(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】性状推定装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/06 20060101AFI20241107BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20241107BHJP
G01N 21/45 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
G01B11/06 H
G01N21/27 A
G01N21/45 A
(21)【出願番号】P 2021138082
(22)【出願日】2021-08-26
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】722013405
【氏名又は名称】四国化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】中西 正人
(72)【発明者】
【氏名】川合 徹
(72)【発明者】
【氏名】門田 裕美
(72)【発明者】
【氏名】宮武 欣哉
(72)【発明者】
【氏名】湯本 純弘
(72)【発明者】
【氏名】掛水 英亮
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-276349(JP,A)
【文献】特開2003-004419(JP,A)
【文献】特開2003-337011(JP,A)
【文献】特開2012-063275(JP,A)
【文献】特開平07-181018(JP,A)
【文献】特開2004-264077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01N 21/00-21/02
G01N 21/17-21/61
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機被膜の光学特性に関するパラメータと前記有機被膜の性状を示す指標との間の対応関係を示す関係データを予め格納した記憶装置と、
測定対象である有機被膜の前記光学特性を測定した測定データを受け取る入力インタフェースと、
前記入力インタフェースが受け取った前記測定データ、及び前記記憶装置に格納された前記関係データを利用して、前記測定対象の有機被膜の性状を示す指標を推定する演算回路と
を備え
、
前記測定対象の有機被膜は所定の基板に形成されており、
前記入力インタフェースは、前記測定データとして、前記基板に照射された光の反射光を撮影した画像を取得し、
前記演算回路は、前記入力インタフェースが取得した前記画像から所定の画像特徴量を抽出し、前記画像特徴量、及び前記関係データを利用して、前記測定対象の有機被膜の性状を示す指標を推定し、
前記関係データは、前記性状として、前記有機被膜の膜厚および/または膜形成量の情報を含み、かつ、前記性状を示す前記指標は、前記有機被膜の膜厚値および/または単位面積当たりの膜形成量であり、
前記関係データは、前記パラメータとして、前記有機被膜に照射された光の反射光を撮影した画像の明るさの分布または色成分に関する情報を含み、
前記指標は、反射分光膜厚計、分光エリプソメータ、接触式膜厚計、X線式膜厚計、レーザ式膜厚計、FT-IR式膜厚計、断面SEM画像による測長、及び溶解法のうち少なくともいずれか1つの方法で予め測定された測定値を含み、
前記演算回路は、前記画像特徴量、及び前記関係データを利用して、前記測定対象の有機被膜の膜厚値および/または膜形成量を前記指標として推定する
、性状推定装置。
【請求項2】
前記画像特徴量は、前記画像の明るさの分布または色成分に関する情報を含み、
前記演算回路は、前記入力インタフェースが取得した前記画像から、前記画像の明るさの分布または色成分に関する数値を画像特徴量として抽出する、
請求項
1に記載の性状推定装置。
【請求項3】
前記光はレーザ光または白色光である、請求項
1に記載の性状推定装置。
【請求項4】
有機被膜の光学特性に関するパラメータと前記有機被膜の性状を示す指標との間の対応関係を示す関係データを予め格納した記憶装置と、
測定対象である有機被膜の前記光学特性を測定した測定データを受け取る入力インタフェースと、
前記入力インタフェースが受け取った前記測定データ、及び前記記憶装置に格納された前記関係データを利用して、前記測定対象の有機被膜の性状を示す指標を推定する演算回路と
を備え、
前記記憶装置は、
前記パラメータとして、前記有機被膜を溶解させた溶液の吸光度、及び
前記指標として、前記有機被膜の膜厚値および/または膜形成量
を、前記対応関係を示す前記関係データとして予め格納しており、
前記入力インタフェースは、前記測定データとして、前記測定対象の有機被膜を溶解させた溶液の吸光度を示す吸光度データを受け取り、
前記演算回路は、前記有機被膜の膜厚値および/または膜形成量を前記指標として推定する、性状推定装置。
【請求項5】
前記記憶装置は、
前記有機被膜の光学特性に関する複数のパラメータと前記有機被膜の性状を示す複数の指標値とを対応付けたテーブル、または、
前記有機被膜の光学特性に関するパラメータから、前記有機被膜の性状を示す指標値を算出する関係式
として、前記対応関係を示す関係データを予め格納する、請求項1から
4のいずれか1項に記載の性状推定装置。
【請求項6】
前記演算回路は、推定した前記指標を表示装置に表示するための映像データを生成する、請求項1から
4のいずれか1項に記載の性状推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、性状推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線板の製造工程では金属回路(例えば、銅回路)の表面に表面処理が行われている。表面処理とは、金属回路がプリントされた基板を表面処理薬剤により浸漬等の処理をすることにより、金属回路の表面に選択的に有機被膜を形成する処理である。これにより、例えば、金属回路に用いられている金属(例えば、銅)の酸化を防止することができる。
【0003】
有機被膜の膜厚が予め定められた厚さ範囲(以下「適正膜厚」)より薄い場合には銅の酸化を招きやすく、適正膜厚よりも厚い場合には出荷後の加工工程、例えばプリント配線板への半田付け、の作業に支障を来しやすい。例えば特許文献1では、適正膜厚の有機被膜が形成されるような薬剤の有効成分濃度の管理値を設定し、フーリエ変換赤外分光計(FT-IR)により薬剤の有効成分濃度値を測定しながらその濃度値が当該管理値になるよう制御する技術を開示する。
【0004】
管理値との関係で薬剤の有効成分濃度値を制御したとしても、実際に形成された有機被膜の膜厚が適正膜厚であると言えるか否かは不明であり、別途測定する必要があった。そこで、膜厚を測定する技術の研究も進められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、表面処理により有機被膜が形成されたプリント配線板を厚さ方向に切断し、断面を電子顕微鏡等で観察することで有機被膜の膜厚を測定する破壊的な方法が知られていた。また、プリント配線板に形成された有機被膜を溶解液(有機溶剤や酸を含む)に溶解させた溶液の紫外線(UV)等の吸光度を測定することで、溶解した有機被膜の有効成分量を求め、有機被膜が形成されていた領域の面積との関係から膜厚を推定する技術の開発も行われてきた。いずれの場合も、有機被膜が形成された対象物を破壊する、または有機被膜を溶解させているため、非破壊の測定方法とは言えない。さらに、測定のためにプリント配線板や有機被膜に加工や処理を加える必要があり、測定に時間や手間を要する。加えて前者は、測定装置を導入するには非常にコストがかかる。また後者は有機被膜が形成されていた領域内において有機被膜の膜厚が均一であると仮定しており、面積が既知である平板の銅板に有機被膜を形成して行われるため、金属回路がプリントされた実際のプリント配線板を対象とした測定方法ではない。
【0007】
また、膜厚以外の他の性状、例えば、有機被膜が形成された基板の反りなど、についても、種々の評価項目が存在し得る。
【0008】
有機被膜が形成される対象物自体の性状や、形成された有機被膜等の性状を、簡易かつ低コストで測定する技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の例示的な実施形態にかかる性状推定装置は、記憶装置と、入力インタフェースと、演算回路とを有している。記憶装置は、有機被膜の光学特性に関するパラメータと有機被膜の性状を示す指標との間の対応関係を示す関係データを予め格納している。性状推定装置は、入力インタフェースを介して、測定対象である有機被膜の光学特性を測定した測定データを受け取る。演算回路は、入力インタフェースが受け取った測定データ、及び記憶装置に格納された関係データを利用して、測定対象の有機被膜の性状を示す指標を推定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の例示的な実施形態によれば、有機被膜が形成される対象物自体の性状や、有機被膜等の性状を、簡易かつ低コストで測定する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】サブトラクティブ法による多層基板を有するプリント配線板の一連の製造工程の概要を示す図
【
図3】例示的な実施形態による性状推定システムの構成図
【
図5A】基板上の有機被膜の膜厚に応じたスクリーン上の像の形状を示す図
【
図5B】基板上の有機被膜の膜厚に応じたスクリーン上の像の形状を示す図
【
図6A】有機被膜の膜厚が相対的に薄い場合の入射するレーザ光線Lと像Saとを示す図
【
図6B】有機被膜の膜厚が相対的に厚い場合の入射するレーザ光線Lと像Sbとを示す図
【
図7】例示的な性状推定システムの構成、及び例示的な性状推定装置のハードウェア構成図
【
図8A】
図5Aの画像のうち、所定の閾値よりも明度が高い領域Raを示す図
【
図8B】
図5Bの画像のうち、所定の閾値よりも明度が高い領域Rbを示す図
【
図9】性状推定装置の演算回路の処理手順を示すフローチャート
【
図11】pHの変化と、変化に応じた性状推定装置の報知動作の関係を示す図
【
図12】白色光源で基板を照射し、カメラで基板の中央部の反射光の色調を取得する、測定チャンバ内の構成例を示す図
【
図13】明度が20以上のピクセルの割合(x)と有機被膜の膜厚値(y)との間に線形関係が成り立つと仮定したときの線形式の例を示す図
【
図14】
図13に示す線分と、基板C及びDの各プロット結果との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示にかかる実施形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面及び以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図しない。
【0013】
なお、以下に説明する実施形態の構成及び動作は例示である。本開示は、以下に説明される実施形態の構成及び動作に限定されない。また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する。
【0014】
図1は、サブトラクティブ法による多層基板を有するプリント配線板の一連の製造工程の概要を例示している。プリント配線板は、材料切断工程、回路形成工程、積層プレス工程、回路形成工程、レジスト工程、表面処理工程を経て、出荷に至る。
【0015】
材料切断工程では、加工するサイズに合わせて基板が切断される。回路形成工程では、内層の基板にドライフィルムが貼り付けられ、その基板に回路パターンが印刷されたマスクを重ね合わせた後、紫外線が照射されて露光される。その後、不要なドライフィルムを溶解して除去することで、現像が行われる。積層プレス工程では、回路パターンが形成された内層の基板に、基板を構成する材料が重ね合わされ、積層プレス機などによって熱と圧力がかけられて1枚の多層基板が形成される。
【0016】
次に外層の基板を形成する。
回路形成工程では、外層の基板にドライフィルムが貼り付けられ、その基板に回路パターンが印刷されたマスクを重ね合わせた後、紫外線が照射されて露光される。その後、不要なドライフィルムを溶解して除去することで、現像が行われる。
【0017】
レジスト工程では、プリント基板の表面を覆って回路パターンを保護するためのインクであるソルダーレジストが塗布される。塗膜を形成する方法によって、アルカリ現像型ソルダーレジスト法、UV硬化型ソルダーレジスト法、熱硬化型ソルダーレジスト法に分類される。例えばアルカリ現像型ソルダーレジスト法を用いる場合、スクリーン印刷、スプレー、カーテン法等の周知の方法によりソルダーレジストが全面塗布されたプリント配線板に、回路パターンが作られたネガフィルムを通して露光が行われる。これにより、露光された位置のソルダーレジストが硬化する。その後、未硬化部分が希アルカリ現像液で現像される。これにより、微細な回路パターンをソルダーレジストで保護しつつ、半田付けがされる部分を適切に形成することが可能になる。
【0018】
そして、表面処理工程(S10)では、プリント配線板が表面処理剤に浸漬される。その結果、プリント配線板の銅回路上には化成皮膜(有機被膜)が選択的に形成される。形成された有機被膜により、プリント配線板の銅回路部分が酸化から保護され、良好な半田付け性を確保できる。その後、プリント配線板の出荷が進められる。
【0019】
次に、表面処理工程(S10)をより詳細に説明する。
図2は、表面処理工程(S10)の詳細な手順を示している。表面処理工程(S10)では、まずプリント配線板にソフトエッチング処理を行い、銅回路表面に形成されている酸化銅を除去し、清浄化させる。これにより銅回路部分の半田付け性が良好になる。その後、水洗処理、酸洗浄及び再度の水洗処理が行われる。
【0020】
次に、表面処理薬剤への浸漬が行われる(ステップS12)。表面処理薬剤は例えば水溶性プレフラックスであり、その構成成分は、主としてイミダゾール化合物、有機酸、添加剤及び水である。例えば液温を40℃、浸漬時間を30~90秒にすると、プリント配線板の銅回路上には膜厚0.1~0.3マイクロメートルの化成皮膜(有機被膜)が選択的に形成される。
【0021】
その後、水洗、水切り及び乾燥が行われ、その後、光学測定による有機被膜の性状を示す指標の推定が行われる(S14)。推定後にプリント配線板が取り出され、表面処理工程(S10)が終了する。
【0022】
なお、表面処理薬剤によっては、
図1における回路形成工程と積層プレス工程の間に表面処理工程(S10)を行う場合もあり得る。そのような表面処理薬剤は例えば銅回路の表面と絶縁樹脂層との密着力を高めるための表面処理剤であり、その構成成分は、主としてシランカップリング剤、酸、アルカリ、添加剤及び水である。例えば、液温を30℃、浸漬時間を30~90秒にすると、回路形成工程で形成された銅回路上には膜厚0.01~0.2マイクロメートルの有機被膜が選択的に形成され得る。回路形成工程で形成された銅回路の表面は、粗化がされていない状態、または回路形成工程後にソフトエッチング処理(
図2のソフトエッチング工程に相当)により微粗化処理がされた状態である。表面処理薬剤により平滑な表面が維持されたまま銅回路の表面と絶縁樹脂層の密着性を高くすることができ、高周波領域での高い伝送特性を実現することが可能であり、かつ細線パターンにより好適である。光学測定による有機被膜の性状を示す指標の推定(S14)はこのような表面処理薬剤により形成された有機被膜の性状の推定にも利用可能である。
【0023】
次に、
図2のステップS14による、光学測定による有機被膜の性状を示す指標の推定処理を具体的に説明する。以下では、プリント配線板を「基板」と記述する。
【0024】
図3は、本実施形態による性状推定システム200の構成を示している。性状推定システム200は、主として、性状推定装置100と、モニタ110と、入力装置120と、カメラ130とを有している。性状推定システム200は、基板10を搬送する搬送台20と、測定チャンバ30が設置された環境に導入されている。
【0025】
図3では、複数の基板10が、図示されるXYZ座標系における-X方向から+X方向に向かって搬送台20上を次々搬送されてくる。測定チャンバ30よりも-X方向において、
図2における水切り、乾燥工程が完了しているとする。すなわち測定チャンバ30に入る時点で基板10上には有機被膜が形成されている。
【0026】
測定チャンバ30では、外部からの光が入らないよう、暗室状態が維持されている。基板10が測定チャンバ30に入ると、性状推定システム200は、測定チャンバ30内で光学的な手法によって各基板10に形成された有機被膜の性状を示す指標を推定する。
【0027】
ここでいう有機被膜の「性状」は、有機被膜の性質および/または状態を意味する。例えば有機被膜の膜厚、膜形成量、密度である。これらの有機被膜の性状は、それが形成されるプリント配線板(基板)の性質も大きく影響する。そこで本明細書では、有機被膜が形成されている基板の表面の粗さ、表面の形状、異方性、基板の反り量、及び平面性についても、有機被膜の性状として捉える。
【0028】
有機被膜の性状を示す「指標」とは、例えば、性状が有機被膜の膜厚である場合には膜厚値、性状が有機被膜の膜形成量である場合には単位面積当たりの膜形成量、性状が密度を示す場合には密度の値、である。さらに本明細書では、有機被膜の性状を示す「指標」として、例えば、具体的な膜厚値ではなく、膜厚値が許容範囲に入っているか否か、換言すると、膜厚値が良好であるか良好でないかを含む。膜形成量、密度の値についても、それぞれ許容範囲に入っているか否かを示す「指標」が定められ得る。
【0029】
図4は、測定チャンバ30内の構成を示している。
図4に示すXYZ座標系は、
図3のXYZ座標系に対応している。基板10は紙面の奥から手前の方向に流れている。
【0030】
測定チャンバ30内には、レーザ光線Lを放射するレーザ光源140が設置されている。放射されるレーザ光線Lの波長は例えば400~700nmであり、630~690nm(赤色)、515~535nm(緑色)、450~490nm(青色)である。レーザ光源140の出力は、例えば5mW未満であり、1mW未満である。レーザ光線Lの照射径(ビーム径)は、距離3mの時に例えば1~20mmであり、2~10mmである。レーザ光源140は、XY平面上に載置された基板10に対して一定の角度を維持するよう配置されている。より具体的には、レーザ光源140は、レーザ光線Lの基板10への入射角θが70~89度になるよう設置されている。なお、レーザ光源140が固定されている場合、搬送されてくる基板10のY軸方向の位置によってはレーザ光線Lが基板10に入射しないことがあり得る。そのような場合を想定して、レーザ光源140をYZ平面上で、または、Y軸上またはZ軸上を平行移動させることが可能なアクチュエータを設けてもよい。
【0031】
本実施形態では、レーザ光線Lを基板10に入射させてその反射光を、XZ平面と平行に設置されたスクリーンAに投影し、投影された像Sをカメラ130で撮影する。カメラ130の視野Fは、反射光を十分撮影できる面積を有している。カメラ130は取得した像Sの画像データを性状推定装置100に送信する。後述のように、像Sには、基板10に形成された有機被膜の性状が反映されている。性状推定装置100は、投影された像Sの画像データから、その基板10に形成された有機被膜の性状を示す指標を推定することができる。
【0032】
なお、カメラ130は基板10ごとに少なくとも1枚の反射光の像Sを含む画像を撮影すればよい。しかしながら、カメラ130に複数枚の画像、または動画を撮影させることにより、性状推定装置100は、複数枚のフレーム画像を利用して1種類の性状を示す指標をより精度よく測定してもよい。または性状推定装置100は、複数枚のフレーム画像を利用して複数種類の異なる性状を示す指標をまとめて取得してもよい。
【0033】
図5A及び
図5BはスクリーンAに投影された反射光の画像の一例であり、それぞれ、基板10上の有機被膜の膜厚の違いに応じた、反射光の像Sa及びSbの形状の違いを示している。X軸及びZ軸は、
図3及び
図4に示すXYZ座標系のX軸及びZ軸に対応する。
図5Aに示す像Saと
図5Bに示す像Sbとの間では、まず、像の形状、具体的にはZ方向に沿った像Sの長さが相違することが理解される。
【0034】
本発明者らは、上記相違が現れる理由を推測した。
図6Aは、有機被膜10aの膜厚が相対的に薄い場合の入射するレーザ光線Lと像Saとを示している。また
図6Bは、有機被膜10aの膜厚が相対的に厚い場合の入射するレーザ光線Lと像Sbとを示している。
【0035】
レーザ光線Lが有機被膜10aに入射すると、レーザ光線Lは有機被膜10a内を通って銅回路の表面10bに反射された後、有機被膜10a内を通って有機被膜10aの表面から外部に出射する。有機被膜10aの厚みや密度のバラツキ、銅回路の表面10bの表面形状によって、レーザ光線Lの各光子が通過する有機被膜10aの経路長は異なるため、有機被膜10aへの入射時のレーザ光線Lのコヒーレント性は、有機被膜10aの表面から外部に出射するまでの間に徐々に失われる。
【0036】
有機被膜10aの膜厚が相対的に薄い場合と厚い場合とを比較すると、前者の場合は反射によるレーザ光線Lの位相のずれ量は相対的に少なくなり、後者の場合はずれ量は相対的に大きくなると考えられる。つまり有機被膜10aの膜厚が相対的に薄い場合には反射光のコヒーレント性、つまり指向性、がある程度保たれており、+Z方向まで像Sa(
図5A)は比較的はっきりとしている。一方、有機被膜10aの膜厚が相対的に厚い場合には、有機被膜10aの経路長が長くなるため、レーザ光線Lが感じる有機被膜10aのバラツキ、例えば厚みや密度のバラツキ、が増加する。その結果、反射光の指向性がより損なわれ、+Z方向の像Sb(
図5B)は像Saよりも暗く見えると考えられる。本発明者らによる以上の推測または知見から、Z方向に沿った像Sの長さを求めると、有機被膜10aの膜厚を推定することが可能になる。なお、像Sの長さは、所定値以上の輝度値または明度値を有する連続した領域の長さとして求めることができる。
【0037】
有機被膜10aの膜厚値の影響が反映されていれば、どのような有機被膜の光学特性を利用してもよい。例えば、Z方向に沿った像Sの長さに代えて、他の光学特性を利用することができる。具体的には、像Sの面積、および/または、+Z方向の最大位置である。面積及び位置の決定は、例えば、Z方向に沿った像Sの長さを求めた場合と同様、所定の閾値よりも大きい明るさ(例えば、輝度値や明度値)を有する画素に基づいて行うことができる。これらは包括的に、有機被膜の光学特性に関するパラメータとして、像Sの形状を利用していると言える。
【0038】
有機被膜10aの膜厚に応じて、カメラ130によって撮影される像Sの形状が異なることを利用すると、膜厚を推定することが可能になる。以下、性状推定装置100の構成を説明し、その後、性状推定装置100が膜厚を推定する処理の原理を説明する。
【0039】
図7は、例示的な性状推定システム200の構成、及び例示的な性状推定装置100のハードウェア構成図である。
【0040】
性状推定システム200は、性状推定装置100と、モニタ110と、入力装置120と、カメラ130とを有する。性状推定装置100は、モニタ110及び入力装置120のそれぞれと接続されている。ただし、モニタ110及び入力装置120は、性状推定装置100と常に接続されている必要はなく、必要に応じて都度接続されていてもよい。なお、測定チャンバ30内のレーザ光源140は
図7に示されていないが、性状推定システム200の一部を構成していてもよい。レーザ光源140は、レーザ光線Lを放射し続けるよう構成されていてもよいし、基板10の画像データの測定時のみレーザ光線Lを放射するよう構成されていてもよい。
【0041】
性状推定装置100は、例えば汎用のPCを用いて実現される。性状推定装置100は、カメラ130から像Sを撮影した画像データを受け取り、後述の処理を行うことで画像特徴量を抽出する。像Sを撮影した画像データや性状推定装置100の処理の結果は、例えばモニタ110に伝送されてモニタ110に表示される。性状推定装置100の構成は後述する。
【0042】
モニタ110は、液晶表示パネルまたは有機ELパネル等の表示パネルを有する表示装置である。モニタ110は、例えば、性状推定装置100の処理の結果を視覚的に出力する。
【0043】
入力装置120は、ユーザからの入力を受け取り、演算回路101に与えるデバイスである。入力装置120の一例は、タッチパネル、マウスおよび/またはキーボードである。または、入力装置120は、既に存在するデータを記憶し、要求に応じて出力する記憶装置であってもよい。
【0044】
カメラ130は、静止画および/または動画を撮影可能な撮像装置である。カメラ130は、少なくとも、レーザ光源140の反射光の波長に感度を有する。カメラ130は、撮影した画像データを、有線または無線で送信することが可能である。
【0045】
性状推定装置100は、演算回路101と、メモリ102と、記憶装置103と、画像処理回路104と、通信バス105と、インタフェース装置106a~106dとを有している。構成要素同士は通信バス105で相互に通信可能に接続されている。
【0046】
演算回路101は、例えば中央演算処理装置(CPU)またはデジタル信号処理プロセッサなどの集積回路(IC)チップであり得る。演算回路101は、像Sの画像データに後述の処理を行うことで、有機被膜の性状を示す指標を推定することができる。
【0047】
メモリ102は、複数の記憶素子を有する、RAMなどの半導体揮発性メモリおよび/またはフラッシュROMなどの半導体不揮発性メモリの総称である。メモリ102の少なくとも一部は、取り外し可能な記録媒体であってもよい。
【0048】
メモリ102は、演算回路101の動作を制御するコンピュータプログラム102mを格納してもよい。
【0049】
記憶装置103は、例えばメモリ102よりも大きな記憶容量を有するストレージデバイスである。記憶装置103は、例えばカメラ130から送信された像Sに関する画像データを格納することができる。
【0050】
画像処理回路104は、GPU(Graphics Processing Unit)とも呼ばれる集積回路(IC)チップであり得る。画像処理回路104は、モニタ110に表示させるための映像データを生成する。
【0051】
インタフェース装置106aは、カメラ130から画像データを受け取る。インタフェース装置106bはモニタ110に映像データを出力する。インタフェース装置106cは、入力装置120からのデータを受け付ける。インタフェース装置106dは遠隔地の通信機器(図示せず)と性状推定装置100とが通信を行う際に利用される。例えば遠隔地の通信機器は、インタフェース装置106dを介して性状推定装置100にアクセスし、性状推定装置100にデータを送信するとともに、性状推定装置100からデータを受信することができる。外部からデータを受け取る場合は入力インタフェースと呼び、外部にデータを出力する場合は出力インタフェースと呼んでもよい。
【0052】
インタフェース装置106a及び106cの一例は、USB端子、イーサネット端子である。インタフェース装置106bの一例は、HDMI端子である。インタフェース装置106dの一例は、無線通信を行うための無線インタフェース、または有線通信を行うためのイーサネット端子である。これらの例に代えて、他の端子をインタフェース装置106a~106dとして利用してもよい。なお、インタフェース装置106a~106dの1つまたは複数は、無線通信を行うための無線インタフェースであってもよい。そのような無線インタフェースとして、例えば2.4GHz/5.2GHz/5.3GHz/5.6GHz等の周波数を利用して無線通信を行う、Wi-Fi(登録商標)規格に準拠した規格、および/または、いわゆる5G、4G等として規定される移動通信システムが採用され得る。
【0053】
性状推定装置100のメモリ102(
図7)は、有機被膜の光学特性に関するパラメータと有機被膜の性状を示す指標との間の対応関係を示す関係データを予め格納している。例えば、形成された有機被膜の膜厚値が既知で、かつその値がそれぞれ異なる基板を複数枚用意する。基板を測定チャンバ30に入れてレーザ光源140からレーザ光線Lを放射し、スクリーンAに投影された反射光の像Sの画像を撮影する。そして、反射光の像Sの画像のうち、所定の閾値よりも明るさ(明度値)が大きい領域の面積の割合を求める。このとき、有機被膜の膜厚値がそれぞれ異なる基板における種々の面積の割合と、そのときの各膜厚値とを対応付ける。これにより、有機被膜の光学特性に関するパラメータと有機被膜の性状を示す指標との間の対応関係を示す関係データを、例えばテーブル形式で用意することができる。また、そのテーブル形式の関係データを用いて、有機被膜の光学特性に関するパラメータと有機被膜の性状を示す指標との間の関係式の関係データを用意することもできる。関係式の関係データは、有機被膜の光学特性に関するパラメータと有機被膜の性状を示す指標との関係性を表す関数であってもよいし、機械学習やディープラーニング(深層学習)により有機被膜の光学特性に関するパラメータと有機被膜の性状を示す指標との間の関係性を予測するものであってもよい。
【0054】
既知である有機被膜の膜厚値には、例えば、反射分光膜厚計、分光エリプソメータ、接触式膜厚計、X線式膜厚計、レーザ式膜厚計、FT-IR式膜厚計、断面SEM画像による測長、または溶解法により測定した膜厚値を用いることができる。溶解法では、有機被膜を溶解可能な溶解液(有機溶剤や酸を含む)に、有機被膜が形成された基板を浸漬させる。これにより、基板上に形成された有機被膜が溶解液に溶解した溶液を得る。その後、溶液の吸光度を紫外線(UV)吸光度計測器で測定することで、溶液に含まれる有機被膜の有効成分の量を算出することができ、算出した有効成分の量と基板の面積との関係から有機被膜の膜厚値を算出することができる。
【0055】
図8Aは、
図5Aに示した像Saの画像のうち、所定の閾値よりも明るさ(明度値)の大きい領域Raを示している。また
図8Bは、
図5Bに示した像Sbの画像のうち、所定の閾値よりも明るさ(明度値)の大きい領域Rbを示している。性状推定装置100の演算回路101は、各画像を画像処理することにより領域RaおよびRbを取得する。所定の閾値は、例えば、メモリ102および/または記憶装置103(
図7)に予め決定した値を格納しておくこと、または画像処理により各画像に応じた閾値を設定することができる。
【0056】
性状推定装置100の演算回路101は、画像特徴量として画像全体に占める領域Ra(
図8A)の面積の割合を求める。そして、求めた画像特徴量(領域Raの面積の割合)と、メモリ102上の上記対応関係を示す関係データとを利用して、測定したい有機被膜の性状を示す指標を推定値として読み出す。これにより、有機被膜10aの光学特性を反映した像Saのパラメータ(領域Raの面積の割合)から、有機被膜10aの性状を示す指標、すなわち膜厚を示す膜厚値を求めることができる。同様に、性状推定装置100の演算回路101は、画像特徴量として画像全体に占める領域Rb(
図8B)の面積の割合を求め、上記対応関係を示す関係データを利用して膜厚値を求める。画像特徴量としては、上記の「所定の閾値よりも明度が高い領域の面積」以外に、「所定の閾値よりも明度が高い領域の長さ」や「反射光の形状」といった、画像の「明るさの分布」に関する数値を用いてよい。
【0057】
なお、個々の基板10では、有機被膜10aの厚みや密度、および銅配線10bの表面形状が完全に一致しないため、反射光の画像特徴量から求めた有機被膜10aの膜厚値は、現実の膜厚値と厳密には一致しない可能性がある。しかしながら本発明者らは、膜厚値が0.1~0.4マイクロメートル程度の有機被膜10aについて、比較的精度よく推定できることを確認した。測定対象の有機被膜の膜厚値の範囲は、例えば、0.01~1.0マイクロメートルであり、0.03~0.5マイクロメートルであり、0.04~0.4マイクロメートルである。
【0058】
図9は、性状推定装置100の演算回路101の処理手順を示すフローチャートである。演算回路101はコンピュータプログラム102mを実行することにより、
図9に示す手順で処理を実行する。
【0059】
ステップS22において、演算回路101は、有機被膜の光学特性に関するパラメータと有機被膜の性状を示す指標との間の対応関係を示す関係データを記憶装置103から読み出す。読み出された関係データは、メモリ102および/または演算回路101内のバッファ、キャッシュメモリ(図示せず)等に格納され得る。ステップS24において、演算回路101は、入力インタフェースを介して、有機被膜の光学特性を測定した測定データ(画像)を取得する。ステップS26において、演算回路101は、取得した測定データ(画像)から所定の画像特徴量を抽出する。ステップS28において演算回路101は、抽出した画像特徴量と、読み出した関係データとを利用して、測定対象の有機被膜の性状を示す指標を推定する。
【0060】
上述の例では、「有機被膜の光学特性に関するパラメータ」は、形成された有機被膜の膜厚が既知である複数枚の基板を用いて測定した反射光の画像における画像全体に占める所定の閾値よりも明るさ(明度値)の大きい領域の面積の割合である。「有機被膜の性状を示す指標」は、形成された有機被膜の膜厚が既知である複数枚の基板の有機被膜の膜厚値である。「対応関係を示す関係データ」は、形成された有機被膜の膜厚が既知である複数枚の基板を用いて測定した所定の閾値よりも明るさ(明度値)の大きい領域の面積の割合と有機被膜の膜厚値との対応関係を示すデータである。「測定データ」は、カメラ130から取得した、測定対象の基板に照射された光の反射光を撮影した画像であり、スクリーンAに投影された像Sの画像データである。推定の対象となる「有機被膜の性状を示す指標」は、測定対象の基板の有機被膜の膜厚値である。「画像特徴量」は像Sの画像データを処理して抽出した画像全体に占める所定の閾値よりも明るさ(明度値)の大きい領域の面積の割合である。
【0061】
以上の処理によって取得された膜厚値の情報を、性状推定装置100は外部に出力することができる。
図10は、モニタ110における表示例を示している。モニタ110には、所定の表面処理薬剤溶液のpH値、有効成分濃度及び有機被膜の膜厚値の時間遷移が表示されている。これらの3種類の項目は、溶液の安定性、すなわち有機被膜の造膜性、を知る手がかりとして管理の対象とされる。なお、性状推定装置100は、検査装置(図示せず)の測定結果として出力されたpH及び有効成分濃度のデータを受け取ることができる。受け取ったデータは測定日時や表面処理薬剤溶液の銘柄やロット番号、基板の銘柄やロット番号などの情報とともにメモリ102および/または記憶装置103に格納しておくことができる。検査装置は表面処理薬剤溶液の液槽と配管で接続されており、ポンプでくみ上げられた表面処理薬剤溶液のpH値及び有効成分濃度を定期的に自動で測定し、測定値を性状推定装置100に出力する。pHの検査装置は例えばpHメーター、有効成分濃度の検査装置は例えば紫外可視分光光度計が例示される。pH値や有効成分濃度の測定に際して、溶液の希釈や装置の洗浄などの処理も自動で行うようにしてもよい。pH値及び有効成分濃度以外の情報として、表面処理薬剤溶液の温度、液量、添加剤濃度、補充した液量や、基板1枚あたりの処理時間、基板の総処理量、総使用期間、室温、湿度、天気等を測定した情報、または表面処理薬剤溶液や基板の銘柄やロット番号、作業者名等の情報を、モニタ110に表示させたり、メモリ102および/または記憶装置103に格納してもよい。
【0062】
pH値、有効成分濃度及び膜厚値にはそれぞれ管理範囲が予め設定されており、その範囲内に入っていれば、安定した膜厚の有機被膜を形成することができる。一例として、本実施形態では、pH、有効成分濃度及び膜厚値の各管理範囲は、それぞれ「3.5~4.5」、「80.0~120.0%」及び「0.10~0.30マイクロメートル」である。なお、有効成分濃度は、目標濃度を100%としたときの現在値の割合を意味する。管理範囲の値(上限値および下限値)はモニタ110に値として表示または時間遷移を表すグラフ中に表示されてもよい。管理範囲の値は、表面処理薬剤溶液の銘柄に応じた値を適宜設定することもできるし、メモリ102および/または記憶装置103に予め表面処理薬剤溶液の銘柄に応じた値を格納しておいたものを読み込んで設定することもできる。
【0063】
図10のモニタ110の表示画像の右方には、各液管理項目の現在値が表示されている。具体的には、pH値は「4.0」、有効成分濃度は「90.0%」、膜厚値は「0.20マイクロメートル」であることが表示されている。各液管理項目は現在値で表示してもよいし、管理範囲内外を示すステータス(例えば、現在値が管理範囲内であれば「OK」、管理範囲外であれば「NG」)で表示されてもよい。
【0064】
いずれかの液管理項目の値が各管理範囲からずれると、性状推定装置100は注意喚起及び警報を発出することができる。
【0065】
図11は、pHの変化と、変化に応じた性状推定装置100の報知動作の関係を示している。横軸は時間、縦軸はpHを表している。pHの管理範囲は、Th0からTh2の間であるとする。また注意喚起を発するための基準としてTh1が設けられている。例えば、Th0=3.5、Th1=4.4、Th2=4.5である。
【0066】
いま、時刻T1において、pHの値がTh1=4.4とTh2=4.5の間の値になったとする。このとき性状推定装置100の演算回路101は、ユーザに注意喚起を発する。注意喚起の方法は、例えばモニタ110上にメッセージを表示する、スピーカ(図示せず)から音を出力する、ランプ(図示せず)を黄色で点滅させる、等である。
【0067】
その後もpHは上昇を続け、次の測定時刻T2において、基準Th2を超えたとする。すると演算回路101は、ユーザに警報を発出する。警報発出の方法は、例えばモニタ110の画像を反転・非反転を繰り返し行う、スピーカ(図示せず)から警報音を出力する、ランプ(図示せず)を赤色で高速に点滅させる、等である。警報はpHが管理範囲に収まったことが検出された時刻T3まで継続される。
【0068】
注意喚起および/または警報発出を受けたユーザは、例えば表面処理薬剤溶液や調整用溶液を追加して溶液のpHを下げることができる。または、表面処理薬剤溶液や調整用溶液が予めセットされた薬液自動投入装置が設置されている場合には、性状推定装置100がpHの低下に必要な量の液量を算出し、その液量だけ表面処理薬剤溶液や調整用溶液を液槽に投入するよう薬液自動投入装置に指示してもよい。薬液自動投入装置は、例えば残りの溶液の重量に基づいて投入された溶液量を認識しながら、指示された溶液量を液槽に投入することができる。性状推定装置100は、有効成分濃度や膜厚値についても同様に注意喚起および/または警報発出を行うことができる。
【0069】
インタフェース装置106dが遠隔地の通信機器に入出力するデータは、例えば、有機被膜の光学特性に関するパラメータと有機被膜の物性性状を示す指標との間の対応関係を示す関係データ、測定データ(画像)、測定対象の有機被膜の性状を示す指標の推定値、記憶装置に格納されたデータ、性状推定装置100の状態を示すデータ、表面処理薬剤溶液のpH値や有効成分濃度等のデータ、注意喚起および/または警報発出のデータ、である。これにより、遠隔地からも性状推定装置100や表面処理薬液の状態を把握することができ、現地にいなくてもトラブル時の原因調査が可能となる。また、遠隔地の通信機器からインタフェース装置106dを介して、性状推定装置100を遠隔操作したり、文字や音声や映像等で現地への指示をすることもでき、現地にいなくてもトラブルの解消が可能となる。
【0070】
(変形例1)
これまでの説明では、有機被膜10aの膜厚を推定する例を説明したが、同様の考え方は膜厚以外の有機被膜10aの性状にも適用可能である。例示すると、以下の通りである。
(1)有機被膜の膜形成量
(2)有機被膜の密度
(3)有機被膜の欠陥の有無
(4)基板の表面粗さや表面形状の違い、異方性
(5)基板の反り量、平面性
【0071】
上記(1)は膜厚とほぼ同義であるが、膜厚を単位面積当たりの膜形成量に換算して、膜形成量を、性状を示す指標として算出できる。
【0072】
上記(2)は単位体積当たりの膜形成量を、性状を示す指標として算出できる。
【0073】
上記(3)は、有機被膜の欠陥が像S中に反映されるような場合には、像Sの画像データから性状を示す指標を算出できる。例えば、有機被膜10aに発生したキズ、クラック、ホールなどが、像Sの明るさ(輝度または明度)を部分的に低下させているような場合には、明るさの低下が発生している位置、大きさ、長さ、範囲等を像Sの画像データから求める。それらに対応する有機被膜10a上の位置、大きさ、長さ、範囲等を、有機被膜10aの性状を示す指標として算出できる。
【0074】
上記(4)については、例えば本発明者らの試行によれば、基板10の表面、より具体的には銅配線10bの表面、がフラットである場合、像Sには干渉縞のような縞模様は観測されなかった。しかしながら、基板10の表面に、異方性を持つ微細な凹凸が存在する場合には、像Sには干渉縞のような縞模様が観測された。そのような縞模様のできる角度は、基板10へのレーザ光線Lの入射角に応じて異なることも確認された。よって、基板10の表面の性状が異なると像Sにはその性状が反映されると言え、基板の表面粗さや凹凸の異方性等を、性状を示す指標として算出できる。
【0075】
上記(5)については、有機被膜10a下方の銅配線10bが設けられた基板10の反りまたは非平面性は、像S中に反映され得る。基板10が反っているか平面であるかもまた、性状を示す指標として算出できる。
【0076】
(変形例2)
図4に示す例では、レーザ光源140を用いた。しかしながら、レーザ光源140ではなく白色光源を用いる例も考えられる。
【0077】
図12は、白色光源150で基板10を照射し、カメラ130で基板10の画像を取得する、測定チャンバ30内の構成例である。白色光源150は、例えば複数のLEDがリング状に配置されて構成されている。リングの中空部分をカメラ130の光軸が通過するよう、カメラ130及び白色光源150が配置されている。カメラ130では基板10のカラー画像が取得される。取得されたカラー画像は演算回路101により処理され、画像特徴量として基板10の中央部の反射光の色成分が抽出される。抽出される色成分は、例えば、色相-彩度に関する空間情報、いわゆるHSL色空間情報、HSV色空間情報、および/または、RGB値である。
【0078】
本発明者らは、基板10の中央部では、反射光の色成分、具体的にはHSL色空間情報におけるH(Hue)とS(Saturation)との座標、は膜厚に応じて連続的に変化することを見出した。そこで、有機被膜の膜厚の異なる複数枚の基板10を用意して、各基板10に白色光源150の白色光を放射して基板10中央部の反射光の画像を所得し、画像処理により色成分を抽出した後、その基板10上の有機被膜の膜厚を電子顕微鏡による断面観察で測定した。そして、色成分を表すデータと膜厚との対応関係を示す関係データを用意した。
【0079】
測定対象の基板10に白色光源150から白色光を放射し、カメラ130を用いて基板10中央部の反射光の画像を撮影する。性状推定装置100の演算回路101は、その画像データを測定データとして取得し、画像処理により色成分、具体的にはHSL色空間情報におけるH(Hue)とS(Saturation)との座標、を画像特徴量として抽出することにより、当該画像特徴量と、対応関係を示す関係データとを利用して、その基板10上の有機被膜の膜厚値を推定することができる。
【0080】
画像特徴量には測定データを画像処理して抽出した色成分における各種数値を採用することができる。例えば、HSL色空間情報を用いる場合、色相(Hue)、彩度(Saturation)、輝度(明度)(Luminance)の各数値を採用してもよいし、色相、彩度、および輝度の各数値から導かれるHSL双円錐型色空間における座標や位置の情報を採用してもよいし、色相、彩度、輝度の各数値を用いた関数から導かれる数値を採用してもよい。
【0081】
なお、電子顕微鏡による膜厚測定は、時間、コスト等がかかる。よって、対応関係を有するデータでは、膜厚を網羅することが困難な場合も考えられる。そのような場合には、例えば異なる複数の画像特徴量と、異なる複数の膜厚値との間をそれぞれ線形または曲線により補間することで、画像特徴量と膜厚値の間の関係データを用意してもよい。
【0082】
(変形例3)
次に、像Sの利用とは異なる方法で、有機薄膜10aの光学的特性に関するパラメータを取得する方法を説明する。
【0083】
これまでと同様、記憶装置103は予め、有機薄膜の光学特性に関するパラメータと、有機薄膜の性状を示す指標との間の対応関係を示すデータを格納している。ただし、ここでの「パラメータ」は、有機薄膜を溶解させた溶液の吸光度であり、「指標」は有機薄膜の膜厚値および/または膜形成量である。
【0084】
複数の基板10が搬送台20上を流れており、それらは実質的に同じ条件で有機被膜が形成されたとする。つまり一様に同程度の膜厚および膜形成量を有する有機薄膜10aが形成されているとする。
【0085】
そのうちの1枚を抜き出して溶解液に浸し、有機薄膜を溶解させた溶液のUV吸光度を測定する。性状推定装置100の演算回路101は、測定された吸光度のデータを、例えばインタフェース装置106c等において受け取り、記憶装置103に予め格納された対応関係を示すデータを参照する。すると、吸光度から有機薄膜10aの膜厚値および/または膜形成量を即座に得ることができる。
【0086】
UV吸光度の測定も自動化することが可能である。複数の基板10のうちの1枚を搬送台20上からピックアップするロボットを設け、当該ロボットはピックアップした基板10を溶解液の液槽に投入する。その後、例えば検査装置が溶液にUV光を放射し、放射した光の反射光または透過光を測定してUV吸光度を測定する。性状推定装置100は当該検査装置から測定結果を受信すればよい。
【0087】
上述の例のように、UV吸光度と膜厚および/または膜形成量との直接の対応関係を示すデータを用いることは必須ではない。上述の「対応関係」は、複数の対応関係を含んでいてもよい。例えば、有機薄膜を溶解させた溶液の吸光度と溶液中の有効成分濃度との間の第1の対応関係、及び、有効成分濃度と有機薄膜の膜厚との間の第2の対応関係である。演算回路101は、測定されたUV吸光度のデータを、例えばインタフェース装置106c等において受け取り、その測定データ、及び第1の対応関係を利用して、有効成分濃度を取得する。演算回路101はさらに、取得した有効成分濃度、及び第2の対応関係を利用して、有機薄膜の膜厚値および/または膜形成量を取得する。得られた有機薄膜の膜厚値および/または膜形成量は、上述した有機薄膜の性状を示す指標である。
【0088】
以上、本発明の例示的な実施形態を説明した。
これまでは、主として1枚の画像を利用する態様を説明した。1枚の画像であっても動画であっても、1フレーム画像ごとに処理を行えば良い点において、処理の内容は基本的には同じである。本実施形態によれば、搬送台20の搬送速度よりも十分速いシャッター速度で静止画を撮影し、または、当該搬送速度よりも十分速いフレームレートで動画を撮影することでリアルタイムの測定または推定が可能になる。すなわち、基板10を搬送台20で搬送しながら、有機被膜が形成される対象物自体の性状や、形成された有機被膜等の性状を測定または推定できる。例えば、毎分3mの搬送速度で搬送台20を駆動し、10cm×10cmの基板10を搬送する場合、毎秒25枚の動画を撮影すると、リアルタイムの測定を容易に実現できる。
【0089】
以下、実施例として、基板10の作製条件、本発明者ら及び本出願人が構築した、性状推定装置100を含む性状推定システム200の各種装置の構成例、及び性状推定システム200の動作検証結果等を説明する。
(実施例)
(1)基板10の作製条件
・基板10:片面銅張積層板。サイズは4cm×4cmである。
・ソフトエッチング処理
ソフトエッチング液:GB-1000F(四国化成工業株式会社製 硫酸過酸化水素系エッチング液)
ソフトエッチング条件:基板を30℃のソフトエッチング液に30秒浸漬した。
・表面処理条件
水溶性プレフラックス液:タフエースF2(LX)(四国化成工業株式会社製)
処理条件:基板10を40℃の水溶性プレフラックス液に、30秒~3分浸漬して有機被膜の膜厚の異なる4枚の基板(基板A~D)を作製した。
(2)測定装置(
図4の構成)
・カメラ130:マシンビジョン(画素数:2048×1536ピクセル)
・レーザ光源140:赤色レーザポインタ(汎用品)、θ=80°
・性状推定装置100:汎用PC(OS:Windows10)
・カメラとPCとの接続インタフェース装置106a:USB3.0
・スクリーンA(
図4):A3サイズの白色紙
(3)画像処理
撮影により、マシンビジョンは8ビットのビットマップ画像(2048×1536ピクセル)を生成する。マシンビジョンはビットマップ画像をPCに送信する。
PCは当該ビットマップ画像を受け取って内部の記憶装置に保存する。ユーザ操作により、PCのCPUは画像編集処理ソフト「GIMP」(verion 2.10)を実行し、当該ビットマップ画像を読み込んで以下の画像処理を行った。
(a)反射光の像が画像の中央に収まる状態で、画像を2048×768ピクセルのサイズにトリミングする処理
(b)トリミング後の画像の二値化処理
ユーザが入力装置を用いてPCを操作し、「色」メニューの「しきい値」の項目から「明度」のヒストグラムにおける明度の下限値(閾値)を「20」に設定することにより画像の二値化処理を行った。PCのCPUは、明度のヒストグラムにおけるその時のパーセンタイルの値から、画像全体のピクセルのうち明度が20以上のピクセルの割合を読み取る。直感的には、
図8A及び
図8Bの、画像全体のピクセルに対する白色のピクセルの割合が読み取られる。
(4)対応関係を示す関係データの生成
有機被膜の膜厚値が異なる2枚の基板A及び基板Bの各々について、上記画像処理により明度が20以上のピクセルの割合(有機被膜の光学特性に関するパラメータ)が得られる。
次いで、有機被膜を溶解可能な溶解液(有機溶剤及び酸)を収容した容器を2つ用意する。基板A及びBを、各容器内の溶解液に浸漬させ、基板上に形成されたそれぞれの有機被膜を溶解液に溶解させた溶液を得た。各溶液の吸光度を紫外線(UV)吸光度計測器で測定し、予め測定していた特定の波長の吸光度と有効成分濃度との間の検量線を用いて、各溶液に含まれる有機被膜の有効成分(イミダゾール化合物)の量を算出した。算出した有効成分量と基板の面積との関係から有機被膜の膜厚値(有機被膜の性状を示す指標)を算出した。
基板Aおよび基板Bについて、明度が20以上のピクセルの割合(単位%)と有機被膜の膜厚値(単位μm)との間の対応関係を示すテーブルを作成した。表1は当該テーブルの一例を示している。
【表1】
表1のテーブルを用いて、明度が20以上のピクセルの割合(x)と有機被膜の膜厚値(y)との間に線形関係が成り立つと仮定し、関係式を導出した。関係式は、y=-0.0629x+0.9069となった。
図13は、導出された関係式に対応する線分Lを示している。
(5)基板上の有機被膜の膜厚推定(対象となる基板は、基板A及びB以外の基板)
有機被膜が形成された、基板A及びB以外の基板を対象として、その基板上の有機被膜の膜厚を推定する。本実施例では基板CおよびDを用いた。基板CおよびDの各々に、上記(3)の(a)及び(b)の処理と同じ処理を行い、明度が20以上のピクセルの割合(画像特徴量)を得た。そして、当該画像特徴量および上記関係式を用いて、基板Cおよび基板Dの各有機被膜の膜厚の推定値を算出した。
その後、上記と同じ紫外線(UV)吸光度計測器を用いた方法により、基板Cおよび基板Dの各有機被膜の膜厚の実測値を算出した。そして、膜厚の推定値と実測値との比較を行った。
表2は、基板C及び基板Dのそれぞれについて、明度が20以上のピクセルの割合、有機被膜の膜厚の推定値、同実測値、及び、推定値と実測値との差の絶対値を示している。
【表2】
図14は、
図13に示す線分Lと、基板C及びDの各プロット結果との関係を示している。表2および
図14から、本手法によれば、有機被膜の膜厚値が0.137~0.311μmの範囲において±0.04μm以内の精度で有機被膜の膜厚を推定できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本開示は、プリント配線板等に形成した有機被膜の性状を示す指標を推定するために有用である。
【符号の説明】
【0091】
100 性状推定装置
101 演算回路
102 メモリ
103 記憶装置
104 画像処理回路
105 通信バス
106 インタフェース装置
110 モニタ
120 入力装置
130 カメラ
200 物性推定システム