(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】ポンプ内振動の防止方法
(51)【国際特許分類】
F04D 15/00 20060101AFI20241107BHJP
F04D 29/66 20060101ALI20241107BHJP
F04B 49/06 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
F04D15/00 K
F04D29/66 A
F04B49/06 321A
(21)【出願番号】P 2021562026
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2020060432
(87)【国際公開番号】W WO2020212330
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】102019002826.0
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591040649
【氏名又は名称】カーエスベー ソシエタス ヨーロピア ウント コンパニー コマンディート ゲゼルシャフト アウフ アクチェン
【氏名又は名称原語表記】KSB SE & Co. KGaA
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】エクル,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】シュラー,ヨアキム
【審査官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-315146(JP,A)
【文献】特表2008-516139(JP,A)
【文献】特開2003-271241(JP,A)
【文献】特開2013-27105(JP,A)
【文献】特開2000-303872(JP,A)
【文献】特開2006-9581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/00-53/22
F04C 2/00-29/12
F04D 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心ポンプを含むポンプのポンプ運転
中の機械的振動を防止するまたは低減するための方法であって、
周波数変換器およびポンプ制御装置が提供され
る第1のステップと、
前記ポンプ制御装置がポンプ動作パラメータの少なくとも1つの信号を検出し、信号振動に関して前記少なくとも1つの信号を調査することで、前記ポンプの機械的
振動を検出
する第2のステップと、
前記周波数変換器によって前記ポンプの回転速度を変更することで、検出された
機械的振動を低減する
第3のステップと、
を含み、
前記第2のステップ及び前記第3のステップは、前記少なくとも1つの信号の周波数スペクトルにおいて検出された機械的振動の振幅が最小になるポンプ回転速度を識別するために、前記ポンプの特定の回転速度に対して最大に逸脱する可能性のある許容値で事前に規定された許容公差範囲内で前記ポンプの回転速度を変化させながら繰り返し実行されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記
少なくとも1つの信号の周波数スペクトルが高速フーリエ変換によって計算されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
調査される前記少なくとも1つの信号が、ポンプドライブのモータ電流に対応することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
調査される前記少なくとも1つの信号が、前記ポンプの
吐出圧に対応し、前記
吐出圧が、圧力センサを用いた計測、及び、
前記ポンプの運転中における吐出流量及び全揚程により規定される前記ポンプの動作点の推定、の少なくとも一方によって、決定されることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの信号は、ポンプドライブのモータ電流に対応する信号と前記ポンプの吐出圧に対応する信号とからなり、前記第3のステップにおいて、前記ポンプの回転速度に応じて、前記ポンプドライブのモータ電流に対応する信号について検出された第1の機械的振動、又は、前記ポンプの吐出圧に対応する信号について検出された前記ポンプの第2の機械的振動を使用することを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポンプの回転速度が比較的低いときには前記第1の機械的振動を使用し、前記ポンプの回転速度が比較的高いときには前記第2の機械的振動を使用する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、前記ポンプの少なくとも1つの反共振を識別して前記ポンプを前記反共振で運転するために、前記ポンプの回転速度を任意に変化させながら繰り返し実行されることを特徴とする、請求項1~
請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
識別された共振振動の周波数が記憶され、前記方法は、識別された共振振動の周波数の変化を検出するために繰り返し実行されることを特徴とする、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポンプが、検出された前記周波数の変化に基づいて、前記ポンプの材料摩耗、および、前記ポンプの構造体への任意の損傷の少なくとも一方を検出可能であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成された周波数変換器およびポンプ制御装置を備えたポンプ構成であって、排水ポンプ、固体部分を有する液体を移送するソリッドポンプまたは供給ポンプ、を含む遠心ポンプである、ポンプ構成。
【請求項11】
請求項10に記載のポンプ構成の使用であって、排水ポンプ、固体部分を有する液体を移送するソリッドポンプまたは供給ポンプとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ、特に遠心ポンプの運転中の機械的振動を防止または低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心ポンプ内の機械的振動は、摩滅および運転中の不要なノイズを増大させる原因となる。振動の原因は、多種多様であり得る。原因は、例えばポンプのインペラの回転による外部励起振動、または内蔵式ポンプの固有振動数による自由振動であり得る。
【0003】
自由振動は、特にソリッドポンプで発生する。ソリッドポンプは、例えば、鉱業におけるスラグ、石炭または鉱石の懸濁液等、研磨性の高い固体部分を有する被送出媒体を移送するための遠心ポンプである。また、被送出媒体は、時折、石または他の剛体要素を含み得、それがポンプの運転中にポンプ構造体を打撃した場合、ポンプの自由振動を励起する原因となる衝撃を発生させ得る。この現象は、排水分野用のポンプで顕著に発生する。
【0004】
インペラの回転周波数、すなわち設定されたポンプ回転速度が、内蔵式ポンプの固有振動数と等しいまたは固有振動数の整数倍に一致する場合、特に好ましくない事例が発生する。この際、共振振動が発生する、すなわち、振動の2つの原因が、相互に互いを増幅する。インペラの設定された回転周波数が運搬システムのパイプライン共振と一致する場合も、同様に問題がある。
【0005】
そのような共振事例は、
図1に例示されている。この図は、すぐに使用できる内蔵式遠心ポンプの周波数応答を示している。システムが自由に振動する固有振動数は、振動数値f
1、f
2、f
3を有する。周波数応答、すなわち固有振動数f
1、f
2、f
3の位置は、固有のポンプ構造、選択された設置位置、使用される材料、および取り付けられたベアリングによって異なる。周波数変換器を用いて設定されるポンプホイールの回転周波数が、示された固有振動数f
1、f
2、f
3のうちの1つに等しいか、または、その代わりにそれらの整数倍である場合、システムは、外部から励起されたインペラの回転によって励起され、ポンプの増幅された共振振動が発生する。その代わりに、インペラの回転周波数が、ここで描かれている反共振af
1、af
2のうちの1つの範囲内にある場合、この効果は最小となり、振動が存在しないか、または、非常にわずかな振動のみが存在する。
【発明の概要】
【0006】
本願の着想は、上記の知見に基づいて形成され、ポンプの運転中を対象とする手段によって、起こり得る振動、特に共振の発生のリスクを最小限に低減する方法を提案する。
【0007】
この目的は、請求項1の特徴による方法によって達成される。有利な実施形態が、従属請求項の主題である。
【0008】
本方法の実施態様の場合、ポンプの回転速度を変更するために周波数変換器を使用することが重要な点である。しかしながら、そのような周波数変換器がポンプ内部に統合されているか、ポンプ筐体に取り付けられているか、またはポンプと別個に設置されているかは重要ではない。同様のことが、ポンプの一体部分であり得るが、任意選択的に別個の周波数変換器と併せて、やはり別個のユニットとしてポンプに取り付けられていることもある、本方法の実施態様のためのポンプ制御装置についても当てはまる。
【0009】
本発明による解決法は、ポンプの機械的振動ができるだけ最適に低減されるように、ポンプの運転中に周波数変換器を有するポンプのためのポンプ制御装置によって回転速度を変化させることにある。本発明の別の核心の態様はさらに、この知見に基づいて、設定されたポンプ回転速度を最適に適応可能にするために、好適な信号評価によって、ポンプが、運転中に存在するその固有振動数を独立して識別(特定)することからなる。
【0010】
したがって、ポンプは、事前に生成されてポンプに記憶された周波数応答に関する情報を必要としないが、その代わりに、運転中に独立してそれを決定することができる。この目的のために、ポンプは、ポンプ運転中の信号を記録する。この信号は、発生する機械的振動の影響を受けるポンプ動作パラメータを特徴づける記録された信号は、その後、振動、特に共振振動の存在についてポンプによって調査される。そのような振動は、その後、適切な回転速度変更によって低減される。
【0011】
記録された信号において、特に、ポンプの機械的振動によって引き起こされた信号の変動を識別できる。信号の識別された振動周波数の振幅は、回転速度の適合する変更によって減少する。したがって、本方法の有利な実施形態によれば、記録された信号の周波数スペクトルが考慮される。これは、最初に、信号が、変換によって、具体的には高速フーリエ変換によって、その周波数スペクトルに変換されて、発生する信号振動の対応する周波数値および関連する振幅を識別する場合に有利である。
【0012】
モータ電流またはポンプドライブの電流は、振動を識別するための好適な動作信号であることが証明されている。電流値は、任意の方法で使用される周波数変換器で取得可能で、その結果、さらなるセンサは必要とされない。また、ポンプシステムの機械的振動は、ポンプドライブのモータ巻線内の磁気誘導、さらにはモータ電流に反映されるので、モータは、いつでも利用可能である効果的なセンサとして機能する。適切な電流分析によって、ポンプシステムの機械的振動を、十分な精度で識別することができる。この可能性は、使用される電動ポンプドライブのモータの種類とは無関係に存在する。
【0013】
ポンプの周波数応答を決定するための代替または追加の動作パラメータとしては、ポンプ圧力、例えば特にポンプの吐出圧が好適である。ここで、機械的振動は、信号形状にも反映される。ポンプの吐出圧は、例えば、既存の圧力センサによって決定可能であり、信号変換、特に高速フーリエ変換によって、その周波数スペクトルに変換され得る。
【0014】
しかしながら、信号を取得するために、適切なセンサを常に使用可能にしておく必要はない。代わりに、例えば、現在のポンプ圧力を、動作点推定によって数学的に決定することができる。これに関する可能な方法が、DE102018200651に開示されており、その内容はここで完全に含まれる。
【0015】
実行可能な実施形態によれば、本方法は、例えば、識別された振動の振幅が可能な限り最小となるポンプ回転速度を識別するために、ポンプ回転速度を変化させて繰り返し実行され得る。そのため、ポンプは、回転速度の変更後に繰り返し記録された信号の周波数スペクトルを再度分析し、回転速度の変化が、対応する振幅の減少をもたらしてたかどうかを確認する。
【0016】
本方法のステップの繰り返しの実施では、回転速度について、任意の若しくはランダムな、または、その他の制御された変更を行うことができる。例えば、振幅が増大する場合、2回の反復間で実行された回転速度の変更が反転され、そうでなければ維持される。回転速度の特定の全領域について連続的に駆動し、その後、ポンプ動作の最小振幅となる回転速度に設定することも考えられる。
【0017】
代替方法は、関連付けられた回転速度で、局所的または全体的な振幅最小値を識別するための、好適な方法およびアルゴリズムを使用することである。振幅最小値をもたらす適切な回転速度をできるだけ早く決定するために、例えば、アクティブ・セット法及びニュートン法の少なくとも一方等、間隔二分法及び最適化法の少なくとも一方が考えられる。比較的時間がかかるが、全体的な最小周波数応答を識別することができる遺伝的アルゴリズムも考えられる。
【0018】
また、本方法の繰り返し中の回転速度またはその変化量の設定は、例えばポンプ操作者によって、どの運転条件が予め決められるかによって決まる。例えば、ポンプ操作者が一定のポンプ回転速度を指定すること、または、回転速度の変更に狭い公差範囲のみを指定することが考えられる。本方法の繰り返し中、回転速度は、事前に規定された公差範囲内でのみ変化させる。このような場合には、通常、本方法の繰り返し実施で十分であり、繰り返しの実施中、許可された回転速度のうちの全てまたは少なくとも一部で運転されて、この範囲に対応する振幅最小値が決定される。
【0019】
一方、操作者が許容回転速度範囲を指定していない場合、すなわち、それがポンプの技術的に可能なポンプの回転速度範囲の全体となる可能性がある場合、本方法では適切な回転速度を識別する上述の方法のうちの1つを使用することが得策である。
【0020】
しかしながら、本発明のさらなる有利な実施形態によれば、本方法は、振動を発生させることを低減するのに役立ち得るだけでなく、本発明による周波数応答の決定は、例えば、ポンプ機構の摩耗や損傷を早い段階で検出するための、ポンプ監視にも適している。既に上記で詳細に説明してきたように、本発明の核心の態様は、ポンプの周波数応答を決定することである。これは、基本的に、ポンプ設計、その設置位置、使用される材料、および、取り付けられたベアリング構成要素によって異なる。これらの要因のうちの1つが、例えば、摩耗または材料損傷によって変化すると、ポンプの周波数応答が変化する。したがって、ポンプは、決定された周波数応答を記憶し、識別された適切な周波数の周波数シフトに関する繰り返し測定を実行することによって周波数応答を監視することが好ましい。このような周波数偏移(deviation)が検出された場合、これが摩滅のまたはポンプ損傷の徴候である。ポンプは次に、対応する警告メッセージを生成または適切な測定を実行し得る。
【0021】
周波数変化のさらなる調査は、摩耗と損傷とをも区別することができる。通常、摩耗では、周波数応答の変化が徐々に進行する一方、ポンプ損傷、例えばベアリング損傷またはインペラ破損では、周波数応答が急激に変化する。したがって、ポンプは、その評価において、摩耗と損傷とを区別するために、検出された変化の時間に関連する要素を考慮する。変化の程度を含むこともできる。
【0022】
本発明による方法に加えて、本発明はさらに、本発明による方法を実行するために、内部または外部の周波数変換器と、内部または外部のポンプ制御装置と、を備えたポンプ、好ましくは遠心ポンプ、特に好ましくは排水ポンプまたはソリッドポンプまたは供給ポンプに関する。したがって、このようなポンプは、既に本発明による方法に基づいて上記で詳細に説明してきた同様の利点および特性によって特徴付けられる。繰り返しの説明は、この理由により省略する。
【0023】
加えて、本発明による、ポンプ、特に、排水ポンプ、ソリッドポンプまたは供給ポンプとしての遠心ポンプの使用が、本願によって提案される。本発明による機械的振動発生の最小化は、特に排水ポンプまたはソリッドポンプに関して重要であり、このようなポンプ形式において、本発明による方法の適用は広範囲に及ぶ利点をもたらす。
【0024】
以下において、図示された例示的な実施形態に基づいて、本発明のさらなる利点および特性をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】運転中の据え付け遠心ポンプの想定される周波数応答を示す図である。
【
図3】
図2から計算された時間信号の周波数スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、周波数変換器による、ポンプ、特に、ソリッドポンプ、排水ポンプまたは別の供給ポンプの運転中に共振する場合において、望ましくない振動増幅を対象とする防止方法を説明する。これらの共振振動を対象とする防止の基礎は、このような共振は、ポンプ制御装置によって、好ましくは、ポンプに加速度計等の特殊なセンサシステムを組み込むことを必要とせずに、最初に検出される必要があることである。しかしながら、追加のセンサ、例えば必要に応じて本方法の精度を向上させ得る加速度計をポンプに装着しても構わない。
【0027】
機械的振動は、モータの構造体と力との相互作用の結果であるので、これらの機械的振動は、ポンプドライブのポンプ電流の駆動電流への重ね合わせとして、さらに認識され得る。ここでは、個々に重ね合わされる振動の強度が対象となるので、モータ電流の評価は、記録されたモータ信号の周波数スペクトルを分析することによって、実行される。周波数スペクトルは、ポンプ制御装置が高速フーリエ変換(FFT)を実行することによって取得される。
【0028】
この処理は、
図2、3の表現に基づいて簡潔に図示され得る。
図2は、記録された信号の時間図を示している。これは、簡単にするために、異なる周波数を有する3つの正弦波信号を重ね合わせて生成したものである。FFTを適用することによって、時間信号をその高波成分に分解でき、
図3に示す周波数振幅スペクトルが得られる。このスペクトルから、期待したように、正弦波信号の個々の周波数を読み取ることがきでる。
【0029】
したがって、モータ電流のFFTにより、ポンプは、記録されたモータ電流に反映された機械的振動を検出することができる。それから、以下のステップでは、ポンプまたはポンプ制御装置は、インペラからもたらされる回転周波数がポンプの固有振動数またはそのような固有振動数の倍数と重ならないように、ポンプ回転速度を設定しようとしている。この目的のために、最初に回転速度を変化させ、次のステップで、現在記録されているモータ電流のスペクトル分析が、変更した回転速度において再び実行される。発生している電流振動の振幅が小さくなった場合には、これは、回転速度の変化によって機械的振動が正常に低減できたことを示している。本方法は、電流信号で発生する変動の振幅値を可能な限り小さくするために、繰り返し実行される。理想的な回転速度の特定は、原則として、2つのシナリオに従って実行され得る。
【0030】
〔シナリオ1:必要とされる回転周波数は、一定の要件に従う。〕
シナリオ1によれば、回転周波数は、特定の値のみを有し得る。これには、エネルギーに関連した理由か、または意図された目的が特定の(固定された)回転速度を必要とする場合がある。この場合、ポンプ操作者は、循環する周波数が設定値から最大に逸脱する可能性のある許容値、例えば±3Hzをポンプ制御装置で規定する。そして、ポンプ制御装置は、回転速度を許容公差範囲内で変化させ、振動の振幅が最小になる回転速度を繰り返し検出する。多くの場合、非常に小さな変化でも、システムの固有振動数から外れ、それゆえ機械的振動の発生を最小化するのに、十分である。
【0031】
〔シナリオ2:回転周波数への特別な要件が存在しない。〕
回転周波数に関して工程側の要件が存在しない場合、ポンプ制御装置が、ポンプ回転速度を随意に変更することができる。これにより、反共振を対象として探索し、ポンプの最終運転回転速度を、この反共振に設定することが可能になる。利用可能な回転速度範囲から適切な回転速度(反共振)を決定する最も簡単な方法(したがって、メモリおよび工程の要件が最も低い方法)は、二分法に基づく。「アクティブ・セット法」または「ニュートン法」等の数学的最適化方法は、より早く、より効果的である。全体的な最適化はさらに、遺伝的アルゴリズムによって、確実に決定され得る。
【0032】
モータ電流とは別に、または、これに加えて、ポンプの吐出圧の信号も調べることができる。ここでも、モータ電流と同様に、高速フーリエ変換によって、対応する共振周波数に関する周波数スペクトルが分析され評価される。吐出圧は、例えばポンプの圧力センサ等を用いるか、動作点の推定によって計算できる。
【0033】
信号品質を向上させるために、両方の信号(吐出圧およびモータ電流)を、センサデータフュージョンによってマージ(merge)することもできる。これが不可能な場合、電流および圧力信号を個々に評価することもできる。センサフュージョンに関して、例えば例えば個々の信号値を上述のように評価し、次に重み付けによってマージすることができる。個別に評価された信号の個々の結果に異なる重みを付けることができる範囲を規定することも考えられる。例えば例えば、10~200Hzの周波数範囲のモータ電流の評価結果が使用され、一方、より高い周波数の吐出圧の評価結果が考慮される。
【0034】
本明細書で提示された方法の具体的な利点は、ポンプ自体がその固有振動数を見出すことが可能であり、そのため開発が複雑であろう数学的処理モデルが必要とされないことである。本明細書で提示された方法の主要な用途は、ポンプ運転中の摩耗およびノイズを低減するために、振動を防止することまたは低減することである。加えて、本処理は、摩耗および損傷監視にも貢献でき、損傷の際にユーザに警告可能である。
【0035】
〔摩耗監視〕
提示された方法を用いて、内蔵式ポンプの周波数応答が恒久的に監視される。しかしながら、上述したように、周波数応答は、ポンプの構造、設置位置、材料およびベアリングによって異なる。したがって、周波数応答の変化は、いずれにせよ、例えば摩滅により、これらの変数のうちの1つ以上が変化したことを示すものである。そして、この情報は摩耗監視に使用できる。例えば、例えばここで明示的に参照されるDE 10 2018 200 651の解決法と組み合せて、摩耗監視に使用され得る。これらの2つの手法の組合せは、摩耗状態をより正確に評価することを可能にする。
【0036】
〔損傷の警告〕
周波数応答に非常に遅い変化をもたらす摩耗とは対照的に、ポンプ損傷は、周波数応答を急激かつ著しく変化させることとなる。損傷には、特に、ベアリングまたはインペラの破損があり得る。周波数応答の急速な変化により、ポンプ制御装置は、確実に摩滅と損傷とを選別可能であり、損傷の際には、操作者に対して警告を発報することができる。