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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241107BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20241107BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20241107BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 A
H01F1/147 175
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022537553
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(86)【国際出願番号】 KR2020018616
(87)【国際公開番号】W WO2021125862
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】10-2019-0170755
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,セ イル
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ヒョンウ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-125134(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027445(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0073222(KR,A)
【文献】特開2001-271147(JP,A)
【文献】特開2010-174376(JP,A)
【文献】特開2017-057462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:0.10~0.50%、C:0.010%以下(0%を除く)、Mn:0.03~3%、P:0.005~0.20%、S:0.0010~0.020%、Al:0.7%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)およびCu:0.02~0.06%を含み、
CaおよびMgをそれぞれ単独またはその合量として0.0001~0.005重量%含み、
SbおよびSnをそれぞれ単独またはその合量として0.02~0.20重量%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、
圧延方向の磁束密度B50Lと、圧延方向と90度の角度をなす方向の磁束密度B50Cとの平均が1.76T以上であり、圧延方向の磁束密度B50Lと、圧延方向と45度の角度をなす方向の磁束密度B50Dとの比(B50L/B50D)が1.07以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
Mg:0.0001~0.003重量%を含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
Sn:0.02~0.1重量%およびSb:0.001~0.1重量%を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
Ni:0.05重量%以下をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
平均結晶粒の粒径が13~100μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
重量%で、Si:0.10~0.50%、C:0.010%以下(0%を除く)、Mn:0.03~3%、P:0.005~0.20%、S:0.0010~0.020%、Al:0.7%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)およびCu:0.02~0.06%を含み、CaおよびMgをそれぞれ単独またはその合量として0.0001~0.005重量%含み、SbおよびSnをそれぞれ単独またはその合量として0.02~0.20重量%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなるスラブを加熱する段階、
前記スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および
前記冷延板を最終焼鈍する段階を含み、
製造された無方向性電磁鋼板は、圧延方向の磁束密度B50Lと、圧延方向と90度の角度をなす方向の磁束密度B50Cとの平均が1.76T以上であり、圧延方向の磁束密度B50Lと、圧延方向と45度の角度をなす方向の磁束密度B50Dとの比(B50L/B50D)が1.07以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延板の厚さは、2.0~3.5mmであることを特徴とする請求項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記冷延板の厚さは、0.3~1.0mmであることを特徴とする請求項又はに記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
無方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、Cuが添加された鋼成分において、SおよびPの偏析により磁性に有利なフェライト集合組織を多数形成することによって、磁束密度を向上させた無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、モータ、発電機などの回転機器と小型変圧器などの静止機器において鉄心用材料として用いられ、電気機器のエネルギー効率を決定するのに重要な役割を果たす。
最近、モータの効率規制強化で高効率モータの使用が大きく増加するようになった。このようなモータの効率を向上させるためには、鉄損を低くしたり、銅損を低くしなければならない。これら2つの方法はいずれもコア素材である電磁鋼板の磁性が大きく影響を及ぼしうる。これによって、モータの製作会社は既存の鉄損の高い電磁鋼板の代わりに鉄損が低い電磁鋼板を用いる傾向にある。
【0003】
銅損の低減のためには、設計磁束密度を既存より低くしたり、設計磁束での励磁電流を低くする方法が使用されるが、後者の方法を使用するためには、電磁鋼板の磁束密度を向上させる必要がある。
特に、磁束密度が高い電磁鋼板の場合、トルクを向上させることができるというメリットがあり、on/offの頻繁なモータの場合、大きな出力を速い時間で出すことができるというメリットがある。
磁束密度が高い電磁鋼板としては、例えば、Siの含有量を低くし、Niを多量添加した無方向性電磁鋼板が知られている。しかし、Niの添加によってオーステナイトの安定温度が低くなるため、フェライト相で熱処理可能な温度が低くなる。これによって、鉄損および磁性に有利な高温焼鈍が不可能となる。また、比抵抗増加元素であるSiの含有量が低くて鉄損が高くなるという問題がある。そのため、製造費用の上昇をもたらさずに低い鉄損を有しかつ磁束密度を高めた無方向性電磁鋼板の開発が必要である。
【0004】
また、モータの回転時には、励磁方向が板面内で回転するが、一般に圧延方向が最も良い磁性を示し、圧延方向から45度の方向で最も悪い磁性を示す。
そのため、圧延方向および圧延の対角線方向の磁気特性がすべて優れているのが、圧延方向のみ優れた電磁鋼板よりモータの効率の向上に極めて有利であるだけでなく、2つの方向での磁性の差が小さくて、方向別の磁性の差が小さい方が、回転体に基づくモータの場合に好まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することであり、より詳しくは、Cuが添加された鋼成分において、SおよびPの偏析により磁性に有利なフェライト集合組織を多数形成することによって、磁束密度を向上させた無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:1.5%以下、C:0.01%以下(0%を除く)、Mn:0.03~3%、P:0.005~0.2%、S:0.001~0.02%、Al:0.7%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)およびCu:0.02~0.06%を含み、CaおよびMgをそれぞれ単独またはその合量として0.0001~0.005重量%含み、SbおよびSnをそれぞれ単独またはその合量として0.02~0.2重量%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする。
【0007】
本発明の無方向性電磁鋼板は、Mg:0.0001~0.003重量%を含むことができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、Sn:0.01~0.1重量%およびSb:0.001~0.1重量%を含むことができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、Ni:0.05重量%以下をさらに含むことができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒の粒径が13~100μmであってもよい。
本発明の無方向性電磁鋼板は、圧延方向の磁束密度B50Lと、圧延方向と90度の角度をなす方向の磁束密度B50Cとの平均が1.76T以上であり、圧延方向の磁束密度B50Lと、圧延方向と45度の角度をなす方向の磁束密度B50Dとの比(B50L/B50D)が1.07以下であってもよい。
【0008】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:1.5%以下、C:0.01%以下(0%を除く)、Mn:0.03~3%、P:0.005~0.2%、S:0.001~0.02%、Al:0.7%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)およびCu:0.02~0.06%を含み、CaおよびMgをそれぞれ単独またはその合量として0.0001~0.005重量%含み、SbおよびSnをそれぞれ単独またはその合量として0.02~0.2重量%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなるスラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階を含むことを特徴とする。
熱延板の厚さは、2.0~3.5mmであってもよい。
冷延板の厚さは、0.3~1.0mmであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無方向性電磁鋼板は、Cuが添加された鋼成分において、SおよびPの偏析により磁性に有利なフェライト集合組織を多数形成することによって、磁束密度を向上させることができる。
また、磁束密度の異方性を向上させることができる。
さらに、本発明の無方向性電磁鋼板は、高効率モータあるいは、高出力、高トルク特性のモータ、発電機のコア材料などに多様に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで使用される専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるわけではない。
ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これはまさに他の部分の上にあるか、その間に他の部分が伴ってもよい。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
他に定義しないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。
【0011】
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施例において、鋼成分に追加元素をさらに含むとの意味は、追加元素の追加量だけ、残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
以下、本発明の実施例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0012】
本発明の一実施例では、Cuが添加された鋼成分において、SおよびPの偏析により磁性に有利なフェライト集合組織を多数形成することによって、無方向性電磁鋼板の磁束密度を向上させる。
【0013】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:1.5%以下、C:0.01%以下(0%を除く)、Mn:0.03~3%、P:0.005~0.2%、S:0.001~0.02%、Al:0.01%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)およびCu:0.02~0.3%を含み、CaおよびMgをそれぞれ単独またはその合量として0.0001~0.005重量%含み、SbおよびSnをそれぞれ単独またはその合量として0.001~0.2重量%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなる。
まず、無方向性電磁鋼板の成分限定の理由から説明する。
【0014】
Si:1.50重量%以下
シリコン(Si)は、鋼の固有の抵抗を高め、鉄損を低減させるのに有効な元素で、多量添加するほど良いが、鋼中の鉄原子の代わりにBCC構造を形成する元素で磁束密度を劣化させる主な元素である。Siが多量添加される場合、飽和磁束が大きく減少し、これによってB50磁束密度も劣ることがある。したがって、Siを前述した範囲で含むことができる。さらに具体的には、Siを1.00重量%以下含むことができる。さらに詳しくは、Siを0.10~0.50重量%含むことができる。
【0015】
C:0.0100重量%以下
炭素(C)は、磁気時効を起こして鉄損が大きく増加する元素である。したがって、Cを0.0100重量%以下含むことができる。さらに具体的には、Cを0.005重量%以下さらに含むことができる。さらに詳しくは、Cを0.0010~0.0050重量%含むことができる。
【0016】
Mn:0.03~3.00重量%
マンガン(Mn)は、熱間圧延時の脆性を防止するために、Cuの添加量を考慮して添加する必要がある。Mnが過度に少なく含まれると、熱間圧延時の脆性による問題が発生しうる。Mnが過度に多く含まれると、飽和磁束密度が低下し、鋼中のFeの比率が減少して飽和磁束密度が低下する。したがって、Mnを前述した範囲で含むことができる。さらに具体的には、Mnを0.05~1.00重量%含むことができる。さらに詳しくは、Mnを0.10~0.50重量%含むことができる。
【0017】
P:0.005~0.20重量%
リン(P)は、Cu、Sと一緒に作用して、鋼のフェライト組織での集合組織を改善し、磁束密度を高める効果がある。Pが過度に少なく含まれると、前述した効果が適切に発現しないことがある。Pが過度に多く含まれると、Pが鋼中に単独で析出して磁束密度に劣り、また、鋼の脆性が極大化されて、鋼を圧延しにくくなりうる。したがって、前述した範囲でPを含むことができる。さらに具体的には、Pを0.03~0.15重量%含むことができる。さらに詳しくは、Pを0.05~0.10重量%含むことができる。
【0018】
S:0.0010~0.0200重量%
硫黄(S)は、表面および粒界の偏析する元素である。Sは、焼鈍中に表面偏析による集合組織の発達に影響を与えて、磁束密度の向上と異方性を低下させるのに役立つ元素である。Sが過度に少なく含まれる時、前述した効果が適切に発現しないことがある。Sが過度に多く含まれる時、MnS、CuSなどの硫化物を多量形成し、この硫化物によって粒子成長が阻害されることがある。結果的に、鉄損が増大しうる。したがって、前述した範囲でSを含むことができる。さらに具体的には、Sを0.00150~0.0100重量%含むことができる。さらに詳しくは、Sを0.0020~0.0050重量%含むことができる。
【0019】
Al:0.700重量%以下
アルミニウム(Al)は、鋼の固有の抵抗を高め、鉄損を低減させるのに有効な元素であり、フェライト安定化元素で添加量に応じて高温でもオーステナイトへの相変態を防止可能で有用な元素であり、Siと同等程度に鋼板の比抵抗を大きくする元素である。ただし、Alが過度に多く添加されると、飽和磁束が大きく減少して、モータの製作後、駆動時に励磁実効電流が顕著に増大しうる。したがって、前述した範囲でAlを含むことができる。より具体的には、Alを0.100重量%以下含むことができる。より詳しくは、Alを0.005重量%以下含むことができる。
【0020】
N:0.0050重量%以下
窒素(N)は、窒化物を形成して、粒子成長を阻害し、鉄損を増加させる有害な元素である。したがって、Nを0.0050重量%以下含むことができる。さらに具体的には、Nを0.0030重量%以下含むことができる。
【0021】
Cu:0.020~0.060重量%
銅(Cu)は、熱間圧延後のコイリング時に結晶成長を円滑にする。また、表面と結晶粒界でのSnとSおよびPの偏析により磁束密度を向上するのに影響を与える。また、最終焼鈍でSと結合して粗大な硫化物を形成することによって、微細なMnSによる鉄損の劣位を抑制して、磁束密度が向上し、鉄損は低減されて、磁性に優れた電磁鋼板の製造が可能になる。Cuが過度に少なく含まれる時、前述した効果が適切に発現しないことがある。Cuが過度に多く含まれる時、高温でホットショートニング欠陥をもたらすことがあり、鋼中のCu2次相を形成させることによって、磁束密度が劣化しうる。したがって、前述した範囲でCuを含むことができる。さらに具体的には、Cuを0.020~0.050重量%含むことができる。
この時、Cuは、最も多く使用される金属元素の1つで、鉄鋼の原料であるスクラップから混入するか、合金元素として添加される。
【0022】
CaおよびMgそれぞれ単独またはその合量:0.0001~0.005重量%
カルシウム(Ca)は、硫化物および酸化物を形成する元素である。Caを添加時に、硫化物を粗大化して粒子成長を促進させることができる。Ca、Mgを過度に少なく含む時、前述した効果が適切に発現しないことがある。Caを過度に多く含む時、鋼中のCaおよび酸素と結合して析出物を形成して結晶成長速度を鈍化させ、これによって、Pによる焼鈍中に集合組織制御効果を抑制する問題が発生しうる。したがって、Caは、Mgと共に、前述した範囲で添加可能である。さらに具体的には、Caを含む場合、Caを0.0005~0.005重量%含むことができる。さらに詳しくは、Caを0.0005~0.0015重量%含むことができる。
【0023】
マグネシウム(Mg)は、Cu、SおよびP添加鋼での焼鈍中の作用がCaと類似している。つまり、Mgを添加時に、硫化物を粗大化して粒子成長を促進させることができる。Mg、Caを過度に少なく含む時、前述した効果が適切に発現しないことがある。Mgを過度に多く添加する時、Pによる焼鈍中に集合組織制御効果を抑制することができる。したがって、Mgは、Caと共に、前述した範囲で添加可能である。さらに具体的には、Mgを含む場合、Mgを0.0001~0.003重量%含むことができる。さらに詳しくは、Mgを0.0005~0.002重量%含むことができる。
【0024】
Caは、Mgと作用が類似しているので、これらを1つの元素として取り扱い、単独で含む場合、そのそれぞれ、または同時に含む場合、その合量として0.0001~0.005重量%含むことができる。
つまり、Caを単独で含む場合、Caを0.0001~0.005重量%含むか、Mgを単独で含む場合、Mgを0.0001~0.005重量%含むか、CaおよびMgを同時に含む場合、CaおよびMgの合量として0.0001~0.005重量%含むことができる。
【0025】
SbおよびSnそれぞれ単独またはその合量:0.02~0.2重量%
アンチモン(Sb)とスズ(Sn)は、すべて粒界偏析元素であり、焼鈍中に結晶成長による集合組織を制御して、磁束密度を向上させる効果がある。SbおよびSnを過度に少なく含む時、前述した効果が適切に発現しないことがある。特に、鋼中のCuが添加される鋼において、粒界で相互間の作用によって磁性を大きく向上させる集合組織を誘導し、結晶成長を有利にする効果がある。ただし、SbおよびSnを過度に多く含む時、結晶粒界に偏析して靭性を低下させて、磁性改善対比の生産性が低下しうる。
SbおよびSnは、作用が類似しているので、これらを1つの元素として取り扱い、単独で含む場合、そのそれぞれ、または同時に含む場合、その合量として0.02~0.2重量%含むことができる。
つまり、Sbを単独で含む場合、Sbを0.02~0.2重量%含むか、Snを単独で含む場合、Snを0.02~0.2重量%含むか、SbおよびSnを同時に含む場合、SbおよびSnの合量として0.001~0.2重量%含むことができる。
さらに具体的には、Snを0.020~0.100重量%含み、同時にSbを0.0001~0.100重量%含むことができる。
【0026】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、Ni:0.05重量%以下をさらに含むことができる。
Ni:0.05重量%以下
ニッケル(Ni)は、飽和磁束密度を高める元素として知られている。本発明の一実施例では、Cu、S、Pの添加によって飽和磁束密度の向上を十分に達成することができ、Niの添加はむしろ結晶粒の成長が抑制されて、鉄損が低く、磁性に不利な集合組織が形成される問題が発生しうる。したがって、Niをさらに含む場合、0.05重量%以下含むことができる。さらに具体的には、Niを0.02重量%以下含むことができる。
【0027】
その他の不純物
前述した元素以外にも、不可避に混入する不純物が含まれる。残部は鉄(Fe)であり、前述した元素以外の追加元素が添加される時、残部の鉄(Fe)を代替して含む。
不可避に添加される不純物は、Cr、Zr、Mo、Vなどになってもよい。
Crは、0.05重量%以下含むことができる。Cu、Ni、Crは、不純物元素と反応して微細な硫化物、炭化物および窒化物を形成して磁性に有害な影響を及ぼすので、これらの含有量をそれぞれ0.05重量%以下に制限する。
また、Zr、MoおよびVのうちの1種以上をそれぞれ0.01重量%以下さらに含むことができる。Zr、Mo、Vなども強力な炭窒化物形成元素であるため、できるだけ添加されないことが好ましく、それぞれ0.01重量%以下で含有されるようにする。
【0028】
前述したように、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、合金成分として、適切なCu、S、P、Ca、Mgを含み、適切な大きさおよび密度の硫化物が形成される。この硫化物は、粒子成長を促進させることができる。窮極的に無方向性電磁鋼板の磁性および異方性を向上させることができる。
電磁鋼板の微細組織内において平均結晶粒径は、13.0~100.0μmであってもよい。結晶粒径が過度に小さければ、履歴損が良く増加して鉄損が悪化する。また、微細析出物と偏析による効果で磁束密度改善のためには適切な結晶粒径を有することが好ましい。ただし、結晶粒径が過度に大きい場合、焼鈍後にコーティングした製品において、打抜時に加工に問題がありうる。さらに具体的には、平均結晶粒径は、13.0~40.0μmであってもよい。
無方向性電磁鋼板をなす結晶粒は、冷間圧延工程で加工された未再結晶組織が最終焼鈍工程で再結晶された再結晶組織からなっており、再結晶された組織が99体積%以上である。
【0029】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、前述したように、磁性および異方性に優れている。
具体的には、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、5000A/mの磁場で誘導される磁束密度(B50)において、圧延方向(RD方向)の磁束密度B50Lと、圧延方向と90度の角度をなす方向(TD方向)の磁束密度B50Cとの平均が1.76T以上であり、圧延方向の磁束密度B50Lと、圧延方向と45度の角度をなす方向の磁束密度B50Dとの比(B50L/B50D)が1.07以下であってもよい。さらに具体的には、B50LとB50Cの平均が1.78~1.85Tであり、(B50L/B50D)が1.00~1.05であってもよい。
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、鉄損にも優れている。具体的には、50Hzの周波数で1.5Tの磁束密度を誘起した時の鉄損(W15/50)が5.5W/kg以下であってもよい。
【0030】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:1.5%以下、C:0.01%以下(0%を除く)、Mn:0.03~3%、P:0.005~0.2%、S:0.001~0.02%、Al:0.7%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)およびCu:0.02~0.06%を含み、CaおよびMgをそれぞれ単独またはその合量として0.0001~0.005重量%含み、SbおよびSnをそれぞれ単独またはその合量として0.001~0.2重量%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなるスラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階を含むことができる。
以下、各段階別に具体的に説明する。
【0031】
まず、スラブを加熱する。スラブ中の各組成の添加比率を限定した理由は、前述した無方向性電磁鋼板の組成限定の理由と同一であるので、繰り返しの説明を省略する。後述する熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍などの製造過程でスラブの組成は実質的に変動しないので、スラブの組成と無方向性電磁鋼板の組成が実質的に同一である。
スラブは、転炉や脱ガス処理装置などにより、好適な成分組成の鋼を溶製し、連続鋳造や粗塊-粉塊圧延などで製造することができる。
スラブを加熱炉に装入して、1,100~1,250℃に加熱する。1,250℃を超える温度で加熱時、スラブ中に存在するAlN、MnSなどの析出物が再固溶された後、熱間圧延時に微細析出して結晶粒成長を抑制し、磁性を低下することがある。
スラブが加熱されると、2.0~3.5mmに熱間圧延を実施し、熱間圧延された熱延板を巻き取る。熱間圧延時、仕上圧延での仕上圧延は、フェライト相領域で終了する。また、熱間圧延時、Si、Al、Pなどのフェライト相拡張元素を多量添加するか、フェライト相を抑制する元素であるMn、Cなどを少なく含有されるようにする。このようにフェライト相で圧延すると、集合組織中で{100}面が多く形成され、これによって磁性を向上させることができる。
【0032】
熱延板を製造する段階の後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含むことができる。この時、熱延板焼鈍温度は、950~1,200℃であってもよい。熱延板焼鈍温度が過度に小さければ、組織が成長しなかったり、微細に成長して磁束密度の上昇効果が少なく、焼鈍温度が過度に高ければ、磁気特性がむしろ低下し、板形状の変形によって圧延作業性が悪くなりうる。熱延板焼鈍は、必要に応じて磁性に有利な方位を増加させるために行われるものであり、省略も可能である。
【0033】
次に、熱延板を酸洗し、所定の板厚さとなるように冷間圧延する。熱延板の厚さに応じて異なって適用可能であるが、50~95%の圧下率を適用して、最終厚さが0.3~1.0mmとなるように冷間圧延することができる。冷間圧延は、1回の冷間圧延によって実施したり、あるいは必要に応じて中間焼鈍を間におく2回以上の冷間圧延を行って実施したりすることも可能である。
冷間圧延された冷延板は、最終焼鈍(冷延板焼鈍)する。冷延板を最終焼鈍する工程で、焼鈍時の均熱温度は、800~1,150℃とする。
冷延板の焼鈍温度が過度に低い場合には、低鉄損を得るための十分な大きさの結晶粒を得にくいことがある。焼鈍温度が過度に高い場合、焼鈍中の板状が均一でなく、析出物が高温で再固溶された後、冷却中に微細に析出して磁性に悪い影響を及ぼすことがある。
最終焼鈍された鋼板は、絶縁被膜処理される。絶縁層の形成方法については、無方向性電磁鋼板技術分野にて広く知られているので、詳細な説明は省略する。具体的には、絶縁層形成組成物として、クロム系(Cr-type)や無クロム系(Cr-free type)のいずれでも制限なく使用可能である。
【0034】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
転炉で吹錬した溶鋼を脱ガス処理して、重量%で、下記表1および表2および残部はFeおよび不可避不純物からなる鋼を溶製した後、連続鋳造してスラブを製造した。スラブを1200℃で1時間保熱する再加熱を行った後、仕上圧延温度860℃で表3にまとめられた厚さに熱間圧延して熱延板を製造した。製造された各熱延板は、700℃の温度で巻き取った後、大気中で60分の焼鈍が行われるようにして、コイリング時の熱延コイルの温度を模写した。
これを0.5mmの厚さに冷間圧延した後に、水素5%が含有された窒素雰囲気下、850℃で35秒間焼鈍して無方向性電磁鋼板を製造した。これから、幅60mm×の長さ60mmのSST試験片を圧延方向(L方向)および圧延方向に45度の方向(D方向)から切り出して、IEC60404-3に準じて鉄損W15/50および磁束密度B50、異方性測定のために、下記の(B50L/B50D)をそれぞれ測定し、その結果を表3に表記した。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
表1~表3に示されるように、本発明の一実施例による合金成分をすべて満足する発明例は、磁性および異方性がすべて優れていることを確認できる。
これに対し、鋼種1は、Cを過剰含むことで、磁性および異方性に劣ることを確認できる。
鋼種2は、Siを過剰含むことで、磁性および異方性に劣ることを確認できる。
鋼種3および鋼種19は、Mnを過剰または過小含むことで、磁性および異方性に劣ることを確認できる。
鋼種4および鋼種20は、Pを過剰または過小含むことで、磁性および異方性に劣ることを確認できる。
鋼種5および6は、Alを過剰含むことで、磁性および異方性に劣ることを確認できる。
鋼種9、鋼種23および鋼種24は、Sを過剰または過小含むことで、磁性および異方性に劣ることを確認できる。
鋼種8は、Nを過剰含むことで、磁性および異方性に劣ることを確認できる。
鋼種9、鋼種10および鋼種12は、Cuを過剰または過小含むことで、磁性および異方性に劣ることを確認できる。
鋼種13、14、15および18は、Sb、Snを過剰または過小含むことで、磁性および異方性に劣ることを確認できる。
鋼種11、鋼種16および鋼種17は、Ca、Mgを過剰または過小含むことで、磁性および異方性に劣ることを確認できる。
【0040】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施可能であることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施例はあらゆる面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。