(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】吸着用部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20241107BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241107BHJP
C04B 35/117 20060101ALI20241107BHJP
C04B 37/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
H01L21/68 P
H01L21/304 622H
C04B35/117
C04B37/00 A
(21)【出願番号】P 2021124956
(22)【出願日】2021-07-30
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 万平
(72)【発明者】
【氏名】吉村 哲
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-072266(JP,A)
【文献】特開2009-224402(JP,A)
【文献】特開2020-147489(JP,A)
【文献】特開2012-178447(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0282526(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H01L 21/304
C04B 35/117
C04B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着体を吸着および保持するための吸着面を有する吸着部と、
前記吸着部を装着するための凹部および前記吸着面を囲繞する環状面を有する支持部と、
を含み、
前記吸着部の外周面上端部と前記支持部の内周面上端部との間に、前記吸着部と前記支持部とを接合する第1層が位置し、
前記吸着部の外周面の少なくとも一部は、前記吸着部の外周上方に向かって広がる傾斜面であり、前記第1層は前記傾斜面に隣接している、
吸着用部材。
【請求項2】
前記吸着部の軸心と前記傾斜面とのなす角度は、11°以上21°以下である、請求項
1に記載の吸着用部材。
【請求項3】
前記第1層が、多孔質セラミックスで形成されている、請求項1
または2に記載の吸着用部材。
【請求項4】
前記第1層は、前記吸着部の裏面から前記吸着面に向かって連続している、請求項1~
3のいずれかに記載の吸着用部材。
【請求項5】
前記支持部の内底面と前記吸着部の裏面との間に、前記吸着部と前記支持部とを接合する第2層を有し、
該第2層の厚みは、前記第1層の幅よりも大きい、
請求項1~
4のいずれかに記載の吸着用部材。
【請求項6】
前記第2層の前記吸着部の軸心における厚みは、2mm以上4mm以下である、請求項
5に記載の吸着用部材。
【請求項7】
前記吸着部および前記第2層の少なくとも一方は、多孔質セラミックスで形成されており、
該多孔質セラミックスの結晶粒子の重心間距離の平均値から前記結晶粒子の円相当径の平均値を差し引いた値が、10μm以上40μm以下である、
請求項
5または6に記載の吸着用部材。
【請求項8】
前記支持部は、0.1面積%以下の閉気孔率を有するセラミックスで形成されている、請求項1~
7のいずれかに記載の吸着用部材。
【請求項9】
前記支持部は、ガラス成分を0.5質量%以下の割合で含有するセラミックスで形成されている、請求項1~
8のいずれかに記載の吸着用部材。
【請求項10】
被吸着体を吸着および保持するための吸着面を有する吸着部、前記吸着部を装着するための凹部および前記吸着面を囲繞する環状面を有する支持部を準備する工程と、
前
記支持部の内底面および前記吸着部の裏面の少なくとも一方に、ガラス成分を含むスラリーを塗布する工程と、
前記凹部に前記吸着部を収納して、前記支持部の下方から振動を付与する工程と、
前記支持部と前記吸着部とを、前記スラリーによって接合するための熱処理を行う工程と、
前記支持部および前記吸着部の前記被吸着体を吸着および保持する側に、研削および研磨の少なくとも一方を施して、前記吸着面と前記環状面とを形成する工程と、
を含む、
吸着用部材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれかに記載の吸着用部材を含む、加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸着用部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエハなどの被吸着体を固定する装置として、例えば特許文献1には、緻密質セラミックス体からなる支持部の凹部に、半導体ウエハを載置する載置部が設けられた真空吸着装置が記載されている。この載置部は、多孔質セラミックス体からなる。載置部の反対側から半導体ウエハを吸引することにより、半導体ウエハを載置部に固定することができる。このような真空吸着装置は、例えば、次のようにして得られる。まず、支持部の凹部を形成する内底面にガラスペーストを塗布した後、多孔質体からなる載置部を凹部にはめ込む。次いで、ガラスペーストを溶融して冷却し固化させる。このようにして、支持部と載置部とを接合することによって得られる。
【0003】
このような従来の真空吸着装置は、載置部の載置面と載置面を取り囲む支持部の環状面との間に隙間が生じやすい。そのため、載置部に吸着した被吸着体の表面を、精度よく加工することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の課題は、吸着面に吸着して保持した被吸着体の表面を高精度で加工することができる吸着用部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る吸着用部材は、被吸着体を吸着および保持するための吸着面を有する吸着部と、吸着部を装着するための凹部および吸着面を囲繞する環状面を有する支持部とを含む。吸着部の外周面上端部と支持部の内周面上端部との間に、吸着部と支持部とを接合する第1層が位置している。
【0007】
本開示に係る吸着用部材の製造方法は、被吸着体を吸着および保持するための吸着面を有する吸着部、吸着部を装着するための凹部および吸着面を囲繞する環状面を有する支持部を準備する工程と;支持部の内底面および吸着部の裏面の少なくとも一方に、ガラス成分を含むスラリーを塗布する工程と;凹部に吸着部を収納して、支持部の下方から振動を付与する工程と;支持部と吸着部とを、スラリーによって接合するための熱処理を行う工程と;支持部および吸着部の被吸着体を吸着および保持する側に、研削および研磨の少なくとも一方を施して、吸着面と環状面とを形成する工程とを含む。
【0008】
本開示に係る加工装置は、上記の吸着用部材を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る吸着用部材は、吸着部の外周面と支持部の内周面との間に、吸着部と支持部とを接合する第1層が位置している。そのため、吸着面と環状面との間に生じやすい凹みが抑制される。したがって、本開示に係る吸着用部材によれば、吸着面に吸着して保持した被吸着体の表面を高精度で加工することができる。
【0010】
さらに、本開示に係るセラミックス接合体の製造方法によれば、吸着面に吸着して保持した被吸着体の表面を高精度で加工することができる吸着用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態に係る吸着用部材を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すX-X線で切断した際の断面を示す断面図である。
【
図3】
図2に示す領域Yを説明するための拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示に係るセラミックス接合体は、上記のように、被吸着体を吸着および保持するための吸着面を有する吸着部と、吸着部を装着するための支持部とを含む。本開示に係る吸着用部材を、
図1~3に基づいて説明する。
【0013】
本開示の一実施形態に係る吸着用部材1は、
図1および2に示すように、吸着部11が、支持部12の凹部12aに収納されるように位置している。
図1は、一実施形態に係る吸着用部材1を示す斜視図である。
図2は、
図1に示すX-X線で切断した際の断面を示す断面図である。
【0014】
吸着部11は、例えば、多孔質セラミックスなどのようなセラミックスで形成されていれば限定されない。吸着部11を形成しているセラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウムなどの酸化物、炭化ケイ素などの炭化物、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの窒化物などを含むセラミックスが挙げられる。本明細書において「多孔質」とは、セラミックスの断面における閉気孔の面積比率が10%より大きい状態を意味する。
【0015】
具体的には、酸化アルミニウムなどの酸化物、炭化ケイ素などの炭化物、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの窒化物などを主成分とするセラミックスが挙げられる。吸着部11が酸化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなる場合、その他の成分は、ガラス成分であり、例えば、珪素、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカルシウムの少なくともいずれかを含む酸化物である。
【0016】
本明細書において「主成分」とは、セラミックスを構成する成分の合計を100質量%とした場合に、65質量%以上の割合で含まれる成分を意味する。セラミックスに含まれる各成分の同定は、CuKα線を用いたX線回折装置で行い、各成分の含有量は、例えばICP(InductivelyCoupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置により求めればよい。
【0017】
吸着部11の形状および大きさは限定されず、得られる吸着用部材1の用途や被吸着体の形状に応じて適宜設定される。吸着部11は、平面視した場合、
図1に示すように円形状を有している。しかし、吸着部11の形状は円形状に限定されず、例えば、楕円形状または多角形状(三角形状、四角形状、五角形状、六角形状など)を有していてもよい。多角形状の場合、正多角形でもよく、不等辺多角形であってもよい。
【0018】
吸着部11の大きさは限定されず、例えば、直径が10mm以上600mm以下であってもよい。吸着部11が楕円形状の場合、長径および短径のいずれもが、このような範囲であればよい。吸着部11が多角形状の場合、1辺の長さは、例えば10mm以上600mm以下である。吸着部11の厚みは、例えば、1mm以上50mm以下である。
【0019】
吸着部11は、吸着面11aおよび吸着面11aの反対側に位置する裏面11bを有する。一実施形態に係る吸着用部材1において、吸着面11aが基板などの被吸着体を吸着する吸着面となる。一方、裏面11bは、吸着部11を、後述する支持部12の凹部12aに収納した際に、支持部12の内底面と対向する面となる。
【0020】
支持部12は、吸着部11を収納するための部材である。支持部12は、例えば、緻密質セラミックスなどのようなセラミックスで形成されていれば限定されない。緻密質セラミックスは、多孔質セラミックスと比べて、機械的強度、熱伝導、気密性などに優れ、吸着部11を収納する支持部12として好適である。支持部12を形成しているセラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウムなどの酸化物、炭化ケイ素などの炭化物、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの窒化物などを含むセラミックスが挙げられる。具体的には、酸化アルミニウムなどの酸化物、炭化ケイ素などの炭化物、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの窒化物などを主成分とするセラミックスが挙げられる。
【0021】
支持部12を形成しているセラミックスの主成分は、吸着部11を形成しているセラミックスの主成分と同じでもよく、異なっていてもよい。本明細書において「緻密質」とは、セラミックスの断面における閉気孔の面積比率が10%より小さい状態を意味する。
【0022】
閉気孔の面積比率(閉気孔率(面積%))は、以下の方法によって測定される。まず、セラミックスの断面を鏡面研磨して得られる表面を500倍の倍率で観察する。具体的には、以下の手順で研磨する。
(1)第1研磨:平均粒径D50が45μmのダイヤモンド砥粒を用いたダイヤモンドディスクによる研磨
(2)第2研磨:平均粒径D50が3μmのダイヤモンド砥粒を用いた銅板による研磨
(3)第3研磨:平均粒径D50が0.5μmのダイヤモンド砥粒を用いた錫板による研磨
【0023】
観察した表面のうち、平均的な範囲を選択して、例えば、面積が1.06×106μm2(横方向の長さが1190μm、縦方向の長さが890μm)となる範囲を走査型電子顕微鏡で撮影して、倍率が100倍の観察像を得る。この観察像を対象として、画像解析ソフト「A像くん(ver2.52)」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製)を用いて、粒子解析という手法で閉気孔の面積率を求めればよい。以下、画像解析ソフト「A像くん」と記載した場合、旭化成エンジニアリング(株)製の画像解析ソフトを示す。
【0024】
この手法の設定条件としては、例えば、画像の明暗を示す指標であるしきい値を91、明度を暗、小図形除去面積を1μm2、雑音除去フィルタを有とすればよい。観察像の明るさに応じて、しきい値は調整すればよい。明度を暗、2値化の方法を手動とし、小図形除去面積を1μm2および雑音除去フィルタを有とした上で、観察像に現れるマーカーが閉気孔の形状と一致するように、しきい値を調整すればよい。
【0025】
支持部12の形状および大きさは限定されず、得られる吸着用部材1の用途や、吸着部11の形状に応じて適宜設定される。支持部12は、平面視した場合、
図1に示すように円形状を有している。しかし、支持部12の形状は円形状に限定されず、例えば、楕円形状または多角形状(三角形状、四角形状、五角形状、六角形状など)を有していてもよい。多角形状の場合、正多角形でもよく、不等辺多角形であってもよい。
【0026】
支持部12には、吸着部11を収納するための凹部12aが形成されている。凹部12aは、吸着部11の形状および大きさに応じて形成されている。支持部12の内底面12a1、すなわち、吸着部11の裏面11bと対向する面には、
図2に示すように、吸引溝14が設けられている。支持部12の内部には、吸引溝14を介して支持部12の下面に接続する吸引孔15が設けられる。吸引孔15は、真空ポンプなどの吸引源(不図示)に連通されている。吸引孔15は、吸引源を作動させることで、空気を吸引する経路となり、吸引溝14および吸着部11を介して被吸着体を吸着保持する。
【0027】
吸着部11と支持部12とは、第1層131を介して接合されている。具体的には、吸着部11の外周面11c上端部と支持部12の内周面12a2上端部との間に位置している第1層131を介して、吸着部11と支持部12とが接合されている。一実施形態に係る吸着用部材1は、このような構成を有することによって、吸着部11の吸着面11aと支持部12の環状面12bとの間に生じやすい凹みが抑制される。したがって、一実施形態に係る吸着用部材1によれば、吸着部11の吸着面11aに吸着して保持した被吸着体の表面を、高精度で加工することができる。支持部12の環状面12bとは、支持部12の凹部12aを囲繞している壁部の頂部を意味する。
【0028】
第1層131は、例えば、多孔質セラミックスなどのようなセラミックスで形成されている。このようなセラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウムなどの酸化物、炭化ケイ素などの炭化物、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの窒化物などを含むセラミックスが挙げられ、必要に応じてガラス成分を含んでいてもよい。
【0029】
第1層131が酸化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなる場合、その他の成分は、ガラス成分であり、例えば、珪素、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカルシウムの少なくとも1種を含む酸化物である。
【0030】
第1層131を形成する酸化アルミニウムの結晶粒子は、ガラス成分によって結合されている。酸化アルミニウムの結晶粒子は、ガラス成分よりもチタンを多く固溶しており、結晶粒子に含まれるチタンの固溶量は、各結晶粒子に含まれる元素の合計を100質量%とすると、例えば、1質量%以上5質量%以下である。結晶粒子に含まれるチタンの固溶量は、波長分散型特性X線分析装置(WDS)を用い、結晶粒子に照射する電子の加速電圧は15kvとして計測すればよく、必要に応じて加速電圧を上げればよい。
【0031】
第1層131は、吸着部11の裏面11b側から吸着面11a側まで連続しているのがよい。連続しているとは、吸着部11の裏面11b側から吸着面11a側までの間で、第1層131に途切れている部分が無い(断続的で無い)ことを意味する。第1層131が連続していることによって、第1層131を介して吸着部11と支持部12との接合面積をより広くすることができる。その結果、振動、温度上昇などの外的要因が負荷されても、吸着用部材1全体として高い剛性を維持することができる。第1層131は、連続を妨げない限り、内部に空隙を含んでいていてもよい。
【0032】
吸着部11の外周面11cの少なくとも一部は、吸着部11の外周上方に向かって広がる傾斜面であってもよい。吸着部11の外周面11cの少なくとも一部が、このような傾斜面であると、第1層131は傾斜面に隣接するように位置することになる。そのため、第1層131を介しての吸着部11と支持部12との接合面積をより広くすることができる。その結果、振動、温度上昇などの外的要因が負荷されても、吸着用部材1全体として高い剛性を維持することができる。
【0033】
「少なくとも一部が傾斜面」とは、吸着部11の厚み方向、すなわち吸着部11の裏面11bから吸着部11の吸着面11aまで、必ずしも傾斜していなくてもよいことを意味する。具体的には、吸着部11の裏面11bから吸着部11の吸着面11aまで傾斜面であってもよく、吸着部11の裏面11bから吸着部11の厚み方向の途中まで傾斜面であってもよい。
【0034】
傾斜面の角度は限定されない。例えば、
図3に示すように、吸着部11の軸心(
図3に記載のL)と傾斜面である外周面11cとのなす角度θが11°以上21°以下であってもよい。傾斜面の角度が11°以上であると、第1層131の体積を増加させることができる。そのため、吸着部11と支持部12との接合強度をより向上させることができる。一方、傾斜面の角度が21°以下であると、第1層131内に大きな空隙が残りにくくなる。そのため、吸着部11と支持部12との接合強度をより向上させることができる。
【0035】
一実施形態に係る吸着用部材1において、吸着部11と支持部12とは、さらに第2層132を介して接合されている。具体的には、第2層132は、凹部12aの底面12a1と吸着部11の裏面11bとの間に位置している。第2層132の厚みは、第1層131の幅よりも大きい方がよい。第2層132の厚みを厚くすることによって、支持部12の下方側から高圧の流体を供給して、例えば吸着部11を洗浄しても、吸着部11が支持部12から外れにくくなる。さらに、第1層131の幅の方を狭くすることによって、吸着部11の吸着面11aと支持部12の環状面12bとの間に生じやすい凹みが抑制されやすくなる。
【0036】
第2層132は第1層131と同様に、多孔質セラミックスなどのようなセラミックスで形成されている。第1層131と第2層132とは、同じセラミックスで形成されていてもよく、異なるセラミックスで形成されていてもよい。第2層132の厚みは限定されず、例えば2mm以上4mm以下であってもよい。第2層132が2mm以上の厚みを有していると、支持部12に対する厚み方向の吸着部11の接合強度を、より向上させることができる。一方、第2層132が4mm以下の厚みを有していると、第2層132内に空隙が残りにくくなる。そのため、吸着部11と支持部12との接合強度をより向上させることができる。第2層132の軸心における厚みよりも外周側における厚みが大きい場合、第2層132の厚みは、第2層132の軸心における厚みとすればよい。
【0037】
吸着部11および第2層132の少なくとも一方は、例えば、多孔質セラミックスで形成されていてもよい。多孔質セラミックスの結晶粒子の重心間距離の平均値から結晶粒子の円相当径の平均値を差し引いた値は限定されず、例えば、10μm以上40μm以下であってもよい。この値が10μm以上であれば、被吸着体を吸引する場合、隣り合う結晶粒子の間隔が大きくなる。そのため、通気抵抗をより少なくすることができる。一方、この値が40μm以下であれば、浮遊する大きなパーティクルが多孔質セラミクスの気孔内に侵入しにくくなる。その結果、大きなパーティクルが気孔内で固着しにくく、圧力損失の上昇が低減する。
【0038】
具体的には、吸着部11および第2層132の少なくとも一方が、酸化アルミニウムを主成分とする多孔質セラミックスで形成されており、酸化アルミニウムの結晶粒子の重心間距離の平均値から結晶粒子の円相当径の平均値を差し引いた値が、10μm以上40μm以下であるのがよい。
【0039】
結晶粒子の重心間距離の平均値から結晶粒子の円相当径の平均値を差し引いた値を求めるには、まず、上述した鏡面研磨によって得られた表面のうち、平均的な範囲を選択して、例えば、面積が8.37×105μm2(横方向の長さが1060μm、縦方向の長さが790μm)となる範囲を走査型電子顕微鏡で撮影して、倍率が200倍の観察像を得る。この観察像の結晶粒子は、後述する画像解析を容易にするために、画像処理により、例えば、黄色に着色される。
【0040】
結晶粒子の重心間距離を求めるには、上記観察像を対象として、画像解析ソフト「A像くん」を用いて、分散度計測の重心間距離法という手法を用いればよい。この手法の設定条件としては、例えば、画像の明暗を示す指標であるしきい値を152、明度を明、小図形除去面積を1μm2、雑音除去フィルタを有とすればよい。観察像の明るさに応じて、しきい値は調整すればよい。明度を明、2値化の方法を手動とし、小図形除去面積を1μm2および雑音除去フィルタを有とした上で、観察像に現れるマーカーが結晶粒子の形状と一致するように、しきい値を調整すればよい。
【0041】
結晶粒子の円相当径を求めるには、上記観察像を対象として、画像解析ソフト(例えば、三谷商事(株)製、Win ROOF)を用いて解析すればよい。解析するに当たり、円相当径の閾値は、17μmとし、1.7μm未満の円相当径は平均値の算出の対象とはしない。
【0042】
支持部12は、0.1面積%以下の閉気孔率を有するセラミックスで形成されていてもよい。吸着部11に接続する流路(吸引溝14および吸引孔15)を支持部12内に設けても、閉気孔が少ないため、吸引溝14や吸引孔15を形成している内壁面からの脱粒を低減することができる。
【0043】
さらに、支持部12は、ガラス成分を0.5質量%以下の割合で含んでいてもよい。吸着部11に接続する吸引溝14や吸引孔15を支持部12内に設けても、結晶粒子同士を結合するガラス成分が少ないため、吸引溝14や吸引孔15を形成している内壁面からのガラス成分の脱離を低減することができる。具体的には、支持部12は、99.5質量%以上の酸化アルミニウムと0.5%質量%以下のガラス成分とを含むセラミックスで形成されていてもよい。支持部12に含まれるガラス成分は、特に、0.3質量%以下の割合で含んでいるとよい。
【0044】
支持部12が酸化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなる場合、ガラス成分とは、例えば、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムおよび珪素の少なくともいずれかを含む酸化物である。
【0045】
次に、本開示の吸着用部材を製造する方法を説明する。本開示の一実施形態に係る吸着用部材1の製造方法は、下記の工程(a)~(e)を含む。
(a)被吸着体を吸着および保持するための吸着面を有する吸着部、吸着部を装着するための凹部および吸着面を囲繞する環状面を有する支持部を準備する工程。
(b)凹部の底面および吸着部の裏面の少なくとも一方に、ガラス成分を含むスラリーを塗布する工程。
(c)凹部に吸着部を載置して、支持部の下方から振動を付与する工程。
(d)支持部と吸着部とをスラリーによって接合するための熱処理を行う工程。
(e)支持部および吸着部の被吸着体を吸着および保持する側に、研削および研磨の少なくとも一方を施して、吸着面と環状面とを形成する工程。
【0046】
工程(a)は、被吸着体を吸着および保持するための吸着面11aを有する吸着部11と、吸着部11を装着するための凹部12aおよび吸着面11aを囲繞する環状面12bを有する支持部12とを準備する工程である。吸着部11および支持部12の製造方法については以下の通りである。
【0047】
吸着部11を得るには、まず、平均粒径D50が50μm以上250μm以下である酸化アルミニウム粉末、平均粒径D50が4μm以上40μm以下であるガラス粉末、水およびバインダーを混合する。ここで、酸化アルミニウム粉末100質量部に対する、ガラス粉末の割合は5質量部以上10質量部以下ある。ガラス粉末は、後述する熱処理によって吸着部11を形成する酸化アルミニウムの結晶粒子を結合するガラス成分となり、その軟化点は、750~940℃である。水の割合は、酸化アルミニウム粉末およびガラス粉末の合計100質量部に対して、5質量部以上10質量部以下である。水の代わりに他の極性溶媒を用いてもよい。
【0048】
混合した酸化アルミニウム粉末およびガラス粉末を転動造粒機、噴霧乾燥機、圧縮造粒機、押し出し造粒機などの各種造粒機を用いて造粒することによって顆粒を得る。
【0049】
次に、得られた顆粒を成形型に充填し、静水圧により加圧成形して得られる成形体を、例えば、大気雰囲気中あるいは窒素雰囲気中、900℃以上1300℃以下で熱処理することによって吸着部3を得ることができる。
【0050】
支持部12を得るには、まず、酸化アルミニウム粉末(純度が99.9質量%以上)と、水酸化マグネシウム、酸化珪素および炭酸カルシウムの各粉末とを粉砕用ミルに溶媒(イオン交換水)および分散剤とともに投入して、粉末の平均粒径(D50)が1.5μm以下になるまで粉砕した後、有機結合剤、可塑剤および離型剤を添加、混合してスラリーを得る。
【0051】
上記粉末の合計100質量%における水酸化マグネシウム粉末の含有量は0.2~0.5質量%、酸化珪素粉末の含有量は0.03~0.06質量%、炭酸カルシウム粉末の含有量は0.015~0.025質量%であり、残部が酸化アルミニウム粉末および不可避不純物である。
【0052】
有機結合剤は、例えば、アクリルエマルジョン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドなどであり、その添加量は、上記粉末100質量部に対して3~8質量部である。
【0053】
上記スラリーを、噴霧乾燥機を用いて造粒することによって顆粒を得る。次に、得られた顆粒を成形型に充填し、静水圧により加圧成形して成形体を得る。成形圧は、例えば、78Mpa以上128MPa以下である。得られた成形体を加工して、凹部などを有する前駆体とする。この前駆体を、大気雰囲気中、温度を1500℃以上1700℃以下、保持時間を4時間以上6時間以下として焼成することによって焼結体を得る。この焼結体を研削加工することによって支持部12を得ることができる。
【0054】
工程(b)は、凹部12aの底面12a1および吸着部11の裏面11bの少なくとも一方に、ガラス成分を含むスラリーを塗布する工程である。このスラリーには、ガラス成分以外に、第1層131および第2層132を形成するセラミックス材料が含まれている。このようなセラミックス材料としては、上述のように、酸化アルミニウムなどの酸化物、炭化ケイ素などの炭化物、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの窒化物などが挙げられる。スラリー中に含まれるガラス成分の割合は限定されない。ガラス成分は、ガラス粉末として、酸化アルミニウム粉末およびガラス粉末の合計100質量%中、例えば15質量%以上34質量%以下の割合で、スラリー中に含まれていてもよい。特に、ガラス成分は、スラリー中に20質量%以上30質量%以下の割合で含まれているとよい。
【0055】
ガラス成分を含むスラリーは、凹部12aの底面12a1および吸着部11の裏面11bの少なくとも一方に塗布すればよい。塗布方法は限定されず、凹部12aの底面12a1にスラリーを塗布する場合には、凹部12aにスラリーを注ぎ込めばよい。吸着部11の裏面11bにスラリーを塗布する場合には、例えば、吸着部11の裏面に、こてなどを用いてスラリーを塗布すればよい。スラリーの塗布量は限定されず、例えば、後述の熱処理後に、2mm以上4mm以下の厚みを有するように塗布してもよい。
【0056】
工程(c)は、凹部12aの底面12a1および吸着部11の裏面11bの少なくとも一方に、スラリーを塗布した後、凹部12aに吸着部11を収納して、支持部12の下方から振動を付与する工程である。支持部12の下方から振動を付与することによって、凹部12aの底面12a1に位置しているスラリーが均される。振動を付与することによって、スラリーの一部が、吸着部11の外周面11cと凹部12aの内周面12a2との間にも位置するようになる。
【0057】
工程(d)は、支持部12と吸着部11とを、スラリーによって接合するための熱処理を行う工程である。熱処理を行うことによってスラリーが焼結し、支持部12と吸着部11とが接合される。熱処理の温度は限定されない。例えば、1040℃以上1200℃以下の温度で、熱処理が行われる。熱処理を行う際には、必要に応じて、吸着部11の上面側と支持部12の下面側とから加圧しながら行ってもよい。
【0058】
凹部12aの底面12a1に位置している均されたスラリーが、熱処理後に第2層132となり、吸着部11の外周面11cと凹部12aの内周面12a2との間に位置するスラリーが、熱処理後に第1層131となる。このように、一実施形態に係る吸着用部材1の製造方法によれば、第1層131と第2層132とは、同じセラミックスで形成される。第1層131および第2層132については上述の通りであり、詳細な説明は省略する。
【0059】
工程(e)は、熱処理によって支持部12と吸着部11とを接合させた後、支持部12および吸着部11の被吸着体を吸着および保持する側に、研削および研磨の少なくとも一方を施して、吸着面11aと環状面12bとを形成する工程である。研削または研磨する方法は限定されない。例えば、研削方法または研磨方法としては、ラップ加工、ポリッシュ加工などが挙げられる。
【0060】
このように、工程(a)~工程(e)によって、一実施形態に係る吸着用部材1が得られる。このようにして得られた一実施形態に係る吸着用部材1は、半導体ウエハなどの被吸着体を固定し、被吸着体の表面を加工するような加工装置などの部材として使用される。
【符号の説明】
【0061】
1 吸着用部材
11 吸着部
11a 吸着面
11b 裏面
12 支持部
12a 凹部
12a1 内底面
12a2 内周面
12b 環状面
131 第1層
132 第2層
14 吸引溝
15 吸引孔