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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】試料観察モジュール
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/34 20060101AFI20241107BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20241107BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241107BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
G02B21/34
G02B21/00
C12M1/34 E
C12M1/34 D
C12M1/34 A
C12M1/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021065624
(22)【出願日】2021-04-08
(65)【公開番号】P2022161080
(43)【公開日】2022-10-21
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】建部 益美
(72)【発明者】
【氏名】松永 茂
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-533768(JP,A)
【文献】特開2008-9298(JP,A)
【文献】特開2004-361485(JP,A)
【文献】特表2017-523469(JP,A)
【文献】特開2007-47465(JP,A)
【文献】特開2014-6395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B19/00-21/00
G02B21/06-21/36
C12M 1/34
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光操作に伴う試料の変化を経時的に観察するための試料観察モジュールであって、
遮光性を有する材料によって形成され、前記試料が載置される載置部を内部に有する筐体を備え、
前記筐体には、前記試料の光操作に用いる刺激光を当該筐体内に導入する第1の窓部と、前記試料の観察に用いる照明光を当該筐体内に導入する第2の窓部とが設けられ、
前記筐体内には、前記第1の窓部から導入される前記刺激光と、前記第2の窓部から導入される前記照明光とを合波して前記載置部に導光する合波素子が設けられている試料観察モジュール。
【請求項2】
前記筐体内には、前記合波素子を保持し、前記載置部と向き合う第1の位置と、前記載置部から外れた第2の位置との間でスライド自在な保持部が設けられている請求項1記載の試料観察モジュール。
【請求項3】
前記第1の窓部の内側には、前記刺激光の強度を減衰させる一又は複数の減衰フィルタが着脱自在に設けられている請求項1又は2記載の試料観察モジュール。
【請求項4】
前記第2の窓部には、前記照明光を透過させる一方で、前記刺激光の波長の光をカットする波長選択素子が設けられている請求項1~3のいずれか一項記載の試料観察モジュール。
【請求項5】
前記筐体には、前記試料の観察に用いる外部レンズを前記載置部に近接配置する第3の窓部が設けられている請求項1~4のいずれか一項記載の試料観察モジュール。
【請求項6】
前記筐体には、前記載置部に載置される前記試料の温度を調節する温度調節部が設けられている請求項1~5のいずれか一項記載の試料観察モジュール。
【請求項7】
前記筐体には、前記試料の環境を維持するガスを前記筐体内に導入するガス導入部が設けられている請求項1~6のいずれか一項記載の試料観察モジュール。
【請求項8】
前記筐体内には、前記ガスを前記筐体内で循環させるファンが設けられている請求項7記載の試料観察モジュール。
【請求項9】
前記筐体には、前記筐体内の湿度を調節する湿度調節部が設けられている請求項1~8のいずれか一項記載の試料観察モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料観察モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光遺伝学に関する研究が脳神経分野を始めとした医療分野で世界的な発展を遂げている。この種の研究としては、例えば光活性化アデニル酸シクラーゼ(PAC:photoactivated adenylyl cyclase)を用いたものがある(例えば非特許文献1,2参照)。PACは、青色光による光刺激を受けている間に、光強度に依存して情報伝達物質であるcAMPを生成する。これにより、グリコーゲン分解、脂肪分解、筋収縮、神経軸索の分枝・伸長、血管拡張、血栓抑制、遺伝子発現の活性化といった多種多様な生理的応答を発現させることが可能となる。
【0003】
従来では、試料に対するホルモン等の添加或いは注射によって上記のような生理的応答を発現させていたが、煩雑な工程が必要であると共に、生理的応答の制御が難しいという問題があった。これに対し、PACを用いた技術では、光操作によって時間的・空間的に生理的応答を制御することが可能となる。このため、PACと光操作とによって機能を制御できる疾病モデル細胞の作出や、失われた生体機能を光操作或いは細胞医薬で復元するといった各種の応用が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】ZhouZ et al., “Photoactivated adenylyl cyclase (PAC) reveals novel mechanismsunderlying cAMP-dependent axonal morphogenesis” Scientific Repports 2016 Jan22: Volume 5, Article No.19679. doi:10.1038/srep19679
【文献】OhkiM et al., “Structural insight into photoactivation of an adenylate cyclase fromaphotosynthetic cyanobacterium” Proceedings of National Academy of Sciences ofthe United States of America 2016 Jun 14; 113 (24): 6659-64.doi:10.1073/pnas.1517520113.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料内のPACを機能させ、光操作に伴う試料の生理的応答の動態変化を経時的に観察するためには、光操作系と観測系とを併せ持つ試料観察モジュールが必要となる。試料観察モジュールは、例えば顕微鏡システムと組み合わせて用いることが想定されるため、簡便な構成であることも求められる。
【0006】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、光操作に伴う試料の変化を経時的に観察することができ、利便性が高い試料観察モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る試料観察モジュールは、光操作に伴う試料の変化を経時的に観察するための試料観察モジュールであって、遮光性を有する材料によって形成され、試料が載置される載置部を内部に有する筐体を備え、筐体には、試料の光操作に用いる刺激光を当該筐体内に導入する第1の窓部と、試料の観察に用いる照明光を当該筐体内に導入する第2の窓部とが設けられ、筐体内には、第1の窓部から導入される刺激光と、第2の窓部から導入される照明光とを合波して載置部に導光する合波素子が設けられている。
【0008】
この試料観察モジュールでは、第1の窓部から導入される刺激光と、第2の窓部から導入される照明光とを合波して載置部に導光する合波素子が遮光性の筐体内に設けられている。これにより、試料に対する光刺激の付与と照明光の照射とを同時に行うことが可能となり、光操作に伴う試料の変化を経時的に観察することができる。筐体内に合波素子を配置した簡易な構成のため、当該試料観察モジュールを顕微鏡システムなどと組み合わせて使用する場合にも高い利便性が発揮される。
【0009】
筐体内には、合波素子を保持し、載置部と向き合う第1の位置と、載置部から外れた第2の位置との間でスライド自在な保持部が設けられていてもよい。この場合、保持部を第1の位置から第2の位置にスライドさせることで、載置部への試料の載置作業性の向上を省スペースで実現できる。
【0010】
第1の窓部の内側には、刺激光の強度を減衰させる一又は複数の減衰フィルタが着脱自在に設けられていてもよい。この場合、簡単な構成で刺激光の強度を調節できる。したがって、試料の種類に応じた適切な光操作を実施できる。
【0011】
第2の窓部には、照明光を透過させる一方で、刺激光の波長の光をカットする波長選択素子が設けられていてもよい。これにより、第1の窓部から導入される刺激光以外の光が試料の光操作に寄与することを防止できる。したがって、試料の光操作をより精度良く制御できる。
【0012】
筐体には、試料の観察に用いる外部レンズを載置部に近接配置する第3の窓部が設けられていてもよい。この場合、外部レンズを用いた試料の観察を簡便に実施できる。
【0013】
筐体には、載置部に載置される試料の温度を調節する温度調節部が設けられていてもよい。これにより、試料の環境を良好に維持でき、光操作に伴う試料の変化をより持続的に観察することが可能となる。
【0014】
筐体には、試料の環境を維持するガスを筐体内に導入するガス導入部が設けられていてもよい。これにより、試料の環境を良好に維持でき、光操作に伴う試料の変化をより持続的に観察することが可能となる。
【0015】
筐体内には、ガスを筐体内で循環させるファンが設けられていてもよい。これにより、試料の環境を良好に維持でき、光操作に伴う試料の変化をより持続的に観察することが可能となる。
【0016】
筐体には、当該筐体内の湿度を調節する湿度調節部が設けられていてもよい。これにより、試料の環境を良好に維持でき、光操作に伴う試料の変化をより持続的に観察することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、光操作に伴う試料の変化を経時的に観察することができ、利便性が高い試料観察モジュールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】試料観察モジュールの一実施形態を示す斜視図である。
図2図1に示した試料観察モジュールを筐体の蓋部を取り除いて示す平面図である。
図3図1に示した試料観察モジュールの断面図である。
図4】保持部をスライドさせた状態の試料観察モジュールの断面図である。
図5】試料観察モジュールの使用例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る試料観察モジュールの好適な実施形態について詳細に説明する。
[試料観察モジュールの構成]
【0020】
図1は、試料観察モジュールの一実施形態を示す斜視図である。図2は、筐体の蓋部を取り除いて示す図1の平面図であり、図3は、図1の断面図である。図1に示す試料観察モジュール1は、光操作に伴う試料S(図5参照)の変化を経時的に観察するためのモジュールであり、例えば顕微鏡システムのステージ上に設置されて用いられる。
【0021】
観察対象である試料Sは、例えば細胞や生体組織などである。試料Sは、微生物であってもよい。本実施形態では、試料Sは、光活性化アデニル酸シクラーゼ(以下「PAC」と称す)遺伝子が導入された心筋細胞(PAC発現心筋細胞)である。心筋細胞が由来する動物は、特に限定されず、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウサギ、ラット、爬虫類、両生類、魚類、鳥類、或いはマウス由来であってよい。心筋細胞は、iPS細胞由来又はES細胞由来の心筋細胞であってもよい。例えばヒトiPS細胞由来の心筋細胞であってもよい。
【0022】
PAC発現心筋細胞に光(刺激光L1:図5参照)を照射することで、PACにより心筋細胞内でcAMPが生産される。細胞内のcAMP濃度の上昇は、細胞内へのカルシウムイオン(Ca2+)の流入を亢進させる。心筋細胞の収縮、すなわち心筋細胞の拍動は、カルシウムイオン濃度の上昇により生じる。このため、PAC発現心筋細胞に刺激光L1を照射することで、PAC発現心筋細胞の拍動速度を制御することができる。
【0023】
試料観察モジュール1は、図1図3に示すように、筐体2を備えている。筐体2は、黒色の硬質プラスチックなどの強度材料によって形成され、外部からの光に対する遮光性を有している。筐体2は、高さ方向にやや扁平な直方体形状をなし、上面側が開口する有底箱型の本体部3と、本体部3の上面側を塞ぐ蓋部4とを備えている。本体部3は、底面部5と、筐体2の長手方向に互いに対向する一対の側面部6,7と、筐体2の幅方向に互いに対向する一対の側面部8,9とを有している。蓋部4は、例えばネジ止めなどによって本体部3に対して着脱自在に結合されている。底面部5の外面側には、試料観察モジュール1を顕微鏡システムのステージ上に設置するにあたって滑止部材10(図3参照)が設けられている。
【0024】
筐体2内には、試料Sが載置される載置部11が設けられている。本実施形態では、図2及び図3に示すように、本体部3の底面部5の中央部分に断面円形の凹部12が設けられており、当該凹部12によって載置部11が構成されている。載置部11には、例えば試料Sが配置された円形の受皿D(図5参照)が載置できるようになっている。
【0025】
筐体2には、試料Sの光操作に用いる刺激光L1を当該筐体2内に導入する第1の窓部13と、試料Sの観察に用いる照明光L2を当該筐体2内に導入する第2の窓部14と、試料Sの観察に用いる外部レンズ(不図示)を載置部11に近接配置する第3の窓部15とが設けられている。第1の窓部13は、例えば本体部3の側面部7の中央部分が円形に刳り抜かれることによって形成されている。試料Sの光操作を行う際、第1の窓部13の外側には、刺激光L1を出力する光源16が取り付けられる(図2参照)。光源16は、第1の窓部13に予め取り付けられていてもよく、外部光源を用いてもよい。光源16としては、LD、LED、レーザ光源などを用いることができる。
【0026】
刺激光L1は、試料SがPAC発現心筋細胞である場合、PACを活性化することができる光であれば特に限定されない。PACは、青色光によって活性化される。したがって、刺激光L1としては、350nm~500nmの領域の波長を含む光が用いられる。刺激光L1のピーク波長は、好ましくは400nm~500nmであり、より好ましくは430nm~460nmである。刺激光L1の照射時間及び照射回数は、PAC遺伝子の種類、PAC遺伝子の発現量などに応じて調整される。刺激光L1は、連続的に出力してもよく、所定の間隔で断続的に出力してもよい。
【0027】
第1の窓部13の内側には、刺激光L1の強度を減衰させる一又は複数の減衰フィルタ17が着脱自在に設けられている。減衰フィルタ17の配置数を変更することにより、試料Sに向かう刺激光L1の強度を段階的に調整することができる。刺激光L1の強度は、PAC遺伝子の種類、PAC遺伝子の発現量などに応じて調整される。試料SがPAC発現心筋細胞である場合、刺激光L1は、例えば0.001μmol/m/s~100000μmol/m/sの光量子束密度を有していてもよい。
【0028】
第2の窓部14は、図1及び図3に示すように、例えば蓋部4の中央部分が円形に刳り抜かれることによって形成されている。第2の窓部14は、筐体2を高さ方向から見た場合に、載置部11と正対する位置に設けられている。第2の窓部14には、照明光L2を透過させる一方で、刺激光L1の波長の光をカットする波長選択素子18が設けられている。照明光L2を出力する光源(不図示)としては、例えば白色光源、可視光を出力するLEDなどが挙げられる。本実施形態では、刺激光L1として青色光が用いられているため、波長選択素子18としての赤色ガラス19が第2の窓部14に嵌め込まれている。この赤色ガラス19により、第2の窓部14から筐体2内に導入される照明光L2のうち、例えば波長520nm以下の短波長成分がカットされる。
【0029】
第3の窓部15は、図3に示すように、載置部11の底面の中央部分が円形に刳り抜かれることによって形成されている。第3の窓部15の径は、載置部11の内径よりも小さくなっている。これにより、載置部11に載置される受皿Dは、その縁部が載置部11の底面によって支持され、受皿Dの中央部分は、第3の窓部15を介して筐体2の底面部5から露出する。第3の窓部15には、試料観察モジュール1の設置先である顕微鏡システムの対物レンズ(不図示)が嵌め込まれる。これにより、載置部11に配置される試料Sに対して対物レンズを近接配置することができる。
【0030】
筐体2内には、第1の窓部13から導入される刺激光L1と、第2の窓部14から導入される照明光L2とを合波して載置部11に導光する合波素子21が設けられている。本実施形態では、合波素子21は、ダイクロイックミラー22によって構成されている。ダイクロイックミラー22は、第1の窓部13から導入される刺激光L1を反射して載置部11に導光し、第2の窓部14から導入される照明光L2を透過して刺激光L1と同軸に載置部11に導光する。
【0031】
本実施形態では、ダイクロイックミラー22は、保持部23によって保持された状態で筐体2内に配置されている。保持部23は、例えば筐体2と同様の硬質プラスチックなどによってブロック状に形成されている。保持部23は、図2及び図3に示すように、ダイクロイックミラー22が固定される固定部24と、第2の窓部14から導入される照明光L2を通過させる開口部25と、保持部23を筐体2の内壁に対して摺動可能に取り付ける摺動部26とを有している。
【0032】
固定部24は、図3に示すように、ダイクロイックミラー22の縁部が固定される傾斜面27を有している。傾斜面27に固定されたダイクロイックミラー22は、第1の窓部13から導入される刺激光L1及び第2の窓部14から導入される照明光L2のそれぞれの光軸に対して45°の角度で配置される。開口部25は、図2に示すように、第2の窓部14に対応して保持部23の上面側に設けられている。
【0033】
ダイクロイックミラー22は、開口部25を通して保持部23の上面側から見通せるようになっている。開口部25の形状は、特に制限はなく、円形、楕円形、長円形、矩形などの種々の形状を採り得る。本実施形態では、開口部25の形状は、角部が丸みを帯びた形状となっている。保持部23において、ダイクロイックミラー22の下方は、当該ダイクロイックミラー22によって合波した刺激光L1及び照明光L2を載置部11に向けて通過させる空間となっている(図3参照)。
【0034】
摺動部26は、図2に示すように、保持部23における筐体2の幅方向の端面23a,23aにそれぞれ設けられている。本実施形態では、摺動部26は、一対のネジ28,28によって構成されている。ネジ28,28は、端面23a,23aのそれぞれにおいて、筐体2の長手方向に所定の間隔をもって配置されている。ネジ28,28は、端面23a,23aに設けられたネジ孔(不図示)に螺合されており、螺合量を調整することによって端面23a,23aからの突出量を調整できるようになっている。
【0035】
ネジ28,28の突出量を調整し、端面23a,23aのそれぞれのネジ28,28の先端を筐体2の幅方向の側面部8,9の内壁面にそれぞれ当接させることにより、筐体2内での保持部23(ダイクロイックミラー22)の姿勢を維持しつつ、保持部23を筐体2内において長手方向にスライドさせることができる。本実施形態では、保持部23は、載置部11と向き合う第1の位置P1(図3参照)と、載置部11から外れた第2の位置P2(図4参照)との間で筐体2の長手方向にスライド可能となっている。
【0036】
第1の位置P1は、第2の窓部14と載置部11とを結んだ領域に設定されている。第2の位置P2は、第1の位置P1に対して第1の窓部13と反対側に設定されている。第2の位置P2は、保持部23が後述するファン33に当たらず、かつ筐体2の平面視において保持部23と載置部11とが重ならない位置に設定されている。保持部23を第1の位置P1に位置させる場合、図3に示すように、ダイクロイックミラー22が第1の窓部13から導入される刺激光L1の光軸及び第2の窓部14から導入される照明光L2の光軸が交わる部分に配置され、刺激光L1と照明光L2とを合波することができる。保持部23を第2の位置P2に位置させる場合、図4に示すように、平面視において載置部11が保持部23から露出する。したがって、蓋部4を取り外した状態において、載置部11への受皿Dの配置及び取り出しが可能となる。
【0037】
なお、本実施形態では、保持部23は、筐体2の長手方向だけでなく、筐体2の高さ方向にスライドさせることも可能である。このため、本体部3から蓋部4を取外した状態においては、保持部23を筐体2の高さ方向にスライドさせることで、筐体2内から保持部23を取り外すこともできる。これにより、光学特性の異なるダイクロイックミラー22を保持する保持部23に交換する際などの作業性の向上が図られる。
【0038】
また、筐体2には、載置部11に載置される試料Sの環境を維持するための構成として、温度調節部31と、ガス導入部32と、ファン33とが設けられている。温度調節部31は、水などの温度調節用液体を用いて載置部11に載置される試料Sの温度を調節する部分である。本実施形態では、図2及び図3に示すように、筐体2の長手方向の側面部6の下部において、温度調節用液体の供給口34及び排出口35が設けられている。
【0039】
温度調節部31の構築にあたって、筐体2の底面部5は、上ベース部36及び下ベース部37による2重構造となっている。上ベース部36の底面側及び下ベース部37の上面側には、所定パターンの切り欠きがそれぞれ設けられており、上ベース部36と下ベース部37との重ね合わせによって温度調節用液体の流通管38が形成されている。
【0040】
流通管38は、図2に示すように、供給口34から載置部11に向かって筐体2の長手方向に延び、載置部11の外周に沿って半周した後、載置部11から排出口35に向かって筐体2の長手方向に延びている。必要に応じて流通管38に所定温度の水(温水)を持続的に供給することで、試料Sの温度を所望の温度に維持することができる。
【0041】
ガス導入部32は、試料Sの雰囲気を調節するためのガスを導入する部分である。また、ファン33は、ガス導入部32から導入されたガスを筐体2内で拡散する装置である。本実施形態では、図2及び図3に示すように、筐体2の長手方向の側面部6の略中央部分において、ガスの導入口39が設けられている。ファン33は、導入口39と対面するように、導入口39が設けられた側面部6と載置部11との間の領域で底面部5に固定されている。ガス導入部32から導入されるガスとしては、例えば二酸化炭素、窒素、一酸化炭素、一酸化窒素などが挙げられる。本実施形態では、試料SがPAC発現心筋細胞であり、ガス導入部32から導入されるガスとしては、例えば二酸化炭素が用いられる。
【0042】
さらに、筐体2には、筐体内の湿度を調節する湿度調節部40が設けられている。本実施形態では、図2に示すように、筐体2の長手方向の側面部6において、ガス導入部32の近傍に水の導入口41が設けられている。例えばスポンジ等の補水部材を配置した受皿を筐体2内に配置し、導入口41に挿入した管を介してペリスタポンプ等で補水部材に水を供給することにより、筐体2内の湿度を調節することができる。
[試料観察モジュールの使用例]
【0043】
図5は、試料観察モジュールの使用例を示す断面図である。図5では、第1の窓部13に予め光源16が取り付けられた態様を例示する。試料観察モジュール1を使用するにあたっては、本体部3から蓋部4を取り外した状態で保持部23を第2の位置P2に位置させ、試料Sが配置された受皿Dを載置部11に載置する。受皿Dの載置後、保持部23を第1の位置P1に位置させ、ダイクロイックミラー22を第1の窓部13から導入される刺激光L1の光軸及び第2の窓部14から導入される照明光L2の光軸が交わる部分に配置する。また、試料Sの種類等に基づき、必要に応じて第1の窓部13の内側に一又は複数の減衰フィルタ17を配置する。
【0044】
ダイクロイックミラー22及び減衰フィルタ17の配置後、蓋部4を本体部3に取り付け、筐体2の内部を遮光する。そして、試料観察モジュール1を顕微鏡システムのステージ上に設置し、当該顕微鏡システムの対物レンズKを第3の窓部15に嵌め込む。試料観察モジュール1の設置後、温度調節部31によって流通管38に所定温度の水(温水)を持続的に供給し、試料Sの温度を所望の温度に維持する。また、ガス導入部32によって導入口39から筐体2内にガスを導入し、ファン33によってガスを筐体2内で循環させる。さらに、必要に応じてスポンジ等の補水部材を配置した受皿を筐体2内に配置する。湿度調節部40における水の導入口41(図2参照)に挿入した管を介して補水部材に水を供給することにより、筐体2内の湿度を調整する。
【0045】
次に、光源16を駆動し、第1の窓部13から刺激光L1を導入する。また、第2の窓部14から照明光L2を導入する。第1の窓部13から導入された刺激光L1は、減衰フィルタ17による強度減衰を受けた後、ダイクロイックミラー22で反射し、載置部11に載置された受皿D上の試料Sに入射する。これにより、刺激光L1による試料Sの光操作が経時的に行われる。第2の窓部14から導入された照明光L2は、第2の窓部14の波長選択素子18を通過することにより、刺激光L1の波長に相当する成分がカットされる。
【0046】
照明光L2は、ダイクロイックミラー22を透過し、刺激光L1と合波する。刺激光L1と合波した照明光L2は、刺激光L1と同軸に載置部11に載置された受皿D上の試料Sに入射する。その後、照明光L2は、受皿Dを透過し、第3の窓部15に嵌め込まれた対物レンズKに入射する。これにより、顕微鏡システム側では、光操作に伴う試料Sの変化の明視野観察が経時的に行われる。
[作用効果]
【0047】
以上説明したように、試料観察モジュール1では、第1の窓部13から導入される刺激光L1と、第2の窓部14から導入される照明光L2とを合波して載置部11に導光する合波素子21が遮光性の筐体2内に設けられている。これにより、試料Sに対する光刺激の付与と照明光L2の照射とを同時に行うことが可能となり、光操作に伴う試料Sの変化を経時的に観察することができる。筐体2内に合波素子21を配置した簡易な構成のため、当該試料観察モジュール1を顕微鏡システムなどと組み合わせて使用する場合にも高い利便性が発揮される。
【0048】
試料観察モジュール1では、合波素子21を保持し、載置部11と向き合う第1の位置P1と、載置部11から外れた第2の位置P2との間でスライド自在な保持部23が筐体2内に設けられている。保持部23を第1の位置P1から第2の位置P2にスライドさせることで、載置部11への試料Sの載置作業性の向上を省スペースで実現できる。
【0049】
試料観察モジュール1では、刺激光L1の強度を減衰させる一又は複数の減衰フィルタ17が第1の窓部13の内側に着脱自在に設けられている。これにより、簡単な構成で刺激光L1の強度を調節できる。したがって、試料Sの種類に応じた適切な光操作を実施できる。
【0050】
試料観察モジュール1では、照明光L2を透過させる一方で、刺激光L1の波長の光をカットする波長選択素子18が第2の窓部14に設けられている。これにより、第1の窓部13から導入される刺激光L1以外の光が試料Sの光操作に寄与することを防止できる。したがって、試料Sの光操作をより精度良く制御できる。
【0051】
試料観察モジュール1では、試料Sの観察に用いる対物レンズKを載置部11に近接配置する第3の窓部15が筐体2に設けられている。この第3の窓部15により、対物レンズKを用いた試料Sの観察を簡便に実施できる。
【0052】
試料観察モジュール1では、試料Sの環境を維持するための構成として、温度調節部31、ガス導入部32、及びファン33が設けられている。これらの構成により、試料Sの環境を良好に維持でき、光操作に伴う試料Sの変化をより持続的に観察することが可能となる。また、試料観察モジュール1では、筐体2内の湿度を調節する湿度調節部40が設けられている。
湿度調節部40も試料Sの良好な環境の維持に資するものであり、例えばファン33の駆動によって試料S中の水分が蒸発してしまうことを防止できる。
[変形例]
【0053】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、一又は複数の減衰フィルタ17を用いて刺激光L1の強度を調節しているが、刺激光L1の強度の調整は、光源16自体の出力制御によって行う態様であってもよい。また、上記実施形態では、第3の窓部15を用いることで試料Sの明視野観察を行っているが、第3の窓部15を介した試料Sの蛍光観察を行う態様としてもよい。上記実施形態では、湿度調節部40によって筐体2に水を供給しているが、例えば炭酸水のようにガスを含む水を供給する態様としてもよい。この場合、湿度の調整とガスの導入とを同時に実施できるため、ガス導入部32によるガスの導入を省略することが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1…試料観察モジュール、2…筐体、11…載置部、13…第1の窓部、14…第2の窓部、15…第3の窓部、17…減衰フィルタ、18…波長選択素子、21…合波素子、31…温度調節部、32…ガス導入部、33…ファン、40…湿度調節部、K…対物レンズ(外部レンズ)、L1…刺激光、L2…照明光、S…試料。
図1
図2
図3
図4
図5