(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】油井用金属管及び油井用金属管の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 15/04 20060101AFI20241107BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241107BHJP
C10M 139/00 20060101ALI20241107BHJP
C10M 125/02 20060101ALI20241107BHJP
C10M 125/26 20060101ALI20241107BHJP
C10M 125/30 20060101ALI20241107BHJP
C10M 125/22 20060101ALI20241107BHJP
C10M 135/12 20060101ALI20241107BHJP
C10M 147/02 20060101ALI20241107BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20241107BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20241107BHJP
C10N 10/10 20060101ALN20241107BHJP
C10N 10/08 20060101ALN20241107BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20241107BHJP
【FI】
F16L15/04 A
C08L101/00
C10M139/00 Z
C10M125/02
C10M125/26
C10M125/30
C10M125/22
C10M135/12
C10M147/02
C10N10:12
C10N10:04
C10N10:10
C10N10:08
C10N40:00 G
(21)【出願番号】P 2022543940
(86)(22)【出願日】2021-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2021029935
(87)【国際公開番号】W WO2022039131
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2020139430
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391021031
【氏名又は名称】株式会社ダイゾー
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安倍 知花
(72)【発明者】
【氏名】富安 健
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭司
(72)【発明者】
【氏名】落合 守
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102329553(CN,A)
【文献】国際公開第2018/216416(WO,A1)
【文献】米国特許第5059492(US,A)
【文献】国際公開第2008/032872(WO,A1)
【文献】特開2011-012251(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101240137(CN,A)
【文献】特表2015-506445(JP,A)
【文献】特表2008-527249(JP,A)
【文献】特表平11-507678(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0096850(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0210745(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/04
C08K 5/3417
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油井用金属管であって、
第1端部と第2端部とを含む管本体を備え、
前記管本体は、
前記第1端部に形成されているピンと、
前記第2端部に形成されているボックスとを含み、
前記ピンは、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含み、
前記ボックスは、
雌ねじ部を含むボックス接触表面を含み、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方の上に、樹脂、固体潤滑粉末、及び、
0.2~30.0質量%のフタロシアニン銅を含有する樹脂被膜を備え、
前記固体潤滑粉末は、
黒鉛、酸化亜鉛、窒化硼素、タルク、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛、硫化スズ、硫化ビスマス、有機モリブデン、チオ硫酸塩化合物、及び、ポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される1種以上である、
油井用金属管。
【請求項2】
請求項
1に記載の油井用金属管であって、
前記樹脂被膜は、
0.2~30.0質量%のフタロシアニン銅と、
60~90質量%の前記樹脂と、
1~30質量%の前記固体潤滑粉末とを含有する、
油井用金属管。
【請求項3】
請求項
1又は請求項
2に記載の油井用金属管であって、
前記樹脂被膜は、
0.2~9.0質量%のフタロシアニン銅を含有する、
油井用金属管。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の油井用金属管であってさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方と、前記樹脂被膜との間に、めっき層を備える、
油井用金属管。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の油井用金属管であってさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方と、前記樹脂被膜との間に、化成被膜を備える、
油井用金属管。
【請求項6】
請求項
4に記載の油井用金属管であってさらに、
前記めっき層と前記樹脂被膜との間に、化成被膜を備える、
油井用金属管。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の油井用金属管であって、
前記樹脂被膜はさらに、
防錆顔料を含有する、
油井用金属管。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の油井用金属管であって、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方が、ブラスト処理及び酸洗からなる群から選択される1種以上の処理をされた面である、
油井用金属管。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の油井用金属管であって、
前記樹脂は、
エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、及び、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選択される1種以上である、
油井用金属管。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の油井用金属管であって、
前記ピン接触表面はさらに、ピンシール面及びピンショルダ面を含み、
前記ボックス接触表面はさらに、ボックスシール面及びボックスショルダ面を含む、
油井用金属管。
【請求項11】
請求項1に記載の油井用金属管の製造方法であって、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含むピンと、雌ねじ部を含むボックス接触表面を含むボックスとを含む管本体を備える油井用金属管を準備する工程と、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方の上に、樹脂、固体潤滑粉末及びフタロシアニン銅を含有する組成物を塗布する工程と、
塗布された前記組成物を硬化して樹脂被膜を形成する工程とを備える、
油井用金属管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油井用金属管及び油井用金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油田や天然ガス田(以下、油田及び天然ガス田を総称して「油井」もいう)の採掘のために、油井用金属管が使用される。油井用金属管は、ねじ継手を有する。具体的には、油井採掘地において、複数の油井用金属管を連結して、ケーシングやチュービングに代表される油井管連結体を形成する。油井管連結体は、油井用金属管同士をねじ締めすることによって形成される。油井管連結体に対して検査を実施する場合がある。検査を実施する場合、油井管連結体は、引き上げられ、ねじ戻しされる。そして、ねじ戻しにより油井管連結体から油井用金属管が取り外され、検査される。検査後、油井用金属管同士は再びねじ締めされ、油井管連結体の一部として再度利用される。
【0003】
油井用金属管は、ピン及びボックスを備える。ピンは、油井用金属管の端部の外周面に、雄ねじ部を含むピン接触表面を有する。ボックスは、油井用金属管の端部の内周面に、雌ねじ部を含むボックス接触表面を有する。本明細書において、雄ねじ部と雌ねじ部とを総称して、「ねじ部」ともいう。なお、ピン接触表面はさらに、ピンシール面とピンショルダ面とを含む、ピンねじ無し金属接触部を含む場合がある。同様に、ボックス接触表面はさらに、ボックスシール面とボックスショルダ面とを含む、ボックスねじ無し金属接触部を含む場合がある。
【0004】
油井用金属管のねじ締め及びねじ戻し時に、ピン接触表面及びボックス接触表面は、強い摩擦を繰り返し受ける。そのため、ピン接触表面及びボックス接触表面は、ねじ締め及びねじ戻しを繰り返した時に、ゴーリング(修復不可能な焼付き)が発生しやすい。したがって、油井用金属管には、摩擦に対する十分な耐久性、すなわち、優れた耐焼付き性が要求される。
【0005】
従来、油井用金属管の耐焼付き性を向上するために、ドープと呼ばれる重金属粉入りのコンパウンドグリスが使用されてきた。ピン接触表面及び/又はボックス接触表面にコンパウンドグリスを塗布することにより、油井用金属管の耐焼付き性を改善できる。しかしながら、コンパウンドグリスに含まれるPb、Zn及びCu等の重金属粉は、環境に影響を与える可能性がある。このため、コンパウンドグリスを使用しなくても、耐焼付き性に優れる油井用金属管の開発が望まれている。
【0006】
油井用金属管の耐焼付き性を高める技術が、たとえば、国際公開第2014/042144号(特許文献1)、及び、国際公開第2017/047722号(特許文献2)に提案されている。
【0007】
特許文献1に開示された組成物は、油井用金属管のねじ継手の表面に固体被膜を形成するための組成物である。組成物は、水と双極性非プロトン溶媒とを含む混合溶媒中に、双極性非プロトン溶媒に対して少なくとも部分的に可溶性を有する粉末状有機樹脂を含有させた組成物である。組成物中において、粉末状有機樹脂は混合溶媒中に溶解状態又は分散状態で存在している。
【0008】
特許文献2に開示された組成物は、油井用金属管のねじ継手に固体潤滑被膜を形成するための組成物である。組成物は、結合剤と、潤滑添加剤と、防錆添加剤と、可塑剤とを含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2014/042144号
【文献】国際公開第2017/047722号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、油井用金属管は、様々なサイズ(直径)が使用される。そのため、油井用金属管のサイズの大小にかかわらず、油井用金属管同士の締結が緩み難いことが望ましい。ここで、大口径の油井用金属管には、締結された油井用金属管が緩まないように、予め高い締結トルクが設定される。
【0011】
大口径の油井用金属管を高いトルクで締結する場合、ハイトルク性能が高いことが望ましい。ハイトルク性能が高いとは、すなわちトルクオンショルダ抵抗が大きいことを意味する。トルクオンショルダ抵抗とは、油井用金属管の一部が降伏するイールドトルクと、油井用金属管同士の干渉が急激に大きくなるショルダリングトルクとの差を意味する。一方、特許文献1及び特許文献2に開示された技術を用いても、トルクオンショルダ抵抗が小さい場合がある。この場合、大口径の油井用金属管は、高いトルクで締結することが難しい。
【0012】
本開示の目的は、大口径であっても高いトルクで締結できる油井用金属管と、その油井用金属管の製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示による油井用金属管は、
第1端部と第2端部とを含む管本体を備え、
前記管本体は、
前記第1端部に形成されているピンと、
前記第2端部に形成されているボックスとを含み、
前記ピンは、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含み、
前記ボックスは、
雌ねじ部を含むボックス接触表面を含み、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方の上に、樹脂、固体潤滑粉末、及び、フタロシアニン銅を含有する樹脂被膜を備える。
【0014】
本開示による油井用金属管の製造方法は、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含むピンと、雌ねじ部を含むボックス接触表面を含むボックスとを含む管本体を備える油井用金属管を準備する工程と、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方の上に、樹脂、固体潤滑粉末及びフタロシアニン銅を含有する組成物を塗布する工程と、
塗布された前記組成物を硬化して樹脂被膜を形成する工程とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本開示による油井用金属管は、大口径であっても高いトルクで締結できる。本開示による油井用金属管の製造方法は、上記油井用金属管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、ショルダ部を有する油井用金属管を締結した際の、油井用金属管の回転数とトルクとの関係を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、樹脂被膜中のフタロシアニン銅の含有量と、ハイトルク性能との関係を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、
図2Aに示す樹脂被膜中のフタロシアニン銅の含有量と、ハイトルク性能との関係を示す図の一部拡大図である。
【
図3】
図3は、本実施形態による油井用金属管の一例を示す構成図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す油井用金属管のカップリングの管軸方向に平行な断面(縦断面)を示す一部断面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す油井用金属管のうちのピン近傍部分の、油井用金属管の管軸方向に平行な断面図である。
【
図6】
図6は、
図4に示す油井用金属管のうちのボックス近傍部分の、油井用金属管の管軸方向に平行な断面図である。
【
図7】
図7は、
図4と異なる、本実施形態による油井用金属管のカップリングの管軸方向に平行な断面(縦断面)を示す一部断面図である。
【
図8】
図8は、本実施形態によるインテグラル型の油井用金属管の構成図である。
【
図14】
図14は、めっき層と、フタロシアニン銅の含有量と、耐焼付き性の指標であるバウデン試験の結果との関係を示す図である。
【
図19】
図19は、実施例における、トルクオンショルダ抵抗ΔTを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0018】
本発明者らは、油井用金属管と締結トルクとの関係について種々検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
【0019】
[ハイトルク性能]
油井用金属管同士を締結する際、締結を終了する最適なトルクがあらかじめ決められている。
図1は、ショルダ部を有する油井用金属管を締結した際の、油井用金属管の回転数と、トルクとの関係を示す図である。
図1を参照して、油井用金属管をねじ締めすれば、初めは、回転数に比例してゆるやかにトルクが上昇する。さらにねじ締めをすれば、ショルダ部同士が接触する。この時のトルクを、ショルダリングトルクTsという。ショルダリングトルクTsに達した後、さらにねじ締めをすれば、回転数に比例して急激にトルクが上昇する。トルクが所定の値(締結トルクTo)に達した時点で、締結は完了する。締結トルクToでは、金属シール部同士が適切な面圧で干渉し合う。この場合、油井用金属管は、高い気密性が得られる。締結トルクToに達した後さらに過剰にねじ締めすると、トルクはイールドトルクTyに達し、ピン及びボックスの一部が降伏する。本明細書において、ショルダリングトルクTsとイールドトルクTyとの差をトルクオンショルダ抵抗ΔTという。
【0020】
なお、油井用金属管の別の形態として、ショルダ部を有さず楔型ねじ(Wedge Thread)を有する油井用金属管がある。このような楔形ねじを有する油井用金属管の場合も、ショルダ部を有する油井用金属管の場合と同様に、油井用金属管の回転数とトルクとの関係は
図1のとおりとなる。
【0021】
ここで、楔型ねじとは、次の構造を有するねじを意味する。楔型ねじの雄ねじ部では、ピンのねじ込みの進行方向とともに、ねじ山の幅がねじの弦巻線に沿って次第に狭くなり、ねじ溝の幅がねじの弦巻線に沿って次第に広くなる。さらに、楔型ねじの雌ねじ部では、ボックスのねじ込みの進行方向とともに、ねじ溝の幅がねじの弦巻線に沿って次第に狭くなり、ねじ山の幅がねじの弦巻線に沿って次第に広くなる。楔型ねじを有する油井用金属管の場合、ねじ締めの進行に伴い、雄ねじ部と雌ねじ部の荷重フランク面同士、及び、挿入フランク面同士が接触してロッキング(締りばめ)が生じる。ロッキングが生じるときのトルクは、ロッキングトルク又はロックドフランクトルクとも呼ばれる。
【0022】
本明細書では、特に断らない限り、ロッキングトルクとショルダリングトルクとを区別せず、ショルダリングトルクTsと称する。楔型ねじを有する油井用金属管の場合も、ショルダ部を有する油井用金属管の場合と同様に、ショルダリングトルクTsに達した後、さらにねじ締めをすれば、回転数に比例して急激にトルクが上昇する。つまり、ショルダリングトルクTsでは油井用金属管同士の干渉が急激に大きくなる。そして、さらにねじ締めをすれば、締結トルクToに達する。締結トルクToに達した後さらに過剰にねじ締めするとイールドトルクTyに達し、ピン及びボックスの一部が降伏する。
【0023】
上述のとおり、大口径の油井用金属管には、高い締結トルクToが設定されている。しかしながら、締結トルクToを高く設定した場合、締結トルクToに達する前にピン及びボックスの一部が降伏し、塑性変形を起こす場合がある。トルクオンショルダ抵抗ΔTが大きければ、ショルダリングトルクTsに到達した後、さらにねじ締めすることができる。したがって、トルクオンショルダ抵抗ΔTが大きければ、大口径の油井用金属管であっても、高いトルクで締結することができる。この場合、油井用金属管が緩み難くなる。ここで、本明細書において、ハイトルク性能が高いとは、トルクオンショルダ抵抗ΔTが大きいことを意味する。本明細書において、大口径の油井用金属管とは、外径254mm(10インチ)以上の油井用金属管を意味する。
【0024】
トルクオンショルダ抵抗ΔTを大きくするには、ショルダリングトルクTsを低下させるか、イールドトルクTyを高めることが有効である。しかしながら、一般的には、ショルダリングトルクTsとイールドトルクTyとは同様の挙動を示すことが知られている。たとえば、ショルダリングトルクTsを低下させるために、油井用金属管の表面の摩擦係数を下げた場合、ショルダリングトルクTsだけでなく、イールドトルクTyも低下する。この場合、締結トルクToに達する前にピン又はボックスの一部が降伏してしまう場合がある。また、イールドトルクTyを高めるために、油井用金属管の表面の摩擦係数を上げた場合、イールドトルクTyだけでなく、ショルダリングトルクTsも高まる。この場合、締結トルクToに達してもショルダ部が接触しない場合がある。
【0025】
通常~小口径の油井用金属管と比較して、大口径の油井用金属管では、ハイトルク性能を高めることがさらに要求される。そこで本発明者らは、大口径の油井用金属管であってもハイトルク性能を高めることができる方法を検討した。その結果、以下の知見を得た。
【0026】
図2Aは、樹脂被膜中のフタロシアニン銅の含有量と、ハイトルク性能との関係を示す図である。
図2Aは後述する実施例1の結果から得られた。実施例1では、いわゆる大口径(外径273.05mm(10.75インチ)、肉厚:12.570mm(0.495インチ))の油井用金属管が用いられた。
【0027】
図2Aの横軸は、樹脂被膜中のフタロシアニン銅の含有量(質量%)を示す。
図2Aの縦軸は、トルクオンショルダ抵抗ΔTを示す。トルクオンショルダ抵抗ΔTは、API(American Petroleum Institute)規格 Bul 5A2(1998)に定められたドープを使用した場合のトルクオンショルダ抵抗ΔTを100とし、それと比較した相対値である。
図2Aにおいて、白丸印(〇)は樹脂被膜中にフタロシアニン銅が含有されていたことを示し、黒丸印(●)は樹脂被膜中にフタロシアニン銅が含有されていなかったことを示す。
【0028】
図2Aを参照して、樹脂被膜がフタロシアニン銅を含有しない場合と比較して、樹脂被膜がフタロシアニン銅を含有すれば、トルクオンショルダ抵抗ΔTが高まる。つまり、樹脂被膜がフタロシアニン銅を含有すれば、ハイトルク性能が高まる。この場合、大口径の油井用金属管であっても、高いトルクで締結することが可能になる。
【0029】
図2Bは、樹脂被膜中のフタロシアニン銅の含有量と、ハイトルク性能との関係を示す図の一部拡大図である。
図2Bを参照して、樹脂被膜中のフタロシアニン銅の含有量を0.2質量%以上に調整すれば、油井用金属管のハイトルク性能が、さらに高まる。
【0030】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による油井用金属管、及び、油井用金属管の製造方法の要旨は、次のとおりである。
【0031】
[1]
油井用金属管であって、
第1端部と第2端部とを含む管本体を備え、
前記管本体は、
前記第1端部に形成されているピンと、
前記第2端部に形成されているボックスとを含み、
前記ピンは、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含み、
前記ボックスは、
雌ねじ部を含むボックス接触表面を含み、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方の上に、樹脂、固体潤滑粉末、及び、フタロシアニン銅を含有する樹脂被膜を備える、
油井用金属管。
【0032】
本実施形態による油井用金属管は、フタロシアニン銅を含有する樹脂被膜を備える。そのため、大口径の油井用金属管であっても、高いトルクで締結することが可能である。なお、本実施形態による油井用金属管は、通常~小口径の油井用金属管にも適用可能である。本実施形態による油井用金属管は、通常~小口径の油井用金属管に適用した場合であっても、必要十分なトルクで締結することが可能である。
【0033】
[2]
[1]に記載の油井用金属管であって、
前記樹脂被膜は、
0.2~30.0質量%のフタロシアニン銅を含有する、
油井用金属管。
【0034】
この場合、油井用金属管は、ハイトルク性能がさらに高まる。
【0035】
[3]
[2]に記載の油井用金属管であって、
前記樹脂被膜は、
0.2~30.0質量%のフタロシアニン銅と、
60~90質量%の前記樹脂と、
1~30質量%の前記固体潤滑粉末とを含有する、
油井用金属管。
【0036】
[4]
[2]又は[3]に記載の油井用金属管であって、
前記樹脂被膜は、
0.2~9.0質量%のフタロシアニン銅を含有する、
油井用金属管。
【0037】
この場合、油井用金属管は、ハイトルク性能に加え、耐焼付き性が高まる。
【0038】
[5]
[1]~[4]のいずれか1項に記載の油井用金属管であってさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方と、前記樹脂被膜との間に、めっき層を備える、
油井用金属管。
【0039】
[6]
[1]~[4]のいずれか1項に記載の油井用金属管であってさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方と、前記樹脂被膜との間に、化成被膜を備える、
油井用金属管。
【0040】
[7]
[5]に記載の油井用金属管であってさらに、
前記めっき層と前記樹脂被膜との間に、化成被膜を備える、
油井用金属管。
【0041】
[8]
[1]~[7]のいずれか1項に記載の油井用金属管であって、
前記樹脂被膜はさらに、
防錆顔料を含有する、
油井用金属管。
【0042】
[9]
[1]~[8]のいずれか1項に記載の油井用金属管であって、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方が、ブラスト処理及び酸洗からなる群から選択される1種以上の処理をされた面である、
油井用金属管。
【0043】
[10]
[1]~[9]のいずれか1項に記載の油井用金属管であって、
前記樹脂は、
エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、及び、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選択される1種以上である、
油井用金属管。
【0044】
[11]
[1]~[10]のいずれか1項に記載の油井用金属管であって、
前記固体潤滑粉末は、
黒鉛、酸化亜鉛、窒化硼素、タルク、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛、硫化スズ、硫化ビスマス、有機モリブデン、チオ硫酸塩化合物、及び、ポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される1種以上である、
油井用金属管。
【0045】
[12]
[1]~[11]のいずれか1項に記載の油井用金属管であって、
前記ピン接触表面はさらに、ピンシール面及びピンショルダ面を含み、
前記ボックス接触表面はさらに、ボックスシール面及びボックスショルダ面を含む、
油井用金属管。
【0046】
[13]
[1]に記載の油井用金属管の製造方法であって、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含むピンと、雌ねじ部を含むボックス接触表面を含むボックスとを含む管本体を備える油井用金属管を準備する工程と、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方の上に、樹脂、固体潤滑粉末及びフタロシアニン銅を含有する組成物を塗布する工程と、
塗布された前記組成物を硬化して樹脂被膜を形成する工程とを備える、
油井用金属管の製造方法。
【0047】
以下、本実施形態による油井用金属管について詳述する。
【0048】
[油井用金属管の構成]
初めに、本実施形態の油井用金属管の構成について説明する。油井用金属管は、周知の構成を有する。油井用金属管は、T&C型の油井用金属管と、インテグラル型の油井用金属管とがある。以下、各型の油井用金属管について詳述する。
【0049】
[油井用金属管1がT&C型である場合]
図3は、本実施形態による油井用金属管1の一例を示す構成図である。
図3は、いわゆるT&C型(Threaded and Coupled)の油井用金属管1の構成図である。
図3を参照して、油井用金属管1は、管本体10を備える。
【0050】
管本体10は、管軸方向に延びている。管本体10の管軸方向に垂直な断面は円形状である。管本体10は、第1端部10Aと、第2端部10Bとを含む。第1端部10Aは、第2端部10Bの反対側の端部である。
図3に示すT&C型の油井用金属管1では、管本体10は、ピン管体11と、カップリング12とを備える。カップリング12は、ピン管体11の一端に取り付けられている。より具体的には、カップリング12は、ピン管体11の一端にねじにより締結されている。
【0051】
図4は、
図3に示す油井用金属管1のカップリング12の管軸方向に平行な断面(縦断面)を示す一部断面図である。
図3及び
図4を参照して、管本体10は、ピン40と、ボックス50とを含む。ピン40は、管本体10の第1端部10Aに形成されている。ピン40は、締結時において、他の油井用金属管1(図示せず)のボックス50に挿入されて、他の油井用金属管1のボックス50とねじにより締結される。
【0052】
ボックス50は、管本体10の第2端部10Bに形成されている。締結時において、ボックス50には、他の油井用金属管1のピン40が挿入されて、他の油井用金属管1のピン40とねじにより締結される。
【0053】
[ピン40の構成について]
図5は、
図4に示す油井用金属管1のうちのピン40近傍部分の、油井用金属管1の管軸方向に平行な断面図である。
図5中の破線部分は、他の油井用金属管1と締結する場合の、他の油井用金属管1のボックス50の構成を示す。
図5を参照して、ピン40は、管本体10の第1端部10Aの外周面に、ピン接触表面400を備える。ピン接触表面400は、他の油井用金属管1との締結時において、他の油井用金属管1のボックス50にねじ込まれ、ボックス50のボックス接触表面500(後述)と接触する。
【0054】
ピン接触表面400は、第1端部10Aの外周面に形成された雄ねじ部41を少なくとも含む。ピン接触表面400はさらに、ピンシール面42と、ピンショルダ面43とを含んでもよい。
図5では、ピンショルダ面43は第1端部10Aの先端面に配置され、ピンシール面42は、第1端部10Aの外周面のうち、雄ねじ部41よりも第1端部10Aの先端側に配置されている。つまり、ピンシール面42は、雄ねじ部41とピンショルダ面43との間に配置されている。ピンシール面42はテーパ状に設けられている。具体的には、ピンシール面42では、第1端部10Aの長手方向(管軸方向)において、雄ねじ部41からピンショルダ面43に向かうにしたがって、外径が徐々に小さくなっている。
【0055】
他の油井用金属管1との締結時において、ピンシール面42は、他の油井用金属管1のボックス50のボックスシール面52(後述)と接触する。より具体的には、締結時において、ピン40が他の油井用金属管1のボックス50に挿入されることにより、ピンシール面42がボックスシール面52と接触する。そして、ピン40が他の油井用金属管1のボックス50にさらにねじ込まれることにより、ピンシール面42は、ボックスシール面52と密着する。これにより、締結時において、ピンシール面42は、ボックスシール面52と密着してメタル-メタル接触に基づくシールを形成する。そのため、互いに締結された油井用金属管1において、気密性を高めることができる。
【0056】
図5では、ピンショルダ面43は、第1端部10Aの先端面に配置されている。つまり、
図5に示すピン40では、管本体10の中央から第1端部10Aに向かって順に、雄ねじ部41、ピンシール面42、ピンショルダ面43の順に配置されている。他の油井用金属管1との締結時において、ピンショルダ面43は、他の油井用金属管1のボックス50のボックスショルダ面53(後述)と対向し、接触する。より具体的には、締結時において、ピン40が他の油井用金属管1のボックス50に挿入されることにより、ピンショルダ面43がボックスショルダ面53と接触する。これにより、締結時において、高いトルクを得ることができる。また、ピン40とボックス50との締結状態での位置関係を安定させることができる。
【0057】
なお、ピン40のピン接触表面400は、少なくとも雄ねじ部41を含んでいる。つまり、ピン接触表面400は、雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダ面43を含んでいなくてもよい。ピン接触表面400は、雄ねじ部41とピンショルダ面43とを含み、ピンシール面42を含んでいなくてもよい。ピン接触表面400は、雄ねじ部41とピンシール面42とを含み、ピンショルダ面43を含んでいなくてもよい。
【0058】
[ボックス50の構成について]
図6は、
図4に示す油井用金属管1のうちのボックス50近傍部分の、油井用金属管1の管軸方向に平行な断面図である。
図6中の破線部分は、他の油井用金属管1と締結する場合の、他の油井用金属管1のピン40の構成を示す。
図6を参照して、ボックス50は、管本体10の第2端部10Bの内周面に、ボックス接触表面500を備える。ボックス接触表面500は、他の油井用金属管1との締結時において、他の油井用金属管1のピン40がねじ込まれ、ピン40のピン接触表面400と接触する。
【0059】
ボックス接触表面500は、第2端部10Bの内周面に形成された雌ねじ部51を少なくとも含む。締結時において、雌ねじ部51は、他の油井用金属管1のピン40の雄ねじ部41と噛み合う。
【0060】
ボックス接触表面500はさらに、ボックスシール面52と、ボックスショルダ面53とを含んでもよい。
図6では、ボックスシール面52は、第2端部10Bの内周面のうち、雌ねじ部51よりも管本体10側に配置されている。つまり、ボックスシール面52は、雌ねじ部51とボックスショルダ面53との間に配置されている。ボックスシール面52はテーパ状に設けられている。具体的には、ボックスシール面52では、第2端部10Bの長手方向(管軸方向)において、雌ねじ部51からボックスショルダ面53に向かうにしたがって、内径が徐々に小さくなっている。
【0061】
他の油井用金属管1との締結時において、ボックスシール面52は、他の油井用金属管1のピン40のピンシール面42と接触する。より具体的には、締結時において、ボックス50に他の油井用金属管1のピン40がねじ込まれることにより、ボックスシール面52がピンシール面42と接触し、さらにねじ込まれることにより、ボックスシール面52がピンシール面42と密着する。これにより、締結時において、ボックスシール面52は、ピンシール面42と密着してメタル-メタル接触に基づくシールを形成する。そのため、互いに締結された油井用金属管1において、気密性を高めることができる。
【0062】
ボックスショルダ面53は、ボックスシール面52よりも管本体10側に配置されている。つまり、ボックス50では、管本体10の中央から第2端部10Bの先端に向かって順に、ボックスショルダ面53、ボックスシール面52、雌ねじ部51、の順に配置されている。他の油井用金属管1との締結時において、ボックスショルダ面53は、他の油井用金属管1のピン40のピンショルダ面43と対向し、接触する。より具体的には、締結時において、ボックス50に他の油井用金属管1のピン40が挿入されることにより、ボックスショルダ面53がピンショルダ面43と接触する。これにより、締結時において、高いトルクを得ることができる。また、ピン40とボックス50との締結状態での位置関係を安定させることができる。
【0063】
ボックス接触表面500は、少なくとも雌ねじ部51を含む。締結時において、ボックス50のボックス接触表面500の雌ねじ部51は、ピン40のピン接触表面400の雄ねじ部41に対応し、雄ねじ部41と接触する。ボックスシール面52は、ピンシール面42と対応し、ピンシール面42と接触する。ボックスショルダ面53は、ピンショルダ面43と対応し、ピンショルダ面43と接触する。
【0064】
ピン接触表面400が雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダ面43を含まない場合、ボックス接触表面500は雌ねじ部51を含み、ボックスシール面52及びボックスショルダ面53を含まない。ピン接触表面400が雄ねじ部41とピンショルダ面43とを含み、ピンシール面42を含まない場合、ボックス接触表面500は、雌ねじ部51とボックスショルダ面53とを含み、ボックスシール面52を含まない。ピン接触表面400が雄ねじ部41とピンシール面42とを含み、ピンショルダ面43を含まない場合、ボックス接触表面500は、雌ねじ部51とボックスシール面52とを含み、ボックスショルダ面53を含まない。
【0065】
ピン接触表面400は、複数の雄ねじ部41を含んでもよいし、複数のピンシール面42を含んでもよいし、複数のピンショルダ面43を含んでもよい。たとえば、ピン40のピン接触表面400において、第1端部10Aの先端から管本体10の中央に向かって、ピンショルダ面43、ピンシール面42、雄ねじ部41、ピンシール面42、ピンショルダ面43、ピンシール面42、雄ねじ部41の順で配置されてもよい。この場合、ボックス50のボックス接触表面500において、第2端部10Bの先端から管本体10の中央に向かって、雌ねじ部51、ボックスシール面52、ボックスショルダ面53、ボックスシール面52、雌ねじ部51、ボックスシール面52、ボックスショルダ面53の順に配置される。
【0066】
図5及び
図6では、ピン40が、雄ねじ部41、ピンシール面42、及び、ピンショルダ面43を含み、ボックス50が、雌ねじ部51、ボックスシール面52、及び、ボックスショルダ面53を含む、いわゆる、プレミアムジョイントを図示している。しかしながら、上述のとおり、ピン40は、雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダ面43を含んでいなくてもよい。この場合、ボックス50は、雌ねじ部51を含み、ボックスシール面52及びボックスショルダ面53を含んでいない。
図7は、ピン40が雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダ面43を含んでおらず、かつ、ボックス50が雌ねじ部51を含み、ボックスシール面52及びボックスショルダ面53を含んでいない油井用金属管1の一例を示す図である。
【0067】
[油井用金属管1がインテグラル型である場合]
図3、
図4及び
図7に示す油井用金属管1は、管本体10が、ピン管体11とカップリング12とを含む、いわゆる、T&C型の油井用金属管1である。しかしながら、本実施形態の油井用金属管1は、T&C型ではなく、インテグラル型であってもよい。
【0068】
図8は、本実施形態によるインテグラル型の油井用金属管1の構成図である。
図8を参照して、インテグラル型の油井用金属管1は、管本体10を備える。管本体10は、第1端部10Aと、第2端部10Bとを含む。第1端部10Aは、第2端部10Bと反対側に配置されている。上述のとおり、T&C型の油井用金属管1では、管本体10は、ピン管体11と、カップリング12とを備える。つまり、T&C型の油井用金属管1では、管本体10は、2つの別個の部材(ピン管体11及びカップリング12)を締結して構成されている。これに対して、インテグラル型の油井用金属管1では、管本体10は一体的に形成されている。
【0069】
ピン40は、管本体10の第1端部10Aに形成されている。締結時において、ピン40は、他のインテグラル型の油井用金属管1のボックス50に挿入されてねじ込まれ、他のインテグラル型の油井用金属管1のボックス50と締結される。ボックス50は、管本体10の第2端部10Bに形成されている。締結時において、ボックス50には、他のインテグラル型の油井用金属管1のピン40が挿入されてねじ込まれ、他のインテグラル型の油井用金属管1のピン40と締結される。
【0070】
インテグラル型の油井用金属管1のピン40の構成は、
図5に示すT&C型の油井用金属管1のピン40の構成と同じである。同様に、インテグラル型の油井用金属管1のボックス50の構成は、
図6に示すT&C型の油井用金属管1のボックス50の構成と同じである。なお、
図8では、ピン40において、第1端部10Aの先端から管本体10の中央に向かって、ピンショルダ面43、ピンシール面42、雄ねじ部41の順で配置されている。そのため、ボックス50において、第2端部10Bの先端から管本体10の中央に向かって、雌ねじ部51、ボックスシール面52、ボックスショルダ面53の順に配置されている。しかしながら、T&C型の油井用金属管1のピン40のピン接触表面400と同様に、インテグラル型の油井用金属管1のピン40のピン接触表面400は、少なくとも雄ねじ部41を含んでいればよい。また、T&C型の油井用金属管1のボックス50のボックス接触表面500と同様に、インテグラル型の油井用金属管1のボックス50のボックス接触表面500は、少なくとも雌ねじ部51を含んでいればよい。
【0071】
要するに、本実施形態の油井用金属管1は、T&C型であってもよいし、インテグラル型であってもよい。
【0072】
[樹脂被膜]
本実施形態による油井用金属管1は、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の上に、樹脂被膜100を備える。
図9は、
図5に示すピン接触表面400の拡大図である。
図10は、
図6に示すボックス接触表面500の拡大図である。
図9及び
図10に示すように、本実施形態による油井用金属管1は、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の両方の上に、樹脂被膜100を備えてもよい。しかしながら、本実施形態による油井用金属管1は、ピン接触表面400又はボックス接触表面500の一方の上のみに、樹脂被膜100を備えてもよい。たとえば、
図9に示すように、ピン接触表面400上に樹脂被膜100を備える場合、ボックス接触表面500上には、樹脂被膜100を備えなくてもよい。また、
図10に示すように、ボックス接触表面500上に樹脂被膜100を備える場合、ピン接触表面400上には、樹脂被膜100を備えなくてもよい。言い換えると、本実施形態による油井用金属管1は、ピン接触表面400上及び/又はボックス接触表面500上に、樹脂被膜100を備える。
【0073】
樹脂被膜100は、樹脂、固体潤滑粉末、及び、フタロシアニン銅を含有する固体の被膜である。樹脂及び固体潤滑粉末は、それぞれ独立して選択することができる。以下、本実施形態による樹脂被膜100に含有される、樹脂、固体潤滑粉末、及び、フタロシアニン銅について詳述する。
【0074】
[樹脂]
本実施形態による樹脂被膜100中に含有される樹脂は、特に限定されない。しかしながら、油井用金属管1の締結時に、樹脂被膜100は、その表面が削れて摩耗粉が発生する。そのため、樹脂被膜100の耐摩耗性(被膜寿命)と、ハイトルク性能とを安定して得るには、下地との密着力が高く適度な硬度を有する樹脂を使用することが好ましい。下地との密着力が高く適度な硬度を有する樹脂は、たとえば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、及び、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選ばれる1種以上である。
【0075】
好ましくは、樹脂は、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選択される1種又は2種である。
【0076】
樹脂被膜100中の樹脂の含有量は、たとえば、60~90質量%である。この場合、樹脂被膜100の成形性と耐焼き付き性とハイトルク性能とをより安定して高めることができる。樹脂の含有量の下限は好ましくは62質量%であり、より好ましくは63質量%であり、さらに好ましくは65質量%である。樹脂の含有量の上限は好ましくは88質量%であり、より好ましくは86質量%である。
【0077】
[固体潤滑粉末]
本実施形態による樹脂被膜100中に含有される固体潤滑粉末は、特に限定されない。固体潤滑粉末は、たとえば、黒鉛、酸化亜鉛、窒化硼素、タルク、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛、硫化スズ、硫化ビスマス、有機モリブデン、チオ硫酸塩化合物、及び、ポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される1種以上である。
【0078】
好ましくは、固体潤滑粉末は、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、及び、二硫化モリブデンからなる群から選択される1種以上である。さらに好ましくは、固体潤滑粉末はポリテトラフルオロエチレンである。
【0079】
樹脂被膜100中の固体潤滑粉末の含有量は、たとえば、1~30質量%である。この場合、樹脂被膜100の成形性と耐焼付き性とをより安定して高めることができる。固体潤滑粉末の含有量の下限は好ましくは2質量%であり、より好ましくは5質量%である。固体潤滑粉末の含有量の上限は好ましくは25質量%であり、より好ましくは20質量%である。
【0080】
[フタロシアニン銅]
本実施形態による樹脂被膜100は、フタロシアニン銅を含有する。フタロシアニン銅は本実施形態による油井用金属管1において、ハイトルク性能を発揮するために最も重要な物質である。フタロシアニン銅は、フタロシアニン(C32H18N8)が銅イオン(Cu2+)に配位したフタロシアニン錯体の一種である。以下、フタロシアニン銅の化学式を示す。
【0081】
【0082】
フタロシアニン銅が樹脂被膜100に含有されれば、油井用金属管1のハイトルク性能が高まる。この理由について、詳細は明らかになっていない。しかしながら、本実施形態による樹脂被膜100にフタロシアニン銅が含有されることによって、イールドトルクTyとショルダリングトルクTsとの差である、トルクオンショルダ抵抗ΔTが大きくなることが、後述する実施例によって証明されている。そのため、本実施形態による油井用金属管1は、大口径であっても、高いトルクで締結することができる。
【0083】
本実施形態による樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量は、特に限定されない。すなわち、フタロシアニン銅が樹脂被膜100に少しでも含有されれば、油井用金属管1のハイトルク性能を高める効果が、ある程度得られる。樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量の下限は0.1質量%であってもよい。一方、樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量が0.2質量%以上であれば、油井用金属管1のハイトルク性能がさらに高まる。したがって、本実施形態では、樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量の下限は好ましくは0.1質量%であり、より好ましくは0.2質量%であり、さらに好ましくは0.4質量%である。
【0084】
本実施形態による樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量が30.0質量%以下であれば、フタロシアニン銅の分散性が高まる。したがって、樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量の好ましい上限は30.0質量%である。さらに、本実施形態による樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量が9.0質量%以下であれば、油井用金属管1は、ハイトルク性能だけでなく、耐焼付き性も高まる。したがって、樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量の上限は9.0質量%であってもよい。
【0085】
以上より、本実施形態による樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量の上限は好ましくは30.0質量%であり、より好ましくは14.0質量%であり、さらに好ましくは12.0質量%であり、さらに好ましくは10.0質量%であり、さらに好ましくは9.0質量%であり、さらに好ましくは6.0質量%である。
【0086】
[耐焼付き性]
本実施形態による油井用金属管1では、樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量の上限をさらに調整すれば、油井用金属管1のハイトルク性能だけでなく、耐焼付き性も高まる。以下、この点について表を用いて具体的に説明する。
【0087】
表1に、樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量と、耐焼付き性の指標であるバウデン試験の結果とを示す。表1は後述する実施例2の結果の一部抜粋である。実施例2では、各試験番号の鋼板の表面に、表1に記載の含有量でフタロシアニン銅を含む樹脂被膜100を形成した。さらに、樹脂被膜100を形成した各試験番号の鋼板を用いて、バウデン試験を実施した。バウデン試験では、各試験番号の鋼板の樹脂被膜100の表面に鋼球を摺動させて、摩擦係数を求めた。表1には、各試験番号の樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量と、摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数を示す。なお、摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数が多いほど、耐焼付き性が高いことを意味する。
【0088】
【0089】
表1を参照して、樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量が0.2~9.0質量%であれば、樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量が0.1質量%の場合、及び、樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量が10.0質量%の場合と比較して、摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数が増加する。つまり、樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量が0.2~9.0質量%であれば、油井用金属管1のハイトルク性能だけでなく、耐焼付き性も高まる。
【0090】
[その他の成分]
本実施形態による樹脂被膜100はさらに、上述する以外の成分を含有しても良い。その他の成分とは、たとえば、防錆剤、防腐剤、及び、酸化防止剤からなる群から選択される1種以上である。防錆剤は、たとえば、トリポリリン酸アルミニウム、亜燐酸アルミニウム、及び、カルシウムイオン交換シリカからなる群から選択される1種以上である。防錆剤として、市販の撥水剤を使用してもよい。
【0091】
本実施形態による樹脂被膜100は、単層であってもよく、複数の層を含んでいてもよい。「複数の層を含む」とは、樹脂被膜100が油井用金属管1の径方向に、2層以上積層している状態を意味する。樹脂被膜100を形成するための組成物の塗布と硬化とを繰り返すことによって、樹脂被膜100を2層以上積層させて形成できる。樹脂被膜100は、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の上に直接形成してもよく、後述する下地処理を、ピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500に実施した上に、形成してもよい。樹脂被膜100が複数の層を含む場合、樹脂被膜100のうちいずれか1層が上記範囲内で各成分を含有してもよく、複数の樹脂被膜100の全てが上記範囲内で各成分を含有してもよい。好ましくは、樹脂被膜100は、防錆樹脂被膜を含む。本実施形態において、防錆樹脂被膜は任意の構成である。すなわち、本実施形態による油井用金属管1において、防錆樹脂被膜は形成されなくてもよい。以下、防錆樹脂被膜について詳述する。
【0092】
[防錆樹脂被膜]
本実施形態による油井用金属管1はさらに、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方に形成された樹脂被膜100に、防錆樹脂被膜を含んでもよい。防錆樹脂被膜は、防錆顔料とアクリルシリコン樹脂とを含有する。防錆顔料はたとえば、トリポリリン酸アルミニウム、亜リン酸アルミニウム、ジンクリッチプライマー(JIS K5552(2010))及び雲母状酸化鉄からなる群から選択される1種以上である。アクリルシリコン樹脂は市販のアクリルシリコン樹脂を使用できる。市販のアクリルシリコン樹脂はたとえば、DIC株式会社製のアクリルシリコン樹脂アクリディックである。油井用金属管1の樹脂被膜100が防錆樹脂被膜70を含む場合、油井用金属管1の耐食性が高まる。
【0093】
防錆樹脂被膜中の防錆顔料の含有量は、たとえば、5~30質量%である。防錆樹脂被膜中のアクリルシリコン樹脂の含有量は、たとえば、50~80質量%である。防錆樹脂被膜は、防錆顔料及びアクリルシリコン樹脂に加え、他の成分を含有してもよい。他の成分はたとえば、顔料、消泡剤、レベリング剤及び繊維状フィラーからなる群から選択される1種以上である。防錆樹脂被膜中の他の成分の含有量はたとえば、合計で0~20質量%である。
【0094】
上述のとおり、防錆樹脂被膜は、樹脂被膜100に含まれる。具体的に、
図11は、
図9と異なる本実施形態によるピン接触表面400の拡大図である。
図11を参照して、油井用金属管1は、ピン接触表面400上に形成された樹脂被膜100に、防錆樹脂被膜70と、樹脂被膜100の上層60とを含む。この場合、樹脂被膜100の上層60は、樹脂と、固体潤滑粉末と、フタロシアニン銅とを含有し、樹脂被膜100の下層である防錆樹脂被膜70は、防錆顔料とアクリルシリコン樹脂とを含有する。
【0095】
本実施形態による油井用金属管1における、防錆樹脂被膜70の配置は、
図11に限定されない。図示しないが、
図11と同様に、油井用金属管1は、ボックス接触表面500上に形成された樹脂被膜100に、防錆樹脂被膜70を含んでもよい。防錆樹脂被膜70はまた、ピン接触表面400上に形成された樹脂被膜100にのみ含まれ、ボックス接触表面500上に形成された樹脂被膜100には含まれなくてもよい。防錆樹脂被膜70はさらに、ピン接触表面400上に形成された樹脂被膜100には含まれず、ボックス接触表面500上に形成された樹脂被膜100にのみ含まれてもよい。防錆樹脂被膜70はさらに、ピン接触表面400上に形成された樹脂被膜100、及び、ボックス接触表面500上に形成された樹脂被膜100の両方に含まれてもよい。
【0096】
本実施形態において、防錆樹脂被膜70は、後述するめっき層の上に形成された樹脂被膜100に含まれてもよく、後述する化成被膜の上に形成された樹脂被膜100に含まれてもよい。すなわち、本実施形態において、防錆樹脂被膜70は、ピン接触表面400上に形成されてもよく、ボックス接触表面500上に形成されてもよく、後述するめっき層上に形成されてもよく、後述する化成被膜上に形成されてもよい。
【0097】
樹脂被膜100は、ピン接触表面400上及び/又はボックス接触表面500上に最表層として配置されてもよい。油井用金属管1の締結時には、樹脂被膜100の上にさらに、液状の潤滑剤が塗布されてもよい。
【0098】
[樹脂被膜の厚さ]
樹脂被膜100の厚さは特に限定されない。樹脂被膜100の厚さはたとえば、1~100μmである。この場合、油井用金属管1のハイトルク性能をより安定して高めることができる。樹脂被膜100の厚さの下限は好ましくは2μmであり、より好ましくは5μmであり、さらに好ましくは10μmである。樹脂被膜100の厚さの上限は好ましくは80μmであり、より好ましくは70μmであり、さらに好ましくは60μmであり、さらに好ましくは50μmである。
【0099】
[樹脂被膜の測定方法]
樹脂被膜100の厚さは、次の方法で測定する。樹脂被膜100を形成したピン接触表面400又はボックス接触表面500上に、電磁誘導式の膜厚測定器のプローブを接触させる。プローブは電磁石を有しており、磁性体を近づけると電磁誘導が起こり、プローブと磁性体との距離に依存してその電圧が変化する。電圧量の変化から樹脂被膜100の厚さを求める。測定箇所は、油井用金属管1の管周方向の12箇所(0°、30°、60°、90°、120°、150°、180°、210°、240°、270°、300°、330°の12箇所)である。12箇所の測定結果の算術平均を、樹脂被膜100の厚さとする。
【0100】
樹脂被膜100は、ピン接触表面400又はボックス接触表面500の上に、ピン接触表面400又はボックス接触表面500と接触して直接形成されてもよい。油井用金属管1は、ピン接触表面400又はボックス接触表面500と、樹脂被膜100との間にさらに他の被膜を備えてもよい。他の被膜とはたとえば、めっき層、及び、化成被膜からなる群から選択される1種以上の被膜である。
【0101】
[任意の構成]
[めっき層]
本実施形態による油井用金属管1はさらに、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方と、樹脂被膜100との間に、めっき層を備えてもよい。本実施形態の油井用金属管1において、めっき層は任意の構成である。すなわち、本実施形態による油井用金属管1において、めっき層は形成されなくてもよい。
【0102】
図12は、
図9及び
図11と異なる、本実施形態によるピン接触表面400の拡大図である。
図12では、ピン接触表面400と樹脂被膜100との間に、めっき層80が配置される。具体的に、
図12では、ピン接触表面400上にめっき層80が形成され、めっき層80上に樹脂被膜100が形成される。しかしながら、めっき層80の配置は、
図12に限定されない。図示しないが、たとえば、ボックス接触表面500と樹脂被膜100との間に、めっき層80が配置されてもよい。たとえばさらに、ピン接触表面400と樹脂被膜100との間にめっき層80が配置され、ボックス接触表面500には、樹脂被膜100もめっき層80も配置されなくてもよい。たとえばさらに、ピン接触表面400と樹脂被膜100との間にめっき層80が配置され、ボックス接触表面500と樹脂被膜100との間にめっき層80が配置されてもよい。
【0103】
本実施形態ではさらに、めっき層80の上に防錆樹脂被膜70を備えてもよい。具体的に、
図13は、
図9、
図11及び
図12と異なる、本実施形態によるピン接触表面400の拡大図である。
図13を参照して、ピン接触表面400と樹脂被膜100との間にめっき層80が配置され、樹脂被膜100に防錆樹脂被膜70と樹脂被膜100の上層60とが含まれていてもよい。
【0104】
本実施形態において、めっき層80の種類は、特に限定されない。めっき層80は、たとえば、Znめっき層、Niめっき層、Cuめっき層、Zn-Ni合金めっき層、Zn-Co合金めっき層、Ni-W合金めっき層からなる群から選択される。めっき層80がZn-Ni合金めっき層である場合、Zn-Ni合金めっき層の化学組成は、たとえば、10~20質量%のNi、及び、残部はZn及び不純物からなる。めっき層80がCuめっき層である場合、Cuめっき層の化学組成は、たとえば、Cu及び不純物からなる。
【0105】
本実施形態による油井用金属管1が、ピン接触表面400上及び/又はボックス接触表面500上にめっき層80を備える場合、油井用金属管1の耐焼付き性がさらに高まる。
【0106】
図14は、めっき層80と、フタロシアニン銅の含有量と、耐焼付き性の指標であるバウデン試験の結果との関係を示す図である。
図14は後述する実施例2から得られた。
図14の横軸は、樹脂被膜100中のフタロシアニン銅の含有量を示す。
図14の縦軸は、摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数を示す。実施例2では、めっき層80及び/又は樹脂被膜100を形成した鋼板の表面に鋼球を摺動させて、摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数を測定した。摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数が多いほど、耐焼付き性が高いことを示す。
図14中、白丸印(〇)は、鋼板表面にめっき層80を形成せず、樹脂被膜100のみを形成したことを示す。
図14中、四角印(□)は、鋼板表面にZn-Ni合金めっき層を形成し、その上に樹脂被膜100を形成したことを示す。
図14を参照して、Zn-Ni合金めっき層を備える油井用金属管1では、めっき層80を備えていない油井用金属管1と比較して、摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数が多い。このように、めっき層80がピン接触表面400上及び/又はボックス接触表面500上に形成された油井用金属管1は、耐焼付き性がさらに高まる。
【0107】
[めっき層の厚さ]
めっき層80の厚さは特に限定されない。めっき層80の厚さはたとえば、1~30μmである。この場合、油井用金属管1の耐焼付き性をより安定して高めることができる。めっき層80の厚さの下限は好ましくは2μmであり、より好ましくは3μmであり、さらに好ましくは4μmである。めっき層80の厚さの上限は好ましくは20μmであり、より好ましくは10μmである。
【0108】
[めっき層の厚さの測定方法]
めっき層80の厚さは、次の方法で測定する。めっき層80を形成したピン接触表面400又はボックス接触表面500上に、電磁誘導式の膜厚測定器のプローブを接触させる。プローブの接触は、ピン接触表面400又はボックス接触表面500上の樹脂被膜100を除去した部分にて行う。プローブは電磁石を有しており、磁性体を近づけると電磁誘導が起こり、プローブと磁性体との距離に依存してその電圧が変化する。電圧量の変化からめっき層80の厚さを求める。測定箇所は、油井用金属管1の管周方向の12箇所(0°、30°、60°、90°、120°、150°、180°、210°、240°、270°、300°、330°の12箇所)である。12箇所の測定結果の算術平均を、めっき層80の厚さとする。
【0109】
[化成被膜]
本実施形態による油井用金属管1はさらに、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方と、樹脂被膜100との間に、化成被膜を備えてもよい。本実施形態の油井用金属管1において、化成被膜は任意の構成である。すなわち、本実施形態による油井用金属管1において、化成被膜は形成されなくてもよい。
【0110】
図15は、
図10と異なる、本実施形態によるボックス接触表面500の拡大図である。
図15では、ボックス接触表面500と樹脂被膜100との間に、化成被膜90が配置される。具体的に、
図15では、ボックス接触表面500上に化成被膜90が形成され、化成被膜90上に樹脂被膜100が形成される。しかしながら、化成被膜90の配置は、
図15に限定されない。図示しないが、たとえば、ピン接触表面400と樹脂被膜100との間に化成被膜90が配置され、ボックス接触表面500には、樹脂被膜100も化成被膜90も配置されなくてもよい。たとえばさらに、ピン接触表面400と樹脂被膜100との間に、化成被膜90が配置され、さらに、ボックス接触表面500と、樹脂被膜100との間に、化成被膜90が配置されてもよい。
【0111】
本実施形態ではさらに、化成被膜90の上に防錆樹脂被膜70を備えてもよい。具体的に、
図16は、
図9、
図11、
図12及び
図13と異なる、本実施形態によるピン接触表面400の拡大図である。
図16を参照して、ピン接触表面400と樹脂被膜100との間に化成被膜90が配置され、樹脂被膜100に防錆樹脂被膜70と樹脂被膜100の上層60とが含まれていてもよい。
【0112】
本実施形態によるピン接触表面400及びボックス接触表面500はさらに、めっき層80と化成被膜90との両方を備えてもよい。
図17は、
図9、
図11、
図12、
図13及び
図16と異なる、本実施形態によるピン接触表面400の拡大図である。
図17では、ピン接触表面400上にめっき層80が配置され、めっき層80上に化成被膜90が配置され、化成被膜90上に樹脂被膜100が配置される。つまり、めっき層80を備える場合、油井用金属管1は、めっき層80と樹脂被膜100との間に、化成被膜90を備える。
【0113】
本実施形態による油井用金属管1における、めっき層80と化成被膜90との配置は、
図17に限定されないが、ピン接触表面400と樹脂被膜100との間にめっき層80及び化成被膜90が配置される場合、めっき層80の上に化成被膜90が配置され、化成被膜90の上に樹脂被膜100が配置されてもよい。また、ピン接触表面400と樹脂被膜100との間にめっき層80が配置されない場合、ピン接触表面400上に化成被膜90が配置され、化成被膜90の上に樹脂被膜100が配置されてもよい。同様に、ボックス接触表面500と樹脂被膜100との間にめっき層80及び化成被膜90を備える場合、めっき層80の上に化成被膜90が配置され、化成被膜90の上に樹脂被膜100が配置されてもよい。また、ボックス接触表面500と樹脂被膜100との間にめっき層80を備えない場合、ボックス接触表面500上に化成被膜90が配置され、化成被膜90の上に樹脂被膜100が配置されてもよい。
【0114】
本実施形態ではさらに、めっき層80と化成被膜90とを備える場合、化成被膜90の上に防錆樹脂被膜70を備えてもよい。具体的に、
図18は、
図9、
図11、
図12、
図13、
図16及び
図17と異なる、本実施形態によるピン接触表面400の拡大図である。
図18を参照して、ピン接触表面400上にめっき層80が配置され、めっき層80上に化成被膜90が配置され、化成被膜90上に樹脂被膜100が配置され、樹脂被膜100に防錆樹脂被膜70と樹脂被膜100の上層60とが含まれていてもよい。
【0115】
本実施形態において、化成被膜90の種類は、特に限定されない。化成被膜90は、たとえば、燐酸塩化成被膜、蓚酸塩化成被膜、硼酸塩化成被膜、及び、クロメート被膜からなる群から選択される。樹脂被膜100の密着性の観点からは、燐酸塩化成被膜が好ましい。ここで、燐酸塩とは、たとえば、燐酸マンガン、燐酸亜鉛、燐酸鉄マンガン、又は、燐酸亜鉛カルシウムからなる群から選択される1種以上である。化成被膜90は、クロメート被膜であってもよい。クロメート被膜は周知の方法で形成されてもよい。クロメート被膜は、好ましくは、6価クロムを含まない。
【0116】
本実施形態による油井用金属管1のピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500上に化成被膜90を備える場合、油井用金属管1の耐焼付き性がさらに高まる。化成被膜90はアンカー効果によってその上の樹脂被膜100の密着性を高める。これにより、油井用金属管1の耐焼付き性が高まる。後述する実施例3を参照して、化成被膜90を備える油井用金属管1では、化成被膜90を備えていない油井用金属管1よりも、摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数が多い。このように、化成被膜90がピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500に形成された油井用金属管1は、耐焼付き性がさらに高まる。
【0117】
本実施形態の油井用金属管1は、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の上に樹脂被膜100を備えていればよい。めっき層80、化成被膜90及び防錆樹脂被膜70の配置については、上述のとおり、ピン接触表面400上とボックス接触表面500上とで同じであってもよいし、異なっていてもよい。油井用金属管1は、必要に応じてさらに他の被膜を備えてもよい。
【0118】
[下地処理]
本実施形態による油井用金属管1は、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方が、下地処理を施された面であってもよい。つまり、本実施形態において、下地処理は任意に施される工程であり、ピン接触表面400及びボックス接触表面500のいずれも、下地処理を施された面でなくてもよい。施される場合、下地処理は、たとえば、ブラスト処理及び酸洗からなる群から選択される1種以上である。下地処理を施せば、ピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500の表面粗さが高まる。そのため、その上に形成する樹脂被膜100、めっき層80及び/又は化成被膜90の密着性が高まる。その結果、油井用金属管1の耐焼付き性が高まる。
【0119】
[管本体の化学組成]
本実施形態による油井用金属管1の管本体10の化学組成は、特に限定されない。本実施形態の油井用金属管1の特徴は、樹脂被膜100である。そのため、本実施形態では、油井用金属管1の管本体10の鋼種は特に限定されない。
【0120】
管本体10は、たとえば、炭素鋼、ステンレス鋼及び合金等によって形成されていてもよい。つまり、油井用金属管とは、Fe基合金からなる鋼管であってもよく、Ni基合金管に代表される合金管であってもよい。ここで、鋼管はたとえば、低合金鋼管、マルテンサイト系ステンレス鋼管、二相ステンレス鋼管等である。一方、合金鋼の中でも、Ni基合金及びCr、Ni及びMo等の合金元素を含んだ二相ステンレス鋼等の高合金鋼は、耐食性が高い。そのため、これらの高合金鋼を管本体10として使用すれば、硫化水素や二酸化炭素等を含有する腐食環境において、優れた耐食性が得られる。
【0121】
[製造方法]
以下、本実施形態による油井用金属管1の製造方法を説明する。
【0122】
本実施形態による油井用金属管1の製造方法は、準備工程と、塗布工程と、硬化工程とを備える。硬化工程は、塗布工程の後に実施される。
【0123】
[準備工程]
準備工程では、雄ねじ部41を含むピン接触表面400を含むピン40と、雌ねじ部51を含むボックス接触表面500を含むボックス50とを含む管本体10を備える油井用金属管1を準備する。上述のとおり、本実施形態による油井用金属管1は、周知の構成を有する。すなわち、準備工程では、周知の構成を有する油井用金属管1を準備すればよい。
【0124】
[塗布工程]
塗布工程では、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の上に、樹脂、固体潤滑粉末及びフタロシアニン銅を含有する組成物を塗布する。組成物は、上述の樹脂被膜100を形成するための組成物である。組成物は、樹脂、固体潤滑粉末及びフタロシアニン銅を含有する。樹脂被膜100を形成するための組成物の溶媒を除いた組成は、上述の樹脂被膜100の組成と同じである。
【0125】
無溶媒型の組成物はたとえば、樹脂を加熱して溶融状態とし、固体潤滑粉末及びフタロシアニン銅を添加して混練することにより製造できる。全ての成分を粉末状として混合した粉末混合物を組成物としてもよい。
【0126】
溶媒型の組成物はたとえば、溶媒中に、樹脂、固体潤滑粉末及びフタロシアニン銅を溶解又は分散させて混合することにより製造できる。溶媒はたとえば、水、アルコール、及び、有機溶剤である。溶媒は、微量の界面活性剤を含んでもよい。溶媒の割合は特に限定されない。溶媒の割合は、塗布方法に応じて組成物が適正な粘性になるよう調整すればよい。溶媒の割合はたとえば、溶媒以外の全成分の合計を100質量%とした場合に、40~60質量%である。
【0127】
ピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500の上に、組成物を塗布する方法は特に限定されず、周知の方法でよい。無溶媒型の組成物の場合、たとえば、ホットメルト法を用いて、ピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500の上に組成物を塗布できる。ホットメルト法では、組成物を加熱して樹脂を溶融させ、低粘度の流動状態にする。流動状態の組成物を、温度保持機能を有するスプレーガンから噴霧する。組成物をピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500の上に塗布する方法は、スプレー塗布に替えて、刷毛塗り及び浸漬等でもよい。なお、組成物の加熱温度は、樹脂の融点より10~50℃高い温度とすることが好ましい。
【0128】
溶媒型の組成物の場合、たとえば、溶液状態となった組成物を、スプレーによってピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500の上に塗布できる。この場合、組成物は、常温及び常圧の環境下でスプレー塗布できるように、粘度が調整される。組成物をピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500の上に塗布する方法は、スプレー塗布に替えて、刷毛塗り及び浸漬等でもよい。
【0129】
[硬化工程]
硬化工程では、塗布された組成物を硬化して樹脂被膜100を形成する。無溶媒型の組成物の場合、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の上に塗布された組成物を冷却することにより、溶融状態の組成物が硬化して固体の樹脂被膜100が形成される。この場合、冷却方法は特に限定されず、周知の方法でよい。冷却方法は、たとえば、大気放冷及び空冷である。溶媒型の組成物の場合、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の上に塗布された組成物を乾燥させることにより、組成物が硬化して固体の樹脂被膜100が形成される。この場合、乾燥方法は特に限定されず、周知の方法でよい。乾燥方法は、たとえば、自然乾燥、低温送風乾燥及び真空乾燥である。また、樹脂が熱硬化性樹脂である場合、組成物を熱硬化処理により硬化させて固体の樹脂被膜100を形成してもよい。
【0130】
以上の製造工程により、本実施形態の油井用金属管1が製造される。
【0131】
[任意の製造工程]
本実施形態の油井用金属管1の製造方法はさらに、めっき層形成工程、化成処理工程、防錆樹脂被膜形成工程、及び、下地処理工程のいずれか1工程以上を含んでもよい。これらの工程はいずれも任意の工程である。したがって、これらの工程は実施しなくてもよい。
【0132】
[めっき層形成工程]
本実施形態による油井用金属管1の製造方法はさらに、塗布工程の前に、めっき層形成工程を備えてもよい。めっき層形成工程を実施する場合、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の上にめっき層80を形成する。
【0133】
めっき層80を形成する方法は特に限定されず、周知の方法でよい。めっき層80の形成は、電解めっきでもよいし、無電解めっきでもよい。たとえば、電解めっきによりZn-Ni合金めっき層を形成する場合、めっき浴は亜鉛イオン及びニッケルイオンを含有する。めっき浴の組成は好ましくは、亜鉛イオン:1~100g/L及びニッケルイオン:1~50g/Lを含有する。電解めっきの条件はたとえば、めっき浴pH:1~10、めっき浴温度:20~60℃、電流密度:1~100A/dm2及び、処理時間:0.1~50分である。たとえば、電解めっきによりCuめっき層を形成する場合、周知の方法で実施できる。
【0134】
[化成処理工程]
本実施形態による油井用金属管1の製造方法はさらに、塗布工程の前に、化成処理工程を備えてもよい。化成処理工程を実施する場合、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の上に、化成被膜90を形成する。
【0135】
化成処理の方法は特に限定されず、周知の方法でよい。化成処理は、たとえば、燐酸塩化成処理、蓚酸塩化成処理、硼酸塩化成処理、及び、クロメート処理からなる群から選択される。化成処理の処理液としては、一般的な亜鉛めっき材用の酸性燐酸塩化成処理液が使用できる。処理液として、たとえば、燐酸イオン1~150g/L、亜鉛イオン3~70g/L、硝酸イオン1~100g/L、ニッケルイオン0~30g/Lを含有する燐酸亜鉛系化成処理が使用できる。処理液として、油井用金属管1に慣用されている燐酸マンガン系化成処理液も使用できる。処理液として、市販のクロメート処理液も使用できる。処理液の液温は、たとえば、常温から100℃である。化成処理の処理時間は、所望の膜厚に応じて適宜設定でき、たとえば、0.5~15分である。化成被膜90の形成を促すため、化成処理前に、表面調整を行ってもよい。表面調整は、コロイドチタンを含有する表面調整用水溶液に浸漬する処理を意味する。化成処理工程を実施する場合、化成処理を実施した後、水洗又は湯洗してから、乾燥することが好ましい。
【0136】
なお、上述のとおり、本実施形態による油井用金属管1では、化成被膜90はピン接触表面400と、ボックス接触表面500と、めっき層80とのいずれかの上に形成される。すなわち、本実施形態による油井用金属管1の製造方法において、めっき層形成工程と化成処理工程とをいずれも実施する場合、めっき層形成工程の後、化成処理工程を実施して、その後、塗布工程を実施する。
【0137】
[防錆樹脂被膜形成工程]
本実施形態による油井用金属管1の製造方法はさらに、塗布工程の前に、防錆樹脂被膜形成工程を備えてもよい。防錆樹脂被膜形成工程を実施する場合、ピン接触表面400、ボックス接触表面500、めっき層80、及び、化成被膜90のうち、少なくとも1種の上に、防錆樹脂被膜70を形成する。
【0138】
防錆樹脂被膜70の形成方法は特に限定されず、周知の方法でよい。防錆樹脂被膜70はたとえば、防錆顔料とアクリルシリコン樹脂とを含有する組成物を、ピン接触表面400、ボックス接触表面500、めっき層80、及び、化成被膜90のうち、少なくとも1種の上に塗布して、組成物を硬化させることで形成できる。塗布方法は特に限定されず、スプレー塗布、刷毛塗り及び浸漬でもよい。防錆樹脂被膜70を形成するための組成物は溶媒を含んでもよい。防錆樹脂被膜70を形成するための組成物の溶媒を除いた組成は、上述の防錆樹脂被膜70の組成と同じである。硬化方法はたとえば、自然乾燥、低温送風乾燥及び加熱乾燥である。
【0139】
なお、上述のとおり、本実施形態による油井用金属管1では、防錆樹脂被膜70は、ピン接触表面400と、ボックス接触表面500と、めっき層80と、化成被膜90とのいずれかの上に形成される。すなわち、本実施形態による油井用金属管1の製造方法において、めっき層形成工程、化成処理工程及び防錆樹脂被膜形成工程をいずれも実施する場合、めっき層形成工程、化成処理工程、防錆樹脂被膜形成工程の順で実施し、その後、塗布工程を実施する。
【0140】
[下地処理工程]
本実施形態による油井用金属管1の製造方法はさらに、塗布工程の前に、下地処理工程を備えてもよい。めっき層形成工程を実施する場合、油井用金属管1の製造方法は、めっき層形成工程の前に下地処理工程を備えてもよい。化成処理工程を実施する場合、油井用金属管1の製造方法は、化成処理工程の前に、下地処理工程を備えてもよい。防錆樹脂被膜形成工程を実施する場合、油井用金属管1の製造方法は、防錆樹脂被膜形成工程を実施する前に、下地処理工程を実施してもよい。下地処理工程では、たとえば、酸洗処理及び/又はブラスト処理等を実施する。他には、アルカリ脱脂処理を行ってもよい。
【0141】
酸洗処理を実施する場合、たとえば、硫酸、塩酸、硝酸、フッ酸、又は、これらの混酸等の強酸液に、ピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500を浸漬して、ピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500の表面粗さを高める。ブラスト処理を実施する場合、たとえば、ブラスト材(研磨剤)と圧縮空気とを混合して、ピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500に投射する、サンドブラストを実施する。この場合、ピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500の表面粗さが高まる。
【0142】
なお、上述するめっき層形成工程、化成処理工程、及び、下地処理工程は、ピン接触表面400とボックス接触表面500とで同じ処理を実施してもよく、異なる処理を実施してもよい。また、これらの処理は、ピン接触表面400にのみ、実施されてもよく、ボックス接触表面500にのみ、実施されてもよい。
【0143】
以上の工程により、本実施形態による油井用金属管1が製造される。しかしながら、上述する製造方法は、本実施形態による油井用金属管1の製造方法の一例であって、この製造方法に限定されるものではない。本実施形態による油井用金属管1は、他の方法によって製造されてもよい。
【実施例1】
【0144】
実施例1では、油井用金属管1のピン接触表面400又はボックス接触表面500に樹脂被膜100を形成して、ハイトルク性能と耐焼付き性とを評価した。具体的には、実施例1では、日本製鉄株式会社製の油井用金属管VAM21(登録商標)HT(外径273.05mm(10.75インチ)、肉厚:12.570mm(0.495インチ))を用いた。油井用金属管の鋼種は、SM2535M110鋼(C≦0.03%、Si:≦0.50%、Mn≦1.0%、Cu≦1.5%、Ni:29.5~36.5%、Cr:24.0~27.0%、残部:Fe及び不純物)であった。
【0145】
試験番号1~12のボックス接触表面に対して、めっき層、及び、防錆樹脂被膜を含む樹脂被膜を適宜形成して、試験番号1~12のピン及びボックスを含む油井用金属管を準備した。表2中の「めっき層」欄に、形成しためっき層を示す。表2中の「めっき層」欄における「-」は、めっき層を形成しなかったことを意味する。なお、形成しためっき層は、いずれも厚さが8μmであった。めっき層の厚さの測定は、株式会社サンコウ電子研究所製の電磁膜厚計SDM-picоRを用いて、上述の方法で実施した。表2中の「防錆樹脂被膜」欄に、防錆樹脂被膜を形成したか否かを示す。表2中の「防錆樹脂被膜」欄における「形成」は、防錆樹脂被膜を形成したことを意味する。表2中の「防錆樹脂被膜」欄における「-」は、防錆樹脂被膜を形成しなかったことを意味する。なお、形成した防錆樹脂被膜は、後述する実施例4の試験番号32及び33の防錆樹脂被膜と同じであった。
【0146】
さらに、表2中の「樹脂被膜」欄に、樹脂被膜を形成したか否かを示す。表2中の「樹脂被膜」欄における「形成」は、樹脂被膜を形成したことを意味する。表2中の「樹脂被膜」欄における「-」は、樹脂被膜を形成しなかったことを意味する。なお、試験番号1~9及び11~12において、形成した樹脂被膜はいずれも、厚さが20μmであった。試験番号10において、樹脂被膜の厚さは、防錆樹脂被膜の厚さを除いて、20μmであった。樹脂被膜の厚さの測定は、株式会社サンコウ電子研究所製の電磁膜厚計SDM-picоRを用いて、上述の方法で実施した。試験番号2~9及び11~12では、樹脂被膜はいずれも、上述のめっき層の表面上に形成した。
【0147】
なお、試験番号1では、めっき層を形成しなかった。そのため、試験番号1では、ボックス接触表面の上に直接樹脂被膜を形成した。さらに、試験番号10では、防錆樹脂被膜上に樹脂被膜の上層を形成した。つまり、試験番号10では、樹脂被膜は、複層であった。各試験番号について、形成した樹脂被膜中のフタロシアニン銅の含有量を表2に示す。なお、形成した樹脂被膜はさらに、固体潤滑粉末として、1~30質量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含有し、残部は樹脂として、エポキシ樹脂を含有した。表2中の「フタロシアニン銅の含有量」欄における「-」は、樹脂被膜を形成しなかったこと、又は、形成した樹脂被膜中にフタロシアニン銅を含有しなかったことを意味する。なお、試験番号12では、形成した樹脂被膜がフタロシアニン銅を含有しなかった。試験番号12では、樹脂被膜がフタロシアニン銅の代わりにCr2O3を8.6質量%含有した。試験番号12の樹脂被膜はさらに、固体潤滑粉末として、1~30質量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含有し、残部は樹脂として、エポキシ樹脂を含有した。
【0148】
【0149】
[ボックス接触表面]
[めっき層形成工程]
表2に示すとおり、試験番号2~9及び11~12のボックス接触表面には、電気めっきによりZn-Ni合金めっき層を形成した。めっき浴は、大和化成株式会社製、ダインジンアロイN-PL(商標)を使用した。Zn-Ni合金めっき層の厚さは、8μmであった。めっき層の厚さの測定は、株式会社サンコウ電子研究所製の電磁膜厚計SDM-picоRを用いて、上述の方法で実施した。電気めっきの条件は、めっき浴pH:6.5、めっき浴温度:25℃、電流密度:2A/dm2、及び処理時間:18分であった。Zn-Ni合金めっき層の組成は、Zn:85%及びNi:15%であった。さらに得られたZn-Ni合金めっき層上に、三価クロメート被膜を形成した。三価クロメート被膜を形成するための処理液は、大和化成株式会社製、ダインクロメ-トTR-02を用いた。化成処理の条件は、浴温:25℃、pH:4.0、処理時間50秒であった。
【0150】
[塗布工程及び硬化工程]
表2に示すとおり、試験番号1~12のボックス接触表面に、樹脂被膜を形成した。試験番号2~9、11及び12では、めっき層を形成したボックス接触表面に、樹脂被膜を形成した。試験番号1では、ボックス接触表面上に直接樹脂被膜を形成した。試験番号10では防錆樹脂被膜上に樹脂被膜の上層を形成した。ボックス接触表面、Zn-Ni合金めっき層、又は、防錆樹脂被膜の上に、樹脂被膜を形成するための組成物をスプレー塗布し、硬化させた。上述のとおり、組成物中、溶媒以外の成分は、ポリテトラフルオロエチレン粒子、フタロシアニン銅を含有し、残部はエポキシ樹脂であった。組成物はさらに、溶媒を含有した。溶媒は、水、アルコール及び界面活性剤の混合溶液を使用した。ボックス表面のZn-Ni合金めっき層上に、組成物をスプレー塗布した後、210℃で20分間の熱硬化処理を行い、樹脂被膜を形成した。試験番号12では、フタロシアニン銅を使用せず、代わりにCr2O3を8.6質量%使用した。
【0151】
[ピン接触表面]
試験番号1~12のピン接触表面は、機械研削仕上げを行った。すなわち、表2に示すとおり、試験番号1~12のピン接触表面には、めっき層、樹脂被膜を形成しなかった。
【0152】
[ハイトルク性能評価]
試験番号1~12のピン接触表面及びボックス接触表面を有する油井用金属管を用いて、トルクオンショルダ抵抗ΔTを測定した。具体的には、締付け速度10rpmで締結トルク値を徐々に上昇させていき、材料が降伏したところで試験を終了させた。ねじ締めの際にトルクを測定し、
図19に示す様なトルクチャートを作成した。
図19中のTsは、ショルダリングトルクを意味する。
図19中のMTVは、線分Lと、トルクチャートとが交わるトルク値を意味する。線分Lは、ショルダリング後のトルクチャートにおける線形域の傾きと同じ傾きを持ち、同線形域と比べて回転数が0.2%多い直線である。通常、トルクオンショルダ抵抗を測定する場合には、Ty(イールドトルクTy)を使用する。しかしながら、本実施例では、イールドトルクTy(ショルダリング後におけるトルクチャートにおける、線形域と非線形域との境界)が不明瞭であった。そのため、線分Lを用いて、MTVを規定した。MTVとTsとの差分を、トルクオンショルダ抵抗ΔTとした。トルクオンショルダ抵抗ΔTは、API規格ドープを用いた場合のトルクオンショルダ抵抗ΔTを100として、相対値として求めた。結果を表2中の「ハイトルク性能」欄に示す。
【0153】
[繰り返し締結試験]
試験番号1~12のピン接触表面及びボックス接触表面を有する油井用金属管を用いて、締結トルク53800Nmで繰り返し締結試験を実施した。締結は、ねじ部(雄ねじ部及び/又は雌ねじ部)の修復不能な焼付き発生もしくは金属シール部の焼付き発生まで実施した。結果を表2中の「M&B回数(回)」欄に示す。表2の「M&B回数(回)」欄の「-」は、繰り返し締結試験を実施しなかったことを示す。
【0154】
[評価結果]
表2を参照して、試験番号1~10の油井用金属管は、ピン接触表面及びボックス接触表面の少なくとも一方の上に、樹脂、固体潤滑粉末及びフタロシアニン銅を含有する樹脂被膜を備えた。そのため、試験番号1~10のトルクオンショルダ抵抗ΔTは100以上となり、優れたハイトルク性能を示した。
【0155】
さらに、試験番号1及び3~10の油井用金属管は、樹脂被膜中のフタロシアニン銅の含有量が0.2~30.0質量%であった。そのため、試験番号1及び3~10の油井用金属管は、フタロシアニン銅の含有量が0.2質量%未満の試験番号2と比較して、トルクオンショルダ抵抗ΔTがさらに高かった。
【0156】
一方、試験番号11の油井用金属管は、ボックス接触表面上に、樹脂及び固体潤滑粉末を含有する樹脂被膜が形成されていたが、樹脂被膜がフタロシアニン銅を含有しなかった。その結果、トルクオンショルダ抵抗ΔTが65となり、ハイトルク性能が低かった。
【0157】
試験番号12の油井用金属管は、ボックス接触表面上に、樹脂及び固体潤滑粉末を含有する樹脂被膜が形成されていたが、この樹脂被膜は、フタロシアニン銅を含まず、かわりにCr2O3を含有した。その結果、トルクオンショルダ抵抗ΔTが90となり、ハイトルク性能が低かった。
【実施例2】
【0158】
実施例2では、油井用金属管を模擬した鋼板の表面に樹脂被膜を形成して、耐焼付き性を評価した。具体的に、実施例2では、冷延鋼板(化学組成は、C≦0.15%、Mn≦0.60%、P≦0.100%、S≦0.050%、残部:Fe及び不純物)を用いた。
【0159】
試験番号13~21の鋼板表面に対し、表3に示すめっき層を適宜形成した。表3中の「めっき層」欄に、形成しためっき層を示す。表3中の「めっき層」欄における「-」は、めっき層を形成しなかったことを意味する。なお、形成しためっき層は、いずれも厚さが8μmであった。試験番号13~17及び21の鋼板表面に対し、樹脂被膜を形成した。試験番号18~20は、形成しためっき層上に、樹脂被膜を形成した。なお、形成した樹脂被膜はいずれも、厚さが20μmであった。樹脂被膜の厚さの測定は、株式会社サンコウ電子研究所製の電磁膜厚計SDM-picоRを用いて実施し、同一の評価面上の9点における厚さの平均値を樹脂被膜の厚さとした。さらに、形成した樹脂被膜中のフタロシアニン銅の含有量を表3に示す。なお、形成した樹脂被膜はさらに、固体潤滑粉末として、1~30質量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含有し、残部は樹脂として、エポキシ樹脂を含有した。表3中の「フタロシアニン銅の含有量」欄における「-」は、形成した樹脂被膜中にフタロシアニン銅を含有しなかったことを意味する。
【0160】
【0161】
[めっき層形成工程]
試験番号18~20の鋼板の表面に、電気めっきによりZn-Ni合金めっき層を形成した。めっき浴は、大和化成株式会社製、ダインジンアロイN-PL(商標)を使用した。Zn-Ni合金めっき層の厚さは、8μmであった。めっき層の厚さの測定は、株式会社サンコウ電子研究所製の電磁膜厚計SDM-picоRを用いて実施し、同一の評価面上の9点における厚さの平均値をめっき層の厚さとした。電気めっきの条件は、めっき浴pH:6.5、めっき浴温度:25℃、電流密度:2A/dm2、及び処理時間:18分であった。Zn-Ni合金めっき層の組成は、Zn:85%及びNi:15%であった。さらに得られたZn-Ni合金めっき層上に、三価クロメート被膜を形成した。三価クロメート被膜を形成するための処理液は、大和化成株式会社製、ダインクロメ-トTR-02を用いた。化成処理の条件は、浴温:25℃、pH:4.0、処理時間50秒であった。
【0162】
[塗布工程及び硬化工程]
試験番号13~21の鋼板の表面に、樹脂被膜を形成した。具体的には、試験番号13~21の鋼板の表面上に、樹脂被膜を形成するための組成物をバーコーダーで塗布し、硬化させた。組成物中、溶媒以外の成分は、固体潤滑粒子と、フタロシアニン銅とを含有し、残部は樹脂であった。試験番号13~21では、樹脂として、エポキシ樹脂を用いた。試験番号13~21では、固体潤滑粒子として、ポリテトラフルオロエチレン粒子を用いた。フタロシアニン銅の含有量は、表3に示すとおりであった。組成物はさらに、溶媒を含有した。溶媒は、水、アルコール及び界面活性剤の混合溶液を使用した。めっき層がある場合、めっき層(又はその上の化成被膜)の上に、めっき層が無い場合、鋼板表面上に、組成物をバーコーダーで塗布した後、210℃で20分間の熱硬化処理を行い、樹脂被膜を形成した。
【0163】
[バウデン試験]
樹脂被膜を形成した試験番号13~21の鋼板を用いて、バウデン試験を実施して、耐焼付き性を評価した。具体的には、試験番号13~21の樹脂被膜の表面において、鋼球を摺動させて、摩擦係数を求めた。鋼球は、3/16インチ径であり、化学組成は、JIS規格のSUJ2に相当した。荷重は3kgf(ヘルツ面圧:平均1.56GPa)とした。摺動幅は10mm、摺動速度は4mm/秒とした。摺動は無塗油、室温にて実施した。摺動中の鋼球の摩擦係数μを測定し、摩擦係数μが0.3(樹脂被膜と鋼球との摩擦係数に相当)を超えるまでの摺動回数(往復回数、つまり、10mmの範囲を1往復摺動すると「1回」とカウント)を測定した。試験には、神鋼造機(株)製のバウデン式附着滑り試験機を使用した。結果を表3の摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数の欄に示す。
【0164】
[評価結果]
表3を参照して、試験番号13~20の鋼板は、表面上に樹脂、固体潤滑粉末、及び、フタロシアニン銅を含有する樹脂被膜を備えた。表3を参照してさらに、試験番号14~16、及び、18~20の鋼板に形成された樹脂被膜は、フタロシアニン銅の含有量が0.2~9.0質量%であった。その結果、試験番号14~16、及び、18~20の鋼板は、樹脂被膜中にフタロシアニン銅を含有しない試験番号21、及び、樹脂被膜中のフタロシアニン銅の含有量が0.2~9.0質量%の範囲外である試験番号13及び17の鋼板と比較して、摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数が多かった。すなわち、優れた耐焼付き性を示した。
【実施例3】
【0165】
実施例3では、実施例2と同様に、油井用金属管を模擬した鋼板の表面に樹脂被膜を形成して、耐焼付き性を評価した。具体的に、実施例3では、冷延鋼板(化学組成は、C≦0.15%、Mn≦0.60%、P≦0.100%、S≦0.050%、残部:Fe及び不純物)を用いた。
【0166】
試験番号22~31の鋼板表面に対し、表4に示すめっき層を適宜形成した。表4中の「めっき層」欄に、形成しためっき層を示す。表4中の「めっき層」欄における「-」は、めっき層を形成しなかったことを意味する。なお、形成しためっき層は、いずれも厚さが8μmであった。めっき層の厚さの測定は、株式会社サンコウ電子研究所製の電磁膜厚計SDM-picоRを用いて実施し、同一の評価面上の9点における厚さの平均値をめっき層の厚さとした。試験番号22~29及び31の鋼板表面に対し、化成被膜を形成した。表4中の「化成被膜」欄に、形成した化成被膜を示す。表5には、「化成被膜」欄の化成被膜のうち、被膜A~Dの形成に用いた、化成処理液と、処理温度と、処理時間とを示す。なお、表4中の「化成被膜」欄の「三価クロメート」とは、三価クロメート被膜を形成したことを意味する。三価クロメート被膜については、後述する。
【0167】
【0168】
【0169】
試験番号22~31のめっき層上又は化成被膜上に、樹脂被膜を形成した。なお、形成した樹脂被膜はいずれも、厚さが20μmであった。樹脂被膜の厚さの測定は、株式会社サンコウ電子研究所製の電磁膜厚計SDM-picоRを用いて実施し、同一の評価面上の9点における厚さの平均値を樹脂被膜の厚さとした。なお、形成した樹脂被膜は表4に示す含有量のフタロシアニン銅を含有し、さらに、固体潤滑粉末として、1~30質量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含有し、残部は樹脂として、エポキシ樹脂を含有した。
【0170】
[めっき層形成工程]
試験番号30及び31の鋼板の表面に、電気めっきによりZn-Ni合金めっき層を形成した。めっき浴は、大和化成株式会社製、ダインジンアロイN-PL(商標)を使用した。Zn-Ni合金めっき層の厚さは、8μmであった。めっき層の厚さの測定は、株式会社サンコウ電子研究所製の電磁膜厚計SDM-picоRを用いて実施し、同一の評価面上の9点における厚さの平均値をめっき層の厚さとした。電気めっきの条件は、めっき浴pH:6.5、めっき浴温度:25℃、電流密度:2A/dm2、及び処理時間:18分であった。Zn-Ni合金めっき層の組成は、Zn:85%及びNi:15%であった。
【0171】
[化成被膜形成工程]
試験番号22~29及び31の鋼板又はめっき層の表面に、化成被膜を形成した。具体的に、被膜A~Dの化成処理液は、表5に記載の化成処理液を使用した。三価クロメート被膜を形成するための処理液は、大和化成株式会社製、ダインクロメ-トTR-02を用いた。被膜A~Dの化成処理の条件は、表5に記載のとおりであった。三価クロメート被膜を形成するための化成処理の条件は、浴温:25℃、pH:4.0、処理時間50秒であった。
【0172】
[塗布工程及び硬化工程]
試験番号22~31のめっき層又は化成被膜の表面に、樹脂被膜を形成した。具体的には、試験番号22~31のめっき層又は化成被膜の表面上に、樹脂被膜を形成するための組成物をバーコーダーで塗布し、硬化させた。組成物中、溶媒以外の成分は、固体潤滑粒子と、フタロシアニン銅とを含有し、残部は樹脂であった。試験番号22~31では、樹脂として、エポキシ樹脂を用いた。試験番号22~31では、固体潤滑粒子として、ポリテトラフルオロエチレン粒子を用いた。フタロシアニン銅の含有量は、表4に示すとおりであった。組成物はさらに、溶媒を含有した。溶媒は、水、アルコール及び界面活性剤の混合溶液を使用した。化成被膜がある場合、化成被膜の上に、化成被膜が無い場合、めっき層の上に、組成物をバーコーダーで塗布した後、210℃で20分間の熱硬化処理を行い、樹脂被膜を形成した。
【0173】
[ピンオンディスク試験]
樹脂被膜を形成した試験番号22~31の鋼板を用いて、ピンオンディスク型摺動試験機により耐焼付き性を評価した。具体的には、回転ディスク上に貼り付けた試験番号22~31の鋼板に対して、鋼球を60Nで押し付けたまま、回転ディスクを100rpmで回転させた。回転ディスクの回転方向は、一方向のみとした。なお、回転ディスクを回転させることによる、樹脂被膜に対する鋼球の摺動は、無塗油、室温にて実施した。摺動中の鋼球の摩擦係数μを測定し、摩擦係数μが0.6(樹脂被膜と鋼球との摩擦係数に相当)を超えるまでの摺動距離(m)を測定した。結果を表4の摩擦係数が0.6を超えるまでの摺動距離の欄に示す。
【0174】
[評価結果]
表4を参照して、試験番号22~31の鋼板は、表面上に樹脂、固体潤滑粉末、及び、フタロシアニン銅を含有する樹脂被膜を備えた。表4を参照してさらに、試験番号22~31の鋼板に形成された樹脂被膜は、フタロシアニン銅の含有量が0.2~9.0質量%であった。その結果、摩擦係数が0.6を超えるまでの摺動距離が長かった。すなわち、優れた耐焼付き性を示した。
【0175】
試験番号22~29及び31の鋼板は、樹脂被膜の下層に化成被膜を備えた。その結果、樹脂被膜の下層に化成被膜を備えない試験番号30の鋼板と比較して、摩擦係数が0.6を超えるまでの摺動距離がさらに長かった。すなわち、さらに優れた耐焼付き性を示した。
【0176】
試験番号22~29の鋼板は、化成被膜として被膜A~Dを備えた。その結果、化成被膜として三価クロメート被膜を備えた試験番号31の鋼板と比較して、摩擦係数が0.6を超えるまでの摺動距離がさらに長かった。すなわち、さらに優れた耐焼付き性を示した。
【実施例4】
【0177】
実施例4では、油井用金属管を模擬した鋼板の表面に樹脂被膜を形成して、耐焼付き性を評価した。具体的に、実施例4では、冷延鋼板(化学組成は、C≦0.15%、Mn≦0.60%、P≦0.100%、S≦0.050%、残部:Fe及び不純物)を用いた。
【0178】
試験番号32~34の鋼板表面に対し、表6に示す防錆樹脂被膜を含む樹脂被膜、又は、樹脂被膜を形成した。表6の防錆樹脂被膜の欄の「形成」は、鋼板表面に防錆樹脂被膜を形成したことを示す。表6の防錆樹脂被膜の欄の「-」は、鋼板表面に防錆樹脂被膜を形成しなかったことを示す。
【0179】
【0180】
[防錆樹脂被膜形成工程]
試験番号32及び33の鋼板の表面に、防錆樹脂被膜を形成した。防錆樹脂被膜を形成するための組成物は、防錆顔料を8質量%、アクリルシリコン樹脂を70質量%含有した。防錆樹脂被膜を形成するための組成物はさらに、溶媒を含有した。防錆樹脂被膜を形成するための組成物を、試験番号32及び33の鋼板の表面にスプレー塗布し、自然乾燥により硬化させた。試験番号32の防錆樹脂被膜の厚さは13μm、試験番号33の防錆樹脂被膜の厚さは11μmであった。防錆樹脂被膜の厚さの測定は、株式会社サンコウ電子研究所製の電磁膜厚計SDM-picоRを用いて実施し、同一の評価面上の9点における厚さの平均値を樹脂被膜の厚さとした。
【0181】
[塗布工程及び硬化工程]
試験番号32及び33について、防錆樹脂被膜の表面に、樹脂被膜の上層を形成した。試験番号34について、鋼板の表面に樹脂被膜を形成した。具体的には、試験番号32~34の鋼板の表面上又は防錆樹脂被膜の表面上に、樹脂被膜を形成するための組成物をバーコーダーで塗布し、硬化させた。組成物中、溶媒以外の成分は、固体潤滑粒子と、フタロシアニン銅とを含有し、残部は樹脂であった。樹脂として、エポキシ樹脂を用いた。固体潤滑粒子として、ポリテトラフルオロエチレン粒子を用いた。フタロシアニン銅の含有量は、表6に示すとおりであった。組成物はさらに、溶媒を含有した。溶媒は、水、アルコール及び界面活性剤の混合溶液を使用した。防錆樹脂被膜がある場合は防錆樹脂被膜の上に、防錆樹脂被膜が無い場合は鋼板の表面上に、組成物をバーコーダーで塗布した後、210℃で20分間の熱硬化処理を行い、樹脂被膜を形成した。形成した樹脂被膜は、固体潤滑粉末として、1~30質量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含有し、残部は樹脂として、エポキシ樹脂を含有した。
【0182】
なお、試験番号32の樹脂被膜の厚さは35.5μm、試験番号33の樹脂被膜の厚さは33.0μm、試験番号34の樹脂被膜の厚さは26.8μmであった。なお、上述のとおり、試験番号32及び33の樹脂被膜は、防錆樹脂被膜を含んでいた。つまり、試験番号32の樹脂被膜の上層の厚さは22.5μm、試験番号33の樹脂被膜の上層の厚さは22.0μmであった。樹脂被膜の厚さの測定は、株式会社サンコウ電子研究所製の電磁膜厚計SDM-picоRを用いて実施し、同一の評価面上の9点における厚さの平均値を樹脂被膜の厚さとした。
【0183】
[塩水噴霧試験]
樹脂被膜を形成した試験番号32~34の鋼板を用いて、塩水噴霧試験(SST)を実施した。塩水噴霧試験には、スガ試験機株式会社製、塩乾湿複合サイクル試験機CY90を使用した。塩水噴霧試験は、JIS Z 2371(2015)に準拠した。試験条件は、噴霧NaCl濃度5±0.5%、噴霧量1.5±0.5mL/h/80cm2、温度35±2℃、試験中pH6.5~7.2であった。本実施例では、樹脂被膜の膨れが生じた時間を、発錆時間とする。得られた各試験番号の発錆時間(時間)を、表6に示す。
【0184】
[評価結果]
表6を参照して、試験番号32~34の鋼板は、表面上に樹脂、固体潤滑粉末、及び、フタロシアニン銅を含有する樹脂被膜を備えた。
【0185】
試験番号32及び33の鋼板は、樹脂被膜中に防錆樹脂被膜を備えた。その結果、樹脂被膜中に防錆樹脂被膜を備えない試験番号34の鋼板と比較して、錆が生じるまでの時間が長かった。すなわち、優れた耐食性を示した。
【0186】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0187】
1 油井用金属管
10 管本体
10A 第1端部
10B 第2端部
11 ピン管体
12 カップリング
40 ピン
41 雄ねじ部
42 ピンシール面
43 ピンショルダ面
50 ボックス
51 雌ねじ部
52 ボックスシール面
53 ボックスショルダ面
70 防錆樹脂被膜
80 めっき層
90 化成被膜
100 樹脂被膜
400 ピン接触表面
500 ボックス接触表面