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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】診断システム及び診断方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20241107BHJP
   G01N 33/30 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
F16H1/32 A
G01N33/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023018155
(22)【出願日】2023-02-09
(62)【分割の表示】P 2019022750の分割
【原出願日】2019-02-12
(65)【公開番号】P2023054052
(43)【公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】松永 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】為永 淳
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-069690(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188314(WO,A1)
【文献】特開2000-009723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
G01N 33/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤が封入されるケーシングと、前記ケーシングに収納される減速機構と、前記ケーシング内の潤滑剤封入空間と別の空間とを通じさせる第1貫通孔と、を備える減速装置の前記潤滑剤の劣化を診断するための診断システムであって、
前記第1貫通孔を通り抜ける前記潤滑剤の蒸気を捕集する第1捕集部材と、
前記第1捕集部材に捕集された潤滑剤の蒸気の成分を測定する測定器と、
前記潤滑剤封入空間と前記第1貫通孔との間に設けられ前記潤滑剤の流れを阻害する阻害部と、を備え
前記阻害部は、前記減速機構の一部によって構成される診断システム。
【請求項2】
風を送り込むことにより、前記潤滑剤封入空間から前記第1貫通孔に向かうガスの流れを強制的に生成する流れ生成装置を更に備える請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記減速装置は、前記潤滑剤封入空間に通じ、前記第1貫通孔とは別の第2貫通孔を更に備え、
前記流れ生成装置は、前記第2貫通孔から前記潤滑剤封入空間を通って前記第1貫通孔に向かうガスの流れを強制的に生成する請求項に記載の診断システム。
【請求項4】
前記第1貫通孔から前記第1捕集部材までの間でガスが通る流路と、
前記流路から分岐する潤滑剤流路と、
前記第1貫通孔及び前記潤滑剤流路を通り抜ける潤滑剤を捕集する第2捕集部材と、を更に備える請求項1に記載の診断システム。
【請求項5】
潤滑剤が封入されるケーシングと、前記ケーシングに収納される減速機構と、前記ケーシング内の潤滑剤封入空間と別の空間とを通じさせる第1貫通孔と、前記潤滑剤封入空間と前記第1貫通孔との間に設けられ前記潤滑剤の流れを阻害する阻害部と、を備え、前記阻害部は、前記減速機構の一部によって構成される減速装置の前記潤滑剤の劣化を診断するための診断方法であって、
前記第1貫通孔を通り抜ける前記潤滑剤の蒸気を捕集する捕集ステップと、
捕集された潤滑剤の蒸気の成分を測定する測定ステップと、を備える診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断システム及び診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、潤滑剤の劣化を診断するための技術が開示されている。この技術では、減速装置のケーシング内からイオン移動度分光計に潤滑剤の蒸気を供給し、イオン移動度分光計により潤滑剤の蒸気を分析することで、その劣化を診断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-069690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明のある態様の目的の1つは、ケーシング内の潤滑剤封入空間と外部空間とを通じさせる貫通孔を通り抜ける潤滑剤の蒸気の成分を測定可能とする診断システム及び診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述の課題を解決するための本発明のある態様に係る診断システムは、潤滑剤が封入されるケーシングと、前記ケーシングに収納される減速機構と、前記ケーシング内の潤滑剤封入空間と別の空間とを通じさせる貫通孔と、を備える減速装置の前記潤滑剤の劣化を診断するための診断システムであって、前記貫通孔を通り抜ける前記潤滑剤の蒸気を捕集する第1捕集部材と、前記第1捕集部材に捕集された潤滑剤の蒸気の成分を測定する測定器と、を備える。
【0006】
前述の課題を解決するための本発明の他の態様に係る診断方法は、潤滑剤が封入されるケーシングと、前記ケーシングに収納される減速機構と、前記ケーシング内の潤滑剤封入空間と別の空間とを通じさせる貫通孔と、を備える減速装置の前記潤滑剤の劣化を診断するための診断方法であって、前記貫通孔を通り抜ける前記潤滑剤の蒸気を捕集する捕集ステップと、捕集された潤滑剤の蒸気の成分を測定する測定ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明のある態様によれば、ケーシング内の潤滑剤封入空間と外部空間とを通じさせる貫通孔を通り抜ける潤滑剤の蒸気の成分を測定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の診断ユニットのブロック図である。
図2】第1実施形態の産業用ロボットの模式図である。
図3】第1実施形態の減速ユニットの側面断面図である。
図4】第1実施形態の減速ユニットの正面断面図である。
図5図3の拡大図である。
図6図5の矢視Aから見た図である。
図7】第2実施形態の減速ユニットの一部の側面断面図である。
図8図7のB-B断面図である。
図9】第3実施形態の減速ユニットの側面断面図である。
図10図9の拡大図である。
図11】参考形態の減速ユニットの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態の一例を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、その寸法を適宜拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
図1を参照する。本実施形態の減速ユニット10は、減速装置12と、減速装置12に用いられる潤滑剤の蒸気(以下、潤滑剤蒸気という)の成分を測定する測定器14と、を備える。本実施形態の減速ユニット10は、減速装置12を診断する診断システム16に用いられる。減速ユニット10の詳細は後述する。
【0011】
診断システム16は、減速ユニット10の他に、測定器14の測定結果に基づき潤滑剤の劣化を判定する劣化判定装置18を備える。劣化判定装置18は、CPU、ROM、RAM等のハードウェアとソフトウェアを組み合わせたコンピュータである。本実施形態の劣化判定装置18は、測定器14の外部に配置され、無線により測定器14と電気的に接続される。
【0012】
潤滑剤が劣化した場合、潤滑剤蒸気の特定成分が増加または減少する。この「特定成分」とは、たとえば、潤滑剤のリン(P)や硫黄(S)の化合物である。これは、リンや硫黄に起因する成分であるとも捉えられる。
【0013】
これを利用して、劣化判定装置18は、測定器14による潤滑剤蒸気の特定成分の測定値と所定の判定条件とに基づき、潤滑剤の劣化を判定する。この判定条件とは、たとえば、測定器14の測定値を監視する場合、その測定値が所定の数値範囲内から数値範囲外に変化することである。この判定条件は、たとえば、運転状態にある減速装置12を継続的にモニタリングする場合に用いられる。
【0014】
たとえば、潤滑剤の劣化により潤滑剤蒸気の特定成分が増加する場合を考える。この場合、劣化判定装置18は、所定の数値範囲を定める上限値を潤滑剤蒸気の測定値が上回るように変化したとき、潤滑剤が劣化したと判定する。また、潤滑剤の劣化により特定成分の測定値が減少する場合を考える。この場合、劣化判定装置18は、所定の数値範囲を定める下限値を潤滑剤蒸気の測定値が下回るように変化したとき、潤滑剤が劣化したと判定する。いずれの場合も、劣化判定装置18は、潤滑剤蒸気の測定値が所定の数値範囲内のときは潤滑剤が劣化していないと判定する。
【0015】
図2を参照する。本実施形態の減速ユニット10は産業用ロボット20に用いられる。産業用ロボット20は、主に、床面等の支持面に支持されるベース22と、ベース22に支持され直列に設けられる複数のアーム24と、隣り合うアーム24を接続する複数の関節26とを備える。本実施形態の産業用ロボット20は四つのアーム24と、三つの関節26とを備える。最も先端側のアーム24には、把持ツール、溶接ツール等の作業ツール28が設けられる。
【0016】
減速ユニット10は、複数の関節26に対応して個別に設けられ、その対応する関節26に組み込まれる。減速ユニット10は、基端側のアーム24に対して所定の角度範囲で先端側のアーム24を回動させる。複数の減速ユニット10のうちの基端側から二段目以降の減速ユニット10は、アーム24の位置の変化に伴い姿勢が変化する。このとき、減速ユニット10は、鉛直線や水平線に対する傾きを変えるように姿勢が変化する。
【0017】
(減速装置12)
図3図4を参照する。減速装置12は、主に、入力部材30と、出力部材32と、ケーシング34と、減速機構36と、主軸受38、40と、オイルシール42と、を備える。
【0018】
入力部材30は、駆動装置(不図示)と連結され、その駆動装置から回転が入力される。本実施形態の入力部材30は入力軸が構成する。駆動装置は、たとえば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。
【0019】
出力部材32は、被駆動装置(不図示)に回転を出力する。本実施形態の出力部材32はキャリヤ54(後述する)が構成する。
【0020】
ケーシング34は、その内側に減速機構36を収納する。本実施形態のケーシング34は、全体として筒状をなす。本実施形態のケーシング34は内歯歯車本体64(後述する)を兼ねている。
【0021】
本実施形態において、ケーシング34には、外部部材となる第1アーム24が連結され、出力部材32には、第1アーム24と隣り合うとともに被駆動装置となる第2アーム24が連結される。
【0022】
減速機構36は、入力部材30から出力部材32に至る動力伝達経路を構成し、入力部材30から入力される回転を減速して出力部材32に伝達する。本実施形態の減速機構36は、歯車機構、詳しくは、偏心揺動型減速機構である。この減速機構36は、内歯歯車50と噛み合う外歯歯車48を揺動させることで、内歯歯車50及び外歯歯車48の一方の自転を生じさせ、その生じた自転成分を出力部材32から被駆動装置に出力する。以下、内歯歯車50の中心軸線Lc1に沿った方向を軸方向とし、その中心軸線Lc1を中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」という。
【0023】
本実施形態の減速機構36は、クランク軸46と、外歯歯車48と、内歯歯車50と、キャリヤ52、54と、ピン体56とを備える。
【0024】
クランク軸46は、入力部材30と一体的に回転可能に設けられる。本実施形態のクランク軸46は入力部材30が兼ねている。本実施形態のクランク軸46は、クランク軸46の回転中心線Lc2が内歯歯車50の中心軸線Lc1と同軸線上に設けられるセンタークランクタイプである。クランク軸46は、入力部材30の回転により回転中心線Lc2周りに回転する軸体58と、軸体58と一体的に回転可能な複数の偏心体60とを備える。
【0025】
偏心体60は、クランク軸46の回転中心線Lc2に対して自らの軸心が偏心しており、外歯歯車48を揺動させることが可能である。本実施形態では3個の偏心体60が設けられ、隣り合う偏心体60の偏心位相は120°ずれている。本実施形態の偏心体60は軸体58と同じ部材の一部として構成される。
【0026】
外歯歯車48は、複数の偏心体60のそれぞれに対応して個別に設けられ、その対応する偏心体60に偏心体軸受62を介して回転自在に支持される。
【0027】
本実施形態の内歯歯車50は、ケーシング34と一体化される内歯歯車本体64と、内歯歯車本体64とは別体に設けられるとともに内歯を構成するピン部材66とを備える。内歯歯車本体64の内周部には周方向に間隔を空けて複数のピン溝68が設けられる。ピン部材66は複数のピン溝68に対応して個別に設けられ、その対応するピン溝68に回転自在に支持される。本実施形態のピン部材66は円柱状をなし、ピン溝68はピン部材66を嵌め込み可能な断面形状、詳しくは、円弧状の断面形状である。
【0028】
キャリヤ52、54は、ケーシング34に対して相対回転する。本実施形態ではケーシング34に対してキャリヤ52、54が回転する。キャリヤ52、54には、複数の外歯歯車48に対して軸方向の一方側に設けられる第1キャリヤ52と、複数の外歯歯車48に対して軸方向の他方側に設けられる第2キャリヤ54とが含まれる。キャリヤ52、54は、クランク軸受70を介してクランク軸46を回転自在に支持する。
【0029】
ピン体56は、外歯歯車48を貫通して設けられ、本実施形態では第2キャリヤ54と一体的に回転可能である。本実施形態のピン体56は、第1キャリヤ52と第2キャリヤ54を連結する。ピン体56は、内歯歯車50の中心軸線Lc1周りに間隔を空けて複数設けられる。
【0030】
主軸受38、40は、ケーシング34とキャリヤ52、54の間に配置される。主軸受38、40は、ケーシング34とキャリヤ52、54のうちの一方に対して他方を回転自在に支持する。ここでの「一方」は本実施形態ではケーシング34であり、「他方」はキャリヤ52、54である。主軸受38、40には、ケーシング34と第1キャリヤ52の間に配置される第1主軸受38と、ケーシング34と第2キャリヤ54の間に配置される第2主軸受40とが含まれる。
【0031】
オイルシール42は、主軸受38、40と軸方向の外側に隣り合う位置に配置される。ここでの「軸方向の外側」とは、主軸受38、40に対して外歯歯車48とは軸方向の反対側をいう。オイルシール42は弾性体であり、ケーシング34とキャリヤ52、54の間に弾性変形を伴い配置されることで、ケーシング34内の封入空間74(後述する)を封止する。
【0032】
ケーシング34内には、潤滑剤72が封入される潤滑剤封入空間74(以下、単に封入空間74という)が形成される。潤滑剤72は、たとえば、潤滑油、グリース等である。封入空間74は、ケーシング34内において減速装置12の複数の構成部品により画定される空間である。ここでの複数の構成部品とは、減速機構36、主軸受38、40、オイルシール42等である。構成部品には、減速機構36の内歯歯車50のピン部材66や、主軸受38、40の外輪が含まれることになる。本実施形態の封入空間74は、複数の封止部材により封止される。本実施形態の封止部材には、前述のオイルシール42の他に、クランク軸受70に組み込まれる軸受シール76が含まれる。
【0033】
潤滑剤72は、ケーシング34内の所定の要潤滑箇所の潤滑に用いられる。この「要潤滑箇所」とは、回転要素と他の要素の接触箇所をいう。本実施形態では、たとえば、外歯歯車48と内歯歯車50の接触箇所(噛合箇所)や、クランク軸46の偏心体60と偏心体軸受62の転動体の接触箇所等が該当する。
【0034】
以上の減速装置12の動作を説明する。駆動装置から入力部材30に回転が伝達されると、その回転が減速機構36を介して出力部材32に伝達される。このとき、入力部材30の回転は、減速機構36の減速比で減速されたうえで出力部材32から出力される。
【0035】
本実施形態では、入力部材30に回転が伝達されると、クランク軸46が回転し、その偏心体60により外歯歯車48が揺動する。外歯歯車48は、自らの軸心がクランク軸46の回転中心線Lc2周りを回転するように揺動する。外歯歯車48が揺動すると、外歯歯車48と内歯歯車50の噛合位置が順次に周方向にずれる。この結果、クランク軸46(入力部材30)が一回転する毎に、外歯歯車48と内歯歯車50の歯数差に相当する分、外歯歯車48の自転が発生する。外歯歯車48が自転すると、外歯歯車48の自転成分がピン体56を介してキャリヤ52、54に伝達され、出力部材32が回転する。
【0036】
(測定器14)
図4図5を参照する。測定器14は、潤滑剤蒸気が導入される内部空間80が形成されたハウジング82と、ハウジング82内に設けられるガスセンサ84とを備える。
【0037】
ハウジング82は、ガスセンサ84が内部に設けられる本体部82aと、減速装置12に取り付けられる取付部82bとを備える。取付部82bは、本体部82aと同じ部材により構成される。本実施形態の取付部82bは、減速装置12のケーシング34に取り付けられる。本実施形態の取付部82bは、減速装置12の構成部品に対して、ねじ構造により取り付けられる。詳しくは、減速装置12のケーシング34の貫通孔90(後述する)に対して、ねじ構造により取り付けられる。より詳しくは、取付部82bに設けた雄ねじを、貫通孔90に設けた雌ねじにねじ込むことで取り付けられる。測定器14は、減速装置12に直接に取り付けられることになる。
【0038】
ハウジング82の外面にはガス導入口86が開口し、潤滑剤蒸気はガス導入口86を通してハウジング82の内部空間80に導入される。本実施形態のガス導入口86は、本体部82aから突き出る取付部82bの先端部に開口する。
【0039】
ガスセンサ84は、ハウジング82の内部空間80に導入されたガスに含まれる潤滑剤蒸気の成分を測定可能である。ガスセンサ84は、ハウジング82の内部空間80に晒されるガス測定部84aを有する。ガスセンサ84は、そのガス測定部84aに接触するガスに含まれる潤滑剤蒸気の成分の量または濃度を測定可能である。ガスセンサ84は、潤滑剤蒸気の成分のうち、潤滑剤が劣化したときに増減する特定成分を測定可能であればよく、その全ての成分を測定することは必要とはならない。ガスセンサ84は、たとえば、半導体式、接触燃焼式、電気化学式、NDIR式のガスセンサにより構成される。ガスセンサ84は、前述の劣化判定装置18と電気的に接続され、その測定値を劣化判定装置18に出力する。
【0040】
減速装置12には、ケーシング34内の封入空間74と別の空間88とを通じさせる貫通孔90が設けられる。ここでの「別の空間88」は、封入空間74とは別に設けられる空間をいい、本実施形態ではケーシング34の外部の外部空間92をいう。測定器14の少なくとも一部は、この「別の空間88」に配置される。本実施形態の測定器14は、この「別の空間88」と貫通孔90内に配置されるが、その全体が「別の空間88」に配置されてもよい。
【0041】
本実施形態の貫通孔90は、ケーシング34内の封入空間74とは別に減速装置12に設けられる。測定器14は、この貫通孔90を通り抜ける潤滑剤蒸気の成分を測定する。測定器14は、封入空間74から貫通孔90を通り抜けて別の空間88に向かおうとする潤滑剤蒸気の成分を測定することになる。
【0042】
以上の減速ユニット10の動作を説明する。
【0043】
ケーシング34内の封入空間74では、その封入空間74に封入されている潤滑剤が蒸発または昇華して潤滑剤蒸気が生成される。この潤滑剤蒸気は、封入空間74から減速装置12の貫通孔90を通して測定器14の内部空間80に導入される。測定器14は、その内部空間80に導入された潤滑剤蒸気を測定し、その潤滑剤蒸気の測定値を劣化判定装置18に出力する。劣化判定装置18は、前述のように、潤滑剤蒸気の測定値に基づき潤滑剤の劣化を判定する。
【0044】
以上の減速ユニット10の効果を説明する。
【0045】
(A)測定器14は、減速装置12に取り付けられる。よって、減速装置12の外部において測定器14と減速装置12を接続する配管が不要となり、減速ユニット10の小型化を図れる。
【0046】
(B)測定器14は、減速装置12の貫通孔90を通り抜ける潤滑剤蒸気の成分を測定する。この構成のもとでは、減速装置12の封入空間74に測定器14を配置せずに済み、測定器14に接触する潤滑剤の量を抑えられる。かりに、測定器14のガスセンサ84のガス測定部84aに潤滑剤が接触すると、ガス測定部84aが潤滑剤により覆われることでガスセンサ84により潤滑剤蒸気を測定し難くなり、その測定性能に悪影響を及ぼす。この点、本実施形態によれば、測定器14に接触する潤滑剤の量を抑えられ、潤滑剤72の接触に伴う測定器14の測定性能の低下を避けられる。
【0047】
(C)減速装置12の貫通孔90はケーシング34に設けられ、封入空間74と外部空間92を通じさせる。この構成のもとでは、ケーシング34の内部に測定器14を配置せずに済み、その分、ケーシング34の小型化を図れる。
【0048】
次に、本実施形態の減速装置12の他の工夫点を説明する。図5図6を参照する。減速装置12には、封入空間74と測定器14の間に潤滑剤の流れを阻害する阻害部94が設けられる。阻害部94は、封入空間74から貫通孔90を通して測定器14に向かおうとする潤滑剤の流れを阻害する。ここでの潤滑剤の流れとは、潤滑剤蒸気ではなく、液状または半固体状の潤滑剤そのものの流れをいう。
【0049】
本実施形態の阻害部94は、ピン部材66と径方向に対向する部分にてケーシング34の内周面に貫通孔90が開口することにより構成される。ケーシング34の内面には貫通孔90の開口90aが設けられる。阻害部94は、この貫通孔90の開口90aと径方向に対向する位置に配置されるピン部材66が構成することになる。この貫通孔90の開口90aは、貫通孔90が設けられる減速装置12の構成部品(本例ではケーシング34)において封入空間74側の面に設けられる。本実施形態の阻害部94は、貫通孔90の開口90aの周縁部に接触している。
【0050】
阻害部94は、内歯歯車50の中心軸線Lc1から径方向外側を見たとき、ケーシング34の貫通孔90の開口90aを部分的に覆う位置に設けられる。貫通孔90の開口90aは、内歯歯車50の中心軸線Lc1から径方向外側を見たとき、阻害部94により覆われずに封入空間74に露出する位置に設けられる露出箇所90bを有する。本実施形態の潤滑剤蒸気は、貫通孔90の開口90aの露出箇所90bを通して貫通孔90内に導入され、その貫通孔90から測定器14の内部空間80まで導入される。
【0051】
ケーシング34には、通常、ピン部材66と対向する部分にて、ケーシング34の封入空間74に潤滑剤を供給または排出するための給排脂孔が設けられる。本実施形態の貫通孔90は、この給排脂孔を兼ねられる。これに伴い、ケーシング34に専用の貫通孔90が不要となり、ケーシング34の構造の簡素化を図れる。
【0052】
また、減速装置12の阻害部94により、減速装置12の封入空間74から貫通孔90を通して測定器14に向かおうとする潤滑剤の量を抑えられる。よって、前述と同様、潤滑剤の接触に伴う測定器14の測定性能の低下を避けられる。
【0053】
(第2の実施の形態)
図7図8を参照する。第2実施形態の減速ユニット10は、第1実施形態と比べて、主に、減速装置12の阻害部94が異なる。まず、主軸受38、40を説明する。
【0054】
主軸受38、40は転がり軸受であり、複数の第1転動体100と、第1転動体100が転走する第1内側転走面102及び第1外側転走面104とを備える。本実施形態の主軸受38、40は専用の内輪を備えず、第1内側転走面102はキャリヤ52、54の外周面に設けられる。本実施形態の主軸受38、40は、ケーシング34と別体に設けられるとともに第1外側転走面104が設けられる外輪106を有する。
【0055】
本実施形態の阻害部94は、第2主軸受40の外輪106とケーシング34の間の周方向の一部に隙間110を設けて、その隙間110を形成する面に貫通孔90が開口することにより構成される。この阻害部94は、貫通孔90の開口90aと径方向に対向する位置に配置される第2主軸受40の外輪106が構成することになる。阻害部94は、内歯歯車50の中心軸線から径方向外側を見たとき、ケーシング34の貫通孔90の開口90aの全体を覆う位置に設けられる。
【0056】
隙間110は、封入空間74とは別に減速装置12に設けられる。本実施形態の隙間110は、径方向から見て、第2主軸受40の外輪106の軸方向全長と重なる位置に設けられる。本実施形態の隙間110は、第2主軸受40の外輪106より軸方向の内側に延びるように設けられ、その外輪106より軸方向の内側において、ケーシング34の内周部に開口する第1開口110aを有する。隙間110の第1開口110aはケーシング34内の封入空間74に少なくとも一部が露出しており、その第1開口110aを通して封入空間74から潤滑剤蒸気を導入可能である。
【0057】
本実施形態のピン部材66は、内歯歯車50の中心軸線Lc1から径方向外側を見たとき、隙間110の第1開口110aを部分的に覆う位置に設けられる。本実施形態の第1開口110aは、このように見たとき、ピン部材66により覆われずに封入空間74に露出する位置に設けられる露出箇所110bを有する。本実施形態の潤滑剤蒸気は、隙間110の第1開口110aの露出箇所110bを通して隙間110内に導入され、その隙間110から貫通孔90を通して測定器14の内部空間80まで導入される。
【0058】
このような阻害部94を構成する第2主軸受40の外輪106は、ケーシング34の貫通孔90の開口90a全体を覆う位置に設けられる。よって、阻害部94により、封入空間74から貫通孔90を通して測定器14に向かうとする潤滑剤の量を更に抑えられる。
【0059】
ケーシング34は、第2主軸受40が配置される主軸受配置部34aと、第2主軸受40の軸方向外側に隣り合うオイルシール42が配置されるオイルシール配置部34bとを有する。オイルシール配置部34bは主軸受配置部34aより内径が大きい。オイルシール42は、締まり嵌め、中間嵌め等によって、ケーシング34のオイルシール配置部34bに取り付けられる。主軸受配置部34aとオイルシール配置部34bの間には軸方向外側に向かう途中でケーシング34の内径を大きくする段差部34cが形成される。隙間110は、この段差部34cに開口する第2開口110cを有する。
【0060】
このオイルシール配置部34bに配置されるオイルシール42は、軸方向から見て、隙間110の第2開口110cの全体を覆う位置に設けられる。これにより、隙間110の第2開口110cから潤滑剤72が抜け出たとしても、その外部空間92への漏れ出しをオイルシール42により安定して防げる。
【0061】
本実施形態の減速ユニット10も、第1実施形態と同様、前述の(A)、(B)、(C)の効果を得られる。
【0062】
(第3の実施の形態)
図9を参照する。本実施形態の減速ユニット10は、第1実施形態と比べ、クランク軸46や測定器14が異なる。
【0063】
本実施形態の減速装置12は中空部112が設けられる中空軸114を備える。本実施形態の中空軸114はクランク軸46である。中空軸114の中空部112には軸方向両側に開放する一対の開口部112aが設けられる。中空軸114には一対の開口部112aのそれぞれを覆い塞ぐオイルシール等のシール部材116が組み込まれる。
【0064】
図10を参照する。偏心体軸受62は転がり軸受であり、複数の第2転動体120と、第2転動体120が転走する第2内側転走面122及び第2外側転走面124とを備える。本実施形態の偏心体軸受62は専用の内輪を備えず、第2内側転走面122は偏心体60の外周面に設けられる。本実施形態の偏心体軸受62は専用の外輪を備えず、第2外側転走面124は外歯歯車48の貫通孔の内周面に設けられる。
【0065】
本実施形態の減速装置12にも、ケーシング34内の封入空間74と別の空間88とを通じさせる貫通孔90が設けられる。ここでの「別の空間88」は、本実施形態では、中空軸114の中空部112の内部空間をいい、貫通孔90は中空軸114に設けられる。測定器14の少なくとも一部は、この「別の空間88」としての中空軸114の内部空間に配置される。
【0066】
測定器14は、中空軸114に取り付けられる。詳しくは、測定器14の取付部82bは、中空軸114に設けられた貫通孔90に対して、ねじ構造により取り付けられる。
【0067】
潤滑剤は、中空軸114(回転要素)と他部材の接触箇所で劣化が進行し易い。特に、減速機構36において歯車の噛合箇所より前段側に設けられる中空軸114の場合、その回転速度が他の回転要素(たとえば、キャリヤ52、54)より速い。よって、このような中空軸114と他部材の接触箇所では特に劣化が進行し易い。ここでの「他部材」とは、本実施形態では、クランク軸46の偏心体60と偏心体軸受62の第2転動体120との接触箇所をいう。
【0068】
(D)本実施形態によれば、このように潤滑剤の劣化が進行し易い箇所の近くで潤滑剤蒸気の成分を測定器14により測定でき、潤滑剤の劣化を早期に把握し易くなる。
【0069】
また、ケーシング34の外部空間92に測定器14を配置せずに済むため、その測定器14の周辺構造物との干渉を避け易くなる。
【0070】
本実施形態の減速ユニット10も、第1実施形態と同様、前述の(A)、(B)、(C)の効果を得られる。
【0071】
貫通孔90の開口90aは、中空軸114の第2内側転走面122とは別の箇所にて中空軸114に開口する。本実施形態では、軸方向において隣り合う第2内側転走面122の間にて中空軸114の外周面に開口する。これにより、第2内側転走面122に開口する場合と比べ、第2内側転走面122に開口がない分、第2内側転走面122を安定して第2転動体120が転走し易くなる。
【0072】
(E)なお、貫通孔90は、封入空間74から、貫通孔90が通じさせている他の空間(中空軸114の内部空間)に近づくにつれて内径が小さくなってもよい。この条件を満たすうえで、貫通孔90の内径は連続的に小さくなってもよいし段階的に小さくなってもよい。これにより、貫通孔90内に封入空間74から潤滑剤が入り込んだとしても、貫通孔90を通して測定器14に向かおうとする潤滑剤の量を抑えられる。よって、前述と同様、潤滑剤72の接触に伴う測定器14の測定性能の低下を避けられる。
【0073】
この(E)で説明した貫通孔90に関する構成は、他の実施形態や後述の参考形態の貫通孔90に用いてもよい。
【0074】
各構成要素の変形例を説明する。
【0075】
診断システム16は、劣化判定装置18の判定結果を表示するディスプレイ等の表示部や、その判定結果を報知するスピーカー等の報知部を備えてもよい。
【0076】
診断システム16の劣化判定装置18は、測定器14の内部に配置され、有線又は無線により測定器14と電気的に接続されてもよい。
【0077】
劣化判定装置18が用いる判定条件は、測定器14の測定値を監視しない場合、測定器14の測定値が所定の数値範囲外であることでもよい。この判定条件は、たとえば、運転停止状態にある減速装置12をメンテナンスする場合に用いてもよい。
【0078】
減速ユニット10の組み込み相手となる相手機械は産業用ロボット20に限定されない。たとえば、相手機械は、産業用ロボット20の他の産業機械や、車両等でもよい。減速ユニット10は、相手機械(産業用ロボット)に組み込まれる場合、自らの姿勢が変化する例を説明したが、その姿勢が変化しなくともよい。減速ユニット10は、産業用ロボット20に組み込まれる場合、複数の関節26のうちの少なくとも一つの関節26に組み込まれていればよい。
【0079】
減速機構36の種類や具体例は特に限られない。たとえば、撓み噛み合い型減速機構、遊星歯車機構、直交軸歯車機構、平行軸歯車機構等でもよい。減速機構36は、偏心揺動型の場合、単数のクランク軸46を備えるセンタークランクタイプの他に、内歯歯車50の中心軸線Lc1からオフセットした位置に複数のクランク軸46を備える振り分けタイプでもよい。
【0080】
減速機構36は、クランク軸46の回転により内歯歯車50が自転してもよい。この場合、出力部材32はケーシング34が兼ねることとし、キャリヤ52、54に対してケーシング34が回転してもよい。
【0081】
ケーシング34は、内歯歯車本体64と別体に設けられてもよい。ケーシング34内の封入空間74は、減速装置12に接続される他の部材の内部にも連通してもよい。ここでの他の部材とは、たとえば、減速装置12に接続される第1アーム24である。ケーシング34のオイルシール配置部34bは主軸受配置部34aと同等の内径でもよい。
【0082】
偏心体60は、クランク軸46の軸体58と別体に設けられてもよい。
【0083】
内歯歯車50の内歯は、内歯歯車本体64と同じ部材の一部として一体に設けられてもよい。
【0084】
主軸受38、40の第1外側転走面104はケーシング34に設けられてもよい。主軸受38、40の第1内側転走面102はキャリヤ52、54とは別体の専用の内輪に設けられてもよい。
【0085】
偏心体軸受62の第2内側転走面122は偏心体60とは別体の専用の内輪に設けられてもよい。偏心体軸受62の第2外側転走面124は、外歯歯車48とは別体の専用の外輪に設けられてもよい。
【0086】
測定器14は、減速装置12のケーシング34に取り付けられる例(第1、第2実施形態)や、ケーシング34内に配置される減速装置12の他の構成部品に取り付けられる例(第3実施形態)を説明した。ここでの「他の構成部品」とは、第3実施形態では中空軸114をいう。このように、測定器14は、減速装置12に取り付けられていればよく、その取付対象は特に限られない。
【0087】
第1、第2実施形態のように、減速装置12のケーシング34に測定器14を取り付ける場合、測定器14を取り外した状態の減速装置12を用いてもよい。この場合、ケーシング34の貫通孔90は、ケーシング34に着脱可能な蓋体により閉塞してもよい。
【0088】
測定器14の取付部82bの減速装置12に対する取付態様は特に限られない。この取付態様は、たとえば、磁力、爪、接着等である。
【0089】
減速装置12に測定器14を取り付けるうえで、減速装置12に貫通孔90を設けることは必須とはならない。たとえば、減速装置12のケーシング34に貫通孔90を設けることなく、ケーシング34の内周面に測定器14を取り付けてもよい。
【0090】
第3実施形態のように、減速装置12の中空軸114に測定器14を取り付ける場合、中空軸114の具体例はクランク軸46に限られない。中空軸114は、たとえば、入力軸、出力軸等でもよい。
【0091】
(B)の効果を得るうえで、減速装置12の貫通孔90が設けられる位置は特に限られない。貫通孔90は、たとえば、減速装置12のキャリヤ52、54等に設けられてもよいし、中空軸114の第2内側転走面122に開口してもよい。
【0092】
キャリヤ52、54に設ける貫通孔90は、軸方向から見て、偏心体60の外周部と重なる位置に設けられてもよい。クランク軸46の回転中心線Lc2周りで軸体58と一体的に偏心体60が回転したとき、軸方向から見て、偏心体60の外周部の通る軌跡を偏心体60の移動軌跡という。このとき、貫通孔90は、軸方向から見て、偏心体60の移動軌跡の一部と重なる位置に設けられていてもよいということである。これにより、前述の(D)と同様、潤滑剤が劣化し易い箇所の近傍で潤滑剤蒸気を測定器14により測定できる。これに伴い、潤滑剤の劣化を早期に把握し易くなる。
【0093】
減速装置12には阻害部94が設けられていなくともよい。第1実施形態の阻害部94を減速装置12に設ける場合、貫通孔90の開口90aの周縁部は阻害部94(ピン部材66)に接触していなくともよい。
【0094】
第2実施形態の阻害部94を減速装置12に設ける場合、隙間110は、径方向から見て、主軸受40の外輪106の一部のみと重なる位置に設けられていてもよい。この場合、隙間110の第1開口110aが封入空間74に露出する位置に設けられていればよく、隙間110の第2開口110cはなくともよい。
【0095】
以上、本発明の実施形態や変形例について詳細に説明した。前述した実施形態や変形例は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態や変形例の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との記載を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0096】
以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。たとえば、実施形態に対して変形例の任意の説明事項を組み合わせてもよいし、変形例に対して実施形態や他の変形例の任意の説明事項を組み合わせてもよい。
【0097】
(参考形態)
次に、参考形態の減速ユニット10を説明する。参考形態の減速ユニット10を想到した背景から説明する。
【0098】
特許文献1の技術では、イオン移動度分光計等の測定器にケーシング内の潤滑剤蒸気を供給するうえで、その迅速化を図るための工夫を講じていない。本発明者は、このような観点から、特許文献1の技術に関して改良の余地があるとの認識を得た。
【0099】
本参考形態により具体化される発明は、こうした状況に鑑みてなされ、その目的の1つは、潤滑剤蒸気の捕集作業の迅速化を図れる技術を提供することにある。
【0100】
図11を参照して、参考形態の減速ユニット10を説明する。この減速ユニット10は、減速装置12と、減速装置12に第1流路形成体130を介して接続される第1捕集部材132と、減速装置12に第2流路形成体134を介して接続される流れ生成装置136とを備える。本実施形態の減速ユニット10は、減速装置12に第1流路形成体130を介して接続される第2捕集部材138を更に備える。
【0101】
減速装置12は前述の第1実施形態と同様の構成である。減速装置12のケーシング34には、前述の貫通孔90としての第1貫通孔90の他に、第2貫通孔140が形成される。第2貫通孔140はケーシング34内の封入空間74と外部空間92を通じさせる。本参考形態の第2貫通孔140は、ケーシング34内の封入空間74を挟んで第1貫通孔90とは反対側に設けられる。
【0102】
第1捕集部材132の内部には潤滑剤蒸気を捕集するための第1捕集空間142が設けられる。第1捕集部材132は、たとえば、可とう性を持つ袋体により構成される。第1捕集部材132は、第1流路形成体130に接続部材144を介して着脱可能に接続される。第1捕集部材132は、減速装置12に第1流路形成体130や接続部材144を介して着脱可能に接続されることになる。本実施形態の接続部材144には逆止弁が組み込まれ、第1捕集部材132に捕集したガスの逆流を防止できる。接続部材144には、逆止弁の開閉状態を切り替え可能なレバー等の操作部144aが設けられる。
【0103】
本実施形態の第1流路形成体130は複数の第1流路形成部材146、148を含む。複数の第1流路形成部材146、148には、ストレート管やT型分岐管を含む複数の配管146や配管継手148が含まれる。
【0104】
第1流路形成体130内には、減速装置12から排出されるガスが通る排気路150の一部が形成される。本図では排気路150や給気路158(後述する)を矢印で示す。本実施形態の排気路150は、減速装置12から排出されるガスが通る上流側流路150aと、上流側流路150aの下流端から分岐するガス流路150b及び潤滑剤流路150cとを有する。
【0105】
ガス流路150bは、ガス流路150b及び潤滑剤流路150cの分岐点150dに上流側流路150aから送られてきたガスを第1捕集部材132に送るためのものである。ガス流路150bは、分岐点150dに上流側流路150aから送られてきたガスの流れ方向とは異なる方向に分岐点150dから延びるように設けられる。第1捕集部材132内の第1捕集空間142は、排気路150のガス流路150bの下流端に設けられる。
【0106】
潤滑剤流路150cは、分岐点150dに上流側流路150aから送られてきた潤滑剤そのものを第2捕集部材138に送るためのものである。潤滑剤流路150cは、上流側流路150aから分岐点150dに送られてきたガスの流れ方向と同方向に分岐点150dから延びるように設けられる。このような構成によれば、上流側流路150aから分岐点150dに送られた潤滑剤をガス流路150bではなく潤滑剤流路150cに送り易くなる。
【0107】
第2捕集部材138の内部には、排気路150の潤滑剤流路150cから送られる潤滑剤そのものを捕集するための第2捕集空間152が設けられる。
【0108】
流れ生成装置136は、たとえば、ポンプである。流れ生成装置136は、減速装置12の封入空間74から貫通孔90を通して外部に向かうガスの流れFaを強制的に生成可能である。本実施形態の流れ生成装置136は、減速装置12の封入空間74に外部から風を送り込むことにより、このようなガスの流れFaを生成可能である。この風は、減速装置12の第2貫通孔140を通して封入空間74に送り込まれる。
【0109】
本実施形態の第2流路形成体134は複数の第2流路形成部材154,156を備える。複数の第2流路形成部材154,156には、ストレート管やエルボ管を含む複数の配管154や配管継手156が含まれる。第2流路形成体134の内部には流れ生成装置136から供給される風を減速装置12に供給するための給気路158が形成される。
【0110】
以上の減速ユニット10を用いた潤滑剤の劣化診断方法を説明する。本方法は、たとえば、運転停止状態にある減速装置12をメンテナンスする場合に用いられる。
【0111】
まず、図11に示すように、第1捕集部材132、第2捕集部材138、流れ生成装置136を減速装置12に接続する。本参考形態では、減速装置12に対して水平方向の一方側に流れ生成装置136を配置し、その他方側に第1捕集部材132、第2捕集部材138を配置する。図11は減速ユニット10を鉛直上側から見た位置関係を示す。
【0112】
次に、流れ生成装置136により、減速装置12の封入空間74から第1貫通孔90を通して外部に向かうガスの流れFaを強制的に生成する。これにより、減速装置12の封入空間74内の潤滑剤や潤滑剤蒸気が排気路150に送り出される。
【0113】
減速装置12内の潤滑剤蒸気は、排気路150の上流側流路150aやガス流路150bを通して第1捕集部材132に送り出される。第1捕集部材132は、自らの容積の増大を伴いつつ、その内部の第1捕集空間142に潤滑剤蒸気を含むガスを捕集する。このとき、減速装置12内の潤滑剤は、排気路150の上流側流路150aや潤滑剤流路150cを通して第2捕集部材138に送り出される。
【0114】
潤滑剤蒸気を含むガスを第1捕集部材132に捕集したら、減速装置12に対する第1捕集部材132の接続を解除する。本実施形態では、第1流路形成体130に対する接続部材144の接続を解除することで、これを実現する。
【0115】
この後、第1捕集部材132に捕集された潤滑剤蒸気の成分を測定器を用いて測定する。ここで用いる測定器は、前述の実施形態と同様、ガスセンサが組み込まれた測定器を用いてもよい。この後、前述の劣化判定装置18を用いて、測定器により測定された潤滑剤蒸気の測定値と所定の判定条件とに基づき、潤滑剤の劣化を判定する。
【0116】
潤滑剤蒸気の成分を測定器により測定するうえでは、前述の接続部材144の逆止弁の開閉状態を閉状態から開状態に切り替え、第1捕集部材132の外部に第1捕集部材132の内部の潤滑剤蒸気を取り出せばよい。
【0117】
以上の劣化診断方法では、減速装置12の封入空間74から貫通孔90に向かうガスの流れFaを強制的に生成し、封入空間74内の潤滑剤蒸気を第1捕集部材132の内部に送り出している。よって、減速装置12の封入空間74内の潤滑剤蒸気を早期に第1捕集部材132で捕集でき、その捕集作業の迅速化を図れる。
【0118】
これと同様の効果を得るうえで、流れ生成装置136は、減速装置12の封入空間74内のガスを吸い込んで負圧を生じさせてもよい。流れ生成装置136は、このような負圧を減速装置12の封入空間74に生じさせることで、封入空間74から貫通孔90を通して外部に向かうガスの流れFaを生成してもよいということである。この流れ生成装置136は、たとえば、ポンプ等を用いて構成される。
【0119】
この場合、流れ生成装置136を減速装置12に接続する第2流路形成体134は第1流路形成体130が兼ねていてもよい。また、この場合、第1捕集部材132は、たとえば、排気路150の途中位置に配置され、潤滑剤蒸気の特定成分を捕捉するガス分離膜を備えてもよい。この構成によれば、減速装置12の封入空間74から排気路150に送り出される潤滑剤蒸気の特性成分をガス分離膜により捕捉できる。このように捕捉した潤滑剤蒸気の特定成分を測定器等を用いて測定すれば、潤滑剤の劣化を判定できる。
【0120】
以上の参考形態の構成要素は、前述の実施形態や変形例の任意の説明事項と組み合わせてもよい。
【0121】
以上の参考形態により具体化される内容を一般化すると、以下の項目に記載の発明が含まれているともいえる。
【0122】
(項目)
減速装置に用いられる潤滑剤の劣化を診断する方法であって、
前記減速装置は、潤滑剤が封入されるケーシングと前記ケーシングに収納される減速機構とを備え、
前記減速装置には、前記ケーシング内の潤滑剤封入空間と外部空間とを通じさせる貫通孔が設けられ、
前記減速装置には、前記貫通孔を通り抜ける前記潤滑剤の蒸気を捕集する捕集部材が接続され、
本方法は、
前記潤滑剤封入空間から前記貫通孔に向かうガスの流れを強制的に生成することで、前記潤滑剤封入空間内の前記潤滑剤の蒸気を前記捕集部材の内部に送り出すステップと、
前記捕集部材に捕集された潤滑剤の蒸気の成分を測定して前記潤滑剤の劣化を診断するステップとを含む潤滑剤の劣化診断方法。
【符号の説明】
【0123】
10…減速ユニット、12…減速装置、14…測定器、34…ケーシング、34a…主軸受配置部、34b…オイルシール配置部、36…減速機構、38、40…主軸受、42…オイルシール、48…外歯歯車、50…内歯歯車、52、54…キャリヤ、60…偏心体、66…ピン部材、72…潤滑剤、74…潤滑剤封入空間、80…内部空間、88…別の空間、90…貫通孔、90a…開口、92…外部空間、94…阻害部、106…外輪、110…隙間、114…中空軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11