(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】加飾フィルム及びエアバッグ
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20241107BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241107BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241107BHJP
B60R 21/215 20110101ALI20241107BHJP
【FI】
C08J5/18 CET
B32B27/30 B
B32B27/00 E
B60R21/215
(21)【出願番号】P 2021039942
(22)【出願日】2021-03-12
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100168066
【氏名又は名称】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】木村 晃純
(72)【発明者】
【氏名】吉村 大輔
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-329617(JP,A)
【文献】特開2006-342231(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122775(WO,A1)
【文献】特開2009-029868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B32B 27/30
B32B 27/00
B60R 21/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂層を備える加飾フィルムであって、
温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向及びTD方向の破断伸度が15%以下であり、
温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向の配向緩和応力(A)と、前記スチレン系樹脂層のTD方向の配向緩和応力(B)との差(A-B)が
0.3MPa
を超える、加飾フィルム。
【請求項2】
スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂層を備える加飾フィルムであって、
温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向及びTD方向の破断伸度が15%以下であり、
温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向の配向緩和応力(A)と、前記スチレン系樹脂層のTD方向の配向緩和応力(B)との差(A-B)が0.15MPa以上であ
り、
前記スチレン系樹脂が、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)及びスチレン-ブタジエンブロック共重合体からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含有する、加飾フィルム。
【請求項3】
スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂層を備える加飾フィルムであって、
温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向及びTD方向の破断伸度が15%以下であり、
温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向の配向緩和応力(A)と、前記スチレン系樹脂層のTD方向の配向緩和応力(B)との差(A-B)が0.15MPa以上であ
り、
ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を含むPMMA層をさらに備える、加飾フィルム。
【請求項4】
温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向及びTD方向の破断伸度が7%以下である、請求項1
から3のいずれか一項に記載の加飾フィルム。
【請求項5】
前記スチレン系樹脂が、スチレン系単量体の単独重合体、またはスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、不飽和ジカルボン酸、N-フェニルマレイミド、及びアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも一種の単量体との共重合体を含む、請求項1から
4のいずれか一項に記載の加飾フィルム。
【請求項6】
温度23℃、相対湿度50%における、フィルムインパクトテスタを用いて測定される耐衝撃性が5J/mm以下である、請求項1から
5のいずれか一項に記載の加飾フィルム。
【請求項7】
加飾フィルムを備えるエアバッグ
であって、
前記加飾フィルムが、スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂層を備え、
温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向及びTD方向の破断伸度が15%以下であり、
温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向の配向緩和応力(A)と、前記スチレン系樹脂層のTD方向の配向緩和応力(B)との差(A-B)が0.15MPa以上である、エアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾フィルム及びエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に備えられるエアバッグは緊急時に素早く展開し、衝撃を吸収する。このようにエアバッグは緊急時に素早く展開する必要があるため、従来エアバッグの展開部上には、展開を妨げる可能性がある加飾フィルムは貼られていなかった。しかし、近年、車内のラグジュアリー感を増すために、エアバッグの展開部上にも加飾フィルムを貼り付けることが望まれている。前記加飾フィルムは、エアバッグの展開時に一方向に、かつ容易に破断し、エアバッグの展開を妨げないことが求められる。
【0003】
また、通常閉じられたままの扉において、該扉の隙間から砂や虫等が侵入することを防ぐために、該隙間上に加飾フィルムが貼られる場合がある。このような扉を開ける必要がある場合にも、該扉が容易に開けられるようにするために、扉を開ける際に加飾フィルムが一方向に、かつ容易に破断することが求められる。
【0004】
特許文献1には、加飾フィルムとして、少なくとも上下最外層が、それぞれ、スチレン系樹脂層と表飾加工されたポリブチレンテレフタレート系樹脂層よりなるインモールド加飾用複合フィルムが開示されている。一方、特許文献2~6には、スチレン系樹脂を含むフィルム又はシートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-272652号公報
【文献】特開2007-269913号公報
【文献】特許第6389574号公報
【文献】特許第6190542号公報
【文献】特許第6190541号公報
【文献】特許第6148411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された加飾フィルムでは、力が加わった際に一方向に、かつ容易に破断せず、更なる改善が望まれる。本発明は、一方向に、かつ容易に破断可能な加飾フィルム、及び該加飾フィルムを備えるエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の実施形態を含む。
【0008】
[1]スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂層を備える加飾フィルムであって、
温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向及びTD方向の破断伸度が15%以下であり、
温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向の配向緩和応力(A)と、前記スチレン系樹脂層のTD方向の配向緩和応力(B)との差(A-B)が0.15MPa以上である、加飾フィルム。
【0009】
[2]温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向及びTD方向の破断伸度が7%以下である、[1]に記載の加飾フィルム。
【0010】
[3]温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向の配向緩和応力(A)と、前記スチレン系樹脂層のTD方向の配向緩和応力(B)との差(A-B)が0.3MPaを超える、[1]又は[2]に記載の加飾フィルム。
【0011】
[4]前記スチレン系樹脂が、スチレン系単量体の単独重合体、またはスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、不飽和ジカルボン酸、N-フェニルマレイミド、及びアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも一種の単量体との共重合体を含む、[1]から[3]のいずれかに記載の加飾フィルム。
【0012】
[5]前記スチレン系樹脂が、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)及びスチレン-ブタジエンブロック共重合体からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含有する、[1]から[4]のいずれかに記載の加飾フィルム。
【0013】
[6]ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を含むPMMA層をさらに備える、[1]から[5]のいずれかに記載の加飾フィルム。
【0014】
[7]温度23℃、相対湿度50%における、フィルムインパクトテスタを用いて測定される耐衝撃性が5J/mm以下である、[1]から[6]のいずれかに記載の加飾フィルム。
【0015】
[8][1]から[7]のいずれかに記載の加飾フィルムを備えるエアバッグ。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一方向に、かつ容易に破断可能な加飾フィルム、及び該加飾フィルムを備えるエアバッグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例における破断方向の評価方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[加飾フィルム]
本実施形態に係る加飾フィルムは、スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂層を備える。ここで、温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向及びTD方向の破断伸度は15%以下である。すなわち、温度23℃、相対湿度50%において、前記スチレン系樹脂層のMD方向の破断伸度(以下、MD方向破断伸度ともいう。)は15%以下であり、かつ、前記スチレン系樹脂層のTD方向の破断伸度(以下、TD方向破断伸度ともいう。)は15%以下である。また、温度23℃、相対湿度50%における、前記スチレン系樹脂層のMD方向の配向緩和応力(A)(以下、MD方向配向緩和応力(A)ともいう。)と、前記スチレン系樹脂層のTD方向の配向緩和応力(B)(以下、TD方向配向緩和応力(B)ともいう。)との差(A-B)は0.15MPa以上である。
【0019】
本発明者等は、加飾フィルムがスチレン系樹脂層を備えることで、力が加わった際に加飾フィルムが一方向に破断しやすいことを見出した。これは、スチレン系樹脂層の引き裂き強度が小さいことに由来すると推測される。特に、スチレン系樹脂層のMD方向配向緩和応力(A)とTD方向配向緩和応力(B)が、A-B≧0.15MPaの関係を満たすことで、破断時に加飾フィルムが一方向により破断しやすいことを見出した。これは、MD方向はTD方向よりも分子が配向しているため、MD方向のフィルム強度は強く破断しにくく、フィルム強度が弱いTD方向に破断するためと推測される。また、本発明者等は、スチレン系樹脂層のMD方向破断伸度とTD方向破断伸度の両方共が15%以下であることにより、エアバッグ展開時や扉を開いた際に、加飾フィルムが小さな力で容易に破断できることを見出した。
【0020】
なお、「MD方向」について、MDはMachine Directionを示し、「MD方向」は樹脂の流れ方向と一致する方向を示す。また、「TD方向」について、TDはTransverse Directionを示し、「TD方向」はMD方向に直交する方向を示す。
【0021】
本実施形態に係る加飾フィルムは、スチレン系樹脂層以外にも、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を含むPMMA層、加飾のための印刷層等の他の層を備えることができる。本実施形態に係る加飾フィルムの厚みは特に限定されないが、例えば50~100μmであることができる。本実施形態に係る加飾フィルムは、特にエアバッグの展開部上に設けられる、エアバッグ用の加飾フィルムとして有用である。
【0022】
本実施形態に係る加飾フィルムは、温度23℃、相対湿度50%における、フィルムインパクトテスタを用いて測定される耐衝撃性が5J/mm以下であることが好ましく、4J/mm以下であることがより好ましく、3.5J/mm以下であることがさらに好ましい。前記耐衝撃性が5J/mm以下であることにより、小さな力で加飾フィルムを容易に破断することができる。なお、前記耐衝撃性は、温度23℃、相対湿度50%において、フィルムインパクトテスタ((株)東洋精機製作所製)を用いて、以下の方法により測定される。加飾フィルムを所定の大きさに切断し、フィルムインパクトテスタにセットし、加飾フィルムに対して、90度の持ち上げ高さから半球状の衝撃球を貫通させ、その際の仕事量を測定する。
【0023】
(スチレン系樹脂層)
<MD方向、TD方向破断伸度>
本実施形態に係る加飾フィルムが備えるスチレン系樹脂層において、MD方向破断伸度は15%以下であり、かつ、TD方向破断伸度は15%以下である。MD方向破断伸度及びTD方向破断伸度が両方共15%以下であることにより、小さな力で加飾フィルムを容易に破断することができる。MD方向破断伸度及びTD方向破断伸度は両方共10%以下であることが好ましく、MD方向破断伸度及びTD方向破断伸度は両方共7%以下であることがより好ましく、MD方向破断伸度及びTD方向破断伸度は両方共5%以下であることがさらに好ましい。MD方向破断伸度及びTD方向破断伸度の範囲の下限は特に限定されないが、例えば両方共1%以上であることができる。例えば、スチレン系樹脂層中のポリスチレンの含有量を増加することにより、スチレン系樹脂層のMD方向破断伸度及びTD方向破断伸度を両方共15%以下に調整することができる。なお、MD方向破断伸度とTD方向破断伸度は同じであってもよく、異なっていてもよい。MD方向破断伸度及びTD方向破断伸度は、JIS-C-2151、ASTM-D-882に従って、温度23℃、相対湿度50%にて測定される値である。
【0024】
<MD方向、TD方向配向緩和応力>
本実施形態に係る加飾フィルムが備えるスチレン系樹脂層において、MD方向配向緩和応力(A)とTD方向配向緩和応力(B)との差(A-B)は0.15MPa以上である。前記差が0.15MPa以上であることにより、破断時に加飾フィルムが一方向に破断しやすい。前記差は、0.3MPaを超えることが好ましく、0.35MPa以上であることがより好ましく、0.5MPa以上であることがさらに好ましい。前記差が0.3MPaを超える場合、破断時において加飾フィルムが特に一方向に破断しやすくなる。前記差の範囲の上限は特に限定されないが、例えば10MPa以下であることができる。例えば、MD方向とTD方向の延伸倍率の差を大きくすることにより、スチレン系樹脂層のMD方向配向緩和応力(A)とTD方向配向緩和応力(B)との差(A-B)を0.15MPa以上に調整することができる。
【0025】
前記MD方向配向緩和応力(A)は、MD方向配向緩和応力(A)とTD方向配向緩和応力(B)との差(A-B)が0.15MPa以上となる値であれば特に限定されないが、例えば0.3~2.0MPaであることができ、0.5~1.5MPaであることが好ましい。前記TD方向配向緩和応力(B)は、MD方向配向緩和応力(A)とTD方向配向緩和応力(B)との差(A-B)が0.15MPa以上となる値であれば特に限定されないが、例えば0.1~0.5MPaであることができ、0.15~0.4MPaであることが好ましい。MD方向配向緩和応力(A)及びTD方向配向緩和応力(B)は、ASTM D1504に従って、シートを構成する樹脂組成物のビカット軟化温度より30℃高く設定したシリコーンオイル中でのピーク応力値を採用して測定する。
【0026】
<スチレン系樹脂>
本実施形態に係る加飾フィルムが備えるスチレン系樹脂層は、スチレン系樹脂を含む。スチレン系樹脂は、スチレン系単量体の単独重合体又は共重合体を含むことができる。スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。スチレン系単量体の共重合体としては、スチレン系単量体と、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、不飽和ジカルボン酸、N-フェニルマレイミド、アクリロニトリル等との共重合体が挙げられる。
【0027】
また、スチレン系樹脂は、ゴム成分にスチレン系単量体をグラスト重合したスチレン系グラフト重合体、スチレン系単量体にジエン系単量体をアニオン重合したブロック共重合体等を含有することができる。スチレン系グラフト重合体としては、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-(メタ)アクリル酸エステル-スチレングラフト共重合体等が挙げられる。ブロック共重合体としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体等が挙げられる。これらの中では、スチレン系単量体の単独重合体又は共重合と併用した場合に、スチレン系単量体の単独重合体又は共重合との相溶性の高い、ハイインパクトポリスチレンやスチレン-ブタジエンブロック共重合体が好ましい。スチレン系樹脂として、これらの樹脂を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0028】
これらの中でも、力が加わった際に加飾フィルムが一方向により破断しやすい観点から、スチレン系樹脂としては、ポリスチレン(スチレン樹脂)であることが好ましい。
【0029】
スチレン系樹脂は、スチレン系単量体に基づく構成単位を、全構成単位に対して70~97質量%含むことが好ましく、75~97質量%含むことがより好ましい。スチレン系樹脂の分子量は特に限定されず、フィルム化する際に十分な溶融粘度を得られるものであればよい。
【0030】
<その他成分>
前記スチレン系樹脂層は、熱安定性、耐候性の観点から、さらに酸化防止剤を含むことが好ましい。酸化防止剤としてはトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリチルテトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)及び1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオネート、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジテトラデシル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジオクチル-3,3’-チオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤、トリスノニルフェニルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)ホスファイト、(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(オクタデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジノニルフェニルオクチルホスフォナイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)1,4-フェニレン-ジ-ホスフォナイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレン-ジ-ホスフォナイト、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン等の燐系酸化防止剤が挙げられる。前記スチレン系樹脂層は、フェノール系、アミン系、リン系、ヒンダードアミン系等の安定剤を含むこともできる。
【0031】
<その他物性等>
前記スチレン系樹脂層は、温度23℃、相対湿度50%における、フィルムインパクトテスタを用いて測定される耐衝撃性が5J/mm以下であることが好ましく、4J/mm以下であることがより好ましく、3.5J/mm以下であることがさらに好ましい。前記耐衝撃性が5J/mm以下であることにより、小さな力で加飾フィルムを容易に破断することができる。なお、前記耐衝撃性は前述した方法により測定される。前記スチレン性樹脂層の厚みは特に限定されないが、例えば30~100μmであることができる。
【0032】
前記スチレン系樹脂層は、例えばスチレン系樹脂を含む組成物がMD方向、TD方向の順番に逐次延伸された延伸フィルムであることができる。MD方向、TD方向の延伸倍率は特に限定されないが、例えばMD方向の延伸倍率が3~6倍であることができ、TD方向の延伸倍率が2~5倍であることが好ましい。
【0033】
(PMMA層)
本実施形態に係る加飾フィルムは、前記スチレン系樹脂層に加えて、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を含むPMMA層をさらに備えることが好ましい。加飾フィルムがPMMA層を備えることで、耐候性が向上する。PMMA層は、PMMA以外にも、例えばアクリルゴム等を含むことができる。PMMA層は、PMMAを80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましい。PMMA層はPMMAからなってもよい。PMMA層の厚みは特に限定されないが、例えば30~70μmであることができる。
【0034】
(印刷層)
本実施形態に係る加飾フィルムは、加飾のための印刷層を含むことができる。印刷は最表面以外の部位を任意に選んで行うことができる。例えば、スチレン樹脂層の最表面と対向する面に印刷することができる。
【0035】
(加飾フィルムの製造方法)
本実施形態に係る加飾フィルムの製造方法は特に限定されないが、例えば以下の方法により製造することができる。前記スチレン系樹脂を含む組成物をMD方向、TD方向の順番に逐次延伸することで、スチレン系樹脂層となる延伸フィルムを作製する。MD方向、TD方向の延伸倍率は特に限定されないが、例えばMD方向の延伸倍率が3~6倍、TD方向の延伸倍率が2~5倍であることができ、MD方向の延伸倍率が4~6倍、TD方向の延伸倍率が2~4倍であることが好ましい。延伸の際の温度は120~130℃であることができる。前記延伸フィルムの一方の面上に印刷層を形成する。該印刷層が形成された、前記延伸フィルムの一方の面と、PMMA層の一方の面とを接着剤を用いてドライラミネートすることで、PMMA層/印刷層/スチレン系樹脂層の構成を有する加飾フィルムを製造することができる。
【0036】
[エアバッグ]
本実施形態に係るエアバッグは、開口部に本実施形態に係る加飾フィルムを備える。前記エアバッグは本実施形態に係る加飾フィルムを備えるため、外観が良好であり、また、エアバッグの展開時においては、加飾フィルムが一方向にかつ容易に破断するため、エアバッグの展開を妨げない。本実施形態に係る加飾フィルムは、エアバッグの展開部上に設けられることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。延伸フィルム(スチレン系樹脂層)、加飾フィルムの各物性の測定及び評価は、以下の方法により行った。
【0038】
[MD方向、TD方向破断伸度]
延伸フィルム(スチレン系樹脂層)のMD方向破断伸度及びTD方向破断伸度は、JIS-C-2151、またはASTM-D-882に従って23℃相対湿度50%条件下で測定した。
【0039】
[MD方向、TD方向配向緩和応力]
延伸フィルム(スチレン系樹脂層)のMD方向配向緩和応力(A)及びTD方向配向緩和応力(B)は、ASTM D1504に従って、シートを構成する樹脂組成物のビカット軟化温度より30℃高く設定したシリコーンオイル中でのピーク応力値を測定したものである。
【0040】
[耐衝撃性]
延伸フィルム(スチレン系樹脂層)及び加飾フィルムの耐衝撃性は、温度23℃、相対湿度50%において、フィルムインパクトテスタ((株)東洋精機製作所製)を用いて前記方法により測定した。
【0041】
[破断方向]
図1に示されるように、縦20cm×横20cmのフィルム1(延伸フィルム(スチレン系樹脂層)又は加飾フィルム)を、両開きの扉2の上部に貼り付けた。この時、フィルム1のMD方向3が扉2の開口線4と平行となるように、またフィルム1の中心が開口線4上となるように、フィルム1を貼り付けた。その後、フィルム1が貼り付けられていない扉2の裏側から5kgの球状の重りを高さ0.5mから落下させ、扉2を開放させることでフィルム1を破断させた。破断したフィルム1の切れ方を目視で観察し、以下の基準で評価した。なお、「A」又は「B」の評価であれば、力が加わった際に真っすぐに方向性をもって切れるため、エアバッグの展開部等での使用において有効である。また、本評価は温度23℃、相対湿度50%にて行った。
A:真っすぐに分岐なく切れた。
B:真っすぐに方向性をもって切れるが、切断部に分岐を生じた。
C:曲線状に切れた。
D:方向性がなくさまざまな方向に切れた。
【0042】
[実施例1]
(延伸フィルム1(スチレン系樹脂層)の作製)
スチレン樹脂(商品名:HRM61、東洋スチレン(株)製)を、130℃においてMD方向、TD方向の順番に逐次延伸して、スチレン系樹脂層となる延伸フィルム1を作製した。MD方向の延伸倍率は3倍、TD方向の延伸倍率は2倍であった。また、延伸フィルム1の厚みは50μmであった。延伸フィルム1について、前記方法により各物性の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0043】
(加飾フィルムの作製)
延伸フィルム1の一方の面上に、グラビア印刷を用いて印刷層を形成した。これにより、加飾フィルムを作製した。前記加飾フィルムについて、前記方法により耐衝撃性の測定及び破断方向の評価を行った。結果を表2に示す。
【0044】
[実施例2~5]
延伸フィルムの作製において、MD方向及びTD方向の延伸倍率を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に延伸フィルム2~5を作製し、各物性の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。また、延伸フィルム2~5を用いて実施例1と同様に加飾フィルムを作製し、耐衝撃性の測定及び破断方向の評価を行った。結果を表2に示す。
【0045】
[実施例6]
スチレン系樹脂をスチレン-ブタジエンブロック共重合体(商品名:アサフレックス805、旭化成(株)製)に変更した以外は、延伸フィルム2と同様に延伸フィルム6を作製し、各物性の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。また、延伸フィルム6を用いて実施例1と同様に加飾フィルムを作製し、耐衝撃性の測定及び破断方向の評価を行った。結果を表2に示す。
【0046】
[実施例7]
実施例1と同様に延伸フィルム1を作製し、延伸フィルム1の一方の面上に印刷層を形成した。該印刷層が形成された、延伸フィルム1の一方の面に対して、接着剤(商品名:AD-393/CAT-EP1、東洋モートン(株)製)を用いて、PMMAフィルム(商品名:テクノロイS000(30μm厚)、住友化学(株)製)をドライラミネートすることで、加飾フィルムを作製した。前記加飾フィルムについて、前記方法により耐衝撃性の測定及び破断方向の評価を行った。結果を表2に示す。
【0047】
[実施例8]
延伸フィルム1の代わりに延伸フィルム2を用いた以外は、実施例7と同様に加飾フィルムを作製し、耐衝撃性の測定及び破断方向の評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
[比較例1]
延伸フィルムの作製において、逐次延伸の代わりに同時2軸延伸を表1に示される延伸倍率で実施した以外は、実施例1と同様に延伸フィルム7を作製し、各物性の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。また、延伸フィルム7を用いて実施例1と同様に加飾フィルムを作製し、耐衝撃性の測定及び破断方向の評価を行った。結果を表2に示す。
【0049】
[比較例2]
延伸フィルムの作製において、MD方向及びTD方向の延伸倍率を表1に示すように変更した以外は、比較例1と同様に延伸フィルム8を作製し、各物性の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。また、延伸フィルム8を用いて比較例1と同様に加飾フィルムを作製し、耐衝撃性の測定及び破断方向の評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
[比較例3]
延伸フィルムの作製において、スチレン系樹脂として、スチレン樹脂(商品名:HRM61、東洋スチレン(株)製)とハイインパクトポリスチレン(商品名:E640N、東洋スチレン(株)製)との混合物(HRM61:E640N=8:2(質量比))を用いた以外は、比較例1と同様に延伸フィルム9を作製し、各物性の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。また、延伸フィルム9を用いて比較例1と同様に加飾フィルムを作製し、耐衝撃性の測定及び破断方向の評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
表2に示されるように、本実施形態に係る実施例1~8の加飾フィルムでは、耐衝撃性の値が低く、かつ破断方向の評価が良好であることが分かった。したがって、本実施形態に係る加飾フィルムは一方向に、かつ容易に破断可能であることが分かった。特に、スチレン系樹脂層がスチレン樹脂で構成され、MD方向配向緩和応力(A)と、TD方向配向緩和応力(B)との差(A-B)が0.3MPaを超える延伸フィルム1及び3~5を用いた実施例1、3~5及び7の加飾フィルムでは、破断方向の評価が全て「A」であり、一方向により破断しやすいことが分かった。
【符号の説明】
【0054】
1 フィルム(延伸フィルム(スチレン系樹脂層)又は加飾フィルム)
2 扉
3 MD方向
4 開口線