(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】構造体、設置物および自己位置推定システム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20241107BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20241107BHJP
【FI】
G08G1/00 X
G05D1/43
(21)【出願番号】P 2022141503
(22)【出願日】2022-09-06
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2021144949
(32)【優先日】2021-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)令和3年12月15日に大成建設株式会社のウェブサイト(https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2021/211215_8609.html)において公開 (2)令和3年12月15日に株式会社ティアフォーのウェブサイト(https://tier4.jp/media/detail/?sys_id=baMHh1V3xCTawaCBXqgTv&category=NEWS)において公開 (3)令和3年12月15日に損害保険ジャパン株式会社のウェブサイト(https://www.sompo-japan.co.jp/-/media/SJNK/files/news/2021/20211215_2.pdf?la=ja-JP)において公開 (4)令和3年12月15日にKDDI株式会社のウェブサイト(https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2021/12/15/5596.html)において公開 (5)令和3年12月15日にアイサンテクノロジー株式会社のウェブサイト(https://www.aisantec.co.jp/ir/library/ir-releases/zm20211215.pdf)において公開 (6)令和3年12月15日に日本信号株式会社のウェブサイト(https://www.signal.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2021/12/%E8%87%AA%E5%8B%95%E9%81%8B%E8%BB%A2%E5%AE%9F%E8%A8%BC%E5%AE%9F%E9%A8%93%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B91215_%E3%80%90%E7%A2%BA%E5%AE%9A%E7%89%88%E3%80%91.pdf)において公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (7)令和3年12月15日に大成ロテック株式会社のウェブサイト(https://www.taiseirotec.co.jp/2021/12/15/%e3%80%90%e9%83%bd%e5%86%85%e5%88%9d%e3%80%91%e8%a5%bf%e6%96%b0%e5%ae%bf%e3%81%a7%e3%81%be%e3%81%a1%e3%81%ae%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%95%e3%83%a9%e3%81%a8%e5%8d%94%e8%aa%bf%e3%81%97%e3%81%9f%e8%87%aa/)において公開 (8)令和3年12月15日に株式会社プライムアシスタンスのウェブサイト(https://prime-as.co.jp/jp/wp-content/uploads/2022/05/211215_03e4ce79dcf7839facc730fa7a36a44a.pdf)において公開 (9)令和4年1月19日にYouTubeのウェブサイト(https://www.youtube.com/watch?v=cptfTc4GwQU)において公開 (10)令和4年1月20日にプロジェクト実施者が開催した「(令和3年度)西新宿エリアにおける自動運転移動サービス実現に向けた5Gを活用したサービスモデルの構築に関するプロジェクト(プロジェクト説明会)」にて発表 (11)令和4年1月22日~令和4年2月4日に「(令和3年度)西新宿エリアにおける自動運転移動サービス実現に向けた5Gを活用したサービスモデルの構築に関するプロジェクト」と題する実証実験で公開
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 友理
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】各務 篤史
(72)【発明者】
【氏名】林 俊光
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-038607(JP,A)
【文献】特開2019-139655(JP,A)
【文献】特開2018-112830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00
G05D 1/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲に存在する物体にレーザ光を照射しながら移動する移動体が通行する通路を備える構造体であって、
前記通路は、壁面の色が単一である単一色区間を有し、
前記単一色区間には、壁面のテクスチャを変更することで反射強度を他の領域とは異ならせた反射強度変更部が設けられており、
前記反射強度変更部および前記他の領域は、同一素材の塗料または同一素材のシートで形成されており、
前記テクスチャの変更は、表面仕上げの変
更によって実現されている、
ことを特徴とする構造体。
【請求項2】
周囲に存在する物体にレーザ光を照射しながら移動する移動体が通行する通路を備える構造体であって、
前記通路は、面の色が単一である単一色区間を有し、
前記単一色区間には、面のテクスチャを変更することで反射強度を他の領域とは異ならせた反射強度変更部が設けられており、
前記反射強度変更部および前記他の領域は、同一素材の塗料または同一素材のシートで形成されており、
前記テクスチャの変更は、表面仕上げの変
更によって実現されている、
ことを特徴とする構造体。
【請求項3】
前記反射強度変更部は、曲面または複数の平面を有する立体形状部の表面に設けられている、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
周囲に存在する物体にレーザ光を照射しながら移動する移動体が通行する通路に関する設置物であって、
前記設置物は、色が単一である単一色区間を有し、
前記単一色区間には、テクスチャを変更することで反射強度を他の領域とは異ならせた反射強度変更部が設けられており、
前記反射強度変更部および前記他の領域は、同一素材の塗料または同一素材のシートで形成されており、
前記テクスチャの変更は、表面仕上げの変
更によって実現されている、
ことを特徴とする設置物。
【請求項5】
前記反射強度変更部は、曲面または複数の平面を有する立体形状部の表面に設けられている、ことを特徴とする請求項4に記載の設置物。
【請求項6】
請求項1もしくは請求項2に記載の構造体、または、請求項4もしくは請求項5に記載の設置物を用いた前記移動体の自己位置推定システムであって、
前記移動体は、
周囲に存在する物体にレーザ光を照射し、その反射光を受光することで反射強度を検出する検出部と、
前記反射強度変更部の反射強度に関する反射強度情報および前記反射強度変更部が設けられた位置に関する変更部位置情報を有した記憶部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記反射強度と前記記憶部に記憶される前記反射強度情報との関係に基づいて前記反射強度変更部を特定し、特定した前記反射強度変更部と前記記憶部に記憶される前記変更部位置情報とから自己の位置を推定する、
ことを特徴とする自己位置推定システム。
【請求項7】
請求項3に記載の構造体を用いた前記移動体の自己位置推定システムであって、
前記移動体は、
周囲に存在する物体にレーザ光を照射し、その反射光を受光することで反射強度を検出する検出部と、
前記反射強度変更部の反射強度に関する反射強度情報および前記反射強度変更部が設けられた位置に関する変更部位置情報を有した記憶部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記反射強度と前記記憶部に記憶される前記反射強度情報との関係に基づいて前記反射強度変更部を特定し、特定した前記反射強度変更部と前記記憶部に記憶される前記変更部位置情報とから自己の位置を推定する、
ことを特徴とする自己位置推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体、設置物および自己位置推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自己位置を推定しながら移動する移動体(例えば、ロボットや車両)の自律移動システムが知られている。この自律移動システムでは、全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)による電波が届かない環境において、LiDAR(Light Detection and Ranging)という光センサ技術を用いて自己位置推定を行う場合がある。この光センサ技術を用いた方式では、移動体がレーザ光を照射して物体との距離を測定することで周辺環境形態(周辺物体の形状データ)を作成し、内部に保持する予め作成された地図データと移動時に得られた周辺物体の形状データとをマッチングさせる(例えば、特許文献1参照)。
また、形状以外の識別子を建物内に設けることも提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載される技術は、物体の表面の色の違い(実験データでは黒色と白色が例示されている)によって表れる反射強度の差を利用して物体を認識するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】原祥尭、他、「測域センサの反射強度データを用いたスキャンマッチングによる移動ロボットの自己位置推定」、ロボティクス・メカトロニクス講演会講演梗概集、一般社団法人 日本機械学会、2006年、2P1-C29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
移動体が単調な空間(例えば、一様な壁面で構成される長廊下、トンネルなど)を移動する場合、周辺環境に変化が少ないので、周辺物体の形状データと地図データとをマッチングすることによる位置の推定が難しいという問題があった。
また、物体の表面の色を変更した場合、室内空間の美観を損ねるという問題があった。その為、意匠上の観点から、物体の表面の色を変更することが難しい場合があった。
なお、二次元や三次元のコード、電磁誘導線、磁気マーカ等を空間内に設置し、移動体でこれらの情報(またはこれらから発せられる情報)を取得することも考えられる。しかしながら、LiDAR以外のセンサが追加で必要になるのでコストがそれだけ増えてしまい、また、連動させるセンサ数が増加することで故障のリスクが高まることになる。また、建物内における移動体の自律移動を想定した場合、二次元や三次元のコード、電磁誘導線、磁気マーカ等を建物内に設けることで、室内空間の美観を損ねる可能性がある。
このような観点から、本発明は、単調な空間において移動体の自己位置を精度よく推定できる構造体、設置物および自己位置推定システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る構造体は、周囲に存在する物体にレーザ光を照射しながら移動する移動体が通行する通路を備える。この構造体の前記通路は、壁面の色が単一である単一色区間を有し、前記単一色区間には、壁面のテクスチャを変更することで反射強度を他の領域とは異ならせた反射強度変更部が設けられている。
また、本発明に係る構造体は、周囲に存在する物体にレーザ光を照射しながら移動する移動体が通行する通路を備える。この構造体の前記通路は、面の色が単一である単一色区間を有し、前記単一色区間には、面のテクスチャを変更することで反射強度を他の領域とは異ならせた反射強度変更部が設けられている。ここでの「面」は、壁面、路面、天井面など通路を構成する様々な面を含む概念である。
前記反射強度変更部および前記他の領域は、同一素材の塗料または同一素材のシートで形成されている。
前記テクスチャの変更は、表面仕上げの変更によって実現されている。
本発明に係る構造体では、移動体が壁面または面に反射したレーザ光を受け取ることで反射強度変更部を検出でき、位置を推定するための識別子として検出した反射強度変更部を利用できる。その結果、単調な空間において移動体の自己位置を精度よく推定できる。また、移動体の周囲に存在する人などの物体を検知するための既設センサ(レーザ光)を併用することで、センサの数を抑えることができるのでコストや故障のリスクが低く、反射強度変更部は人間が視認し難い(認識し難い)ので美観を損ねることもない。
また、本発明に係る設置物は、周囲に存在する物体にレーザ光を照射しながら移動する移動体が通行する通路に関する設置物である。この設置物は、色が単一である単一色区間を有し、前記単一色区間には、テクスチャを変更することで反射強度を他の領域とは異ならせた反射強度変更部が設けられている。ここでの「設置物」は、車両用防護柵のように通路に付随して設置される物、標識や信号機などのように通行に関する情報を示す物、通行する領域を特定するための物、雨樋、配管パイプ、照明機器等の道路周辺の附属物など、様々な物を含む概念である。
前記反射強度変更部および前記他の領域は、同一素材の塗料または同一素材のシートで形成されている。
前記テクスチャの変更は、表面仕上げの変更によって実現されている。
本発明に係る設置物では、周囲に存在する物体に反射したレーザ光を移動体が受け取ることで反射強度変更部を検出でき、位置を推定するための識別子として検出した反射強度変更部を利用できる。その結果、単調な空間において移動体の自己位置を精度よく推定できる。また、移動体の周囲に存在する人などの物体を検知するための既設センサ(レーザ光)を併用することで、センサの数を抑えることができるのでコストや故障のリスクが低く、反射強度変更部は人間が視認し難い(認識し難い)ので美観を損ねることもない。また道路に設置される設置物に関しては、色が単一でない場合、道路上の通行に関する情報として異なる意味が生じてしまう可能性がある。色が単一であることで、道路に関連する法令で規定される規則に則りながら、位置を推定するための識別子として検出した反射強度変更部を利用できる。
前記反射強度変更部は、曲面または複数の平面を有する立体形状部の表面に設けられていてもよい。このようにすると、移動体は遠方からでも構造体や設置物との角度によらず、反射強度変更部を検出しやすくなるので、移動体の自己位置の推定を安定して行うことが可能である。
【0007】
本発明に係る自己位置推定システムは、前述した単一色区間を備える構造体または設置物を用いた前記移動体の自己位置推定システムである。
前記移動体は、周囲に存在する物体にレーザ光を照射し、その反射光を受光することで反射強度を検出する検出部と、前記反射強度変更部の反射強度に関する反射強度情報および前記反射強度変更部が設けられた位置に関する変更部位置情報を有した記憶部と、制御部とを備える。
前記制御部は、前記反射強度と前記記憶部に記憶される前記反射強度情報との関係に基づいて前記反射強度変更部を特定し、特定した前記反射強度変更部と前記記憶部に記憶される前記変更部位置情報とから自己の位置を推定する。
本発明に係る自己位置推定システムでは、周囲に存在する物体で反射したレーザ光を移動体が受け取ることで反射強度変更部を検出でき、位置を推定するための識別子として検出した反射強度変更部を利用する。その為、単調な空間において移動体の自己位置を精度よく推定できる。また、移動体の周囲に存在する人などの物体を検知するための既設センサ(レーザ光)を併用することで、センサの数を抑えることができるのでコストや故障のリスクが低く、反射強度変更部は人間が視認し難い(認識し難い)ので美観を損ねることもない。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、周囲に存在する物体にレーザ光を照射しながら移動する移動体が、単調な空間において移動体の自己位置を精度よく推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る自己位置推定システムを含んだ自律移動システムの概略構成図である。
【
図2】移動体が通行する通路を説明するための図であり、(a)は移動体が廊下を通行する場合のイメージ図であり、(b)は移動体が室の壁面付近を通行する場合のイメージ図である。
【
図3】基準壁面部と反射強度変更部との組合せの例示である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る自己位置推定システムを含んだ自律移動システムの概略構成図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る自己位置推定システムにおける位置推定方法を説明するための概略図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る自己位置推定システムにおける位置推定方法を示すフローチャートの例示である。
【
図7】本発明の第3実施形態に係る自己位置推定システムを含んだ自律移動システムの概略構成図である。
【
図8】反射強度変更部をトンネル内に設置する場合のバリエーションを示す図であり、(a),(b)は壁面に反射強度変更部を設けた状態を示しており、(c)は段差側面に反射強度変更部を設けた状態を示している。
【
図9】トンネル内での基準壁面部と反射強度変更部との組合せの例示である。
【
図10】「ケース1(塩化ビニル樹脂製シート)」の実験結果(レーザ光を照射した時の角度に対する反射強度)を説明するための図である。
【
図11】「ケース1(塩化ビニル樹脂製シート)」の実験結果(レーザ光を照射した時の出力画面)を説明するための図である。
【
図12】「ケース2(水性エマルジョンペイントの塗装)」の実験結果(レーザ光を照射した時の角度に対する反射強度)を説明するための図である。
【
図13】「ケース2(水性エマルジョンペイントの塗装)」の実験結果(レーザ光を照射した時の出力画面)を説明するための図である。
【
図14】「ケース3(ステンレス製板材)」の実験結果(レーザ光を照射した時の角度に対する反射強度)を説明するための図である。
【
図15】「ケース3(ステンレス製板材)」の実験結果(レーザ光を照射した時の出力画面)を説明するための図である。
【
図16】「ケース4(塩化ビニル系樹脂シート)」の実験結果(レーザ光を照射した時の角度に対する反射強度)を説明するための図である。
【
図17】「ケース4(塩化ビニル系樹脂シート)」の実験結果(レーザ光を照射した時の出力画面)を説明するための図である。
【
図18】「ケース5(アルミニウム製板材)」の実験結果(レーザ光を照射した時の角度に対する反射強度)を説明するための図である。
【
図19】「ケース5(アルミニウム製板材)」の実験結果(レーザ光を照射した時の出力画面)を説明するための図である。
【
図20】実験結果から推定される各素材の本目的への適用性をまとめた一覧表である。
【
図21】
図10の「ケース1(塩化ビニル樹脂製シート)」の実験結果(レーザ光を照射した時の角度に対する反射強度)に対応する図であり、軸表記を追加する共にX軸を角度に揃えてある。
【
図22】
図12の「ケース2(水性エマルジョンペイントの塗装)」の実験結果(レーザ光を照射した時の角度に対する反射強度)に対応する図であり、軸表記を追加する共にX軸を角度に揃えてある。
【
図23】
図14の「ケース3(ステンレス製板材)」の実験結果(レーザ光を照射した時の角度に対する反射強度)に対応する図であり、軸表記を追加する共にX軸を角度に揃えてある。
【
図24】
図16の「ケース4(塩化ビニル系樹脂シート)」の実験結果(レーザ光を照射した時の角度に対する反射強度)に対応する図であり、軸表記を追加する共にX軸を角度に揃えてある。
【
図25】
図18の「ケース5(アルミニウム製板材)」の実験結果(レーザ光を照射した時の角度に対する反射強度)に対応する図であり、軸表記を追加する共にX軸を角度に揃えてある。
【
図26】反射強度変更部と移動体の位置との位置関係を示したイメージ図であり、(a)は平板形状の部材の表面に反射強度変更部を設けた場合を示し、(b)は円柱状の部材の表面に反射強度変更部を設けた場合を示している。
【
図27】実験体を説明するための図であり、(a)は第1及び第2の実験体の概略平面図であり、(b)は第3及び第4の実験体の概略平面図である。
【
図28】第1及び第2の実験体における実験の状況を説明するための図であり、(a)は実験体が角度「0°」の状態を示し、(b)は実験体が角度「30°」の状態を示し、(c)は実験体が角度「60°」の状態を示している。
【
図29】第3及び第4の実験体60A,60Bにおける実験の状況を説明するための図であり、(a)は実験体が角度「0°」の状態を示し、(b)は実験体が角度「30°」の状態を示し、(c)は実験体が角度「60°」の状態を示している。
【
図30】実験結果(レーザ光を照射した時の出力画面)を示す図であり、(a)は第1の実験体の「0°」の結果であり、(b)は第1の実験体の「30°」の結果であり、(c)は第1の実験体の「60°」の結果であり、(d)は第2の実験体の「0°」の結果であり、(e)は第2の実験体の「30°」の結果であり、(f)は第2の実験体の「60°」の結果である。
【
図31】実験結果(レーザ光を照射した時の出力画面)を示す図であり、(a)は第3の実験体の「0°」の結果であり、(b)は第3の実験体の「30°」の結果であり、(c)は第3の実験体の「60°」の結果であり、(d)は第4の実験体の「0°」の結果であり、(e)は第4の実験体の「30°」の結果であり、(f)は第4の実験体の「60°」の結果である。
【
図32】反射面に白色の塗料を塗布した実験体(第1の実験体、第3の実験体)の実験結果(レーザ光を照射した時の角度に対する反射強度)である。
【
図33】反射面に黒色の塗料を塗布した実験体(第2の実験体、第4の実験体)の実験結果(レーザ光を照射した時の角度に対する反射強度)である。
【
図34】実験結果から角度別「0°~70°」の最大値でプロットしたグラフである。
【
図35】
図34で反射強度が各角度で最大値(Max)となったときを「0」とし、最大値(Max)からの相対減衰量を求めたグラフである。
【
図36】
図35で縦軸の値を正規化したグラフ(つまり、最大値(Max)を「1」としたときの減衰率を求めたグラフ)である。
【
図37】第4実施形態に係る立体形状の反射強度変更部の一例を説明するための図であり、(a)は車両用防護柵に反射強度変更部を設けた場合のイメージ図であり、(b)は複数の平面を有する支柱への適用を示しており、(c)は曲面を有する支柱への適用を示しており、(d)はバリエーションとして雨樋、配管パイプ、照明機器等の道路周辺の附属物への適用を示している。
【
図38】実施形態の変形例を説明するための図であり、(a)は道路の路面に反射強度変更部を設けた場合のイメージ図であり、(b)は反射強度変更部の設置方法の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0011】
[第1実施形態]
<第1実施形態に係る自己位置推定システムの構成について>
図1を参照して、第1実施形態に係る自己位置推定システム1Aの構成について説明する。
図1は、自己位置推定システム1Aを含んだ自律移動システム1の概略構成図である。自己位置推定システム1Aは、他のシステムの一部を構成するものであってよく、本実施形態では移動体が操縦なしに自律して移動する自律移動システム1の一部をなすものを想定する。つまり、自己位置推定システム1Aにより移動体3が自己の位置を推定し、推定した位置に基づいて移動体3が自律して移動する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態における自律移動システム1は、建物2内を移動体3が自律して移動するシステムである。ここで、建物2は、「構造体」の一例である。建物2の種類や用途、移動体3が建物2内を移動する目的や自律制御方法などは限定されず、種々のものを用いることが可能である。本実施形態では、移動体3に出発地点および目的地点、並びに出発地点から目的地点までの経路を指定し、その決められた経路を移動体3が操縦なしに移動する場合を想定する。なお、移動体3が他のシステムや装置から与えられた情報や自身が検出した情報に基づいて目的地点や目的地点までの経路を算出し、算出した目的地点や経路に従って移動体3が移動するものであってもよい。
【0013】
図1に示す自律移動システム1は、主に、建物2と、建物2内を移動する少なくとも一つの移動体3と、当該システムの全体制御を行う管理装置4とを備える。管理装置4の設置場所は限定されず、建物2内(例えば、制御室)に配置されてもよいし、建物2の外部(例えば、集中管理センタ)に配置されてもよい。移動体3と管理装置4とは通信可能であるが、常に通信可能な状態である必要はない。例えば移動体3が通信可能なエリアに移動した場合に、移動体3が管理装置4との通信を行うものであってもよい。
【0014】
図1に示すように、本実施形態での建物2は、移動体3が通行する通路21を備える。本実施形態では、通路21として廊下を想定する。通路21は、帯状の床面22と当該床面22の両側を囲う壁面23とで主に構成される(
図2(a)を参照)。
図2は、移動体3が通行する通路21を説明するための図であり、(a)は移動体3が廊下を通行する場合のイメージ図であり、(b)は移動体3が室の壁面23付近を通行する場合のイメージ図である。
図2(b)に示すように、通路21には、片側にのみ壁面23を有するものが含まれる。詳細については後述するが、壁面23には、移動体3が位置を推定可能なように細工が施してある(
図1での反射強度変更部23bを参照)。当該壁面23に形成された細工は、移動体3が有する検出部32によって検出可能であるが、人間が視認し難い(認識し難い)ものであるのが望ましい。
【0015】
図1に示す移動体3は、建物2内を移動する装置であり、移動部31と、検出部32と、通信部33と、記憶部34と、制御部35とを備える。
移動部31は、移動体3を移動させるための手段であり、ここでの移動には地上での歩行や走行、水上での航行、空中での飛行などが含まれる。本実施形態では、地上での走行を想定し、移動部31は、例えば車輪、当該車輪を回転させる動力源、当該動力源が発生する動力を車輪に伝える伝達機構(例えばギヤやシャフト)などで構成される。
【0016】
検出部32は、反射強度を測定する手段である。検出部32は、例えばレーザ光を照射し、反射して戻ってきたレーザ光の反射強度を測定する。反射強度は、物体の表面の色やテクスチャなどによって差異があるが、不変な特徴量ではない。つまり、反射強度は、レーザ光を反射する物体によって一意に決まる訳ではなく、同じ物体にレーザ光を照射しても照射対象の物体までの距離や角度に応じて、得られる反射強度は多少異なってくる。なお、詳細は後述するが、レーザ光を照射する条件を同様にすることなどにより、照射される物体のテクスチャの違いを反射強度から判定することが可能である。
【0017】
通信部33は、他の装置との間での通信を実現する装置であり、本実施形態では無線通信を想定している。通信部33は、例えばアンテナやその周辺機器などによって構成される。建物2には、例えば通信部33を用いた通信を行うためのアクセスポイント(例えば、無線ルータ)が設置されており、移動体3がそのエリアに進入することで、管理装置4との通信が可能になる。なお、移動体3と管理装置4とが常に通信可能であってもよい。その場合、例えば移動体3で発生する事象(例えば、移動開始の要求の発生や目的地点への到着など)をトリガにして通信を開始する。
【0018】
記憶部34は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成される。記憶部34には、移動体3を自律移動するための情報が記憶されている。記憶部34に記憶される情報には、移動体3の位置を推定するための情報が含まれる。なお、記憶部34に記憶される情報の一部または全部は、移動体3以外の場所(例えば、管理装置4)に記憶されていて、通信部33を介して必要に応じて取得してもよい。
記憶部34には、通路21を構成する部材の反射強度に関する反射強度情報が記憶されている。この反射強度情報は、例えば検出部32が照射するレーザ光の波長に対応したものであり、後述する基準壁面部23aおよび反射強度変更部23bの反射強度に関する情報が含まれている。反射強度情報は、移動体3から壁面23までの距離に関する情報と、反射強度に関する情報とを予めマップ化した情報であってもよい。
また、記憶部34には、反射強度変更部23bが設けられた位置に関する変更部位置情報が記憶される。この変更部位置情報は、例えば反射強度変更部23bの座標値や反射強度変更部23bが設定される条件に関する情報である。
【0019】
図1に示すように、通路21を構成する壁面23は、色が単一である単一色区間Eを備える。単一色区間Eには、テクスチャを変更することで反射強度を他の領域(
図1での基準壁面部23a)とは異ならせた反射強度変更部23bが設けられている。基準壁面部23aは、壁面23の大部分の領域を構成し基本となるテクスチャが施されている。反射強度変更部23bは、基準壁面部23aに対してテクスチャを変更してある領域である。単一色区間Eにおける色の単一には、人間が視認によって異なる色と判別できない程度のものが含まれる。つまり、テクスチャの違いよる基準壁面部23aと反射強度変更部23bとの多少の濃淡の違いなどは許容され、色が同一であるとしてよい。
反射強度変更部23bのサイズ、形状、単一色区間Eにおける位置等は、特に限定されず、適宜設定することが可能である。反射強度変更部23bは、多角形や円形等でよく、例えば数センチメートル~数十センチメートル程度のサイズでよい。反射強度変更部23bは、床面22から天井面(図示せず)に亘って帯状に形成されていてもよい。単一色区間E内に複数の反射強度変更部23bを設けてもよく、例えば移動体3の移動方向(通路21の延伸方向)に沿って所定間隔で配置される。単一色区間E内に複数の反射強度変更部23bを設ける場合、サイズおよび形状を均一にするとともに、鉛直方向の設置位置を揃えるのがよい。なお、反射強度変更部23bがある程度の幅を有している場合、検出部32は、基準壁面部23aと反射強度変更部23bとの境界部23cを検出してもよい。
【0020】
反射強度変更部23bにおけるテクスチャの変更には、壁面23の(ア)表面仕上げの変更、(イ)素材の変更、(ウ)表面仕上げの変更および素材の変更、が含まれる。つまり、反射強度変更部23bは、(ア)~(ウ)のうちの一つを施すことにより基準壁面部23aからテクスチャが変更され、反射強度に差異が生じている。
表面仕上げは、例えば「メタリック加工」、「マット加工」、「エンボス加工」であり、これらの表面仕上げから選定したものを反射強度変更部23bとして用いることができる。また、表面仕上げは、例えば「艶あり加工」、「半艶あり加工」、「艶なし加工」であり、これらの表面仕上げから選定したものを反射強度変更部23bとして用いることができる。また、表面仕上げは、例えば「光沢加工」、「半光沢加工」、「マット加工」であり、これらの表面仕上げから選定したものを反射強度変更部23bとして用いることができる。
【0021】
図3を参照して、基準壁面部23aと反射強度変更部23bとの組合せについて説明する。
図3は、基準壁面部23aと反射強度変更部23bとの組合せの例示である。
図3(a)は、同一素材で表面仕上げ違いの場合を示している。具体的には、壁にシートが貼られることによって壁面23が形成されており、一部の表面仕上げを変更することによって反射強度変更部23bが形成されている。
図3(b)は、同一素材で表面仕上げ違いの場合を示している。具体的には、壁に塗料が塗られることによって壁面23が形成されており、一部の表面仕上げを変更することによって反射強度変更部23bが形成されている。
図3(c)は、異素材かつ表面仕上げ違いの場合を示している。具体的には、塗料が塗られた壁の一部にシートが貼られることによって反射強度変更部23bが形成されており、塗料部分とシート部分とで表面仕上げがさらに変更されている。
図3(d)は、異素材かつ表面仕上げ違いの場合を示している。具体的には、シートが貼られた壁の一部に金属板が貼られることによって反射強度変更部23bが形成されており、シート部分と金属板部分とで表面仕上げがさらに変更されている。
図3(e)は、異素材かつ表面仕上げ違いの場合を示している。具体的には、塗料が塗られた壁の一部に金属板が貼られることによって反射強度変更部23bが形成されており、塗料部分と金属板部分とで表面仕上げがさらに変更されている。
なお、ドアや窓等の建具(
図3(f))は壁自体ではなく壁面23に該当しないので、壁面23の一部を構成する反射強度変更部23bには、ドアや窓等の建具(
図3(f))が含まれない。
【0022】
制御部35は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラムの実行処理や、専用回路等により実現される。制御部35がプログラムによって実現される場合、そのプログラムをコンピュータによる読み取り可能な記録媒体(例:CD-ROM)に記憶して提供することができる。また、そのプログラムを、インターネットなどのネットワークを通して提供することもできる。ここでは、自己位置推定の処理について特に説明を行い、自律移動に関する全体処理については、詳細な説明は省略する。自律移動に関する処理は、特に限定されず、例えば一般的な処理によって実現されればよい。
制御部35は、反射強度変更部23bを用いて自己位置の推定を行う。制御部35は、検出部32が測定した反射強度と記憶部34に記憶される反射強度情報との関係から反射強度変更部23bを特定する。また、制御部35は、特定した反射強度変更部23bと記憶部34に記憶される変更部位置情報との関係から移動体3の位置を推定する。
【0023】
以上のように、第1実施形態に係る自己位置推定システム1Aでは、移動体3が壁面23に反射したレーザ光を受け取ることで反射強度変更部23bを検出でき、位置を推定するための識別子として検出した反射強度変更部23bを利用する。その為、単調な空間において移動体3の自己位置を精度よく推定できる。なお、反射強度変更部23bの色は、壁面23の他の部分の色と同じなので、人間に視認され難く、室内空間の美観を損ねる恐れもない。
【0024】
[第2実施形態]
<第2実施形態に係る自己位置推定システムの構成について>
図4を参照して、第2実施形態に係る自己位置推定システム101Aの構成について説明する。
図4は、自己位置推定システム101Aを含んだ自律移動システム101の概略構成図である。以下では、第1実施形態に係る自律移動システム1との相違点について説明を行い、同様の機能については説明を省略する。
図4に示す自律移動システム101は、主に、建物2と、建物2内を移動する少なくとも一つの移動体103と、当該システムの全体制御を行う管理装置4とを備える。移動体103と管理装置4とは通信可能であるが、常に通信可能な状態である必要はない。例えば移動体103が通信可能なエリアに移動した場合に、移動体103が管理装置4との通信を行うものであってもよい。
【0025】
図4に示す移動体103は、建物2内を移動する装置であり、移動部31と、検出部132と、通信部33と、記憶部134と、制御部135とを備える。移動部31および通信部33は、第1実施形態に係る移動体3と同様なので説明を省略する。なお、移動部131には、車輪の回転速度を検出するロータリーエンコーダが取り付けられている。
【0026】
検出部132は、移動体103の周囲(全方向でなくてもよい)に存在する物体の形状を検出するための手段である。検出部132は、レーザ光を用いて周囲の物体の形状を検出する。本実施形態では、検出部132として3Dレーザスキャナを想定し、検出部132は、周囲に多数のレーザ光を照射し、物体に当たって反射したレーザ光を受光する。これにより、検出部132は、周囲の物体の表面の形状を、表面を覆い尽くすような点の座標の集合(点群データ)として取得する。点群データは、例えば相対座標(検出部132の設置位置を原点としたローカル座標)である。検出部132によって検出された周辺の物体の点群データ(形状や距離)は、その測定時刻に対応付けられる。なお、点群データは、形状データの一例である。また、検出部132は、受光したレーザ光の反射強度を測定する機能を備える。この機能は、第1実施形態と同様である。検出部132によって測定された反射強度の情報は、点群データに対応付けられる。
【0027】
記憶部134には、移動体103を自律移動するための情報が記憶されている。記憶部134に記憶される情報には、移動体103の位置を推定するための情報が含まれる。なお、記憶部134に記憶される情報の一部または全部は、移動体103以外の場所(例えば、管理装置4)に記憶されていて、通信部33を介して必要に応じて取得してもよい。
記憶部134には、建物2の内部構造を示した地図データが記憶されている。地図データは、移動体3の位置の推定を行う場合に基準となるデータであり、例えば設計図面や事前の詳細な測定などに基づいて作成されたものである。地図データは、移動体103の自己位置の推定に用いられ、検出部132で検出された移動体103の周囲(全方向でなくてもよい)に存在する物体の形状データ(例えば、点群データ)とマッチング(重ね合わせ)の処理が行われる。
また、記憶部134には、第1実施形態と同様に、通路21を構成する部材の反射強度に関する反射強度情報、および反射強度変更部23bが設けられた位置に関する変更部位置情報が記憶される。
【0028】
制御部135は、例えば、次に示す三つの位置推定機能を備える。
制御部135の第一位置推定機能は、検出部132で取得した周囲の形状データによる位置の推定を実現する機能である。第一位置推定機能は、例えば、形状データと地図データとのマッチング(重ね合わせ)によって移動体103の自己位置の推定を行う。
制御部135の第二位置推定機能は、オドメトリによる位置の推定を実現する機能である。第二位置推定機能は、例えば、車輪の回転角度の計算から移動量を求め、その累積計算から移動体103の位置を推定する。
制御部135の第三位置推定機能は、検出部132で検出した反射強度変更部23bによる位置の推定を実現する機能である。この第三位置推定機能は、第1実施形態と同様である。第三位置推定機能では、制御部135は、検出部133が測定した反射強度と記憶部134に記憶される反射強度情報との関係から反射強度変更部23bを特定する。また、制御部135は、特定した反射強度変更部23bと記憶部134に記憶される変更部位置情報との関係から移動体103の位置を推定する。
制御部135は、この三つの位置推定機能を場面によって使い分け、移動体103の位置の推定を行う。
【0029】
<第2実施形態に係る自己位置推定システムにおける自己位置推定方法について>
図5を参照して(適宜、
図4を参照)、自己位置推定システム101Aにおける自己位置推定方法について説明する。
図5は、自己位置推定システム101Aにおける位置推定方法を説明するための概略図である。
図5では、移動体103が通路21を紙面右側から左側に向かって移動する場合を想定する。
ここで、
図5に示すように、本実施形態の通路21を構成する壁面23は、色が単一であり、かつ、一様な形状の一様形状区間Fを備える。反射強度変更部23bは、この一様形状区間Fに設けられる。一様な形状には、凹凸がないものや、凹凸があったとしても同じ形状が繰り返してあるもの(例えば、波状、格子状などのようにパターン化されているもの)が含まれる。一様形状区間Fでは、検出部132で検出する形状データが同じになるので、形状データと地図データとのマッチング(重ね合わせ)の処理によって自己位置の推定が困難になる。
図5に示す通路21は、一様形状区間Fが長く続き、最後(終点付近)に柱24が存在している。
【0030】
まず、移動体103が通路に進入し、一様形状区間Fを進んで位置P(t0)に到達する。一様形状区間Fでは、検出部132で検出する形状データが同じになる(つまり、移動しても幾何形状に変化がない)ので、形状データと地図データとのマッチング(重ね合わせ)による自己位置の推定が困難になる。その為、制御部135は、一様形状区間Fでは基本的にオドメトリ(車輪の回転量、軸方向)による位置の推定を行う。なお、移動体103は、検出部132を常に稼働させ、周囲にレーザ光を照射してその反射光を受けることで、周囲の物体の点群データを取得している。
図5では、検出部132によるレーザ光の照射範囲(検出範囲)を符号Kの領域で記している。
【0031】
移動体103は、オドメトリを用いた位置の推定を行いながら一様形状区間Fをさらに進み、位置P(t1)に到達する。移動体103が位置P(t1)まで移動することで、反射強度変更部23bが検出部132の検出範囲Kに含まれ、検出部132は反射強度変更部23bに反射したレーザ光を受光する。ここで、前述した通り、反射強度変更部23bは、基準壁面部23aに対して反射強度を変えてある。例えば、基準壁面部23aを反射率の低い表面仕上げ(艶なし加工)にし、反射強度変更部23bを反射率の高い表面仕上げ(艶あり加工)にしてある。移動体103から反射強度変更部23bまでの距離Dに応じた反射強度を得ることで、制御部135は、反射強度による自己位置の推定が可能である。なお、記憶部134には、例えば、移動体103から反射強度変更部23bまでの距離に関する情報と反射強度に関する情報とを予めマップ化した情報が記憶されている。
【0032】
移動体103は、反射強度変更部23bが設けられる部分では反射強度による位置の推定を行いながら一様形状区間Fをさらに進み、位置P(t2)に到達する。移動体103が位置P(t2)まで移動することで、柱24が検出部132の検出範囲Kに含まれ、検出部132は柱24に反射したレーザ光を受光する。これにより、検出部132で検出する形状データは、一様形状区間Fのときから変化する。その為、制御部135は、柱24による形状特性から、幾何形状による自己位置の推定を行う。
【0033】
このようにすると、一様形状区間Fの途中で反射強度の違いによる位置の推定を行うことが可能になる。これにより、一様形状区間Fにおいて移動体103の位置を適切に推定することができる。例えば、本実施形態のように、オドメトリ(車輪の回転量、軸方向)による位置の推定を行う場合、車輪が空転することなどにより位置の推定に誤差が発生するが、一様形状区間Fの途中で反射強度の違いによる位置の推定を行うことで発生した誤差を訂正することが可能になる。
例えば、
図5の一様形状区間Fに反射強度変更部23bが形成されず、反射強度の違いによる位置の推定を行わない場合を想定する。この場合、一様形状区間Fに進入したタイミングで移動体103がオドメトリ(車輪の回転量、軸方向)による位置の推定を開始し、一様形状区間Fを進行して退出するまでオドメトリによる位置の推定を行う。その為、一様形状区間Fを進行する間は誤差が蓄積することになり、一様形状区間Fを進むに従って誤差が大きくなる。特に、建物2の床面22が滑りやすく車輪が空転しやすい場合や一様形状区間Fの距離が長い場合には、誤差が無視できない程に大きくなってしまう。一方、
図5に示すように、反射強度変更部23bを形成して一様形状区間Fの途中で反射強度の違いによる位置の推定を行うことで、移動体103の正確な位置を推定できるので誤差がリセットされ、反射強度変更部23bを用いない場合と比較して誤差の蓄積を抑制できる。このように、反射強度変更部23bは、誤差をリセットするリセット地点のような役割を担うことができ、一様形状区間Fの途中の段階で誤差を吸収することができる。なお、検出部132の照射範囲(符号K)は移動体103に対して全周とせず、一部方向(270°)としているが、全周の照射範囲を有する全方向(360°)の検出部でも同様の効果が得られる。
【0034】
図6を参照して(適宜、
図4および
図5を参照)、自己位置推定システム101Aにおける自己位置推定方法を実現するための制御の一例を説明する。
図6は、第2実施形態に係る自己位置推定システム101Aにおける位置推定方法を示すフローチャートの例示である。なお、
図6に示す制御は、移動体103が移動している最中に繰り返し実行される。制御部135は、例えば
図6に示す制御を所定間隔(例えば、数ミリ秒~数秒程度の間隔)で実行する。
【0035】
最初に、制御部135は、移動体103の周囲にある物体の幾何形状を特定する(ステップS1)。この幾何形状の特定は、検出部132で周囲の物体の点群データを取得することにより実行される。次に、制御部135は、移動体103の周囲にある物体までの距離Dに変化があるか否かを判定する(ステップS2)。この処理では、例えば、検出部132を基点として予め決められた方向の距離Dの変化を判定し、時刻t0における所定方向の物体までの距離D(t0)と時刻t1における所定方向の物体までのD(t1)とを比較する。複数の方向の距離Dに変化があるか否かを判定してもよく、多数の方向の距離Dに変化があるかを判定することで制御がより正確になる。
【0036】
距離Dに変化がある場合(ステップS2で“あり”)、制御部135は、幾何形状による自己位置の推定を行う(ステップS3)。つまり、制御部135は、形状データと地図データとのマッチング(重ね合わせ)によって移動体103の自己位置の推定を行う。一方、距離Dに変化がない場合(ステップS2で“なし”)、制御部135は、移動体103の周囲にある物体から反射したレーザ光の反射強度Iを解析し(ステップS4)、反射したレーザ光の反射強度Iに変化があるか否かを判定する(ステップS5)。この処理では、例えば、検出部132を基点として予め決められた方向に照射したレーザ光の反射強度Iの変化を判定し、時刻t0における所定方向のレーザ光の反射強度I(t0)と時刻t1における所定方向のレーザ光の反射強度I(t1)とを比較する。複数の方向の反射強度Iに変化があるか否かを判定してもよく、多数の方向の反射強度Iに変化があるかを判定することで制御がより正確になる。
【0037】
反射強度Iに変化がない場合(ステップS5で“なし”)、制御部135は、オドメトリによる自己位置の推定を行う(ステップS6)。つまり、移動体103の車輪の回転量、軸方向等による位置の推定を行う。一方、反射強度Iに変化がある場合(ステップS5で“なし”)、制御部135は、反射強度Iによる自己位置の推定を行う(ステップS7)。つまり、検知した反射強度変更部23bと、記憶部134に記憶される変更部位置情報との関係から移動体103の位置を推定する。なお、
図6に示すフローチャートは、移動体103の位置推定方法の一例であって、第2実施形態に係る自己位置推定システム101Aの位置推定方法は、
図6に示すものに限定されない。具体的には、例えば変化の有無(ステップS2やS5)の位置を変え、距離Dに変化があり、かつ反射強度Iに変化がある場合、幾何形状による自己位置推定(ステップS3)、並びに反射強度による自己位置推定(ステップS7)を組み合わせることで、移動体103の位置をさらに高精度に推定する。このように各要素の自己位置推定の方法を組み合わせることも可能とする。また
図6に示すフローチャートでは、使用するデータとして幾何形状(D
MAP)と反射強度(I
MAP)の組み合わせとしているが、反射強度(I
MAP)のみのデータを用いる位置推定手法も可能とする。その場合には、ステップS5から開始するものとする。
【0038】
<第2実施形態に係る自己位置推定システムの効果について>
以上説明した第2実施形態に係る自己位置推定システム101Aによっても、第1実施形態と略同等の効果を奏することができる。つまり、第2実施形態に係る自己位置推定システム101Aでは、移動体103が壁面23に反射したレーザ光を受け取ることで反射強度変更部23bを検出でき、位置を推定するための識別子として検出した反射強度変更部23bを利用する。その為、単調な空間において移動体103の自己位置を精度よく推定できる。なお、反射強度変更部23bの色は、壁面23の他の部分の色と同じなので、人間に視認され難く、室内空間の美観を損ねる恐れもない。
また、第2実施形態に係る自己位置推定システム101Aでは、一様形状区間Fの途中で反射強度の違いによる位置の推定を行うことで位置の誤差がリセットされ、反射強度変更部23bを用いない場合と比較して誤差の蓄積を抑制できる。
【0039】
[第3実施形態]
第1,2実施形態では、移動体3,103が建物内を移動する場合を想定していた。しかしながら、建物以外の構造体についても本発明を適用することが可能であり、例えば車両が通行する道路を有する構造体(例えば、トンネル)などに反射強度変更部23bを設けることが可能である。また、反射強度変更部23bを設ける構造体は、屋外に設置されるものであってもよい。第3実施形態では、トンネル内に反射強度変更部23bを設ける場合を想定する。
【0040】
<第3実施形態に係る自己位置推定システムの構成について>
図7を参照して、第3実施形態に係る自己位置推定システム201Aの構成について説明する。
図7は、自己位置推定システム201Aを含んだ自律移動システム201の概略構成図である。以下では、第1実施形態に係る自律移動システム1との相違点について説明を行い、同様の機能については説明を省略する。
図7に示す自律移動システム201は、主に、トンネル202と、トンネル202内を移動する少なくとも一つの移動体203と、当該システムの全体制御を行う管理装置4とを備える。移動体203と管理装置4とは通信可能であるが、常に通信可能な状態である必要はない。例えば移動体203が通信可能なエリアに移動した場合に、移動体203が管理装置4との通信を行うものであってもよい。なお、トンネル202は、構造体の一例である。
【0041】
図7に示すように、本実施形態でのトンネル202は、移動体203が通行する通路221を備える。本実施形態では、通路221として道路を想定する。本実施形態における移動体203は、例えば自動四輪車、自動二輪車、自転車、建設機械などの車両である。移動体203は、移動部231と、検出部232と、通信部233と、記憶部234と、制御部235とを備える。
移動体203が備える移動部231、検出部232、通信部233、記憶部234および制御部235は、第1,2実施形態で説明した通りである。例えば、移動部231は、移動体203を移動させるための手段であり、例えば車輪、当該車輪を回転させる動力源、当該動力源が発生する動力を車輪に伝える伝達機構(例えばギヤやシャフト)などで構成される。検出部232は、移動体203の周囲(全方向もしくは一部方向)に存在する物体の形状を検出するための手段である。検出部232は、レーザ光を用いて周囲の物体の形状を検出する。本実施形態では、検出部232として3Dレーザスキャナを想定し、検出部232は、周囲に多数のレーザ光を照射し、物体に当たって反射したレーザ光を受光する。検出部232は、受光したレーザ光の反射強度を測定する機能を備える。なお、検出部232は、移動体203の車両上部に設置して全方向を照射しているが、車両前方、後方など設置場所や一部方向に照射する場合も含む。
【0042】
通路221は、移動体203である車両が走行する車道222aと、歩行者が歩行する歩道222bと、壁面223とで主に構成される。車道222aと歩道222bとは隣りに並べて設けられており、歩道222bは、車道222aに対して位置が高くなっている(つまり、段差になっている)。車道222aと歩道222bとの間には、両面を繋ぐ段差側面222cが形成されている。なお、段差側面222cも、トンネル(構造体)の壁面に含まれる。歩道222bは、車道222aの片側または両側に設けられている。
通路221を構成する壁面223は、軸に直交する方向の断面形状が例えば円弧状である。壁面223は、コンクリート製であり、例えば同じ成分のコンクリートを用いることで色が単一である。つまり、壁面223は、色が単一である単一色区間Eを備える(壁面223全体が単一色区間Eであってもよい)。壁面223(単一色区間E)には、テクスチャを変更することで反射強度を他の領域(
図7での基準壁面部23a)とは異ならせた反射強度変更部23bが設けられている。反射強度変更部23bのサイズ、形状、単一色区間Eにおける位置等は、特に限定されず、適宜設定することが可能である。
【0043】
車両用防護柵224は、車道222aと歩道222bとの境界に設置され、例えば支柱224aと、ビーム224bとで主に構成される。支柱224aは、地面に立設した円筒状の部材であり、トンネル202の軸方向に沿って所定間隔で配置されている。ビーム224bは、支柱224aに支持された長尺な部材であり、トンネル202の軸方向に沿って配置される。ビーム224bの形状は、車両用防護柵224の種類によって例えば板状、筒状、棒状などがある。車両用防護柵224は、例えば金属製であり、塗料が塗られることで色が単一である(つまり、単一色区間Eを備える)。
【0044】
図8を参照して(適宜、
図7を参照)、トンネル内に反射強度変更部23bを設ける場合のバリエーションの一例を説明する。
図8は、反射強度変更部23bをトンネル内に設置する場合のバリエーションを示す図であり、(a),(b)はトンネル覆工の壁面223に反射強度変更部23bを設けた状態を示しており、(c)はトンネル覆工の付帯物の壁面(段差側面222c)に反射強度変更部23bを設けた状態を示している。
図8(a)では、壁面223に四角形状の反射強度変更部23bが設けられてある。反射強度変更部23bは、トンネル202の軸方向に沿って所定間隔で配置されている。反射強度変更部23bは、歩行者の通行を考慮し、歩行者と緩衝しない位置に配置されるのが望ましい。
図8(b)では、壁面223に帯状(略円弧状)の反射強度変更部23bが設けられてある。反射強度変更部23bの一端は一方の歩道222bに接続され、他端は他方の歩道222bに接続されている。反射強度変更部23bは、トンネル202の軸方向に沿って所定間隔で配置されている。各々の反射強度変更部23bは、トンネル202の軸方向に直交する直交平面に対して平行である。これにより、反射強度変更部23bは、壁面223に縞状に配置される。
【0045】
図8(c)では、車道222aと歩道222bとを繋ぐ段差側面222c(壁面)に四角形状の反射強度変更部23bが設けられてある。段差側面222cは、コンクリート製であり、例えば同じ成分のコンクリートを用いることで色が単一である(つまり、単一色区間Eを備える)。反射強度変更部23bは、トンネル202の軸方向に沿って所定間隔で配置されている。
【0046】
図9を参照して、トンネル内での基準壁面部23aと反射強度変更部23bとの組合せについて説明する。
図9は、トンネル内での基準壁面部と反射強度変更部との組合せの例示である。
図9(a)は、
図8(a)や
図8(b)の状態を想定しており、同一素材で表面仕上げ違いの場合を示している。具体的には、コンクリートブロック(シールド工法のセグメント)を組み付けることや、セメントを吹き付けることなどによって壁面223(コンクリート面)が形成されており、壁面223の一部に艶がある塗料を塗ることによって反射強度変更部23bが形成されている。
図9(b)は、
図8(a)や
図8(b)の状態を想定しており、同一素材で表面仕上げ違いの場合を示している。具体的には、コンクリート面に艶がない塗料を塗ることによって壁面223が形成されており、壁面223の一部に艶がある塗料を塗ることによって反射強度変更部23bが形成されている。
図9(c)は、
図8(c)の状態を想定しており、同一素材で表面仕上げ違いの場合を示している。具体的には、コンクリートを打設することなどによって段差側面222c(コンクリート面)が形成されており、段差側面222cの一部に艶がある塗料を塗ることによって反射強度変更部23bが形成されている。また、塗料を塗らない部分は、基準表面部223aとなる。基準表面部223aは、基準壁面部23aに相当するものであり、基本となるテクスチャが施されている領域である。
【0047】
<第3実施形態に係る自己位置推定システムにおける自己位置推定方法について>
第1,2実施形態と同様に、第3実施形態に係る自己位置推定システム201Aでも、制御部35が、検出部32が測定した反射強度と記憶部34に記憶される反射強度情報との関係から反射強度変更部23bを特定する。また、制御部35は、特定した反射強度変更部23bと記憶部34に記憶される変更部位置情報との関係から移動体3の位置を推定する。
また、第2実施形態のときのように、反射強度変更部23bによる位置の推定と、他の方法による位置の推定(例えば、周囲の形状データによる位置の推定やオドメトリによる位置の推定など)とを組み合わせて移動体203の位置を推定してもよい。例えば、形状として特徴がある区間では周囲の形状データによる位置の推定を行い、形状として特徴がない区間では反射強度変更部23bによる位置の推定を行う。
【0048】
以上説明した第3実施形態に係る自己位置推定システム201Aによっても、第1,2実施形態と略同等の効果を奏することができる。つまり、第3実施形態に係る自己位置推定システム201Aでは、移動体203が壁面223(または、段差側面222c)に反射したレーザ光を受け取ることで反射強度変更部23bを検出でき、位置を推定するための識別子として検出した反射強度変更部23bを利用する。その為、単調な空間において移動体203の自己位置を精度よく推定できる。なお、反射強度変更部23bの色は、壁面23、段差側面222c等の構造体の基礎部分の色と同じなので、人間に視認され難く、トンネル内空間の美観を損ねる恐れもない。
【0049】
なお、第3実施形態ではトンネル内で位置推定を行う場合を想定していたが、第3実施形態での技術を用いて屋外での移動体203の位置推定を行うことができる。
なお、道路に電磁誘導線や磁気マーカ等を設置し、自動運転車両はそれを受信するための専用センサを取り付け、発せられる磁力等をもとに自車位置特定を行うことが、既存の手法として知られている。しかしながら、この技術では、自動運転車両に磁力等を検出するセンサが追加で必要となり、車両側のコスト増につながる他、連動させるセンサ数が増加することで故障のリスクも増加することとなる。これに対して、反射強度変更部23bを用いた位置推定では、自動運転車両に一般的に搭載されているLiDARを兼用して利用することが可能なため、コスト面でも故障のリスクについても優れている。
【0050】
第1~第3実施形態に係る自己位置推定システム1A,101A,201Aの効果を検証するために実験を行ったので、
図10ないし
図20を参照して説明する。
図10および
図11は、「ケース1(塩化ビニル樹脂製シート)」の実験結果を説明するための図である。
図12および
図13は、「ケース2(水性エマルジョンペイントの塗装)」の実験結果を説明するための図である。
図14および
図15は、「ケース3(ステンレス製板材)」の実験結果を説明するための図である。
図16および
図17は、「ケース4(塩化ビニル系樹脂シート)」の実験結果を説明するための図である。
図18および
図19は、「ケース5(アルミニウム製板材)」の実験結果を説明するための図である。
【0051】
・ケース1(塩化ビニル樹脂製シート)
図10は、塩化ビニル樹脂製シートに3Dレーザスキャナのレーザ光を照射した場合での反射強度を示す図であり、表面仕上げとして(a)はメタリック加工を施し、(b)はマット加工を施し、(c)はエンボス加工を施している。本ケースでは、塩化ビニル樹脂製シートとして、スリーエムジャパン株式会社製の「ダイノック(登録商標)シート」を用いて実験を行った。実験では、各々の表面仕上げに対して「1m」、「3m」、「5m」の距離からレーザ光を照射し、「1m」での結果を実線で記し、「3m」での結果を破線で記し、「5m」での結果を点線で記している。
図10での横軸はステップ数であり、縦軸は反射強度である。なお、実験で使用した3Dレーザスキャナは、走査角度270度、角度分解能0.25度(つまり、走査角度1度につき4つのデータを取得可能)で、「10m」までの距離計測が可能な仕様である。
図10では、1mの距離からレーザ光を照射(走査)したときに反射強度が最大となった走査角度をMax(M)とし、Max(M)を中心に角度分解能0.25度単位で左右方向に1ステップと定義して、横軸は±5ステップ(±1.25度)の反射強度を表示している。また、縦軸の反射強度は、単位が無次元であるが、値が大きいほど反射強度が高いことを意味する。
【0052】
図11は、塩化ビニル樹脂製シートに3Dレーザスキャナのレーザ光を照射した場合での出力画面例であり、(a)はメタリック加工を施したものに「1m」の距離からレーザ光を照射した場合の出力画面であり、(b)はマット加工を施したものに「1m」の距離からレーザ光を照射した場合の出力画面である。
【0053】
図10に示すように、「ケース1」では、「1m」の距離では反射強度を安定して計測できている。一方、「3m」、「5m」では局所的に高い値が出てしまい測定が安定していない。メタリック加工は、鏡面反射により局所的に反射強度が高くなった可能性がある。エンボス加工は、表面凹凸の影響で反射強度が安定しなかった可能性がある。
メタリック加工と他の2つの表面仕上げとの間には、「1m」の距離であれば有意な差(反射強度25~35%の差)があり、3Dレーザスキャナを用いて表面仕上げの違いを判別できる。また、「3m」の距離であっても、メタリック加工と他の2つの表面仕上げとの間には、10%程度の差が確認できた。なお、また、「5m」の距離では、メタリック加工と他の2つの表面仕上げとの間の差が10%未満となった。
【0054】
・ケース2(水性エマルジョンペイントの塗装)
図12は、水性エマルジョンペイントの塗装面に3Dレーザスキャナのレーザ光を照射した場合での反射強度を示す図であり、表面仕上げとして(a)は艶あり加工を施し、(b)は半艶あり加工を施し、(c)は艶なし加工を施している。実験では、各々の表面仕上げに対して「1m」、「2m」、「3m」の距離からレーザ光を照射し、「1m」での結果を実線で記し、「2m」での結果を破線で記し、「3m」での結果を点線で記している。
図12での横軸はステップ数であり、縦軸は反射強度である。なお、実験で使用した3Dレーザスキャナは、走査角度270度、角度分解能0.25度(つまり、走査角度1度につき4つのデータを取得可能)で、「10m」までの距離計測が可能な仕様である。
図12では、1mの距離からレーザ光を照射(走査)したときに反射強度が最大となった走査角度をMax(M)とし、Max(M)を中心に角度分解能0.25度単位で左右方向に1ステップと定義して、横軸は±5ステップ(±1.25度)の反射強度を表示している。また、縦軸の反射強度は、単位が無次元であるが、値が大きいほど反射強度が高いことを意味する。
【0055】
図13は、水性エマルジョンペイントの塗装面に3Dレーザスキャナのレーザ光を照射した場合での出力画面例であり、(a)は艶あり加工を施したものに「1m」の距離からレーザ光を照射した場合の出力画面であり、(b)は艶なし加工を施したものに「1m」の距離からレーザ光を照射した場合の出力画面である。
【0056】
図12に示すように、「ケース2」では、何れの表面仕上げであっても、距離が離れるに従って反射強度が減衰する。艶あり加工と半艶あり加工とは、同様な傾向がみられるので、3Dレーザスキャナを用いて表面仕上げの違いを判別するのは難しい可能性がある。艶あり加工は、艶なし加工に比べて、「1m」では2倍、「2m」では1.7倍、「3m」では1.6倍の値となっており、3Dレーザスキャナを用いて艶あり加工と艶なし加工との違いを判別できる。半艶あり加工と艶なし加工との組合せも同様である。
【0057】
・ケース3(ステンレス製板材)
図14は、ステンレス製板材に3Dレーザスキャナのレーザ光を照射した場合での反射強度を示す図であり、表面仕上げとして(a)はヘアライン加工を施し、(b)は鏡面加工を施している。実験では、各々の表面仕上げに対して「1m」、「2m」、「3m」の距離からレーザ光を照射し、「1m」での結果を実線で記し、「2m」での結果を破線で記し、「3m」での結果を点線で記している。
図14での横軸はステップ数であり、縦軸は反射強度である。なお、実験で使用した3Dレーザスキャナは、走査角度270度、角度分解能0.25度(つまり、走査角度1度につき4つのデータを取得可能)で、「10m」までの距離計測が可能な仕様である。
図14(a)では、1mの距離からレーザ光を照射(走査)したときに反射強度が最大となった走査角度をMax(M)とし、Max(M)を中心に角度分解能0.25度単位で左右方向に1ステップと定義して、横軸は-15~+20ステップ(-3.75~+5度)の反射強度を表示している。
図14(b)では、2mの距離からレーザ光を照射(走査)したときに反射強度が最大となった走査角度をMax(M)とし、Max(M)を中心に概ね±10ステップ(-2.5~+2.5度)の反射強度を表示している。縦軸の反射強度は単位が無次元であるが、値が大きいほど反射強度が高いことを意味する。
【0058】
図15は、ステンレス製板材に3Dレーザスキャナのレーザ光を照射した場合での出力画面例であり、(a)はヘアライン加工を施したものに「1m」の距離からレーザ光を照射した場合の出力画面であり、(b)は鏡面加工を施したものに「1m」の距離からレーザ光を照射した場合の出力画面である。
【0059】
図14に示すように、「ケース3」では、ヘアライン加工を施すことにより、3Dレーザスキャナと試験体との距離が離れても、反射強度のピーク値は減衰しない。ヘアライン加工により拡散反射となり、反射光を3Dレーザスキャナがとらえやすいため、安定した反射強度検知が可能になると考えられる。つまり、ステンレス鋼をヘアライン加工したものは、本目的での反射強度による位置推定に使いやすい素材と表面仕上げの組合せであると言える。
また、鏡面加工では、「3m」のみ強い反射強度となっている。鏡面反射であるため、3Dレーザスキャナとパルスが厳密に正対していないと反射光がとらえられないものと考えられる(「3m」のときは反射光を偶然とらえることができただけと考えられる)。つまり、ステンレス鋼を鏡面加工したものは、本目的での反射強度による位置推定に使い難い素材と表面仕上げの組合せであると言える。
【0060】
・ケース4(塩化ビニル系樹脂シート)
図16は、塩化ビニル系樹脂シートに3Dレーザスキャナのレーザ光を照射した場合での反射強度を示す図であり、表面仕上げとして(a)は光沢加工を施し、(b)は半光沢加工を施し、(c)はマット加工を施している。本ケースでは、塩化ビニル系樹脂シートとして、株式会社中川ケミカル製の「カッティングシート(登録商標)」を用いて実験を行った。実験では、各々の表面仕上げに対して「1m」、「2m」、「3m」の距離からレーザ光を照射し、「1m」での結果を実線で記し、「2m」での結果を破線で記し、「3m」での結果を点線で記している。
図16での横軸はステップ数であり、縦軸は反射強度である。なお、実験で使用した3Dレーザスキャナは、走査角度270度、角度分解能0.25度(つまり、走査角度1度につき4つのデータを取得可能)で、「10m」までの距離計測が可能な仕様である。
図16では、1mの距離からレーザ光を照射(走査)したときに反射強度が最大となった走査角度をMax(M)とし、Max(M)を中心に角度分解能0.25度単位で左右方向に1ステップと定義して、横軸は±5ステップ(±1.25度)の反射強度を表示している。また、縦軸の反射強度は単位が無次元であるが、値が大きいほど反射強度が高いことを意味する。
【0061】
図17は、塩化ビニル系樹脂シートに3Dレーザスキャナのレーザ光を照射した場合での出力画面例であり、(a)は光沢加工を施したものに「1m」の距離からレーザ光を照射した場合の出力画面であり、(b)は光沢加工を施したものに「2m」の距離からレーザ光を照射した場合の出力画面であり、(c)は半光沢加工を施したものに「1m」の距離からレーザ光を照射した場合の出力画面である。
【0062】
図16に示すように、「ケース4」では、半光沢加工に対して光沢加工が、1mで1.7倍、2mで2.8倍の反射強度の差が見られ、3Dレーザスキャナを用いて光沢加工と半光沢加工との違いを判別できると考えられる。
なお、光沢加工では、「1m」と「2m」の間に有意な差がなく、「3m」で急速に反射強度が小さくなっている。これは、ステンレス鋼の鏡面加工の場合と同様に鏡面反射を起こしており、「1m」と「2m」では反射光を3Dレーザスキャナがとらえられたものの、「3m」では反射光をとらえられなかったものと考えられる。そのため、塩化ビニル系樹脂シートを光沢加工したものは、本目的での反射強度による位置推定に使い難い素材と表面仕上げの組合せであると言える。
【0063】
・ケース5(アルミニウム製板材)
図18は、アルミニウム製板材に3Dレーザスキャナのレーザ光を照射した場合での反射強度を示す図であり、表面仕上げとして(a)はマット加工を施し、(b)はメタリック加工を施している。実験では、各々の表面仕上げに対して「1m」、「2m」、「3m」の距離からレーザ光を照射し、「1m」での結果を実線で記し、「2m」での結果を破線で記し、「3m」での結果を点線で記している。
図18での横軸はステップ数であり、縦軸は反射強度である。なお、実験で使用した3Dレーザスキャナは、走査角度270度、角度分解能0.25度(つまり、走査角度1度につき4つのデータを取得可能)で、「10m」までの距離計測が可能な仕様である。
図18では、1mの距離からレーザ光を照射(走査)したときに反射強度が最大となった走査角度をMax(M)とし、Max(M)を中心に角度分解能0.25度単位で左右方向に1ステップと定義して、横軸は±5ステップ(±1.25度)の反射強度を表示している。また、縦軸の反射強度は単位が無次元であるが、値が大きいほど反射強度が高いことを意味する。
【0064】
図19は、アルミニウム製板材に3Dレーザスキャナのレーザ光を照射した場合での出力画面例であり、(a)はマット加工を施したものに「1m」の距離からレーザ光を照射した場合の出力画面であり、(b)はメタリック加工を施したものに「1m」の距離からレーザ光を照射した場合の出力画面である。
【0065】
図18に示すように、「ケース5」では、反射強度の差が大きくなく、アルミニウムをマット加工とメタリック加工した表面仕上げの組合せは、本目的での反射強度による位置推定に使い難い素材と表面仕上げの組合せであると言える。
なお、アルミニウムは、ステンレス鋼と異なり安定した反射強度を検出していることから、別の素材と組み合わせることで本目的での反射強度による位置推定に使用できると考えられる。
【0066】
「ケース1」~「ケース5」の実験結果をまとめたものを
図20に示す。
図20は、実験結果から推定される各素材の本目的への適用性をまとめた一覧表である。
本実験から、類似素材同士でも、その差を反射強度で判定できる可能性のある素材および表面仕上げの組合せがあることを確認できた。また、3Dレーザスキャナによって反射光を安定的にとらえることができない素材や表面仕上げがあることが確認できた。
この結果、各々の素材や表面仕上げの特性を理解した上で素材や表面仕上げを選定し、その特性に基づいて解析を行うことで、反射強度を用いた位置推定を実現できることが分かった。
【0067】
[第4実施形態]
レーザ光を照射する対象物の表面が平面の場合、対象物の正面で反射強度が最大値となる。
図10、
図12、
図14、
図16、
図18において、軸表記を追加する共にX軸を角度に揃えたものを
図21ないし
図25に示す。
図21ないし
図25では、対象物の表面(平面形状である)と正対する位置を角度「0°」と定義している(
図10、
図12、
図14、
図16、
図18における横軸の値「Max(M)」に相当する)。
図22、
図25に示すように、平面形状の表面と正対する位置(角度「0°」)で反射強度が最大となり、正対する位置(角度「0°」)から移動体を移動させて斜めにする(すなわち対象物の表面に対する角度が増加する)について、反射強度が減衰することが確認できる。つまり、レーザ光を照射する対象が平面形状の場合では正対する位置において高い反射強度を得られるが、移動体と平板形状の反射面との位置関係が斜めの場合(つまり角度がついている場合)は、高い反射強度を得られない。
【0068】
図26を参照して、反射強度変更部23bに対する移動体3の位置と、高い反射強度を得られる範囲との関係を説明する。
図26は、反射強度変更部23bと移動体3の位置との位置関係を示したイメージ図であり、(a)は平板形状の部材26の表面に反射強度変更部23bを設けた場合を示し、(b)は円柱状の部材26の表面に反射強度変更部23bを設けた場合を示している。
図26(a)に示すように、平板形状の部材26の表面に反射強度変更部23bを設け、移動体3が反射強度変更部23bに対して平行に移動する場合を想定する。この場合、検出部32が高い反射強度を計測できるのは、移動体3が反射強度変更部23bの正面にいる位置Q(t2)から位置Q(t3)までの範囲A1である。そのため、移動体3の速度などの条件によっては、反射強度を安定的に取得することが難しい場合があり、自己位置推定の精度が低下する可能性がある。特に、範囲A1は、移動体3の進行方向における反射強度変更部23bの長さaに対応するので、反射強度変更部23bの長さaが小さい場合(例えば、数mm~数十mm)、反射強度変更部23bを検出できない(非検出となる)場合が想定される。また、移動体3が高速で移動することを想定した場合(例えば、自動車の高速走行)、反射強度変更部23bの正面を通過する時間は一瞬なので、同様に反射強度変更部23bを検出できない(非検出となる)恐れがある。
【0069】
第4実施形態では、反射強度変更部23bを設ける場所を、単一の平面から曲面や複数の平面を有する立体形状部の表面に変更する。曲面を有する立体形状部は、例えば、断面形状が円形、楕円形、半円形、半楕円形などである。複数の平面を有する立体形状部は、例えば、断面形状が三角形以上の多面体である。これによって、反射強度変更部23bの反射面に移動体3が正対する時間や回数を増やすことが可能であり、反射強度変更部23bに対して遠方から正面に至る範囲においても高い反射強度を計測できるようにする。
例えば、
図26(b)に示すように、円柱状(または円筒状)の部材26の表面に反射強度変更部23bを設ける場合を想定する。この場合、検出部32が高い反射強度を計測できるのは、移動体3が位置Q(t1)から位置Q(t4)までの範囲A2となり、当該範囲A2は、
図26(a)に示す範囲A1よりも大きくなる。そのため、反射強度変更部23bに対して遠方から正面に至る範囲においても、高い反射強度を計測できる。
【0070】
第4実施形態の効果を検証するために実験を行ったので説明する。効果の検証実験では、四つの実験体を準備し、LiDARを用いてレーザ光をそれぞれの実験体に照射してその反射強度を計測した。具体的には、実験体を回転台に乗せて回転させ、レーザ光を照射する照射面(反射面)の角度を変えて反射強度を計測した。
第1及び第2の実験体は、平板の実験体であり、レーザ光を反射する反射面が平面を呈している。第3及び第4の実験体は、半円筒状(円筒状の部材を軸心方向で二つに分割したもの)の部材を平板に取り付けた実験体であり、レーザ光を反射する反射面が半円形を呈している。第1ないし第4の実験体の反射面には、塗料が塗布されており、第1及び第3の実験体は「白色」の塗料が塗布され、第2及び第4の実験体は「黒色」の塗料が塗布される。
【0071】
図27を参照して、実験体の詳細を説明する。
図27は、実験体を説明するための図であり、(a)は第1及び第2の実験体50A,50Bの概略平面図であり、(b)は第3及び第4の実験体60A,60Bの概略平面図である。
図27(a)に示すように、第1の実験体50A及び第2の実験体50Bは、平板の表面に第1塗装部51および第2塗装部52が形成されている。第1塗装部51は、表面の左右方向で中央部分に形成され、上下方向(紙面奥行方向)に長尺な帯状を呈する。第2塗装部52は、第1塗装部51の両側に形成される。第1の実験体50A及び第2の実験体50Bは同じサイズであり、左右方向の寸法は「600mm」である。第1塗装部51の左右方向の寸法は「78mm」であり、第2塗装部52の左右方向の寸法は「261mm」である。第1の実験体50A及び第2の実験体50Bは、同一の塗料を用いており、第1塗装部51は、艶有塗装が施されており、第2塗装部52は、艶無塗装が施されている。第1の実験体50Aの第1塗装部51で用いた塗料は「白色」であり、第2の実験体50Bの第1塗装部51で用いた塗料は「黒色」である。
【0072】
図27(b)に示すように、第3の実験体60A及び第4の実験体60Bは、平板の表面に半円筒状の部材を固定したものであり、半円筒状の部材は、上下方向(紙面奥行方向)に配置される。半円筒状の表面には、第1塗装部61が形成され、それ以外の表面には、第2塗装部62が形成されている。第3の実験体60A及び第4の実験体60Bは同じサイズであり、左右方向の寸法は「600mm」である。第1塗装部61の左右方向の寸法(半円筒の外形)は「78mm」であり、第2塗装部52の左右方向の寸法は「261mm」である。第3の実験体60A及び第4の実験体60Bは、同一の塗料を用いており、第1塗装部61は、艶有塗装が施されており、第2塗装部62は、艶無塗装が施されている。第3の実験体60Aの第1塗装部61で用いた塗料は「白色」であり、第4の実験体60Bの第1塗装部61で用いた塗料は「黒色」である。
【0073】
図28および
図29を参照して、実験の状況を説明する。
図28は、第1及び第2の実験体50A,50Bにおける実験の状況を説明するための図であり、(a)は実験体50A,50Bが角度「0°」の状態を示し、(b)は実験体50A,50Bが角度「30°」の状態を示し、(c)は実験体50A,50Bが角度「60°」の状態を示している。
図29は、第3及び第4の実験体60A,60Bにおける実験の状況を説明するための図であり、(a)は実験体が角度「0°」の状態を示し、(b)は実験体が角度「30°」の状態を示し、(c)は実験体が角度「60°」の状態を示している。
【0074】
図28に示すように、第1及び第2の実験体50A,50Bは、円形の回転台72上に固定されており、回転台72を回転することによってLiDAR71に対する第1及び第2の実験体50A,50Bの角度を変更可能である。第1及び第2の実験体50A,50Bの表面がLiDAR71に対して正対している状態を「0°」としており(
図28(a)参照)、その状態を基準として回転台72を回転して測定を行った。第1及び第2の実験体50A,50Bは、回転台72の中心に配置されており、第1及び第2の実験体50A,50Bの中心とLiDAR71との距離は常に一定「1m」となっている。
同様に、
図29に示すように、第3及び第4の実験体60A,60Bは、円形の回転台72上に固定されており、回転台72を回転することによってLiDAR71に対する第3及び第4の実験体60A,60Bの角度を変更可能である。
【0075】
図30および
図31に実験結果の一例を示す。
図30は、実験結果を示す図であり、(a)は第1の実験体50Aの「0°」の結果であり、(b)は第1の実験体50Aの「30°」の結果であり、(c)は第1の実験体50Aの「60°」の結果である。また、(d)は第2の実験体50Bの「0°」の結果であり、(e)は第2の実験体50Bの「30°」の結果であり、(f)は第2の実験体50Bの「60°」の結果である。
図31は、実験結果を示す図であり、(a)は第3の実験体60Aの「0°」の結果であり、(b)は第3の実験体60Aの「30°」の結果であり、(c)は第3の実験体60Aの「60°」の結果である。また、(d)は第4の実験体60Bの「0°」の結果であり、(e)は第4の実験体60Bの「30°」の結果であり、(f)は第4の実験体60Bの「60°」の結果である。
図30および
図31では、白色の背景、および縦横直線で記した距離軸もしくは曲線で記した強度軸に対して、距離情報を薄い灰色で表し、反射強度を濃い灰色で表している。
【0076】
次に、
図32および
図33を参照して、実験結果について考察する。
図32は、反射面に白色の塗料を塗布した実験体(第1の実験体50A、第3の実験体60A)の実験結果である。
図32を参照すると、反射面が平面形状である第1の実験体50Aでは、「0°」、「30°」、「60°」と角度が増すごとに反射強度が徐々に減衰しているのに対し、反射面が半円形である第3の実験体60Aでは、「0°」、「30°」、「60°」の何れも反射強度がほぼ同じ値で推移している。
図33は、反射面に黒色の塗料を塗布した実験体(第2の実験体50B、第4の実験体60B)の実験結果である。
図33を参照すると、反射面が平面形状である第2の実験体50Bでは、「0°」以外では非検出となっているのに対し、反射面が半円形である第4の実験体60Bでは、「0°」、「30°」、「60°」の何れでも反射強度を検出できている(非検出となっていない)のが分かる。
【0077】
実験結果から角度別「0°~70°」の最大値(Max)でプロットしたグラフを
図34に示す。また、
図34で反射強度が各角度で最大値(Max)となったときを「0」とし、最大値(Max)からの相対的な減衰量を求めたグラフを
図35に示す。また、
図35では、縦軸の値(反射強度(減衰量)[単位なし])が実験で用いたLiDARの製造メーカが定義する独自指標(絶対値)となっている。そのため、
図35で縦軸の値を正規化したグラフ(つまり、最大値(Max)を「1」としたときの減衰量の比率を求めたグラフ)を
図36に示す。
また、
図36の各データ(角度別の減衰率)の平均値[%]および最大差分[%]を求めたものを次の表-1に示す。表-1を参照すると、円筒形(第3及び第4の実験体60A,60B)が平板(第1及び第2の実験体50A,50B)に比べて平均値において高くなっているのが分かる。その傾向は黒色になるとより顕著な結果として表れている。また、最大差分の比較でも、円筒形(第3及び第4の実験体60A,60B)では25%程度減衰するのに対して、平板(第1及び第2の実験体50A,50B)では50%~83%まで減衰することが分かる。
【0078】
【0079】
次に、
図37を参照して、第4実施形態に係る立体形状の反射強度変更部23bの一例を説明する。
図37は、第4実施形態に係る立体形状の反射強度変更部23bの一例を説明するための図であり、(a)は車両用防護柵224に反射強度変更部23bを設けた場合のイメージ図であり、(b)は複数の平面を有する支柱224aへの適用を示しており、(c)は曲面を有する支柱224aへの適用を示しており、(d)はバリエーションとして円筒形もしくは複数の平面を有する立体形状の雨樋、配管パイプ、照明機器等の道路附属物225aへの適用を示している。
図37(a)では、車両用防護柵224の支柱224aに反射強度変更部23bが設けられている。車両用防護柵224は、通路に関する設置物の一例である。支柱224aに反射強度変更部23bを設ける場合、
図37(b),(c)に示すように、例えば支柱224aの全体または一部を高反射のテクスチャとし、ビーム224bを低反射のテクスチャとする。反射強度変更部23bを全ての支柱224aに配置せず、例えば反射強度変更部23bを配置しない支柱224aを設けてもよい(例えば、反強度変更部23bを配置した支柱224aと反射強度変更部23bを配置しない支柱224aとを交互に配置してもよいし、複数本おきに反射強度変更部23bを配置した支柱224aを配置してもよい)。
また、
図37(d)に示すように、道路附属物225aの全体または一部を高反射のテクスチャとし、壁面225bを低反射のテクスチャとしてもよい。
【0080】
以上説明した第4実施形態においても、第1ないし第3実施形態と略同等の効果を奏することができる。つまり、反射したレーザ光を移動体3が受け取ることで反射強度変更部23bを検出でき、位置を推定するための識別子として検出した反射強度変更部23bを利用する。その為、単調な空間において移動体3の自己位置を精度よく推定できる。
また、第4実施形態では、反射強度変更部23bが曲面または複数の平面を有する立体形状部の表面に設けられている。このようにすると、移動体3は遠方からでも設置物との角度によらず、反射強度変更部23bを検出しやすくなるので、移動体3の自己位置の推定を安定して行うことが可能である。
【0081】
また、本実施形態では、
図26で示した通り、検出部32が高い反射強度を計測できるのは、移動体3が位置Q(t1)から位置Q(t4)までの範囲A2となり、当該範囲A2は、移動体3の進行方向における反射強度変更部23bの長さaよりも大きくなる。つまり、レーザ光の回転数が同一で、反射強度変更部23bの進行方向におけるサイズが同一のとき、反射強度変更部23bを検出可能な範囲A2は、平面形状に比べて広範囲となる。移動体3の移動速度が高速となる場合、平面形状では反射強度変更部23bに正対した状態での検出回数を一定回数得ようとすると、反射強度変更部23bの進行方向におけるサイズを拡大する必要がある。一方,半円形状では遠方からでも反射強度変更部23bから高い反射強度が得られるため、移動体3の速度が高速となる場合でも、反射強度変更部23bの寸法を大きくすることなく一定回数の検出が得られ、自己位置推定が実施できる。実験で示したように、小径や濃色でも実施が可能となり、建築や土木の構造体の一部(例:柱、橋脚等)のような大断面の構造体ではなく、工作物や道路附属物としての小断面での設置物(例:道路の標識ポール、車線分離標用ポール、ガードレール柱等)も対象として含めることができる。また、大断面の構造体に附属する構造体の機能を維持するための小断面の設置物(例:トンネル内の雨樋等)も対象として含めることができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
実施形態では、通路の壁面や通路に付随して設置される設置物(例えば、車両用防護柵224)に反射強度変更部23bを設けていた。しかしながら、移動体3,103,203から検出可能な場所であれば、反射強度変更部23bを設ける場所は限定されず、ここまで説明してきた以外の場所に反射強度変更部23bを設けることも可能である。例えば、
図38(a)に示すように、路面226に反射強度変更部23bを設けてもよい。その場合、
図38(b)に示すように、高反射面(例えば、RC造)の路面226に対し、低反射の領域226bを進行方向に配置することで、当該領域226bに挟まれる(または隣接する)領域226aを高反射面として際立たせることにより反射強度変更部23bとして利用してもよい。なお、路面226は、通路を構成する面の一例である。
また、第4実施形態では、設置物(例えば、車両用防護柵224)の一部の断面形状が円形や多面体である(つまり、立体形状部を有する)ことを想定して説明を行ったが、第1ないし第3実施形態における構造体(例えば、建物2やトンネル202)の面に、立体形状部を有する反射強度変更部23bが設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1,101,201 自律移動システム
1A,101A,201A 自己位置推定システム
2 建物(構造体)
202 トンネル(構造体)
3,103,203 移動体
4 管理装置
21 通路
22 床面
23 壁面
23a 基準壁面部
23b 反射強度変更部
24 柱
31,231 移動部
32,132,232 検出部
33,233 通信部
34,134,234 記憶部
35,135,235 制御部
221 通路
222a 車道
222b 歩道
223 壁面
223a 基準表面部
222c 段差側面(壁面)
224 車両用防護柵(設置物)
224a 支柱
224b ビーム
225a 道路附属物(設置物)
E 単一色区間
F 一様形状区間
50A 第1の実験体
50B 第2の実験体
60A 第3の実験体
60B 第4の実験体