IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 浜松ホトニクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-装置および方法 図1
  • 特許-装置および方法 図2
  • 特許-装置および方法 図3
  • 特許-装置および方法 図4
  • 特許-装置および方法 図5
  • 特許-装置および方法 図6
  • 特許-装置および方法 図7
  • 特許-装置および方法 図8
  • 特許-装置および方法 図9
  • 特許-装置および方法 図10
  • 特許-装置および方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/36 20060101AFI20241107BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20241107BHJP
   G01J 3/443 20060101ALI20241107BHJP
   H04N 25/583 20230101ALI20241107BHJP
   H04N 25/71 20230101ALI20241107BHJP
【FI】
G01J3/36
G01N21/27 A
G01J3/443
H04N25/583
H04N25/71
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023215944
(22)【出願日】2023-12-21
(62)【分割の表示】P 2023010170の分割
【原出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2024026464
(43)【公開日】2024-02-28
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】井口 和也
(72)【発明者】
【氏名】増岡 英樹
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-527516(JP,A)
【文献】特開2001-061765(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088568(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0067782(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0165222(US,A1)
【文献】国際公開第2006/054292(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/046045(WO,A1)
【文献】浜松ホトニクス株式会社,技術資料 電子シャッタ機能付レジスティブゲート型CCDリニアイメージセンサ,日本,浜松ホトニクス株式会社,2016年05月,第1頁-第35頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 -G01J 3/52
G01N 21/00 -G01N 21/61
H04N 25/583
H04N 25/71
H01L 27/146
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横方向に波長軸が延在し上下方向に対称に波長毎の像が延在する被測定光の分光像を撮像して前記被測定光のスペクトルを得る装置であって、
複数の行それぞれに複数の画素が配列された第1領域と、前記第1領域に隣接し複数の行それぞれに複数の画素が配列された第2領域とを有する受光面を有し、前記分光像の対称軸が前記第1領域と前記第2領域との境界と一致するように前記受光面上に前記分光像を形成し、第1露光時間に亘る前記第1領域の受光により各画素で生成され蓄積された電荷を列毎に足し合わせた第1スペクトルデータを出力し、第2露光時間に亘る前記第2領域の受光により各画素で生成され蓄積された電荷を列毎に足し合わせた第2スペクトルデータを出力する光検出器と、
前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータに基づいて前記被測定光のスペクトルを求める解析部と、
を備え、
前記光検出器は、前記第1露光時間より前記第2露光時間が長く、前記第1スペクトルデータの出力動作と前記第2スペクトルデータの出力動作とを同期して行う、
装置。
【請求項2】
前記光検出器は、前記第1スペクトルデータの出力周期に対して前記第2スペクトルデータの出力周期が整数倍である、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記解析部は、光検出器から連続して出力される複数の前記第1スペクトルデータを平均化する、
請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記光検出器は、前記第1スペクトルデータの出力動作と前記第2スペクトルデータの出力動作を同じタイミングで行う、
請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記光検出器は、電子シャッタにより前記第1露光時間および前記第2露光時間の少なくとも一方を設定する、
請求項1~4の何れか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記電子シャッタは、アンチブルーミングゲートを利用して前記第1露光時間および前記第2露光時間の少なくとも一方を設定する、
請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記光検出器は、CCDイメージセンサである、
請求項1~6の何れか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記解析部は、前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータの双方が飽和レベル以下である波長帯における前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータそれぞれの積算値の比を用いて、前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータの双方または何れ一方を調整し、その調整後の前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータに基づいて前記被測定光のスペクトルを求める、
請求項1~7の何れか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記光検出器は、プラズマプロセスにより対象物をドライエッチングする工程において、ガス起因の高強度の光および材料起因の低強度の光の双方を含む前記被測定光を受光して前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータを出力し、
前記解析部は、前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータから求めた前記被測定光のスペクトルに基づいて前記ガスの状態を監視する、
請求項1~8の何れか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記光検出器は、プラズマプロセスにより対象物をドライエッチングする工程において、ガス起因の高強度の光および材料起因の低強度の光の双方を含む前記被測定光を受光して前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータを出力し、
前記解析部は、前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータから求めた前記被測定光のスペクトルに基づいてエッチング終了タイミングを検知する、
請求項1~8の何れか1項に記載の装置。
【請求項11】
横方向に波長軸が延在し上下方向に対称に波長毎の像が延在する被測定光の分光像を撮像して前記被測定光のスペクトルを得る方法であって、
複数の行それぞれに複数の画素が配列された第1領域と、前記第1領域に隣接し複数の行それぞれに複数の画素が配列された第2領域とを有する受光面を有する光検出器を用い、前記分光像の対称軸が前記第1領域と前記第2領域との境界と一致するように前記受光面上に前記分光像を形成し、第1露光時間に亘る前記第1領域の受光により各画素で生成され蓄積された電荷を列毎に足し合わせた第1スペクトルデータを出力し、第2露光時間に亘る前記第2領域の受光により各画素で生成され蓄積された電荷を列毎に足し合わせた第2スペクトルデータを出力する光検出ステップと、
前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータに基づいて前記被測定光のスペクトルを求める解析ステップと、
を備え、
前記光検出ステップにおいて、前記第1露光時間より前記第2露光時間が長く、前記第1スペクトルデータの出力動作と前記第2スペクトルデータの出力動作とを同期して行う、
方法。
【請求項12】
前記光検出ステップにおいて、前記第1スペクトルデータの出力周期に対して前記第2スペクトルデータの出力周期が整数倍である、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記解析ステップにおいて、光検出器から連続して出力される複数の前記第1スペクトルデータを平均化して前記被測定光のスペクトルを求める、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記光検出ステップにおいて、前記第1スペクトルデータの出力動作と前記第2スペクトルデータの出力動作を同じタイミングで行われる、
請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記光検出ステップにおいて、電子シャッタにより前記第1露光時間および前記第2露光時間の少なくとも一方を設定する、
請求項11~14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記光検出ステップにおいて、前記電子シャッタは、アンチブルーミングゲートを利用して前記第1露光時間および前記第2露光時間の少なくとも一方を設定する、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記解析ステップにおいて、前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータの双方が飽和レベル以下である波長帯における前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータそれぞれの積算値の比を用いて、前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータの双方または何れ一方を調整し、その調整後の前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータに基づいて前記被測定光のスペクトルを求める、
請求項11~16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記光検出ステップは、プラズマプロセスにより対象物をドライエッチングする工程において、ガス起因の高強度の光および材料起因の低強度の光の双方を含む前記被測定光を受光して前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータを出力し、
前記解析ステップは、前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータから求めた前記被測定光のスペクトルに基づいて前記ガスの状態を監視する、
請求項11~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記光検出ステップは、プラズマプロセスにより対象物をドライエッチングする工程において、ガス起因の高強度の光および材料起因の低強度の光の双方を含む前記被測定光を受光して前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータを出力し、
前記解析ステップは、前記第1スペクトルデータおよび前記第2スペクトルデータから求めた前記被測定光のスペクトルに基づいてエッチング終了タイミングを検知する、
請求項11~17の何れか1項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横方向に波長軸が延在し上下方向に対称に波長毎の像が延在する被測定光の分光像を撮像して被測定光のスペクトルを得る装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分光測定装置は、対象物で生じた被測定光の分光像を光検出器により受光して該被測定光のスペクトルを取得することができ、そのスペクトルに基づいて対象物の組成を分析したり対象物における現象をモニタしたりすることができる。分光測定装置は、高ダイナミックレンジのスペクトルを取得することが要求される場合がある(特許文献1参照)。
【0003】
例えば、プラズマプロセスにより対象物をドライエッチングする工程において、そのエッチングに使用するガスに起因する光が発生し、また、エッチング対象物の材料に起因する光も発生する。これらのガス起因の光の波長帯と材料起因の光の波長帯とが互いに異なる場合がある。ガス起因の光の強度をモニタすることにより、ガスの状態を監視することができる。材料起因の光の強度の時間的変化をモニタすることにより、エッチング終了タイミングを検知することができる。ガス起因の光は高強度であり、これと比べて材料起因の光は低強度であることが多い。
【0004】
近年の半導体プロセスの微細化の進展に伴い、ドライエッチングにより形成される開口部が小さくなり、そこから発生する材料起因の光(エッチング終了タイミングを検知する為の光)の強度が更に微弱になってきている。プラズマプロセスにより対象物をドライエッチングする工程において、ガスの状態を監視することは重要であり、エッチング終了タイミングを検知することも重要である。したがって、ガス起因の高強度の光および材料起因の低強度の光の双方を含む被測定光のスペクトルを分光測定装置により取得することが必要である。このような被測定光のスペクトルのダイナミックレンジ(各波長の光強度の最大レベルと最小レベルとの比)は大きい。
【0005】
また、積分球を用いてサンプルの発光量子収率を測定する際には、積分球内にサンプルを入れていない状態において励起光のスペクトルを測定し、また、積分球内にサンプルを入れた状態においてサンプルにより吸収された励起光のスペクトルおよびサンプルで発生した発生光(例えば蛍光)のスペクトルを同時に測定する。サンプルにより吸収された励起光を精密に見積もる為に、一般的には、励起光スペクトルおよび発生光スペクトルを同一露光期間に測定することが必要である。
【0006】
このとき、発生光強度と比較して励起光強度が桁違いに高いことから、弱い発生光強度を測定する必要があるにも拘わらず、強い励起光強度を測定する為に露光時間を短くせざるを得ない。それ故、S/N比よく発生光を測定することができない。発光効率の低いサンプルにおいては、励起光強度を高くしたいところであるが、一定光量以上の強度の励起光においては光検出器が飽和してしまうことから、励起光強度を高くすることも容易ではない。
【0007】
これらの例に限らず、被測定光のスペクトルのダイナミックレンジが大きい場合があり、その被測定光のスペクトルを同時に取得することが望まれる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2007-527516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
光検出器のダイナミックレンジ(光検出器により検出が可能な光強度の最大レベルと最小レベルとの比)には限界がある。光検出器のダイナミックレンジと比べて被測定光のスペクトルのダイナミックレンジが大きいと、光検出器による一度の分光像の受光により被測定光のスペクトルを取得することができない。すなわち、低強度の波長帯の光に対して出力される信号レベルがノイズレベル以上となるようにすると、高強度の波長帯の光に対して出力される信号レベルは飽和レベル以上となる。逆に、高強度の波長帯の光に対して出力される信号レベルが飽和レベル以下となるようにすると、低強度の波長帯の光に対して出力される信号レベルはノイズレベル以下となる。
【0010】
露光時間が互いに異なる二つの光検出器を用いて、高強度の光のスペクトルを短時間露光の光検出器により取得し、低強度の光のスペクトルを長時間露光の光検出器により取得することが考えられる。しかし、この場合、二つの光検出器の間で機差または温度差により波長軸またはスペクトル取得動作が互いに異なる場合がある。したがって、一つの光検出器を用いて、高強度の光および低強度の光の双方を含む被測定光のスペクトルを取得することが望ましい。
【0011】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、一つの光検出器を用いて高ダイナミックレンジの光スペクトルを取得することができる装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の装置は、横方向に波長軸が延在し上下方向に対称に波長毎の像が延在する被測定光の分光像を撮像して被測定光のスペクトルを得る装置である。本発明の装置は、(1) 複数の行それぞれに複数の画素が配列された第1領域と、第1領域に隣接し複数の行それぞれに複数の画素が配列された第2領域とを有する受光面を有し、分光像の対称軸が第1領域と第2領域との境界と一致するように受光面上に分光像を形成し、第1露光時間に亘る第1領域の受光により各画素で生成され蓄積された電荷を列毎に足し合わせた第1スペクトルデータを出力し、第2露光時間に亘る第2領域の受光により各画素で生成され蓄積された電荷を列毎に足し合わせた第2スペクトルデータを出力する光検出器と、(2) 第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータに基づいて被測定光のスペクトルを求める解析部と、を備える。光検出器は、第1露光時間より第2露光時間が長く、第1スペクトルデータの出力動作と第2スペクトルデータの出力動作とを同期して行う。
【0013】
本発明の方法は、横方向に波長軸が延在し上下方向に対称に波長毎の像が延在する被測定光の分光像を撮像して被測定光のスペクトルを得る方法である。本発明の方法は、(1) 複数の行それぞれに複数の画素が配列された第1領域と、第1領域に隣接し複数の行それぞれに複数の画素が配列された第2領域とを有する受光面を有する光検出器を用い、分光像の対称軸が第1領域と第2領域との境界と一致するように受光面上に分光像を形成し、第1露光時間に亘る第1領域の受光により各画素で生成され蓄積された電荷を列毎に足し合わせた第1スペクトルデータを出力し、第2露光時間に亘る第2領域の受光により各画素で生成され蓄積された電荷を列毎に足し合わせた第2スペクトルデータを出力する光検出ステップと、(2) 第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータに基づいて被測定光のスペクトルを求める解析ステップと、を備える。光検出ステップにおいて、第1露光時間より第2露光時間が長く、第1スペクトルデータの出力動作と第2スペクトルデータの出力動作とを同期して行う。
【0014】
本発明の一側面において、光検出器は、第1スペクトルデータの出力周期に対して第2スペクトルデータの出力周期が整数倍であるのが好適である。解析部または解析ステップは、光検出器から連続して出力される複数の第1スペクトルデータを平均化するのが好適である。光検出器は、第1スペクトルデータの出力動作と第2スペクトルデータの出力動作を同じタイミングで行うのが好適である。光検出器は、電子シャッタにより第1露光時間および第2露光時間の少なくとも一方を設定するのが好適である。電子シャッタは、アンチブルーミングゲートを利用して第1露光時間および第2露光時間の少なくとも一方を設定するのが好適である。また、光検出器は、CCDイメージセンサであるのが好適である。
また、本発明の一側面において、解析部または解析ステップは、第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータの双方が飽和レベル以下である波長帯における第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータそれぞれの積算値の比を用いて、第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータの双方または何れ一方を調整し、その調整後の第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータに基づいて被測定光のスペクトルを求めるのが好適である。
【0015】
また、本発明の一側面において、光検出器または光検出ステップは、プラズマプロセスにより対象物をドライエッチングする工程において、ガス起因の高強度の光および材料起因の低強度の光の双方を含む被測定光を受光して第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータを出力し、解析部または解析ステップは、第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータから求めた被測定光のスペクトルに基づいてガスの状態を監視するのが好適である。
また、本発明の一側面において、光検出器または光検出ステップは、プラズマプロセスにより対象物をドライエッチングする工程において、ガス起因の高強度の光および材料起因の低強度の光の双方を含む被測定光を受光して第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータを出力し、解析部または解析ステップは、第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータから求めた被測定光のスペクトルに基づいてエッチング終了タイミングを検知するのが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一つの光検出器を用いて高ダイナミックレンジの光スペクトルを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、分光測定装置1の構成を示す図である。
図2図2は、分光像の例を示す図である。
図3図3は、光検出器20の構成を模式的に示す図である。
図4図4は、光検出器20の第1動作例を示すタイミングチャートである。
図5図5は、光検出器20の第2動作例を示すタイミングチャートである。
図6図6は、第1スペクトルデータの例を示す図である。
図7図7は、第2スペクトルデータの例を示す図である。
図8図8は、第1スペクトルデータ(図6)において所定の波長帯の値を0にした例を示す図である。
図9図9は、第2スペクトルデータ(図7)において所定の波長帯の値を0にした例を示す図である。
図10図10は、調整後の第1部分スペクトルデータおよび第2部分スペクトルデータに基づいて得られた被測定光のスペクトルを示す図である。
図11図11は、実施例および比較例それぞれについて第1領域の露光時間とダイナミックレンジとの関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0019】
図1は、分光測定装置1の構成を示す図である。分光測定装置1は、光学系10、光検出器20、解析部30、表示部40および入力部50を備え、対象物Sから到達した被測定光のスペクトルを取得する。例えば、対象物Sは、プラズマプロセスによるドライエッチングの対象物であり、その対象物Sからの被測定光は、そのエッチングに使用するガスに起因する光、および、エッチング対象物の材料に起因する光を含む。また、例えば、対象物Sは、積分球内に入れられた発光量子収率測定の対象物であり、その対象物Sからの被測定光は、励起光および発生光(例えば蛍光)を含む。
【0020】
光学系10は、対象物Sからの被測定光を光検出器20の受光面へ導くとともに、被測定光の分光像を光検出器20の受光面上に形成する。光学系10は、光を導光する光ファイバを含んでいてもよい。光学系10は、グレーティングまたはプリズム等の分光素子によって被測定光を各波長成分に分光して、その分光像を光検出器20の受光面上に形成する。光学系10は、レンズおよびミラー等の光学素子を含んでいてもよい。また、光学系10は、例えばツェルニターナ分光器であってもよい。
【0021】
光検出器20は、複数の行それぞれに複数の画素が配列された受光面を有する。その受光面上において複数の行それぞれの画素配列方向に波長軸を有する分光像が形成される。光検出器20は、例えば半導体基板上に形成されたCCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサである。光検出器20は、半導体基板の裏面(イメージセンサ形成面と反対側の面)が研削されることで薄型化されていて、高波長帯域で高感度の光検出が可能なものであるのが好ましい。また、CCDイメージセンサは、CMOSイメージセンサと比べて高感度であるので好ましい。なお、CCDイメージセンサは、インターラインCCD型、フレームトランスファーCCD型およびフルフレームトランスファーCCD型のいずれでもよい。
【0022】
光検出器20の受光面は、第1領域と第2領域とに区分されている。光検出器20は、受光面上の第1領域にある1または複数の行に配列された複数の画素により第1露光時間に亘って分光像を受光して被測定光の第1スペクトルデータを出力する。また、光検出器20は、受光面上の第2領域にある1または複数の行に配列された複数の画素により第2露光時間に亘って分光像を受光して被測定光の第2スペクトルデータを出力する。第1露光時間より第2露光時間が長い。
【0023】
解析部30は、第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータに基づいて被測定光のスペクトルを求める。解析部30による解析の内容については後述する。解析部30は、入力した第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータや解析結果等を記憶する記憶部を含む。また、解析部30は、光検出器20を制御してもよい。解析部30は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ及びRAM(RandomAccess Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶媒体を備えるコンピュータやタブレット端末であってもよく、その場合には表示部40および入力部50とともに一体とすることができる。また、解析部30は、マイコンやFPGA(Field-Programmable Gate Array)で構成されていてもよい。
【0024】
表示部40は、解析部30が入力した第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータに基づいてスペクトルを表示し、また、解析部30による解析結果を表示する。入力部50は、例えばキーボードやマウスなどであり、分光測定装置1を用いて分光測定を行なう操作者からの入力指示を受け付け、その入力情報(例えば測定条件や表示条件など)を解析部30に与える。また、表示部40及び入力部50は、一体化されたタッチパネル等でもよい。
【0025】
図2は、分光像の例を示す図である。この図において、横方向に波長軸が延び、上下方向に波長毎の像が延びている。一般に、分光像は、横方向に延びる或る中心線(図中の破線)を対称軸として上下対称な形状を有している。また、光学系10の特性により、波長毎の像は弓形の形状を有する場合がある。
【0026】
図3は、光検出器20の構成を模式的に示す図である。以下では、光検出器20がCCDイメージセンサであるとして説明をする。光検出器20の受光面は、形成される分光像の対称軸(図2中の破線)を境にして第1領域21と第2領域22とに区分されている。第1領域21および第2領域22それぞれは、1または複数の行に複数の画素が配列されている。各画素は、受光した光の強度に応じた量の電荷を生成し蓄積することができる。例えば、第1領域21および第2領域22それぞれは、上下方向に128行を有し、各行において横方向に2048個の画素が配列されている。
【0027】
第1領域21では、各画素で生成されて蓄積されていた電荷は水平シフトレジスタ23へ転送されて、各列にある1または複数の画素の電荷が水平シフトレジスタ23において列毎に足し合わされる(以下では、この動作を「縦転送」という。)。その後、水平シフトレジスタ23において列毎に足し合わされた電荷は、順次に水平シフトレジスタ23から読み出される(以下では、この動作を「横転送」という。)。そして、水平シフトレジスタ23から読み出された電荷の量に応じた電圧値がアンプ25から出力され、その電圧値がAD変換器によりAD変換されてデジタル値とされる。このようにして第1スペクトルデータが取得される。
【0028】
第2領域22では、各画素で生成されて蓄積されていた電荷は水平シフトレジスタ24へ転送されて、各列にある1または複数の画素の電荷が水平シフトレジスタ24において列毎に足し合わされる(縦転送)。その後、水平シフトレジスタ24において列毎に足し合わされた電荷は、順次に水平シフトレジスタ24から読み出される(横転送)。そして、水平シフトレジスタ24から読み出された電荷の量に応じた電圧値がアンプ26から出力され、その電圧値がAD変換器によりAD変換されてデジタル値とされる。このようにして第2スペクトルデータが取得される。
【0029】
光検出器20において、第1領域21における第1露光時間より、第2領域22における第2露光時間が長い。各領域の露光時間は、電子シャッタにより設定することができる。電子シャッタは、アンチブルーミングゲート(ABG:anti-blooming gate)を利用することで実現することができる。
【0030】
光検出器20は、第1スペクトルデータの出力動作と第2スペクトルデータの出力動作とを同期して行うのが好適である。また、光検出器20は、第1スペクトルデータの出力周期に対して第2スペクトルデータの出力周期が整数倍であるのも好適である。
【0031】
図4は、光検出器20の第1動作例を示すタイミングチャートである。この図は、フルフレームトランスファー型CCDイメージセンサを用いた場合のタイミングチャートである。この場合、縦転送期間中に蓄積された電荷の半分がその縦転送で水平シフトレジスタへ転送され、残りの半分は次回の縦転送で水平シフトレジスタへ転送される。この第1動作例では、第1領域21および第2領域22の双方において、ABGは常時オフ状態であり電荷は常時蓄積されていく。第1領域21からの第1スペクトルデータの出力周期に対して、第2領域22からの第2スペクトルデータの出力周期は5倍である。したがって、第1領域21における第1露光時間に対して、第2領域22における第2露光時間は約5倍である。解析部30は、光検出器20から連続して出力される複数(例えば5個)の第1スペクトルデータを平均化して、この平均化した第1スペクトルデータを処理してもよい。
【0032】
図5は、光検出器20の第2動作例を示すタイミングチャートである。この図も、フルフレームトランスファー型CCDイメージセンサを用いた場合のタイミングチャートである。この第2動作例では、第2領域22において、ABGは常時オフ状態であり電荷は常時蓄積されていく。したがって、第2領域22では、一瞬だけ発生するパルス現象を計測することができる。これに対して、第1領域21においては、ABGは周期的にオン/オフを繰り返す。したがって、第1領域21では、ABGがオン状態である期間に発生した電荷が捨てられ、ABGがオフ状態である期間に発生した電荷が蓄積されていく。第1領域21では、縦転送時の読み残しの電荷は次の縦転送の前に捨てられる。
【0033】
第1動作例および第2動作例の何れにおいても、もし、第1領域21および第2領域22それぞれの出力動作が同期していないと、一方の出力動作を指示する信号が、他方の出力動作を指示する信号に対してノイズとして重畳する場合がある。したがって、第1領域21および第2領域22それぞれの出力動作を同じタイミングで行うときには、第1領域21および第2領域22それぞれの出力動作を完全に同期させることが好ましい。
【0034】
また、第1動作例および第2動作例の何れにおいても、或る画素において電荷蓄積が飽和すると、その画素の周辺にある画素に悪影響を与える場合がある。そこで、ABGを用いることで、一定量を超える電荷を捨てるのも好ましい。
【0035】
図6は、第1スペクトルデータの例を示す図である。図7は、第2スペクトルデータの例を示す図である。これらの第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータは光検出器20により実質的に同時に取得されたものである。第1スペクトルデータ(図6)は、第1領域21において短い露光時間で取得されたものであり、全ての波長帯において飽和レベル以下となっている。これに対して、第2スペクトルデータ(図7)は、第2領域22において長い露光時間で取得されたものであり、或る波長帯において飽和レベル以上となっている。
【0036】
解析部30は、スペクトルの全体の波長帯(これらの図では凡そ200nm~880nm)を、第2スペクトルデータのうち値が飽和レベル以上である波長帯を含む飽和波長帯(凡そ400nm~880nm)と、この飽和波長帯以外の非飽和波長帯(凡そ200nm~400nm)とに区分する。飽和波長帯では、第2スペクトルデータが飽和レベル以上であっても、第1スペクトルデータは飽和レベル未満である。非飽和波長帯では、第2スペクトルデータは、飽和レベル未満であり、しかも、第1スペクトルデータより良好なS/N比を有することができる。
【0037】
解析部30は、第1スペクトルデータのうちの飽和波長帯の第1部分スペクトルデータと、第2スペクトルデータのうちの非飽和波長帯の第2部分スペクトルデータとに基づいて、被測定光のスペクトルを求める。
【0038】
解析部30は、次のようにして、第1スペクトルデータのうちの飽和波長帯の第1部分スペクトルデータと、第2スペクトルデータのうちの非飽和波長帯の第2部分スペクトルデータと互いに繋ぎ合わせることで、一つの測定光のスペクトルを求めることができる。
【0039】
解析部30は、第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータの双方が飽和レベル以下である波長帯における第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータそれぞれの積算値の比を求める。具体的には、解析部30は、まず、第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータの双方または何れか一方が飽和レベル以上である波長帯で、第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータそれぞれの値を0にする。図8は、第1スペクトルデータ(図6)において所定の波長帯(飽和レベル以上である波長帯)の値を0にした例を示す図である。図9は、第2スペクトルデータ(図7)において所定の波長帯(飽和レベル以上である波長帯)の値を0にした例を示す図である。解析部30は、所定の波長帯の値を0にした後の第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータそれぞれの積算値を求め、これら2つの積算値の比を求める。この積算値の比は、第1領域21および第2領域22それぞれからの出力信号の強度比を表し、露光時間の比を表す。
【0040】
そして、解析部30は、この積算値の比を用いて、第1部分スペクトルデータおよび第2部分スペクトルデータの双方または何れ一方を調整し、その調整後の第1部分スペクトルデータおよび第2部分スペクトルデータに基づいて被測定光の全体のスペクトルを求める。この調整に際しては、第1部分スペクトルデータに積算値比を掛けてもよいし、第2部分スペクトルデータを積算値比で割ってもよい。ノイズレベル低減の為には、第2部分スペクトルデータを積算値比で割るのが好ましい。図10は、調整後の第1部分スペクトルデータおよび第2部分スペクトルデータに基づいて得られた被測定光のスペクトルを示す図である。
【0041】
本実施形態の分光測定方法は、上記の本実施形態の分光測定装置を用いて測定を行うものであり、光検出器20を用いて第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータを出力する光検出ステップと、第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータに基づいて被測定光のスペクトルを求める解析ステップと、を備える。光検出ステップの内容は、光検出器20の構成および動作として説明したとおりである。解析ステップの内容は、解析部30の解析内容として説明したとおりである。
【0042】
図11は、実施例および比較例それぞれについて第1領域の露光時間とダイナミックレンジとの関係の一例を示すグラフである。比較例のダイナミックレンジは、第1領域と第2領域とに区分することなく被測定光のスペクトルを取得した場合のものである。比較例と比べて実施例のダイナミックレンジは大きい。ダイナミックレンジは、検出可能な最大レベルと最小レベルとの比で表される。検出可能な最大レベルは水平シフトレジスタの飽和電荷量(例えば300ke)であり、検出可能な最小レベルはノイズレベルである。本実施形態では、第2部分スペクトルデータを積算値比(出力信号の強度比)で割ることで第2部分スペクトルデータの検出可能な最小レベル(ノイズレベル)が小さくなって、ダイナミックレンジが大きくなる。
【0043】
以上のように、本実施形態では、一つの光検出器20を用いて高ダイナミックレンジの光スペクトルを取得することができる。しかも、高強度の光および低強度の光の双方を実質的に同時に測定することができる。したがって、プラズマプロセスにより対象物をドライエッチングする工程において、ガス起因の高強度の光および材料起因の低強度の光の双方を含む被測定光のスペクトルを取得することができて、ガスの状態を監視することができるとともに、エッチング終了タイミングを検知することができる。また、積分球を用いてサンプルの発光量子収率を測定する際に、積分球内にサンプルを入れた状態においてサンプルにより吸収された励起光のスペクトルおよびサンプルで発生した発生光(例えば蛍光)のスペクトルを同時に測定することができる。
【0044】
また、本実施形態の分光測定装置および分光測定方法は、高強度の光および低強度の光の双方を実質的に同時に測定するだけでなく、高強度の光と低強度の光とを互いに異なる期間に測定することもできる。後者の場合、高強度光の測定時と低強度光の測定時とで互いに同じ測定条件とすることができ、例えば、高強度光の測定時にNDフィルタを挿入しなくてもよい。用途としては、例えば、発光ダイオード(LED)に微少電流を与えたときの弱い出力光のスペクトル、および、LEDに定格電流を与えたときの明るい出力光のスペクトルの測定が挙げられる。このような用途において、光の高ダイナミックレンジ測定を波長精度よく行うことができる。
【0045】
分光測定装置は次のような構成とすることもできる。分光測定装置は、(1) 被測定光を分光して分光像を形成する光学系と、(2) 複数の行それぞれに複数の画素が配列された受光面を有し、受光面上において複数の行それぞれの画素配列方向に波長軸を有する分光像が形成され、受光面上の第1領域にある1または複数の行に配列された複数の画素により第1露光時間に亘って分光像を受光して被測定光の第1スペクトルデータを出力し、受光面上の第2領域にある1または複数の行に配列された複数の画素により第2露光時間に亘って分光像を受光して被測定光の第2スペクトルデータを出力する光検出器と、(3) 第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータに基づいて被測定光のスペクトルを求める解析部と、を備える。第1露光時間より第2露光時間が長い。解析部は、スペクトルの波長帯を、第2スペクトルデータのうち値が飽和レベル以上である波長帯を含む飽和波長帯と、この飽和波長帯以外の非飽和波長帯とに区分したときに、第1スペクトルデータのうちの飽和波長帯の第1部分スペクトルデータと、第2スペクトルデータのうちの非飽和波長帯の第2部分スペクトルデータとに基づいて、被測定光のスペクトルを求める。
【0046】
分光測定方法は次のような構成とすることもできる。分光測定方法は、(1) 複数の行それぞれに複数の画素が配列された受光面を有する光検出器を用い、受光面上において複数の行それぞれの画素配列方向に波長軸を有する被測定光の分光像を形成し、受光面上の第1領域にある1または複数の行に配列された複数の画素により第1露光時間に亘って分光像を受光して被測定光の第1スペクトルデータを出力し、受光面上の第2領域にある1または複数の行に配列された複数の画素により第2露光時間に亘って分光像を受光して被測定光の第2スペクトルデータを出力する光検出ステップと、(2) 第1スペクトルデータおよび第2スペクトルデータに基づいて被測定光のスペクトルを求める解析ステップと、を備える。光検出ステップにおいて、第1露光時間より第2露光時間が長い。解析ステップにおいて、スペクトルの波長帯を、第2スペクトルデータのうち値が飽和レベル以上である波長帯を含む飽和波長帯と、この飽和波長帯以外の非飽和波長帯とに区分したときに、第1スペクトルデータのうちの飽和波長帯の第1部分スペクトルデータと、第2スペクトルデータのうちの非飽和波長帯の第2部分スペクトルデータとに基づいて、被測定光のスペクトルを求める。
【符号の説明】
【0047】
1…分光測定装置、10…光学系、20…光検出器、21…第1領域、22…第2領域、30…解析部、40…表示部、50…入力部。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11