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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】液圧ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04B 1/2064 20200101AFI20241107BHJP
【FI】
F04B1/2064
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022552111
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2021035492
(87)【国際公開番号】W WO2022065501
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2020162500
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 毅
(72)【発明者】
【氏名】三浦 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】平野 靖典
(72)【発明者】
【氏名】牧野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 優弥
【審査官】西山 智宏
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-202774(JP,U)
【文献】国際公開第2006/085547(WO,A1)
【文献】特開2000-097147(JP,A)
【文献】米国特許第06024541(US,A)
【文献】特開平10-231778(JP,A)
【文献】特開2011-236847(JP,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2015-0003096(KR,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/2064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入ポートおよび吐出ポートが形成されたバルブプレートと、
前記バルブプレートが取り付けられた、前記吸入ポートと連通する吸入路および前記吐出ポートと連通する吐出路が形成されたバルブカバーと、
前記バルブプレートと摺動する、複数のシリンダボアに複数のピストンがそれぞれ挿入されたシリンダブロックと、を備え、
前記バルブカバーには、連通路を通じて前記吐出路と連通し、ヘルムホルツ共鳴器として機能する第1チャンバーと、導入路を通じて前記吐出路または前記第1チャンバーと連通する第2チャンバーが形成され、
前記バルブカバーおよび前記バルブプレートには、前記第2チャンバーから前記バルブプレートにおける前記吸入ポートと前記吐出ポートの間の下死点側閉塞面まで延びる供給路が形成され、前記シリンダボアが前記供給路と連通したときに前記供給路を通じて前記第2チャンバーから前記シリンダボアへ作動液が供給される、液圧ポンプ。
【請求項2】
前記導入路の少なくとも一部は絞りとして機能する、請求項1に記載の液圧ポンプ。
【請求項3】
前記供給路の少なくとも一部は絞りとして機能する、請求項1または2に記載の液圧ポンプ。
【請求項4】
前記導入路の少なくとも一部は第1絞りとして機能し、
前記供給路の少なくとも一部は第2絞りとして機能し、
前記第2絞りの断面積は前記第1絞りの断面積よりも大きい、請求項1に記載の液圧ポンプ。
【請求項5】
前記第1チャンバーおよび前記第2チャンバーは、前記吸入路と前記吐出路の間に配置されている、請求項1~の何れか一項に記載の液圧ポンプ。
【請求項6】
前記バルブカバーは、前記シリンダブロックを貫通する回転シャフトを回転可能に支持する軸受けと嵌合する凹部を有し、
前記第1チャンバーの少なくとも一部および前記第2チャンバーの少なくとも一部は、前記凹部、前記吸入路および前記吐出路で囲まれる領域内に位置する、請求項に記載の液圧ポンプ。
【請求項7】
前記第1チャンバーと前記第2チャンバーは、前記シリンダブロックを貫通する回転シャフトの軸方向に並んでいる、請求項1~の何れか一項に記載の液圧ポンプ。
【請求項8】
前記第2チャンバーは、前記バルブプレートと前記第1チャンバーの間に位置する、請求項に記載の液圧ポンプ。
【請求項9】
前記シリンダブロックを貫通する回転シャフトをさらに備え、
前記第2チャンバーは、前記回転シャフトの軸方向から見たときに、前記下死点側閉塞面と、前記バルブプレートにおける前記吸入ポートと前記吐出ポートの間の上死点側閉塞面とに跨るように延びている、請求項1~の何れか一項に記載の液圧ポンプ。
【請求項10】
前記第2チャンバーの容積は、前記第1チャンバーの容積よりも小さい、請求項1~の何れか一項に記載の液圧ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシャルピストンポンプである液圧ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アキシャルピストンポンプである液圧ポンプが知られている。この液圧ポンプは、吸入ポートおよび吐出ポートが形成されたバルブプレートと、バルブプレートと摺動するシリンダブロックを含む。シリンダブロックには複数のシリンダボアが形成されており、これらのシリンダボアに複数のピストンがそれぞれ挿入されている。
【0003】
各シリンダボアでは、当該シリンダボアが吸入ポートと連通した状態でピストンがバルブプレートから遠ざかる方向に移動することで吸入が行われ、当該シリンダボアが吐出ポートと連通した状態でピストンがバルブプレートに近づく方向に移動することで吐出が行われる。ピストンがバルブプレートから最も遠ざかる位置が下死点であり、ピストンがバルブプレートに最も近づく位置が上死点である。
【0004】
シリンダボアが吸入ポートと連通した状態ではシリンダボアの圧力は低圧である。一方、シリンダボアが吐出ポートと連通すると、シリンダボアの圧力が高圧となる。従って、シリンダボアが吐出ポートと連通した直後(すなわち、連通開始時)に、吐出圧力に脈動が生じる。
【0005】
上記のようなシリンダボアの吐出ポートとの連通開始時の吐出圧力の脈動を低減する方法としては、下死点近傍でシリンダボアに吐出圧力を導入する方法がある。
【0006】
例えば、特許文献1には、バルブプレートが取り付けられたバルブカバー(特許文献1では、「ケース」と称呼)に、吸入ポートと連通する吸入路および吐出ポートと連通する吐出路が形成された液圧ポンプが開示されている。吐出路は第1連通路によりチャンバーと接続され、このチャンバーからバルブプレートにおける吸入ポートと吐出ポートの間の下死点側閉塞面(特許文献1では「摺動面」と称呼)まで第2連通路が延びている。第1連通路には開閉弁が設けられており、この開閉弁は基本周波数R[Hz](R=S×N/60、S:ピストン数、N:ポンプ回転数[rpm])以上の周波数で開閉する。この構成により、シリンダボアの吸入ポートとの連通終了後であって吐出ポートとの連通開始前に、シリンダボアに吐出圧力が導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平3-85381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、吐出圧力の脈動は、液圧ポンプの回転数に応じた周波数を有する。このため、特許文献1に開示された液圧ポンプのように下死点近傍でシリンダボアに吐出圧力を導入するだけでは、広い回転数範囲で吐出圧力の脈動を低減することはできない。
【0009】
そこで、本発明は、広い回転数範囲で吐出圧力の脈動を低減することができる液圧ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の液圧ポンプは、吸入ポートおよび吐出ポートが形成されたバルブプレートと、前記バルブプレートが取り付けられた、前記吸入ポートと連通する吸入路および前記吐出ポートと連通する吐出路が形成されたバルブカバーと、前記バルブプレートと摺動する、複数のシリンダボアに複数のピストンがそれぞれ挿入されたシリンダブロックと、を備え、前記バルブカバーには、連通路を通じて前記吐出路と連通し、ヘルムホルツ共鳴器として機能する第1チャンバーと、導入路を通じて前記吐出路または前記第1チャンバーと連通する第2チャンバーが形成され、前記バルブカバーおよび前記バルブプレートには、前記第2チャンバーから前記バルブプレートにおける前記吸入ポートと前記吐出ポートの間の下死点側閉塞面まで延びる供給路が形成されている、ことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、バルブカバーに形成された第2チャンバーには導入路を通じて吐出圧力が導入される。第2チャンバーからは下死点側閉塞面まで供給路が延びているので、下死点近傍でシリンダボアに吐出圧力を導入することができる。このような第2チャンバーによって、吐出圧力における比較的に低い周波数の脈動を低減することができる。さらに、バルブカバーには、ヘルムホルツ共鳴器として機能する第1チャンバーが形成されているので、この第1チャンバーによって、吐出圧力における比較的に高い周波数の脈動を低減することができる。その結果、広い回転数範囲で吐出圧力の脈動を低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、広い回転数範囲で吐出圧力の脈動を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る液圧ポンプの縦断面図である。
図2図1のII-II線に沿った横断面図である。
図3図2のIII-III線に沿った平面断面図である。
図4】変形例の液圧ポンプの横断面図である。
図5図4のV-V線に沿った平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1~3に、本発明の一実施形態に係る液圧ポンプ1を示す。この液圧ポンプ1は、アキシャルピストンポンプである。本実施形態では液圧ポンプ1が斜板ポンプであるが、液圧ポンプ1は斜軸ポンプであってもよい。
【0015】
具体的に、液圧ポンプ1は、回転シャフト11と、回転シャフト11に貫通された容器状のケーシング15と、ケーシング15の開口を閉塞するバルブカバー7を含む。ケーシング15の外側に位置する回転シャフト11の一端は、図略の原動機(エンジンまたは電動機)と連結される。回転シャフト11は、原動機により一方向(本実施形態では、図2で時計回り)に回転される。なお、図2および図3では、図面の簡略化のために回転シャフト11および後述する軸受け13を省略している。
【0016】
ケーシング15には、回転シャフト11の中間を回転可能に支持する軸受け12が保持されている。バルブカバー7には、回転シャフト11の他端を回転可能に支持する軸受け13が保持されている。以下では、説明の便宜上、回転シャフト11の軸方向を前後方向(原動機と連結される一端側を前方、その反対の他端側を後方)という。
【0017】
ケーシング15とバルブカバー7とで囲まれる空間内には、バルブプレート6、シリンダブロック2および斜板5が配置されている。バルブプレート6、シリンダブロック2および斜板5は、回転シャフト11に貫通されている。
【0018】
バルブプレート6は、バルブカバー7の前面に取り付けられている。バルブプレート6には、図2に示すように、円弧状の吸入ポート61および吐出ポート62が形成されている。回転シャフト11の回転方向において、吸入ポート61の下流側であって吐出ポート62の上流側に位置する面が下死点側閉塞面64である。回転シャフト11の回転方向において、吐出ポート62の下流側であって吸入ポート61の上流側に位置する面が上死点側閉塞面63である。換言すれば、下死点側閉塞面64および上死点側閉塞面63は、双方共に吸入ポート61と吐出ポート62の間の面である。
【0019】
本実施形態では、吸入ポート61の長さが吐出ポート62の長さよりも長い。ただし、吸入ポート61および吐出ポート62の長さは同じであってもよい。また、図示は省略するが、上死点側閉塞面63には吸入ポート61を回転シャフト11の回転方向と逆方向に延長するノッチが形成されてもよいし、下死点側閉塞面64には吐出ポート62を回転シャフト11の回転方向と逆方向に延長するノッチが形成されてもよい。なお、吸入ポート61および/または吐出ポート62を延長するものであれば、ノッチ以外の構成(例えば、コンジット穴)も採用可能である。
【0020】
シリンダブロック2は、回転シャフト11に固定されており、バルブプレート6と摺動する。シリンダブロック2には、前向きに開口する複数のシリンダボア21が形成されており、これらのシリンダボア21には、複数のピストン3がそれぞれ挿入されている。
【0021】
さらには、シリンダブロック2には、シリンダボア21ごとに、当該シリンダボア21を吸入ポート61または吐出ポート62と連通するためのシリンダポート22が形成されている。シリンダポート22は、回転シャフト11の回転に伴って、吸入ポート61と連通する状態、下死点側閉塞面64により閉塞される状態、吐出ポート62と連通する状態、上死点側閉塞面63により閉塞される状態にこの順に切り換えられる。
【0022】
ただし、シリンダポート22は、吸入ポート61と吐出ポート62との間に位置するときに、必ずしも下死点側閉塞面64または上死点側閉塞面63によって完全に閉塞される必要はなく、瞬間的に吸入ポート61および吐出ポート62の双方と連通してもよい。
【0023】
以下、説明の便宜上、上死点と下死点とを結ぶ方向を上下方向、この上下方向および前後方向と直交する方向を左右方向という。つまり、吸入ポート61と吐出ポート62とは左右方向に互いに離間している。
【0024】
斜板5は、左右方向に平行な摺動面を有する。斜板5の摺動面は、左右方向から見たときに、当該摺動面がバルブプレート6の上死点側閉塞面63に向かって近づき、バルブプレート6の下死点側閉塞面64から遠ざかるように傾いている。斜板5は、ケーシング15に設けられた図略のサポートにより支持されている。
【0025】
上述したピストン3のそれぞれの先端には、斜板5の摺動面上を摺動するシュー4が取り付けられている。シュー4は、斜板5の摺動面に接触した状態が維持されるように、図略の押え部材によって押えられている。なお、斜板5とシュー4との間にはシュープレートが介在してもよい。
【0026】
バルブカバー7には、バルブプレート6の吸入ポート61と連通する吸入路71と、吐出ポート62と連通する吐出路72が形成されている。本実施形態では、吸入路71および吐出路72がバルブカバー7の側面に開口している。図例では、吸入路71および吐出路72が、前面から後方に延びた後に90度折れ曲がっている。また、バルブカバー7の前面には、吸入路71と吐出路72の間に凹部75が設けられており、この凹部75に軸受け13が嵌合している。
【0027】
さらに、バルブカバー7には、第1チャンバー8および第2チャンバー9が形成されている。本実施形態では、第1チャンバー8および第2チャンバー9が吸入路71と吐出路72の間に配置されている。すなわち、吸入路71と吐出路72の間の断面台形状の空間を利用して、第1チャンバー8および第2チャンバー9が形成されている。
【0028】
第1チャンバー8および第2チャンバー9は、本実施形態では、上下方向に延びる、角が丸められた直方体状である。ただし、第1チャンバー8および第2チャンバー9の形状はこれに限られず、適宜変更可能である。
【0029】
本実施形態では、第2チャンバー9の容積が第1チャンバー8の容積よりも小さい。ただし、第2チャンバー9の容積は、第1チャンバー8の容積と同じであってもよいし、第1チャンバー8の容積よりも大きくてもよい。
【0030】
第2チャンバー9は、前後方向から見たときに、下死点側閉塞面64と上死点側閉塞面63とに跨るように上下方向に延びている。換言すれば、第2チャンバー9は、前後方向から見たときに、下死点側閉塞面64および上死点側閉塞面63と重なり合う。ただし、第2チャンバー9は、前後方向から見たときに、下死点側閉塞面64のみと重なり合ってもよい。
【0031】
第1チャンバー8は、本実施形態では、上下方向の長さ、左右方向の幅、および前後方向の奥行の全てにおいて第2チャンバー9よりも大きい。すなわち、第2チャンバー9と同様に、第1チャンバー8も、前後方向から見たときに、下死点側閉塞面64と上死点側閉塞面63とに跨っている。ただし、第1チャンバー8の長さ、幅および奥行きの何れかが第2チャンバー9のそれよりも小さくてもよい。
【0032】
本実施形態では、第2チャンバー9の長さが凹部75の直径よりも大きい。このため、第2チャンバー9の中央部および第1チャンバー8の中央部が、凹部75、吸入路71および吐出路72で囲まれる領域内に位置する。ただし、第2チャンバー9の長さが凹部75の直径よりも小さく設定され、第2チャンバー9の全体が、凹部75、吸入路71および吐出路72で囲まれる領域内に位置してもよい。同様に、第1チャンバー8の長さが凹部75の直径よりも小さく設定され、第1チャンバー8の全体が、凹部75、吸入路71および吐出路72で囲まれる領域内に位置してもよい。
【0033】
第1チャンバー8と第2チャンバー9は、前後方向に並んでいる。換言すれば、前後方向から見たときに、第1チャンバー8と第2チャンバー9とが重なり合っている。より詳しくは、容積の小さい第2チャンバー9が前方に位置し、容積の大きい第1チャンバー8が後方に位置する。換言すれば、第2チャンバー9が第1チャンバー8とバルブプレート6の間に位置する。ただし、第1チャンバー8と第2チャンバー9は、左右方向に並んでもよいし、上下方向に並んでもよい。第1チャンバー8と第2チャンバー9とが前後方向に並んでいれば、後述する導入路91と供給路93とが同軸上に位置する場合に、導入路91と供給路93とを同時に加工することができる。
【0034】
第1チャンバー8は、吐出路72と連通する。バルブカバー7には、第1チャンバー8を吐出路72と連通させる連通路81が形成されている。本実施形態では、連通路81が、吐出路72の屈曲面に開口するように左右方向に延びている。このような構成であれば、吐出路72の下流側開口を通じて、ドリルなどを用いた加工によって連通路81を形成することができる。ただし、連通路81の向きおよび位置は特に限定されるものではない。
【0035】
第1チャンバー8は、ヘルムホルツ共鳴器として機能するものである。すなわち、連通路81の直径および長さ、ならびに第1チャンバー8の容積は、所定の共鳴周波数が得られるように設計される。
【0036】
連通路81は、直線状であることが望ましい。連通路81が屈曲していると共鳴効果が低下するためである。また、連通路81の断面積は、ある程度大きいことが望ましい。
【0037】
第1チャンバー8には、吐出圧力を直接ダンピングするために、ある程度大きな容積が必要になる。例えば、第1チャンバー8の上下方向の長さは、上述したように当該第1チャンバー8が前後方向から見たときに下死点側閉塞面64と上死点側閉塞面63とに跨るように、バルブプレート6の吸入ポート61と吐出ポート62の内接円(吸入ポート61の内側円弧部と吐出ポート62の内側円弧部を通る円)の直径よりも大きいことが望ましい。第1チャンバー8の上下方向の長さは、バルブプレート6の吸入ポート61の中心と吐出ポート62の中心を通る円の直径(吸入ポート61と吐出ポート62の内接円の直径と外接円の直径の平均値)よりも大きいことがより望ましく、バルブプレート6の外径よりも大きいことがさらに望ましい。
【0038】
第2チャンバー9は、本実施形態では、第1チャンバー8と連通する。バルブカバー7には、第2チャンバー9を第1チャンバー8と連通させる導入路91が形成されている。本実施形態では、導入路91が前後方向に延びている。ただし、導入路91の向きは特に限定されるものではない。また、導入路91の位置も特に限定されるものではない。
【0039】
本実施形態では、導入路91の一部が絞り92として機能する。絞り92は、オリフィスであってもよいし、チョークであってもよい。絞り92がチョークである場合、導入路91の全長が絞り92として機能してもよい。
【0040】
さらに、バルブカバー7およびバルブプレート6には、第2チャンバー9から下死点側閉塞面64まで延びる供給路93が形成されている。本実施形態では、供給路93が前後方向に延びている。ただし、供給路93の向きは特に限定されるものではない。また、供給路93の位置も特に限定されるものではない。
【0041】
本実施形態では、供給路93の一部が絞り94として機能する。絞り94は、オリフィスであってもよいし、チョークであってもよい。絞り94は、バルブカバー7とバルブプレート6のどちらに形成されてもよい。あるいは、絞り94がチョークである場合、供給路93の全長が絞りとして機能してもよい。
【0042】
第2チャンバー9は、吐出圧力を蓄積するアキュムレータとして機能し、その吐出圧力を供給路93を通じて下死点近傍でシリンダボア21へ供給する。第2チャンバー9の容積は、シリンダボア21への作動液の吐き出しが可能となる程度でよい。
【0043】
絞り92は、第2チャンバー9への作動液の流入量およびその流入量の変動を制限するためのものである。このような観点からは、絞り92の断面積(導入路91の最小断面積)はある程度小さいことが望ましい。一方、絞り94は、第2チャンバー9からの作動液の流出量を制限するためのものである。このような観点からは、絞り94の断面積(供給路93の最小断面積)はそれほど小さい必要はない。例えば、絞り94の断面積は、絞り92の断面積よりも大きい。
【0044】
シリンダブロック2の回転に伴ってあるシリンダボア21が下死点近傍でシリンダポート22を通じて供給路93と連通すると、供給路93を通じて第2チャンバー9からシリンダボア21へ作動液が供給される。このとき、絞り94によって適切な量の作動液が供給される。一方、第2チャンバー9からの作動液の流出によって第2チャンバー9内に圧力変動が生じるが、その圧力変動が第1チャンバー8を通じて吐出路72へ伝わることが絞り92によって抑制される。
【0045】
以上説明した構成の液圧ポンプ1では、バルブカバー7に形成された第2チャンバー9には連通路81、第1チャンバー8および導入路91を通じて吐出圧力が導入される。第2チャンバー9からは下死点側閉塞面64まで供給路93が延びているので、下死点近傍でシリンダボア21に吐出圧力を導入することができる。このような第2チャンバー9によって、吐出圧力における比較的に低い周波数の脈動を低減することができる。さらに、バルブカバー7には、ヘルムホルツ共鳴器として機能する第1チャンバー8が形成されているので、この第1チャンバー8によって、吐出圧力における比較的に高い周波数の脈動を低減することができる。その結果、広い回転数範囲で吐出圧力の脈動を低減することができる。
【0046】
しかも、本実施形態では、第2チャンバー9の容積が第1チャンバー8の容積よりも小さいので、第1チャンバー8と第2チャンバー9の大小関係をそれらに必要な容積どおりとすることができる。これにより、バルブカバー7(液圧ポンプ1)の大型化を防ぐことができる。
【0047】
ところで、特許文献1に開示された液圧ポンプでは、第1連通路に作動液が間欠的に流れるために、反って吐出圧力の脈動を助長する可能性がある。これに対し、本実施形態の液圧ポンプ1では、第1チャンバー8が連通路81を通じて吐出路72と常に連通するとともに、第2チャンバー9が導入路91、第1チャンバー8および連通路81を通じて吐出路72と常に連通するので、特許文献1の液圧ポンプのような問題が生じることはない。
【0048】
また、本実施形態では、第2チャンバー9が前後方向から見たときに下死点側閉塞面64および上死点側閉塞面63と重なり合っているので、供給路93を回転シャフト11の軸方向に平行に形成することができる。しかも、供給路93の位置を変えるだけで、回転シャフト11の回転方向がどちらの場合にも対応することができる。
【0049】
例えば、本実施形態では、回転シャフト11の回転方向が図2において時計回りであるため、下側の閉塞面が下死点側閉塞面である。本実施形態とは逆に、回転シャフト11の回転方向が図2において反時計回りである場合、上側の閉塞面が下死点側閉塞面となる(このとき、斜板5の傾斜方向も図1と逆になる)。この場合、供給路93の位置を図2の下側から上側に変更するだけでよい。
【0050】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0051】
例えば、図示は省略するが、バルブカバー7に形成される吸入路71および吐出路72がバルブカバー7の後面に開口するように吸入ポート61および吐出ポート62から略直線状に延びてもよい。この場合、バルブカバー7に形成される第1チャンバー8および第2チャンバー9は、吸入路71および吐出路72の外側にそれらを挟み込むように配置されてもよい。あるいは、吸入路71と吐出路72の一方が前記実施形態と同様に90度折れ曲がり、他方が略直線状であってもよい。
【0052】
ただし、前記実施形態のように第1チャンバー8および第2チャンバー9が吸入路71と吐出路72の間に配置されていれば、吸入路71と吐出路72の間の空間を利用して、第1チャンバー8および第2チャンバー9を形成することができる。
【0053】
また、第2チャンバー9は、必ずしも導入路91を通じて第1チャンバー8と連通する必要なない。例えば、図4および図5に示すように、第2チャンバー9が導入路91を通じて吐出路72と連通してもよい。
【0054】
前記実施形態では、バルブカバー7が単一の部品であったが、バルブカバー7は、吸入路71および吐出路72が形成されたバルブカバー本体と、このバルブカバー本体に取り付けられるアタッチメントで構成されてもよい。この場合、アタッチメントに第1チャンバー8と第2チャンバー9の一方または双方が形成されてもよい。ただし、前記実施形態のようにバルブカバー7が単一の部品であれば、液圧ポンプ1を小型化することができる。
【0055】
また、液圧ポンプ1は、回転シャフト11がバルブカバー7を貫通し、バルブカバー7の両側にシリンダブロック2が配置されるタンデム型であってもよい。この場合、第1チャンバー8および第2チャンバー9は、回転シャフト11の外周面に沿うような形状(例えば、円弧状)であってもよい。また、液圧ポンプ1がタンデム型である場合、バルブカバー7に吸入路71と吐出路72のセットが2つ形成されるため、第1チャンバー8と第2チャンバー9のセットも2つ形成されてもよい。あるいは、液圧ポンプ1は、ケーシング15とバルブカバー7とで囲まれる空間内に2つのシリンダブロック2が互いに平行に配置されるパラレル型であってもよい。
【0056】
さらに、導入路91の少なくとも一部は絞りとして機能しなくてもよい。ただし、前記実施形態のように導入路91の少なくとも一部が絞り92として機能すれば、その絞り92によって第2チャンバー9への作動液の流入量およびその流入量の変動を制限することができる。この絞り92による第2チャンバー9への流入量の制限によって、ポンプの機能を保つことができる。さらに、絞り92は、第2チャンバー9内の圧力変動が吐出路72へ伝わることを抑制する役割も果たす。
【0057】
また、供給路93の少なくとも一部は絞りとして機能しなくてもよい。ただし、前記実施形態のように供給路93の少なくとも一部が絞り94として機能すれば、その絞り94によって第2チャンバー9からの作動液の流出量を制限することができる。なお、導入路91の少なくとも一部が絞りとして機能しない場合は、絞り94によってもポンプの機能を保つことができる。
【0058】
(まとめ)
本発明の液圧ピストンは、吸入ポートおよび吐出ポートが形成されたバルブプレートと、前記バルブプレートが取り付けられた、前記吸入ポートと連通する吸入路および前記吐出ポートと連通する吐出路が形成されたバルブカバーと、前記バルブプレートと摺動する、複数のシリンダボアに複数のピストンがそれぞれ挿入されたシリンダブロックと、を備え、前記バルブカバーには、連通路を通じて前記吐出路と連通し、ヘルムホルツ共鳴器として機能する第1チャンバーと、導入路を通じて前記吐出路または前記第1チャンバーと連通する第2チャンバーが形成され、前記バルブカバーおよび前記バルブプレートには、前記第2チャンバーから前記バルブプレートにおける前記吸入ポートと前記吐出ポートの間の下死点側閉塞面まで延びる供給路が形成されている、ことを特徴とする。
【0059】
上記の構成によれば、バルブカバーに形成された第2チャンバーには導入路を通じて吐出圧力が導入される。第2チャンバーからは下死点側閉塞面まで供給路が延びているので、下死点近傍でシリンダボアに吐出圧力を導入することができる。このような第2チャンバーによって、吐出圧力における比較的に低い周波数の脈動を低減することができる。さらに、バルブカバーには、ヘルムホルツ共鳴器として機能する第1チャンバーが形成されているので、この第1チャンバーによって、吐出圧力における比較的に高い周波数の脈動を低減することができる。その結果、広い回転数範囲で吐出圧力の脈動を低減することができる。
【0060】
前記導入路の少なくとも一部は絞りとして機能してもよい。この構成によれば、導入路の絞りによって第2チャンバーへの作動液の流入量およびその流入量の変動を制限することができる。この絞りによる第2チャンバーへの流入量の制限によって、ポンプの機能を保つことができる。
【0061】
前記供給路の少なくとも一部は絞りとして機能してもよい。この構成によれば、供給路の絞りによって第2チャンバーからの作動液の流出量を制限することができる。
【0062】
前記第1チャンバーおよび前記第2チャンバーは、前記吸入路と前記吐出路の間に配置されてもよい。この構成によれば、吸入路と吐出路の間の空間を利用して、第1チャンバーおよび第2チャンバーを形成することができる。
【0063】
例えば、前記バルブカバーは、前記シリンダブロックを貫通する回転シャフトを回転可能に支持する軸受けと嵌合する凹部を有し、前記第1チャンバーの少なくとも一部および前記第2チャンバーの少なくとも一部は、前記凹部、前記吸入路および前記吐出路で囲まれる領域内に位置してもよい。
【0064】
前記第1チャンバーと前記第2チャンバーは、前記シリンダブロックを貫通する回転シャフトの軸方向に並んでもよい。この構成によれば、第2チャンバーが導入路を通じて第1チャンバーと連通する場合であって導入路と供給路とが同軸上に位置する場合には、導入路と供給路とを同時に加工することができる。
【0065】
例えば、前記第2チャンバーは、前記バルブプレートと前記第1チャンバーの間に位置してもよい。
【0066】
上記の液圧ポンプは、前記シリンダブロックを貫通する回転シャフトをさらに備え、前記第2チャンバーは、前記回転シャフトの軸方向から見たときに、前記下死点側閉塞面と、前記バルブプレートにおける前記吸入ポートと前記吐出ポートの間の上死点側閉塞面とに跨るように延びてもよい。この構成によれば、供給路を回転シャフトの軸方向に平行に形成することができる。しかも、供給路の位置を変えるだけで、回転シャフトの回転方向がどちらの場合にも対応することができる。
【0067】
前記第2チャンバーの容積は、前記第1チャンバーの容積よりも小さくてもよい。この構成によれば、第1チャンバーと第2チャンバーの大小関係をそれらに必要な容積どおりとすることができる。これにより、バルブカバー(液圧ポンプ)の大型化を防ぐことができる。
図1
図2
図3
図4
図5