(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】エピソード記憶能力改善装置、プログラム、方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
G09B 5/00 20060101AFI20241107BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20241107BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20241107BHJP
G09B 19/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
G09B5/00
A61B10/00 V
G06Q50/10
G09B19/00 H
(21)【出願番号】P 2022169548
(22)【出願日】2022-10-23
【審査請求日】2024-07-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業、エピソード記憶の強化によるビジネスリーダーのパフォーマンスを向上するヘルスケアシステムの研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】513319626
【氏名又は名称】キュアコード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100224270
【氏名又は名称】児嶋 秀平
(72)【発明者】
【氏名】田端 俊英
(72)【発明者】
【氏名】土田 史高
(72)【発明者】
【氏名】荒子 貴明
【審査官】安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-092358(JP,A)
【文献】特開2022-105402(JP,A)
【文献】Bergeron F. Michael,Utility of MemTrax and Machine Learning Modeling in Classification of Mild Cognitive Impairment,Journal of Alzheimer's Disease,IOP Press,2020年07月20日,Vol.77, no.4,pp.1545-1558
【文献】Ashford J.W.,Memtrax computerized memory test, a one-minute dementia screen,Alzheimer's & Dementia,Alzheimer's Association,2005年07月01日,Vol.1 Issue 1S Part 1,p.S23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 5/00-5/14
A61B 10/00
G06Q 50/10
G09B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の記憶能力を改善するためのエピソード記憶能力改善装置であって、
複数の画像又は音声からなる第1情報群と、前記第1情報群の一部を含む複数の画像又は音声からなる第2情報群とを、画像又は音声ごとに連続して表示する表示部と、
前記使用者による前記第1情報群と前記第2情報群との異同の判断を、前記表示部に表示される前記第2情報群の画像又は音声ごとに前記使用者が入力する入力部と、
前記入力部に入力された前記判断の正答率に基づき前記使用者の記憶能力を評価する評価部と、
前記評価部による評価の結果を出力する出力部と、
を有し、
前記第2情報群は、前記第1情報群が表示された後、48時間以上の所定の時間経過後に表示され、
前記使用者による前記第1情報群と前記第2情報群との異同の判断を繰り返し継続して実施させることにより、前記使用者の記憶能力を改善する、
エピソード記憶能力改善装置。
【請求項2】
前記使用者の周囲の騒音状態と、前記使用者の心拍数と、を検知する検知部を有し、
前記表示部は、前記検知部により検知された前記騒音状態又は前記心拍数が所定の数値を超えるときは、前記第1情報群及び前記第2情報群を表示しない、
請求項1に記載のエピソード記憶能力改善装置。
【請求項3】
前記出力部は、前記表示部に前記第1情報群が表示された後、前記第2情報群が表示される前に、前記使用者の年齢及び前記心拍数から算出される心拍数の範囲内での有酸素運動の実施を前記使用者に指示する、
請求項2に記載のエピソード記憶能力改善装置。
【請求項4】
前記評価部は、前記使用者の記憶能力に関する複数回の評価結果を指数上昇関数に当てはめることによって、前記使用者の記憶能力の到達可能最高評価値の95パーセントを上回るまでの適正評価回数を算出し、
前記出力部は、前記評価が前記適正評価回数に達したときに、前記入力部への前記判断の入力を終了することを前記使用者に指示する、
請求項3に記載のエピソード記憶能力改善装置。
【請求項5】
使用者が操作する端末と、前記端末と通信接続が可能なサーバとを有する、エピソード記憶能力改善システムであって、
前記端末が、複数の画像又は音声からなる第1情報群と、前記第1情報群の一部を含む複数の画像又は音声からなる第2情報群とを、画像又は音声ごとに連続して表示する表示手段と、
前記使用者による前記第1情報群と前記第2情報群との異同の判断を、前記端末に表示される前記第2情報群の画像又は音声ごとに、前記使用者が前記端末に入力する入力手段と、
前記サーバが、前記判断の正答率に基づき前記使用者の記憶能力を評価する評価手段と、
前記端末が、前記サーバ装置による前記評価の結果を出力する出力手段と、
を有し、
前記第2情報群は、前記第1情報群が表示された後、48時間以上の所定の時間経過後に前記端末に表示され、
前記使用者による前記第1情報群と前記第2情報群との異同の判断を繰り返し継続して実施させることにより、前記使用者の記憶能力を改善する、
エピソード記憶能力改善システム。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のエピソード記憶能力改善装置又はエピソード記憶能力改善システムとして機能させるための、
エピソード記憶能力改善プログラム。
【請求項7】
使用者の記憶能力を改善するためのエピソード記憶能力改善方法であって、
コンピュータが、
複数の画像又は音声からなる第1情報群を、画像又は音声ごとに連続して表示するステップと、
前記第1情報群の一部を含む複数の画像又は音声からなる第2情報群を、前記第1情報群が表示された後、48時間以上の所定の時間経過後に、画像又は音声ごとに連続して表示するステップと、
前記使用者による前記第1情報群と前記第2情報群との異同の判断を、表示される前記第2情報群の画像又は音声ごとに入力させるステップと、
入力された前記判断の正答率に基づき前記使用者の記憶能力を評価するステップと、
前記評価の結果を出力するステップと、
前記使用者による前記第1情報群と前記第2情報群との異同の判断を繰り返し継続して実施させることにより、前記使用者の記憶能力を改善するステップと、
を有する、
エピソード記憶能力改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピソード記憶能力改善装置、プログラム、方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
少子高齢化が進行する我が国では、経済の活性化、医療・介護費の抑制、若い世代の負担軽減のために、高年齢者が働き続けられる「生涯現役社会」の実現が喫緊の課題となっている。特に近年はあらゆる産業の知識集約化が加速していることから、新しい知識の習得に重要な役割を果たす記憶能力の加齢性低下を緩和し改善する技術が求められている。
【0003】
このため、例えば、特許文献1は、被験者の負担が少なく、評価者の技量等にかかわらず短時間で客観的な評価結果を得ることができるという記憶保持力評価方法を提案している。この方法は、被験者に単純な図形を瞬間的に提示し、一定のインターバル後に同じ図形を描画させることによって、被験者の記憶能力を評価しようとするものである。
【0004】
また、特許文献2は、被験者によって入力された過去の日記データと、当該データに関する現在の記憶内容とを比較することによって、被験者の記憶能力を診断しかつ訓練することができるという記憶力診断方法及び記憶力診断装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、人間の記憶は、個人が経験した出来事に係る感覚(視覚、聴覚等)に関連づけられることによって、より効果的に記銘されるものである。この点で、被験者の記憶能力の評価材料として単純な図形を用いる特許文献1の方法は、その効率性において必ずしも十分ではない。
【0008】
一方、特許文献2の方法は、被験者が経験した出来事を記録した日記データを記憶力の診断・訓練に用いる点で、特許文献1の方法よりも効果的である。しかしながら、被験者に継続的に日記を記録させる特許文献2の方法は、被験者の負担を少なからず伴うという点で、必ずしも効率的であるとは言い難い。
【0009】
そこで本発明は、個人が経験した出来事に係る感覚に関連づけられた記憶を記銘する能力を効率的に評価し改善することのできる装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【0010】
なお、本発明においては、個人が経験した出来事(エピソード)に係る感覚に関連づけられた記憶を、「エピソード記憶」という。また、エピソード記憶を記銘すなわち大脳皮質に定着させる能力を、「エピソード記憶能力」という。また、エピソード記憶に関連づけられた各感覚(視覚、言語的聴覚、非言語的聴覚等)のそれぞれを、「モダリティ」という。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための第1の発明に係るエピソード記憶能力改善装置は、使用者の記憶能力を改善するためのエピソード記憶能力改善装置であって、複数の画像又は音声からなる第1情報群と、前記第1情報群の一部を含む複数の画像又は音声からなる第2情報群とを、画像又は音声ごとに連続して表示する表示部と、前記使用者による前記第1情報群と前記第2情報群との異同の判断を、前記表示部に表示される前記第2情報群の画像又は音声ごとに前記使用者が入力する入力部と、前記入力部に入力された前記判断の正答率に基づき前記使用者の記憶能力を評価する評価部と、前記評価部による評価の結果を出力する出力部と、を有し、前記第2情報群は、前記第1情報群が表示された後、所定の時間経過後に表示される装置である。
【0012】
このような装置を繰り返し継続的に使用することによって、使用者は、自己のエピソード記憶能力を、特定のモダリティごとに評価し改善することが可能となる。また、エピソード記憶との関連づけが弱いモダリティを自覚することによって、自己の弱点である当該モダリティを優先的又は重点的に訓練することも可能となるのである。
【0013】
上記の課題を解決するための第2の発明に係るエピソード記憶能力改善装置は、第1の発明に係るエピソード記憶能力改善装置において、前記使用者の周囲の騒音状態と、前記使用者の心拍数と、を検知する検知部を有し、前記表示部は、前記検知部により検知された前記騒音状態又は前記心拍数が所定の数値を超えるときは、前記第1情報群及び前記第2情報群を表示しない装置である。
【0014】
このような装置を使用することによって、使用者は、前記表示部に表示された前記第1情報群の記憶と、前記表示部に表示された前記第2情報群の前記第1情報群との異同の判断の入力とを、騒音及び心拍数において極力同じ環境条件の下で実施することが可能となる。このような心身ともに安静な環境条件を確保することによって、使用者は自己のエピソード記憶能力についてのより正確な評価を得ることが可能となるのである。
【0015】
上記の課題を解決するための第3の発明に係るエピソード記憶能力改善装置は、第2の発明に係るエピソード記憶能力改善装置において、前記出力部は、前記表示部に前記第1情報群が表示された後、前記第2情報群が表示される前に、前記使用者の年齢及び前記心拍数から算出される心拍数の範囲内での有酸素運動の実施を前記使用者に指示する装置である。
【0016】
このような装置を使用することによって、使用者は、前記表示部に表示された前記第1情報群の記憶後に軽いジョギング等の有酸素運動を行い、大脳への血流量を適度に増大させ、その機能を活性化させることを通じて、より効率的にエピソード記憶の定着を図ることが可能となる。かかるルーティンを繰り返すことによって、使用者はエピソード記憶能力の改善効果をより早く期待することが可能となるのである。
【0017】
上記の課題を解決するための第4の発明に係るエピソード記憶能力改善装置は、第3の発明に係るエピソード記憶能力改善装置において、前記評価部は、前記使用者の記憶能力に関する複数回の評価結果を指数上昇関数に当てはめることによって、前記使用者の記憶能力の到達可能最高評価値の95パーセントを上回るまでの適正評価回数を算出し、前記出力部は、前記評価が前記適正評価回数に達したときに、前記入力部への前記判断の入力を終了することを前記使用者に指示する装置である。
【0018】
このような装置を使用することによって、使用者は、特定のモダリティに関連づけられたエピソード記憶能力の改善のための訓練を、それ以上は大きな向上が見込めない合理的な適正回数に達したところで迷わず終了することが可能となる。これにより、使用者は効果の薄い訓練に費やす時間を節約することが可能となる。また、モダリティごとの適正評価回数を知ることによって、例えば改善の余地が大きいモダリティに係るエピソード記憶能力を優先的又は重点的に訓練する等の効果的な対応が可能となるのである。
【0019】
上記の課題を解決するための第5の発明に係るエピソード記憶能力改善システムは、使用者が操作する端末と、前記端末と通信接続が可能なサーバとを有する、エピソード記憶能力改善システムであって、前記端末が、複数の画像又は音声からなる第1情報群と、前記第1情報群の一部を含む複数の画像又は音声からなる第2情報群とを、画像又は音声ごとに連続して表示する表示手段と、前記使用者による前記第1情報群と前記第2情報群との異同の判断を、前記端末に表示される前記第2情報群の画像又は音声ごとに、前記使用者が前記端末に入力する入力手段と、前記サーバが、前記判断の正答率に基づき前記使用者の記憶能力を評価する評価手段と、前記端末が、前記サーバ装置による前記評価の結果を出力する出力手段と、を有し、前記第2情報群は、前記第1情報群が表示された後、所定の時間経過後に前記端末に表示されるシステムである。
【0020】
このようなシステムを使用することによって、サーバは、多数の使用者の情報をビッグデータとして蓄積し活用することが可能となる。一方、使用者は、当該ビッグデータを活用したサーバによる、より正確な評価結果等の情報提供を受けることによって、エピソード記憶能力改善装置をスタンドアローンで使用するよりもより効果的かつ効率的に、自己のエピソード記憶能力を評価し改善することが可能となるのである。
【0021】
上記の課題を解決するための第6の発明に係るエピソード記憶能力改善プログラムは、コンピュータを、第1の発明から第5の発明までのいずれか1の発明に係るエピソード記憶能力改善装置又はエピソード記憶能力改善システムとして機能させるためのプログラムである。
【0022】
このようなプログラムを使用することによって、使用者は、自己のエピソード記憶能力を効率的に評価し改善することが可能となるのである。
【0023】
上記の課題を解決するための第7の発明に係るエピソード記憶能力改善方法は、使用者の記憶能力を改善するための記憶能力改善方法であって、複数の画像又は音声からなる第1情報群を、画像又は音声ごとに連続して表示するステップと、前記第1情報群の一部を含む複数の画像又は音声からなる第2情報群を、前記第1情報群が表示された後、所定の時間経過後に、画像又は音声ごとに連続して表示するステップと、前記使用者による前記第1情報群と前記第2情報群との異同の判断を、表示される前記第2情報群の画像又は音声ごとに入力するステップと、入力された前記判断の正答率に基づき前記使用者の記憶能力を評価するステップと、前記評価の結果を出力するステップと、を有する方法である。
【0024】
このような方法を使用することによって、使用者は、自己のエピソード記憶能力を効率的に評価し改善することが可能となるのである。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、使用者は、自己のエピソード記憶能力を効率的に評価し改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】エピソード記憶能力改善装置を示す概念図である。
【
図2】エピソード記憶能力改善方法を示すフロー図である。
【
図3】エピソード記憶能力改善方法の終了判定の考え方を示すグラフである。
【
図4】本発明をシステム運用する場合を示す概念図である。
【
図5】本発明をスマートフォンで実施する場合の第1情報群表示画面の例である。
【
図6】本発明をスマートフォンで実施する場合の第2情報群表示画面の例である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
【0028】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係るエピソード記憶能力改善装置を示す概念図である。本発明の第1実施形態においては、エピソード記憶能力改善装置1は、表示部2と、入力部3と、評価部4と、出力部1とを含む。これら各部は相互に接続され連携して機能する。なお、第1実施形態においては、
図1に示す検知部10は必須ではない。
【0029】
エピソード記憶能力改善装置1は、主に専用のアプリをインストールしたスマートフォンによって実現される。しかしながら、スマートフォンに限らず、例えばタブレット端末、パソコン、ウェアラブルデバイス等でもよい。また、エピソード記憶能力の改善目的に特化した専用機器であってもよい。
【0030】
表示部2は、第1情報群6と第2情報群7を表示する。第1情報群6は複数の画像又は音声からなる。第2情報群は、第1情報群の一部を含む複数の画像又は音声からなる。画像は視覚モダリティに関連づけられるエピソード記憶能力を評価・改善するため、音声は聴覚モダリティに関連づけられるエピソード記憶能力を評価・改善するために用いられる。
【0031】
画像はさらに、言語を伴う画像すなわち文字列と、言語を伴わない画像すなわち写真画像等に分けられる。すなわち、文字列は言語的視覚モダリティに関連づけられるエピソード記憶能力を評価・改善するため、写真画像等は非言語的視覚モダリティに関連づけられるエピソード記憶能力を評価・改善するために用いられる。
【0032】
同様に、音声はさらに、言語を伴う音声と言語を伴わない音声とに分けられる。すなわち、言語を伴う音声は、言語的聴覚モダリティに関連づけられるエピソード記憶能力を評価・改善するため、言語を伴わない音声は、非言語的聴覚モダリティに関連づけられるエピソード記憶能力を評価・改善するために用いられる。
【0033】
エピソード記憶能力改善装置1の目的は、使用者のエピソード記憶能力を特定のモダリティごとに分けて評価・改善することにある。各モダリティに関連づけられるエピソード記憶能力をそれぞれに高めることによって、使用者は、その大脳皮質の小規模ニューロンネットワーク群の効率的な連結を図ることができるのである。
【0034】
したがって、表示部2は一連の表示において画像と音声を混ぜて表示するのではなく、言語を伴う画像、言語を伴わない画像、言語を伴う音声又は言語を伴わない音声だけを、連続して表示するのである。なお、本発明において「表示」には、画像を表すことと、音声を発することの両方を含む。
【0035】
表示部2に表示される第1情報群6を使用者が見て記憶することを、本発明においては「学習セッション」という。以下、写真画像を表示する場合を例にとり、第1実施形態を説明する。学習セッションにおいては、例えば90枚の写真画像を連続して使用者に対して表示し、使用者はこれらを記憶する。
【0036】
使用者は、学習セッションの終了後、例えば48時間程度の間隔をおいて、「試験セッション」を実施する。本発明に係る第1実施形態において、「試験セッション」とは、表示部2による第2情報群7の表示と、使用者による異同判断8の入力部3への入力と、評価部4によるエピソード記憶能力の評価と、出力部5による評価結果9の出力とをいう。なお、第1実施形態においては、
図1に示す運動指示13及び終了指示14は必須ではない。
【0037】
試験セッションにおいて表示部2により表示される第2情報群7は、学習セッションにおいて使用者に対して表示された90枚の写真画像の全部又は一部を含む、例えば180枚程度の写真画像からなる。使用者は連続して表示される第2情報群7の各画像ごとに、学習セッションで表示された画像と同じであるか否かの異同判断8を入力部3に入力する。
【0038】
評価部4は、使用者により入力された異同判断8の正答率に基づき使用者の視覚モダリティに関連するエピソード記憶能力を評価する。出力部5は評価結果9を出力して使用者に提示する。評価結果9は、異同判断8の正答率をそのまま提示するものであってもよい。または、使用者のモチベーションを高めるため、例えばAランクからDランクまでのランキングを付与するようなものであってもよい。
【0039】
使用者は、評価結果9の向上を励みとして、訓練すなわち学習セッションと試験セッションを繰り返し継続して実施することによって、また、音声についても同様に訓練することによって、各モダリティに関連づけられるエピソード記憶能力の改善を図るのである。
【0040】
なお、表示部2と入力部3と評価部4と出力部5とはそれぞれの機能に着目した分類であって、エピソード記憶能力改善装置1の中で必ずしも物理的に別々の部分である必要はない。例えばエピソード記憶能力改善装置1をスマートフォンで実現する場合は、表示部2と入力部3と出力部5とは同一画面を共有する形態が使用者にとっての利便性が高い。
以上が、本発明の第1実施形態である。
【0041】
<第2実施形態>
引き続き
図1を用いて、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態のエピソード記憶能力改善装置1に、検知部10を付加したものである。検知部10は使用者の周囲の騒音11の状態を検知する音センサーと、使用者の心拍数12を検知する心拍計からなる。この2つのセンサーは第2実施形態に必須であるが、他の環境条件を検知するセンサーを有してもよい。
【0042】
検知部10は、表示部2、入力部3、評価部4及び出力部5と同じ装置内に設置されていてもよいが、物理的に分離していてもよい。例えば、エピソード記憶能力改善装置1がスマートフォンで実現される場合は、検知部10は利用者の手首等に装着されるウェアラブルデバイスとし、本体であるスマートフォンと無線で接続されている形態が使用者にとっての利便性が高い。
【0043】
第2実施形態においては、表示部2は、検知部10によって検知された利用者の周囲の騒音11の状態又は利用者の心拍数12のいずれかが所定の数値を超えるときは、学習セッション及び試験セッションにおいて第1情報群6及び第2情報群7を表示しない。この機能によって、使用者は学習セッションと試験セッションに対し、同じレベルで心身ともに安静な状態で臨むことができるのである。
以上が、本発明の第2実施形態である。
【0044】
<第3実施形態>
引き続き
図1を用いて、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態は、第2実施形態のエピソード記憶能力改善装置1の出力部5に、さらに運動指示13の機能を付加したものである。
【0045】
出力部5は、学習セッションの終了時に、使用者に対して軽い有酸素運動を行うよう指示する。その目的は、有酸素運動によって使用者の大脳皮質への血流量を適度に増大させ、大脳皮質の機能を活性化させることを通じて、より効率的にエピソード記憶の定着を図るためである。
【0046】
出力部5が指示する有酸素運動の強度は、例えば目標心拍数によって示される。この場合、その設定は使用者の年齢と使用者の安静時心拍数から、次式によって算出される。
目標心拍数=(220ー年齢ー安静時心拍数)x40%+安静時心拍数
上式によって算出される目標心拍数は、例えばごく軽いジョギングによって達成される。このレベルの有酸素運動を、学習セッションの終了直後に、例えば10分間実施するよう、出力部5は使用者に指示するのである。
【0047】
出力部5による運動指示8は、使用者の心拍数に限らず、他の健康指標も加味することによって、さらに適正な運動強度と時間を柔軟に調整できるものであってもよい。
以上が、本発明の第3実施形態である。
【0048】
<第4実施形態>
引き続き
図1を用いて、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態は、第3実施形態のエピソード記憶能力改善装置1の出力部5に、さらに終了指示14の機能を付加したものである。
【0049】
すなわち、出力部5は、使用者による特定のモダリティに係る複数回の評価結果9から、当該モダリティに関するエピソード記憶能力の到達可能最高評価値の95パーセントを上回るまでの試験セッションの適正回数を算出する。その適正評価回数に達した時に、そのモダリティに係る試験セッションを終了するよう、出力部5は使用者に指示するのである。
【0050】
出力部5は、使用者のエピソード記憶能力の到達可能最高評価値と、その95パーセントを上回るまでの試験セッションの適正回数を、複数回の評価結果9を指数上昇関数に当てはめることによって算出する。その考え方については後述する。
【0051】
出力部5による終了指示14によって、前述の通り、使用者は、特定のモダリティに関連づけられたエピソード記憶能力の改善のための訓練を、それ以上は大きな向上が見込めない合理的な適正回数に達したところで迷わず終了することが可能となる。これにより、使用者は効果の薄い訓練に費やす時間を節約することが可能となる。また、モダリティごとの適正評価回数を知ることによって、例えば改善の余地が大きいモダリティに関するエピソード記憶能力を優先的又は重点的に訓練する等の効果的な対応が可能となるのである。
【0052】
図2は、本発明に係るエピソード記憶能力改善方法を示すフロー図である。以下、第4実施形態に即して説明する。
図2に示すように、エピソード記憶能力改善方法は、学習セッション23と、試験セッション29の2段階で構成される。また、各セッションの前に、使用者が適正環境にあるか否かの確認21及び確認26が行われる。さらに、試験セッションの後に、試験セッションが適正回数に達したか否かの判断34が行われる。
【0053】
すなわち、使用者は、エピソード記憶能力改善方法の開始20の後、使用者の周囲の騒音状態及び使用者の心拍数に基づいて、使用者が心身ともに安静な状態を保つことのできるレベルの適正環境にあるか否かの確認21を行う。適正環境にない場合(22)は、学習セッション23に移行することはなく、一定の時間を置き環境を改善した上であらためて確認21を行う必要がある。
【0054】
確認21において適正環境にあることが確認された場合は、学習セッション23に移行する。学習セッション23は、第1情報群の表示24と運動指示25による有酸素運動とによって構成される。
【0055】
学習セッション23が終了すると、使用者は、例えば48時間程度の間隔をおいて試験セッション29に移行するが、その直前に再び、使用者が適正環境にあるか否かの確認26を行う。適正環境にない場合(27)は、試験セッション29に移行することはなく、一定の時間を置き環境を改善した上であらためて確認26を行う必要がある。
【0056】
確認26において適正環境にあることが確認された場合は、使用者は、試験セッション29に移行する。試験セッション29は、第2情報群の表示30と、異同判断の入力31と、エピソード記憶能力の評価32と、評価結果の表示33とによって構成される。
【0057】
試験セッション29が終了すると、使用者は、試験セッションが適正回数に達したか否かの判断34を行う。適正回数に達していない場合(35)は、再び学習セッション23と試験セッション29を繰り返す。また、各セッションの前には都度、適正環境にあるか否かの確認21及び確認26を行う。
【0058】
判断34において適正回数に達したと判断された場合は、使用者はそのモダリティに係るエピソード記憶能力改善方法を終了し(36)、別のモダリティに係るエピソード記憶能力改善方法を同様に実施する。このような方法を繰り返し実施することにより、使用者は自己のエピソード記憶能力を効果的かつ効率的に改善させることができるのである。
【0059】
図3は、本発明に係るエピソード記憶能力改善方法の終了判定の考え方を示すグラフである。グラフの縦軸は試験セッションの成績すなわち評価結果、横軸は時間を表している。グラフにプロットされた黒丸は初回の成績を示し、菱形は2回目以降の複数回の成績を示す。なお、初回の学習モードにおいては、エピソード記憶を定着させるための有酸素運動を行わない。2回目以降の学習モードにおいては有酸素運動を行うものとする。
【0060】
エピソード記憶能力改善方法において、成績は毎回一定の割合で改善されると仮定する。その場合、過去複数回の成績をプロットしたグラフから、将来の成績の推移は次の指数上昇関数でモデル化することができる。
R(i) = R0 + ( Rmax - R0 ) [ 1 - exp( - i / τ ) ]
上式において、R(i)はi回目に推測される成績、R0は初回の成績、Rmaxは推測される到達可能最高成績、τは時定数である。
【0061】
時定数τは、推定される改善余地( Rmax - R0 ) の残すところ1/eに達するまでにかかる所要回数である。3τ回以上の訓練を行うと、推定される改善余地の約95パーセント以上に達したと考えられるので、ここで終了判定を行うのである。
以上が、本発明の第4実施形態である。
【0062】
<第5実施形態>
図5は、本発明をシステム運用する場合を示す概念図である。システムは、例えばサーバ41と、サーバ41に接続されたインターネット42と、インターネット42に接続された複数のスマートフォン43と、各スマートフォン43に1台ずつ接続されたウェアラブルデバイス44とによって構成される。
【0063】
サーバ41は、多数の使用者からその了解の下に送信される個人情報をビッグデータとして蓄積する。この個人情報には、毎回の試験セッションにおける異同判断の入力内容に加えて、学習セッション及び試験セッション開始時の使用者の周囲の騒音状態、使用者の心拍数、カフェイン摂取の有無等の環境条件を含む。また、学習セッション終了後の有酸素運動の強度及び時間等の実施状況も含む。さらに、基礎情報として、例えば使用者の年齢、性別、学歴、病歴、国籍、現住所等も含みうる。
【0064】
スマートフォン43は、サーバから、サーバに蓄積されたビッグデータを活用した諸情報のフィードバックを受ける。このフィードバックには、毎回の試験セッションにおける使用者のエピソード記憶能力の評価結果に加えて、例えば同年代の使用者群の中における使用者自身のランキングや、有酸素運動の強度及び時間の提案等が含まれる。
【0065】
ウェアラブルデバイス44は、使用者の手首等に装着されることによって、使用者の心拍数を検知し、その結果を接続されたスマートフォン43に伝達する。心拍数の検知は、学習セッション及び試験セッション開始前に行われる。また、ウェアラブルデバイス44による心拍数の検知は、学習セッション終了後の有酸素運動中にも行われ、スマートフォンを通じて運動中の使用者にリアルタイムでフィードバックされる。これにより、使用者は適正な運動強度を常時キープすることが可能となるのである。
【0066】
このようなシステムを使用することによって、使用者は、エピソード記憶能力改善装置をスタンドアローンで使用するよりもより効果的かつ効率的に、自己のエピソード記憶能力を評価し改善することが可能となるのである。
以上が、本発明の第5実施形態である。
【0067】
<第1~第5実施形態共通>
図5は、本発明をスマートフォンで実施する場合の第1情報群表示画面の例である。
図5に示すように、学習セッションにおいて、使用者は、例えば「馬に乗る少年」の画像を見て記憶する。画像の下には「この画像内に動物がいるか?」のような簡単な質問と、この質問に対し「いる/わからない/いない」の3択で回答するボタンが設けられている。この回答ボタンを押す動作をすることは、使用者がその画像を視覚モダリティに関連づけられたエピソード記憶として記銘することに少なからず寄与するからである。
【0068】
図6は、本発明をスマートフォンで実施する場合の第2情報群表示画面の例である。
図6に示すように、試験セッションにおいて、使用者は、例えば「馬に乗る少女」の画像を見る。画像の下には「この画像を見たことがあるか?」という質問と、この質問に対し「ある/わからない/ない」の3択で回答するボタンが設けられている。質問者はそのいずれかを押すことで、異同の判断を示すのである。
【0069】
なお、このような試験方法を「Remember-Knowタスク」という。すなわち、上記の3択において、「ある」及び「ない」は「意識的に覚えている(Remember)」に該当し、「わからない」は「意識的には覚えていないがそのような気がする(Know)」に該当する。このKnow反応を除外することによって、使用者のエピソード記憶能力を正確に評価する方法が、「Remember-Knowタスク」である。
【0070】
以上に説明した第1~第5実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明はその要旨を逸脱しない限り、種々の形態で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により、高齢者は加齢によるエピソード記憶能力の低下を効果的かつ効率的に抑制し、維持し、改善することが可能となる。また、若年者はエピソード記憶能力が加齢性低下することに早い段階から気づき、繰り返し訓練を行うことでエピソード記憶能力をより長く健全に保つことが可能となる。
【0072】
今後、我が国のみならず欧米・アジアの国々において超高齢社会化が急速に進展することに伴い、エピソード記憶能力の効率的な改善に関する人々のニーズはますます高まると予測される。よって、本発明は産業上の利用可能性を有するものである。
【符号の説明】
【0073】
1 エピソード記憶能力改善装置
2 表示部
3 入力部
4 評価部
5 出力部
6 第1情報群
7 第2情報群
8 異同判断
9 評価結果
10 検知部
11 騒音
12 心拍数
13 運動指示
14 終了指示
20 エピソード記憶能力改善方法の開始
21 適正環境の確認
22 適正環境にない場合
23 学習セッション
24 第1情報群の表示
25 運動指示
26 適正環境の確認
27 適正環境にない場合
28 適正環境にある場合
29 試験セッション
30 第2情報群の表示
31 異同判断の入力
32 エピソード記憶能力の評価
33 評価結果の表示
34 適正回数の判断
35 適正回数にない場合
36 エピソード記憶能力改善方法の終了
41 サーバ
42 インターネット
43 スマートフォン
44 ウェアラブルデバイス