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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】予測装置、予測方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/04 20230101AFI20241107BHJP
【FI】
G06Q10/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021575869
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2021004179
(87)【国際公開番号】W WO2021157670
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2024-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2020017474
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 麻里奈
(72)【発明者】
【氏名】篠原 修二
(72)【発明者】
【氏名】光吉 俊二
(72)【発明者】
【氏名】灰塚 真浩
(72)【発明者】
【氏名】小園 英俊
(72)【発明者】
【氏名】三好 史浩
【審査官】橘 均憲
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-074969(JP,A)
【文献】特開2009-020787(JP,A)
【文献】特開2001-325582(JP,A)
【文献】特開2011-058102(JP,A)
【文献】国際公開第2012/093483(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産設備から得られるプロセスデータを用いて生産物の特性値を予測する予測装置であって、
前記生産設備から得られた前記プロセスデータを記憶する記憶装置から、前記プロセスデータを読み出すプロセスデータ取得部と、
読み出された前記プロセスデータに含まれる、予め定められた、説明変数とする第1のプロセスデータと、目的変数とする第2のプロセスデータ又は当該第2のプロセスデータに応じた値との組合せを定義する因果関係情報であって、想定される原因と現れる影響との対応関係を記憶する知識ベースに基づいて作成される因果関係情報に基づいて、前記生産設備から得られた前記プロセスデータの特徴を学習した予測モデルを作成する予測モデル作成部と、
を備え、
前記予測モデル作成部は、前記因果関係情報に基づく変動方向の対応関係を有しない場合にペナルティを上昇させるペナルティ関数を用いて回帰分析を行うことにより、前記説明変数の正負の変動方向に応じて、前記目的変数の正負の変動方向が定まるように前記予測モデルを作成する
予測装置。
【請求項2】
前記予測モデルは、第1の時点の出力が、当該第1の時点よりも過去の第2の時点の出力に少なくとも依存する自己回帰モデルである
請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
前記因果関係情報は、前記プロセスデータと前記特性値との因果関係を、HAZOP(Hazard and Operability Study)、FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)、FTA(Fault Tree Analysis)、若しくはETA(Event Tree Analysis)、又はこれらのいずれかに基づく分析手法を用いて作成される
請求項1又は2に記載の予測装置。
【請求項4】
前記予測モデルは、複数の予測式を含む階層構造であり、第1の予測式で算出する予測値を説明変数に含む第2の予測式を有する
請求項1から3のいずれか一項に記載の予測装置。
【請求項5】
前記第2のプロセスデータに応じた値は、縮分法により複数の第2のプロセスデータをサンプリングした値であり、
前記生産設備における、前記第1のプロセスデータの取得タイミングの範囲と、前記第2のプロセスデータに応じた値の算出タイミングとを、前記生産設備内における処理対象の滞留時間に基づいて対応付け、前記予測モデル作成部は前記予測モデルを作成する
請求項1から4のいずれか一項に記載の予測装置。
【請求項6】
前記生産設備は、所定の処理単位ごとに処理対象を逐次処理するバッチ工程と、その後に前記処理対象を連続的に処理する連続工程とを行い、
前記バッチ工程の完了タイミングの範囲と、前記第2のプロセスデータに応じた値の算出タイミングとを、前記生産設備内における前記処理対象の滞留時間に基づいて対応付け、前記予測モデル作成部は前記予測モデルを作成する
請求項1から5のいずれか一項に記載の予測装置。
【請求項7】
前記予測モデル作成部によって作成された前記予測モデルと、前記生産設備から得られるプロセスデータ又は任意の運転条件に基づくデータとを用いて、前記特性値を予測する予測処理部をさらに備える
請求項1から6のいずれか一項に記載の予測装置。
【請求項8】
前記予測処理部は、予測された特性値について所定期間における誤差分散を求め、前記予測された特性値又は前記プロセスデータの実測値の平均値と前記誤差分散とによって定まる信頼区間と、前記予測された特性値とを出力装置に出力させる
請求項7に記載の予測装置。
【請求項9】
生産設備から得られるプロセスデータを用いて生産物の特性値を予測する予測装置が、
前記生産設備から得られた前記プロセスデータを記憶する記憶装置から、前記プロセスデータを読み出し、
読み出された前記プロセスデータに含まれる、予め定められた、説明変数とする第1のプロセスデータと、目的変数とする第2のプロセスデータ又は当該第2のプロセスデータに応じた値との組合せを定義する因果関係情報であって、想定される原因と現れる影響との対応関係を記憶する知識ベースに基づいて作成される因果関係情報に基づいて、前記生産設備から得られた前記プロセスデータの特徴を学習した予測モデルを作成し、
前記予測モデルを作成する処理において、前記因果関係情報に基づく変動方向の対応関係を有しない場合にペナルティを上昇させるペナルティ関数を用いて回帰分析を行うことにより、前記説明変数の正負の変動方向に応じて、前記目的変数の正負の変動方向が定まるように前記予測モデルを作成する
予測方法。
【請求項10】
生産設備から得られるプロセスデータを用いて生産物の特性値を予測する予測装置に、
前記生産設備から得られた前記プロセスデータを記憶する記憶装置から、前記プロセスデータを読み出させ、
読み出された前記プロセスデータに含まれる、予め定められた、説明変数とする第1のプロセスデータと、目的変数とする第2のプロセスデータ又は当該第2のプロセスデータに応じた値との組合せを定義する因果関係情報であって、想定される原因と現れる影響との対応関係を記憶する知識ベースに基づいて作成される因果関係情報に基づいて、前記生産設備から得られた前記プロセスデータの特徴を学習した予測モデルを作成させ、
前記予測モデルを作成する処理において、前記因果関係情報に基づく変動方向の対応関係を有しない場合にペナルティを上昇させるペナルティ関数を用いて回帰分析を行うことにより、前記説明変数の正負の変動方向に応じて、前記目的変数の正負の変動方向が定ま
るように前記予測モデルを作成する
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、予測装置、予測方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製造プロセスにおいて生産物の品質を予測したり、予測に基づいて動作の制御を行う技術が提案されている。例えば、製造プロセスの製造途中において製品の特性値を予測し、その予測結果に基づいて後工程の製造プロセスの制御条件を計算する予測システムが提案されている(特許文献1)。本システムは、ロット毎に、製造プロセスの工程で測定されるデータ、および/または、製造プロセスの状態を示すデータとが格納されるデータベースと、データベースに格納されているデータを用いて、製造プロセスの数式モデルを作成する数式モデル作成部と、製造中のロットに対して、処理済み工程に関しては実績値を、未処理工程に関しては過去のロットに基づいて得られる代表値を数式モデルに入力して製品の特性値を予測する製品特性予測部と、製品特性予測部による予測結果に応じて、未処理工程のうちの制御する対象の工程の最適製造条件を計算する最適製造条件計算部とを備えており、製品特性予測部による予測および最適製造条件計算部による計算を、製造中のロットに対して所定の制御対象工程毎に実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6477423号公報
【文献】特許第5751045号公報
【文献】特開2018-120343号公報
【文献】特開2001-106703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、例えば所望の結果が得られるように制御を行う場合、予測モデルを用いて逆問題を解いても適切な結果が得られないことがあった。すなわち、予測モデルによる推定値を所望の値に近づけるために、説明変数の値をどのように変更すべきかがわからない。しかしながら、説明変数の組合せを変更してシミュレーションを繰り返す手法では計算コストがかかる。そこで、本技術は、説明変数の変動と目的変数の変動との因果関係を反映させた回帰モデルを構築することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
予測装置は、生産設備から得られるプロセスデータを用いて生産物の特性値を予測する。また、予測装置は、生産設備から得られたプロセスデータを記憶する記憶装置から、プロセスデータを読み出すプロセスデータ取得部と、読み出されたプロセスデータに含まれる、予め定められた、説明変数とする第1のプロセスデータと目的変数とする第2のプロセスデータ又は当該第2のプロセスデータに応じた値との組合せを定義する因果関係情報に基づいて、生産設備から得られたプロセスデータの特徴を学習した予測モデルを作成する予測モデル作成部とを備え、予測モデル作成部は、説明変数の正負の変動方向に応じて、目的変数の正負の変動方向が定まるように予測モデルを作成する。
【0006】
説明変数の正負の変動方向に応じて、目的変数の正負の変動方向が定まるように予測モデルを作成することで、説明変数の変動と目的変数の変動との因果関係を学習した予測モデルができる。特に、分析対象のデータが、何らかの原理原則に従って変化するような場合に、相関関係を適切に反映した予測モデルを作成することができるようになる。
【0007】
また、予測モデルは、第1の時点の出力が、当該第1の時点よりも過去の第2の時点の出力に少なくとも依存する自己回帰モデルであってもよい。このような符号の制約を課すことで、プロセスの原理原則に従った予測モデルを作成することができる。すなわち、符号制約を満足する予測式を用いることにより、生産物の品質の指標となる値を予測できるだけでなく、品質を改善するためにプラントの運転条件をどのように変更すればよいかが容易にわかるようになる。
【0008】
また、因果関係情報は、プロセスデータと特性値との因果関係を、HAZOP(Hazard and Operability Study)、FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)、FTA(Fault Tree Analysis)、若しくはETA(Event Tree Analysis)、又はこれらのいずれかに基づく分析手法を用いて作成されるものであってもよい。このように、因果関係が明らかなパラメータを用いることで、例えば生産設備全体の膨大なパラメータを必要とせず、予測モデルの作成に要する時間を低減することができる。
【0009】
また、予測モデルは、複数の予測式を含む階層構造であり、第1の予測式で算出する予測値を説明変数に含む第2の予測式を有するものであってもよい。例えばこのようにして因果関係を関数に変換してもよい。
【0010】
また、第2のプロセスデータに応じた値は、縮分法により複数の第2のプロセスデータをサンプリングした値であり、生産設備における、第1のプロセスデータの取得タイミングの範囲と、第2のプロセスデータに応じた値の算出タイミングとを、生産設備内における処理対象の滞留時間に基づいて対応付け、予測モデル作成部は予測モデルを作成するようにしてもよい。生産設備において処理対象が継続的に処理される場合、説明変数とするプロセスデータの取得タイミングと、目的変数とするプロセスデータの取得タイミングとを適切に対応付けることにより、予測の精度を向上させることができる。
【0011】
また、生産設備は、所定の処理単位ごとに処理対象を逐次処理するバッチ工程と、その後に処理対象を連続的に処理する連続工程とを行うものであってもよい。そして、バッチ工程の完了タイミングの範囲と、第2のプロセスデータに応じた値の算出タイミングとを、生産設備内における処理対象の滞留時間に基づいて対応付け、予測モデル作成部は予測モデルを作成するようにしてもよい。バッチ工程と連続工程とが続けて行われる場合も、説明変数とするプロセスデータと、目的変数とするプロセスデータとを適切に対応付けることで、予測の精度を向上させることができる。
【0012】
また、予測モデル作成部によって作成された予測モデルと、生産設備から得られるプロセスデータ又は任意の運転条件に基づくデータとを用いて、特性値を予測する予測処理部をさらに備えるようにしてもよい。また、予測処理部は、予測された特性値について所定期間における誤差分散を求め、予測された特性値又はプロセスデータの実測値の平均値と誤差分散とによって定まる信頼区間と、予測された特性値とを出力装置に出力させるようにしてもよい。ユーザは視覚的に傾向を把握でき、例えば生産設備の運転条件を変更すべきか否かの判断材料とすることができる。
【0013】
なお、課題を解決するための手段に記載の内容は、本開示の課題や技術的思想を逸脱しない範囲で可能な限り組み合わせることができる。また、課題を解決するための手段の内容は、コンピュータ等の装置若しくは複数の装置を含むシステム、コンピュータが実行する方法、又はコンピュータに実行させるプログラムとして提供することができる。なお、プログラムを保持する記録媒体を提供するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
開示の技術によれば、生産物の特性値の予測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態に係るシステムの一例を表す図である。
図2図2は、プラントが備える機器によって行われるプロセスの一例を示す模式的な図である。
図3図3は、バッチ工程におけるプロセスデータの一例を説明するための図である。
図4図4は、知識ベースに予め登録される情報の一例を示す図である。
図5図5は、知識ベースに基づいて作成される、バッチ工程のタグ属性テーブルの一例を示す図である。
図6図6は、知識ベースに基づいて作成されるタグ結合テーブルの一例を示す図である。
図7図7は、予測モデルの構成を示すロジックツリーの一例を示す図である。
図8図8は、連続工程におけるプロセスデータの一例を説明するための図である。
図9図9は、連続工程の工程検査におけるサンプルとバッチ工程における製造番号との対応付けを説明するための図である。
図10図10は、連続工程におけるセンサ位置から工程検査でのサンプリング位置までの滞留時間を説明するための図である。
図11図11は、知識ベースに基づいて作成される、連続工程のタグ属性テーブルの一例を示す図である。
図12図12は、予測モデルの構成を示すロジックツリーの一例を示す図である。
図13図13は、予測装置の構成の一例を示すブロック図である。
図14図14は、予測装置が実行する予測処理の一例を示す処理フロー図である。
図15図15は、バッチ工程用の書込用配列の一例を示す図である。
図16図16は、加工処理の一例を示す処理フロー図である。
図17図17は、バッチ配列の一例を示す図である。
図18図18は、予測式に代入するプロセスデータ又はその予測値を説明するための図である。
図19図19は、予測式に代入するプロセスデータ又はその予測値を説明するための他の例を示す図である。
図20図20は、種別が「連続」のデータを保持する書込用配列の一例を示す図である。
図21図21は、種別が「バッチ」のデータを保持する書込用配列の一例を示す図である。
図22図22は、連続工程における加工後のプロセスデータを保持する結合IDデータ配列の一例を示す図である。
図23図23は、予測装置が実行する制御処理の一例を示す処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ予測装置の実施形態について説明する。
【0017】
<実施形態>
図1は、本実施形態に係るシステムの一例を表す図である。システム100は、予測装置1と、制御ステーション2と、プラント3とを含む。システム100は、例えば分散型制御システム(DCS:Distributed Control System)であり、複数の制御ステーション2を含む。すなわち、プラント3の制御系は複数の区画に分割され、各制御区画が制御ステーション2によって分散制御される。制御ステーション2は、DCSにおける既存の設備であり、プラント3が備えるセンサ等から出力される状態信号を受信したり、プラント3に対して制御信号を出力する。そして、制御信号に基づいて、プラント3が備えるバルブ等のアクチュエータやその他の機器が制御される。
【0018】
予測装置1は、制御ステーション2を介してプラント3の状態信号(プロセスデータ)を取得する。プロセスデータは、原料や中間的な生産物である処理対象の温度、圧力、流量等や、プラント3が備える機器の運転条件を定める設定値等を含む。また、予測装置1は、想定される原因と、例えば異常として現れる影響との対応関係を記憶する知識ベースに基づく予測モデルを作成する。例えば、知識ベースに基づいて作成された、説明変数とするプロセスデータ(要因系とも呼ぶ)と目的変数とするプロセスデータ(影響系とも呼ぶ)との組合せを定義する因果関係情報を用いて、品質やコストの予測式を作成する。そして、予測装置1は、予測式とプロセスデータとを用いて、生産物の品質等を表す特性値を予測したり、プラント3の運転条件を変更した場合の生産物の特性値を予測することができる。また、予測装置1は、例えば品質とコストとが所定の条件を満たす運転条件を求めるようにしてもよい。また、予測装置1は、予測式とプロセスデータとを用いて、影響として現れた状態の変化に対して安定状態に移行させるための運転条件を求めたり、生産物が所定の要求を満たすような運転条件を求めたりしてもよい。また、予測装置1は、影響系のプロセスデータに代えて、所定の工程検査において得られた分析値を目的変数としてもよい。
【0019】
図2は、プラントが備える機器又は当該機器によって行われるプロセスの一例を示す模式的な図である。すなわち、プロセスは、処理である生産プロセスと装置であるプロセス機器とを含むものとする。本実施形態では、プロセスは、バッチ工程31と連続工程32とを含み得る。バッチ工程31においては、所定の処理単位ごとに処理対象が逐次処理され、例えば各機器への原料の受入れ、保持、排出といった処理が順に行われる。連続工程32においては、継続して導入される処理対象が連続的に処理され、例えば、原料の受入れ、保持、排出といった処理が並行して行われる。また、プロセスは、並列に同一の処理を行う複数の系列33を含み得る。
【0020】
各処理を行う機器は、例えば反応器、蒸留装置、熱交換器、圧縮機、ポンプ、タンク等を含み、これらが配管を介して接続されている。また、機器や配管の所定の位置には、センサやバルブ等が設けられる。センサは、温度計、流量計、圧力計、レベル計、濃度計等を含み得る。また、センサは、各機器の運転状態を監視し、状態信号を出力する。また、プラント3が備えるセンサは、センサの各々を特定するための識別情報である「タグ」が付されているものとする。そして、予測装置1及び制御ステーション2は、各機器への入出力信号を、タグに基づいて管理する。
【0021】
<バッチ工程>
図3は、バッチ工程におけるプロセスデータの一例を説明するための図である。図3の左側の列は、図2に示したバッチ工程31のプロセスの一部を示す。具体的には、プロセスは、シュレッダー301と、サイクロン302と、前処理303と、予冷機304と、反応機305とを含む。また、これらのプロセスは、前処理工程、予冷工程、反応工程に分類されている。図3の右側の列は、各プロセスにおいて取得されるプロセスデータの一例を示す。前処理工程においては、タグが001及び002であるセンサから時系列のデータが取得される。予冷工程においては、タグが003及び004であるセンサから時系列のデータが取得される。反応工程においては、タグが005、006及び007であるセンサから時系列のデータが取得される。また、バッチ工程においては、製造番号(「製番」とも呼ぶ)と対応付けられた処理対象を、断続的に処理する。すなわち、製造番号は、バッチ工程においてまとめて処理される処理対象を識別するための識別情報である。図3に示すように、時間の経過と共に、後続の製造番号と対応付けられた処理対象に関する時系列のデータが得られる。なお、時点t及びtについては後述する。
【0022】
図4は、知識ベースに予め登録される情報の一例を示す図である。知識ベースは、予測装置1の記憶装置に予め記憶されるものとする。図4のテーブルは、センサの各々に対応する列と、各センサの出力値の変化の原因を示す行とを含む。すなわち、各行に示す「副原料A量上昇」、「副原料A量低下」等の原因によって影響を受けるセンサに対応する列に値が登録されている。値は、センサの出力値の変動と対応する正又は負の符号付きで登録される。なお、原因と影響の組み合わせは1対1とは限らない。すなわち、1つの影響について、複数の原因が対応付けられることもあるし、同一の原因が複数の影響に関連付けられることもある。
【0023】
知識ベースは、例えばHAZOP(Hazard and Operability Study)に基づいてユーザが予め作成するものとする。HAZOPは、例えば、プラントを構成する計装機器による監視ポイントでの検知手段、管理範囲(上下限の閾値でありアラームの設定点)、管理範囲からのずれ(異常、変調)、管理範囲からのずれが発生する想定原因の列挙、いずれの想定原因によりずれが発生したかを判断するロジック(検知手段)、ずれが発生したことによる影響、ずれが発生した場合にとる処置、その処置に対するアクションに関し、これらを関連付けて網羅的に列挙するための手法である。なお、HAZOPに限らず、FTA(Fault Tree Analysis)、FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)、ETA(Event Tree Analysis)又はこれらを応用した手法や、これらに類する手法、オペレータへのヒアリング結果から抽出された内容、作業標準書や技術標準書から抽出された内容に基づいて知識ベースを作成するようにしてもよい。
【0024】
図5は、知識ベースに基づいて作成される、バッチ工程のタグ属性テーブルの一例を示す図である。タグ属性テーブルは、各タグに対応するセンサから得られるデータの処理方法を定義する。なお、タグ属性テーブルは、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSV(Comma Separated Values)のような所定の形式のファイルであってもよい。また、タグ属性テーブルは、予めユーザによって作成され、予測装置1によって読み出される。
【0025】
タグ属性テーブルは、タグ、系列、品種、一次加工、平滑化、運転条件最適化の各属性を含む。タグのフィールドには、センサの識別情報であるタグが登録される。系列のフィールドには、プロセスの系列を特定するための識別情報が登録される。品種のフィールドには、処理対象の種別が登録される。予測装置1は、予測処理において、例えば処理対象の品種に応じたパラメータを設定するようにしてもよい。一次加工のフィールドには、センサの出力値の加工方法を示す情報が登録される。また、一次加工の属性は、バッチ工程、方法、データ区間の各属性をさらに含む。バッチ工程のフィールドには、バッチ工程における細分化された工程を示す識別情報が登録される。方法のフィールドには、データの加工方法の種別を示す情報が登録される。種別は、「瞬時値」、「平均」、「積分」、「微分」、「差分」、「最大」、「最小」、「熱履歴」、「なし」を含む。「瞬時値」は、データ区間で指定される開始時又は終了時の値を表す。「平均」は、データ区間で指定される期間の値をデータの個数で除した平均値を表す。「積分」は、データ区間で指定される期間の値の合計値を表す。「微分」は、データ区間で指定される開始時又は終了時の微分係数を表す。「差分」は、データ区間で指定される開始時及び終了時の値の差分を表す。「最大」は、データ区間で指定される期間内の最大値を表す。「最小」は、データ区間で指定される期間内の最小値を表す。「熱履歴」は、反応の進行の程度の一例であり、例えば、データ区間で指定される期間における反応速度の積分値を表す。「なし」は、バッチ終了時のタグに付され、加工処理を行わないことを表す。データ区間の属性は、開始及び終了の属性をさらに含み、開始及び終了のフィールドの少なくとも一方には、センサの出力値を取得するタイミングを示す情報が登録される。タイミングを示す情報は、例えば細分化された工程ごとに予め定められる所定のステップに基づいて定義されるようにしてもよい。平滑化のフィールドには、データに対する所定の平滑化処理の実施の要否を示す情報が登録される。運転条件最適化の属性は、調整/監視、コスト影響、管理範囲、設定範囲の各属性をさらに含む。調整/監視のフィールドには、最適化処理において調整の対象とするか監視の対象とするかを示す種別が登録される。コスト影響のフィールドには、最適化処理において調整した場合に影響する所定の単位当たりのコストが登録される。管理範囲の属性は、上限及び下限の属性をさらに含み、上限及び下限のフィールドには、センサの出力値の許容範囲を示す情報が登録される。設定範囲の属性は、上限及び下限の属性をさらに含み、上限及び下限のフィールドには、センサの出力値の目標とする範囲を示す情報が登録される。以上のような運転条件最適化のフィールドに登録される情報に従い、予測装置1は多目的最適化または単目的最適化を行うようにしてもよい。
【0026】
図6は、知識ベースに基づいて作成されるタグ結合テーブルの一例を示す図である。タグ結合テーブルは、知識ベースから得られる因果関係を表す情報であって、説明変数とするプロセスデータと、目的変数とするプロセスデータとの組合せを定義する。タグ結合テーブルも、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSVのような所定の形式のファイルであってもよい。また、タグ結合テーブルも、予めユーザによって作成され、予測装置1によって読み出される。
【0027】
タグ結合テーブルは、結合ID、タグ、要因/影響、因果関係、学習期間、従属関係の各属性を含む。結合IDのフィールドには、因果関係のまとまりを示す識別情報が登録される。タグのフィールドには、センサの識別情報であるタグが登録される。要因/影響のフィールドには、因果関係における要因系であるか影響系であるか(換言すれば、説明変数であるか目的変数であるか)を示す種別が登録される。因果関係のフィールドには、影響系の値を正又は負の方向に変動させるために、当該タグに対応する要因系の出力値を変動させるべき符号の制約を示す、正又は負の種別が登録される。従って、要因/影響のフィールドに「要因」が登録されたレコードに、因果関係の値が登録される。本実施形態では、予測装置1は、要因系の値の変動の正負の方向と、影響系の値の変動の正負の方向との間に、一定の対応関係を有するような制約(「符号制約」と呼ぶ)を課して予測モデルを作成する。例えば、説明変数の正負の変動方向に応じて、目的変数の正負の変動方向が定まるように予測モデルが作成される。すなわち、因果関係のフィールドに登録される符号は、影響系の値を正又は負のうち所定の方向に変動させるために、当該レコードのタグに対応するセンサの出力値を正又は負のうちいずれの方向に変動させればよいかを示している。また、学習期間のフィールドには、予測モデルを作成するために用いるプロセスデータの期間を特定するための情報が登録される。当該情報は、例えば直近の製造番号の個数であってもよい。
【0028】
以上のようなタグ属性テーブル及びタグ結合テーブルに基づいて、予測装置1は、予測モデルを作成する。図7は、予測モデルの構成を示すロジックツリーの一例を示す図である。各矩形は、タグに対応するセンサの出力値又は予測値を表す。予測モデルは、上流(図7では左側)の工程におけるセンサの出力値に基づいて、矢印で接続された先の、影響系に当たるセンサの出力値を予測するための予測式を含む。また、予測モデルは、複数の予測式を含む階層構造であり、ある予測式による予測値を説明変数に含む他の予測式が含まれる。予測式は、図6に示したタグ結合テーブルにおいて、同一の結合IDが付されたレコードを組み合わせて作成される。例えば、要因/影響のフィールドに「要因」が登録されているタグに対応するセンサの出力値又はその予測値を説明変数とし、要因/影響のフィールドに「影響」が登録されているタグに対応するセンサの出力値や、例えば工程検査によって得られる分析値である、生産物の特性値を目的変数として所定の予測式を作成する。
【0029】
具体的には、予測式は、例えば次のような式(1)で表すことができる。
Y(t) = a1(t)・x1(t)+a2(t)・x2(t)+・・・+an(t)・xn(t)+aar(t)・Y(t-1)+C (1)なお、tは製造番号に応じた値であり、Y(t)は影響系の予測値であり、x(t)は要因系のセンサの出力値又はその予測値であり、a(t)は要因系の係数であり、aar(t)は自己回帰項の係数であり、Cは定数項である。要因系に対応する項は、図7において矢印で接続された元のセンサの出力値の数だけ含まれる。また、自己回帰項は、過去の製造番号に係る予測値又は実測値である。自己回帰項は1つには限定されず、予測式は、直近の複数の製造番号に係る自己回帰項を含むものであってもよい。
【0030】
また、予測装置1は、バッチ工程においては製造番号ごとに学習処理を行い予測式の係数等を更新する。係数は、例えば、図6の学習期間のフィールドに設定された、直近の所定数の製造番号に対応するプロセスデータを学習データとして、回帰分析を行い決定される。このとき、上述した符号制約を満たすように、係数が決定されるものとする。例えば、予測装置1は、各要因系についてペナルティ関数を設定し、その総和を正則化項として、再急降下法による回帰を行ってもよい。ペナルティ関数は、例えば、図6のタグ結合テーブルに登録された因果関係の符号と同一の領域においてはペナルティをゼロとし、異なる符号の領域においてはペナルティが線形に上昇するものであってもよい。また、予測装置1は、符号制約を満足する係数(ゼロを含む)の組み合わせを網羅的に探索し、満足する組み合わせが複数見つかった場合には予測精度が高いものを選択するようにしてもよい。
【0031】
<連続工程>
図8は、連続工程におけるプロセスデータの一例を説明するための図である。図8の左側の列は、図2に示した連続工程32のプロセスの一部を示す。具体的には、プロセスは、タンク311と、ポンプ312とを含む。図8の右側の列は、各プロセスにおいて取得されるプロセスデータの一例を示す。連続工程32においては、タグと対応付けられ、製造番号とは対応付けられていない時系列のデータが、センサから継続して取得される。図8の例においては、タグが102及び103である各センサから時系列のデータが取得される。連続工程においては、機器が連続的に処理対象を受け入れ、継続的に処理を行う。バッチ工程の後に連続工程を行う場合、バッチ工程における処理対象と、連続工程における処理対象とを紐づけるために、本実施形態では予めユーザによって設定されるトレーサビリティ情報を用いる。トレーサビリティ情報は、サンプリング間隔と滞留時間とを含む。サンプリング間隔は、連続工程において例えば縮分法による工程検査のためのサンプリングを行う間隔を表す。滞留時間は、バッチ工程の完了から、連続工程に含まれるプロセスに到達するまでに処理対象が滞留する時間を表す。
【0032】
図9は、連続工程の工程検査におけるサンプルとバッチ工程における製造番号との対応付けを説明するための図である。例えば、工程検査は所定の間隔で行われ、工程検査におけるサンプルは当該間隔に相当する期間の縮分サンプルとする。また、バッチ工程の後に連続工程を行う場合、所定の期間に完了したバッチ工程による生成物が、連続工程の処理対象として導入される。したがって、連続工程におけるプロセスデータの縮分サンプルは、サンプリング時点までの滞留時間を遡り、バッチ工程の完了時刻の範囲と紐付けることにより、対応するバッチ工程の製造番号群を特定することができる。このような紐づけにより、バッチ工程と連続工程とが続けて実施される場合において、バッチ工程におけるプロセスデータを利用する予測式の精度を向上させることができる。
【0033】
図10は、連続工程におけるセンサ位置から工程検査でのサンプリング位置までの滞留時間を説明するための図である。上述した縮分サンプルは、例えば、連続工程において得られるプロセスデータの所定期間の平均値として算出される。この演算を行うサンプリング時点と、当該時点において平均するプロセスデータの取得時点の範囲とを対応付けるため、本実施形態では、連続工程においてプロセスデータを出力するセンサの位置と、工程検査のためのサンプリングを行う位置との間隔について、当該区間の滞留時間を設定する。これにより、連続工程におけるプロセスデータと工程検査の縮分サンプルとを紐づけることができる。このような紐づけにより、連続工程におけるプロセスデータを利用する予測式の精度を向上させることができる。
【0034】
図11は、知識ベースに基づいて作成される、連続工程のタグ属性テーブルの一例を示す図である。連続工程のタグ属性テーブルも、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSVのような所定の形式のファイルであってもよい。また、タグ属性テーブルは、予めユーザによって作成され、予測装置1によって読み出される。
【0035】
連続工程のタグ属性テーブルは、タグ、種別、滞留時間、バッチ関連タグ、運転条件最適化の各属性を含む。なお、図5に示したバッチ工程のタグ属性テーブルと名称が同一の属性については説明を省略する。種別のフィールドには、連続、バッチ又は品質の種別が登録される。種別のうち「連続」は、各レコードが示すタグが連続工程におけるプロセスデータであることを表す。「バッチ」は、バッチ工程におけるプロセスデータであることを表す。「品質」は、工程検査における縮分サンプルの分析値であることを表す。
【0036】
また、連続工程においても、図6に示したようなタグ結合テーブルを利用し、タグ属性テーブル及びタグ結合テーブルに基づいて、予測装置1は、予測モデルを作成する。図12は、予測モデルの構成を示すロジックツリーの一例を示す図である。図12においても、各矩形は、タグに対応するセンサの出力値又は予測値を表す。タグが101の矩形は、バッチ工程のプロセスデータを示す。バッチ工程のプロセスデータは、図9を用いて説明したように、滞留時間に基づいて対応する製造番号及び系列が特定され、これらの平均値を予測式の説明変数として用いる。タグが102及び103の矩形は、連続工程のプロセスデータを示す。連続工程のプロセスデータは、図10を用いて説明したように、滞留時間とサンプリング間隔に基づいて対応する期間が特定され、期間内のプロセスデータの平均値を予測式の説明変数として用いる。タグが104の矩形は、工程検査(品質工程とも呼ぶ)の分析値であり、例えば縮分法により求められるプロセスデータに応じた値である。連続工程においても、予測式は、図6に示したタグ結合テーブルにおいて、同一の結合IDが付されたレコードを組み合わせて作成される。予測式はバッチ工程と同様であるため説明を省略する。
【0037】
本実施形態では、知識ベースに基づいて選択されたプロセスデータを用いるため、プラント全体の膨大なパラメータを必要とせず、因果関係が明らかなパラメータから予測モデルを高速に作成することができる。また、自己回帰項を含む予測モデルを作成すれば、単にある時点のプロセスデータからシミュレーションを行うのみでは反映されない、プロセスデータの経時的な変化を加味した予測ができるようになる。
【0038】
また、上述のような符号制約がない場合、予測モデルを用いて逆問題を解く場合に、適切な結果が得られない場合があった。すなわち、要求する品質を指定してこれに応じた運転条件を求める場合に、プロセスの原理原則に反した結果を出力するような予測モデルが作成されてしまうおそれがあった。上述のような符号制約を課すことで、プロセスの原理原則に従った予測モデルを作成することができる。すなわち、符号制約を満足する予測式を用いることにより、生産物の品質の代替指標となる影響系の値を予測できるだけでなく、品質を改善するためにプラントの運転条件をどのように変更すればよいかが容易にわかるようになる。
【0039】
<制御>
予測装置1は、作成した予測式とプロセスデータとを用いて、影響として現れた状態の変化に対して安定状態に移行させるための運転条件を求めたり、生産物が所定の要求を満たすような運転条件を求め、運転条件に基づいてプラント3を制御するようにしてもよい。例えば、一部の特性値に対して目標値を定め、他の制御可能なプロセスデータに対して許容範囲を定め、好ましい運転条件を求める。また、さらに、少なくとも一部のプロセスデータに対して単価を設定しておき、例えばコストが最小になる運転条件や、コストの許容範囲を満たすような運転条件を求めるようにしてもよい。
【0040】
上述したように、図5に示したテーブルの「管理範囲」のフィールドには、各プロセスデータの許容範囲が設定される。「設定範囲」のフィールドには、各プロセスデータの目標値が設定される。また、「コスト影響(単価)」のフィールドには、各プロセスデータの所定の単位量当たりのコストが設定される。なお、「調整/監視」のフィールドに「調整」が登録されているプロセスデータは、プラント3が備えるアクチュエータ等を制御することにより、調整が可能な値を表している。制御時においては、例えば目標や許容範囲等の条件に基づいて、調整可能なプロセスデータの運転条件を求める。
【0041】
図5の例では、「コスト影響(単価)」のフィールドに設定された単価と、各タグに対応するプロセスデータの値との積の総和により、コストを求めることができる。そして、目的関数であるコストが最小になるように、制御可能なプロセスデータの値(運転条件)を算出する。
【0042】
また、設定範囲に基づき、予測式によって算出される予測値は、図5の「設定範囲」に登録される範囲に収まるよう制約条件が課される。これらのプロセスデータは例えば品質又は品質代替指標であり、範囲は要求されるスペックにより定められる狙い値といえる。
【0043】
さらに、管理範囲に基づき、制御可能なプロセスデータの取り得る値は制限される。「調整/監視」のフィールドに「調整」が登録されているタグに対応するプロセスデータは調整可能であるが、例えばプラント3の仕様等に応じて定まる設定の限界により制約条件が設けられる。
【0044】
また、本実施形態では、予測処理において作成した予測モデルも制約条件に利用される。すなわち、予測式における目的変数の少なくとも一部に対して所定の範囲を表す制約条件を設け、予測値が当該制約条件の範囲内になるような説明変数の最適値を探索する。
【0045】
制約条件となる1次不等式や1次等式を満たす変数の中で、目的関数を最小化する値を求める場合は、いわゆる線形計画法により最適化することができる。なお、コストでなく、任意のプロセスデータの予測値を目的変数としてもよい。このとき、コストについて許容範囲を定めるようにしてもよい。また、制約条件や目的関数の一部に非線形であっても、既存の非線形計画法により解くことができる。また、目的関数を複数設定し、多目的最適化を行うようにしてもよい。以上のように、最適化問題を解くことにより運転条件を求めることができる。
【0046】
例えば調整対象のプロセスデータが副原料の投入量であれば、算出された最適解がそのまま設定値となる。例えば調整対象のプロセスデータが処理対象の温度の積分値であれば、算出された最適解に近づくように、バルブ等のアクチュエータを調整する。
【0047】
<装置構成>
図13は、予測装置1の構成の一例を示すブロック図である。予測装置1は、一般的なコンピュータであり、通信インターフェース(I/F)11と、記憶装置12と、入出力装置13と、プロセッサ14とを備えている。通信I/F11は、例えばネットワークカードや通信モジュールであってもよく、所定のプロトコルに基づき、他のコンピュータと通信を行う。記憶装置12は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の主記憶装置、及びHDD(Hard-Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置(二次記憶装置)であってもよい。主記憶装置は、プロセッサ14が読み出すプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報を一時的に記憶したり、プロセッサ14の作業領域を確保したりする。補助記憶装置は、プロセッサ14が実行するプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報等を記憶する。入出力装置13は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置、モニタ等の出力装置、タッチパネルのような入出力装置等のユーザインターフェースである。プロセッサ14は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置であり、プログラムを実行することにより本実施形態に係る各処理を行う。図13の例では、プロセッサ14内に機能ブロックを示している。すなわち、プロセッサ14は、所定のプログラムを実行することにより、プロセスデータ取得部141、プロセスデータ加工部142、予測モデル作成部143、品質予測部144及びプラント制御部145として機能する。
【0048】
プロセスデータ取得部141は、例えば通信I/F11及び制御ステーション2を介して、プラント3が備えるセンサからプロセスデータを取得し、記憶装置12に記憶させる。上述したように、プロセスデータは、タグによってセンサと対応付けられている。
【0049】
プロセスデータ加工部142は、予測モデルの作成に際し、図5に示したバッチ工程のタグ属性テーブル又は図11に示した連続工程のタグ属性テーブルに基づいて、プロセスデータを加工する。すなわち、プロセスデータ加工部142は、バッチ工程のタグ属性テーブルの一次工程のフィールドに登録された情報に基づいて、指定タイミングの瞬時値を抽出したり、指定期間の平均値を算出したり、指定期間の積分値を算出したりする。また、プロセスデータ加工部142は、連続工程のタグ属性テーブルのバッチ関連タグのフィールドに登録された情報、及び例えば予め記憶装置12に保持されている上述のトレーサビリティ情報に基づいて、所定のタグ、系統及び製造番号に該当するプロセスデータの平均値を算出したり、連続工程のプロセスデータについて、トレーサビリティ情報に基づいて特定される期間の平均値を算出したりしてもよい。
【0050】
予測モデル作成部143は、例えば図6に示したタグ結合テーブルに基づいて、上述した式(1)に示すような予測式を含む予測モデルを作成し、記憶装置12に記憶させる。予測モデル作成部143は、例えば、バッチ工程においては製造番号ごとに直近の所定期間のデータを用いて予測式の係数等を更新してもよい。また、予測モデル作成部143は、例えば、連続工程においては所定期間ごとに直近のデータを用いて予測式の係数等を更新してもよい。
【0051】
品質予測部144は、プロセスデータと予測モデルとを用いて、所定のセンサの出力値や、工程検査の分析値を予測する。なお、品質予測部144は、任意の運転条件に基づくデータと予測モデルとを用いて、運転条件変更後の予測値を算出してもよい。
【0052】
プラント制御部145は、例えば通信I/F11及び制御ステーション2を介して、プラント3が備えるバルブ等のアクチュエータやその他の機器を制御する。また、プラント制御部145は、例えば品質とコストとが所定の条件を満たす運転条件を求め、これに基づいてプラント3を制御してもよい。また、プラント制御部145は、所定の安定状態に移行させるための運転条件を求めたり、生産物が所定の要求を満たすような運転条件を求め、これに基づいてプラント3を制御してもよい。
【0053】
以上のような構成要素が、バス15を介して接続されている。
【0054】
<予測処理(バッチ工程)>
図14は、予測装置1が実行する予測処理の一例を示す処理フロー図である。予測装置1のプロセッサ14は、所定のプログラムを実行することにより、図14に示すような処理を実行する。予測処理は、バッチ工程においては製造番号ごとに、連続工程においては所定のサンプリング間隔で、実行される。なお、図5に示したバッチ工程のタグ属性テーブル、図6に示したタグ結合テーブル、図11に示した連続工程のタグ属性テーブル、トレーサビリティ情報等が、ユーザによって作成され、予め記憶装置12に記憶されているものとする。また、プロセスデータ取得部141は、例えば通信I/F11及び制御ステーション2を介して、プラント3が備えるセンサからプロセスデータを継続的に取得し、一時的に又は永続的に、記憶装置12に記憶させているものとする。プロセスデータは、例えばOPCのような所定の規格に従って記述される。
【0055】
予測装置1のプロセスデータ取得部141は、設定情報を読み込む(図14:S1)。本ステップでは、プロセスデータ取得部141は、記憶装置12から、タグ属性テーブル、タグ結合テーブル、トレーサビリティ情報等を読み出す。
【0056】
また、プロセスデータ取得部141は、プロセスデータを読み込む(図14:S2)。本ステップでは、予測式に用いられるタグに対応するプロセスデータが、例えば、予測式ごと、且つ系列ごと、且つ細分化された工程ごとに抽出される。図15は、本ステップにおいて読み出されたデータを書き込むためのバッチ工程用の書込用配列の一例を示す図である。バッチ工程用の書込用配列は、OPCデータであってもよいし、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSVのような所定の形式のファイルであってもよい。図15のテーブルは、日時、製番、品種、ステップ、タグの各属性を含む。日時のフィールドには、センサが測定値を出力した日時が登録される。製番のフィールドには、製造番号が登録される。品種のフィールドには、処理対象の種別が登録される。ステップのフィールドには、予め定義されたステップで表される、当該工程における段階を示す情報が登録される。タグのフィールドには、各タグに対応するセンサの出力値が登録される。
【0057】
また、予測装置1のプロセスデータ加工部142は、プロセスデータに対し所定の加工処理を行う(図14:S3)。本ステップの詳細は、図16を用いて説明する。図16は、加工処理の一例を示す処理フロー図である。プロセスデータ加工部142は、図15に示した書込用配列に、予測式ごと、且つ系列ごと、且つ細分化された工程ごとのプロセスデータが抽出されると、書込用配列の各レコードに対して図16に示すような処理が実行される。
【0058】
プロセスデータ加工部142は、書込用配列からレコードを読み出す(図16:S11)。本ステップでは、図15に示したようなテーブルから1レコードが順に読み出される。また、プロセスデータ加工部142は、一次加工方法に応じてデータの加工を行う(図16:S12)。本ステップでは、図5に示したタグ属性テーブルを参照し、対応するタグの「一次加工」の「方法」のフィールドに登録された種別に基づいて、例えば瞬時値、平均値、積分値、微分係数、差分、最大値、最小値、熱履歴、又はプロセスデータそのものが求められる。図17は、本ステップの処理結果を書き込むバッチ配列の一例を示す図である。バッチ配列も、OPCデータであってもよいし、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSVのような所定の形式のファイルであってもよい。図17のテーブルは、製番、終了日時、タグの各属性を含む。製番のフィールドには、製造番号が登録される。終了日時のフィールドには、当該製番のバッチ工程が終了した日時が登録される。タグのフィールドには、加工処理後のプロセスデータが登録される。
【0059】
ここで、熱履歴の算出について説明する。熱履歴は、例えば解重合やアセチル化、脱アセチル化等の一般的な化学反応について、反応の進行の程度を表す情報である。本実施形態では、熱履歴を、所定の期間の反応速度の積分値として求める。例えば、次の式(2)に示すように、反応速度式の積分値により算出する。
【数1】

ここで、Aは、頻度因子である。Eは、活性化エネルギーである。Rは、気体定数である。また、A(t)、B(t)は濃度項であり、m、nは、反応次数である。これらの値は、反応や対象物に応じて定義される。また、tは、工程における所定の区間を表すステップである。T(t)は、当該ステップにおける温度であり、プロセスデータとして得られる。このような加工により、所定期間に処理対象が受けた熱量を、品質予測に用いることができるようになる。
【0060】
また、プロセスデータ加工部142は、所定のデータクレンジング処理を実施する(図16:S13)。データクレンジング処理は、外れ値を排除する処理であり、様々な手法を採用することができる。例えば、直近のデータを用いて移動平均値を算出する。また、移動平均値と実測値との差をとり、差分のばらつきを表す標準偏差σ(誤差分散とも呼ぶ)を求める。そして、例えば確率分布の平均値-3σから確率分布の平均+3σまでの区間(3σ区間とも呼ぶ)のような所定の信頼区間に入らない値を除外する。同様に、前後の実測値の差について、3σ区間に入らない値を除外するようにしてもよい。データクレンジング処理は、例えば瞬時値や、バッチ終了時のプロセスデータに対して行われる。
【0061】
また、プロセスデータ加工部142は、所定の平滑化処理を実施する(図16:S14)。平滑化処理は、図5に示したタグ属性テーブルにおいて、平滑化のフィールドに「要」が登録されたタグについて行われる。また、平滑化処理は、例えば、データクレンジング後の値について、直近の所定数の移動平均を求める処理であってもよいし、データを平滑化することができる他の手法であってもよい。以上で、図16の加工処理を終了し、図14の処理に戻る。
【0062】
その後、予測装置1の予測モデル作成部143は、予測モデル構築処理を行う(図14:S4)。本ステップでは、図6に示したタグ結合テーブルに基づいて、予測モデルを構成する予測式を作成する。具体的には、同一の結合IDが付されたタグの加工後のプロセスデータを読み出し、要因/影響のフィールドに登録された種別に基づいて加工後のプロセスデータを予測式(例えば、上述した式(1))に当てはめ、回帰分析により予測式の係数及び定数項を決定する。このとき、加工後のプロセスデータは、学習期間のフィールドに登録された値に応じて直近のデータを学習対象とする。なお、予測モデル作成部143は、学習期間の大きさについても好ましい値を探索するようにしてもよい。例えば、作成した予測モデルとプロセスデータとを用いて相関係数を算出し、相関係数が向上するように学習期間を設定する。また、因果関係のフィールドに登録された符号に基づいて、要因系の値の変動の方向と、影響系の値の変動の方向との間に、一定の対応関係を有するような制約の下で、予測式の係数等を決定する。そして、予測モデル作成部143は作成した予測式を記憶装置12に記憶させる。
【0063】
予測装置1の品質予測部144は、予測モデル構築処理において作成された予測モデルと、プロセスデータ又はその予測値とを用いて、予測処理を行う(図14:S5)。便宜上、図14の処理フローの中に予測処理を示すが、品質予測部144は、任意の時点に予測モデルとプロセスデータを用いて予測処理を行うことができる。本ステップでは、品質予測部144は、直近の予測モデルとプロセスデータとを読み出し、予測モデルに含まれる予測式にプロセスデータ又はその予測値を代入して、任意の影響系に相当する値の予測値を求める。
【0064】
図18は、予測式に代入するプロセスデータ又はその予測値を説明するための図である。図4に示したタグ007の値を予測する場合、図3の時点tにおいては、図18に示すように各タグに対応するセンサの実測値又は予測値を用いる。すなわち、製造番号003のタグ007の値を予測する場合、既知である、製造番号003のタグ001から004までの実測値と、未知である、製造番号003のタグ005及び006の予測値とを、タグ007の予測式に代入する。
【0065】
図19は、予測式に代入するプロセスデータ又はその予測値を説明するための他の例を示す図である。図4に示したタグ007の値を予測する場合、図3の時点tにおいては、図19に示すように各タグに対応するセンサの実測値又は予測値を用いる。すなわち、製造番号004のタグ007の値を予測する場合、既知である、製造番号004のタグ001及び002の実測値と、製造番号003のタグ004の実測値と、未知である、製造番号004のタグ003、005及び006の予測値とを、タグ007の予測式に代入する。ここで、図4に示したように、タグ004の値には予測式がないため、直近の製造番号の実測値が用いられる。
【0066】
また、予測モデルに入力する値は、プロセスデータには限られず、たとえば任意の運転条件に基づくデータであってもよい。このようにすれば、プラント3の運転条件を変更した場合の結果を予測できる。以上のように、品質予測部144は、予測モデルと、センサの出力値又はその予測値を用いて、例えば所定のプロセスデータの予測値を算出する。
【0067】
また、品質予測部144は、算出された予測値又はプロセスデータの実測値について、上述したデータクレンジングにおいて求めた所定の信頼区間を求め、モニタ等の入出力装置13に所定の信頼区間と予測値又は実測値とをグラフ上に図示するようにしてもよい。このようにすれば、ユーザは視覚的に傾向を把握でき、プラント3の運転条件を変更すべきか否かの判断材料とすることができる。
【0068】
また、プラント制御部145は、算出された予測値に基づいてプラント3の運転条件を自動的に変更したり、入出力装置13を介してユーザに運転条件の変更を提案する情報を出力してもよい。
【0069】
<予測処理(連続工程)>
連続工程においても、図14に示した予測処理を行う。以下、バッチ工程との相違点を中心に説明する。なお、系列ごと且つ製造番号ごとに、バッチ工程が終了し、連続工程への処理対象の移送(移液)が完了した日時が、記憶装置12に記憶されているものとする。
【0070】
プロセスデータの読み込み(図14:S2)においては、連続工程の場合、製造番号単位でなく、新しいデータを書き込むと共に古いデータを削除するローリングが継続的に行われる。また、図11に示したタグ属性テーブルの種別のフィールドに登録された情報に基づいて、図15に示した書込用配列のデータ構造を変更してもよい。図20は、種別が「連続」のデータを保持する書込用配列の一例を示す図である。種別が「連続」のデータを保持する書込用配列は、例えば、図15のテーブルから製番及びステップを削除した構成とすることができる。また、図21は、種別が「バッチ」のデータを保持する書込用配列の一例を示す図である。種別が「バッチ」のデータを保持する書込用配列は、例えば、製造番号と当該製造番号のプロセスデータとを保持するテーブルであり、図21のようなテーブルが系統ごとに作成される。図21のテーブルに登録されるデータは、図17のバッチ配列に登録された加工後のデータであってもよい。
【0071】
また、プロセスデータの加工(図14:S3)は、例えば、工程検査のタイミングを基準として実行される。工程検査のタイミングは、トレーサビリティ情報においてサンプリング間隔として定義されている。図22は、連続工程における加工後のプロセスデータを保持する結合IDデータ配列の一例を示す図である。結合IDデータ配列も、OPCデータであってもよいし、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSVのような所定の形式のファイルであってもよい。図22のテーブルは、工程検査ID、サンプリング、タグの各属性を含む工程検査IDのフィールドには、各工程検査を特定するための識別情報が登録される。サンプリングの属性は、開始日時及び終了日時の属性をさらに含み、開始日時及び終了日時のフィールドにはそれぞれ縮分法による工程検査のサンプリングの開始日時及び終了日時が登録される。タグのフィールドには、各タグに対応する分析値が登録される。ここで、図11に示したタグ属性テーブルの種別のフィールドに「連続」が登録されているタグについては、処理時点からトレーサビリティ情報においてサンプリング間隔を遡った時点までのプロセスデータの平均値が登録される。また、図11に示したタグ属性テーブルの種別のフィールドに「バッチ」が登録されているタグについては、処理時点からトレーサビリティ情報においてサンプリング間隔を遡った時点までに移液が完了した製造番号に対応するプロセスデータの平均値が登録される。
【0072】
また、予測モデル構築処理(図14:S4)は、例えば、予測モデル作成部143が工程検査の分析値を取得すると、当該分析値の予測モデルを更新する。本ステップでも、図6に示したタグ結合テーブルに基づいて、予測モデルを構成する予測式を作成する。また、連続工程においては、図9に示したように、予測モデル作成部143は、バッチ工程の完了タイミングと、予め定められた滞留時間とに基づいて、要因系のプロセスデータと影響系のプロセスデータとを対応付け、プラント3から得られたプロセスデータの特徴を学習させるようにしてもよい。また、図10に示したように、予測モデル作成部143は、要因系のプロセスデータの取得タイミングと、影響系のプロセスデータの取得タイミングとの差に基づいて、要因系のプロセスデータと、影響系のプロセスデータとを対応付け、プラント3から得られたプロセスデータの特徴を学習させるようにしてもよい。
【0073】
予測装置1の品質予測部144は、予測モデル構築処理において作成された予測モデルと、プロセスデータ又はその予測値とを用いて、予測処理を行う(図14:S5)。本ステップでは、品質予測部144は、直近の予測モデルとプロセスデータとを読み出し、予測モデルに含まれる予測式にプロセスデータ又はその予測値を代入して、任意の影響系に相当する値の予測値を求める。
【0074】
<制御処理>
図23は、予測装置1が実行する制御処理の一例を示す処理フロー図である。予測装置1のプロセッサ14は、所定のプログラムを実行することにより、図23に示すような処理を実行する。制御処理は、例えば予測モデルが更新された後など、任意のタイミングで実行される。制御処理においても、図5に示したバッチ工程のタグ属性テーブル、図6に示したタグ結合テーブル、図11に示した連続工程のタグ属性テーブル、トレーサビリティ情報等は、予め記憶装置12に記憶されているものとする。また、プロセスデータ取得部141は、例えば通信I/F11及び制御ステーション2を介して、プラント3が備えるセンサからプロセスデータを継続的に取得し、一時的に又は永続的に、記憶装置12に記憶させているものとする。
【0075】
予測装置1のプラント制御部145は、設定情報を読み込む(図23:S21)。本ステップでは、プラント制御部145は、記憶装置12から、タグ属性テーブル、タグ結合テーブル、トレーサビリティ情報等を読み出す。制御処理においては、読み出される情報は、例えば最適化問題の目的関数として表される制御の目標や、例えば最適化問題の制約条件として表される制御の許容領域を含む。ここでは、図5のコスト影響のフィールドに登録された単価を用いて算出されるコストが最小になることを目的関数とするものとする。また、管理範囲及び設定範囲のフィールドに登録された値が、制約条件になるものとする。
【0076】
また、プロセスデータ取得部141は、プロセスデータを読み込む(図23:S22)。本ステップの処理は、図14のS2と同様である。本ステップでは、予測式に用いられるタグに対応するプロセスデータが、例えば、予測式ごと、且つ系列ごと、且つ細分化された工程ごとにプロセスデータが抽出される。また、図15又は図20に示した書込用配列に、センサの出力値が登録される。
【0077】
また、プロセスデータ加工部142は、プロセスデータに対し所定の加工処理を行う(図23:S23)。本ステップの処理は、図14のS3と同様である。
【0078】
そして、プラント制御部145は、最適化問題の演算処理を行う(図23:S24)。本ステップでは、読み出された制約条件の下で目的関数を最小化又は最大化する運転条件を求める。例えば、図5に示した設定に基づいてコストを最小化する場合、コストは次の式(3)で求められる。
コスト=(タグ001のプロセスデータ×単価)+(タグ002のプロセスデータ×単価)+(タグ004のプロセスデータ×単価) (3)
【0079】
また、制約条件として、図5の「設定範囲」に登録される情報を利用する。具体的には、次のような条件が設定される。
タグ005の下限 ≦ タグ005の予測値 ≦ タグ005の上限
タグ007の下限 ≦ タグ007の予測値 ≦ タグ007の上限
【0080】
また、他の制約条件として、図5の「管理範囲」に登録される情報を利用する。具体的には、次のような条件が設定される。
タグ001の下限 ≦ タグ001の値 ≦ タグ001の上限
タグ002の下限 ≦ タグ002の値 ≦ タグ002の上限
タグ003の下限 ≦ タグ003の値 ≦ タグ003の上限
タグ005の下限 ≦ タグ005の値 ≦ タグ005の上限
【0081】
また、本実施形態では、予測処理において作成した予測モデルも制約条件に利用される。例えば、図7及び図12に示したようなロジックツリーにおいてプロセスデータ間に予測式が定義されている場合、予測処理において構築された予測式に基づいて上流のプロセスデータに基づいて下流のプロセスデータが算出される。また、上流側の端部に位置するプロセスであって、図5の「調整/監視」のフィールドに「監視」が登録されているタグに対応するプロセスデータは、S22において取得され、S23において加工された値が用いられる。そして、各予測式における目的変数に対し上述の設定範囲や管理範囲が設定されている場合、これらの範囲を表す制約条件を設け、予測値が当該制約条件の範囲に収まるような説明変数の最適値を探索する。
【0082】
以上のような最適化問題は、既存の解法により解くことができる。なお、図5の「調整/監視」のフィールドに「調整」が登録されているタグに対応するプロセスデータを調整対象とする。すなわち、タグが001、003、004、006のプロセスデータが調整対象であり、対象のタグは制約条件とは必ずしも一致しない。
【0083】
最適化問題が解かれ、調整対象のプロセスデータの設定値を含む運転条件が求められると、プラント制御部145は、運転条件に従ってプラント3を制御する(図23:S25)。本ステップでは、プラント制御部145は、通信I/F11を介して制御ステーション2へ、運転条件を示すデータを出力する。そして、制御ステーション2からの制御信号に従って、プラント3の動作が制御される。なお、例えばS24において多目的最適化問題を解いた場合は、運転条件の複数の候補を入出力装置13を介してユーザへ提示し、ユーザが選択した運転条件に基づいてプラント3を制御してもよい。
【0084】
<変形例>
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0085】
また、上述した実施形態では化学プラントを例に説明したが、一般的な生産設備における製造プロセスに適用することができる。例えば、実施形態におけるバッチ工程の製造番号に代えてロット番号を処理単位として、実施形態におけるバッチ工程に準じた処理を適用することができる。
【0086】
予測装置1の機能の少なくとも一部は、複数の装置に分散して実現するようにしてもよいし、同一の機能を複数の装置が並列に提供するようにしてもよい。例えば、予測モデルを作成するモデル作成装置と、作成された予測モデルを用いて予測を行う予測装置と、作成された予測モデルを用いて生産設備の制御を行う制御装置とが異なっていてもよい。また、予測装置3の機能の少なくとも一部は、いわゆるクラウド上に設けるようにしてもよい。
【0087】
また、上述した式(1)は、自己回帰項を含む線形モデルであるが、このような例には限定されない。例えば、自己回帰項を含まないモデルを採用することもできる。また、モデルは線形でも非線形でもよい。また、単一の式であってもよいし、例えば季節変動のような周期的な変動を取り入れた状態空間モデルを採用してもよい。ただし、符号制約を満たすモデルであることが好ましい。すなわち、要因系の値の変動の方向と、影響系の値の変動の方向との間に、一定の対応関係を有するような制約の下で、予測式の係数等を決定する。
【0088】
また、本開示は、上述した処理を実行する方法やコンピュータプログラム、当該プログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体を含む。当該プログラムが記録された記録媒体は、プログラムをコンピュータに実行させることにより、上述の処理が可能となる。
【0089】
ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータから読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータから取り外し可能なものとしては、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、磁気テープ、メモリカード等がある。また、コンピュータに固定された記録媒体としては、HDDやSSD(Solid State Drive)、ROM等がある。
【符号の説明】
【0090】
1: 予測装置
11: 通信I/F
12: 記憶装置
13: 入出力装置
14: プロセッサ
141: プロセスデータ取得部
142: プロセスデータ加工部
143: 予測モデル作成部
144: 品質予測部
145: プラント制御部
2: 制御ステーション
3: プラント
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