(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】フレキシブルピボット式時計用振動子の調整方法
(51)【国際特許分類】
G04B 17/04 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
G04B17/04
(21)【出願番号】P 2022500954
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(86)【国際出願番号】 IB2020056370
(87)【国際公開番号】W WO2021009613
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-07-03
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501099611
【氏名又は名称】パテック フィリップ ソシエテ アノニム ジュネーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】シャブロ ダヴィド
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-535431(JP,A)
【文献】特開2014-160037(JP,A)
【文献】特表2013-542402(JP,A)
【文献】特表2017-503155(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03382470(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/04,17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テンプ(2)と、支持体(3)と、前記テンプ(2)を前記支持体(3)に接続して前記テンプ(2)を仮想回転軸を中心に前記支持体(3)に対して回転方向に案内するフレキシブルピボット(4)と、を備える時計用振動子(1;1’)の調整方法であって、前記フレキシブルピボット(4)は、前記仮想回転軸に直交する平面(P1;P2)における直交投影において、前記フレキシブルピボット(4)が前記テンプ(2)に接合されている点(5a、6a)の対称軸でもある対称軸(Y)を有している、前記時計用振動子(1;1’)の調整方法において、
前記フレキシブルピボット(4)は、前記仮想回転軸に直交する前記平面(P1;P2)における直交投影において、互いに交差する方向に延び且つ前記対称軸(Y)に対して互いに対称である第1及び第2の弾性ストリップ(5,6)を備え、
前記テンプ(2)のアンバランスは、前記平面(P1;P2)における直交投影において、前記テンプ(2)の質量中心(P1;P2)が実質的に前記対称軸(Y)上にあり、前記仮想回転軸の位置(O)とは異なる位置にあるように調整され、前記アンバランスの調整により前記仮想回転軸の位置(O)は変更されず、前記質量中心(M)の位置は、所定の振動振幅における重力の方向に対する振動周波数の依存性を低
減するように選択される、
ことを特徴とする時計用振動子(1;1’)の調整方法。
【請求項2】
前記質量中心(M)の位置は、前記所定の振動振幅における重力の方向に対する振動周波数の依存性を最小にするように選択される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記テンプ(2)のアンバランスの前記調整は、少なくとも部分的に、前記テンプ(2)によって担持された調整装置(7-10、11-15)を使用して行われる、ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記テンプ(2)のアンバランスの前記調整は、少なくとも部分的に、前記調整装置(7-10、11-15)の少なくとも1つの要素(10、13)を前記対称軸(Y)に沿って変位させることによって行われる、ことを特徴とする請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記テンプ(2)のアンバランスの前記調整は、少なくとも部分的に、前記テンプ(2)上の材料を除去又は追加することによって行われる、ことを特徴とする請求項1から
4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1及び第2の弾性ストリップ(5,6)は、接触せずに互いに交差するように2つの平行な平面で延びる、ことを特徴とする請求項
1から5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記仮想回転軸に垂直な前記平面(P1;P2)における直交投影において、前記第1及び第2の弾性ストリップ(5、6)の交点(O)が、これらの長さの約87.3%に位置する、ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記仮想回転軸に垂直な前記平面(P1;P2)における直交投影において、前記第1及び第2の弾性ストリップ(5,6)の間の角度(α)が、68°から76°の間で
ある、ことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記仮想回転軸に垂直な前記平面(P1;P2)における直交投影において、前記第1及び第2の弾性ストリップ(5,6)の間の角度(α)が約71°に等しい、ことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項10】
前記第1及び第2の弾性ストリップ(5、6)が、物理的に互いに交差するように同一平面上に延びている、ことを特徴とする請求項
1から5の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1及び第2の弾性ストリップ(5、6)が、互いに交差していないが、互いに交差する軸に沿って延びる、ことを特徴とする請求項
1から5の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から
11の何れか1項に記載の方法により調整することができ、テンプ(2)と、支持体(3)と、前記テンプ(2)を前記支持体(3)に接続して前記テンプ(2)を仮想回転軸を中心に前記支持体(3)に対して回転方向に案内するフレキシブルピボット(4)と、を備える時計用振動子(1;1’)であって、前記フレキシブルピボット(4)は、前記仮想回転軸に直交する平面(P1;P2)における直交投影において、前記フレキシブルピボット(4)が前記テンプ(2)に接合されている点(5a、6a)の対称軸でもある対称軸(Y)を有している、前記時計用振動子(1;1’)において、
前記テンプ(2)は、前記対称軸(Y)に沿って移動可能な少なくとも1つのアンバランス調整要素(10、13)を保持
し、
前記フレキシブルピボット(4)は、前記仮想回転軸に直交する前記平面(P1;P2)における直交投影において、互いに交差する方向に延び且つ前記対称軸(Y)に対して互いに対称である第1及び第2の弾性ストリップ(5,6)を備える、
ことを特徴とする時計用振動子(1;1’)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式時計ムーブメントにおけるタイムベースとしての機能を果たすことができる時計用振動子に関する。
より正確には、本発明は、フレキシブルピボット式、すなわち、軸受内で回転する物理的回転スピンドルがない時計振動子に関する。このような振動子は、弾性要素の配置により、仮想回転軸を中心に枢動する。
【背景技術】
【0002】
別個の交差ストリップを有するピボット、非別個の交差ストリップを有するピボット、RCC(Remote Centre Compliance)と呼ばれる遠隔回転中心を有するピボットなど、異なるタイプのフレキシブルピボットがある。別々の交差ストリップを有するピボットでは、ストリップが接触することなく交差するように2つの平行な平面に延びる。非別個の交差ストリップを有するピボットでは、物理的に互いに交差するように同一平面上に延びる。遠隔の回転中心を有するピボットの場合、互いに交差していないが、互いに交差する軸に沿って延びる2つのストリップを備える。何れの場合でも、ストリップ又はその軸の交差が、仮想回転軸を定める。
【0003】
時計の振動子の場合、フレキシブルピボットが重力に対する感度が低いこと、換言すると、重力に対する方向性に応じてその周波数の変化ができる限り小さいことが重要である。
【0004】
このため、ストリップ又は軸の交点の位置を調整することが可能である。例えば、別個の交差ストリップを有する振動子の関連において、欧州特許出願第2911012号では、論文「The properties of crossed flexure pivots and the influence of the point at which the strips cross」(The Aeronautical Quarterly, vol.II,1951年2月)においてW.H.Wittrickによって開発された理論に基づき、ストリップの長さの7/8の位置に交点が位置するように弾性ストリップを配置することを提案しており、理論値は実際には、1/2+√5/6、すなわち、長さの約87.3%となる。この交点の位置は、仮想回転軸の寄生変位を最小にし、従って、振動子の周波数の重力に対する依存性を最小にする位置である。
【0005】
実際には、交点の特定の位置を選択することで、重力に対する周波数の依存性は、一定の振動振幅(別個の交差ストリップを有する振動子では約12°である)のみ最小になることが分かる。他の振動振幅、特に大きな振幅では、重力に対する時計の位置に応じた周波数の変化が大きくなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】W.H.Wittrick著「The properties of crossed flexure pivots and the influence of the point at which the strips cross」The Aeronautical Quarterly, vol.II,1951年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フレキシブルピボット式時計振動子の動作精度を向上させる新しい方法を提案することを目的としており、本方法は、ストリップ又はその軸の交点の特定の位置を選択することからなる方法と組み合わせてもよく、又は組み合わせなくてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため、本発明は、テンプと、支持体と、テンプを支持体に接続して仮想回転軸を中心にテンプを支持体に対して回転方向に案内するフレキシブルピボットと、を備えた時計振動子の調整方法であって、フレキシブルピボットが、仮想回転軸に直交する平面における直交投影において、フレキシブルピボットがテンプに接合されている点の対称軸でもある対称軸を有する、時計振動子の調整方法において、テンプのアンバランスは、平面における直交投影において、テンプの質量中心が実質的に対称軸上にあり且つ仮想回転軸とは異なる位置にあるように調整され、上記位置は、所定の振動振幅における重力の方向に対する振動周波数の依存性を低減及び好ましくは最小にするように選択される、調整方法が提供される。
【0010】
本発明はまた、上記で定義された方法によって調整することができる時計用振動子に関する。
【0011】
出願人は、振動の振幅、テンプの質量中心位置、及び重力に対する振動子の感度の間に相関関係があることを発見した。所与の振動振幅から始めて、重力に対して振動子の異なる垂直方向の位置の間の歩度の差を最小にするような、フレキシブルピボットの対称軸に沿ったテンプの質量中心位置を見つけることができる。このようにして、本発明による調整により、Wittrick型振動子と少なくとも同等の性能を有し、使用することが意図されているムーブメントの特性により適した異なる振幅で動作する時計用振動子を得ることができる。
【0012】
本発明の他の特徴と利点は、添付図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むと明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の特定の実施形態によるフレキシブルピボット式時計振動子の上方から見た平面図である。
【
図2】本発明の特定の実施形態によるフレキシブルピボット式時計振動子の斜視図である。
【
図3】振動の振幅と重力に対する振動子の方向に応じたフレキシブルピボット振動子の歩度を示す図である。
【
図4】振動の振幅と重力に対する振動子の方向に応じたフレキシブルピボット振動子の歩度を示す図である。
【
図5】振動の振幅と重力に対する振動子の方向に応じたフレキシブルピボット振動子の歩度を示す図である。
【
図6】振動子の垂直方向の異なる位置の間の歩度の相違を最小化している、振動子のテンプのアンバランスと振動振幅との関係を示す図である。
【
図7】本発明の別の実施形態によるフレキシブルピボット式時計用振動子の上方から見た平面図である。
【
図8】本発明の別の実施形態によるフレキシブルピボット式時計用振動子の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明を通して、時計振動子の幾何学的特性及び寸法特性は、静止位置を基準にして定義される。
【0015】
図1及び
図2は、機械式時計のムーブメント、特に腕時計又は懐中時計のムーブメントにおけるヒゲゼンマイ付きテンプの機能を果たすことを目的とした、本発明の一実施形態によるフレキシブルピボット式時計用振動子を示している。符号1で示されるこの振動子は、振動体又はテンプ2、支持体3、及びフレキシブルピボット4を備える。支持体3は、ムーブメントの固定フレーム又は可動フレームに固定されることが意図されている。フレキシブルピボット4は、ここでは、それぞれの平行な平面P1、P2で延び且つ接触せずに交差する2つの弾性ストリップ5、6の形態である。これらのストリップ5,6の各々は、その一端5a,6aがテンプ2に接合され、他端5b,6bが支持体3に接合されている。従って、テンプ2は、フレキシブルピボット4によってのみ支持体3に保持され、フレキシブルピボット4は、仮想回転軸を中心に支持体3に対して回転方向でテンプを案内し、静止位置、すなわち
図1及び
図2に示される位置にテンプを弾性的に戻す。仮想回転軸は、平面P1,P2に垂直に延びており、これらの平面P1,P2の何れかにおける直交投影において(
図1参照)、ストリップ5,6間の交点Oに、より正確にはこれらのストリップの中立軸間の交点に対応している。
図1では、交点Oは、軸Yがストリップ5、6の対称軸であるガイドマーク(O,X,Y)の中心であり、この対称軸は、ストリップ5、6がテンプ2に接合される点5a、6aと、ストリップ5、6が支持体3に接合される点5b、6bとの間を通る。図示の例では、テンプ2は、フレキシブルピボット4を囲むリングの形態である。変形例としては、カットタイプのものであってもよい。
【0016】
図3は、ストリップ5,6の長さの87.3%に位置する交点O、すなわちW.H.Wittrickによって提案された最適位置にある交点Oにおいて振動振幅と重力に対する向きによる振動子1の歩度を示している。この交点Oの位置は、ストリップ5,6がテンプ2に接合されている点5a,6aから測定されるが、変形例として、ストリップ5,6が支持体3に接合される点5b,6bから測定することもでき、交点Oは、支持体3がある側にもテンプ2がある側にも同様に位置することができる。更に、
図3のシミュレーションの結果は、平面P1、P2の何れかに直交投影した交点Oと質量中心が一致するバランスされたテンプ2により得られる。更に、ストリップ5,6間の角度αは、国際特許出願WO2016/096677の教示に従って、フレキシブルピボット4によって生成される弾性モーメントの非線形性に起因する非等時性を最小化する、68°~76°の範囲内の71°の角度に選択されている。このようにして、
図3に示す結果のシミュレーションは、従来技術に記載された最適条件下で行われた。
【0017】
図3の図は、y軸に秒/日単位の歩度を、x軸に度単位の振動振幅を示している。4つの曲線C1~C4は、それぞれ90°離れた4つの振動子の垂直方向位置に対応している。これら4つのそれぞれの垂直方向の位置では、重力は、半軸(O、-Y)、半軸(O、X)、半軸(O、-X)、半軸(O、Y)に沿って配向される。曲線C2及び曲線C3は、振動子がY軸に対して対称であることに起因して一致する。これらの垂直方向の位置の間の歩度の差は、振幅が約12°において最小であり、振幅が大きくなるにつれて、特に振幅が30°において大きくなり、すなわち、大きな振幅では、振動数が重力に対する振動子の向きに強く依存する点に留意されたい。しかしながら、振幅が小さいと、弾性復帰モーメントの非線形性が等時性に及ぼす影響が軽減されるという利点がある反面、欠点もある。特に、スイスレバー脱進機のような従来の脱進機を用いて振動を維持することが困難であるか、又は不可能になる。従って、振動振幅を、例えば、25°又は30°まで大きくすることが望ましい場合がある。
【0018】
重力に対する感度の性能を低下させることなく振動の振幅を大きくするために、本発明では、テンプ2の質量Mの中心がストリップ5、6の交点Oから離れ、ひいては平面P1、P2の何れかに直交投影されたテンプ2の回転中心から離れるように、テンプ2をアンバランスにするようにしている。実際に、質量Mの中心を軸Y上で点Oからシフトさせると、振動子の垂直方向位置の違いによる歩度の差が最小になる振動振幅が変化することが確認される。このことは、
図3と同じパラメータで得られた
図4及び
図5に示されているが、テンプ2の質量Mの中心が、
図4では点Oから30μmに等しい距離ΔY(15nN・mのアンバランスに相当)において、
図5では点Oから50μmに等しい距離ΔY(25nN・mに相当)において、軸Y上に配置されている。
図4では、振動数の重力の向きの依存度が最も小さくなる振動の振幅は約24°である。
図5では約30°である。
図4及び
図5は、質量Mの中心を半軸(O,Y)上にシフトさせた効果を示している。勿論、振動の振幅を小さくすることが望ましい場合には、質量Mの中心を半軸(O,-Y)上にシフトさせることが可能である。
【0019】
図6は、振動子1の上述した4つの垂直方向の位置の間の最小の歩度の差を与える振動の振幅と、テンプ2のアンバランスとの関係を示している。振動の振幅ごとに、対応するアンバランス、より正確にはテンプ2の質量Mの中心の軸Y上の位置を求めることができることが分かる。
【0020】
一般に、本発明では、テンプ2の質量Mの中心と交点Oとの間の距離ΔYは、好ましくは少なくとも1.4μm、より好ましくは少なくとも2μm、より好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも10μm、より好ましくは少なくとも20μm、より好ましくは少なくとも40μmである。アンバランスは、絶対値で、好ましくは少なくとも0.7nN・m、より好ましくは少なくとも1nN・m、より好ましくは少なくとも2.5nN・m、より好ましくは少なくとも5nN・m、より好ましくは少なくとも10nN・m、より好ましくは少なくとも20nN・mである。
【0021】
実際には、振動の振幅が選択された後、この振動の振幅における垂直方向位置の間の歩度の差を最小にするために、テンプ2のアンバランスが調整される。この調整は、テンプ2から材料を除去すること、例えばフライス加工又はレーザーカットにより、又はテンプ2に材料を付加すること、例えば蒸着法により行うことができる。代替として、又はこれに追加して、アンバランスは、テンプ2により担持される調整装置を用いて調整することができる。
【0022】
このような調整装置の一例が
図1及び
図2に示される。この装置は、テンプ2に剛体接続され、好ましくはテンプ2と一体部品を形成する支持体7を備える。この支持体7は、仮想回転軸に面したテンプ2の内面から半径方向に延びている。支持体7に剛体接続されて好ましくは一体部品を形成する2つのスタッド8,9は、軸線Yに沿って支持体7に対して並進移動可能なフレーム10によって囲まれており、フレーム10のガイドとして機能を果たす。スタッド8,9の少なくとも1つは、フレーム10の内部幅よりも大きな直径を有し、その2つの大きな側面を弾性的に変形させ、ひいては弾性的に把持することによってフレームを所定位置に保持するようにする。フレーム10に軸線Yの方向で十分な力を加えることにより、フレーム10を変位させ、テンプ2のアンバランスを修正するようにする。フレーム10の特定の位置、例えば、2つのスタッド8,9のうちの1つに当接する位置において、テンプ2のアンバランスが実質的にゼロになるように、支持体7、スタッド8,9及びフレーム10によって引き起こされるアンバランスを補償するために、1又は2以上の凹部をテンプ2に設けることができる。従って、フレーム10の変位により、質量Mの中心が点Oから軸Yに沿って移動することでテンプ2がアンバランスになり、このアンバランスを正確に調整することができる。
【0023】
テンプ2のアンバランスを調整することで、テンプの慣性モーメントが変化する。従って、テンプ2は、それ自体従来の方法で慣性モーメントを調整するために用いられる慣性ブロックを担持することもできる。
【0024】
図示された調整装置7-10の代替形態として、テンプ2は、その周辺に1又は2以上の調整ネジ、例えば、軸Yに沿って配向された1又は2以上のネジを担持することができ、調整は、より多くの又はより少ないこれらのネジをテンプ2にネジ止めすることによって行われる。
【0025】
図7及び
図8は、本発明の他の実施形態による振動子1’を示しており、ここで、テンプ2の慣性モーメントをできるだけ変更せず、テンプ2によって担持される慣性ブロックを使用してこの慣性モーメントの調整を容易にするために、アンバランスの調整のための装置が振動子の中心に配置されている。ここで、テンプ2は、フェロー2a及び直径方向アーム2bを備える。直径方向アーム2bは、ストリップ5,6の通過を可能にするために、中央部で中断されている。
図7に破線で概略的に示された変形例では、直径方向アーム2bの2つのセグメントは、ストリップ5、6が停止する凹状コネクタ2cによって接続することができる。この場合、ストリップ5、6の交点は、支持体3よりもテンプ2に近くなる。
【0026】
図7及び
図8のこの実施形態では、アンバランスを調整するための装置が、直径方向のアーム2bに取り付けられている。この装置は、直径方向アーム2bの上部に固定され、テンプ2の仮想回転軸を中心とする中心スタッド12を保持する支持体11を備える。アンバランスを調整する装置は更に、支持体11上に配置され、上述の軸Yに沿って延びるスロット14を有する調整要素13を備え、スロット14は、中心スタッド12と、支持体11に打ち込まれた2つのペグ15とによって通過される。中心スタッド12は、調整要素13を弾性的に把持することにより所定位置に保持するために、スロット14を弾性的に変形させるのに十分な大きさの直径を有している。2つのペグ15は、テンプ2のアンバランスを調整するためにこの要素13に十分な力が加えられたときに、調整要素13を軸Yに沿って並進させるように案内する。
【0027】
振動子1,1’が使用されることが意図された時計ムーブメントにおいて、所望の振動の振幅を達成するために、ムーブメントの主ゼンマイの寸法を調整することが可能である。これらの寸法は、主ゼンマイが完全に巻き上げられたときに、振動子1、1’が所望の振幅で振動するように選択することができる。
【0028】
テンプ2-支持体3-振動子1、1’のフレキシブルピボット4の組立体は、例えば、シリコン、酸化物コーティングされたシリコン、ガラス、サファイア、石英、金属ガラス、ニッケル、ニッケル合金、スチール、ベリリウム銅、ニッケル銀などの金属又は合金など、様々な材料で製造することができる。これは、選択した材料に応じて、エッチング(特にディープ反応性イオンエッチング)、LIGA、フライス加工、電解加工、鋳造又は同様のものにより得ることができる。組立体2、3、4は一体部品とすることができる。
【0029】
本発明は、分離した交差ストリップ以外のフレキシブルピボット、特に非別個の交差ストリップ、及び遠隔回転中心(RCC)を有するピボットに適用できることは言うまでもない。
【0030】
更に、フレキシブルピボット4は、高さ方向の剛性を高めるために、弾性ストリップ5,6に加えて、追加の弾性ストリップ、例えばストリップ5,6に重ねられたストリップを備えることができる。一般に、本発明では、軸Yは、フレキシブルピボットの対称軸であり、また、仮想回転軸に垂直な平面における直交投影において、フレキシブルピボットがテンプに接合されている点及びフレキシブルピボットが支持体に接合されている点の対称軸でもある。