(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】搬送装置、処理装置、搬送方法、および処理方法
(51)【国際特許分類】
B65H 23/192 20060101AFI20241107BHJP
B41J 11/04 20060101ALI20241107BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241107BHJP
G05B 13/04 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B65H23/192
B41J11/04
B41J2/01 305
B41J2/01 451
G05B13/04
(21)【出願番号】P 2021020057
(22)【出願日】2021-02-10
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】岡本 晃澄
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-114653(JP,A)
【文献】特開2020-147405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 23/192
B41J 11/04
B41J 2/01
G05B 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状の基材を所定の搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送機構と、
前記搬送経路に設けられた複数のセンサと、
前記複数のセンサの計測値を入力変数とし、前記計測値の計測時刻から所定時間後の時刻において基材にかかる張力を目的変数として、予め機械学習を行うことにより得られた予測モデルに、前記複数のセンサの計測値を入力し、前記予測モデルから出力される張力の予測値を得る張力予測部と、
前記張力予測部により得られた前記予測値に基づいて、前記搬送機構を制御する制御部と、
を備えた、搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送装置であって、
基材にかかる張力を計測する張力計測部と、
前記複数のセンサの計測値を入力変数とし、前記計測値の計測時刻から所定時間後の時刻において前記張力計測部により計測される張力の実測値を目的変数として、機械学習を行うことにより、前記予測モデルを生成する学習部
をさらに備えた、搬送装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の搬送装置であって、
前記搬送機構は、
モータと、
前記モータへ指令値を入力するモータ制御部と、
を有し、
前記入力変数は、前記モータ制御部から出力される前記指令値を含む搬送装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の搬送装置であって、
前記制御部は、前記予測値と前記張力の目標値との偏差、前記偏差の微分値、および前記偏差の積分値に基づいて、PID制御により、前記搬送機構を制御する、搬送装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の搬送装置と、
前記搬送機構により搬送される基材の表面に所定の処理を行う処理部と、
を備えた、処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の処理装置であって、
前記処理部は、基材の表面にインクを吐出する複数のヘッドを有する印刷部である、処理装置。
【請求項7】
長尺帯状の基材を、搬送機構により、所定の搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送方法であって、
a)前記搬送経路に設けられた複数のセンサから計測値を取得する工程と、
b)前記複数のセンサの計測値を入力変数とし、前記計測値の計測時刻から所定時間後の時刻において基材にかかる張力を目的変数として、予め機械学習を行うことにより得られた予測モデルに、前記工程a)において得られた計測値を入力し、前記予測モデルから出力される張力の予測値を得る工程と、
c)前記工程b)により得られる前記予測値に基づいて、前記搬送機構を制御する工程と、
を有する、搬送方法。
【請求項8】
請求項7に記載の搬送方法であって、
前記工程a)よりも前に、
前記複数のセンサの計測値を入力変数とし、前記計測値の計測時刻から所定時間後の時刻において張力計測部により計測される張力の実測値を目的変数として、機械学習を行うことにより、前記予測モデルを生成する工程
をさらに有する、搬送方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の搬送方法であって、
前記搬送機構は、
モータと、
前記モータへ指令値を入力するモータ制御部と、
を有し、
前記入力変数は、前記モータ制御部の前記指令値を含む、搬送方法。
【請求項10】
請求項7から請求項9までのいずれか1項に記載の搬送方法であって、
前記工程c)では、前記予測値と前記張力の目標値との偏差、前記偏差の微分値、および前記偏差の積分値に基づいて、PID制御により、前記搬送機構を制御する、搬送方法。
【請求項11】
請求項7から請求項10までのいずれか1項に記載の搬送方法により、前記基材を搬送しつつ、前記基材の表面に所定の処理を行う、処理方法。
【請求項12】
請求項11に記載の処理方法であって、
前記所定の処理は、複数のヘッドから基材の表面にインクを吐出する処理である、処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺帯状の基材を長手方向に搬送する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、複数のヘッドからインクを吐出することにより、基材に画像を印刷するインクジェット方式の印刷装置が知られている。インクジェット方式の印刷装置は、複数のヘッドから、それぞれ異なる色のインクを吐出する。そして、各色のインクにより形成される単色画像の重ね合わせによって、基材の表面に多色画像を印刷する。従来の印刷装置については、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の印刷装置では、基材にかかる張力が略一定となるように制御しながら、基材を搬送する。例えば、基材にかかる張力を計測しながら、その計測値に基づいて、搬送機構をフィードバック制御する。しかしながら、フィードバック制御は、張力の計測値が変動してから、その変動量に基づいて制御値を補正する、後追いの制御である。このため、フィードバック制御は、外乱に弱いという性質がある。
【0005】
外乱の影響を抑制するためは、上記のフィードバック制御に、フィードフォワード制御を組み合わせることが考えられる。フィードフォワード制御は、搬送機構の特性を定式化し、当該定式に基づいて、外乱の影響を予測する。しかしながら、搬送機構が大規模で複雑な場合には、搬送機構の特性を定式化することが困難となる。また、定式化できたとしても、予め想定した特定の外乱にしか対応できないという問題がある。また、装置の設置環境が変化した場合や、装置が経年劣化した場合には、定式による予測結果の精度が低下する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、長尺帯状の基材を搬送する装置において、基材の張力変動を精度よく抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、搬送装置であって、長尺帯状の基材を所定の搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送機構と、前記搬送経路に設けられた複数のセンサと、前記複数のセンサの計測値を入力変数とし、前記計測値の計測時刻から所定時間後の時刻において基材にかかる張力を目的変数として、予め機械学習を行うことにより得られた予測モデルに、前記複数のセンサの計測値を入力し、前記予測モデルから出力される張力の予測値を得る張力予測部と、前記張力予測部により得られた前記予測値に基づいて、前記搬送機構を制御する制御部と、を備える。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の搬送装置であって、基材にかかる張力を計測する張力計測部と、前記複数のセンサの計測値を入力変数とし、前記計測値の計測時刻から所定時間後の時刻において前記張力計測部により計測される張力の実測値を目的変数として、機械学習を行うことにより、前記予測モデルを生成する学習部をさらに備える。
【0009】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の搬送装置であって、前記搬送機構は、モータと、前記モータへ指令値を入力するモータ制御部と、を有し、前記入力変数は、前記モータ制御部から出力される前記指令値を含む。
【0010】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の搬送装置であって、前記制御部は、前記予測値と前記張力の目標値との偏差、前記偏差の微分値、および前記偏差の積分値に基づいて、PID制御により、前記搬送機構を制御する。
【0011】
本願の第5発明は、処理装置であって、第1発明から第4発明までのいずれか1発明の搬送装置と、前記搬送機構により搬送される基材の表面に所定の処理を行う処理部と、を備える。
【0012】
本願の第6発明は、第5発明の処理装置であって、前記処理部は、基材の表面にインクを吐出する複数のヘッドを有する印刷部である。
【0013】
本願の第7発明は、長尺帯状の基材を、搬送機構により、所定の搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送方法であって、a)前記搬送経路に設けられた複数のセンサから計測値を取得する工程と、b)前記複数のセンサの計測値を入力変数とし、前記計測値の計測時刻から所定時間後の時刻において基材にかかる張力を目的変数として、予め機械学習を行うことにより得られた予測モデルに、前記工程a)において得られた計測値を入力し、前記予測モデルから出力される張力の予測値を得る工程と、c)前記工程b)により得られる前記予測値に基づいて、前記搬送機構を制御する工程と、を有する。
【0014】
本願の第8発明は、第7発明の搬送方法であって、前記工程a)よりも前に、前記複数のセンサの計測値を入力変数とし、前記計測値の計測時刻から所定時間後の時刻において張力計測部により計測される張力の実測値を目的変数として、機械学習を行うことにより、前記予測モデルを生成する工程をさらに有する。
【0015】
本願の第9発明は、第7発明または第8発明の搬送方法であって、前記搬送機構は、モータと、前記モータへ指令値を入力するモータ制御部と、を有し、前記入力変数は、前記モータ制御部の前記指令値を含む。
【0016】
本願の第10発明は、第7発明から第9発明までのいずれか1発明の搬送方法であって、前記工程c)では、前記予測値と前記張力の目標値との偏差、前記偏差の微分値、および前記偏差の積分値に基づいて、PID制御により、前記搬送機構を制御する。
【0017】
本願の第11発明は、処理方法であって、第7発明から第10発明までのいずれか1発明の搬送方法により、前記基材を搬送しつつ、前記基材の表面に所定の処理を行う。
【0018】
本願の第12発明は、第11発明の処理方法であって、前記所定の処理は、複数のヘッドから基材の表面にインクを吐出する処理である。
【発明の効果】
【0019】
本願の第1発明~第12発明によれば、機械学習により得られた予測モデルを使用して、基材にかかる張力の予測値を得る。そして、当該予測値に基づいて、搬送機構を制御する。これにより、基材の張力変動を高精度に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】印刷部の付近における印刷装置の部分上面図である。
【
図3】制御部と印刷装置の各部との接続を示したブロック図である。
【
図4】制御部の機能を概念的に示したブロック図である。
【
図5】学習処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
<1.印刷装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る搬送装置を含む印刷装置1の構成を示した図である。この印刷装置1は、長尺帯状の基材9を搬送しつつ、複数のヘッド21~24から基材9へ向けてインクの液滴を吐出することにより、基材9の表面に画像を印刷する装置である。基材9は、印刷用紙であってもよく、あるいは、樹脂製のフィルムであってもよい。また、基材9は、段ボール、金属箔、またはガラス製の基材であってもよい。
【0023】
図1に示すように、印刷装置1は、搬送機構10、印刷部20、複数のセンサ30、張力計測部40、カメラ50、およびコンピュータ60を備えている。印刷装置1のうち、印刷部20以外の部分は、本発明における搬送装置の一例である。
【0024】
搬送機構10は、基材9をその長手方向に沿う搬送方向に搬送する機構である。本実施形態の搬送機構10は、巻き出し部11、複数の搬送ローラ12、および巻き取り部13を有する。基材9は、巻き出し部11から繰り出され、複数の搬送ローラ12により構成される搬送経路に沿って搬送される。各搬送ローラ12は、搬送方向に対して垂直な方向に延びる軸を中心として回転することにより、基材9を搬送経路の下流側へ案内する。搬送後の基材9は、巻き取り部13へ回収される。また、基材9には、搬送方向の張力が掛けられている。これにより、搬送中における基材9の弛みや皺が抑制される。
【0025】
搬送機構10は、一部のローラ(以下、「駆動ローラ」と称する)を回転させるモータ14と、モータ14を制御するモータ制御部15とを有する。搬送機構10は、駆動ローラを複数備えていてもよい。モータ制御部15は、後述するコンピュータ60と電気的に接続されている。モータ14の駆動時には、コンピュータ60からの制御信号に従って、モータ制御部15が、モータ14を駆動させるための指令値を算出する。そして、算出された指令値に応じた駆動信号を、モータ14へ入力する。そうすると、モータ14が、指令値に応じて駆動し、駆動ローラが回転する。その結果、巻き出し部11から巻き取り部13へ向けて、基材9が搬送される。
【0026】
印刷部20は、搬送機構10により搬送される基材9に対して、インクの液滴(以下「インク滴」と称する)を吐出する処理部である。本実施形態の印刷部20は、第1ヘッド21、第2ヘッド22、第3ヘッド23、および第4ヘッド24を有する。第1ヘッド21、第2ヘッド22、第3ヘッド23、および第4ヘッド24は、基材9の搬送方向に沿って、間隔をあけて配列されている。基材9は、4つのヘッド21~24の下方を、印刷面を上方に向けた状態で搬送される。
【0027】
図2は、印刷部20の付近における印刷装置1の部分上面図である。
図2中に破線で示したように、各ヘッド21~24の下面には、基材9の幅方向と平行に配列された複数のノズル201が設けられている。各ヘッド21~24は、複数のノズル201から基材9の上面へ向けて、多色画像の色成分となるK(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各色のインク滴を、それぞれ吐出する。
【0028】
すなわち、第1ヘッド21は、搬送経路上の第1印刷位置P1において、基材9の上面に、K色のインク滴を吐出する。第2ヘッド22は、第1印刷位置P1よりも下流側の第2印刷位置P2において、基材9の上面に、C色のインク滴を吐出する。第3ヘッド23は、第2印刷位置P2よりも下流側の第3印刷位置P3において、基材9の上面に、M色のインク滴を吐出する。第4ヘッド24は、第3印刷位置P3よりも下流側の第4印刷位置P4において、基材9の上面に、Y色のインク滴を吐出する。
【0029】
なお、ヘッド21~24の搬送方向下流側に、基材9の印刷面にインクを定着させる定着部が、さらに設けられていてもよい。定着部は、例えば、基材9へ向けて加熱された気体を吹き付けて、基材9に付着したインクを乾燥させる。ただし、定着部は、UV硬化性のインクに紫外線を照射することにより、インクを硬化させるものであってもよい。
【0030】
複数のセンサ30は、基材9の搬送状態を計測する計測器である。複数のセンサ30は、基材9の搬送経路上の複数の計測箇所に設けられている。センサ30は、各計測箇所において、それぞれ計測値を取得する。センサ30の計測項目には、例えば、モータ14の回転速度、モータ14のトルク、一部の搬送ローラ12の回転速度、基材9の上下変位(基材9に対して垂直な方向の変位量)、基材9のエッジの幅方向の位置、などを含めることができる。なお、同一の項目を計測するセンサ30が、搬送経路の複数の位置に配置されていてもよい。搬送機構10により基材9が搬送されている間、複数のセンサ30は、各計測箇所の状態を、常に計測する。そして、複数のセンサ30は、得られた計測値を示す信号を、コンピュータ60へ出力する。
【0031】
張力計測部40は、基材9にかかる搬送方向の張力を計測する計測器である。張力計測部40は、一部の搬送ローラ12の回転軸に接続されたロードセルを有する。ロードセルは、搬送ローラ12の回転軸にかかる荷重を計測する。張力計測部40は、ロードセルにより計測される荷重に基づいて、基材9にかかる張力の実測値を算出する。搬送機構10により基材9が搬送されている間、張力計測部40は、基材9の現在の張力を常に計測する。そして、張力計測部40は、得られた張力の実測値を示す信号を、コンピュータ60へ出力する。
【0032】
カメラ50は、印刷部20を通過した基材9の上面を撮影する撮像装置である。カメラ50は、4つのヘッド21~24よりも搬送経路の下流側の撮影位置P5において、基材9の印刷面に対向して配置される。カメラ50には、例えば、CCDやCMOS等の撮像素子が、幅方向に複数配列されたラインセンサが使用される。搬送機構10により基材9が搬送されている間、カメラ50は、基材9の印刷面を常に撮影することにより、印刷済みの基材9の画像データを取得する。そして、カメラ50は、得られた画像データを、コンピュータ60へ送信する。
【0033】
コンピュータ60は、印刷装置1を制御するための情報処理装置である。
図3は、コンピュータ60と、印刷装置1の各部との接続を示したブロック図である。
図3中に概念的に示したように、コンピュータ60は、CPU等のプロセッサ601、RAM等のメモリ602、およびハードディスクドライブ等の記憶部603を有する。記憶部603には、後述する学習処理および印刷処理を実行するためのコンピュータプログラム80が、記憶されている。
【0034】
また、
図3に示すように、コンピュータ60は、上述したモータ制御部15、4つのヘッド21~24、複数のセンサ30、張力計測部40、およびカメラ50と、それぞれ通信可能に接続されている。コンピュータ60は、コンピュータプログラム80および各種データに従って、これらの各部を動作制御する。これにより、基材9の搬送および印刷処理が進行する。
【0035】
<2.コンピュータの機能について>
この印刷装置1のコンピュータ60は、基材9にかかる将来の張力を予測し、その予測値に基づいて、基材9の搬送を制御する機能を有する。
図4は、コンピュータ60の当該機能を、概念的に示したブロック図である。
図4に示すように、コンピュータ60は、データ蓄積部61、学習部62、張力予測部63、および制御部64を有する。データ蓄積部61、学習部62、張力予測部63、および制御部64の各機能は、コンピュータ60が、コンピュータプログラム80に従って動作することにより、実現される。
【0036】
データ蓄積部61は、後述する学習処理に使用するデータを蓄積するための処理部である。複数のセンサ30からコンピュータ60へ入力された計測値D1は、データ蓄積部61に記憶される。また、張力計測部40からコンピュータ60へ入力された張力の実測値D2は、データ蓄積部61に記憶される。データ蓄積部61は、これらのセンサ30の計測値D1および張力の実測値D2を、計測時刻とともに記憶する。
【0037】
学習部62は、複数のセンサ30の計測値D1と、基材9にかかる張力との関係を学習するための処理部である。学習部62は、データ蓄積部61から、学習用データD3を読み出す。学習用データD3には、ある時刻t1における複数のセンサ30の計測値D1と、その時刻t1よりも所定時間後(例えば数ミリ秒後)の時刻t2における基材9の張力の実測値D2とが、含まれる。学習部62は、データ蓄積部61から、このような学習用データD3を、時刻を変えて多数読み出す。
【0038】
学習部62は、複数のセンサ30の計測値D1を入力変数とし、その計測時刻から所定時間後の時刻における基材9の張力の実測値D2を目的変数として、教師あり機械学習アルゴリズムにより、学習処理を行う。学習部62は、このような学習処理を、所定の終了条件を満たすまで繰り返す。これにより、学習部62は、複数のセンサ30の計測値D1に基づいて、所定時間後の基材9の張力を示す予測値D4を出力できる予測モデルMを生成する。学習処理の詳細については、後述する。
【0039】
学習部62において使用される機械学習アルゴリズムは、単純な回帰アルゴリズムでもよいし、ランダムフォレストや勾配ブースティングに代表される木のモデルでもよい。また、学習部62において使用される機械学習アルゴリズムは、畳み込みニューラルネットワークのような深層学習アルゴリズムでもよい。
【0040】
張力予測部63は、複数のセンサ30の計測値D1に基づいて、所定時間後の基材9の張力を予測するための処理部である。張力予測部63は、学習部62により生成された予測モデルMを使用して、基材9の張力を予測する。張力予測部63は、複数のセンサ30から取得した現在の計測値D1を、予測モデルMへ入力する。すると、予測モデルMから、計測値D1に対応する基材9の張力の予測値D4が出力される。張力予測部63は、この予測モデルMから出力された予測値D4を、制御部64へ入力する。
【0041】
制御部64は、搬送機構10および4つのヘッド21~24を動作制御するための処理部である。制御部64は、張力予測部63から得られる予測値D4と、予め設定された目標値D5とに基づいて、フィードバック制御を行うことにより、制御値を算出する。そして、制御部64は、算出された制御値を含む制御信号D6を、搬送機構10のモータ制御部15へ出力する。これにより、搬送機構10のモータ14の動作が制御される。また、制御部64は、印刷すべき画像データに基づいて、4つのヘッド21~24の動作を制御する。これにより、4つのヘッド21~24から、インクが吐出される。
【0042】
<3.学習処理について>
続いて、上述した印刷装置1において実行される学習処理について、説明する。
図5は、学習処理の流れを示すフローチャートである。
【0043】
図5に示すように、学習処理を行うときには、まず、搬送機構10を動作させて、基材9を搬送しつつ、学習に必要なデータを蓄積する(ステップS1)。ここでは、コンピュータ60のデータ蓄積部61が、複数のセンサ30から送信される計測値D1を、計測時刻とともに記憶する。また、データ蓄積部61は、張力計測部40から送信される張力の実測値D2を、計測時刻とともに記憶する。
【0044】
学習に必要なデータが十分に蓄積されると、次に、学習部62が、データ蓄積部61から学習用データD3を取得する(ステップS2)。学習用データD3には、ある時刻t1における複数のセンサ30の計測値D1と、その時刻t1よりも所定時間後(例えば数ミリ秒後)の時刻t2における基材9の張力の実測値D2とが、含まれる。
【0045】
続いて、学習部62は、学習用データD3に含まれる、ある計測時刻の計測値D1を入力変数とし、学習用データD3に含まれる、上記計測時刻から所定時間後の基材9の張力の実測値D2を目的変数として、教師あり機械学習アルゴリズムにより、学習処理を行う。このとき、学習部62は、センサ30の計測値D1に基づいて所定時間後の基材9の張力を予測するための予測モデルMを用意する。予測モデルMは、入力された計測値D1に基づいて、所定時間後の基材9にかかる張力の予測結果を出力する。学習部62は、予測モデルMから出力される予測結果が、目的変数である実測値D2に近づくように、予測モデルMのパラメータを調整する(ステップS3)。
【0046】
その後、学習部62は、所定の終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS4)。終了条件は、例えば、予測結果と実測値D2との差が、予め設定された閾値よりも小さくなること、とすればよい。また、終了条件は、ステップS2~S3の繰り返し回数が、予め設定された閾値に到達すること、としてもよい。終了条件を満たしていない場合(ステップS4:No)、学習部62は、上述したステップS2~S3の処理を繰り返す。その際、学習用データD3は、前回と異なる時刻のものを使用してもよい。
【0047】
ステップS2~S3の学習処理が繰り返されることにより、予測モデルMの予測精度が向上する。やがて、終了条件が満たされると(ステップS4:Yes)、学習部62は、学習処理を終了する。これにより、複数のセンサ30の計測値D1に基づいて、所定時間後の基材9の張力の予測値D4を精度よく出力できる、学習済みの予測モデルMが生成される。学習部62は、生成された予測モデルMを、張力予測部63へ提供する。
【0048】
なお、所定数の学習用データD3を、1つの学習用データセットとしてもよい。そして、複数の学習用データセットについて、学習処理を行ってもよい。この場合、1つの学習用データセットに含まれる所定数の学習用データD3についてステップS2~S3の処理を行う間は、ステップS4の終了条件の判断を行うことなく、ステップS2~S3の処理を繰り返してもよい。そして、1つの学習用データセットに含まれる全ての学習用データD3について、ステップS2~S3の処理が完了した時点で、ステップS4の終了条件の判断を行ってもよい。ステップS4において終了条件を満たさない場合には、別の学習用データセットについて、ステップS2~S3の学習処理を行ってもよい。
【0049】
<4.印刷処理について>
続いて、上述した学習処理の後に、印刷装置1において実行される印刷処理について、説明する。
図6は、印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【0050】
図6に示すように、印刷装置1は、まず、搬送機構10の動作を開始する(ステップS5)。これにより、基材9の搬送が開始される。基材9の搬送が開始されると、複数のセンサ30は、各計測箇所の状態を計測する。そして、複数のセンサ30は、現在の計測値D1を、コンピュータ60へ送信する(ステップS6)。
【0051】
コンピュータ60の張力予測部63は、複数のセンサ30から送信された現在の計測値D1を、予測モデルMへ入力する。そうすると、予測モデルMは、所定時間後の基材9にかかる張力の予測値D4を、出力する(ステップS7)。張力予測部63は、得られた予測値D4を、制御部64へ入力する。
【0052】
制御部64は、張力予測部63から入力された張力の予測値D4に基づいて、搬送機構10の動作を制御する(ステップS8)。制御部64には、基材9の張力の目標値D5が、予め設定されている。制御部64は、張力予測部63から入力される張力の予測値D4が、目標値D5に近づくように、搬送機構10をフィードバック制御する。
【0053】
フィードバック制御には、例えば、PID制御が使用される。すなわち、制御部64は、予測値D4と目標値D5との偏差、当該偏差の微分値、および当該偏差の積分値に基づいて、制御値を算出する。そして、当該制御値を含む制御信号D6を、モータ制御部15へ供給する。モータ制御部15は、制御信号D6に従って、モータ14を駆動させる。これにより、基材9の搬送動作が制御される。
【0054】
また、制御部64は、上述した制御により基材9を搬送しつつ、4つのヘッド21~24の動作も制御する。4つのヘッド21~24は、それぞれ、基材9の上面へ向けてインクの液滴を吐出する。これにより、基材9の上面に画像が印刷される(ステップS9)。
【0055】
その後、制御部64は、印刷処理を終了するか否かを判定する(ステップS10)。制御部64は、印刷すべき画像データが残っている場合には、印刷処理を継続する(ステップS10:No)。この場合、コンピュータ60は、上述したステップS6~S9の処理を再度実行する。このように、コンピュータ60は、ステップS6~S9の処理を繰り返すことにより、基材9を精度よく搬送しながら、印刷処理を進行させる。
【0056】
やがて、印刷すべき画像データが無くなると、制御部64は、印刷処理を終了する(ステップS10:Yes)。この場合、印刷装置1は、搬送機構10の動作を停止して、基材9の搬送を終了する(ステップS11)。
【0057】
以上のように、この印刷装置1では、複数のセンサ30の現在の計測値D1に基づいて、所定時間後の基材9にかかる張力を予測する。そして、その予測値D4に基づいて、搬送機構10の動作を制御する。これにより、基材9の張力変動を、高精度に抑制できる。その結果、基材9の上面における印刷画像の位置ずれが少ない、高品質な印刷物を得ることができる。
【0058】
従来のようにフィードフォワード制御を利用する場合、印刷装置1の状態や基材9の種類が変わるたびに、搬送機構10の特性を再度定式化する必要がある。この定式化の作業は、様々な観点から検討する必要があるため、ユーザの負担が大きい。これに対し、本実施形態の印刷装置1は、印刷装置1の状態や基材9の種類が変わった場合でも、一定の学習処理を行うことにより、予測モデルMを再作成することができる。したがって、条件の変化に容易に対応できる。
【0059】
また、本実施形態の印刷装置1では、
図6の印刷処理を実行しながら、
図5の学習処理を、追加的に実行することも可能である。このようにすれば、印刷処理を実行しながら、予測モデルMを随時更新できる。したがって、印刷装置1の設置環境が変化した場合や、印刷装置1の状態が変化した場合でも、予測モデルMの予測精度を、常に高い状態に維持できる。
【0060】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0061】
上記の実施形態では、複数のセンサ30の計測値D1のみを、予測モデルMの入力変数としていた。しかしながら、予測モデルMの入力変数に、複数のセンサ30の計測値D1以外の変数を含めてもよい。例えば、モータ制御部15から出力される指令値を、入力変数に含めてもよい。当該指令値は、基材9の搬送速度に対してより直接的に影響を及ぼす変数である。したがって、当該指令値を入力変数に含めることで、より精度の高い予測モデルMを生成できる。
【0062】
また、印刷装置1は、温度、湿度等の環境条件を計測するセンサをさらに備えていてもよい。そして、当該センサにより取得した環境条件の情報を、予測モデルMの入力変数に含めてもよい。
【0063】
また、カメラ50により得られる撮影画像に基づいて、基材9の上面における印刷画像のずれ量を検出し、当該ずれ量を、入力変数に含めてもよい。印刷画像のずれ量は、印刷結果の品質に、直接的に影響を及ぼす変数である。したがって、当該ずれ量を入力変数に含めることで、より印刷結果の品質向上に有用な予測モデルMを生成できる。
【0064】
また、上記の実施形態では、複数のセンサ30の計測値D1を、そのまま入力変数として使用していた。しかしながら、これらの計測値D1に、フィルタ処理等の加工処理を行い、加工処理後の計測値D1を、入力変数としてもよい。また、複数の計測値D1のうち、張力変動に対する影響度が大きい計測値D1を、予め選定し、選定された計測値D1のみを、入力変数としてもよい。これにより、より精度の高い予測モデルMを生成できる。
【0065】
また、上記の実施形態では、制御部64によるフィードバック制御の例として、PID制御を挙げた。しかしながら、制御部64が行うフィードバック制御は、PI制御等の他の方法であってもよい。
【0066】
また、上記の実施形態では、
図2のように、各ヘッド21~24において、ノズル201が幅方向に一列に配置されていた。しかしながら、各ヘッド21~24において、ノズル201が2列以上に配置されていてもよい。
【0067】
また、上記の実施形態の印刷装置1は、4つのヘッド21~24を備えていた。しかしながら、印刷装置1が備えるヘッドの数は、1~3つ、あるいは5つ以上であってもよい。例えば、印刷装置1は、K,C,M,Yの各色に加えて、特色のインクを吐出するヘッドを備えていてもよい。
【0068】
また、上記の実施形態では、基材9の表面にインクを吐出する印刷装置1について説明した。すなわち、上記の実施形態は、処理部の一例である印刷部20が、処理の一例であるインクの吐出を行うものであった。しかしながら、本発明の処理装置は、搬送機構により搬送される基材の表面に、印刷以外の処理を行うものであってもよい。例えば、処理装置は、搬送機構により搬送される基材の表面に、レジスト液の塗布、パターンの露光、レーザによる描画などの他の処理を行うものであってもよい。
【0069】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 印刷装置
9 基材
10 搬送機構
14 モータ
15 モータ制御部
20 印刷部
21 第1ヘッド
22 第2ヘッド
23 第3ヘッド
24 第4ヘッド
30 センサ
40 張力計測部
50 カメラ
60 コンピュータ
61 データ蓄積部
62 学習部
63 張力予測部
64 制御部
80 コンピュータプログラム
D1 計測値
D2 張力の実測値
D3 学習用データ
D4 予測値
D5 目標値
D6 制御信号
M 予測モデル