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特許7583826液体急結剤、吹付けコンクリート組成物、吹付けコンクリート及び吹付け施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】液体急結剤、吹付けコンクリート組成物、吹付けコンクリート及び吹付け施工方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/14 20060101AFI20241107BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20241107BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20241107BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C04B22/14 A
C04B24/32 A
C04B28/02
E21D11/10 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022558870
(86)(22)【出願日】2021-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2021030066
(87)【国際公開番号】W WO2022091528
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2020182330
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】室川 貴光
(72)【発明者】
【氏名】水野 博貴
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-055831(JP,A)
【文献】特開2002-047048(JP,A)
【文献】特開2010-007230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントコンクリート及び質量平均分子量が10万~300万のポリエチレンオキサイドを含む吹付けコンクリート組成物に混合される液体急結剤であって、
前記液体急結剤が、アルミニウム、硫黄、及びナトリウムを含み、ナトロアルナイトの含有量が0.3~3質量%である液体急結剤。
【請求項2】
作製の直後から、0~40℃で48時間保存した後の前記ナトロアルナイトの含有量が0.3~3質量%である請求項1に記載の液体急結剤。
【請求項3】
pHが1~4である請求項1又は2に記載の液体急結剤。
【請求項4】
前記液体急結剤100質量部中の前記アルミニウムがAl換算で1~20質量部、前記硫黄がSO換算で10~30質量部、前記ナトリウムがNaO換算で0.1~3質量部である請求項1~3のいずれか1項に記載の液体急結剤。
【請求項5】
固形分濃度が20~50質量%である請求項1~のいずれか1項に記載の液体急結剤。
【請求項6】
20℃における粘度が1,000mPa・s以下である請求項1~のいずれか1項に記載の液体急結剤。
【請求項7】
Al換算でのアルミニウムとSO換算での硫黄との質量比(Al/SO)が0.3~0.7である請求項1~のいずれか1項に記載の液体急結剤。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の液体急結剤、セメントコンクリート、及び質量平均分子量が10万~300万のポリエチレンオキサイドを含む吹付けコンクリート組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の吹付けコンクリート組成物の製造方法であって、
前記セメントコンクリート前記ポリエチレンオキサイド配合する工程と、
前記ポリエチレンオキサイドが配合された前記セメントコンクリートに、前記液体急結剤を配合する工程とを含む、吹付けコンクリート組成物の製造方法
【請求項10】
前記ポリエチレンオキサイドが配合された前記セメントコンクリートに、前記液体急結剤を配合する工程においては、前記液体急結剤と前記ポリエチレンオキサイドが配合された前記セメントコンクリートとを混合合流させる、請求項に記載の吹付けコンクリート組成物の製造方法
【請求項11】
請求項8に記載の吹付けコンクリート組成物が吹き付けられてなる吹付けコンクリート。
【請求項12】
請求項8に記載の吹付けコンクリート組成物を吹き付ける、吹付け施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体急結剤、吹付けコンクリート組成物、吹付けコンクリート及び吹付け施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吹付けコンクリートのリバウンド低減、地下やトンネル背面の空隙充填、及び、水が存在する場所やひび割れした場所などで瞬時に流動性を無くして逸流を防止する等のために、ケイ酸塩、アルミン酸塩、及び塩化物等が有効であることが知られている。しかしながら、これらの多くは高アルカリ性の液体急結剤となるため、取り扱い上及び実作業上の観点からの課題があった。
【0003】
そこで、非アルカリ性の液体急結剤が種々検討されるようになり、例えば、特許文献1では、良好な急結性と強度発現性を示し、充分な施工を実現するために、可溶性アルミニウム塩とフッ化物とを含有してなるセメント急結剤を提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-261393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、液体急結剤は一般的に、保管温度によって析出物が発生することがあった。この析出物のうち不溶性のもの(不溶性析出物)は再溶解することができないため、そのままコンクリート等に添加すると急結剤の効果が発揮されにくくなって、施工上のトラブルを引き起こすことがあった。
特許文献1においても、ある程度の期間保管すると上記のような不溶性の析出物(不溶性析出物)が発生することがあり、施工の際にはこの析出物を除去する必要があるため、作業性を低下させる一因となっていた。
【0006】
このような問題を踏まえて本発明者らは、上記の不溶性析出物について種々の調査・検討を行ったところ、まず、当該不溶性析出物がナトロアルナイト(ナトリウムミョウバン)であることを見出した。そして、この析出したナトロアルナイトにより、急結剤の急結阻害が発生し、急結剤を用いた際の施工性が低下してしまうことを新たに見出した。
【0007】
以上から本発明は、ナトロアルナイトの析出による急結剤の急結阻害を防ぎ、良好な施工性を発揮し得る液体急結剤、吹付けコンクリート組成物、吹付けコンクリート及び吹付け施工方法を提供することを目的とする。また、作業環境上の観点から、吹付コンクリートの低粉じん化を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を行った結果、特定組成の液体急結剤中に析出するナトロアルナイト量を所定値以下とすることで、当該課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は下記のとおりである。
【0009】
[1]セメントコンクリート及び質量平均分子量が10万~300万のポリエチレンオキサイドを含む吹付けコンクリート組成物に混合される液体急結剤であって、前記液体急結剤が、アルミニウム、硫黄、及びナトリウムを含み、ナトロアルナイトの含有量が0.3~3質量%である液体急結剤。
[2]作製の直後から、0~40℃で48時間保存した後の前記ナトロアルナイトの含有量が0.3~3質量%である[1]に記載の液体急結剤。
[3]前記ナトロアルナイトが氷晶石及び/又は硫酸ナトリウムに由来する[1]又は[2]に記載の液体急結剤。
[4]pHが1~4である[1]~[3]のいずれかに記載の液体急結剤。
[5]前記アルミニウムがAl換算で1~20質量部、前記硫黄がSO換算で10~30質量部、前記ナトリウムがNaO換算で0.1~3質量部である[1]~[4]のいずれかに記載の液体急結剤。
[6]固形分濃度が20~50質量%である[1]~[5]のいずれかに記載の液体急結剤。
[7]20℃における粘度が1,000mPa・s以下である[1]~[6]のいずれかに記載の液体急結剤。
[8]Al換算でのアルミニウムとSO換算での硫黄との質量比(Al/SO)が0.3~0.7である[1]~[7]のいずれかに記載の液体急結剤。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の液体急結剤、セメントコンクリート、及び質量平均分子量が10万~300万のポリエチレンオキサイドを含む吹付けコンクリート組成物。
[10]前記セメントコンクリートと前記ポリエチレンオキサイドとが予め配合されたものである[9]に記載の吹付けコンクリート組成物。
[11]前記液体急結剤と前記ポリエチレンオキサイドが配合された前記セメントコンクリートとを混合合流してなる[9]又は[10]に記載の吹付けコンクリート組成物。
[12][9]~[11]のいずれかに記載の吹付けコンクリート組成物が吹き付けられてなる吹付けコンクリート。
[13][9]~[11]のいずれかに記載の吹付けコンクリート組成物を吹き付ける、吹付け施工方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ナトロアルナイトの析出による急結剤の急結阻害を防ぎ、良好な施工性を発揮し得る液体急結剤、吹付けコンクリート組成物、吹付けコンクリート及び吹付け施工方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。本明細書における「部」や「%」は特に規定しない限り質量基準とする。
【0012】
[吹付けコンクリート組成物及び吹付けコンクリート]
本発明の実施形態(本実施形態)に係る吹付けコンクリート組成物、及びこれを硬化してなる吹付けコンクリートは、液体急結剤、セメントコンクリート及びポリエチレンオキサイドを含む。
以下、本発明の吹付けコンクリート組成物及び吹付けコンクリートに用いられる液体急結剤、セメントコンクリート及びポリエチレンオキサイドの実施形態について説明する。
【0013】
[液体急結剤]
本実施形態に係る液体急結剤は、アルミニウム、硫黄、及びナトリウムを含む。これらを含むことで急結性及び強度発現性を良好にすることができる。
【0014】
また、本実施形態に係る液体急結剤は、当該液体急結剤中のナトロアルナイトの含有量が0.3~3質量%である。ナトロアルナイトの含有量が3質量%を超えると、吹付コンクリートにおいて、液体急結剤が発揮し得る急結性が阻害され、これによって良好な施工性を発揮しにくくなる。ナトロアルナイトの含有量は2.5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。なお、ナトロアルナイトは無いことが好ましいが、熱加水分解より生成することから実際的には0.3質量%程度は存在してしまうことがある。
【0015】
ナトロアルナイトの含有量が3質量%以下となるのは、少なくとも、液体急結剤の作製直後から、0~40℃で48時間保存した後であることが好ましい。この時点でナトロアルナイトの含有量が3質量%以下であれば、その後の0~40℃の保管でナトロアルナイトによる急硬阻害が抑制される。なお、「0~40℃」は、液体急結剤の実使用の際の温度範囲を想定したものである。ナトロアルナイトの含有量は実施例の記載の方法で測定することができる。
【0016】
ここで、ナトロアルナイト(Natroalunaite)とは、ソーダ明礬石とも言われ、(NaAl(SO(OH)、(Na,K)Al(SO(OH)、又は、[Na][Al3+][Al3+ ][(OH)|(SO10-)で表される。本発明者らによれば、ナトロアルナイトは、主に原料である氷晶石に由来するもので、特に、氷晶石中のチオライト(NaAl14)やエルパソライト(KNaAlF)に由来することが見出している。また、ナトロアルナイトは、主に原料である硫酸ナトリウムに由来するもので、含有量が増えることで液体急結剤中に多く析出することから、硫酸ナトリウム量は0.5質量部以上7質量部未満が好ましく、1質量部以上6質量部未満が好ましい。
したがって、液体急結剤中のナトロアルナイトの含有量を3質量%以下となるには、氷晶石中のチオライト及びエルパソライトを低減させる等の処理を施せばよい。また、後述するように液体急結剤を作製する際の温度条件を調整してもよい。
【0017】
本実施形態に係る液体急結剤は、酸性であることが好ましく、pHが1~4であることがより好ましい。液体急結剤が酸性であることで、アルカリ性の硬化促進剤に比べて取り扱い性が向上する。
【0018】
液体急結剤中のアルミニウム、硫黄、及びナトリウムの含有量は特に限定されるものではなく、急硬性の観点から、アルミニウムはAl換算で1~20質量部、硫黄はSO換算で10~30質量部、及びナトリウムはNaO換算で0.1~3質量部であることが好ましい。アルミニウムはAl換算で5~10質量部であることがより好ましい。硫黄はSO換算で12~25質量部であることがより好ましい。ナトリウムはNaO換算で0.1~2質量部であることがより好ましい。
【0019】
さらに、液体急結剤の貯蔵安定性やペースト、モルタル、コンクリートへの添加時の混合性の観点から、Al換算でのアルミニウムとSO換算での硫黄との質量比(Al/SO)は0.3~0.7であることが好ましく、0.4~0.6であることがより好ましい。
【0020】
本実施形態に係る液体急結剤の固形分濃度は、液体急結剤の貯蔵安定性やペースト、モルタル、コンクリートへの添加時の混合性の観点から、20~50質量%であることが好ましく、25~45質量%であることがより好ましい。
【0021】
また、本実施形態に係る液体急結剤の20℃における粘度は1,000mPa・s以下であることが好ましく、1~900mPa・sがより好ましい。粘度は1,000mPa・s以下であることで混合性が高まり、安定した物性が得られる。粘度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0022】
本実施形態に係る液体急結剤は、例えば、硫酸アルミニウム、各種ミョウバン、水酸化アルミニウム、水酸化ナトリウム、硫酸、天然又は合成の氷晶石、フッ化ナトリウム、及びフッ化アルミニウム等の原料を液体中で混合し、80~95℃で30~120分加熱して作製することができる。良好な生産性の観点から、原料は硫酸、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム又は各種ミョウバンと、天然若しくは合成の氷晶石とを用いることが好ましい。また、液体としては水等を用いることが好ましい。
【0023】
ここで、本実施形態に係る液体急結剤を作製する際の原材料として、氷晶石を用いると、不溶性析出物が発生しやすい。特に、氷晶石に含有されるチオライト及びエルパソライトが不溶性析出物の発生に寄与していると推察される。また、硬化促進剤を作製する際に特定の操作を行うと不溶性析出物の発生が抑えられることがわかった。これらのいずれかを考慮し、液体急結剤中のナトロアルナイトの含有量を0.3~3質量%とするために、例えば、下記(1)又は(2)のような操作をすることが好ましい。
【0024】
(1)当該原材料として氷晶石を用いる際に、この氷晶石に含有されるチオライト及びエルパソライトの量が氷晶石中3質量%以下のものを使用する。
(2)既述の80~95℃での加熱後に60分以内に常温(例えば25℃)になるように急冷する。
【0025】
以上のようにして作製される液体急結剤は、後述するような吹付けコンクリート組成物及び吹付けコンクリート用として好適である。
【0026】
本発明の吹付けコンクリート組成物及び吹付けコンクリートに使用する液体急結剤の使用量は、セメントコンクリート中のセメント100質量部に対して、5~20質量部が好ましく、7~15質量部がより好ましい。5~20質量部とすることで、良好な急結効果が発揮され、初期強度発現性も良好にすることができる。
【0027】
[セメントコンクリート]
本実施形態に係るセメントコンクリートは、セメントペースト、セメントモルタル、及びコンクリートの総称である。
【0028】
セメントコンクリートのセメントとしては、特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、中庸熱、及び低熱の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、及び石灰石微粉末を混合したフィラーセメント、並びに都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)等が挙げられ、これらを微粉末化して使用することも可能である。混合セメントにおける混合物とセメントの割合は特に限定されるものではなく、これら混和材をJISで想定する以上に混合したものも使用可能である。
【0029】
本実施形態のセメントコンクリートは、セメントと骨材とを含有するものであり、骨材は吸水率が低くて、骨材強度が高いものが好ましい。骨材は、吹付けできれば特に限定されるものではないが、細骨材としては、川砂、山砂、海砂、石灰砂、及び珪砂等が使用可能であり、粗骨材としては、川砂利、山砂利、及び石灰砂利等が使用可能であり、砕砂、砕石の使用も可能である。
【0030】
[ポリエチレンオキサイド]
本実施形態に係るポリエチレンオキサイドは、粉じん低減成分として、吹付けコンクリート組成物に配合されて含有する。ポリエチレンオキサイドは質量平均分子量が高ければ、コンクリートの粘性が高まり、急結剤との混合性が悪化する傾向にあるため、粉じん低減性能が低下し、質量平均分子量が低いと、コンクリート粘性に関与できず、粉じん低減性能が低下するため、本発明では、ポリエチレンオキサイドの質量平均分子量は、10万~300万であることが好ましく、30万~250万であることがより好ましく、50万~200万であることがさらに好ましい。
なお、ポリエチレンオキサイドの質量平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)測定により決定できる。
〈測定条件〉
・装置:製品名「LC-10AD」(株式会社島津製作所製)
・検出器:示差屈折率検出器(RID)
・カラム:製品名「SHODEX KF-804」(昭和電工株式会社製)
・測定温度:30℃
・溶離液:THF
・流速:1.0mL/min
・サンプル濃度:0.2質量%(THF)
・サンプル注入量:100μL
・換算標準:ポリエチレンオキサイド
【0031】
本実施形態のポリエチレンオキサイドの含有量は、セメントコンクリートに使用する水100質量部に対して、0.02~0.4質量部であることが好ましく、0.05~0.3質量部であることがより好ましく、0.1~0.25質量部であることがさらに好ましい。ポリエチレンオキサイドの含有量が上記下限値以上であることで、粉じん低減性能が得られやすくなる。また、ポリエチレンオキサイドの含有量が上記上限値以下であることで、液体急結剤との混合性が向上し、極初期の付着性状が良好となり、リバウンドを抑制することができる。本発明の液体急結剤を併用することで、今までの液体急結剤の課題であった、厚吹きや湧水下での吹付けも可能となる。
【0032】
本発明の吹付けコンクリート組成物及び吹付けコンクリートは、液体急結剤、セメントコンクリート及びポリエチレンオキサイドの他に、ベントナイト、石粉、及び各種セメント混和材やセメント混和剤を使用することが可能である。特に、地下やトンネル背面等で水が存在する場所やひび割れなどへの逸流を防止する場所へ施工する場合、ベントナイトや石粉等の微粉末質や水中不分離混和剤の併用が水中不分離抵抗性向上の面で有効である。
【0033】
その他、本発明の液体急結剤は急結性気泡モルタルの製造にも有効である。通常、急結性気泡モルタルの場合、急結剤の急結作用が必要以上に速い、例えば、瞬時と速いので、急結剤を添加混合している間に、気泡モルタル中の気泡が壊れてしまい、比重や強度等の所定の物性が得にくいものであった。本願発明の液体急結剤は数秒から数十秒の凝結時間があるため、気泡を壊すことなく急結性のエアモルタルを製造することができ、施工も充分に可能であり、凝結後の急結性状に優れている。このことにより、従来、エアモルタルの欠点とされていた、ひび割れなどへの逸流や水が存在する場所に打設したときの材料分離を防止することができる。
【0034】
セメントコンクリートに使用する水は特に限定されるものではなく、また水の使用量も特に限定されるものではないが、通常は、セメント100質量部に対して、40~150質量部が好ましい。40~150質量部であれば、良好な流動性と強度発現を示しやすくなる。
【0035】
本発明では、水と混練したセメントコンクリートと液体急結剤とを混合すると、混合後、数秒で流動性がなくなることがあるため、圧送距離を長く必要とする場合や施工性を考えた場合、液体急結剤と、水と混練したセメントコンクリートとをそれぞれ別々に送給して、送給管先端部で合流混合しながら施工することが好ましい。
【0036】
本発明においてコンクリート組成物を作製するために、液体急結剤、及びセメントコンクリート、及びポリエチレンオキサイドを混合する方法としては、特に限定はなく、例えば、液体急結剤とポリエチレンオキサイドが配合されたセメントコンクリートとを混合合流させる方法が挙げられる。具体的な混合合流方法としては、例えば、Y字管等の混合管を使用する方法、二重管を使用する方法、並びに、液体急結剤をシャワー状に合流混合させるインレットピースを使用する方法等がある。また、合流混合後の管中にスパイラル状のミキサをセットしてさらに混合する方法も可能である。液体急結剤とセメントコンクリートとの混合が充分であれば、付着性や可塑性がでて施工性が良くなり、混合が不充分だと、部分的に流動する場合があり、完全に施工することが困難になる場合がある。
【0037】
[吹付け施工方法]
本実施形態に係る吹付けコンクリート組成物は、地下やトンネル背面の空隙に充填する場合は単に流し込む方法で充分であるが、主に吹付け工法にて使用される。本実施形態に係る吹付け工法としては、水が存在する場所やひび割れなどへの逸流を防止する箇所に吹付け施工する場合等は、圧搾空気で吹付けコンクリート組成物を吹き飛ばして施工することも有効である。圧搾空気の導入箇所は特に限定されるものではないが、混合管に導入することが好ましい。
【実施例
【0038】
以下、実験例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1~11)
Al換算におけるアルミニウム、SO換算における硫黄、及びNaO換算におけるナトリウムの各割合が表1に示す割合となるように、水に硫酸アルミニウム、アルミ源、硫黄源、フッ素源、ナトリウム源を混合し、90℃で60分間加熱した。加熱後、50分間で25℃となるように循環冷却装置により、急冷して硬化促進剤としての液体急結剤を製造した。液体急結剤の固形分濃度、液体急結剤の20℃における粘度を下記のようにして測定した。また、pHメータにより液体急結剤の上澄みのpHを測定した。結果を表1に示す。
【0040】
<使用材料>
・水:水道水
・硫酸アルミニウム:硫酸バンド粉末、試薬(アルミ源、硫黄源)
・硫酸:硫酸、試薬(硫黄源)
・水酸化アルミ:試薬(アルミ源)
・氷晶石:試薬(フッ素源)、チオライト:2%、エルパソライト:0.5%(XRDにより測定)
・硫酸ナトリウム:試薬、無水品、(ナトリウム源)
【0041】
<測定方法>
・固形分濃度:原料からのSO、Al、NaO、Fの合計量を求めた。
・粘度(20℃):B回転粘度計を用いて、測定した。
【0042】
液体急結剤50gを20℃で48時間保管した。その後、下記のようにしてナトロアルナイトの含有量を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
<測定方法>
・ナトロアルナイトの含有量
保管した液体急結剤50gをガラスフィルターに流して、吸引ろ過し、更に真空デシケーターで24時間乾燥させたサンプルについてX線回折の測定を行った。ナトロアルナイト単味のピーク強度と、サンプルのナトロアルナイトのピーク強度を比較して、含有量として求めた。
【0044】
次に、セメント100質量部、水50質量部、砂250質量部、砂利150質量部及びポリエチレンオキサイドを水100質量部に対して0.15質量部をミキサで混練してセメントコンクリートを製造した。製造したセメントコンクリートと上記の液体急結剤とを別々に混合管に送給し、無駆動ラインミキサで、セメント100部に対して、液体急結剤が10質量部になるように混合しながら連続的に、急結性セメントコンクリートである急結性モルタルを調製した。急結性モルタルについて、下記のようにして凝結試験を行い、急結性及び混合性を評価した。結果を表1に示す。
【0045】
<使用材料>
・セメント:市販の普通ポルトランドセメント(デンカ社製、密度3.15g/cm
・水:水道水
・砂:新潟県姫川水系川砂、密度2.61g/cm
・ポリエチレンオキサイド:質量平均分子量180万、市販品
【0046】
<評価方法>
・急結性及び混合性の評価
ASTM C403に準じて、液体急結剤添加から2分経過後の急結モルタルにプロクター針を10回貫入した。始発である3.5N/mmを10回すべて満たすものを「A」とし、7~9回満たすものを「B」、4~6回満たすものを「C」、4回未満を「D」と判定した。
【0047】
(実施例12)
実施例1の氷晶石を3分の2にし、同条件で液体急結剤を製造した。結果を表1に示す。
【0048】
(実施例13)
実施例1の氷晶石を3分の1にし、同条件で液体急結剤を製造した。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例14)
実施例1の氷晶石を6分の1にし、同条件で液体急結剤を製造した。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例15)
実施例1の氷晶石を2分の1にし、更に硫酸ナトリウムを2分の1にし、同条件で液体急結剤を製造した。結果を表1に示す。
【0051】
(比較例1)
実施例1と同様にして、水に硫酸アルミニウム、アルミ源、硫黄源、フッ素源、ナトリウム源を混合し、90℃で60分間加熱した。加熱後、そのまま放置して240分間で25℃として、液体急結剤を製造した。液体急結剤の固形分濃度、液体急結剤の20℃における粘度を測定した。また、pHメータにより液体急結剤の上澄みのpHを測定した。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例2)
比較例1の氷晶石の代わりに硫酸ナトリウムを用いて、同条件で液体急結剤を製造した。結果を表1に示す。
【0053】
(比較例3)
比較例1の氷晶石を半分にし、硫酸ナトリウムを半分加えて、同条件で液体急結剤を製造した。結果を表1に示す。
【0054】
(比較例4)
比較例1の氷晶石を20分の1にし、同条件で液体急結剤を製造した。結果を表1に示す。
【0055】
(比較例5)
比較例1の氷晶石を40分の1にし、同条件で液体急結剤を製造した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の液体急結剤は、例えば、道路、鉄道、及び導水路等のトンネルや、法面等において露出した地山面へ吹付けるセメントコンクリート等に対して好適に使用できる。