(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】負極活物質、二次電池および人造黒鉛粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20241107BHJP
C01B 32/20 20170101ALI20241107BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20241107BHJP
【FI】
H01M4/587
C01B32/20
C01B32/205
(21)【出願番号】P 2022072357
(22)【出願日】2022-04-26
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】武下 宗平
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-053314(JP,A)
【文献】特開2018-139171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
C01B 32/20
H01G 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の内部空隙を有する人造黒鉛粒子を含む負極活物質であって、
前記人造黒鉛粒子の空隙率が、
10.4%~15%であり、
任意に選ばれる10個以上の前記人造黒鉛粒子の断面電子顕微鏡画像に対して二値化処理を行い、1000nm
2以上の断面積を有する内部空隙に対して円形近似を行い、各粒子について任意に選ばれる20個以上の前記内部空隙の円形度を求めた場合に、前記内部空隙の円形度の平均値が、
0.53~0.6である、
負極活物質。
【請求項2】
ラマン分光法によって求まる前記人造黒鉛粒子のDバンドのピーク強度(I
D)に対するGバンドのピーク強度(I
G)の比(I
G/I
D)が、1.5~60である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
粉末X線回折測定によって求まる前記人造黒鉛粒子の黒鉛結晶の(002)面の面間隔d
002が、3.36Å~3.38Åである、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項4】
正極と、負極と、電解質とを、備える二次電池であって、
前記負極が、請求項1に記載の負極活物質を含む、二次電池。
【請求項5】
黒鉛前駆体を、1000℃から、5時間以内に2600℃以上の温度まで加熱して黒鉛化させる工程を含み、
前記黒鉛前駆体中の硫黄分濃度が
5.5%以上7%以下である、人造黒鉛粒子の製造方法。
【請求項6】
前記黒鉛前駆体を、1000℃から、5時間以内に2800℃以上の温度まで加熱して黒鉛化させる、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記の加熱を、高周波誘導加熱方式によって行う、請求項
5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人造黒鉛粒子を含む負極活物質に関する。本発明はまた、当該負極活物質を用いた二次電池に関する。本発明はまた、当該人造黒鉛粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
二次電池、特にリチウムイオン二次電池の電極には、電荷担体となるイオンを吸蔵および放出可能な活物質が用いられている。活物質が、当該イオンの吸蔵および放出に伴って膨張および収縮を起こすため、二次電池の充放電の際に電極の体積が変化する。二次電池において、この電極の体積変化を抑制することは長年の課題となっている。この課題に対し、特許文献1には、黒鉛層を負極集電体に対して垂直にある程度配向させることで、負極の厚み方向の膨張を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術は、黒鉛粒子自体の膨張を抑制するものではないため、負極の体積変化を根本的に抑制することができない。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、負極の膨張を抑制することが可能な負極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される負極活物質(1)は、複数の内部空隙を有する人造黒鉛粒子を含む。前記人造黒鉛粒子の空隙率は、0.7~15%である。任意に選ばれる10個以上の前記人造黒鉛粒子の断面電子顕微鏡画像に対して二値化処理を行い、1000nm2以上の断面積を有する内部空隙に対して円形近似を行い、各粒子について任意に選ばれる20個以上の前記内部空隙の円形度を求めた場合に、前記内部空隙の円形度の平均値は、0.1~0.6である。このような構成によれば、負極の膨張を抑制することが可能な負極活物質を提供することができる。
【0008】
ここに開示される負極活物質(2)は、前記負極活物質(1)において、前記人造黒鉛粒子の空隙率が8~15%である。このような構成によれば、負極の膨張をより抑制することができる。
【0009】
ここに開示される負極活物質(3)は、前記負極活物質(1)または(2)において、前記内部空隙の円形度の平均値が0.3~0.6である。このような構成によれば、負極の膨張をより抑制することができる。
【0010】
ここに開示される負極活物質(4)は、前記負極活物質(1)~(3)のいずれかおいて、ラマン分光法によって求まる前記人造黒鉛粒子のDバンドのピーク強度(ID)に対するGバンドのピーク強度(IG)の比(IG/ID)が、1.5~60である。このような構成によれば、内部空隙が、黒鉛層と平行に配向し、負極の膨張をより抑制することができる。また、容量も高くなる。
【0011】
ここに開示される負極活物質(5)は、前記負極活物質(1)~(4)のいずれかおいて、粉末X線回折測定によって求まる前記人造黒鉛粒子の黒鉛結晶の(002)面の面間隔d002が、3.36Å~3.38Åある。このような構成によれば、内部空隙が、黒鉛層と平行に配向し、負極の膨張をより抑制することができる。
【0012】
別の側面から、ここに開示される二次電池(6)は、正極と、負極と、電解質とを、備える。前記負極が、負極活物質(1)~(5)のいずれかを含む。このような構成によれば、負極の膨張が抑制された二次電池を提供することができる。
【0013】
別の側面から、ここに開示される人造黒鉛粒子の製造方法(7)は、黒鉛前駆体を、1000℃から、5時間以内に2600℃以上の温度まで加熱して黒鉛化させる工程を含む。前記黒鉛前駆体中の硫黄分濃度が0.4%以上7%以下である。このような構成によれば、負極の膨張を抑制することが可能な負極活物質を製造することができる。
【0014】
ここに開示される人造黒鉛粒子の製造方法(8)は、前記製造方法(7)において、前記黒鉛前駆体を、1000℃から、5時間以内に2800℃以上の温度まで加熱して黒鉛化させる。このような構成は、負極の膨張を抑制することが可能な負極活物質の製造において、より有利である。
【0015】
ここに開示される人造黒鉛粒子の製造方法(9)は、前記製造方法(7)または(8)において、前記の加熱を、高周波誘導加熱方式によって行う。このような構成によれば、非常に大きい昇温速度での加熱が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る負極活物質に含まれる人造黒鉛粒子の一例の模式断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る製造方法における、内部空隙の生成メカニズムの説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る負極活物質を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図3のリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【
図5】実施例3で得られた人造黒鉛粒子の断面の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図6】比較例2で得られた人造黒鉛粒子の断面の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図7】
図5の画像の黒鉛部と空隙部に対して2値化処理を行った結果を示す画像である。
【
図8】
図7の画像に対して、1000nm
2以上の断面積を有する内部空隙を抽出し、円形近似を行った結果を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。なお、本明細書において「A~B」として表現される数値範囲には、AおよびBが含まれる。
【0018】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0019】
本実施形態に係る負極活物質は、複数の内部空隙を有する人造黒鉛粒子を含む。当該人造黒鉛粒子の空隙率は0.7~15%である。任意に選ばれる10個以上の当該人造黒鉛粒子の断面電子顕微鏡画像に対して二値化処理を行い、1000nm2以上の断面積を有する内部空隙に対して円形近似を行い、各粒子について任意に選ばれる20個以上の前記内部空隙の円形度を求めた場合に、当該内部空隙の円形度の平均値が0.1~0.6である。
【0020】
図1は、本実施形態に係る負極活物質に含まれる人造黒鉛粒子の概念を説明するための図であり、当該人造黒鉛粒子の一例の模式断面図である。
図1に示すように、人造黒鉛粒子10は、黒鉛部12と、複数の内部空隙14とを有している。人造黒鉛粒子10内において、複数の内部空隙14は、独立した空隙として存在している。20個以上の内部空隙を用いて円形度の平均値が求められることからわかるように、1個の人造黒鉛粒子10において、内部空隙14の数は、20個以上である。
【0021】
図1では、内部空隙14は楕円形を有している。しかしながら、内部空隙14の形状はこれに限られない。内部空隙14は、例えば、略長方形状、不定形等であってよい。また、内部空隙14の位置、個数等についても
図1に示されたものに限られない。
【0022】
内部空隙14の量に関し、その指標として、粒子の空隙率が挙げられる。本実施形態においては、空隙率が0.7~15%となる量の内部空隙14を人造黒鉛粒子10が有している。なお、黒鉛前駆体の黒鉛化によって得られる人造黒鉛は、一般的に、内部空隙は有していない。
【0023】
内部空隙14の形状に関し、その指標として、図形の円形度が挙げられる。円形度は、4πS/L2(式中、Sは図形の面積、Lは図形の周囲長)によって算出される値である。真円の円形度は1であり、円形度が小さくなるにつれ、図形が真円から離れていることを意味する。本実施形態では、1000nm2以上の断面積を有する内部空隙14に対して円形近似が行われる。円形度の上記式において、Sは円形近似された内部空隙14の面積であり、Lは円形近似された内部空隙14の周囲長である。内部空隙14が円形近似されているため、円形度が小さいほど、内部空隙14が扁平であることを意味する。本実施形態では、この円形度の平均値が0.1~0.6である。
【0024】
本実施形態に係る人造黒鉛粒子10は、特定の円形度の内部空隙14を特定量有することで、人造黒鉛粒子10を用いた負極の膨張を抑制することができる。この理由は次のように考えられる。
【0025】
充電によって、リチウムイオンが黒鉛粒子の黒鉛層の間に挿入されると、黒鉛結晶の面間隔が膨張し、これにより黒鉛粒子の膨張が起こる。人造黒鉛粒子10は、特定の円形度の内部空隙14を特定量有することで、この黒鉛結晶の面間隔の膨張を吸収することができる。特に、ここで、円形近似した内部空隙の円形度が所定の範囲にあることで(すなわち、内部空隙が細長いことで)、黒鉛結晶の面間隔の膨張を吸収し易くなっている。このため、人造黒鉛粒子10の体積変化を効果的に緩和することができる。その結果、人造黒鉛粒子10を用いた負極の膨張を抑制することができる。
【0026】
人造黒鉛粒子10を用いた負極の膨張をより抑制する観点から、人造黒鉛粒子10の空隙率は、8~15%が好ましい。なお、空隙率は、人造黒鉛粒子10の断面電子顕微鏡写真を撮影し、粒子全体の面積に対する内部空隙の合計面積の割合(%)として求めることができる。
【0027】
空隙率は、具体的に例えば、次のようにして求めることができる。人造黒鉛粒子を含む材料または部材(例えば、負極の負極活物質層)に対して、イオンミリング加工によって断面出しを行う。この断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を取得し、このSEM画像に対して画像解析ソフトウェアを用いて、黒鉛部と空隙部とを峻別して、2値化処理する。黒鉛部と空隙部の面積をそれぞれ求め、〔(空隙部合計面積)/{(黒鉛部面積)+(空隙部合計面積)}〕×100を算出する。10個以上に対して、この値を求め、その平均値を空隙率とする。
【0028】
人造黒鉛粒子10を用いた負極の膨張をより抑制する観点から、人造黒鉛粒子10の上記の円形度は、0.3~0.6が好ましく、0.45~0.6がより好ましい。なお、上記の円形度は、例えば、次のようにして求めることができる。人造黒鉛粒子を含む材料または部材(例えば、負極の負極活物質層)に対して、イオンミリング加工によって断面出しを行う。この断面のSEM画像を取得し、このSEM画像に対して画像解析ソフトウェアを用いて、黒鉛部と空隙部とを峻別して、2値化処理する。1000nm2以上の断面積を有する内部空隙を抽出し、抽出した内部空隙に対して円形近似を行う。任意に選ばれる20個以上の内部空隙の円形度を求める。これを、任意に選ばれる10個以上の黒鉛粒子に対して行い、その平均値を算出する。
【0029】
なお、空隙率および円形度の算出のための画像解析ソフトウェアとしては、例えば、アメリカ国立衛生研究所製「ImageJ」などを用いることができる。
【0030】
図1に示す例では、内部空隙14は、所定の方向に配向している。しかしながら、内部空隙14は、所定の方向に配向していなくてもよい。人造黒鉛粒子10における黒鉛結晶の面間隔の膨張を効率よく吸収するために、内部空隙14は、黒鉛層(言い換えると、グラフェン面)と平行に配向していることが好ましい。ここで、人造黒鉛粒子10における結晶化度が高いと、円形近似を行った際の内部空隙14の長軸が、黒鉛層と平行に配向し得る。
【0031】
人造黒鉛粒子10の結晶化度については、ラマン分光法によって求まるDバンドのピーク強度(ID)に対するGバンドのピーク強度(IG)の比(IG/ID)によって評価することができる。この比(IG/ID)が1.5以上である場合には、人造黒鉛粒子10において、結晶成長が十分に進んで内部空隙が十分に発達すると共に、内部空隙が黒鉛層の伸長方向に高度に配向するため、好ましい。一方、この比(IG/ID)が、60以下である場合には、リチウムイオンが粒子内に侵入するための欠陥サイトが適度に形成されて、負極活物質の容量が高くなり、好ましい。なお、Dバンドのピーク強度(ID)およびGバンドのピーク強度(IG)はそれぞれ、人造黒鉛粒子10のアルゴンイオンレーザー光を用いたラマン分光測定において、1360cm-1付近および1580cm-1付近に出現するピークの強度として求めることができる。
【0032】
また、人造黒鉛粒子10の結晶化度については、人造黒鉛粒子10の黒鉛結晶の(002)面の面間隔d002によっても、評価することができる。当該面間隔d002が3.36Å~3.38Åの範囲にある場合には、人造黒鉛粒子10において、結晶成長が十分に進んで内部空隙が十分に発達すると共に、内部空隙が黒鉛層の伸長方向に高度に配向するため、好ましい。なお、面間隔d002は、粉末X線回折(XRD)測定によって求めることができる。
【0033】
人造黒鉛粒子10の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に限定されず、例えば、0.1μm以上50μm以下である。人造黒鉛粒子10が負極活物質に用いられることから、人造黒鉛粒子10の平均粒子径(D50)は、好ましくは1μm以上30μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下である。なお、人造黒鉛粒子10の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱法により求めることができる。
【0034】
次に、本実施形態に係る負極活物質に含まれる人造黒鉛粒子の製造方法について説明する。本実施形態に係る負極活物質に含まれる人造黒鉛粒子は、以下の方法により好適に製造することができる。なお、本実施形態に係る負極活物質に含まれる人造黒鉛粒子は、以下の製造方法によって製造されたものに限定されない。
【0035】
本実施形態に係る負極活物質に含まれる人造黒鉛粒子の製造方法は、黒鉛前駆体を、1000℃から、5時間以内に2600℃以上の温度まで加熱して黒鉛化させる工程を含む。当該黒鉛前駆体中の硫黄分濃度が0.4%以上7%以下である。
【0036】
黒鉛前駆体としては、2600℃以上の熱処理によって黒鉛化が可能な炭素材料を用いることができる。黒鉛前駆体の例としては、石炭(例、無煙炭、瀝青炭等)、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ニードルコークス、石油系ニードルコークス、バルクメソフェーズ、メソフェーズピッチ炭素繊維、メソフェーズピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、原油精製工程で発生した減圧残渣油より精製されるコークスなどが挙げられる。これらは、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、石炭、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ニードルコークス、および石油系ニードルコークスからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、石炭、石油系ピッチ、および石油系コークスからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0037】
当該製造方法においては、黒鉛前駆体として、硫黄分濃度が0.4%以上7%以下のものを使用する。そして、この黒鉛前駆体を、1000℃から、5時間以内に2600℃以上の温度まで加熱して黒鉛化させる。
【0038】
黒鉛前駆体は、1000℃以上の温度において黒鉛構造への移行を開始する。黒鉛前駆体は、黒鉛化の際にパッフィングと呼ばれる体積膨張を起こすことが知られている。このパッフィングは、強度の低下や亀裂の発生等の人造黒鉛の品質低下をもたらす。パッフィングの原因の一つは、黒鉛前駆体中に含まれる硫黄成分が、高温で分解して外部へ揮散する際に、黒鉛前駆体の組織を押し広げるためと考えられている。そのため、一般的に、黒鉛前駆体として、硫黄分濃度が小さい黒鉛前駆体、具体的には、硫黄分濃度が0.35%以下の黒鉛前駆体(特に、二次電池用途では、硫黄分濃度が0.1%未満の黒鉛前駆体)が用いられている。
【0039】
一方で、熱処理による黒鉛化は、熱収縮を引き起こすものである。そのため、一般的に、この熱収縮の程度を低減するために、昇温は長時間かけて行われる(例えば、二次電池用途では、数週間かけて昇温が行われる)。
【0040】
これに対し、本実施形態に係る製造方法においては、あえて硫黄分濃度が高い黒鉛前駆体を使用し、短時間で昇温を行う。これによれば、空隙率が0.7~15%であって、上記の内部空隙の円形度の平均値が0.1~0.6である、人造黒鉛粒子を効率よく得ることができる。このような内部空隙の生成メカニズムは、次のように推測される。なお、以下説明する
図2において、説明の便宜および理解の容易さのために、内部空隙の数を5個としている。実際は20個以上の内部空隙が生成する。
【0041】
図2(A)は、原料の黒鉛前駆体粒子110を示している。黒鉛前駆体粒子は、内部に、結晶成長の核となる光学組織120と、硫黄成分130とを含んでいる。
【0042】
この黒鉛前駆体粒子110が1500℃以上に加熱されると、光学組織120の結晶成長と硫黄成分130の脱離(すなわち、脱硫)とが、同時に起こるようになる。光学組織120の結晶成長の際には、光学組織120の中心方向(
図2(B)の矢印参照)に向かって収縮が起こる。その結果、
図2(B)に示すように、硫黄成分130が脱離した部分において、クラック140が発生する。
【0043】
その後、光学組織120は、黒鉛構造の面間隔が縮小するように結晶成長を続ける。これに合わせて、クラック140が広がり、内部空隙150となる。このとき、
図2(C)に示すように、内部空隙150は、グラフェン面に平行に配向し、内部空隙150の断面形状は、長細くなる。上述のように、長細い断面形状は円形度が低い。このようにして、上記の円形近似した際の円形度の平均値が0.1~0.6である多数の空隙が形成され、その空隙率は0.7~15%と高い値となる。
【0044】
硫黄分濃度が0.4%以上7%以下の黒鉛前駆体は公知であり、公知方法にしたがって、入手することができる。黒鉛前駆体中の硫黄分濃度は、燃焼イオンクロマトグラフィーによって求めることができる。燃焼イオンクロマトグラフィーは、公知方法に従って行うことができる。具体的に例えば、黒鉛前駆体の試料を燃焼分解ユニット内に配置し、酸素を含む燃焼ガス気流中で燃焼させる。発生したガスを吸収液に捕集し、吸収液に捕集した硫酸イオンをイオンクロマトグラフィーにて分離および定量する。これに基づいて、黒鉛前駆体の硫黄分濃度を求める。なお、本明細書において、硫黄分濃度の単位「%」は、人造黒鉛分野の通常の意味に従い、「質量%」を意味する。
【0045】
均質な人造黒鉛粒子を得る等を目的として、黒鉛前駆体には、粉砕処理、分級処理等が施されていてもよい。粉砕処理は、公知の粉砕装置(例、ジェットミル、ハンマーミル、ローラーミル、ピンミル、振動ミル等)を用いて行うことができる。分級処理は、公知の分級装置を用いて行うことができる。
【0046】
加熱には、黒鉛前駆体のみを供してよい。しかしながら、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、黒鉛前駆体を他の成分と混合して加熱に供してもよい。例えば、人造黒鉛材料の製造には、バインダーピッチ(例えば、軟化点が70~300℃程度のピッチ)が添加されることがあるが、本実施形態においても、黒鉛前駆体にバインダーピッチを添加してもよい。バインダーピッチを添加する場合、得られる人造黒鉛粒子の空隙を塞ぐ可能性を考慮して、その種類と量を適切に選択することが好ましい。
【0047】
本実施形態に係る製造方法では、この黒鉛前駆体を、1000℃から、5時間以内に2600℃以上の温度まで加熱して黒鉛化させる。このような急速な昇温を実現させるために、加熱は、高周波誘導加熱方式、または直接通電加熱方式で行うことが好ましい。
【0048】
高周波誘導加熱方式は、導電性を有する被加熱体を、加熱用コイルの内側に配置し、加熱用コイルに高周波電流を流して被加熱体に渦電流を誘起させ、被加熱体の抵抗によってジュール熱を発生させて、被加熱体を自己発熱させる加熱方式である。例えば、カーボン製のるつぼ、容器または型の中に黒鉛前駆体を加え、これを被加熱体として使用して、高周波誘導加熱方式による加熱を行うことができる。
【0049】
直接通電加熱方式は、導電性を有する被加熱体に直接電流を流し、被加熱体の抵抗によってジュール熱を発生させて、被加熱体を自己発熱させる加熱方式である。例えば、カーボン製のるつぼ、容器または型の中に黒鉛前駆体を加え、これを被加熱体として使用して、直接通電加熱方式による加熱を行うことができる。
【0050】
昇温速度がより高いことから、加熱は、高周波誘導加熱方式によって行うことがより好ましい。
【0051】
加熱は、雰囲気による悪影響を避けるために、不活性雰囲気(例、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気)下で行うことが好ましいが、当該雰囲気はこれに限定されない。
【0052】
昇温速度は、1000℃から、5時間以内に2600℃以上の温度まで加熱が行える限り、特に限定されない。昇温速度は、好ましくは10℃/分以上であり、より好ましく20℃/分以上であり、さらに好ましくは30℃/分以上である。
【0053】
得られる人造黒鉛粒子の結晶性をより高める観点から、加熱は、1000℃から、5時間以内に2800℃以上の温度まで加熱することが好ましく、1000℃から、3時間以内に2800℃以上の温度まで加熱することがより好ましい。なお、加熱温度が高すぎると、黒鉛の昇華が起こり得、また加熱のためのエネルギー消費が大きくなる。そのため、当該加熱の際の最高温度は、3500℃以下が好ましく、3200℃以下がより好ましい。
【0054】
黒鉛前駆体の1000℃までの昇温の条件は特に限定されない。黒鉛前駆体に対して1000℃未満で所定の熱処理を行ってもよい。室温から1000℃までの昇温速度と1000℃から2600℃以上までの昇温速度とを、同じにしてもよいし、異ならせてもよい。
【0055】
十分な黒鉛化を進めるために、2600℃以上の温度に加熱した後、当該温度で所定時間保持してもよい。保持時間としては、例えば30分以上である。また保持時間は、24時間以下、12時間以下、6時間以下、または3時間以下であってよい。
【0056】
この加熱によって、黒鉛前駆体を黒鉛化させることができる。加熱後は、そのまま放置して、冷却してよい。すなわち、放冷(言い換えると、自然冷却)してよい。
【0057】
以上のようにして、本実施形態に係る人造黒鉛粒子を得ることができる。このような製造方法によれば、人造黒鉛粒子の空隙率と、上記内部空隙の円形度の平均値とを、黒鉛前駆体の硫黄分濃度および昇温条件を調整することによって制御することができる。
【0058】
本実施形態に係る負極活物質を用いて、公知方法に従って負極を構築することができる。具体的には、黒鉛系の負極活物質を用いる公知の負極において、負極活物質に、本実施形態に係る負極活物質を用いればよい。さらに、当該負極を用いて、公知方法に従って二次電池を構築することができる。本実施形態に係る負極活物質を含む負極では、負極の膨張が抑制されている。
【0059】
そこで、別の観点から、本実施形態に係る二次電池は、正極と、負極と、電解質とを含み、負極が、上記の実施形態に係る負極活物質を含む。以下、本実施形態に係る二次電池の構成例について説明する。この構成例の二次電池は、扁平形状の捲回電極体と扁平形状の電池ケースとを有する扁平角型のリチウムイオン二次電池である。しかしながら、本実施形態に係る二次電池の構成は、以下説明する例に限定されない。
【0060】
図3に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解質(図示せず)とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。正負極端子42,44はそれぞれ正負極集電板42a,44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質には、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0061】
捲回電極体20は、
図3および
図4に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0062】
正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。
【0063】
正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0064】
正極活物質層54は、正極活物質を含有する。正極活物質としては、例えば、リチウムニッケル系複合酸化物(例、LiNiO2等)、リチウムコバルト系複合酸化物(例、LiCoO2等)、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(例、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物(例、LiNi0.8Co0.15Al0.5O2等)、リチウムマンガン系複合酸化物(例、LiMn2O4等)、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物(例、LiNi0.5Mn1.5O4等)などのリチウム遷移金属複合酸化物;リチウム遷移金属リン酸化合物(例、LiFePO4等)などが挙げられる。
【0065】
正極活物質層54は、正極活物質以外の成分、例えば、リン酸三リチウム、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイトなど)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0066】
正極活物質層54中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層54の全質量に対する正極活物質の含有量)は、特に限定されないが、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上99質量%以下である。正極活物質層54中のリン酸三リチウムの含有量は、特に制限はないが、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に制限はないが、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.3質量%以上15質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に制限はないが、0.4質量%以上15質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0067】
正極活物質層54の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0068】
負極集電体62としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。負極集電体62としては、銅箔が好ましい。
【0069】
負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは6μm以上20μm以下である。
【0070】
負極活物質層64は負極活物質として、上述の実施形態の負極活物質を含有する。負極活物質層64は、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、上述の実施形態の負極活物質に加えて、その他の負極活物質を含有していてもよい。
【0071】
負極活物質層64は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0072】
負極活物質層64中の負極活物質の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上99質量%以下がより好ましい。負極活物質層64中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。負極活物質層64中の増粘剤の含有量は、0.3質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0073】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0074】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0075】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0076】
非水電解質は、典型的には、非水溶媒と支持塩(電解質塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでも、カーボネート類が好ましく、その具体例として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が例示される。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0077】
支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩(好ましくはLiPF6)を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0078】
なお、上記非水電解質は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、オキサラト錯体等の被膜形成剤;ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤;等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0079】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。また、リチウムイオン二次電池100は、小型電力貯蔵装置等の蓄電池として使用することができる。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0080】
以上、一例として扁平形状の捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。しかしながら、リチウムイオン二次電池は、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池として構成することもできる。また、リチウムイオン二次電池は、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネート型リチウムイオン二次電池等として構成することもできる。また、公知方法に従い、非水電解質の代わりに固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池として構成することもできる。
【0081】
上述の実施形態に係る負極活物質は、リチウムイオン二次電池の負極活物質に適しているが、その他の二次電池の負極活物質として使用することができる。その他の二次電池は、公知方法に従って構成することができる。よって、本実施形態に係る二次電池は、公知方法に従ってリチウムイオン二次電池以外の二次電池として構成することができる。
【0082】
以下、本発明に関する実施例を詳細に説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0083】
<負極活物質の作製>
〔実施例1~6,比較例1〕
硫黄分濃度の異なる石油系コークスを用意した。石油系コークスに対し、ハンマーミルを用いて粒子径が10mm以下になるまで粗粉砕を行った後、ジェットミルを用いてさらに粉砕を行った。得られた粉砕物に対して、気流式の分級機を用いて分級して、粉砕によって生じたサブミクロンオーダーの微粉を除去した。このようにして黒鉛前駆体を準備した。この黒鉛前駆体に含まれる硫黄分濃度を表1に示す。なお、硫黄分濃度は、後述の方法によって測定した。
【0084】
約20gの黒鉛前駆体をカーボン坩堝に入れ、高周波誘導加熱方式の焼成炉内に置いた。この炉内の雰囲気は、アルゴン雰囲気とした。50℃/分の昇温速度で3000℃まで加熱し、3000℃で1時間保持して黒鉛化を行った。その後、加熱を停止し、黒鉛化物を炉内で放冷した。このようにして、実施例1~6および比較例1の人造黒鉛粒子(すなわち、負極活物質)を得た。
【0085】
〔比較例2〕
黒鉛前駆体として、実施例3と同じものを用いた。約20gの黒鉛前駆体をカーボン坩堝に入れ、アチソン炉内に置いた。この炉内の雰囲気は、アルゴン雰囲気とした。約30℃/時間の昇温速度で3000℃まで加熱し、約3000℃で4日間保持して黒鉛化を行った。よって、加熱は、2800℃以上になるのに4日程度を要した。その後、加熱を停止し、黒鉛化物を炉内で放冷した。このようにして、比較例2の人造黒鉛粒子(すなわち、負極活物質)を得た。
【0086】
<黒鉛前駆体の硫黄分濃度測定>
黒鉛前駆体の燃焼装置として、三菱ケミカル社製全有機ハロゲン分析装置「TOX-100」を使用した。各実施例および各比較例で用いた黒鉛前駆体5mgとタングステン系助燃剤50mgとを混合した試料を、試料ボード(セラミックボード)に採取した。試料を、上記装置を用いて酸素気流下で燃焼させた。なお。ヒーター温度は1100℃、加熱時間は500秒とした。発生した燃焼ガス中の硫黄分を20mLの吸収液で捕集した。なお、吸収液は、イオン交換水に過酸化水素水を、過酸化水素の濃度が5μg/mLとなるように添加して調製した。
【0087】
カラム「AS15」およびサプレッサー「AERS-500」(2mm)を備える日本ダイオネクス社製イオンクロマトグラフ分析装置「ICS-5000」を用いて、吸収液の定量分析を行い、硫黄分濃度を求めた。なお、溶離液・再生液には、水酸化カリウム溶液を用いた。
【0088】
<平均粒子径測定>
市販のレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、各実施例および各比較例の人造黒鉛粒子(負極活物質)の平均粒子径(D50)を求めた。結果を表1に示す。
【0089】
<ラマン分光測定>
市販のラマン分光装置を用いて、各実施例および各比較例の人造黒鉛粒子(負極活物質)の1360cm-1付近のDバンドのピーク強度(ID)に対する1580cm-1付近のGバンドのピーク強度(IG)の比を求めた。結果を表1に示す。
【0090】
<XRD測定>
市販のX線回折装置を用いて、各実施例および各比較例の人造黒鉛粒子(負極活物質)の黒鉛結晶の(002)面の面間隔d002を求めた。結果を表1に示す。
【0091】
<評価用ハーフセルの作製>
各実施例および各比較例の負極活物質(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=99:0.5:0.5の質量比でイオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、厚み10μmの銅箔の表面に塗布して乾燥した後、ロールプレスすることにより、負極シートを作製した。このときの負極シートの厚みを計測した。
【0092】
リチウム極として金属リチウム箔を用意した。また、厚み20μmのPP/PE/PPの三層構造の多孔質ポリオレフィン層上に厚み4μmのセラミック粒子層(HRL)が形成されたセパレータシートを用意した。エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させ、非水電解質を調製した。
【0093】
負極シートと、セパレータと、金属リチウム箔とを積層した。このとき、セパレータのHRLは、負極シートに対向させた。得られた積層体を上記非水電解質と共に電池ケースに封入して、コイン型のハーフセルを作製した。
【0094】
<SEM観察評価>
上記作製した負極の負極活物質層に対し、イオンミリング加工によって断面出しを行った。この断面について市販の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察を行って、SEM画像を取得した。参考として、実施例3および比較例2の人造黒鉛粒子の断面SEM画像を、
図5および
図6にそれぞれ示す。
【0095】
このSEM画像に対して画像解析ソフトウェア「ImageJ」を用いて、黒鉛部と空隙部とを峻別して、2値化処理を行った。10個以上の粒子について、黒鉛部と空隙部の面積から空隙率を求め、その平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0096】
さらに、画像解析ソフトウェア「ImageJ」を用いて、2値化処理した黒鉛部と空隙部について、1000nm
2以上の断面積を有する内部空隙を抽出し、抽出された内部空隙に対して円形近似を行った。10個以上の粒子に対して20個以上の内部空隙の円形度を求め、その平均値を算出した。結果を表1に示す。参考として、実施例3の2値化処理後の画像および円形近似後の画像を、
図7および
図8にそれぞれ示す。
【0097】
<放電容量測定>
各評価用ハーフセルを、0.1Cの電流値でリチウム極に対して3Vまで定電流充電し、さらに電流値が1/10Cになるまで定電圧充電した。その後、各評価用ハーフセルを0.1Cの電流値でリチウム極に対して1.6Vまで定電流放電し、さらに電流値が1/10Cになるまで定電圧放電した。この充放電サイクルを2サイクル繰り返し、2サイクル目の放電時の放電容量(mAh)を求めた。この放電容量と、負極活物質の重量とから、負極活物質の容量密度(mAh/g)を算出した。結果を表1に示す。
【0098】
<負極膨張率の測定>
上記で計測した負極シート作製時の厚みを、負極の初期厚みとした。各評価用ハーフセルを上記で計測した放電容量の80%の容量値まで充電した。その後、各評価用ハーフセルを解体し、負極の厚みを計測し、充電後の負極の厚みとした。以下の式より、膨張率を求めた。結果を表1に示す。
膨張率(%)=(充電後の負極の厚み/負極の初期厚み)×100
【0099】
【0100】
表1の結果より、人造黒鉛粒子の空隙率が0.7~15%であり、内部空隙の上記の円形度の平均値が0.1~0.6の範囲にある場合に、負極の膨張を顕著に低減できていることがわかる。よって、ここに開示される負極活物質によれば、負極の膨張を抑制可能であることがわかる。
【0101】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0102】
10 人造黒鉛粒子
12 黒鉛部
14 内部空隙
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
100 リチウムイオン二次電池