IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京セラ株式会社の特許一覧

特許7583922ホルダ、切削工具及び切削加工物の製造方法
<>
  • 特許-ホルダ、切削工具及び切削加工物の製造方法 図1
  • 特許-ホルダ、切削工具及び切削加工物の製造方法 図2
  • 特許-ホルダ、切削工具及び切削加工物の製造方法 図3
  • 特許-ホルダ、切削工具及び切削加工物の製造方法 図4
  • 特許-ホルダ、切削工具及び切削加工物の製造方法 図5
  • 特許-ホルダ、切削工具及び切削加工物の製造方法 図6
  • 特許-ホルダ、切削工具及び切削加工物の製造方法 図7
  • 特許-ホルダ、切削工具及び切削加工物の製造方法 図8
  • 特許-ホルダ、切削工具及び切削加工物の製造方法 図9
  • 特許-ホルダ、切削工具及び切削加工物の製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】ホルダ、切削工具及び切削加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 29/02 20060101AFI20241107BHJP
   B23B 27/00 20060101ALI20241107BHJP
   B23C 9/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B23B29/02 A
B23B27/00 C
B23C9/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023518647
(86)(22)【出願日】2022-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2022017229
(87)【国際公開番号】W WO2022234754
(87)【国際公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2021079248
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】首藤 智仁
(72)【発明者】
【氏名】池田 義仁
(72)【発明者】
【氏名】権隨 佑知
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-305674(JP,A)
【文献】米国特許第03774730(US,A)
【文献】特表平06-505322(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0067787(US,A1)
【文献】特表2005-516780(JP,A)
【文献】国際公開第2012/032852(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/205878(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00 - 29/02
B23C 9/00
B23Q 11/00
F16F 7/00
F16F 15/02
F16F 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削インサートが取り付けられるホルダであって、
中心軸に沿って第1端面から第2端面にかけて延びた棒形状であって、前記第1端面から前記第2端面に向かって延びた凹部を有する本体と、
前記凹部内に位置する錘と、
前記凹部の内周面に当接するリング形状の弾性部材と、
前記弾性部材を介して前記錘を前記凹部の内周面に対して固定する固定部材と、
前記第1端面の側から前記凹部に圧入された蓋体と、を有し、
前記凹部の前記内周面は、
前記第1端面の側に位置して、前記蓋体が当接可能な第1領域と、
前記第1領域よりも前記第2端面の近くに位置して、前記弾性部材が当接可能な第2領域と、を有し、
前記弾性部材は、前記第2領域において前記内周面に当接し、前記錘を前記内周面に対して固定し、
前記第2領域の表面粗さが、前記第1領域の表面粗さよりも大きい、ホルダ。
【請求項2】
前記蓋体は、前記凹部の前記第1領域に当接可能な外周面を有し、
前記外周面の表面粗さが、前記第1領域の表面粗さと同じである、請求項1に記載のホルダ。
【請求項3】
前記本体は、外側面をさらに有し、
前記外側面の表面粗さが、前記第1領域の表面粗さ以下である、請求項1又は2に記載のホルダ。
【請求項4】
前記第2領域は、前記中心軸に沿って延びた螺旋形状の溝を有する、請求項1又は2に記載のホルダ。
【請求項5】
前記溝の深さは、前記弾性部材の前記中心軸に沿った断面における、中心軸に直交する方向の寸法より小さい、請求項4に記載のホルダ。
【請求項6】
前記第2領域における前記凹部の内径が、前記第1領域における前記凹部の内径よりも小さく、
前記凹部は、前記第1領域及び前記第2領域の間に位置する段差をさらに有する、請求項1又は2に記載のホルダ。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のホルダと、
前記ホルダにおける前記第1端面の側に位置する切削インサートと、を有する切削工具。
【請求項8】
被削材を回転させる工程と、
回転している前記被削材に請求項7に記載の切削工具を接触させる工程と、
前記切削工具を前記被削材から離す工程と、
を含む切削加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属等の被削材を切削加工する際に用いられる切削工具のホルダ、切削工具、及び切削加工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属等の被削材を切削加工する際に用いられる切削工具として、例えば特許文献1に記載の切削工具が知られている。特許文献1に記載の切削工具はホルダ及び切削インサートを有する。ホルダは、空洞を有するステムと、空洞に挿入された減衰部材である錘と、ステム及び錘の間に位置するOリングと、空洞の入口を塞ぐヘッドとを有する。
【0003】
ヘッドの先端部に、切刃を有する切削インサートが取り付けられている。切刃の先端部のステム端面からの突き出し量Lをステムの直径Dに対して大きくした場合、鋼材からなるステムは剛性が低いことから、ステムの径方向での振動がホルダに生じやすく、加工精度が悪くなる。ホルダの振動は、ステム内にステムとは固有振動数の異なる錘を収容してステムと錘とを異なる振動数で振動させることで、減少させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/049167号
【発明の概要】
【0005】
本開示における限定されない一例のホルダは、中心軸に沿って第1端面から第2端面にかけて延びた棒形状であって、前記第1端面から前記第2端面に向かって延びた凹部を有する本体と、前記凹部内に位置する錘と、前記凹部の内周面に当接するリング形状の弾性部材と、前記第1端面の側から前記凹部に圧入された蓋体と、を有する。前記凹部の前記内周面は、前記第1端面の側に位置して、前記蓋体が当接可能な第1領域と、前記第1領域よりも前記第2端面の近くに位置して、前記弾性部材が当接可能な第2領域と、を有する。前記弾性部材は、前記第2領域において前記内周面に当接し、前記錘を前記内周面に対して固定する。前記第2領域の表面粗さが、前記第1領域の表面粗さよりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本開示の限定されない実施形態における切削工具を示す斜視図である。
図2図1に示す切削工具の平面図である。
図3図2のIII-III線矢視断面図である。
図4図3の第1端面側の拡大図である。
図5図3の第2端面側の拡大図である。
図6】変形例1のホルダの第2端面側の拡大図である。
図7】変形例2のホルダの第1端面側の拡大図である。
図8】限定されない一例における切削加工物の製造方法の一工程を示す概略図である。
図9】限定されない一例における切削加工物の製造方法の一工程を示す概略図である。
図10】限定されない一例における切削加工物の製造方法の一工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の一例である実施形態のホルダ、切削工具、及び切削加工物の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下で参照する各図は、説明の便宜上、実施形態を説明する上で必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。したがって、ホルダ及び切削工具は、参照する各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0008】
(切削工具)
図1は実施形態1に係る切削工具10を示す斜視図である。図2は切削工具10を示す平面図である。切削工具10は、図1のX軸方向に延びる丸棒状のホルダ1の先端側にヘッド2を取り付けた工具である。ヘッド2には、切削インサート(以下、インサートと称する)3が取り付けられている。
【0009】
切削工具10は例えば旋削工具であり、具体例としては、外径加工用の工具、内径加工用の工具、溝入れ加工用の工具、及び、突っ切り加工用の工具等が挙げられる。切削工具10は、工具側が回転する転削工具であってもよい。以下の説明では、切削工具10の、ヘッド2が位置する側を先端側と称し、先端側とは反対側を後端側と称する。
【0010】
(ホルダ)
図3図2のIII-III線矢視断面図である。図4図3の第1端面側の拡大図である。図5図3の第2端面側の拡大図である。
【0011】
図3に示すように、切削工具10のホルダ1は、本体11と、蓋体12と、第1弾性部材14と、固定部材16とを有する。ホルダ1の材質としては、ステンレス鋼等の鋼、鋳鉄、及びアルミニウム合金等が挙げられる。特に、これらの材質の中で鋼が用いられた場合には、ホルダ1の靱性を高めることができる。以下、各部材について詳述する。
【0012】
本体11の外観はX軸方向に延びた丸棒状であり、ヘッド2側の第1端面11a及び後端側の第2端面11bは夫々、中央部が開口した構造であってもよい。本体11は、内部に、第1端面11aから第2端面11bに向かい、ホルダ1の中心軸(軸心)Lに沿って(X軸方向に)延びた貫通孔11cを有する。
【0013】
貫通孔11cは、第1端面11a側に位置する大径部11dと、大径部11dに連なり、第2端面11bに向かって延びた小径部11eとから構成される。大径部11dが、第1端面11aから第2端面11bに向かって延びた凹部に相当する。貫通孔11cは、円柱状の上述の材質からなる基材を穿孔することにより設けられている。
【0014】
小径部11eの内径は、大径部11dの内径より小さい。大径部11d及び小径部11eは夫々、円筒形状であり、小径部11eと比較して大径部11dは薄肉である。図2においては、大径部11dはホルダ1の略2/3の長さ、小径部11eはホルダ1の略1/3の長さであるが、大径部11dと小径部11eとの長さの比は、この場合に限定されない。
【0015】
大径部11d内に、蓋体12、錘13、第1弾性部材14、及び固定部材16が収容されている。
【0016】
蓋体12は本体11の第1端面11aから大径部11d内に圧入され、第1端面11aに形成された開口を閉塞する。蓋体12の材質としては、鋼、鋳鉄、及びアルミニウム合金等が挙げられる。図4に示すように、蓋体12は第1孔12cを有する略円筒形状をなし、大径部11d内に、軸心を中心軸Lに合わせた状態で圧入されている。蓋体12は、鍔部12aと、凹部12bと、第1孔12cと、突起部12dとを有する。
【0017】
鍔部12aは、蓋体12の先端側の外周部に径方向の外側に突出するように設けられている。鍔部12aが第1端面11aに突き当たることで、蓋体12が本体11の内部に入り込むことが規制されている。蓋体12のヘッド2に対向する端面にはセレーションが設けられている。凹部12bは、蓋体12のヘッド2に対向する端面の中央部から後端側に向かって丸穴状に設けられている。凹部12bには、ヘッド2の後述する筒状の突起部24が挿入される。
【0018】
凹部12bと突起部24との間にはリング状の第2弾性部材15が介在する。第2弾性部材15は例えばOリング、又はバネであり、材質としては、NBR(acrylonitrile butadiene rubber)、AU(polyester urethane rubber)等のゴム、合成樹脂等が挙げられる。突起部24は第2弾性部材15を介し凹部12bに密着する。突起部12dは、蓋体12の後端側の端面から後端に向かって突出するように設けられ、中心軸Lを中心軸とする円筒形状をなす。第1孔12cは、軸心を中心軸Lに合わせて、凹部12bから第2端面11b側に向かって延び、突起部12dを貫通する。
【0019】
図3に戻り、錘13は、ホルダ1の径方向に沿って生じるホルダ1の振動を低減するために本体11に収容されている。錘13は減衰部材である。錘13は、第2孔13cを有する略円筒形状をなし、大径部11d内に、軸心を中心軸Lに合わせた状態で、蓋体12に隣接するように配置されている。錘13は、大径部11d内に、大径部11dの内周面との間にわずかに隙間を有する状態で収容されている。
【0020】
錘13の材質としては、ハイス(高速度鋼:high-speed steel)、超硬合金、及びサーメット等の高剛性材が挙げられる。超硬合金の組成としては、例えば、WC-Co、WC-TiC-Co及びWC-TiC-TaC-Coが挙げられる。WC-Coは、炭化タングステン(WC)にコバルト(Co)の粉末を加えて焼結して生成される。WC-TiC-Coは、WC-Coに炭化チタン(TiC)添加したものである。WC-TiC-TaC-Coは、WC-TiC-Coに炭化タンタル(TaC)を添加したものである。
【0021】
また、サーメットは、セラミック成分に金属を複合させた焼結複合材料である。具体的には、サーメットとして、炭化チタン(TiC)又は窒化チタン(TiN)等のチタン化合物を主成分としたものが挙げられる。
【0022】
錘13は、凹部13aと、凹部13bと、第2孔13cとを有する。凹部13aは、錘13の先端側の端面の中央部に丸穴状に設けられている。凹部13bは、錘13の後端側の端面の中央部に丸穴状に設けられている。第2孔13cは、凹部13aと凹部13bとを連通するように設けられている。第2孔13cには、内部をクーラントが通流する通流管19が挿入されている。
【0023】
通流管19の材質としては、例えば、金属及び樹脂が挙げられる。金属としては、例えば、銅、鋼、ステンレス及びアルミニウム等が挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピエン、ポリスチレン及びポリ塩化ビニル等が挙げられる。クーラントとしては、例えば油性型、不活性極圧型、及び活性極圧型の切削油等の不水溶性油剤、エマルジョン型、ソリューブル型、及びソリューション型の切削油等の水溶性油剤が挙げられる。
【0024】
図5に示すように、貫通孔11cの大径部11d内において、錘13の後端側に、固定部材16が配置されている。固定部材16は、第1弾性部材14を介して、錘13を大径部11dの内周面に対して固定する。固定部材16は、通流管19が挿入される空洞部を有する略円筒形状をなし、軸心を中心軸Lに合わせた状態で大径部11d内に配置されている。
【0025】
固定部材16の材質としては、例えば、金属及び樹脂が挙げられる。金属としては、例えば、銅、鋼、ステンレス及びアルミニウム等が挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピエン、ポリスチレン及びポリ塩化ビニルが挙げられる。
【0026】
固定部材16は、突起部16aと、凹溝16bとを有する。突起部16aは固定部材16の、錘13と対向する端面の中央部から、錘13に向かって突出するように設けられ、円筒形状をなす。凹溝16bは、大径部11dの内周面に対向する、固定部材16の外周面に周方向に一巡して設けられている。
【0027】
固定部材16の凹溝16bに、第1弾性部材14が嵌められている。第1弾性部材14は例えばOリングであり、第2弾性部材15と同様の材質を有していてもよい。
【0028】
図4に示すように、錘13の凹部13aの内側には、リング状の第3弾性部材17を外嵌めした状態で、蓋体12の突起部12dが挿入されている。また、図5に示すように、凹部13bの内側には、リング状の第4弾性部材18を外嵌めした状態で、固定部材16の突起部16aが挿入されている。第3弾性部材17及び第4弾性部材18は、第2弾性部材15と同様の材質を有していてもよい。
【0029】
第3弾性部材17が蓋体12の突起部12dの外周面と、錘13の凹部13aの内周面との間で押しつぶされることにより、その反発力で錘13の先端側が蓋体12に固定される(図4参照)。そして、第4弾性部材18が固定部材16の突起部16aの外周面と錘13の凹部13bとの間で押しつぶされることにより、錘13の後端側が固定部材16に固定される(図5参照)。その結果、蓋体12、錘13、及び固定部材16が一体化される。図4に示すように、第1孔12cと第2孔13cとは接続されており、通流管19の先端部は、第1孔12c内に進入している。
【0030】
第1弾性部材14は、貫通孔11cの大径部11dの内周面と接触し、押しつぶされたことによる反発力により、固定部材16と一体化された錘13を内周面に対して固定する。つまり、錘13は、本体11に圧入されることで本体11に固定された蓋体12と、第1弾性部材14を介して本体11に固定された固定部材16とに両端部を保持されることで、本体11に対して固定されている。
【0031】
図3に示すように、本体11の第2端面11bの開口の直径は、小径部11eの直径と略一致する。該開口からクーラントが小径部11eに注入される。該開口は栓20により閉塞される。注入されたクーラントは通流管19を通って、加工時に、後述するヘッド2の噴出部23から噴出する。
【0032】
図4および図5に示すように、貫通孔11cの大径部11dの内周面は、大径部11dの先端側に位置して、蓋体12が当接する第1領域Aと、大径部11dの後端側に位置して、第1弾性部材14が当接する第2領域Bとを有する。第2領域Bの表面粗さが、第1領域Aの表面粗さよりも大きい。本実施形態においては、中心軸Lに沿った方向における表面粗さが、第1領域Aよりも第2領域Bが大きい。表面粗さとしては、JIS B 0601:2001に基づく算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rz)、十点平均粗さ(RzJIS)等が挙げられる。
【0033】
算術平均粗さ(Ra)は、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次式(1)によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものである。本開示においては、平均線を中心軸Lに一致させる。
Ra=1/l∫ |f(x)|dx・・・(1)
【0034】
最大高さ(Rz)は、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の山頂線と谷底線との間隔を粗さ曲線の縦倍率の方向に測定し、この値をマイクロメートル(μm)で表したものである。
【0035】
十点平均粗さ(RzJIS)は、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取った部分の平均線から縦倍率の方向に測定した、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高(Yp)の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高(Yv)の絶対値の平均値との和を求め、これをマイクロメートル(μm)で表したものである。
【0036】
表面粗さが大きくなるのに従い、凹凸の度合が大きくなる。大径部11dの内周面の表面粗さを変化させる手法は特定の方法に限定されない。例えば、大径部11dの形成の際のドリルの加工条件を変える、加工に用いるドリルを変更する、ことによって表面粗さを変えてもよい。
【0037】
第1弾性部材14と大径部11dの内周面との密着性を上げて、第1弾性部材14の位置ずれを低減するために、第2領域Bの表面粗さが、第1領域Aの表面粗さよりも大きくなるように大径部11dを形成している。これにより、第2領域Bにおいては凹凸の度合いが大きいので、第1弾性部材14が第2領域Bの凹凸に係止されやすくなり、第1弾性部材14が大径部11dの内周面に密着して動きにくくなる。
【0038】
従って、固定部材16が中心軸Lに沿った方向(軸方向)、及び中心軸Lに沿った方向に交叉する方向(径方向)のいずれにおいても、錘13を良好にしっかりと大径部11d内で固定できる。錘13を本体11の内部にしっかり固定することで、錘13は本体11の径方向の振動を良好に吸収し、振動が効果的に低減される。
【0039】
本開示においては、蓋体12の圧入が容易で、かつ、緩み難くするため、蓋体12が圧入される第1領域Aにおいて、第1弾性部材14をしっかり固定する程の凹凸度合を有さない、第2領域Bよりも小さい表面粗さとなるように貫通孔11cを形成している。これにより、第1領域Aの凹凸の度合いが小さく、滑らかであるので、蓋体12の圧入は容易であり、圧入された蓋体12がガタつかず、貫通孔11cの内周面に密着し、緩み難い。
【0040】
蓋体12は、大径部11dの第1領域Aに当接可能な外周面を有しており、外周面の表面粗さが、第1領域Aの表面粗さと同じであってもよい。本実施形態においては、中心軸Lに沿った方向において、外周面の表面粗さが、第1領域Aの表面粗さと同じであってもよい。上記構成によれば、大径部11dに圧入された蓋体12の位置が第1領域Aにおいてずれにくい。
【0041】
ホルダ1の本体11は外側面を有しており、外側面の表面粗さは、第1領域Aの表面粗さ以下であってもよい。中心軸Lに沿った方向において、外周面の表面粗さが、第1領域Aの表面粗さと同じであってもよい。上記構成によれば、本体11の外側面は凹凸の度合が小さく、滑らかであり、外観が良好である。
【0042】
(変形例1)
図6は、変形例1のホルダ1の本体11の第2端面側の拡大図である。変形例1の本体11の大径部11dの第2領域Bにおいては、中心軸Lに沿って延びた螺旋形状の溝11fが形成されている。上記構成によれば、第1弾性部材14が第2領域Bの螺旋形状の溝11fにより生じる凹凸に係止され、第2領域Bにおいてその位置がずれにくい。
【0043】
溝11fの深さは、第1弾性部材14の中心軸Lに沿った断面における、中心軸Lに直交する方向の寸法よりも小さくてもよい。溝11fの深さが中心軸Lに直交する方向の寸法より大きい場合、第1弾性部材14が溝11fに入り込んで錘13が大径部11dの内周面に当接する虞がある。錘13が大径部11dの内周面に当接すると、錘13がホルダ1の振動を吸収する防振効果が低減する。上記構成によれば、溝の深さが中心軸Lに直交する方向の寸法より小さいので、錘13が大径部11dの内周面に当接しにくい。
【0044】
(変形例2)
図7は、変形例2におけるホルダ1の先端側の拡大図である。図4と比較するとわかるように、第1領域Aにおける大径部11dの内径は、第2領域Bにおける大径部11dの内径よりも大きい(図5参照)。即ち、大径部11dの内周面において、第1領域A及び第2領域Bの間に段差11gを有している。上記構成によれば、第2領域Bにおける大径部11dの内径が、第1領域Aにおける大径部11dの内径よりも小さいので、錘13の振り幅が小さくなり、錘13の動きがより低減される。段差11gにより、蓋体12の大径部11dへの圧入時に、蓋体12のX軸方向の動きが低減される。
【0045】
(ヘッド)
図1図3に示すように、ヘッド2は、略円柱形状をなす取付部21と、取付部21の先端面からX軸方向に突出するように設けられ、多面体状をなす装着部22とを有する。取付部21は、軸心をホルダ1の中心軸Lに合わせた状態で、ホルダ1の先端部に取り付けられる。取付部21のホルダ1側の端面にはセレーションが設けられている。取付部21に設けられたセレーションは、上述の蓋体12の先端側の端面に形成されたセレーションに嵌め合わせられる。これらのセレーションが嵌め合わせられた状態において、ネジ(不図示)等を用いてヘッド2がホルダ1に取り付けられる。
【0046】
取付部21の先端面には、開口部を有し、当該開口部からクーラントが噴出する噴出部23が設けられている。取付部21の後端側の端面の中央部には、突起部24が、蓋体12に向けて突出した状態で設けられている。突起部24の先端部と噴出部23とは接続されている(不図示)。上述したように、突起部24の内部空間は蓋体12の第1孔12cを介して通流管19の内部空間と連通している。小径部11eに注入されたクーラントは、通流管19を介し突起部24内を流れ、加工時に、噴出部23から被削材に向けて噴出される。
【0047】
装着部22をZ軸方向から平面視した場合のY軸方向の一方の端部にはポケット22aが設けられている。ポケット22aは、インサート3の底面を載置する座面(不図示)と、インサート3の2側面が当接して拘束される拘束側面とを有する。インサート3の形状は特定の構成に限定されない。例えば、インサート3の形状は、棒形状、多角板形状または多角柱形状の構成であってもよい。本実施形態においてインサート3は、図1に示すように、菱形板状である。
【0048】
インサート3の菱形状の一角は切り欠かれ、切刃3aとされている。インサート3の材質としては、超硬合金、及びサーメット等が挙げられる。インサート3の材質の超硬合金、及びサーメットは、上記錘13の材質の超硬合金、及びサーメットと同様の組成を有していてもよい。インサート3の中央部には貫通孔が設けられ、菱形の底面を座面に載置し、該貫通孔にネジを挿通して座面にネジ止めすることによってインサート3がポケット22aに固定されている。
【0049】
(切削加工物の製造方法)
次に、実施形態の切削加工物の製造方法について図面を用いて説明する。図8は、限定されない一例における切削加工物103の製造方法の一工程を示す概略図である。図9は、限定されない一例における切削加工物103の製造方法の一工程を示す概略図である。図10は、限定されない一例における切削加工物103の製造方法の一工程を示す概略図である。
【0050】
切削加工物103は、被削材101を切削加工することによって作製される。実施形態においては、切削加工として外径加工を例示する。実施形態における切削加工物103の製造方法は、以下の工程を含む。すなわち、
(1)被削材101を回転させる工程と、
(2)回転している被削材101に上記の実施形態に代表される切削工具10を接触させる工程と、
(3)切削工具10を被削材101から離す工程と、
を含む。
【0051】
より具体的には、まず、図8に示すように、被削材101を軸Dの周りでD1方向に回転させる。また、切削工具10をD2方向に動かすことによって、被削材101に切削工具10を相対的に近付ける。次に、図9に示すように、切削工具10における切刃3aを被削材101に接触させて、被削材101を切削する。
【0052】
このとき、切削工具10をD3方向に動かしながら被削材101を切削することによって外径加工を行うことができる。そして、図10に示すように、切削工具10をD4方向に動かすことによって、切削工具10を被削材101から相対的に遠ざける。
【0053】
図8においては、軸Dを固定するとともに被削材101を回転させた状態で切削工具10を近付けている。また、図9においては、回転している被削材101にインサート3の切刃3aを接触させることによって被削材101を切削している。また、図10においては、被削材101を回転させた状態で切削工具10を遠ざけている。
【0054】
上述したように、本実施形態においては、錘13の位置ずれが低減されているので、本体11の径方向の振動は錘13により良好に吸収され、本体11の振動は効果的に低減される。
【0055】
実施形態の製造方法における切削加工では、切削工具10を動かすことによって、切削工具10を被削材101に接触させている。さらに、切削工具10を動かすことによって、切削工具10を被削材101から離している。しかしながら、実施形態の製造方法は、この場合に限定されない。
【0056】
例えば、(1)の工程において、被削材101を切削工具10に近付けてもよい。そして、(3)の工程において、被削材101を切削工具10から遠ざけてもよい。切削加工を継続する場合には、切削工具10を回転させた状態を保持して、被削材101の異なる箇所にインサート3を接触させる工程を繰り返せばよい。
【0057】
被削材101の材質の代表例としては、炭素鋼、合金鋼、ステンレス、鋳鉄及び非鉄金属等が挙げられる。
【0058】
以上、本開示に係る発明について、諸図面及び実施形態に基づいて説明してきた。しかし、本開示に係る発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。すなわち、本開示に係る発明は本開示で示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示に係る発明の技術的範囲に含まれる。
【0059】
つまり、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、上記した実施形態においては、切削工具10のホルダ1が丸棒状である場合につき説明しているが、ホルダ1は角棒状であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 ホルダ
11 本体
11a 第1端面
11b 第2端面
11c 貫通孔
12 蓋体
12d 突起部
13 錘
13a、13b
14 第1弾性部材
15 第2弾性部材
17 第3弾性部材
18 第4弾性部材
16 固定部材
16a 突起部
16b 凹溝
2 ヘッド
21 取付部
22 装着部
22a ポケット
3 インサート
3a 切刃
10 切削工具
A 第1領域
B 第2領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10