(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20241107BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241107BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20241107BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C21D9/46 Z
C22C38/00 301S
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D9/00 Z
(21)【出願番号】P 2022529742
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(86)【国際出願番号】 CN2020132056
(87)【国際公開番号】W WO2021104417
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】201911196554.2
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薛 鵬
(72)【発明者】
【氏名】朱 曉 東
(72)【発明者】
【氏名】閻 博
(72)【発明者】
【氏名】焦 四 海
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/219031(WO,A1)
【文献】特開2009-235492(JP,A)
【文献】特開平05-255758(JP,A)
【文献】特開平01-136931(JP,A)
【文献】国際公開第2019/132039(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/013233(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00- 9/44, 9/50
C21D 9/46- 9/48
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含むことを特徴とする炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の製造方法:
(1) 炭素鋼層ビレットとオーステナイト系ステンレス鋼層ビレットを調製して得る;
(2) ビレットの組み立;
(3) ビレットを1150-1260℃まで加熱し、0.6時間以上保温し、最終圧延温度を850℃以上に制御し、圧延の後に、30-100℃/sの速度で冷却し、巻取り温度を450-600℃に制御することを特徴とする複合圧延;
(4) 冷間圧延;
(5) 最初の焼鈍:焼鈍温度は1050~1150℃で、保持時間は30秒以上であり、その後、室温まで冷却し、冷却過程で900~500℃の温度範囲で急冷を行い、冷却速度を20~200℃/sに制御する;
(6) 2回焼鈍:5℃/s以上の加熱速度で800-950℃の均熱温度に加熱し、10-100秒間保持してから、v1=3-20℃/sの速度で急速冷却開始温度Tまで冷却し、上記の急速冷却開始温度T≧800-10×v1℃、次いで、20~1000℃/sの速度で150~450℃に冷却する;次に、過時効処理を実行し、過時効温度は150~450℃、過時効処理時間は100~400sであって、
前記炭素鋼層は基底層であり、前記オーステナイト系ステンレス鋼は被覆層であって、
前記オーステナイト系ステンレス鋼層ビレットの化学元素の質量パーセント含有量は:C:0.02%~0.15%、Si:0.3%~1.0%、Mn:1.0%~10.5%、Cr:14.0~20.0%、Ni:0.2~14.0%、N≦0.25%、Cu≦0.6%、Mo≦3.0%、残部は、Feと他の不可避不純物であることを特徴とし、
前記炭素鋼層の化学元素の質量パーセント含有量は:C:0.05%~0.35%、Si:0.1%~2.0%、Mn:0.5%~3.0%、Al:0.01%~0.08%および、B≦0.005%、Nb≦0.1%、Ti≦0.15%、V≦0.15%、Cr≦0.6%、Mo≦0.3%からの化学元素の少なくとも一つを含有し、残部は、Feと他の不可避不純物であることを特徴とする、前記炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の製造方法。
【請求項2】
ステップ(4)において、冷間圧延圧下率を40-70%に制御することを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項3】
さらにステップ(7)の平坦化を含むことを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項4】
ステップ(5)において、保温時間は、30-80sであり、900-500℃の温度範囲の冷却速度は、20-180℃/sであることを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項5】
ステップ(6)において、加熱速度は、5-20℃/sであり、v1=5-20℃/sであることを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項6】
ステップ(3)において、保温時間は、0.6-3時間であり、最終圧延温度は、850-920℃であることを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項7】
上記の炭素鋼層は、片面又は両面的に、オーステナイト系ステンレス鋼である被覆層に複合することを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項8】
ビレットの組み立の際、上記の炭素鋼層は、各オーステナイト系ステンレス鋼層との厚さ比は、5-30:1であることを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項9】
ビレットの組み立の際、上記の炭素鋼層は、各オーステナイト系ステンレス鋼層との厚さ比は、7-10:1であることを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項10】
炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板
であって、
前記炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板は、オーステナイト系ステンレス鋼層と炭素鋼層を含み、前記炭素鋼層は基底層であり、前記オーステナイト系ステンレス鋼層は被覆層であり、前記炭素鋼層は片面または両面においてオーステナイト系ステンレス鋼である前記被覆層に複合し、
前記オーステナイト系ステンレス鋼層ビレットの化学元素の質量パーセント含有量は:C:0.02%~0.15%、Si:0.3%~1.0%、Mn:1.0%~10.5%、Cr:14.0~20.0%、Ni:0.2~14.0%、N≦0.25%、Cu≦0.6%、Mo≦3.0%、残部は、Feと他の不可避不純物であることを特徴とし、
前記炭素鋼層の化学元素の質量パーセント含有量は:C:0.05%~0.35%、Si:0.1%~2.0%、Mn:0.5%~3.0%、Al:0.01%~0.08%および、B≦0.005%、Nb≦0.1%、Ti≦0.15%、V≦0.15%、Cr≦0.6%、Mo≦0.3%からの化学元素の少なくとも一つを含有し、残部は、Feと他の不可避不純物であることを特徴とし、
前記炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の引張強度は、780~1700MPaである、炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板。
【請求項11】
上記の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の降伏強度は、500-1400MPaであり、孔食電位は、0.25-0.45Vであり、粒界腐食は、0.25-0.40Raであること
を特徴とする請求項
10に記載された炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼板及びその製造方法に関し、特にオーステナイト系ステンレス鋼層を備える鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去10年間で構造用鋼、特に自動車用構造用鋼が広く使用され、その中でも高強度自動車用構造用鋼が、自動車の軽量化と構造強度向上の主力製品となっている。構造用鋼は主に、さまざまな構造と特性を得るためにさまざまな製造プロセスを制御することによって得られ、その種類には、主に析出強化鋼、マルテンサイト鋼、二相鋼、TRIP鋼(QP鋼)、多相鋼などがあり、それらの強度は、780MPa~1700MPaのさまざまな強度レベルをカバーし、ただし、780MPa~1180MPaの冷間圧延高強度構造用鋼は、かなりの使用性能を達成しているが、使用性能にはまだ緊急に解決しなければならない問題がいくつかある。
【0003】
炭素鋼とする超高強度鋼は、ステンレス鋼よりも表面耐食性が低い。耐食性を高めるために、特別なリン酸塩コーティングプロセス、又は工場でメッキ層の追加が必要である。これらの追加のプロセスにより、コストが増加する。さらに、高強度鋼の強度の増加に伴い、合金元素の添加量も増加し、製造過程中の合金元素の表面集中は、リン酸塩コーティングの性能とめっき性に影響を与え、耐食性を備えた高強度鋼板の製造に不利である。したがって、本発明は、炭素鋼+オーステナイト系ステンレス鋼の圧延複合板を提供し、当該複合板は、オーステナイト系ステンレス鋼層と、鋼板全体の異なる特定の機械的特性の基礎を提供する高強度炭素鋼層を有する。
【0004】
オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性、耐熱性、低温強度、機械的性質に優れていると同時に、プレス加工や曲げ加工などの加工性に優れ、熱処理硬化現象もない。ただし、オーステナイト系ステンレス鋼は準安定ステンレス鋼であり、製造および加工中に加工硬化および析出相転移を起こしやすく、その結果、材料強度が向上し、可塑性が低下し、成形性が低下し、耐食性が低下する。耐食性に優れ、塑性回復力の強いオーステナイト系ステンレス鋼を実現し、プレス加工による硬化応力を解消するために、現在の技術では、主にコールドロール後の焼鈍による軟化を実現する。一般的に使用される焼鈍方法は:焼鈍温度は1050~1150℃、保持時間は30秒以上で、その後室温まで冷却される。
【0005】
構造用高強度炭素鋼の焼鈍曲線はさまざまであり、組成の組み合わせにより、780MPaから1700MPaまでのさまざまな強度レベルを実現できるが、構造用炭素鋼の合金含有量の制限により、オーステナイト化温度は低く、オーステナイト系ステンレス鋼と同じ焼鈍均熱温度を使用すると、結晶粒が粗大になる。同時に、構造用炭素鋼の焼鈍曲線には、オーステナイト系ステンレス鋼を均熱した後の急冷の製造プロセスとは異なり、さまざまな制御される冷却条件が含まれる。このため、炭素鋼層とオーステナイト系ステンレス鋼層を含む圧延複合鋼板には、1回の焼鈍で、機械的特性と耐食性を両立することは困難である。
【0006】
これに基づいて、炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の製造方法は期待され、それが、オーステナイト系ステンレス鋼層の組織や特性を変えることないまま、炭素鋼層の組織や特性を調整でき、そして、高強度炭素鋼+オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の性能を実現する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的の1つは、炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の製造方法を提供することであり、当該炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板は、オーステナイト系ステンレス鋼層と、鋼板全体の異なる特定の機械的特性の基礎を提供する高強度炭素鋼層を有し、当該炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板は、さまざまな強度レベルを持ち、かつ優れた耐食性も備えている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下のステップを含む、上記の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の製造方法を提案する:
(1)炭素鋼層ビレットとステンレス鋼層ビレットを調製して得る;
(2)ビレットの組み立;
(3)複合圧延;
(4)冷間圧延;
(5)最初の焼鈍:焼鈍温度は1050~1150℃で、保持時間は30秒以上であり、その後、室温まで冷却し、冷却過程で900~500℃の温度範囲で急冷を行い、冷却速度を20~200℃/sに制御する。
【0009】
(6)2回焼鈍:5℃/s以上の加熱速度で800-950℃の均熱温度に加熱し、10-100秒間保持してから、v1=3-20℃/s、好ましくは、5-20℃/sの速度で急速冷却開始温度Tまで冷却し、急速冷却開始温度T≧800-10×v1、次いで、20~1000℃/sの速度で150~450℃に冷却する;次に、過時効処理を実行し、過時効温度は150~450℃、過時効処理時間は100~400sである。
【0010】
本発明の製造方法では、ステップ(5)において、焼鈍温度を1050~1150℃に設定する理由は以下である:オーステナイト系ステンレス鋼を1050~1150℃で溶体化焼鈍すると、析出した炭化物は再溶体化され、その後室温まで急速に冷却し、急速冷却プロセスでは冷却速度が速いため、溶体化された炭素は、他の合金元素と結合して沈殿する時間がなく、それによって粒界腐食に対する耐性が向上する。また、オーステナイト系ステンレス鋼の焼鈍温度が1150℃を超えると、結晶粒が粗大になり、粒度レベルが低下し、帯鋼の耐食性が低下する。したがって、上記の考慮に基づいて、ステップ(5)のプロセスパラメータは次のように設定される:焼鈍温度は1050~1150℃で、保持時間は30秒以上であり、その後、室温まで冷却し、冷却過程で900~500℃の温度範囲で急冷を行い、冷却速度を20~200℃/sに制御する。いくつの実施形態において、ステップ(5)の保温時間は、30-80sである。いくつの実施形態において、900-500℃の温度範囲での冷却速度は、20-180℃/sである。ステップ(6)において、二回焼鈍の際の均熱温度は、オーステナイト化温度より低く、かつテンレス鋼層の析出感受性温度の上限より高いため、800~950℃に設定される。かつ、炭化物やσ相の析出を防ぐため、徐冷速度v1を3~20℃/sに設定し、その後、20~1000℃/sの速度で150~450℃に冷却する;その後、溶体化された炭化物とσ相の再析出を避けるために、過時効処理を行い、過時効処理時間は100~400秒である。いくつの実施形態において、ステップ(6)での加熱速度は、5-20℃/sに制御される。
【0011】
さらに、本発明の製造方法では、ステップ(3)において、ビレットを1100-1260℃まで加熱し、0.6時間以上保温し、最終圧延温度を850℃以上に制御し、圧延の後に、30-100℃/sの速度で冷却し、巻取り温度を450-600℃に制御する。いくつの実施形態において、ステップ(3)において、保温時間は、0.6時間~3時間である。いくつの実施形態において、ステップ(3)の最終圧延温度は、850-920℃である。
【0012】
本願の発明者らは、研究を通じて、最終圧延温度が低いほど、巻取り温度が高くなり、粒界には、より多くの析出炭化物およびσ相が析出することを発見した。他の圧延プロセスパラメータが同じである場合、より低い最終圧延温度およびより高い巻取り温度は、炭化物およびσ相を析出させる可能性が高く、そして粒界腐食を引き起こす可能性が高い。そのため、最終圧延温度を高く、巻取り温度を低くするように制御することが必要が有るが、高すぎる最終圧延温度および低すぎる巻き取り温度を安定して制御することができないことを考慮すると、本発明の製造方法において、最終圧延温度は、850℃以上に、圧延の後、30~100℃/sの速度で急冷し、巻取り温度を450~600℃にように制御する。
【0013】
さらに、本発明の製造方法では、ステップ(4)において、冷間圧延圧下率を、40-70%に制御する。
【0014】
また、本発明の製造方法において、ステップ(7)の平坦化も含まれる。
さらに、ビレットの組み立のためのオーステナイト系ステンレス鋼層ビレットの化学元素の質量パーセント含有量は:C:0.02%~0.15%、Si:0.3%~1.0%、Mn:1.0%~10.5%、Cr:14.0~20.0%、Ni:0.2~14.0%、N≦0.25%、Cu≦0.6%、Mo≦3.0%、残部は、Feと他の不可避不純物である。
【0015】
さらに、ビレットの組み立のための炭素鋼層ビレットの化学元素の質量パーセント含有量は:C:0.05%~0.35%、Si:0.1%~2.0%、Mn:0.5%~3.0%、Al:0.01%~0.08%、残部は、Feと他の不可避不純物である。さらに、当該炭素鋼層ビレットは、さらにB、Nb、Ti、V、CrとMoのうちの一つ又は複数の元素を含有し;好ましくに、各化学元素の質量パーセントは:B≦0.005%、Nb≦0.1%、Ti≦0.15%、V≦0.15%、Cr≦0.6%、Mo≦0.3%である。いくつの実施形態において、Tiの質量パーセントは、0.01-0.15%である。
【0016】
さらに、ビレットの組み立の際に、上記の炭素鋼層と各オーステナイト系ステンレス鋼層の厚さの比は、5-30:1、好ましく7-10:1である。
【0017】
なお、本発明は、さらに上記のの製造方法で得られる炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板を提供する。
【0018】
注意する必要があるのは、本発明の技術案では、炭素鋼層は、基底層であり、オーステナイト系ステンレス鋼は、被覆層であり、炭素鋼層は、片面又は両面的に、オーステナイト系ステンレス鋼である被覆層に複合しても良い。
【0019】
さらに、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板において、オーステナイト系ステンレス鋼層の化学元素の質量パーセント含有量は:
C:0.02%~0.15%、Si:0.3%~1.0%、Mn:1.0%~10.5%、Cr:14.0~20.0%、Ni:0.2~14.0%、N≦0.25%、Cu≦0.6%、Mo≦3.0%、残部は、Feと他の不可避不純物である。
【0020】
本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板板において、オーステナイト系ステンレス鋼層の各化学元素の設計原理は以下の通りである:
C:炭素は、オーステナイト相領域を強力に形成、安定化、拡大する元素であり、室温でのオーステナイト構造と強度に重要な役割を果たす;特にNi含有量が比較的少ない場合、Cは、オーステナイト構造の安定化に重要な役割を果たす;ただし、C含有量が高すぎると、鋼の塑性・耐食性に影響を与えるため、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板のオーステナイト系ステンレス鋼層中のCの質量パーセントを、0.02~0.15%に制御される。
【0021】
Si:Siはフェライト形成元素であり、Si含有量が多すぎると、クロムニッケルオーステナイト系ステンレス鋼の耐食性が低下し、固溶体状態の鋼の粒界腐食感受性が向上するので、鋼がオーステナイト構造と室温での耐食性を確保するために、鋼中のSi含有量を制御する必要がある;しかしながら、オーステナイト系ステンレス鋼の製錬工程では、脱酸剤としてSiを使用するため、一定量のSiが含まれている必要がある;そして、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板のオーステナイト系ステンレス鋼層のSiの質量パーセントは、0.3~1.0%に制御されている。
【0022】
Mn:Mnは、弱いオーステナイト形成元素であるが、ステンレス鋼では強いオーステナイト安定化元素であり、Mnが、鋼へのNの溶解度を大幅に向上させることができる;N含有量が多くNi含有量が少ない場合、Niの一部が、Mn、N、Cの複合作用に置き換わり、オーステナイト構造が安定するために、一定量のMn元素が必要となる;しかしながら、Mnは、ステンレス鋼の耐食性に悪影響を及ぼすから、Mn含有量が多すぎると、鋼の耐孔食性と隙間耐食性が低下するので、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板のオーステナイト系ステンレス鋼層のMnの質量パーセントは、1.0~10.5%に制御される。
【0023】
Cr:Crは、ステンレス鋼の最も重要な合金元素であり、ステンレス鋼の耐食性を確保するための最も基本的な元素である;鋼中のCr含有量が増加すると、ステンレス鋼の粒界腐食感受性は低下し、強度は増加するが、塑性と冷間成形特性は低下する;同時に、Crが高すぎると、室温のオーステナイト構造を得るために、それに対応して高いNi当量が必要になる。したがって、上記の事項を考慮すると、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板のオーステナイト系ステンレス鋼層中のCrの質量パーセントは、14.0~20.0%に制御される。
【0024】
Ni:Niは重要なオーステナイト形成および安定化元素であり、ステンレス鋼の不動態皮膜の安定性を促進し、延性-脆性転移温度を低下させ、冷間成形性と溶接性を向上させることができる;同時に、Niは高価な元素でもあり、オーステナイト系ステンレス鋼のコストに重要な影響を及ぼす;したがって、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板のオーステナイト系ステンレス鋼層中のNiの質量パーセントは、0.2~14.0%に制御される。
【0025】
N:Nは、オーステナイト系ステンレス鋼のオーステナイト相領域を形成、安定化、拡大する非常に強力な元素である;溶体化強化により、Nが、オーステナイト系ステンレス鋼の室温および高温強度を大幅に向上させることができ、鋼の塑性靭性を大幅に低下させることはないが、同時に、Nは、オーステナイト系ステンレス鋼の耐酸性腐食性と局所耐食性を向上させることができる;ステンレス鋼へのNの溶解度は限られているため、凝固過程中の皮下細孔の生成を避けるために、Nは、他の元素と協調して溶体化状態で存在することを保証する必要がある;本発明のMnおよびCなどの合金元素の質量パーセントを考慮すると、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板のオーステナイト系ステンレス鋼層は、N≦0.25%に制御される。
【0026】
Cu:Cuは、特に硫酸などの還元媒体において、オーステナイト系ステンレス鋼の防錆性と耐食性を向上させることができ、ステンレス鋼の強度と冷間加工硬化傾向を大幅に低下させる傾向がある;ただし、Niの代わりにMnとNを使用してクロムマンガンオーステナイト系ステンレス鋼にCuを添加すると、オーステナイト系ステンレス鋼の遅延破壊感度は、クロムニッケルオーステナイト系ステンレス鋼よりもはるかに低くなり、かつ鋼中のCu含有量が増えしつつ、オーステナイト系ステンレス鋼の熱可塑性が低下する;したがって、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板のオーステナイト系ステンレス鋼層のCuのパーセントが、0.6%以下に制御する。
【0027】
Mo:Mo元素を添加すると、オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性と高温強度が大幅に向上することができ、特に、1200~1300度の高温耐性を達成する可能性があり、過酷な条件下で使用できる。したがって、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板のオーステナイト系ステンレス鋼層中のMoの質量パーセントは、≦3.0%に制御される。
【0028】
本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板では、不可避不純物である元素を可能な限り低減する必要があるが、技術や製造コストの制限を考慮すると、PやSなどの不可避不純物元素の質量パーセントをP≦0.035%、S≦0.015%の範囲に制御する。Pは鋼中の不純物元素であり、ステンレス鋼の可塑性、靭性、耐食性に悪影響を与えるため、製造時には可能な限り含有量を減らす必要があるので、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板のオーステナイト系ステンレス鋼層には、P≦0.035%に制御される;Sは鋼中の不純物元素であり、ステンレス鋼の高温可塑性、靭性、耐食性に悪影響を与えるため、製造時には可能な限り含有量を減らす必要があるので、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板のオーステナイト系ステンレス鋼層には、S≦0.015%制御される。
【0029】
さらに、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板において、オーステナイト系炭素鋼層の化学元素の質量パーセント含有量は:
C:0.05%~0.35%、Si:0.1%~2.0%、Mn:0.5%~3.0%、Al:0.01%~0.08%、残部は、Feと他の不可避不純物である。
【0030】
C:C元素の添加は、鋼の強度を向上させる上で重要な役割を果たし、ベイナイトまたはマルテンサイ相転移が発生し、相転移強化を産生することを確保する。Cが、合金元素と一緒に、細かく分散した金属炭化物を析出させ、細粒強化および析出強化を生じるが、本願の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の溶接性を考慮すると、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の炭素鋼層のCの質量パーセントは、0.05%~0.35%に制御される。
【0031】
Si:Siはフェライトを強化する元素であり、フェライトの強度を効果的に高めることができる。また、Siは非炭化物を形成する元素であり、等温過程では、Siは、Fe3Cの形成を強力に抑制し、未転移のオーステナイトに炭素を集中することで、オーステナイトの安定性を大幅に向上させ、室温に維持してTRIP効果を生み出すことができる。これに基づき、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板には、Siの質量パーセントは、0.1%~2.0%に制御される。
【0032】
Mn:Mnは炭化物形成元素であり、それが、炭素を溶体化牽引し、パーライトの転移を遅らせ、Bs点を下げ、ベイナイトの転移を抑制し、マルテンサイトの形成ウィンドウには重要な役割を果たす。Mnを添加すると、マルテンサイト転移温度が低下し、残留オーステナイトの含有量が増加し、同時に、Mnは鋼板の靭性にほとんど影響を与えなく、鋼に1.5~2.5質量%のMnを含むと、残留オーステナイトの分解に対する耐性を効果的に向上させることができる。しかしながら、Mnは、Ms点をかなり低下させ、溶接性に悪影響を与えるため、Mnの量は適切である必要があり、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板において、炭素鋼層中のMnの質量パーセントは、0.5%~3.0%に制御される。
【0033】
Al:Alの添加は、脱酸と結晶粒微細化に役割を果たし、Siと同様に、Alも非炭化物形成元素であり、Fe3Cの形成を強力に抑制し、未転移のオーステナイトに炭素を集中することができる。Alの溶体化強化効果は、Siよりも弱いが、本発明の技術的解決策では、シリコンの副作用を低減するために、Al元素を添加することができ、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板には、炭素鋼層のAlの質量パーセントは、0.01%-0.08%に制御される。
【0034】
さらに、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板において、炭素鋼層は、B≦0.005%、Nb≦0.1%、Ti≦0.15%、V≦0.15%、Cr≦0.6%、Mo≦0.3%からの化学元素の少なくとも一つを含有する。
【0035】
B:ホウ素は、鋼の焼入れ性を向上させることができ、その理由としては、オーステナイト転移の過程で、新しい相(フェライト)の核形成が粒子の境界で発生する可能性が最も高いためである。しかし、0.005%を超えるホウ素含有鋼は、熱脆性現象を示す。これに基づき、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板には、炭素鋼層のBの質量パーセントは、B≦0.005%に制御される。
【0036】
Nb:圧延を制御する過程に、Nbのひずみ誘起析出物は、粒子のピン止めとサブグレイン境界を介して、変形したオーステナイトの再結晶温度を大幅に低下させ、核形成粒子を提供し、粒子の微細化に明らかな影響を及ぼす。これに基づき、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板には、炭素鋼層のNbの質量パーセントは、Nb≦0.1%に制御される。
【0037】
Ti:TiはTi-Mo-Cナノ析出物の主要な化合物元素であり、同時に、高温で、Tiはまた、オーステナイト結晶粒の成長を抑制し、高温で結晶粒を微細化するという強い効果を示す。これに基づき、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板には、炭素鋼層のTiの質量パーセントは、Ti≦0.15%に制御される。いくつの実施形態において、Tiの質量パーセントは、0.01-0.15%である。
【0038】
V:Vが圧延相転移の発生を制御した後、オーステナイトに残り、フェライト中にさらに析出し、顕著な析出強化効果をもたらす。これに基づき、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板には、炭素鋼層のVの質量パーセントは、V≦0.15%に制御される。
【0039】
Cr:MnとCrはどちらも炭化物形成元素であり、焼入れ性を考慮すると、強度を確保するために、互いに入れ替えることができる。ただし、Crを添加すると、パーライト転移をより遅らせることができ、ベイナイト転移領域が左にシフトし、かつMs点への還元効果はMnよりも小さい。ただし、低炭素鋼に含まれるNb、Ti、Vなどの炭窒化物生成元素が多すぎると、その後の相転移に影響を与えるため、合金元素の含有量を上限に制御する必要がある。焼入れ性を向上するCr、Moなどの元素は、一定量に達すると溶接性が低下するため、上限を制御する必要もある。これに基づき、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板には、炭素鋼層のCrの質量パーセントは、Cr≦0.6%に制御される。
【0040】
Mo:Moは焼入れ性を大幅に向上させることができる。Moは、炭素を溶体化牽引することで、パーライトの転移を大幅に遅らせるが、その前に析出されたフェライトの析出に対する遅滞効果は少ない。Moが、Bs点を低下する効果は、Crよりも大きいが、Mnより小さいため、Moの、オーステナイトに対する準安定作用もCrより大きい。さらに、Moはナノ析出物の生成に影響を与える最も重要な化合物元素である。Moは、オーステナイトへのTi(C、N)の溶体化度を向上させることができ、固溶体中に大量のTiを保持し、低温転移で分散析出させることができ、より高い強化効果が得られる。
【0041】
低炭素鋼に含まれるNb、Ti、Vなどの炭窒化物生成元素が多すぎると、その後の相転移に影響を与えるため、合金元素の含有量を上限に制御する必要がある。焼入れ性を向上するCr、Moなどの元素は、一定量に達すると溶接性が低下するため、上限を制御する必要もある。これに基づき、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板には、炭素鋼層のMoの質量パーセントは、Mo≦0.3%に制御される。
【0042】
さらに、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板において、炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の引張強度は、780-1710MPa、例えば780-1700MPaである。さらに、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の降伏強度は、500-1400MPaである。さらに、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の孔食電位は、0.25-0.45V、例えば0.29-0.42Vであり、粒界腐食は、0.25-0.40Raである。
【発明の効果】
【0043】
従来技術と比較して、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の製造方法、以下の利点および有益な効果を有する:
本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板は、オーステナイト系ステンレス鋼層を備え、同時に、鋼板全体の異なる特定の機械的特性の基礎を提供する高強度炭素鋼層を有し、その結果、最終的な鋼板は780MPaから1700MPaまでさまざまな強度レベルを持ち、優れた耐食性を備える。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板及びその製造方法をさらに解釈・説明するが、該解釈・説明は本発明の技術方案を不当に制限するものではない。
【0045】
実施例1~6
実施例1~6の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板は、以下のステップによって得られる:
(1)表1に示す化学組成に従って、炭素鋼層ビレットとオーステナイト系ステンレス鋼層ビレットを準備する;
(2)ビレットの組み立;
(3)複合圧延:ビレットを1150-1260℃まで加熱し、0.6時間以上保温し、最終圧延温度を850℃以上に制御し、圧延後30~100℃/sの速度で冷却し、巻取り温度を450~750℃に制御する;
(4)冷間圧延:冷間圧延圧下率を40-70%に制御する;
(5)最初の焼鈍:焼鈍温度は1050~1150℃で、保持時間は30秒以上であり、その後、室温まで冷却し、冷却過程で900~500℃の温度範囲で急冷を行い、冷却速度を20~200℃/sに制御する;
(6)2回焼鈍:5℃/s以上の加熱速度で800-950℃の均熱温度に加熱し、10-100秒間保持してから、v1=3-20℃/sの速度で急速冷却開始温度Tまで冷却し、急速冷却開始温度T≧800-10×v1、次いで、20~1000℃/sの速度で150~450℃に冷却する;次に、過時効処理を実行し、過時効温度は150~450℃、過時効処理時間は100~400sである。
【0046】
いくつの他の実施形態において、ステップ(7)平坦化を含む。
表1に、1~6の炭素鋼のオーステナイト系ステンレス鋼の圧延複合板の各化学元素の質量パーセント比を示す。
【0047】
【0048】
表2-1および表2-2に、例1~6の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の特定のプロセスパラメータを示す。
【0049】
【0050】
【0051】
本願の実施効果を検証し、かつ従来技術と比較してこの場合の優れた効果を証明するために、実施例1~6の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板を試験し、テスト結果を表3に示す。
【0052】
【0053】
表3から、本願の各実施例の炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板の引張強度は、802-1710MPa、降伏強度は、514-1390MPa、伸びは、7.3-15.4%であることがわかる。孔食試験はGB/T 17899-1999ステンレス鋼の孔食電位測定法に従って実施され、粒界腐食性能試験はASTMG108-94に従って実施され、表3から、本願の各実施例の孔食電位は0.29~0.42V、粒界腐食は0.26~0.4Raであり、本願の各実施例の耐食性に優れていることがわかる。
【0054】
つまり、本発明の方法で製造される炭素鋼オーステナイト系ステンレス鋼圧延複合板は、耐食性を確保するオーステナイト系ステンレス鋼層を備え、同時に、鋼板全体の異なる特定の機械的特性の基礎を提供する高強度炭素鋼層を有し、その結果、最終的な鋼板は780MPaから1700MPaまでさまざまな強度レベルを持ち、優れた耐食性を備える。
【0055】
本発明の保護の範囲における従来技術部分は、本出願書類に記載の実施例に限定されるものではなく、本発明の方案と矛盾しない先行技術(先行の特許文献、先行の公開出版物、先行の公開使用などを含むが、それらに限定されない)は、全て本発明の保護の範囲に取り入れられることを説明すべきである。
【0056】
また、本願における各技術特徴の組み合わせは、本願の特許請求の範囲に記載の組み合わせ、若しくは具体的な実施例に記載の組み合わせに限定されるものではなく、互いに矛盾していない限り、本願の記載の技術特徴は全て任意の形態で自由に組み合わせる若しくは結合することができる。
【0057】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、当業者が本発明の開示内容から直接的に導き出すことができる、又は容易に想到することができる類似の変化若しくは変形はいずれも、本発明の保護範囲に含まれることは、明らかである。