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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】農業機械及び農業機械の通信システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/02 20240101AFI20241107BHJP
   H04W 52/18 20090101ALI20241107BHJP
【FI】
G06Q50/02
H04W52/18
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021108019
(22)【出願日】2021-06-29
(65)【公開番号】P2023005824
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池田 亮
(72)【発明者】
【氏名】三浦 敬典
(72)【発明者】
【氏名】衣川 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】石原 健二
【審査官】加舎 理紅子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-032573(JP,A)
【文献】特開2019-004209(JP,A)
【文献】特開2009-246733(JP,A)
【文献】特開2009-077375(JP,A)
【文献】特開2004-297111(JP,A)
【文献】特開2015-192329(JP,A)
【文献】特開2020-025189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
H04W 52/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場で農作業を行う農業機械であって、前記農作業又は前記農業機械に関するデータが、携帯端末から外部ネットワークが含む固定基地局に向けて送信される農業機械において、
少なくとも前記携帯端末及び前記固定基地局のいずれかに接続可能な農業基地局を有し、
前記農業基地局は、
複数の前記携帯端末と接続可能であり、
前記固定基地局の設置位置と前記農業機械の位置の離間距離が大きいほど前記携帯端末に接続可能な最大数をより多くなるようにする、又は、前記離間距離が大きいほど前記接続可能な最大数をより少なくなるようにする農業機械。
【請求項2】
作業装置が連結可能な連結装置を含む走行車体を更に備え、
前記農業基地局は、前記走行車体に設けられている請求項1に記載の農業機械。
【請求項3】
前記農業基地局は、前記農業機械の位置が前記圃場である場合に作動する請求項1又は2に記載の農業機械。
【請求項4】
前記農業基地局は、
前記携帯端末との接続、又は、前記固定基地局との接続を、電波を介して行い、
前記固定基地局の設置位置と前記農業機械の位置の離間距離が大きいほど大きくなるように前記電波の強度を決定する、又は、前記離間距離と前記電波の強度との関係を予め規定しているテーブルを参照して前記農業機械の位置に応じ前記電波の強度を決定する請求項1~3のいずれかに記載の農業機械。
【請求項5】
前記農業基地局は、農業機械の位置における前記固定基地局の電波強度が閾値以下である場合に作動する請求項1~のいずれかに記載の農業機械。
【請求項6】
圃場で農作業を行う農業機械の通信システムであって、
外部ネットワークが含む固定基地局と、
前記固定基地局に向けて、前記農作業又は前記農業機械に関するデータを送信する携帯端末と、
少なくとも前記携帯端末及び前記固定基地局のいずれかに接続可能な農業基地局と、を備え
前記農業基地局は、
複数の前記携帯端末と接続可能であり、
前記固定基地局の設置位置と前記農業機械の位置の離間距離が大きいほど前記携帯端末に接続可能な最大数をより多くなるようにする、又は、前記離間距離が大きいほど前記接続可能な最大数をより少なくなるようにする農業機械の通信システム。
【請求項7】
前記農業機械は、作業装置が連結可能な連結装置を含む走行車体を更に備え、
前記農業基地局は、前記走行車体に設けられている請求項に記載の農業機械の通信システム。
【請求項8】
前記農業基地局は、前記農業機械の位置が前記圃場である場合に作動する請求項6又は7に記載の農業機械の通信システム。
【請求項9】
前記農業基地局は、
前記携帯端末との接続、又は、前記固定基地局との接続を、電波を介して行い、
前記固定基地局の設置位置と前記農業機械の位置の離間距離が大きいほど大きくなるように前記電波の強度を決定する、又は、前記離間距離と前記電波の強度との関係を予め規定しているテーブルを参照して前記農業機械の位置に応じ前記電波の強度を決定する請求項6~8のいずれかに記載の農業機械の通信システム。
【請求項10】
前記農業基地局は、農業機械の位置における前記固定基地局の電波強度が閾値以下である場合に作動する請求項6~9のいずれかに記載の農業機械の通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、トラクタ等の農業機械及び農業機械の通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農業機械の作業機を用いて行う作業に対し、支援するシステムとして、特許文献1の作業支援システムが知られている。特許文献1の作業支援システムは、サーバと、サーバに携帯電話通信網等を介して接続可能な携帯通信機器とを備えている。この携帯通信機器は、携帯電話通信網等を介して、作業に関するデータをサーバに送信するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-74069 号公報
【発明の概要】
【0004】
特許文献1の作業支援するシステムでは、携帯通信機器を携帯電話通信網等に接続することができれば、携帯通信機器からサーバへのデータ送信が達成される。この種のシステムでは、一般に、通信網における固定基地局及び携帯端末の間における通信を確立し、携帯端末から固定基地局に向けて、農作業又は農業機械に関するデータ等が送信される。例えば、農業機械や携帯通信機器が位置する場所によっては、固定基地局及び携帯端末の間における直接通信が困難な場合がある。この場合、上述のようなデータ送信を適切に達成することは難しい。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、固定基地局及び携帯端末の間における直接通信が困難な場合であっても、農作業又は農業機械に関するデータを、固定基地局に確実に送信することができる農業機械又は農業機械の通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この技術的課題を解決するための本発明の技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。農業機械は、圃場で農作業を行う農業機械であって、前記農作業又は前記農業機械に関するデータが、携帯端末から外部ネットワークが含む固定基地局に向けて送信される農業機械において、少なくとも前記携帯端末及び前記固定基地局のいずれかに接続可能な農業基地局を有する。
【0007】
前記農業機械は、作業装置が連結可能な連結装置を含む走行車体を更に備え、前記農業基地局は、前記走行車体に設けられている。
【0008】
前記農業基地局は、前記農業機械の位置が前記圃場である場合に作動する。
【0009】
前記農業基地局は、前記携帯端末との接続、又は、前記固定基地局との接続を、電波を介して行い、前記農業機械の位置に応じて、前記電波の強度を変更する。
【0010】
前記農業基地局は、複数の前記携帯端末と接続可能であり、前記農業機械の位置に応じて、少なくとも前記携帯端末に接続する接続数を変更する。
【0011】
前記農業基地局は、農業機械の位置における前記固定基地局の電波強度が閾値以下である場合に作動する。
【0012】
農業機械の通信システムは、圃場で農作業を行う農業機械の通信システムであって、外部ネットワークが含む固定基地局と、前記固定基地局に向けて、前記農作業又は前記農業機械に関するデータを送信する携帯端末と、少なくとも前記携帯端末及び前記固定基地局のいずれかに接続可能な農業基地局とを備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、固定基地局及び携帯端末の間における直接通信が困難な場合であっても、農作業又は農業機械に関するデータを、固定基地局に確実に送信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】トラクタが備える変速装置の構成図である。
図2】トラクタが備える操舵装置の構成図、及び、電子機器の機能ブロック図である。
図3】トラクタの通信システムの全体図、及び、トラクタおよび携帯端末それぞれの機能ブロック図である。
図4】携帯端末に設定画面を表示した状態を示す図である。
図5】圃場を含む地域における固定基地局の電波が到達可能な境界を示す図である。
図6】電波到達可能な境界の近傍におけるトラクタおよび携帯端末の位置関係を示す図である。
図7】農業基地局の記憶部が備える圃場の位置情報、及び、固定基地局の設置位置情報のデータベースを示す図である。
図8】農業基地局の記憶部が備える離間距離と、発振電波強度との関係を規定するテーブルを示す図である。
図9】トラクタ(及び農業基地局)、及び、携帯端末における作動を示すフローチャートである。
図10】圃場を含む地域における固定基地局の電波が到達可能な境界に、農業基地局の電波が到達可能な境界を重ね合わせた状態を示す図である。
図11】電波到達可能な境界の近傍におけるトラクタおよび携帯端末の位置関係を示す図である。
図12】トラクタの全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図12は、作業機の一例であるトラクタ1を示している。トラクタ1を例にあげ説明するが、作業機は、トラクタに限定されず、田植機等の農業機械である。
【0017】
<トラクタ>
図12に示すように、トラクタ1は、走行装置7を有する走行車両(走行車体)3と、原動機4と、変速装置5とを備えている。走行装置7は、前輪7F及び後輪7Rを有する装置である。前輪7Fは、タイヤ型であってもクローラ型であってもよい。また、後輪7Rも、タイヤ型であってもクローラ型であってもよい。原動機4は、ディーゼルエンジン、電動モータ等である。変速装置5は、変速によって走行装置7の推進力を切換可能であると共に、走行装置7の前進、後進の切換が可能である。走行車両3の原動機4の後方にはキャビン9が設けられ、当該キャビン9内には運転席10が設けられている。運転席10の周囲には、トラクタ1の様々な情報を表示する表示装置が設けられている。
【0018】
また、走行車両3の後部には、3点リンク機構を含む機構等で構成された連結部8が設けられている。連結部8には、作業装置2が着脱可能である。作業装置2を連結部8に連結することによって、走行車両3によって作業装置2を牽引することができる。作業装置2は、耕耘する耕耘装置、肥料を散布する肥料散布装置、農薬を散布する農薬散布装置、収穫を行う収穫装置、牧草等の刈取を行う刈取装置、牧草等の拡散を行う拡散装置、牧草等の集草を行う集草装置、牧草等の成形を行う成形装置等である。なお、図12では、作業装置2として耕耘装置を取り付けた例を示している。
【0019】
図1に示すように、変速装置5は、主軸(推進軸)5aと、主変速部5bと、副変速部5cと、シャトル部5dと、PTO動力伝達部5eと、を備えている。推進軸5aは、変速装置5のハウジングケースに回転自在に支持され、当該推進軸5aには、原動機4のクランク軸からの動力が伝達される。主変速部5bは、複数のギア及び当該ギアの接続を変更するシフタを有している。主変速部5bは、複数のギアの接続(噛合)をシフタで適宜変更することによって、推進軸5aから入力された回転を変更して出力する(変速する)。
【0020】
副変速部5cは、主変速部5bと同様に、複数のギア及び当該ギアの接続を変更するシフタを有している。副変速部5cは、複数のギアの接続(噛合)をシフタで適宜変更することによって、主変速部5bから入力された回転を変更して出力する(変速する)。シャトル部5dは、シャトル軸12と、前後進切換部13とを有している。シャトル軸12には、副変速部5cから出力された動力がギア等を介して伝達される。前後進切換部13は、例えば、油圧クラッチ等で構成され、油圧クラッチの入切によってシャトル軸12の回転方向、即ち、トラクタ1の前進及び後進を切り換える。シャトル軸12は、後輪デフ装置に接続されている。後輪デフ装置は、後輪7Rが取り付けられた後車軸を回転自在に支持している。
【0021】
PTO動力伝達部5eは、PTO推進軸14と、PTOクラッチ15とを有している。PTO推進軸14は、回転自在に支持され、推進軸5aからの動力が伝達可能である。PTO推進軸14は、ギア等を介してPTO軸16に接続されている。PTOクラッチ15は、例えば、油圧クラッチ等で構成され、油圧クラッチの入切によって、推進軸5aの動力をPTO推進軸14に伝達する状態と、推進軸5aの動力をPTO推進軸14に伝達しない状態とに切り換わる。
【0022】
図2に示すように、トラクタ1は、操舵装置11を備えている。操舵装置11は、ハンドル(ステアリングホイール)11aと、ハンドル11aの回転に伴って回転するステアリングシャフト(回転軸)11bと、ハンドル11aの操舵を補助する補助機構(パワーステアリング機構)11cと、を有している。補助機構11cは、油圧ポンプ21と、油圧ポンプ21から吐出した作動油が供給される制御弁22と、制御弁22により作動するステアリングシリンダ23とを含んでいる。制御弁22は、制御信号に基づいて作動する電磁弁である。制御弁22は、例えば、スプール等の移動によって切り換え可能な3位置切換弁である。また、制御弁22は、ステアリングシャフト11bの操舵によっても切換可能である。ステアリングシリンダ23は、前輪7Fの向きを変えるアーム(ナックルアーム)24に接続されている。
【0023】
したがって、運転者がハンドル11aを操作すれば、当該ハンドル11aに応じて制御弁22の切換位置及び開度が切り換わり、当該制御弁22の切換位置及び開度に応じてステアリングシリンダ23が左又は右に伸縮することによって、前輪7Fの操舵方向を変更することができる。つまり、操舵機構11によって、トラクタ1(走行車体3)の操舵を手動で行うことができる。
【0024】
また、トラクタ1(走行車両3)の操舵を、自動でも行うことも可能である。操舵装置11は、自動操舵機構25を有している。自動操舵機構25は、走行車体3の自動操舵を行う機構であって、走行車体3の位置と、予め設定された走行予定ラインに基づいて走行車体3を自動操舵する。自動操舵機構25は、ステアリングモータ26と、ギア機構27と、を備えている。ステアリングモータ26は、現在位置に基づいて、回転方向、回転速度、回転角度等が制御可能なモータである。ギア機構27は、ステアリングシャフト11bに設けられ且つ当該ステアリングシャフト11bと供回りするギアと、ステアリングモータ26の回転軸に設けられ且つ当該回転軸と供回りするギアとを含んでいる。ステアリングモータ26の回転軸が回転すると、ギア機構27を介して、ステアリングシャフト11bが自動的に回転(回動)し、車体位置が走行予定ラインに一致するように、前輪7Fの操舵方向を変更することができる。なお、上述した操舵機構11は一例であり、上述した構成に限定されない。
【0025】
図2に示すように、トラクタ1には、複数の電子機器が搭載されている。この電子機器は、トラクタ1を作動させるための機器であって、例えば、センサ(アクセルペダルセンサ、レバー検出センサ、クランク位置センサ、燃料センサ、水温センサ等)、スイッチ(イグニッションスイッチ、駐車ブレーキスイッチ、PTOスイッチ等)、表示パネル等で構成された表示装置、CPU等で構成された制御装置17、通信装置18、位置検出装置30、農業基地局50等である。これら複数の電子機器は、CAN、LIN、FlexRayなどの車両用通信ネットワークN1で接続されている。車両用通信ネットワークN1には、センサで検出された検出信号、スイッチの状態を示すスイッチ信号、制御装置17の制御によってトラクタ1の稼働する稼働部(例えば、エンジン、電磁弁、ポンプ等)を動作させるための指令信号(制御信号)、位置検出装置30で検出されたトラクタ1の位置データ(検出信号)等が出力される。なお、車両用通信ネットワークN1には、警告や故障などを知らせるための報知信号も出力される。
【0026】
制御装置17は、トラクタ1の走行系制御や作業系制御等を行うものである。制御装置17には、センサやスイッチ等が接続されており、センサで検出された検出信号やスイッチの状態を示すスイッチ信号は、制御装置17を介して車両用通信ネットワークN1に出力される。制御装置17は、走行系制御として、原動機4の動作やトラクタ1の自動操舵を制御する。制御装置17は、例えば、アクセルペダルを操作したときのアクセルペダルの操作量を検出するアクセルペダルセンサ、変速用のシフトレバーを操作したときのシフトレバー位置を検出するレバー検出センサ、クランク位置を検出するクランク位置センサ等の信号に基づいて、原動機4の回転数等を制御する。また、制御装置17は、例えば、位置検出装置30で検出されたトラクタ1の位置、走行車両3のロール角等に基づいて、自動操舵機構25を制御する。
【0027】
制御装置17は、作業系制御として、運転席の周囲に設けられた操作レバーや操作スイッチなどの操作具からの入力を受けると、入力値に従って連結部8の3点リンク機構の昇降、PTO推進軸14の出力(回転数)などの動作を制御する。具体的には、制御装置17は、例えば、連結部8の3点リンク機構を操作する操作レバーの操作量を検出するセンサ、及び、PTO推進軸14の回転数を設定する操作スイッチの位置を検出するセンサ等に基づいて、3点リンク機構の昇降、及び、PTO推進軸14の回転数を制御する。また、制御装置17は、センサ、スイッチ等の信号に基づいて、表示装置も制御する。例えば、表示装置に設けられた指針計の動き、LEDのオン/オフ、液晶表示部の表示等を制御する。トラクタ1の走行系制御や作業系制御を行うときの制御信号や制御を行うための各種検出信号は、トラクタ1の各部に伝達される。なお、制御装置17による走行系制御や作業系制御は、上述したものに限定されない。更に、制御装置17は、通信装置18によるデータ送受信も制御する。
【0028】
図2及び図3に示すように、通信装置18は、入出力部18aと、記憶部18bと、第1通信部18cとを備えている。入出力部18aには、上述の車両用通信ネットワークN1が接続されて、当該車両用通信ネットワークN1に流れるデータが入力される。また、入出力部18aには、記憶部18b及び第1通信部18cが接続されている。第1通信部18cが受信したデータや記憶部18bに保存されたデータは、入出力部18aを介して車両用通信ネットワークN1に出力される。記憶部18bは、不揮発性メモリ等から構成されていて、例えば、入出力部18aに入力された車両用通信ネットワークN1のデータや第1通信部18cが受信したデータを記憶する。また、記憶部18bには、通信装置18を識別するための識別情報が記憶されており、これにより、通信装置18を特定することができるようになっている。
【0029】
例えば、作業装置2として耕耘装置が連結されたトラクタ1が動作したときは、ロータリーの回転数、ロータリーの負荷、エンジン回転数、車速、耕深などのデータが、車両用通信ネットワークN1に出力される。入出力部18aには、ロータリーの回転数、ロータリーの負荷、エンジン回転数、車速、耕深などのトラクタ1が稼動したときのデータが入力され、これらのデータは記憶部18bに記憶される。
【0030】
また、作業装置2が肥料散布装置、農薬散布装置、播種散布装置である場合は、車速、エンジン回転数、散布量(肥料散布量、農薬散布量、播種散布量)などのデータが、車両用通信ネットワークN1上に出力される。入出力部18aには、車速、エンジン回転数、肥料散布量、農薬散布量、播種散布量などのトラクタ1が稼動したときのデータが入力され、これらのデータは記憶部18bに記憶される。或いは、作業装置2が収穫装置である場合は、車速、エンジン回転数、収穫量などのデータが、車両用通信ネットワークN1上に出力される。入出力部20には、車速、エンジン回転数、収穫量などのトラクタ1が稼動したときのデータが入力され、これらのデータは記憶部18bに記憶される。さらに、トラクタ1が稼動した時間である稼動累積時間(アワメータ)や、トラクタ1に搭載された機器の状態(例えば、異常の有無)も、車両用通信ネットワークN1上に出力される。入出力部18aには、稼動累積時間、機器の状態などのトラクタ1が稼動したときのデータが入力され、これらのデータは記憶部18bに記憶される。なお、トラクタ1が稼動したときのデータ(トラクタの稼働データ)は上述したものに限定されない。
【0031】
図3に示すように、第1通信部18cは、トラクタ1の稼動データを農作業に関するデータI1として、無線通信により携帯端末40に送信する。第1通信部18cでは、車両用通信ネットワークN1から受信したデータが、携帯端末40に送信する通信方式に変換されるようになっている。具体的には、トラクタ1が稼働すると、第1通信部18cは、稼動データ(農作業に関するデータI1を含む)を記憶部18bを介して取得し、通信方式を変換して、当該稼動データを携帯端末40に送信する。通信装置18と、携帯端末40との間における通信方式は限定されず、例えば、通信規格IEEE802.11シリーズであってもよいし、その他の通信方式であってもよい。
【0032】
また、キャビン9の上面9aの略中央部には、位置検出装置30が配置されている(図12参照)。位置検出装置30は、D-GPS、GPS等のGNSS、GLONASS、北斗、ガリレオ、みちびき等の衛星測位システム(測位衛星)により、自己の位置(緯度、経度を含む測位情報)を検出可能である。即ち、位置検出装置30は、測位衛星から送信された衛星信号(測位衛星の位置、送信時刻、補正情報等)を受信し、衛星信号に基づいて、トラクタ1の位置(例えば、緯度、経度)、即ち、車体位置を検出する。位置検出装置30は、受信部30aと、慣性計測部30bとを備えている。受信部30aは、アンテナ等を有していて、測位衛星から送信された衛星信号を受信する。慣性計測部30bは、加速度を検出する加速度センサ、角速度を検出するジャイロセンサ等を有している。慣性計測部30bにより、走行車両3のロール角、ピッチ角、ヨー角等を検出することができる。位置検出装置30により検出された各種データ(信号)は、制御装置17を介して車両用通信ネットワークN1に出力される。なお、本実施形態においては、位置検出装置30は、衛星測位システムにより位置を検出するようになっているが、これに限定されず、光学的手法(カメラ、LiDAR等)に基づいて、位置を検出するようにしてもよい。
【0033】
<携帯端末>
携帯端末40は、例えば、比較的演算能力の高いスマートフォン(多機能携帯電話)、タブレットPC、ノートPC、PDA等である。携帯端末40は、農作業時に農作業者が所持することとされていて、当該携帯端末40は各農作業者に割り当てられている。以降、説明の便宜上、農作業者のことを「作業者」といい説明を進めることがある。
【0034】
携帯端末40は、制御部40aと、記憶部40bと、第2通信部40cと、表示部40dとを備えている。制御部40aは、CPU等で構成されていて、記憶部40b、第2通信部40c、及び表示部40dの制御を行う。表示部40dは、タッチパネル等で構成されている。記憶部40bは、不揮発性メモリ等から構成されていて、例えば、第2通信部40cが受信したデータを記憶する。第2通信部40cは、トラクタ1の通信装置18から、無線通信を介して送信されるデータを受信する。また、第2通信部40cは、記憶部40bに記憶されたデータを、無線通信を介して、外部通信ネットワーク(外部ネットワーク)N2が含む固定基地局60に送信する。第2通信部40cでは、通信装置18から受信したデータが、固定基地局60に送信する通信方式に変換されるようになっている。具体的には、稼動データ(農作業に関するデータI1を含む)が通信装置18より送信されると、第2通信部40cにより、当該稼動データが受信されて、記憶部40bに記憶される。第2通信部40cは、当該稼動データを記憶部40bを介して取得し、通信方式を変換して、当該稼動データを固定基地局60に送信する。第2通信部40cは、例えば、第5世代通信システムにより、固定基地局60と通信を行う。このように、携帯端末40により、稼動データ(農作業に関するデータI1を含む)が、外部通信ネットワークN2が含む固定基地局60に向けて送信されるようになっている。
【0035】
また、携帯端末40により、農業機械に関するデータI2も、外部通信ネットワークN2が含む固定基地局60に向けて送信されるようになっている。制御部40aは、トラクタ1に対する設定データを作成する設定作成部40a1を備えている。この設定作成部40a1は、制御部40aに格納されたプログラム等で構成されている。農作業者等が表示部40dを操作することによって、設定データを作成するアプリケーションソフトウェアを起動すると、設定作成部40a1は、図4に示すように、設定データを作成する設定画面Q1を表示する。この設定作成部40a1は、設定対象となる機械情報(例えば、トラクタ、インプルメント等の農業機械に関するデータI2)を入力するための機械入力部40d1を設定画面Q1に表示する。機械入力部40d1には、機械情報として、例えば、農業機械の機種や型式、インプルメント(作業装置)の種類や型式などを入力することができる。設定作成部40a1は、設定データを送信する送信先を入力する送信先入力部40d2を設定画面Q1に表示する。送信先入力部40d2には、送信先を示す送信用識別情報(例えば、作業者名、メールアドレス、製造番号、機械情報)を入力することができる。
【0036】
設定作成部40a1は、設定値を入力するための設定入力部40d3を設定画面Q1に表示する。設定入力部40d3には、機械入力部40d1に入力された機械情報に基づく設定値を入力することができる。例えば、機械入力部40d1に、肥料散布装置に対応する機械情報が入力された場合は、設定入力部40d3には肥料散布量が設定値として入力でき機械入力部40d1に、農薬散布装置に対応する機械情報が入力された場合は、設定入力部40d3には農薬散布量が設定値として入力できる。また、例えば、機械入力部40d1に、コンバインに対応する機械情報が入力された場合には、予め用意された刈り方が設定値として入力できる。設定入力部40d3の設定値は、上述したものに限定されない。
【0037】
設定画面Q1において、設定データ(機械情報、送信用識別情報、設定値)が入力され、当該設定画面Q1に表示された「登録」ボタンが選択されると、設定作成部40a1は、設定画面Q1に入力された設定データ(機械情報、送信用識別情報、設定値)を記憶部40bに記憶する。設定画面Q1において設定データの作成後は、第2通信部40cによる設定データの送信が可能となる。設定作成部40a1による設定データの作成が完了すると、表示部40dに表示された「送信」ボタンの入力を制御部40aは受け付け、送信ボタンが押されると、第2通信部40cによる設定値の送信処理に進む。送信処理では、第2通信部40cは、記憶部40bに記憶された機械情報、送信用識別情報、設定値を読み出し、これらの設定データ(機械情報、送信用識別情報、設定値)を、無線通信にて、固定基地局60に送信する。
【0038】
<固定基地局>
図3に示すように、固定基地局60は、例えば、第5世代通信システムのための基地局であり、所定の位置に建設されている。固定基地局60は、電波の送受信を介して無線通信が可能となっており、所謂マクロセル基地局として機能してもよい。外部通信ネットワークN2には、固定基地局60の他に、サーバ70等も含まれる。固定基地局60は、外部通信ネットワークN2において、交換局、光ケーブル等を介して、サーバ70と接続されている。例えば、固定基地局60が受信したトラクタ1の稼動データや、携帯端末40の設定データを、外部通信ネットワークN2を介し、サーバ70に送信することができる。サーバ70側では、受信した各種データを整理することにより、作業日誌の作成の支援、メンテナンスの管理、異常発生の有無などを把握することができる。このように、トラクタ1、携帯端末40、及び、固定基地局60にて、通信システム100が構成されている。本実施形態では、固定基地局60は、第5世代通信システムのための基地局であるが、これに限らず、第4世代通信システム等、その他規格のシステムのための基地局であってもよい。
【0039】
<農業基地局>
さて、従来のデータ通信の態様としては、携帯端末40から固定基地局60に向けて、稼働データ(農作業に関するデータI1を含む)及び設定データ(農業機械に関するデータI2を含む)が送信されるようになっていた。即ち、携帯端末40及び固定基地局60の間に、直接的な無線通信が確立されて、上述のデータ通信が可能となる。ところで、図5に示すように、一般に、固定基地局60の電波が到達可能な境界Bは、各固定基地局60を中心として略円周状の輪郭をそれぞれ有する。境界Bの径方向の内側領域では、固定基地局60との無線通信が確立可能となる。一方、境界Bの外側領域では、無線通信の確立が困難となる。圃場Fにおいては、その面積が広大である等の場合に、何れの境界Bの内側領域にも属さない領域A1(図中の破線斜線部)が存在する可能性がある。圃場Fの領域A1においては、無線通信の確立が困難となり、上述の稼働データ及び設定データの送信が適切に行われ難い。
【0040】
圃場Fにおいては、トラクタ1及び携帯端末40(を所持している農作業者)がそれぞれ移動することで、上記領域A1に位置する可能性がある。より具体的には、図6(a)に示すように、トラクタ1及び携帯端末40が、境界Bの内側領域及び領域A1に、それぞれ位置する場合がある。また、図6(b)に示すように、トラクタ1及び携帯端末40が、両方とも領域A1に位置する場合がある。また、図6(c)に示すように、図6(a)とは逆の位置関係となる場合がある。これらのパターンにおいては、上述の稼働データ及び設定データの送信が適切に行われ難い、という課題が生じる。
【0041】
他方では、無線通信においては、通信量及び通信速度の更なる向上の要望に対し、第5世代通信システムが導入されつつある。本実施形態のように、農作業に関するデータI1及び農業機械に関するデータI2の通信においても、同様の要望があり、第5世代通信システムの導入は、好適なものと期待できる。しかしながら、第5世代通信システムのための固定基地局60は、第4世代通信システム等の従来のものに比して、無線通信のための電波が届き難いという特性を有する。第5世代通信システムの場合には、上述の課題が顕著となる。このため、例えば、圃場等で適切な送受信を可能とするためには、圃場近郊に固定基地局60を新たに建設し、上記領域A1を極力小さくする手段も考えられるが、多大なコスト及び時間を要するという問題が生じる。従って、固定基地局の新設に代わる手段により、圃場等で適切な無線通信を達成し得る技術が求められる。
【0042】
上記を鑑み、本実施形態のトラクタ1は、キャビン9の上面9aの略中央部に、農業基地局50を備えている(図12参照)。農業基地局50は、固定基地局60と携帯端末40との間における無線通信を確立するためのものであり、トラクタ1の走行車両3に搭載されている。即ち、農業基地局50は、固定基地局60とは別の移動基地局として機能する。農業基地局50は、第5世代通信システムの無線通信が可能なように、固定基地局60及び携帯端末40の両方と、それぞれ接続可能となっている。なお、本実施形態では、1つの農業基地局50に対し、複数の携帯端末40が接続可能となっている。
【0043】
図3に示すように、農業基地局50は、入力部50aと、制御部50bと、電波検出部50cと、記憶部50dと、スイッチ50eと、第3通信部50fとを備えている。入力部50aには、上述の車両用通信ネットワークN1が接続されて、位置検出装置30で検出されたトラクタ1の位置データが入力される。制御部50bは、CPU等で構成されていて、電波検出部50c、記憶部50d、スイッチ50e、及び、第3通信部50fの制御を行う。電波検出部50cは、固定基地局60から発振される電波を検出し、その電波強度を算出する。
【0044】
記憶部50dは、不揮発性メモリ等から構成されていて、データベース、ルックアップテーブル、携帯端末40との接続のためのSSID・暗号化キー等を格納するとともに、第3通信部50eが受信したデータを記憶する。記憶部50dに格納されるデータベースは、例えば、図7に示すように、複数の圃場(圃場A、圃場B、圃場C・・・)に対応する各位置データ(緯度・経度)、及び、複数の固定基地局60(基地局A、基地局B、基地局C・・・)の設置位置に対応する位置データ(緯度・経度)等を含み、記憶部50dに予め登録されており、制御部50bのCPUによりそれぞれ参照可能となっている。なお、圃場に対応する位置データ、及び、固定基地局60の設置位置に対応する位置データは、所定期間毎に登録更新されてもよい。
【0045】
記憶部50dに格納されるテーブルは、例えば、図8に示すように、固定基地局60の設置位置及びトラクタ1の位置の離間距離Dと、第3通信部50eの発振電波強度Pとの関係を予め規定したものであり、上記離間距離Dが引数となる。例えば、位置検出装置30で検出されたトラクタ1の位置L1からみて、上述したデータベースの中から、L1に最も近接する固定基地局60の位置L2を検索し、位置データL1,L2間の最短距離を、離間距離Dとして決定してもよい。このテーブルも、制御部50bのCPUにより参照可能となっており、発振電波強度Pは、離間距離Dが大きいほどより大きくなるよう決定される。決定された発振電波強度Pは、記憶部50dに、一時的に記憶される。
【0046】
スイッチ50eは、所定の条件が成立した場合に、農業基地局50の各機能を起動して作動させる。なお、農業基地局50等の電子機器は、トラクタ1に搭載されたバッテリの電力により作動する。スイッチ50eは、上記所定の条件が成立しない場合には、農業基地局50へのバッテリの電力を常時抑制し、農業基地局50の各機能をスタンバイ状態として、農業基地局50を実質的にオフにするようになっている。ここにおいて、所定の条件が成立した場合としては、例えば、位置検出装置30で検出されたトラクタ1の位置が、上記圃場に対応する位置(図7参照)の1つと一致する場合、又は、電波検出部50cで検出された固定基地局60の電波強度が、閾値以下の場合である。この閾値は、携帯端末40及び固定基地局60の間にて適切な無線通信が達成され得るための電波強度の下限値等であってもよく、例えば、0.01~0.8マイクロワット毎平方センチメートルとなるよう設定されてもよい。
【0047】
第3通信部50eは、複数の携帯端末40との無線通信を確立できるようになっている。複数の携帯端末40は、トラクタ1に対応する携帯端末40と、トラクタ1とは別の複数の農業機械に対応する携帯端末40とを含む。スイッチ50eにより農業基地局50が起動した場合、第3通信部50eは、SSIDを含むビーコンを複数の携帯端末40に送信し、複数の携帯端末40から受信した暗号化キーと、記憶部50dに格納される暗号化キーとの照合を行う。第3通信部50eは、照合が成立した携帯端末40のみに対し、無線通信の接続を許可するようになっている。
【0048】
携帯端末40の第3通信部50eとの接続数(接続可能な最大数)は、トラクタ1の位置に応じて決定される。具体的には、携帯端末40の第3通信部50eとの接続数は、上述のように決定される離間距離Dが大きいほど、より多くなるようにしてもよい。これは、離間距離Dが大きいほど、固定基地局60及び携帯端末40間での直接通信が難しくなる傾向があり、より多くの携帯端末40で農業基地局50を介した無線通信が要望されることに基づく。
【0049】
第3通信部50eは、接続を許可した携帯端末40から、無線通信を介して送信されるデータを受信する。また、第3通信部50eは、記憶部50dに記憶されたデータを、無線通信を介して、外部通信ネットワークN2が含む固定基地局60に送信する。第3通信部50eでは、携帯端末40から受信したデータが、固定基地局60に送信する通信方式に変換されるようになっている。具体的には、稼動データ(農作業に関するデータI1を含む)及び設定データ(農業機械に関するデータI2を含む)が携帯端末40より送信されると、第3通信部50eにより、当該稼動データ及び当該設定データが受信されて、記憶部50dに記憶される。第3通信部50eは、当該稼動データを記憶部50dを介して取得し、通信方式を変換して、当該稼動データ及び当該設定データを固定基地局60に送信する。第3通信部50eは、例えば、第5世代通信システムにより、携帯端末40及び固定基地局60と、それぞれ電波を介した無線通信を行う。
【0050】
第3通信部50eは、アンテナ、高周波発生装置等を含む電波発振部50e1を備えている。携帯端末40及び固定基地局60との無線通信に際し、電波発振部50e1から所定の電波が発振されるようになっている。電波発振部50e1のアンテナは、例えば、アクティブフェーズドアレイアンテナであり、マルチビーム多重化が可能な構成となっている。電波発振部50e1の高周波発生装置は、例えば、水晶発振素子や発振回路等を含むユニットであり、アンテナに対し高周波電流を印加可能となっている。電波発振部50e1より発振される電波は、例えば、3GPP TS 38.101等に規定される周波数帯を有しており、周波数として、6GHz帯以下のFR1や、ミリ波帯のFR2等が用いられてもよい。発振電波強度Pは、記憶部50dが備えるテーブルと、上述のように決定される離間距離Dと、に基づいて決定される(図8参照)。電波発振部50e1から発振される電波の強度が、上記決定される発振電波強度Pと同じになるよう、アンテナへの印加電流が制御される。
【0051】
このように、稼動データ(農作業に関するデータI1を含む)及び設定データ(農業機械に関するデータI2を含む)が、携帯端末40から農業基地局50を介して、外部通信ネットワークN2が含む固定基地局60に向けて送信されるようになっている。
【0052】
<実際の作動>
図9は、稼働データ及び設定データの無線通信における流れを示すフローチャートであり、トラクタ1及び携帯端末40の作動フローを示すものでもある。原動機4等を起動しトラクタ1を稼働させた状態において、まず、トラクタ1の通信装置18と携帯端末40との無線通信を確立する(S1)。農作業に関するデータI1を含む稼働データを、車両用通信ネットワークN1を経て、通信装置18の第1通信部18cから携帯端末40へ送信する(S2)。送信された稼働データを、携帯端末40の第2通信部40cで受信し、記憶部40bに記憶する(S3)。農業機械に関するデータI2を含む設定データを、携帯端末40の設定作成部40a1で作成し、記憶部40bに記憶する(S4)。
【0053】
トラクタ1の位置検出装置30にてトラクタ1の位置L1を検出し、検出されたトラクタ1の位置データを、車両用通信ネットワークN1に出力する(S5)。農業基地局50の電波検出部50cにて、固定基地局60の電波強度を検出する(S6)。農業基地局50の制御部50bは、記憶部50dに登録されている圃場の位置についてのデータベースにおいて、検出されたトラクタ1の位置L1と一致する位置があるか否かを判定するとともに、検出された電波強度が閾値以下であるか否かを判定する(S7)。S7における何れかの条件が成立した場合、「Yes」と判定されて、農業基地局50のスイッチ50eにより、農業基地局50を起動する(S8)。
【0054】
図5に対応する図10に示すように、トラクタ1が圃場Fに位置する場合、トラクタ1の農業基地局50が起動する。これにより、農業基地局50から、無線通信のための電波が発振されることになる。農業基地局50の電波が到達可能な境界B1は、農業基地局50を中心として略円周状の輪郭をそれぞれ有する。境界B1の内側領域では、農業基地局50との無線通信が確立可能となる。境界B1の内側領域は、上述した領域A1に重なるように位置する。このため、固定基地局60の境界Bの内側領域に加え、農業基地局50の境界B1の内側領域にて、無線通信が確立可能な範囲を拡大できる。換言すると、固定基地局60の電波到達が困難な領域(即ち、領域A1)を、農業基地局50にてカバーできる。
【0055】
より具体的には、図6(a)~(c)に対応する図11(a)~(c)に示すように、圃場Fにおいて、トラクタ1及び携帯端末40が種々の位置関係にある場合においても、無線通信の確立が可能となる。図11(a)~(c)に示すように、領域A1に位置していた携帯端末40及び/又はトラクタ1は、境界B1の内側領域に包含される。この結果、境界B,B1の何れかの内側領域には位置できるため、これらのパターンにおいても、上述の稼働データ及び設定データの送信を適切に行うことができる。なお、農業基地局50の発振電波強度の決定、携帯端末40との接続は、以下のように実行される。
【0056】
農業基地局50の制御部50bは、記憶部50dに登録されている固定基地局60の位置についてのデータベースにおいて、上記検出されたトラクタ1の位置L1に、最も近接している固定基地局60の位置L2を検索し、位置L1及びL2から離間距離Dを決定する(S9)。決定された離間距離Dと、記憶部50dが備えるテーブルとに基づいて、発振電波強度Pを決定するとともに、決定された離間距離Dに基づいて、第3通信部50fに接続可能な携帯端末40の最大数を決定する(S10)。農業基地局50の第3通信部50fから携帯端末40に向けてビーコンを送信し、携帯端末40から受信した暗号キーを照合することで、第3通信部50fと携帯端末40との無線通信を確立する。なお、上記決定された接続可能な最大数を超えて、携帯端末40からアクセス試行があった場合には、その無線通信の確立は規制される(S11)。
【0057】
農業基地局50との無線通信が確立されているか否かを判定する(S12)。S12における条件が成立した場合、「Yes」と判定されて、携帯端末40の記憶部40bに記憶されている稼働データ及び設定データを、第2通信部40cから農業基地局50へ送信する(S13)。送信された稼働データ及び設定データを、農業基地局50の第3通信部50fで受信し、記憶部50dに記憶する(S14)。S10にて決定された発振電波強度Pの電波を、第3通信部50fのアンテナから発振することで、記憶部50dに記憶されている稼働データ及び設定データを、第3通信部50fから固定基地局60へ送信する(S15)。一方、上記S7における何れの条件も成立しない場合、S7にて「No」と判定されて、農業基地局50が起動されない。このため、上記S12における条件が成立せず、S12にて「No」と判定されて、携帯端末40の記憶部40bに記憶されている稼働データ及び設定データを、第2通信部40cから固定基地局60へ送信する(S16)。
【0058】
<変形例1:農業基地局>
農業基地局50は、移動可能な移動基地局として機能するようになっている。移動基地局としての規模は、何れのスケールでもよく、例えば、農業基地局50は、マクロセル基地局であってもよいし、マクロセル基地局を補完するスモールセル(マイクロセル、ナノセル、ピコセル等を含む)基地局であってもよい。農業基地局50が、例えば、スモールセル基地局である場合、本実施形態の固定基地局60がマクロセル基地局として機能する。従って、農業基地局50にてカバーする規模は、固定基地局60よりも小さくなる。一方で、例えば、農業基地局50によるスモールセルのクラスタを形成してもよく、圃場において、多数の無線通信機器(携帯端末40等)に対し、適切な無線通信を確立することができる。この場合、電波干渉が抑制されると好適である。このため、農業基地局50のアンテナとして、例えば、ビームフォーミングが可能なものが用いられると好適であり、具体的には、256素子のMassive MINOアンテナ等であってもよい。また、固定基地局60のマクロセルの傘下に、農業基地局50のスモールセルを重ね合わせてもよい。この場合、マクロセル及びスモールセルの間で、共通の周波数を用いてもよい。また、固定基地局60のマクロセルの傘下に、農業基地局50のスモールセルを重ね合わせなくてもよい。この場合、マクロセル及びスモールセルの間で、使用する周波数を異ならせてもよい。
【0059】
<変形例2:農業基地局>
農業基地局50の制御部50bは、検出されたトラクタ1の位置L1及び固定基地局60の建設位置L2により離間距離Dを決定し、決定された離間距離Dと、離間距離D及び発振電波強度Pの関係を予め規定したテーブル(図8参照)とに基づいて、発振電波強度Pを決定していた。これに代えて、例えば、トラクタ1の位置L1及び発振電波強度Pの関係を予め規定したテーブルを、記憶部50dに格納しておき、検出されたトラクタ1の位置L1と、上記テーブルとに基づいて、発振電波強度Pが決定されてもよい。
【0060】
<変形例3:農業基地局>
携帯端末40の第3通信部50eとの接続数は、上述のように決定される離間距離Dが大きいほど、より多くなるよう決定していた。これに代えて、例えば、上記接続数は、上記離間距離Dが大きいほど、より少なくなるよう決定してもよい。これは、上記離間距離Dが大きいほど、農業基地局50の電波が固定基地局60に届き難くなる傾向があり、携帯端末40との接続数を絞って、データ送信を確実に行うことに基づく。
<変形例4:農業基地局>
農業基地局50の制御部50bは、記憶部50dに登録されている圃場の位置についてのデータベースにおいて、検出されたトラクタ1の位置L1と一致する位置があると判定した場合、スイッチ50eにより、農業基地局50を起動していた。これに代えて、例えば、トラクタ1が圃場に位置した場合に、作業者により農業基地局50を起動するようにしてもよい。
【0061】
<変形例5:農業基地局>
農業基地局50では、稼働データ(農作業に関するデータI1を含む)及び設定データ(農業機械に関するデータI2を含む)を一旦、記憶部50dにて記憶して、当該記憶部50d内の稼動データ及び設定データを第3通信部50eを介して固定基地局60に送信していた。これに代えて、例えば、第3通信部50eは、受信した稼動データ及び設定データを記憶部50dを介さずに直接取得して、固定基地局60に送信してもよい。
【0062】
<変形例6:携帯端末>
携帯端末40は、農業基地局50を介して、稼働データ(農作業に関するデータI1を含む)及び設定データ(農業機械に関するデータI2を含む)の両方を、固定基地局60に送信するようになっていた。これに代えて、例えば、稼働データ及び設定データのうち、何れか一方のみが、農業基地局50を介して固定基地局60に送信するようにしてもよい。
【0063】
<変形例7:携帯端末>
携帯端末40では、稼働データ(農作業に関するデータI1を含む)を一旦、記憶部40bにて記憶して、当該記憶部40b内の稼動データを第2通信部40cを介して固定基地局60に向けて送信していた。これに代えて、例えば、第2通信部40cは、受信した稼動データを記憶部40bを介さずに直接取得して固定基地局60に向けて送信してもよい。
【0064】
<変形例8:携帯端末>
携帯端末40では、設定データ(農業機械に関するデータI2を含む)を一旦、記憶部40bにて記憶して、当該記憶部40b内の稼動データを第2通信部40cを介して固定基地局60に向けて送信していた。これに代えて、例えば、記憶部40bに記憶せず、設定画面Q1に「送信ボタン」を表示して、この送信ボタンが押されたときに、第2通信部40cは設定画面Q1に入力された設定データを、固定基地局60に向けて送信してもよい。
【0065】
<変形例9:トラクタ>
トラクタ1の連結部8は、作業装置2が着脱可能なように、3点リンク機構を含む機構で構成されていた。これに代えて、例えば、連結部8がドローバを含む機構で構成されてもよい。
【0066】
<変形例10:トラクタ>
トラクタ1の通信装置18では、稼働データ(農作業に関するデータI1を含む)を一旦、記憶部18bに記憶して、当該記憶部18b内の稼動データを第1通信部18cを介して携帯端末40に送信していた。これに代えて、例えば、第1通信部18cは、入出力部18aに入力された稼動データを記憶部18bを介さずに直接取得して、携帯端末40に送信してもよい。
【0067】
<まとめ>
トラクタ1は、圃場で農作業を行う農業機械である。農作業に関するデータI1及び農業機械に関するデータI2が、携帯端末40から外部通信ネットワークN2が含む固定基地局60に向けて送信される。トラクタ1は、少なくとも携帯端末40及び固定基地局60のいずれかに接続可能な農業基地局50を有する。これによれば、農業基地局50を介することで、例えば、固定基地局60及び携帯端末40の間における直接通信が困難な場合であっても、農作業に関するデータI1、農業機械に関するデータI2を、固定基地局60に確実に送信することができる。
【0068】
トラクタ1は、作業装置が連結可能な連結装置を含む走行車両3を更に備え、農業基地局50は、走行車両3に設けられている。これによれば、農業基地局50は、走行車両3と一体的に移動する。従って、農業基地局50を、移動可能な移動基地局として機能させることができる。
【0069】
農業基地局50は、トラクタ1の位置L1が圃場である場合に作動する。これによれば、固定基地局60及び携帯端末40の間における直接通信が困難な場合として、トラクタ1が圃場に位置する場合であっても、農作業に関するデータI1、農業機械に関するデータI2を、固定基地局60に確実に送信することができる。
【0070】
農業基地局50は、携帯端末40との接続、及び、固定基地局60との接続を、電波を介して行い、トラクタ1の位置L1に応じて、発振電波強度Pを変更する。これによれば、トラクタ1の位置L1が何れにある場合でも、通信可能な発振電波強度Pをもって、携帯端末40、固定基地局60との接続を確立することができる。
【0071】
農業基地局50は、複数の携帯端末40と接続可能であり、トラクタ1の位置L1に応じて、少なくとも携帯端末40に接続する接続数を変更する。これによれば、トラクタ1の位置L1が何れにある場合でも、携帯端末40の接続数を適切な数に調整でき、固定基地局60へのデータ送信をより確実なものとすることができる。
【0072】
農業基地局50は、トラクタ1の位置L1における固定基地局60の電波強度が閾値以下である場合に作動する。これによれば、固定基地局60及び携帯端末40の間における直接通信が困難な場合として、固定基地局60の電波強度が閾値以下である場合であっても、農作業に関するデータI1、農業機械に関するデータI2を、固定基地局60に確実に送信することができる。
【0073】
通信システム100は、圃場で農作業を行うトラクタ1の通信システムであって、外部通信ネットワークN2が含む固定基地局60と、固定基地局60に向けて、農作業に関するデータI1及び農業機械に関するデータI2を送信する携帯端末40と、携帯端末40及び固定基地局60に接続可能な農業基地局50と、を備えている。これによっても、農業基地局50を介することで、例えば、固定基地局60及び携帯端末40の間における直接通信が困難な場合であっても、農作業に関するデータI1、農業機械に関するデータI2を、固定基地局60に確実に送信することができる。
【0074】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
1 :トラクタ
2 :作業装置
3 :走行車体
4 :原動機
8 :連結部
17 :制御装置
18 :通信装置
18b :記憶部
18c :第1通信部
30 :位置検出装置
40 :携帯端末
40a :制御部
40b :記憶部
40c :第2通信部
50 :農業基地局
50b :制御部
50c :電波検出部
50d :記憶部
50e :スイッチ
50f :第3通信部
60 :固定基地局
A1 :領域
B :境界
B1 :境界
D :離間距離
F :圃場
I1 :農作業に関するデータ
I2 :農業機械に関するデータ
L1 :トラクタの位置
L2 :固定基地局の位置
N1 :車両用通信ネットワーク
N2 :外部通信ネットワーク
P :発振電波強度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12