(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】高圧容器及び高圧容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/32 20060101AFI20241107BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20241107BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20241107BHJP
B29K 101/10 20060101ALN20241107BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20241107BHJP
B29L 22/00 20060101ALN20241107BHJP
【FI】
B29C70/32
F17C1/06
B29C70/16
B29K101:10
B29K105:08
B29L22:00
(21)【出願番号】P 2021101139
(22)【出願日】2021-06-17
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】漆山 雄太
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-045660(JP,A)
【文献】特開2020-085095(JP,A)
【文献】特開2010-223243(JP,A)
【文献】特開2012-241183(JP,A)
【文献】特開昭61-075836(JP,A)
【文献】特開平07-205312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/32
F17C 1/06
B29C 70/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴部分と、前記胴部分の一端と他端とを封止する半球状の閉塞部分と、を有するライナと、前記ライナの外周に巻き回された補強繊維よりなる繊維層と、を備えた高圧容器であって、前記繊維層は、
前記補強繊維が前記ライナの周方向に巻き回されて前記胴部分を補強する複数層のフープ層と、
前記補強繊維が前記ライナの軸方向に傾斜して巻き回されて前記閉塞部分を補強する複数層のヘリカル層と、を有し、
複数層の前記フープ層のなかの内周側から数えて1又は複数層の前記フープ層に用いられる前記補強繊維は、複数のフィラメントを繊維束方向に対して傾斜するように撚った構造を有しており、且つ、外周側の前記フープ層に用いられる前記補強繊維よりも伸びやすい性質を有
し、
内周側の前記フープ層に用いられる前記補強繊維ほど、前記補強繊維の繊維束方向と前記フィラメントとのなす角度である撚り角度が増大する、高圧容器。
【請求項2】
請求項
1記載の高圧容器であって、各々の前記フープ層は前記ヘリカル層の間に挟まれている、高圧容器。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の高圧容器であって、前記繊維層の最も内周側の層は、前記フープ層である、高圧容器。
【請求項4】
円筒状の胴部分と、前記胴部分の一端と他端とを封止する半球状の閉塞部分と、を有するライナと、前記ライナの外周に巻き回された補強繊維よりなる繊維層と、を備え、前記繊維層は、前記補強繊維が前記ライナの周方向に巻き回されて前記胴部分を補強する複数層のフープ層と、前記補強繊維が前記ライナの軸方向に傾斜して巻き回されて前記閉塞部分を補強する複数層のヘリカル層と、を有し、複数層の前記フープ層のなかの内周側から数えて1又は複数層の前記フープ層に用いられる前記補強繊維は、複数のフィラメントを繊維束方向に対して傾斜するように撚った構造を有しており、且つ、外周側の前記フープ層に用いられる前記補強繊維よりも伸びやすい性質を有する高圧容器であって、
内周側の前記フープ層を構成する前記フィラメントほど断面が偏平に形成されている、高圧容器。
【請求項5】
円筒状の胴部分と、前記胴部分の一端と他端とを封止する半球状の閉塞部分と、を有するライナに、補強繊維を巻き付けて繊維層を形成する高圧容器の製造方法であって、
複数のフィラメントを束ねて
前記補強繊維を形成する補強繊維形成工程と、
前記ライナの前記胴部分の周方向に前記補強繊維を巻き回してフープ層を形成するフープ層形成工程と、
複数の
前記フィラメントを束ねて
前記補強繊維を形成しつつ、前記ライナの軸方向に傾斜する方向に前記補強繊維を巻き回して前記閉塞部分を補強するヘリカル層を形成するヘリカル層形成工程と、を複数回繰り返し行うことにより前記繊維層を形成する繊維層形成工程を有し、
複数層の前記フープ層のなかの内周側から数えて1又は複数層の前記フープ層に用いられる前記補強繊維は、
前記補強繊維形成工程において、複数の
前記フィラメントを繊維束方向に対して傾斜するように撚ることにより、外周側の前記フープ層に用いられる前記補強繊維よりも伸びやすい性質を有
し、
前記補強繊維形成工程は、内周側の前記フープ層に用いられる前記補強繊維ほど、前記補強繊維の繊維束方向と前記フィラメントとのなす角度である撚り角度が大きくなるように撚る、高圧容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状材料を巻き付けた補強構造を有する高圧容器及び高圧容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガス等の貯蔵に高圧容器が用いられている。高圧容器は、補強繊維をフィラメントワインディング法で巻き付けた繊維層を有する。
【0003】
例えば、特許文献1は繊維層を構成する補強繊維の巻き方について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高圧容器に高圧ガスを充填すると、内圧によって繊維層を構成する補強繊維に対して円周方向に引き伸ばす方向の応力が作用する。内圧による応力は、補強繊維を周方向に歪ませる(伸ばす)。内圧が破裂圧に到達すると、最も大きく歪む部分の補強繊維から破断する。
【0006】
従来の高圧容器では、最も大きく歪む部分が破断することで破裂圧に達する。そのため、従来の高圧容器では、大部分の補強繊維が性能の限界に達する前に破裂圧に達しており、補強繊維の性能が有効に生されていないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点は、円筒状の胴部分と、前記胴部分の一端と他端とを封止する半球状の閉塞部分と、を有するライナと、前記ライナの外周に巻き回された補強繊維よりなる繊維層と、を備えた高圧容器であって、前記繊維層は、前記補強繊維が前記ライナの周方向に巻き回されて前記胴部分を補強する複数層のフープ層と、前記補強繊維が前記ライナの軸方向に傾斜して巻き回されて前記閉塞部分を補強する複数層のヘリカル層と、フープ層を有し、複数層の前記フープ層のなかの内周側から数えて1又は複数層の前記フープ層に用いられる前記補強繊維は、複数のフィラメントを繊維束方向に対して傾斜するように撚った構造を有しており、且つ、外周側の前記フープ層に用いられる前記補強繊維よりも伸びやすい性質を有する、高圧容器にある。
【0009】
本発明の別の一観点は、円筒状の胴部分と、前記胴部分の一端と他端とを封止する半球状の閉塞部分と、を有するライナに、補強繊維を巻き付けて繊維層を形成する高圧容器の製造方法であって、複数のフィラメントを束ねて補強繊維を形成する補強繊維形成工程と、前記ライナの前記胴部分の周方向に前記補強繊維を巻き回してフープ層を形成するフープ層形成工程と、複数のフィラメントを束ねて補強繊維を形成しつつ、前記ライナの軸方向に傾斜する方向に前記補強繊維を巻き回して前記閉塞部分を補強するヘリカル層を形成するヘリカル層形成工程と、を複数回繰り返し行うことにより前記繊維層を形成する繊維層形成工程を有し、複数層の前記フープ層のなかの内周側から数えて1又は複数層の前記フープ層に用いられる前記補強繊維は、補強繊維形成工程において、複数のフィラメントを繊維束方向に対して傾斜するように撚ることにより、外周側の前記フープ層に用いられる前記補強繊維よりも伸びやすい性質を有する、高圧容器の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
上記観点の高圧容器及び高圧容器の製造方法によれば、補強繊維の性能を有効に利用できるため、補強繊維の使用量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図1の繊維層に含まれるフープ層、低角ヘリカル層及び高角ヘリカル層の説明図である。
【
図4】
図1の高圧容器に内圧が作用したときの、繊維層の変形(歪)を示す説明図である。
【
図5】補強繊維の撚り角度と補強繊維の特性を示すグラフである。
【
図6】
図6Aは、フィラメントと繊維束方向とが同一の補強繊維の模式図であり、
図6Bは
図6Aの補強繊維のVIB-VIB線断面図である。
【
図7】
図7Aは、フィラメントが捻られた補強繊維の模式図であり、
図7Bは
図7Aの補強繊維のVIIB-VIIB線断面図であり、
図7Cは、
図7Bの補強繊維の変形例に係る、より効果的な捩じりが加わった補強繊維の断面図であり、
図7Dは
図7Aのフィラメントの断面図である。
【
図8】第1実施形態に係る高圧容器の加工装置の概略図である。
【
図9】第1実施形態に係る繊維層の形成工程を示すフローチャートである。
【
図10】
図10Aは、フープ層形成工程を示す説明図であり、
図10Bは高角ヘリカル層形成工程を示す説明図であり、
図10Cは低角ヘリカル層形成工程を示す説明図である。
【
図11】第4実施形態に係る繊維層の形成工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態に係る高圧容器10は、気体を圧縮して貯留する充填空間12を有する。この高圧容器10は、例えば、燃料電池システムに適用される。高圧容器10の充填空間12は、例えば、水素ガス又はメタンガス等の燃料ガスを貯留する。高圧容器10は、例えば、図示しない燃料電池車両に搭載されて、ガスステーションから供給される燃料ガスを貯留する。また、高圧容器10は、車両の走行時等に燃料電池スタック(不図示)に燃料ガスを供給する。なお、高圧容器10は、燃料電池システムへの適用に限定されず、また水素ガス以外の気体を貯留可能である。
【0013】
高圧容器10は、円筒状の胴部分16と、胴部分16の両端を塞ぐ半球状の閉塞部分18とを有する。胴部分16の直径及び長さは、必要とされる充填空間12の容積に応じて設定される。高圧容器10の一端側の閉塞部分18及び他端側の閉塞部分18は、それぞれポート部20を有する。ポート部20は、高圧容器10の外部と充填空間12との間を連通する部材である。ポート部20には、例えば、配管又はバルブ等の接続部材が接続されて、燃料電池システム等の外部機器に接続される。
【0014】
この高圧容器10は、充填空間12を内側に有するライナ22と、ライナ22の外面を覆う繊維層24とを有する。ライナ22は、高圧容器10の内層(骨格)を構成する。ライナ22の胴部分16は、軸方向に直線状に延在する。一方で、ライナ22の閉塞部分18は、胴部分16との接続箇所から径方向内側に向かって滑らかに半球状に湾曲して縮径する。ライナ22の胴部分16及び閉塞部分18は、樹脂材料(例えば、ポリアミド系樹脂)により一体的に形成される。ライナ22の閉塞部分18には、ポート部20が取り付けられている。ポート部20は、ライナ22の軸方向に延びてライナ22の閉塞部分18を貫通する貫通部20aと、ライナ22の閉塞部分18に接合されたフランジ状の接合部20bとを備えている。貫通部20aには、充填空間12に連通する軸孔20cが形成されている。
【0015】
繊維層24は、ライナ22の外周部32(
図2参照)に直接積層される。繊維層24は、ライナ22の全体を覆うことで、高圧容器10の外層を構成する。繊維層24は、フィラメントワインディング工程により、補強繊維34(
図2参照)をライナ22に巻き付けて形成される。補強繊維34としては、フィラメント35(
図2参照)(例えば、炭素繊維)を束ねた繊維束に熱硬化性樹脂を含浸させた繊維強化樹脂が用いられる。なお、補強繊維34を構成するフィラメント35は、炭素繊維に限定されるものではない。補強繊維34には、例えば、グラスファイバー、バサルトファイバー、ステンレス等の鉄系ファイバー、銅、銀、金合金のファイバー、形状記憶合金系ファイバー、ポリプロピレンファイバー、及びポリアミドファイバー、麻、絹、綿、竹ファイバーのいずれか1つ又は複数を用いることができる。
【0016】
繊維層24は、
図2に示すように、フープ層36と、低角ヘリカル層38と、高角ヘリカル層40とを有する。フープ層36は、ライナ22の軸方向に対して略垂直な周方向に補強繊維34を巻きつけて形成された層である。フープ層36は、ライナ22の胴部分16の外周部32に配置される。フープ層36は、ライナ22の胴部分16を補強する。低角ヘリカル層38及び高角ヘリカル層40は、補強繊維34をライナ22の軸方向に対して傾斜させて巻き付けるヘリカル巻きで形成される層である。本明細書において、低角ヘリカル層38及び高角ヘリカル層40を、総称してヘリカル層42と呼ぶ場合もある。ヘリカル層42は、閉塞部分18を補強する。
【0017】
低角ヘリカル層38は、ライナ22の軸方向に対する傾斜角度αが小さいヘリカル層42である。低角ヘリカル層38は、主にライナ22の閉塞部分18の外周部に巻き付けられる。低角ヘリカル層38は、ポート部20の近傍のライナ22に厚く巻き付けられ、ポート部20の近傍のライナ22を補強する。
【0018】
高角ヘリカル層40は、ライナ22の軸方向に対する傾斜角度αが大きいヘリカル層42である。高角ヘリカル層40は、ライナ22の胴部分16と閉塞部分18の一部と胴部分16を覆う。高角ヘリカル層40は、閉塞部分18の中でも胴部分16の近傍の部分を補強する。
【0019】
繊維層24において、フープ層36と、低角ヘリカル層38と、高角ヘリカル層40とは、内周側から所定の順序で複数層積層される。したがって、
図3に示すように、繊維層24の断面は、複数のフープ層36がヘリカル層42の間に挟まれる。
【0020】
図3に示すように、高圧容器10の充填空間12に高圧ガスを充填すると、ライナ22に内圧が作用する。高圧容器10の大部分を占める胴部分16に着目する。胴部分16には、ライナ22及び繊維層24を周方向の外方に押し広げようとする内圧が作用する。内圧は、ライナ22を通じて複数のフープ層36に伝わる。その結果、繊維層24の半径が増大するように変形する。繊維層24の半径の増大の結果、複数のフープ層36を構成する補強繊維34には、補強繊維34を周方向に引き伸ばそうとする引張応力が作用する。補強繊維34に作用する引張応力は、フープ層36を周方向に引き伸ばす変形(歪み)を生じさせる。径方向に複数積層されたフープ層36に生じる歪みの大きさは、径方向の位置に応じて異なる。
【0021】
以下、
図4を参照しつつ繊維層24の変形と、複数のフープ層36の歪について説明する。図示の内側の帯状の円弧44は、内圧が作用していない状態における繊維層24を模式的に示す。繊維層24の内周側の半径をr
0とし、繊維層24の外周側の半径r
1とし、繊維層24の厚さをdとする。外周側の半径r
1は、r
1=r
0+dとして表される。
【0022】
高圧容器10に内圧が作用すると、図示の外側の帯状の円弧45に示すように、繊維層24の内周側の半径がr0´に膨張し、繊維層24の外周側の半径がr1´に膨張し、繊維層24は周方向に角度Δθだけ伸びる。このとき、繊維層24の体積(又はポアソン比)は一定なので、繊維層24が周方向に伸びる分に応じて、繊維層24の厚さd´が減少する。内圧作用下の繊維層24の厚さd´は、内圧が作用しない状態の厚さdよりも薄くなる。すなわち、d´-d<0という条件を満たす。
【0023】
ここで、内圧が作用している繊維層24の内周部の歪(周方向の伸び)δinは、δin=1/2Δθ(r0´-r0)と表される。また、内圧が作用している繊維層24の外周部の歪(周方向の伸び)δoutは、1/2Δθ(r1´-r1)となる。内周部の歪δinと外周部の歪δoutとの差であるδout-δinは、以下の条件を満たす。
δout-δin=1/2Δθ(r0´-r0+d´-d-(r0´-r0))
=1/2Δθ(d´-d)<0
上記の式に示されるように、繊維層24において、内周部の歪δinの方が、外周部の歪δoutよりも大きくなる。
【0024】
図5に示すように、補強繊維34の応力-歪特性は、符号50を付した線で表される変化を示す。補強繊維34の歪が増加すると、応力も直線的に増加する。歪がさらに増加して応力が所定値に達すると補強繊維34が破断する。ここで、
図4を参照しつつ説明したように、繊維層24の内周部のフープ層36ほど歪が大きくなる。そのため、全てのフープ層36を同一の応力-歪特性を有する補強繊維34で形成すると、歪が大きくなる内周部のフープ層36に応力が集中する。その結果、高圧容器10は、外周側のフープ層36の応力が限界に達する前に最大圧力に達してしまい、内層側のフープ層36の破断が始まる。
【0025】
そこで、本実施形態では、最も大きな歪が作用する内周側から数えて1層目のフープ層36に対して、破断するまでに大きく伸びる補強繊維34を用いる。
【0026】
図5において、符号50、52、54、56を付した線は、フィラメント35として炭素繊維を用いた場合において、撚り角度が異なる補強繊維34の応力-歪特性をそれぞれ示す。符号50を付した線は、
図6Aに示す補強繊維34の応力-歪特性を示す。
図6Aの補強繊維34は、フィラメント35が撚られておらず、フィラメント35と繊維束方向とがなす傾斜角度α(撚り角度ともいう)が概ね0°となっている。なお、傾斜角度αが厳密に0°の繊維束を製造することは実際には難しいため、実際にはフィラメント35の傾斜角度αは0°に対して僅かに傾斜している。
図6Bに示すように、傾斜角度αが0°程度の補強繊維34の断面は、全てのフィラメント35が元の円形の断面形状を維持している。
【0027】
図5に示すように、フィラメント35の傾斜角度αが0°の補強繊維34は、歪の増加と共に応力値が直線状に増大し、所定の歪で破断する。傾斜角度αが0°の補強繊維34は、撚った補強繊維34(符号52、54、56)よりもヤング率(符号50を付した線の傾き)及び破断する際の応力値(引張強度)が大きな値を示す。すなわち、傾斜角度αが0°の補強繊維34は、強度的に優れる。
【0028】
一方、符号52、54、56を付した線は、フィラメント35を撚った補強繊維34の応力-歪特性をそれぞれ示す。
図7Aに示すように、フィラメント35を撚った補強繊維34は、フィラメント35が補強繊維34の繊維束方向に対して所定の傾斜角度αで傾斜している。
図7Bに示すように、フィラメント35が撚られた補強繊維34は、一部のフィラメント35の断面形状が偏平に変形している。補強繊維34の外側付近のフィラメント35の断面は、補強繊維34の中心付近のフィラメント35の断面よりも偏平に押しつぶされている。さらに、本発明の効果をより発揮しうる様に補強繊維34を撚った状態では、フィラメント35の傾斜角度αが略同一角となり、その状態を
図7Cに示す。
図7Cに示す例では、補強繊維34の断面において、全てのフィラメント35は、位置によらずに略同じ断面形状の楕円形状を有する。
図7Dに示すように、フィラメント35の傾斜角度αの補強繊維34において、最も外側のフィラメント35は、短径方向の長さを1としたときに長径方向の長さがcos
-1αとなる楕円形状を有する。
【0029】
図5において、符号52、54、56の順で、補強繊維34のフィラメント35の傾斜角度α(撚り角度)が増大している。撚られた補強繊維34では、歪が小さい範囲では、傾斜角度αが大きな補強繊維34程、歪に対する応力の増加割合が緩やかとなる。したがって、傾斜角度αが大きな補強繊維34は、歪に対してより大きく伸びる。撚られた補強繊維34は、所定以上の歪において、ヤング率が増加して応力が非線形に変化する非線形領域を有する。非線形領域では、破断する直前まで補強繊維34のヤング率が増加する。傾斜角度αが大きな補強繊維34ほど、非線形領域が大きくなる。
【0030】
そこで、本実施形態では、
図3の内側から数えて1層目のフープ層36に、フィラメント35を繊維束方向に対して傾斜するように撚った補強繊維34を用いる。このように、内周側の1層目のフープ層36に撚った補強繊維34を用いることで、1層目のフープ層36を構成する補強繊維34に作用する引張応力の集中を防止できる。1層目のフープ層36に作用する引張応力が低下した分は、より外周側のフープ層36の補強繊維34に引張応力として作用する。したがって、本実施形態の高圧容器10によれば、外周側のフープ層36の補強繊維34の性能を有効に生かすことができる。
【0031】
以下、本実施形態の高圧容器10の製造方法について説明する。
【0032】
図8に示すように、まず、フィラメントワインディング法を適用するワークWを用意する。ワークWは、ライナ22の一端と他端とにポート部20を取り付けた加工品である。次に、ワークWの外面に補強繊維34を巻き付けるフィラメントワインディング工程を行うことで、繊維層24を形成する。
【0033】
フィラメントワインディング工程は、
図8に示す加工装置60を用いて行われる。ワークWには、ポート部20を貫くようにシャフト62が挿入される。シャフト62の一端と他端は、回転機構64に取り付けられる。回転機構64は、シャフト62を軸としてワークWを回動させる。次に、回転中のワークWの外周部に、補強繊維34が巻き付けられる。補強繊維34は、複数のクリール66から繰り出されるフィラメント35を束ねて作製される。クリール66から繰り出されたフィラメント35は、加工部68にて繊維束として束ねられる。加工部68は、フィラメント35の撚り角度(傾斜角度α)を調整することができる。繊維束には、加工部68の内部の含浸部にて母材樹脂が含浸される。加工装置60は、加工部68を移動させつつ、回転中のワークWに補強繊維34を巻き付けていく。加工部68の移動パターンにより、フープ層36と、低角ヘリカル層38と、高角ヘリカル層40とが形成される。
【0034】
本実施形態では、
図9に示す順で繊維層24を形成する。まず、ステップS10において、加工装置60は、最も内周側の1層目のフープ層36(
図10A参照)を形成する。1層目のフープ層36の形成の際には、加工部68(
図8参照)は、複数のフィラメント35を所定の傾斜角度αで撚って補強繊維34を形成する。
【0035】
次に、ステップS20において、加工装置60は、1層目のフープ層36の上に高角ヘリカル層40(
図10B参照)を形成する。高角ヘリカル層40の形成の際には、加工部68は、複数のフィラメント35を撚らずに繊維束を束ねて補強繊維34を作製する。
【0036】
次に、ステップS30において、加工装置60は、高角ヘリカル層40の上に、低角ヘリカル層38(
図10C参照)を形成する。低角ヘリカル層38の形成の際には、加工部68は、フィラメント35を撚らずに繊維束を束ねて補強繊維34を作製する。
【0037】
次に、ステップS40において、加工装置60は、低角ヘリカル層38の上に高角ヘリカル層40を形成する。ステップS40においても、加工部68は、複数のフィラメント35を撚らずに補強繊維34を作製する。
【0038】
次に、ステップS50において、加工装置60は所定の積層数に達したか否かを判断する。積層数が不足している場合(NO)には、ステップS10、S20、S30、S40を繰り返して、フープ層36、低角ヘリカル層38及び高角ヘリカル層40を積層する。本実施形態において、内周側から2層目以降のフープ層36は、フィラメント35を撚らずに作製した補強繊維34を用いて形成する。
【0039】
一方、ステップS50において、所定の積層数に達している場合(YES)には、加工装置60は、処理をステップS60に進める。
【0040】
ステップS60では、加工装置60は、繊維層24の最も外周側となるフープ層36を形成する。以上の処理により、本実施形態の繊維層24が完成する。上記の製造方法によれば、繊維層24の内周及び外周がフープ層36で構成されるため、胴部分16の強度に優れた高圧容器10が得られる。
【0041】
(第2実施形態)
本実施形態の高圧容器10では、複数のフープ層36の中で、内周側から数えて複数のフープ層36に対して、フィラメント35を撚った補強繊維34を用いる。この場合において、内周側のフープ層36に用いる補強繊維34ほど、フィラメント35の傾斜角度αが大きな補強繊維34を用いる。すなわち、内周側のフープ層36の補強繊維34程、フィラメント35の撚り角度が大きくなっている。
【0042】
図5に示すように、フィラメント35の傾斜角度αが大きな補強繊維34ほど、伸びやすい。したがって、本実施形態の高圧容器10によれば、フープ層36の径方向の位置に応じて、歪の大きさに適した応力-歪特性を有する補強繊維34を用いることができる。従って、本実施形態の高圧容器10によれば、外周側のフープ層36に含まれる高強度の補強繊維34の性能を生かすことができ、繊維層24を薄くすることができる。その結果、高圧容器10の製造に要する補強繊維34の量を節減できるので、製造コストを削減できる。
【0043】
(第3実施形態)
図11に示すように、本実施形態は、繊維層24の製造工程において、
図9に示す繊維層24の製造工程と異なる。本実施形態の製造工程では、ステップS110において、加工装置60(
図8参照)は、低角ヘリカル層形成工程を行う。これにより、繊維層24の最内周に低角ヘリカル層38が形成される。
【0044】
次に、ステップS120に移行し、加工装置60は、低角ヘリカル層38の上にフープ層36を形成する。加工装置60は、内周側のフープ層36は、
図7Aに示すようにフィラメント35を所定の傾斜角度αで撚った補強繊維34を用いて形成する。
【0045】
次に、ステップS130において、加工装置60は、高角ヘリカル層40を形成する。その後、ステップS140において、加工装置60は、低角ヘリカル層38を形成する。その後、ステップS150において、加工装置60は、高角ヘリカル層40を形成する。
【0046】
次に、ステップS160において、加工装置60が所定の積層数に達していないと判断した場合(NO)には、ステップS120~ステップS150を繰り返す。加工装置60は、フープ層36の積層数が増加する毎に、補強繊維34のフィラメント35の傾斜角度αを小さくする。
【0047】
ステップS160において、加工装置60が所定の積層数に達したと判断した場合(YES)には、ステップS170に移行する。ステップS170において、加工装置60は、フープ層36を形成する。ステップS170において、加工部68(
図8参照)は、フィラメント35を撚らずに束ねて補強繊維34を作製する。
【0048】
本実施形態によれば、胴部分16と共に、閉塞部分18の強度にも優れた高圧容器10が得られる。
【0049】
(第4実施形態)
本実施形態の高圧容器10では、撚った補強繊維34をワークW(
図8参照)に巻き付ける際の張力を、フープ層36の位置に応じて変える。内周から数えて1層目のフープ層36については、補強繊維34を巻き付ける際の張力を相対的に小さな第1の張力で巻き付ける。内周から数えて2層目のフープ層36は、第1の張力よりも大きな第2の張力で補強繊維34を巻き付けて形成する。さらに、内周から数えたフープ層36の位置が増えるにしたがって、補強繊維34を巻き付ける際の張力を増大させる。このように、本実施形態の高圧容器10では、フープ層36を構成する補強繊維34の撚り角度だけでなく、初期応力を加える。本実施形態の高圧容器10では、フープ層36の位置に応じた最適な特性を有する補強繊維34を利用するため、補強繊維34の性能を生かすことができる。
【0050】
(第5実施形態)
本実施形態の高圧容器10は、
図12Aに示すように、フープ層36は、開繊糸よりなる補強繊維34Aを有する。補強繊維34Aは以下の方法で形成される。まず、炭素繊維のプリカーサとなる樹脂よりなるフィラメント35を紡いで繊維束とし、これを焼成して炭素繊維とする。この繊維束は、フィラメント35を紡ぐ段階で撚られている。フィラメント35は、繊維束方向に対して所定の傾斜角度αで傾斜する。フィラメント35の傾斜角度αは、炭素繊維となった後も維持される。その後、補強繊維34Aを高圧容器へ設置する前に、撚った炭素繊維を薄層化して平坦状に押しつぶすスプレディング(開繊)を行うことで、補強繊維34Aが得られる。補強繊維34Aは、フィラメント35が補強繊維34Aに対して傾斜角度αで傾斜する。補強繊維34Aは、
図7A~
図7Dに示す補強繊維34と同様の非線形特性が得られる。同じく本発明の効果をより発揮しうる様に補強繊維34Aを撚った状態では、フィラメント35の傾斜角度αが略同一角となり、その状態を
図12Bに示す。
図12Bに示す補強繊維34Aでは、フィラメント35が位置によらずに、略同一形状の楕円形状を有する。
【0051】
本実施形態の高圧容器10では、内周から数えて1又は複数層のフープ層36に対して、撚った補強繊維34Aを用いる。
【0052】
以下、上記の諸実施形態の効果について説明する。
【0053】
高圧容器10は、円筒状の胴部分16と、胴部分16の一端と他端とを封止する半球状の閉塞部分18と、を有するライナ22と、ライナ22の外周に巻き回された補強繊維34よりなる繊維層24と、を備え、繊維層24は、補強繊維34がライナ22の周方向に巻き回されて胴部分16を補強する複数層のフープ層36と、補強繊維34がライナ22の軸方向に傾斜して巻き回されて閉塞部分18を補強する複数層のヘリカル層42と、を有し、複数層のフープ層36のなかの内周側から数えて1又は複数層のフープ層36に用いられる補強繊維34は、複数のフィラメント35を繊維束方向に対して傾斜するように撚った構造を有しており、且つ、外周側のフープ層36に用いられる補強繊維34よりも伸びやすい性質を有する。
【0054】
上記の構成によれば、内圧の作用下において大きな歪が作用する内周付近のフープ層36への引張応力の集中を防ぐことができ、外周付近の補強繊維34の性能を生かすことができる。これにより、繊維層24を薄型化できる。また、使用する補強繊維34の量を減らすことができるため、製造コストを抑制できる。
【0055】
上記の高圧容器10において、内周側のフープ層36に用いられる補強繊維34ほど、補強繊維34の繊維束方向とフィラメント35とのなす角度である傾斜角度αが増大する。この構成によれば、歪が大きな内周に伸びやすい補強繊維34が適用され、歪が小さな外周には強度に優れた補強繊維34が適用されるため、繊維層24をさらに薄型化できる。
【0056】
上記の高圧容器10において、各々のフープ層36はヘリカル層42の間に挟まれてもよい。
【0057】
上記の高圧容器10において、繊維層24の最も内周側の層は、フープ層36であってもよい。この構成によれば、高圧容器10の、胴部分16の強度が向上する。
【0058】
上記の高圧容器10において、内周側のフープ層36を構成するフィラメント35ほど断面が偏平に形成されてもよい。フィラメント35は、撚り角度が増大するほど圧迫されて偏平に変形する。したがって、高圧容器10において、内周側のフープ層36のフィラメント35程、撚り角度を反映して偏平化される。
【0059】
本実施形態の高圧容器の製造方法は、円筒状の胴部分16と、胴部分16の一端と他端とを封止する半球状の閉塞部分18と、を有するライナ22に、補強繊維34を巻き付けて繊維層24を形成する高圧容器10の製造方法であって、複数のフィラメント35を束ねて補強繊維34を形成する補強繊維形成工程と、ライナ22の胴部分16の周方向に補強繊維34を巻き回してフープ層36を形成するフープ層形成工程と、複数のフィラメント35を束ねて補強繊維34を形成しつつ、ライナ22の軸方向に傾斜する方向に補強繊維34を巻き回して閉塞部分18を補強するヘリカル層42を形成するヘリカル層形成工程と、を複数回繰り返し行うことにより繊維層24を形成する繊維層形成工程を有し、複数層のフープ層36のなかの内周側から数えて1又は複数層のフープ層36に用いられる補強繊維34は、補強繊維形成工程において、複数のフィラメント35を繊維束方向に対して傾斜するように撚ることにより、外周側のフープ層36に用いられる補強繊維34よりも伸びやすい性質を有する。
【0060】
上記の高圧容器10の製造方法によれば、外周側のフープ層36に含まれる補強繊維34の強度を生かすことができ、繊維層24を薄型化できる。その結果、繊維層24に用いる補強繊維34の量を節減でき、製造コストを抑制できる。
【0061】
上記の高圧容器10の製造方法であって、補強繊維形成工程では、内周側のフープ層36に用いられる補強繊維34ほど、補強繊維34の繊維束方向とフィラメント35とのなす角度である撚角度が大きくなるように撚る。
【0062】
なお、本発明は、上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を取り得る。
【符号の説明】
【0063】
10…高圧容器 16…胴部分
18…閉塞部分 22…ライナ
24…繊維層 34、34A…補強繊維
35…フィラメント 36…フープ層
42…ヘリカル層