(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】コネクタ及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H01R 12/91 20110101AFI20241107BHJP
H01R 12/73 20110101ALI20241107BHJP
【FI】
H01R12/91
H01R12/73
(21)【出願番号】P 2022027207
(22)【出願日】2022-02-24
(62)【分割の表示】P 2017196003の分割
【原出願日】2017-10-06
【審査請求日】2022-03-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】森田 峻介
(72)【発明者】
【氏名】垣野 正義
(72)【発明者】
【氏名】掛野 正識
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】中屋 裕一郎
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-186056(JP,A)
【文献】特開2016-62661(JP,A)
【文献】特開2013-45739(JP,A)
【文献】特開2008-108560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 12/00 - 12/91
H01R 13/56 - 13/72
H01R 24/00 - 24/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に対して取り付けられる第1インシュレータと、
前記第1インシュレータに対して相対的に移動可能であり、接続対象物と嵌合する第2インシュレータと、
前記第1インシュレータ及び前記第2インシュレータに取り付けられている複数の第1コンタクトと、
前記基板に取り付けられている第1金属板と、
を備え、
前記第2インシュレータは、前記第1インシュレータよりも前記接続対象物との嵌合側に突出する嵌合凸部を有し、
前記第1金属板は、前記第1インシュレータよりも前記嵌合側に突出し、前記第2インシュレータと離間して配置され、かつ前記第2インシュレータと前記接続対象物とが互いに嵌合する嵌合状態において、前記第2インシュレータと前記接続対象物との嵌合方向に直交する全方向において前記接続対象物と全体で離間し、
前記第1金属板において前記第1インシュレータよりも前記嵌合側に突出する部分の前記嵌合凸部側の内面は、前記嵌合凸部の前記第1金属板側の外面と前記嵌合方向に沿って平行に配置されている、
コネクタ。
【請求項2】
前記第1金属板は、前記複数の第1コンタクトを遮蔽する、
請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコネクタと、
前記嵌合状態において前記複数の第1コンタクトとそれぞれ接触する複数の第2コンタクトと第2金属板とを備える前記接続対象物と、
を備え、
前記第1金属板は、前記嵌合状態で、前記第2金属板と共に、前記嵌合方向の全体にわたり前記複数の第1コンタクト及び前記複数の第2コンタクトを遮蔽する、
コネクタ
及び接続対象物。
【請求項4】
前記第1金属板は、前記嵌合状態において、前記第2金属板と離間する、
請求項3に記載のコネクタ
及び接続対象物。
【請求項5】
前記第1コンタクトは、
前記第1インシュレータによって支持される第1基部から延出し、弾性変形可能な第1弾性部と、
前記第1弾性部と連続して形成され、前記第1弾性部よりも高い電気伝導性を有する調整部と、
前記調整部から前記第2インシュレータまで延出し、弾性変形可能な第2弾性部と、
前記第2インシュレータと前記接続対象物との嵌合の際に前記接続対象物と電気的に接触する接触部と、
を備える、
請求項1又は2に記載のコネクタ。
【請求項6】
前記調整部は、前記嵌合方向に沿って前記第1弾性部と前記第2弾性部との間に位置する、
請求項5に記載のコネクタ。
【請求項7】
前記調整部は、前記第1弾性部よりも断面積が大きい、
請求項5又は6に記載のコネクタ。
【請求項8】
前記調整部は、前記第2弾性部よりも断面積が大きい、
請求項5乃至7のいずれか1項に記載のコネクタ。
【請求項9】
前記第1コンタクトは、前記第2インシュレータの内壁に沿って配置され、前記嵌合方向に延在する、弾性変形可能な第3弾性部をさらに備える、
請求項5乃至8のいずれか1項に記載のコネクタ。
【請求項10】
前記第1コンタクトは、前記第2弾性部と前記第3弾性部とを接続する第2基部をさらに備える、
請求項9に記載のコネクタ。
【請求項11】
前記第2インシュレータは、前記第2基部と対向する位置に形成されている壁部を備える、
請求項10に記載のコネクタ。
【請求項12】
前記調整部は前記嵌合方向に延在し、
前記第1弾性部及び前記第2弾性部は、前記調整部において、前記嵌合方向の両端側からそれぞれ延出する、
請求項5乃至11のいずれか1項に記載のコネクタ。
【請求項13】
前記第1弾性部、前記調整部及び前記第2弾性部は、前記嵌合方向に沿って前記嵌合側から順に配置されている、
請求項12に記載のコネクタ。
【請求項14】
前記第1コンタクトの全体は、前記複数の第1コンタクトの配列方向と前記第1コンタクトの板厚方向とが平行となるように平坦に形成されている、
請求項1及び2、5乃至13のいずれか1項に記載のコネクタ。
【請求項15】
請求項1及び2、5乃至14のいずれか1項に記載のコネクタ、又は請求項3若しくは4に記載のコネクタ
及び接続対象物を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接続対象物との接続信頼性を向上させるための技術として、例えば嵌合中や嵌合後においてもコネクタの一部が可動することで基板間の位置ずれを吸収するフローティング構造を有したコネクタが知られている。
【0003】
特許文献1には、フローティング構造を有し、フラックス上がりによる導通不良を抑制しつつ小型化に寄与する電気コネクタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器では、情報量の増加及び信号伝送の高速化が著しく進んでいる。フローティング構造を用いたコネクタにおいても、このような大容量かつ高速伝送に対応した設計が求められる。しかしながら、特許文献1に記載の電気コネクタでは、このような大容量かつ高速伝送に対応した設計については十分に考慮されていなかった。
【0006】
このような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、良好なフローティング構造と、信号伝送における良好な伝送特性とを両立したコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、第1の観点に係るコネクタは、
第1インシュレータと、
前記第1インシュレータに対して相対的に移動可能であり、接続対象物と嵌合する第2インシュレータと、
前記第1インシュレータ及び前記第2インシュレータに取り付けられているコンタクトと、
を備え、
前記コンタクトは、
前記第1インシュレータによって支持される第1基部から延出し、弾性変形可能な第1弾性部と、
前記第1弾性部と連続して形成され、前記第1弾性部よりも高い電気伝導性を有する調整部と、
前記調整部から前記第2インシュレータまで延出し、弾性変形可能な第2弾性部と、
前記第2インシュレータと前記接続対象物との嵌合の際に前記接続対象物と電気的に接触する接触部と、
を備える。
【0008】
第2の観点に係るコネクタでは、
前記調整部は、前記第1弾性部よりも断面積が大きい。
【0009】
第3の観点に係るコネクタでは、
前記調整部は、前記第2弾性部よりも断面積が大きい。
【0010】
第4の観点に係るコネクタでは、
前記コンタクトは、前記第2インシュレータの内壁に沿って配置され、前記接続対象物との嵌合方向に延在する、弾性変形可能な第3弾性部をさらに備える。
【0011】
第5の観点に係るコネクタでは、
前記第コンタクトは、前記第2弾性部と前記第3弾性部とを接続する第2基部をさらに備える。
【0012】
第6の観点に係るコネクタでは、
前記第2インシュレータは、前記第2基部と対向する位置に形成されている壁部を備える。
【0013】
第7の観点に係るコネクタでは、
前記調整部は前記接続対象物との嵌合方向に延在し、
前記第1弾性部及び前記第2弾性部は、前記調整部において、前記嵌合方向の両端側からそれぞれ延出する。
【0014】
第8の観点に係るコネクタでは、
前記第1弾性部、前記調整部及び前記第2弾性部は、前記嵌合方向に沿って嵌合側から順に配置されている。
【0015】
第9の観点に係る電子機器は、
上記のいずれかのコネクタを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態に係るコネクタによれば、良好なフローティング構造と、信号伝送における良好な伝送特性とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係るコネクタと接続対象物とが接続された状態を上面視により示した外観斜視図である。
【
図2】一実施形態に係るコネクタと接続対象物とが分離した状態を上面視により示した外観斜視図である。
【
図3】一実施形態に係るコネクタを上面視により示した外観斜視図である。
【
図4】
図3のコネクタの上面視による分解斜視図である。
【
図5】
図3のV-V矢線に沿った断面斜視図である。
【
図10】コンタクトの第1弾性部、調整部及び第2弾性部におけるインピーダンス変化の様子を示した模式図である。
【
図11】
図3のコネクタと接続される接続対象物を上面視により示した外観斜視図である。
【
図12】
図11の接続対象物の上面視による分解斜視図である。
【
図13】
図1のXIII-XIII矢線に沿った断面図である。
【
図14】一対のコンタクトが弾性変形する第1例を示した模式図である。
【
図15】一対のコンタクトが弾性変形する第2例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態について説明する。以下の説明中の前後、左右、及び上下の方向は、図中の矢印の方向を基準とする。各矢印の方向は、
図1乃至
図9、
図13において、異なる図面同士で互いに整合している。各矢印の方向は、
図11及び
図12同士で互いに整合している。各矢印の方向は、
図14及び
図15同士で互いに整合している。図面によっては、簡便な図示を目的として、回路基板CB1及びCB2の図示を省略する。
【0019】
以下の説明では、一実施形態に係るコネクタ10は、リセプタクルコネクタであり、接続対象物70は、プラグコネクタであるとして説明する。すなわち、コネクタ10と接続対象物70とが接続される際に、コネクタ10のコンタクト60の接触部が弾性変形し、接続対象物70のコンタクト110が弾性変形しないとして説明する。コネクタ10及び接続対象物70の種類は、これに限定されない。コネクタ10がプラグの役割を果たし、接続対象物70がリセプタクルの役割を果たしてもよい。
【0020】
以下の説明では、コネクタ10及び接続対象物70は、回路基板CB1及びCB2にそれぞれ接続され、これらに対して互いに垂直方向に接続されるとして説明する。すなわち、コネクタ10及び接続対象物70は、一例として上下方向に沿って接続される。以下の説明中で使用する「嵌合方向」は、一例として上下方向を指すとする。接続方法は、これに限定されない。コネクタ10及び接続対象物70は、回路基板CB1及びCB2に対して、それぞれ平行方向に接続されてもよいし、一方が垂直方向、他方が平行方向による組み合わせで接続されてもよい。回路基板CB1及びCB2は、リジッド基板であってよいし、又はそれ以外の任意の回路基板であってもよい。例えば、回路基板CB1又はCB2は、フレキシブルプリント回路基板(FPC)であってもよい。
【0021】
図1は、一実施形態に係るコネクタ10と接続対象物70とが接続された状態を上面視により示した外観斜視図である。
図2は、一実施形態に係るコネクタ10と接続対象物70とが分離した状態を上面視により示した外観斜視図である。
【0022】
一実施形態に係るコネクタ10は、フローティング構造を有している。コネクタ10は、接続された接続対象物70の回路基板CB1に対する相対的な移動を許容する。すなわち、接続対象物70は、コネクタ10と接続されている状態であっても、回路基板CB1に対して所定の範囲内で動くことができる。
【0023】
図3は、一実施形態に係るコネクタ10を上面視により示した外観斜視図である。
図4は、
図3のコネクタ10の上面視による分解斜視図である。
図5は、
図3のV-V矢線に沿った断面斜視図である。
図6は、
図5のVI部の拡大図である。
図7は、
図3のV-V矢線に沿った断面図である。
図8は、一対のコンタクト60を示した正面図である。
図9は、
図8のIX部の拡大図である。
【0024】
図4に示すとおり、コネクタ10は、大きな構成要素として、第1インシュレータ20と、第2インシュレータ30と、金具40と、金属板50と、コンタクト60と、を有する。コネクタ10は、一例として以下の方法で組み立てられる。すなわち、第1インシュレータ20の下方から金具40を圧入し、金具40が圧入された第1インシュレータ20の内側に第2インシュレータ30を配置する。それぞれの下方からコンタクト60を圧入する。第1インシュレータ20の外面において金属板50を圧入する。
【0025】
コンタクト60が弾性変形しない状態におけるコネクタ10の詳しい構造について、主に
図3乃至
図9を参照しながら説明する。
【0026】
図4及び
図5に示すとおり、第1インシュレータ20は、絶縁性かつ耐熱性の合成樹脂料を射出成形した、角筒状の部材である。第1インシュレータ20は、中空であり、上面及び下面に開口21A及び21Bをそれぞれ有する。第1インシュレータ20は、4つの側面から構成され、内部の空間を囲繞する外周壁22を有する。第1インシュレータ20は、外周壁22の前面及び後面それぞれに凹設されている凹部23を有する。凹部23には、金属板50が取り付けられる。
【0027】
第1インシュレータ20は、外周壁22の下縁部から下面及び内面にわたって形成されている複数のコンタクト取付溝24を有する。複数のコンタクト取付溝24には、複数のコンタクト60がそれぞれ取り付けられる。コンタクト取付溝24の数は、コンタクト60の数と同一である。複数のコンタクト取付溝24は、左右方向に並んで凹設されている。コンタクト取付溝24は、第1インシュレータ20の内面において、上下方向に延在する。
【0028】
第2インシュレータ30は、絶縁性かつ耐熱性の合成樹脂料を射出成形した、左右方向に延在する部材である。第2インシュレータ30は、前方からの正面視において略凸字状に形成されている。第2インシュレータ30は、下部を構成する底部31と、底部31から上方に突出し、接続対象物70と嵌合する嵌合凸部32と、を有する。底部31は、左右方向において嵌合凸部32よりも長い。言い換えると、底部31の左右両端部は、嵌合凸部32の左右両端部よりもそれぞれ外方に突出する。第2インシュレータ30は、嵌合凸部32の上面に凹設されている嵌合凹部33を有する。第2インシュレータ30は、嵌合凸部32の上縁部にわたって嵌合凹部33を囲むように形成されている誘い込み部34を有する。誘い込み部34は、嵌合凸部32の上縁部において上方に向けて斜め内方に傾斜する傾斜面によって構成される。
【0029】
第2インシュレータ30は、左右方向に並んで形成されている複数のコンタクト取付溝35を有する。複数のコンタクト取付溝35には、複数のコンタクト60がそれぞれ取り付けられる。コンタクト取付溝35の数は、コンタクト60の数と同一である。複数のコンタクト取付溝35は、上下方向に延在する。コンタクト取付溝35の下部は、第2インシュレータ30の前面及び後面の下部が凹設されることで形成されている。コンタクト取付溝35の中央部は、第2インシュレータ30の内部に形成されている。コンタクト取付溝35の上部は、嵌合凹部33の前後方向の両内面が凹設されることで形成されている。
【0030】
第2インシュレータ30は、嵌合凹部33の底面から下方に向けて内部で延在する壁部36を有する。壁部36は、前後方向に配列された状態で第2インシュレータ30に取り付けられる一対のコンタクト60の間に位置する。すなわち、壁部36は、一対のコンタクト60とそれぞれ対向する。壁部36の上部は、最も幅広に形成されている。壁部36の中央部は、上部よりも幅狭に形成されている。壁部36の下部は、中央部よりもさらに幅狭に形成されている。壁部36の前面及び後面は、コンタクト取付溝35の一部を構成する。第2インシュレータ30の内部に形成されているコンタクト取付溝35の中央部は、壁部36の中央部及び上部の幅の変化に伴って、下方から上方に向かうにつれて幅狭となる。
【0031】
金具40は、任意の金属材料の薄板を順送金型(スタンピング)を用いて
図4に示す形状に成形加工したものである。金具40は、第1インシュレータ20の左右両端部それぞれに配置されている。金具40は、左右方向からの正面視において、それぞれ略H字状に形成されている。金具40は、その前後両側の下端部において、略U字状に外側に延出する実装部41を有する。金具40は、その上下方向の略中央部において、前後方向に延在する連続部42を有する。金具40は、連続部42において、前後方向略中央の下縁部から内方に向けて左右方向に突出する抜止部43を有する。抜止部43は、第1インシュレータ20に対する第2インシュレータ30の上方への抜けを抑制する。金具40は、その前後両側の上端部において、第1インシュレータ20に対して係止する係止部44を有する。
【0032】
金属板50は、任意の金属材料の薄板を順送金型(スタンピング)を用いて
図4に示す形状に成形加工したものである。金属板50は、第1インシュレータ20の前後両端部それぞれに配置されている。金属板50は、前後方向からの正面視において、それぞれ板状に形成されている。金属板50は、その左右両端の下端部において、略L字状に外側に延出する実装部51を有する。金属板50は、その左右両端部において上下方向に延在し、第1インシュレータ20に対して係止する係止部52を有する。金属板50は、外面において外側に一段隆起した、左右方向に延在する隆起部53を有する。金属板50は、上下に平行に配列された2つの隆起部53を有する。金属板50は、上方に向けて延出する屈曲部54を有する。屈曲部54は、略J字状に形成されており、内側から外側に向けて屈曲している。
【0033】
コンタクト60は、ばね弾性を備えた銅合金(例えば、リン青銅、ベリリウム銅若しくはチタン銅)又はコルソン系銅合金の薄板を順送金型(スタンピング)を用いて
図4乃至
図9に示す形状に成形加工したものである。コンタクト60は、抜き加工のみによって形成される。コンタクト60の加工方法はこれに限定されず、抜き加工を行った後に板厚方向に屈曲させる工程を含んでもよい。コンタクト60は、弾性変形に伴う形状変化が大きくなるように、弾性係数の小さい金属材料によって形成されている。コンタクト60の表面には、ニッケルめっきで下地を形成した後に、金又は錫等によるめっきが施されている。
【0034】
図4に示すとおり、コンタクト60は、左右方向に沿って複数配列されている。
図7に示すとおり、コンタクト60は、第1インシュレータ20及び第2インシュレータ30に取り付けられている。
図7及び
図8に示すとおり、同一の左右位置に配列される一対のコンタクト60は、前後方向に沿って対称的に形成及び配置されている。すなわち、一対のコンタクト60は、その間の中心を通る上下軸に対して互いに略線対称となるように形成及び配置されている。
【0035】
コンタクト60は、上下方向に沿って延在し、第1インシュレータ20によって支持される第1基部61を有する。第1基部61の上端部は、第1インシュレータ20に対して係止する。コンタクト60は、第1基部61の下端部と連続して形成され、第1インシュレータ20に対して係止する係止部62を有する。第1基部61及び係止部62は、第1インシュレータ20のコンタクト取付溝24に収容されている。コンタクト60は、係止部62の下端部の外側から略L字状に外方に延出する実装部63を有する。
【0036】
図9に示すとおり、コンタクト60は、第1基部61から前後方向に沿って内側に延出する、弾性変形可能な第1弾性部64Aを有する。第1弾性部64Aは、第1基部61から斜め下方に向けて内側に延出した後、斜め上方に向けて屈曲し、そのまま直線的に延在する。第1弾性部64Aは、その内側の端部において下方に向けて再度屈曲し、調整部64Bの上端部と接続されている。第1弾性部64Aは、第1基部61よりも幅狭に形成されている。以上により、第1弾性部64Aは、弾性変位する部分を調整することができる。
【0037】
コンタクト60は、第1弾性部64Aと連続して形成されている調整部64Bを有する。調整部64Bは、第1弾性部64Aよりも幅広、つまり断面積が大きく形成されていることで、第1弾性部64Aよりも高い電気伝導性を有する。調整部64Bは、コンタクト60が弾性変形しない状態において、接続対象物70との嵌合方向、すなわち上下方向に延在する。
【0038】
コンタクト60は、調整部64Bの下端部から第2インシュレータ30まで延出し、弾性変形可能な第2弾性部64Cを有する。第2弾性部64Cは、調整部64Bの下端部から斜め上方に向けて屈曲し、そのまま直線的に延在する。第2弾性部64Cは、斜め下方に向けて再度屈曲し、後述する第2基部65の外端部と接続されている。第2弾性部64Cは、第1弾性部64Aと同様に調整部64Bよりも幅狭に形成されている。以上により、第2弾性部64Cは、弾性変位する部分を調整することができる。
【0039】
第1弾性部64A、調整部64B及び第2弾性部64Cは、略クランク状に一体的に形成されている。第1弾性部64A及び第2弾性部64Cは、調整部64Bに対して対称的に形成されている。すなわち、第1弾性部64A及び第2弾性部64Cは、調整部64Bの中心に対して互いに略点対称となるように形成されている。
【0040】
第1弾性部64A及び第2弾性部64Cは、調整部64Bにおいて、嵌合方向の両端側からそれぞれ延出する。より具体的には、第1弾性部64Aは、調整部64Bの上縁部における内側の端部から延出する。一方で、第2弾性部64Cは、調整部64Bの下縁部における外側の端部から延出する。このように、第1弾性部64Aと調整部64Bとの接続点及び第2弾性部64Cと調整部64Bとの接続点は、調整部64Bの中心に対して互いに対称的な位置に形成されている。
【0041】
図7及び
図8に示すとおり、コンタクト60は、第2弾性部64Cと連続する第2基部65を有する。第2基部65は、その剛性を高めるために、第2弾性部64Cよりも幅広に形成されている。コンタクト60は、第2基部65から上方に向けて延出し、第2インシュレータ30の内壁に沿って配置されている、弾性変形可能な第3弾性部66を有する。第3弾性部66は、弾性変形しない状態において接続対象物70との嵌合方向、すなわち上下方向に延在する。第3弾性部66は、全体にわたって、その内側に形成されている第2インシュレータ30の壁部36と対向する。コンタクト60は、第3弾性部66が弾性変形する際の屈曲点を構成するように、第3弾性部66の表面に形成されている切欠部67を有する。切欠部67は、第3弾性部66の前後方向の外面の略中央部において、その表面が切り取られた状態で形成されている。コンタクト60は、第3弾性部66の上方に連続して形成され、第2インシュレータ30に対して係止する係止部68を有する。係止部68は、第3弾性部66よりも幅広に形成されている。コンタクト60は、係止部68の上方に連続して形成され、嵌合の際に接続対象物70のコンタクト110と接触する弾性接触部69を有する。
【0042】
図7に示すとおり、第2基部65、第3弾性部66、切欠部67及び係止部68は、第2インシュレータ30のコンタクト取付溝35に収容されている。第2基部65、第3弾性部66及び係止部68は、略全体にわたって、その内側に形成されている第2インシュレータ30の壁部36と対向する。
図6にも示すとおり、第2弾性部64Cと第3弾性部66とを接続する第2基部65は、壁部36の下端部と対向する位置に配置されている。
【0043】
図7に示すとおり、第2基部65及び第3弾性部66の下半部は、第2インシュレータ30の前面及び後面の凹設部分として構成されるコンタクト取付溝35の下部に収容されている。第3弾性部66の上半部及び係止部68は、第2インシュレータ30の内部により構成されるコンタクト取付溝35の中央部に収容されている。切欠部67は、コンタクト取付溝35の下部と、その中央部との境界近傍に位置するように、第3弾性部66の表面に形成されている。
【0044】
弾性接触部69は、第2インシュレータ30の嵌合凹部33の内面の凹設部分として構成されるコンタクト取付溝35の上部に略収容されている。弾性接触部69の先端は、コンタクト取付溝35から嵌合凹部33内に露出している。
【0045】
図10は、コンタクト60の第1弾性部64A、調整部64B及び第2弾性部64Cにおけるインピーダンス変化の様子を示した模式図である。
図10を参照しながら、調整部64Bの機能について説明する。
図10において、縦軸はインピーダンスの大きさを示す。横軸はコンタクト60における位置を示す。実線グラフはインピーダンスの実測値を示す。破線グラフはインピーダンスの理想値を示す。
【0046】
第1弾性部64A、調整部64B及び第2弾性部64C全体のインピーダンスは、調整部64Bによって調整される。コンタクト60では、大きな弾性変形量を得るために第1弾性部64Aが幅狭に(断面積が狭く)形成されていることで、理想値に調整されたインピーダンスが第1弾性部64Aにおいて増大する。第1弾性部64Aと連続して調整部64Bを幅広に(断面積が大きく)形成することで、第1弾性部64Aにおいて増大したインピーダンスが調整部64Bにおいて意図的に理想値を下回るようにする。調整部64Bと連続する第2弾性部64Cが第1弾性部64Aと同様に幅狭に(断面積が狭く)形成されていることで、理想値を下回っていたインピーダンスが第2弾性部64Cにおいて再度理想値を上回る。このように、調整部64Bは、第1弾性部64A及び第2弾性部64Cにおけるインピーダンスの増加分を相殺して全体のインピーダンスの平均値を理想値に近づける役割を果たす。
【0047】
以上のような構造のコネクタ10では、回路基板CB1の実装面に形成された回路パターンに対して、コンタクト60の実装部63がはんだ付けされる。当該実装面に形成された接地パターン等に対して、金具40の実装部41及び金属板50の実装部51がはんだ付けされる。以上により、コネクタ10は、回路基板CB1に対して実装される。回路基板CB1の実装面には、コネクタ10とは別の電子部品(例えば、CPU、コントローラ又はメモリ等)が実装される。
【0048】
接続対象物70の構造について主に
図11及び
図12を参照しながら説明する。
【0049】
図11は、
図3のコネクタ10と接続される接続対象物70を上面視により示した外観斜視図である。
図12は、
図11の接続対象物70の上面視による分解斜視図である。
【0050】
図12に示すとおり、接続対象物70は、大きな構成要素として、インシュレータ80と、金具90と、金属板100と、コンタクト110と、を有する。接続対象物70は、インシュレータ80の下方から金具90及びコンタクト110を圧入し、インシュレータ80の外面において金属板100を圧入することで、組み立てられる。
【0051】
インシュレータ80は、絶縁性かつ耐熱性の合成樹脂料を射出成形した、四角柱状の部材である。インシュレータ80は、上面に形成されている嵌合凹部81を有する。インシュレータ80は、嵌合凹部81の内部に形成されている嵌合凸部82を有する。インシュレータ80は、嵌合凹部81の上縁部にわたって嵌合凹部81を囲むように形成されている誘い込み部83を有する。誘い込み部83は、嵌合凹部81の上縁部において上方に向けて斜め外方に傾斜する傾斜面によって構成される。インシュレータ80は、前面及び後面それぞれに凹設されている凹部84を有する。凹部84には、金属板100が取り付けられる。
【0052】
インシュレータ80は、底部の前後両側と、嵌合凸部82の前面及び後面とに形成されている複数のコンタクト取付溝85を有する。複数のコンタクト取付溝85には、複数のコンタクト110がそれぞれ取り付けられる。コンタクト取付溝85の数は、コンタクト110の数と同一である。複数のコンタクト取付溝85は、左右方向に並んで凹設されている。
【0053】
金具90は、任意の金属材料の薄板を順送金型(スタンピング)を用いて
図12に示す形状に成形加工したものである。金具90は、インシュレータ80の左右両端部それぞれに配置されている。金具90は、その下端部において、略U字状に外側に延出する実装部91を有する。金具90は、実装部91と上方に連続して形成され、インシュレータ80に対して係止する係止部92を有する。
【0054】
金属板100は、任意の金属材料の薄板を順送金型(スタンピング)を用いて
図12に示す形状に成形加工したものである。金属板100は、インシュレータ80の前後両端部それぞれに配置されている。金属板100は、前後方向からの正面視において、それぞれ板状に形成されている。金属板100は、その左右両端の下端部において、略L字状に外側に延出する実装部101を有する。金属板100は、その左右両端部において上下方向に延在し、インシュレータ80に対して係止する係止部102を有する。金属板100は、外面において外側に一段隆起した、左右方向に延在する隆起部103を有する。金属板100は、上下に平行に配列された3つの隆起部103を有する。
【0055】
コンタクト110は、ばね弾性を備えた銅合金(例えば、リン青銅、ベリリウム銅若しくはチタン銅)又はコルソン系銅合金の薄板を順送金型(スタンピング)を用いて
図12に示す形状に成形加工したものである。コンタクト110の表面には、ニッケルめっきで下地を形成した後に、金又は錫等によるめっきが施されている。
【0056】
コンタクト110は、左右方向に沿って複数配列されている。コンタクト60は、略L字状に外側に延出する実装部111を有する。コンタクト110は、その上端に形成され、嵌合の際にコネクタ10のコンタクト60の弾性接触部69と接触する接触部112を有する。
【0057】
以上のような構造の接続対象物70では、回路基板CB2の実装面に形成された回路パターンに対して、コンタクト110の実装部111がはんだ付けされる。当該実装面に形成された接地パターン等に対して、金具90の実装部91及び金属板100の実装部101がはんだ付けされる。以上により、接続対象物70は、回路基板CB2に対して実装される。回路基板CB2の実装面には、接続対象物70とは別の電子部品(例えば、カメラモジュール又はセンサ等)が実装される。
【0058】
コネクタ10に対して接続対象物70を接続するときの、フローティング構造を有するコネクタ10の動作について説明する。
【0059】
図13は、
図1のXIII-XIII矢線に沿った断面図である。
【0060】
コネクタ10のコンタクト60は、第1インシュレータ20の内部で、第2インシュレータ30が第1インシュレータ20と離間し、かつ、浮いた状態で、第2インシュレータ30を支持している。このとき、第2インシュレータ30の下部は、第1インシュレータ20の外周壁22によって囲繞される。嵌合凹部33を含む第2インシュレータ30の上部は、第1インシュレータ20の開口21Aより上方に突出する。
【0061】
コンタクト60の実装部63が回路基板CB1に対してはんだ付けされることで、第1インシュレータ20は、回路基板CB1に対して固定される。第2インシュレータ30は、コンタクト60の第1弾性部64A、第2弾性部64C及び第3弾性部66が弾性変形することで、固定された第1インシュレータ20に対して移動可能となる。
【0062】
このとき、開口21Aの周縁部は、第1インシュレータ20に対する第2インシュレータ30の過剰な移動を規制する。すなわち、第2インシュレータ30がコンタクト60の弾性変形に伴い設計値を超えて大きく移動すると、第2インシュレータ30の嵌合凸部32が開口21Aの周縁部と接触する。これにより、第2インシュレータ30は、それ以上外側に移動しない。
【0063】
このようなフローティング構造を有するコネクタ10に対して接続対象物70の上下方向の向きを逆にした状態で、コネクタ10及び接続対象物70の前後位置及び左右位置を略一致させながら、互いを上下方向に対向させる。その後、接続対象物70を下方に移動させる。このとき、互いの位置が例えば前後左右方向に多少ずれていても、コネクタ10の誘い込み部34と接続対象物70の誘い込み部83とが接触する。その結果、コネクタ10のフローティング構造により第2インシュレータ30が第1インシュレータ20に対して相対的に移動する。より具体的には、コネクタ10の嵌合凸部32が、接続対象物70の嵌合凹部81に誘い込まれる。
【0064】
接続対象物70を下方にさらに移動させると、コネクタ10の嵌合凸部32と接続対象物70の嵌合凹部81とが嵌合する。このとき、コネクタ10の嵌合凹部33と接続対象物70の嵌合凸部82とが嵌合する。コネクタ10の第2インシュレータ30と接続対象物70のインシュレータ80とが嵌合した状態で、コネクタ10のコンタクト60と接続対象物70のコンタクト110とが互いに接触する。より具体的には、コンタクト60の弾性接触部69とコンタクト110の接触部112とが互いに接触する。このとき、コンタクト60の弾性接触部69の先端は、外側に向けて若干弾性変形し、コンタクト取付溝35の内部に向けて弾性変位する。
【0065】
以上により、コネクタ10と接続対象物70とは、完全に接続される。このとき、コンタクト60及びコンタクト110を介して、回路基板CB1と回路基板CB2とが電気的に接続される。
【0066】
この状態で、コンタクト60の一対の弾性接触部69は、接続対象物70の一対のコンタクト110を前後方向に沿った内側への弾性力により前後両側から挟持する。これにより生じる接続対象物70のコンタクト110への押圧力の反作用により、接続対象物70をコネクタ10から抜去する場合、第2インシュレータ30は、コンタクト60を介して抜去方向、すなわち上方向への力を受ける。これにより、仮に第2インシュレータ30が上方向に移動したとしても、
図4に示す、第1インシュレータ20に圧入された金具40の抜止部43が、第2インシュレータ30の抜けを抑制する。第1インシュレータ20に圧入された金具40の抜止部43は、第1インシュレータ20内部において、第2インシュレータ30の底部31の左右両端部の直上に位置する。したがって、第2インシュレータ30が上方に移動しようとすると、外方に突出した底部31の左右両端部が抜止部43と接触する。これにより、第2インシュレータ30は、それ以上上方に移動しない。
【0067】
図14は、一対のコンタクト60が弾性変形する第1例を示した模式図である。
図15は、一対のコンタクト60が弾性変形する第2例を示した模式図である。
【0068】
図14及び
図15を参照しながら、一対のコンタクト60が弾性変形するときの各構成部の動作について、詳細に説明する。以下では説明の簡便のために、各図の右側に配置されているコンタクト60をコンタクト60Aとし、各図の左側に配置されているコンタクト60をコンタクト60Bとして説明する。
図14及び
図15において、コンタクト60A及び60Bが弾性変形しない状態を二点鎖線によって示す。
【0069】
図14では、一例として、第2インシュレータ30が何らかの外的要因によって右方向に移動した場合を想定する。
【0070】
第2インシュレータ30が右方向に移動すると、コンタクト60Aの係止部68が第2インシュレータ30の壁部36によって右方向に押される。このとき、コンタクト60Aの第3弾性部66は、切欠部67近傍を起点として内側に撓む。すなわち、コンタクト60Aの第3弾性部66は、切欠部67近傍よりも下側において、上側の部分と比較してより内側に弾性変形する。第2インシュレータ30の壁部36と接触しているコンタクト60Aの係止部68は、第2インシュレータ30との相対位置をほとんど変化させない一方で、コンタクト60Aの第2基部65は、その相対位置を内側に変化させる。
【0071】
コンタクト60Aの第3弾性部66が右方向に移動すると、第2弾性部64Cが弾性変形しつつ、第2弾性部64Cと調整部64Bとの接続点も右方向に移動する。一方で、第1弾性部64Aと調整部64Bとの接続点の左右位置の変化は小さい。したがって、第1弾性部64Aが弾性変形して、その内側端部の屈曲部が外側に屈曲し、調整部64Bが上方から下方に向けて斜め右方向に傾斜する。
【0072】
第2インシュレータ30が右方向に移動すると、コンタクト60Bの係止部68が第2インシュレータ30の内壁によって右方向に押される。このとき、コンタクト60Bの第3弾性部66は、切欠部67近傍を起点として外側に撓む。すなわち、コンタクト60Bの第3弾性部66は、切欠部67近傍よりも下側において、上側の部分と比較してより外側に弾性変形する。コンタクト取付溝35の内壁と接触しているコンタクト60Bの係止部68は、第2インシュレータ30との相対位置をほとんど変化させない一方で、コンタクト60Bの第2基部65は、その相対位置を外側に変化させる。
【0073】
コンタクト60Bの第3弾性部66が右方向に移動すると、第2弾性部64Cが弾性変形しつつ、第2弾性部64Cと調整部64Bとの接続点も右方向に移動する。一方で、第1弾性部64Aと調整部64Bとの接続点の左右位置の変化は小さい。したがって、第1弾性部64Aが弾性変形して、その内側端部の屈曲部が内側に屈曲し、調整部64Bが上方から下方に向けて斜め右方向に傾斜する。
【0074】
図15では、一例として、第2インシュレータ30が何らかの外的要因によって左方向に移動した場合を想定する。
【0075】
第2インシュレータ30が左方向に移動すると、コンタクト60Aの係止部68が第2インシュレータ30の内壁によって左方向に押される。このとき、コンタクト60Aの第3弾性部66は、切欠部67近傍を起点として外側に撓む。すなわち、コンタクト60Aの第3弾性部66は、切欠部67近傍よりも下側において、上側の部分と比較してより外側に弾性変形する。コンタクト取付溝35の内壁と接触しているコンタクト60Aの係止部68は、第2インシュレータ30との相対位置をほとんど変化させない一方で、コンタクト60Aの第2基部65は、その相対位置を外側に変化させる。
【0076】
コンタクト60Aの第3弾性部66が左方向に移動すると、第2弾性部64Cが弾性変形しつつ、第2弾性部64Cと調整部64Bとの接続点も左方向に移動する。一方で、第1弾性部64Aと調整部64Bとの接続点の左右位置の変化は小さい。したがって、第1弾性部64Aが弾性変形して、その内側端部の屈曲部が内側に屈曲し、調整部64Bが上方から下方に向けて斜め左方向に傾斜する。
【0077】
第2インシュレータ30が左方向に移動すると、コンタクト60Bの係止部68が第2インシュレータ30の壁部36によって左方向に押される。このとき、コンタクト60Bの第3弾性部66は、切欠部67近傍を起点として内側に撓む。すなわち、コンタクト60Bの第3弾性部66は、切欠部67近傍よりも下側において、上側の部分と比較してより内側に弾性変形する。第2インシュレータ30の壁部36と接触しているコンタクト60Bの係止部68は、第2インシュレータ30との相対位置をほとんど変化させない一方で、コンタクト60Bの第2基部65は、その相対位置を内側に変化させる。
【0078】
コンタクト60Bの第3弾性部66が左方向に移動すると、第2弾性部64Cが弾性変形しつつ、第2弾性部64Cと調整部64Bとの接続点も左方向に移動する。一方で、第1弾性部64Aと調整部64Bとの接続点の左右位置の変化は小さい。したがって、第1弾性部64Aが弾性変形して、その内側端部の屈曲部が外側に屈曲し、調整部64Bが上方から下方に向けて斜め左方向に傾斜する。
【0079】
以上のような一実施形態に係るコネクタ10は、良好なフローティング構造と、信号伝送における良好な伝送特性とを両立することができる。コネクタ10では、コンタクト60が調整部64Bを有することで、伝送路の幅、すなわち伝送路の断面積が大きくなり、インピーダンスが減少する。これにより、第1弾性部64A、調整部64B及び第2弾性部64C全体のインピーダンスの平均値が理想値に近付く。すなわち、コネクタ10は、インピーダンスマッチングに寄与できる。したがって、コネクタ10では、大容量かつ高速伝送においても所望する伝送特性が得られ、調整部64Bを有さない従来の電気コネクタと比較して伝送特性が向上する。
【0080】
コネクタ10は、コンタクト60が第3弾性部66をさらに有することで、第1インシュレータ20に対する第2インシュレータ30の移動量をより大きくできる。すなわち、第1弾性部64A及び第2弾性部64Cの弾性変形に加えて、第3弾性部66の弾性変形が生じることで、第1インシュレータ20に対する第2インシュレータ30の移動量が増大する。逆に言うと、コネクタ10は、所定の移動量を得るために必要となるコンタクト60の弾性変形量の一部を第3弾性部66にも割り当てることができるので、第1弾性部64A及び第2弾性部64Cの弾性変形量を低減できる。これにより、第1弾性部64A、調整部64B及び第2弾性部64Cの全長が短くなり、コネクタ10の前後方向の幅が短縮される。したがって、コネクタ10は、必要とされる第2インシュレータ30の移動量を確保しつつ、小型化に寄与できる。
【0081】
第1弾性部64A、調整部64B及び第2弾性部64Cの全長が短くなることで、コネクタ10では、伝送特性がさらに向上する。すなわち、コネクタ10は、信号伝送路が短くなることで、高周波信号であっても伝送損失を低減させた状態で伝送できる。
【0082】
コネクタ10は、第2インシュレータ30が第2基部65と対向する位置に壁部36を有することで、
図7の前後方向に対称的に配置されている一対のコンタクト60同士の接触を抑制できる。上述のとおり、第2弾性部64Cと第3弾性部66とを接続する第2基部65は、第2弾性部64C及び第3弾性部66の弾性変形に伴って、例えば
図7の前後方向に沿って移動する。このとき、仮に第2インシュレータ30に壁部36が形成されていないとすると、それぞれの弾性変形状態に応じて、前後一対のコンタクト60の第2基部65同士が接触する可能性もある。コネクタ10は、壁部36の形成により、このような第2基部65同士の接触を抑制して、短絡等の電気的に引き起こされる不具合及び破損等の力学的に引き起こされる不具合を抑制できる。別言すると、コネクタ10は、壁部36の形成により、第3弾性部66の過剰な弾性変形を規制できる。コネクタ10は、第2弾性部64C及び第3弾性部66の弾性変形に伴って第2基部65が移動するような状況であっても、製品としての信頼性を確保できる。
【0083】
コネクタ10は、第1弾性部64A及び第2弾性部64Cが調整部64Bにおいて嵌合方向の両端側からそれぞれ延出することで、必要とされる調整部64Bの移動量を確保できる。したがって、コネクタ10は、必要とされる第2インシュレータ30の移動量を確保できる。コネクタ10は、第1弾性部64A、調整部64B及び第2弾性部64Cが略クランク状に一体的に形成されていることで、上記の効果を奏しつつ
図7における前後長の短縮化にも寄与できる。例えば、第1弾性部64Aが調整部64Bの上縁部における内側の端部から延出し、第2弾性部64Cが調整部64Bの下縁部における外側の端部から延出する。これにより、コネクタ10全体の前後長が短縮化される。さらに、第1インシュレータ20内の限られた領域で第1弾性部64A及び第2弾性部64Cの弾性変形する部分を長くすることができ、良好なフローティング構造が得られる。
【0084】
第1弾性部64A、調整部64B及び第2弾性部64Cが嵌合方向に沿って嵌合側から順に配置されていることで、第2弾性部64Cと接続されている第2基部65が最下方に配置されている。これにより、第3弾性部66が延伸し、より大きく弾性変形することができる。結果として、第1インシュレータ20に対する第2インシュレータ30の移動量が増大する。
【0085】
コネクタ10は、コンタクト60が切欠部67をさらに有することで、第2インシュレータ30が移動した際に、第2インシュレータ30の内壁と接触する係止部68に加わる力を抑制させることができる。同様に、コネクタ10は、コンタクト取付溝35の上部に位置する弾性接触部69に加わる力を抑制させることができる。すなわち、コネクタ10は、切欠部67近傍よりも下側において、第3弾性部66を撓ませることができる。より具体的には、コネクタ10では、第3弾性部66において、係止部68の下端部から切欠部67近傍に至るまでの上半部よりも、下半部の弾性変形量がより大きくなる。以上により、係止部68の第2インシュレータ30に対する係止及び弾性接触部69の接触部112に対する接触が安定した状態で、第1インシュレータ20に対する第2インシュレータ30の移動に第3弾性部66が寄与できる。
【0086】
コンタクト60が弾性係数の小さい金属材料によって形成されていることで、コネクタ10は、第2インシュレータ30にかかる力が小さい場合であっても、必要とされる第2インシュレータ30の移動量を確保できる。すなわち、第2インシュレータ30は、第1インシュレータ20に対して滑らかに移動することができる。これにより、コネクタ10は、接続対象物70と嵌合する際の位置ずれを容易に吸収できる。コネクタ10では、何らかの外的要因によって発生する振動をコンタクト60の各弾性部が吸収する。これにより、実装部63に大きな力が加わることがないので、コネクタ10は、回路基板CB1との接続部分が破損することを抑制できる。よって、コネクタ10は、接続対象物70と接続されている状態であっても、接続信頼性を保つことができる。
【0087】
コネクタ10は、コンタクト60が幅広に形成された第2基部65を有することで、製品の組立性を向上できる。すなわち、第2基部65が幅広に形成されていることによって、当該部分の剛性が高まる。これにより、コンタクト60は、第2基部65を支点として、組立装置等により第1インシュレータ20及び第2インシュレータ30の下方から安定して挿入される。
【0088】
金具40が第1インシュレータ20に圧入されて、実装部41が回路基板CB1にはんだ付けされることで、金具40は、第1インシュレータ20を回路基板CB1に対して安定して固定できる。すなわち、金具40により、回路基板CB1に対する第1インシュレータ20の実装強度が向上する。
【0089】
金属板50が第1インシュレータ20の凹部23に取り付けられることで、コネクタ10の前後方向における強度が増大する。金属板50が隆起部53を有することで、金属板50自体の剛性が高まり、結果として、コネクタ10の前後方向における強度も増大する。金属板50が上方に突出する屈曲部54を有することで、コネクタ10は、第1インシュレータ20の前後方向から開口21Aに異物が混入する可能性を低減できる。
【0090】
本発明は、その精神又はその本質的な特徴から離れることなく、上述した実施形態以外の他の所定の形態で実現できることは当業者にとって明白である。したがって、先の記述は例示的であり、これに限定されない。発明の範囲は、先の記述によってではなく、付加した請求項によって定義される。あらゆる変更のうちその均等の範囲内にあるいくつかの変更は、その中に包含されるとする。
【0091】
例えば、上述した各構成部の形状、配置及び個数等は、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の形状、配置及び個数等は、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。上述したコネクタ10及び接続対象物70の組立方法は、上記の説明の内容に限定されない。コネクタ10及び接続対象物70の組立方法は、それぞれの機能が発揮されるように組み立てることができるのであれば、任意の方法であってもよい。例えば、金具40、金属板50又はコンタクト60は、圧入ではなくインサート成形によって第1インシュレータ20又は第2インシュレータ30と一体的に成形されてもよい。
【0092】
調整部64Bにおいて、伝送路の幅、すなわち伝送路の断面積が増大してインピーダンスが低下することで電気伝導性が向上するとして説明したが、電気伝導性が向上する調整部64Bの構成はこれに限定されない。調整部64Bは、電気伝導性が向上する任意の構成を有してもよい。例えば、調整部64Bは、幅が同一のまま第1弾性部64Aよりも厚く形成されていてもよい。例えば、調整部64Bは、断面積が同一のまま第1弾性部64Aよりも電気伝導性の高い材料によって形成されていてもよい。例えば、調整部64Bは、第1弾性部64Aと断面積が同一のまま表面に電気伝導性を向上させるめっきを有してもよい。
【0093】
コネクタ10は、必要とされる第2インシュレータ30の移動量を確保しつつ、コネクタ10の小型化に寄与できるのであれば、第3弾性部66を有さなくてもよい。
【0094】
コネクタ10は、係止部68の係止及び弾性接触部69の接触が安定した状態で第3弾性部66が第2インシュレータ30の移動に寄与できるのであれば、切欠部67を有さなくてもよい。
【0095】
第2基部65は、第2弾性部64Cよりも幅広に形成されているとして説明したが、これに限定されない。第2基部65は、コネクタ10の組立性を維持できるのであれば、幅広でなくてもよい。壁部36は、嵌合凹部33の底面から下方に向けて内部で延在するとして説明したがこれに限定されない。壁部36は、一対のコンタクト60同士の接触を抑制できるのであれば、例えば、第2基部65と対向する位置にのみ形成されていてもよい。
【0096】
調整部64Bは、第1弾性部64A及び第2弾性部64Cが弾性変形しない状態において接続対象物70との嵌合方向に延在し、第1弾性部64A及び第2弾性部64Cは調整部64Bにおいて、嵌合方向の両端側からそれぞれ延出するとして説明した。これに限定されず、第1弾性部64A、調整部64B及び第2弾性部64Cの全体形状は、必要とされる第2インシュレータ30の移動量を確保しつつ、コネクタ10の小型化に寄与できるのであれば、任意の形状であってよい。例えば、調整部64Bは、嵌合方向からずれた状態で延在してもよい。例えば、第1弾性部64A及び第2弾性部64Cは、調整部64Bにおいて、
図7の前後方向の両端側からそれぞれ延出してもよい。例えば、第1弾性部64A及び第2弾性部64Cの形状は、任意であってよく、それぞれがより多くの屈曲部を有してもよい。例えば、第1弾性部64A、調整部64B及び第2弾性部64Cの全体形状は、略クランク状ではなく、略U字状であってもよい。
【0097】
図8に示すとおり、第1弾性部64A、調整部64B及び第2弾性部64Cは、嵌合方向に沿って嵌合側から順に配置されているとして説明したが、これに限定されない。第1弾性部64A、調整部64B及び第2弾性部64Cは、必要とされる第2インシュレータ30の移動量を確保しつつ、コネクタ10の小型化に寄与できるのであれば、逆側から順に配置されてもよい。
【0098】
第1弾性部64A及び第2弾性部64Cは、第1基部61よりも幅狭に形成されているとして説明したがこれに限定されない。第1弾性部64A及び第2弾性部64Cは、必要とされる弾性変形量を確保できる任意の構成を有してもよい。例えば、第1弾性部64A又は第2弾性部64Cは、コンタクト60の他の部分よりも弾性係数のさらに小さい金属材料によって形成されていてもよい。
【0099】
コンタクト60は、弾性係数の小さい金属材料によって形成されているとして説明したが、これに限定されない。コンタクト60は、必要とされる弾性変形量を確保できるのであれば、任意の弾性係数を有する金属材料によって形成されていてもよい。
【0100】
接続対象物70は、回路基板CB2に接続されるプラグコネクタであるとして説明したが、これに限定されない。接続対象物70は、コネクタ以外の任意の対象物であってもよい。例えば、接続対象物70は、FPC、フレキシブルフラットケーブル(FFC)又はリジッド基板等であってもよい。
【0101】
以上のようなコネクタ10は、電子機器に搭載される。電子機器は、例えば、カメラ、レーダ、ドライブレコーダ又はエンジンコントロールユニット等の任意の車載機器を含む。電子機器は、例えば、カーナビゲーションシステム、先進運転支援システム又はセキュリティシステム等の車載システムにおいて使用される任意の車載機器を含む。電子機器は、例えば、パーソナルコンピュータ、コピー機、プリンタ、ファクシミリ又は複合機等の任意の情報機器を含む。その他、電子機器は、任意の産業機器を含む。
【0102】
このような電子機器は、信号伝送における良好な伝送特性を有する。コネクタ10の良好なフローティング構造により基板間の位置ずれが吸収されるので、電子機器の組み立て時の作業性が向上する。すなわち、電子機器の製造が容易になる。コネクタ10により回路基板CB1との接続部分の破損が抑制されるので、電子機器の製品としての信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0103】
10 コネクタ
20 第1インシュレータ
21A、21B 開口
22 外周壁
23 凹部
24 コンタクト取付溝
30 第2インシュレータ
31 底部
32 嵌合凸部
33 嵌合凹部
34 誘い込み部
35 コンタクト取付溝
36 壁部
40 金具
41 実装部
42 連続部
43 抜止部
44 係止部
50 金属板
51 実装部
52 係止部
53 隆起部
54 屈曲部
60、60A、60B コンタクト
61 第1基部
62 係止部
63 実装部
64A 第1弾性部
64B 調整部
64C 第2弾性部
65 第2基部
66 第3弾性部
67 切欠部
68 係止部
69 弾性接触部(接触部)
70 接続対象物
80 インシュレータ
81 嵌合凹部
82 嵌合凸部
83 誘い込み部
84 凹部
85 コンタクト取付溝
90 金具
91 実装部
92 係止部
100 金属板
101 実装部
102 係止部
103 隆起部
110 コンタクト
111 実装部
112 接触部
CB1、CB2 回路基板(基板)