(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】並列マルチスライスMR撮像
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20241107BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20241107BHJP
G01R 33/561 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
A61B5/055 377
A61B5/055 311
A61B5/055 372
G01N24/08 510Y
G01R33/561
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023075988
(22)【出願日】2023-05-02
(62)【分割の表示】P 2019567295の分割
【原出願日】2018-06-08
【審査請求日】2023-05-31
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリッセン ミシェル ポール ジュリアーン
(72)【発明者】
【氏名】グリゴレット ボルゴノヴィ アーサー フェリペ ニスティ
(72)【発明者】
【氏名】ロザイン トーマス ヘンドリック
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0225612(US,A1)
【文献】特開2005-198715(JP,A)
【文献】特表2014-503290(JP,A)
【文献】特開2010-233907(JP,A)
【文献】特表2016-504144(JP,A)
【文献】特開2004-073538(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0099784(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00 -24/14
G01R 33/20 -33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MRデバイスの検査ボリューム内に置かれた物体のMR撮像方法であって、
2つ以上の空間的に離れた画像スライスを同時に励起するためのマルチスライスRFパルスを含むマルチエコー撮像シーケンスのN回のショットに前記物体をさらすことによりMR信号を生成するステップであって、位相オフセットが各画像スライスの前記MR信号に与えられ、前記位相オフセットは、ショット毎に変化する、前記MR信号を生成するステップと、
前記MR信号が前記検査ボリューム内で異なる空間感度プロファイルを有する少なくとも2つのRFコイルのセットを介して並列に受信されて、前記MR信号を取得するステップと、
並列再構成アルゴリズムを使用して、取得した前記MR信号から各画像スライスのMR画像を再構成するステップであって、前記再構成は、前記少なくとも2つのRFコイルの前記空間感度プロファイル、前記スライスの位相エンコーディング方向に与えられる位相エンコーディング、及び各ショットの前記スライスの選択方向に与えられる位相エンコーディングによって決定される行列を用いるステップと、
を含み、
様々な画像スライスからの前記MR信号の寄与が、前記少なくとも2つのRFコイルの前記空間感度プロファイルによる前記MR信号の空間エンコーディングに基づいて、また、各画像スライス及びショットによって生じる前記位相オフセットに基づいて分離される、方法。
【請求項2】
位相エンコード方向においてアンダーサンプリングされたk空間データが、前記マルチエコー撮像シーケンスの各ショットにおいて取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
変化する前記位相オフセットによって与えられる位相エンコード方向においてアンダーサンプリングされたk空間データが、前記マルチエコー撮像シーケンスの各ショットにおいて取得される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記位相オフセットは、前記マルチスライスRFパルスの位相変調によって与えられる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記位相オフセットは、スライス選択方向において印加される傾斜磁場によって与えられる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
MR画像再構成の逆問題は、エンコード行列を使用して解決され、前記エンコード行列の行列要素は、前記少なくとも2つのRFコイルの前記空間感度プロファイル、前記マルチエコー撮像シーケンスの各ショットのk空間サンプリング、並びに、前記画像スライス及び前記ショットによって生じる前記位相オフセットによって決定される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記MR信号の先験的に既知の位相誤差が、対応する位相誤差値を前記エンコード行列に組み込むことにより考慮される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
動き情報に基づく動き重み付けが、前記MR画像再構成に適用される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記マルチエコー撮像シーケンスの前記ショット間に、前記物体をナビゲータシーケンスにさらすことによりナビゲータ信号が生成され、前記動き情報は前記ナビゲータ信号から導出される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記物体をナビゲータシーケンスにさらすことによりナビゲータ信号が生成され、前記ナビゲータ信号から導出される位相情報を前記エンコード行列に組み込むことにより、動きによって誘発された位相誤差が考慮される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項11】
前記マルチエコー撮像シーケンスのN回より少ないM回のショットが
、信号対雑音比を向上させる目的で2回以上行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実行するためのMRデバイスであって、
検査ボリューム内に均一な静磁場を生成する少なくとも1つの主磁石コイルと、
前記検査ボリューム内の異なる空間方向に切り替え傾斜磁場を生成する幾つかの傾斜磁場コイルと、
異なる空間感度プロファイルを有する少なくとも2つのRFコイルのセットと、
RFパルス及び切り替え傾斜磁場の時間的連続を制御する制御ユニットと、
再構成ユニットと、
を含み、
前記MRデバイスは、
2つ以上の空間的に離れた画像スライスを同時に励起するためのマルチスライスRFパルスを含むマルチエコー撮像シーケンスのN回のショットに前記物体をさらすことによりMR信号を生成することであって、位相オフセットが各画像スライスの前記MR信号に与えられ、前記位相オフセットは、ショット毎に変化する、前記MR信号を生成することと、
前記MR信号が前記RFコイルのセットを介して並列に受信されて、前記MR信号を取得することと、
並列再構成アルゴリズムを使用して、取得した前記MR信号から各画像スライスのMR画像を再構成することであって、前記再構成は、前記少なくとも2つのRFコイルの前記空間感度プロファイル、前記スライスの位相エンコーディング方向に与えられる位相エンコーディング、及び各ショットの前記スライスの選択方向に与えられる位相エンコーディングによって決定される行列を用いることと、
を行い、
様々な画像スライスからの前記MR信号の寄与が、前記RFコイルの前記空間感度プロファイルによる前記MR信号の空間エンコーディングに基づいて、また、各画像スライス及びショットによって生じる前記位相オフセットに基づいて分離される、MRデバイス。
【請求項13】
MRデバイス上で実行されるコンピュータプログラムであって、
2つ以上の空間的に離れた画像スライスを同時に励起するためのマルチスライスRFパルスを含むマルチエコー撮像シーケンスのN回のショットを生成するための命令と、
MR信号を取得するための命令と、
並列再構成アルゴリズムを使用して、取得した前記MR信号から各画像スライスのMR画像を再構成するための命令であって、前記再構成は
、少なくとも2つのRFコイル
の空間感度プロファイル、前記スライスの位相エンコーディング方向に与えられる位相エンコーディング、及び各ショットの前記スライスの選択方向に与えられる位相エンコーディングによって決定される行列を用いる命令とを含み、
位相オフセットが、各画像スライスの前記MR信号に与えられ、
前記位相オフセットは、ショット毎に変化し、
様々な画像スライスからの前記MR信号の寄与が、
前記少なくとも2つのRFコイルのセットの
前記空間感度プロファイルによる前記MR信号の空間エンコーディングに基づいて、また、各画像スライス及びショットによって生じる前記位相オフセットに基づいて分離される、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴(MR)撮像の分野に関する。本発明は、物体のMR撮像方法に関する。本発明はまた、MRデバイス及びMRデバイス上で実行されるコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、2次元又は3次元画像を形成するために磁場と核スピンとの相互作用を利用する画像形成MR方法は、軟組織の撮像について、他の撮像方法よりも多くの点において優れ、電離放射線を必要とせず、また、通常、侵襲的ではないので、特に医療診断分野において広く使用されている。
【0003】
一般的なMR方法では、例えば検査される患者の身体である物体は、強力な均一磁場内に配置される。磁場の方向は、同時に、測定のベースになる座標系の軸(通常はz軸)を規定する。磁場は、規定された周波数(いわゆるラーモア周波数又はMR周波数)の交流電磁場(RF磁場)の印加によって励起(スピン共鳴)可能である磁場強度に依存して、個々の核スピンの様々なエネルギーレベルを生成する。巨視的観点から、個々の核スピンの分布が、適切な周波数の電磁パルス(RFパルス)の印加によって平衡状態から外れるように偏向可能である全体の磁化を生成し、したがって、磁化は、Z軸の周りで歳差運動を行う。歳差運動は、円錐体の表面を記述し、その開口角がフリップ角と呼ばれる。フリップ角の大きさは、印加電磁パルスの強度及び持続時間に依存する。いわゆる90°パルスの場合、スピンは、Z軸から横断面まで偏向される(フリップ角90°)。
【0004】
RFパルスの終了後、磁化は緩和して元の平衡状態に戻る。平衡状態では、Z方向における磁化が、第1の時定数T1(スピン格子緩和時間又は縦緩和時間)で再び蓄積され、Z方向に垂直な方向における磁化が、第2の時定数T2(スピンスピン緩和時間又は横緩和時間)で緩和する。磁化の変化は、当該磁化の変化がZ軸に垂直な方向において測定されるようにMRデバイスの検査ボリューム内に配置され、方向付けられている受信RFコイルによって検出可能である。横方向磁化の減衰は、例えば90°パルスの印加後、(局所的な磁場の不均一性によって引き起こされる)同位相を有する秩序状態からすべての位相角が均一に分布する状態への核スピンの遷移(ディフェージング)が伴う。ディフェージングは、リフォーカシングパルス(例えば180°パルス)によって相殺することができる。これは、受信コイルにおいてエコー信号(スピンエコー)を生成する。
【0005】
体内における空間分解能を実現するために、3つの主軸に沿って延在する定傾斜磁場が、均一磁場に重畳され、スピン共鳴周波数の線形空間的依存性につながる。このとき、受信コイルにおいて捕捉される信号は、体内の様々な場所に関連付けられる様々な周波数成分を含む。
【0006】
受信コイルを介して得られる信号データは、空間周波数領域に対応し、k空間データと呼ばれる。k空間データは、通常、異なる位相エンコーディングで収集される複数のラインを含む。各ラインは、幾つかのサンプルを収集することによってデジタル化される。k空間データのセットは、画像再構成アルゴリズムによってMR画像に変換される。
【0007】
並列取得技術は、MR取得を加速するため一般的に適用されている。このカテゴリにおける方法は、SENSE(感度エンコーディング)、SMASH(空間高調波の同時取得)及びGRAPPA(一般化自動較正部分並列取得)である。SENSE、SMASH及びGRAPPA並びに他の並列取得技術は、複数のRF受信コイルから並列で得られたアンダーサンプリングされたk空間データ取得を使用する。対応する再構成アルゴリズムにおいて、複数のコイルからの(複雑な)信号データは、最終的に再構成されるMR画像におけるアンダーサンプリングアーチファクト(エイリアシング)を抑制するようなやり方で複雑な重み付けで結合される。このタイプの複雑なアレイ信号結合は、空間フィルタリングと呼ばれることもあり、(SMASH及びGRAPPAのように)k空間領域又は(SENSEのように)画像領域において行われる結合及びハイブリッドである方法を含む。
【0008】
Larkman他(Journal of Magnetic Resonance Imaging, 13, 313-317, 2001)は、マルチスライス撮像の場合に、スライス方向においても感度エンコーディングを適用して走査効率を上げることを提案した。Breuer他(Magnetic Resonance in Medicine, 53, 684-691, 2005)は、この基本的なアイデアを改良して、「高加速における並列撮像結果における制御されたエイリアシング(controlled aliasing in parallel imaging results in higher acceleration)」(CAIPIRINHA)と呼ばれるアプローチを提案した。この技術は、マルチスライス取得中に、各個別のスライスにおけるエイリアシングアーチファクトの外形を、各画像スライスのMR信号に位相オフセットを与えることにより修正し、これにより、後の並列画像再構成手順を改良する。したがって、CAIPIRINHAは、純粋な後処理アプローチのみを使用する他のマルチスライス並列撮像概念と比べて効率的な並列マルチスライス撮像技術である。CAIPIRINHAにおいて、任意の厚さ及び距離の複数のスライスが、(既知のアダマール(Hadamard)パルスと同様の)位相変調されたマルチスライスRFパルスの使用で同時に励起される。取得されたMR信号データは、アンダーサンプリングされ、異なる位相オフセットに対応して互いに対してシフトしているように見える重畳されたスライス画像を生じる。エイリアススライス画像のシフトは、フーリエシフト定理によってRFパルスの位相変調スキームにより適用される位相オフセットによって制御される。関与するスライスの個別の信号寄与を分離する逆再構成問題の数値的条件は、このシフトを使用して改良される。
【0009】
米国特許出願公開第2014/0225612A1号は、セグメント化されたエコー平面撮像(EPI)パルスシーケンスを使用するMR撮像方法を開示する。パルスシーケンスには、2つ以上の空間的に離れた画像スライスを同時に励起するための複数のマルチスライスRFパルスが含まれる。特定の勾配エンコーディングスキームがスライスエンコーディング方向に沿って適用され、様々なスライスに制御された位相オフセットが与えられる。取得されたMR信号データは、撮像データ内の重なるスライスを分離する並列撮像再構成方法を使用してMR画像に再構成されて、撮像物体全体にわたるスライスのそれぞれについての一連のMR画像が提供される。
【0010】
米国特許出願公開第2016/0018499Al号は、CAIPIRINHAがRFパルスの固定位相変調スキームを使用し、例えば視野(FOV)の寸法の半分又はFOVの寸法の他の整数部分だけ隣接するスライスの相対的なシフトをもたらす問題に対処する。この固定スキームの欠点は、先験的情報を考慮しない点である。したがって、受信RFコイルのアレイのエンコーディング能力及び撮像問題の基本構造も十分に考慮されず、結果として次善の位相変調が生じ、したがって、次善の再構成性能がもたらされる。この問題の解決策として、米国特許出願公開第2016/0018499Al号は、利用可能なコイル感度情報を使用して、調整されたスライス固有の位相オフセットを導き出して、最終な画質を向上させるために、エンコーディングプロセス、したがって、アンフォールディング問題の条件付けを更に最適化することを提案する。
【発明の概要】
【0011】
本発明によれば、MRデバイスの検査ボリューム内に置かれた物体のMR撮像方法が開示される。この方法は、
2つ以上の空間的に離れた画像スライスを同時に励起するためのマルチスライスRFパルスを含むマルチエコー撮像シーケンスのN回のショットに物体をさらすことによりMR信号を生成するステップであって、スライス方向における位相オフセットが、各画像スライスのMR信号に与えられ、位相オフセットは、ショット毎に変化する、MR信号を生成するステップと、
MR信号が、検査ボリューム内で異なる空間感度プロファイルを有する少なくとも2つのRFコイルのセットを介して並列に受信されて、MR信号を取得するステップと、
並列再構成アルゴリズムを使用して、取得したMR信号から各画像スライスのMR画像を再構成するステップと、
を含み、様々な画像スライスからのMR信号の寄与が、RFコイルの空間感度プロファイルによるMR信号の空間エンコーディングに基づいて、また、各画像スライス及びショットによって生じる位相オフセットに基づいて分離される。
【0012】
本発明の方法は、マルチショットマルチエコー撮像シーケンスを使用して、(シングルショット)EPI走査に比べて、画像解像度を向上させ、幾何学的歪みを低減し、及び/又は、信号対雑音比(SNR)を高める。本発明によれば、マルチスライス位相オフセットはショット毎に変化する。このようにして、追加の位相エンコーディングをスライス方向に柔軟に適用でき、これは、再構成ステップにおけるスライス画像の分離の安定性を向上させる。
【0013】
本発明は、様々な画像スライスからのMR信号寄与の分離のために、(例えばSENSE又はSMASH再構成といった)並列撮像再構成アルゴリズムを使用する。マルチエコー撮像シーケンスの各ショットで取得される撮像信号データは、スライス方向に適用される様々な位相オフセットに従って変調されたk空間全体のサブセットである。並列画像再構成アルゴリズムは、信号データから完全な(展開された)スライス画像を生成するために使用される。MR信号は、様々なRFコイル(「チャネル」)を介して並行に取得され、好適には、取得を高速化するために位相エンコード方向においてアンダーサンプリングされる。これは、並列再構成アルゴリズムによる画像再構成中に従来のやり方で考慮される。ショット間にスライス方向に適用される位相オフセットは、対応する位相情報を、並列再構成アルゴリズムのベースとなるエンコード行列に追加的に組み込むことによって考慮される。つまり、画像再構成の逆問題は、RFコイルの空間感度プロファイル及び撮像シーケンスの各ショットのk空間サンプリングパターンだけでなく、画像スライス及びショットによって生じる様々な位相オフセットによって行列要素が決定されるエンコード行列を使用して、本発明に従って解決される。このアプローチは、マルチショットマルチエコーSENSE撮像での効率的な画像再構成で知られている既知のIRIS(画像空間サンプリング関数を使用する画像再構成)再構成スキーム(Jeoung他のMagnetic Resonance in Medicine 2013、第69巻、793-802頁を参照)に相当する。ただし、単一のMR画像だけでなく、多数の画像スライスを考慮し、対応する位相情報をエンコード行列に組み込むことにより、概念がマルチスライス撮像まで拡張されているという違いがある。
【0014】
本発明の方法の撮像シーケンスは、k空間がセグメント化されたやり方でサンプリングされることを伴うマルチショットシーケンスである。つまり、撮像シーケンスの各ショットでk空間のサブセットしかサンプリングされない。特に、変化する位相オフセットによって与えられる位相エンコード方向でアンダーサンプリングされたk空間データが取得される。
【0015】
1つの可能な実施形態では、可変位相オフセットは、(例えば既知のPOMP技術のように)RFパルスの位相変調によって与えることができる(Glover他のJournal of Magnetic Resonance Imaging 1991、457-461頁を参照)。或いは、(上で引用された米国特許出願公開第2014/0225612A1にあるように)スライス選択方向に適用される傾斜磁場を使用して、位相オフセットを与えることができる。
【0016】
撮像シーケンスの様々なショットで取得されたMR信号は、例えば傾斜磁場コイルの加熱による又は拡散勾配の存在下での撮像物体の動きによる様々な位相誤差を含む場合がある。これらの位相誤差が先験的に分かっている場合、本発明では、対応する位相誤差値をエンコード行列に組み込むことにより、当該位相誤差を考慮することができる。同様に、(反対の極性の読み出し傾斜磁場の存在下で取得される)奇数及び偶数のエコー信号は、例えば反対の勾配の様々な遅延による系統的な位相誤差を含む場合がある。各フルショットの一連のエコー信号を2つのMR信号データセット(1つは奇数エコー信号を含み、もう1つは偶数エコー信号を含む)に分割することにより、ショット数は、再構成アルゴリズムの観点から実質的に2倍になる。これは、対応する位相誤差値をエンコード行列に組み込むことにより、奇数/偶数エコー位相誤差を補正することを可能にする。
【0017】
撮像物体の動きを考慮するために、例えば取得中に呼吸ベルトを使用することで、撮像物体から動き情報を収集することができる。動き情報に基づく動き重み付けがMR画像再構成に適用される。強い動きの存在下で取得されたMR信号データは、動きが少ない状態で取得されたMR信号データと比べて、重み付けが少ない。
【0018】
撮像シーケンスのショット間で、物体にナビゲータシーケンスにさらすことによってナビゲータ信号を生成することができる。このとき、ナビゲータ信号から導出される動き重み付けを、MR画像再構成に適用することができる。或いは、既知のIRISアプローチと同様に、ナビゲータ信号から導出される対応する位相情報をエンコード行列に直接組み込むことにより、動きによって誘発されたショット毎の位相誤差を考慮することができる。
【0019】
本発明の方法の別の好適な実施形態では、SNRを改善する目的で、撮像シーケンスのN回より少ないM回のショットを2回以上行うことができる。完全な収集を繰り返して平均化によってSNRを上げるのではなく、N回のショットの総数のサブセットのみを繰り返すことができる。そして、対応するMR信号を本発明の並列再構成スキームに追加することができる。これらの追加ショットは、撮像シーケンスの他のショットとは異なる位相オフセットを使用して、再構成アルゴリズムの安定性を更に向上させることができる。
【0020】
これまでに説明した本発明の方法は、検査ボリューム内に均一な静磁場を生成する少なくとも1つの主磁石コイルと、検査ボリューム内の異なる空間方向に切り替え傾斜磁場を生成する幾つかの傾斜磁場コイルと、身体からのMR信号を並列で受信し、異なる空間感度プロファイルを有するRFコイルのセットと、RFパルス及び切り替え傾斜磁場の時間的連続を制御する制御ユニットと、再構成ユニットとを含むMRデバイスによって実行することができる。本発明の方法は、例えばMRデバイスの再構成ユニット及び/又は制御ユニットの対応するプログラミングによって実施することができる。
【0021】
本発明の方法は、現在臨床で使用されているほとんどのMRデバイスで有利に実施することができる。このためには、本発明の上述の方法ステップを行うようにMRデバイスを制御するコンピュータプログラムを利用するだけでよい。コンピュータプログラムは、MRデバイスの制御ユニットにインストールするためにダウンロードされるように、データ担体上に存在しても、データネットワーク内に存在してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
添付図面は、本発明の好適な実施形態を開示する。しかし、当然ながら図面は、本発明の限定を定義するものではなく、例示のみを目的としている。
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の方法を実行するためのMRデバイスを示す。
【
図2】
図2は、本発明に従って使用されるマルチショットマルチエコー撮像シーケンスの1つのショットを示す。
【
図3】
図3は、本発明に従って適用されるk空間エンコードスキームを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1を参照すると、MRデバイス1が示される。このデバイスは、実質的に均一で時間的に一定の主磁場が、検査ボリュームを通るZ軸に沿って生成されるように超伝導又は抵抗主磁石コイル2を含む。
【0025】
磁気共鳴生成及び操作システムが、一連のRFパルス及び切り替え傾斜磁場を印加して、例えば核磁気スピンを反転又は励起し、磁気共鳴を誘導し、磁気共鳴をリフォーカスし、磁気共鳴を操作し、磁気共鳴を空間的に又は別の方法でエンコードし、スピンを飽和させて、MR撮像を行う。
【0026】
より具体的には、傾斜磁場パルス増幅器3が、検査ボリュームのX、Y及びZ軸に沿った全身傾斜磁場コイル4、5及び6のうちの選択されたコイルに電流パルスを印加する。デジタルRF周波数送信器7が、RFパルス又はパルスパケットを、送受信スイッチ8を介して、全身ボリュームRFコイル9に送信し、RFパルスを検査ボリュームに送信する。典型的なMR撮像シーケンスは、互いに一緒に取られる短い持続時間のRFパルスセグメントのパケットからなり、任意の印加された傾斜磁場が、核磁気共鳴の選択された操作を実現する。RFパルスは、飽和させる、共鳴を励起する、磁化を反転させる、共鳴をリフォーカスする又は共鳴を操作し、検査ボリュームに配置された身体10の一部を選択するために使用される。
【0027】
並列撮像による身体10の限定領域のMR画像の生成のために、異なる空間感度プロファイルを有する局所RFコイル11、12、13のセットが、撮像のために選択された領域に隣接して配置される。
【0028】
結果として生じるMR信号は、RFコイル11、12、13によって捕捉され、好適には前置増幅器(図示せず)を含む受信器14によって復調される。受信器14は、送受信スイッチ8を介して、RFコイル9、11、12及び13に接続される。
【0029】
ホストコンピュータ15は、傾斜磁場パルス増幅器3及び送信器7を制御して、エコー平面撮像(EPI)、エコーボリューム撮像、勾配及びスピンエコー撮像、高速スピンエコー撮像等といった複数のMR撮像シーケンスの何れかを生成する。選択されたシーケンスについて、受信器14は、各RF励起パルスに続いて、高速連続で単一又は複数のMRデータラインを受信する。データ取得システム16は、受信信号のアナログ-デジタル変換を行い、各MRデータラインを更なる処理に適したデジタル形式に変換する。最新のMRデバイスでは、データ取得システム16は、生画像データの取得に特化した別個のコンピュータである。
【0030】
最後に、デジタル生画像データは、フーリエ変換又は他の適切な再構成アルゴリズムを適用する再構成プロセッサ17によって画像表現に再構成される。MR画像は、患者を通る平面スライス、平行な平面スライスのアレイ、3次元ボリューム等を表すことができる。画像は次に画像メモリに保存される。画像メモリは、画像表示のスライス、投影又は他の部分を、例えば結果として得られるMR画像の人間可読表示を提供するビデオモニタ18を介する視覚化のために適切な形式に変換するためにアクセスすることができる。
【0031】
ホストコンピュータ15及び再構成プロセッサ17は、上記された及び以下で説明する本発明の方法を実行するようにプログラムされている。
【0032】
引き続き
図1を参照し、更に
図2及び
図3を参照して、本発明の撮像技術の一実施形態について説明する。
【0033】
身体10は、
図2に示すマルチエコー撮像シーケンスの複数のショットにさらされる。撮像シーケンスは、修正されたマルチショットEPIシーケンスである。このシーケンスは、2つ以上の空間的に離れた画像スライスを同時に励起するためのスライス選択マルチスライスRFパルス21を含む。RFパルス21は、対応するスライス選択傾斜磁場22の存在下で放射されて、幾つかの撮像スライスに横方向核磁化を生成する。励起RFパルス21に続いて、交互読み出し傾斜磁場23の存在下で一連の傾斜磁場リコールエコー信号をサンプリングすることによりMR信号が取得される。MR信号の位相エンコーディングが、一連の位相エンコード傾斜磁場「ブリップ(blip)」24によって行われる。各位相エンコード傾斜磁場ブリップ24の印加中、更なる傾斜磁場ブリップ25がまたスライスエンコード方向に印加される。本発明では、スライスエンコード傾斜磁場ブリップ25は、各画像スライスのMR信号に位相オフセットを与えるために使用される。傾斜磁場ブリップ25を使用して様々な位相オフセットを適用することができるが、連続ショットのスライス選択RFパルス21の対応する位相調整によっても位相オフセットを与えることができる。MR信号の取得は、SENSEエンコーディングによって加速される。MR信号は、異なる空間感度を有するRF受信コイル11、12、13を介して並行に取得され、また、MR信号は、位相エンコード方向のアンダーサンプリングで取得される。
図2に、撮像シーケンスの1つのショットを示す。マルチエコーシーケンスの複数(N)のショットは、SENSE再構成を使用して、取得された撮像エコー信号データから完全なMRスライス画像を再構成できるようにk空間を完全にサンプリングするために適用される。SENSE再構成では、本発明によれば、様々なMR信号に与えられる位相オフセットはショット毎に変化する。つまり、k
z位相エンコーディングはショット毎に変化し、各k
z位相エンコーディングについて様々なk
y位相エンコーディングが行われる。k空間における各(k
z、k
y)位置で、k
xライン全体が周波数エンコード方向においてサンプリングされる。
【0034】
各画像スライスのMR画像は、並列再構成アルゴリズムを使用して、取得したMR信号データから再構成される。並列再構成アルゴリズムでは、様々な画像スライスからのMR信号寄与は、RFコイルの空間感度プロファイルによるMR信号の空間エンコーディングに基づいて、また、各画像スライス及びショットによって生じる位相オフセットに基づいて分離される。これについては、以下で詳しく説明する。
【0035】
各ショットがk空間の通常のアンダーサンプリングを表すN回のショットを有するマルチショットシーケンスでは、SENSE式のセットを、
【数1】
と設定することができる。
【0036】
式中、ベクトル
【数2】
は、そのベクトルは、別々のRFコイル(「チャネル」)を介して測定されたエイリアスピクセル値から計算する必要がある画像ピクセル値を含む。エイリアスピクセル値は、ベクトル
【数3】
によって記述される。Sは、使用されるRFコイルの空間感度プロファイルによって決定されるコイル感度行列である。感度行列Sのサイズは、ショットのアンダーサンプリング、使用されるRFコイルの数及びマルチスライスRFパルスによって励起されるスライスの数によって決まる。本発明による撮像シーケンスの各ショットで適用される位相オフセットは、スライス方向において結果として生じる追加の位相エンコーディングを記述する対角行列である行列Φ
shによって考慮される。SENSE式は、これに基づいて、
【数4】
と記述することができる。
【0037】
ここでΦ
shは、場所毎の位相エンコーディングを含む対角行列である。
【数5】
【0038】
スライス方向(kz)における様々な位相エンコーディングを考慮する必要があるだけでなく、位相エンコード方向(ky)における様々な位相エンコーディングも考慮する必要がある。したがって、φ(r)は、通常の位相エンコード方向(ky)における位相エンコードとスライス方向(kz)における位相オフセットとの両方によって、各ピクセル値に与えられる位相を表す。コイル感度エンコーディング及び位相エンコーディング(y及びz)とは、1つのエンコード行列Eshに結合することができる。
SΦsh=Esh
【0039】
最後に、すべてのN回のショットの式を1つの一般化されたSENSE再構成カーネル
【数6】
に結合することができる。
【0040】
式中、
【数7】
は、スライス方向における位相エンコーディングを含むマルチスライスマルチショットSENSE再構成からもたらされるすべての最終スライス画像のピクセル値を含む。
【数8】
の最小二乗解(ノイズの無相関及び正則化はない)は、
【数9】
である。
【0041】
本発明のマルチスライス取得手法は、k
y-k
z空間が対応する位相エンコーディングによってサンプリングされる3次元走査とみなすことができ、k
zラインの数は同時励起されるスライスの数である。本発明のマルチショットアプローチを用いると、様々なk
zエンコーディングで所与のk
yエンコーディングステップを複数回取得することが可能になる。これは、3次元k空間を(アンダーサンプリングを使用して)最適にサンプリングすることを可能にする。
図3は、本発明によるk
y-k
zサンプリングの一例を示し、ここでは、8つのスライスが同時に励起される。EPIシーケンスの4つのショットA、B、C及びDは、スライス方向に適用される4つの異なる位相オフセットが適用される。アンダーサンプリングは、k
yとk
zとの両方向において適用され、k
y方向においてインターリーブサンプリングが適用される。図示する実施形態では、各ショットは、シングルショットのEPIシーケンスにおいて、追加の傾斜磁場ブリップをスライス方向に印加する必要がないように、一定のk
zエンコーディングを適用する。