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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 21/14 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
H02K21/14 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022048264
(22)【出願日】2022-03-24
(65)【公開番号】P2023141777
(43)【公開日】2023-10-05
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 雅史
(72)【発明者】
【氏名】長田 育充
(72)【発明者】
【氏名】北山 武志
(72)【発明者】
【氏名】服部 宏之
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-175341(JP,A)
【文献】特開2015-177641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、前記ステータに対向して配置されたロータと、を備える回転電機であって、
前記ロータは、回転軸に固定された第1ロータと、前記回転軸の軸方向に沿って前記第1ロータと分割され、前記回転軸を回転中心として前記第1ロータに対して相対的に回動可能な第2ロータと、
を備え、
前記回転軸と前記第2ロータとが一体に回転するロック状態と、前記回転軸に対して前記第2ロータを相対的に回動させる回動状態と、を切り替えることが可能であり、
前記第1ロータの回転数が第1基準回転数以上になることを条件として、遷移前において逆極状態へ遷移させたときの出力トルクと一致する出力トルクとした後、出力トルクを維持したまま、前記第1ロータに対して前記第2ロータを回動させて同極状態から逆極状態へ遷移させる制御を行うことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
ステータと、前記ステータに対向して配置されたロータと、を備える回転電機であって、
前記ロータは、回転軸に固定された第1ロータと、前記回転軸の軸方向に沿って前記第1ロータと分割され、前記回転軸を回転中心として前記第1ロータに対して相対的に回動可能な第2ロータと、
を備え、
前記回転軸と前記第2ロータとが一体に回転するロック状態と、前記回転軸に対して前記第2ロータを相対的に回動させる回動状態と、を切り替えることが可能であり、
前記第1ロータの回転数が第2基準回転数以下になることを条件として、遷移前において同極状態へ遷移させたときの出力トルクと一致する出力トルクとした後、出力トルクを維持したまま、前記第1ロータに対して前記第2ロータを回動させて逆極状態から同極状態へ遷移させる制御を行うことを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機であって、
さらに、遷移前において前記出力トルクが基準トルク以下になることを条件として、出力トルクを維持したまま、前記第1ロータに対して前記第2ロータを回動させて逆極状態から同極状態へ遷移させる制御を行うことを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の回転電機であって、
前記ロック状態か、前記ロック状態が解除された状態かを検出するためのセンサを備え、
前記センサによって前記ロック状態が解除された状態であることが検出された後、前記回転軸に対して前記第2ロータを相対的に回動させる回動状態とすることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項に記載の回転電機であって、
前記センサによって前記ロック状態が解除された状態から前記ロック状態になったことが検出された後、前記回動状態から前記第1ロータと前記第2ロータとを一体に回動させる通常制御とすることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の移動体の駆動用モータには、小型・高効率と同時に、広い運転範囲が求められる。低速時のトルク増加による小型化のため、強力な磁石をロータに用いるなど、ロータの起磁力増加が行われている。しかしながら、起磁力の高いロータを用いた場合、高速走行時には弱め磁束制御が必要であり、当該制御に伴う電流の増加によりモータ効率が低下することが懸念される。
【0003】
そこで、運転状況に合わせてロータの起磁力を可変にするために、ロータを軸方向に分割したモータ構造が提案されている(特許文献1~5)。低速でトルクが必要な場合、軸方向の磁極の向きを揃え(同極:N極とN極及びS極とS極を揃えた状態)、起磁力を増加させる。高速で起磁力を抑制したい場合、軸方向の磁極の向きを変化させる(逆極:N極とS極を揃えた状態)。以下、磁極が揃った状態を「同極」、磁極が反対向きになった状態を「逆極」と示す。このようなモータ構造では、軸方向に分割したロータを捻って同極と逆極を切り替える回動動作と、同極及び逆極でモータとして駆動させるためにそれぞれのロータ状態を保持するためのロック機能が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-064942号公報
【文献】特開2011-160631号公報
【文献】特開2011-015523号公報
【文献】特開2016-131450号公報
【文献】特開2017-225231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1~3の技術では、回動動作とロック機能を同じ動力源(アクチュエータやオイルポンプ)で実現している。そのため、専用の外部アクチュエータや高圧オイルポンプを追加で設ける必要があり、モータシステムが大型化してしまう。特に、ロック機能に比べて、回動動作に必要な力(トルク)が大きいため、それに合わせた追加の構成要素が必要になる。また、バネによってロック機構を実現又は補助した場合、回動動作に必要な力が増してしまう。したがって、回動動作に必要な力(トルク)がさらに増大し、モータシステムがより大型化するという問題がある。
【0006】
また、上記特許文献4の技術では、回動動作をステータ巻線に通電する電流により行い、ロック機能は小型の電磁クラッチにより行う。また、上記特許文献5の技術では、回動動作をステータ巻線に通電する電流により行い、ロック機能にリミッタ(ストッパ)機能を追加して行う。これらの従来技術では、回動動作とロック機能の動力源を分けたことで、他の従来構造に比べてモータシステムを小型にできる。しかしながら、モータ構造の外側にロックのための機構を追加で設けており、依然としてモータシステム全体は大型化するという問題がある。さらに、リミッタ機能を追加してロック機能を実現する構成では、位置検出センサの追加が必要である。加えて、ロック制御の応答性が悪い場合、ロックができない可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、ステータと、前記ステータに対向して配置されたロータと、を備える回転電機であって、前記ロータは、回転軸に固定された第1ロータと、前記回転軸の軸方向に沿って前記第1ロータと分割され、前記回転軸を回転中心として前記第1ロータに対して相対的に回動可能な第2ロータと、を備え、前記回転軸と前記第2ロータとが一体に回転するロック状態と、前記回転軸に対して前記第2ロータを相対的に回動させる回動状態と、を切り替えることが可能であり、前記第1ロータの回転数が第1基準回転数以上になることを条件として、出力トルクを維持したまま、前記第1ロータに対して前記第2ロータを回動させて同極状態から逆極状態へ遷移させる制御を行うことを特徴とする回転電機である。
【0008】
本発明の別の態様は、ステータと、前記ステータに対向して配置されたロータと、を備える回転電機であって、前記ロータは、回転軸に固定された第1ロータと、前記回転軸の軸方向に沿って前記第1ロータと分割され、前記回転軸を回転中心として前記第1ロータに対して相対的に回動可能な第2ロータと、を備え、前記回転軸と前記第2ロータとが一体に回転するロック状態と、前記回転軸に対して前記第2ロータを相対的に回動させる回動状態と、を切り替えることが可能であり、前記第1ロータの回転数が第2基準回転数以下になることを条件として、出力トルクを維持したまま、前記第1ロータに対して前記第2ロータを回動させて逆極状態から同極状態へ遷移させる制御を行うことを特徴とする回転電機である。
【0009】
ここで、さらに、前記出力トルクが基準トルク以下になることを条件として、出力トルクを維持したまま、前記第1ロータに対して前記第2ロータを回動させて逆極状態から同極状態へ遷移させる制御を行うことが好適である。
【0010】
また、前記ロック状態か、前記ロック状態が解除された状態かを検出するためのセンサを備え、前記センサによって前記ロック状態が解除された状態であることが検出された後、前記回転軸に対して前記第2ロータを相対的に回動させる回動状態とすることが好適である。
【0011】
また、前記センサによって前記ロック状態が解除された状態から前記ロック状態になったことが検出された後、前記回動状態から前記第1ロータと前記第2ロータとを一体に回動させる通常制御とすることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、モータシステムを大型化させることなく、ロータの回動動作とロック機能を同時に実現する回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態における回転電機システムの構成を示す図である。
図2】第1の実施の形態におけるロータの構成を示す断面図である。
図3】第1の実施の形態におけるロータの構成を示す断面斜視図である。
図4】第1の実施の形態におけるロータの作用を説明する断面斜視図である。
図5】第2の実施の形態におけるロータの構成を示す断面斜視図である。
図6】第2の実施の形態におけるロータの作用を説明する断面図である。
図7】第2の実施の形態におけるロータの作用を説明する断面斜視図である。
図8】第3の実施の形態におけるロータの構成を示す断面斜視図である。
図9】第3の実施の形態におけるロータの作用を説明する断面図である。
図10】第3の実施の形態におけるロータの作用を説明する断面斜視図である。
図11】第3の実施の形態における伝達プレートの構成を示す図である。
図12】第3の実施の形態におけるロータの構成の変形例を示す断面斜視図である。
図13】本発明の実施の形態における回転数に対する逆起電圧割合及びトルク割合の変化を示す図である。
図14】本発明の実施の形態における回動動作中の特性の時間変化を示す図である。
図15】本発明の実施の形態における同極状態から逆極状態への切り替えタイミングを説明するための図である。
図16】本発明の実施の形態における逆極状態から同極状態への切り替えタイミングを説明するための図である。
図17】本発明の実施の形態における回動制御を説明するための図である。
図18】本発明の実施の形態における好適な回動制御を説明するための図である。
図19】本発明の実施の形態における同極状態から逆極状態への遷移制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態における回転電機システム100は、図1に示すように、回転電機102、駆動回路104、電源106及び制御装置108を含んで構成される。回転電機システム100は、例えばハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等に搭載される。回転電機システム100は、駆動力を発生させるモータとして使用可能であると共に、発電機、モータ及び発電機の両方の機能をもつモータジェネレータとしても使用可能である。
【0015】
回転電機102は、筐体10、ステータ12、回転軸14、第1ロータ16、第2ロータ18、ロック機構20、軸受22及びロック駆動機構24を含んで構成される。なお、軸受22を設けず、回転軸14に対して第2ロータ18を摺動させるような構成としてもよい。
【0016】
回転電機102は、制御装置108に制御される駆動回路104によって、電源106から供給される電力を用いて回転軸14に対して駆動力を発生させる。また、回転軸14に与えられた回転エネルギーを駆動回路104によって電力に変換して電源106へ回生させる。駆動回路104は、電源106からの電力を交流に変換するインバータを含んで構成することができる。電源106は、例えば二次電池を含む蓄電システムを含んで構成することができる。
【0017】
筐体10は、回転電機102を機械的に支持するための構成である。筐体10内に、ステータ12、回転軸14、第1ロータ16、第2ロータ18、ロック機構20、軸受22及びロック駆動機構24が収納される。
【0018】
ステータ12は、ステータコアとステータコイルを備える。ステータコアは、電磁鋼板を回転軸14の軸方向に積層した積層体からなる中空円筒形状の部材である。ただし、ステータコアを構成する材料は、電磁鋼板に限定されるものではなく、アモルファス金属、ナノ結晶軟磁性材料、圧粉磁芯等の磁性体とすることができる。ステータコイルは、ステータコアの内周面に設けられた複数のスロットに配置されたコイルである。駆動回路104を介して電源106からステータコイルに電流を流すことによって、ステータコイルに磁場を発生させることができる。
【0019】
回転軸14には、第1ロータ16及び第2ロータ18が軸方向に沿って間隔をおいて配置される。本実施の形態における回転電機システム100では、2つに分割された第1ロータ16a,16bの間に第2ロータ18が配置される。ただし、第1ロータ16及び第2ロータ18は、3分割構造に限定されるものではなく、軸方向に分割されて互いに相対的に回動できる構造であればよい。
【0020】
第1ロータ16a,16bは、回転軸14に固定されている。また、第2ロータ18は、回転軸14に対して回転方向において移動可能に設置されている。すなわち、第2ロータ18は、回転軸14に対して相対的に回転可能とされている。例えば、第2ロータ18は、軸受22を介して回転軸14に取りつけられており、軸受22によって回転軸14に対して回転可能とされている。
【0021】
第1ロータ16(16a,16b)は、回転軸14に固定される基部と、基部の外周側に電磁鋼板を軸方向に積層した積層体を備える。ただし、積層体を構成する材料は、電磁鋼板に限定されるものではなく、アモルファス金属、ナノ結晶軟磁性材料、圧粉磁芯等の磁性体とすることができる。
【0022】
第2ロータ18は、電磁鋼板を軸方向に積層した積層体を備える。ただし、積層体を構成する材料は、電磁鋼板に限定されるものではなく、アモルファス金属、ナノ結晶軟磁性材料、圧粉磁芯等の磁性体とすることができる。
【0023】
本実施の形態では、図2の断面模式図に示すように、第1ロータ16及び第2ロータ18には周方向に沿って等間隔に磁石30が配置される。磁石30は、例えば、45°置きに交互にN極とS極とが入れ替わるように8極の磁石30が配置される。なお、図2では代表的に第2ロータ18を示しており、磁石30の磁極の方向をそれぞれS極からN極に向かう矢印で示している。第1ロータ16についても磁石30の配置は同様である。ただし、図2の断面模式図は磁石30の配置の一例を示したものであり、磁石30の配置はこれに限定されるものではない。
【0024】
さらに、第2ロータ18は、回転軸14に対して固定できるようにロック機構20が設けられる。本実施の形態では、第2ロータ18と回転軸14との間にロック機構20が設けられる。ロック機構20は、回転軸14内に設けられたロック駆動機構24によって駆動される。
【0025】
回転電機システム100の通常の運転時は、ロック機構20によって第2ロータ18を回転軸14に対して回転しないような状態として、第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18の両方が回転軸14の回転に寄与する状態とする。一方、界磁調整時は、ロック機構20を開放して第2ロータ18を回転軸14を回転中心として回転可能として、第1ロータ16(16a,16b)に対して第2ロータ18を相対的に回転させ、周方向の位置を調整することで、ロータ全体としての界磁を調整することができる。
【0026】
このような構成において、ロック機構20を結合状態として回転軸14に対して第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18が回転しない状態(通常運転状態)でステータ12のステータコイルに電流を流して回転磁界を形成することでステータ12に対して回転軸14を回転させる出力トルクを発生させることができる。また、逆に、回転軸14の回転エネルギーをステータ12のステータコイルに流れる電流に変換して回生させることができる。
【0027】
また、ロック機構20を開放状態して回転軸14に対して第2ロータ18が回転可能な状態(調整状態)でステータ12のステータコイルに流す電流を制御することで、第1ロータ16(16a,16b)から回転軸14へ出力トルクを発生させつつ、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18との磁極の相対位相角(スキュー角)を調整することができる。なお、ステータ12のステータコイルに流す電流はいわゆるベクトル制御することが好適である。
【0028】
以下、第1ロータ16a及び第1ロータ16bのN極と第2ロータ18のN極が軸方向に沿って揃い、第1ロータ16a及び第1ロータ16bのS極と第2ロータ18のS極が軸方向に沿った状態を同極という。また、第1ロータ16a及び第1ロータ16bのN極と第2ロータ18のS極が軸方向に沿って揃い、第1ロータ16a及び第1ロータ16bのS極と第2ロータ18のN極が軸方向に沿った状態を逆極という。
【0029】
以下、図2及び図3を参照しつつ、本実施の形態におけるロック機構20及びロック駆動機構24について説明する。ロック機構20は、ボール32、ハブ34を含んで構成される。また、ロック駆動機構24は、回動ロックシャフト36を含んで構成される。
【0030】
回転軸14は、軸方向に延びる中空領域14aを有する。回動ロックシャフト36は、外表面に溝36aを備えた円柱形状を有する。回動ロックシャフト36は、回転軸14の中空領域14aにおいて第2ロータ18の内周領域に該当する領域に配置される。回動ロックシャフト36は、アクチュエータ等の外部からの駆動力によって回転軸14の軸方向(図3中の矢印方向)に移動可能に設けられる。
【0031】
また、回転軸14には、回動ロックシャフト36の移動可能領域、すなわち第2ロータ18の内周領域に対応する位置において径方向に貫通孔14bが設けられる。貫通孔14bは、周方向に沿って所定の距離ずらした位置に少なくとも2箇所に設けられる。本実施の形態では、図2に示すように、回転軸14の周方向に沿って等間隔となるように8箇所に貫通孔14bを設けた構成としている。また、周方向に沿って隣り合う貫通孔14bは、回転軸14の軸方向に沿って交互にずれた位置に設けられる。
【0032】
ボール32(32a,32b)は、伝達部材として貫通孔14b内に充填される。本実施の形態では、各貫通孔14b内に3つのボール32を設けた例を示している。ボール32は、貫通孔14b内を径方向に沿って移動可能である。なお、軸方向の位置が互いにずらされた貫通孔14bの一方に配置したボール32をボール32aと示し、他方に配置したボール32をボール32bと示している。
【0033】
ハブ34は、円筒形状を有する部材である。ハブ34は、ボール32と第2ロータ18のコアとの間に配置される。ハブ34の外周は第2ロータ18の内周と係合するように構成され、ハブ34は第2ロータ18と一体に回転する。
【0034】
ハブ34の内周には、後述するように、ボール32が嵌まり込むことができるハブ溝34aが設けられる。ハブ溝34aは、第1ロータ16a及び第1ロータ16bに対して第2ロータ18が同極となる状態においてボール32aが嵌まり込む位置、及び、第1ロータ16a及び第1ロータ16bに対して第2ロータ18が逆極となる状態においてボール32bが嵌まり込む位置に設けられる。
【0035】
図4を参照して、回転電機システム100におけるロック機構20及びロック駆動機構24の作用を説明する。ここでは、ロック機構20及びロック駆動機構24を用いて、回転電機システム100を同極から逆極にする場合の作用について説明する。
【0036】
回転電機システム100が同極のとき、図4(a)に示すように、回動ロックシャフト36の外周面によってボール32aが径方向の外側に向けて押し出され、第2ロータ18の内周に係合したハブ34に設けられたハブ溝34aに嵌まった状態である。一方、ボール32bは、回動ロックシャフト36に設けられた溝36aの凹部に嵌まり、径方向の外側には突出していない状態である。この同極ロック状態では、ボール32aとハブ溝34aが嵌合状態であり、ボール32aとハブ34を通じて第2ロータ18のトルクが回転軸14に伝達される。
【0037】
次に、同極から逆極にするために第2ロータ18を回動状態にする。図4(b)に示すように、外力により回動ロックシャフト36を移動(図中、左から右へ移動)させると、回動ロックシャフト36の外周部に設けられた溝36aの斜面にしたがってボール32aが径方向に動けるようになる。この状態において、ステータ12のステータコイルに流れる電流を制御することで第2ロータ18を回動させるためのトルク(回動トルク)を与える。これによって、ハブ34に押されてボール32aがハブ溝34aから外れてロックが解除され、第2ロータ18の回動動作が開始される。
【0038】
回動動作を続けると、第2ロータ18が逆極の位置まで回動され、ハブ34に設けられた別のハブ溝34aがボール32bの位置まで移動する。また、押され続けた回動ロックシャフト36の溝36aの斜面に沿って、ボール32bが径方向の外側に押し出され、ハブ34のハブ溝34aにボール32bが嵌まった状態となる。この逆極ロック状態では、ボール32bとハブ溝34aが嵌合状態であり、ボール32bとハブ34を通じて第2ロータ18のトルクが回転軸14に伝達される。
【0039】
なお、ロック機構20及びロック駆動機構24を用いて、逆極状態から同極状態へ遷移させる場合には逆の操作を行えばよい。
【0040】
また、本実施の形態では、ボール32(32a,32b)を用いた構成としたが、ボール32をピン等の他の形状の部材に変更してもよい。
【0041】
以上のように、本実施の形態における回転電機システム100では、回動ロックシャフト36を軸方向に動かすことによって同極又は逆極のロック状態を解除し、ステータ12への通電によって回転軸14に対して第2ロータ18を相対的に回動させることで回動状態を介して同極状態と逆極状態とを相互に遷移させることができる。なお、回転軸14と第2ロータ18とのロック機能は、第2ロータ18を回動させつつ、回動ロックシャフト36を押し続けることによって、ロック機構20及びロック駆動機構24以外の外部機構や追加センサを必要とすることなく受動的に行うことが可能である。
【0042】
[第2の実施の形態]
図5図7を参照して、第2の実施の形態におけるロック機構20及びロック駆動機構24について説明する。ロック機構20は、ピン40、伝達部材42及びハブ44を含んで構成される。また、ロック駆動機構24は、回動ロックシャフト46を含んで構成される。
【0043】
回転軸14は、軸方向に延びる中空領域14aを有する。回動ロックシャフト46は、外表面に溝46aを備えた円柱形状を有する。回動ロックシャフト46は、回転軸14の中空領域14aにおいて第2ロータ18の内周領域に該当する領域に配置される。回動ロックシャフト46は、アクチュエータ等の外部からの駆動力によって回転軸14の軸方向(図5中の矢印方向)に移動可能に設けられる。
【0044】
また、回転軸14には、回動ロックシャフト46の移動可能領域、すなわち第2ロータ18の内周領域に対応する位置において径方向に貫通孔が設けられる。貫通孔は、周方向に沿って後述する伝達部材42をシーソーのように動かすのに適した距離だけずらした位置に少なくとも2箇所に設けられる。本実施の形態では、図6に示すように、回転軸14の周方向に沿って6箇所に貫通孔を設けた構成としている。また、周方向に沿って隣り合う貫通孔は、回転軸14の軸方向に沿って交互にずれた位置に設けられる。
【0045】
ピン40(40a,40b)は、貫通孔内に充填される。ピン40は、貫通孔内を径方向に沿って移動可能である。なお、軸方向の位置が互いにずらされた貫通孔の一方に配置したピン40をピン40aと示し、他方に配置したピン40をピン40bと示している。
【0046】
伝達部材42は、回転軸14と第2ロータ18とをロック状態にすると共に、回転軸14と第2ロータ18との間で動力を伝達するために設けられる板状部材である。伝達部材42は、回転軸14とハブ44の間において回転軸14の外周面に設けられた凹部内に配置される。伝達部材42は、中央部に回転軸が設けられ、両端がそれぞれピン40a及びピン40bによって径方向の外側に向けて押されることによって、回転軸14とハブ44の間の空間において回転軸を中心としてシーソーのように動くことが可能となるように構成される。また、伝達部材42の両端には、ハブ44の内周面に設けられたハブ溝44aと嵌合する爪がそれぞれ設けられる。
【0047】
ハブ44は、円筒形状を有する部材である。ハブ44は、回転軸14と第2ロータ18のコアとの間に配置される。ハブ44の外周は第2ロータ18の内周と係合するように構成され、ハブ44は第2ロータ18と一体に回転する。
【0048】
ハブ44の内周には、伝達部材42の両端に設けられた爪が嵌まり込むことができるハブ溝44aが設けられる。ハブ溝44aは、第1ロータ16a及び第1ロータ16bに対して第2ロータ18が同極となる状態において伝達部材42の一端の爪が嵌まり込む位置、及び、第1ロータ16a及び第1ロータ16bに対して第2ロータ18が逆極となる状態において伝達部材42の他端の爪が嵌まり込む位置に設けられる。
【0049】
さらに、ハブ44の内周には、さらに回動範囲を規制するハブ溝44bが設けられる。ハブ溝44bには回転軸14の外周に設けられた突起(キー部)14cが嵌まり、ハブ溝44b内において突起14cが動ける範囲において回転軸14に対する第2ロータ18の回動範囲が規制される。
【0050】
以下、本実施の形態におけるロック機構20及びロック駆動機構24の作用を説明する。ここでは、ロック機構20及びロック駆動機構24を用いて、回転電機システム100を同極から逆極にする場合の作用について説明する。
【0051】
図6(a)及び図7(a)に示すように、回転電機システム100が同極のとき、第1の実施の形態と同様に、回動ロックシャフト46の外周面によってピン40aが径方向の外側に向けて押し出され、伝達部材42の一端をハブ44の方へ押し付ける。これによって、伝達部材42の当該一端の爪がハブ44のハブ溝44aに嵌合した状態となる。一方、ピン40bは、回動ロックシャフト36に設けられた溝46aの凹部に嵌まり、径方向の外側には突出していない状態である。また、回転軸14に設けられた突起14cはハブ44のハブ溝44b内の一端に当接した状態である。
【0052】
回転電機システム100がモータとして力行動作している場合、第1ロータ16及び第2ロータ18は正転方向(図6(a)においてCCW方向)に回転し、当該正転方向にトルクを出力する。同極ロック状態において力行動作時には、ハブ44のハブ溝44b内の一端に当接した回転軸14の突起14cによって第2ロータ18の力行トルクが回転軸14に伝達される。すなわち、力行動作状態では、伝達部材42の爪には力行トルクは印加されていない。一方、回転電機システム100がジェネレータとして回生動作している場合、第1ロータ16及び第2ロータ18は正転方向に回転し、回生トルクを逆転方向(図6(a)においてCCW方向とは逆方向)に出力する。このような回生動作状態では、ハブ44に設けられたハブ溝44aに嵌合した伝達部材42の爪によって第2ロータ18の回生トルクが回転軸14に伝達される。
【0053】
次に、同極から逆極にするために第2ロータ18を回動状態にする。外力により回動ロックシャフト46を軸方向に沿って移動させると、回動ロックシャフト46の外周部に設けられた溝46aの斜面にしたがってピン40aが径方向に動けるようになる。また、回動ロックシャフト46の外周部に設けられた溝46aの反対側の斜面にしたがってピン40bが径方向の外側に押し出される。ピン40bは伝達部材42の一端を径方向の外側に向けて押し、これに伴って伝達部材42の他端によって移動が自由になったピン40aが径方向の内側に向けて押し戻される。これによって、図6(b)に示すように、伝達部材42が平行状態(ピン40a及びピン40bが径方向でほぼ同じ位置)になり、ハブ44に設けられたハブ溝44aから伝達部材42の両側の爪が外れて第2ロータ18と回転軸14のロックが解除される。したがって、第2ロータ18の回動に必要な回動トルクの増加を抑制することができる。
【0054】
この状態において、ステータ12のステータコイルに流す電流を制御することで第2ロータ18を回動させるためのトルク(回動トルク)を与える。これによって、図6(b)及び図7(b)に示すように、第2ロータ18の回動動作が開始される。
【0055】
回動状態において、伝達部材42が平行状態の場合、ピン40a及びピン40bに働く遠心力は同一になり、ロック機能をまかなう伝達部材42の爪に働く力はその差分であるので、ピン40a及びピン40bの遠心力が作用しない。
【0056】
また、回転電機システム100がモータとして力行動作しているときに同極ロック状態から回動状態へ遷移させれば、回転軸14の突起14cによって第2ロータ18のトルクが回転軸14に伝達され、伝達部材42の爪によってトルクが伝達されていない状態において回動状態へ遷移させることができる。すなわち、ロック解除の際に伝達部材42の爪が回転軸14とハブ44の両側から押されておらず、ロック解除に必要な力を増加させない。両側から押される場合は、それぞれの当接面で摩擦が発生して、ロック解除に必要な力が増加する。したがって、回動ロックシャフト46の軸方向に沿った移動に必要な外力の増加を抑制することができる。
【0057】
回動動作を続けると、図6(c)及び図7(c)に示すように、第2ロータ18が逆極の位置まで回動され、ハブ44に設けられた別のハブ溝44aがピン40bの位置まで移動する。また、押され続けた回動ロックシャフト46の溝46aの斜面に沿ってピン40bが径方向の外側に押し出され、伝達部材42の一端をハブ44の方へ押し付ける。これによって、伝達部材42の当該一端の爪がハブ44のハブ溝44aに嵌合した状態となる。また、回転軸14に設けられた突起14cはハブ44のハブ溝44b内において同極ロック状態のときと反対側の一端に当接した状態となる。
【0058】
回転電機システム100がモータとして力行動作している場合、第1ロータ16及び第2ロータ18は正転方向(図6(c)においてCCW方向)に回転し、当該正転方向にトルクを出力する。逆極ロック状態において力行動作時には、ハブ44に設けられたハブ溝44aに嵌合した伝達部材42の爪によって第2ロータ18の力行トルクが回転軸14に伝達される。一方、回転電機システム100がジェネレータとして回生動作している場合、第1ロータ16及び第2ロータ18は正転方向に回転し、回生トルクを逆転方向(図6(c)においてCCW方向とは逆方向)に出力する。このとき、ハブ44のハブ溝44b内の一端に当接した回転軸14の突起14cによって第2ロータ18の回生トルクが回転軸14に伝達される。すなわち、回生動作状態では、伝達部材42の爪には回生トルクは印加されていない。
【0059】
なお、ロック機構20及びロック駆動機構24を用いて、逆極状態から同極状態へ遷移させる場合には逆の操作を行えばよい。このとき、回転電機システム100が回生動作しているときに逆極ロック状態から回動状態へ遷移させれば、回転軸14の突起14cとハブ44のハブ溝44bによってトルクが伝達され、伝達部材42の爪によってトルクが伝達されていない状態において回動状態へ遷移させることができる。すなわち、伝達部材42の爪が回転軸14とハブ44の両側から押されておらず、ロック解除に必要な力を増加させない。両側から押される場合は、それぞれの当接面で摩擦が発生して、ロック解除に必要な力が増加する。したがって、回動ロックシャフト46の軸方向に沿った移動に必要な外力の増加を抑制することができる。
【0060】
以上のように、第2の実施の形態における回転電機システム100では、回動ロックシャフト46を軸方向に動かすことによって同極又は逆極のロック状態を解除し、ステータ12への通電によって回転軸14に対して第2ロータ18を相対的に回動させることで同極状態と逆極状態とを相互に遷移させることができる。なお、回転軸14と第2ロータ18とのロック機能は、回動ロックシャフト46を押し続けることによって、ロック機構20及びロック駆動機構24以外の外部機構や追加センサを必要とすることなく受動的に行うことが可能である。
【0061】
また、回転軸14、第1ロータ16及び第2ロータ18が高速回転している場合においても、ロック機構20に含まれるピン40及び伝達部材42に働く遠心力はバランスしており、ロック解除に必要な外力を抑制することができる。さらに、ピン40及び伝達部材42の機械的な破損を抑制することができる。
【0062】
[第3の実施の形態]
図8図11を参照して、第3の実施の形態におけるロック機構20及びロック駆動機構24について説明する。ロック機構20は、ピン50、伝達プレート52及びハブ54を含んで構成される。また、ロック駆動機構24は、回動ロックシャフト56を含んで構成される。
【0063】
回転軸14は、軸方向に延びる中空領域14aを有する。回動ロックシャフト56は、ロック機構20に含まれるピン50が挿入されるピン孔56aを備えた円柱形状を有する。回動ロックシャフト56は、回転軸14の中空領域14aにおいて第2ロータ18の内周領域に該当する領域に配置される。回動ロックシャフト56は、アクチュエータ等の外部からの駆動力によって回転軸14の軸方向(図8中の矢印方向)に移動可能に設けられる。
【0064】
ピン50は、回動ロックシャフト56に設けられたピン孔56aに挿入される。回動ロックシャフト56を回転軸14の軸方向に移動させると、回動ロックシャフト56と共にピン50も軸方向に移動する。
【0065】
伝達プレート52は、回転軸14と第2ロータ18とをロック状態にすると共に、回転軸14と第2ロータ18との間で動力を伝達するために設けられる部材である。伝達プレート52は、図11に示すように、板状の部材である。伝達プレート52は、回動ロックシャフト56の中心軸を通って径方向に亘って設けられた貫通穴56b内に配置される。伝達プレート52は、貫通穴56b内において回転軸14(回動ロックシャフト56)の径方向に移動可能である。
【0066】
伝達プレート52には、図11に示すように、ピン50を通すための誘導穴52aが設けられる。誘導穴52aは、伝達プレート52が回動ロックシャフト56の貫通穴56bに配置されたときに、回転軸14の軸方向及び径方向の両方に対して斜めの方向に沿って設けられる。すなわち、回動ロックシャフト56と共に移動するピン50が誘導穴52aに通された状態において回動ロックシャフト56と共にピン50が軸方向に移動した場合、伝達プレート52は図11の移動方向と示した矢印の方向に誘導される。
【0067】
ハブ54は、円筒形状を有する部材である。ハブ54は、回転軸14と第2ロータ18のコアとの間に配置される。ハブ54の外周は第2ロータ18の内周と係合するように構成され、ハブ54は第2ロータ18と一体に回転する。
【0068】
ハブ54の内周には、伝達プレート52の両端がそれぞれ嵌まり込むことができるハブ溝54aが設けられる。ハブ溝54aは、第1ロータ16a及び第1ロータ16bに対して第2ロータ18が同極となる状態において伝達プレート52の一端の爪が嵌まり込む位置、及び、第1ロータ16a及び第1ロータ16bに対して第2ロータ18が逆極となる状態において伝達プレート52の他端の爪が嵌まり込む位置に設けられる。
【0069】
さらに、ハブ54の内周には、さらに回動範囲を規制するハブ溝54bが設けられる。ハブ溝54bには回転軸14の外周に設けられた突起(キー部)14cが嵌まり、ハブ溝54b内において突起14cが動ける範囲において回転軸14に対する第2ロータ18の回動範囲が規制される。
【0070】
以下、本実施の形態におけるロック機構20及びロック駆動機構24の作用を説明する。ここでは、ロック機構20及びロック駆動機構24を用いて、回転電機システム100を同極から逆極にする場合の作用について説明する。
【0071】
図9(a)及び図10(a)に示すように、回転電機システム100が同極のとき、ピン50が誘導穴52aの一端(図10(a)において下側の端部)に位置するように回動ロックシャフト56に外力が与えられる。誘導穴52aに通されたピン50によって、伝達プレート52が押し上げられ(図9(a)及び図10(a)において上向き)、伝達プレート52の一端をハブ54の方へ押し付ける。これによって、伝達プレート52の当該一端がハブ54のハブ溝54aに嵌合した状態となる。また、回転軸14に設けられた突起14cはハブ54のハブ溝54b内の一端に当接した状態である。
【0072】
回転電機システム100がモータとして力行動作している場合、第1ロータ16及び第2ロータ18は正転方向(図9(a)においてCCW方向)に回転し、当該正転方向にトルクを出力する。同極ロック状態において力行動作時には、ハブ54のハブ溝54b内の一端に当接した回転軸14の突起14cによって第2ロータ18の力行トルクが回転軸14に伝達される。すなわち、力行動作状態では、伝達プレート52の端部には力行トルクは印加されていない。一方、回転電機システム100がジェネレータとして回生動作している場合、第1ロータ16及び第2ロータ18は正転方向に回転し、回生トルクを逆転方向(図9(a)においてCCW方向とは逆方向)に出力する。このような回生動作状態では、ハブ54に設けられたハブ溝54aに嵌合した伝達プレート52の端部によって第2ロータ18の回生トルクが回転軸14に伝達される。
【0073】
次に、同極から逆極にするために第2ロータ18を回動状態にする。外力により回動ロックシャフト56を移動させる(図10(a)の矢印方向)と、回動ロックシャフト56と共にピン50も移動し、誘導穴52aの斜面にしたがって伝達プレート52が押し下げられる(図9(b)及び図10(b)において下側方向)。これに伴って伝達プレート52の端部がハブ溝54aから外れ、第2ロータ18と回転軸14のロックが解除される。したがって、第2ロータ18の回動に必要な回動トルクの増加を抑制することができる。
【0074】
この状態において、ステータ12のステータコイルに流す電流を制御することで、第2ロータ18を回動させるためのトルク(回動トルク)を与える。これによって、図9(b)及び図9(b)に示すように、第2ロータ18の回動動作が開始される。
【0075】
また、回転電機システム100がモータとして力行動作しているときに同極ロック状態から回動状態へ遷移させれば、回転軸14の突起14cによって第2ロータ18のトルクが回転軸14に伝達され、伝達プレート52の端部によってトルクが伝達されていない状態において回動状態へ遷移させることができる。すなわち、ロック解除の際に伝達プレート52がハブ54のハブ溝54aから押されておらず、ロック解除に必要な力を増加させない。押される場合は、当接面で摩擦が発生して、ロック解除に必要な力が増加する。したがって、回動ロックシャフト56の軸方向に沿った移動に必要な外力の増加を抑制することができる。
【0076】
回動動作を続けると、図9(c)及び図10(c)に示すように、第2ロータ18が逆極の位置まで回動され、ハブ54に設けられた別のハブ溝54aが伝達プレート52の位置まで移動する。また、押され続けた回動ロックシャフト56と共にピン50が移動し、ピン50が誘導穴52aの一端(図10(c)において上側の端部)に位置する。これによって、伝達プレート52の端部がハブ54のハブ溝54aに嵌合した状態となる。また、回転軸14に設けられた突起14cはハブ54のハブ溝54b内において同極ロック状態のときと反対側の一端に当接した状態となる。
【0077】
回転電機システム100がモータとして力行動作している場合、第1ロータ16及び第2ロータ18は正転方向(図9(c)においてCCW方向)に回転し、当該正転方向にトルクを出力する。逆極ロック状態において力行動作時には、ハブ54に設けられたハブ溝54aに嵌合した伝達プレート52の端部によって第2ロータ18の力行トルクが回転軸14に伝達される。一方、回転電機システム100がジェネレータとして回生動作している場合、第1ロータ16及び第2ロータ18は正転方向に回転し、回生トルクを逆転方向(図9(c)においてCCW方向とは逆方向)に出力する。このとき、ハブ54のハブ溝54b内の一端に当接した回転軸14の突起14cによって第2ロータ18の回生トルクが回転軸14に伝達される。すなわち、回生動作状態では、伝達プレート52の端部には回生トルクは印加されていない。
【0078】
なお、ロック機構20及びロック駆動機構24を用いて、逆極状態から同極状態へ遷移させる場合には逆の操作を行えばよい。このとき、回転電機システム100が回生動作しているときに逆極ロック状態から回動状態へ遷移させれば、回転軸14の突起14cとハブ54のハブ溝54bによってトルクが伝達され、伝達プレート52の端部によってトルクが伝達されていない状態において回動状態へ遷移させることができる。すなわち、伝達プレート52がハブ54のハブ溝54aから押されておらず、ロック解除に必要な力を増加させない。押される場合は、当接面で摩擦が発生して、ロック解除に必要な力が増加する。したがって、回動ロックシャフト56の軸方向に沿った移動に必要な外力の増加を抑制することができる。
【0079】
以上のように、第3の実施の形態における回転電機システム100では、回動ロックシャフト56を軸方向に動かすことによって同極又は逆極のロック状態を解除し、ステータ12への通電によって回転軸14に対して第2ロータ18を相対的に回動させることで同極状態と逆極状態とを相互に遷移させることができる。なお、回転軸14と第2ロータ18とのロック機能は、回動ロックシャフト56を押し続けることによって、ロック機構20及びロック駆動機構24以外の外部機構や追加センサを必要とすることなく受動的に行うことが可能である。
【0080】
また、伝達プレート52を用いたシンプルな構成によってロック状態とロック解除状態を実現することができる。さらに、回動動作中において伝達プレート52が第2ロータ18の中心部に配置されるため、回転による遠心力の影響を受け難い構造となっている。
【0081】
なお、上記第1~第3の実施の形態における回転電機システム100は、いずれにおいても第2ロータ18の内部にロック機構20及びロック駆動機構24を配置しており、回動動作はステータ12への通電によって行うために回転電機システム100の体積を増加させることなく同極状態と逆極状態を実現することができる。また、ロックのためのスキュー角の検出手段や制御も不要である。
【0082】
なお、図12に示すように、回動ロックシャフト56に対して軸方向に沿って片側から力を印加し続けるためのバネ等の弾性体60を回転軸14の中空部に設けた構成としてもよい。バネ等の弾性体60を設けることで、回動ロックシャフト56に対して片側から外力を印加し続けることが可能になる。これによって、回転電機システム100の回動ロックシャフト56を外部から駆動するアクチュエータ等が停止した状態においても同極ロック状態又は逆極ロック状態を維持することが可能になる。なお、第1の実施の形態及び第2の実施の形態における回転電機システム100においても同様の構成を適用することができる。
【0083】
回動ロックシャフト56に対して外力を与える機構に特別なアクチュエータを設けることなく、例えば、ベアリングやギア等に使用する潤滑油の油圧を利用して動作させることもできる。この場合、元々からある潤滑油のポンプが利用できるため、アクチュエータ等の外部から駆動力を与える機構を追加する必要がなく、システム全体を小型にできる。
【0084】
[回転電機システムの制御]
ところで、第1ロータ16及び第2ロータ18の界磁磁束を増加させて、回転電機システム100のトルクを増加させた場合、磁石(界磁)により発生する誘起電圧(逆起電圧)が増加する。これによって、例えば、回転電機システム100がインバータによる駆動である場合に誘起電圧がスイッチング素子の耐圧を上回ると、スイッチング素子を破損してしまうおそれがある。そこで、回転電機システム100におけるトルクの増加と逆起電圧を上限以下に抑制することを同時に実現する必要がある。
【0085】
なお、以下の説明において、回転数とは第1ロータ16又は第2ロータ18が単位時間当たりに回転する回数(回転速度)を意味する。例えば、毎分当たりの回転数の単位はrpmである。
【0086】
例えば、第1ロータ16a及び第1ロータ16bと第2ロータ18との軸方向の分割割合を4:1とし、上限回転数の半分の回転数において第2ロータ18を回動させることで磁極の1/4を同極から逆極にすると、軸方向の半分でN極とS極による磁石磁束が打ち消しあう。その結果、界磁磁束が半減され、逆起電圧も半減し、高速回転時においてもスイッチング素子を破損することなく制御が可能になる。図13(a)及び図13(b)は、この場合における第1ロータ16及び第2ロータ18の回転数に対する逆起電力割合とトルク割合の変化を示す。回転電機システム100における駆動可能な領域では、比較モータに対して低速時のトルクを増加することができる。
【0087】
回転電機システム100に適した第2ロータ18の回動制御は以下の通りである。回転数N1までは、第1ロータ16と第2ロータ18とを同極で駆動し、力行トルクにより加速する。
【0088】
回転数が回転数N1に達したときに、第2ロータ18を同極から逆極へ回動させる回動制御モード1に移行する。回動制御モード1では、回転軸14に出力されるトルク(出力トルク)を維持しつつ、第1ロータ16に対して第2ロータ18を相対的に回動させるための回動トルクを同時に出力させて回動動作を実施する。具体的には、同極状態では、第1ロータ16及び第2ロータ18の両方によって出力トルクを出力し、回動制御モード1における回動動作中は、第1ロータ16によって出力トルクを維持しつつ、第2ロータ18によって回動トルクが出力されるようにステータ12のステータコイルに通電する電流を制御する。
【0089】
このようにして、回転数N1以上となった場合、第2ロータ18を第1ロータ16に対して逆極とした状態で回転電機システム100を駆動する。
【0090】
逆極で駆動中に車両へのブレーキ操作等が行われると、回生トルクによる減速が生ずる。減速によって回転数N2に達したときに、第2ロータ18を逆極から同極へ回動させる回動制御モード2に移行する。回動制御モード2では、回動制御モード1と同様に、出力トルクを維持しつつ、回動トルクを同時に出力させて回動動作を実施する。具体的には、逆極時では、第1ロータ16と第2ロータ18の両方で出力ルクを出力し、回動制御モード2における回動動作中は、第1ロータ16によって出力トルクを維持しつつ、第2ロータ18によって回動トルクが出力されるようにステータ12のステータコイルに通電する電流を制御する。
【0091】
このように、回転数N2以下となった場合、第2ロータ18を第1ロータ16に対して同極とした状態で回転電機システム100を駆動する。
【0092】
ここで、回転数N1と回転数N2を同一とすると、当該回転数付近において同極から逆極又は逆極から同極への回動動作が繰り返されるチャタリング現象を生ずるおそれがある。そこで、回転数N1>回転数N2に設定することが好適である。このように、同極から逆極への回動動作を開始する基準となる回転数N1と逆極から同極への回動動作を開始する回転数N2にヒステリシスを設けることによってチャタリング現象を抑制することができる。
【0093】
さらに、同極から逆極への回動動作に比べて、逆極から同極への回動動作において出力トルクを維持しながら出力できる回動トルクが小さくなり、回動動作が可能な条件が制限される。そこで、逆極から同極への回動制御モード2に移行する条件として、回転数制約(回転数N2)のみならず、トルクの制約も追加することが好適である。すなわち、第1ロータ16及び第2ロータ18の回転数が回転数N2以下であり、かつ、出力トルクが基準となるトルクT2以下となる条件において回動制御モード2に移行させることが好適である。
【0094】
特に、回転電機システム100が逆極状態の回生動作中であり、第1ロータ16及び第2ロータ18の回転数が回転数N1から減少している状況では、回動制御モード2には移行させず、回生動作中は逆極状態にて回転電機システム100を駆動させる。その後、再加速が行われて力行状態に移行する場合や回転電機システム100が停止した場合には出力トルクは0になるか、または、0を跨いで負の回生トルクから正の力行トルクに移行することになる。そこで、出力トルクが0又はその近傍の状態において、回動制御モード2に移行して回動動作を行うことが好適である。なお、出力トルクが0に近いほどより大きな回動トルクを出力することができるので、第1ロータ16に対して第2ロータ18を逆極から同極へと回動させ易くなる。
【0095】
図14は、同極から逆極へ遷移させる回動制御モード1における回動動作中の回転数、位相差角、出力トルク(アウトプットトルク)、第1ロータ16のトルク(主ロータトルク)及び第2ロータ18のトルク(回動ロータトルク)の時間変化の一例を示す。トルク(アウトプットトルク、主ロータトルク、回動ロータトルク)は、磁界解析によって計算した値である。これらの特性は、最大電流を上限以下にしたときの結果を示している。
【0096】
これらの結果は、出力トルク(アウトプットトルク)を所定値に維持したままで回動動作が実現できることを示している。また、同極ロック状態を解除するとともにステータ12のステータコイルへ通電する電流の制御を切り替えて回動制御モード1に移行し、位相差角に応じて当該電流制御条件を変更することで第1ロータ16のトルク(主ロータトルク)にて出力トルク(アウトプットトルク)を維持しながら、第2ロータ18のトルク(回動トルク)によって第2ロータ18を回動できる。また、回動動作の終了後、逆極ロック状態として、その際にステータ12のステータコイルへ通電する電流の制御も変更する。
【0097】
図15及び図16は、出力トルク(アウトプットトルク)を所定値に維持した状態において同極から逆極、及び、逆極から同極への回動トルクの回転数に対する変化の例と回動動作が可能な条件(領域)を示す。図15及び図16において印×で示した条件が回動動作への切り替えに好適な条件を示している。記号(1)は回動制御モード1への移行に好適な条件、記号(2)と記号(3)は回動制御モード2への移行に好適な条件を示す。なお、記号(2)は、回転数が回転数N2以下になった条件を示し、記号(3)は、回転数が回転数N2以下になった条件に加えてトルクが0付近になった条件を示す。
【0098】
また、図17及び図18は、第2ロータ18の回動動作に伴うトルクショックを抑制する方法を示す。図17に示すように、回転電機システム100において出力トルクが最大である状態において回転数を増加させる場合、所定の回転数において同極状態から逆極状態に遷移させると切り替え時にトルクのギャップが生じて回転電機システム100にトルクショックが生ずるおそれがある。そこで、図18に示すように、所定の回転数において同極状態から逆極状態に遷移させる前に回転電機システム100の出力トルクを低減させるように駆動範囲を制限する制御を行うことが好適である。例えば、出力トルクが逆極状態における最大トルクとなるようにステータ12のステータコイルへの電流を制御した後、同極状態から逆極状態への遷移させる制御を行う。これによって、同極から逆極への切り替え時におけるトルクのギャップの発生を防止し、回転電機システム100のトルクショックを抑制することができる。
【0099】
上記のように、回転電機システム100では、同極状態かつ力行状態であるときに回転軸14に設けられた突起14cによってトルクが伝達される。このように突起14cでトルク伝達している状態では、ロック機構20にトルクが掛かっていないため、外力によってロック駆動機構24を動かすことでロックを解除することができる。このとき、第1ロータ16及び第2ロータ18の出力トルクは突起14cによって伝達されているので、ロック解除に伴う出力トルクの減少は生じない。一方、出力トルクが逆方向の回生状態では、ロック機構20によってトルクが伝達される。このようにロック機構20でトルク伝達している状態では、ロック機構20にトルクが掛かっているため、外力によってロック駆動機構24を動かすだけではロックを解除することができない。そこで、同極状態から逆極状態へ遷移させる場合、回転電機システム100が力行状態であるときに行う。
【0100】
図19は、同極状態から逆極状態へ遷移させる制御のフローチャートを示す。以下、当該フローチャートを参照して、回転電機システム100を同極状態から逆極状態へ遷移させる制御について説明する。
【0101】
ステップS10では、同極状態において通常の駆動制御が行われる。ステップS12では、回転数が回転数N1以上となったか否かが判定される。回転数が回転数N1以上であればステップS14に処理を移行させ、回転数N1未満であればステップS12に処理を戻す。ステップS14では、ロック駆動機構24を駆動させる。ステップS16では、ロックが解除されたか否かが判定される。ロックが解除されればステップS18に処理を移行させ、ロックが解除されていなければステップS14に処理を戻してロック駆動機構24の駆動を継続する。ロックの解除の検出は、センサを用いて行うことができる。例えば、回動ロックシャフトの位置をセンサによって検出し、回動ロックシャフトの位置によってロック状態かロック解除状態かを検出することができる。
【0102】
ステップS18では、第1ロータ16に対して相対的に第2ロータ18を回動させる。このとき、ロック駆動機構24の駆動は継続させる。ステップS20では、ロックが完了したか否かが判定される。第2ロータ18を回動させつつロック駆動機構24の駆動を継続することで回転電機システム100は逆極状態でロック状態となる。ロックが完了した場合にはステップS22に処理を移行させ、ロックが完了していない場合にはステップS18から処理を繰り返す。ステップS22では、逆極状態において通常の駆動制御が開始される。
【0103】
逆極状態から同極状態への遷移の制御は上記フローと同様に行うことができる。この場合、ステップS10では逆極状態における通常制御を行い、ステップS22では同極状態における通常制御を行う。また、ステップS12における判定では、回転数が回転数N2以下となることを条件とすればよい。さらに、当該条件にトルクが0付近になった条件を加えてもよい。
【符号の説明】
【0104】
10 筐体、12 ステータ、14 回転軸、14a 中空領域、14b 貫通孔、14c 突起(キー部)、20 ロック機構、22 軸受、24 ロック駆動機構、30 磁石、32(32a,32b) ボール、34 ハブ、34a ハブ溝、36 回動ロックシャフト、36a 溝、40 ピン、40(40a,40b) ピン、42 伝達部材、44 ハブ、44a ハブ溝、44b ハブ溝、46 回動ロックシャフト、46a 溝、50 ピン、52 伝達プレート、52a 誘導穴、54 ハブ、54a ハブ溝、54b ハブ溝、56 回動ロックシャフト、56a ピン孔、56b 貫通孔、60 弾性体、100 回転電機システム、102 回転電機、104 駆動回路、106 電源、108 制御装置。
図1
図2
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