(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/12 20200101AFI20241107BHJP
B60W 40/04 20060101ALI20241107BHJP
B60W 40/107 20120101ALI20241107BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B60W30/12
B60W40/04
B60W40/107
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2021203419
(22)【出願日】2021-12-15
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】石川 翔太
(72)【発明者】
【氏名】新穂 那奈
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 瞬
(72)【発明者】
【氏名】後藤 建
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-158090(JP,A)
【文献】国際公開第2020/208989(WO,A1)
【文献】特開2019-130995(JP,A)
【文献】国際公開第2021/261227(WO,A1)
【文献】特開2010-285139(JP,A)
【文献】特開2020-123090(JP,A)
【文献】特開2021-157403(JP,A)
【文献】特開2015-098243(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0151725(US,A1)
【文献】特表2005-524135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/12
B60W 40/04
B60W 40/107
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周辺状況を認識する認識部と、
前記認識部の認識結果に基づいて、目標軌道を生成する軌道生成部と、
前記目標軌道に沿って自車両が走行するように走行用アクチュエータを制御する制御部と、
前記認識部により自車線内または自車線に隣接する隣接車線内で対象物が認識されると、前記対象物との相対速度に基づき自車両および前記対象物のいずれか一方がいずれか他方の側方を通過する通過走行の有無を予測する予測部と、を備え、
前記軌道生成部は、前記予測部により
自車両が前記対象物の側方を後方から通過する前記通過走行があると予測されると、自車両が前記対象物に対し車幅方向にオフセットしたオフセット走行を行うように
前記目標軌道を生成
し、
前記予測部は、前記オフセット走行から復帰しているときに自車両が交差点に進入するか否かをさらに予測し、
前記軌道生成部はさらに、前記予測部により前記オフセット走行から復帰しているときに自車両が前記交差点に進入すると予測されると、前記オフセット走行から復帰するときの自車両の車幅方向の加速度が所定値以下となるように、前記目標軌道を生成することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
自車両の周辺状況を認識する認識部と、
前記認識部の認識結果に基づいて、目標軌道を生成する軌道生成部と、
前記目標軌道に沿って自車両が走行するように走行用アクチュエータを制御する制御部と、
前記認識部により自車線内または自車線に隣接する隣接車線内で対象物が認識されると、前記対象物との相対速度に基づき自車両および前記対象物のいずれか一方がいずれか他方の側方を通過する通過走行の有無を予測する予測部と、を備え、
前記軌道生成部は、前記予測部により前記対象物が自車両の側方を後方から通過する前記通過走行があると予測されると、自車両が前記対象物に対し車幅方向にオフセットしたオフセット走行を行うように前記目標軌道を生成し、
前記予測部は、前記オフセット走行へ移行しているときに自車両が交差点に進入するか否かをさらに予測し、
前記軌道生成部はさらに、前記予測部により前記オフセット走行へ移行しているときに自車両が前記交差点に進入すると予測されると、前記オフセット走行へ移行しているときおよび前記オフセット走行から復帰しているときの自車両の車幅方向の加速度が所定値以下となるように、前記目標軌道を生成することを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
自車両の周辺状況を認識する認識部と、
前記認識部の認識結果に基づいて、目標軌道を生成する軌道生成部と、
前記目標軌道に沿って自車両が走行するように走行用アクチュエータを制御する制御部と、
前記認識部により自車線内または自車線に隣接する隣接車線内で対象物が認識されると、前記対象物との相対速度に基づき自車両および前記対象物のいずれか一方がいずれか他方の側方を通過する通過走行の有無を予測する予測部と、を備え、
前記軌道生成部は、前記予測部により前記通過走行があると予測されると、自車両が前記対象物に対し車幅方向にオフセットしたオフセット走行を行うように、且つ、前記オフセット走行へ移行しているときまたは前記オフセット走行から復帰しているときの自車両の車幅方向の加速度が所定値以下となるように、前記目標軌道を生成し、
前記予測部は、前記オフセット走行中に自車両が交差点に進入し該交差点を前記オフセット走行のオフセット方向と同じ方向に旋回するか否かをさらに予測し、
前記軌道生成部はさらに、前記予測部により自車両が前記交差点を前記オフセット走行のオフセット方向と同じ方向に旋回すると予測されると、前記オフセット走行を前記交差点まで継続するように、前記目標軌道を生成することを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の車両制御装置において、
前記所定値は、乗員が自車両の車幅方向の移動を感知できる弁別閾値より小さい値に設定されることを特徴とする車両制御装置。
【請求項5】
請求項1から
4のうちのいずれか1項に記載の車両制御装置において、
前記軌道生成部は、前記対象物との相対速度の絶対値が所定閾値よりも大きいか否かを判定し、前記絶対値が前記所定閾値
以下であるとき、前記所定値に第1移動量を設定し、前記絶対値が前記所定閾値
よりも大きいとき、前記所定値に前記第1移動量よりも小さい第2移動量を設定することを特徴とする車両制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のうちのいずれか1項に記載の車両制御装置において、
前記軌道生成部は、前記所定値に前記対象物の属性に基づき決定した値を設定することを特徴とする車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行動作を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、従来、自車両が走行する車線に隣接する隣接車線を走行する隣接車両の位置を測定し、その測定結果に従って自車両の車線幅方向の位置を変化させるようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の装置のように単に隣接車両の位置に従って自車両の走行位置を変化させると、乗員に違和感を与え、乗員の乗り心地を悪化させるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である車両制御装置は、自車両の周辺状況を認識する認識部と、認識部の認識結果に基づいて、目標軌道を生成する軌道生成部と、目標軌道に沿って自車両が走行するように走行用アクチュエータを制御する制御部と、認識部により自車線内または自車線に隣接する隣接車線内で対象物が認識されると、対象物との相対速度に基づき自車両および対象物のいずれか一方がいずれか他方の側方を通過する通過走行の有無を予測する予測部と、を備える。軌道生成部は、予測部により自車両が対象物の側方を後方から通過する通過走行があると予測されると、自車両が対象物に対し車幅方向にオフセットしたオフセット走行を行うように、且つ、オフセット走行へ移行しているときまたはオフセット走行から復帰しているときの自車両の車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。予測部は、オフセット走行から復帰しているときに自車両が交差点に進入するか否かをさらに予測する。軌道生成部はさらに、予測部によりオフセット走行から復帰しているときに自車両が交差点に進入すると予測されると、オフセット走行から復帰するときの自車両の車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、乗員の乗り心地を低減させることなく、対象物との車幅方向の接近を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】本発明の実施形態に係る車両制御装置の要部構成を概略的に示すブロック図。
【
図3】
図2のコントローラで実行される処理の一例を示すフローチャート。
【
図4A】
図3の処理により生成されるオフセット走行軌道の一例を示す図。
【
図4B】
図3の処理により生成されるオフセット走行軌道の他の例を示す図。
【
図5】オフセット復帰軌道が交差点にかかる場合の走行シーンの一例を示す図。
【
図6】オフセット開始軌道が交差点にかかる場合の走行シーンの一例を示す図。
【
図7A】回避すべき車両が複数存在する走行シーンの一例を示す図。
【
図7B】回避すべき車両が連なって存在する走行シーンの一例を示す図。
【
図7C】車両がオフセット方向に交差点を旋回する走行シーンの一例を示す図。
【
図8A】オフセット走行中の自車両がカーブ路に進入する走行シーンの一例を示す図。
【
図8B】回避すべき車両の前方に停止線が存在する走行シーンの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1A~
図8Bを参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る車両制御装置は、自動運転機能を有する車両、すなわち自動運転車両に適用することができる。なお、本実施形態に係る車両制御装置が適用される車両を、他車両と区別して自車両と呼ぶことがある。自車両は、内燃機関(エンジン)を走行駆動源として有するエンジン車両、走行モータを走行駆動源として有する電気自動車、エンジンと走行モータとを走行駆動源として有するハイブリッド車両のいずれであってもよい。自車両は、ドライバによる運転操作が不要な自動運転モードでの走行だけでなく、ドライバの運転操作による手動運転モードでの走行も可能である。
【0009】
図1Aおよび
図1Bは、車両の走行シーンの例を示す図である。
図1Aには、左側通行の片側3車線の道路RDの左端の車線LN1を車速V11で走行する車両VH1が、中央の車線LN2を車速V12(<V11)で走行する車両VH2の側方を通過するときの様子が示されている。車両VH1は、自動運転モードで走行中であり、車両VH2は、手動運転モードで走行中である。
【0010】
図1Aにおいて、自動運転モードで走行中の車両VH1が車両VH2の側方を通過するとき、車両VH1は、車両VH2との接近による乗員への圧迫感を軽減するように、車両VH2との車幅方向の間隔が所定長さ以上確保されるように、走行軌道を左側にオフセットさせる。車両VH2の側方を通過すると、車両VH1は、走行軌道をオフセット前の位置(車線中央)に戻す。このとき、車両VH1の走行軌道を車線中央に向けて急激に変化させると、乗員が、車両VH1が車線LN2へ車線変更しようとしていると勘違いする可能性がある。図中の
矢印線OTは、オフセットされた車両VH1の走行軌道(以下、オフセット走行軌道と呼ぶ。)を表す。
【0011】
図1Bには、道路RDの車線LN2を車速V22で走行する車両VH2が、車線LN1を車速V21(<V22)で走行する車両VH1の側方を通過するときの様子が示されている。
図1Bにおいて、自動運転モードで走行中の車両VH1は、後方から接近する車両VH2を認識すると、車両VH2との接近による乗員への圧迫感を軽減するように、車両VH2との車幅方向の間隔が所定長さ以上確保されるように、走行軌道を左側にオフセットさせる。このとき、乗員が後方から接近する車両VH2を認識できていない場合、乗員は、車両VH1が走行軌道をオフセットさせる理由を理解できず、違和感を覚える可能性がある。
【0012】
このように、車両VH1が車両VH2の側方を通過するとき、または、車両VH2が車両VH1の側方を通過するときに車両VH1の走行軌道をオフセットさせると、走行軌道の変化の度合いによっては乗員に違和感を与える可能性があり、乗員の乗り心地を低下させるおそれがある。そこで、本実施形態では、以下のように車両制御装置を構成する。
【0013】
図2は、本発明の実施形態に係る車両制御装置100の要部構成を概略的に示すブロック図である。
図2に示すように、車両制御装置100は、コントローラ10と、コントローラ10にそれぞれ通信可能に接続された通信ユニット1と、測位センサ2と、車速センサ3と、カメラ4と、アクチュエータACとを有する。
【0014】
通信ユニット1は、インターネット網や携帯電話網等に代表される無線通信網を含むネットワークを介して図示しない各種装置と通信し、地図情報および交通情報などを定期的に、あるいは任意のタイミングで取得する。ネットワークには、公衆無線通信網だけでなく、所定の管理地域ごとに設けられた閉鎖的な通信網、例えば無線LAN、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)等も含まれる。
【0015】
測位センサ2は、測位衛星から送信された測位用の信号を受信する。測位衛星は、GPS衛星や準天頂衛星などの人工衛星である。測位センサ2が受信した測位情報を利用して、自車両の現在位置(緯度、経度、高度)が測定される。測位センサ2は、自車両の位置を検出するために用いられる。したがって、測位センサ2に代えて自車両から対象物(道路上の物体)までの距離を検出する距離検出器(レーダやライダ等)を用いることもできる。この場合、記憶部12に記憶された地図情報から得られる道路に設置された物体の位置情報と測位センサ2により得られた物体までの距離情報とに基づき、自車両の位置が検出される。測位センサ2として、測位用信号の受信と距離検出器を併用しても良い。車速センサ3は、自車両の車速を検出する。
【0016】
カメラ4は、CCDやCMOS等の撮像素子(イメージセンサ)を有する。カメラ4は、単眼カメラであってもよいしステレオカメラであってもよい。カメラ4は、自車両の周囲を撮像する。カメラ4は、例えば自車両の所定位置(前部や後部)に取り付けられ、自車両の周囲の空間を連続的に撮像し、対象物の画像データ(以下、撮像画像データまたは単に撮像画像と呼ぶ)を取得する。
【0017】
アクチュエータACは、自車両の走行を制御するための走行用アクチュエータである。走行駆動源がエンジンである場合、アクチュエータACには、エンジンのスロットルバルブの開度(スロットル開度)を調整するスロットル用アクチュエータが含まれる。走行駆動源が走行モータである場合、走行モータがアクチュエータACに含まれる。自車両の制動装置を作動するブレーキ用アクチュエータと転舵装置を駆動する転舵用アクチュエータもアクチュエータACに含まれる。
【0018】
コントローラ10は、電子制御ユニット(ECU)により構成される。より具体的には、コントローラ10は、CPU(マイクロプロセッサ)等の演算部11と、ROM,RAM等の記憶部12と、I/Oインターフェース等の図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。なお、エンジン制御用ECU、走行モータ制御用ECU、制動装置用ECU等、機能の異なる複数のECUを別々に設けることができるが、
図2では、便宜上、これらECUの集合としてコントローラ10が示される。
【0019】
記憶部12には、高精度の詳細な地図情報(高精度地図情報と呼ぶ)が記憶される。高精度地図情報には、道路の位置情報、道路形状(曲率など)の情報、道路の勾配の情報、交差点や分岐点の位置情報、車線数の情報、制限速度、車線の幅員および車線毎の位置情報(車線の中央位置や車線位置の境界線の情報)、地図上の目印としてのランドマーク(信号機、建物等)の位置情報、道路標識の情報(位置、種類、規制情報等)、路面の凹凸などの路面プロファイルの情報が含まれる。記憶部12には、各種制御のプログラム、プログラムで用いられる閾値等の情報も記憶される。
【0020】
演算部11は、機能的構成として、認識部111と、軌道生成部112と、制御部113と、予測部114とを有する。
【0021】
認識部111は、カメラ4により得られた撮像画像に基づき、自車両の周辺状況を認識する。
【0022】
予測部114は、認識部111により自車両が走行する車線(以下、自車線と呼ぶ。)内または自車線に隣接し進行方向が同じである車線(以下、隣接車線と呼ぶ。)内で他車両が認識されると、車速センサ3により検出された自車両101の走行速度と、認識部111により認識された他車両の走行速度とに基づき、他車両との相対速度を算出する。予測部114は、他車両との相対速度に基づき自車両および他車両のいずれか一方がいずれか他方の側方を通過する通過走行の有無を予測する。
【0023】
軌道生成部112は、認識部111の認識結果に基づいて、目標軌道を生成する。軌道生成部112は、予測部114により通過走行があると予測されると、自車両が他車両に対し車幅方向にオフセットしたオフセット走行を行うように、且つ、オフセット走行へ移行しているときまたはオフセット走行から復帰しているときの自車両の車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。この所定値は、乗員が車両の横移動(車幅方向の移動)を感知できる弁別閾値より小さい値であり、例えば、官能評価等の結果に基づいて予め設定される。
【0024】
以下、オフセット走行軌道のうち、オフセット走行に移行しているときの走行軌道(目標軌道)をオフセット開始軌道、または単に開始軌道と呼ぶ。また、オフセット走行中の軌道、すなわちオフセット走行を継続しているときの走行軌道をオフセット継続軌道、または単に継続軌道と呼ぶ。さらに、オフセット走行から復帰しているときの走行軌道をオフセット復帰軌道、または単に復帰軌道と呼ぶ。
【0025】
軌道生成部112は、予測部114により自車両が他車両の側方を後方から通過すると予測されると、自車両がオフセット走行から復帰するときの車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。一方、予測部114により他車両が自車両の側方を後方から通過する通過走行があると予測されると、軌道生成部112は、自車両がオフセット走行へ移行するときの車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。
【0026】
制御部113は、目標軌道に沿って自車両が走行するようにアクチュエータACを制御する。
【0027】
図3は、
図2のコントローラ10で実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えば、自車両が自動運転モードで走行中に所定周期で実行される。
【0028】
図3に示されるように、まず、ステップS1で、認識部111により認識された自車両の周辺状況に基づいて自車線内または隣接車線内で他車両が認識されると、他車両との相対速度に基づいて通過走行の有無を予測する。
【0029】
ステップS1で否定されると、処理を終了する。ステップS1で肯定されると、ステップS2で、ステップS1で予測された通過走行が、自車両が他車両の側方を後方から通過する通過走行であるか否かを判定する。ステップS2で否定されると、すなわち、ステップS1で予測された通過走行が、他車両が自車両の側方を後方から通過する通過走行であるとき、ステップS3で、オフセット開始軌道を長くするように目標軌道を生成する。より具体的には、オフセット走行に移行しているときの自車両の車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。
【0030】
ステップS2で肯定されると、すなわち、ステップS1で予測された通過走行が、自車両が他車両の側方を後方から通過する通過走行であるとき、ステップS4で、オフセット復帰軌道を長くするように目標軌道を生成する。より具体的には、オフセット走行から復帰しているときの自車両の車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。
【0031】
図4Aおよび
図4Bは、
図3の処理により生成されるオフセット走行軌道の例を示す図である。
図4Aに示すように、車両制御装置100が適用された車両(自車両)101が他車両102の側方を後方から通過する場合、自車両101がオフセット走行から復帰するときの車幅方向の加速度が所定値以下となるように、オフセット復帰軌道RTが生成される。一方、
図4Bに示すように、他車両102が自車両101の側方を後方から通過する場合、自車両101がオフセット走行に移行するときの車幅方向の加速度が所定値以下となるように、オフセット開始軌道STが生成される。なお、オフセット走行に移行するときに乗員が気が付かない程度の加速度(車幅方向の加速度)で自車両101を横移動させた後、他車両102が通過した後に、乗員が気が付く程度以上の加速度(車幅方向の加速度)でオフセット前の位置まで自車両101を横移動させると、乗員に違和感や不安感を与える可能性がある。したがって、他車両102が自車両101の側方を後方から通過する場合には、オフセット開始軌道STだけでなくオフセット復帰軌道RTも、自車両101の車幅方向の加速度が所定値以下となるように生成される。
【0032】
ところで、
図4Aおよび
図4Bに示す走行シーン以外の走行シーンにおいても、オフセット走行に移行するときやオフセット走行から復帰するときに自車両101の乗員に違和感を与える場合がある。以下、それらの走行シーンについて、
図5~
図8Bを参照して説明する。
【0033】
図5は、オフセット開始軌道が交差点にかかる場合の走行シーンの一例を示す図である。
図6は、オフセット復帰軌道が交差点にかかる場合の走行シーンの一例を示す図である。交差点には区画線がないため、交差点内で自車両101の走行軌道がオフセットされると、乗員は自車両101がどの方向に向かって走っているのかが分からなくなり、不安感を抱くおそれがある。そこで、軌道生成部112は、オフセット走行軌道が交差点に係る場合には、交差点内における自車両101の車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。
【0034】
より詳細には、オフセット復帰軌道RTが交差点にかかる場合には、軌道生成部112は、図6に示すように、オフセット走行から復帰しているときの自車両101の車幅方向の加速度が所定値以下となるようにオフセット復帰軌道RTを生成する。また、オフセット開始軌道STが交差点にかかる場合には、軌道生成部112は、図5に示すように、オフセット走行に移行しているときの自車両101の車幅方向の加速度が所定値以下となるようにオフセット開始軌道STを生成する。
【0035】
図7Aは、オフセット走行により回避すべき車両等(以下、回避対象と呼ぶ。)が複数存在する走行シーンの一例を示す図である。
図7Aには、自車線LN1内に回避対象である他車両(駐車車両)102の前方に回避対象である他車両(駐車車両)103が存在し、さらに、各回避対象に対する自車両101のオフセット方向が同じである走行シーンが例示されている。
図7Aの走行シーンにおいて、自車両101が他車両102の側方を通過した後にオフセット走行から一旦復帰した後に他車両103を回避するためのオフセット走行を開始すると、自車両101がふらつくような挙動をさせてしまう走行軌道が生成される可能性がある。
【0036】
そこで、
図7Aに示すような走行シーンでは、軌道生成部112は、自車両101が他車両103の側方を通過するまでオフセット走行が継続するように、オフセット継続軌道CTを長くする。これにより、自車両101がふらつくような挙動をさせてしまう走行軌道が生成されることを抑制できる。
【0037】
図7Bは、回避対象が連なって存在する走行シーンの一例を示す図である。
図7Bでは、低速で走行する他車両107の後方に、他車両102,104,105,106が連なって走行している。
図7Bの走行シーンにおいて、自車両101が他車両102の側方を通過した後にオフセット走行から復帰するために走行軌道を車線中央に戻そうとすると、自車両101が車列CVに接近するため、自車両101の乗員に不安感を与えるおそれがある。また、各回避対象に対してオフセット走行を個別に実行すると、自車両101がふらつくような挙動をさせてしまう走行軌道が生成される可能性がある。
【0038】
そこで、
図7Bに示すような走行シーンでは、軌道生成部112は、自車両101が車列CVを通過するまでオフセット走行が継続するように、オフセット継続軌道CTを長くする。このように車列CVに対してオフセット走行を実行することにより、自車両101がオフセット走行時に車列CVに接近することを防止でき、乗員の不安感を低減できる。また、自車両101がふらつくような挙動をさせてしまう走行軌道が生成されることを抑制できる。
【0039】
図7Cは、自車両101がオフセット方向に交差点ISを旋回する走行シーンの一例を示す図である。
図7Cには、自車両101が、他車両102を回避するように走行軌道を左側(図の上側)にオフセットさせた後に交差点ISを左折する走行シーンが例示されている。自車両101は、交差点ISを左折する際、道路交通法に従って車線LN1の左側端に寄って走行する必要がある。したがって、
図7Cにおいて、自車両101が他車両102の側方を通過した後にオフセット走行から復帰するために走行軌道を車線中央に戻すと、自車両101がふらつくような挙動をさせてしまう走行軌道が生成される可能性がある。
【0040】
そこで、
図7Cに示すような走行シーンでは、軌道生成部112は、自車両101が交差点ISに進入するまでオフセット走行が継続するように、オフセット継続軌道CTを長くする。これにより、オフセット方向と同じ方向に交差点を旋回するときに発生し得る上述したような走行軌道、すなわち、自車両101がふらつくような挙動をさせてしまう走行軌道が生成されることを抑制できる。
【0041】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)車両制御装置100は、自車両101の周辺状況を認識する認識部111と、認識部111の認識結果に基づいて、目標軌道を生成する軌道生成部112と、目標軌道に沿って自車両101が走行するように走行用アクチュエータACを制御する制御部113と、認識部111により自車線内または自車線に隣接する隣接車線内で他車両102が認識されると、他車両102との相対速度に基づき自車両101および他車両102のいずれか一方がいずれか他方の側方を通過する通過走行の有無を予測する予測部114と、を備える。軌道生成部112は、予測部114により通過走行があると予測されると、自車両101が他車両102に対し車幅方向にオフセットしたオフセット走行を行うように、且つ、オフセット走行へ移行しているときまたはオフセット走行から復帰しているときの自車両101の車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。所定値は、乗員が自車両101の車幅方向の移動を感知できる弁別閾値より小さい値に設定される。これにより、乗員の乗り心地を低減させることなく、他車両との車幅方向の接近を回避することができる。また、他車両との接触を防止することができ、交通の安全性を向上できる。さらに、上記実施形態を公共交通機関に適用することでバス等がスムーズに経路走行できるようになり、ユーザの利便性を向上できる。
【0042】
(2)軌道生成部112は、予測部114により自車両101が他車両102の側方を後方から通過する通過走行があると予測されると、自車両101がオフセット走行から復帰するときの車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。また、軌道生成部112は、予測部114により他車両102が自車両101の側方を後方から通過する通過走行があると予測されると、自車両101がオフセット走行へ移行するときおよびオフセット走行から復帰するときの車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。これにより、乗員に気付かれない程度の移動量でオフセット走行への移行、および、オフセット走行からの復帰を行うことができ、自車両101の横移動による乗員の違和感を低減できる。
【0043】
(3)予測部114は、オフセット走行から復帰しているときに自車両101が交差点に進入するか否かをさらに予測する。軌道生成部112は、予測部114によりオフセット走行から復帰しているときに自車両101が交差点に進入すると予測されると、自車両101がオフセット走行から復帰するときの車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。また、予測部114は、オフセット走行へ移行しているときに自車両101が交差点に進入するか否かをさらに予測する。軌道生成部112は、予測部114によりオフセット走行へ移行しているときに自車両101が交差点に進入すると予測されると、自車両101がオフセット走行へ移行するときの車幅方向の加速度が所定値以下となるように、目標軌道を生成する。これにより、区画線がない交差点にオフセット開始軌道またはオフセット復帰軌道がかかる場合に発生し得る乗員への違和感を低減できる。
【0044】
(4)予測部114は、オフセット走行中に自車両101が交差点に進入し該交差点をオフセット走行のオフセット方向と同じ方向に旋回するか否かをさらに予測する。軌道生成部112は、予測部114により自車両101が交差点をオフセット走行のオフセット方向と同じ方向に旋回すると予測されると、オフセット走行を交差点まで継続するように、目標軌道を生成する。これにより、オフセット方向と同じ方向に交差点を旋回するときに発生し得る上述したような走行軌道、すなわち自車両101がふらつくような挙動をさせてしまう走行軌道が生成されることを抑制できる。
【0045】
上記実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、いくつかの変形例について説明する。上記実施形態では、カメラ4により自車両101の周囲を撮像するようにしたが、自車両101の周囲の状況を検出するのであれば、車載検出器の構成はいかなるものでもよい。例えば、車載検出器は、レーダやライダであってもよい。また、上記実施形態では、カメラ4により得られた撮像画像に基づき、自車両101の周辺状況を認識するようにしたが、認識部の構成は上述したものに限らない。認識部は、通信ユニット1を介した路車間通信や車車間通信により得られた情報に基づき、自車両101の周辺状況を認識してもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、軌道生成部112が、自車両101の車幅方向の加速度が所定値以下となるように、自車両101のオフセット復帰軌道を生成するようにした。しかしながら、オフセット復帰軌道を生成する際、軌道生成部は、自車両101のヨー角速度やヨー角加速度が所定値以下となるように、自車両101のオフセット復帰軌道を生成してもよい。他車両102との相対速度が大きい場合、例えば、他車両102が停止しているところに自車両101が速い速度で通過する場合、乗員の不安感を増大させるおそれがある。このような問題に対処するため、軌道生成部は、他車両102との相対速度が所定閾値よりも大きいか否かを判定し、相対速度の絶対値が所定閾値以下であるとき、所定値に第1移動量を設定し、相対速度の絶対値が所定閾値よりも大きいとき、所定値に第1移動量よりも小さい第2移動量を設定してもよい。また、他車両102との相対速度が大きい場合に、自車両101がオフセット走行から復帰するときの車幅方向の加速度がより小さくなるように、すなわち、オフセット復帰軌道がより長くなるように、オフセット復帰軌道を生成することにより、上記のような乗員の不安感を低減できる。また、オフセット復帰軌道を生成する際、軌道生成部は、他車両102との相対距離が所定距離よりも大きいか否かを判定し、相対距離が所定距離よりも長いとき、所定値に第1移動量を設定し、相対距離が所定距離以下であるとき、所定値に第1移動量よりも小さい第2移動量を設定してもよい。
【0047】
これにより、他車両102の相対速度や相対距離に応じてオフセット復帰軌道の長さ(前後方向の長さ)が調整されるので、オフセット走行から復帰しているときに他車両102と接近しすぎたり、オフセット走行軌道が不要に長く設定されたりすることを抑制できる。また、軌道生成部は、他車両102の属性に基づき決定した値を所定値に設定してもよい。例えば、軌道生成部は、他車両102が車幅の比較的小さい車両(自動二輪車など)であるときには、他車両102が車幅の比較的大きい車両(トラックやバスなど)であるときよりも所定値を小さく設定してもよい。また例えば、軌道生成部は、他車両102の車長に応じて所定値を設定してもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、軌道生成部112は、他車両102との車幅方向の間隔が所定長さ以上確保されるように、走行軌道を他車両102から離れる方向にオフセットさせるようにした。しかしながら、軌道生成部は、他車両102との車幅方向の間隔が他車両102の属性に基づき決定した長さ以上確保されるように、走行軌道をオフセットさせてもよい。例えば、他車両102の車幅が大きいほど他車両102との車幅方向の間隔を長くするように、走行軌道をオフセットさせてもよい。また、ステップS1で他車両102との車幅方向の間隔が所定長さ以上であると認識されたときには、自車両101の走行軌道をオフセットさせる処理(ステップS2~S8)を実行しないようにしてもよい。
【0049】
なお、自車両101が他車両102の側方を通過しているときまたは通過した後に他車両102が加速した場合、ステップS4で生成されたオフセット復帰軌道に従ってオフセット走行から復帰しようとすると、他車両102と接近または接触するおそれがある。そこで、このような問題を解消するため、軌道生成部は、他車両102との相対速度が所定閾値より大きいか否かの判定をオフセット走行中に行ってもよい。同様に、軌道生成部は、他車両102との相対距離が所定距離より大きいか否かの判定をオフセット走行中に行ってもよい。これにより、オフセット走行中に他車両102が加速した場合でも、他車両102と接近および接触することなく、オフセット走行から復帰できる。また、オフセット走行中に別の他車両が接近してきた場合も同様に、その車両と接近および接触することなくオフセット走行から復帰できる。
【0050】
また、自車両101が走行中の道路RDの構造に応じて、オフセット復帰軌道の長さを調整してもよい。
図8Aは、オフセット走行中の自車両101がカーブ路に進入する走行シーンの一例を示す図である。
図8Aに示すように、カーブ路の外側(図の上側)に走行軌道がオフセットされた状態で自車両101がカーブ路に進入すると、自車両101がカーブ路をコースアウトするおそれがある。したがって、このような場合には、軌道生成部は、自車両101が車線中央にできるだけ早く復帰できるように、ステップS4で生成されたオフセット復帰軌道を短くしてもよい。より具体的には、軌道生成部は、オフセット走行から復帰するときの自車両の車幅方向の加速度をより大きな値に更新してもよい。
図8Aの破線矢印は、ステップS4で生成されたオフセット復帰軌道RTを表し、実線矢印RTは、更新後のオフセット復帰軌道を表す。
【0051】
さらに、道路RDの状況に応じて、オフセット復帰軌道の長さを調整してもよい。
図8Bは、回避対象の前方に停止線が存在する走行シーンの一例を示す図である。
図8Bに示すように、回避対象である他車両102の前方に交差点ISが存在し、信号機SGが停止信号であるとき、自車両101は停止線SLで停止する必要がある。このとき、走行軌道が隣接車線(車線LN2)側にオフセットされたままの状態で自車両101が停止線SLで停止すると、隣接車線の他車両の乗員に圧迫感を与えるおそれがある。したがって、このような場合には、軌道生成部は、自車両101が停止線SLより手前で車線中央に戻るように、オフセット復帰軌道の長さを調整してもよい。例えば、軌道生成部は、通信ユニット1を介した路車間通信や車車間通信により得られた信号機SGの切換予定情報に基づき、停止線SLより手前で車線中央に戻ることができないと予測されるとき、ステップS4で生成されたオフセット復帰軌道RTを短くしてもよい。切換予定情報は、信号機の現在の表示状態や信号機の表示の切り換えタイミングを特定可能な情報である。
【0052】
さらに、上記実施形態では、乗員に気付かれない程度の移動量でオフセット走行への移行、および、オフセット走行からの復帰を行うようにしたが、自車両101の横移動による乗員の違和感をさらに低減するように、自車両101が横移動することを乗員に報知してもよい。例えば、制御部は、オフセット走行の開始時やオフセット走行からの復帰時に、車内に設置されたスピーカ(不図示)やディスプレイ(不図示)を制御して、自車両101が横移動することを乗員に報知してもよい。
【0053】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の一つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 通信ユニット、2 測位センサ、3 車速センサ、4 カメラ、10 コントローラ、12 記憶部、111 認識部、112 軌道生成部、113 制御部、114 予測部、AC アクチュエータ