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特許7583920水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物及びその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/04 20060101AFI20241107BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20241107BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C08L25/04
C08K3/105
C08L23/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023517067
(86)(22)【出願日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2022004990
(87)【国際公開番号】W WO2022230294
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2021074738
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 佳那恵
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 英明
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/072708(WO,A1)
【文献】特開昭61-106646(JP,A)
【文献】特許第6764210(JP,B2)
【文献】欧州特許出願公開第4328250(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 25/04
C08L 101/00
C08L 1/00
C08K 3/105
C08L 89/04
C08L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂又はポリオレフィン系樹脂を含む熱可塑性樹脂(A)と、卵殻粉末、及び貝殻粉末から選択される少なくとも1つの無機充填材(B)とを、質量比((A)/(B))50/50~30/70で含む、水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機充填材(B)が食料廃棄物由来の充填材である、請求項1に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機充填材(B1)が、平均粒子径(D50)が1~50μmの卵殻粉末を含む、請求項1または2に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリスチレン系樹脂が、ポリスチレン(GPPS)を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物を含む、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料で塗装を施される成形品のための樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家電機器、自動車の内装材、玩具等に使用される樹脂製品は、射出成形等により成形される。このうち表面外観の重視される製品については、その表面に塗装が施されることがある。また、樹脂製の玩具等については、消費者がその好みに合わせて自由に塗装を施すことができる製品も知られている(例えば、特許文献1等)。
【0003】
ところで、近年、地球温暖化等の環境問題が重視されるようになり、石油等の化石資源に由来する樹脂材料の使用量を低減することが望まれている。このような要求に対して、例えば、バイオマス原料を熱可塑性樹脂に配合して、樹脂材料の使用量を低減すること等についても検討が行われている。一方、塗装の分野においては、環境負荷の少ない水性塗料への需要が高まっている(特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-106646号公報
【文献】特開2016-188338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、化石資源に由来する樹脂材料の配合量が少なく、かつ水性塗料に対する良好な塗装性を有する成形品を提供できる樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に対して、本願発明者らは鋭意検討した結果、天然素材由来の充填材と、熱可塑性樹脂とを特定の質量比で組み合わせた樹脂組成物から得られる成形品は、水に対する濡れ性が向上し、水性塗料に対する塗装性が良好となることを見出した。また、このような樹脂組成物は、化石資源に由来する熱可塑性樹脂の配合量を低減でき、環境への負荷のより少ない成形品を提供できることも見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]熱可塑性樹脂(A)と、天然素材由来の充填材(B)とを、質量比((A)/(B))50/50~30/70で含み、前記充填材(B)が、バイオミネラル由来の無機充填材(B1)、及び植物由来の有機充填材(B2)から選択される少なくとも1つを含む、水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
[2]前記熱可塑性樹脂(A)がポリスチレン系樹脂(A1)を含み、前記充填材(B)が、前記無機充填材(B1)、または前記有機充填材(B2)を含む、[1]に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
[3]前記熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィン系樹脂(A2)を含み、前記充填材(B)が、前記有機充填材(B2)を含む、[1]に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
[4]前記無機充填材(B1)が、卵殻粉末、及び貝殻粉末から選択される少なくとも1つを含む、[1]または[2]に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
[5]前記有機充填材(B2)が樹木の粉砕物を含む、[1]から[3]のいずれか一項に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
[6]前記樹木の粉砕物が、樹木の葉、茎、芽、及び種子から選択される少なくとも1つの粉砕物を含む、[5]に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
[7]前記充填材(B)が食料廃棄物由来の充填材である、[1]から[6]のいずれか一項に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
[8]前記有機充填材(B2)が、茶殻、及びコーヒー粕から選択される少なくとも1つを含む、[7]に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
[9][1]から[8]のいずれか一項に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物を含む、成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、化石資源に由来する樹脂材料の配合量が少なく、かつ水性塗料に対する良好な塗装性を有する成形品を提供できる樹脂組成物及びその成形品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。なお本明細書において、「~」の記号は「以上以下」を意味する。すなわち、「3~50」とは、「3以上50以下」を意味する。
[水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物]
本発明に係る水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、天然素材由来の充填材(B)とを、質量比((A)/(B))50/50~30/70で含み、前記充填材(B)が、バイオミネラル由来の無機充填材(B1)、及び植物由来の有機充填材(B2)から選択される少なくとも1つを含む。本発明に係る水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」と記載することもある)は、水に対する濡れ性が向上しており、水性塗料に対する良好な塗装性を有する成形品を提供できる。また、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)の割合を低減できるため、環境への負荷がより少ない。
【0009】
樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)と天然素材由来の充填材(B)(以下、「充填材(B)」と記載する)との質量比((A)/(B))は、50/50~30/70であり、45/55~30/70であることが好ましく、40/60~30/70であることがより好ましい。前記質量比((A)/(B))が50/50~30/70であれば、水に対する濡れ性が向上し、水性塗料に対する良好な塗装性を有する成形品を提供することができる。なお、前記質量比((A)/(B))は、熱可塑性樹脂(A)と充填材(B)との合計量を100とした場合の割合を意味する。すなわち、樹脂組成物の総量に対する、熱可塑性樹脂(A)と充填材(B)との合計量が80質量%である場合、「熱可塑性樹脂(A)と充填材(B)の質量比((A)/(B))が50/50である」とは、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)の割合が40質量%であり、と充填材(B)の割合が40質量%であることを意味する。
【0010】
本明細書において「水に対する濡れ性」は、θ/2法で測定した、樹脂組成物の水に対する接触角で評価してもよい。具体的には、樹脂組成物を加圧成形機((株)ショージ製、50t加熱成形機)にて、加熱温度200℃、圧力5MPa、余熱時間3分、加圧時間3分でプレス成形して、150mm×150mm×厚み1.0mmにプレス成形して得られた成形品表面の水に対する接触角を、接触角測定装置(協和界面科学(株)製、製品名「自動接触角計DM-500」)を用いて25℃で測定し、得られた接触角の値を基に水に対する濡れ性を評価する方法を採用することができる。本明細書において「水に対する濡れ性が向上する」とは、θ/2法で測定した、本発明に係る樹脂組成物から得られる成形品表面の水に対する接触角θ2が、熱可塑性樹脂(A)のみから得られる成形品表面の水に対する接触角θ1よりも小さいことを意味する。すなわち、θ1>θ2の関係となることを意味する。
【0011】
本発明に係る水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物の1つの態様において、熱可塑性樹脂(A)と、天然素材由来の充填材(B)とを、質量比((A)/(B))50/50~30/70で含み、前記充填材(B)が、バイオミネラル由来の無機充填材(B1)、及び植物由来の有機充填材(B2)から選択される少なくとも1つを含み、かつθ/2法で測定される25℃での接触角が90°以下であることが好ましい。また、前述のθ1及びθ2が下記の(1)及び(2)の条件を満たすことがより好ましい。
θ1-θ2≧3° ・・・(1)
θ2≦90° ・・・(2)
θ2が90°以下であり、かつθ1がθ2よりも3°以上大きな値であれば、水に対する濡れ性がより良好となり、水性塗料に対する塗工性が向上しやすくなる。
なお、前記熱可塑性樹脂(A)は、後述するポリスチレン系樹脂(A1)、又はポリオレフィン系樹脂(A2)を含むことが好ましい。また、前記バイオミネラル由来の無機充填材(B1)は、後述する卵殻粉末を含むことが好ましい。さらに、前記植物由来の有機充填材(B2)は、後述する、茶殻又はコーヒー粕を含むことが好ましい。
【0012】
樹脂組成物中の充填材(B)の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、20質量%超であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。樹脂組成物中の充填材(B)の割合が20質量%超であれば、上記のθ2が90°以下となりやすく、得られる成形品の水に対する濡れ性が向上しやすくなる。また、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)の配合量を減らして、環境への負荷のより少ない樹脂組成物とする観点からは、樹脂組成物中の充填材(B)の割合を50質量%以上としてもよい。なお、樹脂組成物の成形加工性の観点から、充填材(B)の上限は、80質量%未満であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。すなわち、樹脂組成物中の充填材(B)の割合は、20質量%超80質量%未満の範囲で調整することができる。成形加工性、及び水に対する濡れ性がより向上しやすい観点から、充填材(B)の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、50~70質量%であることが特に好ましい。
【0013】
樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)の割合は、成形加工性の観点からは、20質量%超であることが好ましい。水性塗料への塗装性がより良好な成形品を得る観点、及び化石資源に由来する樹脂材料をより低減させる観点からは、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、30~50質量%の範囲であることが好ましい。
【0014】
<熱可塑性樹脂(A)>
本発明に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)を含む。
熱可塑性樹脂(A)としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。
【0015】
(ポリスチレン系樹脂(A1))
本発明に係るポリスチレン系樹脂とは、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位を含む重合体であり、例えば、ポリスチレン(GPPS、スチレンのホモポリマー)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、芳香族ビニル化合物と共役ジエンとの共重合体又はこれの水添物、芳香族化合物とエチレンとのグラフト共重合体、芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体等、分子鎖中に芳香族化合物に由来する単量体単位を50モル%以上含む重合体が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。すなわち、ポリスチレン系樹脂(A1)は混合物であってもよい。
【0016】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、エチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等が挙げられる。これら芳香族ビニル化合物は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、スチレンを含むことが好ましい。
【0017】
芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物類;無水マレイン酸等の酸無水物;等が挙げられる。これら化合物と、芳香族ビニル化合物との共重合体としては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)等が挙げられる。
【0018】
芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体としては、例えば、スチレン-ブタジエン(SB)、スチレン-イソプレン(SI)、スチレン-ブタジエン-ブチレン(SBB)、スチレン-ブタジエン-イソプレン(SBI)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン(SBBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、及びスチレン-ブタジエン-イソプレン-スチレン(SBIS)等のブロック共重合体、ならびにこれらを水添したブロック共重合体が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
上記のうち、ポリスチレン系樹脂(A1)としては、汎用性の高さの観点から、GPPS、ABS、AS、MBSが好ましく、GPPS、ABSがより好ましい。また、ポリスチレン系樹脂としては、JIS K 7260の規格に従って測定したMFR(200℃、5kg荷重)の値が1~50g/10minが好ましく、3~30g/10minがより好ましい。
【0020】
(ポリオレフィン系樹脂(A2))
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン系樹脂、ポリ-1-ブテン等の脂肪族オレフィン化合物の単独重合体及びこれらの共重合体が挙げられる。共重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-メチルペンテン共重合体等が挙げられる。なお、ポリプロピレン系樹脂には、ポリプロピレンのホモポリマー及びプロピレンの単量体単位を50モル%以上含有するポリオレフィン共重合体が含まれる。また、上記ポリオレフィン系樹脂は1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、汎用性の高さの観点から、ポリオレフィン系樹脂(A2)としては、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
【0021】
(ポリエステル系樹脂)
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分と、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸成分とを共重合した樹脂が挙げられる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリメチレンテレフタレート等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
(ポリカーボネート系樹脂)
ポリカーボネート系樹脂は、モノマー同士の結合を主にカーボネート基が担う樹脂である。ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、1種以上のビスフェノール類とホスゲン又は炭酸ジエステルとを反応させたもの、あるいは、1種以上のビスフェノール類とジフェニルカーボネート類とをエステル交換法によって反応させたもの等が挙げられる。前記ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールAに代表されるビス-(4-ヒドロキシフェニル)-アルカンの他、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-シクロアルカン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-スルフィド、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-エーテル、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-ケトン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-スルホン、ビスフェノールフルオレン等が挙げられる。また、加工特性を向上させる目的等でビスフェノール類以外の他の2価フェノールとして、ハイドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェニル等の化合物をコポリマーとして共重合させたものを用いてもよい。ポリカーボネート系樹脂は1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明に係る樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(A)としては、成形加工性が良好となりやすい観点から、ポリスチレン系樹脂(A1)、又はポリオレフィン系樹脂(A2)を含むことが好ましい。また、ポリスチレン(GPPS)、又はポリプロピレンを含むことがより好ましい。
【0024】
<天然素材由来の充填材(B)>
本発明に係る樹脂組成物は、充填材(B)を含む。本明細書において「天然素材由来」とは、化石資源以外の素材、又は材料に由来することを意味する。本発明に係る充填材(B)は、バイオミネラル由来の無機充填材(B1)、及び植物由来の有機充填材(B2)から選択される少なくとも1つを含む。
【0025】
(バイオミネラル由来の無機充填材(B1))
本発明に係る充填材(B)は、バイオミネラル由来の無機充填材(B1)(以下、「無機充填材(B1)」と記載する)を含む。「バイオミネラル」とは生物が作り出す鉱物を指し、真珠、貝殻、卵殻、骨、甲殻類の外骨格等が挙げられる。本発明に係る無機充填材(B1)としては、動物の骨や卵の殻等を、粒子状、又は粉末状に加工したものを用いることができる。動物の種類としては本発明の効果を有する限り特に限定されない。無機充填材(B1)の具体例としては、鶏、牛、豚、羊等の家畜の骨粉、家禽類の卵殻粉末、魚介類の骨粉、貝類の粉末(貝殻粉末)等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、入手のしやすさや、粉砕のしやすさの観点から、無機充填材(B1)としては、卵殻粉末、及び貝殻粉末から選択される少なくとも1つの粉末を含むことが好ましく、卵殻粉末を含むことがより好ましい。また、卵殻粉末及び貝殻粉末は、より環境への負荷を低減させる観点から、食料廃棄物由来の粉末であることが好ましい。なお、本明細書において、「食料廃棄物由来」は、食品の製造や調理過程で生じる加工残渣の他、食品の流通過程や消費段階で生じる売れ残りや食べ残し等の食品廃棄物に由来する材料であってもよい。
【0026】
卵殻粉末としては、鶏の卵の殻を原料とするものが好ましい。鶏の卵殻は、年間20万トン以上が廃棄処理されており、その有効活用が望まれている。また、鶏の卵殻には、一般に炭酸カルシウムが95質量%以上含まれている。本発明に係る無機充填材(B1)に含まれる卵殻粉末としては、鶏の卵殻粉末を含むことが好ましい。
【0027】
無機充填材(B1)として卵殻粉末を用いる場合、その平均粒子径(D50)は、1~500μmが好ましく、1~100μmがより好ましく、1~50μmがさらに好ましい。卵殻粉末の平均粒子径(D50)が前記範囲内であれば、水性塗料への塗装性がより良好な成形品が得られる樹脂組成物となりやすい。なお、前記平均粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法(屈折率:1.50)により測定される体積基準の累積粒度分布において、累積値が50%に相当する粒子径のことを指す。累積粒度分布は、横軸を粒子径(μm)、縦軸を累積値(%)とする分布曲線で表される。レーザー回折散乱法(屈折率:1.50)により測定される体積基準の累積粒度分布は、レーザー回折散乱式粒度分布測定機(Beckman Coulter社製、製品名:LS 13 320)を用いて、溶媒に水(屈折率:1.3)を用い、前処理として1分間、ホモジナイザー(Branson Ultrasonics Corporation社製、型式:DIGITAL SONIFIER450)を用いて分散処理して測定する。
【0028】
卵殻粉末の比重は2.0~3.0であることが好ましく、2.0~2.8であることがより好ましく、2.3~2.7であることがさらに好ましい。なお、卵殻粉末の比重は、乾式自動密度計(マイクロメトリクス社製、製品名:アキュピックII1345)を用いて25℃の条件で測定した真比重値である。
【0029】
無機充填材(B1)が卵殻粉末又は貝殻粉末である場合、その製造方法としては、従来公知の製造方法を採用することができる。すなわち、貝殻又は卵殻を洗浄した後、これら卵殻又は貝殻を公知の方法で粉砕したのち、分級して所望の平均粒子径(D50)を有する卵殻粉末又は貝殻粉末を得ることができる。
卵殻粉末を得る方法のより具体的な方法としては、洗浄した卵殻から卵殻膜を除去した後、卵殻を乾燥処理する。その後、粉砕機等で粉砕して卵殻の粉末を得る。その後、適当なメッシュ径を有する篩を用いて分級することで、卵殻粉末とできる。
また、卵殻粉末や貝殻粉末は市販品を用いることもできる。卵殻粉末の市販品としては、例えば、(株)グリーンテクノ21製、商品名:GT-26、キユーピータマゴ(株)製、商品名:カルホープ(登録商標)等が挙げられる。また、貝殻粉末の市販品としては、例えば、ユニセラ(株)製、商品名:ホタテ貝殻焼成パウダー、(株)近江製、商品名:ホタテパワー12等が挙げられる。
【0030】
(植物由来の有機充填材(B2))
本発明に係る充填材(B)は、植物由来の有機充填材(B2)(以下、「有機充填材(B2)」と記載する)を含む。有機充填材(B2)としては、植物全般を材料として得られる充填材であり、繊維状、粒子状、粉末状のいずれの形態であってもよい。有機充填材(B2)としては、樹木の粉砕物を含むことが好ましい。樹木の粉砕物としては、例えば、木粉や竹粉の他、植物の葉、茎、芽、及び種子から選択される少なくとも1つを粉砕した物等が挙げられる。このうち、より環境への負荷を低減させる観点から、間伐材や廃木材、製材工場から排出されるおが屑等を原料にした木粉や竹粉、又は食料廃棄物由来の有機充填材を含むことがより好ましい。食料廃棄物由来の有機充填材としては、茶殻、コーヒー粕等が挙げられる。1つの態様において、有機充填材(B2)は食料廃棄物由来の有機充填材を含むことが好ましく、茶殻、及びコーヒー粕から選択される少なくとも1つを含むことがより好ましい。
【0031】
茶殻は、お茶の成分を抽出した後の残渣であり、茶の木の葉、茎、芽等を含んでいる。また、コーヒー粕はコーヒー成分を抽出した後の残渣であり、コーヒーの木の種子を粉砕した多孔質の粒子である。このような飲料成分を抽出した後の残渣は近年増加の一途をたどっており、従来は食料廃棄物(又は食品廃棄物)として処理されていたが、再利用することが検討されている。有機充填材(B2)として、茶殻、コーヒー粕を配合することにより、より環境への負荷の少ない樹脂組成物とすることができる。また、茶殻やコーヒー粕を熱可塑性樹脂(A)と組み合わせることにより、水に対する濡れ性が向上しやすくなり、水性塗料に対する塗装性がより良好な成形品が得られやすくなる。
【0032】
茶殻としては、上記の通りお茶の成分を抽出した後の残渣であれば、その種類は特に限定されず、緑茶、紅茶等を用いることができる。茶殻を有機充填材(B2)として用いる場合、茶殻を粉砕して繊維状、粒子状、又は粉末状にしたものを用いることができる。茶殻の粒子を用いる場合、その平均粒子径は、樹脂組成物の成形加工性や混錬性の観点から、0.001~5.0mmであることが好ましく、0.001~2.0mmであることがさらに好ましい。なお、茶殻の平均粒子径とは、20個の茶殻粉砕物の粒子径(直径又は長軸)をノギスで測定し、その平均値を意味する。
【0033】
コーヒー粕は粒子状に加工されているため、そのまま熱可塑性樹脂(A)に配合してもよく、必要に応じて粉砕しさらに微粒化してもよい。コーヒー粕の平均粒子径としては、樹脂組成物の成形加工性や混錬性の観点から、0.001~5.0mmであることが好ましく、0.001~2.0mmであることがさらに好ましい。なお、茶殻の平均粒子径とは、20個のコーヒー粕の粒子径(直径又は長軸)をノギスで測定し、その平均値を意味する。
【0034】
茶殻やコーヒー粕等の飲料成分を抽出した後の残渣を有機充填材(B2)として配合する場合、乾燥させたものを用いることが好ましい。これら茶殻、コーヒー粕の含水率は、5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明に係る水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物の第1の実施態様において、前記熱可塑性樹脂(A)がポリスチレン系樹脂(A1)を含み、前記充填材(B)が、前記無機充填材(B1)、又は前記有機充填材(B2)を含むことが好ましい。
第1の実施態様に係る樹脂組成物は、ポリスチレン樹脂(A1)と、無機充填材(B1)又は有機充填材(B2)とを、質量比((A1)/(B1)又は(A1)/(B2))で50/50~30/70で含むことがより好ましい。また、無機充填材(B1)は卵殻粉末であることが好ましい。有機充填材(B2)は、茶殻であることが好ましい。卵殻粉末又は茶殻を、ポリスチレン系樹脂(A1)と前記質量比で組み合わせることにより、得られる成形品の水に対する濡れ性がより向上しやすくなり、水性塗料に対する塗装性がより良好な成形品が得られやすくなる。
【0036】
第1の実施態様において、樹脂組成物中の無機充填材(B1)又は有機充填材(B2)の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、20質量%超80質量%未満であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましい。無機充填材(B1)又は有機充填材(B2)の割合が前記範囲内であれば、成形加工性が低下しにくく、かつ水性塗料に対する塗装性がより良好な成形品が得られやすくなる。
また、樹脂組成物中のポリスチレン系樹脂(A1)の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、20質量%超80質量%未満であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。ポリスチレン系樹脂(A1)の割合が前記範囲内であれば、成形加工性が低下しにくく、かつ水性塗料に対する塗装性がより良好な成形品が得られやすくなる。また、第1の実施態様において、ポリスチレン系樹脂(A1)は、GPPSを含むことが好ましい。
【0037】
本発明に係る水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物の第2の実施態様において、前記熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィン系樹脂(A2)を含み、前記充填材(B)が、前記有機充填材(B2)を含むことが好ましい。
第2の実施態様に係る樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂(A2)と、有機充填材(B2)とを、質量比((A2)/(B2))で50/50~30/70で含むことがより好ましい。また、有機充填材(B2)はコーヒー粕であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂(A2)と、有機充填材(B2)とを特定の質量比で組み合わせることにより、得られる成形品の水に対する濡れ性がより向上しやすくなり、水性塗料に対する塗装性がより良好な成形品が得られやすくなる。
【0038】
第2の実施態様において、樹脂組成物中の有機充填材(B2)の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、20質量%超80質量%未満であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましい。有機充填材(B2)の割合が前記範囲内であれば、成形加工性が低下しにくく、かつ水性塗料に対する塗装性がより良好な成形品が得られやすくなる。
また、樹脂組成物中のポリオレフィン系樹脂(A2)の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、20質量%超80質量%未満であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。ポリオレフィン系樹脂(A2)の割合が前記範囲内であれば、成形加工性が低下しにくく、かつ水性塗料に対する塗装性がより良好な成形品が得られやすくなる。また、第2の実施態様において、ポリオレフィン系樹脂(A2)は、ポリプロピレン樹脂を含むことが好ましい。
【0039】
本発明に係る樹脂組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、鉱油等のその他添加剤、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等の補強繊維等を含んでいてもよい。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
紫外線吸収剤としては、例えば、2-(5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(5’-t-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α、α-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾ-ル、2-(3’,5’-ジ-t-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(3’-t-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(3’,5’-ジ-t-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(3’,5’-ジ-t-アミル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-[3’-(3”,4”,5”,6”-テトラヒドロ・フタルイミドメチル)-5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル]ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾ-ル-2-イル)フェノ-ル]等のベンゾトリアゾ-ル系紫外線吸収剤;2-エトキシ-2’-エチル蓚酸ビスアニリド、2-エトキシ-5-t-ブチル-2’-エチル蓚酸ビスアニリド、2-エトキシ-4’-イソデシルフェニル蓚酸ビスアニリド等の蓚酸アニリド系紫外線吸収剤;2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;フェニルサリシレ-ト、p-t-ブチルフェニルサリシレ-ト、p-オクチルフェニルサリシレ-ト等のサリチル酸系紫外線吸収剤;2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレ-ト、エチル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレ-ト等のシアノアクリレ-ト系紫外線吸収剤;ルチル型酸化チタン、アナタ-ゼ型酸化チタン、アルミナ、シリカ、シランカップリング剤、チタン系カップリング剤等の表面処理剤で処理された酸化チタン等の酸化チタン系紫外線安定剤等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
光安定剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケ-ト、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケ-ト、コハク酸ジメチル・1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[[6,(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]-ヘキサメチレン-[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕]、1-[2-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコ-ル-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネ-ト]、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリチルテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネ-ト]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネ-ト、2,2-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノ-ル)及び1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノ-ル系酸化防止剤;ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジテトラデシル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジオクチル-3,3’-チオジプロピオネ-ト等の硫黄系酸化防止剤;トリスノニルフェニルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)ホスファイト、(トリデシル)ペンタエリスリト-ルジホスファイト、ビス(オクタデシル)ペンタエリスリト-ルジホスファイト、ビス(ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリト-ルジホスファイト、ビス(ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリト-ルジホスファイト、ジノニルフェニルオクチルホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)1,4-フェニレン-ジ-ホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレン-ジ-ホスホナイト、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン等の燐系酸化防止剤等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、1,2-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸リチウム、1,2-ヒドロキシステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、エルカ酸アマイド等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、充填材(B)と、必要に応じてその他の成分とを溶融混錬することによって製造することができる。具体的には、熱可塑性樹脂(A)と充填材(B)とを、質量比((A)/(B))で50/50~30/70となるようにそれぞれ二軸押出機に投入したのち、必要に応じてその他成分をさらに添加して、180~250℃の温度で溶融混錬した後、ストランド状に押出することでペレット状の樹脂組成物を調製することができる。
【0045】
[用途]
上記の通り、本発明に係る樹脂組成物は、水性塗料に対する良好な塗装性を有する成形品を提供できる。そのため、家電機器、自動車の内装材、玩具等の水性塗料で塗装される成形品用途として好適である。なお、当然ながら、本発明に係る樹脂組成物は、その用途が前記用途に限定されるわけではない。
【0046】
[成形品]
本発明に係る成形品は、水性塗料で塗装されて、塗装成形品とすることができる。
本発明に係る成形品は、前述の樹脂組成物を含む。好ましくは、本発明に係る樹脂組成物のみから得られるものである。本発明に係る成形品は、水に対する濡れ性が向上しており、水性塗料に対する良好な塗装性を有している。また、天然素材に由来する充填材を含み、さらに化石資源に由来する樹脂材料の配合量が少ない樹脂組成物から成形されるものであるため、環境への負荷を低減できる。
【0047】
成形品の製造方法としては特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、本発明に係る樹脂組成物より得られたペレットを用いて、射出成形によって所望の形状を有する成形品を得ることができる。その後、水性塗料で塗装して、塗装成形品とすることができる。
【0048】
本発明に係る樹脂組成物の、より好ましい態様は以下のとおりである。
<1>ポリスチレン系樹脂(A1)と、卵殻粉末(B1)とを含む、水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物であって、前記卵殻粉末(B1)の割合が、前記樹脂組成物の総質量に対して、50質量%以上である、水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
<2>前記卵殻粉末の平均粒子径(D50)が、1~50μmである、<1>に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
<3>前記ポリスチレン系樹脂(A1)が、ポリスチレン(GPPS)を含む、<1>または<2>に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
<4>下記式(1)~(2)を満たす、<1>から<3>のいずれか一項に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
θ1-θ2≧3° ・・・(1)
θ2≦90° ・・・(2)
(式(1)~(2)中、θ1は、θ/2法で測定した、ポリスチレン系樹脂(A1)から得られる成形品の水に対する接触角であり、θ2は、θ/2法で測定した、樹脂組成物から得られる成形品の水に対する接触角である。)
<5>ポリオレフィン系樹脂(A2)と、茶殻、及びコーヒー粕から選択される少なくとも1つの有機充填材(B2)とを含む、水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物であって、前記有機充填材(B1)の割合が、前記樹脂組成物の総質量に対して、50質量%以上である、水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
<6>前記ポリオレフィン系樹脂(A2)が、ポリプロピレンを含む、<5>に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
<7>下記式(3)~(4)を満たす、<5>または<6>に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物。
θ3-θ4≧3° ・・・(3)
θ4≦90° ・・・(4)
(式(3)~(4)中、θ3は、θ/2法で測定した、ポリオレフィン系樹脂(A2)から得られる成形品の水に対する接触角であり、θ4は、θ/2法で測定した、樹脂組成物から得られる成形品の水に対する接触角である。)
<8><1>から<7>のいずれか一項に記載の水性塗料で塗装される成形品用樹脂組成物を含む、成形品。
【実施例
【0049】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
無機充填材(B1)として、卵殻粉末((株)グリーンテクノ21製、製品名「GT-26」、平均粒子径(D50)30μm)60質量部、熱可塑性樹脂(A)として、ポリスチレン樹脂(東洋スチレン(株)製、製品名「トーヨースチロール(登録商標)GP-HRM61C」、GPPS、Mw245000)40質量部を秤量して、混合した。その後、二軸混錬機(ブラベンダーテクノロジー社製、製品名「プラスチコーダー(登録商標)W50EHT)に投入し、混錬温度200℃、回転数100rpmで、10分間混錬して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、加圧成形機(ショージ社製、50t加熱成形機)にて、加熱温度200℃、圧力5MPa、余熱時間3分、加圧時間3分でプレス成形して、150mm×150mm×厚み1.0mmの成形品を得た。また、比較サンプルとして、上記ポリスチレン樹脂のみを同じ条件でプレス成形して、150mm×1500mm×厚み1.0mmの比較用成形品を作成した。
【0051】
なお、卵殻粉末の平均粒子径(D50)は以下の条件で測定した。
レーザー回折散乱式粒度分布測定機(Beckman Coulter社製、製品名:LS 13 320)を用いて、溶媒に水(屈折率:1.3)を用い、前処理として1分間、ホモジナイザー(Branson Ultrasonics Corporation社製、型式:DIGITAL SONIFIER450)を用いて卵殻粉末を分散処理し、D50粒子径を測定した。
【0052】
<塗装性の評価>
実施例1で得られた成形品の水性塗料に対する塗装性を、水に対する濡れ性(接触角)により評価した。
成形品の表面に蒸留水1μLを滴下し、接触角測定装置(協和界面科学(株)製、製品名「自動接触角計DM-500」)を用いて、25℃の条件で水に対する接触角θ2を測定した。次に、比較用成形品の水に対する接触角θ1を同じ条件で測定した。比較用成形品の水に対する接触角θ1が、成形品の水に対する接触角θ2よりも3°以上大きい値である場合、成形品の水に対する濡れ性が向上していると判断できる。水に対する濡れ性が向上することで、水性塗料に対する塗装性も向上すると考えられる。よって、以下の評価基準に沿って水に対する濡れ性を評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
良:θ1-θ2が3°以上
不可:θ1-θ2が3°未満
【0053】
<加工性の評価>
樹脂組成物の加工性を、混錬時の充填材(B)の分散性により評価した。熱可塑性樹脂(A)と充填材(B)とを混錬した際に、充填材(B)が凝集せず、熱可塑性樹脂(A)中に分散したものを「良」とし、充填材(B)が凝集した、又は熱可塑性樹脂(A)中に分散しなかったものを「不可」とした。なお、加工性の評価は目視により行った。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
無機充填材(B1)(卵殻粉末)の代わりに、有機充填材(B2)を用いて、表1に示す組成で樹脂組成物を得た。なお、有機充填材(B2)としては、茶殻(日本茶の粉砕物、含水率2%、平均粒子径1.5mm)を用いた。また、実施例1と同様の方法で成形品を調製した。その後、実施例1と同様の方法で塗装性及び加工性を評価した。結果を表1に示す。なお、茶殻の平均粒子径はノギスを用いて20個の茶殻の最大粒径(長軸又は直径)を測定し、その平均値を採用した。また、茶殻の含水率はカールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)製、製品名:MKC-510)を用いて測定した。
【0055】
[実施例3]
有機充填材(B2)としてコーヒー粕(含水率2%、平均粒子径1.5mm)を用い、熱可塑性樹脂(A)として、ポリプロピレン(ポリオレフィン系樹脂(A2))(日本ポリプロ(株)製、製品名「ノバテック(登録商標)PP-BC03B」、MFR:30g/10min)を用いて、表1に示す組成で樹脂組成物を得た。また、実施例1と同様の方法で成形品及び比較用成形品(参考例2)を調製した。その後、実施例1と同様の方法で塗装性及び加工性を評価した。結果を表1に示す。なお、コーヒー粕の平均粒子径はノギスを用いて20個のコーヒー粕の最大粒径(長軸又は直径)を測定し、その平均値を採用した。また、コーヒー粕の含水率はカールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)製、製品名:MKC―510)を用いて測定した。
【0056】
[実施例4~9、及び比較例1~6]
樹脂組成物の組成を表1~2に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法で樹脂組成物を調製して成形品を得た。また、実施例1と同様の方法で塗装性及び加工性を評価した。結果を表1~2に示す。
【0057】
表1~2に示す原料の詳細は以下のとおりである。
(熱可塑性樹脂(A))
ポリスチレン系樹脂(A1):GPPS(東洋スチレン(株)製、製品名「トーヨースチロールGP-HRM61C」、Mw:245000)。
ポリオレフィン系樹脂(A2):ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、製品名「ノバテックPP-BC03B」、MFR:30g/10min)。
(充填材(B))
無機充填材(B1-1):卵殻粉末((株)グリーンテクノ21製、製品名「GT-26」、平均粒子径(D50)30μm)。
有機充填材(B2-1):茶殻(含水率2%、平均粒子径1.5mm)。
有機充填材(B2-2):コーヒー粕(含水率2%、平均粒子径1.5mm)。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1中、参考例1、2は、ポリスチレン系樹脂(A1)又はポリオレフィン系樹脂(A2)のみからなる樹脂の塗装性及び加工性を評価したものである。実施例及び比較例の樹脂組成物は、参考例1又は参考例2の接触角の値をもとに、塗装性を評価した。このうち、本発明の構成を満たす実施例1~9の樹脂組成物は、水に対する接触角が参考例1又は参考例2の値よりも3°以上変化しており、濡れ性が向上していた。これに対して、本発明の構成を満たさない比較例1~6の樹脂組成物では、水に対する濡れ性が変化せず、課題を解決できなかった。また、比較例2、4、6の樹脂組成物は加工性が悪く、成形品の濡れ性を評価することができなかった。以上の結果から、本発明に係る樹脂組成物は、水性塗料に対する良好な塗装性を有する成形品を提供できることが分かった。また、本発明に係る樹脂組成物は、天然素材由来の充填材(B)を熱可塑性樹脂(A)に対して一定の割合で配合するため、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)の配合量を減らすことができ、より環境への負荷の少ない成形品を提供できる。