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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】プレス装置及びプレス装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B30B 15/28 20060101AFI20241107BHJP
   B30B 15/00 20060101ALI20241107BHJP
   B30B 1/26 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B30B15/28 Q
B30B15/00 B
B30B1/26 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021055586
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152717
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(73)【特許権者】
【識別番号】000128876
【氏名又は名称】株式会社アマダプレスシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】成川 広
【審査官】程塚 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-47622(JP,A)
【文献】特開2019-72752(JP,A)
【文献】特開2004-17098(JP,A)
【文献】特開2009-226451(JP,A)
【文献】特開2016-209887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/00-15/28
B30B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回転方向又は前記第1の回転方向とは逆の第2の回転方向に回転することが可能な回転機構と、前記回転機構を駆動する駆動手段と、前記回転機構の回転運動が上下運動に変換されて上下方向に移動するスライドと、前記スライドに保持された金型の上型と、前記金型の前記上型と対になる下型と、前記下型を保持するボルスタと、を備え、
左及び右のいずれか一方を第1の方、他方を第2の方とすると、前記回転機構が前記第1の回転方向に回転するときに前記第1の方に偏心し、前記回転機構が前記第2の回転方向に回転するときに前記第2の方に偏心するプレス装置であって、
前記第1の方の荷重を検知する第1の荷重検知手段と、
前記第2の方の荷重を検知する第2の荷重検知手段と、
前記第1の荷重検知手段及び前記第2の荷重検知手段の検知結果に基づいて、対象物に加工を行うときの前記回転機構の回転方向を切り替える切替手段と、
を備えることを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
前記切替手段は、
前記第1の荷重検知手段により検知した荷重が前記第2の荷重検知手段により検知した荷重よりも大きいと判断した場合、前記回転機構の回転方向を前記第2の回転方向に切り替え、
前記第2の荷重検知手段により検知した荷重が前記第1の荷重検知手段により検知した荷重よりも大きいと判断した場合、前記回転機構の回転方向を前記第1の回転方向に切り替えることを特徴とする請求項1に記載のプレス装置。
【請求項3】
前記切替手段は、前記対象物に前記加工を開始する前に前記回転機構の回転方向を切り替えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプレス装置。
【請求項4】
第1の回転方向又は前記第1の回転方向とは逆の第2の回転方向に回転することが可能な回転機構と、前記回転機構を駆動する駆動手段と、前記回転機構の回転運動が上下運動に変換されて上下方向に移動するスライドと、前記スライドに保持された金型の上型と、前記金型の前記上型と対になる下型と、前記下型を保持するボルスタと、を備え、
左及び右のいずれか一方を第1の方、他方を第2の方とすると、前記回転機構が前記第1の回転方向に回転するときに前記第1の方に偏心し、前記回転機構が前記第2の回転方向に回転するときに前記第2の方に偏心するプレス装置であって、
前記金型が前記第1の方に偏心している場合には前記回転機構の回転方向を前記第2の回転方向に切り替え、前記金型が前記第2の方に偏心している場合には前記回転機構の回転方向を前記第1の回転方向に切り替える切替手段を備えることを特徴とするプレス装置。
【請求項5】
前記回転機構は、前記スライドに接続されたコンロッドと、前記駆動手段の駆動力を前記コンロッドに伝達するクランク軸と、を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプレス装置。
【請求項6】
前記回転機構は、コンロッド及びクランク軸を有しないことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプレス装置。
【請求項7】
第1の回転方向又は前記第1の回転方向とは逆の第2の回転方向に回転することが可能な回転機構と、前記回転機構を駆動する駆動手段と、前記回転機構の回転運動が上下運動に変換されて上下方向に移動するスライドと、前記スライドに保持された金型の上型と、前記金型の前記上型と対になる下型と、前記下型を保持するボルスタと、を備え、左及び右のいずれか一方を第1の方、他方を第2の方とすると、前記回転機構が前記第1の回転方向に回転するときに前記第1の方に偏心し、前記回転機構が前記第2の回転方向に回転するときに前記第2の方に偏心するプレス装置の制御方法であって、
前記プレス装置が、前記第1の方の荷重を検知する第1の荷重検知手段と、前記第2の方の荷重を検知する第2の荷重検知手段と、を有し、
前記第1の荷重検知手段及び前記第2の荷重検知手段の検知結果に基づいて、前記回転機構の回転方向を切り替える切替工程を備えることを特徴とするプレス装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス装置及びプレス装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クランク軸又はエキセン軸を含む回転機構を回転させ、回転運動を上下運動に変換し、スライドを上下に移動させてワークに加工を行うプレス装置が提案されている。回転運動を上下運動に変換するプレス装置では、その構造上、偏心荷重の発生を避けることはできない。偏心荷重には、このようにプレス装置の機械構造に起因するものと、金型に起因するものとがあり、いずれの場合も、偏心荷重によりスライドが傾くおそれがある。偏心荷重により加工時にスライドが傾くと、製品の精度が低下するおそれや、金型の寿命が短くなるおそれがある。スライドの傾きを低減させるために、例えば特許文献1では、プレス装置のスライドの平行度を確保し、偏心荷重に対する十分な剛性を有するスライドガイドが提案されている。
【0003】
また、従来のサーボプレス装置では、回転機構の回転速度や角度を制御して、スライドの種々の動きをモーションとして実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平07-021296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、加工時に発生する偏心荷重を解消するためのモーションはなく、偏心荷重を解消するためのモーションを搭載したプレス装置が求められている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、加工時の偏心荷重がより小さくなるように回転機構の回転方向を切り替えることができるモーションを搭載したプレス装置及びプレス装置の制御方法を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の趣旨を有する。
【0008】
[趣旨1]
本発明のプレス装置は、
第1の回転方向又は前記第1の回転方向とは逆の第2の回転方向に回転することが可能な回転機構と、前記回転機構を駆動する駆動手段と、前記回転機構の回転運動が上下運動に変換されて上下方向に移動するスライドと、前記スライドに保持された金型の上型と、前記金型の前記上型と対になる下型と、前記下型を保持するボルスタと、を備え、
左及び右のいずれか一方を第1の方、他方を第2の方とすると、前記回転機構が前記第1の回転方向に回転するときに前記第1の方に偏心し、前記回転機構が前記第2の回転方向に回転するときに前記第2の方に偏心するプレス装置であって、
前記第1の方の荷重を検知する第1の荷重検知手段と、
前記第2の方の荷重を検知する第2の荷重検知手段と、
前記第1の荷重検知手段及び前記第2の荷重検知手段の検知結果に基づいて、対象物に加工を行うときの前記回転機構の回転方向を切り替える切替手段と、
を備える。
[趣旨2]
前記切替手段は、
前記第1の荷重検知手段により検知した荷重が前記第2の荷重検知手段により検知した荷重よりも大きいと判断した場合、前記回転機構の回転方向を前記第2の回転方向に切り替え、
前記第2の荷重検知手段により検知した荷重が前記第1の荷重検知手段により検知した荷重よりも大きいと判断した場合、前記回転機構の回転方向を前記第1の回転方向に切り替えてもよい。
[趣旨3]
前記切替手段は、前記対象物に前記加工を開始する前に前記回転機構の回転方向を切り替えてもよい。
[趣旨4]
本発明のプレス装置は、
第1の回転方向又は前記第1の回転方向とは逆の第2の回転方向に回転することが可能な回転機構と、前記回転機構を駆動する駆動手段と、前記回転機構の回転運動が上下運動に変換されて上下方向に移動するスライドと、前記スライドに保持された金型の上型と、前記金型の前記上型と対になる下型と、前記下型を保持するボルスタと、を備え、
左及び右のいずれか一方を第1の方、他方を第2の方とすると、前記回転機構が前記第1の回転方向に回転するときに前記第1の方に偏心し、前記回転機構が前記第2の回転方向に回転するときに前記第2の方に偏心するプレス装置であって、
前記金型が前記第1の方に偏心している場合には前記回転機構の回転方向を前記第2の回転方向に切り替え、前記金型が前記第2の方に偏心している場合には前記回転機構の回転方向を前記第1の回転方向に切り替える切替手段を備える。
[趣旨5]
前記回転機構は、前記スライドに接続されたコンロッドと、前記駆動手段の駆動力を前記コンロッドに伝達するクランク軸と、を有してもよい。
[趣旨6]
前記回転機構は、コンロッド及びクランク軸を有しなくてもよい。
[趣旨7]
本発明のプレス装置の制御方法は、
第1の回転方向又は前記第1の回転方向とは逆の第2の回転方向に回転することが可能な回転機構と、前記回転機構を駆動する駆動手段と、前記回転機構の回転運動が上下運動に変換されて上下方向に移動するスライドと、前記スライドに保持された金型の上型と、前記金型の前記上型と対になる下型と、前記下型を保持するボルスタと、を備え、左及び右のいずれか一方を第1の方、他方を第2の方とすると、前記回転機構が前記第1の回転方向に回転するときに前記第1の方に偏心し、前記回転機構が前記第2の回転方向に回転するときに前記第2の方に偏心するプレス装置の制御方法であって、
前記プレス装置が、前記第1の方の荷重を検知する第1の荷重検知手段と、前記第2の方の荷重を検知する第2の荷重検知手段と、を有し、
前記第1の荷重検知手段及び前記第2の荷重検知手段の検知結果に基づいて、前記回転機構の回転方向を切り替える切替工程を備える。
【0009】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加工時の偏心荷重がより小さくなるように回転機構の回転方向を切り替えることができるモーションを搭載したプレス装置及びプレス装置の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1及び第2の実施形態のプレス装置の構成を示す概略斜視図
図2】第1及び第2の実施形態の回転機構の回転方向と偏心荷重を説明する図で、(a)(b)図1のプレス装置の回転機構近傍の要部を示す正面図、(c)クランクレス(コンロッドレス)のプレス装置の回転機構近傍の要部を示す正面図
図3】第1及び第2の実施形態のプレス装置のブロック図
図4】第1の実施形態の(a)図1のプレス装置のセンサの配置を示す模式図、(b)クランクレスのプレス装置のセンサの配置を示す模式図、(c)プレス装置のセンサにより荷重を検知した結果を示すグラフ
図5】第1の実施形態の回転機構の回転方向を切り替える処理を説明するフローチャート
図6】第2の実施形態の回転機構の回転方向を切り替える処理を説明するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施形態]
第1の実施形態では、加工時にプレス装置に加わる左右の荷重を検知し、検知した結果に基づいて、発生している偏心荷重がより小さくなるように、回転機構の回転方向を切り替える構成について説明する。
【0013】
<プレス装置>
プレス装置300について、図1を用いて説明する。図1は、第1の実施形態のプレス装置300の構成を示す概略斜視図であり、例えば、一体型ストレートサイドフレーム型又はCフレーム型のプレス装置300の概略図である。また、プレス装置300は、例えば、複数のステージで複数の加工を行う順送プレス加工を行う装置である。図1には、コイル材120の搬送方向や搬送方向における上流(左)、下流(右)、上下方向、及び前後方向(正面、背面)を示している。プレス装置300は、筐体302の内外に、駆動モータ304(駆動手段)、伝達機構306、クランク軸308、コンロッド310、スライド312、ボルスタ322を有して構成される。また、プレス装置300は、制御手段であるコントローラ314、記憶部315、表示部316、入力部318、を有している。さらに、プレス装置300は、センサ324(324R、324L)、ロータリーエンコーダ325、ギブ326を有している。第1の実施形態のプレス装置300として、複数の加工ステージを有する順送プレス加工(以下、順送加工という)を行う順送式のプレス装置を示しているが、順送式ではないプレス装置であってもよい。
【0014】
駆動モータ304は、例えばサーボ制御されるサーボモータであり、回転量及び回転方向を制御しつつ伝達機構306、クランク軸308、コンロッド310を介して後述する金型303を上下移動させるものである。伝達機構306は、例えばギアやベルト等の伝達部材を有して構成され、駆動モータ304のモータ軸の回転(又は駆動力)をクランク軸308へと伝達するものである。駆動モータ304への制御信号はコントローラ314から送られるようになっている。また、クランク軸308及びコンロッド310は回転機構として機能する。
【0015】
クランク軸308及びコンロッド310は、伝達機構306により伝達されたモータ軸の回転移動(回転運動)を往復移動(第1の実施形態では、上下移動。)に変換するためのものである。モータ軸の回転によりクランク軸308が回転し、クランク軸308に一端近傍が連結されたコンロッド310にその回転が伝達されてコンロッド310が上下移動(昇降移動)するようになっている。
【0016】
コンロッド310の他端近傍にはスライド312が揺動可能に連結されている。コンロッド310の上下移動に伴いスライド312がギブ326に沿って上下移動(上下運動)するようになっており、ギブ326はスライド312のガイドとして機能する。プレス装置300においては、スライド312と対向するようにボルスタ322が配置されている。スライド312のボルスタ322と対向する側の面(第1の実施形態では下面。)に金型303の一部としての上型303aが装着される。ボルスタ322のスライド312と対向する側の面(第1の実施形態では上面。)に金型303の一部として、上型303aと対になる下型303bが装着(保持)される。
【0017】
上型303aと下型303bとの間に加工の対象物としてのコイル材120を配置し、上型303aと下型303bとで押圧することにより、プレス装置300によるコイル材120に対するプレス加工が行われる。コイル材120は、例えば図1中左(上流)側から右(下流)側に搬送され、以降、コイル材120の搬送方向を左右方向ともいう。複数工程を有するプレス加工においては、コイル材120の搬送方向における上流から序盤の加工が行われ、コイル材120の搬送方向における下流で終盤の加工が行われる。
【0018】
詳しくは、コントローラ314により制御されて駆動モータ304が回転する。駆動モータ304の回転が伝達機構306、クランク軸308を介してコンロッド310へと伝達され、スライド312が上下移動する。スライド312の下方移動によって上型303aと下型303bとが押圧され、コイル材120のプレス加工が行われる。すなわち、プレス装置300において、駆動モータ304、伝達機構306、クランク軸308、コンロッド310、スライド312がプレス部を構成する。伝達機構306には、クランク軸308の回転数を検知するための回転数検知手段であるロータリーエンコーダ325が設けられている。コントローラ314は、ロータリーエンコーダ325によりクランク軸の回転数を検知することで、スライド312の位置を検知することが可能である。なお、ロータリーエンコーダ325は駆動モータ304の回転を検知してもよい。
【0019】
第1の実施形態では、駆動モータ304及び回転機構は、第1の回転方向である時計回り方向に回転(以下、正転ともいう)して加工を行うことが可能である。また、駆動モータ304及び回転機構は、第1の回転方向とは逆の第2の回転方向である反時計回り方向に回転(以下、逆転ともいう)して加工を行うことも可能である。このため、ロータリーエンコーダ325は、正転時の回転数を検知することも逆転時の回転数を検知することも可能である。これによりコントローラ314は、駆動モータ304及び回転機構を正転させて所定の加工動作を行うようにプレス装置300を制御することも、逆転させて所定の加工動作を行うようにプレス装置300を制御することも可能である。
【0020】
加工の際の荷重を検知する第1の荷重検知手段であるセンサ324Lと第2の荷重検知手段であるセンサ324Rは、プレス装置300がコイル材120にプレス加工を行う際に、プレス装置300に働く荷重Fを検知するためのセンサである。センサ324R、324Lは例えばロードセル(ロードモニタ)である。センサ324Rとセンサ324Lを総称してセンサ324ともいう。センサ324Rは例えば筐体302の右側の側板に取り付けられ、センサ324Lは例えば筐体302の左側の側板に取り付けられる。センサ324Rは筐体302の右の荷重FRを検知し、センサ324Lは筐体302の左の荷重FLを検知する。センサ324は、例えば、筐体302に設置された歪ゲージであってもよい。なお、図1において、表示部316が配置されている側がプレス装置300の前側である。
【0021】
コントローラ314は、記憶部315に記憶されている各種プログラムに従ってプレス装置300を制御する。表示部316は、プレス装置300の状態を示すデータや、ユーザーに次の動作を促すための情報等を表示する。入力部318は、プレス装置300を操作するために必要なデータを入力するために用いられる。入力部318は、各種のボタンやキー等の公知の手段を有しており、例えば「スタート」、「正転」、「逆転」、「自動選択」、「手動選択」、「はい(Yes)」、「いいえ(No)」等、以降に説明する処理においてユーザーの入力に必要な手段を有しているものとする。
【0022】
<回転機構の回転方向と偏心荷重>
図2を用いて、プレス装置の回転機構の回転方向と、プレス装置に発生する偏心荷重、すなわち機械構造に起因する偏心荷重について説明する。図2は、回転機構の回転方向とそのときに発生する偏心荷重を説明する図である。図2(a)(b)は図1で説明したプレス装置300の回転機構近傍の要部を示す正面図であり、図2(c)はクランクレス(コンロッドレス)のプレス装置400の回転機構近傍の要部を示す正面図である。図2には、上下方向及び左右方向も示す。ここで、金型(図2には不図示)はセンター荷重、すなわち偏心はないものとしている。
【0023】
(プレス装置300の偏心荷重)
プレス装置300では、クランク軸308が回転することによりクランク軸308とコンロッド310との接続点309が破線で示す円C1の軌道を描いて回転する、すなわち偏心する。このため、コンロッド310は右上から左下に向かう矢印方向F1にスライド312を押す。ここで、コンロッド310とスライド312との連結部における揺動中心を311(311a、311b)とする。
【0024】
(コンロッドの揺動中心が高い位置にある場合)
図2(a)は、スライド312内のコンロッド310の揺動中心311aが、スライド312の上下方向において高い位置にある場合を示す図である。プレス装置300の中心Pc1に対して、スライド312は破線で示す312Aのように傾こうとする。ここで、回転機構が正転するとき、プレス装置300には第1の方である右の偏心荷重(以下、右偏心荷重という)が発生する。一方、回転機構が逆転するとき、プレス装置300には第2の方である左の偏心荷重(以下、左偏心荷重という)が発生する。なお、左及び右のいずれか一方を第1の方、他方を第2の方としてもよい。
【0025】
(コンロッドの揺動中心が低い位置にある場合)
図2(b)は、スライド312内のコンロッド310の揺動中心311bが、スライド312の上下方向において低い位置にある場合を示す図である。プレス装置300の中心Pc1に対して、スライド312は破線で示す312Bのように傾こうとする。ここで、回転機構が正転するとき、プレス装置300には左偏心荷重(この場合、第1の方は左となる)が発生する。一方、回転機構が逆転するとき、プレス装置300には右偏心荷重(この場合、第2の方は右となる)が発生する。このように、プレス装置30では、スライド312内における(又はギブ326に対する)コンロッド310の揺動中心311(311a、311b)の高さによって、発生する偏心荷重の向きが異なる。
【0026】
図2(a)~(c)いずれの場合でも、回転方向を反対の向きにすれば、発生する偏心荷重の左右が入れ替わる。従来は、スライド312の傾きを低減させるために、ギブ326を強固に構成していた。
【0027】
(プレス装置400の偏心荷重)
クランクレス(コンロッドレス)のプレス装置400は、スライダ408、エキセンシャフト410、スライド412、ガイド426を有している。プレス装置400では、エキセンシャフト410が回転機構として機能している。プレス装置400では、エキセンシャフト410が回転することによりエキセンシャフトの中心409が破線で示す円C2の軌道を描いて回転する、すなわち偏心する。このため、スライダ408が例えば右側に移動し、プレス装置400の中心Pc2よりも右側で矢印方向F2にスライド412を押す。これにより、プレス装置400の中心Pc2に対して、スライド412は破線で示す412Aのように傾こうとする。回転機構が正転するとき、プレス装置400には左偏心荷重が発生する。一方、回転機構が逆転するとき、プレス装置400には右偏心荷重が発生する。すなわち、図2(b)と同様の向きの偏心荷重が発生する。なお、スライド412の傾きを低減させるために、従来は、ガイド426を強固に構成していた。
第1の実施形態では、プレス装置300(又はプレス装置400)の回転機構の構成上発生する上述した偏心を利用する。
【0028】
<プレス装置のブロック図>
図3に、第1の実施形態のプレス装置300のブロック図を示す。プレス装置300のコントローラ314は、駆動モータ304を制御する。コントローラ314は、表示部316、入力部318とも接続されている。コントローラ314は、予め記憶部315に記憶された各種パラメータや各種プログラム等を読み出し、これらに基づいてプレス装置300の加工動作を制御する。ロータリーエンコーダ325は、駆動モータ304の出力軸(不図示)の回転速度を検知し、検知した結果をコントローラ314に出力する。コントローラ314は、ロータリーエンコーダ325による検知結果に基づいて、駆動モータ304を制御する。
【0029】
コントローラ314は、センサ324Rにより加工時に発生する右側の荷重FRを検知し、センサ324Lにより加工時に発生する左側の荷重FLを検知している。コントローラ314は、センサ324R、324Lの検知結果に基づいて、駆動モータ304の回転方向、すなわち回転機構の回転方向を切り替えることができる。このため、記憶部315には、予め、所定の1つの加工を行うためのスライド312の動きを実現するための情報が記憶されているものとする。具体的には、記憶部315には、駆動モータ304を正転させたときのスライド312の動き(位置、クランク軸308の回転角度、回転速度等)を規定したテーブルと逆転させたときのテーブルとの2つのテーブルとが記憶されているものとする。
【0030】
なお、回転機構を正転させたときのテーブルを、以下、正転テーブルといい、逆転させたときのテーブルを、以下、逆転テーブルという。ここで、加工動作中におけるスライド312の動作をモーションといい、例えばスライド312の位置や移動速度を指定することによってスライド312の動作を規定する。第1の実施形態では、1つの加工に対して正転テーブルを用いたモーションと逆転テーブルを用いたモーションとが準備されているものとする。また、所定の加工を行うモーションには、例えば、クランクモーションや逐次モーション、コイニングモーション、パルスモーション、繰り返しモーション、プログラムモーション等が含まれる。クランクレスのプレス装置400についても同様とし、説明及び図示を省略する。
【0031】
<偏心荷重の検知>
図4(a)はプレス装置300のセンサ324R、324Lの配置を示す模式図であり、回転機構は正転している。なお、図4(a)は図2(a)と同様に、揺動中心311が高い位置にあるものとする。図4(b)はプレス装置400のセンサ424R、424Lの配置を示す模式図であり、回転機構は正転している。図4(a)、(b)には図2と同じ符号を付しており、各符号の説明を省略する。図4(c)はプレス装置300のセンサ324R、324Lにより荷重FR、FLを検知した結果を示すグラフであり、横軸は時間t(秒)、縦軸は荷重F(×10kN)を示す。ここで、実線はセンサ324Lにより検知した左側の荷重FLを示し、破線はセンサ324Rにより検知した右側の荷重FRを示す。
【0032】
コントローラ314は、プレス装置300の加工に用いられる金型303が取り付けられると、加工を開始する前に複数回、スライド312を上下させる。以下、この動作を「試打ち」といい、試打ちを行うモードを試打ちモードという。なお、試打ちモードに対して、コイル材120に加工を行って製品を生産するモードを生産モードという。試打ちモードでは、コイル材120がない状態(空打ち)でもよいが、生産モードと同等の荷重を検知するためにコイル材120がある状態が好ましい。
【0033】
図4(c)の例では、試打ちモードにおいて、プレス装置300の回転機構は正転しているが、センサ324R、324Lの検知結果から、荷重FRの方が荷重FLよりも大きく(FL<FR)、プレス装置300に右偏心荷重が発生していることがわかる。なお、コントローラ314は、1回の試打ちでセンサ324R、324Lにより得られる荷重のうち、例えばピーク値を荷重FR、FLとして取得するものとする。
【0034】
コントローラ314は、試打ちモードにおけるセンサ324R、324Lの検知結果に基づいて、生産モードでの回転機構の回転方向を切り替える。コントローラ314は回転機構の回転方向を切り替える切替手段として機能する。図4(c)の検知結果の場合、右偏心荷重が発生しており、コントローラ314は、回転機構の構成上発生する偏心荷重を利用するために、発生した右偏心荷重に合わせて、生産モードにおける回転機構の回転方向を逆転(左偏心を発生させる方向)に決定する。コントローラ314は、記憶部315に記憶された逆転のモーション用の逆転テーブルを読み出し、駆動モータ304及び回転機構を逆転させて読み出したモーションに従ってスライド312を制御しコイル材120に加工を行う。
【0035】
<回転機構の回転方向の切り替え処理>
図5は、第1の実施形態の回転機構の回転方向の切り替え処理(切替工程)を説明するフローチャートである。コントローラ314は、加工に用いられる金型303がプレス装置300に取り付けられ、金型303に応じた加工を行うための情報を記憶部315から読み出す。具体的には、コントローラ314は、コイル材120に加工を行うためのスライド312の加工位置やストローク数等が設定されている正転テーブルを記憶部315から読み出して、図5のステップ(以下、Sとする)1002以降の処理を開始する。なお、以下の説明においては、試打ちを正転で行っているが、逆転で行ってもよい。このため、回転方向の切り替え処理においては「正転のまま」又は「逆転のまま」と表現した方が適している場合でも「正転に切り替え」又は「逆転に切り替え」等の表現としている。
【0036】
S1002でコントローラ314は、試打ちモードに移行し、表示部316に例えば「試打ちしてください。」等のメッセージを表示させ、入力部318から試打ちを開始するための情報(例えば、スタートボタンの押下等)を受信する。S1004でコントローラ314は、試打ちを実施する。S1006でコントローラ314は、センサ324R、324Lにより左右の荷重FR、FLを検知する。ここで、コントローラ314は、例えば左右の荷重の検知結果を「前回荷重 左:〇トン 右:〇トン」のように、表示部316に表示させてもよい。前回荷重を表示させる場合、試打ち開始時にはセンサ324R、324Lによる検知結果がない(荷重FR、FLともに0トン)ため、複数回の試打ちを行う。また、コントローラ314は、センサ324R、324Lにより複数個の検知結果を得た場合は、例えば平均値や最大値等を、次のS1008の判断に用いてもよい。
【0037】
S1008でコントローラ314は、S1006で検知したセンサ324Rの荷重FRがセンサ324Lの荷重FLよりも大きいか否かを判断する。S1008でコントローラ314は、荷重FRが荷重FLよりも大きい(FL<FR)と判断した場合、処理をS1010に進め、荷重FRが荷重FL以下である(FL≧FR)と判断した場合、処理をS1032に進める。
【0038】
(右偏心荷重が発生している場合)
コントローラ314は、S1008で荷重FL<荷重FRとなった場合、右偏心荷重が発生していると判断する。S1010でコントローラ314は、例えば表示部316に「右偏心です。」等のメッセージを表示させるとともに、「逆転にしますか?」等、ユーザーに確認を促すメッセージを表示させて、入力部318から「Yes」又は「No」の入力を受信する。S1010でコントローラ314は、入力部318から「Yes」が入力された、すなわち、逆転にするとの入力を受信した場合、処理をS1012に進める。一方、S1010でコントローラ314は、入力部318から「No」が入力された、すなわち、逆転にせず正転にするとの入力を受信した場合、処理をS1020に進める。
【0039】
S1012でコントローラ314は、駆動モータ304及び回転機構の回転方向を逆転に切り替えて記憶部315から逆転テーブルを読み出すとともに、例えば表示部316に「逆転に変更しました。」等のメッセージを表示させる。S1014でコントローラ314は、表示部316に例えば「逆転で生産モードにしますか?」等のメッセージを表示させて、入力部318から「Yes」又は「No」の入力を受信する。S1014でコントローラ314は、入力部318から「Yes」が入力された、すなわち、生産モードにするとの入力を受信した場合、処理をS1016に進める。一方、S1014でコントローラ314は、入力部318から「No」が入力された、すなわち、生産モードにしないとの入力を受信した場合、処理をS1022に進める。S1016でコントローラ314は、試打ちモードから生産モードに移行する。S1018でコントローラ314は、コイル材120への加工を開始し、回転方向の切り替え処理を終了する。
【0040】
S1020でコントローラ314は、回転方向を正転に切り替えて、表示部316に例えば「正転で生産モードにしますか?」等のメッセージを表示させて、入力部318から「Yes」又は「No」の入力を受信する。S1020でコントローラ314は、入力部318から「Yes」が入力された、すなわち、生産モードにするとの入力を受信した場合、処理をS1016に進める。一方、S1020でコントローラ314は、入力部318から「No」が入力された、すなわち、生産モードにしないとの入力を受信した場合、処理をS1022に進める。
【0041】
S1022でコントローラ314は、例えば表示部316に「手動にしますか?」等のメッセージを表示させて、回転方向の切り替えを手動にするか(「Yes」)否か(「No」)の入力を受信する。S1022でコントローラ314は、入力部318から「Yes」が入力された、すなわち、回転方向の切り替えを手動にするとの入力を受信した場合、処理をS1024に進める。一方、S1022でコントローラ314は、入力部318から「No」が入力された、すなわち、手動にしないとの入力を受信した場合、処理をS1004に戻す。このときコントローラ314は、表示部316に「試打ちしてください。」等のメッセージを表示させてもよい。
【0042】
S1024でコントローラ314は、回転方向の切り替えを手動に切り替え、例えば表示部316に「正転又は逆転を選択してください。」等のメッセージを表示させて、入力部318から「正転」又は「逆転」の入力を受信する。S1026でコントローラ314は、入力部318から「正転」が入力(選択)されたか否かを判断する。S1026でコントローラ314は、「正転」が選択された場合、処理をS1028に進め、「逆転」が選択された場合、処理をS1030に進める。S1028でコントローラ314は、駆動モータ304及び回転機構を正転に切り替えて、記憶部315から正転テーブルを読み出して処理をS1018に進める。S1030でコントローラ314は、駆動モータ304及び回転機構を逆転に切り替え、記憶部315から逆転テーブルを読み出して処理をS1018に進める。なお、手動に切り替えられた場合、試打ちモードから生産モードへは、コントローラ314が生産開始前に移行してもよいし、手動により移行してもよい。
【0043】
ここで、右偏心荷重が発生しているにもかかわらず、S1020 Yの処理で正転としている。また、S1022で手動を選択した後、S1028で正転を選択する余地を残している。これらの処理を行っている理由は、次のとおりである。例えば、S1008の処理により、右の荷重FRが10tであり、回転機構の回転方向を逆転させると、偏心が解消するような場合は(例えば0tになる場合)、コントローラ314による自動設定で回転方向を逆転することにより、右偏心荷重を抑制することができる。一方、右偏心荷重が発生している場合でも、その値が小さい、例えば5t程度の場合、回転方向を変えなくても製品に影響がない場合がある。また、回転方向を変えることで今度は左偏心荷重が発生してしまう場合もある。更に、発生している右偏心荷重が大きい、例えば30tもある場合、回転方向を変えても右偏心荷重を打ち消すことができない場合も想定される。このような場合に対応するために、S1020やS1028の処理を設けている。
【0044】
(左偏心荷重が発生している場合)
コントローラ314は、S1008で荷重FL≧荷重FRとなった場合、左偏心荷重が発生していると判断する。S1032でコントローラ314は、例えば表示部316に「左偏心です。」等のメッセージを表示させるとともに、「正転にしますか?」等、ユーザーに確認を促すメッセージを表示させて、入力部318から「Yes」又は「No」の入力を受信する。S1032でコントローラ314は、入力部318から「Yes」が入力された、すなわち、正転にするとの入力を受信した場合、処理をS1034に進める。一方、S1032でコントローラ314は、入力部318から「No」が入力された、すなわち、逆転にするとの入力を受信した場合、処理をS1040に進める。
【0045】
S1034でコントローラ314は、駆動モータ304及び回転機構の回転方向を正転に切り替えて記憶部315から正転テーブルを読み出すとともに、例えば表示部316に「正転に変更しました。」等のメッセージを表示させる。S1036でコントローラ314は、表示部316に例えば「正転で生産モードにしますか?」等のメッセージを表示させて、入力部318から「Yes」又は「No」の入力を受信する。S1036でコントローラ314は、入力部318から「Yes」が入力された、すなわち、生産モードにするとの入力を受信した場合、処理をS1038に進める。一方、S1036でコントローラ314は、入力部318から「No」が入力された、すなわち、生産モードにしないとの入力を受信した場合、処理をS1042に進める。S1038でコントローラ314は、試打ちモードから生産モードに移行し、処理をS1018に進める。
【0046】
S1040でコントローラ314は、回転方向を逆転に切り替えて、表示部316に例えば「逆転で生産モードにしますか?」等のメッセージを表示させて、入力部318から「Yes」又は「No」の入力を受信する。S1040でコントローラ314は、入力部318から「Yes」が入力された、すなわち、生産モードにするとの入力を受信した場合、処理をS1038に進める。一方、S1040でコントローラ314は、入力部318から「No」が入力された、すなわち、生産モードにしないとの入力を受信した場合、処理をS1042に進める。
【0047】
S1042でコントローラ314は、例えば表示部316に「手動にしますか?」等のメッセージを表示させて、回転方向の切り替えを手動にするか(「Yes」)否か(「No」)の入力を受信する。S1042でコントローラ314は、入力部318から「Yes」が入力された、すなわち、回転方向の切り替えを手動にするとの入力を受信した場合、処理をS1044に進める。一方、S1042でコントローラ314は、入力部318から「No」が入力された、すなわち、手動にしないとの入力を受信した場合、処理をS1004に戻す。このときコントローラ314は、表示部316に「試打ちしてください。」等のメッセージを表示させてもよい。
【0048】
S1044でコントローラ314は、回転方向の切り替えを手動に切り替え、例えば表示部316に「正転又は逆転を選択してください。」等のメッセージを表示させて、入力部318から「正転」又は「逆転」の入力を受信する。S1046でコントローラ314は、入力部318から「正転」が入力(選択)されたか否かを判断する。S1046でコントローラ314は、「正転」が選択された場合、処理をS1048に進め、「逆転」が選択された場合、処理をS1050に進める。S1048でコントローラ314は、駆動モータ304及び回転機構を正転に切り替え、記憶部315から正転テーブルを読み出して処理をS1018に進める。S1050でコントローラ314は、駆動モータ304及び回転機構を逆転に切り替え、記憶部315から逆転テーブルを読み出して処理をS1018に進める。なお、手動に切り替えられた場合、試打ちモードから生産モードへは、コントローラ314が生産開始前に移行してもよいし、手動により移行してもよい。
【0049】
ここで、左偏心荷重が発生しているにもかかわらず、S1040 Yの処理で逆転にしている。また、S1044で手動を選択した後、S1050で逆転を選択する余地を残している。これらの処理を行っている理由は、S1020やS1028の処理を設けている理由と同じであり、説明を省略する。
【0050】
図5の回転方向の切り替え処理では、生産開始に至るまでに、コントローラ314が判断して逆転にするパターン、コントローラ314が判断した回転方向とは逆の回転方向にするパターン、手動で回転方向を選択するパターン、がある。順送(複数の加工ステージ)式のプレス装置300の場合、成形ではスライド312の高さが例えば30mmの位置で荷重がかかり始めるが、抜きでは下死点から2mmの高さでコイル材120と接触が始まる等、スライド312の高さが同じ位置で各加工ステージが行われるとは限らない。すなわち、各加工ステージによって荷重がかかり始めるときのスライド312の高さは異なっている。また、左右にかかる荷重も、複数の加工ステージのうち、1ステージ目は左の荷重が大きく、n(n≧2)ステージ目では右の荷重が大きい等、偏心荷重は右が強くなったり左が強くなったりする。こういった種々の状況にあわせて、発生する偏心荷重を最も解消できる回転方向に切り替えることができるように、図5では手動で切り替える処理も設けている。
【0051】
なお、図5のいくつかの処理において、コントローラ314が表示部316にユーザーに対してメッセージを表示させているが、メッセージの表示はしない、又は最小限としてもよい。また、図5では、コントローラ314が左偏心荷重又は右偏心荷重が発生していると判断した後に、ユーザーにも回転方向の切り替えの判断を促している。しかし、コントローラ314が、右偏心荷重が発生したと判断したら逆転に切り替え、左偏心荷重が発生したと判断したら正転に切り替えるよう、自動で切り替える処理のみにしてもよい。
【0052】
以上、第1の実施形態によれば、加工時の偏心荷重がより小さくなるように回転機構の回転方向を切り替えることができるモーションを搭載したプレス装置及びプレス装置の制御方法を提供することができる。
【0053】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、コントローラ314は、センサ324R、324Lの検知結果を用いて駆動モータ304及び回転機構の回転方向を切り替えて加工を行っている。第2の実施形態では、予め金型303に起因する偏心荷重が既知である場合に、コントローラ314が金型303の既知の偏心荷重に基づいて駆動モータ304及び回転機構の回転方向を切り替える構成について説明する。
【0054】
なお、プレス装置300(又はプレス装置400)の構成、ブロック図については第1の実施形態と同様であり、同じ構成には同じ符号を用い、説明を省略する。ここで、記憶部315には、金型303に起因する偏心荷重の情報が記憶されているものとする。例えば、金型Aを用いて加工すると左偏心荷重が発生するという情報や、金型Bを用いて加工すると右偏心荷重が発生するといった情報である。また、各偏心荷重について実験等で具体的な数値(例えば、10トン等)が金型に関連付けて記憶部315に記憶されていてもよい。
【0055】
コントローラ314は、加工に用いられる金型303がプレス装置300に取り付けられると、金型303に応じた加工を行うための情報を記憶部315から読み出す。具体的には、コントローラ314は、コイル材120に加工を行うためのスライド312の加工位置やストローク数等が設定されている正転テーブルを記憶部315から読み出して、図6のS2002以降の処理を開始する。
【0056】
S2002でコントローラ314は、記憶部315に記憶された金型303の偏心荷重の情報、すなわち、金型303が右偏心荷重か左偏心荷重かの情報を読み出す。S2004でコントローラ314は、S2002で取得した金型303の偏心荷重が右偏心荷重か否かを判断する。S2002でコントローラ314は、金型303の偏心荷重が右偏心荷重であると判断した場合、処理をS2006に進め、左偏心荷重であると判断した場合、処理をS2008に進める。S2006でコントローラ314は、駆動モータ304及び回転機構を逆転に切り替え、記憶部315から逆転テーブルを読み出す。S2008でコントローラ314は、駆動モータ304及び回転機構を正転に切り替え、記憶部315から正転テーブルを読み出し、処理をS2010に進める。S2010でコントローラ314は、S2006で読み出した逆転テーブル又はS2008で読み出した正転テーブルに従って加工を開始して、回転方向を切り替える処理を終了する。
【0057】
なお、S2002でコントローラ314は、記憶部315に記憶された情報を読み出すのではなく、入力部318からユーザーに金型303の偏心荷重の情報を入力させ、入力された情報を用いてS2004の判断を行ってもよい。
【0058】
以上、第2の実施形態によれば、加工時の偏心荷重がより小さくなるように回転機構の回転方向を切り替えることができるモーションを搭載したプレス装置及びプレス装置の制御方法を提供することができる。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能であり、例えば以下のような変形例がある。
【符号の説明】
【0060】
120 コイル材
300 プレス装置
302 筐体
303 金型
303a 上型
303b 下型
304 駆動モータ
306 伝達機構
308 クランク軸
309 接続点
310 コンロッド
312 スライド
311、311a、311b 揺動中心
314 コントローラ
315 記憶部
316 表示部
318 入力部
322 ボルスタ
324、324R、324L センサ
325 ロータリーエンコーダ
326 ギブ
400 プレス装置
408 スライダ
409 中心
410 エキセンシャフト
412 スライド
424R、424L センサ
426 ガイド
図1
図2
図3
図4
図5
図6