ閉油圧回路と、を有している。
【発明の効果】
【0009】
本開示に従えば、作業機の動作の電動化が進められた、環境に配慮した作業機械を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第一実施形態に基づく作業機械の構成を概略的に示す側面図である。
【
図4】ブームに駆動力を伝達する動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【
図5】電動機から歯車部材までの動力伝達経路のスケルトン図である。
【
図6】アームに駆動力を伝達する動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【
図7】ダブルモータ駆動の構造を概略的に示す図である。
【
図8】ダブルモータ駆動の制御について示す図である。
【
図10】歯車部材の停止時の操作レバーを示す模式図である。
【
図11】歯車部材の低速反時計回り回転時の操作レバーを示す模式図である。
【
図12】歯車部材の低速時計回り回転時の操作レバーを示す模式図である。
【
図13】歯車部材の高速反時計回り回転時の操作レバーを示す模式図である。
【
図14】歯車部材の高速時計回り回転時の操作レバーを示す模式図である。
【
図18】ブームを車体フレームに対して相対移動させた状態の簡略図である。
【
図19】アームをブームに対して相対移動させた状態の簡略図である。
【
図20】ブームを車体フレームに対して相対移動させ、アームをブームに対して相対移動させた状態の簡略図である。
【
図21】第二実施形態に基づく、バケットに駆動力を伝達する動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【
図22】
図21中の矢印XXII方向から見た、動力伝達装置の概略図である。
【
図23】第三実施形態に基づく、バケットに駆動力を伝達する動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【
図24】ダブルロッドシリンダを駆動する油圧回路の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について図に基づいて説明する。以下の説明では、同一部品には、同一の符号を付している。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0012】
以下の説明において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」とは、運転室4内の運転席4Sに着座したオペレータを基準とした方向である。
【0013】
[第一実施形態]
<全体構成>
図1は、第一実施形態に基づく作業機械の一例としての電動式ショベル30の構成を概略的に示す側面図である。
図1には、右方から側面視した電動式ショベル30の概略構成が示されている。
図1に示されるように、実施形態の電動式ショベル30は、旋回体2と、走行体5と、作業機10とを主に有している。旋回体2と走行体5とにより、電動式ショベル30の車体1が構成されている。
【0014】
走行体5は、左右一対の履帯装置5Crを有している。左右一対の履帯装置5Crの各々は、履帯を有している。左右一対の履帯が回転駆動されることにより、電動式ショベル30が自走する。走行体5が履帯装置5Crの代わりに車輪(タイヤ)を有していてもよい。
【0015】
旋回体2は、走行体5に対して旋回自在に設置されている。旋回体2は、車体フレーム3と、運転室(キャブ)4と、カウンタウェイト6とを主に有している。運転室4とカウンタウェイト6とは、車体フレーム3に搭載されている。
【0016】
オペレータは、運転室4に搭乗して、電動式ショベル30を操作する。運転室4は、旋回体2のたとえば前方左側(車両前側)に配置されている。運転室4の内部空間には、オペレータが着座するための運転席4Sが配置されている。本開示では電動式ショベル30は運転室4内から操作されるが、電動式ショベル30から離れた場所から無線により電動式ショベル30が遠隔操作されてもよい。カウンタウェイト6は、運転室4に対して旋回体2の後方側(車両後側)に配置されている。カウンタウェイト6は、旋回体2の後部に配置されている。
【0017】
作業機10は、旋回体2の前部であってたとえば運転室4の右側において、旋回体2に支持されている。作業機10は、ブーム11と、アーム12と、バケット13とを有している。
【0018】
ブーム11の基端部は、ブームフートピン15により旋回体2に回転可能に連結されている。ブームフートピン15は、左右方向に延びており、ブーム11の基端部を貫通している。アーム12の基端部は、アーム連結ピン16によりブーム11の先端部に回転可能に連結されている。アーム連結ピン16は、左右方向に延びており、ブーム11の先端部とアーム12の基端部とを貫通している。バケット13は、アタッチメント連結ピン17によりアーム12の先端部に回転可能に連結されている。アタッチメント連結ピン17は、左右方向に延びており、アーム12の先端部とバケット13の基端部とを貫通している。
【0019】
バケット13は、作業機10の先端部分を構成している。実施形態のバケット13は、アーム12を介してブーム11に連結されている。バケット13がアタッチメント連結ピン17を中心として回転する、および/または、アーム12がアーム連結ピン16を中心として回転することにより、バケット13はブーム11に対して相対移動する。バケット13は、ブーム11に対して相対移動可能に構成されている。
【0020】
バケット13は、複数の刃を有している。バケット13の先端部を、刃先13Aと称する。なお、バケット13は、刃を有していなくてもよい。バケット13の先端部は、ストレート形状の鋼板で形成されていてもよい。
【0021】
バケット13は、作業機10の先端に着脱可能に装着され、アーム12に対して回転可能なアタッチメントの一例である。作業の種類に応じて、アタッチメントが、ブレーカ、グラップル、またはリフティングマグネットなどに付け替えられる。
【0022】
作業機10は、バケットリンク21を有している。バケットリンク21は、第1部材22と、第2部材23とを有している。第1部材22と第2部材23とは、相対回転可能に連結されている。第1部材22と第2部材23とは、リンクピン24によりピン連結されている。第1部材22は、リンクピン25によりアーム12に回転可能に連結されている。第2部材23は、バケット13の根元部分のブラケットに、リンクピン26により回転可能に連結されている。
【0023】
第1部材22は、棒状の形状を有している。第1部材22は、一端において第2部材23と連結されており、他端においてアーム12と連結されている。第2部材23は、棒状の形状を有している。第2部材23は、一端において第1部材22と連結されており、他端においてバケット13と連結されている。
【0024】
図2は、車体フレーム3および作業機10の斜視図である。
図3は、車体フレーム3および作業機10の平面図である。車体フレーム3は、左右一対の縦板7,8を有している。縦板7,8は、前後方向(
図3においては図中の左右方向)に延びている。縦板7,8は、旋回体2の幅方向(左右方向)に間隔を空けて配置されている。縦板7,8は、上下方向に立てられた板により構成されており、互いに左右方向に距離を隔てて配置されている。運転室4は、左の縦板7よりも左方に配置されている。作業機10は、左右方向において縦板7,8の間に配置されている。作業機10は、左の縦板7よりも右方に配置されており、右の縦板8よりも左方に配置されている。
【0025】
<電動機100>
実施形態の電動式ショベル30では、作業機10を駆動させる駆動力を、電動機100が発生する。電動機100は、作業機10を駆動可能である。ブーム11およびアーム12が電動機100によって駆動されることにより、作業機10の動作が可能である。電動機100は、車体フレーム3上に配置されている。電動機100は、ブーム用電動機110と、アーム用電動機140とを有している。ブーム用電動機110およびアーム用電動機140は、いずれも車体フレーム3に支持されている。ブーム用電動機110およびアーム用電動機140は、作業機10の右方に配置されている。
【0026】
ブーム用電動機110は、ブーム11を駆動させ、ブーム11を車体フレーム3に対して相対移動させる駆動力を発生する。ブーム11は、ブーム用電動機110による駆動により、ブームフートピン15を中心として車体フレーム3に対して相対回転可能である。ブームフートピン15は、左右の縦板7,8の両方に亘って配置されている。ブームフートピン15の左端が左の縦板7に支持されており、ブームフートピン15の右端が右の縦板8に支持されている。これによりブーム11は、ブームフートピン15を中心として回転可能に、車体フレーム3によって支持されている。
【0027】
ブーム用電動機110は、一対の第1ブーム用電動機111と第2ブーム用電動機121とを有している。第1ブーム用電動機111と第2ブーム用電動機121とは、同一仕様である。第1ブーム用電動機111と第2ブーム用電動機121とは、同一の定格出力を有している。ここで、電動機の定格出力とは、電動機が指定された条件下で安全に達成できる最大出力をいう。
【0028】
アーム用電動機140は、アーム12を駆動させ、アーム12をブーム11に対して相対移動させる駆動力を発生する。アーム12は、アーム用電動機140による駆動により、アーム連結ピン16を中心としてブーム11に対して相対回転可能である。
【0029】
アーム用電動機140は、一対の第1アーム用電動機141(第1電動機)と第2アーム用電動機151(第2電動機)とを有している。第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151とは、同一仕様である。第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151とは、同一の定格出力を有している。
【0030】
<動力伝達装置>
本実施形態の電動式ショベル30は、電動機100の発生する駆動力を機械的に作業機10に伝達する動力伝達装置を備えている。以下、動力伝達装置について説明する。
【0031】
図4は、ブーム11に駆動力を伝達する動力伝達装置の概略構成を示す図である。動力伝達装置は、第1ブーム用出力ギヤ119と、第2ブーム用出力ギヤ129と、ブーム用歯車部材131とを有している。
【0032】
ブーム用歯車部材131は、略扇型形状を有しており、略扇型の円弧部に歯形を有している。
図2,3に示されるように、ブーム用歯車部材131は、ブーム11の側面、より詳細にはブーム11の右面に固定されている。ブーム用歯車部材131は、ブーム11の基端部に配置されている。ブーム用歯車部材131は、ブーム11と一体として、ブームフートピン15を中心として回転可能である。
【0033】
第1ブーム用出力ギヤ119は、外歯車であって、ブーム用歯車部材131に噛み合っている。第1ブーム用出力ギヤ119は、第1ブーム用電動機111と同心に配置されている。第1ブーム用電動機111は、第1ブーム用出力ギヤ119に駆動力を伝達する。第2ブーム用出力ギヤ129は、外歯車であって、ブーム用歯車部材131に噛み合っている。第2ブーム用出力ギヤ129は、第2ブーム用電動機121と同心に配置されている。第2ブーム用電動機121は、第2ブーム用出力ギヤ129に駆動力を伝達する。
【0034】
図5は、第1ブーム用電動機111および第2ブーム用電動機121からブーム用歯車部材131までの動力伝達経路のスケルトン図である。
【0035】
第1ブーム用電動機111からブーム用歯車部材131への動力伝達経路には、遊星歯車減速機113が設けられている。本実施形態では、第1ブーム用電動機111と遊星歯車減速機113とは一体構造である。第1ブーム用電動機111の駆動力をブーム用歯車部材131に伝達する動力伝達装置は、第1ブーム用電動機111と遊星歯車減速機113とが一体となったギヤードモータ117を含んでいる。
【0036】
遊星歯車減速機113は、複数の回転要素を有している。遊星歯車減速機113の複数の回転要素は、サンギヤ114と、プラネタリギヤ115と、リングギヤ116とを含んでいる。第1ブーム用電動機111の出力軸112は、サンギヤ114に連結されている。第1ブーム用電動機111の駆動力は、サンギヤ114に入力される。
【0037】
遊星歯車減速機113と第1ブーム用出力ギヤ119とは、連結軸118によって連結されている。より具体的には、連結軸118は、プラネタリギヤ115を支持する遊星キャリアに連結されている一端と、第1ブーム用出力ギヤ119に連結されている他端とを有している。遊星キャリアと第1ブーム用出力ギヤ119とは、連結軸118を介して連結されている。連結軸118は、出力軸112と同心に配置されていてもよい。
【0038】
第2ブーム用電動機121からブーム用歯車部材131への動力伝達経路には、遊星歯車減速機123が設けられている。本実施形態では、第2ブーム用電動機121と遊星歯車減速機123とは一体構造である。第2ブーム用電動機121の駆動力をブーム用歯車部材131に伝達する動力伝達装置は、第2ブーム用電動機121と遊星歯車減速機123とが一体となったギヤードモータ127を含んでいる。
【0039】
遊星歯車減速機123は、複数の回転要素を有している。遊星歯車減速機123の複数の回転要素は、サンギヤ124と、プラネタリギヤ125と、リングギヤ126とを含んでいる。第2ブーム用電動機121の出力軸122は、サンギヤ124に連結されている。第2ブーム用電動機121の駆動力は、サンギヤ124に入力される。
【0040】
遊星歯車減速機123と第2ブーム用出力ギヤ129とは、連結軸128によって連結されている。より具体的には、連結軸128は、プラネタリギヤ125を支持する遊星キャリアに連結されている一端と、第2ブーム用出力ギヤ129に連結されている他端とを有している。遊星キャリアと第2ブーム用出力ギヤ129とは、連結軸128を介して連結されている。連結軸128は、出力軸122と同心に配置されていてもよい。
【0041】
第1ブーム用出力ギヤ119は、ブーム用歯車部材131に噛み合っている。第1ブーム用電動機111の発生する駆動力が、第1ブーム用出力ギヤ119を介して、ブーム用歯車部材131に伝達される。第2ブーム用出力ギヤ129は、ブーム用歯車部材131に噛み合っている。第2ブーム用電動機121の発生する駆動力が、第2ブーム用出力ギヤ129を介して、ブーム用歯車部材131に伝達される。ブーム用歯車部材131は、第1ブーム用電動機111および第2ブーム用電動機121からの駆動力の伝達を受けて、ブーム用歯車部材131が固定されているブーム11と一体として、回転する。これによりブーム11は、ブームフートピン15を中心に回転駆動される。
【0042】
遊星歯車減速機113、連結軸118および第1ブーム用出力ギヤ119は、第1ブーム用電動機111の発生する駆動力を機械的にブーム11に伝達する。遊星歯車減速機123、連結軸128および第2ブーム用出力ギヤ129は、第2ブーム用電動機121の発生する駆動力を機械的にブーム11に伝達する。遊星歯車減速機113,123と、連結軸118,128と、第1ブーム用出力ギヤ119および第2ブーム用出力ギヤ129とは、ブーム用電動機110の発生する駆動力を機械的にブーム11に伝達する、ブーム用動力伝達装置を構成している。
【0043】
ブーム用動力伝達装置は、作業機10に対して運転室4の反対側に配置されている。車体フレーム3上の前方左側に運転室4が配置され、作業機10に対して左側に運転室4が配置されている実施形態の構成の場合、ブーム用動力伝達装置は、作業機10に対して右側に配置されている。
【0044】
図6は、アーム12に駆動力を伝達する動力伝達装置160の概略構成を示す図である。アーム用電動機140の発生する駆動力を機械的にアーム12に伝達する動力伝達装置160は、第1アーム用出力ギヤ149と、第2アーム用出力ギヤ159と、アーム用歯車部材161と、回動部材162と、アームリンク170とを有している。
【0045】
アーム用歯車部材161は、略扇型形状を有しており、略扇型の円弧部に歯形を有している。
図2,3に示されるように、アーム用歯車部材161は、ブーム用歯車部材131とは別体であり、ブーム用歯車部材131からは離れてブーム用歯車部材131の右方に配置されている。左右方向において、ブーム用歯車部材131とアーム用歯車部材161との間に隙間が介在している。アーム用歯車部材161は、ブーム11の基端部に配置されている。アーム用歯車部材161は、ブームフートピン15と同心で車体フレーム3に対して相対回転運動する。
【0046】
第1アーム用出力ギヤ149は、外歯車であって、アーム用歯車部材161に噛み合っている。第1アーム用出力ギヤ149は、第1アーム用電動機141と同心に配置されている。第1アーム用電動機141は、第1アーム用出力ギヤ149に駆動力を伝達する。第2アーム用出力ギヤ159は、外歯車であって、アーム用歯車部材161に噛み合っている。第2アーム用出力ギヤ159は、第2アーム用電動機151と同心に配置されている。第2アーム用電動機151は、第2アーム用出力ギヤ159に駆動力を伝達する。
【0047】
第1アーム用電動機141および第2アーム用電動機151からアーム用歯車部材161までの動力伝達経路は、
図5に示されるブーム用歯車部材131までの動力伝達経路と同様である。第1アーム用電動機141からアーム用歯車部材161への動力伝達経路には、遊星歯車減速機が設けられている。第1アーム用電動機141と遊星歯車減速機とは一体構造である。第2アーム用電動機151からアーム用歯車部材161への動力伝達経路には、遊星歯車減速機が設けられている。第2アーム用電動機151と遊星歯車減速機とは一体構造である。アーム用歯車部材161は、第1アーム用電動機141および第2アーム用電動機151からの駆動力の伝達を受けて回転する。
【0048】
回動部材162は、アーム用歯車部材161に固定されており、アーム用歯車部材161と一体にブームフートピン15と同心で車体フレーム3に対して相対回転運動する。アーム用歯車部材161と回動部材162とは、実施形態の第1伝達部に相当する。
【0049】
アームリンク170は、第1リンク部材171と、第2リンク部材172と、中間部材173とを有している。中間部材173は、ピン178を介してブーム11に接続されている。側方視したブーム11は屈曲した形状を有しており、ブーム11の屈曲部分に中間部材173が接続されている。
【0050】
第1リンク部材171は、棒状の形状を有している。第1リンク部材171は、ブーム11に沿って延びている。第1リンク部材171は、その第1端において、連結ピン177を介して回動部材162に連結されている。第1リンク部材171は、その第2端において、連結ピン174を介して中間部材173と連結されている。第1リンク部材171は、回動部材162と中間部材173とを連結している。第1リンク部材171は、アーム用電動機140が発生しアーム用歯車部材161を介して回動部材162に伝達された駆動力を、中間部材173に伝達する。
【0051】
第2リンク部材172は、棒状の形状を有している。第2リンク部材172は、ブーム11に沿って延びている。第2リンク部材172は、その第1端において、連結ピン175を介して中間部材173と連結されている。第2リンク部材172は、その第2端において、連結ピン176を介してアーム12と連結されている。第2リンク部材172は、中間部材173とアーム12とを連結している。第2リンク部材172は、アーム用電動機140が発生しアーム用歯車部材161、回動部材162、第1リンク部材171を順に経由して中間部材173に伝達された駆動力を、アーム12に伝達する。
【0052】
中間部材173は、略多角形の形状を有していてもよい。第1リンク部材171および第2リンク部材172は、中間部材173の略多角形の異なる頂点の近傍において、中間部材173に連結されていてもよい。中間部材173は、略多角形状に限られず、任意の形状を有していてもよい。たとえば中間部材173は、棒状の形状を有し、その基端がブーム11に接続されていてもよい。
【0053】
アームリンク170(第1リンク部材171、第2リンク部材172および中間部材173)は、第1伝達部の車体フレーム3に対する相対回転運動によってアーム12に動力を伝達する、実施形態の第2伝達部に相当する。
【0054】
<ダブルモータ駆動>
一般的に歯車機構には、噛み合う歯車の歯面間に設けられた隙間であるバックラッシュが存在するため、被駆動歯車に連結された可動部材の位置決め時の精度が低下することになる。作業機械の場合、ブーム11の根元部分に設けられた歯車機構のバックラッシュが、作業機10の先端部のアタッチメントの位置ずれを引き起こすことになる。バックラッシュを低減するため、実施形態の動力伝達装置は、2つの電動機を使って1つの歯車部材を駆動するダブルモータ駆動とされている。
【0055】
具体的には、ブーム11に駆動力を伝達するブーム用歯車部材131は、第1ブーム用電動機111と第2ブーム用電動機121とによって駆動される。アーム12に駆動力を伝達するアーム用歯車部材161は、第1アーム用電動機141(第1電動機)と第2アーム用電動機151(第2電動機)とによって駆動される。以下、第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151とによりアーム用歯車部材161を駆動する構造を例として、ダブルモータ駆動について説明する。
【0056】
図7は、ダブルモータ駆動の模式図である。なお
図7はダブルモータ駆動を模式的に図示したものであるので、アーム用歯車部材161の形状、アーム用歯車部材161に対する第1アーム用出力ギヤ149および第2アーム用出力ギヤ159の配置などが、
図6に示される実施形態とは異なっている。
【0057】
回動部材162に固定されたアーム用歯車部材161には、第1アーム用出力ギヤ149と、第2アーム用出力ギヤ159とが噛み合っている。第1アーム用出力ギヤ149は第1アーム用電動機141に接続されており、第1アーム用電動機141が回転駆動することにより第1アーム用出力ギヤ149が回転する。第2アーム用出力ギヤ159は第2アーム用電動機151に接続されており、第2アーム用電動機151が回転駆動することにより第2アーム用出力ギヤ159が回転する。
【0058】
図7に示される配置においては、各歯車について、時計回り方向を回転の正方向とし、反時計回り方向を回転の負方向とする。
【0059】
図8は、ダブルモータ駆動の制御について示す図である。第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151との協調制御により、歯車の歯面同士を隙間なく接触させるバックラッシュ除去制御を実行して、作業機10の先端のアタッチメントの位置決め精度を高くすることが可能である。また、動力伝達装置の効率を向上するために、バックラッシュ除去制御を非実行とすることもできる。バックラッシュ除去制御の実行と非実行とを切り替えることで、高精度なアタッチメント位置と、高効率な動力伝達とのいずれかを選択することができ、また、高効率な遊星歯車機構の採用で、作業機10の運動エネルギーによる回生が可能になる。
【0060】
図8に示されるように、バックラッシュ除去制御を実行するときには、第1アーム用電動機141は、アーム用歯車部材161に、常時、大きさαの正方向のオフセットトルクを加え、第2アーム用電動機151は、アーム用歯車部材161に、常時、大きさαの負方向のオフセットトルクを加える。
【0061】
アーム用歯車部材161を停止させるときには、第1アーム用電動機141および第2アーム用電動機151が、アーム用歯車部材161に、大きさが同じで逆向きのオフセットトルクを加える。第1アーム用電動機141がアーム用歯車部材161に負荷するトルクと、第2アーム用電動機151がアーム用歯車部材161に負荷するトルクと、の合計トルクの大きさはゼロである。
【0062】
このとき、第1アーム用出力ギヤ149および第2アーム用出力ギヤ159の両方が、逆向きに回転しようとして、アーム用歯車部材161を挟み込むようになる。第1アーム用出力ギヤ149の歯面がアーム用歯車部材161の歯面に接触し、第2アーム用出力ギヤ159の歯面がアーム用歯車部材161の歯面に接触した状態で、アーム用歯車部材161が保持される。第1アーム用出力ギヤ149と第2アーム用出力ギヤ159との両方をアーム用歯車部材161に押し付けることで、バックラッシュを抑制できる。
【0063】
アーム用歯車部材161を低速で反時計回り方向に回転させるときには、第1アーム用電動機141の発生するトルクを増加させる。第1アーム用電動機141は、第1アーム用出力ギヤ149に、大きさαの正方向のオフセットトルクと、大きさTの正方向の駆動トルクとを加える。第2アーム用電動機151は、第2アーム用出力ギヤ159に、大きさαの負方向のオフセットトルクを加える。第1アーム用電動機141が第1アーム用出力ギヤ149に負荷するトルクと、第2アーム用電動機151が第2アーム用出力ギヤ159に負荷するトルクと、の合計トルクは、大きさTの正方向のトルクになる。
【0064】
第1アーム用電動機141のトルクを増加させることで、負方向(反時計回り方向)にアーム用歯車部材161を駆動する。このとき第2アーム用電動機151は、アーム用歯車部材161の回転方向と反対向きのオフセットトルクを加え続けている。第1アーム用電動機141がアーム用歯車部材161を駆動し、第2アーム用電動機151はアーム用歯車部材161に少しだけブレーキをかける状態になる。
【0065】
このとき、第1アーム用出力ギヤ149および第2アーム用出力ギヤ159の両方が、逆向きに回転しようとして、アーム用歯車部材161を挟み込むようになる。第1アーム用出力ギヤ149の歯面がアーム用歯車部材161の歯面に接触し、第2アーム用出力ギヤ159の歯面がアーム用歯車部材161の歯面に接触した状態になる。第1アーム用出力ギヤ149と第2アーム用出力ギヤ159との両方をアーム用歯車部材161に押し付けることで、バックラッシュを抑制できる。
【0066】
アーム用歯車部材161を低速で時計回り方向に回転させるときには、第2アーム用電動機151の発生するトルクを増加させる。第2アーム用電動機151は、第2アーム用出力ギヤ159に、大きさαの負方向のオフセットトルクと、大きさTの負方向の駆動トルクとを加える。第1アーム用電動機141は、第1アーム用出力ギヤ149に、大きさαの正方向のオフセットトルクを加える。第1アーム用電動機141が第1アーム用出力ギヤ149に負荷するトルクと、第2アーム用電動機151が第2アーム用出力ギヤ159に負荷するトルクと、の合計トルクは、大きさTの負方向のトルクになる。
【0067】
第2アーム用電動機151のトルクを増加させることで、正方向(時計回り方向)にアーム用歯車部材161を駆動する。このとき第1アーム用電動機141は、アーム用歯車部材161の回転方向と反対向きのオフセットトルクを加え続けている。第2アーム用電動機151がアーム用歯車部材161を駆動し、第1アーム用電動機141はアーム用歯車部材161に少しだけブレーキをかける状態になる。
【0068】
このとき、第1アーム用出力ギヤ149および第2アーム用出力ギヤ159の両方が、逆向きに回転しようとして、アーム用歯車部材161を挟み込むようになる。第1アーム用出力ギヤ149の歯面がアーム用歯車部材161の歯面に接触し、第2アーム用出力ギヤ159の歯面がアーム用歯車部材161の歯面に接触した状態になる。第1アーム用出力ギヤ149と第2アーム用出力ギヤ159との両方をアーム用歯車部材161に押し付けることで、バックラッシュを抑制できる。
【0069】
バックラッシュ除去制御を実行することで、作業機10の先端のアタッチメントの位置決め精度を高くすることができ、アタッチメントを使用した高精度な作業が可能になる。なお、アーム用歯車部材161の停止時の動力伝達効率はゼロである。オフセットトルクの大きさαを駆動トルクの大きさTの0.25倍とし、歯車の効率を100%と仮定すると、アーム用歯車部材161を低速で回転させるときの動力伝達効率は66%になる。
【0070】
図8に示されるように、バックラッシュ除去制御を非実行とするときには、第1アーム用電動機141および第2アーム用電動機151からアーム用歯車部材161に、オフセットトルクは加えられない。アーム用歯車部材161を高速で回転させるため、第1アーム用電動機141および第2アーム用電動機151からアーム用歯車部材161に、同じ向きの駆動トルクが加えられる。
【0071】
アーム用歯車部材161を高速で反時計回り方向に回転させるときには、第1アーム用電動機141は、第1アーム用出力ギヤ149に、大きさTの正方向の駆動トルクを加える。第2アーム用電動機151は、第2アーム用出力ギヤ159に、大きさTの正方向の駆動トルクを加える。第1アーム用電動機141が第1アーム用出力ギヤ149に負荷するトルクと、第2アーム用電動機151が第2アーム用出力ギヤ159に負荷するトルクと、の合計トルクは、大きさ2Tの正方向のトルクになる。
【0072】
アーム用歯車部材161を高速で時計回り方向に回転させるときには、第1アーム用電動機141は、第1アーム用出力ギヤ149に、大きさTの負方向の駆動トルクを加える。第2アーム用電動機151は、第2アーム用出力ギヤ159に、大きさTの負方向の駆動トルクを加える。第1アーム用電動機141が第1アーム用出力ギヤ149に負荷するトルクと、第2アーム用電動機151が第2アーム用出力ギヤ159に負荷するトルクと、の合計トルクは、大きさ2Tの負方向のトルクになる。
【0073】
第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151との両方が、アーム用歯車部材161に駆動トルクを加える。第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151との両方ともが、アーム用歯車部材161にブレーキをかけない。歯車の効率を100%と仮定すると、アーム用歯車部材161を高速で回転させるときの動力伝達効率は100%になる。バックラッシュ除去制御を非実行とすることで、高効率にアーム用歯車部材161に動力を伝達することができる。作業機10の先端のアタッチメントの位置決め精度は低くなるものの、高速で移動中のアタッチメントに高い位置決め精度は要求されないため、差し支えはない。
【0074】
第1アーム用電動機141から第1アーム用出力ギヤ149への動力伝達経路が、効率の高い遊星歯車減速機を有している。第2アーム用電動機151から第2アーム用出力ギヤ159への動力伝達経路が、効率の高い遊星歯車減速機を有している。バックラッシュ除去制御を非実行としているときに、作業機10の先端のアタッチメントが物体に衝突するなどしてアタッチメントに大きな外力が作用するときには、その外力が、遊星歯車減速機を通過して、第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151に伝わるようにしている。
【0075】
第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151とのロータ部は、ロータ部を回転可能に支持する軸受以外には接触部品がない。そのため、大きな外力が働くと、ロータ部に角度変位が発生する。第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151とが脱調することにより、結果的に、遊星歯車減速機の破損を防ぐことができる。
【0076】
なお、バックラッシュ除去制御の実行中は、作業機10の先端のアタッチメントは停止しているか、または移動するとしても低速での移動になる。作業機10の先端のアタッチメントの移動速度が小さく、アタッチメントが物体に衝突するときの衝撃が小さいので、遊星歯車減速機の破損が防止されている。
【0077】
第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151との回転方向および発生する駆動力は、作業機10を動作させるためのオペレータの操作に応じて調整される。
図9は、操作レバー4Lの斜視図である。操作レバー4Lは、作業機10を動作させるためにオペレータにより操作される操作装置の一例である。操作レバー4Lは、たとえば電気式のレバーである。
【0078】
操作レバー4Lは、たとえば運転室4(
図1)内に配置されている。操作レバー4Lは、たとえば運転席4S(
図1)の左方に配置されている。操作レバー4Lは、運転室4に取り付けられた根元部4L1と、根元部4L1から上方に突き出し根元部4L1に対して相対移動可能な把持部4L2とを有している。運転席4Sに着座したオペレータは、左手で把持部4L2を握って操作レバー4Lを操作することで、アーム12を動作させることができる。
【0079】
一例として、操作レバー4Lを左へ動かすことで、アーム12をダンプ方向(アーム12をブーム11から離す方向)に移動させることができる。操作レバー4Lを右へ動かすことで、アーム12を掘削方向(アーム12をブーム11に近づける方向)に移動させることができる。
【0080】
操作レバー4Lの操作方向および操作量は、たとえば、ポテンショメータまたはホールICなどのセンサによって検出される。この検出値に基づいて、オペレータの操作に従ってアーム12の動作を制御する制御装置が、第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151とを制御するための制御信号を生成して、第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151とに送信する。
【0081】
図10は、アーム用歯車部材161の停止時の操作レバー4Lを示す模式図である。
図10には、オペレータが操作レバー4Lに触れていない状態の操作レバー4Lが模式的に示されている。
図9に示されるように、操作レバー4Lの把持部4L2は実際には運転席4Sへ向かって傾斜しているが、
図10および後述する
図11~
図14では、オペレータが操作レバー4Lに触れていない状態では、把持部4L2は根元部4L1から図中の上向きに真っ直ぐ延びているものとする。
図10に示される、根元部4L1に対する把持部4L2の相対位置を、
図11~
図14の説明においては中立位置と称する。
【0082】
図11は、アーム用歯車部材161の低速反時計回り回転時の操作レバー4Lを示す模式図である。
図11に示される操作レバー4Lの把持部4L2は、中立位置から左へ傾いている。この操作レバー4Lの操作に従って、第1アーム用電動機141は、大きさαの正方向のオフセットトルクと、大きさTの正方向の駆動トルクとを発生し、第2アーム用電動機151は、大きさαの負方向のオフセットトルクを発生する。アーム用歯車部材161が低速で反時計回り方向に回転することにより、アームリンク170に対し、回動部材162に連結されている基端へ向かって引っ張る方向の力が作用する。これにより、アーム12がダンプ方向へ低速で移動する。
【0083】
図12は、アーム用歯車部材161の低速時計回り回転時の操作レバー4Lを示す模式図である。
図12に示される操作レバー4Lの把持部4L2は、中立位置から右へ傾いている。この操作レバー4Lの操作に従って、第1アーム用電動機141は、大きさαの正方向のオフセットトルクを発生し、第2アーム用電動機151は、大きさαの負方向のオフセットトルクと、大きさTの負方向の駆動トルクとを発生する。アーム用歯車部材161が低速で時計回り方向に回転することにより、アームリンク170に対し、回動部材162に連結されている基端からアーム12に連結されている先端へ向かって押す方向の力が作用する。これにより、アーム12が掘削方向へ低速で移動する。
【0084】
図13は、アーム用歯車部材161の高速反時計回り回転時の操作レバー4Lを示す模式図である。
図13に示される操作レバー4Lの把持部4L2は、中立位置から左へ大きく傾いている。この操作レバー4Lの操作に従って、第1アーム用電動機141は、大きさTの正方向の駆動トルクを発生し、第2アーム用電動機151は、大きさTの正方向の駆動トルクを発生する。アーム用歯車部材161が高速で反時計回り方向に回転することにより、アームリンク170に対し、回動部材162に連結されている基端へ向かって引っ張る方向の力が作用する。これにより、アーム12がダンプ方向へ高速で移動する。
【0085】
図14は、アーム用歯車部材161の高速時計回り回転時の操作レバー4Lを示す模式図である。
図14に示される操作レバー4Lの把持部4L2は、中立位置から右へ大きく傾いている。この操作レバー4Lの操作に従って、第1アーム用電動機141は、大きさTの負方向の駆動トルクを発生し、第2アーム用電動機151は、大きさTの負方向の駆動トルクを発生する。アーム用歯車部材161が高速で時計回り方向に回転することにより、アームリンク170に対し、回動部材162に連結されている基端からアーム12に連結されている先端へ向かって押す方向の力が作用する。これにより、アーム12が掘削方向へ高速で移動する。
【0086】
このように、操作レバー4Lの操作に応じて、第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151との回転方向および発生する駆動力を調整可能である。したがって、オペレータの意図に従って、作業機10の先端のアタッチメントを、高効率に高速で移動させたり、高い位置精度で微速で移動させたり、高い位置精度で静止させたりすることができる。
【0087】
<モータ並列配置>
図15は、モータ直列配置の概略図である。
図15および後述する
図16では、ブーム11およびアーム12が模式的に示され、またブーム用電動機110とアーム用電動機140とのブーム11およびアーム12に対する配置が模式的に示されている。
【0088】
図15に示されるブーム11を駆動するブーム用電動機110は、ブーム11の基端に配置されている。アーム12を駆動するアーム用電動機140は、アーム12の基端に配置されている。アーム用電動機140は、ブーム11とアーム12とを連結するアーム連結ピン16(
図1など)の位置に配置されている。
図15に示される、作業機10に対するブーム用電動機110およびアーム用電動機140の配置を、モータ直列配置と称する。
【0089】
ブーム11の長さl、アーム12の長さlとする。このとき、アーム12の先端に作用する大きさmgの外力に対して、ブーム11およびアーム12を支持するためにブーム用電動機110は大きさ2mglのモーメントM1を発生する必要があり、アーム12を支持するためにアーム用電動機140は大きさmglのモーメントM2を発生する必要があることになる。
【0090】
モータ直列配置の場合、ブーム11およびアーム12を駆動するために、大きさ2mglのモーメントを発生する大モータ(ブーム用電動機110)と大きさmglのモーメントを発生する小モータ(アーム用電動機140)とが必要になる。アーム用電動機140と減速機とをブーム用電動機110で支える必要があるので、ブーム用電動機110の出力が大きくなる。外力の入力点であるアーム12の先端に近いアーム12の基端にアーム用電動機140が配置されるので、アーム用電動機140に伝わる衝撃が大きくなる。
【0091】
図16は、モータ並列配置の概略図である。
図16に示されるブーム11を駆動するブーム用電動機110は、ブーム11の基端に配置されている。アーム12を駆動するアーム用電動機140もまた、ブーム11の基端に配置されている。アーム用電動機140とアーム12とは、回動部材162とアームリンク170とを含む動力伝達装置160によって連結されている。アーム用電動機140は、動力伝達装置160を介して、アーム12の基端に駆動力を伝達する。
図16に示される、作業機10に対するブーム用電動機110およびアーム用電動機140の配置を、モータ並列配置と称する。
【0092】
ブーム11の長さl、アーム12の長さlとする。このとき、アーム12の先端に作用する大きさmgの外力を、ブーム用電動機110とアーム用電動機140とで分担することになる。ブーム用電動機110は、ブーム11を駆動するために大きさmglのモーメントM1を発生する必要があり、アーム12を駆動するために大きさmglのモーメントM2を発生する必要がある。
【0093】
本実施形態では、ブーム用電動機110とアーム用電動機140との両方が車体フレーム3に搭載されているので、モータ並列配置とされている。モータ並列配置の場合、ブーム11およびアーム12を駆動するために、大きさmglのモーメントを発生する2つの小モータ(ブーム用電動機110、アーム用電動機140)でよいことになる。ブーム用電動機110とアーム用電動機140との発生する駆動トルクの合計がより小さくなり、定格出力のより小さな電動機を採用できるので、電動機の小型化およびコスト低減が達成されている。
【0094】
ブーム用電動機110がアーム用電動機140と減速機とを支える必要がなく、省電力化を達成できる。外力の入力点であるアーム12の先端から離れた位置にブーム用電動機110とアーム用電動機140との両方が配置されるので、ブーム用電動機110とアーム用電動機140とは衝撃の影響を受けにくく、耐衝撃性を向上することができる。
【0095】
モータ並列配置による作業機10の駆動について説明する。
図17は、作業機10を簡略化した図である。
図17および後述する
図18~
図20では、ブーム11、アーム12、回動部材162およびアームリンク170が、それぞれ直線で簡略化されて示されている。
図2,6を参照して説明した通り、実施形態のアームリンク170は実際には第1リンク部材171と第2リンク部材172とを有し、ブーム11の屈曲形状に沿って第1リンク部材171と第2リンク部材172とは各々の延びる方向が交差しているが、
図17~
図20では、アームリンク170は直線状に延びているものとする。
【0096】
図17~
図20に示されるxy平面において、作業機10は、ブームフートピン15が原点に位置するように配置されている。x軸は、ブームフートピン15を通り水平方向に延びる方向である。電動式ショベル30の前方向(車体フレーム3の前方向)が、+x方向に対応する。電動式ショベル30における上方向が、+y方向に対応する。
【0097】
図17に示されるブーム角度θ1は、ブーム11の延びる方向と+x方向とのなす角度であり、
図17においては45°である。アーム駆動リンク角度θ2は、回動部材162の延びる方向と+y方向とのなす角度であり、
図17においては45°である。
図17においては、ブーム11とアーム12とのなす角度は90°である。
図17に示される作業機10の姿勢を、
図18~
図20の説明においては、基本姿勢と称する。
【0098】
図18は、ブーム11を車体フレーム3に対して相対移動させた状態の簡略図である。
図18においては、ブーム角度θ1は基本姿勢よりも大きい90°であり、アーム駆動リンク角度θ2は基本姿勢よりも大きい90°であり、ブーム11とアーム12とのなす角度は基本姿勢と変わらず90°である。
図18に示される作業機10は、基本姿勢から、ブーム11に対するアーム12の相対位置を維持したままブーム11を上昇させた姿勢をとっている。
【0099】
基本姿勢から
図18に示される姿勢へ作業機10を移動させるときに、車体フレーム3に対してブーム11を相対移動させる。かつ、ブーム11に対するアーム12の相対位置を維持するために、車体フレーム3に対してアーム12を相対移動させることになる。そのため、ブーム用電動機110とアーム用電動機140との両方が駆動トルクを発生する必要がある。ブーム用電動機110とアーム用電動機140とが駆動トルクを分担することで、基本姿勢から
図18に示される姿勢へ作業機10を移動させることが可能である。
【0100】
図19は、アーム12をブーム11に対して相対移動させた状態の簡略図である。
図19においては、ブーム角度θ1は基本姿勢と変わらず45°であり、アーム駆動リンク角度θ2は基本姿勢よりも小さい0°であり、ブーム11とアーム12とのなす角度は基本姿勢よりも小さい45°である。
図19に示される作業機10は、基本姿勢から、ブーム11を静止させたままアーム12を掘削方向に移動させた姿勢を取っている。
【0101】
基本姿勢から
図19に示される姿勢へ作業機10を移動させるときに、車体フレーム3に対してアーム12を相対移動させることになる。そのため、ブーム用電動機110はオフセットトルクを発生するのみの駆動とし、アーム用電動機140が駆動トルクを発生することになる。これにより、ブーム11を静止させたままアーム12を単独で移動させて、基本姿勢から
図19に示される姿勢へ作業機10を移動させることが可能である。
【0102】
図20は、ブーム11を車体フレーム3に対して相対移動させ、アーム12をブーム11に対して相対移動させた状態の簡略図である。
図20においては、ブーム角度θ1は基本姿勢よりも大きい60°であり、アーム駆動リンク角度θ2は基本姿勢よりも大きい90°であり、ブーム11とアーム12とのなす角度は基本姿勢よりも大きい120°である。
図20に示される作業機は、基本姿勢から、ブーム11を上昇させるとともにアーム12をダンプ方向に移動させた姿勢をとっている。
【0103】
基本姿勢から
図20に示される姿勢へ作業機10を移動させるときに、車体フレーム3に対してブーム11を相対移動させ、かつ、車体フレーム3に対してアーム12を相対移動させることになる。そのため、ブーム用電動機110とアーム用電動機140との両方が駆動トルクを発生する必要がある。ブーム用電動機110とアーム用電動機140とが駆動トルクを分担することで、基本姿勢から
図20に示される姿勢へ作業機10を移動させることが可能である。
【0104】
<作用および効果>
上述した説明と一部重複する記載もあるが、本実施形態の特徴的な構成および作用効果についてまとめて記載すると、以下の通りである。
【0105】
図2,6に示されるように、電動式ショベル30は、アーム12をブーム11に対して相対移動させる駆動力を発生するアーム用電動機140を備えている。アーム12を油圧シリンダで駆動せずに電動式とし、アーム12の動作を電動化することで、動力を削減でき、より環境に配慮した作業機械を実現することができる。油圧シリンダを使用しないことにより、油圧の変動の影響を低減でき、作動油の温度変化による動粘特性の変化の影響を低減でき、作業中に発生する騒音を低減することができる。
【0106】
図2,6に示されるように、アーム用電動機140は、車体フレーム3に搭載されている。ブーム11の先端のアーム12を駆動させるアーム用電動機140が、ブーム11に搭載されておらず、車体フレーム3に搭載されている。重量物を作業機10に搭載しないことにより、作業機10を軽量化することができる。重量物を車体フレーム3に搭載することにより、電動式ショベル30の安定性を増大させることができる。
【0107】
作業中に負荷がかかるバケット13から離れた位置にアーム用電動機140を配置することにより、アーム用電動機140に伝達される衝撃を低減できるので、アーム用電動機140の信頼性を向上することができる。河川、港湾などの底面を浚う作業の場合にはバケット13およびアーム12が水中へ移動することになるが、車体フレーム3に搭載されているアーム用電動機140に関しては水没を考慮しなくてもよくなるため、アーム用電動機140を簡易な構成にすることができる。
【0108】
図2,6に示されるように、電動式ショベル30は、動力伝達装置160を備えている。動力伝達装置160は、アーム用電動機140の発生する駆動力を、機械的にアーム12に伝達する。アーム用電動機140の駆動力を油圧に変換することなく機械的にアーム12に伝達することにより、アーム用電動機140の消費電力量を低減できる。車体フレーム3へのバッテリ搭載容量の削減が可能になるため、車体フレーム3上のスペース効率を向上することができる。また、バッテリを削減する分の電動式ショベル30の製造コストおよびメンテナンスコストを低減することができる。
【0109】
図6に示されるように、動力伝達装置160は、アーム用歯車部材161と回動部材162とを有している。アーム用歯車部材161と回動部材162とは、車体フレーム3に対して相対回転運動する。アーム用歯車部材161と回動部材162との相対回転の中心が、ブームフートピン15と同心である。ブーム11の回転の中心と、アーム用歯車部材161および回動部材162の回転の中心を同じにすることで、ブーム11とアーム用歯車部材161および回動部材162とが車体フレーム3に対して相対回転するときに互いに干渉することが抑制される。
【0110】
図6に示されるように、動力伝達装置160は、アームリンク170を有している。アームリンク170は、回動部材162に連結されており、かつ、アーム12に連結されている。アーム用歯車部材161および回動部材162の車体フレーム3に対する相対回転運動が、アームリンク170に伝達され、アームリンク170を介してアーム12に伝達される。これにより、アーム用電動機140の発生する駆動力を、アームリンク170を介して、アーム12に確実に伝達することができる。
【0111】
図6に示されるように、アームリンク170は、ブーム11に接続された中間部材173と、中間部材173に連結された第1リンク部材171および第2リンク部材172とを有している。アームリンク170をブーム11に支持させることで、アームリンク170の強度を向上できる。アームリンク170が2本のリンク部材を別々に有する構成とすることで、屈曲した形状のブーム11に沿わせてリンク部材を配置できる。棒状のリンク部材の座屈長さを短くできるので、リンク部材の座屈を抑制することができる。座屈防止のためにリンク部材の剛性を大きくしなくてもよく、より径の小さいリンク部材を使用できるので、作業機10を軽量化することができる。
【0112】
図5に示されるように、電動式ショベル30は、電動機の回転を減速し駆動力を増大して出力する遊星歯車減速機を備えている。効率の高い遊星歯車減速機を備える構成とすることで、電動機の発生する駆動トルクを効率よく作業機10に伝達することができる。効率の高い遊星歯車減速機を採用して、作業機10の先端のアタッチメントに外力が作用するときにその外力が電動機にダイレクトに伝わるようにすることで、遊星歯車減速機の破損を抑制でき、衝撃に強い構造とすることができる。
【0113】
図5に示されるように、電動機と遊星歯車減速機とを一体構造とすることで、小型化が可能になる。市販品のギヤードモータを採用するようにすれば、製造コストを低減することができる。
【0114】
図6に示されるように、アーム用歯車部材161は、ブームフートピン15を中心として回転可能である。第1アーム用出力ギヤ149と第2アーム用出力ギヤ159とは、アーム用歯車部材161に噛み合っている。第1アーム用電動機141は、第1アーム用出力ギヤ149に駆動力を伝達する。第2アーム用電動機151は、第2アーム用出力ギヤ159に駆動力を伝達する。2つの電動機を使って1つの歯車部材を駆動するダブルモータ駆動とすることで、バックラッシュ除去制御を実行して、作業機10の先端のアタッチメントの位置決め精度を高くすることが可能である。
【0115】
ダブルモータ駆動を構成する第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151とを同一仕様とすることで、第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151との協調制御をより簡易に行うことができる。
【0116】
図8~14に示されるように、操作レバー4Lの操作に応じて、第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151との回転方向および駆動力を調整可能である。作業機10、典型的にはアーム12を動作させようとするオペレータの意図に従って、第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151とを適切に制御することで、アーム12の静止中および低速での移動中の位置決め精度を向上でき、かつ、アーム12の高速での移動中の動力伝達の効率を向上できる。
【0117】
図2,4に示されるように、電動式ショベル30は、ブーム11を車体フレーム3に対して相対移動させる駆動力を発生するブーム用電動機110を備えている。ブーム11を油圧シリンダで駆動せずに電動式とし、ブーム11の動作を電動化することで、動力を削減でき、より環境に配慮した作業機械を実現することができる。油圧シリンダを使用しないことにより、油圧の変動の影響を低減でき、作動油の温度変化による動粘特性の変化の影響を低減でき、作業中に発生する騒音を低減することができる。
【0118】
図4に示されるように、ブーム用歯車部材131は、ブームフートピン15を中心として回転可能である。第1ブーム用出力ギヤ119と第2ブーム用出力ギヤ129とは、ブーム用歯車部材131に噛み合っている。第1ブーム用電動機111は、第1ブーム用出力ギヤ119に駆動力を伝達する。第2ブーム用電動機121は、第2ブーム用出力ギヤ129に駆動力を伝達する。2つの電動機を使って1つの歯車部材を駆動するダブルモータ駆動とすることで、バックラッシュ除去制御を実行して、作業機10の先端のアタッチメントの位置決め精度を高くすることが可能である。
【0119】
図2,3に示されるように、ブーム用歯車部材131は、ブーム11の側面に固定されている。このようにすれば、ブーム用歯車部材131に駆動力をかけることにより、ブーム11を確実にブームフートピン15を中心に回転させることができる。
【0120】
なお、これまでの実施形態の説明においては、第1ブーム用電動機111と第2ブーム用電動機121とがブーム用歯車部材131を駆動し、第1アーム用電動機141と第2アーム用電動機151とがアーム用歯車部材161を駆動し、ブーム11とアーム12との両方がダブルモータ駆動である例について説明した。作業機10の先端のアタッチメントの位置決め精度を必要としない場合、ブーム用歯車部材131とアーム用歯車部材161とのいずれか1つまたは両方を、1つの電動機によって駆動されるシングルモータ駆動とすることも可能である。
【0121】
上記の実施形態では、動力伝達装置160が棒状のリンク部材を有する例について説明した。動力伝達装置160は、アーム用電動機140の駆動力を機械的にアーム12に伝達できるのであれば、リンク部材以外の機構を有してもよい。たとえば動力伝達装置160は、鋼索、チェーン、プーリ、ラックアンドピニオンなどのいずれかまたは組み合わせを有してもよい。
【0122】
実施形態では、車体フレーム3の前方左側に運転室4を配置し、運転室4の右方に作業機10を配置し、作業機10の右方に電動機100を配置する例について説明した。この配置に限られず、たとえば、作業機10の後方に運転室4を配置することで、作業機10の左右両側に電動機100を配置することが可能になるので、電動機100の配置の自由度を向上できる。
【0123】
実施形態では、電動機100がブーム用電動機110とアーム用電動機140とを個別に有する例について説明した。ブーム11およびアーム12の駆動力を発生する電動機100を、必ずしも別々に設けなくてもよい。1つの電動機100の出力軸から動力を分配して、ブーム11およびアーム12に駆動力をそれぞれ伝達する構成としてもよい。この場合、ブーム11およびアーム12への駆動力の伝達の切り替えを、運転室4に搭乗するオペレータの操作で行うようにしてもよい。
【0124】
[第二実施形態]
第二実施形態に基づく電動式ショベル30の全体構成は、
図1を参照して説明した第一実施形態と同じである。電動式ショベル30は、車体フレーム3を備えている。電動式ショベル30は、作業機10を備えている。作業機10は、車体フレーム3に支持されるブーム11と、ブーム11に対して相対移動可能なバケット13とを有している。
【0125】
図21は、第二実施形態に基づく、バケット13に駆動力を伝達する動力伝達装置210の概略構成を示す図である。
図22は、
図21中の矢印XXII方向から見た、動力伝達装置210の概略図である。第二実施形態の電動式ショベル30は、動力伝達装置210の構成を特徴としている。
【0126】
図21,22に示されるように、第二実施形態の電動式ショベル30では、バケット13を駆動させる駆動力を、アタッチメント用電動機220が発生する。アタッチメント用電動機220は、バケット13を駆動可能である。バケット13がアタッチメント用電動機220によって駆動されることにより、バケット13の動作が可能である。バケット13は、アタッチメント用電動機220による駆動により、アタッチメント連結ピン17を中心としてアーム12に対して相対回転可能である。動力伝達装置210は、アタッチメント用電動機220の発生する駆動力を機械的にバケット13に伝達する。
【0127】
アタッチメント用電動機220は、アーム12に搭載されている。アーム12には、緩衝機構229が取り付けられている。緩衝機構229は、アーム12に入力される荷重を緩衝する機能を有している。アタッチメント用電動機220は、緩衝機構229を介してアーム12に搭載されている。アタッチメント用電動機220は、一対の第1電動機221と第2電動機231とを有している。第1電動機221と第2電動機231とは、同一仕様である。第1電動機221と第2電動機231とは、同一の定格出力を有している。
【0128】
第1電動機221の出力軸は、フレキシブルシャフト222に連結されている。フレキシブルシャフト222は、第1電動機221に連結されている基端を有している。フレキシブルシャフト222の先端は、かさ歯車223に連結されている。かさ歯車223は、かさ歯車224と噛み合っている。かさ歯車224は、遊星歯車減速機225に連結されている。
【0129】
遊星歯車減速機225は、複数の回転要素を有している。遊星歯車減速機225の複数の回転要素は、サンギヤと、プラネタリギヤと、リングギヤとを含んでいる。かさ歯車224は、遊星歯車減速機225のサンギヤに連結されている。第1電動機221の駆動力は、フレキシブルシャフト222とかさ歯車223,224とを介して、遊星歯車減速機225のサンギヤに入力される。
【0130】
遊星歯車減速機225は、第1電動機221の回転を減速し駆動力を増大して出力する。遊星歯車減速機225の遊星キャリアは、出力軸227に連結されている。出力軸227は、遊星キャリアに連結されている一端と、ピニオン228に連結されている他端とを有している。ピニオン228は、ラック240に噛み合っている。
【0131】
第2電動機231の出力軸は、フレキシブルシャフト232に連結されている。フレキシブルシャフト232は、第2電動機231に連結されている基端を有している。フレキシブルシャフト232の先端は、かさ歯車233に連結されている。かさ歯車233は、かさ歯車234と噛み合っている。かさ歯車234は、遊星歯車減速機235に連結されている。
【0132】
遊星歯車減速機235は、複数の回転要素を有している。遊星歯車減速機235の複数の回転要素は、サンギヤと、プラネタリギヤと、リングギヤとを含んでいる。かさ歯車234は、遊星歯車減速機235のサンギヤに連結されている。第2電動機231の駆動力は、フレキシブルシャフト232とかさ歯車233,234とを介して、遊星歯車減速機235のサンギヤに入力される。
【0133】
遊星歯車減速機235は、第2電動機231の回転を減速し駆動力を増大して出力する。遊星歯車減速機235の遊星キャリアは、出力軸237に連結されている。出力軸237は、遊星キャリアに連結されている一端と、ピニオン238に連結されている他端とを有している。ピニオン238は、ラック240に噛み合っている。
【0134】
ピニオン228,238とラック240とは、ピン251を介して、支持部材250によって支持されている。支持部材250は、アーム12に固定されている。ラック240とピニオン228,238とは、支持部材250を介して、アーム12に支持されている。
【0135】
ラック240は、バケットリンク21の第1部材22と第2部材23とを連結するリンクピン24に結合されている。ラック240は、バケットリンク21を介して、バケット13に連結されている。
【0136】
第1電動機221の発生する駆動力が、ピニオン228に伝達されて、ピニオン228が回転する。第2電動機231の発生する駆動力が、ピニオン238に伝達されて、ピニオン238が回転する。ラック240は、ピニオン228,238の回転に従って、長手方向に移動する。
【0137】
ラック240が、ブーム11とアーム12とを連結するアーム連結ピン16から離れ、アーム12とバケット13とを連結するアタッチメント連結ピン17に近づく方向に移動することにより、バケット13がアタッチメント連結ピン17を中心に回転駆動される。バケット13は、掘削方向(バケット13の刃先13Aをアーム12に近づける方向。
図21においてはアタッチメント連結ピン17を中心とする反時計回り方向)に移動する。
【0138】
ラック240が、アタッチメント連結ピン17から離れ、アーム連結ピン16に近づく方向に移動することにより、バケット13がアタッチメント連結ピン17を中心に回転駆動される。バケット13は、ダンプ方向(バケット13の刃先13Aをアーム12から遠ざける方向。
図21においてはアタッチメント連結ピン17を中心とする時計回り方向)に移動する。
【0139】
ラック240には、ピニオン228と、ピニオン238とが噛み合っている。ピニオン228は第1電動機221に接続されており、第1電動機221が回転駆動することによりピニオン228が回転する。ピニオン238は第2電動機231に接続されており、第2電動機231が回転駆動することによりピニオン238が回転する。第二実施形態の動力伝達装置210は、2つの電動機、すなわち第1電動機221と第2電動機231、を使って、1つの歯車部材であるラック240を駆動する、ダブルモータ駆動とされている。
【0140】
第一実施形態と同様に、第1電動機221と第2電動機231との協調制御により、バックラッシュ除去制御を実行して、バケット13の位置決め精度を高くすることが可能である。また、動力伝達装置210の効率を向上するために、バックラッシュ除去制御を非実行とすることもできる。
【0141】
第1電動機221と第2電動機231との回転方向および発生する駆動力は、バケット13を動作させるためのオペレータの操作に応じて調整される。運転席4Sに着座したオペレータは、運転席4Sの右方に配置された操作レバーを右手で左へ動かしてバケット13を掘削方向に移動させたり、操作レバーを右へ動かしてバケット13をダンプ方向に移動させたりすることができる。オペレータの意図に従って、作業機10の先端のバケット13を、高効率に高速で移動させたり、高い位置精度で微速で移動させたり、高い位置精度で静止させたりすることができる。
【0142】
以上説明した、第二実施形態の電動式ショベル30は、
図21,22に示されるように、バケット13をブーム11に対して相対移動させる駆動力を発生するアタッチメント用電動機220を備えている。バケット13を油圧シリンダで駆動せずに電動式とし、バケット13の動作を電動化することで、動力を削減でき、より環境に配慮した作業機械を実現することができる。油圧シリンダを使用しないことにより、油圧の変動の影響を低減でき、作動油の温度変化による動粘特性の変化の影響を低減でき、作業中に発生する騒音を低減することができる。
【0143】
図21,22に示されるように、電動式ショベル30は、動力伝達装置210を備えている。動力伝達装置210は、アタッチメント用電動機220の発生する駆動力を、機械的にバケット13に伝達する。アタッチメント用電動機220の駆動力を油圧に変換することなく機械的にバケット13に伝達することにより、アタッチメント用電動機220の消費電力量を低減できる。車体フレーム3へのバッテリ搭載容量の削減が可能になるため、車体フレーム3上のスペース効率を向上することができる。また、バッテリを削減する分の電動式ショベル30の製造コストおよびメンテナンスコストを低減することができる。
【0144】
図21,22に示されるように、動力伝達装置210は、ラック240とピニオン228,238とを有している。アタッチメント用電動機220の駆動力をピニオン228,238に伝達してピニオン228,238を回転駆動させ、ピニオン228,238と噛み合うラック240を長手方向に往復移動させることにより、バケット13をアタッチメント連結ピン17を中心に回転させることができる。
【0145】
図21,22に示されるように、動力伝達装置210は、フレキシブルシャフト222,232を有している。フレキシブルシャフト222,232を用いて動力を伝達する構成とすることで、正確な芯出しを不要にでき、簡易で低コストな機構とすることができる。
【0146】
図22に示されるように、動力伝達装置210は、遊星歯車減速機225,235を有している。効率の高い遊星歯車減速機を備える構成とすることで、アタッチメント用電動機220の発生する駆動トルクを効率よくバケット13に伝達することができる。効率の高い遊星歯車減速機を採用して、バケット13に外力が作用するときにその外力がアタッチメント用電動機220にダイレクトに伝わるようにすることで、遊星歯車減速機225,235の破損を抑制でき、衝撃に強い構造とすることができる。
【0147】
図21,22に示されるように、ラック240とピニオン228,238とは、アーム12に支持されている。バケット13に連結されたラック240と、ラック240と噛み合うピニオン228,238とをアーム12が支持することで、ラックアンドピニオン機構を介してアタッチメント用電動機220の発生する駆動力を確実にバケット13に伝達することができる。
【0148】
図21に示されるように、アタッチメント用電動機220は、緩衝機構229を介してアーム12に搭載されている。たとえばバケット13に外力が作用するときに、緩衝機構229で衝撃を緩衝してアタッチメント用電動機220に伝わる外力を低減することができ、これによりアタッチメント用電動機220の信頼性を向上することができる。
【0149】
なお、第二実施形態の説明においては、アタッチメント用電動機220をアーム12に搭載する例について説明した。アタッチメント用電動機220は、車体フレーム3上に搭載してもよい。重量物を作業機10に搭載しないことにより、作業機10を軽量化することができる。重量物を車体フレーム3に搭載することにより、電動式ショベル30の安定性を増大させることができる。作業中に負荷がかかるバケット13から離れた位置にアタッチメント用電動機220を配置することにより、アタッチメント用電動機220に伝達される衝撃を低減できるので、アタッチメント用電動機220の信頼性を向上することができる。
【0150】
第一実施形態と同様に、バケット13の位置決め精度を必要としない場合、ラック240が1つの電動機によって駆動されるシングルモータ駆動とすることも可能である。
【0151】
第一および第二実施形態では、作業機10を駆動させる駆動力を発生する電動機を備える電動式ショベル30について説明した。電動式ショベル30は、走行体5の走行、および走行体5に対する旋回体2の旋回のための駆動力も電動機が発生する、電動車両であってもよい。電動式ショベル30は、内燃機関を備えなくてもよい。電動式ショベル30は、油圧回路を備えなくてもよい。
【0152】
第一および第二実施形態では、動力伝達装置が遊星歯車減速機を有する例について説明した。遊星歯車減速機に替えて、動力伝達装置は、歯車1つに対し1つの歯車を噛み合わせて複数の歯車を組み合わせたスパー減速機を有してもよい。
【0153】
[第三実施形態]
第三実施形態に基づく電動式ショベル30の全体構成は、
図1を参照して説明した第一実施形態と同じである。電動式ショベル30は、車体フレーム3を備えている。電動式ショベル30は、作業機10を備えている。作業機10は、車体フレーム3に支持されるブーム11と、ブーム11に対して相対移動可能なバケット13とを有している。
【0154】
図23は、第三実施形態に基づく、バケット13に駆動力を伝達する動力伝達装置の概略構成を示す図である。第三実施形態の電動式ショベル30では、バケット13を駆動させる駆動力を、アタッチメント用電動機220が発生する。アタッチメント用電動機220は、バケット13を駆動可能である。バケット13がアタッチメント用電動機220によって駆動されることにより、バケット13の動作が可能である。バケット13は、アタッチメント用電動機220による駆動により、アタッチメント連結ピン17を中心としてアーム12に対して相対回転可能である。
【0155】
アタッチメント用電動機220は、車体フレーム3に搭載されている。車体フレーム3にはまた、油圧ポンプ261が搭載されている。油圧ポンプ261は、アタッチメント用電動機220により駆動され、圧油を吐出する。
【0156】
第三実施形態の動力伝達装置は、油圧ポンプ261の吐出する圧油により駆動されるダブルロッドシリンダ290を有している。ダブルロッドシリンダ290は、シリンダ部291と、第1ロッド部295と、第2ロッド部296とを有している。シリンダ部291は、筒状の形状を有しており、アーム12に支持されている。アーム12にはブラケット298が設けられており、シリンダ部291は、支持ピン299を介してブラケット298に回転可能に支持されている。ダブルロッドシリンダ290は、アーム12に支持されている。ダブルロッドシリンダ290は、アーム12に対して回転可能である。
【0157】
第1ロッド部295は、シリンダ部291内に収容されている基端と、シリンダ部291の外部に突き出る先端とを有している。第1ロッド部295の先端は、バケットリンク21の第1部材22と第2部材23とを連結するリンクピン24に結合されている。第1ロッド部295は、バケットリンク21を介して、バケット13に連結されている。第2ロッド部296は、シリンダ部291内に収容されている基端と、シリンダ部291の外部に突き出る先端とを有している。第2ロッド部296の先端は、他の部材に結合されておらず、フリーな状態とされている。第1ロッド部295と第2ロッド部296とは、棒状の形状を有している。第1ロッド部295と第2ロッド部296とは、同じ径を有している。第1ロッド部295および第2ロッド部296の、長手方向に直交する断面の面積は互いに等しい。
【0158】
図24は、ダブルロッドシリンダ290を駆動する油圧回路270の模式図である。ダブルロッドシリンダ290は、
図24に示されるように、シリンダ部291内に収容されたピストン部292を有している。ピストン部292は、筒状のシリンダ部291の長手方向(
図24においては、図中の上下方向)に往復移動可能である。ピストン部292は、シリンダ部291の内部空間を、第一室293と第二室294とに仕切っている。第1ロッド部295の基端は、ピストン部292に連結されている。第2ロッド部296の基端は、ピストン部292に連結されている。
【0159】
アタッチメント用電動機220の発生する駆動力をバケット13に伝達する動力伝達装置210は、油圧回路270を有している。油圧回路270は、油圧ポンプ261とダブルロッドシリンダ290とを繋ぐ閉油圧回路(閉回路)である。油圧回路270は、第1油路(第1流路)271と、第2油路(第2流路)272とを有している。
【0160】
第1油路271は、油圧ポンプ261と、ダブルロッドシリンダ290の第一室293とを繋いでいる。油圧ポンプ261から吐出された作動油を、第1油路271を経由して、第一室293へ供給することができる。第2油路272は、第1油路271とは異なる流路であり、油圧ポンプ261と、ダブルロッドシリンダ290の第二室294とを繋いでいる。油圧ポンプ261から吐出された作動油を、第2油路272を経由して、第二室294へ供給することができる。
【0161】
油圧ポンプ261は、たとえば斜板式アキシャル型のポンプであり、可変斜板262を有している。油圧ポンプ261の駆動軸は、アタッチメント用電動機220の出力軸に接続されている。可変斜板262の角度は、たとえばソレノイドなどのアクチュエータにより、無段階で連続的に制御される。
【0162】
油圧ポンプ261の駆動軸は、アタッチメント用電動機220の駆動により回転する。これにより油圧ポンプ261は、油圧回路270内の作動油を加圧して、第1油路271と第2油路272とのいずれか一方に圧油を吐出する。油圧ポンプ261は、アタッチメント用電動機220の駆動力を作動油(流体)のエネルギーに変換する。この作動油のエネルギーが、第1油路271または第2油路272を通じて、ダブルロッドシリンダ290へ伝達される。
【0163】
作動油のエネルギーがダブルロッドシリンダ290に伝達されることにより、ダブルロッドシリンダ290が駆動する。具体的には、第1油路271を通って第一室293に圧油が供給されることにより、ピストン部292が移動して、第一室293の容積を増大するとともに第二室294の容積を減少させる。第2油路272を通って第二室294に圧油が供給されることにより、ピストン部292が移動して、第二室294の容積を増大するとともに第二室294の容積を減少させる。このピストン部292の移動によって、第1ロッド部295と第2ロッド部296とのいずれか一方がシリンダ部291から突き出し、いずれか他方がシリンダ部291内へ引き込まれる。
【0164】
第1油路271から第一室293に圧油が供給されるときに、ピストン部292の移動に伴って容積が減少する第二室294から流出する作動油が、第2油路272を通って油圧ポンプ261へ供給される。第2油路272から第二室294に圧油が供給されるときに、ピストン部292の移動に伴って容積が減少する第一室293から流出する作動油が、第1油路271を通って油圧ポンプ261へ供給される。油圧ポンプ261は、供給された作動油のエネルギーを、回生エネルギーとして回収することができる。エネルギーロスを低減できることにより、動力伝達装置210の効率が向上されている。
【0165】
チャージ通路280は、油圧回路270内の作動油の圧力が設定圧よりも低くなった場合に、作動油を油圧回路270内へ補充する。作動油タンク281内の作動油が、チャージポンプ263により汲み上げられて、油圧回路270内へ補充される。油圧回路270内へ補充される際に、サクションフィルタ282、ラインフィルタ283を経由することにより、作動油が清掃される。清掃されたクリーンな状態の作動油が、油圧回路270内に補充される構成とされている。
【0166】
チャージポンプ263は、アタッチメント用電動機220により駆動される。チャージポンプ263は、たとえば斜板式アキシャル型のポンプである。チャージポンプ263の駆動軸は、アタッチメント用電動機220の駆動により回転する。チャージポンプ263は、作動油タンク281から汲み上げた作動油を、第1油路271と第2油路272との各々へ補充する。
【0167】
チャージ通路280から第1油路271に作動油を補充する流路に、チェックバルブ284と、リリーフバルブ285とが配置されている。チャージ通路280から第2油路272に作動油を補充する流路にも、チェックバルブ284と、リリーフバルブ285とが配置されている。チェックバルブ284は、油圧回路270を閉回路にするためのバルブである。リリーフバルブ285は、油圧回路270内の圧力上昇を制限するバルブである。油圧回路270内の油圧がリリーフバルブ285の設定圧力を超えると、油圧回路270内の作動油が、リリーフバルブ285を通ってチャージ通路280に流入する。
【0168】
チャージポンプ263から吐出される作動油の流路には、チャージリリーフバルブ286が配置されている。チャージリリーフバルブ286は、第1油路271および第2油路272内の作動油の圧力が設定圧以上にならないように調整する。第1油路271および第2油路272内の作動油の圧力がいずれもチャージリリーフバルブ286の設定圧力以上であれば、チャージポンプ263から吐出された作動油は、チャージリリーフバルブ286を通って作動油タンク281へ戻される。
【0169】
以上説明した、第三実施形態の電動式ショベル30は、
図23に示されるように、バケット13をブーム11に対して相対移動させる駆動力を発生するアタッチメント用電動機220を備えている。バケット13
の駆動源を
アタッチメント用電動機220とし、バケット13の動作を電動化することで、動力を削減でき、より環境に配慮した作業機械を実現することができる
。
【0170】
図23に示されるように、アタッチメント用電動機220は、車体フレーム3に搭載されている。作業機10の先端のバケット13を駆動させるアタッチメント用電動機220が、アーム12に搭載されておらず、車体フレーム3に搭載されている。重量物を作業機10に搭載しないことにより、作業機10を軽量化することができる。重量物を車体フレーム3に搭載することにより、電動式ショベル30の安定性を増大させることができる。
【0171】
作業中に負荷がかかるバケット13から離れた位置にアタッチメント用電動機220を配置することにより、アタッチメント用電動機220に伝達される衝撃を低減できるので、アタッチメント用電動機220の信頼性を向上することができる。河川、港湾などの底面を浚う作業の場合にはバケット13およびアーム12が水中へ移動することになるが、車体フレーム3に搭載されているアタッチメント用電動機220に関しては水没を考慮しなくてもよくなるため、アタッチメント用電動機220を簡易な構成にすることができる。
【0172】
図23,24に示されるように、アタッチメント用電動機220の発生する駆動力をバケット13に伝達する動力伝達装置210は、油圧ポンプ261と、油圧ポンプ261の吐出する圧油により駆動されるダブルロッドシリンダ290と、油圧ポンプ261とダブルロッドシリンダ290とを繋ぐ油圧回路270とを有している。従来の油圧シリンダに作動油を供給する油圧回路は、作動油の流量を制御するためのバルブを有しているのに対し、実施形態の油圧回路270は、バルブを有さず油圧ポンプ261で作動油の流量を制御する。バルブでの圧損がないため、動力伝達装置210の効率を向上することができる。
【0173】
ダブルロッドシリンダ290の第一室293と第二室294との一方の部屋に入った作動油の同量の作動油が、他方の部屋から流出する。流出した作動油のエネルギーを、回生エネルギーとしてアタッチメント用電動機220で回収できる。エネルギーロスを低減できるので、動力伝達装置210の効率をさらに向上できる。閉油圧回路で駆動されるダブルロッドシリンダ290を用いてバケット13を駆動させることで、動力を削減でき、より環境に配慮した作業機械を実現することができる。
【0174】
油圧回路270は、バケット13を駆動するためのダブルロッドシリンダ290にのみ作動油を供給する。油圧回路270が、ブーム11、アーム12、旋回モータおよび走行モータなどの他の装置に作動油を供給しない独立回路であり、他の回路の干渉がないことで、バケット13の刃先13Aの位置決め精度を向上することができる。
【0175】
図23,24に示されるように、ダブルロッドシリンダ290は、第1ロッド部295と第2ロッド部296とを有している。第1ロッド部295と第2ロッド部296とは、各々の基端がピストン部292に固定されており、各々の先端がシリンダ部291の外部に突き出している。ピストン部292の、第一室293の内面を構成する面積と、第二室294の内面を構成する面積とを等しくすることで、第一室293と第二室294との一方の部屋に入った作動油と同量の作動油を他方の部屋から確実に流出させることができる。第一室293に流入する油の流速と、第二室294から流出する油の流速とを、等しくすることができる。
【0176】
図24に示されるように、油圧回路270は、油圧ポンプ261とダブルロッドシリンダ290の第一室293とを繋ぐ第1油路271と、油圧ポンプ261とダブルロッドシリンダ290の第二室294とを繋ぐ第2油路272とを有している。油圧ポンプ261から吐出された圧油を、たとえば第1油路271を経由させて第一室293に供給することができ、このとき、同量の作動油を第二室294から流出させ、第2油路272を経由させて油圧ポンプ261に戻すことができる。
【0177】
図23に示されるように、ダブルロッドシリンダ290は、アーム12に支持されている。バケット13が連結されているアーム12に、バケット13を駆動させるダブルロッドシリンダ290を支持させることにより、ダブルロッドシリンダ290の第1ロッド部295がシリンダ部291に対して相対往復移動する動きによって、バケット13を確実に動作させることができる。
【0178】
図23に示されるように、ダブルロッドシリンダ290は、アーム12に対して回転可能である。アーム12に対して回転するバケット13の動作に追随させて、ダブルロッドシリンダ290の延びる方向のアーム12に対する角度を変化させることができる。これにより、バケット13の姿勢に関わらずダブルロッドシリンダ290をアーム12に支持させることができ、ダブルロッドシリンダ290の第1ロッド部295の動きによってバケット13を確実に動作させることができる。
【0179】
これまでの実施形態では、作業機械の一例として電動式ショベル30を挙げているが、電動式ショベル30に限らず、ホイールローダなどの多関節型の作業機を備える他の種類の作業機械にも本開示の技術思想を適用可能である。
【0180】
以上のように実施形態について説明を行ったが、各実施形態において互いに組み合わせ可能な構成を適宜組み合わせてもよい。また、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0181】
1 車体、2 旋回体、3 車体フレーム、4 運転室、4L 操作レバー、4L1 根元部、4L2 把持部、4S 運転席、7,8 縦板、10 作業機、11 ブーム、12 アーム、13 バケット、13A 刃先、15 ブームフートピン、16 アーム連結ピン、17 アタッチメント連結ピン、21 バケットリンク、22 第1部材、23 第2部材、24,25,26 リンクピン、30 電動式ショベル、100 電動機、110 ブーム用電動機、111 第1ブーム用電動機、112,122,227,237 出力軸、113,123,225,235 遊星歯車減速機、114,124 サンギヤ、115,125 プラネタリギヤ、116,126 リングギヤ、117,127 ギヤードモータ、118,128 連結軸、119 第1ブーム用出力ギヤ、121 第2ブーム用電動機、129 第2ブーム用出力ギヤ、131 ブーム用歯車部材、140 アーム用電動機、141 第1アーム用電動機、149 第1アーム用出力ギヤ、151 第2アーム用電動機、159 第2アーム用出力ギヤ、160,210 動力伝達装置、161 アーム用歯車部材、162 回動部材、170 アームリンク、171 第1リンク部材、172 第2リンク部材、173 中間部材、174,175,176,177 連結ピン、220 アタッチメント用電動機、221 第1電動機、222,232 フレキシブルシャフト、223,224,233,234 かさ歯車、228,238 ピニオン、229 緩衝機構、231 第2電動機、240 ラック、250 支持部材、261 油圧ポンプ、270 油圧回路、271 第1油路、272 第2油路、280 チャージ通路、281 作動油タンク、290 ダブルロッドシリンダ、291 シリンダ部、292 ピストン部、293 第一室、294 第二室、295 第1ロッド部、296 第2ロッド部、298 ブラケット、299 支持ピン。