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  • 特許-無方向性電磁鋼板およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241107BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20241107BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20241107BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20241107BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/06
C22C38/50
C21D8/12 A
H01F1/147 183
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022537548
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 KR2020017976
(87)【国際公開番号】W WO2021125683
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】10-2019-0171449
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヒョンジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ‐フン
(72)【発明者】
【氏名】イ,スン‐ゴン
(72)【発明者】
【氏名】キム,スン‐イル
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0078251(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0078155(KR,A)
【文献】特開2007-016278(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0070949(KR,A)
【文献】特開2006-241563(JP,A)
【文献】特開2019-183185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.05~1.5%、Sn:0.015~0.1%、P:0.005~0.05%、Ga:0.001~0.004%、Bi:0.0005~0.003%、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、
{118}//ND方位の集合組織の面積分率が11~15%であり、且つ、{111}//ND方位の集合組織の面積分率より高いことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
Cr:0.005~0.03重量%をさらに含み、
下記式1を満足することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
[式1]
0.005≦[Cr]≦0.03×[Al]
(式1で、[Cr]および[Al]は、それぞれ鋼板内のCrおよびAlの含有量(重量%)を示す。)
【請求項3】
Mo:0.001~0.01重量%およびNi:0.005~0.04重量%をさらに含み、
下記式2を満足することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
[式2]
10×[Mo]≦([Sn]+[P])≦4×[Ni]
(式2で、[Mo]、[Sn]、[P]および[Ni]は、それぞれ鋼板内のMo、Sn、PおよびNiの含有量(重量%)を示す。)
【請求項4】
Cu:0.001~0.05重量%、S:0.005重量%以下およびTi:0.005重量%以下をさらに含み、
下記式3を満足することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
[式3]
0.5≦[Cu]/([Ti]+[S])≦7.5
(式3で、[Cu]、[Ti]および[S]は、それぞれ鋼板内のCu、TiおよびSの含有量(重量%)を示す。)
【請求項5】
C:0.005重量%以下およびN:0.005重量%以下をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
電磁鋼板表面から内部方向に酸化層が存在し、酸化層の厚さは10~50nmであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記酸化層は、O:40~70重量%、Al:25~55重量%、P:0.01~0.1重量%、Sn:0.01~0.1重量%、残部はFeおよび不可避な不純物からなることを特徴とする請求項6に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項8】
平均結晶粒径が50~100μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項9】
母材内部に形成された硫化物のうち、直径100nm以上の硫化物の個数が100nm未満の硫化物の個数の3倍以上を満足することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項10】
厚さが0.10~0.30mmであることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項11】
鋼板の幅方向の中心部厚さ(tcenter)と中心部からエッジ部側に垂直に500mm離れた位置での厚さ(t500)との差が10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項12】
重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.05~1.5%、Sn:0.015~0.1%、P:0.005~0.05%、Ga:0.001~0.004%、Bi:0.0005~0.003%、残部はFeおよび不可避な不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を圧下率83%以上に冷間圧延して冷延板を製造する段階、および
前記冷延板を最終焼鈍する段階を含み、
製造された鋼板は{118}//ND方位の集合組織の面積分率が11~15%であり、且つ、{111}//ND方位の集合組織の面積分率より高いことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記熱延板を製造する段階の後、前記熱延板を850~1150℃温度で熱延板焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記最終焼鈍する段階は、水素(H)および窒素(N)を含む雰囲気および400~1000℃範囲の温度で100秒以下に焼鈍することを特徴とする請求項12または請求項13に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、Sn、P、Ga、Biを適切に添加し、集合組織を改善することで、磁性を改善した無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、電気エネルギーを機械的エネルギーに変換させるモータに主に使用されるため、その使用過程で高い効率を発揮するために無方向性電磁鋼板の優れた磁気的特性が要求される。特に近年、環境にやさしい技術が注目されるようになり、電気エネルギー使用量全体の過半を占めるモータの効率を向上させることが非常に重要視されており、このために優れた磁気的特性を有する無方向性電磁鋼板の需要も増加している。
無方向性電磁鋼板の磁気的特性は、主に鉄損と磁束密度で評価する。鉄損は、特定の磁束密度と周波数で発生するエネルギー損失を意味し、磁束密度は、特定の磁場の下で得られる磁化の程度を意味する。鉄損が低いほど同一条件でエネルギー効率が高いモータを製造することができ、磁束密度が高いほどモータを小型化させることができ、銅損を減少させることができるため、低い鉄損と高い磁束密度を有する無方向性電磁鋼板を製造することが重要である。
【0003】
モータの作動条件により考慮すべき無方向性電磁鋼板の特性も変わる。モータに使用される無方向性電磁鋼板の特性を評価する基準として多数のモータが商用周波数50Hzで1.5T磁場が印加された時の鉄損であるW15/50を最も重要に考えている。しかし、多様な用途のモータの全てがW15/50鉄損を最も重要視しているのではなく、主作動条件により他の周波数や印加磁場での鉄損を評価したりもする。特に最近の電気自動車の駆動モータに使用される無方向性電磁鋼板では、1.0Tまたはそれ以下の低磁場と400Hz以上の高周波で磁気的特性が重要な場合が多いため、W10/400などの鉄損で無方向性電磁鋼板の特性を評価する。
無方向性電磁鋼板の磁気的特性を増加させるために通常使用される方法は、Siなどの合金元素を添加する方法である。このような合金元素の添加を通じて鋼の比抵抗を増加させることができるが、比抵抗が高まるほど渦電流損失が減少して全体の鉄損を低くすることができるようになる。反面、Si添加量が増加するほど磁束密度が劣位となり、脆性が増加する短所があり、一定量以上添加すると冷間圧延が不可能となり商業的生産が不可能となる。特に電磁鋼板は、厚さを薄く作るほど鉄損が低減する効果が得られるが、脆性による圧延性低下は致命的な問題となる。追加的な鋼の比抵抗増加のためにAl、Mnなどの元素を添加して磁性に優れた最高級無方向性電磁鋼板を生産することができる。
【0004】
電気自動車の駆動モータ用で使用される無方向性電磁鋼板は、400Hz以上の高周波での鉄損が重要であるが、周波数が高まるほど鉄損で渦電流損失の比率が高まるようになるため、比抵抗を高め、厚さを薄くすることが有利になる。しかし、鋼板厚さが薄くなると冷間圧下率が増加するため、{111}//ND集合組織が発達して磁性が悪くなる原因になり、これを改善するために熱延板厚さを薄くして冷間圧下率を減少させるようになると冷間圧延過程で鋼板の形状を十分に制御することができず、幅方向の厚さ偏差が増加してモータコアのサイズ不良を招くようになる。また鋼板が薄くなるほどコイルの長さが増加するため、連続焼鈍工程の作業時間が増加するようになって焼鈍生産性が低下する問題が発生する。
上記の問題点を解決するために、製鋼工程で不純物を十分に除去して極清浄鋼とする方策や、特定の元素を添加して鋼内介在物および析出物低減を計る磁性改善方策などが試みられてきたが、この方策は商業生産条件の限界により実際適用されるには限界がある。また焼鈍温度や雰囲気制御および圧延時の鋼板変形率を制御して集合組織を改善する方案が提案されているが、製造費用増加、生産性低下および効果微弱などの理由で実際使用される技術は極めて制約的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。より具体的に本発明は、Sn、P、Ga、Biを適切に添加し、集合組織を改善することで、磁性を改善した無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.05~1.5%、Sn:0.015~0.1%、P:0.005~0.05%、Ga:0.001~0.004%、Bi:0.0005~0.003%、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、{118}//ND方位の集合組織の分率が{111}//ND方位の集合組織の分率より高いことを特徴とする。
【0007】
本発明の無方向性電磁鋼板は、Cr:0.005~0.03重量%をさらに含み、下記式1を満足することができる。
[式1]
0.005≦[Cr]≦0.03×[Al]
(式1で、[Cr]および[Al]は、それぞれ鋼板内のCrおよびAlの含有量(重量%)を示す。)
【0008】
本発明の無方向性電磁鋼板は、Mo:0.001~0.01重量%およびNi:0.005~0.04重量%をさらに含み、下記式2を満足することができる。
[式2]
10×[Mo]≦([Sn]+[P])≦4×[Ni]
(式2で、[Mo]、[Sn]、[P]および[Ni]は、それぞれ鋼板内のMo、Sn、PおよびNiの含有量(重量%)を示す。)
【0009】
本発明の無方向性電磁鋼板は、Cu:0.001~0.05重量%、S:0.005重量%以下およびTi:0.005重量%以下をさらに含み、下記式3を満足することができる。
[式3]
0.5≦[Cu]/([Ti]+[S])≦7.5
(式3で、[Cu]、[Ti]および[S]は、それぞれ鋼板内のCu、TiおよびSの含有量(重量%)を示す。)
【0010】
本発明の無方向性電磁鋼板は、C:0.005重量%以下およびN:0.005重量%以下をさらに含むことができる。
電磁鋼板表面から内部方向に酸化層が存在し、酸化層の厚さは10~50nmであることがよい。
酸化層は、O:40~70重量%、Al:25~55重量%、P:0.01~0.1重量%、Sn:0.01~0.1重量%、残部はFeおよび不可避な不純物からなることが好ましい。
【0011】
本発明の無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒径が50~100μmであることがよい。
母材内部に形成された硫化物のうち、直径100nm以上の硫化物の個数が100nm未満の硫化物の個数の3倍以上を満足することができる。
厚さが0.10~0.30mmであることがよい。
鋼板の幅方向の中心部厚さ(tcenter)と中心部からエッジ部側に垂直に500mm離れた位置での厚さ(t500)との差が10μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.05~1.5%、Sn:0.015~0.1%、P:0.005~0.05%、Ga:0.001~0.004%、Bi:0.0005~0.003%、残部はFeおよび不可避な不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を圧下率85%以上に冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階を含むことを特徴とする。
【0013】
熱延板を製造する段階の後、熱延板を850~1150℃温度で熱延板焼鈍する段階をさらに含むことができる。
最終焼鈍する段階は、水素(H)および窒素(N)を含む雰囲気および400~1000℃範囲の温度で100秒以下に焼鈍することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、無方向性電磁鋼板の最適な合金組成を特定することによって、鋼板の幅方向の厚さ偏差が少ない、磁性、形状、生産性に優れた無方向性電磁鋼板を製造することができる。
また、本発明の一実施形態によれば、磁性に優れた無方向性電磁鋼板を供給することにより電気自動車の駆動モータの効率向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためだけに使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及される。
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数の形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるものではない。
【0017】
ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これは直ちに他の部分の上にあるか、またはその間に他の部分が介され得る。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量の分、残部である鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0018】
異なって定義されない限り、ここで使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味に解釈されない。
以下、本発明の実施形態について本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳細に説明する。しかし、本発明は多様な異なる形態に実現することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0019】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.05~1.5%、Sn:0.015~0.1%、P:0.005~0.05%、Ga:0.001~0.004%、Bi:0.0005~0.003%、残部はFeおよび不可避な不純物からなる。
以下、無方向性電磁鋼板の成分限定の理由について説明する。
【0020】
Si:1.5~4.0重量%
シリコン(Si)、材料の比抵抗を高めて鉄損を少なくする役割を果たす。Siが過度に少なく添加された場合、鉄損改善効果が不足することがある。Siを過度に多く添加された場合、材料の脆性が増加して圧延生産性が急激に低下し、磁性に有害な表層部酸化層および酸化物を形成することがある。したがって、Siを1.5~4.0重量%含むことがよい。より具体的に2.0~3.9重量%含むことが好ましい。さらに好ましくは3.2~3.7重量%含むことである。
【0021】
Al:0.1~1.5重量%
アルミニウム(Al)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を少なくする役割を果たす。Alが過度に少なく添加された場合、微細窒化物が形成されたり表層部酸化層が緻密に生成されず、磁性改善効果が得難いことがある。一方、Alが過度に多く添加されると窒化物が過多に形成されて磁性を劣化させ、製鋼と連続鋳造などの全ての工程に問題を発生させて生産性を大きく低下させることがある。したがって、Alは0.1~1.5重量%含むことがよい。より好ましくは0.3~1.0重量%含むことである。
【0022】
Mn:0.05~1.50重量%
マンガン(Mn)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を改善し、硫化物を形成させる役割を果たす。Mnが過度に少なく添加された場合、硫化物が微少に形成されて磁性劣化を起こし、Mnが過度に多く添加された場合、微細なMnSが過多に析出され、磁性に不利な{111}集合組織の形成を助長して磁束密度が急激に減少するようになる。したがって、Mnを0.05~1.50重量%含むことがよい。より好ましくは0.1~1.0重量%含むことである。
【0023】
Sn:0.015~0.100重量%
スズ(Sn)は、鋼板の表面および結晶粒界に偏析して焼鈍時に表面酸化を抑制し、結晶粒界を通じた元素の拡散を妨害し、{111}//ND方位の再結晶を妨害して集合組織を改善させる役割を果たす。Snが過度に少なく添加された場合、上記効果が十分でないことがある。Snが過度に多く添加された場合、結晶粒界の偏析量増加により靭性が低下して磁性改善に比べて生産性が低下する虞がある。したがって、Snを0.015~0.100重量%含むことがよい。より好ましくは0.020~0.075重量%含むことである。
【0024】
P:0.005~0.050重量%
リン(P)は、鋼板の表面および結晶粒界に偏析して焼鈍時に表面酸化を抑制し、結晶粒界を通じた元素の拡散を妨害し、{111}//ND方位の再結晶を妨害して集合組織を改善させる役割を果たす。Pが過度に少なく添加された場合、その効果が十分に発揮されないことがある。Pが過度に多く添加された場合、熱間加工特性が劣化して磁性改善に比べて生産性が低下する虞がある。したがって、Pを0.005~0.050重量%含むことがよい。より好ましくはPを0.007~0.045重量%含むことである。
【0025】
Ga:0.001~0.004重量%
ガリウム(Ga)は、表面と結晶粒界に強く偏析はしないが、微量添加時、SnとPの偏析を促進して再結晶焼鈍時に集合組織の改善効果を極大化させることができ、鋼の軟性を増加させて鋼板形状の制御を容易にさせる。Gaが過度に少なく添加された場合、その効果が十分でないことがある。Gaが過度に多く添加されると鋼板の表面に欠陥を招いて磁性を悪化させる虞がある。したがって、Gaは0.001~0.0040重量%含むことがよい。より好ましくはGaを0.0015~0.0035重量%含むことである。
【0026】
Bi:0.0005~0.003%
ビスマス(Bi)は、SnとPの粒界および結晶粒界の偏析を促進し、圧延時に変形抵抗を減少させる役割を果たす。Biが過度に少なく添加された場合、その効果が十分でないことがある。Biが過度に多く添加されるとむしろ磁性を悪化させる虞がある。したがって、Biを0.0005~0.0030重量%含むことがよい。より好ましくはGaを0.0010~0.0030重量%含むことである。
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、Cr:0.005~0.03重量%をさらに含む。
【0027】
Cr:0.005~0.03重量%
クロム(Cr)は、微細析出物を形成する傾向が強くはないが、表層部のAl系酸化層の形成を妨害し、Cr系炭化物を形成して磁性を悪化させることがある。Crが過度に少なく添加された場合、Al酸化層が過度に厚く形成されたり表面に丸い形態の酸化物または窒化物が形成されて磁性を悪化させることがある。Crが過度に多く添加されると、緻密な酸化層が形成され難くて磁性が悪化する虞がある。したがって、Crをさらに含む場合、0.005~0.03重量%含むことがよい。
より具体的にCrは、下記式1を満足することができる。
[式1]
0.005≦[Cr]≦0.03×[Al]
(式1で、[Cr]および[Al]は、それぞれ鋼板内のCrおよびAlの含有量(重量%)を示す。)
Crの上限をAlと連係して調節することによって、緻密な酸化層を形成することができる。
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、Mo:0.001~0.01重量%およびNi:0.005~0.04重量%をさらに含むことができる。
【0028】
Mo:0.001~0.01重量%
モリブデン(Mo)は、表面と粒界に偏析して集合組織を改善させる役割を果たす。Moが過度に少なく添加された場合、{111}集合組織が発達して磁性が悪化することがある。Moが過度に多く添加されると、SnとPの偏析を抑制して集合組織の改善効果が減少する虞がある。したがって、Moをさらに含む場合、0.001~0.01重量%含むことがよい。
【0029】
Ni:0.005~0.04重量%
ニッケル(Ni)は、鋼の軟性を増加させ、SnとPの偏析を促進する役割を果たす。Niが過度に多く添加されると磁束密度が急激に低下することがある。したがって、Niをさらに含む場合、0.005~0.04重量%含むことがよい。
より具体的にNi、Moは、下記式2を満足することができる。
[式2]
10×[Mo]≦([Sn]+[P])≦4×[Ni]
(式2で、[Mo]、[Sn]、[P]および[Ni]は、それぞれ鋼板内のMo、Sn、PおよびNiの含有量(重量%)を示す。)
式2のように、Sn、Pの含有量により、Mo、Niの添加量を調節することによって、SnとPの粒界偏析による集合組織の改善効果を極大化することができる。
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、Cu:0.001~0.05重量%、S:0.005重量%以下およびTi:0.005重量%以下をさらに含み、下記式3を満足することができる。
【0030】
Cu:0.001~0.05重量%
銅(Cu)は、高温で硫化物を形成することができる元素であり、多量の添加時にはスラブの製造時に表面部の欠陥を招く元素である。適正量の添加時、微細な大きさのCuSまたはMnCuS析出物を粗大化させて磁性を改善させる効果がある。したがって、Cuを含む場合、0.001~0.05重量%含むことがよい。
【0031】
S:0.005重量%以下
硫黄(S)は、微細な析出物であるMnS、CuS、(Mn、Cu)Sを形成して磁気特性を悪化させ、熱間加工性を悪化させるため、少なく管理することがよい。したがって、Sをさらに含む場合、0.005重量%以下で含むことがよい。より好ましくは0.0001~0.005重量%含むことがよい。さらに好ましくは0.0005~0.0035重量%含むことである。
【0032】
Ti:0.005重量%以下
Tiは、鋼内析出物形成傾向が非常に強く、母材内部に微細な炭化物または窒化物または硫化物を形成して結晶粒成長を抑制することによって鉄損を劣化させる。したがって、Ti含有量は各0.004%以下、より好ましくは0.002%以下に管理されなければならない。
Cu、Ti、Sは、下記式3を満足することができる。
[式3]
0.5≦[Cu]/([Ti]+[S])≦7.5
(式3で、[Cu]、[Ti]および[S]は、それぞれ鋼板内のCu、TiおよびSの含有量(重量%)を示す。)
式3のようにCu、Ti、Sの添加量を調節することによって、微細硫化物に対する粗大硫化物の分率を増加させて高周波鉄損を改善することができる。
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、C:0.005重量%以下およびN:0.005重量%以下をさらに含むことができる。
【0033】
C:0.005重量%以下
炭素(C)は、磁気時効を起こし、その他の不純物元素と結合して炭化物を生成して磁気的特性を低下させるため少ないほど好ましく、0.005%以下、より好ましくは0.003重量%以下である。
【0034】
N:0.005重量%以下
窒素(N)は、母材内部に微細なAlN析出物を形成するだけでなく、その他の不純物と結合して微細な析出物を形成して結晶粒成長を抑制して鉄損を悪化させるため低いほど好ましく、0.005重量%以下、より好ましくは0.003重量%以下である。
【0035】
残部は、Feおよび不可避な不純物からなる。不可避な不純物については、製鋼段階、および方向性電磁鋼板の製造工程過程で混入される不純物であり、これは当該分野で広く知られているため、具体的な説明は省略する。本発明の一実施形態で示した上記の合金成分以外の元素の追加を排除するのではなく、本発明の技術思想を害しない範囲内で多様に含まれ得る。追加元素をさらに含む場合、残部であるFeを代替して含む。
不可避な不純物としては、例えば、B、Mg、Zrなどがあり、B:0.002重量%以下、Mg:0.005重量%以下、Zr:0.005重量%以下に管理されなければならない。
【0036】
図1は本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板の断面を示す。図1に示したとおり、電磁鋼板100表面から内部方向に酸化層20が存在する。酸化層20を除いた電磁鋼板100は、電磁鋼板母材10として区分される。
電磁鋼板100は、製造工程で酸素に暴露し、雰囲気中の酸素が鋼板内部に侵入して表面から内部方向に酸素濃度勾配が存在する。
酸化層20と母材10は、酸素含有量が40重量%以上である酸化層20と、酸素含有量が40重量%未満である母材10に区分することができる。このように区分された酸化層20の厚さは10~50nmである。適切な厚さの酸化層20が形成されることによって、焼鈍時に雰囲気中の窒素が母材に拡散することを抑制して微細窒化物の形成が抑制されるため、磁性を向上させることができる。鋼板表面全体で酸化層20の厚さは異なり、本発明の一実施形態で酸化層20の厚さとは、鋼板内での平均厚さを意味する。
【0037】
この酸化層20は、製造工程で酸素の浸透により存在する酸素以外にも、母材10で拡散して濃化されたAl、Sn、Pを多量に含む。具体的に酸化層20は、O:40~70重量%、Al:25~55重量%、P:0.01~0.1重量%およびSn:0.01~0.1重量%を含み、残部のFeおよび不可避な不純物からなる。このようにAl、P、Snが濃化された酸化層が形成されることによって、母材内部に丸い形態の酸化物や微細窒化物が形成されることを抑制して磁性が向上することができる。Oと類似したP、Snの場合、母材から表面方向に濃度勾配が存在する。上記の成分範囲は酸化層20内の平均含有量を意味する。
本発明の一実施形態で{118}//ND方位の集合組織の面積分率が{111}//ND方位の集合組織の面積分率より高くてもよい。{118}//ND方位の集合組織とは、{118}面が鋼板の圧延面(ND面)と5゜以内で平行な集合組織を意味する。{111}//ND方位の集合組織とは、{111}面が鋼板の圧延面(ND面)と5゜以内で平行な集合組織を意味する。面積分率は、圧延面(ND面)と平行な面を基準として測定することができ、母材10内で測定することができる。
【0038】
一般に冷間圧下率が高いほど磁性に有害な{111}//ND方位の集合組織が増えるようになり、{118}//ND方位が減って磁性が劣化するが、本発明では85%以上の高い冷間圧下率でも{118}//ND方位の集合組織の面積分率が{111}//ND方位の集合組織の面積分率より高いことによって結果的に磁性が向上する。
具体的に{118}//ND方位の集合組織の面積分率が11~15%、{111}//ND方位の集合組織の面積分率が5~10%である。本発明の一実施形態よる無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒径が50~100μmである。上記の範囲で無方向性電磁鋼板の磁性に一層優れている。結晶粒径は〔(測定面積÷結晶粒個数)0.5〕で計算する。結晶粒径は、圧延面(ND面)と平行な面を基準に測定することができ、母材10内で測定することができる。具体的に平均結晶粒径が60~90μmである。
【0039】
本発明の一実施形態では合金成分を適切に制御することによって、母材内部に形成された硫化物のうち、直径100nm以上の硫化物の個数が100nm未満の硫化物の個数の3倍以上を満足することができる。具体的に3.3~5.0倍でありうる。このように粗大な硫化物を多数形成することによって、磁壁移動を妨害する微細析出物を抑制して磁性向上に寄与することができる。
鋼板の厚さは0.10~0.30mmである。適切な厚さを有する場合、磁性が向上させることができる。
【0040】
鋼板の幅方向の中心部厚さ(tcenter)と中心部からエッジ部側に垂直に500mm離れた位置での厚さ(t500)との差が10μm以下でありうる。これは後述する製造工程で説明するように、冷間圧延での圧下率を高く設定するためであり、これによって無方向性電磁鋼板から製造されるモータコアの形状品質および収率向上に寄与することができる。
上記のように、本発明の一実施形態で最適な合金組成を提示し、集合組織を改善することで、磁性を向上させることができる。具体的に無方向性電磁鋼板の鉄損(W10/400)が10.5W/kg以下、磁束密度(B50)が1.65T以上になることができる。鉄損(W10/400)は、400HZの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損である。磁束密度(B50)は、5000A/mの磁場で誘導される磁束密度である。より具体的に無方向性電磁鋼板の鉄損(W10/400)が10.0W/kg以下、磁束密度(B50)が1.66T以上でありうる。
【0041】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階を含む。
まず、スラブを加熱する。
スラブの合金成分については、前述した無方向性電磁鋼板の合金成分で説明したため、重複する説明は省略する。無方向性電磁鋼板の製造過程で合金成分が実質的に変動しないため、無方向性電磁鋼板とスラブの合金成分は実質的に同一である。
【0042】
具体的にスラブは、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.05~1.5%、Sn:0.015~0.1%、P:0.005~0.05%、Ga:0.001~0.004%、Bi:0.0005~0.003%、残部はFeおよび不可避な不純物からなる。
その他の追加元素については、無方向性電磁鋼板の合金成分で説明したため、重複する説明は省略する。
【0043】
スラブを熱間圧延する前に加熱することができる。スラブの加熱温度は制限されないが、スラブを1200℃以下に加熱することができる。スラブ加熱温度が過度に高ければ、スラブ内に存在するAlN、MnSなどの析出物が再固溶された後、熱間圧延および焼鈍時に微細析出されて結晶粒成長を抑制し、磁性を低下させる虞がある。
次に、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。熱延板厚さは2~2.3mmである。熱延板を製造する段階で仕上げ圧延温度は800℃以上である。具体的に800~1000℃である。熱延板は700℃以下の温度で巻取りされる。
【0044】
熱延板を製造する段階の後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含む。この時、熱延板焼鈍温度は850~1150℃である。熱延板焼鈍温度が過度に低ければ、組織が成長しないか微細に成長して冷間圧延後の焼鈍時に磁性に有利な集合組織を得ることが容易でない。焼鈍温度が過度に高ければ磁結晶粒が過度に成長し、板の表面欠陥が過多になることがある。熱延板焼鈍は、必要に応じて磁性に有利な方位を増加させるために行われるものであり、省略も可能である。焼鈍された熱延板を酸洗することができる。
次に、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。冷間圧延は0.1mm~0.3mmの厚さに最終圧延する。冷間圧延する段階で圧下率を85%以上に調節することができる。より具体的に圧下率は85~95%である。圧下率が過度に低い場合、鋼板幅方向への厚さ差が発生する虞がある。
【0045】
次に、冷延板を最終焼鈍する。冷延板を焼鈍する工程で焼鈍温度は、通常無方向性電磁鋼板に適用される温度であれば大きく制限はない。無方向性電磁鋼板の鉄損は、結晶粒サイズと密接に関連しているため、400~1000℃であれば適当である。また焼鈍時間は100秒以下に短時間焼鈍することができる。
焼鈍雰囲気は、水素(H)および窒素(N)を含む雰囲気で焼鈍することができる。具体的に水素5~50体積%および窒素95~50体積%を含む雰囲気で焼鈍する。
【0046】
最終焼鈍過程で平均結晶粒粒径が50~100μmになることができ、前段階である冷間圧延段階で形成された加工組織が全て(99%以上)再結晶される。
最終焼鈍後、絶縁被膜を形成することができる。前記絶縁被膜は、有機質、無機質および有機-無機複合被膜で処理され、その他の絶縁が可能な被膜剤で処理することも可能である。
以下、実施形態を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施形態は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がこれに限定されるのではない。
【0047】
実施例1
表1および表2並びにCu:200ppm、残部はFeおよび不可避な不純物からなる成分でスラブを製造した。これを1150℃で加熱して830℃の仕上げ温度で熱間圧延して、板厚さ2.3mmの熱延板を製造した。熱間圧延された熱延板は、1030℃で100秒間熱延板焼鈍後、冷間圧延して厚さを表3のように作って950℃で88秒間再結晶焼鈍を施した。
各試片に対する酸化層の厚さ、関係式1および2の満足の有無、酸化層Al、P、Snの含有の有無、平均結晶粒直径、{118}//NDと{111}//ND方位の面積分率、W10/400鉄損、B50磁束密度を表3および表4に示した。
【0048】
酸化層の厚さは、試片をFIBで加工して滑らかな断面を製造し、これをTEM高倍率に撮影して母材表層の10地点以上で酸化層の厚さを測定した平均値を示した。この時、TEM-EDS測定機能を利用して母材表面酸化層の化学組成を面積分析してAl、P、Snが同時に0.5重量%以上検出されると酸化層に当該元素が含まれていると判断した。結晶粒径は試片の圧延垂直方向(TD方向)断面を研磨後にエッチングし、光学顕微鏡で結晶粒が1500個以上含まれるように十分な面積を撮影して、〔(測定面積÷結晶粒個数)0.5〕で計算した。
集合組織は、試片の圧延面法線方向(ND方向)をEBSDで測定し、各試片当たりの測定面積は100mm以上、ステップ サイズ(step size)は2μmの条件を適用した。V118は、全体測定面積においてND面が{118}面に平行な方位を有する測定面積の分率であり、V111は、全体測定面積においてND面が{111}面に平行な方位を有する測定面積の分率であり、誤差角は同一に5゜を適用した。
【0049】
磁束密度、鉄損などの磁気的特性は、それぞれの試片に対して幅60mm×長さ60mm×枚数5枚の試片を切断して単板試験器(Single sheet tester)で圧延方向と圧延垂直方向を測定し、その平均値を示した。この時、W10/400は、400Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損であり、B50は、5000A/mの磁場で誘導される磁束密度を意味する。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
表1~表4に示したとおり、合金成分および集合組織が適切に制御されたA3、A4、B3、B4、C3、C4、D3、D4、E3、E4、F4の場合、磁性に優れていることを確認できる。
反面、合金成分または集合組織が適切に制御されていないA1、A2、B1、B2、C1、C2、D1、D2、E1、E2、F1、F2、F3は、磁性が劣位にあることを確認できる。
また、A3、A4、B3、B4、C3、C4、D3、D4、E3、E4、F4の場合、酸化層の厚さ、酸化層内のAl、P、Snが適切に濃縮され、磁性に優れた反面、A1、A2、B1、B2、C1、C2、D1、D2、E1、E2、F1、F2、F3は、酸化層の厚さが適切に形成されないか、酸化層内にAl、P、Snが適切に濃縮されず、磁性が劣位にあることを確認できる。
【0055】
実施例2
表5および表6に示した合金組成、に加えて、C:20ppm、N:20ppm、Cr:200ppm、Mo:20ppm、残部はFeおよび不可避な不純物からなる成分でスラブを製造した。これを1170℃で再加熱し860℃の仕上げ温度で熱間圧延して、表7に示す冷間圧下率で圧延することにより多様な板厚さの熱延板を製造した。熱間圧延された熱延板は、1020℃で80秒間熱延板焼鈍後、冷間圧延してそれぞれの厚さを表7のように作製した。これを最高温度960℃で表7に表記した時間だけ最終再結晶焼鈍を施して1100mm幅を有するコイルを製造した。
【0056】
各試片に対する冷間圧下率、最終焼鈍時間、関係式3の満足の有無、結晶粒径、粗大硫化物と微細硫化物の個数比率、幅方向の厚さ偏差、W10/400鉄損、B50磁束密度を表7および表8に示した。冷間圧下率は〔(熱延板厚さ-冷延板厚さ)/熱延板厚さ〕の式で計算した。最終焼鈍時間は、連続焼鈍炉で焼鈍する時、雰囲気温度が400℃以上の区間を通過する時間を意味する。粗大硫化物と微細硫化物の個数比率は、TEMレプリカ法で試片を準備し、2500μm以上の面積に対して全ての硫化物の直径と個数を測定して、直径100nm以上の硫化物の個数を直径100nm未満の硫化物の個数で割った値である。tcenter-t500は、幅方向の中心部の厚さ測定値と幅方向中心部500mm位置の厚さ測定値との差を示した。磁気的特性は、実施例1と同様な方法で単板試験器(Single sheet tester)を利用して測定した。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
試片番号A11、A12、B11、B12、C11、C12は、成分含有量、微細組織特性および製造方法の全てが本発明の範囲を満足しており、結晶粒径、硫化物サイズ、幅方向の厚さ偏差および磁気的特性の全てが秀でた値を示した。
一方、A5~8、B5~8、C5~8の場合には、圧下率が不十分であったため幅方向の厚さの偏差が過度になり、A9とC10は、GaとBiの含有量が少ないため十分に圧下率は高いにも拘らず厚さ偏差がひどく、板形状が良くなかった。
A6、A10、C5、C9は、Cu含有量が本発明の範囲を逸脱するため、硫化物が十分に粗大化されず、結晶粒サイズが小さく、磁気的特性が良好でなかった。
B5、B6、B9、B10は、GaまたはBi含有量が過度に多いため、偏析が過剰になり、表面の欠陥、硫化物の微細化、結晶粒の成長悪化が発生して磁気的特性が劣位であった。
【0062】
本発明は、前記実施形態に限定されるのではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態で実施可能であることを理解できるはずである。したがって、上記の実施形態は全ての面で例示的なものであり、限定的なものではないことを理解しなければならない。
図1