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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】整合器
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/00 20150101AFI20241107BHJP
   H03H 7/38 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
H04B17/00
H03H7/38 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021148824
(22)【出願日】2021-09-13
(65)【公開番号】P2023041445
(43)【公開日】2023-03-24
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直也
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-035165(JP,A)
【文献】特開2008-147928(JP,A)
【文献】特開2010-283558(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0197180(US,A1)
【文献】特開2020-174225(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0319263(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/00
H03H 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線機とアンテナとの間に配置される整合器であって、
通過する進行波及び反射波の強度及び位相差を検出する検出部と、
コンデンサ及びコイルを用いたLC回路によって、前記無線機と前記アンテナの間のインピーダンスを整合させる整合回路と、
前記アンテナと前記整合回路の接続及び切り離しを切り替え可能な負荷切替回路と、
前記整合回路の定数及び前記負荷切替回路の動作を切り替える制御部とを備え、
前記負荷切替回路は、前記整合回路を前記アンテナに接続する、前記整合回路の出力を開放する、前記整合回路の出力を接地する、前記整合回路の出力を所定の抵抗で終端するのいずれかの状態を選択可能であって、
前記制御部は、
前記検出部が検出する進行波及び反射波の強度が大きくなる条件で、前記負荷切替回路の状態を選択し、
前記検出された進行波及び反射波の強度及び位相差によって、前記整合回路を診断することを特徴とする整合器。
【請求項2】
無線機とアンテナとの間に配置される整合器であって、
通過する進行波及び反射波の強度及び位相差を検出する検出部と、
コンデンサ及びコイルを用いたLC回路によって、前記無線機と前記アンテナの間のインピーダンスを整合させる整合回路と、
前記アンテナと前記整合回路の接続及び切り離しを切り替え可能な負荷切替回路と、
前記整合回路の定数及び前記負荷切替回路の動作を切り替える制御部とを備え、
前記制御部は、
前記検出された進行波及び反射波の強度及び位相差によって、前記整合回路を診断し、
前記検出部が検出する進行波及び反射波の強度が大きくなる条件で、前記整合器に入力される高周波信号の周波数を変更する制御信号を前記無線機に出力することを特徴とする整合器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の整合器であって、
前記整合回路は、複数の前記コンデンサと、複数の前記コイルと、前記複数のコンデンサと前記複数のコイルの接続を切り替えるスイッチを有し、
前記制御部は、前記スイッチの切替前後において検出された進行波及び反射波の強度及び位相差によって、前記スイッチの動作の良否を判定することを特徴とする整合器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の整合器であって、
前記負荷切替回路が前記アンテナを切り離した状態で、前記検出部が進行波及び反射波の強度及び位相差を検出することを特徴とする整合器。
【請求項5】
請求項に記載の整合器であって、
前記制御部は、前記検出部が検出する進行波及び反射波の強度が大きくなる条件で、前記整合器に入力される高周波信号の周波数を変更する制御信号を前記無線機に出力することを特徴とする整合器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンスを整合させる整合器に関し、特に、HF帯(3~30MHz)の無線装置とアンテナとの間に配置され、アンテナと無線装置間のインピーダンスを整合する空中線整合器に好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、整合器は、内部の回路を診断する機能を有しておらず、アンテナとの整合がとれない場合に反射波のレベルが大きくなる。
【0003】
本技術分野の背景技術として、以下の先行技術がある。特許文献1(特開2008-35165号公報)には、可変容量及び可変インダクタンスを有する整合回路と、整合回路を通過する信号についてインピーダンスに関する電圧及び位相に関する電圧を検出する検出手段と、終端抵抗と、整合回路の出力側を第2の機器に接続する状態と終端抵抗に接続する状態とを切り替える切替手段と、切替手段により整合回路の出力側を終端抵抗に接続する状態へ切り替えて検出手段による検出結果に基づいて整合回路を検査する制御手段と、を備える整合器が記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-35165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
整合器は、アンテナのインピーダンスを検出する検出器を有しているが、この検出器には、基準値に対する相対値を検出するため、絶対値としての正確性が低い。このため、コンデンサやコイルの最小分解能のレベルで整合器の診断に用いるためには検出精度が不十分である。
【0006】
人手によって整合器の故障を解析する場合、複数の周波数の高周波信号を整合器に入力し、整合動作における進行波と反射波のレベル差及び位相差から、スミスチャート上の整合軌跡によってインピーダンスを算出し、故障部位を特定している。
【0007】
このため、整合器がアンテナと整合がとれない場合、アンテナインピーダンスが整合器の調整可能範囲に入ってないためなのか、整合回路の故障によるのかの判別が困難である。
【0008】
また、製造中に整合器の不具合が発生しても、整合器の単体試験時に動作しており、アンテナとの整合がとれていれば整合試験に合格し、不具合が見落とされて出荷及び設置される可能性がある。
【0009】
本発明は、整合回路の素子レベルで不具合発生箇所の特定を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、無線機とアンテナとの間に配置される整合器であって、通過する進行波及び反射波の強度及び位相差を検出する検出部と、コンデンサ及びコイルを用いたLC回路によって、前記無線機と前記アンテナの間のインピーダンスを整合させる整合回路と、前記アンテナと前記整合回路の接続及び切り離しを切り替え可能な負荷切替回路と、前記整合回路の定数及び前記負荷切替回路の動作を切り替える制御部とを備え、前記負荷切替回路は、前記整合回路を前記アンテナに接続する、前記整合回路の出力を開放する、前記整合回路の出力を接地する、前記整合回路の出力を所定の抵抗で終端するのいずれかの状態を選択可能であって、前記制御部は、前記検出部が検出する進行波及び反射波の強度が大きくなる条件で、前記負荷切替回路の状態を選択し、前記検出された進行波及び反射波の強度及び位相差によって、前記整合回路を診断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、整合回路の素子の不具合を容易に検出できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例の無線通信装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施例の整合器の構成を示す図である。
図3】本発明の実施例の整合器の詳細な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施例の無線通信装置の構成を示す図である。
【0014】
本実施例の無線通信装置は、無線機10、整合器20及びアンテナ30を有する。無線機10は、送受信器11及び増幅器12を有する。送受信器11は、アンテナ30から送信する高周波信号を生成し、アンテナ30が受信した高周波信号を復調する。増幅器12は、送受信器11が生成した高周波信号をアンテナ30から所望の電力が送信されるように増幅し、アンテナ30が捕捉した高周波信号を受信処理に必要なレベルまで増幅する。
【0015】
整合器20は、無線機10とアンテナ30の間に配置され、無線機10とアンテナ30のインピーダンスを整合させる空中線整合器である。整合器20は、自己診断時に、送受信器11に周波数変更指令信号を送信し、整合器20に入力される高周波信号の周波数を変更する。整合器20の構成は図2及び図3を参照して説明する。なお、本実施例では空中線整合器について説明するが、本発明は、無線機とアンテナの間に配置される空中線整合器の他に、他の高周波機器を接続する整合器にも適用できる。
【0016】
図2及び図3は、本発明の実施例の整合器20の構成を示す図である。
【0017】
整合器20は、検出部21、整合回路22、負荷切替回路23及び制御部24を有する。
【0018】
検出部21は、通過する進行波と反射波の強度及び位相差を検出する。例えば、検出部21は、方向性結合器によって進行波と反射波を分別して抽出し、高速のADコンバータを用いて、進行波及び反射波をサンプリングしてデジタル化して、進行波と反射波の強度差及び位相差からインピーダンスを計算する。
【0019】
整合回路22は、複数のコンデンサC1~CX及び複数のコイルL1~LXを用いたLC回路によって、無線機側端子25とアンテナ負荷端子26の間のインピーダンスを整合させる。例えば、整合回路22は、図示したように、信号源である無線機10及び負荷であるアンテナ30に直列接続されるコンデンサC1~CX及び並列接続されるコイルL1~LXで構成されるL型共振回路でもよい。また、他の形式(例えば、T型、π型)の共振回路で整合回路22を構成してもよい。
【0020】
各コンデンサC1~CXは、スイッチKC1~KCXによって接続と切断が切り替え可能となっており、各コイルL1~LXは、スイッチKL1~KLXによって接続と短絡が切り替え可能となっている。スイッチKC1~KCX及びスイッチKL1~KLXは、制御部24からの制御信号によって開閉を切り替える。整合回路22は、コンデンサC1~CX及びコイルL1~LXの接続をスイッチKC1~KCX及びスイッチKL1~KLXによって切り替えて、可変コンデンサ及び可変コイルによって定数を変化可能な可変LC回路を模擬している。例えば、コンデンサC1~CXのキャパシタンスの最小値は1pF程度、最大値は1000pF程度とし、コイルL1~LXのインダクタンスの最小値は0.1μH程度、最大値は10μH程度として、最小値と最大値で100倍~1000倍の差にするとよい。また、コンデンサC1~CXのキャパシタンスは、概ね倍で増加するように選択するとよく、コイルL1~LXのインダクタンスは、概ね倍で増加するように選択するとよい。このようにキャパシタンス及びインダクタンスを選択すると、スイッチKC1~KCX、KL1~KLXの切り替えによって、広範囲かつ細かくキャパシタンス及びインダクタンスを変化できる。
【0021】
負荷切替回路23は、自己診断時に、スイッチK1によって整合器20の負荷を切り替える。具体的には、負荷切替回路23は、整合器20を、アンテナ負荷端子26に接続する、開放する、接地する、所定の抵抗負荷(例えば、50Ω)で終端する、のいずれかに切り替える。
【0022】
制御部24は、予め記憶された手順、又は外部入力端子27に入力された指令信号に従って、スイッチの制御信号を生成し、スイッチKC1~KCX、スイッチKL1~KLX、スイッチK1の切り替えを制御する。
【0023】
次に、自己診断時の制御部24の動作を説明する。
【0024】
まず、制御部24は、負荷切替回路23が整合器20の出力を抵抗終端するように制御し、この状態で送受信器11に所定の試験用周波数の高周波信号を出力する制御信号を送信する。そして、スイッチKC1~KCX及びスイッチKL1~KLXを順次切り替えて、整合回路22の定数(キャパシタンス、インダクタンス)を変化する。検出部21は、整合回路22の定数の状態の各々で進行波及び反射波の強度及び位相差を測定し、スイッチKC1~KCX及びスイッチKL1~KLXを切替前後の、進行波及び反射波の強度差及び位相差の変化を計算する。
【0025】
測定条件によっては抵抗終端で進行波及び反射波の強度が小さく、位相差の変化が小さい場合がある。このとき、制御部24は、進行波及び反射波の強度が大きくなる条件に、負荷切替回路23がアンテナ負荷を開放又は接地するように制御して、進行波及び反射波の強度及び位相差を測定するとよい。
【0026】
進行波及び反射波の強度や位相差の変化が小さい場合に、制御部24からの制御信号によって、進行波及び反射波の強度が大きくなる条件に試験用周波数を変えて、進行波及び反射波の強度及び位相差を測定してもよい。周波数fの関数として、コンデンサC1~CXのインピーダンスZcは1/(2πfC)で表され、コイルL1~LXのインピーダンスZLは2πfLで表される。このためキャパシタンスが小さいコンデンサC1~CXやインダクタンスが小さいコイルL1~LXを開閉するスイッチKC1~KCX、KL1~KLXは高い試験用周波数で診断し、キャパシタンスが大きいコンデンサC1~CXやインダクタンスが大きいコイルL1~LXを開閉するスイッチKC1~KCX、KL1~KLXは低い試験用周波数で診断すると、スイッチの故障を容易に判定できる。
【0027】
すなわち、コンデンサC1~CXやコイルL1~LXの自己共振点の問題から、キャパシタンスを最大とし、かつインダクタンスを最大とした回路における自己共振点の周波数より低い周波数で診断を実施するとよい。周波数を変更しない場合に、キャパシタンスやインダクタンスが小さいと診断が困難になるが、周波数を変更すると、スイッチKC1~KCX、KL1~KLXの故障を容易に判定できる。
【0028】
制御部24は、負荷切替回路23によって、アンテナ負荷を切り離して、開放、接地又は抵抗終端のいずれかに切り替え、また、制御信号によって試験用周波数を変えて、進行波及び反射波の強度及び位相差を測定するので、アンテナ30の接続時より測定条件が安定し、整合器20の動作を正確に診断できる。
【0029】
以上に説明したように、本発明の実施例によると、整合回路22に用いられる素子の不具合を容易に検出できる。すなわち、整合回路22に用いられる全てのスイッチKC1~KCX、KL1~KLXが動作しているかを確認できる。これにより、試験中での偶発故障や納入先での寿命故障においても、特別な試験を行うことなく、容易に故障を検出できる。また、故障部位を特定できるので、迅速に故障が診断でき、保守や修理の時間を短縮できる。
【0030】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。
【0031】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウエアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウエアで実現してもよい。
【0032】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0033】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0034】
10 無線機
11 送受信器
12 増幅器
20 整合器
21 検出部
22 整合回路
23 負荷切替回路
24 制御部
30 アンテナ
C1~CX コンデンサ
L1~LX コイル
KC1~KCX、KL1~KLX、K1 スイッチ
図1
図2
図3