(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱材装填物の製造方法
(51)【国際特許分類】
F28D 20/02 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
F28D20/02 D
(21)【出願番号】P 2023104654
(22)【出願日】2023-06-27
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000221834
【氏名又は名称】東邦瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 大稀
(72)【発明者】
【氏名】中村 洸平
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-010205(JP,U)
【文献】特開2018-077035(JP,A)
【文献】特開2009-109892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/02
B65B 1/00 - 69/00
B65D 1/00 - 90/66
C09K 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記収容部材は、前記内部空間に通じる開口を有し、
前記潜熱蓄熱材は、前記内部空間のうち、設定された充填範囲上限線まで前記開口から充填され、前記収容部材のうち、前記開口側の先端と前記充填範囲上限線との間が、前記潜熱蓄熱材の侵入を阻止した蓄熱材規制部となっていること、
少なくとも前記蓄熱材規制部は、可撓性を有する樹脂からなり、前記潜熱蓄熱材を前記内部空間に充填後、前記蓄熱材規制部の外側から押圧部位を押圧することにより、前記蓄熱材規制部を弾性変形させて、前記蓄熱材規制部の内側を脱気すると共に、
前記押圧部位を弾性変形させた状態で、前記蓄熱材規制部に溶着または接着を施すことにより、封止部で前記収容部材が封止されること、
前記収容部材は、前記内部空間に空隙を残存する状態にして、前記封止部で封止され、前記空隙は、大きくとも、固相下の前記潜熱蓄熱材との体積比で、相変化により、固相から液相状態となって膨張する体積増加分を吸収できる容積であること、
前記潜熱蓄熱材が、固相から液相に相変化する状態の下では、前記空隙が、前記潜熱蓄熱材の体積増加分を吸収することにより、前記潜熱蓄熱材の膨張による前記封止部の破損を抑止して、前記潜熱蓄熱材の漏洩が防止できていること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記押圧部位は、前記蓄熱材規制部をなす周壁に対し、対向する部位を互いに押し潰して当接した状態で、弾性変形されること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項3】
相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記収容部材は、前記内部空間に通じる開口を有し、
前記潜熱蓄熱材は、前記内部空間のうち、設定された充填範囲上限線まで前記開口から充填され、前記収容部材のうち、前記開口側の先端と前記充填範囲上限線との間が、前記潜熱蓄熱材の侵入を阻止した蓄熱材規制部となっていること、
少なくとも前記蓄熱材規制部は、可撓性を有する樹脂からなり、前記潜熱蓄熱材を前記内部空間に充填後、前記蓄熱材規制部を屈曲させて折り返すことにより、2層以上に積層した状態で変形させた積層状蓄熱材規制部を形成し、前記積層状蓄熱材規制部に作用する復元力に抗した把持力を有する把持手段で、前記積層状蓄熱材規制部を拘束すること、
前記収容部材では、空隙が前記内部空間に残存する状態にして、前記積層状蓄熱材規制部は前記把持手段で拘束され、前記空隙は、大きくとも、固相下の前記潜熱蓄熱材との体積比で、相変化により、固相から液相状態となって膨張する体積増加分を吸収できる容積であること、
前記潜熱蓄熱材が、固相から液相に相変化する状態の下では、前記空隙が、前記潜熱蓄熱材の体積増加分を吸収して、溶着または接着により封止された前記収容部材の封止部、または前記把持手段により拘束された前記積層状蓄熱材規制部の拘束部位に対し、前記潜熱蓄熱材の膨張による破損を抑止して、前記潜熱蓄熱材の漏洩が防止できていること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記潜熱蓄熱材を前記内部空間に充填後、
前記封止部が、前記蓄熱材規制部に形成され、
前記積層状蓄熱材規制部は、前記封止部を含む前記蓄熱材規制部に基づいて、形成されること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項3に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記収容部材全体が、可撓性を有する樹脂からなること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項6】
請求項1または請求項3に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記収容部材は、前記開口を先端に有した筒状体、または袋状体に形成されていること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項7】
請求項1または請求項3に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記蓄熱材規制部では、樹脂層厚さは、1mm以下であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項8】
請求項1または請求項4に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記封止部は、前記蓄熱材規制部を溶着してなること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項9】
請求項1または請求項3に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記蓄熱材規制部は、ポリプロピレン(PP:polypropylene)、またはポリエチレン(PE:polyethylene)の少なくとも一方を主成分に含有した樹脂材からなること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項10】
請求項1または請求項3に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記潜熱蓄熱材は、無機塩水和物、包摂水和物、及び糖アルコールのうち、少なくとも一種を主成分とした蓄熱材であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材や、このような潜熱蓄熱材に添加剤を配合した潜熱蓄熱材組成物を、収容部材の内部空間に装填してなる潜熱蓄熱材装填物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潜熱蓄熱材(PCM:Phase Change Material)は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う物性を有しており、予め排熱等の熱を蓄熱し、蓄えた熱を必要に応じて取り出すことで、エネルギが無駄なく有効に活用できる。潜熱蓄熱材は、収容部材の内部空間に漏れなく装填され、収容部材内での密閉性を高めた状態で使用される。潜熱蓄熱材は、収容部材内で相変化を生じ、固相状態から液相状態に変化する際に潜熱を蓄え、固相状態から液相状態に変化する際に潜熱を放熱する。潜熱蓄熱材は、潜熱を蓄熱し、蓄えた潜熱を放熱する熱の移動サイクルを、複数回に亘って繰り返すことができる。このような潜熱蓄熱材を収容部材内に装填して構成された潜熱蓄熱材装填物として、その一例が、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1は、本出願人による特許出願で開示された技術であり、無機塩水和物に含む水和水を脱離した無水和物と、加えた水とを、容器内で水和反応させることにより、蓄熱材となる無機塩水和物を生成し、容器内に封入する蓄熱材の容器内封入方法である。特許文献1では、無水和物の容器への充填前、隣接する粉末同士の間にあった間隙は水和反応時に、容器に加えた水で満たされるため、容器の容積に対し、蓄熱材が占める体積充填率は、粉末状の無機塩水和物を容器内に直に充填した場合に比べ、大幅に向上している。従って、間隙の発生が抑制され、蓄熱材と蓄熱槽内の熱媒体との間で、熱伝導に要する時間の短縮化ができているため、蓄熱材の伝熱性能の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、蓄熱材の伝熱性能を向上させる上で、有効性の高い技術である。しかしながら、本出願人は、潜熱蓄熱材に関する技術開発を継続して進めていく中で、収容部材内に装填した潜熱蓄熱材を使用するにあたり、特許文献1の技術を含め、従来の潜熱蓄熱材装填物に、新たな技術的な課題を見出した。
【0006】
すなわち、潜熱蓄熱材は、熱の移動サイクルを、複数回に亘って繰り返して使用されるのが一般的であり、密閉された状態の収容部材の内部空間では、潜熱蓄熱材は、液相と固相との間で可逆的な相変化を、何度も繰り返す。また、密閉された状態の収容部材の内部空間で、潜熱蓄熱材が、固相から液相に相変化すると、潜熱蓄熱材は膨張し、固相状態と液相状態との密度差に起因して、潜熱蓄熱材の体積変態化が生じる。この体積変態化で、液相状態下の潜熱蓄熱材の体積は、固相状態下との対比で10%程増加する。
【0007】
他方で、潜熱蓄熱材は、収容部材に薄い樹脂製袋を用いて袋内に充填され、融着により袋の端部を封止して装填されることもある。このような場合、潜熱蓄熱材が、液相と固相との間で可逆的な相変化を起こし、膨張・収縮を繰り返すことで、潜熱蓄熱材を装填した樹脂製袋には、大きな応力負荷が作用する。そのため、潜熱蓄熱材では、熱の移動サイクルが複数回に亘って繰り返されると、応力集中を生じ易い融着部では、疲労破壊が経時的に発生して、装填していた潜熱蓄熱材が、樹脂製袋の外に漏洩してしまう虞があった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、収容部材の内部に装填された潜熱蓄熱材に、相変化に伴う体積変態が生じても、収容部材の封止部に及ぼす応力負荷の影響を抑制することができる潜熱蓄熱材装填物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法は、以下の構成を有する。
【0010】
(1)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、前記収容部材は、前記内部空間に通じる開口を有し、前記潜熱蓄熱材は、前記内部空間のうち、設定された充填範囲上限線まで前記開口から充填され、前記収容部材のうち、前記開口側の先端と前記充填範囲上限線との間が、前記潜熱蓄熱材の侵入を阻止した蓄熱材規制部となっていること、少なくとも前記蓄熱材規制部は、可撓性を有する樹脂からなり、前記潜熱蓄熱材を前記内部空間に充填後、前記蓄熱材規制部の外側から押圧部位を押圧することにより、前記蓄熱材規制部を弾性変形させて、前記蓄熱材規制部の内側を脱気すると共に、前記押圧部位を弾性変形させた状態で、前記蓄熱材規制部に溶着または接着を施すことにより、封止部で前記収容部材が封止されること、を特徴とする。
(2)(1)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、前記押圧部位は、前記蓄熱材規制部をなす周壁に対し、対向する部位を互いに押し潰して当接した状態で、弾性変形されること、を特徴とする。
(3)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、前記収容部材は、前記内部空間に通じる開口を有し、前記潜熱蓄熱材は、前記内部空間のうち、設定された充填範囲上限線まで前記開口から充填され、前記収容部材のうち、前記開口側の先端と前記充填範囲上限線との間が、前記潜熱蓄熱材の侵入を阻止した蓄熱材規制部となっていること、少なくとも前記蓄熱材規制部は、可撓性を有する樹脂からなり、前記潜熱蓄熱材を前記内部空間に充填後、前記蓄熱材規制部を屈曲させて折り返すことにより、2層以上に積層した状態で変形させた積層状蓄熱材規制部を形成し、前記積層状蓄熱材規制部に作用する復元力に抗した把持力を有する把持手段で、前記積層状蓄熱材規制部を拘束すること、を特徴とする。
(4)(3)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、前記潜熱蓄熱材を前記内部空間に充填後、溶着または接着により、前記収容部材を封止する封止部が、前記蓄熱材規制部に形成され、前記積層状蓄熱材規制部は、前記封止部を含む前記蓄熱材規制部に基づいて、形成されること、を特徴とする。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、前記収容部材全体が、可撓性を有する樹脂からなること、を特徴とする。
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、 収容部材は、開口を先端に有した筒状体、または袋状体に形成されていること、を特徴とする。
(7)(1)乃至(6)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、前記蓄熱材規制部では、樹脂層厚さは、1mm以下であること、を特徴とする。
(8)(1)乃至(7)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、前記封止部は、前記蓄熱材規制部を溶着してなること、を特徴とする。
(9)(1)乃至(8)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、前記蓄熱材規制部は、ポリプロピレン(PP:polypropylene)、またはポリエチレン(PE:polyethylene)の少なくとも一方を主成分に含有した樹脂材からなること、を特徴とする。
(10)(1)乃至(9)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、前記潜熱蓄熱材は、無機塩水和物、包摂水和物、及び糖アルコールのうち、少なくとも一種を主成分とした蓄熱材であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記構成を有する本発明の潜熱蓄熱材装填物の製造方法の作用・効果について説明する。
【0012】
(1)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、収容部材は、内部空間に通じる開口を有し、潜熱蓄熱材は、内部空間のうち、設定された充填範囲上限線まで開口から充填され、収容部材のうち、開口側の先端と充填範囲上限線との間が、潜熱蓄熱材の侵入を阻止した蓄熱材規制部となっていること、少なくとも蓄熱材規制部は、可撓性を有する樹脂からなり、潜熱蓄熱材を内部空間に充填後、蓄熱材規制部の外側から押圧部位を押圧することにより、蓄熱材規制部を弾性変形させて、蓄熱材規制部の内側を脱気すると共に、押圧部位を弾性変形させた状態で、蓄熱材規制部に溶着または接着を施すことにより、封止部で収容部材が封止されること、を特徴とする。
【0013】
この特徴により、封止後の収容部材に残存する空隙の大きさを、大きくとも、固相状態下の潜熱蓄熱材との体積比で、相変化により、固相状態から液相状態となって膨張した10%程の体積増加分を吸収可能な容積まで、抑制することができる。換言すれば、潜熱蓄熱材が、密閉状態にある収容部材内で、蓄熱・放熱サイクルを、複数回に亘って繰り返しても、膨張代として、収容部材内の空隙に、過度な内圧を生じることなく出入りできる状態となり、残存した空隙が、潜熱蓄熱材の相変化に伴った膨張・収縮の挙動を吸収する機能を果たすようになる。そのため、潜熱蓄熱材装填物では、潜熱蓄熱材の膨張・収縮に伴う応力負荷が、封止部に過大に作用するのを防ぎ、疲労破壊に起因した封止部の破損が抑制できている。それ故に、潜熱蓄熱材による蓄熱・放熱サイクルが、複数回に亘って繰り返されても、収容部材から潜熱蓄熱材の漏洩は生じ難い。
【0014】
従って、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法によれば、収容部材の内部に装填された潜熱蓄熱材に、相変化に伴う体積変態が生じても、収容部材の封止部に及ぼす応力負荷の影響を抑制することができる、という優れた効果を奏する。
【0015】
(2)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、押圧部位は、蓄熱材規制部をなす周壁に対し、対向する部位を互いに押し潰して当接した状態で、弾性変形されること、を特徴とする。
【0016】
この特徴により、収容部材を封止部で塞ぐにあたり、収容部材に残存する空隙を、固相から液相への相変化により、膨張した潜熱蓄熱材の体積増加分に対し、過不足なく程良い大きさに調整できた状態で、残存させることができる。
【0017】
(3)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、収容部材は、内部空間に通じる開口を有し、潜熱蓄熱材は、内部空間のうち、設定された充填範囲上限線まで開口から充填され、収容部材のうち、開口側の先端と充填範囲上限線との間が、潜熱蓄熱材の侵入を阻止した蓄熱材規制部となっていること、少なくとも蓄熱材規制部は、可撓性を有する樹脂からなり、潜熱蓄熱材を内部空間に充填後、蓄熱材規制部を屈曲させて折り返すことにより、2層以上に積層した状態で変形させた積層状蓄熱材規制部を形成し、積層状蓄熱材規制部に作用する復元力に抗した把持力を有する把持手段で、積層状蓄熱材規制部を拘束すること、を特徴とする。
【0018】
この特徴により、潜熱蓄熱材が、密閉状態にある収容部材内で、蓄熱・放熱サイクルを、複数回に亘って繰り返す中で、蓄熱材規制部が、封止部への潜熱蓄熱材の到達を抑制し、潜熱蓄熱材の膨張・収縮に伴う大きな応力負荷が、封止部に直に作用するのを防止できる。それ故に、潜熱蓄熱材装填物では、封止部において、潜熱蓄熱材の膨張・収縮による応力負荷の影響を低減でき、疲労破壊に起因した封止部の破損が抑制できていることから、潜熱蓄熱材による蓄熱・放熱サイクルが、複数回に亘って繰り返されても、収容部材から潜熱蓄熱材の漏洩は生じ難い。
【0019】
(4)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、潜熱蓄熱材を内部空間に充填後、溶着または接着により、収容部材を封止する封止部が、蓄熱材規制部に形成され、積層状蓄熱材規制部は、封止部を含む蓄熱材規制部に基づいて、形成されること、を特徴とする。
【0020】
この特徴により、潜熱蓄熱材装填物が、例えば、蓄熱槽内等、配設される設置手段に、例えば、振動を伴う場合や、設置環境でより大きな温度差を伴う場合等、潜熱蓄熱材装填物にとって過酷な条件下で使用される場合でも、潜熱蓄熱材の漏洩をより確実に防ぐことができる。
【0021】
(5)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、収容部材全体が、可撓性を有する樹脂からなること、を特徴とする。
【0022】
この特徴により、収容部材のうち、蓄熱材規制部以外の部分を、樹脂以外の材質で形成する場合に比べ、収容部材に係る製造工程が簡単になり、収容部材に掛かるコストを低減することができる。
【0023】
(6)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、収容部材は、開口を先端に有した筒状体、または袋状体に形成されていること、を特徴とする。
【0024】
この特徴により、1つ当たりの潜熱蓄熱材装填物で、収容部材に接する潜熱蓄熱材の表面積を、より大きく確保し易くなることから、潜熱蓄熱材による蓄熱・放熱の性能をより高めた潜熱蓄熱材装填物を形成することができる。また、封止部を簡単に形成することができる。
【0025】
(7)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、蓄熱材規制部では、樹脂層厚さは、1mm以下であること、を特徴とする。
【0026】
この特徴により、蓄熱材規制部の内側の空気を外側に排気して、収容部材内で空隙を適切な大きさに残存させる際に、蓄熱材規制部を容易に押し潰すことができる。
【0027】
(8)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、封止部は、蓄熱材規制部を溶着してなること、を特徴とする。
【0028】
この特徴により、収容部材の開口を塞ぐにあたり、その封止処理を、例えば、シーラ装置等(封止装置)により、接着剤等を用いた場合に比べ、簡単に行うことができる上、接着剤等に必要な乾燥時間も要せず、封止処理が迅速に実施できる。
【0029】
(9)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、蓄熱材規制部は、ポリプロピレン(PP:polypropylene)、またはポリエチレン(PE:polyethylene)の少なくとも一方を主成分に含有した樹脂材からなること、を特徴とする。
【0030】
この特徴により、蓄熱材規制部は、主成分であるポリプロピレン等の含有により、高温等に対する耐候性や、熱融着による加工性に優れた特性を有する。そのため、潜熱蓄熱材装填物が、例えば、蓄熱槽内等、所定の設置手段に配設され、数十~百℃近傍の高温下にある熱媒体に晒された状態下や、数十~百℃近傍の比較的高い温度帯域で融点・凝固点をなす潜熱蓄熱材を装填した状態下で使用されても、蓄熱材規制部は、熱に起因した損傷を抑制することができる。しかも、蓄熱材規制部を融着(溶着)して、封止部を形成することができるようになる。
【0031】
(10)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、潜熱蓄熱材は、無機塩水和物、包摂水和物、及び糖アルコールのうち、少なくとも一種を主成分とした蓄熱材であること、を特徴とする。
【0032】
この特徴により、無機塩水和物、包摂水和物、または糖アルコールのいずれかを主成分に含む潜熱蓄熱材では、パラフィン系の蓄熱材との対比で、体積当たりの蓄熱量が、大きく確保できるようになるため、潜熱蓄熱材の使い勝手は良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】第1,第2の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法で製造対象となる潜熱蓄熱材装填物に対し、装填される潜熱蓄熱材組成物を模式的に示す説明図である。
【
図2】第1の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法で製造された潜熱蓄熱材装填物を模式的に示す説明図であり、(a)は配置態様1に係る潜熱蓄熱材装填物、(b)は配置態様2に係る潜熱蓄熱材装填物、(c)は配置態様3に係る潜熱蓄熱材装填物を、それぞれ示す。
【
図3】第1の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法に基づいた潜熱蓄熱材装填物の製造工程を示すフロー図である。
【
図4】第1の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法に基づいた実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物に対し、縦置き条件下の潜熱蓄熱材装填物に及ぼす作用を模式的に示す説明図である。
【
図5】比較例1に係る潜熱蓄熱材装填物に対し、縦置き条件下で生じていた現象を模式的に示す説明図である。
【
図6】第2の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法に基づいた潜熱蓄熱材装填物の製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法について、第1,第2の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法の説明にあたり、第1,第2の実施形態で共通する内容を、最初に第1の実施形態で説明した後、第2の実施形態では、第1の実施形態とは異なる部分を中心に説明し、第1の実施形態と共通する部分の説明は、同じ符号を用いて簡略、または省略する。以下、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法について、第1,第2の実施形態では、無機塩水和物、包摂水和物、糖アルコールを、それぞれ主成分とした場合の潜熱蓄熱材を挙げて、説明する。
【0035】
本発明に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法により、製造対象となる潜熱蓄熱材装填物は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる。この潜熱蓄熱材装填物は、潜熱蓄熱材に蓄熱した潜熱による熱エネルギを、需要先で利用する目的で使用される。
【0036】
一例として、熱媒体で満たされた蓄熱槽内に、潜熱蓄熱材装填物を収容した用途の場合、例えば、病院やビル等の非常用電源に設置されているコジェネレーション(CogenerationまたはCombined Heat and Power)のガスエンジンシステムの排熱や、工場や事業所、大型施設、家庭等の設備で生じる排熱を利用して、蓄熱槽内に貯めた水等の熱媒体が加熱される。潜熱蓄熱材装填物内の潜熱蓄熱材は、熱媒体より、その加熱温度近傍の温度帯域で潜熱を一時的に蓄熱した後、時間差をもって、蓄えていた潜熱を放熱し、熱媒体を介して熱需要先に供給することができる。潜熱蓄熱材は、装填された収容部材容器内で、蓄熱とその放熱のサイクルを、必要に応じて複数回繰り返す。
【0037】
はじめに、潜熱蓄熱材装填物1の概要について、
図1及び
図2を用いて簡単に説明する。
図1は、第1,第2の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法で製造対象となる潜熱蓄熱材装填物に対し、装填される潜熱蓄熱材組成物を模式的に示す説明図である。
図2は、第1の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法で製造された潜熱蓄熱材装填物を模式的に示す説明図であり、(a)は配置態様1に係る潜熱蓄熱材装填物、(b)は配置態様2に係る潜熱蓄熱材装填物、(c)は配置態様3に係る潜熱蓄熱材装填物を、それぞれ示す。
図2では、潜熱蓄熱材装填物1が、例えば、蓄熱槽内等、所定の設置手段に配置された条件の下、潜熱蓄熱材装填物1の配置姿勢について、鉛直方向VTに沿った方向を、
図2中、上下方向とし、水平方向HZに沿った方向を、
図2中、左右方向とする。
図3以降の各図についても、
図2で定義した方向に準ずる。
【0038】
<潜熱蓄熱材10について>
図1及び
図2に示すように、第1,第2の実施形態では、潜熱蓄熱材装填物1は、潜熱蓄熱材10(または蓄熱材混合物12)と、緩衝材20と、収容部材30等からなる。緩衝材20は、必要に応じて構成されるものであり、潜熱蓄熱材装填物1の仕様によって、潜熱蓄熱材装填物1に配さない場合もあり得る。潜熱蓄熱材10は、無機塩水和物、包摂水和物、及び糖アルコールのうち、少なくとも一種を主成分とした蓄熱材である。
【0039】
具体的には、潜熱蓄熱材10は、例えば、酢酸ナトリウム三水和物等の酢酸塩水和物、二リン酸ナトリウム十水和物等の二リン酸塩(ピロリン酸塩)水和物、リン酸水素二ナトリウム十二水和物等のリン酸塩水和物、アンモニウムミョウバン十二水和物、カリウムミョウバン十二水和物等のミョウバン水和物、硫酸アルミニウム水和物等の硫酸塩水和物に代表されるような無機塩水和物を主成分とした蓄熱材である。
【0040】
また、潜熱蓄熱材10は、例えば、テトラブチルアンモニウムクロリド水和物、テトラブチルアンモニウムブロミド水和物、テトラブチルアンモニウムフルオリド水和物等に代表されるような包摂水和物を主成分とした蓄熱材である。さらに、潜熱蓄熱材10は、例えば、エリスリトール、ラクチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等に代表されるような糖アルコールを主成分とした蓄熱材である。
【0041】
第1,第2の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法では、潜熱蓄熱材10は、例示的に列挙した前述の無機塩水和物、包摂水和物、糖アルコールを主成分とする蓄熱材の中から、一例として挙げたアンモニウムミョウバン十二水和物のように、液相状態から融点を下回る温度下で、過冷却現象を生じ易い物性を有した蓄熱材である。アンモニウムミョウバン十二水和物の物性は、水和数12、分子量[g/mol]453.34、融点93.5℃、蓄熱量270~280(kJ/kg)、常温では固体で、水に可溶な物性を有する。アンモニウムミョウバン十二水和物は、融点を境に、固相状態から液相状態に変化する際に潜熱を蓄熱し、液相状態から固相状態に変化する際に潜熱を放熱する。
【0042】
潜熱蓄熱材装填物1には、このような潜熱蓄熱材10が単体で収容部材30に装填される第1の場合があるほか、潜熱蓄熱材10の物性を調整する添加剤11と共に、潜熱蓄熱材10が収容部材30に装填される第2の場合もある。すなわち、第2の場合には、
図1に示すように、潜熱蓄熱材10に添加剤11を配合してなる蓄熱材混合物12が、収容部材30に装填される。添加剤11は、潜熱蓄熱材10と親和性をなし、潜熱蓄熱材10の融液に溶解可能な物性を有する物質である。
【0043】
具体的には、添加剤11は、例えば、融点調整剤、増粘剤、柔軟剤、着色剤等である。融点調整剤は、例えば、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、カルシウムイオンを含むリン酸塩化合物等、潜熱蓄熱材10の融点を調整する作用を有した添加剤である。増粘剤は、潜熱蓄熱材10の融液を増粘する役割を果たし、潜熱蓄熱材10の構成成分を、均一な混合状態に維持することができると共に、潜熱蓄熱材10の相分離や、潜熱蓄熱材10と混合した他の添加剤との間で、密度差の違いによる配合物同士の分離を、抑制する作用を有した添加剤である。増粘剤の一例として、糖アルコールに属する物質や、多糖類に属する物質等が挙げられる。
【0044】
柔軟剤は、固相状態下にある潜熱蓄熱材10に対し、ある程度の柔軟性を呈するよう、物性を調整する作用を有した添加剤である。柔軟剤の一例には、グリセリン等が挙げられる。着色剤は、潜熱蓄熱材10を着色する添加剤であり、着色剤の一例に、食紅や顔料等が挙げられる。
【0045】
なお、蓄熱材混合物12に含有する添加剤11は、その物質を特に限定するものではなく、潜熱蓄熱材10の物性を調整する作用を有した添加剤であれば、潜熱蓄熱材装填物1の用途に応じて適宜変更可能である。
【0046】
また、潜熱蓄熱材装填物に装填される潜熱蓄熱材は、無機塩水和物、包摂水和物、糖アルコールのいずれかを主成分とする蓄熱材以外にも、パラフィン系の蓄熱材を用いることはできる。しかしながら、パラフィン系の蓄熱材の使用は、蓄熱・放熱性能上や取り扱い上の観点で、好ましくない。その理由として、パラフィン系の蓄熱材では、その蓄熱量は物質毎に異なるため、一概に比較はできないが、比重は概ね0.9、体積当たりの蓄熱量は、およそ220~240kJ/kgと、先に例示したアンモニウムミョウバン十二水和物の蓄熱量270~280(kJ/kg)等の無機塩水和物と比べても、低いことがある。しかも、パラフィン系の蓄熱材は可燃性で、火気に関して安全対策を必要とする場合もあり、使い勝手は良くないからである。
【0047】
<収容部材30について>
図3は、第1の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法に基づいた潜熱蓄熱材装填物の製造工程を示すフロー図である。収容部材30は、
図2及び
図3に示すように、内部空間31Sに通じる開口33を有した筒状体、袋状体、またはチューブ状に形成されている。後述する蓄熱材規制部50を含むこの収容部材30全体が、例えば、ポリプロピレン(PP:polypropylene)、ポリエチレン(PE:polyethylene)等、可撓性を有した樹脂からなる。具体的には、収容部材30は、本実施形態では、高温等に対する耐候性や、熱融着による加工性に優れたポリプロピレンを主成分に、その柔軟性を確保するため、別の樹脂成分を加えた混合樹脂材で形成されている。蓄熱材規制部50を含む収容部材30の樹脂層厚さtは、目安として1mm以下で、本実施形態では、0.2~0.7mm程である。
【0048】
<緩衝材20について>
緩衝材20は、液相状態の潜熱蓄熱材10とは非親和性をなす物質である。緩衝材20は、本実施形態では、潜熱蓄熱材10の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤として作用する物質である。先に例示したアンモニウムミョウバン十二水和物が潜熱蓄熱材10である場合、緩衝材20は、一例として、硫酸カルシウム等であり、粉状、またはゲル状等、非液体状の無機塩、または無機塩酸化物である。
【0049】
なお、緩衝材20は、潜熱蓄熱材10向けの過冷却防止剤に限定するものではなく、液相状態の潜熱蓄熱材10とは非親和性をなす物質であれば、潜熱蓄熱材装填物1の用途に応じて適宜変更可能である。その一例として、緩衝材20は、発砲ウレタン材のような発砲樹脂材や、ゴム材等、弾性を有した非液体状で、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮を吸収可能な性状の物質や部材でも良い。
【0050】
潜熱蓄熱材装填物1では、
図1~
図3に示すように、潜熱蓄熱材10(または蓄熱材混合物12の場合もあるが、以下、潜熱蓄熱材10と蓄熱材混合物12とをまとめて「潜熱蓄熱材10等」で総称することもある。)は、内部空間31Sをなす収容部材30の端部32aとの間に緩衝材20を介在させた状態で、内部空間31Sに装填されている。
【0051】
すなわち、潜熱蓄熱材装填物1では、潜熱蓄熱材10等と緩衝材20とが、収容部材30の融着(溶着)により、収容部材30の開口33を封止した状態で、内部空間31Sに装填されている。緩衝材20は、収容部材30のうち、融着を施した封止部40と隣接して配されている。封止部40が複数箇所にある場合、緩衝材20は、全箇所の封止部40のうち、少なくとも一箇所の封止部40(特定封止部40X)を対象に配されている。
【0052】
具体的に説明する。潜熱蓄熱材装填物1は、蓄熱槽内等、所定の設置手段に、
図2に挙げた配置態様1~3に示すように、鉛直方向VTに沿った縦置き、または水平方向HZに沿った横置きによる配置態様で、使用される。
【0053】
<配置態様1>
図2(a)に示すように、配置態様1に係る潜熱蓄熱材装填物1A(1)は、所定の設置手段に、縦置きで配置される場合を対象としている。収容部材30に有する封止部40は、上下の位置関係で対向した2箇所である。潜熱蓄熱材装填物1Aでは、下側に位置する封止部40(下側封止部40L)と上側に位置する封止部40(上側封止部40U)との間には、緩衝材20と潜熱蓄熱材10等が充填され、下側封止部40Lだけが、特定封止部40Xとなっており、上側封止部40U側には、緩衝材20は配されていない。
【0054】
下側封止部40L側に配する緩衝材20は、潜熱蓄熱材10等より大きい比重をなす物質であることが重要である。緩衝材20が、潜熱蓄熱材10等の融液下で沈降した状態を維持し、この潜熱蓄熱材10等が固相化したときでも、緩衝材20は、下側封止部40L側の端部32aと隣接した状態を保持し続けることができるからである。
【0055】
<配置態様2>
図2(b)に示すように、配置態様2に係る潜熱蓄熱材装填物1B(1)は、所定の設置手段に、縦置きで配置される場合を対象としている。収容部材30に有する封止部40は、上下の位置関係で対向した2箇所である。潜熱蓄熱材装填物1Bでは、下側封止部40Lと上側封止部40Uとの間には、緩衝材20と潜熱蓄熱材10等が充填され、下側封止部40Lと上側封止部40Uの双方が、特定封止部40Xとなっている。
【0056】
上側封止部40U側に配する緩衝材20は、潜熱蓄熱材10等より小さい比重をなす物質であることが重要である。緩衝材20が、潜熱蓄熱材10等の融液下で浮上した状態を維持し、この潜熱蓄熱材10等が固相化したときでも、緩衝材20は、上側封止部40U側の端部32aと隣接した状態を保持し続けることができるからである。
【0057】
<配置態様3>
図2(c)に示すように、配置態様3に係る潜熱蓄熱材装填物1C(1)は、所定の設置手段に、横置きで配置される場合を対象としている。収容部材30に有する封止部40は、左右の位置関係で対向した2箇所である。潜熱蓄熱材装填物1Cでは、左右両方の封止部40同士の間には、緩衝材20と潜熱蓄熱材10等が充填され、左右両方の封止部40が、特定封止部40Xとなっている。
【0058】
次に、第1の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法について、説明する。第1の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、収容部材30は、内部空間31Sに通じる開口33を有し、潜熱蓄熱材10等は、内部空間31Sのうち、設定された充填範囲上限線Kまで開口33から充填され、収容部材30のうち、開口33側の収容部材先端34(先端)と充填範囲上限線Kとの間が、潜熱蓄熱材10等の侵入を阻止した蓄熱材規制部50となっている。前述したように、蓄熱材規制部50は、本実施形態では、収容部材30の一部であるため、ポリプロピレンを主成分に、柔軟性を確保するための樹脂成分を加えた混合樹脂材からなる。
【0059】
潜熱蓄熱材10等は、収容部材30の内部空間31Sのうち、設定された充填範囲上限線Kまで開口33から充填される。潜熱蓄熱材10等の充填後、蓄熱材規制部50の外側から押圧部位Pを押圧する。押圧部位Pは、蓄熱材規制部50をなす収容部材30の周壁31に対し、対向する部位を互いに押し潰して当接させた状態で、弾性変形される。この押圧により、蓄熱材規制部50を弾性変形させて、蓄熱材規制部50の内側を脱気すると共に、押圧部位Pを弾性変形させた状態で、蓄熱材規制部50に融着(溶着)を施すことにより、封止部40で収容部材30が封止される。
【0060】
具体的な説明として、
図3を用いて、配置態様1に係る潜熱蓄熱材装填物1A(1)を挙げて説明する。はじめに、
図3(a),(b)に示すように、下側封止部40L(封止部40)を既設した有底の収容部材30の内部空間31Sに、開口33から緩衝材20を充填して、下側封止部40L側の端部32aに隣接させる。緩衝材20が、下側封止部40Lと隣接したことで、下側封止部40Lは、特定封止部40Xとなる。
【0061】
次に、潜熱蓄熱材10等が、
図3(c)に示すように、開口33から緩衝材20の上に、収容部材30に設定された充填範囲上限線Kに達するまで注入され、これにより、潜熱蓄熱材10等は、収容部材30の内部空間31Sに充填される。蓄熱材規制部50の内側には、空気が、充填範囲上限線K上にある潜熱蓄熱材10等と接した状態になっている。
【0062】
収容部材30では、充填範囲上限線Kと収容部材先端34との間が、潜熱蓄熱材10等の侵入を阻止した蓄熱材規制部50であり、充填範囲上限線Kの位置は、潜熱蓄熱材10等の融解・凝固に伴う体積変動の大きさや、収容部材30の形状及び設置形態、開口33側で収容部材30の封止を施す上側封止部40U(封止部40)の位置や、この上側封止部40Uの形成にあたり、蓄熱材規制部50を融着するシーラ装置(封止装置)との融着加工条件(封止加工条件)等を考慮した上で、設定される。
【0063】
潜熱蓄熱材10等の充填後、
図3(d)に示すように、例えば、クリップに似た専用工具等である拘束部材70により、蓄熱材規制部50のうち、充填範囲上限線Kと近接して位置する押圧部位Pを、蓄熱材規制部50の外側から把持力Fで押圧する。これにより、押圧部位Pでは、蓄熱材規制部50をなす収容部材30の周壁31に対し、対向する部位同士が、互いに押し潰されて弾性変形し、当接する。
【0064】
このとき、蓄熱材規制部50で周壁31同士を押し潰す際に、蓄熱材規制部50の内側にある空気を外側に排気して、充填範囲上限線K上にある潜熱蓄熱材10等の上面と押圧部位Pとの間に残存する空隙60Sを、より小さく抑えた、適切な大きさの状態にして、周壁31同士を当接させる。これにより、蓄熱材規制部50の内側では、押圧部位Pを境にして、空隙60Sと外部との空気の流通が、一時的に遮断される。
【0065】
ここで、残存する空隙60Sで、適切とされる許容範囲内の大きさについて、簡単に説明する。潜熱蓄熱材10は、密閉された状態の収容部材30の内部空間31Sで、固相から液相に相変化すると、潜熱蓄熱材10は膨張し、固相状態と液相状態との密度差に起因して、潜熱蓄熱材の体積変態化が生じる。この体積変態化で、液相状態下の潜熱蓄熱材10の体積は、固相状態下との対比で10%程増加するとの知見を、本出願人は、潜熱蓄熱材に関する研究を通じて得ている。このような知見を基にして、空隙60Sは、大きくとも、固相状態下の潜熱蓄熱材10との体積比で、相変化により、固相状態から液相状態下となって膨張した10%程の体積増加分を吸収可能な容積に相当する大きさまで、概ね抑制されていることが重要である。
【0066】
潜熱蓄熱材装填物1の製造工程の説明に戻る。
図3(d)に示すように、拘束部材70で押圧部位Pを押圧して、空隙60Sが外部と遮断された状態になった後、
図3(e)に示すように、押圧部位Pから収容部材先端34にかけても、対向する周壁31同士を、弾性変形により互いに近接させて、蓄熱材規制部50の内側に残存する空気を取り除く。次に、
図3(e)に示すように、蓄熱材規制部50において、押圧部位Pと収容部材先端34との間で、対向する周壁31同士を融着(溶着)して、上側封止部40U(封止部40)が形成されることにより、収容部材30の開口33は封止される。かくして、潜熱蓄熱材装填物1A(1)が構成される。
【0067】
次に、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法により、製造された潜熱蓄熱材装填物1に対する耐久試験について、説明する。本出願人は、潜熱蓄熱材装填物1の有意性を検証する目的で、潜熱蓄熱材10で蓄熱とその放熱のサイクルを、複数回に亘り、収容部材30内で繰り返す潜熱蓄熱材装填物1の耐久試験を実施した。
【0068】
図4は、第1の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法に基づいた実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物に対し、縦置き条件下の潜熱蓄熱材装填物に及ぼす作用を模式的に示す説明図である。
図5は、比較例1に係る潜熱蓄熱材装填物に対し、縦置き条件下で生じていた現象を模式的に示す説明図である。
【0069】
耐久試験では、
図4に示すように、第1の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法に基づき、緩衝材20を含めて製造した、実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物1A(1)と、
図5に示すように、緩衝材20と共に、潜熱蓄熱材10等を充填した後、収容部材30の内部空間31Sでの空気の脱気処理を行わずに、開口を封止部40で封止して製造した、比較例1に係る潜熱蓄熱材装填物100Aに対し、それぞれ4つのサンプルを用いて、これらの耐久性について、実施例1と比較例1との双方で比較した。なお、
図4及び
図5は、潜熱蓄熱材10の膨張による収容部材30の変形について、強調した図示となっている。
【0070】
耐久試験は、内部空間31Sにおいて、空気の脱気処理の有無に関する条件を除き、潜熱蓄熱材装填物1A,100Aとも、蓄熱材混合物12(潜熱蓄熱材10と添加剤11との混合物)、収容部材30、及び封止部40に関する条件を統一し、融着(溶着)により、収容部材30の開口33を封止して行われた。潜熱蓄熱材装填物1A,100Aでは、潜熱蓄熱材10としてカリウムミョウバン十二水和物が用いられ、添加剤11は、塩化カリウムとマンニトールである。潜熱蓄熱材装填物1Aは、前述したように、第1の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法により、残存する空隙60Sを、より小さく抑えた状態となっている。作業者は、潜熱蓄熱材装填物1A,100Aに対し、収容部材30の破損や、内部空間31Sから蓄熱材混合物12の漏洩等の有無を、それぞれ目視で観察した。
【0071】
耐久試験結果は、次の通りであった。実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物1A(1)では、蓄熱・放熱のサイクル数が、試験継続中に確認を行った1107回目に達した時点でも、収容部材30の破損と蓄熱材混合物12の漏洩等は全く確認されず、試験に供した4つのサンプルの全てにおいて、潜熱蓄熱材装填物1A(1)は、それ以降の蓄熱・放熱のサイクルを、引き続き継続できる正常な状態であった。
【0072】
これに対し、比較例1に係る潜熱蓄熱材装填物100Aでは、試験に供した4つのサンプルのうち、1つのサンプルで、蓄熱・放熱のサイクル数が、1000回目に満たない数百回目の時点で、上側封止部40U(封止部40)側で破損し、蓄熱材混合物12の漏洩が生じて、使用不可の状態となった。
【0073】
<考察>
蓄熱材混合物12、収容部材30、及び封止部40に関する条件は、実施例1・比較例1とも実質的に同じである。また、蓄熱材混合物12に含む潜熱蓄熱材10が、密閉状態にある収容部材30内で、蓄熱過程(液相状態)と放熱過程(固相状態)を交互に行う蓄熱・放熱サイクルを、複数回に亘って繰り返す中で、膨張する挙動も、実施例1・比較例1とも同じである。他方、実施例1・比較例1とも、樹脂製の収容部材30には、潜熱蓄熱材10の固相・液相間での相変化に伴う膨張・収縮により、応力負荷が作用する。しかも、収容部材30の封止部40は、収容部材30の端部を融着して封止されており、封止部40での機械的強度は、収容部材30中で必然的に小さく、特に収容部材30の端部32aでは、応力集中が生じ易くなっている。
【0074】
実施例1の場合、
図4に示すように、潜熱蓄熱材装填物1Aは、緩衝材20を具備している。そのため、緩衝材20が、応力集中を生じ易い封止部40への蓄熱材混合物12の到達を抑制し、この蓄熱材混合物12に含む潜熱蓄熱材10の膨張・伸縮に伴う大きな応力負荷が、直に下側封止部40L(封止部40)に作用するのを防止できている。すなわち、蓄熱材混合物12は、下側封止部40L(封止部40)への到達を、緩衝材20によって抑制されている。そのため、相変化に伴う潜熱蓄熱材10の膨張・収縮に際して、収容部材30では、水平方向HZに膨張・収縮させようとする応力が、緩衝材20よりも上方の領域に作用する。
【0075】
このとき、特に緩衝材20の直上近傍では、蓄熱材混合物12の自重により、収容部材30に対して、水平方向HZに作用する応力は、より大きくなり、これによって、収容部材30の水平方向HZへの変形量も、より大きくなる。その一方で、収容部材30は、可撓性を有した樹脂で構成されており、前述の応力に追従して水平方向HZに膨張・収縮することができるため、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮を、収容部材30の外周縁部35で吸収することができている。加えて、収容部材30の開口33側の上側封止部40U(封止部40)を融着した際に、その残存をより小さく抑えられたことにより、潜熱蓄熱材10の膨張代として、収容部材30内の空隙60Sは、潜熱蓄熱材10の膨張分について、出入りできる状態となっており、潜熱蓄熱材10の相変化に伴う膨張・収縮の吸収に寄与できている。
【0076】
それ故に、上側封止部40U(封止部40)や下側封止部40L(封止部40)では、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮による応力負荷の影響が、低減されていることから、封止部40の疲労破壊が抑制され、封止部40の破損を招くことなく、潜熱蓄熱材装填物1Aが正常な状態に保たれているものと推察される。
【0077】
これに対し、
図5に示すように、比較例1の場合、潜熱蓄熱材装填物100Aは、実施例1の場合と同様に、緩衝材20を具備しているため、蓄熱材混合物12に含む潜熱蓄熱材10の膨張・伸縮に伴う大きな応力負荷が、直に下側封止部40L(封止部40)に作用するのを防止できている。また、収容部材30は、可撓性を有した樹脂で構成されているため、相変化に伴う潜熱蓄熱材10の膨張・収縮に際して、緩衝材20よりも上方の領域に作用する応力を、収容部材30の外周縁部35で吸収することができている。一方、比較例1の場合、実施例1の場合と異なり、収容部材30の内部空間31Sに潜熱蓄熱材10を充填後、内部空間31Sでの空気の脱気処理を特に行わずに、開口を上側封止部40U(封止部40)で封止している。そのため、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮に伴い、内部空間31Sでは、残存した空気による内圧の上昇・低下が発生し、応力集中を生じ易い封止部40(上側封止部40U)に、応力負荷が直接作用する構造となっている。その結果、比較例1では、主に上側封止部40U(封止部40)側が、経時的に疲労破壊を起こし、蓄熱材混合物12の漏洩を招いたものと考えられる。
【0078】
次に、第1の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法の作用・効果について、説明する。
【0079】
本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材10を、収容部材30の内部空間31Sに漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物1の製造方法において、収容部材30は、内部空間31Sに通じる開口33を有し、潜熱蓄熱材10等は、内部空間31Sのうち、設定された充填範囲上限線Kまで開口33から充填され、収容部材30のうち、開口33側の収容部材先端34と充填範囲上限線Kとの間が、潜熱蓄熱材10等の侵入を阻止した蓄熱材規制部50となっていること、少なくとも蓄熱材規制部50は、可撓性を有する樹脂からなり、潜熱蓄熱材10等を内部空間31Sに充填後、蓄熱材規制部50の外側から押圧部位Pを押圧することにより、蓄熱材規制部50を弾性変形させて、蓄熱材規制部50の内側を脱気すると共に、押圧部位Pを弾性変形させた状態で、蓄熱材規制部50に融着(溶着)を施すことにより、上側封止部40U(封止部40)で収容部材30が封止されること、を特徴とする。
【0080】
この特徴により、封止後の収容部材30に残存する空隙60Sの大きさを、大きくとも、固相状態下の潜熱蓄熱材10との体積比で、相変化により、固相状態から液相状態となって膨張した10%程の体積増加分を吸収可能な容積まで、抑制することができる。換言すれば、潜熱蓄熱材10が、密閉状態にある収容部材30内で、蓄熱・放熱サイクルを、複数回に亘って繰り返しても、膨張代として、収容部材30内の空隙60Sに、過度な内圧を生じることなく出入りできる状態となり、残存した空隙60Sが、潜熱蓄熱材10の相変化に伴った膨張・収縮の挙動を吸収する機能を果たすようになる。そのため、潜熱蓄熱材装填物1では、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮に伴う応力負荷が、上側封止部40U(封止部40)に過大に作用するのを防ぎ、疲労破壊に起因した封止部40の破損が抑制できている。それ故に、潜熱蓄熱材10による蓄熱・放熱サイクルが、複数回に亘って繰り返されても、収容部材30から潜熱蓄熱材10の漏洩は生じ難い。
【0081】
従って、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法によれば、収容部材30の内部空間31Sに装填された潜熱蓄熱材10に、相変化に伴う体積変態が生じても、収容部材30の開口33を塞ぐ上側封止部40U(封止部40)に及ぼす応力負荷の影響を抑制することができる、という優れた効果を奏する。
【0082】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、押圧部位Pは、蓄熱材規制部50をなす周壁31に対し、対向する部位を互いに押し潰して当接させた状態で、弾性変形されること、を特徴とする。
【0083】
この特徴により、収容部材30を上側封止部40U(封止部40)で塞ぐにあたり、収容部材30に残存する空隙60Sを、固相から液相への相変化により、膨張した潜熱蓄熱材10の体積増加分に対し、過不足なく程良い大きさに調整できた状態で、残存させることができる。
【0084】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、収容部材30全体が、可撓性を有する樹脂からなること、を特徴とする。
【0085】
この特徴により、収容部材30のうち、蓄熱材規制部50以外の部分を、樹脂以外の材質で形成する場合に比べ、収容部材30に係る製造工程が簡単になり、収容部材30に掛かるコストを低減することができる。
【0086】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、収容部材30は、開口33を収容部材先端34に有した筒状体、または袋状体に形成されていること、を特徴とする。
【0087】
この特徴により、1つ当たりの潜熱蓄熱材装填物1で、収容部材30に接する潜熱蓄熱材10の表面積を、より大きく確保し易くなることから、潜熱蓄熱材10による蓄熱・放熱の性能をより高めた潜熱蓄熱材装填物1を形成することができる。また、封止部40を簡単に形成することができる。
【0088】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、蓄熱材規制部50では、樹脂層厚さtは、1mm以下であること、を特徴とする。
【0089】
この特徴により、蓄熱材規制部50の内側の空気を外側に排気して、収容部材30内で空隙60Sを適切な大きさに残存させる際に、蓄熱材規制部50を容易に押し潰すことができる。
【0090】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、封止部40は、蓄熱材規制部50を融着(溶着)してなること、を特徴とする。
【0091】
この特徴により、収容部材30の開口33を塞ぐにあたり、その封止処理を、例えば、シーラ装置等(封止装置)により、接着剤等を用いた場合に比べ、簡単に行うことができる上、接着剤等に必要な乾燥時間も要せず、封止処理が迅速に実施できる。
【0092】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、蓄熱材規制部50は、ポリプロピレン(PP:polypropylene)を主成分に含有した混合樹脂材からなること、を特徴とする。
【0093】
この特徴により、蓄熱材規制部50は、主成分であるポリプロピレンの含有により、高温等に対する耐候性や、熱融着による加工性に優れた特性を有する。そのため、潜熱蓄熱材装填物1が、例えば、蓄熱槽内等、所定の設置手段に配設され、数十~百℃近傍の高温下にある熱媒体に晒された状態下や、数十~百℃近傍の比較的高い温度帯域で融点・凝固点をなす潜熱蓄熱材10を装填した状態下で使用されても、蓄熱材規制部50は、熱に起因した損傷を抑制することができる。しかも、蓄熱材規制部50を融着(溶着)して、封止部40を形成することができるようになる。
【0094】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、潜熱蓄熱材10は、無機塩水和物、包摂水和物、及び糖アルコールのうち、少なくとも一種を主成分とした蓄熱材であること、を特徴とする。
【0095】
この特徴により、無機塩水和物、包摂水和物、または糖アルコールのいずれかを主成分に含む潜熱蓄熱材10では、パラフィン系の蓄熱材との対比で、体積当たりの蓄熱量が、大きく確保できるようになるため、潜熱蓄熱材10の使い勝手は良い。
【0096】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法について、説明する。第2の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、収容部材30は、内部空間31Sに通じる開口33を有し、潜熱蓄熱材10等は、内部空間31Sのうち、設定された充填範囲上限線Kまで開口33から充填され、収容部材30のうち、開口33側の収容部材先端34(先端)と充填範囲上限線Kとの間が、潜熱蓄熱材10等の侵入を阻止した蓄熱材規制部50となっている。少なくとも蓄熱材規制部50は、可撓性を有する樹脂からなる。
【0097】
潜熱蓄熱材10等を内部空間31Sに充填後、蓄熱材規制部50を屈曲させて折り返すことにより、2層以上に積層した状態で変形させた積層状蓄熱材規制部51を形成し、積層状蓄熱材規制部51に作用する復元力に抗した把持力を有する把持部材80(把持手段)で、積層状蓄熱材規制部51を拘束する。あるいは、潜熱蓄熱材10等を内部空間31Sに充填後、溶着または接着により、収容部材30を封止する封止部40が、蓄熱材規制部50に形成され、積層状蓄熱材規制部51は、封止部40を含む蓄熱材規制部50に基づいて、形成される。
【0098】
具体的には、第2の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法により、
図2に示す配置態様1に係る潜熱蓄熱材装填物1A(1)を製造する場合を挙げて、
図6を用いて説明する。
図6は、第2の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法に基づいた潜熱蓄熱材装填物の製造工程を示すフロー図である。
【0099】
第1の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法と同様、
図6(a),(b)に示すように、下側封止部40L(封止部40)を既設した有底の収容部材30の内部空間31Sに、開口33から緩衝材20を充填して、下側封止部40L側の端部32aに隣接させる。緩衝材20が、下側封止部40Lと隣接したことで、下側封止部40Lは、特定封止部40Xとなる。
【0100】
次に、潜熱蓄熱材10等が、開口33から緩衝材20の上に、収容部材30に設定された充填範囲上限線Kに達するまで注入され、これにより、潜熱蓄熱材10等は、収容部材30の内部空間31Sに充填される(
図6(c)。収容部材30では、充填範囲上限線Kと収容部材先端34との間が、潜熱蓄熱材10等の侵入を阻止した蓄熱材規制部50である。蓄熱材規制部50の内側には、空気が、充填範囲上限線K上にある潜熱蓄熱材10等と接した状態になっている。
【0101】
潜熱蓄熱材10等の充填後、
図6(d)に示すように、例えば、クリップに似た専用工具等である拘束部材70により、蓄熱材規制部50のうち、充填範囲上限線Kと近接して位置する押圧部位Pを、蓄熱材規制部50の外側から把持力Fで押圧する。これにより、押圧部位Pでは、蓄熱材規制部50をなす収容部材30の周壁31に対し、対向する部位同士が、互いに押し潰されて弾性変形し、当接する。
【0102】
このとき、蓄熱材規制部50で周壁31同士を押し潰す際に、蓄熱材規制部50の内側にある空気を外側に排気して、充填範囲上限線K上にある潜熱蓄熱材10等の上面と押圧部位Pとの間に残存する空隙60Sを、より小さく抑えた、適切な大きさの状態(段落[0065]参照)にして、周壁31同士を当接させる。これにより、蓄熱材規制部50の内側では、押圧部位Pを境にして、空隙60Sと外部との空気の流通が、一時的に遮断される。
【0103】
図6(d)に示すように、拘束部材70で押圧部位Pを押圧して、空隙60Sが外部と遮断された状態になった後、
図6(e)に示すように、押圧部位Pから収容部材先端34にかけても、対向する周壁31同士を、互いに押し潰して近接させ、蓄熱材規制部50の内側に残存する空気を取り除く。次に、
図6(f)に示すように、蓄熱材規制部50では、押圧部位Pと収容部材先端34との間で、対向する周壁31同士が融着(溶着)されることにより、上側封止部40U(封止部40)が蓄熱材規制部50に形成され、収容部材30の開口33が封止される。
【0104】
次に、
図6(g)に示すように、上側封止部40U(封止部40)を形成した蓄熱材規制部50を屈曲させて折り返すことにより、2層以上に積層した状態で変形させた積層状蓄熱材規制部51を形成する。次に、
図6(h)に示すように、積層状蓄熱材規制部51には、折り返した状態から、折り返す前の元の状態に復元しようとする復元力が作用するため、この復元力に抗した把持力を有する把持部材80により、積層状蓄熱材規制部51を拘束する。これにより、積層状蓄熱材規制部51は、把持部材80により、安定した状態に保持できている。かくして、潜熱蓄熱材装填物1A(1)が構成される。
【0105】
なお、
図6に示した潜熱蓄熱材装填物1の製造工程を示すフロー図では、
図6(e)に示すように、押圧部位Pから収容部材先端34にかけて、内側に残存する空気を除去した状態にある蓄熱材規制部50に、上側封止部40U(封止部40)を施した後、封止部40を含む蓄熱材規制部50に基づいて、積層状蓄熱材規制部51を形成した。
【0106】
しかしながら、潜熱蓄熱材装填物1の用途、使用条件等に応じて、上側封止部40U(封止部40)を蓄熱材規制部50に設けずに、潜熱蓄熱材10等を内部空間31Sに充填後、
図6(e)から
図6(f)に移行する段階で、上側封止部40U(封止部40)を形成せず、開口33したまま、
図6(g)で行ったように、蓄熱材規制部50を屈曲させて折り返すことにより、2層以上に積層した状態で変形させた積層状蓄熱材規制部51を形成しても良い。このような場合でも、蓄熱材規制部50の周壁31同士を融着(溶着)した上側封止部40U(封止部40)が存在しなくても、把持部材80により、積層状蓄熱材規制部51を、安定した状態に保持することができているため、収容部材30では、潜熱蓄熱材10等は、開口33からの漏洩を生じることなく、内部空間31Sに装填できている。
【0107】
次に、第2の実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法の作用・効果について、説明する。
【0108】
本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材10を、収容部材30の内部空間31Sに漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物1の製造方法において、収容部材30は、内部空間31Sに通じる開口33を有し、潜熱蓄熱材10等は、内部空間31Sのうち、設定された充填範囲上限線Kまで開口33から充填され、収容部材30のうち、開口33側の収容部材先端34と充填範囲上限線Kとの間が、潜熱蓄熱材10等の侵入を阻止した蓄熱材規制部50となっていること、少なくとも蓄熱材規制部50は、可撓性を有する樹脂からなり、潜熱蓄熱材10等を内部空間31Sに充填後、蓄熱材規制部50を屈曲させて折り返すことにより、2層以上に積層した状態で変形させた積層状蓄熱材規制部51を形成し、積層状蓄熱材規制部51に作用する復元力に抗した把持力を有する把持部材80で、積層状蓄熱材規制部51を拘束すること、を特徴とする。
【0109】
この特徴により、潜熱蓄熱材10が、密閉状態にある収容部材30内で、蓄熱・放熱サイクルを、複数回に亘って繰り返す中で、蓄熱材規制部50が、上側封止部40U(封止部40)への潜熱蓄熱材10の到達を抑制し、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮に伴う大きな応力負荷が、上側封止部40U(封止部40)に直に作用するのを防止できる。それ故に、潜熱蓄熱材装填物1では、上側封止部40U(封止部40)において、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮による応力負荷の影響を低減でき、疲労破壊に起因した封止部40の破損が抑制できていることから、潜熱蓄熱材10による蓄熱・放熱サイクルが、複数回に亘って繰り返されても、収容部材30から潜熱蓄熱材10の漏洩は生じ難い。
【0110】
従って、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法によれば、第1の実施形態と同様、収容部材30の内部空間31Sに装填された潜熱蓄熱材10に、相変化に伴う体積変態が生じても、収容部材30の開口33を塞ぐ上側封止部40U(封止部40)に及ぼす応力負荷の影響を抑制することができる、という優れた効果を奏する。
【0111】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、潜熱蓄熱材10等を内部空間31Sに充填後、溶着により、収容部材30を封止する封止部40が、蓄熱材規制部50に形成され、積層状蓄熱材規制部51は、封止部40を含む蓄熱材規制部50に基づいて、形成されること、を特徴とする。
【0112】
この特徴により、潜熱蓄熱材装填物1が、例えば、蓄熱槽内等、配設される設置手段に、例えば、振動を伴う場合や、設置環境でより大きな温度差を伴う場合等、潜熱蓄熱材装填物1にとって過酷な条件下で使用される場合でも、潜熱蓄熱材10等の漏洩をより確実に防ぐことができる。
【0113】
以上において、本発明を第1,第2の実施形態に即して説明したが、本発明は上記第1,第2の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
【0114】
(1)例えば、実施形態では、潜熱蓄熱材装填物1に装填する潜熱蓄熱材10(無機塩水和物、包摂水和物、糖アルコールのいずれかを主成分とした潜熱蓄熱材)の一例として、アンモニウムミョウバン十二水和物を挙げたが、アンモニウムミョウバン十二水和物は、あくまでも一例に過ぎず、潜熱蓄熱材の種類やその主成分は、実施形態に限定されるものではなく、需要先での潜熱の利用態様に応じて、適宜変更可能である。
【0115】
(2)実施形態では、潜熱蓄熱材装填物1の収容部材30の材質に、可撓性を有した樹脂として、ポリプロピレンを主成分に、別の樹脂成分を加えた混合樹脂材を、例示して挙げた。しかしながら、収容部材のうち、蓄熱材規制部を除く部分の材質は、実施形態では、あくまでも一例で挙げたに過ぎず、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス鋼等、金属製であっても良く、需要先での潜熱の利用態様に応じて、適宜変更可能である。
【0116】
(3)実施形態では、潜熱蓄熱材装填物1の収容部材30の開口33を、融着(溶着)により封止しているが、融着(溶着)はあくまでも一例に過ぎず、収容部材30の開口33の封止方法は、需要先での潜熱の利用態様に応じて、適宜変更可能である。
【0117】
(4)実施形態では、熱媒体で満たされた蓄熱槽内に、潜熱蓄熱材装填物を収容した用途を一例で挙げたが、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物を設置する手段は、蓄熱槽に限らず、例えば、建物の壁の内部や床の内部、植物の温室栽培をビニールハウス内等、蓄熱した潜熱による熱エネルギを利用する需要先に対応した所定の設置手段であれば、特に限定されるものでない。
【符号の説明】
【0118】
1、1A、1B、1C 潜熱蓄熱材装填物
10 潜熱蓄熱材
30 収容部材
31 周壁
31S 内部空間
33 開口
34 収容部材先端(先端)
40 封止部
50 蓄熱材規制部
51 積層状蓄熱材規制部
80 把持部材(把持手段)
K 充填範囲上限線
P 押圧部位
【要約】
【課題】収容部材の内部に装填された潜熱蓄熱材に、相変化に伴う体積変態が生じても、収容部材の封止部に及ぼす応力負荷の影響を抑制することができる潜熱蓄熱材装填物の製造方法を提供する。
【解決手段】実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、潜熱蓄熱材10は、内部空間31Sのうち、設定された充填範囲上限線Kまで開口33から充填され、開口33側に位置する収容部材先端34と充填範囲上限線Kとの間が、潜熱蓄熱材10等の侵入を阻止した蓄熱材規制部50となっている。蓄熱材規制部50は、可撓性を有する樹脂からなり、潜熱蓄熱材10等を内部空間31Sに充填後、蓄熱材規制部50の充填範囲上限線K側に位置する押圧部位Pを、外側から押圧して蓄熱材規制部50を弾性変形させて、その内側を脱気すると共に、押圧部位Pを弾性変形させた状態で、蓄熱材規制部50に溶着を施すことにより、封止部40で収容部材30が封止される。
【選択図】
図3