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特許7583730酸化物、固体電解質、および全固体リチウムイオン二次電池
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  • 特許-酸化物、固体電解質、および全固体リチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】酸化物、固体電解質、および全固体リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/50 20060101AFI20241107BHJP
   C01G 29/00 20060101ALI20241107BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241107BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20241107BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241107BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241107BHJP
【FI】
C04B35/50
C01G29/00
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M10/052
H01M10/0562
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021548753
(86)(22)【出願日】2020-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2020033751
(87)【国際公開番号】W WO2021059939
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2019177871
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 和章
(72)【発明者】
【氏名】狩野 源太
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109888374(CN,A)
【文献】国際公開第2018/085847(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0064785(US,A1)
【文献】国際公開第2017/135461(WO,A1)
【文献】特開2013-243111(JP,A)
【文献】特開2016-171068(JP,A)
【文献】国際公開第2019/032514(WO,A1)
【文献】YUE Jiang et al.,Investigation of Mg2+ Sc3+ and Zn2+ doping effect,SOLID STATE IONICS,2017年02月,Volume 300,Pages 73-77,抄録、2.図5
【文献】YAN Chen et al.,Origin of High Li+ Conduction in Doped Li7La3Zr2O1,CHEM. MATER.,2015年,Vol.27,p.5491-5494,P.5491左欄、図1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
H01M 10/0562、10/052
H01B 1/06、1/08
C01F 17/00
C01G 25/02、27/02、29/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、La、ZrおよびOを主要構成元素とするガーネット型酸化物であって、
前記主要構成元素と、置換元素としてZnおよびBiを含み、
Li (7-2j) Zn La (3-k) Bi Zr (12-δ) (0.15≦j≦0.45、0.05≦k≦1、0≦δ<1)で表される組成を有する、酸化物。
【請求項2】
Li、La、ZrおよびOを主要構成元素とするガーネット型酸化物であって、
前記主要構成元素と、置換元素としてZn、NbおよびHfを含み、
Li (7-4x+z) Hf La (3-2y/3) Zn Zr (2-z) Nb (12-δ) (0.05≦x<1.75、0.15≦y≦0.45、0.3≦z<2、0≦δ<1)で表される組成を有する、酸化物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の酸化物を含む、固体電解質。
【請求項4】
正極、負極、および前記正極と負極との間に配置された固体電解質層を備え、
前記固体電解質層が、請求項1または2に記載の酸化物を含む、全固体リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物、ならびに該酸化物を含む固体電解質および全固体リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノートパソコンの電源としてリチウムイオン二次電池が普及している。現状では、リチウムイオン二次電池には液状の電解質(電解液)が広く用いられているが、車載用等への用途拡大のため、安全性が高く、より高容量高出力の二次電池として、固体電解質を用いた全固体二次電池等の開発が進められている。
【0003】
全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質の候補として、ガーネット型酸化物であるLiLaZr12(LLZ)が注目されている。ガーネット型酸化物は、一般的に、A12の組成式で表され、立方晶の構造を有する。LLZでは,Aサイト(12面体配位)をLa3+,Bサイト(6面体配位)をZr4+,Cサイト(4面体配位)および格子間位置(8面体配位)をLiが占有しており、一般的なガーネット型構造と比較して過剰なLiを含んでおり、特異な結晶構造を有することが、固体状態において高いリチウムイオン伝導性を示す一因とされている。
【0004】
さらに、LLZに様々な添加元素を導入したLLZ系酸化物が報告されている。例えば、特許文献1では、LLZの基本元素であるLi,La,Zrに加えて、置換元素としてAlを添加することにより、緻密性やリチウムイオン伝導率が向上することが報告されている。特許文献2では、置換元素としてNbおよび/またはTaを添加することにより、リチウムイオン伝導率がさらに向上することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-51800号公報
【文献】特開2011-73962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体電解質材料として、より高いイオン伝導性、リチウムイオン安定性等の観点から、新たな材料の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
LLZ系酸化物は、Li、La、ZrおよびOを主要構成元素とするガーネット型酸化物であり、主要構成元素に加えて、Zn等の置換元素を含む。
【0008】
LLZ系酸化物の置換元素は、Znに加えてBiを含んでいてもよく、例えば、Li(7-2j)ZnLa(3-k)BiZr(12-δ)(0<j<3.5、0<k<3、0≦δ<1)で表される組成を有していてもよい。
【0009】
LLZ系酸化物の置換元素は、Znに加えて、NbおよびHfからなる群から選択される1種以上の元素を含んでいてもよく、例えば、Li(7-4x+z)HfLa(3-2y/3)ZnZr(2-z)Nb(12-δ)(0<x<1.75、0≦y<3、0≦z<2、0≦δ<1、ただし、yおよびzのうち少なくともいずれか一方は0ではない)で表される組成を有していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
上記のLLZ系酸化物は、全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例の酸化物焼結体の断面SEM像である。
図2】実施例の酸化物焼結体の断面SEM像である。
図3】実施例の酸化物焼結体のX線回折チャートである。
図4】実施例の酸化物焼結体のX線回折チャートである。
図5】実施例の酸化物焼結体のX線回折チャートである。
図6】実施例の酸化物焼結体のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[酸化物]
本発明の一形態は、Li、La、ZrおよびOを主要構成元素とするガーネット型酸化物である。ガーネット型の結晶構造は立方晶系であるが、組成式LiLaZr12±δで表されるガーネット型酸化物(LLZ)は、立方晶相および正方晶相を有する。また、立方晶相には、形成条件や熱履歴等により低温立方晶相と高温立方晶相が存在することが知られている。そのため、LLZ、およびLLZの金属元素の一部を他の金属元素で置換した酸化物(LLZ系酸化物)の結晶構造は、一般的なガーネット型の結晶構造に加えて、ガーネット型類似の結晶構造を有し得る。本明細書においては、ガーネット型類似の結晶構造を有する場合も含めて、「ガーネット型酸化物」と記載する。ガーネット型酸化物は、単相でもよく2相以上の混合相でもよい。
【0013】
LLZは、酸素欠損を有していてもよい。組成式LiLaZr12-δにおいて、δが酸素欠損量を示す。δは0であってもよい。酸素欠損量δを厳密に測定することは困難であるが、一般にはδは1未満である。置換元素を有するLLZ系酸化物も酸素欠損を有していてもよい。
【0014】
本発明のLLZ系酸化物は、主要構成元素としてのLi、La、ZrおよびOに加えて、置換元素として少なくともZnを含む。置換元素としてのZnは、LLZのLiサイトおよび/またはZrサイトに導入されると考えられる。置換元素としてZnが導入されることにより、酸化物のイオン伝導率が向上する傾向がある。
【0015】
LLZ系酸化物は、Zn以外の置換元素を含んでいてもよい。Zn以外の置換元素としては、Bi,Nb,Ta,Na,K,Rb,Mg,Ca,Ba,Sr,Ce,B,Al,Ti,V,Cr,Fe,Ni,Sn,Ga,Ge,In,Sc,Y,Lu,Hf,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,W,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu等が挙げられる。
【0016】
本発明のLLZ系酸化物の第一実施形態では、Zn以外の置換元素としてBiを含む。置換元素としてのBiは、Laサイトに導入されると考えられる。置換元素としてZnとBiを含む場合、ZnはLiサイトに優先的に導入されると考えられる。そのため、置換元素としてZnとBiを含む第一実施形態のLLZ系酸化物は、組成式Li(7-2j)ZnLa(3-k)BiZr(12-δ)で表すことができる。ここで、0<j<3.5、0<k<3である。δは酸素欠損量であり、前述のように一般には1未満である。
【0017】
Znによる置換効果を高める観点から、Znの置換量jは、0.05以上が好ましく、0.08以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましく、0.12以上または0.15以上であってもよい。一方、Znによる置換量が過度に大きくなると、酸化物中のLi量の減少に伴って、イオン伝導率が低下する場合がある。そのため、jは、1以下が好ましく、0.7以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましく、0.4以下、0.3以下または0.2以下であってもよい。
【0018】
8配位のBi3+(イオン半径:1.17Å)と8配位のLa3+(イオン半径:1.16Å)は、イオン半径が略等しいため、Biの置換量kが変化しても、LLZ系酸化物の結晶構造には大きな差が生じない。そのため、Biの置換量kは、3未満の任意の範囲であり得る。kは、0.05以上、0.075以上、0.1以上または0.12以上であってもよく、1以下、0.75以下、0.5以下、0.3以下または0.2以下であってもよい。
【0019】
本発明のLLZ系酸化物の第二実施形態では、Zn以外の置換元素として、Nbおよび/またはHfを含む。置換元素としてのNbは、Zrサイトに導入されると考えられる。置換元素としてのHfは、Liサイトに導入されると考えられる。置換元素として、ZnとNbおよび/またはHfとを含む場合、ZnはLaサイトに優先的に導入されると考えられる。そのため、置換元素としてZnに加えてNbおよび/またはHfを含む第二実施形態のLLZ系酸化物は、組成式Li(7-4x+z)HfLa(3-2y/3)ZnZr(2-z)Nb(12-δ)で表すことができる。ここで、0<x<1.75、0≦y<3、0≦z<2である。ただし、yおよびzのうち少なくともいずれか一方は0ではない。置換元素としてHfを含む場合はx>0であり、置換元素としてNbを含む場合はz>0である。δは酸素欠損量であり、前述のように一般には1未満である。
【0020】
Znによる置換効果を高める観点から、Znの置換量yは、0.05以上が好ましく、0.08以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましく、0.12以上または0.15以上であってもよい。一方、Znによる置換量が過度に大きくなると、酸化物中のLi量の減少に伴って、イオン伝導率が低下する場合がある。そのため、yは、1以下が好ましく、0.7以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましく、0.4以下、0.3以下または0.2以下であってもよい。
【0021】
HfはLiに比べてイオン半径が小さいため、Hfの置換量xが大きくなると格子面間隔が小さくなる傾向があり、リチウムイオンの拡散経路が狭くなると考えられる。また、Hfの置換量xが大きくなると、酸化物中のLi量の減少に伴って、イオン伝導率が低下する場合がある。そのため、xは、1以下が好ましく、0.7以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましく、0.4以下、0.3以下または0.2以下であってもよい。Hfによる置換効果を得る観点から、Hfの置換量xは、0.01以上、0.05以上、0.08以上または0.1以上であってもよい。
【0022】
Nbの置換量zが大きくなると、酸化物中のLi量の増加に伴って、イオン伝導率が向上する場合がある。一方、Nbの置換量zが大きくなると、格子面間隔が小さくなる傾向があり、リチウムイオンの拡散経路が狭くなると考えられる。Nbの置換量zは、0.01以上、0.05以上、0.1以上、0.2以上、0.3以上または0.4以上であってもよく、1以下、0.8以下、0.7以下または0.6以下であってもよい。
【0023】
上記のように、LLZ系酸化物が、置換元素としてZn、Bi、Hf、Nb等を含むことにより、結晶構造(結晶相や格子定数)が変化することや、Liイオンの含有量が変化することが、LLZ系酸化物のイオン伝導率を変化させる要因になっていると考えられる。LLZ系酸化物が立方晶であることが好ましい。立晶のLLZ系酸化物は、高いイオン伝導率を示す傾向があり、特に結晶が単相である場合に、イオン伝導率が高くなる傾向がある。
【0024】
また、置換元素を含むことにより、焼結体における、空孔や異常粒成長等の欠陥の発生が抑制される場合がある。すなわち、Zn等の置換元素が、焼結助剤や粒子成長抑制剤等の作用を有し、LLZ系酸化物の焼結体の密度が上昇することも、イオン伝導率の向上に寄与していると考えられる。
【0025】
LLZ系酸化物の密度は、3.5g/cm以上であることが好ましく、3.8g/cm以上、4.0g/cm以上、4.2g/cm以上、または4.4g/cm以上であってもよい。酸化物の密度は、ペレットの質量と体積に基づいて算出できる。例えば円柱状のペレットの場合、マイクロメーターにてペレットの直径を数箇所測定して平均値とし、厚みも同様にマイクロメーターにて複数箇所測定して平均値として、これらの数値から体積を算出すればよい。
【0026】
LLZ系酸化物のリチウムイオン伝導率は、5.0×10‐5S/cm以上が好ましく、1.0×10‐4S/cm以上がより好ましく、3.0×10‐4S/cm以上がさらに好ましい。リチウムイオン伝導率は、交流インピーダンス法により測定できる。なお、交流インピーダンス法により酸化物焼結体のイオン伝導率を測定すると、複数の抵抗成分が検出される場合がある。例えば、結晶粒界の抵抗が大きい場合には、結晶粒部分の抵抗を示すバルク抵抗と、結晶粒界部分の抵抗を示す粒界抵抗が検出される。この場合は、バルク抵抗(一般には相対的に低い抵抗を示す)を、酸化物の抵抗成分であるとしてイオン伝導率を算出すればよい。
【0027】
[酸化物の製造方法]
上述のLLZ系酸化物は、主要構成元素源である、Li化合物、La化合物、およびZr化合物、ならびにZn等の置換元素を含む化合物を混合し、焼成することにより得られる。一例として、原料を混合し、仮焼成した後に成形し、本焼成(焼結)を行うことにより、酸化物の焼結体を製造する方法について説明する。
【0028】
まず、目的とする酸化物の組成式の化学量論比となるように、各元素を含む出発物質を秤量する。出発原料としては、各元素の酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩等を用いればよい。混合方法は、乾式での混合粉砕でもよく、溶媒を添加して湿式で混合粉砕してもよい。混合には、遊星ミル、アトライター、ボールミル等を用いればよい。湿式にて混合粉砕を行う場合の溶媒としては、Liが溶解しにくいものが好ましく、例えばエタノール等の有機溶媒を用いればよい。
【0029】
混合粉末の仮焼成は、出発原料の状態変化(例えばガスの発生や相変化)が生じる温度以上、かつ焼結時温度未満とすることが好ましい。具体的には、仮焼成温度は、800~1200℃程度が好ましい。仮焼成は一般には空気雰囲気下(酸化雰囲気下)で行われる。
【0030】
仮焼成により得られた材料を所定の形状に成形する。成形の前に、仮焼成後の材料の粉砕混合を行ってもよい。成形方法としては、粉末にバインダーを添加して金型成形を行う方法、冷間等方成形(CIP)や熱間等方成形(HIP)、ホットプレス等が挙げられる。焼結は大気雰囲気下で実施してもよく、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施してもよい。必要に応じて還元雰囲気下で焼成を行ってもよい。焼結温度は仮焼成温度より高温であればよく、具体的には1100℃以上が好ましく、1150℃以上がより好ましい。
【0031】
上記の方法は一例であり、他の方法によりLLZ系酸化物を得ることもできる。例えば、原料粉末とフラックスを混合し、メカノケミカル法により所望の組成を有するLLZ系酸化物を製造することもできる。
【0032】
[酸化物の用途]
上記のLLZ系酸化物は、全固体電池の固体電解質として利用可能であり、特に、全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質として用いることが好ましい。全固体電池は、正極、負極、および固体電解質を備え、固体電解質として、上記の酸化物を含む。固体電解質は、正極と負極の間に配置されるセパレータに含まれている他、正極および/または負極に含まれていてもよい。
【0033】
正極および負極は、活物質を含む。活物質は、全固体電池の活物質として公知のものをいずれも使用できる。例えば、リチウム全固体電池の活物質としては、LiCoO;LiNiCo1-x(0<x<1);LiNi1/3Co1/3Mn1/3;LiMnO;異種元素置換Li-Mnスピネル;チタン酸リチウム;リン酸金属リチウム;遷移金属酸化物;TiS グラファイトやハードカーボン等の炭素材料;LiCoN;SiO;LiSiO;LiSiO;金属リチウム;LiSn、LiSi、LiAl、LiGe、LiSb、LiP等のリチウム合金;MgSn、MgGe、MgSb、CuSb等のリチウム貯蔵性金属間化合物が挙げられる。リチウム全固体電池では、リチウムイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)の異なる2つの物質を選択し、貴な電位を示す物質を正極活物質、卑な電位を示す物質を負極活物質とすればよい。
【0034】
正極および負極を構成する電極合剤は、活物質に加えて、固体電解質、導電助剤、バインダー等を含んでいてもよい。電極合剤に含まれる固体電解質として、上記のLLZ系酸化物を用いてもよい。また、上記以外のLLZ系酸化物や、硫化物系固体電解質を用いてもよい。導電助剤としては、例えば、気相成長炭素繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の炭素材料のほか、全固体電池の使用時の環境に耐えうる金属材料が用いられる。バインダーの例としては、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム等のゴム系ポリマーが挙げられる。
【0035】
正極および負極はそれぞれ集電体を備えている。集電体としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、In等の金属またはこれらの2以上の元素を含む合金材料が好ましい。集電体の形状は特に限定されず、箔状またはメッシュ状でもよい。正極および負極は、例えば、スラリー状の電極合剤組成物を集電体の表面に塗布した後、乾燥することにより形成される。電極合剤と集電体とを乾式成形することによって正極および負極を作製してもよい。
【0036】
上述のように、全固体電池では、正極および負極中に固体電解質を含んでいてもよい。また、全固体電池は、正極と負極との間のセパレータとして固体電解質層を備えている。この固体電解質層においても、上記のLLZ系酸化物が含まれていることが好ましい。また、固体電解質層にはバインダーが含まれていてもよい。固体電解質層は、湿式法および乾式法のいずれによっても作製可能である。
【実施例
【0037】
以下に、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[試料の調製]
原料成分として、酸化リチウム、酸化ランタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ハフニウム、酸化ニオブおよび酸化ビスマスを、表1に示す仕込み量で配合した。原料を転動ボールミルにより混合粉砕した後、金型を用いて円柱のペレット状にプレス成形した。ペレットをアルミナ坩堝に入れ、焼成時のLi揮発の抑制を目的として、ペレットを正方晶LiLaZr12(LLZ)の粉末で覆った。乾燥窒素を流した雰囲気下1100℃で12時間焼成を行った。
焼成後のペレットを乳鉢で解砕混合し、金型を用いて円柱のペレット状に再度プレス成形した。成形体をアルミナ坩堝に入れて、焼成時と同様にペレットを正方晶LLZの粉末で覆い、乾燥窒素を流した雰囲気下1230℃で20時間保持して焼結体(試料1~13)を得た。
【0039】
[評価]
<焼結体の断面観察>
試料1~11について、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。試料1~7のSEM像を図1、試料8~11のSEM像を図2に示す。
【0040】
<X線回折>
試料1~11について、CuKαを線源としたX線回折測定を行った。試料1~7のX線回折チャートを図3および図4、試料8~11のX線回折チャートを図5および図6に示す。図3および図5は、2θ=10~60°の範囲のX線回折チャートであり、図4および図6は、2θ=30~40°の範囲のX線回折チャートである。
【0041】
<リチウムイオン伝導率>
試料1~13の両面にAuスパッタで直径8mmの電極を形成して、イオン伝導率測定用試料を作製した。この試料を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、全固体電池評価セル(宝泉株式会社製)にセットし、ポテンショガルバノスットに接続し、交流インピーダンス測定によりイオン伝導率の評価を行った。交流インピーダンス測定の条件は、周波数0.01Hz~1MHz、電圧50mVとした。測定時、2つの抵抗成分(バルク抵抗と粒界抵抗)が観測された場合は、バルク抵抗のイオン伝導率σBulkを採用した。
【0042】
試料1~13の原料仕込み量および仕込み組成、ならびにリチウムイオン伝導率σBulkを表1に示す。
【表1】
【0043】
試料1~13は、いずれも10-5S/cmオーダーまたは10-4S/cmオーダーのリチウムイオン伝導率を示し、置換元素の導入により、無置換のLLZ(リチウムイオン伝導率:10-6S/cm~10-7S/cm)に比べて、伝導率が向上していた。
【0044】
置換元素としてZn,HfおよびNbを含む試料1~7の中では、試料1が最も高いリチウムイオン伝導率を示した。試料1よりもHfによる置換量を増加させた試料2,3では、試料1に比べると伝導率が低下していた。図1から、試料2,3では、試料1に比べて空隙が大きくなっていることが分かる。図4のX線回折チャートでは、試料2,3は、試料1に比べて、回折ピークが高角側にシフトしている(格子定数が小さくなっている)ことが分かる。これは、Liが相対的にイオン半径の小さいHfで置換されたことにより起因するものと考えられる。試料2,3では、Hfによる置換量の増加に伴って、格子定数が小さくなりリチウムイオンの拡散経路が狭くなることや、Li含有量が減少することにより、試料1に比べて伝導率が小さくなったものと考えられる。
【0045】
試料1よりもZnによる置換量を増加させた試料4,5も、試料1に比べると伝導率が低下していた。図4のX線回折チャートでは、試料4,5は、試料1に比べて回折ピークが高角側にシフトしており、リチウムイオンの拡散経路が狭くなったことが、試料1に比べて伝導率が小さくなったことの一因であると考えられる。
【0046】
試料1よりもNbによる置換量を増加させた試料6,7は、試料1に比べると若干の伝導率の低下がみられた。ZrがNbに置換された場合は、電荷の差を補うためにLiの含有量が増加し、伝導率が増加することが期待されたが、そのような現象はみられなかった。図4のX線回折チャートでは、試料6,7は、試料1に比べて回折ピークがわずかに高角側にシフトしていた。6配位のZr4+と6配位のNb3+はイオン半径に差がないにも関わらず、Nb置換量が大きい試料6,7で高角シフトがみられた要因として、置換元素として導入したNbの一部または全部が、Laサイトに導入されたこと、および/またはNbがZrサイトにNb5+として導入されたことが推定される。8配位のNb5+は8配位のLa3+よりもイオン半径が小さく、6配位のNb5+は6配位のZr4+よりもイオン半径が小さいため、Nb5+がLaサイトおよび/またはZrサイトに導入さると格子定数が小さくなると考えられる。また、NbがNb5+として導入されることにより、Liの含有量が減少することも、イオン伝導率低下の要因となっている可能性がある。
【0047】
試料1~7のX線回折チャート(図3,4)から、いずれの試料も立方晶であることが示されたが、試料1は単相であるのに対して、試料2~7では複数の相が確認された。試料1では、LLZのガーネット型構造が維持されたことが、高イオン伝導率に関連していると推定される。
【0048】
置換元素としてZnおよびBiを含む試料8~13の中では、試料8が最も高いイオン伝導率を示した。試料8よりもZnによる置換量を増加させた試料9、およびZnによる置換量を減少させた試料12,13では、試料8に比べると伝導率が低下していた。試料12,13では、Znによる置換元素導入効果が小さいと考えられる。図6のX線回折チャートでは、試料9が試料8に比べて回折ピークが高角側にシフトしており、格子定数が小さくなりLiイオンの拡散経路が狭くなったことが伝導率低下の一因であると考えられる。
【0049】
試料8よりもBiによる置換量を増加させた試料10,11では、Bi置換量の増加に伴って、回折ピークが高角側にシフトする傾向がみられた。また、試料8は単相であるのに対して、試料9~11では、複数の相が確認された。試料8では、LLZのガーネット型構造が維持されたことも、高イオン伝導率に関連していると推定される。
【0050】
上記の試料1~13の評価結果に示すように、置換元素としてZnを含むLLZ系酸化物は優れたリチウムイオン伝導率を有する。また、Znの置換量、Zn以外の置換元素の種類および量を調整することにより、リチウム伝導率をさらに向上できる可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6